説明

導電性高分子形成用電解重合液とそれを用いた固体電解コンデンサの製造方法

【課題】熱耐久性に優れた導電性高分子形成用電解重合液を提供すること、該導電性高分子形成用電解重合液を用いた、ESRが低く、高い耐圧特性を有する固体電解コンデンサの製造方法を提供すること。
【解決手段】アントラキノン2−スルホン酸塩類を含む支持電解質と、ナフタレンスルホン酸塩類及び/又はベンゼンスルホン酸塩類を含む支持電解質とを含有する導電性高分子形成用電解重合液とそれを用いて作製した固体電解コンデンサとその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子形成用電解重合液を使用して形成した導電性高分子からなる固体電解質層を形成させてなる固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化に伴い、これらに使用されるコンデンサは、小型大容量であること、高耐電圧であること、高周波領域において低インピーダンスを示すこと、等価直列抵抗(以下、「ESR」と略記する。)および誘電損失(以下、「tanδ」と略記する。)特性に優れること等が要求されている。
【0003】
このような要求に対応すべく、電解液を真の陰極として使用した従来の電解液型コンデンサとは異なり、導電性の高い導電性高分子を固体電解質層とした固体電解コンデンサが開発されている。
【0004】
上記固体電解コンデンサは一般的に、エッチング処理により表面積を拡大した弁作用金属箔、あるいは弁作用金属の粒子を焼結させることにより表面積を拡大した焼結体を、化成処理により該表面に誘電体酸化皮膜を形成させ、次いで、該誘電体酸化皮膜上に固体電解質層を形成し、カーボン及び銀ペーストからなる導電層を順次形成した後、リードフレームなどの外部端子に接続し、トランスファーモールド等による外装を施して製品化される。
【0005】
固体電解コンデンサのESRは、コンデンサを形成する各部材の固有抵抗と、コンデンサを形成する各部材間に発生する接触抵抗からなる、合成抵抗が主要な因子となっており、それらの改善によるESRのより一層の低減が望まれている。
【0006】
そこで、積層型の固体電解コンデンサに用いられるポリピロールからなる固体電解質では、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等を支持電解質として用いたポリピロールからなる固体電解質が提案されている(特許文献1、2)。
【0007】
しかし前記パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸を支持電解質として用いたポリピロールを含む固体電解質では、依然としてESRを十分に改善することは出来なかった。
【0008】
そこで、近年、支持電解質としてフルオロアルキルナフタレンスルホン酸を用いたポリピロールからなる固体電解質を含んだ固体電解コンデンサが提案されているが、耐電圧特性に問題があった(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−77093号公報
【特許文献2】特開2001−110682号公報
【特許文献3】特開2005−135990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐電圧特性に優れ、かつ、高い導電性を持った導電性高分子を与える導電性高分子形成用電解重合液を提供すること、該導電性高分子形成用電解重合液を用いた、ESRが低く、高い耐電圧特性を有する固体電解コンデンサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アントラキノン−2−スルホン酸塩類を含む支持電解質と、ナフタレンスルホン酸塩類及び/又はベンゼンスルホン酸塩類を含む支持電解質とを含有する導電性高分子形成用電解重合液とそれを用いて作製した固体電解コンデンサとその製造方法が上記課題を解決することを見出し、完成するに至った。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
第一の発明は、導電性高分子単量体と支持電解質とが、溶媒に溶解されてなる導電性高分子形成用電解液において、
下記一般式(1)で表される化合物を含む支持電解質(D1)と、
下記一般式(2)で表される化合物を含む支持電解質(D2)及び/又は下記一般式(3)で示される化合物を含む支持電解質(D3)と、
を含有することを特徴とする導電性高分子形成用電解重合液である。
【0014】
【化1】

(式(1)中、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、スルホン酸基を示す。Xは対カチオンを示す。)
【0015】
【化2】

(式(2)中、Rは同一でも異なっていてもよいハロゲン基又は炭素数1〜9の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは0〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。)
【0016】
【化3】

(式(3)中、Rは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜15の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは0〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。)
【0017】
第二の発明は、支持電解質(D1)と支持電解質(D2)のモル比、あるいは支持電解質(D1)と支持電解質(D3)のモル比が9.9:0.1〜1:9であることを特徴とする第一の発明に記載の導電性高分子形成用電解重合液である。
【0018】
第三の発明は、前記一般式(1)により表される化合物が、アントラキノン−2−スルホン酸アルカリ金属塩、アントラキノン−2−スルホン酸アンモニウム塩、アントラキノン−2−スルホン酸第四級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、第一又は第二の発明に記載の導電性高分子形成用電解重合液である。
【0019】
第四の発明は、前記一般式(2)又は(3)のカチオンが、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一つのカチオンであることを特徴とする第一から第三の発明のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液である。
【0020】
第五の発明は、下記一般式(4)〜(6)で示される少なくとも一つの化合物が添加剤として溶解されてなることを特徴とする第一から第四の発明のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液である。
【0021】
【化4】

(式(4)〜(6)中、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基又はフェニル基を示す。)
【0022】
第六の発明は、前記導電性高分子単量体がピロール及び/又はピロール誘導体であることを特徴とする第一から第五の発明のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液である。
【0023】
第七の発明は、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、第一から第六の発明のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液中で導電性高分子層を電解重合により形成する工程を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法である。
【0024】
第八の発明は、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、導電性高分子層(A)を形成する工程と、前記導電性高分子層(A)上に第一から第六の発明のいずれかに記載の電解重合液中で導電性高分子層(B)を電解重合により形成する工程とを有する固体電解コンデンサの製造方法である。
【0025】
第九の発明は、前記一般式(1)により表される化合物が、アントラキノン−2−スルホン酸アルカリ金属塩、アントラキノン−2−スルホン酸アンモニウム塩、アントラキノン−2−スルホン酸第四級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、第八の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来の固体電解コンデンサと比較して著しく優れた耐電圧特性とESR特性を示す固体電解コンデンサが得られる固体電解コンデンサの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
まず、本発明の電解重合用電解液について説明する。
【0028】
導電性高分子単量体と支持電解質とが、溶媒に溶解されてなる導電性高分子形成用電解液において、
前記一般式(1)で表される化合物を含む支持電解質(D1)と、
前記一般式(2)で表される化合物を含む支持電解質(D2)及び/又は前記一般式(3)で示される化合物を含む支持電解質(D3)と、
を含有することを特徴とする導電性高分子形成用電解重合液である。
【0029】
本発明の導電性高分子形成用電解重合液は、ドーパントを放出できる支持電解質と導電性高分子単量体である重合性モノマーが、溶媒中に溶解されたものである。
【0030】
重合性モノマーとしては、ピロール、アニリン、フラン、チオフェンあるいはこれらの誘導体を用いることができる。該誘導体としては、3−アルキルピロール、3−アルキルチオフェン、3,4−アルキレンジオキシピロール、3,4−アルキレンジオキシチオフェン等が挙げられる。前記モノマーは1種もしくは2種以上を同時に含有することができる。これらの中でも、得られる導電性高分子の強靱性、導電性及び耐久性の面から、ピロール及び/又はその誘導体が好ましく挙げられる。
【0031】
電解重合電解液の溶媒は、水、又はテトラヒドロフラン(THF)やジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、あるいはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド(DMF)やアセトニトリル、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルムや塩化メチレン等の非芳香族性の塩素系溶媒、ニトロメタンやニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物、あるいはメタノールやエタノール、プロパノール等のアルコール類、又はギ酸や酢酸、プロピオン酸等の有機酸又は該有機酸の酸無水物(無水酢酸等)を0〜30%以下の割合で水と混合した混合溶媒を挙げることができる。
これらの中でも、環境負荷、安全性の面から、水を単独で使用したものが好ましい。
【0032】
支持電解質(D1)は下記一般式(1)で表すことができる。
【0033】
【化5】

【0034】
上記一般式(1)中、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、スルホン酸基を示す。Xはカチオンを示す。
【0035】
前記炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基(各種異性体を含む)の1種もしくは2種以上を挙げることができる。
【0036】
前記カチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオンが挙げられる。
前記アルカリ金属カチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属類の1種もしくは2種以上を挙げることができる。
前記第四級アンモニウムカチオンとしては、テトラフェニルアンモニウムイオン(各種異性体を含む)等の芳香族第四級アンモニウムカチオン、脂肪族第四級アンモニウムカチオンを用いることができ、好ましくは溶解性の面から炭素数1〜6の直鎖脂肪族第四級アンモニウムカチオンである。具体的には、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラペンチルアンモニウムカチオン、テトラヘキシルアンモニウムカチオンが挙げられる。
【0037】
従って、前記一般式(1)により表される化合物の具体例としては、例えば、アントラキノン−2−スルホン酸、3−メチルアントラキノン−2−スルホン酸、6−メチルアントラキノン−2−スルホン酸、7−メチルアントラキノン−2−スルホン酸、3−ヘキシルアントラキノン−2−スルホン酸、6−ヘキシルアントラキノン−2−スルホン酸、7−ヘキシルアントラキノン−2−スルホン酸、アントラキノン−2、6−ジスルホン酸、アントラキノン−2、7−ジスルホン酸類の上記塩が挙げられ、前記アントラキノン−2−スルホン酸類のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の前記アントラキノン−2−スルホン酸アルカリ金属塩類、又は、アントラキノン−2−スルホン酸類のテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラペンチルアンモニウム塩、テトラヘキシルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩等の前記アントラキノン−2−スルホン酸類のアンモニウム塩類を挙げることができる。前記一般式(1)により表される化合物は、1種もしくは2種以上を使用することができる。
【0038】
これらの中でもRが全て水素原子であることが好ましく、アントラキノン−2−スルホン酸アルカリ金属塩、アントラキノン−2−スルホン酸第四級アンモニウム塩およびアントラキノンスルホン酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1つであればより好ましい。
【0039】
支持電解質(D2)は下記一般式(2)で表すことができる。
【0040】
【化6】

【0041】
上記一般式(2)中、Rは同一でも異なっていてもよいハロゲン基又は炭素数1〜9の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは0〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。
【0042】
上記ハロゲン基としては、フッ素、塩素、臭素等が挙げられる。
【0043】
上記炭素数1〜9の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0044】
上記一般式(2)により表される化合物のアニオンの具体例としては、例えば、ナフタレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ジメチルナフタレンスルホン酸、トリメチルナフタレンスルホン酸、テトラメチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ジプロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、トリブチルナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、メチルナフタレンジスルホン酸、ジメチルナフタレンジスルホン酸、トリメチルナフタレンジスルホン酸、プロピルナフタレンジスルホン酸、ジプロピルナフタレンジスルホン酸、ブチルナフタレンジスルホン酸、ジブチルナフタレンジスルホン酸、トリブチルナフタレンジスルホン酸等が挙げられ、重合性モノマーとの混和性の点より、ブチルナフタレンスルホン酸が好ましく挙げられる。ナフタレンスルホン酸化合物は単独若しくは2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0045】
上記一般式(2)中のXはカチオンを示し、水素イオン、アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオンが挙げられる。
前記アンモニウムカチオンとしては、NH、NH、NH、NHR、NR等が挙げられる。Rは炭素数1〜6のアルキル基である。
前記アルカリ金属カチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
これらのカチオンの中で、ナトリウムイオンが好ましく挙げられる。
これらカチオンは、1種あるいは2種以上を混合して用いることが出来る。
【0046】
従って、上記一般式(2)により表される化合物の具体例としては、例えば、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
上記一般式(2)により表される化合物は、1種類もしくは2種類以上を使用することができる。
【0047】
支持電解質(D3)は下記一般式(3)で表すことができる。
【0048】
【化7】

【0049】
上記一般式(3)中、Rは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜15の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは0〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。
【0050】
炭素数1〜15の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0051】
上記一般式(3)中のXはカチオンを示し、水素イオン、アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオンが挙げられる。
前記アンモニウムカチオンとしては、NH、NH、NH、NHR、NR等が挙げられる。Rは炭素数1〜6のアルキル基である。
前記アルカリ金属カチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
これらのカチオンの中で、ナトリウムイオンが好ましく挙げられる。
これらカチオンは、1種あるいは2種以上を混合して用いることが出来る。
【0052】
従って、上記一般式(3)により表される化合物の具体例としては、例えば、ブチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ウンデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
上記一般式(3)により表される化合物は、1種類若しくは2種類以上を使用することができる。
【0053】
本発明の導電性高分子形成用電解液は導電性高分子を構成するモノマー、支持電解質、溶媒等を含むものであるが、前記導電性高分子形成用電解液は、導電性高分子を形成するモノマーを0.01〜5mol/Lの濃度で含有するものが好ましい。また、前記支持電解質は支持電解質(D1)と支持電解質(D2)と支持電解質(D3)の合計で0.0005〜1mol/Lで含有するものが好ましく、0.001〜0.5mmol/Lで含有することがさらに好ましい。
【0054】
導電性高分子形成用電解重合液は支持電解質(D1)と、支持電解質(D2)及び/または支持電解質(D3)と、を含有するものであるが、前記導電性高分子形成用電解重合液は支持電解質(D1)と、支持電解質(D2)または支持電解質(D3)と、を含有するものであることがより好ましい。
【0055】
導電性高分子形成用電解重合液における支持電解質(D1)と支持電解質(D2)、または、支持電解質(D1)と支持電解質(D3)のモル比は9.9:0.1〜1:9であることが好ましく9.8:0.2〜2:8がより好ましく挙げられる。9.9:0.1〜1:9の範囲外では、優れた耐電圧特性及びESR特性が得られない欠点がある。
【0056】
本発明の電解液中には添加剤を含有することができる。本発明にて使用される添加剤は、主に酸化防止剤、界面活性剤のいずれかの特性を有するものが好ましい。そのような添加剤としてより好ましくは下式(4)〜(6)で示される化合物である。
【0057】
【化8】

【0058】
上記一般式(4)〜(6)中、Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基又はフェニル基を示す。
【0059】
上記一般式(4)で表される化合物の具体例としては、例えば、4−ニトロフェノール、2−メチル−4−ニトロフェノール、3−メチル−4−ニトロフェノール、2−エチル−4−ニトロフェノール、3−エチル−4−ニトロフェノール、2−ヘキシル−4−ニトロフェノール、3−ヘキシル−4−ニトロフェノール等のニトロフェノール類が挙げられる。
上記一般式(5)で表される化合物の具体例としては、例えば、4−ニトロ−1−ナフトール等のニトロナフトール類が挙げられる。
上記一般式(6)で表される化合物の具体例としては、例えば、1−ヒドロキシ−4−ニトロアントラキノン等のニトロアントラキノン類を挙げることができる。
【0060】
上記一般式(4)〜(6)により表される化合物は、1種もしくは2種以上を使用することができる。上記一般式(4)〜(6)により表される化合物は、得られる導電性高分子の熱耐久性の面から、4−ニトロフェノール、4−ニトロ−1−ナフトール、1−ヒドロキシ−4−ニトロアントラキノンであることが好ましい。
【0061】
さらに、支持電解質塩及び添加剤を含有せしめる導電性高分子形成用電解重合液を用いて電解重合を実施することで、耐電圧性及び導電性に著しく優れた導電性高分子が得られる。
【0062】
本発明の導電性高分子形成用電解重合液を用いた固体電解コンデンサを製造する方法について説明する。弁作用金属表面の誘電体酸化皮膜上にプレコート層として導電性高分子層を予め形成しておき、次に前記プレコート層上に新たな導電性高分子層を本発明の電解重合液を用いて電解重合により形成することで固体電解質層を形成した後、該固体電解質層にカーボンペースト、銀ペースト等の導電ペーストを塗布乾燥することによって陰極層を形成する。
プレコート層の導電性高分子の形成方法としては(1)化学重合による導電性高分子層を形成する方法、(2)導電性高分子溶液を塗布乾燥して導電性高分子層を形成する方法が挙げられる。
次に弁作用金属から陽極リード端子、陰極層から陰極リード端子を接続して電極を取り出して素子を形成し、この素子全体をエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、あるいはセラミック製や金属製の外装ケース等により封止することで固体電解コンデンサを得ることができる。
【0063】
前記導電性高分子形成用電解重合液を用いることによって、導電性に優れ、かつ、特定の電圧を印加した際も安定な構造をとる導電性高分子が得られ、さらに前記導電性高分子を固体電解質とすることにより、従来よりも格段に優れた耐電圧特性、ESR特性、を有する固体電解コンデンサを得ることができる。
【0064】
本発明に用いられる陽極弁作用金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンからなる群から選ばれる1種が挙げられ、焼結体又は箔の形状で用いられる。
【0065】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法では、用いられる陽極弁作用金属の種類、形状により、チップ型または巻回型のいずれとすることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について実施例を挙げより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の製造方法により、なんら限定されない。
【0067】
(実施例1)
タンタル金属粉末を加圧成形し、焼結された陽極体を用い、これを0.2wt%リン酸水溶液の電解液中において約25Vの定電圧で約9時間化成処理し、誘電体酸化皮膜を形成した。
【0068】
次に前記化成処理済み陽極体をピロール:EtOH=2:1のモノマー溶液に浸漬し、引き上げ後、過酸化水素15wt%、水35wt%、EtOH45wt%、p−トルエンスルホン酸5wt%の酸化剤溶液に浸漬後、引き上げて化学酸化重合を行った。
【0069】
さらに、化学酸化重合による導電性高分子陰極層となるポリピロール層の形成操作をもう一度行った。
【0070】
次に化学酸化重合による導電性高分子陰極層からなるポリピロール層を形成した陽極体を0.2wt%リン酸水溶液の電解液中において25Vの定電圧で約5分間再び化成処理を行った。
【0071】
次いで、アントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.5(mmol)+ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):0.079(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の電解重合液中で2mAの電流を50分流し、導電性高分子膜からなる陰極層を形成した。
【0072】
電解重合が終了した後、陰極層上にカーボンペーストと銀ペーストを順に塗布し、乾燥させて、合計20個のコンデンサ素子を完成させた。
【0073】
これら20個のコンデンサ素子の室温20℃での100kHzにおける等価直列抵抗(ESR)の平均値をESR値とし、室温20℃においてコンデンサ素子に0.2Vから30秒おきに0.2Vずつ電圧を上昇させて電圧を印加し、100mAの漏れ電流を与える印加電圧の平均値を耐電圧とし、測定を行った。
【0074】
(実施例2)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム:0.64(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0075】
(実施例3)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム:1.0(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0076】
(実施例4)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0077】
(実施例5)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム:6.0(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0078】
(実施例6)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):0.079(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0079】
(実施例7)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:0.64(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0080】
(実施例8)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム:0.64(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0081】
(実施例9)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム:0.64(mmol)+ピロール:1.0(g)+4−ニトロフェノール:0.229(mmol)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0082】
(実施例10)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム:0.64(mmol)+ピロール:1.0(g)+4−ニトロ−1−ナフトール:0.229(mmol)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0083】
(実施例11)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム:0.64(mmol)+ピロール:1.0(g)+1−ヒドロキシ−4−ニトロアントラキノン:0.229(mmol)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0084】
(比較例1)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0085】
(比較例2)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム:6.0(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0086】
(比較例3)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム:1.5(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5(mmol)+ピロール:1.0(g)+HO:98.1(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0087】
実施例1〜11及び比較例1〜3のコンデンサ素子の測定結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表中の略称を以下に示す。
AQS−Na:アントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム
BNS−Na:ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム
OBS−Na:オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム
DBS−Na:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
NP:4−ニトロフェノール
NNP:4−ニトロ−1−ナフトール−4−ニトロフェノール
HNA:1−ヒドロキシ−4−ニトロアントラキノン
【0090】
実施例1〜11及び比較例1〜3を比較すると実施例1〜11は低いESRを保持したまま、耐電圧特性に優れていることが分かる。添加剤を加えた実施例9〜11ではさらに耐電圧特性が向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の導電性高分子形成用電解重合液により得られる導電性高分子は、固体電解コンデンサはもとより、有機ELディスプレイ、有機トランジスタ、ポリマー電池、太陽電池、各種センサー材料、電磁波シールド材料、帯電防止材料、エレクトロクロミック材料、人工筋肉などに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子単量体と支持電解質とが、溶媒に溶解されてなる導電性高分子形成用電解液において、
下記一般式(1)で表される化合物を含む支持電解質(D1)と、
下記一般式(2)で表される化合物を含む支持電解質(D2)及び/又は下記一般式(3)で示される化合物を含む支持電解質(D3)と、
を含有することを特徴とする導電性高分子形成用電解重合液。
【化1】

(式(1)中、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、スルホン酸基を示す。Xはカチオンを示す。)
【化2】

(式(2)中、Rは同一でも異なっていてもよいハロゲン基又は炭素数1〜9の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは0〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。)
【化3】

(式(3)中、Rは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜15の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは0〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。)
【請求項2】
支持電解質(D1)と支持電解質(D2)のモル比、あるいは支持電解質(D1)と支持電解質(D3)のモル比が9.9:0.1〜1:9であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子形成用電解重合液。
【請求項3】
前記一般式(1)により表される化合物が、アントラキノン−2−スルホン酸アルカリ金属塩、アントラキノン−2−スルホン酸アンモニウム塩及びアントラキノン−2−スルホン酸第四級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の導電性高分子形成用電解重合液。
【請求項4】
前記一般式(2)又は(3)のカチオンが、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一つのカチオンであることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子形成用電解重合液。
【請求項5】
下記一般式(4)〜(6)で示される少なくとも一つの化合物が添加剤として溶解されてなることを特徴とする請求項1〜4に記載の導電性高分子形成用電解重合液。
【化4】

(式(4)〜(6)中、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基又はフェニル基を示す。)
【請求項6】
前記導電性高分子単量体がピロール及び/又はピロール誘導体であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液。
【請求項7】
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、請求項1から6のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液中で導電性高分子層を電解重合により形成する工程を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、導電性高分子層(A)を形成する工程と、前記導電性高分子層(A)上に請求項1から6のいずれかに記載の電解重合液中で導電性高分子層(B)を電解重合により形成する工程とを有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記一般式(1)により表される化合物が、アントラキノン−2−スルホン酸アルカリ金属塩、アントラキノン−2−スルホン酸アンモニウム塩、アントラキノン−2−スルホン酸第四級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【公開番号】特開2011−236339(P2011−236339A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109278(P2010−109278)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】