説明

導電部材の製造方法

【課題】導電部材としての使用時に良好な特性を有する多層にめっきが施された銅合金条材を連続的に効率良く得る。
【解決手段】銅条材を連続的に走行させながら複数のめっき浴に挿通して、Ni又はNi合金、Cu又はCu合金、Sn又はSn合金を順にめっきしてリフロー処理することにより、Ni系下地層、Cu−Sn金属間化合物層、Sn系表面層を順に形成する方法であって、各めっき層を、無機酸を主成分とするめっき浴中にて不溶性アノードを使用した電解めっきにて形成するとともに、Ni又はNi合金によるめっきは浴温45〜55℃、電流密度20〜50A/dm、Cu又はCu合金によるめっきは浴温35〜55℃、電流密度20〜60A/dm、Sn又はSn合金によるめっきは浴温15〜35℃、電流密度10〜30A/dmとし、それぞれレイノルズ数1×10〜5×10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅又は銅合金からなる銅条材にめっき処理を施した導電部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ICやLSIなどの半導体装置や各種電子・電気部品に用いられるリードフレーム、端子、コネクタとして、銅又は銅合金からなる銅条材(以下、銅条材という)の表面に、Ni、Sn、Cu等からなるめっき層が形成されためっき付き銅条材が広く使用されている。
銅条材の様な幅広の薄板表面に無機酸及び不溶性アノードを用いて、限られたライン長さにて連続的に効率良く多層にめっきする方策としては、各めっき浴内での銅条材とめっき液との相対流速を上げ電流密度を高くし、所望する性状のめっきを得るに要する時間を短くすることが重要である。
また、めっき後のリフロー処理も大きな要因であり、導電部材として使用時の性能に大きな影響を及ぼす。特に、コネクタとして使用する場合は、リフロー処理後に形成される表面層およびその下層となる中間合金層の特性がコネクタの挿抜性に大きく寄与することがわかっている。
【0003】
特許文献1には、電気めっきブリキ及び薄錫めっき鋼板の製造に用いる高電流密度用錫めっき硫酸浴内にて、不溶性アノードを用いて、電流密度50A/dm上、温度30〜70℃での錫めっきの方法が開示されている。
特許文献2には、銅または銅合金の表面上に、NiまたはNi合金層が形成され、最表面上にSnまたはSn合金層が形成され、前記NiまたはNi合金層と前記SnまたはSn合金層の間にCuとSnを主成分とする中間層またはCuとNiとSnを主成分とする中間層が一層以上形成され、これら中間層のうち少なくとも1つの中間層が、Cu含有量が50重量%以下であり且つNi含有量が50重量%以下である層を含み、銅または銅合金の表面上に形成された各々の層に対して垂直方向に投影した、前記Cu含有量が50重量%以下であり且つNi含有量が50重量%以下である層の平均結晶粒径が0.5〜3.0μmであることを特徴とするめっきを施した銅または銅合金が開示されている。また、製造方法としては、銅または銅合金の表面上に、NiまたはNi合金、Cuめっき、最表面層にSnまたはSn合金めっきを施した後、少なくとも1回以上のリフロー処理を行い、加熱温度が400〜900℃で、SnまたはSn合金層が溶融してから凝固するまでの時間が0.05〜60秒であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−346272号公報
【特許文献2】特開2003−293187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明はブリキ等の錫めっき鋼板の製造方法であり、不溶性アノードを使用した硫酸浴にて、温度30〜70℃、電流密度50A/dm以上、鋼ストリップと電解液との相対速度を160m/min以上にて鋼ストリップに錫めっきを行っている。
この様な錫めっきの条件を、導電部材として厳しいめっき性状、特に、コネクタとしての使用時の挿抜性、耐熱性等が要求される銅条材薄板の多層めっきに適用するには次の理由から無理がある。
(1)主にめっき浴内の相対速度の大きさに起因して、めっきの最中に陰極表面から大量の水素ガスが発生し、めっきの電着性が妨げられて、電流効率が大きく低下し、外観不良(めっき焼け)が発生する。
(2)多層めっきとして、錫のみでなく下地となるNi、Cu、Fe等の他金属めっきとの相関が考慮されていない。
【0006】
特許文献2記載の発明は、銅または銅合金の表面上に、NiまたはNi合金、Cuめっき、最表面層にSnまたはSn合金めっきを施した後、少なくとも1回以上のリフロー処理を、加熱温度が400〜900℃で、SnまたはSn合金層が溶融してから凝固するまでの時間が0.05〜60秒にて行うことにより、Cu含有量が50重量%以下であり且つNi含有量が50重量%以下であり、平均結晶粒径が0.5〜3.0μmである1つの中間層を形成している。
この平均結晶粒径は、導電部材をコネクタとして使用する場合の挿抜性に大きく関与するものであるが、平均粒径の制御だけでは適切な挿抜性を得ることはできない。。
【0007】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであり、導電部材としての使用時に良好な特性を有する多層にめっきが施された銅条材を連続的に効率良く得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、銅条材を連続的に走行させながら複数のめっき浴に挿通して、その表面に、Ni又はNi合金、Cu又はCu合金、Sn又はSn合金のめっき層をこの順に形成して、その後、加熱してリフロー処理することにより、前記銅条材の上に、Ni系下地層、Cu−Sn金属間化合物層、Sn系表面層を順に形成する導電部材の製造する方法において、各めっき浴内の電流密度、浴温度、レイノルズ数を適切に選択すること、特に、レイノルズ数を最適に選択することにより、効率良く所望の性状のめっき膜が得られることを見出した。めっき浴としては、特殊な排水処理設備が不要な無機酸を主成分とするめっき浴を使用することが最適である。
【0009】
即ち、良好なめっき膜を得るためには、めっき時に発生する水素ガスを連続的かつ効率的に排除することが必要であり、めっき液の流れ場を最適な乱流値にすると強力な攪拌効果が得られ、水素ガスを連続的かつ効率的に排除出来ることを見出した。乱流値を表す指数としてはレイノルズ数が適切であり、実験結果より、最適値以上ではめっきの理論電流効率値は横ばいとなり、最適値以下では外観不良(めっき焼け)が発生することが判明した(図3参照)。
レイノルズ数は、めっき液粘度、めっき流路径、めっき液と被めっき物との間の相対流速の3要素で決定される無次元数であり、状況に応じ3要素を適宜変更することにより最適値を得ることが出来る。
また、レイノルズ数は相対速度と異なり、被めっき物とめっき液との界面(境界層)とも相関性があると考えられる。
【0010】
また、錫めっき時に多量に発生する泡及びスラッジを除去する手段を併設することにより、めっき効率が更に高まることが判った。
更に、リフロー条件を検討することにより、中間層の表面粗さがコントロール出来ることを見出した。中間層は基本的に層状であり平均結晶粒径より、中間層自体の凸凹、即ち、表面粗さを最適な数値範囲とすることが重要である。
【0011】
このような観点から、本発明の製造方法は、銅条材を連続的に走行させながら複数のめっき浴に挿通して、その表面に、Ni又はNi合金、Cu又はCu合金、Sn又はSn合金のめっき層をこの順に形成し、その後、加熱してリフロー処理することにより、前記銅条材の上に、Ni系下地層、Cu−Sn金属間化合物層、Sn系表面層を順に形成した導電部材を製造する方法であって、前記Ni又はNi合金によるめっき層を、無機酸を主成分とするめっき浴中にて不溶性アノードを使用し、浴温45〜55℃、レイノルズ数1×10〜5×10、電流密度20〜50A/dmなる電解めっきにて形成し、前記Cu又はCu合金によるめっき層を、無機酸を主成分とするめっき浴中にて不溶性アノードを使用し、浴温35〜55℃、レイノルズ数1×10〜5×10、電流密度20〜60A/dmなる電解めっきにて形成し、前記Sn又はSn合金によるめっき層を、無機酸を主成分とするめっき浴中にて不溶性アノードを使用し、浴温15〜35℃、レイノルズ数1×10〜5×10、電流密度10〜30A/dmなる電解めっきにて形成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の製造方法は、前記用Sn又はSn合金によるめっき層の形成時に泡及びスラッジを除去する手段を併設して、めっき液の泡及びスラッジを除去するとよく、めっき効率が更に高まることが判った。
【0013】
また、本発明の製造方法は、リフロー処理は、前記めっき層を形成してから1〜30分経過した後に行うとよい。
【0014】
更に、本発明の製造方法は、リフロー処理は、めっき層を10〜90℃/秒の昇温速度で240〜300℃のピーク温度まで加熱する加熱工程と、前記ピーク温度に達した後、30℃/秒以下の冷却速度で1〜30秒間冷却する一次冷却工程と、一次冷却後に50〜250℃/秒の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有するとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、導電部材としての使用時に良好な特性を有する多層にめっきされた銅条材を連続的に効率良く得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態の製造方法に使用される製造装置の例を示す概略構成図である。
【図2】図1におけるめっき槽中の電極と銅条材との位置関係を示す断面図である。
【図3】めっき処理中のレイノルズ数と電流効率との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態の製造方法に係るリフロー条件の温度と時間の関係をグラフにした温度プロファイルである。
【図5】本発明の一実施形態の製造方法により製造された導電部材の表層部分をモデル化して示した断面図である。
【図6】導電部材の動摩擦係数を測定するための装置を概念的に示す正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の製造方法を実施するための製造装置の例を模式化して示している。この導電部材製造装置11は、脱脂・洗浄槽12、Niめっき槽13、Cuめっき槽14、Snめっき槽15、各めっき槽13〜15の後に配置される洗浄槽16〜18が連続して配置され、銅条材1を脱脂・洗浄槽12、Niめっき槽13、Cuめっき槽14、Snめっき槽15の順に連続的に搬送しながらめっきするようになっている。脱脂・洗浄槽12は、さらに脱脂槽12a、洗浄槽12b、酸洗槽12c、洗浄槽12dによって構成されている。
また、各めっき槽13〜15には、図2に示すように、連続的に走行する銅条材1の両面と対向するように一対の電極板19が配置されており、各電極板19と銅条材1との間に形成されるめっき液の流れ場におけるレイノルズ数が1×10〜5×10となるように、銅条材1とめっき液とを相対移動する。めっき液は循環タンク(図1にはSnめっき槽15の循環タンクのみ示している)20との間で循環させられるようになっている。
【0018】
また、Snめっき液で使用される光沢剤は泡が発生し易く、このため、Snめっき槽15には泡除去手段21が併設されている。また、スラッジ除去手段22も併設されており、このスラッジ除去手段22は、循環タンク20にスラッジ沈降槽を接続し、循環タンク20から定量ずつスラッジ沈降槽にめっき液を抜き取り、沈降剤を添加しつつスラッジを沈降させ、その上済み液を再び循環タンク20に戻すようにしている。沈降したスラッジは、遠心分離機にかけられ、精錬会社に送られてSnとして再利用される。
また、Snめっき槽15の下流位置には、洗浄槽18を経由した銅条材1を乾燥する乾燥機23が設けられる。また、その乾燥機23の下流位置には、リフロー炉24が設けられ、このリフロー炉24に、後述する一次冷却のための空冷ゾーン25、二次冷却のための水冷ゾーン26が備えられる。符号27は、水冷ゾーン26を経由した銅条材1を乾燥する乾燥機である。
【0019】
次に、このような製造装置11によって導電部材を製造する方法について説明する。
まず、銅条材1を脱脂、酸洗等によって表面を清浄にした後、Niめっき、Cuめっき、Snめっきをこの順序で順次行う。また、各めっき処理の間には、酸洗又は水洗処理を行う。
Niめっきの条件としては、めっき浴に、硫酸ニッケル(NiSO)、ホウ酸(HBO)を主成分としたワット浴、スルファミン酸ニッケル(Ni(NHSO))とホウ酸(HBO)を主成分としたスルファミン酸浴等が用いられる。酸化反応を起こし易くする塩類として塩化ニッケル(NiCl)などが加えられる場合もある。また、めっき温度は45〜55℃、電流密度は20〜50A/dm、レイノルズ数1×10〜5×10とされる。
Cuめっきの条件としては、めっき浴に硫酸銅(CuSO)及び硫酸(HSO)を主成分とした硫酸銅浴が用いられ、レベリングのために塩素イオン(Cl)が添加される。めっき温度は35〜55℃、電流密度は20〜60A/dm、レイノルズ数1×10〜5×10とされる。
Snめっきの条件としては、めっき浴に硫酸(HSO)と硫酸第一錫(SnSO)を主成分とした硫酸浴が用いられ、めっき温度は15〜35℃、電流密度は10〜30A/dm、レイノルズ数1×10〜5×10とされる。また、硫酸浴には、スラッジ除去装置及び泡除去装置が備えられる。
【0020】
このレイノルズ数Reは、めっき液と銅条材との相対速度U(m/s)とめっき槽内のめっき液の流れ場の相当直径De(m)と、めっき液の動粘性係数ν(m/s)との関係から、Re=UDe/νによって求められる。めっき液の流れ場の相当直径Deは、図2に示す電極板19の幅a、電極板19と銅条材1との間の間隔bとの関係から、De=2ab/(a+b)により求められる。
このレイノルズ数Reは、図3に示すように、大きい値に設定することにより電流効率は向上する。しかし、レイノルズ数が5×10を超えると、理論電流効率値に限りなく近くなるが、Snめっきの場合は、めっき液中のスラッジが増大するため、好ましくない。一方、1×10未満では攪拌効果が弱く、めっき焼けが発生し易くなる。
このため、いずれのめっき処理も、めっき液の流れ場をレイノルズ数1×10〜5×10にて乱流として、発生した水素ガスを連続的かつ効率的に排除し、処理板の表面に新鮮な金属イオンを速やかに供給し、高電流密度によって均質なめっき層を短時間で形成することができる。
これらの各めっき条件をまとめると、以下の表1〜表3に示す通りとなる
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
そして、このめっき処理により、銅条材の上にNiめっき層、Cuめっき層、Snめっき層が順に形成される。この状態で、Cuめっき層の平均厚さは0.3〜0.5μmとされ、Niめっき層の平均厚さは0.1〜2.0μm、Snめっき層の平均厚さは1.5〜2.0μmとされる。
これらCuめっき層とSnめっき層とが、後述のリフロー処理によってCu−Sn金属間化合物層とSn系表面層となり、その場合、Sn系表面層は前述したようにコネクタ端子としての耐熱性、挿抜性の観点から0.5〜1.5μmの厚さに形成され、このSn系表面層の厚さを確保するためには、下地となるSnめっき層としては、1.5〜2.0μm必要になる。そして、このSnめっき層の下で、凹凸の小さいCu−Sn金属間化合物層を得るには、Cuめっき層としては、0.3〜0.5μmと通常のものより若干大きい厚さとするのが好ましい。
これは、Snめっき層は、厚さ方向に成長した柱状結晶からなっており、次のリフロー処理においてCuとSnとが反応して合金層を形成する際に、CuがSn柱状結晶の粒界に侵入するようにして、その粒界から合金を形成していくと考えられるが、Cuめっき層が厚くCuの量が多いと、Snめっき層の厚さ方向に沿う柱状結晶の粒界に沿って形成されたCu−Sn合金が粒界から面方向に広がりながら成長するため、その凸部がなだらかになり、凹凸の少ないCu−Sn金属間化合物層となるものと考えられる。
この場合、Snめっき層形成時の電流密度が高いと、柱状結晶の粒界が増えるため、これら粒界に分散して合金が成長して、Cu−Sn金属間化合物層の凹凸を小さくする効果がある。
【0025】
次に、加熱してリフロー処理を行う。そのリフロー処理としては、図4に示す温度プロファイルとする条件が望ましい。
すなわち、リフロー処理はCO還元性雰囲気にした加熱炉内でめっき後の処理材を10〜90℃/秒の昇温速度で240〜300℃のピーク温度まで加熱する加熱工程と、そのピーク温度に達した後、30℃/秒以下の冷却速度で1〜30秒間冷却する一次冷却工程と、一次冷却後に50〜250℃/秒の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有する処理とする。一次冷却工程は空冷により、二次冷却工程は10〜90℃の水を用いた水冷により行われる。
このリフロー処理を還元性雰囲気で行うことによりSnめっき表面に溶融温度の高い錫酸化物皮膜が生成するのを防ぎ、より低い温度かつより短い時間でリフロー処理を行うことが可能となり、所望の金属間化合物構造を作製することが容易となる。また、冷却工程を二段階とし、冷却速度の小さい一次冷却工程を設けることにより、Cu原子がSn粒内に穏やかに拡散し、所望の金属間化合物構造で成長する。つまり、前述したSn柱状結晶の粒界からのCuの拡散を緩やかにして、その凸部をなだらかにする。そして、その後に急冷を行うことにより金属間化合物層の成長を止め、所望の構造で固定化することができ、適切な状態の表面粗さ(Ra、Rv)のCu−Sn金属間化合物層を得ることができる。
ところで、高電流密度で電析したCuとSnは安定性が低く室温においても合金化や結晶粒肥大化が発生し、リフロー処理で所望の金属間化合物構造を作ることが困難になる。このため、めっき処理後速やかにリフロー処理を行うことが望ましい。具体的には30分以内、望ましくは15分以内、より好ましくは5分以内にリフロー処理を行うとよい。めっき後の放置時間が短いことは問題とならないが、通常の処理ラインでは構成上1分後程度となる。
【0026】
以上のような方法により、従前の多段式連続めっき装置より効率的に短時間にて、銅条材の上に形成したNi系下地層と、表面を形成するSn系表面層との間に、Cu−Sn金属間化合物層を有する3層めっきの導電部材が完成される。
この導電部材10は、図5に示すように、銅条材1の表面に、Ni系下地層3、Cu−Sn金属間化合物層4、Sn系表面層5がこの順に形成されるとともに、Cu−Sn金属間化合物層4はさらに、CuSn層6とCuSn層7とから構成されている。
Ni系下地層3は、例えば0.05μm以上の厚さに形成されるものであり、高温時にCuの拡散を防止するバリア層として機能する。
【0027】
Cu−Sn金属間化合物層4は、全体としては、0.05〜1.8μmの厚さ、好ましくは0.1μm以上の厚さに形成され、さらに、Ni系下地層3の上に配置されるCuSn層6と、該CuSn層6の上に配置されるCuSn層7とから構成されている。この場合、Cu−Sn金属間化合物層4全体としては凹凸が形成されており、Sn系表面層5に接する面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.05〜0.25μmであり、かつ、粗さ曲線の最大谷深さRvで0.05〜1.00μmとされている。
【0028】
コネクタ端子部3として用いる場合には、Raが小さい方が挿抜力が低減して好ましいが、Raが0.05μm未満であると、Cu−Sn金属間化合物層4の凹凸がほとんどなくなってCu−Sn金属間化合物層4が著しく脆くなり、曲げ加工時に皮膜の剥離が発生し易くなる。Raが0.25μmを超えるほどに凹凸が大きくなると、コネクタとして用いたときの挿抜時にCu−Sn金属間化合物層4の凹凸が抵抗となるため、挿抜力を低減する効果が乏しい。
一方、粗さ曲線の最大谷深さRvに関しては、Rvが1.00μmを超えると、高温時にその谷部からSnがNi系下地層へと拡散し、Ni系下地層に欠損が発生するおそれがあり、その欠損により、基材のCuが拡散してCuSn層が表面まで達し、表面にCu酸化物が形成されることにより、接触抵抗が増大することになる。また、このとき、Ni系下地層の欠損部からのCuの拡散により、カーケンダルボイドが発生し易い。このRvを0.05μm未満とするのは、Raの場合と同様、Cu−Sn金属間化合物層が脆くなるため好ましくない。
また、このようにCu−Sn金属間化合物層の凹凸が小さく、Ni系下地層の欠損によるCuの拡散が生じにくい状態であると、Cu−Sn金属間化合物層の電気的特性が変化することがなく、ヒューズとして用いた場合にも安定した溶断特性を発揮することができる。
【0029】
また、このCu−Sn金属間化合物層4のうちの下層に配置されるCuSn層6は、Ni系下地層3を覆って、その拡散を抑える機能があり、Ni系下地層3に対する面積被覆率が60〜100%とされ、その平均厚さは0.01〜0.5μmとされる。
この面積被覆率は、皮膜を集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)により断面加工し、走査イオン顕微鏡(SIM;Scanning Ion Microscope)で観察した表面の走査イオン像(SIM像)から確認することができる。
このNi系下地層3に対する面積被覆率が60%以上ということは、面積被覆率が100%満たない場合に、Ni系下地層3の表面には局部的にCuSn層6が存在しない部分が生じることになるが、その場合でも、Cu−Sn金属間化合物層4のCuSn層7がNi系下地層3を覆っていることになる。また、平均厚さは、CuSn層6が存在する部分で、その厚さを複数個所測定したときの平均値である。
【0030】
なお、このCu−Sn金属間化合物層4は、Ni系下地層3の上にめっきしたCuと表面のSnとが拡散することにより合金化したものであるから、リフロー処理等の条件によっては下地となったCuめっき層の全部が拡散してCu−Sn金属間化合物層4となる場合もあるが、そのCuめっき層が残る場合もある。
また、Ni系下地層3のNiがCu−Sn金属間化合物層4にわずかながら拡散するため、CuSn層7内にはわずかにNiが混入している。
【0031】
最表面のSn系表面層5は、表面の接触抵抗、はんだ付け性、耐食性、コネクタとしての使用時の挿抜力の適切化のため、例えば0.5〜1.5μmの厚さに形成される。
【実施例】
【0032】
次に本発明の実施例を説明する。
銅条材として、厚さ0.25mmの三菱伸銅株式会社製TC材を用い、これにNi、Cu、Snの各めっき処理を順次行った。この場合、表4に示すように、各めっき処理の電流密度、レイノルズ数、リフロー条件を変えて複数の試料を作成した。
【0033】
【表4】

【0034】
本実施例の処理材断面は、透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光分析(TEM−EDS分析)の結果、銅条材の上に、Ni系下地層、CuSn層、CuSn層、Sn系表面層の4層構造となっていた。またCuSn層とNi系下地層の界面には不連続なCuSn層があり、集束イオンビームによる断面の走査イオン顕微鏡(FIB−SIM像)から観察されるCuSn層のNi系下地層に対する表面被覆率は60%以上であった。
【0035】
また、Sn系表面層を除去して、その下のCu−Sn金属間化合物層の表面粗さを測定した。
このSn系表面層を除去する場合、例えばレイボルド株式会社製のL80等の純SnをエッチングしCu−Sn合金を腐食しない成分からなるめっき被膜剥離用のエッチング液に5分間浸漬することによりSn系表面層が除去され、その下層のCu−Sn金属間化合物層が露出される。
表面粗さは、露出させたCu−Sn金属間化合物層の表面に、オリンパス株式会社製の走査型共焦点赤外レーザ顕微鏡LEXT OLS−3000−IRを用い、対物レンズ100倍の条件でレーザ光を照射して、その反射光から距離を測定し、そのレーザ光をCu−Sn金属間化合物層の表面に沿って直線的にスキャンしながら距離を連続的に測定することにより求めた。
以上の測定結果を表5にまとめた。
【0036】
【表5】

【0037】
次に、表4及び表5に示される試料について、175℃×1000時間経過後の接触抵抗、剥離の有無、耐摩耗性を測定した。また、動摩擦係数及び175℃×1000時間経過後の抵抗値変化率についても測定した。
接触抵抗は、試料を175℃×1000時間放置した後、山崎精機株式会社製電気接点シミュレーターを用い荷重0.49N(50gf)摺動有りの条件で測定した。
剥離試験は、9.8kNの荷重にて90°曲げ(曲率半径R:0.7mm)を行った後、大気中で160℃×250時間保持し、曲げ戻して、曲げ部の剥離状況の確認を行った。
耐摩耗性は、JIS H 8503に規定される往復運動摩耗試験によって、試験荷重が9.8N、研磨紙No.400とし、素地(銅条材)が露出するまでの回数を測定し、50回試験を行ってもめっきが残存していた試料を○、50回以内に素地が露出した試料を×とした。
動摩擦係数については、嵌合型のコネクタのオス端子とメス端子の接点部を模擬するように、各試料によって板状のオス試験片と内径1.5mmの半球状としたメス試験片とを作成し、アイコーエンジニアリング株式会社製の横型荷重測定器(Model−2152NRE)を用い、両試験片間の摩擦力を測定して動摩擦係数を求めた。図6により説明すると、水平な台31上にオス試験片32を固定し、その上にメス試験片33の半球凸面を置いてめっき面どうしを接触させ、メス試験片33に錘34によって4.9N(500gf)の荷重Pをかけてオス試験片32を押さえた状態とする。この荷重Pをかけた状態で、オス試験片32を摺動速度80mm/分で矢印で示す水平方向に10mm引っ張ったときの摩擦力Fをロードセル35によって測定した。その摩擦力Fの平均値Favと荷重Pより動摩擦係数(=Fav/P)を求めた。
これらの結果を表6に示す。
【0038】
【表6】

【0039】
この表6から明らかなように、本実施例の導電部材においては、高温時の接触抵抗が小さく、剥離やカーケンダルボイドの発生がなく、動摩擦係数も小さいことから、コネクタ使用時の挿抜力も小さく良好であると判断できる。なお、比較例7は表面にめっき焼けが生じていた。また、比較例10ではSnめっきにおいてスラッジの発生が目立った。
【符号の説明】
【0040】
1 銅条材
3 Ni系下地層
4 Cu−Sn金属間化合物層
5 Sn系表面層
6 CuSn層
7 CuSn
10 導電部材
11 導電部材製造装置
12 脱脂・洗浄槽
13 Niめっき槽
14 Cuめっき槽
15 Snめっき槽
16〜18 洗浄槽
19 電極板
20 循環タンク
21 泡除去手段
22 スラッジ除去手段
24 リフロー炉
25 空冷ゾーン
26 水冷ゾーン



【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅条材を連続的に走行させながら複数のめっき浴に挿通して、その表面に、Ni又はNi合金、Cu又はCu合金、Sn又はSn合金のめっき層をこの順に形成し、その後、加熱してリフロー処理することにより、前記銅条材の上に、Ni系下地層、Cu−Sn金属間化合物層、Sn系表面層を順に形成した導電部材を製造する方法であって、
前記Ni又はNi合金によるめっき層を、無機酸を主成分とするめっき浴中にて不溶性アノードを使用し、浴温45〜55℃、レイノルズ数1×10〜5×10、電流密度20〜50A/dmなる電解めっきにて形成し、
前記Cu又はCu合金によるめっき層を、無機酸を主成分とするめっき浴中にて不溶性アノードを使用し、浴温35〜55℃、レイノルズ数1×10〜5×10、電流密度20〜60A/dmなる電解めっきにて形成し、
前記Sn又はSn合金によるめっき層を、無機酸を主成分とするめっき浴中にて不溶性アノードを使用し、浴温15〜35℃、レイノルズ数1×10〜5×10、電流密度10〜30A/dmなる電解めっきにて形成することを特徴とする導電部材の製造方法。
【請求項2】
前記Sn又はSn合金によるめっき層の形成時に、スラッジ除去手段及び泡除去手段を使用することを特徴とする請求項1に記載の導電部材の製造方法
【請求項3】
前記リフロー処理は、前記めっき層を形成してから1〜30分経過した後に行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の導電部材の製造方法。
【請求項4】
前記リフロー処理は、めっき層を10〜90℃/秒の昇温速度で240〜300℃のピーク温度まで加熱する加熱工程と、前記ピーク温度に達した後、30℃/秒以下の冷却速度で1〜30秒間冷却する一次冷却工程と、一次冷却後に50〜250℃/秒の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の導電部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法により製造された導電部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−265489(P2010−265489A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115289(P2009−115289)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】