説明

導電材

【課題】 耐マイグレーション性に優れ、かつ比抵抗を低下させて導電性を向上させることができる導電材を提供することを目的とする。
【解決手段】 隣接する導電粉10のAuのメッキ被膜12どうしが多数の箇所で接して、複数の導電粉10が、Auのメッキ被膜12どうしを介して強い力で凝集し、1つの導電塊20を形成する。
このようにすると、Auのメッキ被膜12どうしが効率よく接し、Auのメッキ被膜12どうしの接触率が大きくなる。その結果、導電粉10の凝集密度を高くできるともに、隣接する導電粉10間では、メッキ被膜12どうしの接触面積が大きくなり、導電粉10間の接触抵抗を低下させることができ、導電材の比抵抗を低くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐マイグレーション性を向上させた導電材に係り、特に、比抵抗を低下させて導電性を向上させることができる導電材に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、マイグレーション現象を発生し難くした印刷配線基板の導電パターンに用いる導電材が開示されている。
【0003】
図4は前記導電材を構成する導電粒を示す断面模式図、図5は導電粒どうしの接し方を示す断面模式図である。
【0004】
導電粉100は、無電解めっき液中にベースとなるNi粒子101を浸漬し、金属相互の化学的置換および還元作用を応用して、Ni粒子101の核の表面の全面にAu被覆層102を置換めっきすることにより形成される。導電粉100の表面にAu被覆層102が存在することにより、この導電粉100を含んだ導電材は、マイグレーションを起こしにくくなる。
【0005】
下記特許文献2には、耐マイグレーション性に優れた導電性粒子が開示されている。
図6は前記導電性粒子を示す断面図である。
【0006】
導電性粒子200は、Niなどのイオン化傾向の高い第2導電性物質201が、Auなどのイオン化傾向の低い球形状の第1導電性物質202内に埋設されており、埋設された第2導電性物質201の一部が第1導電性物質202の表面に露出したものとなっている。
【特許文献1】特開2003−31916号公報
【特許文献2】特開2001−43729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記特許文献1などに記載のように、Ni粒子101の表面の全面にAu被覆層102が設けられた導電粉100を用いた場合、この導電粉100がバインダー樹脂内に混入された導電材は、比抵抗が比較的高くなる。その理由は以下の通りであると予測できる。
【0008】
この導電粉100は、Ni粒子101の表面に比抵抗の低いAu被覆層102を設けることで、導電材の比抵抗を低下させることを目的としている。しかし、Ni粒子101の表面の全面にAu被覆層102が設けられていると、導電粉100の表面が平滑となるため、図5に示すように、隣接する導電粉100どうしの接触面積がきわめて小さくなる。そのため、隣接する導電粉100間でのAu被覆層102どうしの接触抵抗が大きくなり、比抵抗の小さいAuを用いた抵抗低減効果を十分に発揮できない。
【0009】
また、導電粉100は球体に近い形状であり且つAu被覆層102の表面が平滑であるため、バインダー樹脂内において導電粉100の凝集密度を高くすることに限界がある。図5に示すように、導電粉100と導電粉100との間には多くのバインダー樹脂が介在できる空間があるため、導電材で導電パターンを印刷形成したときに、この導電パターンの単位体積当たりの導電粉100の数を多くすることができず、その結果、導電パターンの比抵抗を低くすることに限界が生じる。
【0010】
次に、特許文献2に記載の発明では、第1導電性物質202の表面に露出している第2導電性物質201がNiである場合に、第2導電性物質201の表面に酸化被膜が形成されやすくなる。そのため、導電性粒子200相互間の抵抗が高くなり、導電パターンの比抵抗を低下することに限界がある。
【0011】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、耐マイグレーション性に優れ、かつ比抵抗を低下させて導電性を向上させることができる導電材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、バインダー樹脂内に複数の導電粉が混入されている導電材において、
前記導電粉を構成する導電性粒子の表面には、Agよりもイオン化傾向が小さい金属のメッキ被膜が形成されており、
前記メッキ被膜は、前記導電性粒子の表面の複数箇所に部分的に付着していることを特徴とするものである。
【0013】
本発明は、導電性粒子の表面に、Agよりもイオン化傾向が小さい金属のメッキ被膜を形成しているため、バインダー樹脂にAgを混入した導電材に比べて、耐マイグレーション性を高めることができる。また、メッキ被膜を低抵抗材料で形成することにより、導電材の比抵抗を低くできる。すなわち、隣接する導電性粒子間においては、部分的なメッキ被膜どうしが接触する確率が高く、この場合に、図5に示すような平滑なメッキ被膜どうしが接触するものよりも、メッキ被膜どうしの接触面積を大きくでき、接触抵抗を低減させることができる。
【0014】
また、本発明は、前記導電粉は、前記導電性粒子の表面に、前記メッキ被膜が付着して隆起している部分と、前記メッキ被膜と前記メッキ被膜との間において前記導電性粒子を構成する材料が露出している部分とを有しているものとなる。
【0015】
このように構成すると、導電性粒子の表面から隆起しているメッキ被膜どうしが比較的大きな面積で接触できるようになり、前記のように導電性粒子間の接触抵抗を低減できる。
【0016】
すなわち、本発明は、複数の導電性粒子のうちの少なくとも一部の導電性粒子では、隣接する導電性粒子のメッキ被膜どうしが接触しているものとして構成される。
【0017】
さらに、本発明は、複数の前記導電性粒子が凝集して導電塊が形成されているものが好ましい。
【0018】
導電性粒子は、表面に複数のメッキ被覆が隆起して形成されているため、隣接する導電性粒子の距離を狭めた状態で凝集しやすくなる。そのため、導電材の単位体積当たりの導電性粒子の数を多くできるようになり、導電材の比抵抗を低減しやすくなる。
【0019】
本発明では、前記金属はAuであることが好ましい。
メッキ被膜を構成する金属としてAuを用いると、イオンマイグレーション現象の発生が適切に抑制されるとともに、導電粉が外気にさらされてもメッキ被膜が酸化される等の問題が生じにくい。また、Auは、比較的、自身の比抵抗が小さいため、導電性を向上させることができる。
また本発明では、前記導電性粒子はNi粒子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の導電材は耐マイグレーション性に優れ、かつ比抵抗を低下させて導電性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1Aは本発明の導電材に含有される導電粉を示す斜視図、図1Bは図1Aの導電粉の断面模式図、図2は導電材内での導電粉の凝集および分散状態を示す模式図、図3は導電粉どうしの接触状態を模式的に示した断面図である。なお、図1Aおよび図2において、メッキ被膜をハッチングで示している。
【0022】
本発明の導電材は、たとえば回路基板を構成する絶縁基板の表面にスクリーン印刷などで形成される導電パターン用の材料として用いられる。
【0023】
導電材には、図1Aおよび図1Bに示す導電粉10が、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂からなるバインダー樹脂内に多数含有されている。例えば、導電粉10は、導電材中に10〜50体積%の割合で混入されており、例えば約35体積%である。
【0024】
前記バインダー樹脂と多数の導電粉10と、さらに有機溶剤が加えられて形成されるペースト状またはインキ状のものがスクリーン印刷などによって絶縁基板上にパターン印刷される。そして、パターン印刷後に、前記ペースト状またはインキ状のものを焼成して有機溶剤を除去する。これにより、硬化したバインダー樹脂内に多数の導電粉10が混入された導電材が形成される。ここで、本明細書における「導電材」とは、前記のようなプロセスで硬化されたバインダー樹脂とこの硬化したバインダー樹脂内に混入された導電粉10で形成されたものを意味する。この導電材により、絶縁基板の表面に回路パターンなどが形成される。
【0025】
導電粉10は、好ましくは図1に示すような球体形状か、あるいは図2に示すように非球体形状の導電性粒子11を有しており、この導電性粒子11の表面11aの複数箇所に、イオンマイグレーション現象を起こしにくい金属のメッキ被膜12が部分的に被覆されている。このメッキ被膜12は、表面11aに島状に点在するものであり、例えば導電性粒子11をどの方向から見た場合でも、少なくとも2個以上のメッキ被膜12の島が見えるものであり、好ましくは3個以上の島が見えるものである。
【0026】
また、それぞれのメッキ被膜12は、導電性粒子11の表面11aから隆起しており、導電粉10は、メッキ被膜12が隆起している部分と、メッキ被膜12とメッキ被膜12との間で窪み、導電性粒子11を構成する材料が露出した部分とを有している。
【0027】
導電性粒子11はNi粒子が好ましい。なお、導電性粒子11はNi粒子には限定されず、Sn,Co,Cr,Zn,Mnの粒子であってもよい。
【0028】
メッキ被膜12を構成する金属としては、Agよりもイオンマイグレーション現象を起こしにくい、すなわち、Agよりもイオン化傾向が小さい金属であるAu,Pt,Pdなどが好ましい。これらの金属は、比抵抗が低く、しかも導電パターンを形成したときに、導電パターン間のマイグレーションを防止しやすくなる。
【0029】
次に、導電性粒子11の表面11aにメッキ被膜12を被覆する方法を説明する。以下では、導電性粒子11にNi粒子を用い、メッキ被膜12を構成する金属としてAuを用いた場合を例にとって説明する。
【0030】
本実施の形態では、いわゆる無電解めっき法により、Ni粒子11にAuのメッキ被膜12が被覆される。
【0031】
まず、希塩酸や希硫酸などの弱酸性の溶液で、Ni粒子11の表面11aにある酸化物や有機被膜などを除去する。そして、表面11aの酸化物などを除去されたNi粒子11を、Auが含有された、シアン系のメッキ液内に入れ、このNi粒子11が入ったメッキ液を、メッキ液の温度とメッキ液中のAuの濃度、および攪拌時間を制御しながら攪拌する。無電解めっき法では、メッキ液内でNiとAuとの間に置換反応が起こり、NiがAuに置換されて、時間の経過とともに、Ni粒子11の表面11aに部分的に、Auのメッキ被膜12が、図1Aおよび図1Bに示すように、島状に分離された状態で被覆される。これは、Ni粒子11が微粒子化されており、しかもNi粒子11の表面11aが事前に前記弱酸性の溶液によって処理されているため、Ni粒子11の表面11aは一律な1つの球面ではなく、表面11aには複数の凹凸が形成されるためである。その後、Auのメッキ被膜12が被覆されたNi粒子11を洗浄し、乾燥する。このようにして導電粉10が形成される。
【0032】
なお、Ni粒子11の表面11aへのAuのメッキ被膜12の形成は、上記のような無電解めっき法によって形成されることには限定されず、電解めっき法によって形成してもよい。
【0033】
上記の、導電粉10の形成過程のうち、メッキ液の攪拌時間などのメッキ液の攪拌条件が所定の条件であると、隣接する導電粉10のAuのメッキ被膜12どうしが多数の箇所で接して、複数の導電粉10が、図2に示すように、Auのメッキ被膜12どうしを介して強い力で凝集し、1つの導電塊20を形成する。このとき、Auのメッキ被膜12どうしが効率よく接し、Auのメッキ被膜12どうしの接触率が大きくなる。その結果、導電粉10の凝集密度を高くできるともに、隣接する導電粉10間では、メッキ被膜12どうしの接触面積が大きくなり、導電粉10間の接触抵抗を低下させることが可能である。
【0034】
図4に示す従来の導電粉は、Ni粒子がカーボニル法でつくられ、Ni粒子101の表面全面にAu被覆層102が形成されたものであるが、本実施の形態の導電粉10は、NiとAuの質量比が、図4に示す導電粉と同じである。しかし、本実施の形態では、導電性粒子11であるNi粒子の表面11aに、Auのメッキ被膜12が島状に点在しているため、隣接する導電性粒子11間において、メッキ被膜12どうしの接触面積を大きくでき、その結果、導電材の比抵抗を低くできる。
【0035】
Auのメッキ率Mは、Ni粒子11の質量をX、Auのメッキ被膜12の質量をYとすると、M=Y/(X+Y)で定義されるが、導電材での導電粉10の体積率を35体積%とし、Auのメッキ率Mが14.97%の導電粉10を使用したときに、導電材で形成された導電パターンの比抵抗を2.7×10−3(Ω・cm)に設定できる。一方、図4に示す従来の導電粉を使用して、導電粉の体積率が35体積%の導電材を形成すると、Auのメッキ率Mが15.19%の場合であっても、この導電材で形成された導電パターンの比抵抗は9.4×10−3(Ω・cm)となり、前記実施の形態よりも比抵抗が高くなる。
【0036】
本発明では、メッキ率Mは、10〜20%の範囲であることが好ましい。
導電材には、図2に示される導電塊20が複数個含まれ、好ましくは導電材は複数の導電塊20で形成される。あるいは導電材には、導電塊20と個々に分離された導電粉10とがバインダー樹脂に混入されている。
【0037】
他方、本発明では、所定のメッキ液の攪拌条件により、導電粉10が個々に独立して形成され、このように個々に分離した導電粉10が、バインダー樹脂内に混入されているものとしても構成できる。
【0038】
図3に示すように、バインダー樹脂内に個々に分離した導電粉10が分散しているものであっても、隣接する導電粉10間では、島状に隆起したメッキ被膜12どうしが接触する確率が高く、しかもメッキ被膜12どうしの接触面積が比較的大きくなる。よって導電粉10どうしの接触抵抗を低減できる。また、図2のように凝集しなくても、隣接する導電粉10間に介在するバインダー樹脂の量を少なくできるため、導電材の単位体積あたりの導電材内の導電粉10の数を増やすことができ、その結果、導電材の比抵抗を低減できるようになる。
【0039】
Ni粒子11の粒径は、0.3〜1.3μm程度であり、例えば約0.8μmである。Ni粒子11の粒径がこのように微小であるため、Ni粒子11の表面11aに部分的に被覆されたAuのメッキ被膜12は、1〜10μm程度の厚さで薄く形成される。しかもメッキ被膜12は、Ni粒子11の表面11aから隆起しているので、図3に示すように、隣接するNi粒子11間でメッキ被膜12が多点で接触しやすくなり、粒子間の接触抵抗を低減しやすくなる。また、Auは、上記において挙げた他の金属よりも比較的、自身の比抵抗が小さいため、導電材の比抵抗を低下させることができ、導電性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1Aは本発明の導電材に含有される導電粉を示す斜視図、図1Bは図1Aの導電粉の断面模式図、
【図2】導電材内での導電粉の凝集および分散状態を示す模式図、
【図3】導電粉どうしの接触状態を模式的に示した断面図、
【図4】従来の導電材を構成する導電粒を示す断面模式図、
【図5】図4に示す導電粒どうしの接し方を示す断面模式図、
【図6】従来の導電性粒子を示す断面図
【符号の説明】
【0041】
10 導電粉
11 導電性粒子
12 メッキ被膜
20 導電塊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂内に複数の導電粉が混入されている導電材において、
前記導電粉を構成する導電性粒子の表面には、Agよりもイオン化傾向が小さい金属のメッキ被膜が形成されており、前記メッキ被膜は、前記導電性粒子の表面の複数箇所に部分的に付着していることを特徴とする導電材。
【請求項2】
前記導電粉は、前記導電性粒子の表面に、前記メッキ被膜が付着して隆起している部分と、前記メッキ被膜と前記メッキ被膜との間において前記導電性粒子を構成する材料が露出している部分とを有している請求項1記載の導電材。
【請求項3】
複数の前記導電性粒子が凝集して導電塊が形成されている請求項1または2記載の導電材。
【請求項4】
複数の前記導電性粒子のうちの少なくとも一部の前記導電性粒子では、隣接する導電性粒子の前記メッキ被膜どうしが接触している請求項1ないし3のいずれかに記載の導電材。
【請求項5】
前記メッキ被膜を形成する金属はAuである請求項1ないし4のいずれかに記載の導電材。
【請求項6】
前記導電性粒子はNi粒子である請求項1ないし5のいずれかに記載の導電材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−216343(P2006−216343A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27235(P2005−27235)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】