説明

工業潤滑油及びグリース組成物中のHVI−PAO

本発明は高粘度指数ポリアルファオレフィン(HVI−PAO)を含む、工業潤滑油又はグリース組成物に関する。HVI−PAOの使用は工業潤滑油又はグリース組成物における剪断安定性、摩擦性質、発泡性質、エネルギー効率及び性能全体を改善する利益を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高粘度指数ポリアルファオレフィン(HVI−PAO)を含む工業潤滑油及びグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる粘度グレードのポリアルファオレフィン(PAO)は、合成又は準合成工業潤滑油及びグリース組成物に有用であることが知られている。例えば、Rudnick et al., “Synthetic Lubricants and High−Performance Functional Fluids”, 2nd Ed. Marcel Dekker, Inc., N. Y. (1999)の22章及び23章を参照のこと。従来のミネラルオイルベースの製品とくらべると、このようなPAOベース製品は粘性、高温及び低温における性能、並びに日常的条件でのエネルギー効率及び一般的な交換期間の点において優れている。
【0003】
潤滑油における粘度と温度との関係は重要な基準の一つである。粘度指数(VI)は所与の温度範囲内の粘度の変化速度を示す経験的な単位を用いない指数である。温度に伴い、相対的に粘度が大きく変化する流体は低い粘度指数を有すると定義されている。低いVIオイル、例えば、高い温度において高VIオイルよりも粘度が少なくなる。通常、高温において高い粘度を有する高VIオイルはより好ましい厚い潤動フィルム(薄層)になって、このフィルムに接触する機械部品をよりよく保護することから、高いVIオイルが好ましいとされている。他の側面において、温度を操作している油が低下すると、高いVIオイルの粘度は低VIオイルの粘度ほど大幅に高くはならない。低いVIオイルの過剰に高い粘度は操業機器の効率を悪くするので、これは有利である。従って、高VIオイルは高い温度及び低い温度の両方において有利な性能を有している。VIはASTM D2270−93[1998]。により決定される。VIはASTM D445−01を用いて40℃及び100℃において測定される動粘度に関する。
【0004】
PAOは、直鎖αオレフィン、通常、1−ヘキセン乃至1−オクタデセンの範囲のαオレフィン、より具体的には、1−オクテン乃至1−ドデセンの範囲のαオレフィン、最も一般的であり好まれているものは1−デセン、を触媒によりオリゴマー化(低分子量生成物に重合)して製造される炭化水素の1つのクラスを含む。これらの流体は、米国特許No.6,824,671、及び4,827,073の実施例として開示されている。しかしながらこれらの文献ではエチレン及びプロピレン等の低級オレフィンのポリマーも用いられており、特に、米国特許No.4,956,122や4,990,709及びこれらのおいて引用される特許に開示されているように、エチレンとより高級なオレフィンとのコポリマーが用いられる。
【0005】
米国特許No.4,827,064、4,827,073、4,990,771、5,012,020、及び5,265,642に記載のような還元金属酸化物触媒(例えば、クロム)を用いたアルファオレフィンの重合により調製される高粘度指数アルファオレフィン(HVI−PAO)が好ましい。これらのHVI−PAOは高い粘度指数(VI)を有し、及び0.19未満の分岐比、300乃至45,000の重量平均分子量、300乃至18,000の数平均分子量、1乃至5の分子量分布、−15℃未満の流動点等の中の1つ以上の性質を有することを特徴とする。炭素数の測定値から、これらの分子はC30乃至C1300の炭素数を有する。100℃において測定されたHVI−PAOオリゴマーの粘度は、3センチストーク(cSt)乃至15,000cStである。これらのHVI−PAOは、例えば、エクソンモービルケミカルカンパニーのSpectraSyn Ultra(商標)のように商業的に製造及び販売されており、ベースストックとして用いられている。
【0006】
これらのPAOの他の有利な性質は、低分子量の不飽和オリゴマーは通常及び好ましくは水素化されて熱安定性及び酸化安定性を有する物質となるのに対して、高分子量の不飽和PAOは水素化をしなくても充分な熱及び酸化安定性を有している点にある。もちろん、任意で水素化することができる。
【0007】
HVI−PAO物質はエンジンの内部燃焼のためのオイル組成物に用いられてきた、例えば、WO00/58423は、低粘度のベースストックに溶解されている分子量の異なる第一及び第二ポリマーを含む高性能のオイルを開示している。この第一ポリマーは粘性と弾性を併せ持つポリマーであり、好ましくはHVI−PAOである。用いるベースストックは通常100℃において10cSt未満の粘度を有する。このHVI−PAOは最終製品中に「通常、比較的少量でオイルに含まれ」、例えば、0.1乃至25重量%で存在する。最終製品には通常スチレン、ブタジエン、及びイソプレンを含む不飽和モノマーのアニオン重合により製造するブロックコポリマーを主成分とするポリマー増粘剤も含まれる。分散剤、界面活性剤、抗摩耗剤、又はフェノール及び/又はアミンタイプ抗酸化剤等の抗酸化剤を含む「従来」の添加剤も添加されている。
【0008】
米国特許No.4,180,575、4,827,064、4,827,073、4,912,272、4,990,771、5,012,020、5,264,642、6,087,307、6,180,575、WO 03/09136、WO 2003071369A、米国特許出願No.2005/0059563、及びLubrication Engineers,55/8, 45 (1999)も参照のこと。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
工業用ギアオイルは、老化及び酸化に対する安定性、低い発泡傾向、良好な負荷容量、含まれる物質(鉄、鉄以外の金属、シール、塗料)に対する中性性、高温及び/又は低温における適合性、及び良好な粘度−温度挙動についての要件を充たさなければならない。対照的に、ギアグリースは、良好な吸着性、低いオイル分離、低いスタートトルク、合成物質との適合性、及びノイズの低減(Rudnick et al.,上記参照)についての要件を充たさなければならない。現在までのところ、これらすべての要件を満たす万能のギア潤滑油は、本発明者等が知る限り存在していない。それ故に、各種用途に対する個別の操作条件を充たすために、異なるタイプの組成物が製造されていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、驚くべきことに、高粘度指数ポリアルファオレフィン(HVI−PAO)を含む新規な工業用潤滑油及びグリース組成物を発明した。
【0011】
発明の概要
本発明は高粘度指数ポリアルファオレフィン(HVI−PAO)を含む工業的に使用されるオイル及び/又はグリース組成物に関する。
【0012】
本発明に有用なHVI−PAOは、好ましくは130以上、より好ましくは160より高い、更に好ましくは165以上のASTM D2270で測定される高い粘度指数(VI)を有し、更に0.19未満の分岐比、300乃至45,000の間の重量平均分子量、300乃至18,000の間の数平均分子量、1乃至5の分子量分布、−15℃以下の流動点の中の1つ以上の性質を有している。他の態様において、これらのHVI−PAOはC30乃至C1300の炭素数を更に有することを特徴とする。他の態様において、これらのHVI−PAOはASTM D445により測定される、100℃における動粘度が3センチストーク(cSt)乃至15,000cStであることを特徴とする。
【0013】
他の態様において、本発明に有用なHVI−PAOは還元酸化金属触媒(例えば、シリカゲルに担持された還元クロム)、ゼオライト触媒、活性化されたメタロセン触媒、又はチグラ−ナッタ(ZN)触媒を用いてアルファオレフィンを非異性化重合することにより調製する。
【0014】
他の好適な態様において、本発明の製剤(組成物)はギアオイル、循環オイル、コンプレッサーオイル、油圧オイル、冷却潤滑油、金属加工機器用潤滑油、及びグリースとして有用である。
【0015】
他の態様において、本発明の組成物は、更に、1つ又は幾つかのグレードのHVI−PAOの混合物それ自体、あるいはPAO、エチレン/アルファオレフィン由来のポリマー又はオリゴマー、エステル、ポリエーテル、ポリエーテルエステル、アルキル化芳香族流体、好適なポリアルキレングリコール、グループIベースストック、グループII又はIIIベースストックの水素化物、又は水素異性化されたワックス性ストック(例えば、スラックワックス(slack wax)又はワックス性のフィッシャートロプス炭化水素)由来潤滑油、又は他の好適な潤滑ベースストックから選択される少なくとも1つの成分との混合物を更に含む。
【0016】
他の態様において、前記組成物は抗酸化剤、粘度改質剤、流動点低減剤、抗摩耗剤、極圧手添加剤、消泡剤、又は抗発泡剤、摩擦改質剤、分散剤、界面活性剤、腐食抑制剤、増粘剤、シール膨潤剤、殺虫剤、抗乳化剤、及び金属表面の不活性皮膜形成剤(metal passivator)から選択される1つ以上の添加剤も含む。本発明の組成物の特に有利な点は、従来工業用潤滑油及びグリースに用いられていた、具体的には、増粘剤、又は他の増粘剤流体、例えば、ポリイソブチレン、従来のポリアルファオレフィン(PAO)、VI改質剤等の従来の添加剤が必要ない点にある。
【0017】
本発明の1つ目的は、高い熱安定性及び酸化安定性、低い抵抗、優れた抗摩耗性、剪断安定性、エネルギー効率、低い発泡性、低い静止摩擦、長い使用又は老化に対しての品質の安定性、及び優れた水分離性能、及び抗乳化性質の中の1つ以上の特徴を有する工場用オイル及び/又はグリース組成物に有用な組成物を提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、操作可能時間、エネルギー効率、機械保護、及び品質の信頼性から選択される1つ以上の性能が改善されている工業潤滑油及び/又はグリース組成物を提供することである。
【0019】
これらの又は他の目的、特徴、及び/又は利益は以下の詳細な説明、好適な実施態様、特定の実施例、及び/又は添付の特許請求の範囲を参照することにより明確になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、高粘度指数PAO(HVI−PAO)を含む工業潤滑油及びグリースを提供する。
【0021】
本発明に有用はHVI−PAOは、好ましくは130以上、より好ましくは160より高い、更に好ましくは165以上、更に好ましくは200以上、更に好ましくは250以上の高い粘度指数(VI)を有する。本発明に有用なHVI−PAOの特徴に重要ではないが、VIの上限は約350である。本明細書で述べるVIはASTM D2270に従って測定される。
【0022】
HIV−PAOは通常、C30乃至C1300の炭素数、0.19未満の分岐比、300乃至45,000の間の重量平均分子量、300乃至1800の間の数平均分子量、1乃至5の間の分子量分布の中の1つ以上の特徴を有する。
【0023】
特に好適なHVI−PAOは100℃において5乃至3000センチストーク(cSt)の範囲の動粘度を有するものである。本明細書で用いる「動粘度」の語は特に言及しない限り、単に粘度とも言い、特定の温度、通常100℃でASTM D445で測定された粘度を意味する。温度について言及されていないときは、その動粘度は100℃で測定されたものとする。
【0024】
100℃において測定されたHVI−PAOオリゴマーの粘度は3cSt乃至15,000cSt、又は3cSt乃至5,000cSt、又は3cSt乃至1,000cSt、又は725cSt乃至15,000cSt、又は20cSt乃至3,000cStの範囲である。
【0025】
前記HVI−PAOは1つの態様において、ASTM D97により測定される流動点が低く、通常−15℃未満であることを更なる特徴とする。
【0026】
HVI−PAOにおけるPAOは、当業者に理解されているように、1−デセン等の1つ以上のアルファオレフィンのオリゴマー(低分子量ポリマー)を意味する。他の態様において、本発明のHVI−PAOは、C6乃至C36の1−アルケン、より好ましくはC6乃至C20、更に好ましくはC6乃至C14から選択された1つ以上の1−アルケンのオリゴマーを含む炭化水素組成物であることを更に特徴とする。原料の例としては、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、又は1つ以上のC6乃至C361の−アルケン、又は1つ以上のC6乃至C20の1−アルケン、又は1つ以上のC6乃至C14の1−アルケン、C6乃至C16の1−アルケン、C6乃至C18の1−アルケン、C6乃至C16の1−アルケン、C6乃至C18の1−アルケン、C8乃至C10の1−アルケン、C8乃至C12の1−アルケンの混合物、又はC8、C10、及びC12の1−アルケンから選択される少なくとも2つの1−アルケンを含む原料を含む。エチレン及びプロピレン等の低級オリゴマーも用いることができ、米国特許No.4,956,122に記載されているような高級オレフィンとエチレンのコポリマーも含む。
【0027】
本発明に有用なHVI−PAO流体の製造に好適な方法はいくつかのプロセス触媒を用いて行うことができる。触媒の例としては、室温乃至250℃の温度のオリゴマー化条件下で用いる担持された固形還元VIB族金属(例えば、クロム)触媒、又はメタロセン触媒である。米国特許No.4,827,064、 4,827,073、4,912,272、4,914,254、4,926,004、4,967,032、及び5,012,020等の多くの特許文献が本発明に有用なHVI−PAOの調製を開示する。本発明に有用なHVI−PAOの追加的な調製方法は本明細書においても開示する。
【0028】
本発明に有用なHVI−PAOの調製の好適な態様において、もし、約600F(約315℃)未満の沸点又は20未満の炭素原子を有する低分子組成物が重合反応から生成されたか、又は開始物質から持ち越されているならば、これらを除去するために潤滑油生成物製品を蒸留する。この蒸留工程は、最終流体の揮発性を改善する。特定の製品に用いるか、又は反応混合物中に揮発性成分がなければ蒸留工程は必要ない。従って、好適な態様においては、任意の溶媒又は開始物質が除去された後の反応性生物全体を潤滑油組成ベースストック又は更なる処理に用いる。
【0029】
重合オリゴマー化工程から直接作られた潤滑油流体は不飽和二重結合を有しているか、又はオレフィン分子構造を有している。この二重結合又は不飽和又はオレフィン成分は、臭素価(ASTM 1159)、臭素係数(ASTND2710)又は、NMR、IR等の解析方法等の当業者に知られている方法で測定することができる。二重結合の量又はオレフィン組成物の量は、重合の程度、重合工程の間に存在する水素の量、及び重合工程の最終工程に加わっている他のプロモーター、又はこのプロセスに存在する他の因子等に依存している。通常、重合度が高く、重合工程の間に存在する水素ガスの量がより多く、又は最終工程に関っているプロモーターの量がより多いと、二重結合の量又はオレフィン組成物の量は減少する。
【0030】
流体の酸化安定性、並びに光又はUV安定性は、通常、不飽和二重結合又はオレフィン含量を減少すると改善される。従って、好適な態様において、ポリマーの不飽和度が高い場合、ポリマーを更に水素化する必要がある。通常、ASTM D1159で測定される臭素価が5未満の流体が本発明の高品質ベースストック製品として好ましい。3未満又は2未満の臭素価を有する流体は更に好ましい。最も好ましい臭素価の範囲は1未満、又は0.1未満である。
【0031】
幾つかの態様において、HVI−PAOの生成における前記潤滑生成物は不飽和結合を減らすために水素化される。このことは、文献(例えば、米国特許No.4,827,073、実施例16)において知られている方法により行うことができる。幾つかのHVI−PAO生成物において、重合により直接生成された流体は、既に100℃で150cStより高くるような粘度を有しており、不飽和度が非常に低い。それらの臭素価は5未満又は2未満の場合もある。この場合、直接生成された流体は水素化を行わない、従って、HVI−PAOの水素化はHVI−PAOの製法及び/又は最終製品に依存して、任意に行われる工程である。
【0032】
本発明は工業用潤滑油及びグリースに有用であることが知られているベースストック及び添加剤を含む潤滑油組成物に関する。
【0033】
工業用潤滑油は幅広い製品を含む。工業用潤滑油の例はギア潤動オイル、油圧オイル、コンプレッサーオイル、循環オイル、抄紙機オイル等を含む。
【0034】
製品により、工業用潤滑油は100℃において2cSt乃至1650cStの幅広い粘度を有する。この粘度範囲は自動車用ギアオイルよりも広い。大部分の工業用油にとって粘度は非常に重要である。一般的な機械オイルは、ISO3448の粘度規格に従って、分類されている。
【0035】
工業用潤滑油を製品化するために用いるベースストックの粘度は、工業用機器に用いる最終製品の性質に重要な影響を与える。例えば、高速及び高回転の滑り軸受には低粘度組成物を用いる。この場合、低粘度液体により生成された粘度フィルムは、流体を確実に潤動させるのに適している。しかしながら、高負荷及び低速機器においては機械を保護するための強くて厚い潤滑フィルムが必要なので、高粘度オイルを必要とする。粘度幅を広くする方法はたくさんある。例えば、100SUS溶媒精製ベースストック又は低粘度グループIV又はグループVベースストック等の低粘度オイルを、市販のベースストック、高粘度PAO(SpectraSyn(TM)100流体、高粘度ポリイソブチレン等の)等の高粘度流体とブレンド、あるいは粘度改質剤又は粘度指数改質剤とブレンドする方法がある。高粘度ベースストックの品質は最終潤滑油製品の性質及び性能に重要である。
【0036】
工業用潤滑油組成物に用いる潤滑油ベースストックはHVI−PAO流体の単一粘度グレート又は幾つかの粘度グレードの混合物を、ある程度の量で含む。HVI−PAO組成物の最終的な含量は、最終製品の所望の粘度グレード、HVI−PAOの最初のグレード、又は最終的な潤滑油製品に存在する他の成分の粘度に依存して、1%乃至99重量%の間で変化し得る。好適な態様において、HVI−PAOの量は、1乃至90重量%、又は15乃至50重量%、又は15乃至45重量%、又は50乃至99重量%、又は50乃至90重量%の範囲で変化し得る。
【0037】
本発明のHVI−PAOとブレンドされるベースストックは米国石油協会(API)のGroupI乃至GroupVに分類される既知のベースストックを含む。APIはGroupIストックを溶媒精製ミネラルオイルと定義する。GroupIストックは最も多くの不飽和物及び硫黄を含み、最も低い粘度指数を有する。GroupIは潤滑剤性能の低いグループを形成する。GroupII及びGroupIIIベースストックは、それぞれ、高い粘度指数及び非常に高い粘度指数を有するベースストックである。GroupIIIオイルはGroupIIオイルよりも不飽和物類及び硫黄が少ない。特定の性質、特に、熱及び酸化安定性に関しては、GroupII及びGroupIIIオイルはGroupIオイルよりも良い性能を示す。
【0038】
GroupIVベースストックはポリアルファオレフィンから成る。前記ポリアルファオレフィンは、エチレン及びプロピレン等の低級オレフィンのオリゴマー、エチレン/ブテン−1及びイソブチレン/ブテン−1のオリゴマー、及び米国特許No.4,956,122及び本明細書において参照される特許に記載されているようなエチレンと他の高級オレフィンとのオリゴマー、及び同種のものも用いることができるけれども、C5乃至C14アルファオレフィンから選択されるか、好ましくは1−ヘキセン乃至テトラデセン(特に1−デセンが好ましい)選択されるか、より好ましくは1−オクテン乃至1−ドデセンから選択されるか、及びこれらの混合物から選択される直鎖アルファオレフィン(LAO)を、触媒を用いてオリゴマー化して生成することが好ましい。PAOはGroupI、II及びIIIのベースオイルに優れた揮発性、熱安定性及び融点性質を与える。
【0039】
GroupVはGroupI乃至GroupIVに分類されない全てのベースストックを含む。GroupVベースストックはエステルを基にした又はエステル由来の潤滑油の重要なグループを含む。このグループはアルキル化芳香族化合物、ポリインターナルオレフィン(PIO)、ポリアルキレングリコール(PAG)等を含む。
【0040】
HVI−PAOとブレンドするのに特に好適なベースストックは3cSt乃至50cStの粘度を有するAPIグループIベースストック、グループII及びIIIベースストックの水素化物(例えば、米国特許No.5,885,438、5,643,440、及び5、358,628を参照のこと)、米国特許No.4,149,178 及び3,742,082に記載のグループIVPAO、及び内部(internal)オレフィン(ポリ内部オレフィン又はPIOとも言われる)、又はフィッシャートロプス炭化水素合成工程の後に米国特許No.6,332,974に記載の好適な水素異性化工程により製造された潤滑油を含む。
【0041】
他の態様において、1つ以上の上記グループI乃至Vベースストックは、1乃至99重量%の量で、本発明のHVI−PAOとブレンドすることができる。前記量は他の態様において、1乃至90重量%、又は50乃至99重量%、又は55乃至90重量%、又は1乃至50重量%、又は1乃至45重量%、又は50乃至50重量%、又は5乃至45重量%、でもよい。しばしば、粘度及び性能を最適化するために、これらのベースストックの1つ又は複数を選択することができる。更に、好適な態様は、本発明のブレンド成分として有用なベースストックの粘度指数に関係する粘度指数が80以上のものが好ましく、より好ましくは100以上、更には120以上の粘度指数のベースストックを用いることが好ましい。更に、特定の態様において、これらのベースストックの粘度指数は、好ましくは130以上、より好ましくは135以上、更に好ましくは140以上である。
【0042】
上記流体に加えて、好適な態様において、第二の流体が本発明の組成物に添加される。前記第二のクラスの流体は、上記ベースストックとは異なるものから選択され、好ましくは高い極性を有するものである。流体の極性は、ASTM D611により測定されるアニリン点等の当該分野において知られている方法で決定される。通常、高い極性を有する流体は低いアニリン点を有する。低い極性を有する流体はより高いアニリン点を有する。大部分の流体は100℃未満のアニリン点を有する。好適な態様において、そのような流体はAPIグループVベースストックから選択される。このようなグループVベースストックの例としては、アルキルベンゼン(米国特許No.6,429,345及び4,658,072に記載されているような)及びアルキルナフタレン(例えば、米国特許No.4,604,491、及び5,602,086)を含む。他のアルキル化芳香族は“Synthetic Lubricants and High Performance Functional Fluids”, M. M Wu, Chapter 7, (L. R. Rudnick and R. L. Shubkin [ed.]), Marcel Dekker, N.Y.1999に記載されている。
【0043】
前記クラスに分類されるもの及び好適な潤動性を有するものは、酸化アルキルジフェニル、硫酸アルキルフェニル、及びメタンアルキル化ジフェニル等のアルキル化ジフェニル化合物等のアルキルカ芳香族化合物、アルキルチオフェン、アルキルベンゾフランのほかにアルキルフェノキサチン、を含むアルキル化芳香族化合物、及び硫黄含有芳香族のエステルである。このタイプの潤滑油ブレンド組成物は、例えば、米国特許No.5,552,071、5,171,195、5,395,538、5,344,578、5,371,248及びEP 815187に開示されている。
【0044】
ブレンド組成物として用いるのに好適な他のグループV流体は、ポリアルキレングリコール(PAG)、一部又は全体が、エーテル又は、エステル末端キャップされたPAGを含む。エステルベースストックも本発明の組成物における共ベースストックとして用いられる。これらのエステルは、例えば、一酸、二酸、三酸とアルコールと、又はモノ−、ジ−、又は多価アルコールとの脱水反応により調製することができる。好適な酸はC5乃至C30一塩基酸、より好ましくは2−エチルヘキサン酸、イソフェニル、イソペンチル、及びカプリン酸、並びに二塩基酸、より好ましくはアジピン酸、フマル酸、セバシン酸、アゼライン酸、マレイン酸、フタル酸、及びテレフタル酸を含む。前記アルコールは好適なモノアルコール、又はポリオールでよい。好適な例としては、2−エチルヘキサノール、イソ−トリデカアルコール、ネオフェニルグリコール、トリエチルエタン、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、トリメチロール、プロパン、ペンタエリスリトール、及びジペンタエリスリトールである。これらのアルコールの調製、精製通常、及び使用は前記Rudnick et al.の第3章に要約されている。
【0045】
ベースストックの第二成分を使用する場合には、通常、組成物全体に対して約1重量%乃至50重量%未満の量で用いる。他の態様において約1重量%乃至約20重量%未満の量で用いる。この量は、組成物の75%まで同様の成分を含む、自動車用ギアオイル製品とは対照的である。アルキルナフタレンは約5乃至約25重量%、好ましくは約10乃至約25重量%の量で用いる。アルキルベンゼン及び他のアルキル化芳香族化合物は同じ量で用いることができるが、幾つかの潤滑油組成物において、アルキルナフタレンが、酸化安定性においてより優れていることが報告されている。PAG又はエステルは通常約1重量%乃至40重量%未満の量で用いられ、他の態様においては、20重量%未満、他の態様においては10重量%未満、更なる態様においては5重量%未満の量で用いる。
【0046】
本願発明者はこれらの第二のグループVベースストックを用いると、最終製品の粘度、溶解能力、シール膨潤性、透明性、潤動性、酸化安定性等の1つ又は幾つかが改善されることを発見した。
【0047】
最終生成物の粘度グレードは、異なる粘度のベースストック組成物を好適にブレンドすることにより調節することができる。数多くの従来の工業用潤滑油において、増粘剤は粘度を高めるために用いられている。本発明における1つの利点は、増粘剤が必須ではないという点であり、好適な態様において、増粘剤は用いない。異なる粘度グレードのHVI−PAO流体を最適に用いることにより、有意に優れた性質を有する幅広い最終粘度グレードを実現することができる。通常、異なる粘度の各種ベースストック成分(第一炭化水素ベースストック、第二ベースストック、及び任意の追加的なベースストック成分)を異なる量で好適にブレンドすることにより、最終潤滑油成分(以下で述べるような)とのブレンドに好適な粘度を有するベースストックを得ることができる。このようなブレンドは、本願発明が属する分野における当業者であれば、過度の試行錯誤無しに行うことができる。最終製品の粘度グレードは好ましくはISO2乃至ISO1000の範囲内にあることが好ましく、工業用ギア潤滑油製品については、ISO46,000までの更に高い粘度グレードでもよい。低い粘度グレードに関しては、通常ISO2乃至ISO100の範囲内であり、組み合わせたベースストックの粘度は最終製品のそれよりもわずかに高くなり、通常、ISO2乃至ISO220であるが、ISO46,000までの高粘度グレードにおいて、添加剤はしばしば、ベースストックブレンドの粘度を僅かに低下させる。ISO680グレードの潤滑油を用いると、例えば、ベースストックブレンドの粘度は添加剤の性質及び含量により、(40℃において)約780乃至800cStとなる。
【0048】
従来の潤滑油組成物において、最終生成物の粘度は、特により高い粘度(例えば、ISO680乃至ISO46000)を有する製品では、ポリマー性の増粘剤を使用して所望の粘度グレードに調節される、通常使用されている増粘剤は、エチレンプロピレンポリマー、ポリメタクリレート、及び各種ジエンブロックポリマー及びコポリマー、ポリオレフィン、並びにポリアルキルスチレンのほかに、ポリイソブチレンを含む。これらの増粘剤はこれらのクラスの増粘再の温度と粘度との関係において有効な影響を及ぼすので、粘度指数改質剤(VII)又は粘度指数変更剤(VIM)として通常使用されているものである。そのような成分は本発明の組成物に任意で用いることもできるけれども、市場の要求又は所望の最終粘度を有する製品を生成するための基準に従ってブレンドされる。典型的な入手可能な粘度指数改質剤は、ポリイソブチレン、重合又は共重合されたアルキルメタクリレート、並びに無水スチレンマレイン酸のエステルを、又はインターポリマーを窒素含有化合物と反応させた混合物である。
【0049】
数平均又は重量平均分子量が10,000乃至15,000のポリイソブチレンは、市販の主要なクラスのVI改質剤である、通常、その分子構造により、強力な増粘効果をもたらす。通常、ブタジエン又はイソプレン等の1,3−ジエンを単独、又はスチレンと共重合したコポリマーのいずれも、市場で入手可能な主要なクラスのものであり、このクラスの製品としては、Shelivis(商標)として販売されているものがある。統計ポリマーは、通常、ブタジエン及びスチレンから製造され、ブロックコポリマーはブタジエン/イソプレン及びイソプレン/スチレンの組合せから製造される。これらのポリマーは残余ジエンを除去し、安定性を改善するために、水素化される。15,000乃至25,000の数平均又は重量平均分子量を有するポリメタクリレートも市販されている増粘剤の主要なクラスの代表的なものであり、Acryloid(商標)として市場において入手可能である。
【0050】
増粘剤の1つのクラスのポリマーは、スチレン、ブタジエン、及びイソプレン含む不飽和モノマーのアニオン重合により製造される。この種のポリマーは米国特許No.5,187,236、5,268,427、5,276,100、5,292,820、5,352,743、5,359,009、5,376,722及び5,399,629に記載されている。ブロックコポリマーは、直鎖又は星状コポリマーであり、本発明においては、直鎖ブロックコポリマーが好ましい。好適なポリマーはイソプレン−ブタジエン、及びイソプレン−スチレンアニオンジブロック、又はトリブロックコポリマーである。特に好適な高分子量ポリマー成分は、Infenium Chemical Companyより供給されているShelivis(商標)40、Shelivis(商標)50、及びShelivis(商標)90である。この商品にシリーズの中で、Shelivis(商標)50はアニオンジブロックコポリマーであり、Shelivis(商標)200及びShelivis(商標)260、及びShelivis(商標)300は星状コポリマーである。
【0051】
幾つかの増粘剤は2つの機能を有していることから、米国特許No.4,594,378に記載のように分散−増粘指数変更剤として分類されている。該‘378特許に記記載の分散−増粘指数変更剤は、カルボキシ含有インターポリマーの窒素含有エステル及びアクリレートエステルのイオン可溶アクリレート重合生成物単独、又これらの組合せである。市場で入手可能な分散−増粘指数変更剤は、Rohm and Haasより供給されているAcryloid(商標)1263及び1265、Rohm−GMBHO(商標)Registered TMより供給されているViscoplex(商標)5151及び5089 Lubrizol(商標)3702及び3715である。
【0052】
任意ではあるけれども抗酸化剤も本発明の組成物の酸化安定性を改善するのに用いることができる。市場で入手可能な多くの物質が抗酸化剤に適している。本発明の組成物に用いることができる最も一般的なタイプの抗酸化剤は、フェノール抗酸化剤、アミン抗酸化剤、硫酸アルキル芳香族、リン酸化合物、ジチオフォスフェート等の硫黄−リン酸化合物、及び例えば、メチレンビス(ジ−n−ブチル)ジチオカルバメートのようなジアルキルジチオカルバメート等の他のタイプの抗酸化剤である。
【0053】
本発明の組成物に酸化安定性を改善するために任意で添加するのに好適な硫黄含有化合物は、ジベンジルスルフィド、ポリスルフィド、ジアリルスルフィド、修飾チオール、メルカプトベンジミダゾール、チオフェン誘導体、キサントゲン酸、及びチオグリコール等のジアルキル硫化物を含む。
【0054】
本発明の潤滑油に用いるフェノール系の抗酸化剤は、灰分を含まない(金属を含まない)フェノール化合物、あるいは特定のフェノール化合物の中性又は塩基性金属塩が好ましい。潤滑油に含まれるフェノール化合物の量は、フェノール化合物が添加される潤滑油の用途に応じて広く変化し得る。通常、約0.1乃至約10%のフェノール化合物が組成物に含まれる。約0.1%乃至約5%、又は約1重量%乃至約2重量%の量がより頻繁に用いられる。本明細書で用いるパーセンテージは特に定義しない限り組成物の総重量に基づくものである。
【0055】
好適なフェノール化合物は立体担持を有する(sterically hindered)ヒドロキシル基を含むものであり。ヒドロキシル基がお互いのo−又はp−の位置にあるジヒドロキシルアリル化合物の誘導体を含む。典型的なフェノール抗酸化剤はC6アルキル基で置換されたヒンダードフェノール、及びこれらのヒンダードフェノールの誘導体に結合されたアルキレンを含む。このタイプのフェノール物質の例としては、2−t−ブチル4−へプチルフェノール;2−t−ブチル−4−オクチルフェノール;2−t−ブチル−4−ドデシルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−ヘプチルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−ドデシルフェノール;2−メチル−6ジ−t−ブチル−4−ヘプチルフェノール;及び2−メチル−6−ジ−t−ブチル−4−ドデシルフェノールを含む。オルト結合のフェノールは2,2’−ビス(6t−ブチル−4−フェニルフェノール);2,2’−ビス(6−t−ブチル−4−オクチルフェノール)、及び2,2’−ビス(6−t−ブチル−4−ドデシルフェノール)を含む。硫黄含有フェノールも好適に用いることができる。前記硫化物は、フェノール抗酸化分子内に芳香族硫化物又は脂肪族硫化物のいずれかとして含むことができる。
【0056】
非フェノール酸化抑制剤、特に芳香族アミン抗酸化剤もそれ自体、又はフェノールとの組合せのいずれかの形態で用いることができる。非フェノール抗酸化剤の典型的な例としては、RNの式を有する芳香族モノアミン等のアルキル化及び非アルキル化アミンを含む。式中、Rは脂肪基、芳香族基、又は置換芳香族基であり、Rは芳香族基又は置換芳香族基であり、RはH、アルキル、又はRS(O)xRである。Rはアルキレン、アルケニレン、又はアラルキレン(aralkylene)であり、Rは高級アルキル基、又はアルケニル基、アリール基、又はアルカリル基であり、xは0、1、又は2である。脂肪基Rは1乃至20の炭素原子を有し、6乃至12の炭素原子を含むことが好ましい。前記脂肪基は置換された脂肪基である。好ましくは、RとRは芳香族基又は置換された芳香族基であり、前記芳香族基はナフチル等の融合した環状芳香族基である。芳香族基R及びRはS等の他の基により互いに結合されていてもよい。
【0057】
典型的な芳香族抗酸化剤は少なくとも炭素原子6のアルキル又はアリール置換基を有する。脂肪族基の例としては、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、及びデシルを含む。アリール基の例としては、スチレン付加基、又は置換スチレン基を含む。通常、脂肪族基は14より大きい炭素原子を含まない。本発明の組成物に有用なアミン抗酸化剤の一般的タイプは、ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、フェノチアジン、イミドジベンジル及びジフェニルフェニレンジアミンを含む。2つ以上の芳香族アミンの混合物も有用である。ポリマー性アミン抗酸化剤も有用である。本発明に特に好適な芳香族アミン抗酸化剤の例は、p,p’−ジオクチジフェニルアミン;オクチルフェニル−ベータ−ナフチルアミン;t−オクチルフェニル−アルファ−ナフチルアミン;フェニル−アルファナフチルアミン;フェニル−ベータ−ナフチルアミン;p−オクチルフェニルアルファナフチルアミン;4−オクチルフェニル−1−オクチル−ベータ−ナフチルアミンを含む。
【0058】
用いることができる典型的なジアルキルジチオリン酸塩は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、特に、ジオクチル亜鉛及びジベンジル亜鉛のジチオリン酸塩を含む。これらの塩は、抗摩耗剤としてよく用いられているものであるが、特に、オイル可溶銅塩を組み合わせて共抗酸化剤として用いたときに、抗酸化機能を有していることでも知られている。リン酸及び亜鉛ジアルキルジチオフォスフェート等の亜鉛化合物と組み合わせて用いる抗酸化剤として用いられる銅塩の例としては、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等のカルボキシル酸の銅塩、フタル酸銅、硫酸銅、アセチル酢酸銅、200乃至500の数平均又は重量平均分子量を有するナフタレン酸由来のナフタレン銅、並びに銅が亜鉛で置換されているジチオカルバミン酸銅、及びジアルキルジチオリン酸銅を含む。このタイプの銅塩及びそれらを抗酸化剤として使用することは米国特許No.4,867,890に記載されている。
【0059】
通常、抗酸化剤の総量は組成物の総量に対して10重量%を超えない。一般的には、これより少なく、5重量%未満であり、特定の製品においては0.5乃至2重量%の抗酸化剤が好ましい場合もある。
【0060】
抑制剤パッケージ
抑制剤パッケージは抗摩耗、抗錆/抗腐食性質の好適なバランスを提供するために用いられる。このパッケージの1つの成分は置換されたベンゾトリアゾールアミンフォスフェートアダクトであり他の成分は市場で入手可能な既知の物質である、トリ−置換フォスフェート、特にクレシルジフェニルフォスフェート等のトリアリルフフォスフェートである。この成分は通常組成物の5重量%までの少量で存在する。通常、組成物の総重量に対して3%未満、例えば、0.5乃至20重量%を所望の抗摩擦性質性能を提供するために添加する。
【0061】
抗摩耗/抗錆パッケージの第二の成分はベンゾトリアゾールアダクト又は抗摩擦及び抗酸化性能も提供するアミンフォスフェートアダクトで置換されたベンゾトリアゾールである。このタイプの特定の多機能アダクトは米国特許No.4,511,481に記載されており、該文献にこれらのアダクトの説明及びこれらの製造方法が記載されている。簡単に説明すると、これらのアダクトは、置換されたベンゾトリアゾール、すなわち、置換基Rが水素又はC1乃至C6の低級アルキル、好ましくはCH3である、アルキル置換されたベンゾトリアゾールを含む。好適なトリアゾールはトリルトリアゾール(TTZ)である。米国特許No.4,511,481に記載のように他のベンゾトリアゾールも用いることができるが、ここでは簡便のために、この成分をTTZと言う。
【0062】
該アダクトのアミン成分は米国特許No.4.511.481で定義されている芳香族アミンリン酸塩であり、即ち、アミンフォスフェートのアダクトである。代替的に、主要成分は脂肪族アミン塩でもよく、例えば、有機リン酸及びジアルキルアミンミン等のアルキルアミンの塩を用いることができる。該アルキルアミンリン酸アダクトは、芳香族アミンアダクトと同じ方法で得ることができる。このタイプの好適な塩は、TTZと共にアダクトを形成する長鎖(C11乃至C14)アルキルアミンモノ−/ジ−ヘキシル酸のリン酸塩である。前記アダクトは、75:25(重量)のTTZ及び長鎖アルキル/有機リン酸塩比を有する好適なアダクトを1:3乃至3:1(モル)の比で含む。
【0063】
前記TTZアミンリン酸塩アダクトは通常約5重量%以下、及び通常約0.1乃至1重量%、例えば、約0.25重量%の少量で使用され、例えば、クレシルジフェニルフォスフェート等のトリヒドロカルバミルフォスフェートと組み合わせて用いて、抗摩耗及び抗錆性のバランスを提供することができる。通常CDP及びTTZアダクトを2:1乃至5:1の比で用いる。
【0064】
追加的な抗錆添加剤も用いることができる。市場で入手できる金属不活性剤も本発明の目的に有用であり、例えば、N,N−2置換アミノメチル−1,2,4−トリアゾール、及びN,N−2置換アミノメチルベンゾトリアゾールを含む。N,N−2置換アミノメチル−1,2,4−トリアゾールは米国特許No.4,734,209に記載されているような既知の方法、つまり、1,2,4−トリアゾールとフォルムアルデヒド及びアミンの反応により調製することができる。N,N−2値置換アミノメチルベンゾトリアゾールは同様に、米国特許No.4,701,273に記載されているように、ベンゾトリアゾールをホルミアルデヒド及びアミンと反応させて得ることができる。好ましくは、前記金属不活性剤は、市場で入手可能である、1−[ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]−1,2,4−トリアゾール又は1−[ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]−4−メチルベンゾトリアゾール(トリルトリアゾール:ホルムアルデヒド:ジ−2−エチルヘキシルアミンミンのアダクト(1:1:1モル))である。追加的な防錆性を付与する他の錆抑制剤は、市販のドデシレンスクシニル酸の高級アルキル置換アミドのスクシニミド誘導体、テトラフェニルスクシニックモノエステル等のドデセニルスクシニル酸の高級アルキル置換アミド(市販されている)、及び固定化無水スクシニル酸を含む。通常、これらの追加的な錆抑制剤は2重量%以下の少量で用いられるが、特定の態様、例えば、抄紙機オイルでは、5重量%までが必要に応じて用いられる。
【0065】
前記オイルは特定の用途に応じて、他の添加剤を含んでいてもよく、例としては、分散剤、界面活性剤、摩擦改質剤、けん引力改質剤、抗乳化剤、消泡剤、発色剤(ダイ)、曇り抑制剤を含む。製品によっては、これらの全部は市販の物質を用いて既知の方法によりブレンドしてもよい。
【0066】
前述のように、本発明の潤滑油は、優れた性質及び性能を有している。良い性質の例としては、優れた粘性、高VI、低い流動点、優れた低温での粘度、熱安定性等がある。これらの性質は多くの基準及び特定の試験で測定することができる。通常、動粘度はASTMD445で測定される。VIはASTM D2270で計算することができる。流動点又は潤動性はASTM D2500で測定することができる。サイボルト(Saybolt)ユニバーサル粘度はASTM D1261で測定される。多くのギアオイル、トランスミッションオイル、工業用潤滑油、及びエンジンオイルの低い温度、低い剪断速度粘度はASTM D2983によるブロックフィールド粘度計で測定することができる。代替的に、低温における粘度の範囲を測定する場合は、ASTM D5133によるブロックフィールド粘度のスキャニングで測定できる。高温高剪断速度での粘度はD4624、D5481、又はD4741の方法で測定することができる。
【0067】
優れた抗摩耗性は、少なくとも8を失格の値とする、より一般的には9乃至13又はより高い範囲をも失格とする、FZGスカッフィング試験(DIN51534)での性能により示される。前記FZG試験は通常のギアセットで生じるスチールとスチールとの接触にのよる性能指標である。この試験の成績が良いと、平歯車の性能が優れていることが期待される。高いFZG試験値は通常、例えば、ISO100等の高い粘度グレードのギアオイルにより達成することができ、ISO100より高いギアオイルは12又はこれ以上、13又はこれ以上、のFZG値を有する。対照的にISO10以下のグレードのギアオイルは、9乃至12のFZG値を示す。13以上(A/16.6/90)又は12以上(A(8.3/140)はISOグレードが300以上のものにより達成できる。
【0068】
抗摩耗性は4ボール摩耗試験の(スチールオンスチール、1時間、180rpm、54℃、20kg/cm2)による最大傷直径が0.35未満であることにより示される。傷直径0.30mm以下は容易に達成できる。120以上の、通常150以上の4ボールEP Weld値も達成できる。ASTM4ボールブロンズ上スチールの値は0.07mm(摩耗傷直径)が一般的である。
【0069】
防錆性は合成海水を用いたASTM D665Bの評価(Pass)により示すことができる。24時間、121℃における銅坂腐食試験(ASTM D130)は2Aが最大で、通常1B又は2Aである。
【0070】
優れた高温酸化性能は、低い粘度変化、低い酸価変化、及び低い腐食又はスラッジ付着を含む性能基準の数値により示される。1つのスラッジ試験でこれら全ての基準を評価するために触媒酸化試験が開発された。この触媒酸化試験では、50mlのオイルを鉄、銅、及びアルミナ触媒と一緒にガラスチューブに入れ、腐食見本の重量を読む。このセル(ガラスチューブ)とその内容物を163℃に維持されているバスにいれ、10リットル/時間の乾燥空気で40時間サンプルをあわ立てる。セルをバスから取り出し、触媒部品をセルから除去した。スラッジの存在についてこのオイルを試験し、中和価(ASTM D664)及び100℃における動粘度(ASTM D445)を決定する。リード(lead)見本を洗浄し、重量を測定して、重量損失を決定した。5mg以下のKOHの試験値(DELTA TAN 163℃、120時間)は本発明の組成物の特徴である。3mgKOH未満、又は更に低い値、通常0mg.KOH未満の値も得ることができる。この触媒酸化試験における粘度増加は通常15%未満であり、8乃至10%程度である。
【0071】
優れた酸化耐性は、少なくとも8000時間、通常10,000時間に到達するTOSO値(ASTM D943)が、TOSOスラッジ(1000時間)に対して1重量%未満、通常0.5重量%未満であることにより示される。酸化安定性はASTM D2272等の他の方法でも決定することができる。
【0072】
本発明のオイルの優れた剪断安定性は、多くの剪断安定性試験により測定することもできる。例としてはクルトオルバーン(、Kurt Orbahn)ディーゼルインジェクター試験(ASTM 3945)又はASTM D5257の方法である。剪断安定性のための他の試験は、テーパードローラーベアリング剪断試験(CEC L−45−T/C法)である。超音波剪断安定性試験(ASTM D2603)により測定することもできる。剪断安定性は多くの潤滑油操作に重要である。より高い剪断安定性は、高い剪断においてオイルが粘性を失わないことを意味する。そのような剪断安定性を有するオイルは、厳しい操作条件下でよりよい機械保護をすることができる。本発明のオイル組成物は工業潤滑油製品に対して優れた剪断安定性を示す。
【0073】
潤滑オイルが発泡する傾向は、ギア操作、高容量ポンプ操作、循環オイル及び噴霧オイルにおいて深刻な問題である。潤滑油において発泡する組成物は、不適な潤動、キャビテーション、及び潤滑油のオーバーフローによる損失を生じ、その結果、機械が壊れる。それ故、潤滑油において発泡性を制御することは重要である。このことは、特に工業用ギアオイルにおいて重要である。潤滑油の発泡性を測定するための多くの方法が開発されている。例えば、ミックスマスター(Mixmaster)発泡法において、550グラムの試験オイルを頑丈なミックスマスターブレンダーのコンテナに入れる。このブレンダーのビーター(撹拌器)を750rpmで5分間撹拌する。このビーターを停止し、オイルを出し、任意のオイルを20秒で容器に戻す。その後総発泡量をmlで測定する。これが0分における発泡容量である。その後、5分、10分、20分、30分、40分等の時間で、発泡容量を計算し、どれほど速く泡が消失するかを評価する、通常、良好な試験オイルは、5分間の撹拌の終わりに生じている泡が少なく、及び/又は撹拌を停止した後も早く泡が消失する。HVI−PAOを用いた潤滑油組成物は通常優れた発泡性を有している。更に、HVI−PAOに基づく潤滑オイルを老化又は汚染したものでも従来の製剤(組成物)よりも発泡性が優れている。他の発泡試験はASTM D892(潤滑油の発泡性)を含む。
【0074】
エネルギー効率は最新の機器においてより重要な因子となっている。設備開発者は機器のエネルギー効率を改善し、パワーの消費を減らし、摩擦損失を減らす法を探求している。例えば、冷蔵庫製造者、消費者、及び政府機関は冷蔵庫部品のコンプレッサーのエネルギー効率を改善することを要求している。政府は自動車については最小のエネルギー効率を要求している。ギア操作をする人はエネルギー消費が少なく、低い温度で稼動する、より効率的なギアを要求している。潤滑油は機械システムに多くの方法でエネルギー効率に影響を及ぼす。例えば、特定の保護レベルを有するより低い粘度の潤滑油は、より低い粘度抵抗を有し、従って低いエネルギー損失、及びより良いエネルギー効率を有する。低い摩擦係数を有する潤滑油はより良いエネルギー効率を有している。過剰の泡を生成する潤滑油は容量効率が減る。例えば、ピストンのダウンストークにおいて、発泡層が圧縮される。この圧縮はエネルギーを吸収し、従って、有用な仕事に利用可能なエネルギーを減らすことになる。本発明のこの潤滑油は、多くのエネルギー効率性を有している。
【0075】
潤滑油のエネルギー効率は、作動環境で試験するのが最も良い。このような比較はサイドバイサイド比較で行う時には非常に意味がある。そのような結果の例としては、“Development and Performance Advantages of Industrial, Automotive and Aviation Synthetic Lubricants” Journal of Synthetic Lubrication, [1] p.6−33 by D. A. Law and J. R. Lohuis, J. Y Breau, AJ. Harlow and M. Rochetteに報告されている。
【0076】
製品
本発明の潤滑油又はグリースは、オン−オフサイクルの間の電気アークを生成する電気スイッチ潤動、又は電気コネクター等の電気製品の他に、転動軸受け(例えば、ボールベアリング)、ギア、循環潤動システム、油圧システム、レシプロケーティング(reciprocating)、ロータリー及び/又はターボタイプの空気圧縮機、ガスタービン、又は気体圧縮器等の)気体を圧縮するため、又は液体を圧縮するための(冷蔵庫のコンプレッサー等の)コンプレッサー、バキュームポンプ、又は金属作動機器に用いることができる。
【0077】
本発明の潤滑油又はグリース組成物は、広い温度範囲、安定な及び信頼できる操業、優れた保護、長い稼働時間、エネルギー効率、の中の1つ以上の特徴が好ましいとされる工業用機器に用いるのに最も適している。本発明のオイルは、高温又は低温における粘度、流動性質、優れた発泡性、剪断安定性、改良された抗磨耗性、耐熱耐酸化安定性、低い摩擦力、低い牽引力を含む各種性質のバランスが優れていることを特徴とする。これらは、ウエットクラッチシステム、送風ベアリング、ウィンドタービンギアボックス、微粉炭機駆動部、冷却タワーギアボックス、キルン駆動部、抄紙機器駆動部、及び回転スクリューコンプレッサーのほかに、ギアオイル、軸受オイル、循環オイル、コンプレッサーオイル、油圧オイル、タービンオイル、全種類の機械のためのグリースとして使用することができる。
【実施例】
【0078】
以下の実施例は、本発明を説明し、他の方法又は物質との比較を意図とする。本発明の多くの変更又は変異体は実施可能であり、それらは本発明の範囲内である。本発明は本明細書で説明する方法以外のやり方でも、実施することができることは当業者に容易に理解される。
【0079】
I.非メタロセン触媒から製造されたHVI−PAO
以下の表1に示すHVI−PAOの調製は米国特許No.4,827,064に記載されているものである。この方法は100℃における粘度範囲が5乃至3000cStの流体を高い生産率で生産することができる。組成物の製造のために用いる3つの代表的な例を以下の表1に要約する。
【表1】

【0080】
II.メタロセン触媒により製造されたHVI−PAO
サンプル4
トルエン(20グラム)、1,3−ジメチルシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド(0.01グラム)及びトルエン中10%MAO(20.1グラム)を室温下で500mlのフラスコに入れた。1−デセン(100グラム)を漏斗をからゆっくり触媒混合物に添加し、反応温度を20乃至25℃に維持した。反応混合物を16時間撹拌した。3mlの水と塩基性アルミナで触媒を冷却した。フィルター処理し固形物を除去した。この液体を140℃/1ミリトール未満で蒸留して、任意のC20及びより高い炭素数を有する成分を除去して、潤滑油サンプルを製造した。潤滑油の生産率は92重量%であった。この潤滑油は、100℃の粘度が312cSt、40℃における粘度が3259cSt、及び/又はVIが250であった。この潤滑油を標準的な条件下で更に水素化し、最終製品を得た。
【0081】
サンプル5
このサンプルは、ジメチルシリルビス[シクロペンタジエニル]ジルコニウムジクロライドを触媒として用いた以外は、サンプル4と同じように調製した。サンプル5の潤滑油は、100℃の粘度が8.96cSt、40℃の粘度が49.32cSt、及び/又はVIが250であった。この潤滑油を標準的な条件下で更に水素化して、工業用潤滑油組成物として用いることができる。
【0082】
III.完全に合成した潤滑油オイル組成物
サンプル3で製造されたHVI−PAOと他の合成ベースストックを含む完全合成潤滑油を製品化した。この組成物の性質を表2の実施例1乃至3に要約した。比較例4乃至6において、エクソンモービルカミカルカンパニーより供給されている高粘度PAOであるSpectraSyn(商標)40を、実施例1乃至3で用いたものと同じベースストックと一緒に製剤(組成物)化した。これらの他のベースストックは、市販製品に添加されている標準的なベースストック、2乃至6cStの低粘度エステル流体を20乃至30重量%、及び/又は3乃至7cStの低粘度PAO流体を20乃至70重量%含む。正確な粘度グレード及び/又は低粘度エステル及び/又は低粘度PAO流体の量は潤滑油の最終的な粘度グレードにあわせて当業者により選択される。
【0083】
前記組成物において、アミン及びフェノール抗酸化剤、消泡剤、腐食抑制剤、防錆剤、金属失活剤、抗磨耗剤、及び界面活性剤/分散剤を極性バランスをとるような量で含む標準的な添加剤パッケージを用いた。
【0084】
新しいHVI−PAOに基づく油圧オイル(実施例1乃至3)は200より高いVIを有しており、この値は比較例(実施例4乃至6)よりも約6単位より高い値であった。更に、実施例1乃至3の150℃における予測粘度は比較例4乃至6よりも高かった。実施例1乃至3の−40℃における予測粘度は、比較例4乃至6のものよりも低かった。更に、実施例1乃至3のオイルは比較例と比べるとクルトオルバーン(KrutOrbran)剪断安定性試験(ASTM D3945)における比較可能な剪断安定性を有していた。
【0085】
この実施例は同じ剪断安定性において、新規なベースストックを含むオイル製剤(組成物)が、市販のPAOを用いた製剤(組成物)よりも、高いVI及びより安定な高温及び低温での粘度を示し、高温及び低温における性質が改善されていることを示すものである。
【表2】

【0086】
(a)他のベースストックは2.7cStの粘度のエステル流体を30重量%含む。
【0087】
(b)添加剤パッケージは典型的な流体添加剤パッケージであり、フェノール又は芳香族アミンタイプの抗酸化剤をZDDP等の抗磨耗添加剤、摩擦改質剤、及び/又は腐食防止剤をバランスのよい量で含む。用いる添加剤の例としては、米国特許No.4,537,696に記載のものがあるが、本明細書において用いた正確な成分及び/又は含量はこの例とは異なるものである。
【0088】
VI.準合成油圧オイル製剤(組成物)
HVI−PAOは従来のミネラルオイルとブレンドして準合成潤滑油を製造することができる。この準合成潤滑油は従来の粘度改質剤に対して性能が改善されている。準合成潤滑油オイル組成物としては、異なる量の上記サンプル2の成分(145cStのオイル)を用いて調製した、2つの粘度グレードの組成物を得た(実施例7及び8(表3))。実施例7はより低い粘度グレードであり、実施例8はより高い粘度グレードである。実施例7のオイルはRohm and Haasより供給されている従来のVI改質剤であるAcryloid(商標)を用いた2つの市販の潤滑油(実施例9及び10)と比べて同じような粘度グレードを有していた。これら全ての実施例において、残りの成分は溶媒精製したパラフィン系中性100SUSミネラルオイルであった。実施例7において、少量の60SUSナフテン酸オイルを添加して、粘度及びVIを実施例9及び10と比較可能にした。これらのミネラルオイルベースストックは主要な潤滑油製造業者又は販売業者であればどの業者からも入手可能なものである。全ての潤滑油についてテーパードローラーベアリング(TRB)剪断試験(標準的なCEC L−45−T/C試験)を行った場合、HVI−PAOに基づく実施例7及び/又は8はVI改質剤を用いたオイル製剤(組成物)(実施例9及び10)よりも40℃又は100℃での粘度損失が低かった。更に、実施例7及び8のオイルは表3に示すようにVI損失もより低かった。このデータセットは新規なHVI−PAOを含むオイルが市販のVI改質剤を含むオイルよりも同じか又はより高い粘度においても、よりよい剪断安定性を有していることを示している。
【表3】

【0089】
(a)VI改質剤は従来のメチルメタクリレートポリマーである。
【0090】
(b)前記ミネラルオイルは4cStのパラフィン系溶媒脱ロウベースストック及び3cStのナフテン酸ベースストックの組合せである。
【0091】
V.合成工業用循環オイル
ISO460の粘度グレードの合成工業用循環オイル(実施例11乃至14)を、実施例2のHVI−PAO、又は最も高い粘度を有する従来のPAOであるSpectraSyn(商標)と、20重量%の極性ベースストックであるアルキル化ナフタレンSynesstic(商標)(エクソンモービルケミカルカンパニーより入手)5と組み合わせて組成物とした。この組成は、アミン及びフェノール抗酸化剤をバランスの取れた量で含み、この他に抗磨耗剤、及びZnDDP、過剰量の結晶リン酸、過リン酸、又はリン酸を含む添加剤、分散剤、界面活性剤、腐食抑制剤、金属表面の不活性皮膜形成剤(metal passivator)、水の分離を改善する抗乳化剤、透明性を改善する透明剤及び顔料を含む、潤滑油製造業者により一般的に用いられている添加剤パッケージを1.75重量%含む。これら全ての添加剤パッケージの最終粘度はISO460の粘度グレードを満足するものであった。実施例11及び12は最終組成物に消泡剤を添加していない、HVI−PAOを含む製剤(組成物)と従来のPAOを含む組成物とを比較する。実施例13及び14は、ダウケミカルより入手可能な消泡剤DCF200を既に調製されたパッケージ中に200ppm含む、HVI−PAO含有と従来のPAO含有組成物とを比較する。
【0092】
実施例11のオイルについて、上記試験方法のセクションで説明したミックスマスター(Mixmaster)発泡試験を行うと、撹拌停止後0分における発泡容量が16%であり、撹拌停止後5分での発泡容量は0%であった。
【0093】
対照的に、同様のISO460合成潤滑油を従来の高粘度PAOを用いて製品化した場合(実施例12、表4)、開始発泡容量は撹拌停止後0分において40%であった。この発泡容量は、撹拌停止後10分において38%に維持されていた。このことは新規なHVI−PAOベースオイルは発泡が少ないことを示している。同様の組成物において、ダウケミカルから入手した典型的な市販のシリコン消泡剤であるDCF200を組成物に添加した場合、従来のPAOベースオイル(実施例14、表4)と比較して、新規なHVI−PAOを含む循環オイル組成物(実施例13、表4)はより発泡が少なかった。
【表4】

【0094】
(a)これらの実施例に用いたHVI−PAOは22.25重量%のサンプル1のHVI−PAO及び56重量%のサンプル2のHVI−PAOを含む。
【0095】
(b)これらの実施例に用いた従来のPAOは20重量%の40cStPAO及び58.25重量%の100cStのPAOを含む。両者はエクソンモービルケミカルカンパニーより市販されている。
【0096】
(c)消泡剤はダウケミカルカンパニーより入手した、分子量60,000のポリシロキサン(polysilozane)であるDC200である。
【0097】
(d)用いた他のベースストックはエクソンモービルケミカルカンパニーより入手した5.5cStの二塩基性エステル流体である。
【0098】
(e)この製剤(組成物)に用いた添加剤パッケージは、典型的な抗酸化剤、金属不活性化剤、防錆及び抗磨耗剤を適切なバランス量で含む。典型的な添加剤パッケージは米国特許No.6,180,575に記載されている。
【0099】
円錐駆動歯車で試験を行うと、以下の表に示すように、実施例11のオイルは実施例12のオイルよりも高い節約利益を示した。この試験についての詳細はJournal of Synthetic Lubrication, Vol. 1, No. 1, April 1984の6頁に記載されている。
【0100】

【0101】
以下の実験の結果は、本発明の実施例13のオイルが、激しく老化させた場合にもHVI−PAO以外のベースストックよりよい発泡耐性を有していることを示す。この実験のセットにおいて、実施例13及び14オイルは、200℃、250psi及び3500rpmで空気(100cc/分)と一緒にオイル(60ml/時間)をオートクレーブにとおして循環させることにより加齢させた。この方法は、厳しい条件下での長い操作時間により更にオイル老化をシュミレートしたものである。オートクレーブ内での老化が進むにつれ、オイルの粘度が上昇した。サンプルをオートクレーブから取り出し、各種性質、特に発泡耐性について調べた。異なる時間で加齢させた各オイルの発泡容量%を以下の表にまとめた。これらのデータは、実施例13のオイルが厳しい老化の後でさえも発泡容量が少ないことを示す。60時間の酸化の後でさえ、このオイルの発泡は5mlにすぎず、同じ発泡試験の時間において老化していない28mlの発泡容量を有する実施例14の比較例よりも発泡が少なかった。
【0102】

【0103】

【0104】
以下の実験は、HVI−PAOに基づくオイルが他の老化オイル又は不純物で汚染された後にも、発泡耐性を有することを示す。既知の汚染物質である、使用され老化している船舶エンジンオイルであるMobilgard570、0.5重量%を実施例13のオイルに添加した。(撹拌停止後5分後の)発泡容量は0%から2%に増えた。同じ汚染物質を実施例14のオイルに添加した場合、発泡容量は23%乃至47%に増え、実施例13のオイルよりも増加量が多かった。
【0105】
幅広いcrossグレードの自動車用ギアオイルをサンプル2のHVI−PAOと、従来の高粘度PAO(SpectraSyn(商標)100、エクソンモービルケミカルカンパニー)を用いて調製した(表5、実施例17乃至20)。このオイル組成において、PAO及びHVI−PAOベースストックに加えて、高い極性を有する他のベースストック、特に1.3乃至6cStの低い粘度のエステル又はアルキル化された芳香族化合物を含むグループVベースストックも添加した。最終組成物中の各ベースストックの量は100℃における粘度が同じになるように調節した。この製剤組成物に、添加剤をバランスのいい量を9乃至10重量%添加した。この添加剤パッケージは抗酸化剤、抗磨耗剤、及び極圧剤、錆及び腐食防止剤、摩擦改質剤、消泡剤、粘度改質剤、分散剤、及び界面活性剤等を含む。データが示すように、HVI−PAOに基づくギアオイルは−40℃においてより高いVI及びより低い低温ブロックフィールド粘度を有していた。このような低温における高いVI及び低い粘度はエネルギー効率及び磨耗保護の点で有利な性質である。
【表5】

【0106】
新規なHVI−PAOを用いて調製した合成製紙機器用オイル(実施例21)は、従来の高粘度PAO(SpectraSyn(商標)100、エクソンモービルケミカルカンパニー)を用いて調製した比較例(実施例22)よりも発泡が少なかった(表6)。ASTM発泡試験(D892)において、実施例21は開始発泡容量が少なく、24℃、93.5℃、及び24℃で測定する連続する試験1、2、及び3(Seq 1、Seq 2、及びSeq 3)において実施例22よりも低い発泡容量を維持していた。
【表6】

【0107】
これらの実施例は、HVI−PAOが多くの工業潤滑油及びグリースに用いることができ、従来の潤滑油組成物に対して優れた性能を有することを示す。
【0108】
全ての特許及び特許出願、(ASTM法、UL法等の)試験方法、及び本明細書において引用されている他の文献は、それらの開示が本発明と矛盾しない範囲内であり、法的に認められている場合には、参照により本明細書に援用される。
【0109】
複数の数値範囲の下限及び上限が記載されている場合、任意の下限値から任意の上限値までの数値範囲を意図する。本発明の例示的な態様を具体的に説明してきたが、当業者は本発明の精神と範囲を逸脱せずに、各種変更を容易に行うことができるということは容易に理解されるところである。従って、添付の特許請求の範囲を本明細書の実施例及び説明に限定すべきではなく、特許請求の範囲は、本発明の属する分野の当業者により等価であると認められる全ての技術的特長を含む、本発明が有するすべての特許性を有する特徴を含んでいると解釈されるべきである。
【0110】
本発明を多く態様及び特定の実施例を用いて説明した。明細書中の記事項についての多くの変更は、当業者が上記の詳細を参照することにより実施可能である。そのような自明な変更は添付の特許請求の範囲に入る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高粘度指数ポリアルファオレフィン(HVI−PAO)を含む工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項2】
前記組成物がポリマー性の増粘剤を含まない、請求項1の工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項3】
少なくとも1つのHVI−PAOを1乃至99重量%含む、請求項1又は2に記載の工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項4】
前記HVI−PAOが、還元金属酸化物触媒、メタロセン触媒、及びチグラ−ナッタ触媒から選択される触媒を用いて少なくとも1つのアルファオレフィンをオリゴマー化することにより得られることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項5】
低粘度PAO、エチレン/アルファオレフィン由来の低粘度ポリマー、エステル、ポリエーテル、ポリエーテルエステル、ポリアルキレングリコール(PAG)、アルキル芳香族、グループIベースストック、グループII及びグループIIIベースストックの水素化物されたから選択される少なくとも1つの成分を更に含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項6】
抗酸化剤、抗摩耗剤、極圧剤、消泡剤、界面活性剤/分散剤、防錆剤、及び腐食抑制剤、及び抗乳化剤から選択される少なくとも1つの添加剤を更に含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項7】
前記HVI−PAOがASTM D2270で測定される160より高い粘度指数(VI)を有することを特徴とし、及び0.19未満の分岐比、300乃至45,000の間の重量平均分子量、300乃至18,000の間の数平均分子量、1乃至5の間の分子量分布、−15℃以下の流動点、3未満の臭素価、C30乃至C300の炭素数、及び約3cSt乃至約15,000cStのASTM D445により100℃で測定される動粘度、
の中の少なくとも1つの特徴を有することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項8】
(a)1乃至95重量%の少なくとも1つのHVI−PAO、
(b)1乃至95重量%の、3cSt乃至50cStの範囲の粘度を有するグループIベースストック、グループII及びグループIIIベースストックの水素化物、約130以下のVI(粘度指数)を有するグループIVPAO、PIO、及びフィッシャートロプス炭化水素合成の生成物を水素化異性化して生成された潤滑油から選択される少なくとも1つのベースストック、及び
(c)1乃至50重量%のグループVベースストックから選択される1つのベースストック、を含む請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項9】
前記グループVベースストックがアルキル化芳香族、ポリアルキレングリコール、エステル、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項10】
前記グループVベースストックが約1乃20重量%の量で存在することを特徴とする請求項8及び9のいずれか1項に記載の工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項11】
前記グループVベースストックが約5乃至25重量%の量で存在することを特徴とする請求項8及び9のいずれか1項に記載の工業潤滑油又はグリース組成物。
【請求項12】
50乃至90%の従来のミネラルオイル、及び10乃至50重量%のすくなくとも1つのHVI−PAOを含む油圧オイル。
【請求項13】
VI改質剤を添加しないことを特徴とする、請求項12のオイル。
【請求項14】
5乃至95重量%の少なくとも1つのHVI−PAOを含み、消泡剤を含まない、合成循環オイル。
【請求項15】
25乃至95重量%の少なくとも1つのHVI−PAOを含む合成抄紙機オイル。
【請求項16】
1乃至95重量%の少なくとも1つのHVI−PAO添加する工程を含む、工業潤滑油又はグリース組成物の粘度指数を改善する方法。
【請求項17】
1乃至95重量%の少なくとも1つのHVI−PAOを添加することを特徴とする、工業潤滑油又はグリース組成物の発泡を抑制する方法。
【請求項18】
工業潤滑油又はグリースで潤動する転動体軸受(rolling element bearing)を含む装置において、請求項1乃至11のいずれか1つの工業潤滑油又はグリース組成物を使用する、装置の作動を改善する方法。
【請求項19】
潤滑油又はグリースを含むギアシステム、循環潤動システム、油圧システム、コンプレッサーシステム、バキュームシステム、金属加工機械、電気スイッチ、又はコネクターにおいて、請求項1乃至11のいずれか1つの工業潤滑油又はグリース組成物を使用する、このような装置の作動を改善する方法。

【公表番号】特表2009−500489(P2009−500489A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520238(P2008−520238)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/015992
【国際公開番号】WO2007/005094
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(599134676)エクソンモービル・ケミカル・パテンツ・インク (301)
【Fターム(参考)】