説明

導電性被膜形成用塗布液と導電性被膜の形成方法及び導電性被膜

【課題】基板との密着性に優れ、表面抵抗が1.0×10Ω/□以下という導電性に優れた導電性被膜を形成することが可能な導電性被膜形成用塗布液と導電性被膜の形成方法及び導電性被膜を提供する。
【解決手段】本発明の導電性被膜形成用塗布液は、ポリチオフェン類、ポリピロール類、ポリアニリン類の群から選択される1種または2種以上からなる導電性ポリマーと、アルコキシドモノマーまたはオリゴマーを加水分解し重合したポリマーからなる無機酸化物ゾルと、溶媒とを含有し、この無機酸化物ゾルは上記の溶媒に溶解している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性被膜形成用塗布液と導電性被膜の形成方法及び導電性被膜に関し、特に、基材との密着性及び導電性に優れ、かつ導電性の経時変化が小さい導電性被膜を形成することが可能な導電性被膜形成用塗布液、この導電性被膜形成用塗布液を用いた導電性被膜の形成方法及び導電性被膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置(LCD)の透明電極には錫含有酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)のスパッタ膜が主に利用されているが、ITO自体の原価が高い上に真空設備を必要とするため、製造コストが高くつくという問題がある。特に液晶表示装置の画素電極の製造工程においては、スパッタにより基板の全面にITO薄膜を成膜した後、このITO薄膜にパターニングされたレジスト樹脂を用いてエッチングを施し、所定のパターンの導電性被膜とするために、工程数及び材料の無駄が多く、さらに製造コストが高くなるという問題がある。
【0003】
一方、ITOの微粒子または水酸化物ゾルを塗料化して製膜し、導電性被膜とする方法も試みられているが、この場合、液晶表示装置の画素電極等に利用が可能な導電性被膜、例えば表面抵抗が1×10Ω/□程度以下の導電性被膜を得るには、一般に還元雰囲気下にて300℃以上の高温で焼成を行う必要がある(例えば、特許文献1、2参照)。また、この導電性被膜は、製膜後、空気に暴露される状況下にあると、酸化されて表面抵抗が上昇してしまうという問題もある。
【0004】
このような問題を解消するために、最近、ITO等の導電性金属酸化物以外の導電材料として、導電性ポリマーが提案されている。
この導電性ポリマーは、導電性被膜の表面抵抗の経時変化等の問題が無い代わりに、水や有機溶媒に不溶、不融のものが多く、取り扱いが難しいという問題があり、そこで、導電性ポリマーの分子内にスルホン酸基やカルボキシル基などを組み込み、水や有機溶媒との親和性を持たせることにより、水や有機溶剤に溶解、または分散した導電性被膜形成用塗布液が提案されている(例えば、特許文献3)。
【0005】
また、導電性ポリマーを樹脂等のバインダー成分及び有機溶媒と混合した塗料が提案されている(例えば、特許文献4)。
この塗料は、導電性ポリマーを有機系のハードコート樹脂と混合することで、得られた導電性被膜の硬度を向上させている。
さらに、導電性ポリマーをシラン化合物及びコロイダルシリカと混合した塗料が提案されている(例えば、特許文献5、6)。
この塗料は、導電性ポリマーをシラン化合物及びコロイダルシリカと混合することで、得られた導電性被膜の耐水性および基材との密着性を向上させている。
【特許文献1】特開平8−199096号公報
【特許文献2】特開平6−325637号公報
【特許文献3】特開2004−59666号公報
【特許文献4】特開2005−103922号公報
【特許文献5】特開2005−82768号公報
【特許文献6】特開2005−281704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来の導電性ポリマーを用いた導電性被膜形成用塗布液では、この塗布液を用いて形成された導電性被膜が、実用に供するのに十分な硬度及び耐水性を有していないという問題点があった。
また、従来の有機系のハードコート樹脂を用いた塗料では、基材との密着性を充分に得ることができず、導電性も充分ではないという問題点があった。
また、従来のシラン化合物及びコロイダルシリカを用いた塗料では、基材との密着性及び耐水性等の問題は解決し得るものの、充分な導電性を有する導電性被膜を形成することが難しいという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、充分な硬度及び耐水性を有し、かつ経時変化が小さいことはもちろんのこと、基板との密着性に優れ、表面抵抗が1.0×10Ω/□以下という導電性に優れた導電性被膜を形成することが可能な導電性被膜形成用塗布液と導電性被膜の形成方法及び導電性被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、導電性被膜形成用塗布液を、少なくとも、導電性ポリマーと、無機酸化物ゾルと、溶媒とにより構成し、さらに、この無機酸化物ゾルを前記溶媒に溶解することとすれば、基材、特にガラス基板との密着性に優れ、導電性にも優れた導電性被膜を容易かつ安価に形成し得ることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の導電性被膜形成用塗布液は、導電性ポリマーと、無機酸化物ゾルと、溶媒とを含有してなる導電性被膜形成用塗布液であって、前記無機酸化物ゾルは前記溶媒に溶解してなることを特徴とする。
【0010】
前記導電性ポリマーは、ポリチオフェン類、ポリピロール類、ポリアニリン類の群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0011】
前記無機酸化物ゾルは、下記の式(1)にて表されるアルコキシドモノマー、
【化1】

または、下記の式(2)にて表されるオリゴマー、
【化2】

(式(1)及び(2)中、Mはケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムの群から選択される1種であり、R23〜R29は各々独立に、ヒドロキシル基、または炭素数が1〜20の直鎖または分岐を有するアルコキシル基であり、R30は水素、または炭素数が1〜20の直鎖または分岐を有するアルキル基であり、nは2〜100の整数)
を加水分解し重合して得られるポリマーであることが好ましい。
【0012】
本発明の導電性被膜の形成方法は、本発明の導電性被膜形成用塗布液を基材の表面に塗布して塗布層を形成し、この塗布層を熱処理して硬化することを特徴とする。
【0013】
本発明の導電性被膜は、本発明の導電性被膜の形成方法により得られた導電性被膜であって、表面抵抗が1.0×10Ω/□以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性被膜形成用塗布液によれば、導電性ポリマーと、無機酸化物ゾルと、溶媒とを含有し、かつ前記無機酸化物ゾルを前記溶媒に溶解したので、基材、特にガラス基板との密着性に優れたものとなり、かつ、導電性ポリマー自体の導電性の低下が小さく、導電性に優れた導電性被膜を形成することができる。
【0015】
本発明の導電性被膜の形成方法によれば、本発明の導電性被膜形成用塗布液を基材の表面に塗布して塗布層を形成し、この塗布層を熱処理して硬化するので、基材、特にガラス基板との密着性、及び導電性に優れた導電性被膜を容易かつ安価に形成することができる。
【0016】
本発明の導電性被膜によれば、本発明の導電性被膜の形成方法により得られ、かつ、その表面抵抗を1.0×10Ω/□以下としたので、基材、特にガラス基板との密着性、及び導電性に優れた導電性被膜を容易かつ安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の導電性被膜形成用塗布液と導電性被膜の形成方法及び導電性被膜を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
「導電性被膜形成用塗布液」
本発明の導電性被膜形成用塗布液は、導電性ポリマーと、無機酸化物ゾルと、溶媒とを含有し、この無機酸化物ゾルを前記溶媒に溶解した塗布液である。
ここで、上記の溶媒とは、導電性ポリマー及び無機酸化物ゾルを溶解することができる溶媒、いわゆる溶剤をも含むものとする。
【0019】
この導電性ポリマーとしては、上記の溶媒に溶解または分散が可能である、ポリチオフェン類、ポリピロール類、ポリアニリン類のいずれかが好適に用いられる。
【0020】
上記のポリチオフェン類としては、下記の式(3)にて表される反復単位を含むポリチオフェン類、
【化3】

(式(3)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホン酸基、フェニル基、炭素数が1〜6の直鎖または分岐を有するアルキル基、アルキレン基のいずれかであり、nは3以上の整数)
が好ましい。
ここで、「ポリチオフェン」とは、ポリチオフェン及びその誘導体を総称するものとする。また、上記の式(3)では、RとRとが「−R−O−R−」のように環状のエーテル状に結合していてもよい。
【0021】
上記のポリピロール類としては、下記の式(4)にて表される反復単位を含むポリピロール類、
【化4】

(式(4)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホン酸基、フェニル基、炭素数が1〜6の直鎖または分岐を有するアルキル基、アルキレン基のいずれかであり、nは3以上の整数)
が好ましい。
ここで、「ポリピロール」とは、ポリピロール及びその誘導体を総称するものとする。また、上記の式(4)では、RとRとが「−R−O−R−」のように環状のエーテル状に結合していてもよい。
【0022】
上記のポリアニリン類としては、下記の式(5)にて表される反復単位を含むポリアニリン類、
【化5】

(式(5)中、R〜R22はそれぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホン酸基、フェニル基、炭素数が1〜6の直鎖または分岐を有するアルキル基、アルキレン基のいずれかであり、nは3以上の整数)
が好ましい。
ここで、「ポリアニリン」とは、ポリアニリン及びその誘導体を総称するものとする。
【0023】
この導電性ポリマーの中でもポリチオフェン類は、高い透明性を有するので、導電性被膜に高い透明性が要求される用途、例えば、液晶表示装置の透明電極用として、より好ましく用いられる。
【0024】
この導電性ポリマーのうち、溶媒に溶解または分散が可能なものの例としては、下記の(a)〜(c)を挙げることができる。
(a)分子内にスルホン酸基やカルボキシル基等を導入することにより、上記の導電性ポリマー自体に溶媒への溶解性もしくは分散性を付与したもの。
これを用いて導電性被膜形成用塗布液を作製すると、この塗布液中には、導電性ポリマー、無機酸化物ゾル及び溶媒が共存することとなる。
【0025】
(b)導電性ポリマーのドーパントとしてポリカルボン酸やポリスルホン酸等の極性の大きいポリ陰イオンを用いて、これら導電性ポリマー及びポリ陰イオンの会合体を形成することにより、溶媒への溶解性もしくは分散性を付与したもの。
これを用いて導電性被膜形成用塗布液を作製すると、この塗布液中には、会合した導電性ポリマー及びポリ陰イオン、無機酸化物ゾル及び溶媒が共存することとなる。
【0026】
(c)導電性ポリマーと、界面活性剤および/または保護コロイドとを、溶媒または分散媒中に共存させることで、溶媒への溶解性もしくは分散性を付与したもの。
これを用いて導電性被膜形成用塗布液を作製すると、この塗布液中には、導電性ポリマー、無機酸化物ゾル、界面活性剤および/または保護コロイド、及び溶媒が共存することとなる。
【0027】
この導電性ポリマーの導電性被膜形成用塗布液中における濃度は、1重量%以上かつ5重量%以下が好ましく、より好ましくは2重量%以上かつ4重量%以下である。
ここで、導電性ポリマーの濃度が1重量%を下回ると、良好な導電性を得ることが難しくなるからであり、一方、濃度が5重量%を超えると、導電性被膜形成用塗布液の粘度が増加し、塗布性が低下する等して取り扱いが難しくなり、また、透明性に優れた導電性ポリマーを用いても、得られた導電性被膜の透明性が低下する虞があるからである。
【0028】
なお、この導電性ポリマーの導電性被膜形成用塗布液中における濃度を算出する際には、導電性ポリマーとして上記(b)の導電性ポリマーを用いるときには「ドーパント」の量をも合算して算出し、上記(c)の導電性ポリマーを用いるときには「界面活性剤および/または保護コロイド」の量をも合算して算出する。
【0029】
無機酸化物ゾルとしては、用いる溶媒に溶解するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、下記の式(1)にて表される1種類以上のアルコキシドモノマー、
【化6】

または、下記の式(2)にて表される1種類以上のオリゴマー、
【化7】

(式(1)及び(2)中、Mはケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムの群から選択される1種であり、R23〜R29は各々独立に、ヒドロキシル基、または炭素数が1〜20の直鎖または分岐を有するアルコキシル基であり、R30は水素、または炭素数が1〜20の直鎖または分岐を有するアルキル基であり、nは2〜100の整数)
を加水分解し重合して得られるポリマーが、導電性ポリマーとの混和性に優れるので好ましい。
なお、上記の重合した無機酸化物ゾルの重合度は特に制限はなく、例えば、数平均分子量が1000〜500000のものが好適に使用できる。
【0030】
上記のモノマーまたはオリゴマーを加水分解し重合するための触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、リン酸、シュウ酸などの酸、または水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア等のアルカリが用いられる。
なお、分子内にスルホン酸基等の極性基を含む導電性ポリマーは酸性を示すことが多いので、上記のモノマーまたはオリゴマーを酸性触媒を用いて加水分解し重合して得られた無機酸化物ゾルが、導電性被膜形成用塗布液の安定性に優れるので好ましい。
【0031】
この無機酸化物ゾルは、一種類のモノマーまたはオリゴマーから重合したものであってもよく、また、数種類のモノマーまたはオリゴマーを用いて共重合したものであってもよい。
【0032】
このような無機酸化物ゾルは、無機酸化物が鎖状に重合して溶媒中に容易に溶解するので、さらに導電性ポリマーと混合することにより、均一な導電性の塗布液となる。また、溶媒中に溶解した鎖状の無機酸化物ゾルは、溶液中の導電性ポリマーと絡まり合って分子レベルで均一に混合するので、この溶液(塗布液)を用いて形成した被膜は導電性の低下が小さく、また、基材との密着性に優れている。
【0033】
一方、無機酸化物ゾルとして、溶媒中に溶解せずに分散する無機酸化物ゾル、例えばコロイダルシリカを用いると、このコロイダルシリカを分散させた分散液(塗布液)を用いて形成した被膜は、分散した無機酸化物粒子自体の体積によって導電ポリマー間の接触が阻害され、導電性が大きく低下する。また、導電性ポリマーとの絡まり合いによる強い相互作用もないので、基材との密着性も改善されない。
したがって、無機酸化物ゾルとして、コロイダルシリカのような溶媒中に溶解せずに分散するものを用いた場合、基材との密着性を発現するためには、シラン化合物(モノマー)等を添加する必要がある。
【0034】
この無機酸化物ゾルの導電性被膜形成用塗布液中における濃度は、0.1重量%以上、かつ5重量%以下が好ましく、より好ましくは0.5重量%以上かつ2重量%以下である。
ここで、無機酸化物ゾルの濃度が0.1重量%を下回ると、得られた導電性被膜と基材との密着性が低下するからであり、一方、この濃度が5重量%を超えると、導電性被膜形成用塗布液の貯蔵安定性が低下するからであり、また、得られた導電性被膜の導電性も低下するからである。
【0035】
この導電性被膜形成用塗布液における導電性ポリマーと無機酸化物ゾルの比率は、導電性ポリマー1重量部に対して、無機酸化物ゾルを2重量部以下とすることが好ましい。その理由は、無機酸化物ゾルの比率が2重量部を超えると、得られた導電性被膜の導電性が低下するからである。
【0036】
溶媒としては、導電性ポリマーを溶解または分散し得るものであれば特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール等のジオール類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等のエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N−メチルピロリドン、N−メチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水等から選択される1種、または2種以上の混合溶媒を用いることができる。
【0037】
「導電性被膜の形成方法」
本発明の導電性被膜の形成方法は、上記の導電性被膜形成用塗布液を、基材の表面に塗布して塗布層を形成し、この塗布層を熱処理して硬化する方法である。
まず、上記の導電性被膜形成用塗布液を、所定の塗布方法にて基材の表面に塗布し、塗布層を形成する。
基材としては、表面に導電性被膜を形成する必要がある基材であればよく、特に限定されないが、一例を挙げると、液晶表示装置(LCD)の表示部の前面板として用いられる透明なガラス基板等である。
【0038】
この導電性被膜形成用塗布液の基材表面への塗布方法としては、特に限定されず、例えば、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット法等を用いることができる。
【0039】
次いで、この塗布層を、所定の雰囲気下、所定の温度範囲にて所定の時間熱処理し、硬化させる。
雰囲気は、特に限定されず、通常は大気雰囲気である。
熱処理の温度範囲は、導電性ポリマーが劣化しない温度範囲で、しかも基材の耐熱温度以下の温度範囲である必要があり、例えば、80℃以上かつ150℃以下が好ましい。
また、熱処理の時間は、熱処理の温度にも依るが、例えば、5分以上かつ30分以下が好ましい。
【0040】
熱処理の温度が上記の範囲より低い場合、または時間が上記の範囲より短い場合には、塗布層の硬化が不十分となり、硬度、密着性のいずれかまたは双方が低下するので好ましくない。
また、熱処理の温度が150℃を超えても、得られる塗膜の表面抵抗、密着性、硬度共に150℃以下のものとほとんど変わらず、場合によっては膜質が低下する虞があるので、熱処理の温度が150℃を超えるのは好ましくない。
また、30分以上熱処理しても、得られる塗膜の表面抵抗、密着性、硬度共に30分以下のものとほとんど変わらず、場合によっては膜質が低下する虞があるので、熱処理の時間が30分を超えるのは好ましくない。
【0041】
「導電性被膜」
本発明の導電性被膜は、上記の導電性被膜の形成方法により得られた導電性被膜であり、その表面抵抗が1.0×10Ω/□以下、好ましくは1.0×10Ω/□以下という優れた導電性を有する。
また、導電性ポリマーとして透明性に優れた導電性ポリマー、例えば、ポリチオフェン類を用いると、導電性被膜の透明性を一段と向上させることができる。
したがって、このような導電性被膜を液晶表示装置(LCD)の画素電極に適用すれば、充分な硬度及び耐水性を有し、かつ経時変化が小さく、しかもガラス基板等の透明基板との密着性、及び導電性に優れた画素電極を実現することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
まず、実施例及び比較例に用いられる2種類の導電性ポリマー分散液A、Bを用意し、4種類の無機酸化物ゾルA〜Dを調整した。
「導電性ポリマー分散液A」
水−アルコール分散型の分散液であるポリチオフェン類の導電性ポリマー分散液(信越ポリマー社製)を用いた。
「導電性ポリマー分散液B」
アルコール分散型の分散液であるポリアニリン類の導電性ポリマー分散液(日産化学社製)を用いた。
【0044】
「無機酸化物ゾルA」
テトラメトキシシラン25重量部とメタノール38重量部を混合し、この溶液に、1Nの希硝酸12重量部と純水25重量部とを滴下した。次いで、この溶液を60℃にて3時間加熱して加水分解、重合させ、シリカゾルを成分とする無機酸化物ゾルAを調整した。
この無機酸化物ゾルAは、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコールに可溶であった。
【0045】
「無機酸化物ゾルB」
テトラエトキシシラン25重量部とエタノール45重量部を混合し、この溶液に、1Nの塩酸5重量部と純水25重量部とを滴下した。次いで、この溶液を60℃にて3時間加熱して加水分解、重合させ、シリカゾルを成分とする無機酸化物ゾルBを調整した。
この無機酸化物ゾルBは、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコールに可溶であった。
【0046】
「無機酸化物ゾルC」
ジルコニウムテトラブトキシド24重量部とテトラエトキシシラン5重量部と2−プロパノール54重量部とアセチルアセトン10重量部を混合し、この溶液に1Nの塩酸2重量部と純水5重量部とを滴下し、均一な溶液とした。次いで、この溶液を60℃にて3時間加熱して加水分解、重合させ、酸化ジルコニウム(ジルコニア)と酸化ケイ素(シリカ)が共重合した無機酸化物ゾルCを調整した。
この無機酸化物ゾルCは、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコールに可溶であった。
【0047】
「無機酸化物ゾルD」
チタンテトライソプロポキシド26重量部とテトラエトキシシラン5重量部と2−プロパノール54重量部とアセチルアセトン10重量部を混合し、この溶液に1Nの塩酸2重量部と純水5重量部とを滴下し、均一な溶液とした。次いで、この溶液を60℃にて3時間加熱して加水分解、重合させ、酸化チタン(チタニア)と酸化ケイ素(シリカ)が共重合した無機酸化物ゾルDを調整した。
この無機酸化物ゾルDは、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコールに可溶であった。
【0048】
「実施例1」
45重量部の導電性ポリマー分散液Aと、10重量部の無機酸化物ゾルAと、40重量部のメタノールと、5重量部の純水とを混合し、実施例1の導電性被膜形成用塗布液を得た。
この導電性被膜形成用塗布液中における導電性ポリマーの含有率は1.7重量%、無機酸化物ゾルの含有率は1重量%であった。
次いで、この実施例1の導電性被膜形成用塗布液を、縦10cm×横10cm×厚さ2mmのガラス基板上に、300rpmにて30秒スピンコートを行い、塗布層を形成した。次いで、この塗布層を大気中、150℃にて15分間熱処理して硬化させ、実施例1の導電性被膜を得た。
【0049】
「実施例2」
45重量部の導電性ポリマー分散液Aと、10重量部の無機酸化物ゾルBと、40重量部のメタノールと、5重量部の純水とを混合し、実施例2の導電性被膜形成用塗布液を得た。
この導電性被膜形成用塗布液中における導電性ポリマーの含有率は1.7重量%、無機酸化物ゾルの含有率は1重量%であった。
次いで、この導電性被膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて実施例2の導電性被膜を得た。
【0050】
「実施例3」
45重量部の導電性ポリマー分散液Aと、10重量部の無機酸化物ゾルCと、40重量部の2−プロパノールと、5重量部の純水とを混合し、実施例3の導電性被膜形成用塗布液を得た。
この導電性被膜形成用塗布液中における導電性ポリマーの含有率は1.7重量%、無機酸化物ゾルの含有率は1重量%であった。
次いで、この導電性被膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて実施例3の導電性被膜を得た。
【0051】
「実施例4」
45重量部の導電性ポリマー分散液Aと、10重量部の無機酸化物ゾルDと、40重量部の2−プロパノールと、5重量部の純水とを混合し、実施例4の導電性被膜形成用塗布液を得た。
この導電性被膜形成用塗布液中における導電性ポリマーの含有率は1.7重量%、無機酸化物ゾルの含有率は1重量%であった。
次いで、この導電性被膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて実施例4の導電性被膜を得た。
【0052】
「実施例5」
60重量部の導電性ポリマー分散液Aと、10重量部の無機酸化物ゾルAと、20重量部のメタノールと、10重量部の純水とを混合し、実施例5の導電性被膜形成用塗布液を得た。
この導電性被膜形成用塗布液中における導電性ポリマーの含有率は2.3重量%、無機酸化物ゾルの含有率は1重量%であった。
次いで、この導電性被膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて実施例5の導電性被膜を得た。
【0053】
「実施例6」
50重量部の導電性ポリマー分散液Bと、10重量部の無機酸化物ゾルAと、25重量部の2−プロパノールと、15重量部の純水とを混合し、実施例6の導電性被膜形成用塗布液を得た。
この導電性被膜形成用塗布液中における導電性ポリマーの含有率は2.4重量%、無機酸化物ゾルの含有率は1重量%であった。
次いで、この導電性被膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて実施例6の導電性被膜を得た。
【0054】
「実施例7」
50重量部の導電性ポリマー分散液Bと、10重量部の無機酸化物ゾルCと、25重量部の2−プロパノールと、15重量部の純水とを混合し、実施例7の導電性被膜形成用塗布液を得た。
この導電性被膜形成用塗布液中における導電性ポリマーの含有率は2.4重量%、無機酸化物ゾルの含有率は1重量%であった。
次いで、この導電性被膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて実施例7の導電性被膜を得た。
【0055】
「比較例1」
45重量部の導電性ポリマー分散液Aと、40重量部のメタノールと、15重量部の純水とを混合し、比較例1の導電性被膜形成用塗布液を得た。
次いで、この導電性被膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて比較例1の導電性被膜を得た。
【0056】
「比較例2」
45重量部の導電性ポリマー分散液Aと、10重量部のコロイダルシリカ スノーテックスO(日産化学社製)と、40重量部の2−プロパノールと、5重量部の純水とを混合し、比較例2の導電性被膜形成用塗布液を得た。
次いで、この導電性被膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて比較例2の導電性被膜を得た。
【0057】
「比較例3」
50重量部の導電性ポリマー分散液Bと、10重量部のコロイダルシリカ スノーテックスO(日産化学社製)と、40重量部の2−プロパノールとを混合し、比較例3の導電性被膜形成用塗布液を得た。
次いで、この導電性被膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて比較例3の導電性被膜を得た。
【0058】
「導電性被膜の評価」
実施例1〜7及び比較例1〜3の各導電性被膜の評価を行った。
評価項目は、表面抵抗(製膜直後及び30日経過後)、ヘーズ値、全光線透過率、密着性の5項目とした。これらの評価項目の評価方法は下記のとおりである。
(1)表面抵抗(製膜直後)
表面抵抗計「ロレスタAP」(三菱化学社製)を用い、4端子法にて測定した。
(2)表面抵抗(30日経過後)
上記の(1)表面抵抗(製膜直後)にて測定した導電性被膜を、温度25℃、相対湿度55%の大気雰囲気中に30日間放置した後、表面抵抗計「ロレスタAP」(三菱化学社製)を用い、4端子法にて測定した。
【0059】
(3)ヘーズ値
「Automatic Haze Meter HIIIDP」(東京電色社製)を用いて測定した。
(4)全光線透過率
「Automatic Haze Meter HIIIDP」(東京電色社製)を用いて測定した。
(5)密着性
日本工業規格JIS K 5600「碁盤目テープ剥離試験」に準拠し、ガラス基板との密着性を評価した。評価基準は次のとおりである。
○:剥離なし
△:剥離したマス目が100個中10個未満
×:剥離したマス目が100個中10個以上
これらの評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果より、次のことが分かった。
実施例1〜7の導電性被膜は、いずれも表面抵抗が1.0×10Ω/□以下で導電性に優れたものであった。また、ガラス基板との密着性も良好であり、表面抵抗の経時変化も小さいものであった。
特に、導電性ポリマーとしてポリチオフェン類を用いた実施例1〜5の導電性被膜では、ヘーズ値が小さいと共に全光線透過率も大きく、透明性にも優れているものであった。
【0062】
一方、比較例1の導電性被膜は、導電性及び透明性には優れているものの、ガラス基板との密着性に劣ったものであった。
また、比較例2、3の導電性被膜は、導電性及びガラス基材との密着性が共に劣っているものであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の導電性被膜形成用塗布液は、導電性ポリマーと、無機酸化物ゾルと、溶媒とを含有し、かつ無機酸化物ゾルを溶媒に溶解したことにより、基材、特にガラス基板との密着性及び導電性に優れた導電性被膜を形成することができたものであるから、液晶表示装置(LCD)の画素電極等の透明導電膜はもちろんのこと、基材への密着性と導電性の双方が要求されるあらゆる技術分野で利用可能であり、その工業的意義は極めて大きいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマーと、無機酸化物ゾルと、溶媒とを含有してなる導電性被膜形成用塗布液であって、
前記無機酸化物ゾルは前記溶媒に溶解してなることを特徴とする導電性被膜形成用塗布液。
【請求項2】
前記導電性ポリマーは、ポリチオフェン類、ポリピロール類、ポリアニリン類の群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1記載の導電性被膜形成用塗布液。
【請求項3】
前記無機酸化物ゾルは、下記の式(1)にて表されるアルコキシドモノマー、
【化1】

または、下記の式(2)にて表されるオリゴマー、
【化2】

(式(1)及び(2)中、Mはケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムの群から選択される1種であり、R23〜R29は各々独立に、ヒドロキシル基、または炭素数が1〜20の直鎖または分岐を有するアルコキシル基であり、R30は水素、または炭素数が1〜20の直鎖または分岐を有するアルキル基であり、nは2〜100の整数)
を加水分解し重合して得られるポリマーであることを特徴とする請求項1または2記載の導電性被膜形成用塗布液。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の導電性被膜形成用塗布液を基材の表面に塗布して塗布層を形成し、この塗布層を熱処理して硬化することを特徴とする導電性被膜の形成方法。
【請求項5】
請求項4記載の導電性被膜の形成方法により得られた導電性被膜であって、
表面抵抗が1.0×10Ω/□以下であることを特徴とする導電性被膜。

【公開番号】特開2008−95015(P2008−95015A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280320(P2006−280320)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】