説明

工具のための多層硬物質被覆

切削工具のための、工作物の耐摩耗性を改善するための多層構造を備える多層硬物質被覆に、XがN、C、B、CN、BN、CBN、NO、CO、BO、CNO、BNO、CBNOのいずれか一種の元素、望ましくはNまたはCNである、少なくとも一つの(AlCr1−y)X層(0.2≦y≦0.7)、及び/または、一つの(TiSi1−z)X層(0.01≦Z≦0.3)が含まれている。該硬物質被覆はさらに、一つの(AlCrTiSi)X混合層、その次にさらに一つの(TiSi1−Z)X層、その次にさらに一つの(AlCrTiSi)X混合層、その次にさらに一つの(AlCr1−y)X層からなる、少なくとも一つの層パッケージを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削目的、特に穿孔目的の工具(超硬合金及びハイスピードスチール)のための多層硬物質被覆に関するものであり、以下を含む。
(1a)窒化クロムアルミまたは窒化カーボンアルミ、及び、窒化シリコンチタンまたは窒化カーボンチタンの複数の異なる層からなる一つのシーケンスを備える、硬物質被覆された工作物。
(1b)窒化クロムアルミまたは窒化カーボンアルミ、及び、窒化シリコンチタンまたは窒化カーボンチタンの複数の異なる層からなる一つのシーケンスを備える、工具、特に切断及び成形工具(ドリル、フライス、タップ、スレッドフォーマー、ホブ、パンチ、ダイ、絞りポンチなど)、及び、これらの工具の応用。
(1c)窒化クロムアルミまたは窒化カーボンアルミ、及び、窒化シリコンチタンまたは窒化カーボンチタンの複数の異なる層からなる一つのシーケンスを、所与の層構造で作成する方法。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、複数の個別層からなる一つのシーケンスにより被覆された工具が記述されており、第1の層はTi、Al及び/またはCr元素の窒化物、カーバイド、炭窒化物、ホウ化物、酸化物などから構成されており、第2の層は、Si及び、元素周期表の4a、5a及び6a族の少なくとも一種の元素の窒化物、カーバイド、炭窒化物、ホウ化物、酸化物などから構成されている。このような被覆の長所は、Siが上の層内にあることにより、耐摩耗性及び耐酸化性が大幅に改善されることである。特に、Cr−Siベースの表層を形成することにより、寿命の改善が見られた。下層としてTiAlN層、CrAlN層及びTiN層が選ばれた。
【0003】
特許文献2には、窒化物、カーバイド、酸化物、ホウ化物などとして構成できる、Al−Cr−(Si)−Oベースの硬物質層が記述されている。すべての層について言えることは、層内に含まれる酸素の割合が低い(1〜25原子%)ことである。さらに、同発明で述べられた被覆の上に、さらに一つの硬物質層を形成できることが述べられている。例として特に、Ti−Si−N、Ti−B−N、BN、Cr−Si−Nなどが挙げられている。同発明の長所は特に、酸素、または、シリコン及び酸素が含まれる量が少ないことであり、このことは、硬度の高さ、及び、耐摩耗性、耐高温性、耐酸化性の改善につながる。
【0004】
特許文献3には、Ti−Al−Cr−X−Nベースの被覆について記述されており、このときXは、Si、B及び/またはCとすることができる。この被覆の長所は、従来の被覆と比較して耐磨耗性を改善できることである。さらに、同発明では、少なくともTi、Al及びCrで構成する必要がある、ターゲットについて記述されている。
【0005】
従来の技術においては以下のような短所が挙げられる。
従来技術(Ti−Al−Nベースの被覆)により硬物質被覆された工具は、最適化された新しい(Al1−XCrX)−(Ti1−ySi)X硬物質層(X=NまたはCN)より寿命が短い。
【0006】
従来技術においてはさらに、Al−Cr−N被覆においては、より高温下での不活性ガス雰囲気(アルゴン雰囲気など)内では、該被覆の分解がすでにおよそ900℃で開始する。この熱処理工程を酸素雰囲気内で行うと、この分解プロセスはより高い温度領域に移動する。切削工程における連続的な切断を考えた場合、工具表面と工作物との接触面は局所的に非常に高温(部分的には1000℃以上)になる。この接触面が十分に大きいために該接触面に安定化するように作用できる酸素がないかまたは微量である場合、立方晶系のCrNが六方晶系のCrNに変化し、さらに、より高温においては、金属Crに変化する。被覆のこのような分解プロセスは、使用されている被覆の磨耗の早期化につながり、その磨耗は特にクレーター磨耗として現れる。
【特許文献1】欧州特許第1174528号明細書
【特許文献2】欧州特許第1422311号明細書
【特許文献3】欧州特許第1219723号明細書
【特許文献4】欧州特許第1186681号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の技術における短所を回避し、特に、切削工具、切断及び成形工具または機械製造及び金型製造用の構成部品など、被覆された工作物の寿命の改善に役立つ。さらに、本発明の課題は、このような層を形成するための方法、特にこのような層を前記工作物上に形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、請求項1に記載の硬物質被覆、または、請求項12に記載の、このような被覆を施こされた工具により解決できる。本発明のさらなる実施例は従属請求項より理解できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、使用中の被覆の早すぎる分解(磨耗)を防止するための、被覆の特殊な多層構造について記述している。該多層構造により、分解、及びより高温下においてその後AlCrN被覆内で起こるCrN成分の拡散を防止または少なくとも遅らせることができる。
Al−Cr−(X)−N/Ti−Si−N硬質膜を形成するために、たとえば特許文献4の図3から図6、明細書第7欄第18行から第9欄第25行にも記述されているように、コーティング装置(Balzers社製、RCS型)を用いた。そのために、洗浄した工作物を直径によって、2回、または、直径が50mm未満の場合は3回回転する基板ホルダに固定し、溶融冶金的に製造された2つのTi−Siターゲット、及び、Al−Cr−(X)合金から粉末冶金的に製造された4つのターゲットを、コーティング装置の壁面に取り付けられた陰極アーク源に取り付けた。このとき、ターゲットの幾何学的配置は、平面図が八角形である該RCS装置によりほぼ決定されるため、互いに向き合って配置された2つの加熱要素により、それぞれ一つのアーク陰極を備えて並んだ3つのセグメントからなる2つのグループに分けられた。本書の実験では、互いに向き合う3個一組の各グループの中央エレメントの部分に、それぞれ一つのSiTiターゲットを取り付けた。しかし、このような層を形成するための、他のターゲット配置方法も可能である。基本的にこのような層は、たとえば、1回または複数回回転する基板ホルダの被覆高さが同じなど、少なくとも2つのアーク陰極が幾何学的に同等の位置にあるすべての装置内で、形成することができる。同業者にとっては、装置のタイプに合わせて、個々の層またはレイヤーの層厚を、ターゲットの配置、または、それぞれの基板の動作や回転の設定、または、工作物回転の角速度によりさらに調整できることは公知である。
【0010】
次に、まず、該工作物がやはり該装置内に取り付けられた放射加熱器により、およそ500℃に熱せられ、次いで、その表面に直流バイアス電圧−100〜−200Vが印加され、アルゴン雰囲気内において、圧力0.2Paでアルゴン・イオンによるエッチング洗浄を行った。
【0011】
次に、出力3kWの4つのAl−Cr源を使って−50Vの基板バイアスで、およそ5分間で厚さおよそ0.2μmのAl−Cr−N密着層が形成された。次いで、目的にあわせて多層被覆が形成されたが、その際、まず、該4つのAl−Cr源に加えてやはりそれぞれ出力3kWの2つのTi−Si源を用いて、およそ1分間共に運転を行った。次に、該4つのAl−Cr源をオフにし、純粋な一つのTi−Si−N被覆層をおよそ3分間で形成した。次に、これに該4つのAlCr源を再び追加しておよそ1分間運転した。さらに、該Ti−Si源を再びオフにし、さらに5分間で一つの純粋なAl−Cr−N被覆層を形成した。本発明の枠内では、成層中に、該層パッケージのためのこのシーケンスを何度か繰り返す。最後に、Ti−Si源のみを使って形成される、厚さおよそ0.5μmの一つの表層が形成される。代替的に、より厚いAlCrN表層を形成することもできる。すべての層は、純粋な窒素雰囲気内において、圧力およそ3Pa、およそ50Vのマイナスの基板バイアスで形成される。これらの各ステップにおけるプロセス圧力は基本的に、0.5〜およそ8Paの範囲、望ましくは0.8〜5Paに設定することができ、その際、純粋な窒素雰囲気を用いるか、または、窒化物層には窒素とアルゴンなど1種の不活性ガスとの混合ガス、または、炭窒化物層には窒素と炭素含有の1種のガスとの混合ガスに、必要に応じて1種の不活性ガスを混合したガスが用いられる。そのため、酸素またはホウ素を含む層を形成するためには、酸素またはホウ素を含む1種のガスを公知の方法で追加混合することができる。
【0012】
ターゲット組成、層の結晶構造、密着性は表6に示されている。ターゲット出力、基板バイアス、プロセス圧力、温度などのプロセスパラメータは表7にまとめられている。
【0013】
本発明による工作物は、X=NまたはCN、望ましくはNであり、0.2≦y≦0.7、望ましくは0.3≦y≦0.5である立方晶(AlCr1−y)X層と、X=NまたはCN、望ましくはN、及び0.99≦z≦0.7、望ましくは0.97≦z≦0.85である立方晶(TiSi1−z)X層とが交互に形成されることを特徴としており(図1a参照)、このとき、少なくとも一つの層パッケージ及び少なくとも一つの追加的(AlCr1−y)Xまたは(TiSi1−z)X層が形成される。このとき、2つの層の層構造はマイクロ結晶であり、粒の大きさは中程度でおよそ5〜150nm、望ましくはおよそ10〜120nmである。被覆にとって好適には、純粋な(AlCr1−y)X層と(TiSi1−z)X層との間に追加的な中間層があり、そこではすべてのコーティング源が運転されるために一つの(AlCr1−yTiSi1−z)X層が成層される(図1b参照)。これらの中間層は必要であれば、個々の層システムのシーケンスまたは組成及び特性に応じて、個々の層の間の密着性を改善するように機能する。被覆装置内のターゲットの前記幾何学的配置により、この中間層が形成される間の工作物の回転により、非常に微細な層を持つ一つの多層構造が追加的に形成されるが、これは、従来と同様に、被覆にはAl−Cr及びTi−Siベースの個別ターゲットが用いられるからである。この中間層内の個別層の幅は、数ナノメートルの範囲で変化する。
希望通りの多層システムを形成するためのさらなる可能性は、図1cと同様に、コーティング源を周期的にオン/オフにすることにより実現できる。このとき、コーティング源は、一つの被覆材料については成層プロセス全体にわたって運転されるが、第2の被覆材料については、コーティング源は周期的に追加的に運転される。この場合、アーク源を一緒に運転している間に、上述のような追加的な一つの多層構造を形成することができる。
本発明による方法の特徴は、上述の層パッケージを形成するための方法の実施法が選ばれることである。該多層構造は、コーティング源を意図的にオン/オフにすることにより形成できる。多層の下部構造は追加的に、被覆対象の工作物を被覆装置内で回転または動かすことにより得られる。
【0014】
例1では、所与の数の層または層パッケージを持つ被覆の比較を行っており、このとき、一つの層パッケージはそれぞれ一つのAlCrTiSiN層、一つのTiSiN層、一つのAlCrTiSiN層及び一つのAlCrN層がこの順で続く層シーケンスから構成されている。実験番号1でテストした、従来技術により成層した層と比較して、本発明の被覆の方が寿命を改善できることが明らかに理解できる。また、AlCr1−yN及びTiSi1−zNの個別層の最適な層厚が、必要とされる寿命改善のために重要であることも理解できる。この層厚は、AlCr1−yNでは75nm〜200nm、望ましくは120nm〜170nmであり、TiSi1−zNでは50〜150nm、望ましくは70〜120nmである。この例の枠内においては、この層厚を被覆時間にわたって変化させることにより、すべての実験についておよそ4μmの同じ層厚が得られるようにした。これらの実験のためには、図1bに示した層構造が選ばれた。すべてのコーティング源を使用した層は、それぞれの実験のために変更することはせず、個々の層厚はそれぞれ20±10nmであった。
【0015】
基本的に前記のようなAlCr1−yN/TiSi1−zN多層層により、さまざまな工作物を好適に被覆することができる。その例として、フライス、ホブ、ボールヘッドフライス、平面フライス、輪郭フライスといった切断工具、及びドリル、タップ、ブローチ盤、リーマー、及び、回転及びフライス加工用のスローアウェイチップ、またはたとえばパンチ、ダイス、絞りリング、イジェクションコア(Auswurfkerne)などの成形工具またはスレッドフォーマーが挙げられる。たとえば金属射出合金、合成樹脂、熱可塑性プラスチックのための射出工具、特にプラスチック金型部品またはCD、DVDなどのデータ媒体の製造に使われる射出工具は、このような層により好適に保護することができる。本発明による被覆を利用したさまざまな工具のすべてにおいて結果が改善されなくても、少なくとも特定の利用法、例に挙げた利用法においては、従来知られている層より耐磨耗性が大きく改善している。
【0016】
さらに、AlCr1−yX/TiSi1−zX多層層の挙動が原則的に類似しているため、X=N、C、B、CN、BN、CBN、NO、CO、BO、CNO、BNO、CBNO、望ましくはXはNまたはCN、及び、0.2≦y≦0.7望ましくは0.40≦y≦0.68、及び0.01≦z≦0.3望ましくは0.05≦z≦0.15であるようなターゲット組成及び被覆パラメータが選ばれた場合、以下の層システムにおいて、耐磨耗性の改善が期待できる。
【0017】
AlCr1−yN/TiSi1−zN多層層の層特性を改善するために、元素周期表のIVb、Vb及び/またはVIb族の一つまたは複数の族からさらなる化学元素、またはシリコンを追加合金することができる。特に好適には、この追加合金は、0≦m≦0.25、望ましくは0≦m≦0.15である、AlCr1−y−mN層の層パッケージ内で行うことができる。特に好適なのは、M=W、V、Mo、Nb及びSiの元素であった(番号5を参照)。
【0018】
層システムの層特性を改善するさらなる可能性として、該層パッケージまたは、外部に対して硬物質層を閉じる表層の上に、追加的に移行層を設けることが挙げられる。該移行層システムは、少なくとも一種の金属、または、少なくとも一種の金属及び分散炭素、MeC/Cのカーバイドで構成することができ、このとき該金属は、IVb、Vb及び/またはVIb族の一種の金属、及び/またはシリコンである。それに特に適しているのはたとえば、優れた進入特性(Einlaufeigenschaften)を示す、硬度を1000〜1500HVに設定できるWC/C表層である。CrC/C層も同様の挙動を示すが、摩擦係数はいくらか高い。
【0019】
このように被覆されたガンドリルにおいては、穴開け後にすでにすくい面の追加的な進入部平滑化(Einlaufglattung)を確認できたが、従来はこれを行うためにはコストの高い機械加工が必要であった。それにより削りくず溝に沿った削りくず運搬が改善され、ドリル中の摩擦トルクの最小化につながる。このような特性が興味深いのは特に、スライド、摩擦、または回転が要求される部品用途においてであり、特に潤滑不足またはドライランにおいて、または、被覆されていない相手材を同時に保護する必要がある場合である。
【0020】
末端の移行層を形成するさらなる可能性としては、金属フリーのダイヤモンド状炭素層、または、MoS層、WS層、またはチタンを含むMoS層またはMoW層が挙げられる。
【0021】
このとき該移行層は、前述のとおり、層結合部の密着性をできるだけ良好にするため、多層システムの上に直接、または、一つのさらなる密着層を形成してから、形成される。このとき該密着層は、金属、窒化物、カーバイド、炭窒化物、または、グラジエント層とすることもできる。
【0022】
たとえば、スパッタリングまたはアークによりCrまたはTi密着層を形成した後に、炭素を含むガスを供給しながらWCターゲットをスパッタリングすることにより、WC/CまたはCrC/C層を好適に形成することができる。このとき、炭素を含むガスの割合は時間とともに上昇させて、該層の中の自由な炭素の割合を高める。
【0023】
本発明の好適なさらなる効果について以下に述べる。
以下に、さまざまな切断作業に用いる場合を例として、本発明の好適な用途を説明する。
(実施例1)
例1:内部冷却した超硬合金ドリルで軟鋼に穴を開ける。
工具: 冷却水路を備える超硬合金ドリル
直径D=6.8mm
工作物: 軟鋼DIN1.1191(Ck45)
ドリル・パラメータ:切削速度v=120m/min
送り速度f=0.2mm/回転
ボアホール深さz=34mm(5xD)
冷却: エマルジョン5%
加工: 止まり穴
磨耗基準: 角の磨耗VB=0.2mm
【0024】
【表1】

【0025】
例1は、被覆された超硬合金ドリルの寿命の比較を示しており、該ドリルには、それぞれ同じ密着層すなわちAlCrN、及び表層すなわちTiSiNを備える層パッケージが異なる数だけ形成されている。TiSiN層及びAlCrN層の被覆時間は、最終的に全体層厚が同等になるようにそれぞれ調整されている。全体寿命において最適であったのは、全体層数37層の実験番号4であり、実験番号1の従来技術と比較して明確な改善が示された。
【0026】
(実施例2)
例2:内部冷却した超硬合金ドリルで軟鋼に穴を開ける。
工具: 冷却水路を備える超硬合金ドリル
直径D=6.8mm
工作物: 軟鋼DIN1.1191(Ck45)
ドリル・パラメータ:切削速度V=120m/min
送り速度f=0.2mm/回転
ボアホール深さz=34mm(5xD)
冷却: エマルジョン5%
加工: 止まり穴
磨耗基準: 角の磨耗VB=0.2mm
【0027】
【表2】

【0028】
例2は、被覆された超硬合金ドリルの寿命の比較を示している。ここでも同様にAlCrN/TiSiN多層層により、工業的に使われている硬物質層TiAlN/TiN多層被覆及びTiAlN単層被覆に対して、工具寿命を改善することができた。
【0029】
(実施例3)
例3:外部冷却した超硬合金ドリルで軟鋼に穴を開ける。
工具: 冷却水路を備える超硬合金ドリル
直径D=6.8mm
工作物: 軟鋼DIN1.1191(Ck45)
ドリル・パラメータ:切削速度v=120m/min
送り速度f=0.2mm/回転
ボアホール深さz=23.8mm(3.5xD)
冷却: エマルジョン5%
加工: 止まり穴
磨耗基準: 角の磨耗VB=0.15mm
【0030】
【表3】

【0031】
例3は、被覆された超硬合金ドリルの寿命の比較を示している。AlCrN/TiSiN多層層は、工業的に使われているTiAl−Nベースの硬物質層と比較して、工具寿命を改善することができた。
【0032】
(実施例4)
例4:内部冷却した超硬合金ドリルで鋳鉄(GGG−50)に穴を開ける。
工具: 冷却水路を備える超硬合金ドリル
直径D=6.8mm
工作物: 球状黒鉛鋳鉄GGG−50
ドリル・パラメータ:切削速度v=200m/min
送り速度f=0.3mm/回転
ボアホール深さz=34mm(5xD)
冷却: エマルジョン5%
加工: 止まり穴
磨耗基準: 角の磨耗VB=0.1mm
【0033】
【表4】

【0034】
例4は、被覆された超硬合金ドリルの寿命の比較を示している。ここでも、AlCrN/TiSiN多層被覆により、工業的に使われている硬物質層TiAlN/TiN多層被覆及びTiAlN単層被覆と比較して、工具寿命を改善することができた。
【0035】
(実施例5)
例5:内部冷却した超硬合金ドリルで軟鋼に穴を開ける。
工具: 冷却水路を備える超硬合金ドリル
直径D=6.8mm
工作物: 軟鋼DIN1.1191(Ck45)
ドリル・パラメータ:切削速度v=120m/min
送り速度f=0.2mm/回転
ボアホール深さz=34mm(5xD)
冷却: エマルジョン5%
加工: 止まり穴
磨耗基準: 角の磨耗VB=0.2mm
【0036】
【表5】

【0037】
例5は、本発明による被覆された超硬合金ドリルの寿命を比較したものであり、該ドリルには、化学的組成の異なる複数の多層システムと、同じ表層(TiSiN)とが形成されている。化学的組成として、ターゲット組成を変化させ、その際、Alは常に含め、Crは部分的に第3の元素に置き換えた。成層におけるプロセスパラメータは、その他の実験のものと同一に保たれた。
【0038】
同様の層パッケージを作成するさらなる可能性としては、図1cと同様に、AlCr源またはAlCrM源または一つまたは複数のTiSi源を連続して運転し、必要に応じてその他の一つまたは複数の源を追加運転することが挙げられる。特に、上述の4つのAlCrまたはAlCrM源を連続運転する場合、それにより、成層速度を上昇させてたとえば以下の層システムを形成することができる。
−一つの(AlCrTiSi)X混合層
−それに続く、さらなる一つの(AlCr1−y)X層
−それに続く、さらなる一つの(AlCrTiSi)X混合層
−それに続く、さらなる一つの(AlCr1−y)X層
【0039】
以下に、図について説明する。
図1は、さまざまな層バリエーションを示している。図1の(a)から(c)には、多層被覆の構成の3つのバリエーションの可能性が示されている。
図1aには、直接的に移行する層シーケンスが示されている。一つの層システム(2)が、第2の層システム(1)の上に直接形成される。この工程は、全体の層の厚さが希望の厚さに到達するまで繰り返される。最後の層として、より層厚の厚い表層(3)が形成される。
図1bには、個別層の間に混合層(4)が形成されており、該混合層内では2つの層システムが同時に形成される。ここでも最後の個別層として、追加的に一つの表層を形成することができる。該混合層は、徐々に移行する薄い移行層として、または、一定の層組成の領域を持つ、より厚い層のいずれかとして実施できる。そのような層の組成はたとえばAl=40.7原子%、Cr=21.2原子%、Ti=32.8原子%、Si=5.3原子%である。この組成は、Al=70原子%及びCr=30原子%という組成のAlCrターゲットと、Ti=85原子%及びSi=15原子%という組成のTiSiターゲットとを同時に運転した場合に生まれる。一般的にはその際、一定の組成を持つ混合層の組成は、以下の範囲で好適に調整される。
(Al1−a−b−cCrTiSi)X
ここで0.18≦a≦0.48、0.28≦b≦0.4、0.004≦c≦0.12である。アルミニウムの含有量は好適に10原子%より高く保たれる。上述のようなさらなる元素を追加的に加えてそれぞれ対応する作用を得るには、元素に応じて0.5〜1原子%の最低含有量、及び、15〜25%の最高含有量が追加される。
【0040】
図1cでは、一つの多層被覆を形成するために、一つの層システム(5)は、被覆時間全体にわたって形成し続け、第2の層システムは、対応するコーティング源を周期的にオンにすることにより、それに追加的に混合する。
【0041】
図2は、図1に示した層パッケージの構成を別の方法で示したものである。
【0042】
【表6】

【0043】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】さまざまな層バリエーションの図である。図1の(a)から(c)は、多層被覆の3つのバリエーションの可能性を示している。
【図2】図1で示した層パッケージの構成を別の方法で示した図である。
【符号の説明】
【0045】
1 層システム
2 層システム
3 表層
4 混合層
5 層システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物の耐摩耗性を改善するための、多層構造を備えた硬物質層であって、
−0.2≦y≦0.7であり、かつXがN、C、B、CN、BN、CBN、NO、CO、BO、CNO、BNO、CBNOのうちの1種の元素、望ましくはNまたはCNである、少なくとも一つの(AlCr1−y)X層、及び/または、0.01≦z≦0.3である一つの(TiSi1−z)X層を備えた硬物質層において、
該硬物質層がさらに、
−一つの(AlCrTiSi)X混合層に次ぐさらなる一つの(TiSi1−z)X層、それに次ぐさらなる一つの(AlCrTiSi)X混合層、それに次ぐさらなる一つの(AlCr1−y)X層という構成を備える、少なくとも一つの層パッケージを備えることを特徴とする、硬物質層。
【請求項2】
前記少なくとも一つの(AlCr1−y)X層、該さらなる一つの(AlCr1−y)X層、及び、該(AlCrTiSi)X混合層が、元素周期表のIVb、Vb及び/またはVIb族の少なくとも一種のさらなる元素またはシリコンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の硬物質層。
【請求項3】
前記少なくとも一つの(AlCr1−y)X層及び前記さらなる(AlCr1−y)X層に、0.5〜25原子%のさらなる元素またはシリコンが含まれており、それにより、前記さらなる(AlCrTiSi)X混合層内における該元素及びシリコンの濃度が決定されることを特徴とする、請求項1及び/または請求項2に記載の硬物質層。
【請求項4】
前記層パッケージの層が、
−AlCr1−yNは75nm〜200nm、
−TiSi1−zNは50〜150nm、
−(AlCrTiSi)X混合層は20±10nmの層厚を持つことを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の硬物質層。
【請求項5】
前記の層に、上下に重なる複数の層パッケージが含まれることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれかに記載の硬物質層。
【請求項6】
前記層パッケージが、4、8、または12、望ましくは8つの層パッケージを含むことを特徴とする、請求項5に記載の硬物質層。
【請求項7】
少なくとも一つの(AlCr1−y)X層が、前記工作物または密着層の上に直接形成されることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれかに記載の硬物質層。
【請求項8】
一つの(AlCr1−y)X表層または一つの(TiSi1−z)X表層により前記硬物質層が閉じられることを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれかに記載の硬物質層。
【請求項9】
前記硬物質層の上に追加的に一つの移行層が形成されることを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれかに記載の硬物質層。
【請求項10】
前記少なくとも一つの層パッケージが、
−一つの(AlCrTiSi)X混合層、
−それに次ぐ一つのさらなる(AlCr1−y)X層、
−それに次ぐ一つのさらなる(AlCrTiSi)X混合層、
−それに次ぐ一つのさらなる(AlCr1−y)X層
という構成を有していることを特徴とする、請求項1から請求項9のいずれかに記載の硬物質層。
【請求項11】
前記混合層が一つの多層構造を含むことを特徴とする、請求項1から請求項10のいずれかに記載の硬物質層。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれかに記載の被覆を備えることを特徴とする工作物。
【請求項13】
前記工作物が、機械製造及び金型製造のための部品、工具、切削工具、切断または成形工具、望ましくはドリルであることを特徴とする、請求項10に記載の工作物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−534297(P2008−534297A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503344(P2008−503344)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【国際出願番号】PCT/CH2006/000177
【国際公開番号】WO2006/102780
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(507269681)エーリコン・トレイディング・アーゲー・トリューバッハ (13)
【Fターム(参考)】