説明

層厚さ測定方法及び層の界面平滑度の測定方法

【課題】人為的判断が入らず、条件により値が変わるなどの不正確さがなく、かつ磁性塗膜以外も適用可能な層厚さ測定方法及び層の界面平滑度の測定方法を提供する。
【解決手段】元素組成の異なる層を有する構造物における層厚さ測定方法であって、前記構造物の断面を作製する断面作製工程1と、前記断面の断面画像を取得する画像取得工程2と、前記取得した断面画像から画像輝度データを得る画像輝度データ取得工程3とを備えており、前記断面画像の厚さ方向において、前記断面画像の前記画像輝度データの変化率が極値となる位置を前記層の界面位置とし、前記界面位置に基づいて前記層の厚さを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は元素組成の異なる層を有する構造物の層厚さ測定方法及び層の界面平滑度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタ法や真空蒸着法等の各種の成膜法を用いて層を形成したり、各種無機粉末(顔料、セラミックス、磁性材料など)を結合剤樹脂と共に分散し、支持体上に塗布して複数の塗膜層を形成した各種の塗膜構造物が知られている。特に、磁気記録の分野においては、非磁性支持体上に非磁性層及び磁性層をこの順に形成した磁気記録媒体は、情報社会において重要な製品としての位置を占めている。
【0003】
情報機器産業の発達、機器の小型化に伴い、情報量は増加し、バックアップメディアとしての磁気記録媒体は、高密度記録化が必要とされている。そのため、コンピュータ用テープには、磁性層と非磁性支持体との間に非磁性層を塗布する重層テープが開発され、短波長記録特性の向上のために、さらなる磁性層の薄層化(磁性粉末の微粒子化や薄層塗布技術)が検討されている。
【0004】
薄層化に伴い、安定した出力を得るために、磁性層表面及び上下層(磁性層と非磁性層)界面を平滑化するとともに、磁性層厚さを正確に管理することが重要となってきている。磁性層厚さの正確な測定は、出力を左右する因子であるBr値(残留磁束密度)を正確に求めるために必須である。しかし、塗膜層が2層以上となっているため、直接的に測定することは困難であった。
【0005】
従来、これを解決する方法として、磁気テープ断面の電子顕微鏡画像を撮影、解析する方法があった(特許文献1、2)。この方法では、まず磁気テープの超薄切片試料を、電子顕微鏡を使用して高倍率で観察及び撮影する。次に、撮影した断面写真上で目視にて判断した磁性層と非磁性層との界面及び磁性層表面をトレースする。そして、その磁性層厚みに相当する部分を実測して得られた厚みデータを使って、平均磁性層厚みや、その標準偏差を求める。
【0006】
また、別の方法としては、再生出力の大きさを厚みに換算する方法がある。この方法は、磁性層厚みの4倍程度以上の波長で記録された信号の再生出力の大きさが、磁性層厚みに基づいて変化する性質を利用したものである。この方法は、磁性層厚み以外に、磁性層の磁気特性や磁性層と再生ヘッドとのスペーシングによっても再生出力の大きさが変化する点に注意が必要である(特許文献3)。
【0007】
さらには、磁性層の配向性を利用して偏光方向が異なる第1及び第2の偏光光を用いて配向性を持たない非磁性層上の磁性層の厚さを求める方法が提案されている(特許文献4)。
【0008】
また、磁性層及び非磁性層に含まれる元素に由来した特性X線を波長分散型X線分光法(Wavelength Depressive X-ray Spectroscopy)を用いて線分析し、得られたスペクトル半値幅の比率と別途求めた磁性層及び非磁性層の総厚とから磁性層厚d及び標準偏差σを求める方法が提案されている(特許文献5)。
【特許文献1】特開2001−134919号公報
【特許文献2】特開2002−312930号公報
【特許文献3】特開2004−335053号公報
【特許文献4】特開2003−28617号公報
【特許文献5】特開2002−312931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2の技術では、近年の微粒子磁性粉末を含む磁性層と粒子非磁性粉末を含む非磁性層との界面を目視で判断するのは困難であった。また、この技術では人為的判断が入るために、人により値が異なるという問題があり、作業時間が比較的長くかかるという問題もあった。
【0010】
特許文献3の技術は、あらかじめ検量線を作成しなければならず、さらに再生出力は磁性粉末量と磁性粉末の充填密度の配向性に依存するために、検量線作成時の磁性層と測定時の磁性層とにおいて、配向性と空隙率とが同じでないと正確な厚さが得られないという問題があった。また、この技術は、磁性層以外の塗膜層には適用できないという問題もあった。
【0011】
特許文献4の技術においても、あらかじめ検量線を作成しなければならず、偏光を利用するため、検量線作成時の磁性層と測定時の磁性層とにおいて、配向性が同じでなければならず、また材料が配向していない塗膜層には適用できないという問題があった。
【0012】
特許文献5の技術においても、あらかじめ検量線を作成しなければならず、各層に含まれる粉末材料のX線の強度比率から層厚の比率を求めるものであり、粉末材料の質量比率に由来するので、塗膜の空隙率が変化すると正確な厚さが求められないという問題があった。
【0013】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、人為的判断が入らず、条件により値が変わるなどの不正確さがなく、かつ磁性塗膜以外も適用可能な層厚さ測定方法及び層の界面平滑度の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の層厚さ測定方法は、元素組成の異なる層を有する構造物における層厚さ測定方法であって、前記構造物の断面を作製する断面作製工程と、前記断面の断面画像を取得する画像取得工程と、前記取得した断面画像から画像輝度データを得る画像輝度データ取得工程とを備えており、前記断面画像の厚さ方向において、前記断面画像の前記画像輝度データの変化率が極値となる位置を前記層の界面位置とし、前記界面位置に基づいて前記層の厚さを求めることを特徴とする。
【0015】
本発明の層の界面平滑度の測定方法は、元素組成の異なる層を有する構造物における層厚さ測定方法であって、前記構造物の断面を作製する断面作製工程と、前記断面の断面画像を取得する画像取得工程と、前記取得した断面画像から画像輝度データを得る画像輝度データ取得工程とを備えており、前記断面画像の厚さ方向において、前記断面画像の前記画像輝度データの変化率の極値を求め、前記極値に基づいて、前記層の界面平滑度の値を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、人為的判断が入らず、条件により値が変わるなどの不正確さがなく、かつ磁性塗膜以外も適用可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る層厚さ測定方法によれば、断面画像の画像輝度データの変化率に基づいて、層の界面位置を求め、この界面位置に基づいて層の厚さを求めるので、人為的判断が入らず、条件により値が変わるなどの不正確さがなく、かつ磁性塗膜以外の層にも適用可能になる。
【0018】
本発明に係る層の界面平滑度の測定方法によれば、前記の層厚さ測定方法の効果に加え、界面平滑度を定量的に測定することができる。
【0019】
前記本発明の層厚さ測定方法においては、前記画像輝度データ取得工程は、前記断面画像を、複数の部分に分割するとともに、前記複数の各部分について、画像輝度データを得る工程であり、前記複数の各部分について、前記層の厚さ方向の位置と前記画像輝度データとの関係を示す輝度曲線を得る輝度曲線作成工程をさらに備え、前記輝度曲線の微分曲線を求め、前記微分曲線の極値の位置を前記層の界面位置とすることが好ましい。
【0020】
前記本発明の層の界面平滑度の測定方法においては、前記画像輝度データ取得工程は、前記断面画像を、複数の部分に分割するとともに、前記複数の各部分について、前記画像輝度データを得る工程であり、前記複数の各部分について、前記層の厚さ方向の位置と前記画像輝度データとの関係を示す輝度曲線を得る輝度曲線作成工程をさらに備え、前記輝度曲線の微分曲線を求め、前記微分曲線の極値に基づいて、前記層の界面平滑度の値を求めることが好ましい。
【0021】
これらの好ましい構成によれば、断面画像の画像輝度をデータ処理して複数の層の輝度曲線(断面プロフィール)を得、さらに輝度曲線を微分して各層の界面位置を明確にすることができる。また、測定を正確かつ短時間にすることができる。
【0022】
前記本発明の層厚さ測定方法及び層の界面平滑度の測定方法においては、前記画像輝度データを平均化する平均化工程をさらに備えており、前記層の厚さ方向をX軸方向、前記層の面方向をY軸方向とすると、前記平均化工程において、前記分割した各部分の前記X軸方向の各位置毎に、前記Y軸方向の前記画像輝度データを平均化し、前記輝度曲線の画像輝度データを、前記平均化した画像輝度データとすることが好ましい。この構成によれば、測定精度を高めることができる。
【0023】
また、前記断面を集束イオンビーム(FIB)装置により作製することが好ましい。この構成によれば、構造物の構造が変形することがなく正確な断面画像が得られる。
【0024】
また、前記画像輝度データは、画像輝度を階調値に変換したデータであることが好ましい。
【0025】
また、前記断面画像を、YAG検出器を用いた反射電子像により得ることが好ましい。この構成によれば、元素組成の異なる層の界面がより明瞭になるので、より正確に層厚さを求めることができる。
【0026】
以下、本発明の一実施の形態について、図面及び写真を参照しながら説明する。本発明は、元素組成の異なる層を有する構造物の各層厚さの測定、及び各層の界面平滑度の測定のいずれにも適用できる。
【0027】
以下の実施の形態では、測定対象が塗膜層の例で説明し、塗膜構造物として、非磁性支持体上に非磁性粉末を結合剤樹脂中に分散した非磁性層と、磁性粉末を結合剤樹脂中に分散した磁性層とを設けた磁気記録媒体を例に説明する。
【0028】
最初に図1を参照しながら、本実施の形態に係る層の厚さ測定方法の概略について説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る層の厚さ測定方法の工程図である。断面作製工程1では、例えば集束イオンビーム(FIB)装置により塗膜層の各層を含む断面を作製する。画像取得工程2では、作製した断面を走査型電子顕微鏡にて撮影し断面画像を得る。
【0029】
画像輝度データ取得工程3では、画像取得工程2で得た断面画像を、X軸方向(各層の厚さ方向)、Y軸方向(各層の面方向)に所定数に分割するとともに、分割した各座標位置の画像輝度を所定数の階調値に変換する。平均化工程4において、前記分割した各座標位置のうちX軸方向の各座標位置毎に、Y軸方向の各座標位置の画像輝度の階調値を平均化する。輝度曲線作成工程5では、X軸方向の位置と、平均化工程4で平均化した画像輝度の階調値との関係をグラフ化し、複数の塗膜層の輝度曲線(断面プロフィール)を得る。
【0030】
界面決定工程6では、この輝度曲線の微分曲線を作成し、得られた微分曲線の極値の位置を各塗膜層の界面位置とする。各塗膜層の厚さは、求めた界面位置間の間隔により求めることができる。さらに、微分曲線の極値により、界面平滑度を求めることができる。
【0031】
以下、各工程を詳細に説明する。まず、断面作製工程1において、磁気記録媒体から磁性層及び非磁性層を含む断面を作製する。断面の作製には、試料を変形させたり、層厚さを変化させたりすることのないFIB装置を用いることが好ましい。FIB装置による断面の作製前に、磁性層表面にカーボン層を蒸着し、さらにPt−Pd層をスパッタすることが好ましい。このことにより、断面作製時における表面の変形を保護でき、磁性層表面が明瞭に観察できることになる。また、公知の他の表面処理方法を用いてもよい。
【0032】
画像取得工程2において、得られた断面を電子顕微鏡(EM)にて、各種の条件及び方法で観察し断面画像を得る。電子顕微鏡としては、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、走査型イオン顕微鏡(SIM)などの公知の電子顕微鏡を用いることができる。断面試料の作製の容易さから、走査型電子(又はイオン)顕微鏡を用いることが好ましい。
【0033】
図2から図5に走査型電子顕微鏡(SEM)他にて代表的な各種条件及び方法でPt−Pd層、カーボン層、磁性層、非磁性層からなる断面を観察した場合の写真画像を示す。図2は、加速電圧が5kV時の二次電子(SE)画像、図3は、加速電圧が2kV時の反射電子(BSE)画像、図4は、走査型イオン顕微鏡(SIM)による二次電子(SE)画像、図5は、加速電圧を7kVとし、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)検出器を用いた場合の反射電子(BSE)像である。
【0034】
図2から図5のうち、図5のYAG検出器を用いた反射電子(BSE)像が、カーボン層10と磁性層11との界面、磁性層11と非磁性層12との界面を明瞭に捉えている。このため、この手法により複数の塗膜層の断面画像を得ることが好ましい。
【0035】
図6は、図1の画像取得工程2において得た顕微鏡写真である。この断面画像7は、前記の図5を90度回転させた部分拡大図に相当する。図6において、X軸方向が各層の厚さ方向、Y軸方向が各層の面方向である。表面側8(図の左側)から順に、Pt−Pd層9、カーボン層10、磁性層11、非磁性層12の順に積層されている。
【0036】
以下、この断面画像7を例に用いて、磁性層11の厚さを測定する過程について説明し、さらに界面平滑度の測定について説明する。
【0037】
図1の画像輝度データ取得工程3において、画像輝度データを取得する。まず、断面画像7を所定数に分割する。本実施の形態では、断面画像7をY軸方向において2560行に分割し、X軸方向において1920列に分割した。2560行のうちの1行と、1920列の1列との交差部が分割の1単位になる。m番目の列とn行目の列との交差部は、座標(m,n)で表すことができる。
【0038】
次に、各座標(m,n)の画像輝度を、所定数の階調値に変換する。具体的には、本実施の形態のように、断面画像7を写真として得た場合には、その写真画像をスキャナーで読み取ることにより、断面画像をデジタルデータ化する。
【0039】
すなわちデジタルデータ化により、断面画像7は各座標(m,n)に対応した画像輝度で表現されることになる。画像輝度は、例えば輝度を8ビットで処理することにより、256階調(0〜255)のデータが得られる。
【0040】
なお、断面画像をCCD等の光電変換素子を経由して得るようにしてもよい。この場合にも断面画像をデジタルデータ化して、断面画像の各座標のデジタルデータが得られる。
【0041】
また、この工程において取得する画像輝度データは、前記のような階調値に変換したものに限るものではなく、画像輝度を数値化したものであればよい。
【0042】
図7は、デジタルデータ化した断面画像の一例を示している。図7の各数値は、各座標の画像輝度データである。なお、図7は説明の便宜上作成した一例であり、図中の数値は、図6の断面画像7に対応したものではない。図7において、例えばm列n行、すなわち座標(m,n)の画像輝度は、A部として示した部分の98である。
【0043】
次に、図1の平均化工程4において、断面画像のデジタルデータについて、各列の平均値を算出する。図7の例では、k列目の平均輝度値は、行数が2560行であれば、B部における2560個分の輝度値データの平均値になる。この演算を繰り返し、列数が1920列であれば、1920個分の輝度平均変換値(I)が得られることになる。
【0044】
このデータを用いて、図1の輝度曲線作成工程5において、厚さ方向の位置(X)と、輝度平均変換値(I)との関係を示す輝度曲線を作成する。図8に、輝度曲線の一例を示している。本図の例は、図6に示した断面画像7の実測値に基づいて、作成したものである。
【0045】
ここで、断面画像7において、元素組成が同じ部分では同じ輝度値を示し、元素組成が異なる部分では輝度値も異なることになる。図8の例では、C部及びD部は、輝度値がほぼ一定になっている。図8のグラフと図6の断面画像7の各層の積層順序とを対比すれば、C部は磁性層11に含まれ、D部は非磁性層12に含まれていることが分かる。
【0046】
また、各層の界面付近では、隣接層の元素も混在している。また、界面から離れるにつれて、各層本来の元素組成に近づくので、元素の混在の程度は小さくなる。このため、界面付近では、輝度値は一定値を示さず、厚さ方向の位置に応じて変化することになる。図8の例では、C部とD部との間は、輝度曲線は厚さ方向の位置に応じて変化しており、この間に界面があることになる。同様に、C部の左側においても、輝度曲線が厚さ方向の位置に応じて変化した部分がある。しがって、この部分にも界面位置に対応した部分があることになる。
【0047】
このように、図8の輝度曲線から、界面位置を知ることができる。さらに詳しく界面位置を決定し、各層両側の界面位置を求めることができれば、各層の厚さをさらに正確に求めることが可能になる。図9(a)、(b)を参照しながら磁性層11の界面位置を測定する例について説明する。以下に示す測定方法は、輝度曲線に加え、輝度微分曲線を作成することにより、界面の正確な位置を求めるというものである。
【0048】
図9(a)は、厚さ方向の位置(X)と輝度平均変換値(I)との関係を示している。図9(a)は、図8の拡大図に相当する。図9(a)は磁性層11の厚さを求める例を説明する図であるので、横軸の値は1000までにしている。
【0049】
図9(b)は、厚さ方向の位置(X)と輝度微分値(I′)との関係を示している。縦軸の輝度微分値(I′)は、図9(a)の輝度曲線の微分値である。輝度微分値(I′)は、dI/dXで表現することができ、図9(a)のX位置における画像輝度データの変化率を示している。また、輝度微分値(I′)は、図9(a)のX位置における輝度曲線の接線の傾きの値でもある。例えば、輝度微分値(I′)が1であれば、接線の傾きは45度である。
【0050】
図6において隣接するカーボン層10と磁性層11とについて検討してみる。カーボン層10と磁性層11とでは、元素組成は異なるので、各層の輝度値は異なった値になる。前記の通り、図9(a)のC部は、磁性層11の一部である。図9(a)と、図6の断面画像7との対比から、D部の左側にありD部とは異なった輝度値を示すE部がカーボン層10の一部であることが分かる。このため、E部とC部との間に、カーボン層10と磁性層11との界面があることになる。
【0051】
前記の通り、界面付近では両層の元素が混在した状態になっている。カーボン層10と磁性層11との界面付近のうち、カーボン層10側には、カーボン層10より輝度値の高い磁性層11の元素が混在している。界面に近づくにつれて磁性層11に近づくので、磁性層11の元素の増加率が大きくなる。このため、界面に近づくにつれて、輝度値は上昇しその変化率も大きくなる。すなわち、dI/dXである輝度微分値(I′)は、界面に近づくにつれて、大きくなる。界面に近づくにつれて、輝度値が上昇することは、図9(a)の曲線13に示されており、輝度微分値(I′)が大きくなることは、図9(b)の曲線14に示されている。
【0052】
界面を越え磁性層11側に移ると、磁性層11の元素の割合が増加するものの、その増加率は小さくなる。すなわち、界面を越えても輝度値は増大するが、dI/dXである輝度微分値(I′)は、小さくなることになる。輝度値が上昇することは、図9(a)の曲線13に示されており、輝度微分値(I′)が小さくなることは、図9(b)の曲線15に示されている。
【0053】
したがって、X軸の正方向に進むにつれて増加する輝度微分値(I′)は、界面を境に減少に転じることになる。すなわち、輝度微分値(I′)は界面において極大値を示すことになる。このため、輝度微分曲線の極大値P1の位置を求めることにより、磁性層11のカーボン層10側の界面位置を測定できることになる。同様の方法により、極大値P1に隣接する極大値P2の位置を求めることができ、磁性層11の非磁性層12側の界面位置を測定できることになる。
【0054】
なお、図9(a)の輝度曲線のうち、図9(b)の極大値P2に対応した部分から分かるように、この部分においては、接線の傾きは負になり輝度微分値(I′)の値も負になる。このため、極大値P2は実際には極小値になる。しかしながら、図9(b)のように輝度微分値(I′)を正にして極大値P2とした場合も、輝度微分値(I′)を負のままとし極小値P2とした場合も界面位置は変わりない。
【0055】
すなわち、界面位置を求めるには極値(極大値又は極小値)の位置が分かればよいことになる。このため、図示の見易さを考慮し、図9(b)の輝度微分値(I′)は、厚さ方向全体に亘り絶対値に統一した。
【0056】
以上のように、磁性層11の両側の界面位置を求めることができれば、両側の界面間の距離を求めることにより、磁性層11の膜厚を求めることができる。図9(b)の例では、極大値P2の位置X2と、極大値P1の位置X1との差、すなわち距離d(X2−X1)が磁性層11の厚さになる。
【0057】
図9(a)にも距離dの位置を示している。距離dを示した指示線と輝度曲線との交点が界面位置に対応した点になる。この点において、微分値は極大値を示すので、この点は変曲点であるといえる。
【0058】
なお、前記の測定方法を、図6の例において、Pt−Pt層9及びカーボン層10の保護層を形成する表面処理をしていない構造物に用いることもできる。この例では、磁性層11は空気層に接しているため、磁性層表面は空気層との界面とみなすことができる。このため、磁性層11の厚さは、空気層と磁性層11との界面(磁性層11の表面)から磁性層11と非磁性層12との界面までの距離となる。
【0059】
次に、界面平滑度の測定について説明する。図9(b)に示した輝度微分曲線を用いることにより、各層の膜厚のみならず、界面平滑度を測定することができる。前記の通り、界面付近では、各層の元素が混在しており、この混在の程度が小さいほど、界面における元素組成の変化が急峻であるといえる。本実施の形態における界面平滑度とは、界面における元素組成の変化の度合いのことである。界面における元素組成の変化が急峻であるほど、界面平滑度が大きいことになる。また、界面平滑度は、界面粗さの表現を用いることもできる。この場合、界面平滑度が大きいほど、界面粗さは小さいことになる。
【0060】
また、図6の断面画像7において、界面付近をY軸方向(各層の面方向)についてみると、界面付近は各層が入り乱れていることになる。例えば、磁性層11とカーボン層10との界面は、ほぼ直線状になっている。これに対し、磁性層11と非磁性層12との界面は、近似的に直線として捉えられるに止まり、各層の入り乱れの程度が大きいといえる。
【0061】
例えば、磁性層11側に非磁性層12が入り込んだ状態を考えてみると、この入り込んだ非磁性層12の部分においては、元素組成の変化の度合いは小さいことになる。したがって、界面平滑度は、界面付近における各層の入り乱れの程度にも関係しているといえる。
【0062】
ここで、前記の通り、dI/dXである輝度微分値(I′)は、その値が大きいほど、輝度値の変化率が大きいことになる。輝度値の変化率が大きいということは、元素組成の変化の度合いが大きいことを意味する。したがって、輝度微分値(I′)は、平滑度の尺度として用いることができる。前記のように、輝度微分曲線の極値の位置が界面位置であるので、極値の値に基づいた値を界面平滑度とすることにより、界面平滑度を定量的に測定することができる。
【0063】
図9(b)の例では、極大値P1の値すなわち高さh1の値は、極大値P2の値すなわち高さh2の値に比べ大きくなっている。したがって、磁性層11とカーボン層10との界面平滑度は、磁性層11と非磁性層12との界面平滑度に比べ大きいといえる。このことは、前記のような図6の断面画像7の目視確認の結果とも一致している。
【0064】
また、高さh1、h2の値は、正確に知ることができるので、界面平滑度を定量的に求めることができる。例えば、高さh1は高さh2の4倍程度であるので、図6において、磁性層11とカーボン層10との界面平滑度は、磁性層11と非磁性層12との界面平滑度に比べ、4倍程度大きいといえる。
【0065】
このように、界面平滑度を定量的に測定できることは、元素組成の異なる層を有する構造物の開発時における性能評価に役立つ。例えば、本実施の形態のような磁気記録媒体の例では、界面平滑度が大きいほど、安定した出力が得られる。このため、測定した界面平滑度を性能評価の目安とすることができる。
【0066】
なお、本実施の形態では、輝度曲線の作成に用いる画像輝度データは、平均化工程を経た平均値を用いたが、平均化工程を省いた測定方法も考えられる。例えば、図7において、n行目1行分のデータのみを測定に用いることができる。この測定方法は、概略値を簡易に知りたい場合に適している。
【0067】
また、本実施の形態では、断面画像が一つの場合で説明したが、異なる箇所で、複数の断面画像を取得して、各断面画像について測定して、測定値の精度を高めたり、測定値のばらつきを調べたりしてもよい。
【0068】
また、本実施の形態では、測定対象が磁気記録媒体の塗膜層の例で説明したが、これに限るものではない。すなわち、本発明に係る測定方法は、元素組成の異なる層を有する構造物の層であれば用いることができる。このような例として、スパッタ法や真空蒸着法等の各種の成膜法を用いて形成した層が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように本発明によれば、人為的判断が入らず、条件により値が変わるなどの不正確さがなく、かつ磁性塗膜以外も適用可能になるので、本発明は元素組成の異なる層を有する構造物の層厚さ測定方法及び層の界面平滑度の測定方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施の形態に係る層厚さ測定方法の工程図。
【図2】走査型電子顕微鏡による二次電子(SE)画像の一例の写真。
【図3】走査型電子顕微鏡による反射電子(BSE)画像の一例の写真。
【図4】走査型イオン顕微鏡による二次電子(SE)画像の一例の写真
【図5】YAG検出器を用いた走査型電子顕微鏡による反射電子(BSE)像の一例の写真。
【図6】本発明の一実施の形態に係る画像取得工程において得た顕微鏡写真の一例であり、図5を90度回転させた拡大図。
【図7】本発明の一実施の形態に係るデジタルデータ化した断面画像の一例を示す図。
【図8】本発明の一実施の形態に係る輝度曲線の一例を示す図。
【図9】(a)は図8の拡大図、(b)は本発明の一実施の形態に係る輝度微分曲線の一例を示す図。
【符号の説明】
【0071】
1 断面作成工程
2 画像取得工程
3 画像輝度データ取得工程
4 平均化工程
5 輝度曲線作成工程
6 界面決定工程
7 断面画像
8 表面側
9 Pt−Pd層
10 カーボン層
11 磁性層
12 非磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素組成の異なる層を有する構造物における層厚さ測定方法であって、
前記構造物の断面を作製する断面作製工程と、
前記断面の断面画像を取得する画像取得工程と、
前記取得した断面画像から画像輝度データを得る画像輝度データ取得工程とを備えており、
前記断面画像の厚さ方向において、前記断面画像の前記画像輝度データの変化率が極値となる位置を前記層の界面位置とし、前記界面位置に基づいて前記層の厚さを求めることを特徴とする層厚さ測定方法。
【請求項2】
前記画像輝度データ取得工程は、前記断面画像を、複数の部分に分割するとともに、前記複数の各部分について、前記画像輝度データを得る工程であり、
前記複数の各部分について、前記層の厚さ方向の位置と前記画像輝度データとの関係を示す輝度曲線を得る輝度曲線作成工程をさらに備え、前記輝度曲線の微分曲線を求め、前記微分曲線の極値の位置を前記層の界面位置とする請求項1に記載の層厚さ測定方法。
【請求項3】
前記画像輝度データを平均化する平均化工程をさらに備えており、前記層の厚さ方向をX軸方向、前記層の面方向をY軸方向とすると、前記平均化工程において、前記分割した各部分の前記X軸方向の各位置毎に、前記Y軸方向の前記画像輝度データを平均化し、前記輝度曲線の画像輝度データを、前記平均化した画像輝度データとする請求項2に記載の層厚さ測定方法。
【請求項4】
前記断面を集束イオンビーム(FIB)装置により作製する請求項1から3のいずれかに記載の層厚さ測定方法。
【請求項5】
前記画像輝度データは、画像輝度を階調値に変換したデータである請求項1から4のいずれかに記載の層厚さ測定方法。
【請求項6】
前記断面画像を、YAG検出器を用いた反射電子像により得る請求項1から5のいずれかに記載の層厚さ測定方法。
【請求項7】
元素組成の異なる層を有する構造物における層の界面平滑度の測定方法であって、
前記構造物の断面を作製する断面作製工程と、
前記断面の断面画像を取得する画像取得工程と、
前記取得した断面画像から画像輝度データを得る画像輝度データ取得工程とを備えており、
前記断面画像の厚さ方向において、前記断面画像の前記画像輝度データの変化率の極値を求め、前記極値に基づいて、前記層の界面平滑度の値を求めることを特徴とする層の界面平滑度の測定方法。
【請求項8】
前記画像輝度データ取得工程は、前記断面画像を、複数の部分に分割するとともに、前記複数の各部分について、前記画像輝度データを得る工程であり、
前記複数の各部分について、前記層の厚さ方向の位置と前記画像輝度データとの関係を示す輝度曲線を得る輝度曲線作成工程をさらに備え、前記輝度曲線の微分曲線を求め、前記微分曲線の極値に基づいて、前記層の界面平滑度の値を求める請求項7に記載の層の界面平滑度の測定方法。
【請求項9】
前記画像輝度データを平均化する平均化工程をさらに備えており、前記層の厚さ方向をX軸方向、前記層の面方向をY軸方向とすると、前記平均化工程において、前記分割した各部分の前記X軸方向の各位置毎に、前記Y軸方向の前記画像輝度データを平均化し、前記輝度曲線の画像輝度データを、前記平均化した画像輝度データとする請求項8に記載の層の界面平滑度の測定方法。
【請求項10】
前記断面を集束イオンビーム(FIB)装置により作製する請求項7から9のいずれかに記載の層の界面平滑度の測定方法。
【請求項11】
前記画像輝度データは、画像輝度を階調値に変換したデータである請求項7から10のいずれかに記載の層の界面平滑度の測定方法。
【請求項12】
前記断面画像を、YAG検出器を用いた反射電子像により得る請求項7から11のいずれかに記載の層の界面平滑度の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−128672(P2008−128672A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310600(P2006−310600)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】