説明

工具通過領域モデリング方法

【課題】工具通過領域の形状の定義不能状態を極力回避可能とし、円弧部を含む工具通過領域のモデリング時間の短縮を可能とする。
【解決手段】工具通過領域モデリング方法において、工具経路を直線部と円弧部に分割する(301)。円弧部については、工具経路の内側と外側とに分割し、各々工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成(303〜305)した後、各工具通過領域を連結して円弧部の工具通過領域を作成する(307)。円弧部について工具経路の内側と外側とに分割して円弧部の工具通過領域を作成する(303〜305)ことで、円弧部における工具通過領域の形状の定義不能状態を極力回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御(NC:Numerical Control)による加工、特にNCフライス加工において、予め決められた工具経路に沿って工具を移動させる際にその工具が通過する領域(工具通過領域)をモデリングする工具通過領域モデリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
NCフライス加工において、加工対象であるワーク上に配置されるクランプ等に用いる治具を三次元CAD(Computer Aided Design)装置等により設計するに当たっては、ワークの特定箇所の加工における工具通過領域(工具三次元形状の軌跡)をモデリングする必要がある。これは、工具通過領域に干渉しない治具を設計するため、つまり治具が加工用の工具に接触や衝突等しないようにするためである。
そこで、従来から工具通過領域のモデリングが行われている。例えば、面図形をスイープして三次元モデルを形成する方法(特許文献1)をその機能の1つとして有するCAD装置を用い、同CAD装置の作業者が、予め決められた工具経路と工具の三次元形状(データ)とを使用して手動によりモデリングを行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−339455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来は、工具通過領域のモデリングをCAD装置を用いて手動で行っていたため、多くの工数、リードタイムを要した。
中でも、工具形状と工具経路との幾何学的関係、特に、工具径と工具経路の円弧部における円弧径との大小関係によっては、工具通過領域の形状を定義できない場合が少なくない。このため、多くの部分の工具通過領域が作成可能でありながら上記の定義不能部分が隘路となって、全体の工具通過領域の作成(工具通過領域モデリング)に多大な手間、時間を要するということが少なくなかった。
【0005】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたもので、工具通過領域の形状の定義不能状態を極力回避することができ、円弧部を含む工具通過領域の作成時間を短縮できるようにした工具通過領域モデリング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、工具通過領域モデリング方法を下記各態様の構成とすることによって解決される。
各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴及びそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
【0007】
以下の各項のうち、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、各々対応する。(3)項は請求項に係る発明ではない。
【0008】
(1) 数値制御によるワークの加工において予め決められた工具経路に沿って工具を移動させる際に該工具が通過する領域をモデリングする工具通過領域モデリング方法において、前記工具経路を直線部と円弧部に分割し、前記直線部については、前記工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成し、前記円弧部については、前記工具経路の内側と外側とに分割し各々前記工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成した後、各工具通過領域を連結して前記円弧部の工具通過領域を作成し、作成された前記直線部の工具通過領域及び前記円弧部の工具通過領域を前記工具の前記工具経路上の移動順序に合わせて連結して工具通過領域モデルを作成することを特徴とする工具通過領域モデリング方法。
上記数値制御によるワークの加工としては、工具下端面に切削刃を備えて、面の切削を行うNCフライス加工が適例である。
スイープとは、三次元グラフィックのモデリング技法の1つであって、平面に描かれた図形をある軌跡に沿って移動して立体化する手法を指す。直線状に移動すれば押し出しと同じ結果になる。軌跡をパラメータで定義することでひねりや回転を付加できる。
工具経路の始端部及び終端部については、工具形状そのままが工具通過領域(工具三次元形状の軌跡)とされる。
(2) 前記円弧部については、前記工具経路の内側と外側とに分割し、前記工具経路の外側については、前記工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成し、前記工具経路の内側については、工具形状のうち、その半径が前記工具経路の円弧部の半径より大きくなる部分と同じか小さくなる部分とに分割し、前記の工具形状の半径が工具経路の円弧部の半径と同じか小さくなる部分については、前記工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成した後、各工具通過領域を連結して前記円弧部の工具通過領域を作成することを特徴とする(1)項に記載の工具通過領域モデリング方法。
工具形状の半径が工具経路の円弧部の半径より大きくなる部分については、本項(2)に記載の発明の適用外であって、この部分の工具通過領域は作成しない。
(3) (1)項又は(2)項に記載の工具通過領域モデリング方法により作成された工具通過領域モデルを用いて、ワーク上に配置する治具を含む部材を設計することを特徴とするCAD装置。
本項(3)に記載の発明によれば、工具通過領域を干渉(工具に接触や衝突等)しない治具等の部材の設計を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0009】
(1)項に記載の発明では、工具通過領域モデリング方法において、工具経路を直線部と円弧部に分割する。そして円弧部については、工具経路の内側と外側とに分割し、各々工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成した後、各工具通過領域を連結して円弧部の工具通過領域を作成するようにした。
したがって、円弧部における工具通過領域の形状の定義不能状態を極力回避することができ、円弧部を含む工具通過領域の作成(工具通過領域モデリング)時間を短縮できる。
(2)項に記載の発明では、(1)項に記載の発明において、工具経路の円弧部の外側については、工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成し、工具経路の内側については、工具形状のうち、その半径が工具経路の円弧部の半径より大きくなる部分と同じか小さくなる部分とに分割する。そして、工具形状の半径が工具経路の円弧部の半径と同じか小さくなる部分については、工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成した後、各工具通過領域を連結して円弧部の工具通過領域を作成するようにした。
したがって、工具形状の半径が工具経路の円弧部の半径より大きくなる部分が生じない限り、円弧部における工具通過領域の形状の定義不能状態を回避することができ、円弧部を含む工具通過領域モデルの作成時間を大幅に短縮できる。
なお、(3)項に記載の発明は、本発明(特許請求の範囲に記載した発明)ではないので、上記課題を解決するための手段の欄に、その効果を述べた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】工具通過領域のモデリングが行われる工具経路の一例をワークと共に示す斜視図である。
【図2】円弧部を含む工具経路における工具通過領域のモデリング開始時の概略説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る工具通過領域モデリング方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】図2に示す工具通過領域モデリング方法により作成される工具通過領域の各部分の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1は、NCフライス加工における、工具通過領域のモデリングが行われる円弧部を含む工具経路の一例をワークと共に示す斜視図である。
この図において、1はワーク、2はフライス工具、3は工具経路、4は治具等の部材を示す。
【0012】
上記フライス工具2(以下、単に工具と記す。)は、下端面に切削刃2aを備え、軸周り方向に回転しながらワーク1上を移動して所定面の切削を行う。図示例では、ワーク1上の所定の被加工部、詳しくはワーク側面から突出する所定の複数の被加工部1aの先端面1bの切削加工を順次行う。
【0013】
工具経路3は、上記切削加工の際に工具2が移動する経路、詳しくは工具2の移動時における工具中心位置の二次元平面上の経路(データ)を指す。図示例では、加工面であるワーク1の側面上に設定されている。上記の二次元平面に直交する軸方向に同二次元平面を移動させて新たな工具経路3を設定することにより、三次元空間内の所望の二次元平面上における切削加工も可能である。
【0014】
この工具経路3を工具2が移動すると、同工具2の工具通過領域(工具三次元形状の軌跡)が描かれる。この描かれる工具通過領域をモデリングすることにより、工具通過領域を干渉、つまり工具2に接触や衝突等しない治具等の部材4の設計が可能となる。
治具等の部材4としては、ワーク1上に配置されるクランプ等に用いる治具が挙げられる。治具等の部材4の設計とは、同部材4の外形状、大きさ、あるいは配置位置等、工具通過領域を干渉する原因となる各種要素の設計を指す。
工具経路3は、図2に簡略化して示すように、通常、直線部3a及び円弧部3bを含む。
【0015】
次に、図1〜図4を参照して本実施形態による工具通過領域(工具三次元形状の軌跡)のモデリングの手順について説明する。
ここでは、図1、図2に示すように、工具2を工具経路3に沿って移動させてワーク1を、詳しくはワーク1上の複数の被加工部1aの先端面1bを、切削加工する場合について説明する。本実施形態は、例えば三次元CAD装置を含む三次元図形処理装置等で実行される。
【0016】
図3において、まずステップ301では、工具経路3を直線部3aと円弧部3b(図2参照)とに分割する。
ワーク1、同ワーク1上の工具経路3及び工具2(図1、図2参照)は予め決められており、例えば三次元CAD装置に記憶されている。ステップ301では、三次元CAD装置に記憶されている工具経路3を読み出し、直線部3aと円弧部3bとに分割する。
本実施形態において、上記ワーク1及び工具2は三次元形状データにより設定され、工具経路3は上記三次元形状データが設定された三次元空間内の二次元平面(ワーク側面)上のデータにより設定され、各データは共通の原点で表わされている。
【0017】
ステップ302では、上記工具経路3の直線部3a及び円弧部3bのうち、直線部3aについて、工具経路3に沿って工具断面形状2b〔図4(a)参照〕をスイープし、直線部3aにおける工具通過領域41(41a,41b)〔図4(b)参照〕を作成する。
ここでスイープとは、三次元グラフィックのモデリング技法の1つであって、平面に描かれた図形をある軌跡に沿って移動して立体化する手法を指す。具体的には、工具断面形状2bを工具経路3に沿って移動して工具通過領域(工具三次元形状の軌跡)を作成する方法を指す。
【0018】
上記工具経路3の円弧部3bについては、その外側3cと内側3d〔図2、図4(a)参照〕とに分割し、外側3cにつき、ステップ303を実行する。すなわちステップ303において、工具経路3に沿って工具断面形状2bをスイープし、円弧部3bの外側3cにおける工具通過領域42〔図4(c)参照〕を作成する。
【0019】
上記工具経路3の円弧部3bの内側3dについては、ステップ304において、工具2の形状(工具形状、詳しくは工具三次元形状)のうち、その半径r(r1,r2,r3)が工具経路3の円弧部3bの半径Rに対して、大きくなる部分(r>R部分)3eと、同じか小さくなる部分(r≦R部分)3fとに分割する〔r,Rにつき図2、3e,3fにつき図4(a)参照〕。
【0020】
ステップ305では、上記工具経路3の円弧部3bの内側3dについて、工具2の形状のうち、その半径rが工具経路3の円弧部3bの半径Rに対して同じか小さくなる部分(r≦R部分)3fについて、工具経路3に沿って工具断面形状2bをスイープし、同部分3fにおける工具通過領域43〔図4(d)参照〕を作成する。
上記工具経路3の円弧部3bの内側3dについて、工具2の形状のうち、その半径rが工具経路3の円弧部3bの半径Rに対して大きくなる部分(r>R部分)3eについては、本実施形態においてその部分の工具通過領域の自動作成は不要(次ステップ307における連結時に工具通過領域41に完全に包含されるため)であり、同部分の工具通過領域は作成しない(ステップ306)。
【0021】
ステップ307では、以上のように作成した各工具通過領域41〜43を工具2の工具経路3上の移動順序に合わせて連結する。すなわち、ステップ302で作成された直線部3aの工具通過領域41(41a,41b)〔図4(b)参照〕、ステップ303で作成された工具経路3の円弧部3bの外側3cにおける工具通過領域42〔図4(c)参照〕、ステップ305で作成された同上円弧部3bの内側3dにおける工具通過領域43〔図4(d)参照〕を、工具2の工具経路3上の移動順序に合わせて連結する。
工具経路3の始端部及び終端部については、工具形状そのままが、実際には直線部3aの工具通過領域41(41a,41b)部分と重複する部分は除かれるので工具2の半割形状が、工具通過領域44,45とされて隣接する工具通過領域41(41a,41b)に、上記工具通過領域41〜43の連結の際に連結され、工具通過領域モデル(一連の工具通過領域)40が完成する。
【0022】
上述した本実施形態の効果を図2、図4を参照して説明すると、本実施形態によれば、工具通過領域モデリング方法において、工具経路3を直線部3aと円弧部3bに分割する。そして円弧部3bについては、工具経路3の内側3dと外側3cとに分割し、各々工具経路3に沿って工具断面形状2bをスイープして工具通過領域42を作成した後、各工具通過領域42,43を連結して円弧部3bの工具通過領域(42+43)を作成するようにした。
特に、工具経路3の円弧部3bの外側3cについては、工具経路3に沿って工具断面形状2bをスイープして工具通過領域42を作成し、工具経路3の内側3dについては、工具形状のうち、その半径rが工具経路3の円弧部3bの半径Rより大きくなる部分3eと同じか小さくなる部分3fとに分割する。そして、工具形状の半径rが工具経路3の円弧部3bの半径Rと同じか小さくなる部分3fについては、工具経路3に沿って工具断面形状2bをスイープして工具通過領域43を作成した後、各工具通過領域42,43を連結して円弧部3bの工具通過領域42+43を作成するようにした。
したがって、工具形状の半径rが工具経路3の円弧部3bの半径Rより大きくなる部分3eが生じない限り、円弧部3bにおける工具通過領域の形状の定義不能状態を回避することができ、円弧部3bを含む工具通過領域モデル40の作成時間を大幅に短縮できる。
【符号の説明】
【0023】
1:ワーク、2:フライス工具、3:工具経路、4:治具等の部材、3a:工具経路の直線部、3b:工具経路の円弧部、3c:円弧部の外側、3d:円弧部の内側、3e:工具形状の半径が工具経路の円弧部半径よりも大きくなる部分、3f:工具形状の半径が工具経路の円弧部半径と同じか小さくなる部分、41〜45:工具通過領域(工具三次元形状の軌跡)、40:工具通過領域モデル。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御によるワークの加工において予め決められた工具経路に沿って工具を移動させる際に該工具が通過する領域をモデリングする工具通過領域モデリング方法において、
前記工具経路を直線部と円弧部に分割し、
前記直線部については、
前記工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成し、
前記円弧部については、
前記工具経路の内側と外側とに分割し各々前記工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成した後、各工具通過領域を連結して前記円弧部の工具通過領域を作成し、
作成された前記直線部の工具通過領域及び前記円弧部の工具通過領域を前記工具の前記工具経路上の移動順序に合わせて連結して工具通過領域モデルを作成することを特徴とする工具通過領域モデリング方法。
【請求項2】
前記円弧部については、
前記工具経路の内側と外側とに分割し、
前記工具経路の外側については、前記工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成し、
前記工具経路の内側については、工具形状のうち、その半径が前記工具経路の円弧部の半径より大きくなる部分と同じか小さくなる部分とに分割し、
前記の工具形状の半径が工具経路の円弧部の半径と同じか小さくなる部分については、前記工具経路に沿って工具断面形状をスイープして工具通過領域を作成した後、各工具通過領域を連結して前記円弧部の工具通過領域を作成することを特徴とする請求項1に記載の工具通過領域モデリング方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−12031(P2013−12031A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144219(P2011−144219)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】