説明

少なくとも選択的に4輪駆動される自動車用の全輪クラッチのトルク分配を制御するための方法および装置

【課題】少なくとも選択的に4輪駆動される自動車用の全輪クラッチのトルク分配を制御するための方法および装置を提供する。
【解決手段】この自動車は第1車軸と第2車軸を有するクラッチ制御式全輪駆動装置を備え、全輪クラッチ2の変更可能な調節は第1車軸12と第2車軸22への所望なトルク分配を設定し、この場合、自動車1の第1車軸12と第2車軸22の各車輪のタイヤスリップの一連の測定データに基づいておよび車輪のタイヤスリップの少なくとも1つの特性マップに基づいて、それぞれの車輪に作用する縦方向力に依存して、第1と第2車軸への全輪クラッチ2の実際のトルク分配が、車輪の縦方向力を介して求められ、この場合、全輪クラッチ2の求められた実際のトルク分配を、全輪クラッチ2の所望なトルク分配と比較することによって、制御偏差が求められ、この制御偏差が全輪クラッチ2のトルク分配を制御するための制御回路に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも選択的に4輪駆動される自動車用の全輪クラッチのトルク分配を制御するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の車軸間でトルクが可変式に分配される全輪ドライブトレイン、特にトルクを駆動車軸に可変式に制御可能および調整可能に分配するクラッチ制御型全輪駆動装置、いわゆるハング−オン(Hang−on)システムは、縦方向クラッチの使用によって可能となる。その際、この縦方向クラッチにおける所望される規定トルクのできるだけ正確な調節は、要求される走行ダイナミクスを確実にするために必要である。縦方向クラッチまたは類似の全輪システムの調節精度の検査は、力センサおよびトルクセンサの形の測定技術をそれぞれの全輪システムに組み込まないと不可能である。一般的に、コストを回避するために、大量生産車両ではこれらの測定技術は省略される。
【0003】
特許文献1は、制御ユニットを備えた、少なくとも一時的に4輪駆動される自動車のための制御システムを開示している。この制御ユニットによって、駆動ユニットの駆動トルクは駆動ユニットに常時連結された第一駆動輪と、必要に応じて駆動ユニットに連結可能である第二駆動輪とに可変に分配可能である。駆動トルクを分配するために、駆動ユニットと第二駆動輪との間に配置された伝達クラッチのクラッチトルクが制御ユニットによって調節される。上記の制御システムの場合、制御ユニットは次のように形成されている。すなわち、伝達クラッチを操作するアクチュエータのための調整ストロークが特性曲線を介して規定クラッチトルクに割り当てられ、そして車輪の安定回転を保証する少なくとも1つの所定の運転条件が存在する場合に、特性曲線に従って伝達クラッチを完全にロックしない状態にする調整ストロークが制御ユニットによって設定され、続いて実際のクラッチトルクが制御ユニットによって、前車軸の駆動スリップと後車軸の駆動スリップと全駆動トルクとからのみ計算可能であるように形成されている。
【0004】
特許文献2は全輪クラッチのアクチュエータを調整し直すための方法を開示している。自動車の全輪クラッチのアクチュエータを調整し直すための開示された方法の場合には、次のステップが実施される。車両の一次車軸の回転数と二次車軸の回転数との間の差に一致するクラッチスリップ値が決定される。さらに、二次車軸に伝達される駆動トルクの一部に一致する基準二次車軸トルクが決定される。この駆動トルクについては、ほぼゼロのクラッチスリップ値が予想される。最後に、クラッチスリップ値と閾値の比較と、規定クラッチトルクと基準二次車軸トルクの比較が行われる。続いて、クラッチアクチュエータのための規定クラッチトルクがこの比較の結果に依存して変更される。
【0005】
特許文献3は、少なくとも一時的に4輪駆動される自動車のための制御システムを開示している。この制御システムによって、駆動ユニットの駆動トルクを、4輪駆動される自動車の第一駆動輪と第二駆動輪に分配することができる。
【0006】
特許文献4は、少なくとも一時的に4輪駆動される自動車のための制御装置を開示している。少なくとも一時的に4輪駆動される自動車のための開示された制御装置の場合には、駆動ユニットの駆動トルクが制御ユニットによって、駆動ユニットに常時連結された第一駆動輪と、必要に応じて伝達クラッチを介して駆動ユニットに連結可能である第二駆動輪とに可変に分配される。これは、制御ユニットが、アクチュエータ装置を用いて伝達クラッチで調節すべきである規定クラッチトルクを求めることによって行われる。制御ユニットはアクセルペダル位置を検出するための少なくとも1つの入力信号を受け取り、そして規定クラッチトルクを求める際に基本パイロット制御成分(Grundvorsteueranteil)を考慮するように形成されている。この基本パイロット制御成分はアクセルペダル位置に依存して設定され、制御ユニットが検出するかまたは求める他のパラメータに依存して補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第10346671A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102007038151A1号明細書
【特許文献3】欧州特許第1670661B1号明細書
【特許文献4】独国特許発明第10333653B3号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の課題は、作用する駆動トルクが自動車の駆動車軸に最適に分配される、タイヤスリップ特性曲線を用いて、少なくとも一時的に4輪駆動される自動車用のクラッチ制御される全輪駆動装置を制御するための改善された方法と改善された装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は本発明に従い、請求項1の特徴を有する、少なくとも一時的に4輪駆動される自動車のためのクラッチ制御される全輪駆動装置を制御する方法と、請求項8に係る装置によって解決される。
【0010】
これに従い、本発明に係る方法の場合には、少なくとも選択的に4輪駆動される自動車のための全輪クラッチのトルク分配を制御するための方法および装置が提供され、この自動車は第1車軸と第2車軸を有するクラッチ制御式全輪駆動装置を備え、全輪クラッチの変更可能な調節は第1車軸と第2車軸への所望なトルク分配を設定し、この場合、自動車の第1車軸と第2車軸の各車輪のタイヤスリップの一連の測定データに基づいておよび車輪のタイヤスリップの少なくとも1つの特性マップに基づいて、それぞれの車輪に作用する縦方向力に依存して、第1と第2車軸への全輪クラッチの実際のトルク分配が、車輪の縦方向力を介して求められ、この場合、全輪クラッチの求められた実際のトルク分配を、全輪クラッチの所望なトルク分配と比較することによって、制御偏差が求められ、この制御偏差が全輪クラッチのトルク分配を制御するための制御回路に供給される。
【0011】
本発明の根底をなす思想は、実際のタイヤスリップの計算を可能にするために、自動車の基準速度を、動的車輪半径と車輪回転数に基づく、自動車の各車輪の車輪速度と照合することにある。タイヤスリップの計算を行った後で、車輪のタイヤスリップの特性マップとの照合はそれぞれの車輪に作用する縦方向力に依存して行われる。それによって、車両に作用する縦方向力の計算が可能になる。車軸変速比、現在の走行抵抗および動的車輪半径に関するデータを付け加えて、全輪クラッチ−実際−トルクの計算が可能である。その際、自動車の関与する各車輪について縦方向力が使用される。トラクションコントロールシステムの運転データを使用して、トルクの比較と、適用すべき補正ファクタの分類が行われる。その際、本発明に係る方法または本発明に係る装置は、物理的関係を考慮して調整されたクラッチ要素を検出するために、車両−CAN−Bus(車両−コントロールエリアネットワーク−バス)で提供可能な信号を利用する。
【0012】
従属請求項には、本発明のそれぞれの対象の有利な発展形態と改良が記載されている。
【0013】
本方法の有利な実施形では、自動車の第1車軸と第2車軸の各車輪のタイヤスリップが、自動車の速度を各車輪の測定された回転速度と照合することによって求められる。
【0014】
本方法の他の実施形では、車輪の回転速度を測定するために、回転数センサが使用され、各車輪のタイヤスリップを検知するために、自動車の速度に依存して車輪の動的車輪半径の特性マップが使用される。
【0015】
本方法の他の実施形では、回転数センサとして、4輪駆動式自動車のアンチロックブレーキシステムの既存の回転数センサが使用される。
【0016】
本方法の他の実施形では、全輪クラッチのトルク分配を制御するために、個々の車輪のタイヤスリップを算定する際に、個々の車輪の動的車輪荷重変化が算入される。
【0017】
本方法の他の実施形では、全輪クラッチのトルク分配を制御するために、全輪クラッチの所望なトルク分配が自動車のトラクションコントロール装置によって設定される。
【0018】
本方法の他の実施形では、自動車の全輪クラッチのトルク分配を制御するために、パラメータと特性マップが自動車のモデルシリーズおよび/またはモデルの仕様に依存して使用される。
【0019】
本発明の上記実施形と発展形態は、任意の適切な方法で互いに組み合わせ可能である。
【0020】
次に、添付の図を参照して、実施例に基づき、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る、少なくとも一時的に4輪駆動される自動車を概略的に示す図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係るクラッチ制御式全輪駆動装置を制御するための概略的な制御ダイヤフラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
すべての図において、同一の要素および機能が同じ要素は、異なる記載がなければ、同じ参照符号が付けられている。
【0023】
図1は、本発明の第1実施の形態に係る、少なくとも一時的に4輪駆動される自動車1を概略的に示す。エンジン5を有する自動車1は、複数の車軸間で可変式トルク分配を行うドライブトレイン4、例えば第1車軸12と第2車軸22との間で例えば縦方向クラッチとしての全輪クラッチ2によって制御または調整可能な可変式トルク分配を行う全輪ハング−オン(Hang−on)−システムを備えている。この場合、例えば第1車軸12が常時駆動され、第2車軸22が選択的に駆動され、そして要求される走行ダイナミクスを保証するために、第1車軸12と第2車軸22の所望される規定トルクが制御ユニット3によって調節可能である。制御ユニット3は全輪クラッチ2のトルク分配の変更可能な調節を制御する。第1車軸12はさらに、第1車軸12の第1車輪14と第1車軸12の第2車輪18のための第1車軸差動装置10を備えている。第2車軸22は第2車軸22の第1車輪24と第2車軸22の第2車輪28のための第2車軸差動装置20を備えている。
【0024】
図2は本発明の他の実施の形態に係る、クラッチ制御式全輪駆動装置を制御するための方法の制御ダイヤフラムを概略的に示す。少なくとも選択的に4輪駆動される自動車1のための全輪クラッチ2のトルク分配を制御するための方法の実施の形態の場合、例えばステップS1において、基準速度、車輪速度および他の入力値のような、CAN−バスに存在する信号が物理的関連を考慮して、車輪14、18、24、28に関する車輪スリップを計算するために使用される。この他の入力値は例えば動的車輪半径の特性マップである。ステップS2で求められる動的車輪荷重変化を算入して、ステップS3において、車輪14、18、24、28の縦方向力の計算が行われる。ステップS4では、全輪クラッチ−実際−トルクが、実際のトルク分配に相応して、車輪14、18、24、28におけるその都度の実際のタイヤスリップと、それから生じる縦方向力とを評価することによって求められる。さらに、自動車1の実際の走行状態は、トラクション(牽引)マネージメントファクタに基づいて、ステップS6で検査される。この場合、トラクションマネージメントファクタはステップS5において先ず最初に読み込まれる。トラクションマネージメントファクタは、適切なブレーキマネージメント介入および/またはエンジンマネージメント介入によって駆動トルクを制御し、自動車のトラクションと走行安定性を確保する、自動車1のトラクション(牽引)コントロールの一部である。これにより、本方法は全輪クラッチまたは縦方向クラッチの調節精度の検査を可能にし、そして測定技術、特にトルク測定センサを自動車1に組み込まずに実施可能である。所定の調節精度が維持されていない場合には、本方法は調節精度を最適化する補正ファクタを決定する。走行方法の識別に依存して、規定トルク要求が相応して適合させられる。この場合、走行方法識別は支配的なダイナミクスを表す。走行方法識別は自動車1の瞬間的な走行方法を表すためのパラメータ、特に動的走行方法、すなわち自動車1の高い加速度を要求する走行方法が存在するかどうかを表すためのパラメータである。
【0025】
本発明を実施の形態に基づいて前述したが、本発明はこの実施の形態に限定されず、多彩な方法で変形可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 自動車
2 全輪クラッチ
12 第1車軸
14、18、24、28 車輪
22 第2車軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも選択的に4輪駆動される自動車(1)のための全輪クラッチ(2)のトルク分配を制御するための方法であって、前記自動車が第1車軸(12)と第2車軸(22)を有するクラッチ制御式全輪駆動装置を備え、前記全輪クラッチ(2)の変更可能な調節が前記第1車軸(12)と前記第2車軸(22)への所望なトルク分配を設定し、
この場合、前記自動車(1)の前記第1車軸(12)と前記第2車軸(22)の各車輪(14、18、24、28)のタイヤスリップの一連の測定データに基づいておよび前記車輪(14、18、24、28)のタイヤスリップの少なくとも1つの特性マップに基づいて、それぞれの車輪に作用する縦方向力に依存して、前記第1と第2車軸(12、22)への前記全輪クラッチ(2)の実際のトルク分配が、前記車輪(14、18、24、28)の縦方向力を介して求められ、
この場合、前記全輪クラッチ(2)の求められた実際のトルク分配を、前記全輪クラッチ(2)の所望なトルク分配と比較することによって、制御偏差が求められ、当該制御偏差が前記全輪クラッチ(2)のトルク分配を制御するための制御回路に供給される、方法。
【請求項2】
前記自動車(1)の前記第1車軸(12)と前記第2車軸(22)の各車輪(14、18、24、28)のタイヤスリップが、前記自動車(1)の速度を前記各車輪(14、18、24、28)の測定された回転速度と照合することによって求められることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記車輪(14、18、24、28)の回転速度を測定するために、回転数センサが使用され、前記各車輪(14、18、24、28)のタイヤスリップを検出するために、前記自動車(1)の速度に依存して前記車輪(14、18、24、28)の動的車輪半径の特性マップが使用されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記回転数センサとして、4輪駆動式自動車(1)のアンチロックブレーキシステムの既存の回転数センサが使用されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記全輪クラッチ(2)のトルク分配を制御するために、個々の前記車輪(14、18、24、28)のタイヤスリップを算定する際に、個々の前記車輪(14、18、24、28)の動的車輪荷重変化が算入されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記全輪クラッチ(2)のトルク分配を制御するために、前記全輪クラッチ(2)の所望なトルク分配が前記自動車(1)のトラクションコントロール装置によって設定されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記自動車(1)の前記全輪クラッチ(2)のトルク分配を制御するために、パラメータと特性マップが前記自動車(1)のモデルシリーズおよびモデルのいずれか一方または両方の仕様に依存して使用されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも選択的に4輪駆動される自動車(1)のための全輪クラッチ(2)のトルク分配を制御するための装置であって、前記自動車が第1車軸(12)と第2車軸(22)を有するクラッチ制御式全輪駆動装置を備え、前記第1車軸(12)と前記第2車軸(22)への所望なトルク分配を調節するために、前記全輪クラッチ(2)の変更可能な調節が行われ、
この場合、前記自動車(1)の前記第1車軸(12)と前記第2車軸(22)の各車輪(14、18、24、28)のタイヤスリップの一連の測定データに基づいておよび前記車輪(14、18、24、28)のタイヤスリップの少なくとも1つの特性マップに基づいて、それぞれの車輪に作用する縦方向力に依存して、前記第1と第2車軸(12、22)への前記全輪クラッチ(2)の実際のトルク分配が、前記車輪(14、18、24、28)の縦方向力を介して求めることが可能であり、
この場合、前記全輪クラッチ(2)の求められた実際のトルク分配を、前記全輪クラッチ(2)の所望なトルク分配と比較することによって、制御偏差が求められ、当該制御偏差が前記全輪クラッチ(2)のトルク分配を制御するための制御回路に供給される、装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−35835(P2012−35835A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169771(P2011−169771)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(510238096)ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (63)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】