説明

山葵の栽培方法及び栽培装置

【課題】本発明は、適切な栽培条件の養水を循環供給して、立体的な装置規模で山葵の栽培を行うことができる省スペース、省エネルギー方式であって、しかも作業性の良い山葵の栽培装置を提供する。
【解決手段】 外形を略長方形の升状に形成した箱であって、その底板全面に排水用孔又は排水用切欠きを形成し、前記底板上に砂礫層を形成すると共に、山葵苗を内部に収納し、かつ、長手方向に全長にわたり複数のスリットを有する単数又は複数の山葵栽培筒を正面側板上部から前記砂礫層内に水平又は斜め下方に着脱自在に延在して設けた山葵栽培容器の複数個を、上下の複数段にそれぞれが引き出し可能に配設すると共に、養水を最上段の前記山葵栽培容器の最上部から散水流入させて複数段の前記山葵栽培容器を順次経由して最下段の前記山葵栽培容器の最下部から流出させる循環養水供給装置を設けたことを特徴とする山葵の栽培装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山葵を山間地の渓流でない場所において、養水を循環供給して、立体的な規模で山葵の栽培を行うことができる省スペース、省エネルギー方式であり、しかも作業性の良い山葵の栽培方法及び栽培装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山葵は日本特産のもので、その栽培適地は年間を通して水温8〜17度の清いわき水のある山深い谷間であるため限定された地域でしか栽培されていなかった。根茎は開花結実後も肥大を続け、この根茎上部に向かって順次形成される葉は、生育に従って古葉となり葉痕を残して落葉していくため、食用となる根茎はごつごつした形態を呈する。そして、この根茎下部の古葉の落ちた葉腋部から腋芽を生じ、分枝茎を形成するが、これを取って栽培用の苗とする。根は根茎の下部から発生し地下に深く伸びる。半陰性の常緑植物で落葉樹が適当に生えて夏季の強光をさえぎり、冬季には十分に日が当たるような場所が生育に最も適している。
【0003】
山葵はこのように礫(小石等の川砂利)で山葵田を形成し、山葵田で長い時間をかけて栽培されているものである。山葵が適切に生育し栽培されるためには、培地は富栄養化されていると山葵の生育にかえって悪影響があり、養分の少ない培地を使用すること、また栽培のための水は毎秒15〜20cm程度の流速であって、水温は12〜15度程度であること、溶存酸素量も10ppm以上含むことが良いとされている。
【0004】
これらの条件に合った山間の沢水と傾斜地を利用して山葵田を形成するとよいが、その適地は限定される。そこで、このような限定された条件から脱却するために、人工的に山葵田を形成して、そこに沢水と同様な流水を施す山葵の栽培が行われて来ている。その代表例がワサビ栽培用圃場およびワサビの栽培方法である。〔参考文献1〕
【特許文献1】特開平6−78623公報(〔0008〕、〔0013〕、〔0020〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記先行技術は、栽培槽(圃場)において養水の流通が不十分になることに起因する根圏付近の根ぐされを防止するために、栽培槽の底部に仕切壁を設けて養水の均一な流れを得ることにで養水の滞留を解消する点においては優れているが、栽培槽が平面的なプール形状をしており、かつ、深さも40〜45cmであるなど設置面積当たりの生産性に課題があった。本出願人はこれらの課題を解決するものとして、先に2件の特許出願を行った。一つは特願2006−186642「山葵の栽培方法及び栽培装置」であり、他の一つは特願2006−197524「山葵の栽培装置」である。本発明はこれらの先行出願をさらに改善したものであって、適切な栽培条件をもたらす養水を循環供給して、山葵栽培部全体に養水を行き渡らせることができ、かつ、立体的な装置規模で山葵の栽培を行うことができる省スペース、省エネルギー方式であって、しかも作業性の良い山葵の栽培方法及び栽培装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る山葵の栽培方法は、各々が引き出し可能な複数の山葵栽培容器を上下に複数段配設すると共に、循環養水を最上段の前記山葵栽培容器の最上部から流入させて複数段の前記山葵栽培容器を順次経由して最下段の前記山葵栽培容器の最下部から流出させて、各山葵栽培容器に植え付けた山葵苗に前記循環養水を供給して通過させるようにしたことを特徴とする。
【0007】
この構成を採用することにより、複数の山葵栽培容器を上下に複数段、即ち立体的に積み重ねているので、屋内においても設置面積当たりの山葵栽培の生産性を向上できる。また、山葵栽培容器は引き出し可能に設置されているので、山葵の生育の確認が容易であり、上下で山葵の生育に不均一があっても、上下の山葵栽培容器の入れ替えた育成が可能である。また、循環養水を山葵栽培箱の最上部から最下部に自然に流下させて通水するので、養水を山葵苗が植え付けられた山葵栽培容器全数にわたり均等に供給することができるから、山葵の育成の均質化と促進化を図ることができる。
【0008】
また、請求項2に係る山葵の栽培方法は、請求項1記載の山葵の栽培方法において、前記山葵栽培容器が外形を略長方形の升状に形成した箱であり、かつ、その底板全面に排水用孔又は排水用切欠きを形成し、前記底板上に砂礫層を形成すると共に、前記山葵苗が内部に植え付けられ、表面にスリット部を有する単数又は複数の山葵栽培筒を前記砂礫層内に水平方向又は斜め下方方向に着脱自在に挿入して配設したものであって、山葵栽培容器の上部から散水された循環養水が均一に山葵栽培筒内の山葵苗を潤し通過して底板から排水されることを特徴とする。また、請求項3に係る山葵の栽培方法は、請求項2に記載の山葵の栽培方法において、前記山葵栽培筒の複数本が断面方向に千鳥状又は升目状に、かつ、相互に略平行に配設したことを特徴とする。
【0009】
この構成により、山葵苗を山葵栽培筒に収納し、その山葵栽培筒を前記山葵栽培容器に対して水平又は斜め下方方向に挿入し、そして山葵栽培容器上方から流下又は滴下する養水に苗の根部を十分接触させて養分や酸素分等を与えることにより、山葵を育成し栽培することができる。また、山葵栽培筒を斜め下方に延在して設けている場合には、山葵栽培筒の長さを前記山葵栽培容器の奥行きに対して最も有効に取ることができ、山葵栽培容器の平面的な寸法を効率よく小さくすることができる。これにより養水を流下又は滴下する面積が小さくとも、山葵栽培筒に対し十分灌水させることができる。また、容器の垂直断面方向に対して、前記山葵栽培筒を千鳥状又は升目状に、かつ、相互に略平行に配設することにより、その山葵栽培容器上方から流下又は滴下する養水に山葵栽培筒を効率よく灌水させることができ、山葵栽培容器内部の立体空間を十分活用できる。また、前記山葵栽培容器の底面に複数の排水穴若しくは排水用の切欠きを形成しているが、この設置の数、形状及び大きさは、前記山葵栽培筒に収納した山葵苗に対する養水の供給状況を左右するもので、前記山葵栽培容器内の養水を溜め具合、山葵栽培容器内にある砂礫層中の養水の流れ、又は前記山葵栽培容器を積み上げた時の下の山葵栽培容器への給水の仕方等によって決まってくる。
【0010】
また、請求項4に係わる山葵の栽培方法は、請求項1又は2又は3記載の山葵の栽培方法において、前記循環養水が酸素マイクロバブルと酸素ナノバブルを含む養水であることを特徴とする。
【0011】
この構成により、循環養水は養分、水温及び流水量(山葵苗の根茎部の潤い方を決める)等を所定値に調節して供給するのみならず、酸素のマイクロバブルと酸素のナノバブルを含んだ養水を供給すれば、山葵苗の根茎部に対して養水から得られる酸素溶存量が増加して、山葵苗の生育を早めると共に、酸素ナノバブルが該根茎部に直接到達して、根茎部に存在する悪性の微生物を酸化除去して根茎部を活性化することができる。これにより山葵の育成を早めることができる。酸素マイクロバブルは気泡径50μm以下のバブルであって、酸素と水の気液二相流体のせん断により酸素マクロバブルを生成させて、さらに、この酸素マクロバブルが水中で圧壊するときに一部が酸素ナノバブル(気泡径1μm以下)に転換し、残りの酸素が水中に溶存するのである。
【0012】
また、請求項5に係わる山葵の栽培装置は、外形を略長方形の升状に形成した箱であって、その底板全面に排水用孔又は排水用切欠きを形成し、前記底板上に砂礫層を形成すると共に、山葵苗を内部に収納し、かつ、長手方向に全長にわたり複数のスリットを有する単数又は複数の山葵栽培筒を正面側板上部から前記砂礫層内に水平又は斜め下方に着脱自在に延在して設けた山葵栽培容器の複数個を上下に複数段に配設すると共に、養水を最上段の前記山葵栽培容器の最上部から散水流入させて複数段の前記山葵栽培容器を順次経由して最下段の前記山葵栽培容器の最下部から流出させる循環養水供給装置を設けたものであって、前記山葵栽培容器のそれぞれを引き出し可能に機枠の受け桟上に設けたことを特徴とする。また、請求項6に係わる山葵の栽培装置は、請求項5記載の山葵の栽培装置において、前記山葵栽培筒の複数本が断面方向に千鳥状又は升目状に、かつ、相互に略平行に配設したことを特徴とする。また、請求項7に係わる山葵の栽培装置は、請求項5又は6記載の山葵の栽培装置において、前記山葵栽培容器及び前記山葵栽培筒が光透過性の合成樹脂製であることを特徴とする。また、請求項8に係わる山葵の栽培装置は、請求項5又は6又は7記載の山葵の栽培装置において、複数段の山葵栽培容器を左右に複数列配設したものを奥行き方向に一列又は二列に設置することを特徴とする。
【0013】
この構成により、山葵苗を山葵栽培筒に収納し、その山葵栽培筒を前記山葵栽培容器に対して水平又は斜め下方方向に挿入し、そして山葵栽培容器上方から流下又は滴下する養水に山葵苗の根部を十分に接触させて養分や酸素分等を与えることにより、山葵を育成して栽培することができる。また、山葵栽培筒を斜め下方に延在して設けている場合には、山葵栽培筒の長さを前記山葵栽培容器の奥行きに対して最も有効に取ることができ、山葵栽培容器の平面的な寸法を効率よく小さくできる。これにより山葵栽培筒に対する山葵栽培容器の設置面積を小さくすることができ、ひいては全体の設置面積に対し山葵の栽培量を増加することが可能となる。また、箱の垂直断面方向に対して、前記山葵栽培筒を千鳥状又は升目状に、かつ、相互に略平行に配設することにより、その山葵栽培容器上方から流下又は滴下する養水に山葵栽培筒を効率よく灌水させることができ、山葵栽培容器内部の立体空間を十分活用できる。また、前記山葵栽培容器の底面に複数の排水穴若しくは排水用の切欠きを形成しているが、この設置の数、形状及び大きさは、前記山葵栽培筒に収納した山葵苗に対する養水の供給状況を左右するもので、前記山葵栽培容器内の養水を溜め具合、山葵栽培容器内にある砂礫層中の養水の流れ、又は前記山葵栽培容器を積み上げた時の下の山葵栽培容器への給水の仕方等によって決まってくる。
【0014】
また、この構成を採用することにより、複数の山葵栽培容器を上下に複数段、即ち立体的に積み重ねているので、屋内でも設置面積当たりの山葵栽培の生産性を向上できる。また、山葵栽培容器は引き出し可能に設置されているので、山葵の生育の確認が容易であり、また、上下で山葵の生育に不均一があっても、上下の山葵栽培容器の入れ替えた育成が可能であるように作業性に優れている。また、循環養水を山葵栽培箱の最上部から最下部に自然に流下させて通水するので、養水を山葵苗が植え付けられた山葵栽培容器全数に均等に供給することができるから、山葵の育成の均質化と促進化を図ることができる。
【0015】
また、この構成による山葵の栽培装置は、立体的に山葵栽培容器を積み上げた様式をとるので、栽培量に対して設置面積が少なくてすみ、屋内設備として設置面積当たりの栽培量を増加させることができる。また、複数段の配設をさらに複数列に配設して生産規模を拡大することも可能であって、さらに、山葵栽培容器が集約化されているので雰囲気温度や水温の調整が安定して行えると共に、日光等の照射条件を適切に調節することもできるので、山葵の生産性を向上しやすい。また、本発明の山葵栽培容器の複数個を機枠の多段多列の容器受け桟に対して各々が挿入又は取り出し可能に設置していると共に、軽量で、可視性の合成樹脂製の山葵栽培容器を用いているので、山葵栽培容器に栽培している山葵の生育状況の把握、養水の供給状態の目視管理がしやすく、山葵栽培の育成、保守等の作業性が改善できる。また、光透過性があるので、日光又は人工光などの外光も山葵栽培容器内に取り入れることも可能で山葵の育成に貢献する。また、多段多列に配設した山葵栽培容器を背中合わせに配列することにより、夫々の山葵栽培容器の挿入又は引き出しが相互に制約されずに自由自在であって、管理及び作業性がよい。また、二列の山葵栽培容器群をモジュールとして作業用通路を挟んで配列すると、設置面積に対し山葵栽培能力を上げることができると共に、山葵栽培容器の育成管理等の作業能率を向上することができる。また、これらの山葵栽培装置に対応する循環養水供給装置を設けているので、養水の養分、水温、流水量、溶存酸素量などを一括して管理するすることができるし、山葵栽培容器毎に流水量を調整管理することも容易であって、山葵栽培の生産効率を高め、山葵の品質を維持、向上することができる。また、山葵栽培装置を屋内等に設置して、養水循環で水質を管理すれば、害虫及び微生物の害の恐れが無くなり、無農薬で栽培することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る請求項1記載の山葵の栽培方法によれば、循環養水を確実に各山葵栽培筒に供給することができるから、山葵の育成の均質化が図られ、山葵の品質及び良品歩留を向上することができる。また、複数の山葵栽培筒を収納した山葵栽培容器は薄くできるので、室内において複数段に積み重ねられ、設置面積当たりの山葵の生産性向上に寄与できる。請求項2、3記載の山葵の栽培方法によれば、山葵栽培筒を前記山葵栽培容器に挿入する仕方により上方から流下又は滴下する養水に苗の根部を十分に接触させて養分や酸素分等を与えるので山葵を十分均一に育成することができる。また、山葵栽培筒を斜め下方に延在して設けている場合には、山葵栽培容器の平面的な寸法を無駄なく小さくでき、栽培量に対して山葵栽培容器の設置面積を効率よく小さくすることができ、ひいては全体の設置面積に対し山葵の栽培量を増加することが可能となる。また、前記山葵栽培容器の底面に複数の排水孔若しくは排水用の切欠きを形成しているが、山葵栽培容器内の養水を溜め具合、山葵栽培容器内にある砂礫層中の養水の流れ、又は山葵栽培容器を積み上げた時の下の山葵栽培容器への給水の仕方等により、山葵栽培筒に収納した山葵苗に対する養水の供給状況を任意に調節することができる。請求項4記載の山葵の栽培方法によれば、所定品位の養水を一括供給して循環させるから、循環養水の時系列的な品位の変動が少なく、加えて酸素のマクロバブルと酸素のナノバブルを含有させるので、溶存酸素量も増加して山葵の根茎の育成を促進し、また根茎に悪影響を与える微生物の酸化除去も可能となる。
【0017】
また、本発明に係る請求項5から8に記載の山葵の栽培装置によれば、山葵栽培容器を複数段及び複数列に立体的に構築できるので、生産規模に対して設置面積が少なくてよい。これにより屋内に山葵栽培装置を設置することが容易となり、山葵の栽培環境(光照射条件の適正化、気温変動が少ない、害虫等の侵入防止など)が整え易いので、山葵の栽培条件を例えば無農薬で栽培するなど適正化することができ、山葵の品質及び生産性の向上を図ることができる。また、山葵栽培容器は軽量で、可視性の合成樹脂製であり、かつ、引き出し可能に設置されているので、山葵の生育の確認が容易であり、上下で山葵の生育に不均一があっても、上下の山葵栽培容器の入れ替えた育成が可能であるように、管理及び作業性に優れている。また、山葵の育成に重要な役割を果たす循環養水の流量及び品質管理も集中して一括して行うことができるので、山葵の栽培条件の管理がし易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施するための最良の形態に係る山葵栽培装置の模式的全体斜視図と循環養水供給装置の系統図である。図2は、図1におけるA−A矢視の断面図である。図3は、図2におけるB−B矢視の斜視図である。図4は、図1における山葵栽培装置の機枠の全体斜視図である。図5は、山葵栽培装置に用いられる山葵栽培容器であって、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)はA−A矢視の断面図、(d)は山葵栽培筒の斜視図である。
【0019】
図1,2,3,4に基いて、本発明に係る山葵栽培装置の実施形態を説明すると、山葵栽培装置1は山葵栽培筒37を挿入した山葵栽培容器2の集合体と、山葵栽培容器2に循環養水を供給する循環養水供給装置11と、から構成される。また、山葵栽培装置1は山葵栽培容器2を3段6列に積み上げて、山葵10を栽培する実施態様を示しているが、山葵10を栽培する山葵栽培容器2について説明すると、幅20〜50cm、奥行き25〜40cm、高さ30〜45cmの山葵栽培容器2を用いて、山葵10の苗の根茎10−1を幅1cmのスリット37−1を6条設けた内径8cmの山葵栽培筒37内に収納して、容器内に傾斜角45°でもって下向きに挿入孔32−1から挿入し、次いで容器内を3〜25mm程度の軽石で充填して砂礫層4を形成する。これら三段の山葵栽培容器2を機枠3の容器受け桟3−3上に設置し、山葵栽培容器2の上部から養水を散水・灌水して砂礫層4に通水し、根茎10−1に養分や溶存酸素を与えて育成する。循環養水供給配管14の散水孔14−1から上段の山葵栽培容器2に散水・灌水した養水は山葵栽培容器2を通過し、底板34の排水穴34−1から流出して、次段の山葵栽培容器2に散水・灌水する。このようにして、3段目の山葵栽培容器2を通過した後、中央部の排水樋5に排水され、循環養水戻り配管15を経由して循環養水供給装置11に戻る。このように循環養水は一度だけポンプアップすれば、後は重力だけで流下する構造が採れるので、省エネルギ的設備でもある。
【0020】
本発明を実施するための最良の形態に係る山葵栽培容器2について図5に基づいて説明すると、山葵栽培容器2は、金属製の底板34と、合成樹脂製の正面側板32、側板35,35と背側板36を前記底板34の四隅から立ち上げた金属製の二重の器枠31に挟み込んで容器が構成される。各合成樹脂製の側板32,35,35,36と器枠31との接着は接着剤を用いるか、シール材(図示しない)を介してネジ止めにするか任意に行うことができる。前記合成樹脂板には、通常約5mm厚のアクリル板かポリカーボネート板が軽量で、強度が高く、透明性があり、また被接着性もあり好適である。また、これらの側板32,35,35,36は合成樹脂製に限定することなく、透明性は犠牲になるが金属板を用いることも可能である。また、山葵栽培容器2の製作は器枠31を用いずに合成樹脂板を相互に接着剤にて接着することにより、容器2の側板32,35,35,36及び底板34を一体に形成することも可能である。
【0021】
また、山葵栽培容器2内部には、山葵10の根茎10−1を収納して栽培する山葵栽培筒37を3本、夫々を正面側板32上部にある3ヵ所の千鳥状に配置された挿入孔32−1から斜め下方に向け、傾斜角約45°で相対する背側面板36に当接するように挿入される。山葵栽培筒37の直径は通常6〜12cm程度の範囲である。山葵栽培筒37の端部には、図5dに示すように、鍔部37−2が設けられており、その鍔部37−2が正面側板32に当接して山葵栽培筒37が挿入された時に、その挿入姿勢を確実に保持することができる。また、山葵栽培筒37の外周面には、複数のスリット37−1を長手方向に略全長にわたり設けている。このスリット37−1は上方から流下又は滴下してくる養水を山葵栽培筒37内部に導入し、根茎10−1に灌水し養分等を供給する。また、山葵栽培筒37内の根茎10−1から派生する根毛をスリット37−1から外へ導き養分等を吸収することも可能である。こうした状況を踏まえてスリット数を決めるが、通常6〜10条である。また、山葵栽培筒37の挿入傾斜角αは30〜60°の範囲であり、養水との灌水の程度や容器の奥行きと高さとの観点から決められるが、通常は45°前後が好適である。山葵栽培筒37は合成樹脂、合成ゴム又は金属を用いて製作し得るが、日照や育成状況の観察の観点から合成樹脂を用いるのがよい。また、合成ゴムを用いた場合には、根茎10−1の成長に伴う膨大に対して対応することができる。また、山葵栽培筒37の断面は、円筒形状が製作面で容易であり好ましいが、長円形状又は多角形状でもよい。また、このスリット37−1の形状は、長方形、円形又は長円形のいずれでもよいが、製作面からは長方形が望ましい。
【0022】
また、山葵栽培容器2の底板34には、上方から供給される養水の排水のために、図5bに示すように、複数の円形の排水孔34−1が設けられる。この排水孔34−1の形状は円形に限定することなく、例えば、長円形又は放射状の長方形の切欠きを設けてもよい。この排水孔34−1の形状、大きさ、個数及び分布は、容器内を通過する養水が山葵栽培筒37に対する流下又は滴下のパターン、即ち、山葵栽培筒37に対する灌水の仕方により決められる。また、山葵栽培容器2を3段積み上げて構築する場合には、この排水孔34−1の大きさ、個数及び分布が、下にある山葵栽培容器2に対する養水の供給する分布を決めることにもなる。また、底板34は、排水孔34−1を形成する穿孔加工及び器枠31を直立して形成する点から金属製が望ましいが、これに限定されること無く合成樹脂板でも製作可能である。
【0023】
また、図2,3に示すように、山葵栽培容器2内には、山葵栽培筒37の部分を除いて、砂礫層4を充填する。砂礫層4は粒径が3〜5mm程度の大きさの砂礫と、粒径が20〜40mm程度の大きさの小石との混合物で構成し、その層厚は山葵栽培容器2の深さに左右されて、25〜40cm程度である。また、山葵栽培容器2を引き出し可能に取り扱うために軽量化が望ましく、このために砂礫層4には前述の粒度構成の軽石を用いるのが好適である。また、軽石に代えて軽石とグラスウール又はロックウールとの混合物を用いると、軽量化、保水性、通水性の点で貢献する。そして山葵栽培容器2の上部に散水・灌水された循環養水は、砂礫層4を所定の流速で流下して、山葵栽培筒37のスリット37−1の全長にわたって通過し、山葵栽培筒37内にある山葵10の根茎10−1に養水中に含まれる養分や溶存酸素を与え、次いで、砂礫層4を流下して底板34の排水孔34−1から流出する。したがって、砂礫層4は山葵栽培容器2の上部から流入する循環養水をムラなく山葵栽培筒を経由して砂礫層4を通過させるものでなければならず、また、砂礫層4から流下した循環養水を次段の山葵栽培容器2に所定の散水形状で灌水する必要があり、この観点から砂礫層4の用材の粒度が設定される。また、砂礫層4には、礫、小石、バーミキュライト、軽石、砂利、グラスウール、ロックウール又は珪藻土なども用いることができる。これら砂礫層4の用材の選択は、養水の保水や養水の灌水、通水等の状況を勘案して行われる。この用材に使用する粒度は通常2〜40mm程度の範囲である。
【0024】
また、図1,2,3には、3段6列の18セットの山葵栽培容器2群を背中合わせに配列した山葵栽培装置1を示しているが、本発明に係る山葵栽培装置1は、このように多段多列で構成されている山葵栽培容器2群を背中合わせに配列したものをモジュールとして、これを集合化して配置することも可能である。図4には、モジュールを構成するために、山葵栽培容器2を引き出し可能に配設することができる機枠3を示している。機枠3は四隅に柱3−1を有し、また、柱3−1間を縦横方向に横梁3−2と容器受け桟3−3とを組み合わせた骨組みを高さ方向に三段に構成している。山葵栽培容器2は2列の容器受け桟3−3上に摺動できるように載置されており、山葵栽培容器2の引き出しや入替が容易となる。また、容器受け桟3−3の奥には山葵栽培容器2が行き過ぎないようにストッパー3−4を設ける。また、機枠3の下部には、最下段の山葵栽培容器2からの排水を受ける排水樋3−5が2列配置される。この機枠3は金属製であるのが、強度面で望ましく、鋼アングル材で構成するのが好適である。また、本発明に係る山葵栽培装置1において、山葵栽培容器2の段数及び列数は、図1、4の例示に拘束されず、任意に設定することが可能である。また、多段多列に形成された山葵栽培容器2群の山葵栽培装置1において、山葵栽培容器2の段数及び列数とも容易に増減することもできる。
【0025】
このように段数及び列数が増加するほど、設置面積当たりの山葵栽培容器2の総数を増加させることができるので生産規模を拡大することが容易にできる。また、このように山葵栽培装置1はモジュールとして、またはモジュールを集合化したものを配設できるので、屋内設置が可能であるし、特に設置場所を限定する必要性もない特徴がある。この点で、省スペースタイプの山葵栽培装置ということができる。また、屋内設置であれば、日光又は人工光(例えばLED光、蛍光灯など)の照射条件を適切に調節することができると共に、雰囲気温度や水温の調整が安定して行えるので、山葵の生産性を向上しやすい。また、山葵栽培容器に栽培している山葵の生育状況の把握、養水の供給状態の目視管理がしやすく、山葵栽培の育成、保守等の作業性を改善できる。
【0026】
循環養水供給装置11は、養水の性状を所定値に調節する調整槽12−1と山葵栽培容器2からの循環戻り水が循環養水戻り配管15を経由して受け入れる戻り水槽12−2との二つからなる循環養水槽12と、ポンプ13と、循環養水供給配管14と、から構成されている。調整槽12−1には、循環戻り水中に含まれる細粒の土砂を砂礫部4の間隙を詰めて通液を妨げないために戻り水槽12−2で沈降除去した後の循環養水がオーバーフローして戻り、さらに、この養水を所定温度に調節するための熱交換器17と、酸素マクロバブルと酸素マイクロバブルを発生させる酸素マクロバブル発生器18と、循環養水の養分と水の補給のために養分及び水補給管20と、が備えられる。また、調整槽12−1には、循環養水が循環養水供給配管14、散水孔14−1を経由して山葵栽培容器2に送水されるためのポンプ13が接続されている。また、各山葵栽培容器2に対して循環養水量を調整すために手動の流量調整弁16,16−1が設けられる。
【0027】
また、調整槽12−1内には、送水する循環養水の性状を所定値に制御するため測定センサ19、即ち水温計、溶存酸素量計、PH計等が具備される。測定センサ19からの各測定値に基づいて設定値に制御する方法は定法による。循環養水の性状とその数値を示すと、水温は12〜15度、溶存酸素量も10ppm以上、PH8前後である。
【0028】
本発明に係わる山葵栽培装置1を用いた山葵10の育成・栽培方法を図1、2、3を用いて説明すると、山葵栽培容器2内に3個の山葵栽培筒37を千鳥状に配設し、次いで粒径が3〜5mm程度の大きさの砂礫と、粒径が20〜40mm程度の大きさの小石との混合物を用いて、或いは軽量化して取り扱いを容易にするために前述の粒度構成の軽石を用いて砂礫層4を構築する。この山葵栽培筒37内に、事前に伸縮性のある強化ゴム製などの苗植え器(図示しない)に山葵苗10を植え込んだものを填め込んで山葵栽培筒37を構築する。このようにして山葵苗10を植え込んだ山葵栽培容器2の複数個を機枠3の容器受け桟3−3上に設置することにより山葵栽培装置1を構築する。このようにした山葵栽培容器2を3段6列にしたものを背中合わせに2列に構築することにより山葵栽培容器2のモジュールが完成する。こうして、山葵栽培容器2のモジュールの構築が完了したら、所定性状の循環養水を循環養水供給装置11から循環養水供給配管14で送水し、最上段の各山葵栽培容器2の上部から流量調節弁16、16−1で養水量を調整した循環養水を散水孔14−1経由で平均的に供給して山葵10の育成を行う。また、山葵10の葉が受ける受光量は、山葵栽培装置1が屋内設置の場合であれば、外光を取り込む量を調節するか、又は人工光(例えばLED光、蛍光灯など)の点灯量によって調節することができる。また、栽培が終了した山葵10は、山葵栽培筒37を山葵栽培容器2から取り外すことにより山葵10を取り入れ、その後山葵10の苗を植え付けて再挿入するか、又は予備の山葵10の苗を植え付けた山葵栽培筒37を挿入して山葵栽培を繰り返すことができる。また、この作業は山葵栽培容器2を引き出して行い、再度容器受け桟3−3上に挿入して行うこともできる。このようにして本山葵栽培装置1を用いて、山葵10の苗から約10cm長さの根茎10−1を5〜8ヶ月で栽培することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
山葵に代表される水生野菜又は水生植物の室内栽培に適用することができる。また、観光農園として校外教育の一環としても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施するための最良の形態に係る山葵栽培装置の模式的全体斜視図と循環養水供給装置の系統図である。
【図2】図1におけるA−A矢視の断面図である。
【図3】図2におけるB−B矢視の斜視図である。
【図4】図1における山葵栽培装置の機枠の全体斜視図である。
【図5】山葵栽培装置に用いられる山葵栽培容器であって、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)はA−A矢視の断面図、(d)は山葵栽培筒の斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1:山葵栽培装置 2:山葵栽培容器 3:機枠 3−1:柱 3−2:横梁 3−3:容器受け桟 3−4:ストッパー 3−5:排水樋 4:砂礫部
10:山葵 10−1:根茎
11:循環養水供給装置 12:循環養水槽 12−1:調整槽 12−2:戻り水槽 13:ポンプ 14:循環養水供給配管 14−1:散水孔 15:循環養水戻り配管 16:流量調整弁
16−1:流量調整弁 17:熱交換器 18:酸素マクロバブル発生器19:測定センサー 20:養分及び水補給管
31:器枠 32:正面側板 32−1:挿入孔
34:底板 34−1:排水穴 35:側面板
36:背側面板 37:栽培筒 37−1:スリット
37−2:鍔部
α:傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が引き出し可能な複数の山葵栽培容器を上下に複数段配設すると共に、循環養水を最上段の前記山葵栽培容器の最上部から流入させて複数段の前記山葵栽培容器を順次経由して最下段の前記山葵栽培容器の最下部から流出させて、各山葵栽培容器に植え付けた山葵苗に前記循環養水を供給して通過させるようにしたことを特徴とする山葵の栽培方法。
【請求項2】
前記山葵栽培容器が、外形を略長方形の升状に形成した箱であり、かつ、その底板全面に排水用孔又は排水用切欠きを形成し、前記底板上に砂礫層を形成すると共に、前記山葵苗が内部に植え付けられ、表面にスリット部を有する単数又は複数の山葵栽培筒を前記砂礫層内に水平方向又は斜め下方方向に着脱自在に挿入して配設したものであって、山葵栽培容器の上部から散水された循環養水が均一に山葵栽培筒内の山葵苗を潤し通過して底板から排水されることを特徴とする請求項1に記載の山葵の栽培方法。
【請求項3】
前記山葵栽培筒の複数本が、前記山葵栽培容器の断面方向に千鳥状又は升目状に、かつ、相互に略平行に配設したことを特徴とする請求項2に記載の山葵の栽培方法。
【請求項4】
前記循環養水が、酸素マイクロバブルと酸素ナノバブルを含む養水であることを特徴とする請求項1又は2又は3に記載の山葵の栽培方法。
【請求項5】
外形を略長方形の升状に形成した箱であって、その底板全面に排水用孔又は排水用切欠きを形成し、前記底板上に砂礫層を形成すると共に、山葵苗を内部に収納し、かつ、長手方向に全長にわたり複数のスリットを有する単数又は複数の山葵栽培筒を正面側板上部から前記砂礫層内に水平又は斜め下方に着脱自在に延在して設けた山葵栽培容器の複数個を上下に複数段に配設すると共に、養水を最上段の前記山葵栽培容器の最上部から散水流入させて複数段の前記山葵栽培容器を順次経由して最下段の前記山葵栽培容器の最下部から流出させる循環養水供給装置を設けたものであって、前記山葵栽培容器のそれぞれを引き出し可能に機枠の受け桟上に設けたことを特徴とする山葵の栽培装置。
【請求項6】
前記山葵栽培筒の複数本が、前記山葵栽培容器の断面方向に千鳥状又は升目状に、かつ、相互に略平行に配設したことを特徴とする請求項5に記載の山葵の栽培装置。
【請求項7】
前記山葵栽培容器及び前記山葵栽培筒が光透過性の合成樹脂製であることを特徴とする請求項5又は6に記載の山葵の栽培装置。
【請求項8】
前記複数段の山葵栽培容器を左右に複数列配設したものを奥行き方向に一列又は二列に設置することを特徴とする請求項5又は6又は7に記載の山葵の栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−118922(P2008−118922A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306586(P2006−306586)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(500136810)株式会社 大通 (26)
【Fターム(参考)】