説明

層状化解消装置

【課題】貯蔵タンク内に貯蔵された液密度の異なる2以上の液体の層状化を解消するための層状化解消装置に係り、装置製造および装置設置等に要するコストを可及的に低く抑えながら、層状化を効果的に解消することのできる層状化解消装置を提供する。
【解決手段】貯蔵タンク1内に貯蔵された液密度の異なる2以上の液体(LNG等)の層状化を解消する、層状化解消装置10であって、貯蔵タンク1内において少なくとも最下層の液体(LNG3)に対応する位置に配されて泡を発生させる泡発生手段4を具備し、この泡発生手段4は、(1)超音波振動子、(2)電気ヒーター、(3)温媒ヒーター、のいずれか一種からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵タンク内に貯蔵される、LNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)等の液化ガスをはじめ、各種液体の層状化を解消する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、各種の産業活動、市民生活から排出される二酸化炭素の排出量削減を如何なる手段で実現するかという問題は、国家的かつ国際的な問題となっており、我が国においても、その対策の立案に向けた活発な議論が展開されている。
【0003】
そして、その中でも、LNG(液化天然ガス)は、その燃焼時に硫黄酸化物や煤塵を発生せず、他の化石燃料に比して二酸化炭素や窒素酸化物の排出量が少ないことから、環境負荷の少ない、いわゆるクリーンエネルギーとして注目を集めている。
【0004】
一方、我が国のガス関連産業においては、我が国で使用される都市ガス等の原料となるLNGの多くを、オーストラリア、アラスカ、東南アジアや中東をはじめ、世界各国からLNGタンカー等を介して輸入しているのが現状である。
【0005】
ここで、LNGの密度に関して言及すると、輸入先である各国(産地)ごとにLNGの密度が多様に異なっており(420〜470kg/m程度と言われている)、また、同一産地であっても、その輸送や貯蔵過程での外部入熱による温度上昇、蒸発等によって密度は変化する。また、LNG市場の拡大に伴ってスポット契約が増加し、さらには、その輸入先も多様化してきている。これらの要素を踏まえ、輸入先ごとに、すなわち、密度ごとに被貯蔵LNGの貯蔵タンクを使い分けようとすると、新規の貯蔵タンクの増設等を余儀なくされ、多大な建設コストが生じる。そこで、既存の貯蔵タンク(一般に、ガス関連施設ヤードには複数の地上式、地下式、半地下式の貯蔵タンクが存在している)を有効利用して、一つの貯蔵タンク内に密度の異なる複数のLNGを混合貯蔵する方法の必要性が高まりつつあり、いわゆる、異種LNG混合貯蔵と称されている。
【0006】
異種LNG混合貯蔵においては、貯蔵タンク内で複数種の相互に密度の異なるLNGが貯蔵される際に、下層にいくほど高密度のLNGが存在する密度分布を呈して各密度に固有のLNG層を成すようになり、これは一般に「層状化」と称されている。なお、この層状化は、異なる密度のLNGが貯蔵タンク内に収容された際に生じるものであり、同一種のLNGが貯蔵される場合に生じないことは勿論のことである。
【0007】
ところで、LNG貯蔵タンク内に貯蔵されているLNGは、常圧、−162℃にて気液平衡状態となっており、これに自然入熱等が作用することでBOG(ボイルオフガス)が発生し、タンク内に充満している。したがって、このような極低温のLNGを貯蔵する貯蔵タンクには断熱構造が要求されている。しかし、断熱構造を呈しているとしても、タンク内に自然入熱が作用することは避けられず、この自然入熱等により、貯蔵タンク内部のLNGはその一部が気化することで、各層のLNGごとに、該層内で対流が生じている。そして、外部からの熱の作用が最も大きなLNG層は、貯蔵タンクの側面と底面からの熱が作用する最下層のLNG層であり、加えて、上層が蓋の役割を果たし、下層からのBOGによる放熱を阻害することから、最下層のLNG層がそれよりも上方のLNG層に比して相対的に高温となり、この温度上昇に伴ってLNGの液密度が小さくなっていくことが特定されている。
【0008】
たとえば、最下層の液密度が460kg/m、その上層の液密度が450kg/mの2層の層状化をなしたLNG層において、最下層のLNG層は、温度上昇に伴ってその密度が455kg/m、450kg/mと低下していき、最終的には、上層のLNG層の液密度と同程度になるとともに、上層、下層の層境界は消滅する。
【0009】
そして、異種LNGの液密度が同程度になるまでは、各層ごとに各層内に固有の比較的小さな対流が生じていたものが、上下層の液密度が同程度となったことで、上下層の全体に亘る大きな対流が生ぜしめられ、この大きな対流によってそれまで下層に蓄積されていた熱が多量のBOG発生を促進し、これが、貯蔵タンク内部の内圧を急激に上昇させたり、場合によっては貯蔵タンクの破損、損傷に至ることもあり、貯蔵タンクオペレーションにとっての大きなリスク原因の一つとなっている。なお、このように、層状化にともない、下層のLNG層に蓄積されていた熱が多量のBOG発生に伴って解放される現象は、ロールオーバーと称されている。
【0010】
上記ロールオーバーの原因となる層状化を解消する方法に関する従来の公開技術として、特許文献1に開示の低温液化ガスタンク内の攪拌方法を挙げることができる。この攪拌方法は、タンク内に、内部中空の導管を液面下に没した状態で上下方向に設け、導管の上部位置に凝縮器から出た液を膨張弁を介して、フラッシュするガスを導入するものである。また、その他の形態として、導管の上部位置に蒸発ガス圧縮機からの出口ガスの一部を導入するものも開示されている。
【0011】
特許文献1に開示の攪拌方法によれば、カーゴポンプ、すなわちジェットミキシングポンプもしくはノズルを使用することなく上記するロールオーバーを解消することができ、もってコスト高を解消できる、としている。
【0012】
しかし、その図2等からも明らかなように、タンク内にボイルオフガスを戻すための導管を設け、この導管途中に圧縮器や凝縮器、膨張弁を具備する高価な配管系統を必須の構成としていることから、その施設製造に要するコストは極めて高価であり、決してコスト高を解消できるものとはいい難い。
【0013】
さらに、ボイルオフガスを所望に圧縮し、あるいは凝縮しながら、しかも所望量のボイルオフガスをタンク内に戻す必要があることから、その制御管理も容易なものではない。
【0014】
その一方で、上記するように、建設コスト増を解消することを前提として、異種LNG混合貯蔵をはじめとする液密度の異なる2以上の液体を共通の貯蔵タンク内に収容する需要が高まっていることに鑑みれば、施設建設に要するコスト増を低く抑えながら、ロールオーバーの原因となる層状化を効果的に解消することのできる層状化解消装置の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭53−71365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、貯蔵タンク内に貯蔵された液密度の異なる2以上の液体の層状化を解消するための層状化解消装置に係り、装置製造および装置設置等に要するコストを可及的に低く抑えながら、層状化を効果的に解消することのできる層状化解消装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成すべく、本発明による層状化解消装置は、貯蔵タンク内に貯蔵された液密度の異なる2以上の液体の層状化を解消する層状化解消装置であって、貯蔵タンク内において少なくとも最下層の液体に対応する位置に配されて泡を発生させる泡発生手段を具備し、前記泡発生手段が以下のいずれか一種からなる、(1)超音波振動子、(2)電気ヒーター、(3)温媒ヒーター、ものである。
【0018】
本発明の層状化解消装置が適用される液体、すなわち貯蔵タンク内に収容される液体は、水、オイルなどの液体全般を指称するものであり、この液体には、液化ガスである、LNG,LPG、液化窒素、液化水素などが含まれるものである。
【0019】
そして、本発明の層状化解消装置は、液密度が異なる2種以上の液体が収容される貯蔵タンクに適用されるものであり、液密度の相違によって生じ得る層状化を解消することをその大きな目的としており、その解消手段として、液体に熱(温度)や圧力を付与してその一部を気化させて泡を生ぜしめ、この泡を利用して層状化を解消するものである。すなわち、上記する特許文献1に代表されるごとく、貯蔵タンク内のガスを収容された液体に戻してバブリングしたり、このガスを利用して液体をリフトアップさせ、液体上方からシャワー放射する、等の解消手段とはその内容を異にするものである。ここで、ガスをタンク内に戻す従来方式では、エアリフト用のBOG配管や、BOGの戻り系統を構成する各種配管、系内に設置される圧縮器や凝縮器、膨張弁などによってその設備建設コストが高騰することから、この課題を解消することも本発明の重要な目的となっている。
【0020】
この層状化を解消するための泡を発生させる方策として、本発明の装置は、(1)超音波振動子、(2)電気ヒーター、(3)温媒ヒーターのいずれか一種を適用するものとしている。
【0021】
ここで、超音波振動子は、振動子の振動過程で液体の一部を局所的に減圧雰囲気とし、液体を気化させて泡を発生させるものである。
【0022】
一方、電気ヒーター、温媒ヒーターはともに、液体に熱(温度)を付与して液体の一部を気化させて泡を発生させるものである。
【0023】
これらの泡発生手段は、電気配線や温媒配管を貯蔵タンク内に配設するだけの極めて簡易な設備施工で設置が可能であり、しかもそれぞれの設備はいずれも、上記する圧縮器や凝縮器、膨張弁を具備する高価な配管系統に比してそのコストは格段に廉価となる。
【0024】
また、いずれの形態の泡発生手段も、簡易な設備構造であるにもかかわらず、効果的に液体中で泡を発生することを可能とし、これらの泡発生手段が少なくとも2層以上に層状化した液体の最下層に配されていることで、発生した泡は液体の下方から上方へ移動しながら形成された液体の層境界を効果的に破壊しながら層状化の全体を解消することができるものである。なお、「少なくとも最下層」とは、最下層の液体に対応する位置に泡発生手段が配された形態のほか、層状化したたとえば3層の液体層のうちの下方2層に泡発生手段が配された形態などを含む意味である。
【0025】
さらに、上記する各種形態の泡発生手段のより具体的な構成として、以下の構成を適用するのが好ましい。
【0026】
すなわち、泡発生手段が超音波振動子からなる場合には、該超音波振動子が1系統もしくは複数系統の電線ラインに電気的に接続されて平面的に分散配置された複数の超音波振動子からなる形態を適用することができる。また、泡発生手段が電気ヒーターからなる場合には、該電気ヒーターが1系統もしくは複数系統の電線ラインに電気的に接続されて平面的に分散配置された複数のヒーターからなる形態を適用することができる。さらに、泡発生手段が温媒ヒーターからなる場合には、該温媒ヒーターが1系統もしくは複数系統で平面的に延設する温媒配管とこれを流れる温媒とからなる形態を適用することができる。
【0027】
これらの各種形態によれば、貯蔵タンク内に収容された液体に対し、平面的に分散された複数の泡発生手段、もしくは平面的に広がる泡発生手段から泡を発生させることができ、液体全体の層状化解消作用が一層期待できるものとなる。
【0028】
なお、各層の液体の液密度を同時に計測管理することにより、たとえば、この液体が上記するLNGの場合には、所定時間経過後のロールオーバーの発生前に上記する層状化解消装置を作動することで、ロールオーバーの発生を確実に回避することが可能となる。ここで、この「所定時間」とは、2種のLNGの液密度差や、貯蔵されるLNGの種類(産地、密度等)、貯蔵タンクの内部形状、入熱条件等によって異なるものであり、層状化した複数のLNG層の層境界が消失して短時間で多量のBOGが発生するまでの時間である。なお、タンク内の液密度分布を把握できれば、この所定時間は、ガス関連企業における過去の実績に基づく経験則や、実験、シミュレーション等に基づいて予測することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から理解できるように、本発明による層状化解消装置によれば、低コストで貯蔵タンクへの装置の設置が可能となり、かつ、貯蔵タンク内で生じている液密度の異なる2以上の液体の層状化状態を効果的に解消することができ、もって、これに起因するロールオーバーを確実に回避することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の層状化解消装置を具備する貯蔵タンクの一実施の形態を説明した模式図である。
【図2】(a)、(b)、(c)はそれぞれ、電線ラインおよび超音波振動子の配設形態を示した平面図である。
【図3】本発明の層状化解消装置を具備する貯蔵タンクの他の実施の形態を説明した模式図である。
【図4】(a)、(b)、(c)はそれぞれ、温媒配管の配設形態を示した平面図である。
【図5】(a)は気泡凝縮実験で使用した設備概要図であり、(b)はその写真図である。
【図6】気泡凝縮実験における気泡の状態を撮影した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の層状化解消装置の実施の形態を説明する。なお、図示例では、貯蔵タンク内で3種類の液密度の異なるLNG層が層状化している状態を示しているが、貯蔵タンク内に貯蔵される異種密度のLNGは、2種であっても、4種以上であってもよいことは勿論のことである。また、貯蔵タンク内に収容される液体は、LNG以外にも、層状化を呈し得るLPGや、水と油等、一つの貯蔵タンク内で収容される他の異種液体も含まれることは勿論のことである。
【0032】
図1は、本発明の層状化解消装置を具備する貯蔵タンクの一実施の形態を説明した模式図であり、図2a、b、cはそれぞれ、電線ラインおよび超音波振動子の配設形態を示した平面図である。
【0033】
図示する層状化解消装置10は、複数のLNG(上層から順にLNG1層、LNG2層、LNG3層でそれぞれに液密度が異なる)を収容する、いわゆる異種LNG混合貯蔵に供される貯蔵タンク1の屋根11からタンク内に収容されて延びる電線ライン2と、電線ライン2に電気的に接続する複数の超音波振動子3(もしくは電気ヒーター)と、からなる泡発生手段4と、電源5と、この電源5をON制御およびOFF制御するための制御部6(管理棟K内に収容)と、から大略構成されている。
【0034】
貯蔵タンク1には、LNGを受け入れる受け入れ配管12(X1方向)、貯蔵されたLNGを払い出しポンプ15を介して払い出すLNG払い出し配管13(X2方向)、LNG1層の上方に充満しているBOGを払い出すBOG払い出し配管14(X3方向)がそれぞれ装備されている。
【0035】
電線ライン2に電気的に接続される各超音波振動子3は、底版11’上で固定されており、最下層であるLNG3層内に配されるものである。なお、図示を省略するが、底版から立ち上がる配置台を設けておいて、この配置台の上に超音波振動子3を設置する形態であってもよい。
【0036】
電線ラインおよび超音波振動子の配設形態は、図2a〜cで示すように、平面的に見て、底版11’の全領域にて泡が発生するような配設形態であるのがよい。
【0037】
図2aで示す泡発生手段4は、底版11’の外周に沿う円形状の電線ライン2に間欠的に複数の超音波振動子3が設けられた形態である。
【0038】
一方、図2bで示す泡発生手段4Aは、底版11’の外周から中心側へ渦巻き状の電線ライン2Aに間欠的に複数の超音波振動子3が設けられた形態である。
【0039】
さらに、図2cで示す泡発生手段4Bは、底版11’の中央から放射状に伸びる電線ライン2Bに間欠的に複数の超音波振動子3が設けられた形態である。なお、平面的に底版11’の全領域から泡を発生できる泡発生手段であれば、図示例以外の形態であってもよいことは勿論のことである。また、図示例はいずれも、電線ラインが一系統であるが、これが複数系統の電線ラインと各電線ラインに間欠的に配設された超音波振動子3等からなる形態であってもよい。
【0040】
ここで、超音波振動子3による泡の発生原理は、振動子の振動過程で液体(LNG)の一部を減圧雰囲気とし、この減圧雰囲気にてLNGを気化させてBOGからなる気泡を発生させるものである。一方、電気ヒーターを用いた場合には、極低温LNGに熱を付与して気化させ、BOGからなる気泡を発生させるものである。
【0041】
貯蔵タンク1内に異種密度のLNGが貯蔵されると、その受け入れの前後を問わず、一般的に、密度の高いLNGが下方へ移動し、下方から密度の高い順で異種密度のLNGが層状に貯蔵される。したがって、図示例においては、LNG3層、LNG2層、LNG1層の順で高密度となっており、各LNG層が層状化を成している。
【0042】
そして、貯蔵タンク1内で層状化を成している各LNG層(少なくとも受け入れ時には−162℃程度の極低温である)には、貯蔵タンク1外からの入熱により、LNG層が温められて密度が減少することに伴い、各層内では対流が生じている。図示例のように3層のLNG層からなる場合に、各層に固有の対流が生じているものを三重対流(多重対流)などと称することもできる。
【0043】
この入熱に関して言えば、最上位および中位に位置するLNG1層、LNG2層が貯蔵タンク1の側面からの入熱:Q1で温められているのに対して、最下位のLNG3層は、貯蔵タンク1の側面からの入熱:Q1に加えて底版からの入熱:Q2も作用していることより、このLNG3層が最も高温になり易い。そして、温度上昇に伴ってLNG3層の液密度は除々に低下していき、その上方のLNG2層との間の層境界が解消され、より大きな対流が形成される。そして、これらがさらに温められて、最終的にはLNG2層とLNG1層との層境界も解消され、短時間で多数のBOGが発生するという、いわゆるロールオーバー現象が生じ得ることとなる。このロールオーバー現象が生じる前に、図示する層状化解消装置10を使用して形成された層状化を解消することが本装置設置の主たる目的となる。
【0044】
管理棟K内に収容された制御部6は一般にはハードウエアとして公知のコンピュータ内に内蔵されており、貯蔵タンク1内の所定レベル位置に設けられた複数の温度計や液密度計などからのデータが有線もしくは無線にて送信されるようになっている。
【0045】
この制御部6には、各LNG層間の液密度差、液密度差に応じたロールオーバーまでの所要時間などが格納されるとともにコンピュータ画面上に表示されるようになっており、管理者はその結果に基づいて、たとえば表示されたロールオーバーまでの時間内で電源5をON制御して各超音波振動子3を作動させ、最下層のLNG3層内の一部を気化させてBOGからなる泡を発生させる。
【0046】
この発生した泡は、LNG3層からLNG1層に亘って上昇し、この上昇過程でたとえば下層のLNG3層を上層のLNG2層に持ち上げ、さらに上層のLNG1層にLNG3層およびLNG2層を持ち上げながら各層間の境界を破壊することで、図示する層状化状態が解消され、上記するロールオーバーの発生が回避されることになる。
【0047】
図3は、本発明の層状化解消装置を具備する貯蔵タンクの他の実施の形態を説明した模式図であり、図4a、b、cはそれぞれ、温媒配管の配設形態を示した平面図である。
【0048】
図示する層状化解消装置10Aは、貯蔵タンク1の屋根11からタンク内に収容されて延びる温媒配管7と、温媒配管7に熱湯、熱油等の温媒を提供する温媒収容タンク8、からなる泡発生手段9と、温媒収容タンク8内の不図示のポンプをON制御およびOFF制御するための制御部6と、から大略構成されている。
【0049】
この温媒配管7も底版11’上に所望の配設形態で配設されるが、その具体的な形態の一例を図4a、b、cで示している。
【0050】
図4aで示す温媒配管7は、底版11’の外周に沿う円形状の線形を有するものであり、流入孔から流入した温媒が円形流路を通ってLNG層3を温め、流出孔から排出されるようになっている(X4方向)。
【0051】
一方、図4bで示す温媒配管7Aは、底版11’の外周から中心側へ渦巻き状の線形を有するものである。また、図4cで示す温媒配管7Bは、底版11’上で蛇行状の線形を有するものである。これらの配管形態はいずれも、平面的に底版11’の全領域に温媒配管が延設していることから、その上方に形成された層境界の全領域に効果的にBOGからなる泡を提供することができる。
【0052】
以上で説明するように、図示する層状化解消装置10,10Aは、貯蔵タンク内のBOGを該タンク内に収容されたLNGに戻してバブリングしたり、このBOGを利用してLNGをリフトアップさせ、LNG層の上方からLNGのシャワーを放射する、等の従来構造の層状化解消手段とはその内容を異にするものであり、この従来構造を適用する際に問題となる設備建設コスト、メンテナンスコストの高騰を解消でき、さらには、層状化解消手段を作動させる際の高度な制御管理を不要とできるものである。
【0053】
[泡凝縮確認実験とその結果]
本発明者等は、下層のLNG層内で発生したBOGからなる泡が凝縮せずに上方まで上昇して、層状化を解消する作用を奏することができるか否かに関する確認実験をおこなった。ここで、試験装置として図5a、bで示す設備を用いて、アラスカ産のLNG、ブルネイ産のLNGを瓶内に収容して層状化状態を形成し、BOGの主成分であるメタンを下方のブルネイ産のLNG層内に強制的に送り込み、気泡の上昇過程での凝縮の有無を確認した。
【0054】
実験装置は、図示するように、デュワー瓶(67.5L)にLNGを収容し、瓶底から上昇するメタンの気泡の形状変化を撮影する高速度カメラ(1000fps)を具備するものである。ここで、上層のアラスカ産のLNGは、密度が422kg/m、温度が−160.2℃であり、下層のブルネイ産のLNGは、密度が452kg/m、温度が−159.7〜−157.2℃である。また、LNG層内で発生する泡の径は11mm、上昇速度は0.4m/sec、Re=1.1×10であった。撮影結果を図6に示している。
【0055】
同図より、下層からの気泡は冷たい上層(ΔTがおよそ3℃)に入っても縮小していないことが確認されている。また、気泡の液随伴による混合効果によって、上下の液層境界は徐々に下降して行くことが確認されている。さらに、気泡の大きさを支配しているのは液ヘッドであるが、撮影画像より得られた気泡の大きさの変化は±3%程度であり、150mmの液ヘッドでの予想変化1%と大きく異なっていないことが判明している。
【0056】
本確認実験より、中規模〜大規模な貯蔵タンク内に異種LNGが貯蔵され、層状化を呈している場合において、その下層のLNG層内から発生したBOG気泡は、凝縮することなく上層のLNG層まで上昇して層状化を解消できることが実証されている。
【0057】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0058】
1…貯蔵タンク、11…屋根、11’…底版、12…受け入れ配管、13…LNG払い出し配管、14…BOG払い出し配管、15…払い出しポンプ、2,2A,2B…電線ライン、3…超音波振動子、電気ヒーター、4,4A,4B…泡発生手段、5…電源、6…制御部、7,7A,7B…温媒配管(温媒ヒーター)、8…温媒タンク、9…泡発生手段、10,10A…層状化解消装置、K…管理棟

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯蔵タンク内に貯蔵された液密度の異なる2以上の液体の層状化を解消する、層状化解消装置であって、
前記層状化解消装置は、貯蔵タンク内において少なくとも最下層の液体に対応する位置に配されて泡を発生させる泡発生手段を具備し、
前記泡発生手段が以下のいずれか一種からなる、
(1)超音波振動子、
(2)電気ヒーター、
(3)温媒ヒーター、
層状化解消装置。
【請求項2】
前記泡発生手段が超音波振動子からなる場合に、該超音波振動子が1系統もしくは複数系統の電線ラインに電気的に接続されて平面的に分散配置された複数の超音波振動子からなる、請求項1に記載の層状化解消装置。
【請求項3】
前記泡発生手段が電気ヒーターからなる場合に、該電気ヒーターが1系統もしくは複数系統の電線ラインに電気的に接続されて平面的に分散配置された複数のヒーターからなる、請求項1に記載の層状化解消装置。
【請求項4】
前記泡発生手段が温媒ヒーターからなる場合に、該温媒ヒーターが1系統もしくは複数系統で平面的に延設する温媒配管とこれを流れる温媒とからなる、請求項1に記載の層状化解消装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−179582(P2011−179582A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44040(P2010−44040)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】