説明

工作機械の工具軌跡表示装置

【課題】3次元形状を直感的に認識可能な工作機械の軌跡表示装置を提供する。
【解決手段】数値制御装置20は、指令位置演算部21により求められた指令位置に基づいて、各軸モータを制御する駆動軸制御部22とを備え、位置検出装置によって検出された各軸の実位置情報がフィードバックされる。軌跡表示装置30は、駆動軸制御部22から離散的な時刻における実位置データを同時に時系列データとして取得する実位置データ取得部32、可動部3次元軌跡計算部34、可動部3次元軌跡計算部34で求めた可動部の3次元軌跡から、立体視用左眼画像データを計算する左眼用画像計算部36,立体視用左眼画像データを計算する右眼用画像計算部38、左眼用画像計算部36からの立体視用左眼画像データ,右眼用画像計算部38からの立体視用左眼画像データを用いて、画像を対応する左右のそれぞれの眼から見えるように表示する立体視用画像表示部43を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の可動部の3次元軌跡を、左右の視差を利用した立体視の技術を用いて表示する機能を備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械では、数値制御装置によって制御された複数の駆動軸によって工具先端部の位置が制御される。この工具先端部の3次元軌跡を、ある平面に投影することで2次元画像として表示装置の画面上に表示することができる。特許文献1には、工具先端部の3次元軌跡上の位置と各軸の波形データにおける時間軸上の位置との対応を視覚的に捉えることができる表示装置の技術が開示されている。
【0003】
ところで、立体形状を表示装置に立体表示する技術がある。例えば、特許文献2には、光源をスリット化することで立体視を行う立体視表示装置の技術が開示されている。また、特許文献3には、可視光領域を左眼用、右眼用の周波数帯域に分割することで立体視を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−43874号公報
【特許文献2】特開平7−181429号公報
【特許文献3】特公平2−46926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工具先端部の3次元軌跡をある平面に投影した2次元画像として画面上に表示する場合、3次元軌跡を2次元情報に変換する必要がある。2次元情報には、工具先端部の3次元軌跡の奥行情報が含まれていない。そのため、2次元画像では、工具先端部の3次元軌跡が、表示画面の手前に向いているのか、奥を向いているのかを正確に捉えることが困難である。
そこで本発明の目的は、左右の視差を利用した立体視の技術を応用することで、従来の平面的な表示では困難であった可動部の軌跡の3次元形状を直感的に認識可能な工作機械の軌跡表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の請求項1に係る発明は、数値制御装置を用いて複数の駆動軸によって工具および加工物の位置や姿勢を制御する工作機械の可動部の3次元軌跡を表示する可動部軌跡表示装置であって、前記各駆動軸の各時刻における実位置情報を同時に時系列データとして取得し記憶するデータ取得部と、前記各駆動軸の各時刻における実位置情報と前記工作機械の機械構成の情報とを用いて、前記加工物に固定された座標系からみた、可動部の3次元座標値を計算し、該可動部の3次元の軌跡を求める可動部軌跡演算部と、前記可動部軌跡演算部で求めた可動部の3次元の軌跡から、立体視用左眼用画像データと立体視用右眼用画像データを求める立体視用画像生成部と、前記立体視画像生成部で求めた立体視用左眼用画像データと立体視用右眼用画像データを、対応する左右ぞれぞれの眼から見えるように表示することを特徴とする立体視用画像表示部と、を備えたことを特徴とする工作機械の軌跡表示装置である。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記複数の可動軸は少なくとも1つの回転軸を含み、前記可動部軌跡演算部は前記工具の工具先端部の3次元の軌跡を求め、前記立体視用画像生成部は、前記工具先端部の3次元の軌跡から、立体視用左眼用画像データと立体視用右眼用画像データを求めることを特徴とする請求項1記載の工作機械の軌跡表示装置である。
請求項3に係る発明は、前記各駆動軸の各時刻における指令位置情報を同時に時系列データとして取得する指令位置データ取得部と、前記各駆動軸の各時刻における指令位置情報と前記工作機械の機械構成の情報とを用いて、前記加工物に固定された座標系からみた、前記可動部または前記工具先端部の指令座標値を計算し、該可動部または該工具先端部の指令軌跡を求める可動部指令軌跡演算部と、前記指令軌跡に対する前記可動部または前記工具先端部の実位置軌跡の軌跡誤差を求める軌跡誤差計算部と、前記軌跡誤差計算部で求められた前記軌跡誤差を、前記指令軌跡に対してあらかじめ設定した倍率で拡大して、前記軌跡誤差を強調した3次元軌跡データを生成する誤差拡大3次元軌跡生成部と、前記誤差拡大3次元軌跡生成部で得られた前記軌跡誤差を強調した3次元軌跡データから、立体視用左眼用画像データと立体視用右眼用画像データを求める立体視用画像生成部と、を備えたことを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載の工作機械の軌跡表示装置である。
【0008】
請求項4に係る発明は、前記工具の中心軸上で、先端部から工具の根元方向へあらかじめ設定した距離だけ離れた点を工具ベクトル始点とし、前記各駆動軸の前記各時刻における位置情報と前記工作機械の機械構成の情報とを用いて、前記加工物に固定された座標系から見た、前記工具ベクトル始点の3次元座標を計算し、前記工具ベクトル始点と前記工具先端部とを結ぶ工具ベクトルと、前記工具先端部の3次元軌跡データから、立体視用左眼用画像データと立体視用右眼用画像データを求める立体視用画像生成部と、を備えたことを特徴とする請求項2に記載の工作機械の軌跡表示装置である。
請求項5に係る発明は、前記立体視用画像生成部で生成された立体視用画像データ上に、ある時刻に対応した点を強調して表示し、時刻の変化による工具の移動に合わせて強調表示した点が軌跡上を移動して表示されることを特徴とする請求項1または2に記載の工作機械の軌跡表示装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、左右の視差を利用した立体視の技術を応用することで、従来の平面的な表示では困難であった可動部の軌跡の3次元形状を直感的に認識可能な工作機械の軌跡表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態1に係る軌跡表示装置を含むシステムの概略構成を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態2に係る軌跡表示装置を含むシステムの概略構成を説明する図である。
【図3】工具ヘッド回転型の5軸加工機の一例の外観斜視図である。
【図4】立体視画像の作成方法を説明する図である。
【図5】左眼用画像と右眼用画像とを立体視可能な表示器に表示させることによって立体視が可能となることを説明する図である。
【図6】工具先端部の実位置軌跡を立体視表示する処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態3に係る軌跡表示装置を含むシステムの概略構成を説明するフローチャートである。
【図8】3次元軌跡誤差を説明する図である。
【図9】条件を満たす線分が複数存在する場合を説明する図である。
【図10】条件を満たす線分が存在しない場合を説明する図である。
【図11】誤差の拡大表示を説明する図である。
【図12】指令軌跡に対する実位置軌跡の誤差を拡大表示することを説明する図である。
【図13−1】工具先端部の実位置の誤差を求める処理の一例を示すフローチャートである(その1)。
【図13−2】工具先端部の実位置の誤差を求める処理の一例を示すフローチャートである(その2)。
【図14】工具ベクトルを説明する図である。
【図15】工具ベクトルを立体表示する処理の一例を示すフローチャートである。
【図16】マーカー表示を説明する図である。
【図17】本発明を適用した一実施形態の工作機械の軌跡表示装置の構成を概略で示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る軌跡表示装置を含むシステムの概略構成を説明する図である。本発明の実施形態1は、工作機械10の可動部の実位置の3次元軌跡を表示するものである。工作機械10の機構部に、x軸用モータ10x,y軸用モータ10y,z軸用モータ10z,A軸用モータ10A,B軸用モータ10Bを備え、x軸,y軸,z軸を直線軸、A軸,B軸を回転軸とする5軸加工機械である。工作機械10に備わった各軸のモータ10x,10y,10z,10A,10Bは、数値制御装置20によって制御される。
【0012】
数値制御装置20は、各時刻において工作機械10の各軸が位置すべき指令位置を求める指令位置演算部21と、指令位置演算部21により求められた指令位置に基づいて、各軸モータ10x,10y,10z,10A,10Bの動作を制御する駆動軸制御部22とを備えている。各軸モータには位置検出装置(図示せず)が設けられており、位置検出装置によって検出された各軸の実位置情報は数値制御装置20にフィードバックされる。
【0013】
軌跡表示装置30は、数値制御装置20の駆動軸制御部22から離散的な時刻における各軸の実位置の情報である実位置データを同時に時系列データとして取得する実位置データ取得部32、可動部3次元軌跡計算部34、可動部3次元軌跡計算部34で求めた可動部の3次元軌跡から、立体視用左眼画像データを計算する左眼用画像計算部36,立体視用左眼画像データを計算する右眼用画像計算部38、左眼用画像計算部36からの立体視用左眼画像データ,右眼用画像計算部38からの立体視用左眼画像データを用いて、該画像データに基づく画像を対応する左右のそれぞれの眼から見えるように表示する立体視用画像表示部43を備える。
【0014】
可動部3次元軌跡計算部34は、前記各軸の実位置の情報と工作機械10の機械構成の情報とを用いて、工作機械10によって加工される加工物に固定された座標から見た、可動部の3次元座標値を計算し、前記可動部の3次元軌跡を求める計算部である。実位置データ取得部32で取得された離散的なデータは必要に応じて図示しないメモリに保存される。他の実施形態においても同様である。
【0015】
図2には本発明の実施形態2が示されている。実施形態1が可動部の3次元軌跡を表示するものであるのに対し、実施形態2は可動部の一つの代表点の例である工具先端点(工具先端部)の3次元軌跡を表示するものである。工具先端部3次元軌跡計算部34aは、実位置データ取得部32から同時に時系列データとして受け取った各軸の実位置の情報と工作機械10の機械構成の情報とを用いて、工作機械10によって加工される加工物に固定された座標から見た、工具の先端点(工具先端部)の3次元軌跡を求める計算部である。そして、左眼用画像計算部36,右眼用画像計算部38によりそれぞれの眼に対応した立体視用左眼画像データが計算され、それぞれの画像データに基づく画像が対応する左右のそれぞれの眼から見えるように立体視用画像表示部43bに表示され前記指令軌跡が立体視表示される。
【0016】
ここで、工具3の先端部の座標の求め方について、5軸加工機を例として説明する。
図3は、工具ヘッド回転型の5軸加工機の一例の外観斜視図である。X,Y,Z軸が直線軸、A,B軸が回転軸である。時刻tにおけるこれら5軸の座標をそれぞれx(t),y(t),z(t),a(t),b(t)とする。テーブル2上に加工される被加工物(図示せず)を搭載する。工具3の先端部は、X,Y,Zの直線軸、および、A,Bの回転軸によってワークに対して相対的に移動する。
【0017】
機械構成が工具ヘッド回転型である5軸加工機の2つの回転軸(A軸,B軸)の回転中心となる軸の交点をMとすると、加工物に固定された座標系を考えて、原点を適当にとれば、点Mの座標は(x(t),y(t),z(t))となる。点Mから工具先端部までの長さをLとし、工具3が真下を向いた位置をA,B軸の基準位置(原点)とすると、工具先端部Peの座標(PosX(t),PosY(t),PosZ(t))は、数1式により計算される。
【0018】
【数1】

【0019】
このように、5軸分の位置情報と機械構成の条件により工具3の先端部の座標を計算することができる。
【0020】
次に、立体視用画像の作成方法を説明する。工具先端部の座標から得られる三次元軌跡から、左眼用画像と右眼用画像を作成する。右眼用画像の作成方法の例として図4に示される立方体を考える。スクリーンを通して立方体上の点R1を右眼で見た場合、右眼の位置をR0とし、点R0と点R1とを結ぶ直線と、スクリーンとの交点をRとすると、点Rが点R1をスクリーン上に投影した点になる。したがって、点R1を立方体上で移動させながら交点Rを求めることにより、立方体をスクリーンに投影することができる。こうして得られた投影画像が右眼用画像となる。交点Rの位置は数2式により計算される。
【0021】
【数2】

【0022】
そして、右眼用画像も左眼用画像と同様の方法で作成できる。
作成された左眼用画像と右眼用画像は、図5に示したような立体視可能な表示器に表示させることによって立体視が可能となる。
【0023】
図6は、工具先端部の実位置軌跡を立体視表示する処理を説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA01]tに開始時刻を入力する。
●[ステップSA02]tにおける各軸の位置データを取得する。
●[ステップSA03]工具先端部の座標値に変換する。この変換は、ステップSA02で取得した各軸の位置データと工作機械の機械構成の情報を用いて、加工物に固定された座標系からみた、工具先端部の3次元座標値を計算することである。
●[ステップSA04]工具先端部の座標値から左眼用画像データを作成する。
●[ステップSA05]工具先端部の座標値から右眼用画像データを作成する。
●[ステップSA06]表示部に左眼用画像と右眼用画像を表示する。
●[ステップSA07]時刻tは終了時刻以上か否か判断し、以上でない場合にはステップSA08へ移行し、以上の場合には処理を終了する。
●[ステップSA08]サンプリング時間間隔Δtの経過か否か判断し、Δt経過するのを待ってステップSA09へ移行する。
●[ステップSA09]現在の時刻tにサンプリング時間間隔Δtを加算し、新たに現在の時刻tとし、ステップSA02へ戻り処理を継続する。
【0024】
上述した本発明の実施形態1,2で説明したように、工作機械の例えば工具先端部などの可動部の代表点の実位置軌跡は3次元曲線を有する。前記実位置軌跡は数値制御装置20から指令される指令軌跡から誤差が生じる。ここでは、この3次元曲線の誤差、すなわち指令された軌跡に対する実際の軌跡のずれ(以下、「3次元軌跡誤差」という)を直感的に認識可能な工作機械の軌跡表示装置の実施形態3を説明する。
【0025】
図7は、本発明の実施形態3に係る軌跡表示装置を含むシステムの概略構成を説明する図である。ここでは、可動部の代表点として工具先端部を例として説明する。実施形態2に係る軌跡表示装置30は、図2の実施形態2の軌跡表示装置30において、数値制御装置20の指令位置演算部21から離散的な時刻における指令位置データを同時に取得する指令位置データ取得部31、指令軌跡計算部33、指令軌跡用左眼用画像計算部35、指令軌跡用右眼用画像計算部37を更に備えている。なお、指令位置データ取得部で取得されたデータは必要に応じて図示しないメモリに保存される。
【0026】
指令軌跡計算部33は、各軸の前記実位置の情報と工作機械10の機械構成の情報とを用いて、工作機械10によって加工される加工物に固定された座標から見た、工具先端部の指令位置座標値を計算し、前記工具先端部の指令軌跡を求める計算部である。そして、指令軌跡計算部33で求めた工具先端部の指令軌跡から、左眼用画像計算部35で立体視用左眼画像データ,右眼用画像計算部37で立体視用左眼画像データが計算され、それぞれの画像データに基づく画像が対応する左右のそれぞれの眼から見えるように立体視用画像表示部43aに表示され前記指令軌跡が立体視表示される。
【0027】
実施形態3では更に、3次元軌跡誤差を直感的に認識可能とするため、指令軌跡計算部33で計算された指令軌跡に対する工具先端部の実位置軌跡の軌跡誤差が誤差計算部39において計算される。そして、誤差拡大3次元軌跡生成部40において、誤差計算部39で計算された軌跡誤差をあらかじめ設定した倍率で拡大し、該軌跡誤差を強調した3次元軌跡データが生成される。次に、左眼用画像計算部41,右眼用画像計算部42によりそれぞれの眼に対応した立体視用左眼画像データが計算され、それぞれの画像データに基づく画像が対応する左右のそれぞれの眼から見えるように立体視用画像表示部43aに表示され軌跡誤差を強調した3次元軌跡が立体視表示される。なお、実施形態3を、少なくとも軌跡誤差を強調した3次元軌跡のみが立体視表示されるようにしてもよい。
【0028】
図8は、3次元軌跡誤差を説明する図である。n番目の指令位置をPnとし、m番目の実位置をQmとする。指令軌跡を構成する全ての線分について、点Qmから垂線を下ろす。このとき、垂線が線分上で交わるものだけを考える。図9に示されるように、このような条件を満たす垂線が複数存在する場合には、垂線の長さが最も短いものを選択する。そして、指令軌跡を構成する全ての点と実位置Qmとを結ぶ線分の内、線分の長さが最も短いものと、先ほど選択した垂線の長さが最も短いものとを比較して、より長さが短い方を誤差ベクトル、その長さを誤差とする。また、図10は、条件を満たす線分が存在しない場合を説明する図である。条件を満たす線分が存在しない場合には、各指令位置Pnまでの距離を計算し、距離の最小値を誤差とする。
【0029】
一般に、誤差量は小さい。そこで、誤差を視覚的に認識し易いようにすることが望ましい。図11は、誤差の拡大表示を説明する図である。誤差ベクトルを所定の倍率で拡大し、Qmに対してQm’を求める。Qm’を結んだ軌跡を誤差拡大後の軌跡として表示する。本発明の実施形態3では、実位置の誤差の大きい個所を視覚的に認識しやすいようにすることができる。具体的には、図11に示すように、各実位置から指令軌跡に延びる垂線を、該実位置から指令軌跡の反対側に垂直方向に(すなわち向きを変えずに)所定の倍率で延長し、延長された垂線の端点を結んで実位置の軌跡として計算する。
【0030】
図11の例では、実位置Qmの誤差を表す垂線52を例えば2倍に延長して実位置Qm’を得、さらに実位置Qm+1の誤差を表す垂線55を例えば2倍に延長して実位置Qm+1’を得ている。このようにすれば、例えば実位置Qm及びQm+1に基づく実位置軌跡52が図12(a)に示す程度に指令軌跡から乖離している場合、図12(b)に示すように、実位置Qm’及びQm+1’に基づく実位置軌跡では実際よりも誤差が誇張される。
【0031】
図12は、指令軌跡に対する実位置軌跡の誤差を拡大表示することを説明する図である。したがって、作業者は、誤差の大きい実位置をより容易に見出すことができる。なお、図10に示されるように垂線が存在しない場合でも同様に、所定倍率で実位置側に拡大するとよい。指令軌跡と誤差を拡大した実位置軌跡とを立体視表示することによって、誤差が発生した位置と方向とを視覚的に認識し易くなる。
【0032】
図13−1は、工具先端部の実位置の誤差を求める処理の一例を示すフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSB01]離散的な各時刻における各駆動軸における指令位置情報を同時に取得する。
●[ステップSB02]離散的な各時刻における各駆動軸の実位置情報を取得する。
●[ステップSB03]各駆動軸における指令位置情報と工作機械の機械構成の情報とを用いて、工具先端部の指令軌跡を求める。
●[ステップSB04]各駆動軸における実位置情報と工作機械の機械構成の情報とを用いて、工具先端部の実位置軌跡を求める。
●[ステップSB05]工具先端部の指令軌跡の離散点を結ぶベクトルSを作成する。
●[ステップSB06]工具先端部の実位置軌跡の離散点と前記実位置軌跡の離散点を取得した時刻から所定時間内のベクトルSの内分点とを結ぶベクトルTを作成する。ベクトルTの始点は、指令軌跡の離散点あるいはベクトルSを形成する線分の上にある。
●[ステップSB07]ベクトルSとベクトルTとが直交する場合のベクトルTを誤差ベクトル、その長さを誤差量とする。
●[ステップSB08]所定時間内に誤差ベクトルが複数存在する場合には、その長さが最も短いものを誤差ベクトル、その長さを誤差量とする。
●[ステップSB09]所定時間内の指令軌跡の離散点と実位置軌跡の離散点とを結ぶ線分の内、線分の長さが最も短いものと、誤差ベクトルとを比較し、より長さが短い方を誤差ベクトルとする。その長さを誤差量とする。
●[ステップSB10]誤差ベクトルを予め設定した倍率で拡大し、拡大誤差ベクトルを求める。
●[ステップSB11]拡大誤差ベクトルの終点の座標から軌跡誤差を強調した3次元軌跡データを生成する。
●[ステップSB12]誤差ベクトルを求める実位置軌跡の離散点はあるか否か判断し、ある場合にはステップSB06に戻り処理を継続する。
●[ステップSB13]軌跡誤差を強調した3次元軌跡データから右眼用画像データを作成する。
●[ステップSB14]軌跡誤差を強調した3次元軌跡データから左眼用画像データを作成する。
●[ステップSB15]表示部に左眼用画像と右眼用画像とを表示し、処理を終了する。
【0033】
ところで、被加工物を工具3の側面によって切削加工する場合がある。図14は、工具ベクトルを説明する図である。工具側面により加工の場合、工具の傾きが切削面に影響を与える。図14(a)に示されるように、被加工物を工具3の工具側面によって加工する場合、工具3が傾くと切削面に影響を与える。図14(b)は、工具の傾きを工具ベクトルとして表し、工具先端点軌跡に沿って各工具ベクトルを表示し、工具ベクトルの傾きがワークの切削面に影響を与えることを示している。そのため、工具先端部を終点とし該終点から工具の根元方向へあらかじめ設定した距離だけ離れた点を始点とする工具ベクトルを表示器上に表示させることで、切削面の状態の評価・解析が可能である。
【0034】
工具ベクトルの終点である工具先端部Peは数1式によって求められる。工具中心軸上の点で工具先端部Peから点Mの方向へdだけ離れた点を、工具ベクトル始点Psとする。工具ベクトル始点Psの座標(PosX’(t),PosY’(t),PosZ’(t))は、数3式により計算される。
【0035】
【数3】

【0036】
点Mから工具先端部Peまでである工具の長さLは、工具長として工作機械の数値制御装置に格納されている。このように、5軸分の位置情報と工作機械の機械構成の条件により、工具先端部Peおよび工具ベクトル始点Psの座標を計算することができる。
【0037】
図15は、工具ベクトルを立体表示する処理の一例を示すフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSC01]時刻tに開始時刻を設定する。
●[ステップSC02]時刻tにおける各軸の位置データを取得する。
●[ステップSC03]工具先端部の座標値を計算する。
●[ステップSC04]工具先端部の座標値から左眼用画像データを作成する。
●[ステップSC05]工具先端部の座標値から右眼用画像データを作成する。
●[ステップSC06]表示部に工具先端部の左眼用画像と右眼用画像とを表示する。
●[ステップSC07]所定時間経過か否か判断し、所定時間経過していない場合にはステップSC13へ移行し、所定時間経過した場合にはステップSC08へ移行する。
●[ステップSC08]工具ベクトルの始点の座標値を計算する。
●[ステップSC09]工具ベクトルの始点と終点である工具先端部とを結ぶ線分を求める。
●[ステップSC10]線分のデータから左眼用画像データを作成する。
●[ステップSC11]線部のデータから右眼用画像データを作成する。
●[ステップSC12]表示部に線分の左眼用画像と右眼用画像とを表示する。
●[ステップSC13]時刻tは終了時刻を過ぎたか(終了時刻を含む)否か判断し、過ぎていない場合にはステップSC14へ移行し、過ぎた場合には処理を終了する。
●[ステップSC14]サンプリング時間Δtの経過か否か判断し、Δt経過するのを待ってステップSC15へ移行する。
●[ステップSC15]現在の時刻tにサンプリング時間間隔Δtを加算し、新たに現在の時刻tとし、ステップSC02へ戻り処理を継続する。
【0038】
本発明により、少なくとも1つの回転軸を含む複数の駆動軸において工具および加工物の位置や姿勢を制御し、加工を行う工作機械の工具ベクトル表示装置において、実際のフィードバック情報を用いて工具先端点軌跡上の各点において被加工物に対する工具の向きを視覚的にわかり易く表示することができる。軌跡表示装置の表示画面に被加工物を立体表示するとともに工具ベクトルを立体表示することで切削面に与える影響を視覚的に認識し易くなる。
【0039】
ところで、軌跡表示装置の表示画面に工具先端部などの可動部の軌跡を立体表示するだけでは、可動部の進行方向を視覚的に捉えることが困難である。そこで、軌跡を表示するとともにマーカーを表示画面に表示することにより視覚的に認識し易くする。図16は、マーカー表示を説明する図である。工具先端部の実位置軌跡上、または実位置軌跡から計算される左眼用立体視用画像と右眼用立体視用画像を工具先端部の時系列データに沿ってマーカーを移動させることで、指令上の工具先端部の進行方向を視覚的に捉えることが容易になる。
【0040】
図17は、本発明を適用した一実施形態の工作機械の軌跡表示装置の構成を概略で示すブロック図である。プロセッサであるCPU111は、ROM112に格納されたシステムプログラムに従って数値制御装置20全体を制御する。RAM113は、各種のデータあるいは入出力信号が格納される。不揮発性メモリ114に格納された各種のデータは電源切断後もそのまま保存される。
【0041】
グラフィック制御回路115は、デジタル信号を表示用の信号に変換し、表示装置116に与える。キーボード117は、数値キー、文字キーなどを有する各種設定データを入力する手段である。
【0042】
軸制御回路118は、CPU111から各軸の移動指令を受けて軸の指令をサーボアンプ119に出力する。このサーボアンプ119は、この移動指令を受けて工作機械10のサーボモータ(図示せず)を駆動する。これらの構成要素はバス121で互いに結合されている。
【0043】
PMC(プログラマブル・マシン・コントローラ)122は、加工プログラムの実行時に、バス121経由でT機能信号(工具選択指令)などを受け取る。そして、この信号を、シーケンス・プログラムで処理して、動作指令として信号を出力し、工作機械10を制御する。また、工作機械10から状態信号を受けて、CPU111に必要な入力信号を転送する。
【0044】
更に、バス121には、システムプログラム等によって機能が変化するソフトウェアキー123、NCデータを記憶装置などの外部機器に送るインタフェース124が接続されている。このソフトウェアキー123は、表示装置116、キーボード117と共に、表示装置/MDIパネル125に設けられている。
【符号の説明】
【0045】
10 工作機械(機構部)
10x x軸用モータ
10y y軸用モータ
10z z軸用モータ
10A A軸用モータ
10B B軸用モータ

20 数値制御装置
21 指令位置演算部
22 駆動軸制御部

30 軌跡表示装置
31 指令位置データ取得部
32 実位置データ取得部
33 指令軌跡計算部
34 可動部3次元軌跡計算部
34a 工具先端部3次元軌跡計算部

35 指令軌跡用左眼用画像計算部
36 工具先端部3次元軌跡用左眼用画像計算部
37 指令軌跡用右眼用画像計算部
38 工具先端部3次元軌跡用右眼用画像計算部
39 軌跡誤差計算部
40 誤差拡大3次元軌跡生成部
41 工具先端部3次元軌跡用左眼用画像計算部

42 工具先端部3次元軌跡用右眼用画像計算部
43,43a,43b 立体視用画像表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御装置を用いて複数の駆動軸によって工具および加工物の位置や姿勢を制御する工作機械の可動部の3次元軌跡を表示する可動部軌跡表示装置であって、
前記各駆動軸の各時刻における実位置情報を同時に時系列データとして取得し記憶するデータ取得部と、
前記各駆動軸の各時刻における実位置情報と前記工作機械の機械構成の情報とを用いて、前記加工物に固定された座標系からみた、可動部の3次元座標値を計算し、該可動部の3次元の軌跡を求める可動部軌跡演算部と、
前記可動部軌跡演算部で求めた可動部の3次元の軌跡から、立体視用左眼用画像データと立体視用右眼用画像データを求める立体視用画像生成部と、
前記立体視画像生成部で求めた立体視用左眼用画像データと立体視用右眼用画像データを、対応する左右ぞれぞれの眼から見えるように表示することを特徴とする立体視用画像表示部と、
を備えたことを特徴とする工作機械の軌跡表示装置。
【請求項2】
前記複数の可動軸は少なくとも1つの回転軸を含み、
前記可動部軌跡演算部は前記工具の工具先端部の3次元の軌跡を求め、
前記立体視用画像生成部は、前記工具先端部の3次元の軌跡から、立体視用左眼用画像データと立体視用右眼用画像データを求めることを特徴とする請求項1記載の工作機械の軌跡表示装置。
【請求項3】
前記各駆動軸の各時刻における指令位置情報を同時に時系列データとして取得する指令位置データ取得部と、
前記各駆動軸の各時刻における指令位置情報と前記工作機械の機械構成の情報とを用いて、前記加工物に固定された座標系からみた、前記可動部または前記工具先端部の指令座標値を計算し、該可動部または該工具先端部の指令軌跡を求める可動部指令軌跡演算部と、
前記指令軌跡に対する前記可動部または前記工具先端部の実位置軌跡の軌跡誤差を求める軌跡誤差計算部と、
前記軌跡誤差計算部で求められた前記軌跡誤差を、前記指令軌跡に対してあらかじめ設定した倍率で拡大して、前記軌跡誤差を強調した3次元軌跡データを生成する誤差拡大3次元軌跡生成部と、
前記誤差拡大3次元軌跡生成部で得られた前記軌跡誤差を強調した3次元軌跡データから、立体視用左眼用画像データと立体視用右眼用画像データを求める立体視用画像生成部と、を備えたことを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載の工作機械の軌跡表示装置。
【請求項4】
前記工具の中心軸上で、先端部から工具の根元方向へあらかじめ設定した距離だけ離れた点を工具ベクトル始点とし、前記各駆動軸の前記各時刻における位置情報と前記工作機械の機械構成の情報とを用いて、前記加工物に固定された座標系から見た、前記工具ベクトル始点の3次元座標を計算し、前記工具ベクトル始点と前記工具先端部とを結ぶ工具ベクトルと、前記工具先端部の3次元軌跡データから、立体視用左眼用画像データと立体視用右眼用画像データを求める立体視用画像生成部と、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の工作機械の軌跡表示装置。
【請求項5】
前記立体視用画像生成部で生成された立体視用画像データ上に、ある時刻に対応した点を強調して表示し、時刻の変化による工具の移動に合わせて強調表示した点が軌跡上を移動して表示されることを特徴とする請求項1または2に記載の工作機械の軌跡表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−221309(P2012−221309A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87646(P2011−87646)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】