説明

導電性高分子およびそれを用いた固体電解コンデンサ

【課題】高導電率の導電性高分子および低ESRの固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】3−アルキル複素五員環がアルキル基を頭尾規制して立体制御された2位と5位が結合してなる2量体〜10量体の化合物をモノマーとして、少なくとも1つのスルホン酸基を有する芳香族ドーパントを含む溶液中で化学酸化重合によって、誘電体層表面に重合された導電性高分子であり、この導電性高分子を固体電解コンデンサの固体電解質として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子およびそれを用いた固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、高速化、デジタル化に伴って、使用されるコンデンサにおいても小型、大容量で高周波特性のよい低インピーダンスのコンデンサが強く要求されている。
【0003】
高周波領域で使用されるコンデンサは、従来積層セラミックコンデンサが主体であったが、小型、大容量、低インピーダンスというニーズに対応することは困難である。
【0004】
大容量のコンデンサとしては、従来アルミ電解コンデンサやタンタル固体電解コンデンサなどが用いられてきたが、これらに用いられる電解液や電解質、例えば二酸化マンガンなどの抵抗が高いことから、高周波領域で低インピーダンスを実現することは困難である。
【0005】
これらに対して高周波領域での低インピーダンスを実現するために、導電性高分子を用いた固体電解コンデンサが提案されている。このようなコンデンサでは、導電性高分子の抵抗が電解液や二酸化マンガンに比べて低いために低インピーダンスとなっている。
【0006】
近年では、さらなる低インピーダンス化の要求が強まり、コンデンサに用いられる導電性高分子の高導電率化が求められている。図1は固体電解コンデンサの内部構造の模式図である。このような固体電解コンデンサは、多くの場合、図1に示すように多孔質な形状の陽極体1上に、陽極酸化皮膜を形成し誘電体層2とし、さらに誘電体層2の上には固体電解質層3を形成し、グラファイト層4、銀層5の順に形成して陰極としている。
【0007】
ところで、このような固体電解コンデンサの固体電解質として用いられる導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリピロールやポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が一般的に知られている。このような既存の化合物の使用方法を最適化するためには、添加剤などの検討が進められている。例えば特許文献1では、固体電解コンデンサの製造における導電性高分子層の形成工程に際して、導電性高分子モノマー液にバインダーとしての樹脂を添加する固体電解コンデンサの製造方法が開示されている。
【0008】
一方、添加剤などの外的要因ではなく、骨格を制御することでの高導電率化の試みも報告されている。例えば特許文献2にはポリ(3−アルキルチオフェン)に関する技術が開示されている。これによると3−アルキルチオフェンをモノマーとして、支持電解質を含有する溶媒中で電解重合することで、容易にポリ(3−アルキルチオフェン)が製造できるとされている。また、このようにして得られたポリ(3−アルキルチオフェン)では60S/cm〜95S/cmの導電率を示すとされている。
【0009】
また特許文献3には、3−アルキルチオフェンをモノマーとした導電性高分子の製造方法が開示されている。これによるとモノマーとして3−アルキルチオフェンを第二鉄塩、ハロゲン化アルキル、水を含む反応媒質中で重合させることで、高導電率のポリ(3−アルキルチオフェン)が製造できるとされている。また例えば特許文献4には、ポリ(3−アルキルチオフェン)の低分子量体を除去し、数平均分子量15,000以上で分子量10,000以下のものの割合が10%以下であると、導電率が飛躍的に向上するとされている。
【0010】
また、例えば非特許文献1では、3−アルキルチオフェンをモノマーとして、高度に立体制御されたポリ(3−アルキルチオフェン)で、導電率は1350S/cmであり、ランダムにモノマーが結合した重合体の5S/cmに対して導電率が向上することが報告されている。特許文献5にはこのような高度に立体制御されたポリ(3−アルキルチオフェン)の製造方法に関する技術が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特許第3241636号公報
【特許文献2】特公平01−011209号公報
【特許文献3】特開平02−283722号公報
【特許文献4】特開平05−222129号公報
【特許文献5】特表2007−501300号公報
【非特許文献1】T‐A Chen and R.D.Rieke,Synthetic Metals,60,(1993)175−177
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら従来の技術のような、既存の導電性高分子に添加剤の添加で導電性を向上させるという試みは、ある一定の効果はあるものの飛躍的な導電率の向上効果は得られない。
【0013】
また特許文献2、特許文献3、特許文献4に記載のような単環の化合物をモノマーとして使用した場合、得られる重合物は全てランダムな立体配置であり、飛躍的な導電率の向上は期待できない。
【0014】
非特許文献1、特許文献5にあるようなカップリング反応により未ドープ状態の導電性高分子を形成する方法では、ドープ率の制御が困難である。一般にドープ率は適正な値が存在し、多すぎても少なすぎても導電率は低下してしまう。したがって産業上このような手法をとると精密な化学反応の制御のための設備、分析が必要となりコストがかかる。
【0015】
また、一般的に用いられる固体電解コンデンサの陽極体が多孔質体であるためにその細孔内への浸透が必要となるが、高分子溶液として得られるこのような従来技術では、固体電解コンデンサへの適用が制限される。すなわち細孔内部の固体電解質としては用いることができず、外部に塗工するような用法に限定される。
【0016】
しかしながら高分子溶液として得られるこのような高分子は、ポリアルキルチオフェンは溶解性高分子として知られるものの、立体制御されることで結晶性が上がるため溶媒への溶解性は格段に低下する。このような場合、外部に塗工するような用法としては、乾燥後の高分子フィルムに一定の厚みが要求されるものの、溶解性が低すぎるために厚い膜を形成することができない。したがって固体電解コンデンサへの適用は困難であった。そこで、本発明の課題は、低コストで製造できる高導電率の導電性高分子およびそれを用いた低ESRの固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明の導電性高分子は、一般式化1で示される3−アルキル複素五員環化合物を基本骨格とし、2〜10個の前記一般式化1で示される化合物をアルキル基を頭尾規制して、複素五員環の2位と5位とを結合した一般式化2で示される化合物をモノマーとして、重合された一般式化3で示されることを特徴とする。
【化1】

【化2】

【化3】

【0018】
また本発明の導電性高分子は、前記一般式化3で示される導電性高分子がドーパントを含む溶液中で化学酸化重合によって重合されたことを特徴とする。
【0019】
また本発明の導電性高分子は、前記一般式化3で示される導電性高分子がドーパントを含む支持電解質中で電解重合によって重合されたことを特徴とする。
【0020】
さらに本発明による導電性高分子は、前記ドーパントが一般式化4〜化8で示される化合物群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【0021】
また本発明の固体電解コンデンサは、表面を拡面化した弁作用金属からなる陽極体の表面に酸化皮膜を形成して誘電体層を形成した後、固体電解質層、陰極層を形成して陰極とする固体電解コンデンサにおいて、前記固体電解質が一般式化1で示される3−アルキル複素五員環化合物を基本骨格とし、2〜10個の前記一般式化1で示される化合物をアルキル基を頭尾規制して、複素五員環の2位と5位とを結合した一般式化2で示される化合物をモノマーとして、重合された一般式化3で示される導電性高分子を含むことを特徴とする。
【0022】
さらに本発明の固体電解コンデンサは、前記導電性高分子がドーパントを含む溶液中で、化学酸化重合によって誘電体表面に重合されたことを特徴とする。
【0023】
また本発明の固体電解コンデンサは、前記ドーパントが一般式化4〜化8で示される化合物群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0024】
さらに本発明の固体電解コンデンサは、表面を拡面化した弁作用金属からなる陽極体の表面に酸化皮膜を形成して誘電体層を形成した後、第一の固体電解質層、第二の固体電解質、陰極層を形成し、前記第一の固体電解質層、第二の固体電解質層の一方は二酸化マンガンあるいはポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンおよびこれらの誘導体などの導電性高分子からなり、他方は、一般式化1で示される3−アルキル複素五員環化合物を基本骨格とし、2〜10個の前記一般式化1で示される化合物をアルキル基を頭尾規制して、複素五員環の2位と5位とを結合した一般式化2で示される化合物をモノマーとして、重合された一般式化3で示される導電性高分子であることを特徴とする。
【0025】
また本発明の固体電解コンデンサは、前記第二の固体電解質層が、前記一般式化3で示される導電性高分子がドーパントを含む溶液中で、化学酸化重合によって第一の固体電解質層上に重合されたことを特徴とする。
【0026】
また本発明の固体電解コンデンサは、前記第二の固体電解質層が、一般式化3で示される導電性高分子がドーパントを含む支持電解質中で電解重合によって第一の固体電解質層上に重合されたことを特徴とする。
【0027】
さらに本発明の固体電解コンデンサは、前記第二の固体電解質層が、一般式化3で示される導導電性高分子の溶液あるいは分散液を塗布して形成されたことを特徴とする。
【0028】
また本発明の固体電解コンデンサは、前記弁作用金属がタンタル、アルミニウム、ニオブから選ばれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、モノマーに立体規則性を持たせることで、化学酸化重合や電解重合のようなランダムな立体規則の重合物が生成するような重合方法でも、モノマーの構造に応じた割合で重合生成物中に立体規則性を持たせることが可能となる。これにより、ランダムな重合生成物と比較し、立体規則制御の効果により高分子鎖の結晶性が向上し導電率が飛躍的に向上する。
【0030】
また従来立体規則制御するためには、カップリング反応などによる重合が必要であったが、簡便な方法で重合することが可能となり低コスト化が実現する。また、カップリング反応で合成した重合生成物にはドーパントが含まれないため高分子鎖のドーピング工程が高導電率を得るために必要であるが、本発明による導電性高分子では、化学酸化重合あるいは電解重合中に必要量のドーパントが高分子鎖中に取り込まれるために、ドーピングの工程が不要である。また、適正なドーピング量が得られるために、高分子鎖に後からドーピングの処置をする方法と比較して、高導電率の導電性高分子が効率よく生成する。
【0031】
また本発明の固体電解コンデンサでは、固体電解質として用いられる導電性高分子が上記理由により高導電率であるために、低ESRの固体電解コンデンサを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための具体例を示す。なお複素五員環化合物としてチオフェンでの記載をするが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
本発明の一般式化3で示される導電性高分子を合成するための一般式化2で示されるモノマーを得る方法としては、(a)一般式化1に示したような3−アルキルチオフェンが過剰に存在する条件下、酸化剤を作用させて重合する工程、得られた生成物を還元する工程、液体クロマトグラフィーなどによる分子量・立体構造ごとに低分子量化合物を抽出する工程を経て得る方法、(b)3−アルキル−2,5−ジハロゲン化チオフェンと2−ハロゲン化−3−アルキルチオフェン、3−アルキル−5−ハロゲン化チオフェンの混在下、グリニャール反応などによるカップリング反応の工程、生成物を精製する工程、液体クロマトグラフィーなどによる分子量・立体構造ごとに低分子量化合物を抽出する工程を経て得る方法、(c)2−ハロゲン化−3−アルキルチオフェンと3−アルキル−5−ハロゲン化チオフェンとのカップリング反応の工程、これに続くハロゲン化および逐次的なカップリング反応の工程により合成して得る方法、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
このとき一般式化2においてmは0〜8が望ましい。9以上ではモノマーの溶解性の低下、酸化重合のときの複素五員環に対するドープ率の低下、重合生成物の結晶性が高まりすぎることによる溶解性の低下などにより得られる導電性高分子の導電性が低下するために好ましくない。また一般式化2においてnは0〜9が好ましい。10以上では長いアルキル鎖の立体障害により重合が阻害されて、低分子量の重合物しか得られない。この場合も同様に導電率が低下するために好ましくない。
【0035】
上記のような方法で得られた一般式化2で示されるモノマーを用いて、一般式化3で示される導電性高分子を得る方法としては、化学酸化重合法、電解重合法が挙げられる。
【0036】
これらの一般式化2で示されるモノマーを化学酸化重合法によって重合する方法について記載する。まず反応溶媒としては、モノマーおよび使用する酸化剤を溶解させる溶媒が好ましいが、これに限定されるものではなくモノマー、酸化剤それぞれを溶解させる溶媒を用いて不均一系中で反応させることも可能である。このような溶媒として例えば、水、硫酸、メタノール、エタノール、プロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレンカーボネートなどが挙げられる。
【0037】
また酸化剤としては、第二塩化鉄、トリ(p−トルエンスルホン酸)鉄(III)、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過マンガン酸カリウムなどが挙げられる。
【0038】
酸化剤溶液中にはドーパントを混合させて用いる。ドーパントとしては、例えば、硫酸、ヘプチル硫酸・オクチル硫酸などのアルキル硫酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸・エチルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸、トルエンジスルホン酸などのアルキルベンゼンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸などのアルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、メチルナフタレンジスルホン酸などのアルキルナフタレンジスルホン酸などの化合物を挙げることができる。
【0039】
これら溶媒、酸化剤、ドーパントを用いて、モノマー濃度は1mmol/L〜1000mmol/L、好ましくは10mmol/L〜200mmol/Lの濃度で、酸化剤濃度は1mmol/L〜1000mmol/L、好ましくは10mmol/L〜200mmol/L、ドーパント濃度は5mmol/L〜5000mmol/L、好ましくは50mmol/L〜1000mmol/Lに調整し、モノマー溶液に酸化剤とドーパントの混合溶液を滴下して反応させる。濃度が濃すぎる場合、副反応が生起しやすくなり低導電率の導電性高分子となるので好ましくない。逆に濃度が薄すぎる場合は、反応が進行しにくくなる為好ましくない。反応温度としては、−40℃〜110℃、好ましくは−20℃〜40℃さらに好ましくは、−20℃〜10℃の範囲が好ましく、使用する溶媒が凍結しない温度から沸点までの温度範囲で重合する。温度が高すぎる場合、副反応が生起しやすくなり低導電率の導電性高分子となるので好ましくなく、反応を穏やかに進めるために、溶媒が凍結しなく、粘度上昇のしない範囲でなるべく低温で行うことが好ましい。また反応時間は、0.1時間〜72時間、好ましくは0.1時間〜10時間の範囲で行うことが好ましい。
【0040】
次に、電解重合法によって重合する方法について記載する。まず重合溶媒としては、モノマーおよびドーパントそれぞれを溶解させる溶媒が好ましい。このような溶媒として例えば、水、硫酸、メタノール、エタノール、プロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレンカーボネートなどが挙げられる。
【0041】
重合溶液中にはドーパントを溶解させて用いる。ドーパントとしては例えば、硫酸、ヘプチル硫酸・オクチル硫酸などのアルキル硫酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸・エチルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸、トルエンジスルホン酸などのアルキルベンゼンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸などのアルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、メチルナフタレンジスルホン酸などのアルキルナフタレンジスルホン酸などの化合物を挙げることができる。
【0042】
電解重合はモノマーおよびドーパントの混合溶液を、ポテンショスタットを用いて電位操引法あるいは定電圧法によって重合する方法、ガルバノスタットを用いて定電流法によって重合する方法がある。このときモノマー濃度は1mmol/L〜1000mmol/L、好ましくは10mmol/L〜200mmol/L、電解質濃度は1mmol/L〜2000mmol/L、好ましくは50mmol/L〜500mmol/Lから適宜設定する。
【0043】
電位操引法で行う場合は、標準水素電極に対して−500mV〜2500mVの範囲、好ましくは0mV〜2000mVの範囲で電位を操引させることが好ましい。操引電位を高くしすぎると過酸化による分解が生起するため好ましくない。このときの反応時間は0.1時間〜72時間、好ましくは0.1時間〜10時間の範囲で行うことが好ましい。重合時間を長くしすぎると重合生成物がフィルム状ではなく、粉状に付着するため好ましくない。生成物の形態はフィルム状であるほうがより高導電率である。
【0044】
定電圧法で行う場合は、標準水素電極に対して0mV〜2500mVの範囲、好ましくは500mV〜2000mVの範囲でモノマーが酸化される電位から任意に設定して重合することができる。設定電位を高くしすぎると過酸化による分解が生起するため好ましくない。このときの反応時間は0.1時間〜72時間、好ましくは0.1時間〜10時間の範囲で行うことが好ましい。重合時間を長くしすぎると重合生成物がフィルム状ではなく、粉状に付着するため好ましくない。
【0045】
定電流法で行う場合は、用いる作用電極の面積に対して、0.1mA/cm2〜50mA/cm2の範囲、好ましくは0.1mA/cm2〜10mA/cm2の範囲で行うことが好ましい。このときの反応時間は0.1時間〜72時間、好ましくは0.1時間〜10時間の範囲で行うことが好ましい。重合時間を長くしすぎると重合生成物がフィルム状ではなく、粉状に付着するため好ましくない。
【0046】
次に、本発明による固体電解コンデンサの製造方法について記載する。図1は固体電解コンデンサの内部構造の模式図である。本発明による固体電解コンデンサの構成は、本発明の導電性高分子を用いる以外は従来のものと同様である。すなわち、陽極体1の上に陽極酸化皮膜を形成して誘電体層2とし、誘電体層2の上には固体電解質層3である導電性高分子層を形成する。さらに固体電解質層3の上にグラファイト層4、銀層5を形成して陰極とする。
【0047】
このとき陽極体1としては、アルミニウム、タンタル、ニオブなどが上げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0049】
モノマーとして一般式化2で表される化合物からX、nおよびmを変えて導電性高分子を合成した。モノマーは2−ハロゲン化−3−アルキル体、5−ハロゲン化−3−アルキル体および2,5−ジハロゲン化−3−アルキル体の混合物を、グリニャール反応を利用してカップリングさせて、得られた生成物を分子量ごとに単離することで合成した。
【0050】
実施例1〜15までは溶媒をアセトニトリル、酸化剤として第二塩化鉄、ドーパントとしてはp−トルエンスルホン酸、トルエンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸を選択して化学酸化重合法により重合した。モノマーの濃度は50mmol/L、酸化剤、ドーパントの濃度は最終的な混合溶液の濃度が100mmol/L、300mmol/Lにそれぞれなるように設定した。また反応時間は1時間、反応温度は25℃とした。得られた反応性生物の溶液をガラス基板上に滴下・乾燥してフィルムとして四端子法により導電率を測定した。表1に結果の一覧を示す。
【0051】
また比較例1、2として、モノマーに3−ヘキシルチオフェンを、ドーパントとしてp−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸を選択し、実施例1〜15と同様の条件で重合し導電率を測定した。表1に結果を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例16〜27では溶媒をアセトニトリル、ドーパントとしてはp−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸を選択して電解重合法により重合した。モノマーの濃度は30mmol/L、支持電解質をかねるドーパントの濃度は500mmol/Lにそれぞれ設定した。電解重合の手法としては電位操引法を選択し、標準水素電極に対して200mV〜1800mVまでの範囲を50mV/sの速さで操引を繰り返した。また反応時間は1時間、反応温度は25℃とした。作用極、対極はそれぞれ白金板を用いた。作用極上に生成した導電性高分子フィルムを剥離し、四端子法により導電率を測定した。表2に結果の一覧を示す。
【0054】
また比較例3、4として、モノマーに3−ヘキシルチオフェンを、ドーパントとしてp−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸を選択し、実施例16〜27と同様に重合し導電率を測定した。表2に結果を示す。
【0055】
【表2】

【0056】
次に、実施例28〜30として陽極として表面をエッチングにより拡面化したアルミニウム箔を用いて固体電解コンデンサを作製した。陰極部は1cm×1cm、陽極部は1cm×0.5cmの大きさとし、絶縁性のレジスト材料により分断されている。
【0057】
陰極部には陽極酸化により酸化皮膜が形成され誘電体層となっている。この誘電体層上に化学酸化重合により導電性高分子層を形成した。溶媒としてアセトニトリル、酸化剤として第二塩化鉄、ドーパントとしてはp−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸あいはこれらのmol比で1対1の混合物を選択して化学酸化重合法により重合した。モノマーの濃度は50mmol/L、酸化剤、ドーパントの濃度は最終的な混合溶液の濃度が100mmol/L、300mmol/Lにそれぞれなるように設定した。また反応時間は1時間、反応温度は25℃とした。導電性高分子層上には、グラファイト層、銀層を順に形成して陰極とした。製造した固体電解コンデンサのESRはLCRメーターで測定し、100kHzの値とした。表3に結果の一覧を示す。
【0058】
また比較例5として3−ヘキシルチオフェンをモノマーとして選択した以外は実施例28と同様に固体電解コンデンサを製造した。
【0059】
【表3】

【0060】
次に、実施例31、32として、表面をエッチングにより拡面化したアルミニウム箔を陽極に用い第一の固体電解質層と第二の固体電解質層を有する固体電解コンデンサを作製した。陰極部は1cm×1cm、陽極部は1cm×0.5cmの大きさとし、絶縁性のレジスト材料により分断されている。
【0061】
陰極部には陽極酸化により酸化皮膜が形成され誘電体層となっている。この誘電体層上に化学酸化重合により第一の固体電解質層としてポリピロールを形成した。この第一の固体電解質層の上に、ドーパントとしてp−トルエンスルホン酸を選択し、化学重合あるいは電解重合で第二の固体電解質層を形成した。化学重合による第二の固体電解質層の形成は実施例28と同様にして行った。電解重合による第二の固体電解質層の形成は、溶媒をアセトニトリル、ドーパントとしてはp−トルエンスルホン酸を選択して重合した。モノマーの濃度は30mmol/L、支持電解質をかねるドーパントの濃度は500mmol/Lにそれぞれ設定した。電解重合の手法としては電位操引法を選択し、標準水素電極に対して200mV〜1800mVまでの範囲を50mV/sの速さで操引を繰り返した。また反応時間は1時間、反応温度は25℃とした。製造した固体電解コンデンサのESRはLCRメーターで測定し、100kHzにおける値を示した。結果の一覧を表4に示す。
【0062】
また比較例6、7として3−ヘキシルチオフェンを第二の固体電解質層とする導電性高分子のモノマーとして選択し実施例31、32と同様に、化学重合あるいは電解重合を利用して第二の固体電解質層として、固体電解コンデンサを製造した。結果の一覧を表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
また実施例33として、実施例7に記載の方法で製造した導電性高分子を、キシレン中で24時間攪拌することで固形成分5重量%の導電性高分子溶液を製造した。これを実施例31、32と同様に誘電体層上に化学酸化重合により第一の固体電解質層としてポリピロールを形成した陰極部に滴下・乾燥して、第二の固体電解質層とした。ESRはLCRメーターで測定し、100kHzの値とした。結果を表5に示す。
【0065】
【表5】

【0066】
以上本発明の導電性高分子は、実施例1〜27に示すように、モノマーとして単環化合物の3−アルキルチオフェンを用いて同様に重合した場合と比較して、高導電率の導電性高分子が得られる。これは本発明の導電性高分子が、立体規則性のある3−アルキルチオフェンの2〜10量体(一般式化2中mが0〜8)をモノマーとして重合することで、得られる重合生成物中にモノマーに応じた立体規則性が導入されることに由来する。これにより分子の結晶性が高まり、導電性が向上する。
【0067】
このとき実施例14、15、26、27に示したように、一般式化2中mが9以上の場合には導電率が低下する。これはモノマーの溶解性の低下、酸化重合のときの複素五員環に対するドープ率の低下、重合生成物の結晶性が高まりすぎることによる溶解性の低下などに由来する。
【0068】
また本発明の固体電解コンデンサでは実施例28〜30に説明したように、本発明による導電性高分子を固体電解質層として利用することで、低ESRの固体電解コンデンサを提供することが可能となる。また実施例31〜33で説明したように第一の固体電解質層の上に、本発明による導電性高分子層を形成して第二の固体電解質層とすることでも低ESRの固体電解コンデンサを提供することが可能である。これらはともに本発明の導電性高分子を用いることで、固体電解質層の抵抗が低減することに由来する。
【0069】
以上説明したように本発明による導電性高分子は、化学酸化重合あるいは電解重合中に適切なドーピング量が得られるために、従来のようなカップリング反応などで重合された高分子をドーピングする方法に比べ、安易に適切なドープ率が得られる。このために簡便な方法で高導電率の導電性高分子を製造することが可能となる。
【0070】
次に、モノマーとして2〜10量体(一般式化2中mが0〜8)の化合物を用いることで、固体電解コンデンサに用いられる多孔質な陽極体の細孔内部への含浸が可能であり、細孔内部で重合することで、細孔内部に導電性高分子を形成することが可能である。従来のような高分子溶液をドーピングして導電性高分子とする方法では、細孔内への含浸ができないために、細孔内部への導電性高分子形成はできない。
【0071】
最後に、本発明による導電性高分子は適度に立体規則制御された導電性高分子であるために、従来高度に立体制御したときに結晶性の増加により引き起こされていた溶解性の低下を防ぐことが可能となり、高濃度な導電性高分子溶液が製造可能となる。これにより従来固体電解コンデンサ外部に厚膜を形成するような目的で使用されていた用途にも使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】固体電解コンデンサの内部構造の模式図。
【符号の説明】
【0073】
1 陽極体
2 誘電体層
3 固体電解質層
4 グラファイト層
5 銀層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式化1で示される3−アルキル複素五員環化合物を基本骨格とし、2〜10個の前記一般式化1で示される化合物をアルキル基を頭尾規制して、複素五員環の2位と5位とを結合した一般式化2で示される化合物をモノマーとして、重合された一般式化3で示されることを特徴とする導電性高分子。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
前記一般式化3で示される導電性高分子がドーパントを含む溶液中で化学酸化重合によって重合されたことを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子。
【請求項3】
前記一般式化3で示される導電性高分子がドーパントを含む支持電解質中で電解重合によって重合されたことを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子。
【請求項4】
前記ドーパントが一般式化4〜化8で示される化合物群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2または3に記載の導電性高分子。
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【請求項5】
表面を拡面化した弁作用金属からなる陽極体の表面に酸化皮膜を形成して誘電体層を形成した後、固体電解質層、陰極層を形成して陰極とする固体電解コンデンサにおいて、
前記固体電解質が一般式化1で示される3−アルキル複素五員環化合物を基本骨格とし、2〜10個の前記一般式化1で示される化合物をアルキル基を頭尾規制して、複素五員環の2位と5位とを結合した一般式化2で示される化合物をモノマーとして、重合された一般式化3で示される導電性高分子を含むことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記一般式化3で示される導電性高分子がドーパントを含む溶液中で化学酸化重合によって誘電体層表面に重合されたことを特徴とする請求項5に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記ドーパントが一般式化4〜化8で示される化合物群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
表面を拡面化した弁作用金属からなる陽極体の表面に酸化皮膜を形成して誘電体層を形成した後、第一の固体電解質層、第二の固体電解質、陰極層を形成し、前記、第一の固体電解質層、第二の固体電解質層の一方は二酸化マンガンあるいはポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンおよびこれらの誘導体などの導電性高分子からなり、他方は、一般式化1で示される3−アルキル複素五員環化合物を基本骨格とし、2〜10個の前記一般式化1で示される化合物をアルキル基を頭尾規制して、複素五員環の2位と5位とを結合した一般式化2で示される化合物をモノマーとして、重合された一般式化3で示される導電性高分子であることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項9】
前記第二の固体電解質層は、前記一般式化3で示される導電性高分子がドーパントを含む溶液中で、化学酸化重合によって第一の固体電解質層上に重合されたことを特徴とする請求項8に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項10】
前記第二の固体電解質層は、一般式化3で示される導電性高分子がドーパントを含む支持電解質中で電解重合によって第一の固体電解質層上に重合されたことを特徴とする請求項8に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項11】
前記第二の固体電解質層は、前記請求項1乃至4のいずれか1項に記載の導電性高分子の溶液あるいは分散液を塗布して形成されたことを特徴とする請求項8に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項12】
前記ドーパントが一般式化4〜化8で示される化合物群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項13】
前記弁作用金属がタンタル、アルミニウム、ニオブから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5乃至12のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−209259(P2009−209259A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53391(P2008−53391)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】