説明

局所温度制御機能を有する導電膜フィルムヒーター

【課題】高分子基材上の片側のみに成膜された導電膜のフィルムを使って、ヒーター面の温度不均一を防止する。
【解決手段】mを2以上の整数とし、導電膜フィルムヒーター上で温度制御すべき領域を2m領域に分け、それぞれの領域に温度センサーを2m個配置する。各領域の通電状態とオープン状態にした設定パターンを作り、その設定パターンを時間的に変化させることにより、2m領域の局所温度の昇温・降温・保持を可能にする。すなわち、2m個の領域の局所温度の制御を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブルなフィルムヒーターに関し、さらに詳しくはヒーター面の温度分布を均一にするために4極以上の電力供給用の電極と4素子以上の温度センサーを有する導電膜フィルムヒーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電膜フィルムヒーターは、ヒーターにITO膜等を用いた透明な場合においては、液晶ディスプレイを動作しやすい温度に保つことや、医薬品を溶解させるための透明容器を所定温度に保つこと、あるいは交通標識を雪の付着から防ぐこと等に広く用いられている。また、ヒーターにカーボン膜など不透明な導電膜を用いた場合には電子機器の基板を一定温度に保つことや不透明容器を一定温度に保つために用いられている。これらの用途において、導電膜フィルムヒーターのフレキシビリティは繰り返し使用することや容器等に密着させることのために重要な特性である。
【0003】
従来、導電膜フィルムヒーターは、フィルム状のPETやPEN等の高分子基材の上に、ITOや酸化錫等の酸化金属系導電膜素材からなる材料をスパッタリングで成膜して透明導電膜とし、不透明でよい場合には、高分子基材上にカーボン粒子のペーストを塗布または印刷手段により数十μmの厚みに成膜して導電膜とし、電力供給用の電極を形成して作られる。
【0004】
電極は、フレキシビリティを保持しうるように、銀ペーストを印刷して作成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2008−077879
【特許文献2】 特開2005−302553
【特許文献3】 特許第3483544号
【特許文献4】 特開平8−138841
【特許文献5】 特開平7−153559
【発明の概要】

【発明が解決しようという課題】
【0006】
導電膜フィルムヒーターは、従来100mm×100mm程度の面積のものが多かった。しかし、近年、大面積の交通標識の保護カバーとするため、あるいは医薬品の溶解のための透明容器(ベッセル)等に巻きつけて使用するため、従来の数倍の面積の導電膜フィルムヒーターが要求されるようになっている。こうした大面積化のため、ヒーター面全体で温度不均一が表れたり、水滴や雪が付着した場所だけ温度が低下したり、円筒状の容器等に巻きつけて使用する場合には、エアコンの風などで温度が部分的に低下する等の温度不均一の課題が顕在化していた。
【0007】
これら課題は、より厳密な温度管理上、あるいは省エネルギーの立場から防止すべき事項であるが、これまで対策は取られていなかった。本発明においては、高分子基材上の片側のみに成膜された導電膜のフィルムを使って、ヒーター面の温度不均一を防止する手段を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、ヒーター面の温度分布をより均一に保持するために4つの手段を講じている。
【0009】
第一の手段として、導電膜フィルムヒーター面上に電力供給用の4極以上の偶数個の電極を対向して配し、さらに電極近辺に温度センサーを配置した構造とする。次に、電極を通電状態、オープン状態の組み合わせを作る。以下、この組み合わせを設定パターンと呼ぶ。この設定パターンを時間的に変化させることにより、温度センサーを配置した近辺の電流密度に粗密を生じさせて局所的に温度制御を可能にする。
【0010】
第二の手段として、一方の側の電極位置より、対向する電極の片方を電極長さの半分だけ位置を並進した構造とし、やはり温度センサーを電極近傍に配置し、第一手段と同様に電極を通電状態とオープン状態の設定パターンを作り、時間的に設定パターンを変化させて局所的に温度制御を可能とする。
【0011】
第三の手段として、4個の電極を2極ずつ対向して設け、1つの電極の近傍に2個の温度センサーを並べ、合計8個の温度センサーを配置した構造とする。そして、これらの電極に通電状態とオープン状態の設定パターンを作り、その設定パターンを時間的に変化させて、温度センサー近傍の温度制御を可能とする。本手段は電極と温度センサーの数を最小にした構成で説明したが、要約すれば温度センサーの数に較べ電極の数を半分に減じた構造で局所温度の制御を可能とする。
【0012】
第四の手段として、電極と電極の間に導電膜を除去した除去溝を設け、電極と電極の間に電流密度の高い個所ができないように策を講じた第一、二、三の手段の導電膜フィルムヒーターとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電膜フィルムヒーターは次のような効果を有する。
(1) 複数の電極と複数の温度センサーにより、大面積で、水滴や雪、風のある場所 で使用されても温度の均一性が保持できる。
(2) 水滴や雪の付着したところだけに電力を多く供給できるので、総合的には省電 力となる。
(3) 温度の均一性を精度高く制御できるので、加温治療や医薬品の溶解試験機のよ うに温度管理が厳密な条件下でも使うことができる。
(4) 温度センサーの数より電極の数が少ないので、電極による導電膜フィルムヒー ターのフレキシビリティの低下を最小限にすることができ、容器等への密着性 を高め、耐久性も向上する。
(5) 導電膜が一層であるため構造が簡単で、製作工数が少なくコストが安い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来技術の説明図
【図2】実施例1の説明図
【図3】電極と電極の間に導電膜の除去溝のない構造の等電位線図
【図4】電極と電極の間に導電膜の除去溝を設けた構造の等電位線図
【図5】実施例2の説明図
【図6】電極4極、温度センサー8素子の構造の実施例3の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで技術内容を詳しく説明する。図1に従来使われてきた導電膜フィルムヒーターの平面図を示す。ITOや酸化錫等をスパッタリングで成膜、あるいはカーボンペーストを印刷手段により成膜した導電膜30が設けられた高分子基材40のフィルムの上に、一対の平行な電極10が銀ペーストの印刷により作成されている。導電膜は高分子基材より若干小さめに成形されている。なお、電極と導電膜が接している領域では上下対称な形状となっており、面積は100mm×100mm程度が一般的である。
【0016】
この構造の導電膜フィルムヒーターは近年用途が拡大し、100mm×300mm以上の大面積化が進んでいる。他方、使用環境も広がり、交通標識のヒーターのように雨や雪、霜が付着する状況、また、医薬品試験用の筒状加温器にエアコンからの風が一方向から吹く状況などから、導電膜フィルムヒーターに温度の局所的不均一を生じさせる可能性が高くなってきた。加えて、上記加温器のように温度管理がより厳密に求められるようになってきた。
【0017】
このような状況であるにも拘わらず、温度の不均一を防止する策を講じた導電膜フィルムヒーターは、これまで面積が小さかったために市販レベルでは提供されてこなかった。本発明においては、導電膜一層(高分子基材上の片面のみ成膜された導電膜)で温度センサーの数と同じ領域を局所的に温度制御する手段を提供するものである。
【0018】
これまで説明した温度の不均一(主には温度の局所的低下)を防ぐため、温度低下を検知した温度センサーのある位置に対して、時間平均すると電流密度が高くなるように電極に流す電流を制御する以下の第一、二、三、四の方法を、実施例1〜3で詳述する。なお、以下の説明文で、mは2以上の整数を表す。
【0019】
第一の手段は同じ長さの電極が片方の側にm個を配し、他方の側にも同数のm個を配し、温度センサーを電極近傍に配置して、電極合計2m個、温度センサー合計2m個を導電膜フィルム上に作成した構造において、電極を通電状態と、オープン状態を組み合わせて設定し、時間と共にこの設定パタンーンを変化させ、温度制御を可能にするようコントローラから電力を供給する。
【0020】
第二の手段として、電力供給用の長さが等しいm個の電極を導電フィルムの片側に配し、対向する側にはm+1個の電極を配して、m+1個の側の両端の電極を、他の電極の長さの半分とし、それぞれの電極の近傍に温度センサーを配置し、第一手段と同様に、電極の通電状態とオープン状態の設定パターンの時間的変化により、2m+1領域の温度を制御する。
【0021】
第三の手段として、電力供給用のm個の電極を片側の導電フィルム上に配し、対向する片側にも同様にm個の電極を配し、それぞれの電極の左右の近傍に2個の温度センサーを配置し、電極合計2m個、温度センサー合計4m個の構造とし、電極を通電状態とオープン状態の設定パターンにより、4m個の領域を温度制御する。
【0022】
第四の手段として、第一、二、三の手段に加え、導電フィルム上の電極の間に導電フィルムを除去した除去溝を設ける。この時、導電膜内部への電極からの除去溝の距離(高さ)をhとし、電極の幅をLとして、第一、二の手段ではh>2L、第三の手段では、0.5L<h<1.5Lである大きさの除去溝形状とする。
【0023】
本発明の構成においては、高分子基材に片面一層だけ導電膜を成膜した素材を用いるため、安価で工数も少なく、コストの安い導電膜フィルムヒーターが提供できる。
【実施例1】
【0024】
図2は実施例1の説明図である。本図において導電膜30上に、電極A、B、C、D、E、F、G、Hが設けられている。これらの電極は、銀ペーストの印刷手段を用いることにより形成される。ここでは、電極に電力を供給する電源接続端子をA’、B’、C’、D’、E’、F’、G’、H’で表している。
【0025】
温度センサーはそれぞれの電極の中心近傍に配され、a、b、c、d、e、f、g、hでそれぞれの位置を表示している。また、温度センサーがコントローラに接続される接続端子はそれぞれの温度センサーの記号にプライムを付け、a’、b’、c’、d’、e’、f’、g’、h’で表示している。高分子基材の外形を表す線はここでは省力されている。
【0026】
図2の導電膜の面積は、対抗する電極間距離が100mm、電極の横方向の長さが300mmで、100mm×300mm程度となる。電極には電流を1アンペア以上流すので、できるだけ抵抗を下げる必要がある。さらに電極のフィレキシビリティを考慮して銀ペーストの印刷で形成され、電極幅は5mm、厚み25μm程度が一般的である。
【0027】
温度センサーの導線部は電圧検出のため、導線抵抗は電極より高くてもよく、幅1mm、厚み10μm以下で十分機能する。温度センサーは多種考えられるが、熱の応答速度の点から薄膜タイプの熱電対が選択される。薄膜タイプの温度センサーは導線と接続され、所望の導電膜位置に接着される。
【0028】
図示はしていないが、温度センサー用の導線部は、銀ペーストを高分子基材上に平面状に電極と導線を印刷し、導線部先端に薄膜熱電対を接続した後、折り曲げにより、図2の所定の位置に接着する。このような折り曲げ方式は工数が少なく、コスト削減が可能となる。
【0029】
結果として、図2ように温度センサーと電極を導電膜上に配置することにより、領域I、II、III、IV、V、VI、VII、VIIIの8領域を8電極で局所的に温度制御可能となる。
【0030】
ここで、温度制御の方式を説明する。今、領域Iにおいて温度センサーaが温度低下を検出したとすると、電極Aと対向の電極GとHの間を通電状態にする。具体的には直流の場合、電極Aをプラス電位とし、GとHをアース電位にする。交流の場合には、電極Aを電源とし、GとHをアース電位とする。このような通電状態にすると領域Iの近傍の電流密度が領域VII、VIIIよりも上昇し、領域Iの温度のみが昇温する。この時、電極B、C、D、E、Fはオープン状態になっている。領域Iの電流密度を他の領域よりも相対的にさらに上昇させるには、電極G、Hに加えE、Fも通電状態にする設定パターンがよい。
【0031】
領域Iの温度低下が元に戻れば、電極A、B、C、DとE、F、G、Hを通常の通電状態することにより、温度を一定に保つことができる。領域Iの温度を上昇させる際に、50Hzの交流電源で、SSR(ソリッドステートリレー)を使う場合には、最小通電時間を10msecで行うことができる(60Hzの場合は8.3msec)。したがって、加温器の熱時定数は1秒以上の場合が殆どなので、十分平滑な温度の上昇・下降・保持が可能となる。
【0032】
領域II〜VIIIにおいても、Iと同様に温度低下を検出した温度センサーの領域の電極を通電状態にし、対向する電極を複数通電状態にする設定パターンにより温度を上昇させることができる。
【0033】
通電時間や電流量の計算手法はPID方式、ファジー方式、対向電極近傍の温度も考慮した最適制御方式など多数あるが、コントローラ内に内蔵されるプログラムにより容易に実現できる。最も適した計算手法は、水滴や雪、風の状態など環境により適宜選択される。
【0034】
図2において電極Aが通電状態で、電極Bがオープン状態である設定パターンでは、導電膜30上に電極が直接形成されている場合、Bの電位はAの電位よりも低い状態で一定となる。これは導電膜の電位は全体的には場所によって変わるが、電極Bは導電率が高いので、近傍の電位が平均化され電極内では同電位となる。この電位値は、電極Aよりも低いある電位に決まる。
【0035】
この状態を図3に示す。図3は図2の左側領域を、温度センサーを除いて拡大図示したものである。点線50は等電位線で、もしAが高くHが低ければ、AからHに向けて電位が下がり図のような等電位線となる。電極AB間の導電膜がつながっている場合には、AB間に電流が流れ、図3の点線の丸のように高電流密度領域60が生じ、この部分だけ温度が上昇する可能性がある。
【0036】
この電極間の温度上昇を防ぐために、導電膜を除去した除去溝を設ける必要がある。図4に除去溝を設けた状態と、その時の等電位線50を点線で示す。電極AとBの間の除去溝の高さhは、なるべく電極間距離を長くするという意味において、電極の幅Lの2倍以上(h>2L)に設定するのが良い。このような除去溝を成形することにより電極A〜Bに直接流れる電流は減少し、部分的な温度上昇は消失する。さらに、通電状態の対向電極HとGの間に多少の電位差があっても、温度を上下するような電流が流れることが防止され、制御しやすい構造となる。図2では、この除去溝を設けた形状を表示している。
【0037】
これまでの説明では温度センサーが温度低下を検出した時に、温度を上昇させる手順を説明したが、温度が高くなって低下させなければならない場合には、電極の通電状態、オープン状態の設定パターンをほぼ逆にすればよい。すなわち、温度が上昇したことを検出した温度センサーがaであったとすると、電極Aをオープン状態にし、同じ側の電極と対向した複数の電極を温度保持のための通常の通電状態にすればよい。この設定パターンを可能にしている理由は、電極間に設けられた除去溝のためである。この除去溝により電極間に直接流れる電流が阻止され、不要な電流密度の不均一が大幅に緩和される。
【0038】
以上の説明では、具体的な電極数や温度センサー数で説明したが、先に述の通りmを2以上の整数として、電極合計2m個、温度センサー合計2m個、制御できる領域2m個所として、一般に成立するする。当然、電極の設定パターンも一般化することができる。
【実施例2】
【0039】
図2の第一の実施例では電極A、B、C、Dと対向電極E、F、G、Hは同じ長さで構成されている。この状態で、対向電極間の距離が短くなった場合には、領域Iを昇温させる場合に、電極Aと電極H、Gを通電状態にすると、領域Iの温度センサー部分に電流密度の高い中心が来ない可能性がある。また領域IIを昇温させる場合には、電極Bと対向電極H、G、Fと、対向側の3電極を通電状態にすることによってのみ領域IIの中心の昇温が可能となる。すなわち、対向電極2極(FとGまたはGとH)では電極Bの中心に温度上昇の中心がこなくなり、工夫が必要となる。
【0040】
このような問題への対応として、領域I〜VIIIの中心部に昇温の中心が来るようにするための工夫を、実施例2として図5に示す。図5においては、電極A、B、C、Dと対向する側に新たに1つの電極の長さの約半分の電極Jを追加し、温度センサーjを配置する。この領域をIXとする。他方、この対向電極の側のもう一方の端にある領域Vの電極Eの長さを半分にする。結局、対向電極は電極A、B、C、Dに対して半周期(電極長さの半分)並進させた電極構造となる。図5の場合も、高分子基材の外形は図面の複雑さを回避するため省略されている。
【0041】
図5の配置の導電膜フィルムヒーターにおいて、電流密度の中心が領域の中心と一致することを説明する。今、領域IIの温度センサーbが温度低下を検知したとすると、電極Bとその対向電極H、Gが通電状態となる設定パターンにすればよい(他はオープン状態)。電極Bに対して左右対称な電極が通電状態になるので、電極Bの中心付近の温度センサーbのあたりで電流密度が最大となり、温度も一番高くなる。このように温度の最高点がセンサー付近にくる状況を対向電極2極(GとH)のみで可能になることは 温度制御をきわめて容易にできることを意味する。
【0042】
一方、温度センサーaが領域Iの温度低下を検出した場合には、電極Aと対向電極J、Hを通電状態とする。このとき電極JとHが同電位であれば、領域Iの中心に電流密度の最大点は必ずしも来ない。これを補正するために、電極Jの電位を電極Hより多少電極A側の電位に近づければよい。この場合も導電膜フィルムの除去溝があることにより電極JからHへ不要な電流が流れることはない。
【0043】
領域VやIX、すなわち温度センサーe、jが温度低下を検知した場合には、対向電極E、FあるいはA、Bが通電状態とする。電流密度の高い個所は電極EやJの中心から多少外れるかもしれないが、電極長さが他の半分と小さいので、その差異は少ない。このように温度低下を観測した領域では、その電極と2個の対向電極で、最小限の電極を通電状態にする設定パターンにより、温度上昇を可能にする。逆に、温度上昇を観測した場合には、その観測した領域の電極をオープン状態にすればよいことは実施例1と同様である。
【0044】
この実施例2では、一方の側の電極数をm個、対向している側の電極数をm+1個とし、その側の電極の両端(1番目とm+1番目)の電極長さを他の電極の半分とし、一方の側と対向の側とは電極の1/2並進させ、それぞれの電極の近傍に温度センサーを配した構造とした上で、電極を通電状態とオープン状態の設定パターンにより2m+1個の領域の温度制御を可能にする。こうして電極数と温度センサー数、および制御の領域数を一般化することができる。
【0045】
さらに、実施例1で記述した除去溝を電極間に設けると、隣接した電極間で流れる電流を防止でき、温度の制御性がより向上する。この時の除去溝の高さhは実施例1同様の条件となる。
【実施例3】
【0046】
実施例1と実施例2においては、温度センサーの数と電極の数、温度制御の領域数は一致していた。温度センサーの導線は膜厚が10μm以下と薄く線幅も1mm程度なので本数が増えても、導電膜フィルムヒーターのフレキシビリティに影響を与えることは少ない。一方、電極は幅が5mm、膜厚25μmと幅広で厚いため本数が増えるとフレキシビリティが悪くなり、密着性も耐久性も低下する。このことから、電力供給用の電極は少ない方が良い。
【0047】
そこで、温度制御の領域数は温度センサーの数と一致するが、電力供給用の電極の数を大幅に減じ、導電膜フィルムヒーターのフレキシビリティを損なわないようにした工夫を実施例3で説明する。
【0048】
実施例3の構成図を図6に示す。図6においては、導電膜30上に4個の電極A、B、C、D、8個の温度センサーa、b、c、d、e、f、g、hが図のように接着され、領域I〜VIIIの温度が制御可能となっている。ここでも高分子機材の外形を示す線は省略されている。電力供給用の電源接続端子A’、B’、C’、D’、および温度センサーのコントローラ接続端子a’、b’、c’、d’、e’、f’、g’、h’は図のように配置される。電極間には導電膜フィルムの除去溝が寸法は異なるが実施例1、2と同様に設けられている。
【0049】
図6を用いて、温度低下した部位に電力を供給する手順を説明する。今、領域Iの温度センサーaで温度低下が検知されたとすると、電極Aと対向電極C、Dを通電状態にし、電極Bはオープン状態の設定パターンとする。このとき領域IIの近傍の電流は領域III、IV、V、VIに拡散するため、領域Iの方が領域IIよりも密になり、Iの方が温度上昇の割合が高くなる。したがって、領域Iの温度低下を元に戻すことができる。
【0050】
次に領域IIの温度センサーbが温度低下を検出した場合、電極Aと対向電極Bを導通状態にすることと電極Aと対向電極Cを導通状態にする設定パターンを交互に繰り返すようにすれば、領域IIの温度低下を回復することができる。領域III〜VIIIの温度低下は、領域Iまたは領域IIと同じ設定パターンになるので、結果として4電極で8領域の温度上昇を達成することができる。温度を下降させる場合には、温度を下降させるべき近傍の電極をオープン状態にし、他の電極を通電状態にする設定パターンで、温度保持電力を供給すればよい。
【0051】
実施例3ではこれまでの実施例1、2と異なり、電極AとBの間の導電膜の除去溝の高さhは、Lを電極幅として0.5L≦h≦1.5Lが成り立つように低くする必要がある。これは領域Iの温度上昇を行う際に、領域IIの電流密度が上昇しないように電流の他領域への拡散を容易にするためである。
【0052】
この実施例3において、温度保持のアルゴリズムは多少複雑なるが、コントローラに組み込むソフトウェアで対応できるので、特段の問題はない。
【0053】
ここに説明した構成を一般化し、片側の電極の数をm個、対向する側の電極の数を同じくm個とし、各電極の左右2か所に温度センサーを置き、温度センサー合計4m個を接着して、4m領域の温度制御を可能にすると表現できる。
【0054】
次に、この構成のように温度センサー数の半分の電極数で、温度センサーの領域の温度制御が可能となるため、電極によるフレキシビリティの低下はわずかとなる。そして、フィレキシビリティの回復した分、加温器への密着性が増し、耐久性が向上する。
【産業上の利用の可能性】
【0055】
低温下で使う計測機に用いられている液晶ディスプレイの温度制御装置、カメラやビデオ機器および携帯電話における液晶ディスプレイの温度制御装置、電子回路の基板の温度保持装置、医薬品開発のための錠剤溶解観察装置の透明加温器、加温治療装置、雨や雪のある環境下で使われる交通標識などの産業上の利用の可能性がある。
【符号の説明】
【0056】
10 電極
20 電源接続端子
30 導電膜
40 高分子基材
50 等電位線
60 高電流密度領域
【0057】
A、B、C、D、E、F、G、H、J 導電膜上の電極
A’、B’、C’、D’、E’、F’、G’、H’、J’ 電力供給用の電源接続端子
a、b、c、d、e、f、g、h、j 温度センサー
a’、b’、c’、d’、e’、f’、g’、h’、j’ コントローラ接続端子
L 電極幅
H 除去溝の高さ
m 2以上の整数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ同じ長さの4極以上の偶数の電力供給用の電極を持ち、その電極を2列に対向させ、同数の温度センサーを電極近傍に接着した構造を持つ導電膜フィルムヒーターにおいて、電極に通電状態とオープン状態の組み合わせた設定パターンを作り、時間的に設定パターンを変化させることにより、局所的に温度上下を可能にしたことを特徴とする局所温度制御機能を有する導電膜フィルムヒーター。
【請求項2】
mを2以上の整数とし、電力供給用の同じ長さのm個並んだ片側の電極と、それに対向してもう一方の側にm+1個並んだ電極とを持つ導電膜フィルムヒーターにおいて、m+1個並んだ両端の2個の形状を他の電極長さの半分として1/2電極長さだけ並進させた電極構造とし、それぞれの電極近傍に温度センサーを接着して合計2m+1個配置し、電極に通電状態とオープン状態の組み合わせた設定パターンを作り、時間的に設定パターンを変化させることにより、局所的に温度上下を可能にしたことを特徴とする局所温度制御機能を有する導電膜フィルムヒーター。
【請求項3】
電力供給用の電極の間の導電膜を除去した除去溝を設け、この除去溝が導電膜面に電極から凸状に突き出た高さをhとし、電極幅をLとしたときに、h>2Lであることを特徴とする請求項1および請求項2に記載する局所温度制御機能を有する導電膜フィルムヒーター。
【請求項4】
mを2以上の整数とし、導電膜上の片側に電極をm個並べ、もう一方の側にも同数の電極を並べ、それぞれの電極の近傍の2か所に温度センサーを接着し、電極合計2m個、温度センサー合計4m個をもつ構造とし、さらに電極に通電状態とオープン状態の設定パターンを形成し、時間的に設定パターンを変化させることにより、局所的に温度上下を可能にしたことを特徴とする局所温度制御機能を有する導電膜フィルムヒーター。
【請求項5】
電力供給用の電極の間の導電膜を除去した除去溝を設け、この除去溝が導電膜面に電極幅から凸状に突き出た高さをhとし、電極幅をLとしたときに、0.5L<h<1.5Lであることを特徴とする請求項4に記載する局所温度制御機能を有する導電膜フィルムヒーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−160421(P2012−160421A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32571(P2011−32571)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(510112176)株式会社三興ネーム (3)
【Fターム(参考)】