小体積インビトロ被検体センサー
【課題】小体積試料中における被検体濃度の正確で感度の高い分析の実行を可能にする、比較的痛みが少なく、容易に使用できるセンサーを提供する。
【解決手段】試料中の被検体濃度を測定する電気化学センサーであって、少なくとも1つの作用電極と、少なくとも1つの対電極と、少なくとも1つの試料室とを含むセンサーであり、少なくとも1つの前記試料室が、(i)試料を前記作用電極と電解的に接触させて保持し、1μL以下の試料を含む大きさの試料室、または、(ii)少なくとも2方を前記作用電極および前記対電極によって境界づけられた測定領域であって、1μL以下の試料を含む大きさの測定領域を含む試料室であり、前記作用電極上に不溶脱性の酸化還元媒介剤を含む。
【解決手段】試料中の被検体濃度を測定する電気化学センサーであって、少なくとも1つの作用電極と、少なくとも1つの対電極と、少なくとも1つの試料室とを含むセンサーであり、少なくとも1つの前記試料室が、(i)試料を前記作用電極と電解的に接触させて保持し、1μL以下の試料を含む大きさの試料室、または、(ii)少なくとも2方を前記作用電極および前記対電極によって境界づけられた測定領域であって、1μL以下の試料を含む大きさの測定領域を含む試料室であり、前記作用電極上に不溶脱性の酸化還元媒介剤を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小体積試料中の生物学的被検体の検出のための分析センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
分析センサーは、化学及び医学において、生物学的被検体の存在及び濃度を測定するのに有用である。このようなセンサーは、例えば、糖尿病患者におけるグルコースおよび臨床治療におけるラクテートを監視するのに必要である。
【0003】
現在利用されている方法は、比較的大きい試料体積中の被検体を測定するものであり、例えば、一般に3マイクロリットル以上の血液またはその他の生体液を要する。この液体試料は、例えば、針およびシリンジを用いて患者から採取されるか、または、指先などの皮膚の一部を切開し、その領域を「ミルキング(milking)」して有効な試料体積を得ることによって患者から採取される。特に頻繁に試料が必要となる場合、これらの操作は患者にとっては不便であり、しばしば痛みを伴う。神経終端密度が低い腕または腿を切開するなど、痛みの少ない試料採取方法が知られている。しかしながら、好適な領域における身体の切開においては、これらの領域がそれほど多くの近表面毛細血管(near−surface capillary vessel)を有していないことから、通常、半微量の血液試料が採取される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,264,104号明細書
【特許文献2】米国特許第5,356,786号明細書
【特許文献3】米国特許第5,262,035号明細書
【特許文献4】米国特許第5,320,725号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、小体積試料中における被検体濃度の正確で感度の高い分析の実行を可能にする、比較的痛みが少なく、容易に使用できるセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のセンサーは、半微量試料中における被検体を検出および定量する方法を提供する。一般に本発明は、好ましくはクーロメトリーによって、小体積試料中の被検体を分析する方法およびセンサーを含む。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明によれば、小体積試料中における被検体濃度の正確で感度の高い分析の実行を可能にする、比較的痛みが少なく、容易に使用できるセンサーとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、互いに対向する作用電極および対電極を有する、本発明の原理による電気化学センサーの第1の実施形態の概略図である。
【図2】図2は、同一平面上に配置された作用電極および対電極を有する、本発明の原理による電気化学センサーの第2の実施形態の概略図である。
【図3】図3は、互いに対向する作用電極および対電極と、拡張した試料室とを有する、本発明の原理による電気化学センサーの第3の実施形態の概略図である。
【図4】図4は、酸化還元媒介剤、試料室および電極の相対位置を示す、図1または3のセンサーの一部についての、縮尺を考慮しない(not−to−scale)側断面図である。
【図5】図5は、本発明の原理による多電極センサーの一実施形態の上面図である。
【図6】図6は、試料採取手段および図4のセンサーを有する、本発明の原理による被検体測定装置の一実施形態の透視図である。
【図7】図7は、第2の電子伝達剤としてグルコースオキシダーゼを備えた図1のセンサーを用いて、電解質の緩衝溶液(黒丸)または血清溶液(白丸)中の既知量のグルコースを電気酸化するのに要する電荷のグラフである。
【図8】図8は、図7のデータ(緩衝溶液のみ)に対する平均グルコース濃度のグラフを、平均値に適合するように算出された検量線とともに示した図である。線形の検量線は10−20mMの濃度に対して算出されたものであり、二次多項式の検量線は0−10mMの濃度に対して算出されたものである。
【図9】図9は、図7グルコースの測定値の臨床的な適合性を分析する、クラーク型臨床グリッド(Clark−type clinical grid)である。
【図10】図10は、第2の電子伝達剤としてグルコースデヒドロゲナーゼを備えた図1のセンサーを用いて、電解質の緩衝溶液中の既知量のグルコースを電気酸化するのに要する電荷のグラフである。
【図11】図11A、11Bおよび11Cは、本発明の電気化学センサーの第3の実施形態の上面図である。
【図12】図12Aおよび12Bは、基体の凹部を用いて形成された、本発明の電気化学センサーの別の実施形態の断面図である。
【図13】図13Aおよび13Bは、基体の凹部内に形成された、本発明または電気化学センサーの更に別の実施形態の断面図である。
【図14】図14Aおよび14Bは、基体の凹部および吸収体を用いて形成された、本発明の電気化学センサーの更に別の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のバイオセンサーは、好ましくは作用電極上に固定化された、不溶脱性(non−leachable)の酸化還元媒介剤、好ましくは空気酸化され得る酸化還元媒介剤を利用している。バイオセンサーは、試料を作用電極と電解的に(electrolytic)接触させて保持する試料室を含む。好ましい実施形態においては、作用電極が対電極と対向し、試料室内の2つの電極間に、約1μL未満、好ましくは約0.5μL未満、更に好ましくは0.1μL未満の試料を含む大きさの測定領域が形成されている。試料室および測定領域を満たすのに要する試料の体積を減少させるため、随意に吸収体が試料室および測定領域に配置されている。
【0010】
本発明の一実施形態においては、半微量試料中の生物学的被検体を正確且つ効率よく測定するために、電気化学的なクーロメトリック検知の効率と、不溶脱性の酸化還元媒介剤とを組み合わせたバイオセンサーが提供される。好適なセンサーは、電極と、電極上に存在する不溶脱性の酸化還元媒介剤と、試料を電極と電気的に接触させて保持する試料室と、好ましくは試料室の容積を減少させるために試料室内に配置された吸収体とを含む。試料室は、吸収体とともに、通常約1μL未満、好ましくは約0.5μL未満、更に好ましくは0.1μL未満の試料体積の分析が行える大きさに設定される。
【0011】
本発明の一実施形態は、まず試料を電気化学センサーに接触させ、次に被検体濃度を測定することによって、試料中の被検体濃度を測定する方法を含む。電気化学センサーは、作用電極および対電極を含む対向電極対と、2つの電極間に配置された測定領域を含む試料室とを含む。測定領域は、約1μL未満の試料を含む大きさである。
【0012】
本発明は、2以上の対向電極対を備えた電気化学センサーを含む。各電極対は、作用電極と、対電極と、2つの電極間に存在する測定領域とを有し、測定領域は約1μL未満の試料を保持する大きさである。更に、センサーは、少なくとも1つの電極対の作用電極上に存在する不溶脱性の酸化還元媒介剤を含む。
【0013】
本発明の1つの側面は、試料を電気化学センサーに接触させて、クーロメトリーで被検体濃度を測定することによって、試料中の被検体濃度を測定する方法である。電気化学センサーは、作用電極および対電極を含む電極対を含む。センサーは、試料を作用電極と電解的に接触させて保持する試料室を含む。試料室内には、試料室を約1μL未満の試料を含む大きさとするように、試料室を満たすのに要する試料体積を減少させる吸収体が存在する。
【0014】
本発明は、約1μL未満の体積の試料中の被検体濃度を測定するセンサーおよび方法を含む。このセンサーは、支持体と、支持体を被覆する空気酸化され得る酸化還元媒介剤とを有する。空気酸化され得る酸化還元媒介剤の少なくとも90%は、試料の導入前に酸化形で存在する。この方法は、試料をセンサーに接触させる工程と、試料中の被検体濃度を、試料存在下における酸化還元媒介剤の酸化状態の変化と関係づける工程とを含む。本発明の本側面に係るセンサーおよび方法は、限定するものではないが、電気化学的および光学的センサーを対象とする。光学センサーの場合、被検体濃度を酸化還元媒介剤の酸化状態の変化と相関させる工程は、例えば、酸化還元媒介剤に光を照射する工程と、光照射に対する前記酸化還元媒介剤の応答を測定する工程と、試料中の被検体濃度を、測定された前記酸化還元媒介剤の応答と相関させる工程とを含む。また、電気化学センサーの場合、被検体濃度を酸化還元媒介剤の酸化状態の変化と相関させる工程は、例えば、酸化還元媒介剤に電位を印加する工程と、被検体存在下での前記酸化還元媒介剤の電気分解に対する応答において発生する電流を、1以上の間隔をおいて測定する工程と、試料中の被検体濃度を、測定された電流と相関させる工程とを含む。
【0015】
本発明の更なる側面は、試料中の被検体を測定する本発明のセンサーだけでなく、患者試料を得るための試料採取手段を含む、一体型の試料採取および被検体測定装置である。この装置は、まず患者を装置に接触させて、次に好ましくはクーロメトリーで被検体濃度を測定することによって、患者試料中の被検体を測定するのに使用される。
【0016】
本発明の別の側面は、第1の電極対および第2の電極対を含む電気化学センサーに試料を接触させることによって、少ない誤差で試料中の被検体濃度を測定する方法である。各電極対は、作用電極と、試料を作用電極に電解的に接触させて保持する試料室とを有し、試料室は約1μL未満の試料を含む大きさである。第1の電極対は、作用電極上に不溶脱性の酸化還元媒介剤および不溶脱性の酵素を有している。第2の電極対は、酵素を有しない状態で作用電極上に不溶脱性の酸化還元媒介剤を有している。この方法は、更に、第1の電極対で発生する第1の電流と、第2の電極対で発生する第2の電流とを実質的に同時に、2回以上測定する工程を含む。測定された第1の電流および第2の電流が個別に積算され、第1の電荷および第2の電荷が各々得られる。第1の電荷から第2の電荷を差し引かれ、試料中の被検体濃度と相関するノイズが低減された電荷が得られる。この方法は、妨害物質または試料導入前の酸化還元媒介剤の混在した酸化状態に起因する誤差を除去するのに使用できる。
【0017】
本発明に係る試料中の被検体濃度を測定するための別の方法は、1以上の対向電極対を有し、各対向電極対は、作用電極と、対電極と、作用電極および対電極の間に存在する測定領域とを有しており、1以上の電極対の測定領域が約1μL未満のほぼ同等の容積を有している電気化学センサーを用意する工程を含む。センサーは、少なくとも1つの電極対の作用電極上に酸化還元媒介剤を有している。この方法は、更に、1つの電極対の静電容量を測定する工程と、静電容量の測定値から前記電極対の測定領域の容積を算出する工程とを含む。更に、センサーを試料と接触させて、試料中の被検体濃度をクーロメトリーによって測定する。
【0018】
本発明の更なる側面は、酸素分子を含む雰囲気下でセンサーを包装する工程を含む、分析センサーの保存および包装方法である。本発明の本側面に係るセンサーは空気酸化され得る酸化還元媒介剤を含む。
【0019】
本発明の一実施形態は、試料を電気化学センサーに接触させ、約1μL未満の試料を電気分解し、クーロメトリーで被検体濃度を測定することによって、試料中の被検体濃度を測定する方法である。本発明の本実施形態に係るセンサーは、作用電極と、作用電極上に存在する不溶脱性の酸化還元媒介剤とを含む。センサーへの試料導入前に還元形である不溶脱性の酸化還元媒介剤のモル量は、化学量論的に、電気分解される被検体の予測されるモル量の5%未満である。
【0020】
試料中の被検体濃度の別の測定方法は、作用電極と、対電極と、少なくとも2方が2つの電極で境界づけられた測定領域とを有する電気化学センサーに、試料を接触させる工程を含む。測定領域は、約1μL未満の試料を含む大きさである。試料中の被検体濃度は、クーロメトリーによって測定される。
【0021】
本発明を特徴づけるこれらの形態およびその他の様々な形態は、添付のクレームに詳細に示される。本発明、その利点およびその使用によって達成される目的のより良い理解のため、本発明の好ましい形態を図示および説明する図面および添付の明細書を参照する。
【0022】
本発明のセンサーを用いた、試料中の被検体濃度を測定する方法としては、本発明の電気化学センサーに試料を接触させる工程と、クーロメトリーによって前記試料中の被検体濃度を測定する工程とを含む方法が挙げられる。
【0023】
前記方法においては、接触させる工程が、試料を吸収体に接触させ、前記試料を試料室または測定領域に吸上げることによって実施されることが好ましい。また、試料室が、毛管作用によって満たされることが好ましい。
【0024】
また、前記方法においては、被検体濃度を測定する工程が、作用電極と対電極との間に電位を印加することによって、測定領域に存在する被検体の少なくとも90%を5分未満で電気分解する工程と、前記被検体を電気分解するのに用いられた電荷を測定する工程と、前記電荷を試料中の被検体濃度と相関させる工程とを含み、測定する工程が、前記被検体が電気分解されるときに、作用電極で発生する電流を2回以上測定する工程と、測定された電流を時間に渡って積算し、前記被検体を電気分解するのに用いられた電荷を得る工程とによって実施されることが好ましい。
【0025】
また、前記方法においては、被検体の少なくとも90%を電気分解する工程が、作用電極と対電極との間に電位を印加することによって、測定領域に存在する被検体の少なくとも90%を1分未満で電気分解する工程を含むことが好ましい。
【0026】
また、前記方法においては、クーロメトリーによって被検体濃度を測定する工程が、作用電極と対電極との間に電位を印加することによって、被検体の一部を電気分解する工程と、電気分解の間に、作用電極で発生する電流を2回以上測定する工程と、測定された電流に基づいて電流曲線を外挿する工程と、前記電流曲線を時間に関して積分し、被検体の少なくとも90%を電気分解するのに要する電荷を得る工程と、前記電荷を試料中の被検体濃度と相関させる工程とを含むことが好ましい。
【0027】
また、前記方法においては、電気化学センサーが、第1の電極対および第2の電極対を含み、各対が作用電極を含んでおり、前記第1の電極対が不溶脱性の酸化還元媒介剤および不溶脱性の酵素を作用電極上に含み、前記第2の電極対が酵素を含まずに不溶脱性の酸化還元媒介剤を作用電極上に含むことが好ましい。
【0028】
また、前記方法においては、被検体濃度を測定する工程が、第1の電極対で発生する第1の電流および第2の電極対で発生する第2の電流を実質的に同時に、2回以上測定する工程と、測定された前記第1の電流を時間に渡って積算し、第1の電荷を得る工程と、測定された前記第2の電流を時間に渡って積算し、第2の電荷を得る工程と、前記第1の電荷から前記第2の電荷を差し引き、ノイズが低減された電荷を得る工程と、被検体濃度を、ノイズが低減された電荷と相関させる工程とを含むことが好ましい。
【0029】
また、前記方法においては、センサーが作用電極上に酸化還元媒介剤を含み、試料導入前に還元形である前記酸化還元媒介剤のモル量が、化学量論的に、電気分解される被検体の予測されるモル量の5%未満であり、被検体濃度を測定する工程が、1μL未満の試料を電気分解する工程を含むことが好ましい。
【0030】
ここで、下記用語は次の定義によって定義される。
【0031】
「空気酸化され得る媒介剤」とは、好ましくは、例えば1ヶ月以下、好ましくは1週間以下、更に好ましくは1日以下の有用な期間内における空気中での保存時に、媒介剤の少なくとも90%が酸化形となるように、空気によって酸化される酸化還元媒介剤である。
【0032】
「生体液」とは、被検体の測定が可能なあらゆる体液であり、例えば、血液、間隙液(interstitial fluid)、皮膚液(dermal fluid)、汗および涙である。
【0033】
本発明の文脈において「血液」という用語は、全血液と、無細胞成分、すなわち血漿および血清とを含む。
【0034】
「クーロメトリー」とは、電極上で直接または1以上の電子伝達剤を介して生じる被検体の完全またはほぼ完全な電気分解の間に、移動または移動すると考えられる電荷の測定である。電荷は、被検体の部分的またはほぼ完全な電気分解中に移動する電荷の測定、または、しばしば、電気分解中の減衰電流および経過時間の多重測定によって測定される。減衰電流は、電気分解によって生じる、電気分解される種の濃度低下に起因する。
【0035】
「対電極」とは、作用電極と対を成す電極であって、作用電極を流れる電流と大きさが等しく、符号が反対の電気化学的な電流が流れる電極を意味する。本発明の文脈において「対電極」という用語は、参照電極としても機能する対電極(すなわち、対/参照電極)を含む意味を持つ。
【0036】
「電気化学センサー」とは、センサーにおける電気化学的な酸化還元反応によって、被検体の存在を検出および/または被検体の濃度を測定するように構成された装置である。この反応は、被検体の量または濃度と相関する電気信号に変換される。
【0037】
「電気分解」とは、1つの電極上で、直接または1以上の電子伝達剤を介して生じる、化合物の電気酸化または電気還元である。
【0038】
「対向電極対」という用語は、作用電極の作用面が対電極の表面とほぼ対向するように配置され、作用電極と対電極との間の距離が作用電極の作用面の幅よりも小さくなるような、作用電極および対電極の配置に関する。
【0039】
化合物は、表面に入り込むか、または化学的に結合して、表面に「固定化」される。
【0040】
「測定領域」とは、ここでは、試料の被検体分析で測定される部分のみを含む大きさに設定された、試料室の一部として定義される。
【0041】
「不溶脱性」または「不放出性(non−releasable)」の化合物とは、被検体分析の期間において、作用電極の作用面から実質的に拡散しない化合物である。
【0042】
「酸化還元媒介剤」とは、被検体と作用電極との間で、直接または第2の電子伝達剤を介して、電子を輸送する電気伝達剤である。
【0043】
「第2の電子伝達剤」とは、酸化還元媒介剤と被検体との間で電子を輸送する分子である。
【0044】
「吸収体」とは、その空孔体積において、液体試料を吸上げ(wick)、保持するか、または液体試料で湿らされる物質であって、被検体の電極への拡散を実質的に妨げない物質である。
【0045】
「作用電極」とは、被検体が、酸化還元媒介剤の仲介あり、または仲介なしで、電気酸化または電気還元される電極である。
【0046】
「作用面」とは、作用電極の、酸化還元媒介剤で被覆され、試料に曝されるように配置された部分である。
【0047】
本発明の小体積インビトロ被検体センサーは、試料の、約1μL未満、好ましくは約0.5μL未満、更に好ましくは0.2μL未満、最も好ましくは0.1μL未満の体積を有する部分の被検体濃度を測定するように設計されている。対象となる被検体は、通常、血液または血清のような溶液または生体液として提供される。図面全般、特に図1〜4を参照すると、本発明の小体積インビトロ被検体センサー20は、通常、作用電極22、対電極(または対/参照電極)24および試料室26(図4を参照)を含む。試料室26は、試料が室内に供給されたとき、試料が作用電極22および対電極24の両方に電解的に接触するように構成されている。これにより、電流が電極間を流れ、被検体の電気分解(電気酸化または電気還元)を行うことが可能となる。
【0048】
(1)作用電極
作用電極22は、成形された炭素繊維複合体で形成することができ、または、ポリエステルなどの不活性の非導電性基体上に適当な導電層を形成したもので構成することもできる。導電層は、比較的低い電気抵抗を有し、動作中のセンサーの電位範囲において電気化学的に不活性である。好適な導電体としては、金、炭素、白金、二酸化ルテニウム、パラジウム、および、その他の当業者に知られた不腐食性物質が挙げられる。電極および/または導電層は、蒸着または塗布などの方法によって不活性物質表面に形成される。
【0049】
タブ23は、電極の、電源または電圧測定装置などの外部電子機器(図示せず)との接続を容易にするため、作用電極22の端部に設けられる。作用電極22と外部電子機器との接続には、その他の公知の方法または構造を用いてもよい。
【0050】
(2)検出層および酸化還元媒介剤
不溶脱性(すなわち、不放出性)の酸化還元媒介剤を含む検出層32は、作用電極22の一部に配置される。通常は約5分未満である測定期間において、酸化還元媒介剤の作用電極から試料中への溶脱がほとんどまたは全くないことが好ましい。更には、本発明の酸化還元媒介剤は、媒介剤の試料中への望ましからざる溶脱を防止するため、作用電極22に結合またはその他の方法で固定化されていることが好ましい。作用電極および対電極が互いに近接する場合(すなわち、電極が約1mm未満の間隔で離間している場合)、拡散または溶脱(すなわち、放出)する酸化還元媒介剤は不都合である。なぜなら、結合していない媒介剤が、被検体と作用電極との間よりも、むしろ作用電極と対電極との間で電子を往復させるため、一般に大きな影信号(background signal)が発生するからである。この問題およびその他の問題は、低抵抗セルの開発の妨げとなり、被検体濃度測定に要する最小試料サイズの増大を招く。
【0051】
作用電極22上に検出層32を適用することによって、電極上に作用面が形成される。作用面は、通常、作用電極22の媒介剤で被覆され且つ液体試料に接触可能名部分である。検出層32の一部が誘電体またはその他の物質で被覆されている場合、作用面は、電極の酸化還元媒介剤に被覆され且つ試料との接触のために露出した部分に限られる。
【0052】
酸化還元媒介剤は、作用電極22と被検体との間における電流の伝達を仲介し、電極上で直接電気化学反応させるのに適さない分子の電気化学的分析を可能にする。媒介剤は、電極と被検体との間の電子伝達剤として機能する。
【0053】
大部分の有機または有機金属の酸化還元種が、酸化還元媒介剤として使用できる。好ましい酸化還元媒介剤は、速やかに還元および酸化され得る分子であり、標準カロメル電極(SCD)よりも数百ミリボルト高いまたは低い酸化還元電位を有し、通常、SCDに対して約−100mVを超える還元、および、約+400mVを超える酸化はしない。有機酸化還元媒介剤の例としては、キノンおよびキンヒドロン並びにナイルブルー(Nile blue)およびインドフェノールなどの、酸化形がキノイド構造を有する種が挙げられる。残念なことに、キノンおよび部分酸化したキンヒドロンの一部は、システインのチオール基、リジンおよびアルギニンのアミン基、チロシンのフェノール基などのタンパク質の官能基と反応するため、例えば血液などの生体液中の被検体測定に使用されるセンサーなどの、本発明のセンサーの一部には不適当である。
【0054】
一般に、本発明での使用に好適な媒介剤は、試料が分析される期間における酸化還元種の拡散損失を、防止または実質的に減少するような構造を有する。好ましい酸化還元媒介剤としては、作用電極に固定化され得るポリマーに結合した酸化還元種が挙げられる。有用な酸化還元媒介剤およびその製造方法は、ここに参考として取り入れる米国特許第5,264,104号、第5,356,786号、第5,262,035号および第5,320,725号に記載されている。あらゆる有機または有機金属の酸化還元種がポリマーと結合して、酸化還元媒介剤として使用され得るが、好ましい酸化還元種は遷移金属化合物および錯体である。好ましい遷移金属化合物または錯体としては、オスミウム、ルテニウム、鉄およびコバルトの化合物または錯体が挙げられる。オスミウム化合物または錯体が特に好ましい。
【0055】
ある種の不放出性の高分子酸化還元媒介剤は、高分子組成物中に共有結合した酸化還元種を含む。この種の媒介剤の一例としては、ポリ(ビニルフェロセン)が挙げられる。
【0056】
あるいは、好適な不放出性の酸化還元媒介剤は、イオン結合した酸化還元種を含む。一般に、この媒介剤は、電荷を有するポリマーであって、反対の電荷を有する酸化還元種と対を成したポリマーである。この種の媒介剤の一例としては、オスミウムまたはルテニウムのポリピリジルカチオンなどの正電荷を有する酸化還元種と対を成した、ナフィオン(Nafion;登録商標)(デュポン(DuPont))などの負電荷を有するポリマーが挙げられる。イオン結合した媒介剤の別例としては、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩またはヘキサシアノ鉄(II)酸塩などの負電荷を有する酸化還元種と対を成した、四級化ポリ(4−ビニルピリジン)またはポリ(1−ビニルイミダゾール)が挙げられる。
【0057】
本発明の別の実施形態においては、好ましい不放出性の酸化還元媒介剤として、ポリマーに配位結合した酸化還元種が挙げられる。例えば、オスミウムまたはコバルトの2,2’−ジピリジル錯体が、ポリ(1−ビニルイミダゾール)またはポリ(4−ビニルピリジン)に配位することによって形成される。
【0058】
好ましい酸化還元媒介剤は、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリンまたはそれらの誘導体などの含窒素テロ環を有する配位子を1つ以上備えた、オスミウム遷移金属錯体である。更に、好ましい酸化還元媒介剤は、ピリジン、イミダゾールまたはそれらの誘導体などの少なくとも1つの含窒素ヘテロ環を有するポリマーリガンドを、1つ以上有する。これらの好ましい媒介剤は、錯体が速やかに酸化および還元されるように、電極との間で電子を速やかに交換する。
【0059】
なかでも、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリンまたはそれらの誘導体を含む2つの配位子(2つの配位子は同種である必要はない)と錯化し、更に、ピリジンまたはイミダゾール官能基を有するポリマーと錯化したオスミウム陽イオンは、本発明の小体積センサーに特に有用な酸化還元媒介剤を形成する。オスミウム陽イオンとの錯化に好適な2,2’−ビピリジン誘導体は、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、並びに、アルコキシ基における炭素と酸素との比率が遷移金属錯体の水への溶解度を維持するのに十分である、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジンなどのモノ−、ジ−およびポリアルコキシ−2,2’−ビピリジンである。オスミウム陽イオンとの錯化に好適な1,10−フェナントロリン誘導体は、4,7−ジメチル−1,10−フェナントロリン、並びに、アルコキシ基における炭素と酸素との比率が遷移金属錯体の水への溶解度を維持するのに十分である、4,7−ジメトキシ−1,10−フェナントロリンなどのモノ−、ジ−およびポリアルコキシ−1,10−フェナントロリンである。オスミウム陽イオンとの錯化に好適なポリマーは、例えばPVIなどのポリ(1−ビニルイミダゾール)、例えばPVPなどのポリ(4−ビニルピリジン)を単独または共重合体として含む。特に、ポリ(1−ビニルイミダゾール)またはその共重合体と錯化したオスミウムを有する酸化還元媒介剤が好ましい。
【0060】
好ましい酸化還元媒介剤は、標準カロメル電極(SCE)に対し、約−150mV〜約+400mVの酸化還元電位を有する。好ましくは、酸化還元媒介剤の電位は約−100mV〜約+100mVであり、更に好ましくは、酸化還元媒介剤の電位は約−50mV〜約+50mVである。特に好ましい酸化還元媒介剤は、オスミウム酸化還元中心を有し、SCEに対して+100mVよりも負の酸化還元電位、更に好ましくはSCEに対して+50mVよりも負の酸化還元電位、特に好ましくはSCEに対して−50mV程度の酸化還元電位を有する。
【0061】
本発明のセンサーの酸化還元媒介剤は、空気酸化され得ることが好ましい。これは、酸化還元媒介剤が空気によって酸化され、好ましくはセンサーへの試料の導入前に媒介剤の少なくとも90%が酸化形であることを意味する。空気酸化され得る酸化還元媒介剤としては、2つのモノ−、ジ−もしくはポリアルコキシ−2,2’−ビピリジン、または、モノ−、ジ−もしくはポリアルコキシ−1,10−フェナントロリン配位子(2つの配位子が同種である必要はない)と錯化し、更に、ピリジンおよびイミダゾール官能基を有するポリマーと錯化したオスミウム陽イオンが挙げられる。特に、ポリ(4−ビニルピリジン)またはポリ(1−ビニルイミダゾール)と錯化したOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2が、空気中において約90%以上の酸化を達成する。
【0062】
本発明の好ましい実施形態においては、検出層32は、酸化還元媒介剤と被検体との間における電子移動を可能にする第2の電子伝達剤を含んでいる。好適な第2の電子伝達剤の一例としては、被検体の反応を触媒する酵素が挙げられる。被検体がグルコースである場合、例えば、ピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼ(PQQ)などのグルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼが使用できる。被検体がラクテートの場合、乳酸オキシダーゼがこの役割を果たす。これらの酵素は、酸化還元媒介剤を介した被検体と電極との間での電子移動による被検体の電気分解を触媒する。第2の電子伝達剤は、試料中への溶脱を防止するため不溶脱性であることが好ましく、更には電極に固定化されていることが好ましい。これは、例えば、第2の電子伝達剤を酸化還元媒介剤と結合させて、検出層に不溶脱性成分を形成することによって達成される。
【0063】
電気化学反応が、作用電極の媒介剤で被覆されていない部分で生じることを防止するため、図4に示すように、結合した酸化還元媒介剤が存在する領域の上方、下方または周囲の電極上に、誘電体40を配置してもよい。好適な誘電体としては、ポリエチレンのような非導電性の有機ポリマーおよびワックスが挙げられる。誘電体40は、電極上の酸化還元媒介剤の一部を被覆していてもよい。媒介剤の被覆された部分は試料に接触しないので、電極の作用面の一部ではない。
【0064】
(3)対電極
対電極24は、作用電極22と同様に構成することができる。対電極24は、対/参照電極であってもよい。あるいは、別の参照電極を試料室と接触するように設けてもよい。対/参照電極または参照電極に好適な材料としては、非導電性基体上に塗布されたAg/AgCl、または、銀金属基体上の塩化銀が挙げられる。対電極が参照電極でない場合、対電極の作製には、作用電極22の作製に用いられると同様の材料および方法を使用することができるが、対電極または対/参照電極24上には酸化還元媒介剤は固定化されていない。クーロメトリーまたはその他の測定装置などの外部電子機器(図示せず)との簡便な接続のため、電極にタブ25を設けてもよい。
【0065】
本発明の一実施形態によれば、作用電極22および対電極24は、図1および3に示すように、互いに向かい合わせに対向して対向電極対を形成する。この好ましい形態においては、試料室26は、通常、2つの電極間に配置される。この対向電極の配置においては、電極が、約0.2mm未満、好ましくは0.1mm未満、更に好ましくは0.05mm未満の距離をあけて離間していることが好ましい。
【0066】
電極は、互いに真向に向かい合う必要はなく、わずかにずれていてもよい。更に、2つの電極は同じ大きさである必要はない。対電極24が、作用電極22の作用面と同等か、またはそれ以上の大きさであることが好ましい。対電極22は、櫛歯形に形成してもよい。対電極および作用電極のその他の形状も、本発明の範囲に存在する。しかし、作用電極の一部と対電極の一部との離間距離は、前述した範囲を超えないことが好ましい。
【0067】
図11A、11Bおよび11Cは、前述したような、対向電極対22、24の別の形態を説明するものである。通常、2つの電極22、24の間の重複領域21が、試料が測定される測定領域に相当する。各電極22、24は導電性の面であり、コンデンサの電極板として働く。電極22、24の間の測定領域は、電極板間の誘電体層として働く。このように、2つの電極22、24の間には静電容量が存在する。この静電容量は、重複する電極22、24のサイズ、電極22、24間の離間距離および電極22、24間の物質の誘電率の関数である。従って、電極22、24の重複領域21のサイズと、電極22、24間の物質(例えば、空気または吸収体)の誘電率とが既知であれば、電極間の離間距離を算出して、測定領域の容積を求めることができる。
【0068】
図11Aは、電極22、24を対向配置で設置した、本発明の一実施形態を説明するものである。このような配置を有する被検体センサーにおいて、同様に構成されたセンサー間の静電容量を一定にするため、位置決め(すなわち、2つの電極相互の相対的な位置決め)は一定にするべきである。各電極の位置が、図11Aに示す位置からx−y平面において移動すると、重複領域のサイズが変化し、ゆえに静電容量が変化する。同様のことが、測定領域の容積についても言える。
【0069】
図11Bおよび11Cは、電極22、24を対向配置で設置した、本発明の別の実施形態を説明するものである。これらの配置においては、静電容量または測定領域の容積を変化させることなく、各電極の位置を、x−y平面において、他方の電極に対して多少なりとも移動させることができる。これらの電極配置においては、各電極22、24は、各々、他方の電極の対応するアームと重なり合うアーム122、124を含む。2つのアーム122、124は(図11Aに示すように)互いに平行するものではなく、アーム122、124は互いにゼロよりも大きい角度123を成すように配置されている。更に、アーム122、124は、重複領域21の範囲よりも拡張している(すなわち、各アームは、アーム長222、224と、重複領域21の幅121との差に相当する余剰長を、各々有している。)。これらの電極配置によれば、電極22、24の位置決めにおける不正確さに一定の許容量があり、その許容量においては電極間の静電容量は変化しない。位置決めにおける不正確さの許容量は、アーム122、124が重複する部分の角度123、および、重複領域21の幅121に対する各アーム122、124の余剰長のサイズを変化させることによって、電極配置において設定することができる。一般に、アーム122、124が垂直(すなわち、角度123が90°)に近づくほど、許容される不正確さは大きくなる。また、重複領域21の幅121に対する各アーム122、124の余剰長(両アームの余剰長は、同等の長さでも、相違する長さでもよい。)が大きくなるほど、許容される不正確さは大きくなる。反対に、(電極の幅、厚さ、および、他方の電極と交差する角度123が一定であるならば)、不正確さの許容量が大きくなるほど、電極のサイズは大きくなる。このように、一方の電極が他方の電極に対して移動し得る距離の最小値は、電極に要する物質量と釣り合わされる。一般に、交差角度123は、5〜90度、好ましくは30〜90度、更に好ましくは60〜90度の範囲である。一般に、アーム122、124の余剰長(アーム長222、224と重複領域21の幅121との差に相当する。)と重複領域21の幅121との比率は、0.1:1〜50:1、好ましくは1:1〜15:1、更に好ましくは4:1〜10:1の範囲である。
【0070】
本発明の別の実施形態においては、図2に示すように、2つの電極22、24が同一平面上に存在する。この場合、試料室26は、両電極と接触しており、電極とは反対側が非導電性の不活性基体30と結合している。不活性基体に好適な物質は、ポリエステルのような非導電性物質である。
【0071】
本発明のセンサーの別の形態もまた可能である。例えば、2つの電極が、互いに角度を成す複数の面に形成されていてもよい。このような形態としては、直角を形成した複数の面に電極を備えたものが挙げられる。別の可能な形態としては、管の内壁のような湾曲した面に電極を備えたものである。作用電極および対電極は、管の反対側に互いに対向するように配置されている。これは、対向電極対の別の一例である。あるいは、電極を、管の壁面に互いに近接させて(例えば、一方が他方の上部に位置するように、または、並べて)配置してもよい。
【0072】
いずれの形態においても、2つの電極は、電気化学センサーの短絡を防ぐため、直接電気的に接触しないように配置しなければならない。これは、対向する電極の間隔が短い距離(約100μm未満)であると、回避することが困難である。
【0073】
図1および3に示すように電極が互いに対向する場合、電極を離間させておくために、スペーサー28を使用することができる。スペーサーは、通常、ポリエステル、マイラー(Mylar;商標)、ケブラー(Kevlar;商標)もしくはその他の強靭で薄いポリマーフィルム、または、化学的に不活性であることから選択されるテフロン(登録商標)(Tefron;商標)フィルムなどの薄いポリマーフィルムなどの、不活性の非導電性物質で構成される。セパレーター28は、電極間の接触を防止することに加えて、図1−4に示すように、試料室26の境界としても機能する。
【0074】
(4)試料室
試料室26は、図1−4に示すように、一般に、電極22、24、不活性基体30およびセパレーター28の組み合わせによって、その範囲が限定されている。測定領域は試料室内に含まれており、試料室内の、試料の被検体分析で測定される部分のみを含む領域である。図1および2に示す本発明の実施形態においては、試料室26は、2つの電極22、24および/または不活性基体の間の空間である。この実施形態においては、試料室は、好ましくは約1μL未満、更に好ましくは約0.5μL未満、特に好ましくは約0.2μL未満の容積を有する。図1および2に示した本発明の実施形態においては、測定領域は、試料室の容積とほぼ同等の容積を有する。
【0075】
図3に示す本発明の別の実施形態において、試料室26は、電極22、24に近接する領域よりも更に広い空間を有する。この形態によれば、図5に示すように、1以上の試料室と接触する複数の電極を備えることが可能である。この形態において、試料室26は、好ましくは、約1μL未満、更に好ましくは約0.5μL未満、特に好ましくは約0.2μL未満の体積を含む大きさである。測定領域(すなわち、識別される体積の試料を含む領域)は、一般に、約1μL未満、好ましくは約0.5μL未満、更に好ましくは約0.2μL未満、特に好ましくは0.1μL未満の体積の試料を含む大きさである。この実施形態の特に有用な一形態は、図3に示すように、作用電極22および対電極24を互いに対向させて配置したものである。この形態では、試料の測定される部分を含む領域に相当する測定領域は、試料室26の、作用電極の作用面で境界づけられ、対向する2つの電極間に位置する部分である。作用電極の表面が酸化還元媒介剤で完全には被覆されていない場合、測定領域は、作用電極22の作用面(すなわち、酸化還元媒介剤で被覆された面)に相当する面積と、作用電極22と対電極24の間の離間距離に相当する厚みとを有する、2つの対向する電極間の空間である。
【0076】
前述した両実施形態において、試料室および測定領域の厚みは、一般に、スペーサー28の厚み(例えば、図1および3における電極間の距離、または、図2における電極と不活性基体との間の距離)に相当する。与えられた試料体積に対し、より多くの試料を電極表面に接触させて、被検体の電気分解を速やかに促進するため、この厚みは小さいことが好ましい。更に、薄い試料室は、測定時間に対して拡散時間が長くなるので、被検体分析中において被検体が試料室の他の部分から測定領域へ拡散することに起因する誤差の低減を助ける。一般に、試料室の厚みは、約0.2mm未満である。好ましくは、試料室の厚みは約0.1mm未満であり、更に好ましくは、試料室の厚みは約0.05mm以下である。
【0077】
試料室は、別の方法で形成することもできる。例えば、エンボス、インデント(indenting)、または、作用電極22または対電極24が形成された基板に凹部を形成するその他の方法が挙げられる。図12Aおよび12Bは、このような構造の一例を示したものである。まず、不活性の非導電性基体上に導電層100が形成される。前述したように、導電層100は、金、炭素、プラチナ、二酸化ルテニウム、パラジウムまたはその他の不腐食性材料が挙げられる。不活性の非導電性基体102は、ポリエステル、その他のポリマーまたはその他の非導電性で変形可能な材料を用いて作製することができる。その後、導電層100の少なくとも一部が凹部104内に含まれるように、非導電性基体102の一部に凹部104が形成される。凹部104は、インデント、変形、または、その他の基体102の押込みを含む、種々の方法を用いて形成することができる。凹部の形成方法の更なる一例としては、基体102のエンボスが挙げられる。基体102が、例えばパンチ部材または溝形部材などの隆起した部分を有するエンボスロールまたはスタンプと接触して、凹部が形成される。ある形態においては、基体102は、材料を軟化させるために加熱されてもよい。
【0078】
凹部104は、円形、楕円形、矩形またはその他のあらゆる定形もしくは不定形の形状とすることができる。あるいは、凹部104は、基体102の一部に伸びる溝として形成してもよい。導電層100は、溝の全体または溝の一部のみに存在させることができる。測定領域は、例えば、導電層100の溝の特定の領域内に存在する部分のみに検出層32を配置することによって、その範囲を、溝内の特定の領域に限定することができる。あるいは、測定領域は、第2の電極107を、第1の電極105の所望の領域のみと重なり合うように配置することによって、その範囲を限定してもよい。
【0079】
導電層100の少なくとも一部、場合によっては全部が、凹部104内に位置している。導電層100のこの部分は、第1の電極105(対電極、または、好ましくは作用電極)として機能する。導電層100が作用電極を形成する場合、図12Bに示すように、不溶脱性の媒介剤および随意に第2の電子伝達剤を凹部104内に形成することによって、導電層100の一部の上方に、検出層32を形成することができる。そして、第2の基体106上に第2の導電層を配置することによって、第2の電極107が形成される。そして、第2の電極107は、第1の電極105の上方に対向配置するように設置される。図示していないが、第1の電極105が対電極として機能する場合、検出層32は、作用電極として機能する第2の電極107上に配置されると考えられる。
【0080】
一実施形態においては、第2の基体108は、第2の電極107が凹部内に位置するように、第1の基体102および/または導電層100の押し下げられていない部分の上に設置される。別の実施形態においては、第1および第2の基体102、108の間にスペーサー(図示せず)が存在する。この実施形態では、第2の電極107は凹部内に位置しても、位置していなくてもよい。いずれの場合においても、第1および第2の電極105、107は接触してない。さもなければ2つの電極が短絡する。
【0081】
凹部104の深さと、導電層100、検出層32および第2の電極107の凹部104内に存在する部分があればその部分の体積とが、測定領域の体積を決める。このように、測定領域の体積の決定は、凹部104の構造が一定している範囲の大きさに依存する。
【0082】
導電層100に加えて、図14Aに示すように、後に詳しく記述する吸収層103を、凹部104を形成する前に基体102上に形成することができる。吸収体103は、図14Bに示すように、導電層100および基体102とともに、インデント、エンボスまたはその他の変形加工が施されてもよい。あるいは、吸収体103は、凹部104を形成するために導電層100および基体102にインデント、エンボスまたはその他の変形加工が施された後に、形成してもよい。
【0083】
被検体センサーの形成方法の別の例においては、図13Aおよび13Bに示すように、第1の基体112に凹部114が形成される。凹部は、インデント、エンボス、エッチング(例えば、フォトリソグラフィー法または基体一部のレーザー除去)、または、その他の基体112の一部の変形もしくは除去によって形成することができる。第1の導電層110は、凹部114内に形成される。前述したあらゆる導電性材料を使用することができる。好ましい材料は、例えばエルコン,インク(Ercun,Inc.;ウェアハム エム エイ(Wareham,MA))から入手可能な導電性カーボンインクなどの導電性インクである。導電性インクは、通常、溶媒または分散剤に溶解または分散した、金属または炭素を含む。溶媒または分散剤が除去され、金属または炭素が、第1の電極115として用いられる導電層110を形成する。前述したように、第2の電極117が第2の基体116に形成され、凹部114の上方に配置される。ある実施形態においては、図13Bに示すように、第1の電極115上に検出層32が形成されて、作用電極が形成される。別の実施形態においては、第2の電極117上に検出層32が形成されて、作用電極が形成される。更に、凹部内、例えば第1の電極115上に、吸収体(図示せず)が形成されていてもよい。
【0084】
導電性インクには、ポリウレタン樹脂、セルロース誘導体、エラストマー(例えば、シリコーン、ジエン重合体またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂)、高フッ素化ポリマーなどのようなバインダーが含まれていてもよい。バインダーの硬化は導電層110の導電率を増大させるが、硬化は必ずしも要しない。バインダーの硬化方法は、使用するバインダーの性質に依存する。いくつかのバインダーは、熱および/または紫外線によって硬化する。
【0085】
これらの構造によれば、測定領域の容積が凹部104の正確性および再現性に少なくとも部分的に依存するような、電気化学センサーが形成される。エンボス、レーザーエッチング、フォトリソグラフィーエッチングおよびその他の方法が、200μm以下の寸法であっても、再現可能な凹部104の形成に使用することができる。
【0086】
(5)吸収体
試料室は、室内に試料が配置される前は空であってもよい。あるいは、試料室は、測定操作中に液体試料を吸収して保持する吸収体34を含んでいてもよい。好適な吸収体としては、ポリエステル、ナイロン、セルロースおよびニトロセルロースのようなセルロース誘導体が挙げられる。吸収体は、試料室の毛管作用を補足または好ましくはそれに取って代わる吸上げ作用(wicking action)によって、小体積試料の吸上げを促進する。
【0087】
いくつかの実施形態においては、吸収体は、吸収体が溶解または分散した液体またはスラリーを用いて配置される。その後、液体またはスラリーの溶媒または分散媒は、加熱または蒸発処理によって除去されてもよい。好適な吸収体としては、例えば、水などの適当な溶媒または分散媒に溶解または分散した、セルロースまたはナイロン粉末が挙げられる。特定の溶媒または分散媒は、作用電極22の材質に適合すべきである(例えば、溶媒または分散媒は電極を溶解してはならない)。
【0088】
吸収体の最も重要な機能の一つは、試料室を満たすのに必要な、センサーの測定領域に相当する液体の体積を減少させることである。測定領域内の試料の実際の体積は、特に吸収体内の空孔量で決まる。通常、好適な吸収体は、約5%から約50%の空孔からなる。好ましくは、吸収体は、約10%から25%の空孔からなる。
【0089】
吸収体による液体の置換は有効である。吸収体の添加によって、試料室26を満たすのに必要な試料は減少する。これは、測定を達成するのに要する試料の体積を減少させ、試料の電気分解に要する時間をも減少させる。
【0090】
吸収体34は、試料がタブ33に接触し、タブに吸収され、吸収体34の吸上げ作用によって試料室26に運ばれるように、センサーまたはセンサーの開口部から伸びる、吸収体と同じ材質で構成されたタブ33を含んでいてもよい。これは、試料を試料室26に向けるための好ましい方法を提供する。例えば、センサーは、血液を出すためにランセットが刺し通される動物(人間を含む)の一部に、接触させる。血液はタブ33に接触し、吸収体34の吸上げ作用によって試料室26に吸い上げられる。試料のセンサーへの直接的な輸送は、ランセットを使用して、動物の近表面毛細血管がそれほど多く存在せず、1μL未満の血液試料体積しか供給されない部分を刺し通す場合など、試料が非常に少量である場合に特に重要となる。
【0091】
吸収体の吸上げ作用以外の方法が、試料室または測定領域への試料の輸送に使用することができる。そのような輸送手段の例としては、吸収体の吸上げ作用だけでなく、試料を試料室に押し出すための試料への圧力印加、試料を試料室内に引き込むための試料室内でのポンプまたはその他の真空形成手段による真空形成、薄い試料室の壁面との界面張力に起因する、試料の毛管作用が挙げられる。
【0092】
センサーは、試料流の流れに関連させて使用することもできる。この形態においては、試料流は試料室を通って流れるように形成される。この流れは定期的に停止させられ、クーロメトリーなどの電気化学的方法によって被検体濃度が測定される。測定後、流れが再開し、これによってセンサーから試料が取り除かれる。あるいは、試料は、通過中に被検体のすべてが電気分解されて、被検体濃度と流速のみに依存する電流が生じるように、非常に遅い速度で試料室を通過させてもよい。
【0093】
その他の充填剤を用いて測定領域を充填し、試料体積を減少させてもよい。例えば、ガラスビーズを測定領域内に配置し、空間を占有することができる。体液が測定領域に容易に流れ込むように、充填剤は親水性であることが好ましい。この充填剤は、大きい表面積を有するガラスビーズなどの場合、その大きい表面積および親水性によって、体液を測定領域に吸上げることができる。
【0094】
全てのセンサー組立部品は、試料が確実に電極に接触しつづけ、試料室および測定領域が同体積を維持するように、堅固に結合される。これは、一定の試料体積における測定値が必要とされる場合、試料のクーロメトリー分析において重要なことである。センサーの接合方法の一例を、図1および2に示す。2つの平板38は、各々、センサーの反対側の端部に設置される。これらの平板は、通常、プラスチックなどの非導電性材料で構成される。平板は、2つの平板間のセンサーと接合するように設置される。好適な接合部材としては、接着剤、クランプ、ナットおよびボルト、ネジなどが挙げられる。
【0095】
(6)一体型の試料採取および被検体測定装置
本発明の好ましい実施形態において、本発明の原理に係る被検体測定装置52は、前述のようなセンサー20を試料採取手段50と組み合わせて含み、一体型の試料採取および測定装置を提供するものである。図6に示す試料採取手段50は、例えば、ランセットを患者の皮膚に突刺して血液流を生じさせるために押込まれる、たわみ得る弾力性の薄片56(または、バネなどのその他同様の部材)に取り付けられた、ランセットなどの皮膚突刺し部材54を含む。
【0096】
弾力性の薄片56が開放されると、皮膚突刺し部材54が引っ込む。皮膚の部材54に刺し通された領域から流れる血液は、被検体の分析のために、例えば吸収体34の吸上げ作用によって、センサー20に輸送することができる。被検体測定装置52は図示していない記録装置内に配置され、電気分析手段によって被検体濃度を測定するために、クーロメーターまたはその他の電気化学分析装置が電極タブ23、25に接続される。
【0097】
(7)センサーの動作
本発明の電気化学センサーは、次のように動作する。作用電極および対電極の間に電位を印加する。必要とされる電位の大きさは、酸化還元媒介剤に依存する。被検体が電気分解される電極の電位は、通常、電気化学反応を完了またはほぼ完了させるのに十分な大きさであるが、電位の大きさは、電流測定に影響を及ぼす尿酸塩、アスコルビン酸塩およびアセトアミノフェンなどの妨害物質の実質的な電気化学反応を誘発するには不十分な大きさであることが好ましい。通常、電位は、標準カロメル電極(SCE)に対して、約−150mVから約+400mVの間である。酸化還元媒介剤の電位は約−100mVから約+100mVの間であることが好ましくは、更には、電位は約−50mVから約+50mVの間であることが好ましい。
【0098】
電位は、試料が試料室に配置される前または後のいずれに印加してもよい。電位は、試料室が充填される際に測定領域を通過する試料が電気分解されることを防ぐため、試料が試料室に配置された後に印加されることが好ましい。電位が印加されて、試料が測定領域に存在しているときに、作用電極と対電極との間に電流が流れる。電流は、試料中の被検体の電気分解に起因するものである。この電気化学反応は、酸化還元媒介剤および随意に第2の電子伝達剤を介して生じる。多くの生体分子Bについて、プロセスは次の反応式で表される。
【0099】
【化1】
【0100】
生化学物質Bが、適当な酵素の存在下において、酸化還元媒介剤AによってCに酸化される。そして、酸化還元媒介剤Aが電極で酸化される。電極で電子が集められ、その結果生じる電流が測定される。
【0101】
一例として、本発明のセンサーは、グルコースオキシダーゼの存在下において、グルコース分子と2個の不溶脱性のヘキサシアノ鉄(III)酸アニオンとが、2個の不溶脱性のヘキサシアノ鉄(II)酸アニオンと2個のプロトンとグルコノラクトンとを生成する反応を基礎としている。存在するグルコースの量は、不溶脱性のヘキサシアノ鉄(II)酸アニオンを不溶脱性のヘキサシアノ鉄(III)酸アニオンとする電気酸化と、移動した総電荷量の測定によって分析される。
【0102】
同じ結果、すなわち酸化還元媒介剤と共同した反応経路を通る被検体の電気分解を達成する、異なる反応機構がいくつも存在することが当業者に認められる。式(1)および(2)は、このような反応の非限定的な一例である。
【0103】
本発明の好ましい実施形態においては、クーロメトリーが、被検体の濃度測定に用いられる。この測定方法は、分析過程において間隔をあけて得られた電流の測定値を利用して、被検体濃度を測定するものである。電流の測定値が時間に渡って積算され、電極へまたは電極から移動した電荷量Qが求められる。Qは、次式によって被検体濃度を算出するのに用いられる。
[被検体]=Q/nFV (3)
【0104】
ここで、nは、被検体の電気分解に要する電子当量であり、Fは、ファラデー定数(当量当たり約96.500クーロン)であり、Vは、測定領域に存在する試料の体積である。
【0105】
本発明の一実施形態においては、被検体は完全、または、ほぼ完全に電気分解される。電気化学反応中に得られた電流の測定値から電荷が算出され、被検体濃度が式(3)を用いて求められる。電気化学反応の完了は、通常、電流が定常状態の値に達したときに表われる。これは、被検体の全て、または、ほぼ全てが電気分解されたことを示す。このタイプの測定においては、通常は被検体の少なくとも90%が電気分解され、好ましくは被検体の少なくとも95%が電気分解され、更に好ましくは被検体の少なくとも99%が電気分解される。
【0106】
この方法では、被検体が速やかに電気分解されることが望まれる。電気化学反応の速度は、電極間に印加される電位と、反応(1)および(2)の速度論とを含むいくつかの要素に依存する(その他の重要な要素としては、測定領域の大きさ、測定領域における吸収体の存在が挙げられる)。一般に、電位が大きいほど、セルを通る電流は(輸送限度の最大値まで)大きくなり、よって、通常は反応が速く生じる。しかし、電位が大きすぎると、別の電気化学反応が実質的な測定誤差を誘発する。通常、酸化還元媒介剤および随意の第2の電子伝達剤だけでなく、電極間の電位もが、予測される試料中の被検体濃度に基づいて、被検体が5分未満でほぼ完全に電気分解されるように選択される。被検体は、好ましくは約2分間で、更に好ましくは約1分間でほぼ完全に電気分解される。
【0107】
本発明の別の実施形態においては、被検体が部分的にだけ電気分解される。部分的な反応の間に電流を測定し、当業者に公知の数学的方法を用いた外挿法を行い、被検体の完全またはほぼ完全な電気分解についての電流曲線を求める。この曲線の積分によって、被検体が完全またはほぼ完全に電気分解された場合に移動する電荷量が得られ、式(3)を用いて被検体濃度が算出される。
【0108】
前述した方法は、以下に述べるようなクーロメトリック測定の利点から、クーロメトリーを基礎としている。しかしながら、本発明のセンサーは、ポテンシオメトリー、アンぺロメトリー、ボルタンメトリーおよびその他の電気化学的方法を利用して被検体濃度を測定してもよいことが、当業者に認められる。電極における被検体の電気分解で得られる電流および電位は、試料温度に非常に影響されるため、これらクーロメトリー以外の方法で得られる測定値は温度に依存する。これは、未知または種々の温度において生物学的被検体およびその他の試料を測定するのに使用するセンサーの検度に、問題を与える。
【0109】
更に、これらクーロメトリー以外の電気化学的方法で得られる測定値は、センサーに供給された酵素量に影響される。酵素が時間外に不活性化または崩壊した場合、結果として得られる測定値はその影響を受ける。従って、酵素が非常に安定でない限り、このセンサーの貯蔵寿命には限界がある。
【0110】
アンぺロメトリーのようなクーロメトリー以外の電気化学的方法で得られる測定値は、測定期間において被検体の実質的に一部が電気分解される場合、悪影響を受ける。測定過程において被検体の比較的小さい部分のみが電気分解されるように、被検体が十分に存在しない限りは、正確な定常状態の測定値が得られない。
【0111】
クーロメトリーによる電気化学的方法は、これらの問題を克服する。クーロメトリーは、被検体の完全またはほぼ完全な電気分解の間に移動する、または、移動する考えられる電荷量を測定する方法である。クーロメトリーの一つは、作用電極上で被検体を電気分解し、電気分解中に作用電極と対電極との間に生じる電流を2回以上測定することを含む。電流が定常状態に達したとき、電気分解が完了する。試料の電気分解に使用された電荷は、測定された電流の時間積分によって算出される。電荷は試料中の被検体の量に直接関係するため、測定値の温度依存性はない。更に、酸化還元媒介剤の活性は測定値には影響を及ぼさず、媒介剤の時間外の崩壊が被検体濃度測定を不正確なものとしないために、測定値を得るのに要する時間のみに影響を及ぼす(すなわち、活性の低い酸化還元媒介剤は、試料の完全な電気分解を達成するのに長い時間を要する)。すなわち、電気分解による試料中の被検体の消耗は誤差の原因ではなく、むしろその方法の目的である(しかしながら、電解曲線が、既知の電気化学的原理に基づいて部分的な電解曲線から外挿される場合、被検体は完全に電気分解される必要なない)。
【0112】
試料中の被検体濃度の測定に有効な測定方法であるクーロメトリーにおいては、測定する試料の体積を正確に測定する必要がある。残念なことに、測定領域の1以上の寸法についての製造公差は大きな誤差を含むため、小体積センサーの測定領域内の試料体積(すなわち、1マイクロリットル未満)を正確に測定することが困難な場合がある。
【0113】
(8)空気酸化され得る酸化還元媒介剤
クーロメトリックセンサーにおける誤差の別の原因は、被検体に関係する電気化学反応以外の電気化学反応の存在である。酸化還元媒介剤を有するセンサーにおいて、測定誤差の潜在的な原因は、未知の混成した酸化状態にある酸化還元媒介剤の存在である(すなわち、媒介剤は既知の酸化状態に再現されない)。酸化還元媒介剤は、電極において、被検体の存在に応答してではなく、単に初期の酸化状態に起因して電気分解される。式(1)および(2)において、生化学物質Bの酸化に起因しない電流が、酸化還元媒介剤Aの試料添加前に還元形である部分の酸化に起因して流れる。このように、センサーへの試料導入前における被検体の酸化状態を知ることは重要である。更に、酸化還元仲介剤の全部またはほぼ全部が、センサーへの試料導入前に単一の酸化状態で存在することが望ましい。
【0114】
各酸化還元仲介剤は、還元形または還元された状態と、酸化形または酸化された状態とを有している。本発明の一側面においては、測定される電流に影響を及ぼす重大な影雑音を避けるため、試料導入前に還元形である酸化還元媒介剤の量は、予測される試料中の被検体量よりも十分に小さいことが好ましい。本発明の本実施形態においては、試料導入前に還元形である酸化還元媒介剤のモル量は、化学量論的に、予測される被検体濃度における被検体のモル量の好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、特に好ましくは1%未満である(被検体1分子の電気分解に2分子の酸化還元媒介剤が必要である場合、被検体導入前に還元形の酸化還元媒介剤のモル量は、予測される被検体濃度における被検体のモル量の好ましくは約20%未満、更に好ましくは10%未満、特に好ましくは2%未満となるように、被検体および酸化還元媒介剤のモル量は、適用される酸化還元反応の化学量論に基づいて比較すべきである)。還元された媒介剤の量を制御するための方法は後述する。
【0115】
本発明の別の側面においては、センサーへの試料導入前における、酸化された酸化還元媒介剤と、還元された酸化還元媒介剤との相対的な比率が、同様に構成されたセンサー間で比較的一定であることが好ましい。センサー間での大きな変動は検度の信頼性を低下させるため、同様に構成されたセンサー間でのこの比率についての変動は、還元された媒介剤から求められる検量線の使用に悪影響を及ぼす。本発明のこの側面においては、センサーへの試料導入前に還元形である酸化還元媒介剤の百分率は、同様に構成されたセンサー間で、約20%未満、好ましくは約10%未満で変動する。
【0116】
センサーへの試料導入前に還元された酸化還元媒介剤の量を制御する方法の一つは、媒介剤の還元体を酸化する酸化剤を供給することである。最も都合のよい酸化剤の一つがO2である。酸素は、通常、この酸化作用の実行にすぐに利用できる。酸素は、センサーを空気に曝露することで供給することができる。更に、大部分のポリマーおよび液体は、特別な予防手段を採らない限り、空気からO2を吸収する。通常、例えば1ヶ月以下、好ましくは1週間以下、更に好ましくは1日以下の有用期間に及ぶ保存または空気への曝露において、空気酸化され得る(すなわち、O2酸化し得る)媒介剤の少なくとも90%が酸化形で存在する。
【0117】
空気酸化(すなわち、O2酸化)でき、電子伝達能を有する好適な媒介剤については前述した。有用な媒介剤の群は、1以上の含窒素ヘテロ環を有する配位子に配位または結合したオスミウム錯体である。特に、モノ−、ジ−およびポリアルコキシ−2,2’−ビピリジンまたはモノ−、ジ−およびポリアルコキシ−1,10−フェナントロリンと錯化したオスミウムである。ここで、アルコキシ基は、水への溶解度を十分に維持するような炭素と酸素との割合を有し、空気酸化され得るものである。これらのオスミウム錯体は、通常、適当なビピリジンまたは適当なフェナントロリン配位子を2個有している。但し、2個の配位子は同種である必要はない。これらのオスミウム錯体は、更に、ピリジンおよびイミダゾールなどの含窒素ヘテロ環を1以上有するポリマーリガンドと錯化している。好ましいポリマーリガンドとしては、ポリ(4−ビニルピリジン)、更に好ましくはポリ(1−ビニルイミダゾール)、またはそれらの共重合体が挙げられる。ポリ(1−ビニルイミダゾール)またはポリ(4−ビニルピリジン)と錯化したOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2は、O2によってOs+2陽イオンがOs+3に酸化されるため、特に有用であると示されている。同様の結果が、Os[4,7−ジメトキシ−1,10−フェナントロリン]2Cl+/+2、および、別のモノ−、ジ−およびポリアルコキシビピリジンおよびフェナントロリンの、同種ポリマーとの錯体についても期待できる。
【0118】
酸化還元媒介剤の空気酸化が、被検体分析中に被検体によって還元された媒介剤の実質的な一部がO2で酸化されるほど急速である場合、空気酸化され得る媒介剤に関して複雑な問題が生じる。これは、媒介剤が、電極での電気酸化よりもむしろ酸化剤で酸化されるために、被検体の量が少なく見積もられ、不正確な分析を招く。よって、酸化還元媒介剤のO2との反応は、媒介剤の電気酸化よりもゆっくりと進行することが好ましい。通常、還元された媒介剤の5%未満、好ましくは1%未満が、分析中に酸化剤で酸化される。
【0119】
媒介剤の空気酸化の反応速度は、適当な錯化ポリマーの選択によって制御できる。例えば、酸化反応は、ポリ(1−ビニルイミダゾール)と配位結合したOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2に対して、ポリ(4−ビニルピリジン)と配位結合した同種のOs錯体よりも速く進む。適当なポリマーの選択は、予測される被検体濃度および電極間に印加される電位に依存し、これらはいずれも電気化学反応の速度を決定する。
【0120】
従って、本発明の一実施形態において好ましい酸化還元媒介剤は、以下の特性を有する。1)媒介剤は、被検体以外の試料中またはセンサー内に存在する分子のいずれとも(随意に第2の電子伝達剤を介して)反応しない。2)ほぼ全ての酸化還元媒介剤が、センサーへの試料導入前にO2などの酸化剤で酸化される。3)酸化剤による酸化還元媒介剤の酸化は、電極による媒介剤の電気酸化に比べて遅い。
【0121】
あるいは、酸化還元媒介剤が被検体の存在下で酸化され、電極で電気的に還元される場合は、酸化剤よりもむしろ還元剤が必要となる。還元剤および媒介剤の選択には、酸化剤について前述したのと同様の考察を適用する。
【0122】
本発明の電気化学センサーにおける、安定な空気酸化され得る酸化還元媒介剤の使用は、保存および包装において更なる利点を示す。空気酸化され得る酸化還元媒介剤を含む本発明のセンサーは、酸素分子を含有する雰囲気中で包装し、酸化還元種の80%以上、好ましくは90%以上を酸化形に維持しながら、例えば1ヶ月を超える長期間保存することができる。
【0123】
(9)光学センサー
本発明の空気酸化され得る酸化還元種は、別のタイプのセンサーに使用することができる。前述したオスミウム錯体は、錯化したOs+2種とOs+3種との吸収スペクトルおよび蛍光特性における相違のため、光学センサーにおける使用に好適である。酸化還元種の吸収、透過、反射または蛍光の測定値は、(被検体と酸化還元種の間での直接的または酵素などの第2の電子伝達剤を介した反応後の)試料中の被検体量と相関している。この形態においては、酸化還元媒介剤のモル量は、化学量論的に、センサーの測定領域を満たすと理論的に予測される被検体のモル量よりも大きい。
【0124】
光導型光学ファイバーセンサーを含む標準的な光学センサーおよび測定方法に、空気酸化され得る媒介剤の使用を適応させることができる。例えば、本発明の光学センサーは、空気酸化され得る酸化還元種と、好ましくは被検体に応答し得る酵素とが被覆されて膜が形成された、光透過性または光反射性の支持体を含む。支持体の膜は、試料が配置される測定領域の一つの境界を形成する。測定領域の他の境界はセルの形態で決まる。被検体を含む試料で測定領域を満たした場合、好ましくは被検体に応答し得る酵素との反応を介した、被検体による空気酸化され得る媒介剤の還元が、光の透過、吸収もしくは反射スペクトルまたは媒介剤の1以上の光波長での蛍光における変化によって検出される媒介剤の酸化状態の変化を引き起こす。
【0125】
(10)多電極センサーおよび校正
多電極センサーを、種々の理由のために使用することができる。例えば、多電極センサーは、単一の試料を用いて様々な被検体を分析するために使用することができる。多電極センサーの一実施形態は、1以上の作用電極22を順に備え、各作用電極22が異なる測定領域を定めている1以上の試料室を有する。作用電極の1以上が、例えば適当な酵素などの、第1の被検体を分析するのに適当な化学的試薬を備えており、残りの作用電極の1以上が、第2の被検体を分析するのに適当な化学的試薬を備えている。例えば、多電極センサーは、1)グルコース濃度を測定するための、検出層にグルコースオキシダーゼを備えた1以上の作用電極と、2)ラクテート濃度を測定するための、検出層に乳酸オキシダーゼを備えた1以上の作用電極とを含む。その他の組み合わせも可能である。
【0126】
多電極センサーは、結果として得られる読みの精度を改善するために使用することもできる。(全ての、または同じ被検体を検出する)作用電極の各々から測定値を得て、それを平均し、より正確な読みを得ることができる。測定値は、その値と平均値との差が限界値を超える場合は除外してもよい。この限界値は、例えば、平均測定値の標準偏差などの統計学的なパラメータに基づいて決定することができる。平均値は、除外した値を除いて再び算出してもよい。更に、特定の電極に欠陥があると推測できる場合、除外された値が得られた電極からのその後の読みを、後の分析において無視してもよい。あるいは、他の電極からの読みに基づいて除外される読みの予定数が示された後のみ、特定の電極を除外することもできる。
【0127】
精度を向上させるための多電極センサーの使用においては、各電極で複数の測定値を得て、それを平均して精度を向上させることができる。この方法は、単電極センサーで使用して精度を向上させることもできる。
【0128】
大量生産されたセンサーを使用する場合に、センサーにおける測定領域の体積変動のために、分析の誤差が発生する。測定領域の3寸法のうちの2つである長さおよび幅は、通常は比較的大きく、約1−5mmの間である。このような寸法の電極は、2%以下の変動で容易に作製できる。しかしながら、半微量の測定領域体積は、第3の寸法が、長さまたは幅よりも1または2桁小さいことを要求する。前述したように、試料室の厚みは、通常、約0.1から約0.01mmの間である。厚みに関する製造上の変動は、所望の厚みと同等またはそれ以上とすることができる。従って、測定領域内の試料体積におけるこの不確実性に関連して、方法を調整することが好ましい。
【0129】
図5に示す本発明の一実施形態においては、複数の作用電極42、44、46が基体48に備えられている。これらの電極は、図示していない対電極が配置された、図示していない別の基体で覆われており、複数の対向電極対を提供している。このセンサーにおける、電極対の作用電極と対電極との間の離間距離の変動は、かなり減少する。作用電極および対電極は、各電極対間に同一のスペーサー28を備えた単一の基体上に各々設けられる(図3参照)。
【0130】
ここで、電極対を有する測定領域の体積の正確な測定に使用でき、ノイズの低減に有用な多電極センサーの一例を示す。この例においては、1つの作用電極42には、不溶脱性の酸化還元媒介剤および不溶脱性の第2の電子伝達剤(例えば、酵素)が設けられている。吸収体が、作用電極42とそれに対応する対電極との間に配置されていてもよい。別の作用電極44は、電極上に、不溶脱性の酸化還元媒介剤を含むが、第2の電子伝達剤は存在しない。更に、この第2の電極対は、作用電極44とそれに対応する対電極との間に吸収体を備えていてもよい。随意の第3の作用電極46は、電極に結合した酸化還元媒介剤および第2の電子伝達剤を有しておらず、作用電極46とそれに対応する対電極との間には吸収体が存在していない。
【0131】
試料室の厚みは、電極46(または、吸収体が存在しない場合の電極42、44のいずれか)とそれに対応する対電極との間の、好ましくはいかなる液体もが存在しないときの、静電容量を測定することによって求められる。電極対の静電容量は、電極の表面積、電極間の間隔およびプレート間物質の誘電率に依存する。空気の誘電率は不変であるため、この電極配置の静電容量は数ピコファラドである(または、電極と対電極との間に液体が存在する場合は、大部分の生体液の誘電率は約75であるという前提で、約100ピコファラドである)。よって、電極の表面積は既知であるため、電極対の静電容量の測定は、測定領域の厚みを約1−5%の範囲内で測定することを可能にする。
【0132】
吸収体の空孔体積の量は、(第2の電子伝達剤を備えていない)電極44とそれに関係する対電極との間の、液体を添加する前および後の静電容量を測定することによって求められる。液体を添加すると、液体は大きい誘電率を有するため、静電容量は著しく増加する。液体が存在する場合および存在しない場合の静電容量を測定することにより、電極間の間隔および吸収体中の空孔体積、並びに、反応領域における液体の体積を求めることができる。
【0133】
試料導入前に不均一な酸化状態で存在する酸化還元媒介剤に起因するセンサーの誤差は、電極42および44の各々に最も近い測定領域で、同時に試料を電気分解することによって測定できる。電極44においては、第2の電子伝達剤が存在しないため被検体は電気分解されない(第2の電子伝達剤が必要であると仮定する)。しかしながら、試料導入前に混成した酸化状態にある(すなわち、いくつかの酸化還元中心は還元形であり、いくつかは酸化形である)酸化還元媒介剤の電気分解に起因して、小さな電荷が移動する(小さい電流が流れる)。この第2の電極対の間を移動する小さい電荷を、第1の電極対の間を移動する電荷から差し引いて、酸化還元媒介剤の酸化状態に起因した誤差を実質的に除去することができる。この操作は、容量性の充電および誘導性の電流に関連する誤差だけでなく、アスコルビン酸塩、尿酸塩およびアセトアミノフェンなどの電気分解される別の妨害物質に関連する誤差をも低減する。
【0134】
別の電極配置においても、これらの方法(すなわち、不確定成分の不存在下における静電容量測定および電量測定)を使用して、妨害物質および測定する試料体積に関する不正確な知識に起因する影雑音および誤差を低減できる。1以上の電極対および前述した1以上の測定値を含むプロトコルが明らかにされ、それは本発明の範囲内である。例えば、静電容量測定には1つの電極対を要するが、便宜的に追加的な電極対を使用してもよい。
【0135】
(実施例)
以下の実施例によって、本発明を更に説明する。これらの実施例は、先に前述の説明において十分に示された本発明の範囲を限定するものではない。本発明の概念の範囲内での変形が当業者に明らかである。
【実施例1】
【0136】
(グルコース濃度測定のための小体積インビトロセンサーの作製)
図1に示した本発明の実施形態に対応させてセンサーを構成した。作用電極をマイヤーフィルム(デュポン)上に形成した。マイヤーフィルムは、厚さが0.175mm、直径が2.5cmであった。約1cmの直径を有する厚さ約12ミクロンのカーボンパッドを、マイヤーフィルム上にスクリーン印刷した。厚さが12μmであり、中心に直径4mmの開口部を有する水に不溶性の誘電性絶縁体(インスレイヤー(Insulayer))で、炭素電極を被覆した。
【0137】
誘電体で被覆されていない炭素電極の中心部は、酸化還元媒介剤で被覆した。酸化還元媒介剤は、タイラー(Taylor)等、ジャーナル オブ エレクトロアナリティカル ケミストリー(J.Electoroanal.Chem.,)396:511(1995)に記載されているように、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを用いてオスミウムポリマーとグルコースオキシダーゼとを結合することによって得られたOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl2と、ポリ(1−ビニルイミダゾール)を錯化させることによって生成した。酸化還元媒介剤におけるオスミウムとイミダゾール官能基との比は、約1:15であった。厚さ0.6μm、直径4mmの層状である作用電極上に、媒介剤を配置した。電極上における媒介剤のカバレッジは約60μg/cm2(乾燥重量)であった。電極の媒介剤で被覆された表面を取り囲むように、電極上にスペーサー材を配置した。スペーサーは、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)製であり、厚さは約0.040mmであった。
【0138】
吸収体を、作用電極の媒介剤で被覆された表面に接触させて配置した。吸収体は、ナイロン(テトコ ニテックス ナイロン3−10/2(Tetko Nitex nylon 3−10/2))製であり、直径5mm、厚さ0.045mm、空孔体積が約20%であった。測定領域内の試料体積を、吸収体および電極の寸法および特性から算出した。測定領域は、直径4mm(電極表面を被覆する媒介剤の直径)、厚さ0.045mm(ナイロン吸収体の厚さ)であり、0.57μLの容積を有していた。この空間の約80%がナイロンで充填されており、残りの20%がナイロン吸収体内の空孔である。結果として得られた測定領域内の試料体積は、約0.11μLであった。
【0139】
対/参照電極を、スペーサーおよび吸収体の作用電極とは反対側の面に、2つの電極が互いに対向するように接触させて配置した。対/参照電極は、約1cmの直径を有する厚さ12ミクロンの銀/塩化銀層をスクリーン印刷した、厚さ0.175mm、直径約2.5cmのマイヤーフィルムで構成した。
【0140】
電極組立品の両側に配した平板を用いて、電極、吸収体およびスペーサーを合わせて加圧した。平板はポリカーボネートプラスティックで形成し、しっかりと締めてセンサーとともに保存した。電極は、使用前に48時間空気中で保存した。
【0141】
タブは、作用電極および対/参照電極の両方から伸ばし、分析装置と電気的に接続した。ポテンショスタットを使用し、作用電極を陰極として、作用電極と対/参照電極との間に+200mVの電位差を加えた。電極間に導電性の経路が存在しないため、予測されることではあるが、試料の不存在下では電極間に電流は流れなかった。
【0142】
試料室内のナイロン吸収体からの拡張部として形成されたナイロン吸収体の小タブを介して、試料を導入した。試料と吸収体タブとが接触すると、液体は吸収体に吸上げられた。試料室が満たされ、試料が電極に接触すると、電極間に電流が流れた。試料中のグルコース分子が作用電極上のグルコースオキシダーゼに接触すると、グルコース分子がグルコノラクトンに電気酸化された。次に、オスミウム酸化還元中心が作用電極との反応によって再び酸化された。これにより電流が得られ、この電流をクーロメトリー(イー ジー アンド ジー プリンストン アプライド リサーチ モデル#173(EG&G Princeton Applied Research Model#173))によって測定すると同時に積分した。
【0143】
電気化学反応は、95%を超えるグルコースが電気的に還元されたことを示す定常状態の値に電流が達するまで続けた。一定の間隔をおいた電流測定によって得られた電流曲線を積分し、電気化学反応の間に移動した電荷量を求めた。この電荷を既知のグルコース濃度に対してプロットし、検量線を作成した。
【0144】
人工脳脊髄液の緩衝液または調整血清(バクスター−デイド、モニトロール レベル1、マイアミ、エフ エル(Baxter−Dade,Monitrol Level1,Miami,FL))中に既知濃度のグルコースを、3−20mMグルコースの範囲で含む溶液の0.5μLアリコートを用いて、センサーを試験した。人工脳脊髄液は、次の塩の混合物として調整した:126mMのNaCl、27.5mMのNaHCO3、2.4mMのKCl、0.5mMのKH2PO4、1.1mMのCaCl2・2H2O、0.5mMのNa2SO4。
【0145】
分析結果を表1および図7に示す。表1において、Qavgは、3〜6個の同一測定用試料におけるグルコースの電気分解に使用された平均電荷(図7は各測定用試料についての電荷を示す)であり、90%立上り時間(90% rise time)は、グルコースの90%が電気分解されるのに要する時間に相当する。データは10−20%のセンサー精度を示し、生理学的に関連する範囲内(30μg/dL−600μg/dL)はもちろん、低グルコース濃度に対しても十分なセンサー感度が示された。
【0146】
【表1】
【0147】
グルコース濃度の平均測定値を1以上の方程式に適合させて、検量線を得た。図8に、表1のグルコース/緩衝液のデータに対する検量線を示す。15.0mMグルコースの測定値の一つは、測定値の平均値から標準偏差の2倍以上離れていたため、この計算から除外した。高グルコース濃度(10−20mM)は一次方程式に適合した。低グルコース濃度は二次多項式に適合した。
【0148】
図9は、不正確なグルコース濃度測定に基づく誤差結果を求めるために、クラーク(Clark)等、ディアベーツ ケア(Diabetes Care)、5、622−27、1987で開発された誤差格子(error grid)上にプロットした表1のデータを示す。グラフは、「正確な」グルコース濃度に対して、測定したグルコース濃度をプロットしたものである。なお、測定したグルコース濃度は、図7の各データ点に対する図8の検量線を用いてグルコース濃度を算出することによって求めた。A領域内の点は正確であり、B領域内の点は臨床的に許容され、C、DおよびE領域内の点は更に不適当であり、ついには危険な処置を招くものである。
【0149】
34個のデータ点が得られた。データ点のうち、91%がA領域にあり、6%がB領域にあり、3%がC領域にあった。1つの記録だけが、C領域に存在するように測定された。この記録は評価から除外され、図9に示されていない。従って、97%の記録が臨床的に許容される領域AおよびBに存在した。
【0150】
Os原子の総数が、Osの全てを還元し、その後に試料室においてグルコースを含有しない緩衝液で電気酸化することによって測定された。その結果、59.6±5.4μCの電荷が測定された。この結果と、表1のグルコースを含有しない緩衝液の結果との比較により、Osの20%未満が試料導入前に還元形で存在することが示された。還元形のオスミウム量の変動性は、存在するオスミウムの総量の5%未満である。
【実施例2】
【0151】
(妨害物質に対するグルコースセンサーの応答)
実施例1として前述したものと同様に構成したセンサーを使用し、妨害物質に対するセンサーの応答を調べた。血中グルコース測定に対する主な電気化学的妨害物質は、アスコルビン酸塩、アセトアミノフェンおよび尿酸塩である。これら一般的な妨害物質の、通常の生理学上または治療上(アセトアミノフェンの場合)の濃度範囲は、
アスコルビン酸塩:0.034−0.114mM
アセトアミノフェン:0.066−0.200mM
尿酸塩(成人男子):0.27−0.47mM
である。ティーツ(Tietz)、テキストブック オブ クリニカル ケミストリー、シー.エー.バティスおよびイー.アール.アシュウッド編、ダブリュ.ビー.サンダース コー.、フィラデルフィア1994年、2210−12頁(Textbook of Clinical Chemistry,C.A.Burtis and E.R.Ashwood,eds.,W.B.Saunders Co.,Philadelphia 1994,pp2210−12)。
【0152】
グルコースを含有しない妨害物質緩衝溶液を、上記生理学上または治療上範囲の上限の妨害物質濃度で測定した。各測定において注入される試料体積は、0.5μLであった。+100mVまたは+200mVの電位を電極間に印加した。妨害物質が存在する場合に記録された平均信号から、緩衝液のみの(すなわち、妨害物質を含有しない)溶液から得られた平均バックグラウンド電流を差し引くことによって、平均電荷(Qavg)を算出した。結果として得られた平均電荷を、表1から得られるグルコース濃度4mMおよび10mMに対する信号と比較し、妨害物質に起因する誤差の割合を求めた。
【0153】
【表2】
【0154】
これらの結果は、アスコルビン酸塩およびアセトアミノフェンは、特に低電位測定においては、グルコースセンサーに対する実質的な妨害にはならないことが示された。しかしながら、尿酸塩は重大な妨害を与える。例えば、これらの結果からの外挿によって求めた適当な電荷量を、センサーのグルコース測定値の全てから差し引くなど、0.37mMの尿酸塩濃度に対するセンサーの応答を校正することによって、この妨害を最小化できる。尿酸塩濃度の0.10mMの変化(尿酸塩濃度の範囲は成人男性で0.27−0.47mM)に起因する誤差は、4mMグルコースおよび100mVにおいて約6%である。
【実施例3】
【0155】
(グルコースデヒドロゲナーゼを備えたセンサー)
グルコースオキシダーゼをピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼに代え、実施例1の+200mVの電位に対するものとして+100mVの電位を印加すること以外は、実施例1の記載と同様のセンサーを作製し、本実施例において使用した。結果を、下表3および図10のグラフに示す。
【0156】
【表3】
【0157】
結果より、グルコースデヒドロゲナーゼセンサーから得られる電荷は、特に低グルコース濃度において、比較用のグルコースオキシダーゼセンサーよりも更に大きいことが示された。4mMグルコース濃度に対して、2種のセンサーで得られた測定値は5ファクター(factor of five)相違した。更に、グルコースデヒドロゲナーゼセンサーは低電位で動作し、故に妨害反応の影響が低減される。
【0158】
更に、実施例1の結果に対して、表3の結果は、図10に示すように全てが一次方程式に適合した。単一の線形検量線は、単純なセンサー構成および動作に非常に好ましい。
【0159】
また、表2の妨害物質の結果がこのセンサーに適用できると仮定すると、全ての妨害物質は、電位100mVにおいて、3mMグルコース溶液に対して、7%未満の誤差を誘発する。
【実施例4】
【0160】
(体液流中の乳酸塩濃度の測定)
本実施例のセンサーは、ガラス質炭素電極を備えたフローセル(バイオアナリティカルシステム,インク.#MF−1025(BioAnalytical System,Inc. #MF−1025)を用いて構成した。フリーセルの電極を酸化還元媒介剤で被覆し、作用電極を得た。この場合、酸化還元媒介剤は、ポリ(1−ビニルイミダゾール)とOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl2とを、イミダゾール官能基15個毎にオスミウム1個の比率で錯化させることによって生成したポリマーであった。乳酸オキシダーゼを、ポリエテレングリコールジグリシジルエーテルを介してポリマーと結合させた。媒介剤は、カバレッジ500μg/cm2、厚さ5μmで電極を被覆することとした。媒介剤は、液流中での付着を改善するため、トラックエッチングした(track−etched)ポリカーボネート膜(オズモニクス−ポアティクス#10550(Osmonics−Poretics#10550))で被覆した。膜上には、試料室を限定し、測定領域に相当する空隙を含む、単一の50μ厚のスペーサーガスケット(バイオアナリティカルシステム,インク.#MF−1062)を配置した。フローセルを参照電極および補助電極を含むセル台(バイオアナリティカルシステム,インク.#MF−1005)に取付けることによって、センサーの組立が完了した。
【0161】
この場合、試料室は、媒介剤で被覆された0.031cm2の表面積を有する電極と接触した、厚さ50μmの円筒に相当する。このセンサーの測定領域内の試料体積は、約0.16μLと算出された。
【0162】
体液流の流速は5μL/分であった。標準三電極ポテンショスタットをセルのリードに取付け、酸化還元媒介剤で被覆されたガラス質炭素電極と参照電極との間に、+200mVの電位を印加した。この電位は、ラクテートの酵素を介した酸化を引き起こすのに十分である。
【0163】
体液流はセンサーを流れ、ラクテート濃度に比例した定常状態電流が測定された。周期的な間隔で体液流を停止し、電極間に電流を、安定化した定常状態の電流の達成が示されるように、測定領域内のほぼ全てのラクテートを電気酸化するまで流した。電流が定常状態に達するまでの流れの停止から記録される示差的電流の積分によって、ラクテートの電気酸化に要する総電荷Qを求めた。そして、濃度を下記式によって算出した。
[ラクテート]=Q/2FV (4)
【0164】
ここで、Vは、測定領域内の試料の体積であり、Fは、ファラデー定数である。
【0165】
この分析は、名目上のラクテート濃度が1.0、5.0および10.0mMであるラクテート溶液を用いて行った。分析により測定された濃度は、各々、1.9、5.4および8.9mMであった。
【実施例5】
【0166】
(ポリ(1−ビニルイミダゾール)と錯化したOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2の酸化状態の測定)
三電極構造のセンサーを、エコセンサーズ リミテッド、ロングハンボロー、イギリス(Ecosennsor Ltd.,Long Hanborough,England)からモデル名「大面積使い捨て電極(large area disposable electrode)」として、商業的に入手した。センサーは、平行に且つ同一平面上に存在する作用電極、参照電極および対電極を含む。作用面領域(0.2cm2)および対電極は印刷した炭素で形成し、参照電極は印刷したAg/AgClで形成した。酸化還元媒介剤で、炭素作用電極を被覆した。酸化還元媒介剤は、ポリ(1−ビニルイミダゾール)とOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl2とを、Os陽イオン1個にイミダゾール官能基15個の比率で錯化し、続いてポリエテレングリコールジグリシジルエーテルを用いてオスミウムポリマーをグルコースオキシダーゼと結合することによって生成した。
【0167】
電極を、室温で24時間硬化させた。同一平面上の電極アレーを緩衝化電解液に浸し、作用電極と参照電極との間に+200mVの電位(Os(II)からOs(III)に変換するのに十分な電位)を印加した。
【0168】
電位印加時には、検出不能な1μC未満の電荷が移動した。その後の酸化還元媒介剤の還元および酸化によって、全てのOsの形態がOs(II)からOs(III)に変換するのに、65μCの電荷が得られた。すなわち、酸化還元媒介剤中のOs陽イオンの98%が、所望の酸化されたOs(III)形であった。
【実施例6】
【0169】
(ポリ(4−ビニルピリジン)と錯化したOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2の酸化状態の測定)
作用電極上の酸化還元媒介剤を、ポリエテレングリコールジグリシジルエーテルを介してグルコースオキシダーゼと結合した、Os陽イオン毎にピリジン基12個を有する、Os[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2のポリ(4−ビニルピリジン)との錯体に変えること以外は、同様の作用/対/参照電極配置で、実施例5と同様の実験を行った。
【0170】
2個のセンサーを作製した。2個のセンサーの電極は、室温で24時間硬化させた。そして、電極を緩衝化電解液に浸し、作用電極と参照電極との間に+200mVの電位を印加した。
【0171】
電極への電位印加時に、2個のセンサーにおいて、各々、2.5μCおよび3.8μCの電荷が移動した。その後の酸化還元媒介剤の還元および酸化によって、各々、27.9μCおよび28.0μCの酸化電荷が得られた。すなわち、センサーは初め、Os陽イオンの91%および86%を所望の酸化されたOs(III)形で含んでいた。
【実施例7】
【0172】
(光学センサー)
ガラススライドなどの透光性支持体上に結合した酵素を含む、酸化還元ポリマーフィルムを適用して、光学センサーを作製する。酸化還元媒介剤の量は、測定領域を満たすと予測される被検体の最大量と、(化学量論的な意味において)同等またはそれ以上とする。スペーサー、吸収体および対向する支持体をしっかりと締め付ける。試料室は、光が組立てられたセンサーを通って光学密度検出器または蛍光検出器に伝達するように適応させる。試料で試料室を満たし、酸化還元媒介剤が酸化されたときの、室内の酸化還元媒介剤の吸収、透過、反射または蛍光の変化を、試料中のグルコース量と相関させる。
【実施例8】
【0173】
(上腕ランセットスティックからの血液体積)
本方法で得られた血液体積の再現性を測定するため、一人の被験者の前腕をランセットで複数回突刺した。各前腕の前面部分および左前腕の背面領域に13本を超えるランセットスティックを突刺したにもかかわらず、被験者は各スティックを実質的に痛みがないと認識した。
【0174】
前腕は、ペイレスカラーランセット(Payless Color Lancet)で突刺した。各スティックからの血液は1μLの毛細管を用いて採取し、その体積は血液柱の長さを測定で求めた。各スティックから得られた体積を表4に示す。
【0175】
【表4】
【0176】
本発明を、種々の特定および好適な実施形態および方法を参照して説明した。しかしながら、本発明の趣旨および範囲内において、多くの変形または改良が可能であることは、通常の当業者に明らかである。
【0177】
本明細書中の全ての刊行物および特許出願は、本発明に関する通常の当業者の水準を示すものである。全ての刊行物および特許出願を、各々の刊行物または特許出願を参考として特記および別記した場合と同様の範囲で、ここに参考として取り入れる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、小体積試料中の生物学的被検体の検出のための分析センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
分析センサーは、化学及び医学において、生物学的被検体の存在及び濃度を測定するのに有用である。このようなセンサーは、例えば、糖尿病患者におけるグルコースおよび臨床治療におけるラクテートを監視するのに必要である。
【0003】
現在利用されている方法は、比較的大きい試料体積中の被検体を測定するものであり、例えば、一般に3マイクロリットル以上の血液またはその他の生体液を要する。この液体試料は、例えば、針およびシリンジを用いて患者から採取されるか、または、指先などの皮膚の一部を切開し、その領域を「ミルキング(milking)」して有効な試料体積を得ることによって患者から採取される。特に頻繁に試料が必要となる場合、これらの操作は患者にとっては不便であり、しばしば痛みを伴う。神経終端密度が低い腕または腿を切開するなど、痛みの少ない試料採取方法が知られている。しかしながら、好適な領域における身体の切開においては、これらの領域がそれほど多くの近表面毛細血管(near−surface capillary vessel)を有していないことから、通常、半微量の血液試料が採取される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,264,104号明細書
【特許文献2】米国特許第5,356,786号明細書
【特許文献3】米国特許第5,262,035号明細書
【特許文献4】米国特許第5,320,725号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、小体積試料中における被検体濃度の正確で感度の高い分析の実行を可能にする、比較的痛みが少なく、容易に使用できるセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のセンサーは、半微量試料中における被検体を検出および定量する方法を提供する。一般に本発明は、好ましくはクーロメトリーによって、小体積試料中の被検体を分析する方法およびセンサーを含む。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明によれば、小体積試料中における被検体濃度の正確で感度の高い分析の実行を可能にする、比較的痛みが少なく、容易に使用できるセンサーとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、互いに対向する作用電極および対電極を有する、本発明の原理による電気化学センサーの第1の実施形態の概略図である。
【図2】図2は、同一平面上に配置された作用電極および対電極を有する、本発明の原理による電気化学センサーの第2の実施形態の概略図である。
【図3】図3は、互いに対向する作用電極および対電極と、拡張した試料室とを有する、本発明の原理による電気化学センサーの第3の実施形態の概略図である。
【図4】図4は、酸化還元媒介剤、試料室および電極の相対位置を示す、図1または3のセンサーの一部についての、縮尺を考慮しない(not−to−scale)側断面図である。
【図5】図5は、本発明の原理による多電極センサーの一実施形態の上面図である。
【図6】図6は、試料採取手段および図4のセンサーを有する、本発明の原理による被検体測定装置の一実施形態の透視図である。
【図7】図7は、第2の電子伝達剤としてグルコースオキシダーゼを備えた図1のセンサーを用いて、電解質の緩衝溶液(黒丸)または血清溶液(白丸)中の既知量のグルコースを電気酸化するのに要する電荷のグラフである。
【図8】図8は、図7のデータ(緩衝溶液のみ)に対する平均グルコース濃度のグラフを、平均値に適合するように算出された検量線とともに示した図である。線形の検量線は10−20mMの濃度に対して算出されたものであり、二次多項式の検量線は0−10mMの濃度に対して算出されたものである。
【図9】図9は、図7グルコースの測定値の臨床的な適合性を分析する、クラーク型臨床グリッド(Clark−type clinical grid)である。
【図10】図10は、第2の電子伝達剤としてグルコースデヒドロゲナーゼを備えた図1のセンサーを用いて、電解質の緩衝溶液中の既知量のグルコースを電気酸化するのに要する電荷のグラフである。
【図11】図11A、11Bおよび11Cは、本発明の電気化学センサーの第3の実施形態の上面図である。
【図12】図12Aおよび12Bは、基体の凹部を用いて形成された、本発明の電気化学センサーの別の実施形態の断面図である。
【図13】図13Aおよび13Bは、基体の凹部内に形成された、本発明または電気化学センサーの更に別の実施形態の断面図である。
【図14】図14Aおよび14Bは、基体の凹部および吸収体を用いて形成された、本発明の電気化学センサーの更に別の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のバイオセンサーは、好ましくは作用電極上に固定化された、不溶脱性(non−leachable)の酸化還元媒介剤、好ましくは空気酸化され得る酸化還元媒介剤を利用している。バイオセンサーは、試料を作用電極と電解的に(electrolytic)接触させて保持する試料室を含む。好ましい実施形態においては、作用電極が対電極と対向し、試料室内の2つの電極間に、約1μL未満、好ましくは約0.5μL未満、更に好ましくは0.1μL未満の試料を含む大きさの測定領域が形成されている。試料室および測定領域を満たすのに要する試料の体積を減少させるため、随意に吸収体が試料室および測定領域に配置されている。
【0010】
本発明の一実施形態においては、半微量試料中の生物学的被検体を正確且つ効率よく測定するために、電気化学的なクーロメトリック検知の効率と、不溶脱性の酸化還元媒介剤とを組み合わせたバイオセンサーが提供される。好適なセンサーは、電極と、電極上に存在する不溶脱性の酸化還元媒介剤と、試料を電極と電気的に接触させて保持する試料室と、好ましくは試料室の容積を減少させるために試料室内に配置された吸収体とを含む。試料室は、吸収体とともに、通常約1μL未満、好ましくは約0.5μL未満、更に好ましくは0.1μL未満の試料体積の分析が行える大きさに設定される。
【0011】
本発明の一実施形態は、まず試料を電気化学センサーに接触させ、次に被検体濃度を測定することによって、試料中の被検体濃度を測定する方法を含む。電気化学センサーは、作用電極および対電極を含む対向電極対と、2つの電極間に配置された測定領域を含む試料室とを含む。測定領域は、約1μL未満の試料を含む大きさである。
【0012】
本発明は、2以上の対向電極対を備えた電気化学センサーを含む。各電極対は、作用電極と、対電極と、2つの電極間に存在する測定領域とを有し、測定領域は約1μL未満の試料を保持する大きさである。更に、センサーは、少なくとも1つの電極対の作用電極上に存在する不溶脱性の酸化還元媒介剤を含む。
【0013】
本発明の1つの側面は、試料を電気化学センサーに接触させて、クーロメトリーで被検体濃度を測定することによって、試料中の被検体濃度を測定する方法である。電気化学センサーは、作用電極および対電極を含む電極対を含む。センサーは、試料を作用電極と電解的に接触させて保持する試料室を含む。試料室内には、試料室を約1μL未満の試料を含む大きさとするように、試料室を満たすのに要する試料体積を減少させる吸収体が存在する。
【0014】
本発明は、約1μL未満の体積の試料中の被検体濃度を測定するセンサーおよび方法を含む。このセンサーは、支持体と、支持体を被覆する空気酸化され得る酸化還元媒介剤とを有する。空気酸化され得る酸化還元媒介剤の少なくとも90%は、試料の導入前に酸化形で存在する。この方法は、試料をセンサーに接触させる工程と、試料中の被検体濃度を、試料存在下における酸化還元媒介剤の酸化状態の変化と関係づける工程とを含む。本発明の本側面に係るセンサーおよび方法は、限定するものではないが、電気化学的および光学的センサーを対象とする。光学センサーの場合、被検体濃度を酸化還元媒介剤の酸化状態の変化と相関させる工程は、例えば、酸化還元媒介剤に光を照射する工程と、光照射に対する前記酸化還元媒介剤の応答を測定する工程と、試料中の被検体濃度を、測定された前記酸化還元媒介剤の応答と相関させる工程とを含む。また、電気化学センサーの場合、被検体濃度を酸化還元媒介剤の酸化状態の変化と相関させる工程は、例えば、酸化還元媒介剤に電位を印加する工程と、被検体存在下での前記酸化還元媒介剤の電気分解に対する応答において発生する電流を、1以上の間隔をおいて測定する工程と、試料中の被検体濃度を、測定された電流と相関させる工程とを含む。
【0015】
本発明の更なる側面は、試料中の被検体を測定する本発明のセンサーだけでなく、患者試料を得るための試料採取手段を含む、一体型の試料採取および被検体測定装置である。この装置は、まず患者を装置に接触させて、次に好ましくはクーロメトリーで被検体濃度を測定することによって、患者試料中の被検体を測定するのに使用される。
【0016】
本発明の別の側面は、第1の電極対および第2の電極対を含む電気化学センサーに試料を接触させることによって、少ない誤差で試料中の被検体濃度を測定する方法である。各電極対は、作用電極と、試料を作用電極に電解的に接触させて保持する試料室とを有し、試料室は約1μL未満の試料を含む大きさである。第1の電極対は、作用電極上に不溶脱性の酸化還元媒介剤および不溶脱性の酵素を有している。第2の電極対は、酵素を有しない状態で作用電極上に不溶脱性の酸化還元媒介剤を有している。この方法は、更に、第1の電極対で発生する第1の電流と、第2の電極対で発生する第2の電流とを実質的に同時に、2回以上測定する工程を含む。測定された第1の電流および第2の電流が個別に積算され、第1の電荷および第2の電荷が各々得られる。第1の電荷から第2の電荷を差し引かれ、試料中の被検体濃度と相関するノイズが低減された電荷が得られる。この方法は、妨害物質または試料導入前の酸化還元媒介剤の混在した酸化状態に起因する誤差を除去するのに使用できる。
【0017】
本発明に係る試料中の被検体濃度を測定するための別の方法は、1以上の対向電極対を有し、各対向電極対は、作用電極と、対電極と、作用電極および対電極の間に存在する測定領域とを有しており、1以上の電極対の測定領域が約1μL未満のほぼ同等の容積を有している電気化学センサーを用意する工程を含む。センサーは、少なくとも1つの電極対の作用電極上に酸化還元媒介剤を有している。この方法は、更に、1つの電極対の静電容量を測定する工程と、静電容量の測定値から前記電極対の測定領域の容積を算出する工程とを含む。更に、センサーを試料と接触させて、試料中の被検体濃度をクーロメトリーによって測定する。
【0018】
本発明の更なる側面は、酸素分子を含む雰囲気下でセンサーを包装する工程を含む、分析センサーの保存および包装方法である。本発明の本側面に係るセンサーは空気酸化され得る酸化還元媒介剤を含む。
【0019】
本発明の一実施形態は、試料を電気化学センサーに接触させ、約1μL未満の試料を電気分解し、クーロメトリーで被検体濃度を測定することによって、試料中の被検体濃度を測定する方法である。本発明の本実施形態に係るセンサーは、作用電極と、作用電極上に存在する不溶脱性の酸化還元媒介剤とを含む。センサーへの試料導入前に還元形である不溶脱性の酸化還元媒介剤のモル量は、化学量論的に、電気分解される被検体の予測されるモル量の5%未満である。
【0020】
試料中の被検体濃度の別の測定方法は、作用電極と、対電極と、少なくとも2方が2つの電極で境界づけられた測定領域とを有する電気化学センサーに、試料を接触させる工程を含む。測定領域は、約1μL未満の試料を含む大きさである。試料中の被検体濃度は、クーロメトリーによって測定される。
【0021】
本発明を特徴づけるこれらの形態およびその他の様々な形態は、添付のクレームに詳細に示される。本発明、その利点およびその使用によって達成される目的のより良い理解のため、本発明の好ましい形態を図示および説明する図面および添付の明細書を参照する。
【0022】
本発明のセンサーを用いた、試料中の被検体濃度を測定する方法としては、本発明の電気化学センサーに試料を接触させる工程と、クーロメトリーによって前記試料中の被検体濃度を測定する工程とを含む方法が挙げられる。
【0023】
前記方法においては、接触させる工程が、試料を吸収体に接触させ、前記試料を試料室または測定領域に吸上げることによって実施されることが好ましい。また、試料室が、毛管作用によって満たされることが好ましい。
【0024】
また、前記方法においては、被検体濃度を測定する工程が、作用電極と対電極との間に電位を印加することによって、測定領域に存在する被検体の少なくとも90%を5分未満で電気分解する工程と、前記被検体を電気分解するのに用いられた電荷を測定する工程と、前記電荷を試料中の被検体濃度と相関させる工程とを含み、測定する工程が、前記被検体が電気分解されるときに、作用電極で発生する電流を2回以上測定する工程と、測定された電流を時間に渡って積算し、前記被検体を電気分解するのに用いられた電荷を得る工程とによって実施されることが好ましい。
【0025】
また、前記方法においては、被検体の少なくとも90%を電気分解する工程が、作用電極と対電極との間に電位を印加することによって、測定領域に存在する被検体の少なくとも90%を1分未満で電気分解する工程を含むことが好ましい。
【0026】
また、前記方法においては、クーロメトリーによって被検体濃度を測定する工程が、作用電極と対電極との間に電位を印加することによって、被検体の一部を電気分解する工程と、電気分解の間に、作用電極で発生する電流を2回以上測定する工程と、測定された電流に基づいて電流曲線を外挿する工程と、前記電流曲線を時間に関して積分し、被検体の少なくとも90%を電気分解するのに要する電荷を得る工程と、前記電荷を試料中の被検体濃度と相関させる工程とを含むことが好ましい。
【0027】
また、前記方法においては、電気化学センサーが、第1の電極対および第2の電極対を含み、各対が作用電極を含んでおり、前記第1の電極対が不溶脱性の酸化還元媒介剤および不溶脱性の酵素を作用電極上に含み、前記第2の電極対が酵素を含まずに不溶脱性の酸化還元媒介剤を作用電極上に含むことが好ましい。
【0028】
また、前記方法においては、被検体濃度を測定する工程が、第1の電極対で発生する第1の電流および第2の電極対で発生する第2の電流を実質的に同時に、2回以上測定する工程と、測定された前記第1の電流を時間に渡って積算し、第1の電荷を得る工程と、測定された前記第2の電流を時間に渡って積算し、第2の電荷を得る工程と、前記第1の電荷から前記第2の電荷を差し引き、ノイズが低減された電荷を得る工程と、被検体濃度を、ノイズが低減された電荷と相関させる工程とを含むことが好ましい。
【0029】
また、前記方法においては、センサーが作用電極上に酸化還元媒介剤を含み、試料導入前に還元形である前記酸化還元媒介剤のモル量が、化学量論的に、電気分解される被検体の予測されるモル量の5%未満であり、被検体濃度を測定する工程が、1μL未満の試料を電気分解する工程を含むことが好ましい。
【0030】
ここで、下記用語は次の定義によって定義される。
【0031】
「空気酸化され得る媒介剤」とは、好ましくは、例えば1ヶ月以下、好ましくは1週間以下、更に好ましくは1日以下の有用な期間内における空気中での保存時に、媒介剤の少なくとも90%が酸化形となるように、空気によって酸化される酸化還元媒介剤である。
【0032】
「生体液」とは、被検体の測定が可能なあらゆる体液であり、例えば、血液、間隙液(interstitial fluid)、皮膚液(dermal fluid)、汗および涙である。
【0033】
本発明の文脈において「血液」という用語は、全血液と、無細胞成分、すなわち血漿および血清とを含む。
【0034】
「クーロメトリー」とは、電極上で直接または1以上の電子伝達剤を介して生じる被検体の完全またはほぼ完全な電気分解の間に、移動または移動すると考えられる電荷の測定である。電荷は、被検体の部分的またはほぼ完全な電気分解中に移動する電荷の測定、または、しばしば、電気分解中の減衰電流および経過時間の多重測定によって測定される。減衰電流は、電気分解によって生じる、電気分解される種の濃度低下に起因する。
【0035】
「対電極」とは、作用電極と対を成す電極であって、作用電極を流れる電流と大きさが等しく、符号が反対の電気化学的な電流が流れる電極を意味する。本発明の文脈において「対電極」という用語は、参照電極としても機能する対電極(すなわち、対/参照電極)を含む意味を持つ。
【0036】
「電気化学センサー」とは、センサーにおける電気化学的な酸化還元反応によって、被検体の存在を検出および/または被検体の濃度を測定するように構成された装置である。この反応は、被検体の量または濃度と相関する電気信号に変換される。
【0037】
「電気分解」とは、1つの電極上で、直接または1以上の電子伝達剤を介して生じる、化合物の電気酸化または電気還元である。
【0038】
「対向電極対」という用語は、作用電極の作用面が対電極の表面とほぼ対向するように配置され、作用電極と対電極との間の距離が作用電極の作用面の幅よりも小さくなるような、作用電極および対電極の配置に関する。
【0039】
化合物は、表面に入り込むか、または化学的に結合して、表面に「固定化」される。
【0040】
「測定領域」とは、ここでは、試料の被検体分析で測定される部分のみを含む大きさに設定された、試料室の一部として定義される。
【0041】
「不溶脱性」または「不放出性(non−releasable)」の化合物とは、被検体分析の期間において、作用電極の作用面から実質的に拡散しない化合物である。
【0042】
「酸化還元媒介剤」とは、被検体と作用電極との間で、直接または第2の電子伝達剤を介して、電子を輸送する電気伝達剤である。
【0043】
「第2の電子伝達剤」とは、酸化還元媒介剤と被検体との間で電子を輸送する分子である。
【0044】
「吸収体」とは、その空孔体積において、液体試料を吸上げ(wick)、保持するか、または液体試料で湿らされる物質であって、被検体の電極への拡散を実質的に妨げない物質である。
【0045】
「作用電極」とは、被検体が、酸化還元媒介剤の仲介あり、または仲介なしで、電気酸化または電気還元される電極である。
【0046】
「作用面」とは、作用電極の、酸化還元媒介剤で被覆され、試料に曝されるように配置された部分である。
【0047】
本発明の小体積インビトロ被検体センサーは、試料の、約1μL未満、好ましくは約0.5μL未満、更に好ましくは0.2μL未満、最も好ましくは0.1μL未満の体積を有する部分の被検体濃度を測定するように設計されている。対象となる被検体は、通常、血液または血清のような溶液または生体液として提供される。図面全般、特に図1〜4を参照すると、本発明の小体積インビトロ被検体センサー20は、通常、作用電極22、対電極(または対/参照電極)24および試料室26(図4を参照)を含む。試料室26は、試料が室内に供給されたとき、試料が作用電極22および対電極24の両方に電解的に接触するように構成されている。これにより、電流が電極間を流れ、被検体の電気分解(電気酸化または電気還元)を行うことが可能となる。
【0048】
(1)作用電極
作用電極22は、成形された炭素繊維複合体で形成することができ、または、ポリエステルなどの不活性の非導電性基体上に適当な導電層を形成したもので構成することもできる。導電層は、比較的低い電気抵抗を有し、動作中のセンサーの電位範囲において電気化学的に不活性である。好適な導電体としては、金、炭素、白金、二酸化ルテニウム、パラジウム、および、その他の当業者に知られた不腐食性物質が挙げられる。電極および/または導電層は、蒸着または塗布などの方法によって不活性物質表面に形成される。
【0049】
タブ23は、電極の、電源または電圧測定装置などの外部電子機器(図示せず)との接続を容易にするため、作用電極22の端部に設けられる。作用電極22と外部電子機器との接続には、その他の公知の方法または構造を用いてもよい。
【0050】
(2)検出層および酸化還元媒介剤
不溶脱性(すなわち、不放出性)の酸化還元媒介剤を含む検出層32は、作用電極22の一部に配置される。通常は約5分未満である測定期間において、酸化還元媒介剤の作用電極から試料中への溶脱がほとんどまたは全くないことが好ましい。更には、本発明の酸化還元媒介剤は、媒介剤の試料中への望ましからざる溶脱を防止するため、作用電極22に結合またはその他の方法で固定化されていることが好ましい。作用電極および対電極が互いに近接する場合(すなわち、電極が約1mm未満の間隔で離間している場合)、拡散または溶脱(すなわち、放出)する酸化還元媒介剤は不都合である。なぜなら、結合していない媒介剤が、被検体と作用電極との間よりも、むしろ作用電極と対電極との間で電子を往復させるため、一般に大きな影信号(background signal)が発生するからである。この問題およびその他の問題は、低抵抗セルの開発の妨げとなり、被検体濃度測定に要する最小試料サイズの増大を招く。
【0051】
作用電極22上に検出層32を適用することによって、電極上に作用面が形成される。作用面は、通常、作用電極22の媒介剤で被覆され且つ液体試料に接触可能名部分である。検出層32の一部が誘電体またはその他の物質で被覆されている場合、作用面は、電極の酸化還元媒介剤に被覆され且つ試料との接触のために露出した部分に限られる。
【0052】
酸化還元媒介剤は、作用電極22と被検体との間における電流の伝達を仲介し、電極上で直接電気化学反応させるのに適さない分子の電気化学的分析を可能にする。媒介剤は、電極と被検体との間の電子伝達剤として機能する。
【0053】
大部分の有機または有機金属の酸化還元種が、酸化還元媒介剤として使用できる。好ましい酸化還元媒介剤は、速やかに還元および酸化され得る分子であり、標準カロメル電極(SCD)よりも数百ミリボルト高いまたは低い酸化還元電位を有し、通常、SCDに対して約−100mVを超える還元、および、約+400mVを超える酸化はしない。有機酸化還元媒介剤の例としては、キノンおよびキンヒドロン並びにナイルブルー(Nile blue)およびインドフェノールなどの、酸化形がキノイド構造を有する種が挙げられる。残念なことに、キノンおよび部分酸化したキンヒドロンの一部は、システインのチオール基、リジンおよびアルギニンのアミン基、チロシンのフェノール基などのタンパク質の官能基と反応するため、例えば血液などの生体液中の被検体測定に使用されるセンサーなどの、本発明のセンサーの一部には不適当である。
【0054】
一般に、本発明での使用に好適な媒介剤は、試料が分析される期間における酸化還元種の拡散損失を、防止または実質的に減少するような構造を有する。好ましい酸化還元媒介剤としては、作用電極に固定化され得るポリマーに結合した酸化還元種が挙げられる。有用な酸化還元媒介剤およびその製造方法は、ここに参考として取り入れる米国特許第5,264,104号、第5,356,786号、第5,262,035号および第5,320,725号に記載されている。あらゆる有機または有機金属の酸化還元種がポリマーと結合して、酸化還元媒介剤として使用され得るが、好ましい酸化還元種は遷移金属化合物および錯体である。好ましい遷移金属化合物または錯体としては、オスミウム、ルテニウム、鉄およびコバルトの化合物または錯体が挙げられる。オスミウム化合物または錯体が特に好ましい。
【0055】
ある種の不放出性の高分子酸化還元媒介剤は、高分子組成物中に共有結合した酸化還元種を含む。この種の媒介剤の一例としては、ポリ(ビニルフェロセン)が挙げられる。
【0056】
あるいは、好適な不放出性の酸化還元媒介剤は、イオン結合した酸化還元種を含む。一般に、この媒介剤は、電荷を有するポリマーであって、反対の電荷を有する酸化還元種と対を成したポリマーである。この種の媒介剤の一例としては、オスミウムまたはルテニウムのポリピリジルカチオンなどの正電荷を有する酸化還元種と対を成した、ナフィオン(Nafion;登録商標)(デュポン(DuPont))などの負電荷を有するポリマーが挙げられる。イオン結合した媒介剤の別例としては、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩またはヘキサシアノ鉄(II)酸塩などの負電荷を有する酸化還元種と対を成した、四級化ポリ(4−ビニルピリジン)またはポリ(1−ビニルイミダゾール)が挙げられる。
【0057】
本発明の別の実施形態においては、好ましい不放出性の酸化還元媒介剤として、ポリマーに配位結合した酸化還元種が挙げられる。例えば、オスミウムまたはコバルトの2,2’−ジピリジル錯体が、ポリ(1−ビニルイミダゾール)またはポリ(4−ビニルピリジン)に配位することによって形成される。
【0058】
好ましい酸化還元媒介剤は、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリンまたはそれらの誘導体などの含窒素テロ環を有する配位子を1つ以上備えた、オスミウム遷移金属錯体である。更に、好ましい酸化還元媒介剤は、ピリジン、イミダゾールまたはそれらの誘導体などの少なくとも1つの含窒素ヘテロ環を有するポリマーリガンドを、1つ以上有する。これらの好ましい媒介剤は、錯体が速やかに酸化および還元されるように、電極との間で電子を速やかに交換する。
【0059】
なかでも、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリンまたはそれらの誘導体を含む2つの配位子(2つの配位子は同種である必要はない)と錯化し、更に、ピリジンまたはイミダゾール官能基を有するポリマーと錯化したオスミウム陽イオンは、本発明の小体積センサーに特に有用な酸化還元媒介剤を形成する。オスミウム陽イオンとの錯化に好適な2,2’−ビピリジン誘導体は、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、並びに、アルコキシ基における炭素と酸素との比率が遷移金属錯体の水への溶解度を維持するのに十分である、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジンなどのモノ−、ジ−およびポリアルコキシ−2,2’−ビピリジンである。オスミウム陽イオンとの錯化に好適な1,10−フェナントロリン誘導体は、4,7−ジメチル−1,10−フェナントロリン、並びに、アルコキシ基における炭素と酸素との比率が遷移金属錯体の水への溶解度を維持するのに十分である、4,7−ジメトキシ−1,10−フェナントロリンなどのモノ−、ジ−およびポリアルコキシ−1,10−フェナントロリンである。オスミウム陽イオンとの錯化に好適なポリマーは、例えばPVIなどのポリ(1−ビニルイミダゾール)、例えばPVPなどのポリ(4−ビニルピリジン)を単独または共重合体として含む。特に、ポリ(1−ビニルイミダゾール)またはその共重合体と錯化したオスミウムを有する酸化還元媒介剤が好ましい。
【0060】
好ましい酸化還元媒介剤は、標準カロメル電極(SCE)に対し、約−150mV〜約+400mVの酸化還元電位を有する。好ましくは、酸化還元媒介剤の電位は約−100mV〜約+100mVであり、更に好ましくは、酸化還元媒介剤の電位は約−50mV〜約+50mVである。特に好ましい酸化還元媒介剤は、オスミウム酸化還元中心を有し、SCEに対して+100mVよりも負の酸化還元電位、更に好ましくはSCEに対して+50mVよりも負の酸化還元電位、特に好ましくはSCEに対して−50mV程度の酸化還元電位を有する。
【0061】
本発明のセンサーの酸化還元媒介剤は、空気酸化され得ることが好ましい。これは、酸化還元媒介剤が空気によって酸化され、好ましくはセンサーへの試料の導入前に媒介剤の少なくとも90%が酸化形であることを意味する。空気酸化され得る酸化還元媒介剤としては、2つのモノ−、ジ−もしくはポリアルコキシ−2,2’−ビピリジン、または、モノ−、ジ−もしくはポリアルコキシ−1,10−フェナントロリン配位子(2つの配位子が同種である必要はない)と錯化し、更に、ピリジンおよびイミダゾール官能基を有するポリマーと錯化したオスミウム陽イオンが挙げられる。特に、ポリ(4−ビニルピリジン)またはポリ(1−ビニルイミダゾール)と錯化したOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2が、空気中において約90%以上の酸化を達成する。
【0062】
本発明の好ましい実施形態においては、検出層32は、酸化還元媒介剤と被検体との間における電子移動を可能にする第2の電子伝達剤を含んでいる。好適な第2の電子伝達剤の一例としては、被検体の反応を触媒する酵素が挙げられる。被検体がグルコースである場合、例えば、ピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼ(PQQ)などのグルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼが使用できる。被検体がラクテートの場合、乳酸オキシダーゼがこの役割を果たす。これらの酵素は、酸化還元媒介剤を介した被検体と電極との間での電子移動による被検体の電気分解を触媒する。第2の電子伝達剤は、試料中への溶脱を防止するため不溶脱性であることが好ましく、更には電極に固定化されていることが好ましい。これは、例えば、第2の電子伝達剤を酸化還元媒介剤と結合させて、検出層に不溶脱性成分を形成することによって達成される。
【0063】
電気化学反応が、作用電極の媒介剤で被覆されていない部分で生じることを防止するため、図4に示すように、結合した酸化還元媒介剤が存在する領域の上方、下方または周囲の電極上に、誘電体40を配置してもよい。好適な誘電体としては、ポリエチレンのような非導電性の有機ポリマーおよびワックスが挙げられる。誘電体40は、電極上の酸化還元媒介剤の一部を被覆していてもよい。媒介剤の被覆された部分は試料に接触しないので、電極の作用面の一部ではない。
【0064】
(3)対電極
対電極24は、作用電極22と同様に構成することができる。対電極24は、対/参照電極であってもよい。あるいは、別の参照電極を試料室と接触するように設けてもよい。対/参照電極または参照電極に好適な材料としては、非導電性基体上に塗布されたAg/AgCl、または、銀金属基体上の塩化銀が挙げられる。対電極が参照電極でない場合、対電極の作製には、作用電極22の作製に用いられると同様の材料および方法を使用することができるが、対電極または対/参照電極24上には酸化還元媒介剤は固定化されていない。クーロメトリーまたはその他の測定装置などの外部電子機器(図示せず)との簡便な接続のため、電極にタブ25を設けてもよい。
【0065】
本発明の一実施形態によれば、作用電極22および対電極24は、図1および3に示すように、互いに向かい合わせに対向して対向電極対を形成する。この好ましい形態においては、試料室26は、通常、2つの電極間に配置される。この対向電極の配置においては、電極が、約0.2mm未満、好ましくは0.1mm未満、更に好ましくは0.05mm未満の距離をあけて離間していることが好ましい。
【0066】
電極は、互いに真向に向かい合う必要はなく、わずかにずれていてもよい。更に、2つの電極は同じ大きさである必要はない。対電極24が、作用電極22の作用面と同等か、またはそれ以上の大きさであることが好ましい。対電極22は、櫛歯形に形成してもよい。対電極および作用電極のその他の形状も、本発明の範囲に存在する。しかし、作用電極の一部と対電極の一部との離間距離は、前述した範囲を超えないことが好ましい。
【0067】
図11A、11Bおよび11Cは、前述したような、対向電極対22、24の別の形態を説明するものである。通常、2つの電極22、24の間の重複領域21が、試料が測定される測定領域に相当する。各電極22、24は導電性の面であり、コンデンサの電極板として働く。電極22、24の間の測定領域は、電極板間の誘電体層として働く。このように、2つの電極22、24の間には静電容量が存在する。この静電容量は、重複する電極22、24のサイズ、電極22、24間の離間距離および電極22、24間の物質の誘電率の関数である。従って、電極22、24の重複領域21のサイズと、電極22、24間の物質(例えば、空気または吸収体)の誘電率とが既知であれば、電極間の離間距離を算出して、測定領域の容積を求めることができる。
【0068】
図11Aは、電極22、24を対向配置で設置した、本発明の一実施形態を説明するものである。このような配置を有する被検体センサーにおいて、同様に構成されたセンサー間の静電容量を一定にするため、位置決め(すなわち、2つの電極相互の相対的な位置決め)は一定にするべきである。各電極の位置が、図11Aに示す位置からx−y平面において移動すると、重複領域のサイズが変化し、ゆえに静電容量が変化する。同様のことが、測定領域の容積についても言える。
【0069】
図11Bおよび11Cは、電極22、24を対向配置で設置した、本発明の別の実施形態を説明するものである。これらの配置においては、静電容量または測定領域の容積を変化させることなく、各電極の位置を、x−y平面において、他方の電極に対して多少なりとも移動させることができる。これらの電極配置においては、各電極22、24は、各々、他方の電極の対応するアームと重なり合うアーム122、124を含む。2つのアーム122、124は(図11Aに示すように)互いに平行するものではなく、アーム122、124は互いにゼロよりも大きい角度123を成すように配置されている。更に、アーム122、124は、重複領域21の範囲よりも拡張している(すなわち、各アームは、アーム長222、224と、重複領域21の幅121との差に相当する余剰長を、各々有している。)。これらの電極配置によれば、電極22、24の位置決めにおける不正確さに一定の許容量があり、その許容量においては電極間の静電容量は変化しない。位置決めにおける不正確さの許容量は、アーム122、124が重複する部分の角度123、および、重複領域21の幅121に対する各アーム122、124の余剰長のサイズを変化させることによって、電極配置において設定することができる。一般に、アーム122、124が垂直(すなわち、角度123が90°)に近づくほど、許容される不正確さは大きくなる。また、重複領域21の幅121に対する各アーム122、124の余剰長(両アームの余剰長は、同等の長さでも、相違する長さでもよい。)が大きくなるほど、許容される不正確さは大きくなる。反対に、(電極の幅、厚さ、および、他方の電極と交差する角度123が一定であるならば)、不正確さの許容量が大きくなるほど、電極のサイズは大きくなる。このように、一方の電極が他方の電極に対して移動し得る距離の最小値は、電極に要する物質量と釣り合わされる。一般に、交差角度123は、5〜90度、好ましくは30〜90度、更に好ましくは60〜90度の範囲である。一般に、アーム122、124の余剰長(アーム長222、224と重複領域21の幅121との差に相当する。)と重複領域21の幅121との比率は、0.1:1〜50:1、好ましくは1:1〜15:1、更に好ましくは4:1〜10:1の範囲である。
【0070】
本発明の別の実施形態においては、図2に示すように、2つの電極22、24が同一平面上に存在する。この場合、試料室26は、両電極と接触しており、電極とは反対側が非導電性の不活性基体30と結合している。不活性基体に好適な物質は、ポリエステルのような非導電性物質である。
【0071】
本発明のセンサーの別の形態もまた可能である。例えば、2つの電極が、互いに角度を成す複数の面に形成されていてもよい。このような形態としては、直角を形成した複数の面に電極を備えたものが挙げられる。別の可能な形態としては、管の内壁のような湾曲した面に電極を備えたものである。作用電極および対電極は、管の反対側に互いに対向するように配置されている。これは、対向電極対の別の一例である。あるいは、電極を、管の壁面に互いに近接させて(例えば、一方が他方の上部に位置するように、または、並べて)配置してもよい。
【0072】
いずれの形態においても、2つの電極は、電気化学センサーの短絡を防ぐため、直接電気的に接触しないように配置しなければならない。これは、対向する電極の間隔が短い距離(約100μm未満)であると、回避することが困難である。
【0073】
図1および3に示すように電極が互いに対向する場合、電極を離間させておくために、スペーサー28を使用することができる。スペーサーは、通常、ポリエステル、マイラー(Mylar;商標)、ケブラー(Kevlar;商標)もしくはその他の強靭で薄いポリマーフィルム、または、化学的に不活性であることから選択されるテフロン(登録商標)(Tefron;商標)フィルムなどの薄いポリマーフィルムなどの、不活性の非導電性物質で構成される。セパレーター28は、電極間の接触を防止することに加えて、図1−4に示すように、試料室26の境界としても機能する。
【0074】
(4)試料室
試料室26は、図1−4に示すように、一般に、電極22、24、不活性基体30およびセパレーター28の組み合わせによって、その範囲が限定されている。測定領域は試料室内に含まれており、試料室内の、試料の被検体分析で測定される部分のみを含む領域である。図1および2に示す本発明の実施形態においては、試料室26は、2つの電極22、24および/または不活性基体の間の空間である。この実施形態においては、試料室は、好ましくは約1μL未満、更に好ましくは約0.5μL未満、特に好ましくは約0.2μL未満の容積を有する。図1および2に示した本発明の実施形態においては、測定領域は、試料室の容積とほぼ同等の容積を有する。
【0075】
図3に示す本発明の別の実施形態において、試料室26は、電極22、24に近接する領域よりも更に広い空間を有する。この形態によれば、図5に示すように、1以上の試料室と接触する複数の電極を備えることが可能である。この形態において、試料室26は、好ましくは、約1μL未満、更に好ましくは約0.5μL未満、特に好ましくは約0.2μL未満の体積を含む大きさである。測定領域(すなわち、識別される体積の試料を含む領域)は、一般に、約1μL未満、好ましくは約0.5μL未満、更に好ましくは約0.2μL未満、特に好ましくは0.1μL未満の体積の試料を含む大きさである。この実施形態の特に有用な一形態は、図3に示すように、作用電極22および対電極24を互いに対向させて配置したものである。この形態では、試料の測定される部分を含む領域に相当する測定領域は、試料室26の、作用電極の作用面で境界づけられ、対向する2つの電極間に位置する部分である。作用電極の表面が酸化還元媒介剤で完全には被覆されていない場合、測定領域は、作用電極22の作用面(すなわち、酸化還元媒介剤で被覆された面)に相当する面積と、作用電極22と対電極24の間の離間距離に相当する厚みとを有する、2つの対向する電極間の空間である。
【0076】
前述した両実施形態において、試料室および測定領域の厚みは、一般に、スペーサー28の厚み(例えば、図1および3における電極間の距離、または、図2における電極と不活性基体との間の距離)に相当する。与えられた試料体積に対し、より多くの試料を電極表面に接触させて、被検体の電気分解を速やかに促進するため、この厚みは小さいことが好ましい。更に、薄い試料室は、測定時間に対して拡散時間が長くなるので、被検体分析中において被検体が試料室の他の部分から測定領域へ拡散することに起因する誤差の低減を助ける。一般に、試料室の厚みは、約0.2mm未満である。好ましくは、試料室の厚みは約0.1mm未満であり、更に好ましくは、試料室の厚みは約0.05mm以下である。
【0077】
試料室は、別の方法で形成することもできる。例えば、エンボス、インデント(indenting)、または、作用電極22または対電極24が形成された基板に凹部を形成するその他の方法が挙げられる。図12Aおよび12Bは、このような構造の一例を示したものである。まず、不活性の非導電性基体上に導電層100が形成される。前述したように、導電層100は、金、炭素、プラチナ、二酸化ルテニウム、パラジウムまたはその他の不腐食性材料が挙げられる。不活性の非導電性基体102は、ポリエステル、その他のポリマーまたはその他の非導電性で変形可能な材料を用いて作製することができる。その後、導電層100の少なくとも一部が凹部104内に含まれるように、非導電性基体102の一部に凹部104が形成される。凹部104は、インデント、変形、または、その他の基体102の押込みを含む、種々の方法を用いて形成することができる。凹部の形成方法の更なる一例としては、基体102のエンボスが挙げられる。基体102が、例えばパンチ部材または溝形部材などの隆起した部分を有するエンボスロールまたはスタンプと接触して、凹部が形成される。ある形態においては、基体102は、材料を軟化させるために加熱されてもよい。
【0078】
凹部104は、円形、楕円形、矩形またはその他のあらゆる定形もしくは不定形の形状とすることができる。あるいは、凹部104は、基体102の一部に伸びる溝として形成してもよい。導電層100は、溝の全体または溝の一部のみに存在させることができる。測定領域は、例えば、導電層100の溝の特定の領域内に存在する部分のみに検出層32を配置することによって、その範囲を、溝内の特定の領域に限定することができる。あるいは、測定領域は、第2の電極107を、第1の電極105の所望の領域のみと重なり合うように配置することによって、その範囲を限定してもよい。
【0079】
導電層100の少なくとも一部、場合によっては全部が、凹部104内に位置している。導電層100のこの部分は、第1の電極105(対電極、または、好ましくは作用電極)として機能する。導電層100が作用電極を形成する場合、図12Bに示すように、不溶脱性の媒介剤および随意に第2の電子伝達剤を凹部104内に形成することによって、導電層100の一部の上方に、検出層32を形成することができる。そして、第2の基体106上に第2の導電層を配置することによって、第2の電極107が形成される。そして、第2の電極107は、第1の電極105の上方に対向配置するように設置される。図示していないが、第1の電極105が対電極として機能する場合、検出層32は、作用電極として機能する第2の電極107上に配置されると考えられる。
【0080】
一実施形態においては、第2の基体108は、第2の電極107が凹部内に位置するように、第1の基体102および/または導電層100の押し下げられていない部分の上に設置される。別の実施形態においては、第1および第2の基体102、108の間にスペーサー(図示せず)が存在する。この実施形態では、第2の電極107は凹部内に位置しても、位置していなくてもよい。いずれの場合においても、第1および第2の電極105、107は接触してない。さもなければ2つの電極が短絡する。
【0081】
凹部104の深さと、導電層100、検出層32および第2の電極107の凹部104内に存在する部分があればその部分の体積とが、測定領域の体積を決める。このように、測定領域の体積の決定は、凹部104の構造が一定している範囲の大きさに依存する。
【0082】
導電層100に加えて、図14Aに示すように、後に詳しく記述する吸収層103を、凹部104を形成する前に基体102上に形成することができる。吸収体103は、図14Bに示すように、導電層100および基体102とともに、インデント、エンボスまたはその他の変形加工が施されてもよい。あるいは、吸収体103は、凹部104を形成するために導電層100および基体102にインデント、エンボスまたはその他の変形加工が施された後に、形成してもよい。
【0083】
被検体センサーの形成方法の別の例においては、図13Aおよび13Bに示すように、第1の基体112に凹部114が形成される。凹部は、インデント、エンボス、エッチング(例えば、フォトリソグラフィー法または基体一部のレーザー除去)、または、その他の基体112の一部の変形もしくは除去によって形成することができる。第1の導電層110は、凹部114内に形成される。前述したあらゆる導電性材料を使用することができる。好ましい材料は、例えばエルコン,インク(Ercun,Inc.;ウェアハム エム エイ(Wareham,MA))から入手可能な導電性カーボンインクなどの導電性インクである。導電性インクは、通常、溶媒または分散剤に溶解または分散した、金属または炭素を含む。溶媒または分散剤が除去され、金属または炭素が、第1の電極115として用いられる導電層110を形成する。前述したように、第2の電極117が第2の基体116に形成され、凹部114の上方に配置される。ある実施形態においては、図13Bに示すように、第1の電極115上に検出層32が形成されて、作用電極が形成される。別の実施形態においては、第2の電極117上に検出層32が形成されて、作用電極が形成される。更に、凹部内、例えば第1の電極115上に、吸収体(図示せず)が形成されていてもよい。
【0084】
導電性インクには、ポリウレタン樹脂、セルロース誘導体、エラストマー(例えば、シリコーン、ジエン重合体またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂)、高フッ素化ポリマーなどのようなバインダーが含まれていてもよい。バインダーの硬化は導電層110の導電率を増大させるが、硬化は必ずしも要しない。バインダーの硬化方法は、使用するバインダーの性質に依存する。いくつかのバインダーは、熱および/または紫外線によって硬化する。
【0085】
これらの構造によれば、測定領域の容積が凹部104の正確性および再現性に少なくとも部分的に依存するような、電気化学センサーが形成される。エンボス、レーザーエッチング、フォトリソグラフィーエッチングおよびその他の方法が、200μm以下の寸法であっても、再現可能な凹部104の形成に使用することができる。
【0086】
(5)吸収体
試料室は、室内に試料が配置される前は空であってもよい。あるいは、試料室は、測定操作中に液体試料を吸収して保持する吸収体34を含んでいてもよい。好適な吸収体としては、ポリエステル、ナイロン、セルロースおよびニトロセルロースのようなセルロース誘導体が挙げられる。吸収体は、試料室の毛管作用を補足または好ましくはそれに取って代わる吸上げ作用(wicking action)によって、小体積試料の吸上げを促進する。
【0087】
いくつかの実施形態においては、吸収体は、吸収体が溶解または分散した液体またはスラリーを用いて配置される。その後、液体またはスラリーの溶媒または分散媒は、加熱または蒸発処理によって除去されてもよい。好適な吸収体としては、例えば、水などの適当な溶媒または分散媒に溶解または分散した、セルロースまたはナイロン粉末が挙げられる。特定の溶媒または分散媒は、作用電極22の材質に適合すべきである(例えば、溶媒または分散媒は電極を溶解してはならない)。
【0088】
吸収体の最も重要な機能の一つは、試料室を満たすのに必要な、センサーの測定領域に相当する液体の体積を減少させることである。測定領域内の試料の実際の体積は、特に吸収体内の空孔量で決まる。通常、好適な吸収体は、約5%から約50%の空孔からなる。好ましくは、吸収体は、約10%から25%の空孔からなる。
【0089】
吸収体による液体の置換は有効である。吸収体の添加によって、試料室26を満たすのに必要な試料は減少する。これは、測定を達成するのに要する試料の体積を減少させ、試料の電気分解に要する時間をも減少させる。
【0090】
吸収体34は、試料がタブ33に接触し、タブに吸収され、吸収体34の吸上げ作用によって試料室26に運ばれるように、センサーまたはセンサーの開口部から伸びる、吸収体と同じ材質で構成されたタブ33を含んでいてもよい。これは、試料を試料室26に向けるための好ましい方法を提供する。例えば、センサーは、血液を出すためにランセットが刺し通される動物(人間を含む)の一部に、接触させる。血液はタブ33に接触し、吸収体34の吸上げ作用によって試料室26に吸い上げられる。試料のセンサーへの直接的な輸送は、ランセットを使用して、動物の近表面毛細血管がそれほど多く存在せず、1μL未満の血液試料体積しか供給されない部分を刺し通す場合など、試料が非常に少量である場合に特に重要となる。
【0091】
吸収体の吸上げ作用以外の方法が、試料室または測定領域への試料の輸送に使用することができる。そのような輸送手段の例としては、吸収体の吸上げ作用だけでなく、試料を試料室に押し出すための試料への圧力印加、試料を試料室内に引き込むための試料室内でのポンプまたはその他の真空形成手段による真空形成、薄い試料室の壁面との界面張力に起因する、試料の毛管作用が挙げられる。
【0092】
センサーは、試料流の流れに関連させて使用することもできる。この形態においては、試料流は試料室を通って流れるように形成される。この流れは定期的に停止させられ、クーロメトリーなどの電気化学的方法によって被検体濃度が測定される。測定後、流れが再開し、これによってセンサーから試料が取り除かれる。あるいは、試料は、通過中に被検体のすべてが電気分解されて、被検体濃度と流速のみに依存する電流が生じるように、非常に遅い速度で試料室を通過させてもよい。
【0093】
その他の充填剤を用いて測定領域を充填し、試料体積を減少させてもよい。例えば、ガラスビーズを測定領域内に配置し、空間を占有することができる。体液が測定領域に容易に流れ込むように、充填剤は親水性であることが好ましい。この充填剤は、大きい表面積を有するガラスビーズなどの場合、その大きい表面積および親水性によって、体液を測定領域に吸上げることができる。
【0094】
全てのセンサー組立部品は、試料が確実に電極に接触しつづけ、試料室および測定領域が同体積を維持するように、堅固に結合される。これは、一定の試料体積における測定値が必要とされる場合、試料のクーロメトリー分析において重要なことである。センサーの接合方法の一例を、図1および2に示す。2つの平板38は、各々、センサーの反対側の端部に設置される。これらの平板は、通常、プラスチックなどの非導電性材料で構成される。平板は、2つの平板間のセンサーと接合するように設置される。好適な接合部材としては、接着剤、クランプ、ナットおよびボルト、ネジなどが挙げられる。
【0095】
(6)一体型の試料採取および被検体測定装置
本発明の好ましい実施形態において、本発明の原理に係る被検体測定装置52は、前述のようなセンサー20を試料採取手段50と組み合わせて含み、一体型の試料採取および測定装置を提供するものである。図6に示す試料採取手段50は、例えば、ランセットを患者の皮膚に突刺して血液流を生じさせるために押込まれる、たわみ得る弾力性の薄片56(または、バネなどのその他同様の部材)に取り付けられた、ランセットなどの皮膚突刺し部材54を含む。
【0096】
弾力性の薄片56が開放されると、皮膚突刺し部材54が引っ込む。皮膚の部材54に刺し通された領域から流れる血液は、被検体の分析のために、例えば吸収体34の吸上げ作用によって、センサー20に輸送することができる。被検体測定装置52は図示していない記録装置内に配置され、電気分析手段によって被検体濃度を測定するために、クーロメーターまたはその他の電気化学分析装置が電極タブ23、25に接続される。
【0097】
(7)センサーの動作
本発明の電気化学センサーは、次のように動作する。作用電極および対電極の間に電位を印加する。必要とされる電位の大きさは、酸化還元媒介剤に依存する。被検体が電気分解される電極の電位は、通常、電気化学反応を完了またはほぼ完了させるのに十分な大きさであるが、電位の大きさは、電流測定に影響を及ぼす尿酸塩、アスコルビン酸塩およびアセトアミノフェンなどの妨害物質の実質的な電気化学反応を誘発するには不十分な大きさであることが好ましい。通常、電位は、標準カロメル電極(SCE)に対して、約−150mVから約+400mVの間である。酸化還元媒介剤の電位は約−100mVから約+100mVの間であることが好ましくは、更には、電位は約−50mVから約+50mVの間であることが好ましい。
【0098】
電位は、試料が試料室に配置される前または後のいずれに印加してもよい。電位は、試料室が充填される際に測定領域を通過する試料が電気分解されることを防ぐため、試料が試料室に配置された後に印加されることが好ましい。電位が印加されて、試料が測定領域に存在しているときに、作用電極と対電極との間に電流が流れる。電流は、試料中の被検体の電気分解に起因するものである。この電気化学反応は、酸化還元媒介剤および随意に第2の電子伝達剤を介して生じる。多くの生体分子Bについて、プロセスは次の反応式で表される。
【0099】
【化1】
【0100】
生化学物質Bが、適当な酵素の存在下において、酸化還元媒介剤AによってCに酸化される。そして、酸化還元媒介剤Aが電極で酸化される。電極で電子が集められ、その結果生じる電流が測定される。
【0101】
一例として、本発明のセンサーは、グルコースオキシダーゼの存在下において、グルコース分子と2個の不溶脱性のヘキサシアノ鉄(III)酸アニオンとが、2個の不溶脱性のヘキサシアノ鉄(II)酸アニオンと2個のプロトンとグルコノラクトンとを生成する反応を基礎としている。存在するグルコースの量は、不溶脱性のヘキサシアノ鉄(II)酸アニオンを不溶脱性のヘキサシアノ鉄(III)酸アニオンとする電気酸化と、移動した総電荷量の測定によって分析される。
【0102】
同じ結果、すなわち酸化還元媒介剤と共同した反応経路を通る被検体の電気分解を達成する、異なる反応機構がいくつも存在することが当業者に認められる。式(1)および(2)は、このような反応の非限定的な一例である。
【0103】
本発明の好ましい実施形態においては、クーロメトリーが、被検体の濃度測定に用いられる。この測定方法は、分析過程において間隔をあけて得られた電流の測定値を利用して、被検体濃度を測定するものである。電流の測定値が時間に渡って積算され、電極へまたは電極から移動した電荷量Qが求められる。Qは、次式によって被検体濃度を算出するのに用いられる。
[被検体]=Q/nFV (3)
【0104】
ここで、nは、被検体の電気分解に要する電子当量であり、Fは、ファラデー定数(当量当たり約96.500クーロン)であり、Vは、測定領域に存在する試料の体積である。
【0105】
本発明の一実施形態においては、被検体は完全、または、ほぼ完全に電気分解される。電気化学反応中に得られた電流の測定値から電荷が算出され、被検体濃度が式(3)を用いて求められる。電気化学反応の完了は、通常、電流が定常状態の値に達したときに表われる。これは、被検体の全て、または、ほぼ全てが電気分解されたことを示す。このタイプの測定においては、通常は被検体の少なくとも90%が電気分解され、好ましくは被検体の少なくとも95%が電気分解され、更に好ましくは被検体の少なくとも99%が電気分解される。
【0106】
この方法では、被検体が速やかに電気分解されることが望まれる。電気化学反応の速度は、電極間に印加される電位と、反応(1)および(2)の速度論とを含むいくつかの要素に依存する(その他の重要な要素としては、測定領域の大きさ、測定領域における吸収体の存在が挙げられる)。一般に、電位が大きいほど、セルを通る電流は(輸送限度の最大値まで)大きくなり、よって、通常は反応が速く生じる。しかし、電位が大きすぎると、別の電気化学反応が実質的な測定誤差を誘発する。通常、酸化還元媒介剤および随意の第2の電子伝達剤だけでなく、電極間の電位もが、予測される試料中の被検体濃度に基づいて、被検体が5分未満でほぼ完全に電気分解されるように選択される。被検体は、好ましくは約2分間で、更に好ましくは約1分間でほぼ完全に電気分解される。
【0107】
本発明の別の実施形態においては、被検体が部分的にだけ電気分解される。部分的な反応の間に電流を測定し、当業者に公知の数学的方法を用いた外挿法を行い、被検体の完全またはほぼ完全な電気分解についての電流曲線を求める。この曲線の積分によって、被検体が完全またはほぼ完全に電気分解された場合に移動する電荷量が得られ、式(3)を用いて被検体濃度が算出される。
【0108】
前述した方法は、以下に述べるようなクーロメトリック測定の利点から、クーロメトリーを基礎としている。しかしながら、本発明のセンサーは、ポテンシオメトリー、アンぺロメトリー、ボルタンメトリーおよびその他の電気化学的方法を利用して被検体濃度を測定してもよいことが、当業者に認められる。電極における被検体の電気分解で得られる電流および電位は、試料温度に非常に影響されるため、これらクーロメトリー以外の方法で得られる測定値は温度に依存する。これは、未知または種々の温度において生物学的被検体およびその他の試料を測定するのに使用するセンサーの検度に、問題を与える。
【0109】
更に、これらクーロメトリー以外の電気化学的方法で得られる測定値は、センサーに供給された酵素量に影響される。酵素が時間外に不活性化または崩壊した場合、結果として得られる測定値はその影響を受ける。従って、酵素が非常に安定でない限り、このセンサーの貯蔵寿命には限界がある。
【0110】
アンぺロメトリーのようなクーロメトリー以外の電気化学的方法で得られる測定値は、測定期間において被検体の実質的に一部が電気分解される場合、悪影響を受ける。測定過程において被検体の比較的小さい部分のみが電気分解されるように、被検体が十分に存在しない限りは、正確な定常状態の測定値が得られない。
【0111】
クーロメトリーによる電気化学的方法は、これらの問題を克服する。クーロメトリーは、被検体の完全またはほぼ完全な電気分解の間に移動する、または、移動する考えられる電荷量を測定する方法である。クーロメトリーの一つは、作用電極上で被検体を電気分解し、電気分解中に作用電極と対電極との間に生じる電流を2回以上測定することを含む。電流が定常状態に達したとき、電気分解が完了する。試料の電気分解に使用された電荷は、測定された電流の時間積分によって算出される。電荷は試料中の被検体の量に直接関係するため、測定値の温度依存性はない。更に、酸化還元媒介剤の活性は測定値には影響を及ぼさず、媒介剤の時間外の崩壊が被検体濃度測定を不正確なものとしないために、測定値を得るのに要する時間のみに影響を及ぼす(すなわち、活性の低い酸化還元媒介剤は、試料の完全な電気分解を達成するのに長い時間を要する)。すなわち、電気分解による試料中の被検体の消耗は誤差の原因ではなく、むしろその方法の目的である(しかしながら、電解曲線が、既知の電気化学的原理に基づいて部分的な電解曲線から外挿される場合、被検体は完全に電気分解される必要なない)。
【0112】
試料中の被検体濃度の測定に有効な測定方法であるクーロメトリーにおいては、測定する試料の体積を正確に測定する必要がある。残念なことに、測定領域の1以上の寸法についての製造公差は大きな誤差を含むため、小体積センサーの測定領域内の試料体積(すなわち、1マイクロリットル未満)を正確に測定することが困難な場合がある。
【0113】
(8)空気酸化され得る酸化還元媒介剤
クーロメトリックセンサーにおける誤差の別の原因は、被検体に関係する電気化学反応以外の電気化学反応の存在である。酸化還元媒介剤を有するセンサーにおいて、測定誤差の潜在的な原因は、未知の混成した酸化状態にある酸化還元媒介剤の存在である(すなわち、媒介剤は既知の酸化状態に再現されない)。酸化還元媒介剤は、電極において、被検体の存在に応答してではなく、単に初期の酸化状態に起因して電気分解される。式(1)および(2)において、生化学物質Bの酸化に起因しない電流が、酸化還元媒介剤Aの試料添加前に還元形である部分の酸化に起因して流れる。このように、センサーへの試料導入前における被検体の酸化状態を知ることは重要である。更に、酸化還元仲介剤の全部またはほぼ全部が、センサーへの試料導入前に単一の酸化状態で存在することが望ましい。
【0114】
各酸化還元仲介剤は、還元形または還元された状態と、酸化形または酸化された状態とを有している。本発明の一側面においては、測定される電流に影響を及ぼす重大な影雑音を避けるため、試料導入前に還元形である酸化還元媒介剤の量は、予測される試料中の被検体量よりも十分に小さいことが好ましい。本発明の本実施形態においては、試料導入前に還元形である酸化還元媒介剤のモル量は、化学量論的に、予測される被検体濃度における被検体のモル量の好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、特に好ましくは1%未満である(被検体1分子の電気分解に2分子の酸化還元媒介剤が必要である場合、被検体導入前に還元形の酸化還元媒介剤のモル量は、予測される被検体濃度における被検体のモル量の好ましくは約20%未満、更に好ましくは10%未満、特に好ましくは2%未満となるように、被検体および酸化還元媒介剤のモル量は、適用される酸化還元反応の化学量論に基づいて比較すべきである)。還元された媒介剤の量を制御するための方法は後述する。
【0115】
本発明の別の側面においては、センサーへの試料導入前における、酸化された酸化還元媒介剤と、還元された酸化還元媒介剤との相対的な比率が、同様に構成されたセンサー間で比較的一定であることが好ましい。センサー間での大きな変動は検度の信頼性を低下させるため、同様に構成されたセンサー間でのこの比率についての変動は、還元された媒介剤から求められる検量線の使用に悪影響を及ぼす。本発明のこの側面においては、センサーへの試料導入前に還元形である酸化還元媒介剤の百分率は、同様に構成されたセンサー間で、約20%未満、好ましくは約10%未満で変動する。
【0116】
センサーへの試料導入前に還元された酸化還元媒介剤の量を制御する方法の一つは、媒介剤の還元体を酸化する酸化剤を供給することである。最も都合のよい酸化剤の一つがO2である。酸素は、通常、この酸化作用の実行にすぐに利用できる。酸素は、センサーを空気に曝露することで供給することができる。更に、大部分のポリマーおよび液体は、特別な予防手段を採らない限り、空気からO2を吸収する。通常、例えば1ヶ月以下、好ましくは1週間以下、更に好ましくは1日以下の有用期間に及ぶ保存または空気への曝露において、空気酸化され得る(すなわち、O2酸化し得る)媒介剤の少なくとも90%が酸化形で存在する。
【0117】
空気酸化(すなわち、O2酸化)でき、電子伝達能を有する好適な媒介剤については前述した。有用な媒介剤の群は、1以上の含窒素ヘテロ環を有する配位子に配位または結合したオスミウム錯体である。特に、モノ−、ジ−およびポリアルコキシ−2,2’−ビピリジンまたはモノ−、ジ−およびポリアルコキシ−1,10−フェナントロリンと錯化したオスミウムである。ここで、アルコキシ基は、水への溶解度を十分に維持するような炭素と酸素との割合を有し、空気酸化され得るものである。これらのオスミウム錯体は、通常、適当なビピリジンまたは適当なフェナントロリン配位子を2個有している。但し、2個の配位子は同種である必要はない。これらのオスミウム錯体は、更に、ピリジンおよびイミダゾールなどの含窒素ヘテロ環を1以上有するポリマーリガンドと錯化している。好ましいポリマーリガンドとしては、ポリ(4−ビニルピリジン)、更に好ましくはポリ(1−ビニルイミダゾール)、またはそれらの共重合体が挙げられる。ポリ(1−ビニルイミダゾール)またはポリ(4−ビニルピリジン)と錯化したOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2は、O2によってOs+2陽イオンがOs+3に酸化されるため、特に有用であると示されている。同様の結果が、Os[4,7−ジメトキシ−1,10−フェナントロリン]2Cl+/+2、および、別のモノ−、ジ−およびポリアルコキシビピリジンおよびフェナントロリンの、同種ポリマーとの錯体についても期待できる。
【0118】
酸化還元媒介剤の空気酸化が、被検体分析中に被検体によって還元された媒介剤の実質的な一部がO2で酸化されるほど急速である場合、空気酸化され得る媒介剤に関して複雑な問題が生じる。これは、媒介剤が、電極での電気酸化よりもむしろ酸化剤で酸化されるために、被検体の量が少なく見積もられ、不正確な分析を招く。よって、酸化還元媒介剤のO2との反応は、媒介剤の電気酸化よりもゆっくりと進行することが好ましい。通常、還元された媒介剤の5%未満、好ましくは1%未満が、分析中に酸化剤で酸化される。
【0119】
媒介剤の空気酸化の反応速度は、適当な錯化ポリマーの選択によって制御できる。例えば、酸化反応は、ポリ(1−ビニルイミダゾール)と配位結合したOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2に対して、ポリ(4−ビニルピリジン)と配位結合した同種のOs錯体よりも速く進む。適当なポリマーの選択は、予測される被検体濃度および電極間に印加される電位に依存し、これらはいずれも電気化学反応の速度を決定する。
【0120】
従って、本発明の一実施形態において好ましい酸化還元媒介剤は、以下の特性を有する。1)媒介剤は、被検体以外の試料中またはセンサー内に存在する分子のいずれとも(随意に第2の電子伝達剤を介して)反応しない。2)ほぼ全ての酸化還元媒介剤が、センサーへの試料導入前にO2などの酸化剤で酸化される。3)酸化剤による酸化還元媒介剤の酸化は、電極による媒介剤の電気酸化に比べて遅い。
【0121】
あるいは、酸化還元媒介剤が被検体の存在下で酸化され、電極で電気的に還元される場合は、酸化剤よりもむしろ還元剤が必要となる。還元剤および媒介剤の選択には、酸化剤について前述したのと同様の考察を適用する。
【0122】
本発明の電気化学センサーにおける、安定な空気酸化され得る酸化還元媒介剤の使用は、保存および包装において更なる利点を示す。空気酸化され得る酸化還元媒介剤を含む本発明のセンサーは、酸素分子を含有する雰囲気中で包装し、酸化還元種の80%以上、好ましくは90%以上を酸化形に維持しながら、例えば1ヶ月を超える長期間保存することができる。
【0123】
(9)光学センサー
本発明の空気酸化され得る酸化還元種は、別のタイプのセンサーに使用することができる。前述したオスミウム錯体は、錯化したOs+2種とOs+3種との吸収スペクトルおよび蛍光特性における相違のため、光学センサーにおける使用に好適である。酸化還元種の吸収、透過、反射または蛍光の測定値は、(被検体と酸化還元種の間での直接的または酵素などの第2の電子伝達剤を介した反応後の)試料中の被検体量と相関している。この形態においては、酸化還元媒介剤のモル量は、化学量論的に、センサーの測定領域を満たすと理論的に予測される被検体のモル量よりも大きい。
【0124】
光導型光学ファイバーセンサーを含む標準的な光学センサーおよび測定方法に、空気酸化され得る媒介剤の使用を適応させることができる。例えば、本発明の光学センサーは、空気酸化され得る酸化還元種と、好ましくは被検体に応答し得る酵素とが被覆されて膜が形成された、光透過性または光反射性の支持体を含む。支持体の膜は、試料が配置される測定領域の一つの境界を形成する。測定領域の他の境界はセルの形態で決まる。被検体を含む試料で測定領域を満たした場合、好ましくは被検体に応答し得る酵素との反応を介した、被検体による空気酸化され得る媒介剤の還元が、光の透過、吸収もしくは反射スペクトルまたは媒介剤の1以上の光波長での蛍光における変化によって検出される媒介剤の酸化状態の変化を引き起こす。
【0125】
(10)多電極センサーおよび校正
多電極センサーを、種々の理由のために使用することができる。例えば、多電極センサーは、単一の試料を用いて様々な被検体を分析するために使用することができる。多電極センサーの一実施形態は、1以上の作用電極22を順に備え、各作用電極22が異なる測定領域を定めている1以上の試料室を有する。作用電極の1以上が、例えば適当な酵素などの、第1の被検体を分析するのに適当な化学的試薬を備えており、残りの作用電極の1以上が、第2の被検体を分析するのに適当な化学的試薬を備えている。例えば、多電極センサーは、1)グルコース濃度を測定するための、検出層にグルコースオキシダーゼを備えた1以上の作用電極と、2)ラクテート濃度を測定するための、検出層に乳酸オキシダーゼを備えた1以上の作用電極とを含む。その他の組み合わせも可能である。
【0126】
多電極センサーは、結果として得られる読みの精度を改善するために使用することもできる。(全ての、または同じ被検体を検出する)作用電極の各々から測定値を得て、それを平均し、より正確な読みを得ることができる。測定値は、その値と平均値との差が限界値を超える場合は除外してもよい。この限界値は、例えば、平均測定値の標準偏差などの統計学的なパラメータに基づいて決定することができる。平均値は、除外した値を除いて再び算出してもよい。更に、特定の電極に欠陥があると推測できる場合、除外された値が得られた電極からのその後の読みを、後の分析において無視してもよい。あるいは、他の電極からの読みに基づいて除外される読みの予定数が示された後のみ、特定の電極を除外することもできる。
【0127】
精度を向上させるための多電極センサーの使用においては、各電極で複数の測定値を得て、それを平均して精度を向上させることができる。この方法は、単電極センサーで使用して精度を向上させることもできる。
【0128】
大量生産されたセンサーを使用する場合に、センサーにおける測定領域の体積変動のために、分析の誤差が発生する。測定領域の3寸法のうちの2つである長さおよび幅は、通常は比較的大きく、約1−5mmの間である。このような寸法の電極は、2%以下の変動で容易に作製できる。しかしながら、半微量の測定領域体積は、第3の寸法が、長さまたは幅よりも1または2桁小さいことを要求する。前述したように、試料室の厚みは、通常、約0.1から約0.01mmの間である。厚みに関する製造上の変動は、所望の厚みと同等またはそれ以上とすることができる。従って、測定領域内の試料体積におけるこの不確実性に関連して、方法を調整することが好ましい。
【0129】
図5に示す本発明の一実施形態においては、複数の作用電極42、44、46が基体48に備えられている。これらの電極は、図示していない対電極が配置された、図示していない別の基体で覆われており、複数の対向電極対を提供している。このセンサーにおける、電極対の作用電極と対電極との間の離間距離の変動は、かなり減少する。作用電極および対電極は、各電極対間に同一のスペーサー28を備えた単一の基体上に各々設けられる(図3参照)。
【0130】
ここで、電極対を有する測定領域の体積の正確な測定に使用でき、ノイズの低減に有用な多電極センサーの一例を示す。この例においては、1つの作用電極42には、不溶脱性の酸化還元媒介剤および不溶脱性の第2の電子伝達剤(例えば、酵素)が設けられている。吸収体が、作用電極42とそれに対応する対電極との間に配置されていてもよい。別の作用電極44は、電極上に、不溶脱性の酸化還元媒介剤を含むが、第2の電子伝達剤は存在しない。更に、この第2の電極対は、作用電極44とそれに対応する対電極との間に吸収体を備えていてもよい。随意の第3の作用電極46は、電極に結合した酸化還元媒介剤および第2の電子伝達剤を有しておらず、作用電極46とそれに対応する対電極との間には吸収体が存在していない。
【0131】
試料室の厚みは、電極46(または、吸収体が存在しない場合の電極42、44のいずれか)とそれに対応する対電極との間の、好ましくはいかなる液体もが存在しないときの、静電容量を測定することによって求められる。電極対の静電容量は、電極の表面積、電極間の間隔およびプレート間物質の誘電率に依存する。空気の誘電率は不変であるため、この電極配置の静電容量は数ピコファラドである(または、電極と対電極との間に液体が存在する場合は、大部分の生体液の誘電率は約75であるという前提で、約100ピコファラドである)。よって、電極の表面積は既知であるため、電極対の静電容量の測定は、測定領域の厚みを約1−5%の範囲内で測定することを可能にする。
【0132】
吸収体の空孔体積の量は、(第2の電子伝達剤を備えていない)電極44とそれに関係する対電極との間の、液体を添加する前および後の静電容量を測定することによって求められる。液体を添加すると、液体は大きい誘電率を有するため、静電容量は著しく増加する。液体が存在する場合および存在しない場合の静電容量を測定することにより、電極間の間隔および吸収体中の空孔体積、並びに、反応領域における液体の体積を求めることができる。
【0133】
試料導入前に不均一な酸化状態で存在する酸化還元媒介剤に起因するセンサーの誤差は、電極42および44の各々に最も近い測定領域で、同時に試料を電気分解することによって測定できる。電極44においては、第2の電子伝達剤が存在しないため被検体は電気分解されない(第2の電子伝達剤が必要であると仮定する)。しかしながら、試料導入前に混成した酸化状態にある(すなわち、いくつかの酸化還元中心は還元形であり、いくつかは酸化形である)酸化還元媒介剤の電気分解に起因して、小さな電荷が移動する(小さい電流が流れる)。この第2の電極対の間を移動する小さい電荷を、第1の電極対の間を移動する電荷から差し引いて、酸化還元媒介剤の酸化状態に起因した誤差を実質的に除去することができる。この操作は、容量性の充電および誘導性の電流に関連する誤差だけでなく、アスコルビン酸塩、尿酸塩およびアセトアミノフェンなどの電気分解される別の妨害物質に関連する誤差をも低減する。
【0134】
別の電極配置においても、これらの方法(すなわち、不確定成分の不存在下における静電容量測定および電量測定)を使用して、妨害物質および測定する試料体積に関する不正確な知識に起因する影雑音および誤差を低減できる。1以上の電極対および前述した1以上の測定値を含むプロトコルが明らかにされ、それは本発明の範囲内である。例えば、静電容量測定には1つの電極対を要するが、便宜的に追加的な電極対を使用してもよい。
【0135】
(実施例)
以下の実施例によって、本発明を更に説明する。これらの実施例は、先に前述の説明において十分に示された本発明の範囲を限定するものではない。本発明の概念の範囲内での変形が当業者に明らかである。
【実施例1】
【0136】
(グルコース濃度測定のための小体積インビトロセンサーの作製)
図1に示した本発明の実施形態に対応させてセンサーを構成した。作用電極をマイヤーフィルム(デュポン)上に形成した。マイヤーフィルムは、厚さが0.175mm、直径が2.5cmであった。約1cmの直径を有する厚さ約12ミクロンのカーボンパッドを、マイヤーフィルム上にスクリーン印刷した。厚さが12μmであり、中心に直径4mmの開口部を有する水に不溶性の誘電性絶縁体(インスレイヤー(Insulayer))で、炭素電極を被覆した。
【0137】
誘電体で被覆されていない炭素電極の中心部は、酸化還元媒介剤で被覆した。酸化還元媒介剤は、タイラー(Taylor)等、ジャーナル オブ エレクトロアナリティカル ケミストリー(J.Electoroanal.Chem.,)396:511(1995)に記載されているように、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを用いてオスミウムポリマーとグルコースオキシダーゼとを結合することによって得られたOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl2と、ポリ(1−ビニルイミダゾール)を錯化させることによって生成した。酸化還元媒介剤におけるオスミウムとイミダゾール官能基との比は、約1:15であった。厚さ0.6μm、直径4mmの層状である作用電極上に、媒介剤を配置した。電極上における媒介剤のカバレッジは約60μg/cm2(乾燥重量)であった。電極の媒介剤で被覆された表面を取り囲むように、電極上にスペーサー材を配置した。スペーサーは、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)製であり、厚さは約0.040mmであった。
【0138】
吸収体を、作用電極の媒介剤で被覆された表面に接触させて配置した。吸収体は、ナイロン(テトコ ニテックス ナイロン3−10/2(Tetko Nitex nylon 3−10/2))製であり、直径5mm、厚さ0.045mm、空孔体積が約20%であった。測定領域内の試料体積を、吸収体および電極の寸法および特性から算出した。測定領域は、直径4mm(電極表面を被覆する媒介剤の直径)、厚さ0.045mm(ナイロン吸収体の厚さ)であり、0.57μLの容積を有していた。この空間の約80%がナイロンで充填されており、残りの20%がナイロン吸収体内の空孔である。結果として得られた測定領域内の試料体積は、約0.11μLであった。
【0139】
対/参照電極を、スペーサーおよび吸収体の作用電極とは反対側の面に、2つの電極が互いに対向するように接触させて配置した。対/参照電極は、約1cmの直径を有する厚さ12ミクロンの銀/塩化銀層をスクリーン印刷した、厚さ0.175mm、直径約2.5cmのマイヤーフィルムで構成した。
【0140】
電極組立品の両側に配した平板を用いて、電極、吸収体およびスペーサーを合わせて加圧した。平板はポリカーボネートプラスティックで形成し、しっかりと締めてセンサーとともに保存した。電極は、使用前に48時間空気中で保存した。
【0141】
タブは、作用電極および対/参照電極の両方から伸ばし、分析装置と電気的に接続した。ポテンショスタットを使用し、作用電極を陰極として、作用電極と対/参照電極との間に+200mVの電位差を加えた。電極間に導電性の経路が存在しないため、予測されることではあるが、試料の不存在下では電極間に電流は流れなかった。
【0142】
試料室内のナイロン吸収体からの拡張部として形成されたナイロン吸収体の小タブを介して、試料を導入した。試料と吸収体タブとが接触すると、液体は吸収体に吸上げられた。試料室が満たされ、試料が電極に接触すると、電極間に電流が流れた。試料中のグルコース分子が作用電極上のグルコースオキシダーゼに接触すると、グルコース分子がグルコノラクトンに電気酸化された。次に、オスミウム酸化還元中心が作用電極との反応によって再び酸化された。これにより電流が得られ、この電流をクーロメトリー(イー ジー アンド ジー プリンストン アプライド リサーチ モデル#173(EG&G Princeton Applied Research Model#173))によって測定すると同時に積分した。
【0143】
電気化学反応は、95%を超えるグルコースが電気的に還元されたことを示す定常状態の値に電流が達するまで続けた。一定の間隔をおいた電流測定によって得られた電流曲線を積分し、電気化学反応の間に移動した電荷量を求めた。この電荷を既知のグルコース濃度に対してプロットし、検量線を作成した。
【0144】
人工脳脊髄液の緩衝液または調整血清(バクスター−デイド、モニトロール レベル1、マイアミ、エフ エル(Baxter−Dade,Monitrol Level1,Miami,FL))中に既知濃度のグルコースを、3−20mMグルコースの範囲で含む溶液の0.5μLアリコートを用いて、センサーを試験した。人工脳脊髄液は、次の塩の混合物として調整した:126mMのNaCl、27.5mMのNaHCO3、2.4mMのKCl、0.5mMのKH2PO4、1.1mMのCaCl2・2H2O、0.5mMのNa2SO4。
【0145】
分析結果を表1および図7に示す。表1において、Qavgは、3〜6個の同一測定用試料におけるグルコースの電気分解に使用された平均電荷(図7は各測定用試料についての電荷を示す)であり、90%立上り時間(90% rise time)は、グルコースの90%が電気分解されるのに要する時間に相当する。データは10−20%のセンサー精度を示し、生理学的に関連する範囲内(30μg/dL−600μg/dL)はもちろん、低グルコース濃度に対しても十分なセンサー感度が示された。
【0146】
【表1】
【0147】
グルコース濃度の平均測定値を1以上の方程式に適合させて、検量線を得た。図8に、表1のグルコース/緩衝液のデータに対する検量線を示す。15.0mMグルコースの測定値の一つは、測定値の平均値から標準偏差の2倍以上離れていたため、この計算から除外した。高グルコース濃度(10−20mM)は一次方程式に適合した。低グルコース濃度は二次多項式に適合した。
【0148】
図9は、不正確なグルコース濃度測定に基づく誤差結果を求めるために、クラーク(Clark)等、ディアベーツ ケア(Diabetes Care)、5、622−27、1987で開発された誤差格子(error grid)上にプロットした表1のデータを示す。グラフは、「正確な」グルコース濃度に対して、測定したグルコース濃度をプロットしたものである。なお、測定したグルコース濃度は、図7の各データ点に対する図8の検量線を用いてグルコース濃度を算出することによって求めた。A領域内の点は正確であり、B領域内の点は臨床的に許容され、C、DおよびE領域内の点は更に不適当であり、ついには危険な処置を招くものである。
【0149】
34個のデータ点が得られた。データ点のうち、91%がA領域にあり、6%がB領域にあり、3%がC領域にあった。1つの記録だけが、C領域に存在するように測定された。この記録は評価から除外され、図9に示されていない。従って、97%の記録が臨床的に許容される領域AおよびBに存在した。
【0150】
Os原子の総数が、Osの全てを還元し、その後に試料室においてグルコースを含有しない緩衝液で電気酸化することによって測定された。その結果、59.6±5.4μCの電荷が測定された。この結果と、表1のグルコースを含有しない緩衝液の結果との比較により、Osの20%未満が試料導入前に還元形で存在することが示された。還元形のオスミウム量の変動性は、存在するオスミウムの総量の5%未満である。
【実施例2】
【0151】
(妨害物質に対するグルコースセンサーの応答)
実施例1として前述したものと同様に構成したセンサーを使用し、妨害物質に対するセンサーの応答を調べた。血中グルコース測定に対する主な電気化学的妨害物質は、アスコルビン酸塩、アセトアミノフェンおよび尿酸塩である。これら一般的な妨害物質の、通常の生理学上または治療上(アセトアミノフェンの場合)の濃度範囲は、
アスコルビン酸塩:0.034−0.114mM
アセトアミノフェン:0.066−0.200mM
尿酸塩(成人男子):0.27−0.47mM
である。ティーツ(Tietz)、テキストブック オブ クリニカル ケミストリー、シー.エー.バティスおよびイー.アール.アシュウッド編、ダブリュ.ビー.サンダース コー.、フィラデルフィア1994年、2210−12頁(Textbook of Clinical Chemistry,C.A.Burtis and E.R.Ashwood,eds.,W.B.Saunders Co.,Philadelphia 1994,pp2210−12)。
【0152】
グルコースを含有しない妨害物質緩衝溶液を、上記生理学上または治療上範囲の上限の妨害物質濃度で測定した。各測定において注入される試料体積は、0.5μLであった。+100mVまたは+200mVの電位を電極間に印加した。妨害物質が存在する場合に記録された平均信号から、緩衝液のみの(すなわち、妨害物質を含有しない)溶液から得られた平均バックグラウンド電流を差し引くことによって、平均電荷(Qavg)を算出した。結果として得られた平均電荷を、表1から得られるグルコース濃度4mMおよび10mMに対する信号と比較し、妨害物質に起因する誤差の割合を求めた。
【0153】
【表2】
【0154】
これらの結果は、アスコルビン酸塩およびアセトアミノフェンは、特に低電位測定においては、グルコースセンサーに対する実質的な妨害にはならないことが示された。しかしながら、尿酸塩は重大な妨害を与える。例えば、これらの結果からの外挿によって求めた適当な電荷量を、センサーのグルコース測定値の全てから差し引くなど、0.37mMの尿酸塩濃度に対するセンサーの応答を校正することによって、この妨害を最小化できる。尿酸塩濃度の0.10mMの変化(尿酸塩濃度の範囲は成人男性で0.27−0.47mM)に起因する誤差は、4mMグルコースおよび100mVにおいて約6%である。
【実施例3】
【0155】
(グルコースデヒドロゲナーゼを備えたセンサー)
グルコースオキシダーゼをピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼに代え、実施例1の+200mVの電位に対するものとして+100mVの電位を印加すること以外は、実施例1の記載と同様のセンサーを作製し、本実施例において使用した。結果を、下表3および図10のグラフに示す。
【0156】
【表3】
【0157】
結果より、グルコースデヒドロゲナーゼセンサーから得られる電荷は、特に低グルコース濃度において、比較用のグルコースオキシダーゼセンサーよりも更に大きいことが示された。4mMグルコース濃度に対して、2種のセンサーで得られた測定値は5ファクター(factor of five)相違した。更に、グルコースデヒドロゲナーゼセンサーは低電位で動作し、故に妨害反応の影響が低減される。
【0158】
更に、実施例1の結果に対して、表3の結果は、図10に示すように全てが一次方程式に適合した。単一の線形検量線は、単純なセンサー構成および動作に非常に好ましい。
【0159】
また、表2の妨害物質の結果がこのセンサーに適用できると仮定すると、全ての妨害物質は、電位100mVにおいて、3mMグルコース溶液に対して、7%未満の誤差を誘発する。
【実施例4】
【0160】
(体液流中の乳酸塩濃度の測定)
本実施例のセンサーは、ガラス質炭素電極を備えたフローセル(バイオアナリティカルシステム,インク.#MF−1025(BioAnalytical System,Inc. #MF−1025)を用いて構成した。フリーセルの電極を酸化還元媒介剤で被覆し、作用電極を得た。この場合、酸化還元媒介剤は、ポリ(1−ビニルイミダゾール)とOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl2とを、イミダゾール官能基15個毎にオスミウム1個の比率で錯化させることによって生成したポリマーであった。乳酸オキシダーゼを、ポリエテレングリコールジグリシジルエーテルを介してポリマーと結合させた。媒介剤は、カバレッジ500μg/cm2、厚さ5μmで電極を被覆することとした。媒介剤は、液流中での付着を改善するため、トラックエッチングした(track−etched)ポリカーボネート膜(オズモニクス−ポアティクス#10550(Osmonics−Poretics#10550))で被覆した。膜上には、試料室を限定し、測定領域に相当する空隙を含む、単一の50μ厚のスペーサーガスケット(バイオアナリティカルシステム,インク.#MF−1062)を配置した。フローセルを参照電極および補助電極を含むセル台(バイオアナリティカルシステム,インク.#MF−1005)に取付けることによって、センサーの組立が完了した。
【0161】
この場合、試料室は、媒介剤で被覆された0.031cm2の表面積を有する電極と接触した、厚さ50μmの円筒に相当する。このセンサーの測定領域内の試料体積は、約0.16μLと算出された。
【0162】
体液流の流速は5μL/分であった。標準三電極ポテンショスタットをセルのリードに取付け、酸化還元媒介剤で被覆されたガラス質炭素電極と参照電極との間に、+200mVの電位を印加した。この電位は、ラクテートの酵素を介した酸化を引き起こすのに十分である。
【0163】
体液流はセンサーを流れ、ラクテート濃度に比例した定常状態電流が測定された。周期的な間隔で体液流を停止し、電極間に電流を、安定化した定常状態の電流の達成が示されるように、測定領域内のほぼ全てのラクテートを電気酸化するまで流した。電流が定常状態に達するまでの流れの停止から記録される示差的電流の積分によって、ラクテートの電気酸化に要する総電荷Qを求めた。そして、濃度を下記式によって算出した。
[ラクテート]=Q/2FV (4)
【0164】
ここで、Vは、測定領域内の試料の体積であり、Fは、ファラデー定数である。
【0165】
この分析は、名目上のラクテート濃度が1.0、5.0および10.0mMであるラクテート溶液を用いて行った。分析により測定された濃度は、各々、1.9、5.4および8.9mMであった。
【実施例5】
【0166】
(ポリ(1−ビニルイミダゾール)と錯化したOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2の酸化状態の測定)
三電極構造のセンサーを、エコセンサーズ リミテッド、ロングハンボロー、イギリス(Ecosennsor Ltd.,Long Hanborough,England)からモデル名「大面積使い捨て電極(large area disposable electrode)」として、商業的に入手した。センサーは、平行に且つ同一平面上に存在する作用電極、参照電極および対電極を含む。作用面領域(0.2cm2)および対電極は印刷した炭素で形成し、参照電極は印刷したAg/AgClで形成した。酸化還元媒介剤で、炭素作用電極を被覆した。酸化還元媒介剤は、ポリ(1−ビニルイミダゾール)とOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl2とを、Os陽イオン1個にイミダゾール官能基15個の比率で錯化し、続いてポリエテレングリコールジグリシジルエーテルを用いてオスミウムポリマーをグルコースオキシダーゼと結合することによって生成した。
【0167】
電極を、室温で24時間硬化させた。同一平面上の電極アレーを緩衝化電解液に浸し、作用電極と参照電極との間に+200mVの電位(Os(II)からOs(III)に変換するのに十分な電位)を印加した。
【0168】
電位印加時には、検出不能な1μC未満の電荷が移動した。その後の酸化還元媒介剤の還元および酸化によって、全てのOsの形態がOs(II)からOs(III)に変換するのに、65μCの電荷が得られた。すなわち、酸化還元媒介剤中のOs陽イオンの98%が、所望の酸化されたOs(III)形であった。
【実施例6】
【0169】
(ポリ(4−ビニルピリジン)と錯化したOs[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2の酸化状態の測定)
作用電極上の酸化還元媒介剤を、ポリエテレングリコールジグリシジルエーテルを介してグルコースオキシダーゼと結合した、Os陽イオン毎にピリジン基12個を有する、Os[4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン]2Cl+/+2のポリ(4−ビニルピリジン)との錯体に変えること以外は、同様の作用/対/参照電極配置で、実施例5と同様の実験を行った。
【0170】
2個のセンサーを作製した。2個のセンサーの電極は、室温で24時間硬化させた。そして、電極を緩衝化電解液に浸し、作用電極と参照電極との間に+200mVの電位を印加した。
【0171】
電極への電位印加時に、2個のセンサーにおいて、各々、2.5μCおよび3.8μCの電荷が移動した。その後の酸化還元媒介剤の還元および酸化によって、各々、27.9μCおよび28.0μCの酸化電荷が得られた。すなわち、センサーは初め、Os陽イオンの91%および86%を所望の酸化されたOs(III)形で含んでいた。
【実施例7】
【0172】
(光学センサー)
ガラススライドなどの透光性支持体上に結合した酵素を含む、酸化還元ポリマーフィルムを適用して、光学センサーを作製する。酸化還元媒介剤の量は、測定領域を満たすと予測される被検体の最大量と、(化学量論的な意味において)同等またはそれ以上とする。スペーサー、吸収体および対向する支持体をしっかりと締め付ける。試料室は、光が組立てられたセンサーを通って光学密度検出器または蛍光検出器に伝達するように適応させる。試料で試料室を満たし、酸化還元媒介剤が酸化されたときの、室内の酸化還元媒介剤の吸収、透過、反射または蛍光の変化を、試料中のグルコース量と相関させる。
【実施例8】
【0173】
(上腕ランセットスティックからの血液体積)
本方法で得られた血液体積の再現性を測定するため、一人の被験者の前腕をランセットで複数回突刺した。各前腕の前面部分および左前腕の背面領域に13本を超えるランセットスティックを突刺したにもかかわらず、被験者は各スティックを実質的に痛みがないと認識した。
【0174】
前腕は、ペイレスカラーランセット(Payless Color Lancet)で突刺した。各スティックからの血液は1μLの毛細管を用いて採取し、その体積は血液柱の長さを測定で求めた。各スティックから得られた体積を表4に示す。
【0175】
【表4】
【0176】
本発明を、種々の特定および好適な実施形態および方法を参照して説明した。しかしながら、本発明の趣旨および範囲内において、多くの変形または改良が可能であることは、通常の当業者に明らかである。
【0177】
本明細書中の全ての刊行物および特許出願は、本発明に関する通常の当業者の水準を示すものである。全ての刊行物および特許出願を、各々の刊行物または特許出願を参考として特記および別記した場合と同様の範囲で、ここに参考として取り入れる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体液中の被検体の濃度を測定する方法であって、
作用電極、対/参照電極、酸化還元媒介剤および被検体反応酵素を含む、1μL以下の容量の試料室を備えており、作用電極が対/参照電極から200μm以下の距離だけ離れている、インビトロ被検体センサーに、体液の一部を移す工程と、
体液が、前記作用電極、対/参照電極、酸化還元媒介剤および被検体反応酵素と連通するように、被検体センサーの試料室内に体液を保持する工程と、
被検体センサーに移された体液の一部から体液中の被検体の濃度を測定する工程とを備えており。
被検体を含まない緩衝液の電気分解によって生じるバックグラウンド信号が、6mMの被検体を含んだ緩衝液の電気分解によって生じる信号の約26%以下である、前記方法。
【請求項2】
試料室が、500nL以下の容量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料室が、200nL以下の容量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
試料室が、100nL以下の容量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
患者からの体液の補助無し流を生じさせるように、患者の皮膚の一部を突刺すことによって体液の補助無し流を作り出す工程を備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
体液の補助無し流を作り出す工程が、患者から1000nL以下の体液の補助無し流を作り出す工程からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
作用電極および対/参照電極が、対向する電極の対である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
被検体の濃度を測定する工程が、クーロメトリー法を使用して被検体の濃度を測定する工程からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
被検体の濃度を測定する工程が、アンペロメトリー法を使用して被検体の濃度を測定する工程からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
被検体がグルコースである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記移す工程が、体液の一部を吸い上げるべく試料室に配設された吸収材料を備える被検体センサーの中に、体液の一部を、吸い上げる工程からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記移す工程が、体液の一部を、被検体センサーの試料室の中に、毛管作用によって移す工程からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
体液の一部を移す工程が、500nL以下の体液を、被検体センサーの中に移す工程からなる、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
体液の一部を移す工程が、200nL以下の体液を、被検体センサーの中に移す工程からなる、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも2方が作用電極および対電極によって境界づけられており、約1μL以下の試料を含む大きさを持つ、測定領域を更に備えており、該測定領域が、試料室の全容積である、請求項1に記載の方法。
【請求項1】
患者の体液中の被検体の濃度を測定する方法であって、
作用電極、対/参照電極、酸化還元媒介剤および被検体反応酵素を含む、1μL以下の容量の試料室を備えており、作用電極が対/参照電極から200μm以下の距離だけ離れている、インビトロ被検体センサーに、体液の一部を移す工程と、
体液が、前記作用電極、対/参照電極、酸化還元媒介剤および被検体反応酵素と連通するように、被検体センサーの試料室内に体液を保持する工程と、
被検体センサーに移された体液の一部から体液中の被検体の濃度を測定する工程とを備えており。
被検体を含まない緩衝液の電気分解によって生じるバックグラウンド信号が、6mMの被検体を含んだ緩衝液の電気分解によって生じる信号の約26%以下である、前記方法。
【請求項2】
試料室が、500nL以下の容量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料室が、200nL以下の容量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
試料室が、100nL以下の容量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
患者からの体液の補助無し流を生じさせるように、患者の皮膚の一部を突刺すことによって体液の補助無し流を作り出す工程を備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
体液の補助無し流を作り出す工程が、患者から1000nL以下の体液の補助無し流を作り出す工程からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
作用電極および対/参照電極が、対向する電極の対である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
被検体の濃度を測定する工程が、クーロメトリー法を使用して被検体の濃度を測定する工程からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
被検体の濃度を測定する工程が、アンペロメトリー法を使用して被検体の濃度を測定する工程からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
被検体がグルコースである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記移す工程が、体液の一部を吸い上げるべく試料室に配設された吸収材料を備える被検体センサーの中に、体液の一部を、吸い上げる工程からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記移す工程が、体液の一部を、被検体センサーの試料室の中に、毛管作用によって移す工程からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
体液の一部を移す工程が、500nL以下の体液を、被検体センサーの中に移す工程からなる、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
体液の一部を移す工程が、200nL以下の体液を、被検体センサーの中に移す工程からなる、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも2方が作用電極および対電極によって境界づけられており、約1μL以下の試料を含む大きさを持つ、測定領域を更に備えており、該測定領域が、試料室の全容積である、請求項1に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−101092(P2012−101092A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−279321(P2011−279321)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【分割の表示】特願2007−124926(P2007−124926)の分割
【原出願日】平成10年2月6日(1998.2.6)
【出願人】(500211047)アボット ダイアベティス ケア インコーポレイテッド (43)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT DIABETES CARE INC.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【分割の表示】特願2007−124926(P2007−124926)の分割
【原出願日】平成10年2月6日(1998.2.6)
【出願人】(500211047)アボット ダイアベティス ケア インコーポレイテッド (43)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT DIABETES CARE INC.
【Fターム(参考)】
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