説明

工業用流体の酸化安定性を改良する方法

工業用流体が、エポキシ化植物油又は合成エステルと、少なくとも一種類の酸化防止剤とを組合わせたものから構成されている、酸化に安定な生物分解性工業用流体が開示されている。工業用流体の酸化安定性を改良する方法も開示されており、それは、油圧流体の基礎油として、エポキシ化合成エステルを、少なくとも一種類の酸化防止剤と組合わせて用いることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用流体(industrial fluid)に関する。特に本発明は、酸化安定性、容易な生物分解性、低い揮発性、大きな粘度指数を示す改良された油圧流体(hydraulic fluid)に関する。
【0002】
「油圧流体の酸化安定性を改良する方法」(METHOD FOR IMPROVING THE OXIDATIVE STABILITYOF HYDRAULIC FLUIDS)と題する2005年3月2日に出願された米国特許仮出願No.60/657,395による米国法令第35章第120節に基づく利益を我々は主張するものである。
【背景技術】
【0003】
最近、米国及び欧州では、容易に生物分解でき、揮発性が低く、粘度指数が大きい工業用流体を開発する傾向が強くなってきている。この環境に優しい天然エステル流体に対する要望は、天然エステル流体が、炭素循環バランスに与える影響が少ない再生可能な資源であると言うグリーン運動での確信及びこれらの流体の生物分解性が問題の廃棄コストを削減すると言う確信を含めた種々の因子によって駆り立てられている。
【0004】
更に、鉱油ミストのために閾値限界値(TLV)を劇的に低下しようとする金属加工工業での動向がある。現在、油ミストに露出されることは機械工の長期間の呼吸に関する健康に何らかの影響を与えていると言う実質的な証拠は現在存在していないが、米国政府工業衛生学者協議会(ACGIH)は、0.2mg/mのTLVを提案しており、それは従来の5mg/mのTLVよりも1/25に減少したものになっている〔J.A.バコウスキー(Bukowski)、Applied Occupation and Environmental Hygiene, 18: 828-837 (2003)参照〕。作業場から油を除去しようとするそのような圧力の増大に対応して、それに代わる基礎原料を見出すことに関心が深まっている。
【0005】
キャノーラ(canola)及び菜種油を工業用流体として用いることは可能であることを示す多くの論文が発表されている。しかし、それらの酸化安定性が低いため、それらの植物油を保護するために多量の酸化防止剤を必要とし、そのことが工業的にそれらが広く用いられるのを妨げている。特に、2〜3%より高い多価不飽和レベルは、重合架橋をもたらすのみならず、製品を使用中に酸化及び生物学的劣化を受ける結果になる。更に、これらのグリセリドは、数週間、数カ月、又は数年の潤滑剤寿命が期待される殆どの用途に対し、加水分解的に不安定である。典型的には、微生物増殖を防除するために幾つかの段階を取らない限り、モノ不飽和物(例えば、オレエート)は、エマルジョンとしての用途で使用するには余りにも早く生物分解され過ぎる。
【0006】
水素化に続き精留するか、又は作物を遺伝子組み換えしてオレイン酸含有量を増大することにより、多価不飽和脂肪物質の量を減少し、それにより不安定性を減少しようとする試みが行われてきている。例えば、高エルカ(オレイン)酸菜種(HEAR)油を生産する時に、二重及び三重結合脂肪酸(即ち、リノール酸及びリノレン酸)の%を非常に低いレベルまで減少させる。その結果、HEAR油は、大きな酸化安定性を有し、それにより加熱で生ずる堆積物が一層少なくなる。残念ながら性能を改良するために必要なその余分な処理が、これらの生成物のコストを2倍より大きくすることがある。
【0007】
米国特許第6,531,429号明細書には、チオ燐酸エステル及びジチオ燐酸エステル、又は燐酸チオエステル、及びポリオール部分エステル、アミン、及びエポキシドの群からの油添加剤を含む組成物が記載されており、それらの潤滑剤組成物を、グリース、金属加工流体、歯車流体、又は油圧流体のような潤滑剤の性能特性を改良するのに用いることも記載されている。チオ燐酸エステル及びジチオ燐酸エステル、又は燐酸チオエステルは、組成物中に400ppmより少ない濃度で存在するのが好ましい。
【0008】
米国特許第6,583,302号明細書には、不飽和脂肪酸置換基を有するトリグリセリド油を、不飽和部位をC〜C10ジエステルへ転化する変性が記載されている。得られた誘導体は、熱及び酸化安定性を特徴とし、低温性能特性を有し、環境に優しく、油圧流体、潤滑剤、金属加工流体、及び他の工業用流体としての用途を有すると言われている。トリグリセリド油は、一工程又は二工程反応でジエステルへ転化されるエポキシ化植物油から最も容易に製造される。
【0009】
フリーデル(Flider)F.J.は、INFORM 6(9): 1031-1035 (September, 1995)で、あらゆる潤滑剤用途で用いることができる一種類で多目的に用いられる植物油は存在しないが、HEAR油及びキャノーラ油は、経済的にも効力的にも潤滑剤工業での広い階層の要求に適合することを報告している。著者は、慣用的植物の品種改良及び遺伝子組み換えで進歩し続けることにより、潤滑剤工業の急速に生じつつある要求を満たす機能性及び性能特性を有する更に広い範囲の菜種油が開発されるであろうと予測している。
【0010】
ウー(Wu)X.その他は、JAOCS 77(5): 561-563 (May, 2000)で、生物分解性潤滑剤としてエポキシ化菜種油を適用することを記載している。彼らは、エポキシ化処理が基礎原料の生物分解性に悪影響を与えることはなく、炉試験及び回転酸素ボンベ試験の両方の結果に基づいて、菜種油に比較してエポキシ化油は優れた酸化安定性をもち、摩擦の研究により、一層よい摩擦減少及び極圧能力を有することを見出している。更に、一組の酸化防止剤を添加することにより酸化安定性を劇的に向上させることができた。エポキシ化菜種油の摩擦性能の説明として、摩擦重合フイルムの形成が提案されている。
【0011】
アドバリュー(Adhvaryu)A.その他は、Industrial Crops and Products 15: 247-254 (2002)で、或る高温潤滑剤用途で、大豆油(SBO)及び遺伝子変性高オレイン大豆油(HOSBO)に勝るエポキシ化大豆油(ESBO)の改良された性能を実証している。彼らは、それらの油の、酸化生成物の赤外線分光分析による同定と組合せてマイクロ酸化及び示差走査熱量測定を用いて熱的及び堆積物形成傾向を確認し、それらの油中のフェノール系酸化防止剤の機能も論じている。高荷重及び低速での境界潤滑性を決定し、それらの植物油の構造的差異に基づきそれらの変動を説明している。
【0012】
前記開示は、参考のため全体的にここに入れてある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
沈澱物の形成を減少し、酸化安定性を増大する別の解決方法は、多価不飽和油をエポキシ化し、例えば、エポキシ化キャノーラ油(ECO)にすることである。現在植物油を保護するのに多量の酸化防止剤が要求されている。しかし、エポキシド結合の増大した安定性により、従来の植物油と比較して、ECOを安定化するのに必要な酸化防止剤の量は一層少なくてよい。更に、ECOの価格は従来のキャノーラ油よりも高いが、HEARよりは遥かに低い。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、酸化に安定な生物分解性工業用流体を製造するのにエポキシ化植物油又は合成エステルを用いることに関し、然も前記流体を少なくとも一種類の酸化防止剤と組合せて用いる。本発明の内容では、工業用流体とは、自動車エンジンオイル、二行程エンジンオイル、航空機タービンオイル、自動車ギアオイル、工業用ギアオイル、油圧流体、圧縮機油、金属加工流体、織物油、チェーンソー油、及びグリースのために用いられる種類の生物分解性油のいずれでもよいものとして定義する。
【0015】
特に、本発明は、エポキシ化植物油及び少なくとも一種類の酸化防止剤を含む生物分解性工業用流体に関する。
【0016】
好ましい態様として、本発明は、エポキシ化トールオイルエステル及び少なくとも一種類の酸化防止剤を含む油圧流体に関する。
【0017】
別の態様として、本発明は、前記工業用流体の基礎油としてエポキシ化合成エステルを用い、然も、前記エステルを少なくとも一種類の酸化防止剤と組合せて用いることを含む工業用流体の酸化安定性を改良する方法に関する。工業用流体は油圧流体であるのが好ましい。
【0018】
(好ましい実施形態の説明)
本発明の実施で用いることができるトールオイル(tall oil)は、それをエポキシ化する前又はした後で、エステル化することができる。エステル部分のアルキル部分は、1〜約18個の炭素原子を含むのが好ましく、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、それらの異性体、等である。エステル基のアルキル部分は、異性体を含め、4〜8個の炭素原子を含むのが好ましい。一層好ましくは、アルキル部分は、2−エチルヘキシル、即ち、オクチルの異性体である。
【0019】
トールオイルのエステル化及びエポキシ化は、当業者によく知られた方法により遂行することができる。
【0020】
本発明の実施で用いることができる酸化防止剤の例には、アルキル化ジフェニルアミン及びN−アルキル化フェニレンジアミンが含まれる。第二級ジアリールアミンはよく知られた酸化防止剤であり、本発明の実施で用いることができる第二級ジアリールアミンの種類に特別な限定はない。第二級ジアリールアミン酸化防止剤は、一般式、R11−NH−R12(式中、R11及びR12は、夫々独立に、6〜46個の炭素原子を有する置換又は非置換アリール基を表す)を有するのが好ましい。アリール基についての置換基の例は、1〜40個の炭素原子を有するアルキルのような脂肪族炭化水素基、ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、N−アルキル化アミノ、N′,N−ジアルキル化アミノ、ニトロ、又はシアノである。アリールは、置換又は非置換フェニル又はナフチルであるのが好ましく、特にアリール基の一方又は両方が4〜24個の炭素原子を有するアルキルのようなアルキルで置換されている場合である。本発明の実施で用いることができる好ましいアルキル化ジフェニルアミンには、ノニル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン〔例えば、ジ(オクチルフェニル)アミン〕、スチレン化ジフェニルアミン、オクチル化スチレン化ジフェニルアミン、及びブチル化オクチル化ジフェニルアミンが含まれる。
【0021】
1〜40個の炭素原子を有するアルキル部分は、完全に飽和しているか、部分的に不飽和の炭化水素鎖にすることができる直鎖又は分岐鎖を有するものにすることができ、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、オレイル、ノナデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、トリコンチル、ペンタトリアコンチル、テトラコンチル、等、及びそれらの異性体及び混合物にすることができる。
【0022】
本発明の実施で用いることができる幾つかの第二級ジアリールアミンの例には次のものが含まれる:ジフェニルアミン、ジアルキル化ジフェニルアミン、トリアルキル化ジフェニルアミン、又はそれらの混合物、3−ヒドロキシジフェニルアミン、4−ヒドロキシジフェニルアミン、N−フェニル−1,2−フェニレンジアミン、N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、モノ−及び/又はジ−ブチルジフェニルアミン、モノ−及び/又はジ−オクチルジフェニルアミン、モノ−及び/又はジ−ノニルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、ジペンチルジフェニルアミン、モノ−及び/又はジ−(α−メチルスチリル)ジフェニルアミン、モノ−及び/又はジ−スチリルジフェニルアミン、N,N′−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ビス(1,4−ジメチルフェニル)−p−フェニレンジアミン、N,N′−ビス(1−エチル−3−メチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N′−ビス(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−(ナフチル−2)−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1−メチルフェニル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、4−(p−トルエンスルホンアミド)ジフェニルアミン、4−イソプロポキシジフェニルアミン、t−オクチル化N−フェニル−1−ナフチルアミノ、及びモノ−及びジアルキル化t−ブチル−t−オクチルジフェニルアミンの混合物。
【0023】
本発明の実施で用いることができる種類の酸化防止剤の種類の別の例は、立体障害フェノール型のものである。油溶性フェノール化合物の例として、アルキル化モノフェノール、アルキル化ヒドロキノン、ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、アルキリデンビスフェノール、ベンジル化合物、アシルアミノフェノール、及び立体障害フェノール置換アルカノイックアシッド(alkanoic acid)のエステル及びアミドを列挙することができる。本発明の好ましい態様として、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロ桂皮酸、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールのC〜C分岐鎖アルキルエステル、及びそれらの混合物を、油圧流体組成物に含有させる。
【0024】
本発明の添加剤と組合せて用いることができる酸化防止剤の別の例は、油溶性銅化合物等である。
【0025】
次のものは、そのような添加剤の例であり、ケムチュラ社(Chemtura Corporation)から市販されている:就中、ナウガルーベ(Naugalube)(登録商標名)438、ナウガルーベ438L、ナウガルーベ640、ナウガルーベ635、ナウガルーベ680、ナウガルーベAMS、ナウガルーベAPAN、ナウガード(Naugard)(登録商標名)PANA、ナウガルーベTMQ、ナウガルーベ531、ナウガルーベ431、ナウガードBHT、ナウガルーベ403、及びナウガルーベ420。
【0026】
本発明の実施で用いることができる好ましい酸化防止剤を、それらの化学についての簡単な説明と共に下に列挙する。
【0027】
酸化防止剤についての説明
商標名 説明
AX15 チオジエチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−
4−ヒドロキシヒドロシンナメート)
BHT 2,6−ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン
ブチル化DPA ブチル化(45%)オクチル化(19%)ジフェニ
ルアミン
ナウガルーベAPAN オクチル化フェニル−α−ナフチルアミン
ナウガルーベ438L モノ−、ジ−、及びトリ−、ノニル化DPA
ナウガルーベ531 3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロ
桂皮酸C−C分岐鎖アルキルエステル
ナウガルーベ640 ブチル化(30%)オクチル化(24%)ジフェニ
ルアミン
【0028】
本発明の油圧流体の基礎油及び酸化防止剤は、油圧流体及び他の工業用流体で典型的に見出されている他の添加剤と組合せて用いることができ、そのような組合せは、実際に、その流体の改良された堆積物抑制、耐摩耗性、摩擦性、酸化防止性、低温性等の性質のような希望の性質を改良することに対する相乗的効果を与えることがある。油圧流体で見出される典型的な添加剤には、分散剤、清浄剤、防錆剤、摩耗防止剤、消泡剤、摩擦修正剤、シール膨潤剤、解乳化剤、VI改良剤、及び流動点降下剤が含まれる。
【0029】
分散性の例には、ポリイソブチレンスクシンイミド、ポリイソブチレン琥珀酸エステル、マンニッヒ塩基無灰分散性、等が含まれる。
【0030】
清浄剤の例には、金属アルキルフェネート、硫酸化金属アルキルフェネート、金属アルキルスルホン酸塩、金属アルキルサリチル酸塩、等が含まれる。
【0031】
摩耗防止添加剤の例には、オルガノボレート、オルガノホスファイト、有機硫黄含有化合物、ジアルキルジチオ燐酸亜鉛、ジアリールジチオ燐酸亜鉛、ホスホ硫酸化炭化水素、等が含まれる。
【0032】
摩擦修正剤(friction modifiers)の例には、脂肪酸エステル及びアミド、オルガノモリブデン化合物、モリブデンジアルキルジチオカルバミン酸塩、モリブデンジアルキルジチオ硫酸塩、等が含まれる。
【0033】
消泡剤の例は、ポリシロキサン等である。防錆剤の例は、ポリオキシアルキレンポリオール等である。VI改良剤の例には、オレフィン共重合体及び分散剤オレフィン共重合体等が含まれる。流動点降下剤の例は、ポリメタクリレート等である。
【0034】
これらの添加剤を含有する場合の組成物は、それらに通常付随する機能を与えるのに有効な量で基礎油中に混合されるのが典型的である。そのような添加剤の代表的な有効量を例示すると、次のようになる。
【0035】
組成物 広い範囲、重量% 好ましい範囲、重量%
V.I.改良剤 1-12 1-4
腐食防止剤 0.01-3 0.01-1.5
酸化防止剤 0.01-5 0.01-1.5
分散剤 0.1-10 0.1-5
潤滑油流動改良剤 0.01-2 0.01-1.5
清浄剤及び防錆剤 0.01-6 0.01-3
流動点降下剤 0.01-1.5 0.01-0.5
消泡剤 0.001-0.1 0.001-0.01
摩耗防止剤 0.001-5 0.001-1.5
シール膨潤剤 0.1-8 0.1-4
摩擦修正剤 0.01-3 0.01-1.5
基礎油 残余 残余
【0036】
更に別の添加剤を用いる場合、主題の添加剤の濃厚な溶液又は分散物を内容とする添加剤濃厚物を調製し、それにより幾つかの添加剤を同時に基礎油に添加して油圧流体組成物を形成することが望ましいことがあるが、必ずしもそうする必要はない。トールオイルへの添加剤濃厚物の溶解は、溶媒により、又は穏やかな加熱を伴った混合により促進することができるが、これは必須のことではない。濃厚物又は添加剤パッケージは、その添加剤パッケージを予め定められた量の基礎潤滑剤と一緒にした時に、最終配合物中に希望の濃度を与えるのに適切な量でそれら添加剤を含むように配合するのが典型的であろう。このように、添加剤は、少量の基礎油又は他の相容性溶媒に添加し、典型的には約2.5〜約90重量%、好ましくは約15〜約75重量%、最も好ましくは約25重量%〜約60重量%の添加剤の総量で、残余を基礎油とした適当な割合で、活性成分を含有する添加剤パッケージを形成することができる。最終的配合物は、典型的には約1〜20重量%の添加剤パッケージと、残余の基礎油とを用いることができる。
【0037】
ここで(別に示さない限り)表されている重量%は、全て、添加剤の活性成分(AI)含有量及び/又は添加剤パッケージ又は配合物の全重量に基づいており、それは、各添加剤の(AI)重量+全油又は希釈剤の重量の合計になるであろう。
【0038】
一般に、本発明の好ましい油圧流体組成物は、約0.01〜約30重量%の範囲の濃度で添加剤を含有する。組成物の全重量に基づき約0.01〜約10重量%の範囲の添加剤のための濃度範囲が好ましい。一層好ましい濃度範囲は、約0.2〜約5重量%である。
【0039】
本発明の利点及び重要な特徴は、次の実施例から一層明らかになるであろう。
【実施例】
【0040】
ここで用いられる植物油の脂肪酸分布についての説明を表1に与える。エポキシ化植物油及びそれらの沃素価(不飽和度)についての説明を表2に列挙する。実施例で用いた清浄剤は、400TBN無定形過塩基性スルホン酸カルシウム(〔カルシネート(Calcinate)C400CLR〕、300TBN無定形過塩基性スルホン酸カルシウム(カルシネートC300R)、400TBN結晶質過塩基性スルホン酸カルシウム(カルシネートC400W)、及び過塩基性カルボン酸カルシウム(OBC)であり、用いた酸化防止剤は、ノニル化ジフェニルアミン(ナウガルーベ438L)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロ桂皮酸C−C分岐鎖アルキルエステル(ナウガルーベ531)、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン(ナウガルーベAPAN)であり、トルトリアゾール誘導体(金属不動態化剤)及び用いたEP/AW添加剤は、ジアルキルジチオ燐酸亜鉛(ZDDP)、硫酸化脂肪酸(RC2515)、及びモノオレイン酸グリセロール(GMO)であった。
【0041】
表1
植物油及びエステルの説明
名称 説明 C16-0 C18-0 C18-1 C18-2 C18-3 C22-1 その他
SO 大豆油 10 2 29 51 7 1
CO1 キャノーラ油 5 2 61 21 9 2
CO2 高オレイン酸 4 2 85 7 2
キャノーラ油
CO3 キャノーラ油 60 32
HEAR1 高エルカ酸 51 49
菜種油
HEAR2 高エルカ酸 45 55
菜種油
OTE 2-エチルヘキシル 100
トーレート(tallate)
POE トリメチロールプ 100
ロパンカプレート

C16-0 は、パルミチン酸である。
C18-0 は、ステアリン酸である。
C18-1 は、オレイン酸である。
C18-2 は、リノール酸である。
C18-3 は、リノレン酸である。
C22-1 は、エルカ酸である。
【0042】
表2
エポキシ化植物油の説明
名称 説明 オキシラン酸素(%) 沃素価
ESO エポキシ化大豆油 7.0 1.6
ELO エポキシ化亜麻仁油 - -
ECO エポキシ化キャノーラ油 5.6 4.5
EOTE エポキシ化2−エチル 4.7 2.5
ヘキシルトーレート
【0043】
次の実施例では、種々の規格化試験方法を用いた。これらの試験方法には次のものが含まれていた:加圧示差走査熱量測定(PDSC)、ASTM D6186;抗乳化度、ASTM D1401;四球式摩耗性、ASTM D2266;四球式EP、ASTM D4172;加水分解安定性、ASTM D2619;回転ボンベ酸化試験(RBOT)、又は回転加圧容器酸化試験(RPVOT)、ASTM D2272;及びタービン油安定性試験(TOST)、ASTM D943。
【0044】
種々の基本植物油及び合成エステルの安定性を、それらのエポキシ化油に対して比較測定し、そのデーターを表3に与える(例1〜9)。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
例1〜3
例1〜3は、PDSC、RPVOT、及びTOST試験で典型的な植物油(高エルカ酸菜種油、キヤノーラ油、及び高オレイン酸キヤノーラ油)の酸化安定性が悪いことを実証している。
【0049】
例4〜6
例4〜6は、PDSC、RPVOT、及びTOST試験で、典型的なエポキシ化植物油(キヤノーラ油、大豆油、及び亜麻仁油)の優れた酸化安定性を実証している。
【0050】
例7
例7は、オクチルトーレートに基づく合成エステルOTEが、PDSC、RPVOT、及びTOST試験で、例9のそのエポキシ化オクチルトーレートエステル類似物よりも、酸化安定性が著しく低いことをを実証する。
【0051】
例8
例8は、トリメチロールプロパンカプレートに基づく別の合成エステルが、PDSC、RPVOT、及びTOST試験で、例9のエポキシ化オクチルトーレートエステルよりも、酸化安定性が著しく低いことをを実証する。
【0052】
例9
例9は、オクチルトーレートエステルが、典型的な工業的潤滑剤試験(エマルジョン特性、四球式摩耗性、発泡傾向性、PDSC、RPVOT、及びTOST)で安定であることを実証する。
【0053】
種々の基本植物油、エポキシ化植物油、エステル、及びエポキシ化エステルの安定性の比較を、酸化防止剤を存在させて行い、表4に表示する(例10〜19)。
【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
例10〜11
例10〜11は、キヤノーラ油(CO1)の基本酸化安定性をアミン系酸化防止剤を用いて実証する。
【0057】
例12〜13
例12〜13は、高オレイン酸キヤノーラ油(CO2)の基本酸化安定性をアミン系酸化防止剤を用いて実証する。
【0058】
例14〜15
例14〜15は、エポキシ化大豆油(ESO)の改良された酸化安定性及び抗乳化度をアミン系酸化防止剤を用いて実証する。
【0059】
例16〜17
例16〜17は、エポキシ化オクチルトーレートエステル(EOTE)の改良された酸化安定性をアミン系酸化防止剤を用いて実証する。
【0060】
例18〜19
例18〜19は、エポキシ化キヤノーラ油(ECO)の改良された酸化安定性をアミン系酸化防止剤を用いて実証する。
【0061】
オクチルトーレートエステル(OTE)とエポキシ化オクチルトーレートエステル(EOTE)との安定性の比較を、種々の酸化防止剤、金属不動態化剤、及びEP/AW添加剤を用い、工業用流体試験で、これらの生成物を適用する例20〜32で実証する(表5)。
【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
例20
例20は、エトキシル化オクチルトーレートエステル(EOTE)の基本性能を工業用流体試験で実証する。
【0065】
例21〜24
例21〜24は、エトキシル化オクチルトーレートエステル(EOTE)の性能を種々のアミン系酸化防止剤を用いて実証する。酸化性PDSC、加水分解安定性、及びRPVOTは、全て酸化防止剤を添加することにより改良される。
【0066】
例25〜26
例25〜26は、オクチルトーレートエステル(OTE)の酸化性能が、エポキシ化類似物(例20)と比較して良くないが、PDSC、加水分解安定性、及びRPVOTは、酸化防止剤を添加することにより改良されたことを実証する。
【0067】
例27〜28
例27〜28は、エトキシル化オクチルトーレートエステル(EOTE)の、金属不動態化剤を用いた性能を、典型的工業用流体試験で実証する。PDSC及びRPVOTは、全て金属不動態化剤を添加することにより相乗的に改良される。
【0068】
例29〜30
例29〜30は、エトキシル化オクチルトーレートエステル(EOTE)の、過塩基性スルホネート及びEP/AWのためのZDDPを用いた性能を、典型的工業用流体試験で実証する。酸化安定性試験、PDSC及びRPVOTは、全て過塩基性スルホネートの添加により相乗的に改良されるのみならず、四球式摩耗性、及びエマルジョン性能が改良された。
【0069】
例31〜32
例31〜32は、オクチルトーレートエステル(OTE)及びエトキシル化オクチルトーレートエステル(EOTE)の、EP/AWのためのZDDPを用いた性能を、典型的工業用流体試験で実証する。四球式摩耗性、PDSC及びRPVOTは、全てZDDPの添加により相乗的に改良される。
【0070】
エポキシ化オクチルトーレートエステルEOTEの、油圧流体配合物中の安定性を、種々の酸化防止剤、金属不動態化剤、及びEP/AW添加剤を用いて比較し、例33〜40での典型的油圧流体試験でそれらの生成物の適用性を実証する(表6)。
【0071】
【表8】

【0072】
【表9】

【0073】
例33〜36
例33〜36は、エトキシル化オクチルトーレートエステル(EOTE)の、種々の過塩基性清浄剤及びEP/AWのためのZDDPを用いた性能を、典型的油圧流体試験で実証する。エマルジョン、四球式摩耗性、加水分解安定性、PDSC、及びRPVOT性能は、油圧流体として許容可能であった。
【0074】
例37〜38
例37〜38は、エトキシル化オクチルトーレートエステル(EOTE)の性能を、過塩基性スルホネート及びEP/AWのためのZDDPを用い、最適化濃度で、典型的油圧流体試験で実証する。エマルジョン、四球式摩耗性、加水分解安定性、PDSC、及びRPVOT性能は、油圧流体として許容可能であった。
【0075】
例39
例39は、エトキシル化オクチルトーレートエステル(EOTE)の性能を、過塩基性スルホネート及びEP/AWのためのZDDP及び潤滑性のためのGMOを用い、最適化濃度で、典型的油圧流体試験で実証する。エマルジョン、四球式摩耗性、加水分解安定性、PDSC、及びRPVOT性能は、油圧流体として許容可能であった。
【0076】
例40
例40は、エトキシル化オクチルトーレートエステル(EOTE)の性能を、過塩基性スルホネート及びEP/AWのための硫酸化オレフィンを用いて、最適化濃度で、典型的油圧流体試験で実証する。エマルジョン、四球式摩耗性、加水分解安定性、PDSC、及びRPVOT性能は、油圧流体として許容可能であった。
【0077】
本発明を、その好ましい態様を特に参照して詳細に記述してきたが、本発明の本質及び範囲以内で変更及び修正を行うことが出来ることは分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化植物油及び少なくとも一種類の酸化防止剤を含む生物分解性工業用流体。
【請求項2】
少なくとも一種類の酸化防止剤が、アルキル化ジフェニルアミン、N−アルキル化フェニレンジアミン、第二級ジアリールアミン、立体障害フェノール化合物、及び油溶性銅化合物からなる群から選択されている、請求項1に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項3】
工業用流体が、更に、前記流体の堆積物抑制、耐摩耗性、摩擦性、酸化防止性、低温性、及び他の性質を改良するための添加剤を含む、請求項1に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項4】
添加剤が、分散剤、清浄剤、防錆剤、摩耗防止剤、消泡剤、摩擦修正剤、シール膨潤剤、解乳化剤、VI改良剤、及び流動点降下剤からなる群から選択されている、請求項3に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項5】
添加剤が、約0.1〜約30重量%の濃度になっている、請求項3に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項6】
工業用流体が油圧流体である、請求項1に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項7】
エポキシ化合成エステル及び少なくとも一種類の酸化防止剤を含む、生物分解性工業用流体。
【請求項8】
合成エステルのアルキル部分が1〜8個の炭素原子を有するアルキル部分を含む、請求項7に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項9】
少なくとも一種類の酸化防止剤が、アルキル化ジフェニルアミン、N−アルキル化フェニレンジアミン、第二級ジアリールアミン、立体障害フェノール化合物、及び油溶性銅化合物からなる群から選択されている、請求項7に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項10】
工業用流体が、更に、前記流体の堆積物抑制、耐摩耗性、摩擦性、酸化防止性、低温性、及び他の性質を改良するための添加剤を含む、請求項7に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項11】
添加剤が、分散剤、清浄剤、防錆剤、摩耗防止剤、消泡剤、摩擦修正剤、シール膨潤剤、解乳化剤、VI改良剤、及び流動点降下剤からなる群から選択されている、請求項10に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項12】
添加剤が、約0.1〜約30重量%の濃度になっている、請求項10に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項13】
工業用流体が油圧流体である、請求項7に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項14】
エポキシ化合成エステルが、1〜約8個の炭素原子を有するアルキル部分を含むトールオイルエステルである、請求項7に記載の生物分解性工業用流体。
【請求項15】
工業用流体の基礎油として、エポキシ化合成エステルを用い、然も、前記エステルが、少なくとも一種類の酸化防止剤と組合わせて用いられていることを含む、工業用流体の酸化安定性を改良する方法。
【請求項16】
エポキシ化合成エステルが、1〜約8個の炭素原子を有するアルキル部分を含むトールオイルエステルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも一種類の酸化防止剤を、アルキル化ジフェニルアミン、N−アルキル化フェニレンジアミン、第二級ジアリールアミン、立体障害フェノール化合物、及び油溶性銅化合物からなる群から選択する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
流体の堆積物抑制、耐摩耗性、摩擦性、酸化防止性、低温性、及び他の性質を改良するための添加剤を基礎油に添加する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
添加剤を、分散剤、清浄剤、防錆剤、摩耗防止剤、消泡剤、摩擦修正剤、シール膨潤剤、解乳化剤、VI改良剤、及び流動点降下剤からなる群から選択する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
工業用流体が油圧流体である、請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2008−531826(P2008−531826A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−558227(P2007−558227)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/007447
【国際公開番号】WO2006/094138
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(505365356)ケムチュア コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】