説明

島状磁性薄膜及びその製造方法

【課題】希土類元素を含む磁性材料からなる磁性薄膜であって、前記磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配列された島状構造が形成されており、前記島粒子の粒径が十分に小さく、膜の厚みが十分に薄く、しかも十分に高い保磁力を有することが可能な島状磁性薄膜を提供すること。
【解決手段】磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配置された島状磁性薄膜であって、前記磁性材料が希土類元素を含有するものであり、前記島粒子の面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にあり、且つ、前記薄膜の厚みが2〜25nmの範囲にあることを特徴とする島状磁性薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、島状磁性薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、大量の情報を処理および記憶すること等が可能な超高密度磁気媒体の開発が行われており、このような磁気媒体に利用することが可能な様々な磁性薄膜の研究が進められてきた。例えば、このような磁性薄膜としては、FePt薄膜が知られており、その製造方法としては、特開2003−289005号公報(特許文献1)において、磁気的に孤立した微粒子構造を備え且つ一方向に配向している高配向磁性薄膜の製造方法であって、Fe及びCoのうちの少なくとも1種類の金属と、Pt及びPdのうちの少なくとも1種類の金属との合金薄膜を、表面温度が650℃以上である基板上にスパッタリング成膜する方法が知られている。そして、近年では、このような磁性薄膜の中でも、ネオジウム等の希土類元素を含む磁性材料(永久磁石材料)を用いた磁性薄膜の研究が進められている。
【0003】
このような希土類元素を含む磁性材料を用いた薄膜の製造方法としては、例えば、Si(100)基板に成膜されたモリブデン層上に、NdFeBからなる磁性材料をスパッタリングした後、450℃〜675℃の温度範囲で30分間アニール処理する磁性薄膜の製造方法が知られている(T.V.Khoa,N.D.Ha,S.MHongら著,“Composition dependence of crystallization temperature and Magnetic property of NdFeB thin films”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2006年発行,vol.304,246〜248頁(非特許文献1)参照)。また、Si(100)基板上に成膜されたモリブデン層上に、基板の表面温度を575℃に加熱しながらNdFeBからなる磁性材料をスパッタリングして磁性薄膜を成膜する方法が知られている(S.L.Chen,W.Liu,Z.D.Zhangら著,“Microstructure and magnetic properties of anisotropic Nd-Fe-B thin films fabricated with different deposition rates”,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2006年発行,vol.302,306〜309頁(非特許文献2)参照)。
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載のような磁性薄膜の製造方法では、希土類元素を含む磁性材料からなる薄膜を島状構造とすることができなかった。また、非特許文献2に記載のような磁性薄膜の製造方法では、膜厚が厚く、島状構造が形成された場合であっても形成される島粒子が大きなものとなってしまい、十分に粒径の小さな島粒子からなる島状構造を形成することができなかった。また、非特許文献1又は2に記載のような磁性薄膜の製造方法においては、希土類元素が、酸化耐性が低く且つ複雑な結晶構造を有するものであるため、厚みが十分に薄く且つ十分に高い保磁力を有する磁性薄膜を製造することができなかった。
【特許文献1】特開2003−289005号公報
【非特許文献1】T.V.Khoa,N.D.Ha,S.MHongら著,“Composition dependence of crystallization temperature and Magnetic property of NdFeB thin films”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2006年発行,vol.304,246〜248頁
【非特許文献2】S.L.Chen,W.Liu,Z.D.Zhangら著,“Microstructure and magnetic properties of anisotropic Nd-Fe-B thin films fabricated with different deposition rates”,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2006年発行,vol.302,306〜309頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、希土類元素を含む磁性材料からなる磁性薄膜であって、前記磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配列された島状構造が形成されており、前記島粒子の粒径が十分に小さく、膜の厚みが十分に薄く、しかも十分に高い保磁力を有することが可能な島状磁性薄膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、希土類元素を含有する磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配置された島状構造の薄膜を形成せしめ、前記島粒子の面内直径の平均値を40〜140nmの範囲とし、且つ、前記薄膜の厚みを2〜25nmの範囲とすることによって、上記目的を達成することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の島状磁性薄膜は、磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配置された島状磁性薄膜であって、前記磁性材料が希土類元素を含有するものであり、前記島粒子の面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にあり、且つ、前記薄膜の厚みが2〜25nmの範囲にあることを特徴とするものである。
【0008】
上記本発明にかかる前記磁性材料としては、ネオジウムを含有するものであることが好ましく、ネオジウムと鉄とホウ素とを含有するものであることがより好ましい。
【0009】
また、上記本発明の島状磁性薄膜においては、前記島粒子の最近接粒子同士の最近接点間の距離の平均値が10〜100nmの範囲にあることが好ましい。
【0010】
さらに、上記本発明の島状磁性薄膜においては、前記島粒子中の前記磁性材料の結晶相がc面配向していることが好ましい。
【0011】
また、本発明の島状磁性薄膜の製造方法は、酸化マグネシウム単結晶からなる基板上に、モリブデン及びタンタルのうちの少なくとも1種を含有する下地材料からなる下地層を形成して磁性薄膜形成用基板を得る工程と、
前記磁性薄膜形成用基板の表面温度を590℃〜670℃に保持しながら、ネオジウムと鉄とホウ素とを含有するターゲット材料をスパッタリングすることにより、
ネオジウムと鉄とホウ素とを含有する磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配置されてなり、前記島粒子中の前記磁性材料の結晶相がc面配向しており、前記島粒子の面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にあり、且つ、厚みが2〜25nmの範囲にある島状磁性薄膜を、前記下地層上に成膜する工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0012】
さらに、上記本発明の島状磁性薄膜の製造方法においては、前記スパッタリングによる磁性薄膜の成膜速度が1Å/s以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、希土類元素を含む磁性材料からなる磁性薄膜であって、前記磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配列された島状構造が形成されており、前記島粒子の粒径が十分に小さく、膜の厚みが十分に薄く、しかも十分に高い保磁力を有することが可能な島状磁性薄膜及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
先ず、本発明の島状磁性薄膜について説明する。すなわち、本発明の島状磁性薄膜は、磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配置された島状磁性薄膜であって、前記磁性材料が希土類元素を含有するものであり、前記島粒子の面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にあり、且つ、前記薄膜の厚みが2〜25nmの範囲にあることを特徴とするものである。
【0016】
このような島粒子は、面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にあるものである。このような島粒子の面内直径の平均値が前記下限未満では、磁性材料の結晶の形成(結晶構造の形成)が困難となり、前記上限を超えると、磁気的な連続性が高くなり、保磁力が低下する。ここにいう「面内直径」とは、島粒子が配置された基板等の表面上の島粒子の形状(基板等の表面に接する島粒子の面の形状)の直径をいい、前記島粒子の形状が円形でない場合には、その外接円の最大直径をいう。また、このような「面内直径」は、TEM−EELSにより特定の成分のエネルギーを選別しながら薄膜の断面の状態を観察し、得られる薄膜のTEM写真から各島粒子の大きさを求めることにより測定することができる。
【0017】
また、このような島粒子の最近接粒子同士の最近接点間の距離(島粒子の離間距離)の平均値としては、10〜100nmの範囲にあることが好ましい。このような離間距離の平均値が前記下限未満では、磁気的な連続性が高くなり、保磁力が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、面内の磁性薄膜の体積分率が減少し、磁化が減少する傾向にある。
【0018】
また、本発明の島状磁性薄膜は、磁性材料からなる孤立した前記島粒子が不連続膜状に配置された構造(島状構造)を有する。このような島状構造としては、面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にある島粒子を、それぞれ孤立した状態で、最近接粒子同士の離間距離の平均値が10〜100nmとなるようにして不連続膜状に配置させた構造であることがより好ましい。本発明の島状磁性薄膜は、前述のような微細な島状粒子によって前記島状構造が形成されているため、薄膜の磁気的な連続性は低く、十分に高い保磁力を発揮することが可能である。
【0019】
さらに、本発明の島状磁性薄膜は、薄膜の厚みが2〜25nmの範囲にあるものである。このような薄膜の厚みが前記上限を超えると、磁性薄膜が連続膜となり、他方、前記下限未満では、磁性材料の結晶の形成(結晶構造の形成)が困難となる。なお、ここにいう「薄膜の厚み」とは、成膜速度と成膜時間の積で求められる値をいう。
【0020】
また、このような島粒子を形成する磁性材料は、希土類元素を含有し且つ磁性を有する材料(結晶)である。ここで、「磁性を有する材料」とは、かかる材料により上記島状構造を有する薄膜を形成せしめた場合に、高い保磁力を有する材料をいい、例えば、ネオジウムと鉄とホウ素とからなる薄膜においてはNdFe14B構造を有することをいう。また、本発明にいう「希土類元素」としては、ネオジウム、サマリウム、ディスプロシウム、テルビウム、プラセオジウム、ホルミウムが挙げられる。また、このような磁性材料としては、希土類元素を含有するものであればよく、前記磁性材料に含有される他の元素は特に制限されない。このような希土類元素を含有する磁性材料としては、例えば、サマリウムとコバルトとを含有するサマリウム−コバルト系磁性材料や、ネオジウムと鉄とホウ素とを含有するネオジウム−鉄−ボロン系磁性材料(Fe−Nd−B系磁性材料)等の公知の希土類元素を含有する磁性材料が挙げられる。また、このような磁性材料としては、高い結晶磁気異方性を有するという観点から、希土類元素としてネオジウムを含む磁性材料が好ましく、中でも、ネオジウムと鉄とホウ素とを含有する磁性材料(特に好ましくはNdFe14B)がより好ましい。
【0021】
また、前記島粒子においては、島粒子中の磁性材料の結晶相がc面配向していることが好ましい。すなわち、前記島粒子としては、島粒子中の磁性材料の結晶のc軸が、結晶の成長方向(基板上に島粒子を配置する場合には、前記基板の表面に対して垂直な方向)に配向していることが好ましい。このように磁性材料の結晶相がc面配向していることによって、磁気特性に異方性が表れる。
【0022】
また、本発明の島状磁性薄膜は、各種基板上に配置させて用いてもよい。そして、前記島粒子を配置させる基板としては、MgO単結晶基板が好ましい。また、このようなMgO単結晶基板を用いる場合においては、MgO単結晶基板上に、モリブデン及びタンタルのうちの少なくとも1種を含有する下地材料からなる下地層を形成せしめ、その下地層上に島粒子が配置されていることが好ましい。なお、このような下地層が形成されたMgO単結晶基板を用いることで、製造時に、より効率よく前記島粒子を不連続膜状に配置(前記島状構造を形成)することが可能となる傾向にある。更に、このような島状磁性薄膜としては、酸化防止等の観点から、その表面上に保護膜を配置することが好ましい。このような保護膜の材料としては、特に制限されず、磁性薄膜を保護するために磁性薄膜の表面に積層させることが可能な公知の保護膜用の材料を適宜用いることができ、例えば、酸化防止のためにクロム等を用いてもよい。従って、本発明の島状磁性薄膜を使用する場合には、MgO単結晶基板上に、前記下地層/島状磁性薄膜/保護膜を順次積層させて用いることが好ましい。
【0023】
以上、本発明の島状磁性薄膜について説明したが、以下、本発明の島状磁性薄膜の製造方法について説明する。なお、本発明の島状磁性薄膜の製造方法は、上記本発明の島状磁性薄膜として好適なネオジウムと鉄とホウ素とを含有する磁性材料からなる島状磁性薄膜を製造するための方法として、好適に採用することが可能な方法である。
【0024】
本発明の島状磁性薄膜の製造方法は、酸化マグネシウム単結晶からなる基板上に、モリブデン及びタンタルのうちの少なくとも1種を含有する下地材料からなる下地層を形成して磁性薄膜形成用基板を得る工程(A)と、
前記磁性薄膜形成用基板の表面温度を590℃〜670℃に保持しながら、ネオジウムと鉄とホウ素とを含有するターゲット材料をスパッタリングすることにより、
ネオジウムと鉄とホウ素とを含有する磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配置されてなり、前記島粒子中の前記磁性材料の結晶相がc面配向しており、前記島粒子の面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にあり、且つ、厚みが2〜25nmの範囲にある島状磁性薄膜を、前記下地層上に成膜する工程(B)と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、工程(A)及び(B)を分けて説明する。
【0025】
先ず、工程(A)について説明する。工程(A)は、酸化マグネシウム単結晶からなる基板上に、モリブデン及びタンタルのうちの少なくとも1種を含有する下地材料からなる下地層を形成して磁性薄膜形成用基板を得る工程である。
【0026】
本発明において用いられる基板は、酸化マグネシウム単結晶からなる基板(以下、場合により単に「MgO基板」と示す。)である。このような酸化マグネシウム単結晶からなる基板としては特に制限されず、市販品として入手できるものを使用してもよい。また、このような酸化マグネシウム単結晶からなる基板においては、形成させる島粒子中の磁性材料をc面配向させるという観点からは、その酸化マグネシウム単結晶の(100)面を用いることが好ましい。
【0027】
また、本発明において下地層を形成させるために用いる下地材料は、モリブデン及びタンタルのうちの少なくとも1種を含有するものである。このようなモリブデン(Mo)やタンタル(Ta)は、磁性材料(特に好ましくはNdFe14B)のc面と格子整合性が高い体心立方構造(bcc)の材料である。そして、MgO基板を用いること及び前記下地材料からなる下地層を前記MgO基板上に形成させることによって、効率よくc面配向した磁性材料(特に好ましくはNdFe14B)の島粒子を形成させることが可能となる。
【0028】
また、このような下地層を形成せしめる方法としては特に制限されず、MgO基板上に前記下地材料をスパッタリングすることにより成膜する方法を好適に採用することができる。このようなスパッタリングの条件としては特に制限されず、公知の条件を適宜採用することができる。
【0029】
また、このような下地層の厚みは特に制限されず、適宜変更することができる。また、このような下地層としては、前記下地材料が(001)配向したものであることが好ましい。このように下地層が(001)配向したものである場合には、効率よく島粒子中の磁性材料の結晶相をc面配向させることができる傾向にある。
【0030】
次に、工程(B)について説明する。工程(B)は、前記磁性薄膜形成用基板の表面温度を590℃〜670℃に保持しながら、ネオジウムと鉄とホウ素とを含有するターゲット材料をスパッタリングすることにより、
ネオジウムと鉄とホウ素とを含有する磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配置されてなり、前記島粒子中の前記磁性材料の結晶相がc面配向しており、前記島粒子の面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にあり、且つ、厚みが2〜25nmの範囲にある島状磁性薄膜を、前記下地層上に成膜する工程である。
【0031】
このような工程(B)においては、スパッタリングの際に、前記磁性薄膜形成用基板の表面温度を590℃〜670℃(より好ましくは600℃〜650℃)に保持する。このような表面温度が前記下限未満では、スパッタリングにより前記ターゲット材料を担持させた際に連続状の膜が成膜されてしまう。他方、前記表面温度が前記上限を超えると、前記ターゲット材料をスパッタリングした場合に、島上構造は形成されるものの、島粒子中にNdFe14B相が形成されず、得られる薄膜の保磁力が十分なものとはならない。
【0032】
また、本発明において用いられるターゲット材料はネオジウム(Nd)と鉄(Fe)とホウ素(B)とを含有するものである。このようなターゲット材料としては特に制限されず、磁性材料からなる島粒子を形成できるものであればよく、例えば、予め組成が予備的に調製されたNdとFeとBとの合金(NdFeB合金)等を適宜用いることができる。
【0033】
また、前記スパッタリングの方法としては特に制限されず、公知のスパッタリング方法を適宜採用することができ、例えば、マグネトロンスパッタ法を好適に採用することができる。また、このようなスパッタリングに使用するスパッタリング装置は特に制限されず、公知のスパッタリング装置を適宜利用できる。
【0034】
また、スパッタリングの際の成膜速度としては、1Å/s以下であることが好ましい。さらに、前記スパッタリングに際しては、成膜前の真空度を1×10−7Pa以下とすることが好ましい。このような真空度が前記上限を超えると、磁性材料に酸化が起こり、磁性特性(保磁力)が減少する傾向にある。
【0035】
また、前記スパッタリングに際しては、島状磁性薄膜の厚みを2〜25nmの範囲となるようにする。このような厚みが前記下限未満では、磁性材料の結晶の形成(結晶構造の形成)が困難になる傾向にある。他方、前記厚みが前記上限を超えると、形成される島粒子の粒径が大きくなってしまったり、島状の膜ではなく連続状の膜が成膜されてしまう傾向にある。なお、このような薄膜の厚みはスパッタリングの成膜速度や成膜時間を調整することにより適宜調整することが可能である。
【0036】
また、本発明において、前述のように、前記磁性薄膜形成用基板の表面温度を590℃〜670℃に保持しながら前記ターゲット材料をスパッタリングすることによって形成される島状磁性薄膜は、ネオジウムと鉄とホウ素とを含有する磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配置されてなり、前記島粒子中の前記磁性材料の結晶相がc面配向しており、前記島粒子の面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にあり、且つ、厚みが2〜25nmの範囲にあるものとなる。
【0037】
このような島粒子を形成する磁性材料は、NdとFeとBとを含有するものである。このような磁性材料としては、十分に高い保磁力が得られるという観点から、NdFe14B結晶となっていることが特に好ましい。なお、このような磁性材料の結晶は、前述のようにして前記ターゲット材料をスパッタリングすることにより、前記下地層上に形成される。
【0038】
また、このような島粒子においては、前記磁性材料の結晶相がc面配向している。すなわち、本発明においては、島粒子中の磁性材料の結晶のc軸が、結晶の成長方向(基板上に島粒子を配置する場合には、前記基板の表面に対して垂直な方向)に配向している。このような結晶相の配向は、工程(A)により形成された磁性薄膜形成用基板を用いること、及び、前記磁性薄膜形成用基板の表面温度を上記範囲に保持しつつ前記基板の下地層上に前記ターゲット材料を前述のようにしてスパッタリングして担持させることによって達成される。
【0039】
また、前記スパッタリングにより形成される島粒子は、面内直径の平均値が40〜140nmの範囲のものとなる。なお、このような島粒子は、工程(A)により形成された磁性薄膜形成用基板を用いること、及び、前記磁性薄膜形成用基板の表面温度を上記範囲に保持しつつ前記基板の下地層上に前記ターゲット材料を前述のようにしてスパッタリングして担持させることによって形成することが可能となるものである。
【0040】
また、このようにして成膜される島状磁性薄膜は、厚みが2〜25nmの範囲のものである。また、このようにして成膜される島状磁性薄膜においては、孤立した前記島粒子が不連続膜状に配置された構造(島状構造)を有する。このような島状構造としては、面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にある島粒子を、それぞれ孤立した状態で、最近接粒子同士の離間距離の平均値が10〜100nmとなるようにして、不連続膜状に配置させた構造であることがより好ましい。なお、このような島状構造は、工程(A)により形成された磁性薄膜形成用基板を用いること、及び、前記磁性薄膜形成用基板の表面温度を上記範囲に保持しつつ前述のようにしてスパッタリングして前記基板の下地層上に前記ターゲット材料を担持させることによって形成させることができる。
【0041】
また、このような島状磁性薄膜を成膜した後においては、更に保護膜を成膜してもよい。このような保護膜の材料としては、特に制限されず、磁性薄膜を保護するために磁性薄膜の表面に積層させることが可能な公知の保護膜用の材料を適宜用いることができ、例えば、酸化防止のためにクロム等を用いてもよい。このような保護膜の成膜方法は特に制限されず、例えば、スパッタリングにより形成させる方法を適宜採用できる。また、形成させる保護膜の厚みとしては、特に制限されず、酸化防止機能等を十分に発揮することが可能な厚みであればよく、例えば、クロムからなる保護膜を成膜する場合には2〜50nm程度とすればよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(合成例1〜4及び比較合成例1〜3)
先ず、MgO単結晶基板(フルウチ化学社製の商品名「MgO(100)単結晶基板」)をそれぞれ用い、各基板上に、下地材料(CrとTaとの合金(合成例1)、Ta(合成例2)、Cr/Moとの合金(合成例3)、Fe/Moとの合金(合成例4)、V(比較合成例1)、CrとVとの合金(比較合成例2)、Cr(比較合成例3))を、スパッタリングにより平坦に積層せしめることにより、下地層が積層した薄膜形成用基板をそれぞれ得た。なお、スパッタリングに際しては、真空度を1.3mTorr以下とした。
【0044】
次に、前述のようにして得られた各薄膜形成用基板に対して、それぞれNdFeB薄膜をスパッタリングにより成膜せしめた。なお、スパッタリングの方法としては、マグネトロンスパッタ法を採用し、スパッタリングの成膜前の到達真空度を1×10−8Pa以下とした。また、成膜速度は0.4Å/sとし、スパッタリングの際の基板の表面温度は600〜655℃に保持した。さらに、ターゲット材料はそれぞれNdFeB合金とし、形成した薄膜の形状は直径8mmの円形とし、薄膜の設計膜厚を5nmとした。
【0045】
このようにして形成されたNdFeB薄膜の結晶相を確認するため、得られた各薄膜に対してX線回折(XRD)測定を行った。合成例1〜4及び比較合成例1〜3で得られた各薄膜のXRDパターンを図1に示す。図1に示す結果からも明らかなように、下地材料として、Mo又はTaを含有する材料を用いた場合には、c面配向したNdFe14B相が成長することが確認された。このような結果から、MgO基板上にMo又はTaを含有する下地材料からなる下地層が積層された薄膜形成用基板を用いることによって、c面配向したNdFe14B相を成長させることが可能となることが分かった。
【0046】
(実施例1〜6及び比較例1〜6)
先ず、MgO単結晶基板(フルウチ化学社製の商品名「MgO(100)単結晶基板」)をそれぞれ用い、各基板上に、Moからなる下地材料をスパッタリングにより平坦に積層せしめることにより、下地層が積層した薄膜形成用基板をそれぞれ得た。なお、スパッタリングに際しては、真空度を1.3mTorr以下とし、形成させた下地層の膜厚は20nmとした。
【0047】
次に、前述のようにして得られた各薄膜形成用基板に対して、それぞれNdFeB薄膜をスパッタリングにより成膜せしめた。なお、スパッタリングの方法としては、マグネトロンスパッタ法を採用し、スパッタリングの成膜前の到達真空度を1×10−8Pa以下とした。また、成膜速度は0.4Å/sとし、ターゲット材料はそれぞれNdFeB合金とした。また、形成した薄膜の形状は直径8mmの円形とし、薄膜の設計膜厚を5nmとした。更に、スパッタリングの際の基板の表面温度は、各実施例及び各比較例ごとに、それぞれ、600℃(実施例1)、625℃(実施例2)、635℃(実施例3)、645℃(実施例4)、655℃(実施例5)、665℃(実施例6)、500℃(比較例1)、520℃(比較例2)、540℃(比較例3)、560℃(比較例4)、580℃(比較例5)、675℃(比較例6)に保持した。
【0048】
次いで、前述のようにしてNdFeB薄膜を積層した後、前記薄膜の温度が室温(25℃)になるまで自然放冷させた。その後、前記NdFeB薄膜上にクロムからなる保護膜をスパッタリングにより積層せしめた。なお、スパッタリングに際しては真空度を1.3mTorr以下とした。また、保護膜の膜厚は10nmとした。
【0049】
<実施例1〜6及び比較例1〜6で得られたNdFeB薄膜の特性の評価>
〈TEMによる観測〉
実施例1で得られたNdFeB薄膜を、透過型電子顕微鏡(TEM)により観測した。実施例1で得られたNdFeB薄膜の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図2に示す。図2に示す結果から、NdFeBの結晶がc面配向していることが確認された。
【0050】
〈TEM−EELSによる観測〉
次に、実施例1〜2、比較例3及び比較例5〜6で得られたNdFeB薄膜の断面の鉄の状態をTEM−EELSによりエネルギーを選別しながら観測した。このようなTEM−EELS測定の結果として、実施例1〜2、比較例3及び比較例5〜6で得られたNdFeB薄膜の断面の鉄の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図3〜7(図3:比較例3、図4:比較例5、図5:実施例1、図6:実施例2、図7:比較例6)に示す。
【0051】
図5〜6に示す結果からも明らかなように、実施例1〜2で得られたNdFeB薄膜においては、孤立した島粒子により不連続膜が形成されていること(島状構造が形成されていること)が確認された。また、図5〜6に示す結果から、前記島粒子の面内直径の平均値は80nm(実施例1)、140nm(実施例2)であることが確認された。一方、図3〜4に示す結果からも明らかなように、スパッタリングの際に基板の表面温度を540℃又は580℃とした場合(比較例3及び比較例5の場合)には、得られたNdFeB薄膜は多少の凹凸が見られるもののNdFeB層が連続した膜となることが確認された。さらに、図7に示す結果から、比較例6で得られたNdFeB薄膜においては、連続膜となっていることが確認された。また、図5〜7に示す結果から、スパッタリングの際に基板の表面温度が600℃以上である場合(実施例1〜2)においては、島粒子が形成され、形成される島粒子の面内直径の平均値が40〜140nmの範囲となることが分かった。このような結果から、実施例1〜6においては、面内直径の平均値が40〜140nmの島粒子が不連続膜状に配置された島状の薄膜が得られることが分かった。
【0052】
〈XRD測定〉
実施例1〜6及び比較例1〜6で得られたNdFeB薄膜に対して、NdFe14B相の生成の有無を確認するため、XRD測定を行った。実施例1〜6及び比較例1〜6で得られたNdFeB薄膜のXRDパターンを示すグラフを図8に示す。
【0053】
図8に示す結果からも明らかなように、スパッタリングの際の基板の表面温度を540〜665℃とした場合(実施例1〜6及び比較例1〜5の場合)には、前記下地層上にc面配向したNdFe14B相が成長することが確認された。他方、スパッタリングの際の基板の表面温度を675℃とした場合には、NdFe14B相以外の相に変態してしまうことが確認された。
【0054】
〈磁気特性の測定〉
試料振動型磁力計(VSM:Lake shore社製)により、実施例1〜6及び比較例1〜6で得られた各NdFeB薄膜の保磁力を測定した。実施例1〜6及び比較例1〜6で得られた各NdFeB薄膜の保磁力と、成膜時の基板表面の保持温度との関係を示すグラフを図9に示す。
【0055】
図9に示す結果からも明らかなように、成膜時の基板表面の保持温度を600℃〜665℃とした場合(実施例1〜6)においては、得られたNdFeB薄膜の保磁力が15KOeを超えるものとなっていることが確認された。一方、成膜時の基板表面の保持温度が675℃(比較例6)の場合には、得られたNdFeB薄膜の保磁力はほぼ10Oe以下であった。このような結果から、実施例1〜6で得られたNdFeB薄膜は十分に高い保磁力を示すことが確認された。また、比較例6で得られたNdFeB薄膜の保磁力が10Oe以下であることから、比較例6で得られたNdFeB薄膜は、NdFe14Bが形成されていないことが分かった。
【0056】
〈AFMによる観測〉
実施例1〜2、実施例4、比較例3、比較例5及び比較例6で得られた各NdFeB薄膜に対して、原子間力顕微鏡(AFM)による観測を行った。このような観測により得られた、各NdFeB薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真を図10〜15にそれぞれ示す。なお、図10は、比較例3で得られたNdFeB薄膜のAFM写真であり、図11は、比較例5で得られたNdFeB薄膜のAFM写真であり、図12は、実施例1で得られたNdFeB薄膜のAFM写真であり、図13は、実施例2で得られたNdFeB薄膜のAFM写真であり、図14は、実施例4で得られたNdFeB薄膜のAFM写真であり、図15は、比較例6で得られたNdFeB薄膜のAFM写真である。
【0057】
図12〜14に示す結果からも明らかなように、実施例1〜2及び実施例4で得られた各NdFeB薄膜においては、膜の構造が島状構造となっていることが確認された。また、このようなAFM写真によって、実施例1〜2及び実施例4で得られた各NdFeB薄膜においては、形成された島粒子の際近接粒子間の離間距離の平均値が、それぞれ、28nm(実施例1)、32nm(実施例2)、75nm(実施例4)であることが確認された。
【0058】
以上のような特性評価の結果から、MgO単結晶基板を用い、Mo及びTaのうちの少なくとも1種を含有する下地材料からなる下地層を形成せしめ、薄膜形成用基板の表面温度を600℃(実施例1)、625℃(実施例2)、635℃(実施例3)、645℃(実施例4)、655℃(実施例5)又は665℃(実施例6)に保持しながら、NdFeB薄膜をスパッタリングにより成膜することによって、厚みが十分に薄く、しかも、磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配列された島状磁性薄膜が得られることが分かった。また、実施例1〜6で得られた薄膜においては、島粒子の面内粒径の平均値が40〜140nmの範囲となることが分かった。さらに、実施例1〜6で得られた島状の磁性薄膜においては、十分に高い保磁力を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、希土類元素を含む磁性材料からなる磁性薄膜であって、前記磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配列された島状構造が形成されており、前記島粒子の粒径が十分に小さく、膜の厚みが十分に薄く、しかも十分に高い保磁力を有することが可能な島状磁性薄膜及びその製造方法を提供することが可能となる。したがって、本発明の島状磁性薄膜は、情報の処理や記録をさせることが可能な超高密度磁気媒体等に用いる磁性薄膜として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】合成例1〜4及び比較合成例1〜3で得られた各薄膜のXRDパターンを示すグラフである。
【図2】実施例1で得られたNdFeB薄膜の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】比較例3で得られたNdFeB薄膜の断面の鉄の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】比較例5で得られたNdFeB薄膜の断面の鉄の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図5】実施例1で得られたNdFeB薄膜の断面の鉄の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図6】実施例2で得られたNdFeB薄膜の断面の鉄の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図7】比較例6で得られたNdFeB薄膜の断面の鉄の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図8】実施例1〜6及び比較例1〜6で得られた各NdFeB薄膜のXRDパターンを示すグラフである。
【図9】実施例1〜6及び比較例1〜6で得られた各NdFeB薄膜の保磁力と、各薄膜の成膜時の基板表面の保持温度との関係を示すグラフである。
【図10】比較例3で得られたNdFeB薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図11】比較例5で得られたNdFeB薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図12】実施例1で得られたNdFeB薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図13】実施例2で得られたNdFeB薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図14】実施例4で得られたNdFeB薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図15】比較例6で得られたNdFeB薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配置された島状磁性薄膜であって、前記磁性材料が希土類元素を含有するものであり、前記島粒子の面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にあり、且つ、前記薄膜の厚みが2〜25nmの範囲にあることを特徴とする島状磁性薄膜。
【請求項2】
前記磁性材料が、ネオジウムを含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の島状磁性薄膜。
【請求項3】
前記磁性材料が、ネオジウムと鉄とホウ素とを含有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の島状磁性薄膜。
【請求項4】
前記島粒子の最近接粒子同士の最近接点間の距離の平均値が10〜100nmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の島状磁性薄膜。
【請求項5】
前記島粒子中の前記磁性材料の結晶相がc面配向していることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の島状磁性薄膜。
【請求項6】
酸化マグネシウム単結晶からなる基板上に、モリブデン及びタンタルのうちの少なくとも1種を含有する下地材料からなる下地層を形成して磁性薄膜形成用基板を得る工程と、
前記磁性薄膜形成用基板の表面温度を590℃〜670℃に保持しながら、ネオジウムと鉄とホウ素とを含有するターゲット材料をスパッタリングすることにより、
ネオジウムと鉄とホウ素とを含有する磁性材料からなる孤立した島粒子が不連続膜状に配置されてなり、前記島粒子中の前記磁性材料の結晶相がc面配向しており、前記島粒子の面内直径の平均値が40〜140nmの範囲にあり、且つ、厚みが2〜25nmの範囲にある島状磁性薄膜を、前記下地層上に成膜する工程と、
を含むことを特徴とする島状磁性薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記スパッタリングによる磁性薄膜の成膜速度が1Å/s以下であることを特徴とする請求項6に記載の島状磁性薄膜の製造方法。

【図1】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−70857(P2009−70857A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234579(P2007−234579)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】