説明

工業用水のろ過方法及びろ過装置

【課題】工業用水の水処理を行う際に、膜ファウリングを抑止し、安定でかつ高い膜ろ過流束を維持する。
【解決手段】工業用水処理施設12からの配水が、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かに着目して、制御手段16にて、被処理水に投入する凝集剤の量を決定し、決定した量の凝集剤を被処理水に添加して、有機物を凝集させる。この際、配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、制御手段16において、該Al濃度又はFe濃度に基づき、被処理水に投入する凝集剤の量が決定される。このため、工業用水処理施設から配水される工業用水が、前処理を行ったものであるか否かに係らず、凝集剤の添加量の最適化が図られ、有機物の凝集が確実に行われた後、被処理水が膜ろ過装置20にてろ過される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜ろ過装置及び逆浸透膜ろ過方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、工業用水を、逆浸透(RO)膜を用いて工場内の純水や超純水を製造する装置の前処理として、多くは凝集沈殿装置や凝集加圧浮上装置が用いられている。又、工業用水をRO膜で脱塩処理する前処理として、限外ろ過膜を用いる方法も公知(例えば、特許文献1)である。このように、工業用水や河川水等の表流水から限外ろ過膜やRO膜を用いて、工場内部の製造用水あるいは飲料水を製造することは一般的に行われている。
しかし、工業用水や河川水等の表流水から限外ろ過膜や精密ろ過膜を用いて除濁や除菌を行い、かつ膜ろ過性能を安定に維持するのは困難で、前処理なしでは頻繁な薬品洗浄が必要であった。
【0003】
この原因は、主に工業用水や河川水等の表流水に含まれる、フミン質や糖・タンパク等の有機物が膜面や膜内部に浸入し、膜を汚染させる(膜ファウリングという)ことにある。
このため、膜ろ過の前処理として、ポリ塩化ナトリウム(PAC)や塩化第二鉄などの凝集剤を添加して、これらの凝集フロック内部に有機物を吸着不溶化させて、凝集・膜ろ過や凝集・沈殿・膜ろ過を行う方法が採用されることが多い。
【0004】
一方、従来から、河川水等の表流水等を原水とする膜ろ過装置において、原水の有機物濃度や、凝集後の水の有機物濃度を測定し、凝集条件等を制御する方法が考案されている(例えば、特許文献2、3)。又、膜ろ過水の有機物濃度を測定して、凝集条件等を制御する方法も考案されている(例えば、特許文献4)。
なお、水中の有機物濃度を連続して測定する手段としては、波長200〜400nmの紫外光の吸光度、あるいは波長400〜800nmの可視光の吸光度の差から有機物濃度を求める方法がある(例えば、特許文献5)。また、原水の蛍光強度を測定し、その測定値から有機物濃度を推算し水処理工程を制御する手法(例えば、特許文献6)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−229418号公報
【特許文献2】特開2007−203249号公報
【特許文献3】特開2007−245078号公報
【特許文献4】特開平08−117747号公報
【特許文献5】特開2007−245078号公報
【特許文献6】特開2004−351326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、工業用水は、上水道と異なり、取水原水の濁度が一定以上に上昇した期間のみ凝集沈殿等の前処理を行って配水することになっている。このため、河川水等の表流水等を原水とする場合とは異なり、前処理の有無によって被処理水の水質も相違し、PAC等の凝集剤を添加した後の有機物濃度にも差が生ずることが、本発明者らによって確認されている。具体的には、有機物濃度が高くなると、一定量の凝集剤添加では凝集効果が不十分で、膜ファウリングを招く事例が多くなることから、有機物濃度の変動に対して凝集剤添加濃度を可変する制御が求められていた。従って、工業用水から飲用水を製造する場合には、有機物の凝集剤の添加量にも特有の調整を行う必要がある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、工業用水の水処理を行う際に、膜ファウリングを抑止し、安定でかつ高い膜ろ過流束を維持することを可能とすることにある。そして、飲用水にも適した高品質のろ過水を安定供給することにある。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る工業用水のろ過方法及びろ過装置は、取水原水の濁度が一定以上に上昇した状態の工業用水と、取水原水を直接配水する場合の工業用水との違いを予測し、凝集制御を行うことで、膜ファウリングを抑止し、安定でかつ高い膜ろ過流束を維持するものである。
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0008】
(1)工業用水をろ過膜を用いてろ過する方法であって、工業用水処理施設から配水される工業用水が、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かに応じて、被処理水に投入する凝集剤の量を決定し、該決定した量の凝集剤を被処理水に添加して有機物を凝集させた後、被処理水をろ過膜にてろ過する工業用水のろ過方法(請求項1)。
本項に記載の工業用水のろ過方法は、取水原水に濁度成分の凝集処理(前処理)を行ったものであるか否かに着目して、被処理水に投入する凝集剤の量を決定し、決定した量の凝集剤を被処理水に添加して、有機物を凝集させる。このため、工業用水処理施設から配水される工業用水が、前処理を行ったものであるか否かに係らず、凝集剤の添加量の最適化が図られ、有機物の凝集が確実に行われるものである。そして、有機物を凝集させた後の被処理水をろ過膜にてろ過することにより、工業用水から飲用にも適した高品質のろ過水を得る。
なお、本説明では、例示するような有機物のうち、前処理を行うか否かの判断に係る成分を、特に「濁度成分」という。又、有機物を凝集させた後の被処理水のろ過過程には、凝集後の被処理水を膜ろ過する場合、凝集後の被処理水を砂ろ過した後に更に膜ろ過を行う場合、凝集後の被処理水の凝集沈殿上澄みを膜ろ過する場合、凝集後の被処理水の凝集沈殿上澄みを砂ろ過した後に更に膜ろ過を行う場合等、最終的に膜ろ過を行うものであれば、様々なろ過過程が含まれるものである。
【0009】
(2)上記(1)項において、工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、該Al濃度又はFe濃度に基づき、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断する工業用水のろ過方法(請求項2)。
本項に記載の工業用水のろ過方法は、工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、Al濃度又はFe濃度に基づき、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断して、被処理水に投入する凝集剤の量を決定するものである。
【0010】
(3)工業用水をろ過膜を用いてろ過する方法であって、工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、該Al濃度又はFe濃度に基づき、被処理水に投入する凝集剤の量を決定する。そして、決定した量の凝集剤を被処理水に添加して有機物を凝集させた後、被処理水をろ過膜にてろ過する工業用水のろ過方法(請求項3)。
本項に記載の工業用水のろ過方法は、工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度に着目して、被処理水に投入する凝集剤の量を決定し、決定した量の凝集剤を被処理水に添加して、有機物を凝集させる。このため、工業用水処理施設から配水される工業用水に対する、凝集剤の添加量の最適化が図られ、有機物の凝集が確実に行われるものである。そして、有機物を凝集させた後の被処理水をろ過膜にてろ過することにより、工業用水から飲用にも適した水を得る。
【0011】
(4)上記(2)、(3)項において、配水される工業用水の取水原水の有機物濃度xと、有機物濃度xに基づく添加量yの凝集剤添加後の、有機物濃度z、y=f(x)、z=g(y)、及び、取水原水に濁度成分の凝集処理を行った工業用水の有機物濃度xと、有機物濃度xに基づく添加量yの凝集剤添加後の、有機物濃度z、y=f(x)、z=g(y)、を予め把握し、前記有機物濃度zがzとなるための凝集剤の添加量に係る補正係数α、y=αy、を求め、配水される工業用水のAl濃度又はFe濃度に基づき、凝集剤添加量y又はyを選択的に決定する工業用水のろ過方法(請求項4)。
本項に記載の工業用水のろ過方法は、配水される工業用水の取水原水の有機物濃度xと、添加量yの凝集剤添加後の有機物濃度zの関係、及び、取水原水に濁度成分の凝集処理を行った工業用水の有機物濃度xと、添加量yの凝集剤添加後の有機物濃度zの関係を、予め実験等により把握する。そして、有機物濃度zがzとなるための凝集剤の添加量に係る補正係数αを求め、配水される工業用水のAl濃度又はFe濃度に基づき、被処理水に投入する凝集剤添加量y又はyを選択的に決定するものである。なお、y=f(x)、z=g(y)、y=f(x)、z=g(y)の各関係式は、原水に含まれる有機物の種類や濃度、凝集剤の種類、その他の諸条件に応じて、適宜定められるものである(以下同様)。
【0012】
(5)上記(2)から(4)項において、被処理水中の不溶存のAl又はFeを被処理水中に溶解させて、排水中の総Al又は総Fe量を測定する工業用水のろ過方法(請求項5)。
本項に記載の工業用水のろ過方法は、被処理水中の不溶存のAl又はFeを被処理水中に溶解させ、排水中の総Al又は総Fe量を考慮した、Al濃度又はFe濃度に基づき、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断して、被処理水に投入する凝集剤の量を決定するものである。
【0013】
(6)上記(1)から(5)項において、前記ろ過膜に限外ろ過膜又は精密ろ過膜を用いる工業用水のろ過方法(請求項6)。
本項に記載の工業用水のろ過方法は、ろ過膜に限外ろ過膜又は精密ろ過膜を用い、有機物を凝集させた後の被処理水をろ過することにより、工業用水から飲用にも適した高品質のろ過水を得るものである。
【0014】
(7)工業用水をろ過膜を用いてろ過する装置であって、工業用水処理施設から配水される工業用水が、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断し、被処理水に投入する凝集剤の量を決定する制御手段と、該決定した量の凝集剤を被処理水に添加して有機物を凝集させる反応槽と、該反応槽内の被処理水をろ過する膜ろ過装置とが含まれる工業用水のろ過装置(請求項7)。
本項に記載の工業用水のろ過装置は、工業用水処理施設からの配水が、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かに着目して、制御手段にて、被処理水に投入する凝集剤の量を決定し、決定した量の凝集剤を被処理水に添加して、有機物を凝集させる。このため、工業用水処理施設から配水される工業用水が、前処理を行ったものであるか否かに係らず、凝集剤の添加量の最適化が図られ、有機物の凝集が確実に行われるものである。そして、有機物を凝集させた後の被処理水が膜ろ過装置にてろ過されることにより、工業用水から飲用にも適した高品質のろ過水が得られる。
【0015】
(8)上記(7)項において、前記制御手段は、工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、該Al濃度又はFe濃度に基づき、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断する制御ロジックを備える工業用水のろ過装置(請求項8)。
本項に記載の工業用水のろ過装置は、工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、制御手段において、該Al濃度又はFe濃度に基づき、工業用水処理施設から配水される工業用水が、前処理を行ったものであるか否かを判断し、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断する。そして、被処理水に投入する凝集剤の量が決定されるものである。
【0016】
(9)工業用水をろ過膜を用いてろ過する装置であって、工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、該Al濃度又はFe濃度に基づき、被処理水に投入凝集剤の量を決定する制御ロジックを備える制御手段と、該決定した量の凝集剤を被処理水に添加して有機物を凝集させる反応槽と、該反応槽内の被処理水をろ過する膜ろ過装置とが含まれる工業用水のろ過装置。(請求項9)。
本項に記載の工業用水のろ過装置は、工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度に着目して、制御手段にて、被処理水に投入する凝集剤の量を決定し、決定した量の凝集剤を被処理水に添加して、有機物を凝集させる。このため、工業用水処理施設から配水される工業用水に対する、凝集剤の添加量の最適化が図られ、有機物の凝集が確実に行われるものである。そして、有機物を凝集させた後の被処理水が膜ろ過装置にてろ過されることにより、工業用水から飲用にも適した水を得が得られる。
【0017】
(10)上記(8)、(9)項において、前記制御手段は、予め把握した、配水される工業用水の取水原水の有機物濃度xと、有機物濃度xに基づく添加量yの凝集剤添加後の、有機物濃度z、y=f(x)、z=g(y)、及び、取水原水に濁度成分の凝集処理を行った工業用水の有機物濃度xと、有機物濃度xに基づく添加量yの凝集剤添加後の、有機物濃度z、y=f(x)、z=g(y)、から、前記有機物濃度zがzとなるための凝集剤の添加量に係る補正係数α、y=αy、を求め、配水される工業用水のAl濃度又はFe濃度に基づき、凝集剤添加量y又はyを選択的に決定する制御ロジックを備える工業用水のろ過装置(請求項10)。
本項に記載の工業用水のろ過装置は、配水される工業用水の取水原水の有機物濃度xと、添加量yの凝集剤添加後の有機物濃度zの関係、及び、取水原水に濁度成分の凝集処理を行った工業用水の有機物濃度xと、添加量yの凝集剤添加後の有機物濃度zの関係を、予め実験等により把握する。そして、有機物濃度zがzとなるための凝集剤の添加量に係る補正係数αを求め、制御手段において、配水される工業用水のAl濃度又はFe濃度に基づき、被処理水に投入する凝集剤添加量y又はyが選択的に決定されるものである。
【0018】
(11)上記(8)から(10)項において、前記取水槽で、被処理水中の不溶存のAl又はFeを被処理水中に溶解させて、排水中の総Al又は総Fe量を測定する工業用水のろ過装置(請求項11)。
本項に記載の工業用水のろ過装置は、取水槽で、被処理水中の不溶存のAl又はFeを被処理水中に溶解させ、排水中の総Al又は総Fe量を考慮した、Al濃度又はFe濃度に基づき、制御手段において、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断して、被処理水に投入する凝集剤の量が決定されるものである。
【0019】
(12)上記(7)から(11)項において、前記膜ろ過装置に、限外ろ過膜又は精密ろ過膜が用いられる工業用水のろ過装置(請求項12)。
本項に記載の工業用水のろ過装置は、膜ろ過装置に限外ろ過膜又は精密ろ過膜を用い、有機物を凝集させた後の被処理水をろ過することにより、工業用水から飲用にも適した高品質のろ過水が得られるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明はこのように構成したので、工業用水の水処理を行う際に、膜ファウリングを抑止し、安定でかつ高い膜ろ過流束を維持することが可能となる。そして、飲用水にも適した高品質のろ過水を安定供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るろ過装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るろ過装置において、配水される工業用水が、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かに応じて、被処理水に投入する凝集剤の量を決定し、決定した量の凝集剤を被処理水に添加して有機物を凝集させ、凝集沈殿上澄みをろ過膜にてろ過する、処理フローを示すブロック図である。
【図3】配水される工業用水の取水原水の有機物濃度と添加される凝集剤の濃度との関係、及び、取水原水に濁度成分の凝集処理を行った工業用水の有機物濃度と添加される凝集剤の濃度との関係を例示するグラフである。
【図4】本発明の実施例に係る、配水される工業用水の取水原水の有機物濃度と添加される凝集剤の濃度との関係、及び、取水原水に濁度成分の凝集処理を行った工業用水の有機物濃度と添加される凝集剤の濃度との関係を例示するグラフである。
【図5】本発明の実施例に係る膜ろ過差圧増加速度と、比較例1、2の膜ろ過差圧増加速度とを示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、従来技術と同一部分若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
図1に示されるように、本発明の実施の形態に係るろ過装置10の全体構成は、工業用水処理施設12から配水される工業用水を貯留する取水槽14と、取水槽14内の被処理水の水質を判断し、投入する凝集剤の量を決定する制御手段16と、決定した量の凝集剤を被処理水に添加して有機物を凝集させる反応槽18と、反応槽18の凝集沈殿上澄みをろ過する膜ろ過装置20とが含まれるものである。
【0023】
又、膜ろ過装置20は、反応槽18にて凝集した有機物を除いた凝集沈殿上澄みを、膜ろ過ポンプ22によって膜モジュール24へと送水し、限外ろ過膜又は精密ろ過膜を用いた膜モジュール24でろ過を行い、処理水を処理水槽26に貯留させる構成を有している。又、処理水槽26内の処理水を逆洗ポンプ28によって膜モジュール24へと送水し、膜モジュール24の洗浄を行うことができる。図中、符号30は処理水系の配管を示し、符号32は逆洗排水の配管を示している。
【0024】
なお、工業用水処理施設12は、取水原水を貯留して、必要に応じ所定の濁度成分を凝集させる凝集槽(前凝集槽)34と、凝集槽34にて凝集した濁度成分を沈殿させる沈殿槽36と、凝集槽34に注入する凝集剤の貯留槽38と、貯留槽38の凝集剤を汲み出す凝集剤注入ポンプ40とを備えている。なお、図示の例では、工業用水処理施設12の、凝集剤の貯留槽38及び凝集剤注入ポンプ40を、ろ過装置10の反応槽18への凝集剤の投入にも用いているが、適宜、ろ過装置10自体に独立した凝集剤の貯留槽38及び凝集剤注入ポンプ40を配置する場合もある。なお、図示の例では、工業用水処理施設12とろ過装置10とは別構成であるが、ろ過装置10に工業用水処理施設12を含む構成を採用することも可能である。
【0025】
ところで、制御手段16は、図2に示されるように、取水槽14に貯留された被処理水から、Al濃度を測定する測定器42と、測定器42の測定結果に基づき、後述する所定の制御ロジックに沿って反応槽18に投入する凝集剤の添加量を決定し、凝集剤注入ポンプ40を作動させて凝集剤の貯留槽38から決定された量の凝集剤を反応槽18へと投入する演算器44とを備えている。演算器44には、パーソナルコンピュータ等の電子演算装置を用いることが可能である。なお、必要に応じ、取水槽14を省略し、測定器42の取水を、工業用水処理施設12から続く取水配管より、直接的に行うこととしても良い。
【0026】
又、Al濃度を測定する測定器42には、オンライン方イオンクロマトグラフィ、原子吸光光度法に基づく測定装置、あるいは、試薬を用いる比色法等によって適宜測定を行うものである。この際、被処理水に硫酸や塩酸を添加してpH2.0以下に調整し、被処理水中の不溶存のAlを被処理水中に溶解させる。すなわち、凝集槽34には、水酸化アルミニウムのフロックとして有機物と一緒に沈殿する沈殿物と、水中に浮いた状態で沈殿されずに工業用水中に浮遊してくるもの、および、凝集反応せずに水中に溶け込んで工業用水中に存在するものとが存在している。このうち、取水槽14に流入する被処理水中には、水中に浮いた状態で沈殿されずに工業用水中に浮遊してくるものに含まれる不溶存のAlと、凝集反応せずに水中に溶け込んで工業用水中に存在するAlとが存在することから、被処理水中の不溶存のAlを被処理水中に溶解させて、排水中の総Alを測定することが望ましい。
【0027】
なお、工業用水処理施設12において、凝集剤として鉄系の塩化第二鉄を用いる場合にも、上記と同様の構成を有する総鉄測定装置を用いる。又、鉄系凝集剤(塩化第二鉄又は硫酸第二鉄)に起因して、Alと同様に3つの態様に区分されることから、被処理水中の不溶存のFeを被処理水中に溶解させて、排水中の総Fe量を測定することが望ましい。
【0028】
さて、制御手段16の演算器44が備える制御ロジックは、次の通りである。
ジャーテスト(凝集試験)によって、配水される工業用水の取水原水の有機物濃度xと、有機物濃度xにもとづく添加量yの凝集剤添加後の、有機物濃度(紫外部吸光度E260)zの関係、y=f(x)、z=g(y)を予め把握する。同様に、取水原水に濁度成分の凝集処理(前処理)を行った工業用水の有機物濃度xと、有機物濃度xに基づく添加量yの凝集剤添加後の、有機物濃度zの関係、y=f(x)、z=g(y)を把握する。
【0029】
例えば、図3に示される例では、取水原水(河川表流水)に投入するPAC添加量Yに応じて変化する有機物濃度Zをジャーテストによって得た結果と、取水原水に前処理としてPACを10mg/Lを添加してジャーテストを行い、30分間静置した後、PAC添加量Yに応じて変化する有機物濃度Zを再びジャーテストを行って得た結果とが示されている。図3の例では、飲用水としての利用にも適した閾値となる、E260が0.03abs/50mmまで低下させるために必要なPAC添加量(添加濃度)は、Yで20mg/L、Yで30mg/Lとなる。
【0030】
そこで、有機物濃度zがzとなるための凝集剤の添加量に係る補正係数α、y=αyを求める。そして、例えば、制御手段16の演算器44が備える制御ロジックは、測定器42により検知される、配水される工業用水のAl濃度に基づき、演算器44の記憶領域に設定された凝集剤添加量yに補正係数αを掛けることで、凝集剤添加量yを求め、y又はyを選択的に決定するものである。
なお、図3の例において、前処理でのPACの添加量が、飲用水としての閾値となるE260が0.03abs/50mmとなるまで低下させるために必要な添加量と異なっている(少ない)のは、前者の投入量は、あくまでも濁度成分の凝集に必要な量を添加しているに過ぎないからであり、有機物成分の凝集に必要な量は、通常はそれよりも多くなることによるものである。
【0031】
さて、上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。まず、本発明の実施の形態では、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かに着目して、被処理水に投入する凝集剤の量(y、y)を決定し、決定した量の凝集剤を被処理水に添加して、有機物を凝集させている。このため、工業用水処理施設12から配水される工業用水が、前処理を行ったものであるか否かに係らず、凝集剤の添加量の最適化が図られ、有機物の凝集が確実に行われるものである。そして、凝集沈殿上澄みを膜モジュール24にてろ過することにより、工業用水から、飲用にも適した高品質のろ過水を得ることが可能となる。
【0032】
又、工業用水処理施設12から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、Al濃度又はFe濃度に基づき、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断して、被処理水に投入する凝集剤の量を決定するものである。
具体的には、配水される工業用水の取水原水の有機物濃度xと、添加量yの凝集剤添加後の有機物濃度zの関係、及び、取水原水に濁度成分の凝集処理を行った工業用水の有機物濃度xと、添加量yの凝集剤添加後の有機物濃度zの関係を、予め実験等により把握し、有機物濃度zがzとなるための凝集剤の添加量に係る補正係数αを求め、配水される工業用水のAl濃度又はFe濃度に基づき、被処理水に投入する凝集剤添加量y又はyを選択的に決定するものである。
【0033】
しかも、被処理水中の不溶存のAl又はFeを被処理水中に溶解させ、排水中の総Al又は総Fe量を考慮した、Al濃度又はFe濃度に基づき、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断することで、被処理水に投入する凝集剤の適切な添加量を決定することができる。
なお、膜モジュール24のろ過膜に、限外ろ過膜又は精密ろ過膜を用い、凝集沈殿上澄みをろ過膜にてろ過することにより、工業用水から、飲用にも適した高品質のろ過水を得ることが可能となる。
又、本発明の実施の形態では、凝集後の被処理水の凝集沈殿上澄みを膜ろ過する場合を例示して説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、有機物を凝集させた後の被処理水のろ過過程に、凝集後の被処理水を膜ろ過する場合、凝集後の被処理水を砂ろ過した後に更に膜ろ過を行う場合、凝集後の被処理水の凝集沈殿上澄みを砂ろ過した後に更に膜ろ過を行う場合等、最終的に膜ろ過を行うものであれば、様々なろ過過程が含まれるものであることは、理解されるであろう。
【実施例】
【0034】
本発明に係るろ過装置によりろ過を行なった際の、膜モジュール24の膜ろ過差圧増加速度を、比較例1、2の膜ろ過差圧増加速度と共に図5の図表に示している。具体的条件設定は、以下の通りである。
まず、工業用水処理施設の構成は図1と同様であり、凝集剤としてPACが用いられる。ここで、前凝集槽34の滞留時間は15分、沈殿槽36の水面積負荷は10m/dである。
ろ過装置の構成も図1と同様であり、膜モジュールは、公称孔径0.05μm、膜面積11mの中空紙膜モジュール一本を用いている。そして、取水槽14からは所定量を連続的に測定器42(図2参照)へと流下させる。測定器42は、硫酸注入設備とオンライン型イオンクロマトグラフィから構成され、原水をpH=1.5程度にした上でアルミニウム濃度を測定した。
【0035】
通水試験に先立ち、河川水を用いてジャーテストを行った結果が図4に示されている(前処理なし)。なお、この時の原水濁度は18.9度であった。また、この結果にもとづき、PAC 10 mg/Lを添加して前凝集沈殿させた凝集沈殿上澄みについてもジャーテストを行った(図4の前処理PAC 10 mg/L)。前凝集を行ったときの溶存アルミニウム濃度は0.13 mg/Lであった。又、膜ろ過は膜ろ過流束4 m/dで膜ろ過し、30分ごとに逆洗を行った。
【0036】
実施例(本発明によるもの)では、この結果にもとづき、原水の溶解性アルミニウムを0.1 mg/L検出しないときのPAC添加濃度を30mg/Lとし、同値を検出した時のPAC添加濃度を50 mg/Lとする制御ロジックにて、凝集膜ろ過させる方式とした。
これに対し、比較例1では,原水(前凝集沈殿水)のE260を測定し、特許文献2記載の従来手法にもとづき、PAC添加濃度を決定する方式として、原水の溶解性E260が0.12〜0.13 abs./50mmのとき、PACを20 mg/L添加させた。更に、比較例2では、PACを添加せずに直接膜ろ過を行った。
【0037】
実施例と比較例の原水および通水条件と、膜ろ過差圧の増加速度は表1に示されている。
膜ろ過差圧増加速度は、実施例;0.02 kPa/d、比較例1;5 kPa/d、比較例2;15 kPa/dとなり、実施例では、膜ろ過差圧増加速度は極めて小さく安定であるのに対して、比較例1、2では膜ろ過差圧増加速度は大きく、頻繁な薬品洗浄が必要となった。また、原水濁度が0.5度、溶解性E260が0.031 abs./50 mm、溶解性Alが0.02 mg/Lのときに、PACを添加せずに膜ろ過を行った時の、膜ろ過差圧増加速度は実施例と同じく0.02 kPa/dであった。
このように、本発明によれば、工業用水の水処理を行う際に、膜ファウリングを抑止し、安定でかつ高い膜ろ過流束を維持することが可能であることが実証された。
【符号の説明】
【0038】
10:ろ過装置、12:工業用水処理施設、14:取水槽、16:制御手段、18:反応槽、20:膜ろ過装置、24:膜モジュール、26:処理水槽、30:処理水系の配管、34:凝集槽(前凝集槽)、36:沈殿槽、38:凝集剤の貯留槽、42:測定器、44:演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用水をろ過膜を用いてろ過する方法であって、
工業用水処理施設から配水される工業用水が、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かに応じて、被処理水に投入する凝集剤の量を決定し、該決定した量の凝集剤を被処理水に添加して有機物を凝集させた後、被処理水をろ過膜にてろ過することを特徴とする工業用水のろ過方法。
【請求項2】
工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、該Al濃度又はFe濃度に基づき、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断することを特徴とする請求項1記載の工業用水のろ過方法。
【請求項3】
工業用水をろ過膜を用いてろ過する方法であって、
工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、該Al濃度又はFe濃度に基づき、被処理水に投入する凝集剤の量を決定し、該決定した量の凝集剤を被処理水に添加して有機物を凝集させた後、被処理水をろ過膜にてろ過することを特徴とする工業用水のろ過方法。
【請求項4】
配水される工業用水の取水原水の有機物濃度xと、有機物濃度xに基づく添加量yの凝集剤添加後の、有機物濃度z
=f(x)、z=g(y)、
及び、取水原水に濁度成分の凝集処理を行った工業用水の有機物濃度xと、有機物濃度xに基づく添加量yの凝集剤添加後の、有機物濃度z
=f(x)、z=g(y)、
を予め把握し、前記有機物濃度zがzとなるための凝集剤の添加量に係る補正係数α、
=αy
を求め、配水される工業用水のAl濃度又はFe濃度に基づき、凝集剤添加量y又はyを選択的に決定することを特徴とする請求項2又は3記載の工業用水のろ過方法。
【請求項5】
被処理水中の不溶存のAl又はFeを被処理水中に溶解させて、排水中の総Al又は総Fe量を測定することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項記載の工業用水のろ過方法。
【請求項6】
前記ろ過膜に限外ろ過膜又は精密ろ過膜を用いることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の工業用水のろ過方法。
【請求項7】
工業用水をろ過膜を用いてろ過する装置であって、
工業用水処理施設から配水される工業用水が、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断し、被処理水に投入する凝集剤の量を決定する制御手段と、該決定した量の凝集剤を被処理水に添加して有機物を凝集させる反応槽と、該反応槽内の被処理水をろ過する膜ろ過装置とが含まれることを特徴とする工業用水のろ過装置。
【請求項8】
前記制御手段は、工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、該Al濃度又はFe濃度に基づき、取水原水に濁度成分の凝集処理を行ったものであるか否かを判断する制御ロジックを備えることを特徴とする請求項6記載の工業用水のろ過装置。
【請求項9】
工業用水をろ過膜を用いてろ過する装置であって、
工業用水処理施設から配水された工業用水のAl濃度又はFe濃度を測定し、該Al濃度又はFe濃度に基づき、被処理水に投入する凝集剤の量を決定する制御ロジックを備える制御手段と、該決定した量の凝集剤を被処理水に添加して有機物を凝集させる反応槽と、該反応槽内の被処理水をろ過する膜ろ過装置とが含まれることを特徴とする工業用水のろ過装置。
【請求項10】
前記制御手段は、予め把握した、配水される工業用水の取水原水の有機物濃度xと、有機物濃度xに基づく添加量yの凝集剤添加後の、有機物濃度z
=f(x)、z=g(y)、
及び、取水原水に濁度成分の凝集処理を行った工業用水の有機物濃度xと、有機物濃度xに基づく添加量yの凝集剤添加後の、有機物濃度z
=f(x)、z=g(y)、
から、前記有機物濃度zがzとなるための凝集剤の添加量に係る補正係数α、
=αy
を求め、配水される工業用水のAl濃度又はFe濃度に基づき、凝集剤添加量y又はyを選択的に決定する制御ロジックを備えることを特徴とする請求項8又は9記載の工業用水のろ過装置。
【請求項11】
前記取水槽で、被処理水中の不溶存のAl又はFeを被処理水中に溶解させて、排水中の総Al又は総Fe量を測定することを特徴とする請求項8から10のいずれか1項記載の工業用水のろ過装置。
【請求項12】
前記膜ろ過装置に、限外ろ過膜又は精密ろ過膜が用いられることを特徴とする請求項7から11のいずれか1項記載の工業用水のろ過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−161304(P2011−161304A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23095(P2010−23095)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(596136316)株式会社ウェルシィ (18)
【Fターム(参考)】