説明

差動信号用ケーブル及びこれを用いたケーブルアセンブリ並びに多対差動信号用ケーブル

【課題】数Gbit/s以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、コネクタ内蔵のプリント基板等に接続・実装する際に、ケーブルとプリント基板との接続部における特性インピーダンスの不整合を小さくし、併せて、信号伝搬時間の差であるスキューの増加や、差動・同相変換量の増大(劣化)を抑制できる差動信号用ケーブルを提供する。
【解決手段】導線1と導線1を被覆する絶縁体2とからなり、並行に接触して設けられた2本の絶縁電線3と、2本の絶縁電線3の表面にそれぞれ設けられた融着層6と、2本の絶縁電線3の間に形成された凹部7に縦添えされて設けられたドレイン線4と、2本の絶縁電線3とドレイン線4とを一括して巻き付けるシールドテープ5とを備えた差動信号用ケーブル100であって、2本の絶縁電線3のそれぞれは、絶縁体2の表面の一部が平坦面2aに変形されて、互いに平坦面2aで接するように融着されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数Gbit/s以上の高速デジタル信号を数mから数十m伝送させる、信号波形劣化の小さい差動信号用ケーブル及びこれを用いたケーブルアセンブリ並びに多対差動信号用ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
数Gbit/s以上の高速デジタル信号を扱う、サーバー、ルーター、ストレージ製品等の機器において、機器間、あるいは機器内の基板間の信号伝送には差動信号による伝送が用いられる。差動信号とは、位相を180度反転させた信号を2つの導線で伝送し、受信側で受信した各信号の差分を合成・出力するものである。2つの導線に流れる電流は互いに逆方向を向いて流れるため、伝送線路から放射される電磁波が小さく、また、外部から受けたノイズは、2つの導線に等しく重畳するので、受信側で差分を合成出力することで、ノイズによる影響を打ち消すことができる。これらの理由から、高速デジタル信号の伝送には、差動信号による伝送がよく使われる。
【0003】
差動信号による伝送に用いられる差動信号用ケーブルとして、導線を絶縁体で被覆した2本の絶縁電線を撚り合せて対にしたツイストペアケーブルがある。ツイストペアケーブルは、安価で平衡性に優れており、曲げも容易であるため、中距離の信号伝送に広く使われている。しかし、ツイストペアケーブルは信号の減衰が大きいため、ツイストペアケーブルを用いるシステムでは、信号の減衰を補償するための信号処理にかかる電力が大きくなっている(後述のツイナックスケーブルの6〜10倍程度)。また、一般的なツイストペアケーブルは、シールドとなる金属導体がないため、ケーブル近くに置かれた金属の影響を受け易く、ケーブルの特性インピーダンスが安定しないという問題がある。また、ツイストペアケーブルは、2本の絶縁電線を撚り合わせた構造であるため、2本の絶縁電線の導体間の物理長の差が大きい。このため、ツイストペアケーブルをシールドとなる金属導体で覆った場合、スキューの影響が大きくなってしまう。これらの事情により、ツイストペアケーブルは、数GHzの高周波領域では、信号波形が崩れやすいため、数Gbit/s以上の伝送線路にはあまり使われることがない。
【0004】
一方、2本の絶縁電線を撚らずに並行して並べて、これをシールドで覆ったケーブル(以下、ツイナックスケーブルと呼ぶ)がある。ツイナックスケーブルは、ツイストペアケーブルに比べて高周波における信号の減衰が小さい。また、ツイナックスケーブルは、シールドが2本の絶縁電線を覆うように設けられているので、ツイナックスケーブル付近に金属を置いても、特性インピーダンスが不安定になることもなく、また、ノイズ耐性も高い。このため、ツイナックスケーブルは、比較的高速で短距離の信号伝送に用いられている。なお、シールドには、導体付きテープを用いたもの、編組状の素線で覆ったものがある。また、シールドで覆うかわりに、ドレイン線等を付け合わせることもできる。
【0005】
例えば、図5は、特許文献1で開示された、ツイナックスケーブル50の一例を示す断面図で、信号用の導線31を絶縁体32で被覆した2本の絶縁電線33を、ポリエチレンテープ38にアルミ等の金属箔37を張り付けたシールドテープ35を巻き付け、あるいは縦添えしている。シールドテープ35と絶縁電線33の間には、ドレイン線34が、シールドテープ35の金属箔37の面と接触するように配置されており、接地されている。
【0006】
また、図6は、特許文献2で開示されたツイナックスケーブル60の一例を示す断面図である。信号用の導線31を絶縁体32で被覆した2本の絶縁電線33は、表面に融着層36を備えており、これによって互いが融着で接着されており、さらにその外周にアルミ等の金属箔37を張り付けたシールドテープ35を被覆している。図5のツイナックスケーブル50では、ケーブルが繰返し屈曲する等によって、2つの絶縁電線33が滑り、ズレてしまうことがあるが、図6のツイナックスケーブル60は、互いの絶縁電線33が融着されているため、滑ることはない。その結果、信号用の導線における信号の伝搬時間の差、すなわち、スキューを低減できることが示されている。スキューの増加は、受信側で差分を合成したデジタル信号波形を崩してしまい、10Gbit/s相当の高速信号伝送においては、数psのスキューにおいても、信号品質を劣化させてしまう。
【0007】
また、図7は、特許文献3で開示されたツイナックスケーブル70の一例を示す断面図で、信号用の導線31を、絶縁体32で一括被覆し、これに金属箔テープからなるシールドテープ35を、巻き付け、あるいは縦添えしている。
【0008】
また、図8は特許文献4で開示されたツイナックスケーブル80の一例を示す断面図で、絶縁電線33を、さらに発泡材シート39で覆い、ドレイン線34を縦添えした後に、シールドテープで被覆する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−289047号公報
【特許文献2】特開2003−346566号公報
【特許文献3】特開2001−035270号公報
【特許文献4】特開2007−026909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
1〜10m程度の距離で、数Gbit/sの高速・差動信号の伝送には、一般的にツイナックスケーブルが使われている。ツイナックスケーブルの両端にはコネクタが備えられており、これが装置側の受けコネクタに嵌合することで、装置への接続を容易にしている。コネクタ内部には、複数接点を備えたカードエッジタイプの小型プリント基板が内蔵されており、その厚さは、0.5〜1mm程度となるので、ツイナックスケーブルの実装では、プリント信号配線側の面には導線31、もう一方のグランド面にはドレイン線34を接続する。
【0011】
数Gbit/sの高速信号の伝送では、極力、特性インピーダンスが一定となるようにしなければ、不要な信号の反射が発生し、信号品質が劣化してしまう。特にツイナックスケーブルとプリント基板との接続部では、ケーブルのような断面構造と、プリント基板のようなマイクロストリップ線路構造で、線路構造が不連続となるので、特性インピーダンスがズレやすく、反射が起きやすい。併せてスキューを低減する構造とする必要もあり、ケーブルを屈曲した際に、それぞれの絶縁電線が元々あった位置からズレたり、ドレイン線の位置がズレたりすることがないことが望まれる。
【0012】
従来技術においては、ドレイン線は、2本の絶縁電線の間にできる隙間(凹部)に配置される。1m〜10mを接続する高速伝送ケーブルでは、芯線(導線)で24AWG(American Wire Gauge)が最も一般的に使われる。芯線導体径d1=0.51mm、絶縁体の厚さ0.445mmなので絶縁電線の外径は、d2=1.4mmとなる。ドレイン線の導体径をd3=0.40mmとすると、ケーブル断面において、導線−ドレイン線間の厚み方向距離rは、図9に示すように幾何学的に(1)式で与えられ、約0.11mmとなる。
【0013】
【数1】

【0014】
これを0.5mm厚程度のプリント基板に実装する場合、導線を曲げずにプリント基板上の実装面の信号端子用パッドにハンダ付けすると、図10に示すように、ドレイン線34は0.4mm程度、厚み方向に広げて、グランド面のランド(グランド端子用パッド)12にハンダ付けする必要がある。ケーブルのシールドテープ35を除去した位置から、ドレイン線34をハンダ接続する位置まで、ドレイン線34を屈曲してしまい、さらに、急に曲がらない分だけ、絶縁体32端部とプリント基板10の間に隙間が生じてしまう。その結果、この接続部分の特性インピーダンスが高い方へズレてしまい、不要な信号の反射が生じ、信号伝送品質が劣化する。また、隙間が空いた部分はドレイン線34の位置が安定せず、位置ズレ等によって、スキューの増加や差動・同相変換量の劣化を引き起こす。
【0015】
また、図6〜8に示す従来の差動信号用ケーブル(ツイナックスケーブル60,70,80)においては、2本の絶縁電線33を融着(図6)、あるいは一括押出(図7)、あるいは、発泡材テープ39を巻く(図8)ことによって2線の位置関係が崩れにくい等の工夫がなされている。しかしながら、図6のツイナックスケーブル60では、ドレイン線34の位置が図5の従来技術と同様であるため、ドレイン線34の接続においては、やはり図10で説明したように屈曲が必要となる。このため、この接続部分の特性インピーダンスが高い方へズレてしまい、不要な信号の反射が生じ、信号伝送品質が劣化する。また、ツイナックスケーブル50と同様に、隙間が空いた部分はドレイン線34の位置が安定せず、位置ズレ等によって、スキューの増加や差動・同相変換量の劣化を引き起こす。
【0016】
また、図7のツイナックスケーブル70においては、ドレイン線34を収納する凹部を形成するのが困難である。凹部がない状態では、ドレイン線34の位置が安定せず、位置ズレ等によって、スキューの増加や差動・同相変換量の劣化を引き起こす。また、2線の位置間隔の精度を所望にするのが困難であったりする。
【0017】
また、図8のツイナックスケーブル80においては、他の差動信号用ケーブル(ツイナックスケーブル50,60,70)に比べて、ドレイン線34が信号用の導線31と比較的離れているが、発泡材テープ39の外側にドレイン線34を配置するため、やはりドレイン線34の位置が定まらない。このため、位置ズレ等によって、スキューの増加や差動・同相変換量の劣化を引き起こす。また、図8のツイナックスケーブル80においては、発泡材テープ39を巻く工程が必要である。
【0018】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、数Gbit/s以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、コネクタ内蔵のプリント基板等に接続・実装する際に、ケーブルとプリント基板との接続部における特性インピーダンスの不整合を小さくし、併せて、信号伝搬時間の差であるスキューの増加や、差動・同相変換量の増大(劣化)を抑制できる差動信号用ケーブル及びこれを用いたケーブルアセンブリ並びに多対差動信号用ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記目的を達成するために創案されたものであり、導線と前記導線を被覆する絶縁体とからなり、並行に接触して設けられた2本の絶縁電線と、前記2本の絶縁電線の表面にそれぞれ設けられた融着層と、前記2本の絶縁電線の間に形成された凹部に縦添えされて設けられたドレイン線と、前記2本の絶縁電線と前記ドレイン線とを一括して巻き付けるシールドテープと、を備えた差動信号用ケーブルであって、前記2本の絶縁電線のそれぞれは、前記絶縁体の表面の一部が平坦面に変形されて、互いに前記平坦面で接するように融着されている差動信号用ケーブルである。
【0020】
前記平坦面は、前記絶縁電線の半径以上の幅を有するとよい。
【0021】
前記絶縁体は、発泡材料から形成されており、前記2本の絶縁電線のそれぞれは、加熱による前記融着層の溶融によって融着されているとよい。
【0022】
前記融着層は、前記絶縁体と同じ材料であって、発泡度が前記絶縁体よりも低い材料で形成されているとよい。
【0023】
前記ドレイン線は、前記2本の絶縁電線の間に形成された2つの凹部にそれぞれ設けられているとよい。
【0024】
また、本発明は、導線と前記導線を被覆する絶縁体とからなり、並行に接触して設けられた2本の絶縁電線と、前記2本の絶縁電線の表面にそれぞれ設けられた融着層と、前記2本の絶縁電線の間に形成された凹部に縦添えされて設けられたドレイン線と、前記2本の絶縁電線と前記ドレイン線とを一括して巻き付けるシールドテープと、を備えた差動信号用ケーブルの端部を、プリント基板が内蔵されたコネクタに接続するに際して、前記導線を前記プリント基板の一方の面に接続すると共に、前記ドレイン線を前記プリント基板の他方の面に接続したケーブルアセンブリであって、前記2本の絶縁電線のそれぞれは、前記絶縁体の表面の一部が平坦面に変形されて、互いに前記平坦面で接するように融着され、前記導線と前記ドレイン線との間の厚み方向距離と前記プリント基板の厚さとの差が短縮されているケーブルアセンブリである。
【0025】
前記導線と前記ドレイン線との間の厚み方向距離が前記プリント基板の厚さと略等しくなるようにされるとよい。
【0026】
前記平坦面は、前記絶縁電線の半径以上の幅を有するとよい。
【0027】
前記絶縁体は、発泡材料から形成されており、前記2本の絶縁電線のそれぞれは、加熱による前記融着層の溶融によって融着されているとよい。
【0028】
前記融着層は、前記絶縁体と同じ材料であって、発泡度が前記絶縁体よりも低い材料で形成されているとよい。
【0029】
前記ドレイン線は、前記2本の絶縁電線の間に形成された2つの凹部にそれぞれ設けられているとよい。
【0030】
また、本発明は、前記差動信号用ケーブルを2本以上撚り合わせ、その外周に編組導体からなるシールド層を形成し、前記シールド層の外周にジャケットを被覆した多対差動信号用ケーブルである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、数Gbit/s以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、コネクタ内蔵のプリント基板等に接続・実装する際に、ケーブルとプリント基板との接続部における特性インピーダンスの不整合を小さくし、併せて、信号伝搬時間の差であるスキューの増加や、差動・同相変換量の増大(劣化)を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態に係る差動信号用ケーブルを示す断面図である。
【図2】図1の差動信号用ケーブルにおける、ドレイン線配置を示す断面図である。
【図3】図1の差動信号用ケーブルをプリント基板に実装したときの側面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る多対差動信号用ケーブルを示す断面図である。
【図5】従来の差動信号用ケーブルを示す断面図である。
【図6】従来の差動信号用ケーブルを示す断面図である。
【図7】従来の差動信号用ケーブルを示す断面図である。
【図8】従来の差動信号用ケーブルを示す断面図である。
【図9】図5の差動信号用ケーブルにおける、ドレイン線配置を示す断面図である。
【図10】図5の差動信号用ケーブルをプリント基板に実装したときの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態に係る差動信号用ケーブルを示す断面図である。
【0035】
図1に示すように、本実施の形態に係る差動信号用ケーブル100は、信号用の導線1と導線1を被覆する絶縁体2とからなり、並行に接触して設けられた2本の絶縁電線3と、2本の絶縁電線3の表面にそれぞれ設けられた融着層6と、2本の絶縁電線3の間に形成された凹部7に縦添えされて設けられたドレイン線4と、2本の絶縁電線3とドレイン線4とを一括して巻き付けるシールドテープ5と、を備える。
【0036】
絶縁電線3は、導線1を、押出機により供給される絶縁体2で被覆することにより形成される。
【0037】
この絶縁電線3に用いる導線1としては、銅等の電気良導体、又は、これらの電気良導体にメッキ等を施した単線又は撚線を用いる。
【0038】
絶縁体2としては、誘電率、誘電正接の小さい材料が望ましく、例えば、発泡材料を用いることができる。絶縁体2を形成する方法としては、成型前に発泡剤を練りこみ、成型時の温度によって発泡度を制御する方法、窒素等のガスを成型圧力で注入しておき、圧力解放時に発泡させる方法等がある。
【0039】
絶縁電線3の表面には、さらに融着層6が被覆される。融着層6は、絶縁電線3を、発泡度を低く抑えた絶縁体2と同じ材料で被覆する等して形成される。
【0040】
ドレイン線4は、信号用の導線1と同様、銅等の電気良導体、又は、これらの電気良導体にメッキ等を施した単線又は撚線を用いる。
【0041】
シールドテープ5は、ポリエチレン(PET)テープ8に金属箔9を貼り合わせたものである。このシールドテープ5は、金属箔9の導体面が、ドレイン線4と接触するようにして巻き付けられるか、あるいは、縦添えして被覆される。
【0042】
さて、本実施の形態に係る差動信号用ケーブル100では、2本の絶縁電線3のそれぞれは、絶縁体2の表面の一部が平坦面2aに変形されて、互いに平坦面2aで接するように融着されている。
【0043】
この構造の詳細を差動信号用ケーブル100の製造方法と共に説明する。
【0044】
信号用の導線1を絶縁体2で被覆した絶縁電線3を、さらに融着層6で被覆した後、この融着層6で被覆された絶縁電線3を、2本を並行に、所望の線ピッチになるように、左右から加圧・整列させ、一定速度で送り出しながら加熱をする。加圧と加熱によって、互いの絶縁電線3の表面に形成された融着層6が面で融着する。このとき、適当な加圧量にすることで、絶縁電線3の半径以上の幅(図面の上下方向)をもって融着するようにする。すなわち、2本の絶縁電線3が融着した融着面は、絶縁電線3の中心角に対して60°以上の幅を有している。融着完了後、温度・圧力を戻すと、絶縁体2の気泡は元の形状に戻るが、融着した部分は離れないので、図1の断面形状が維持される。また、融着によってできた凹部7に、ドレイン線4を縦添え配置する。ドレイン線4を縦添えし、融着された2本の絶縁電線3と一緒に、その外側から、ポリエチレン(PET)テープ8に金属箔9を貼り合わせたシールドテープ5で被覆、固定する。
【0045】
信号用の導線1に24AWGを用いた場合、導体径はd1=0.51mm、絶縁電線3の外径d2=1.4mm、ドレイン線4の外径d3=0.40mmとして、融着面の幅aを、絶縁電線3の外径の1/2、すなわち、a=0.7mmとなるよう融着させる。その場合、導線−ドレイン線間の厚み方向距離rは、図2に示す通り、幾何学的に(2)式で与えられ、約0.21mmとなる。
【0046】
【数2】

【0047】
融着面の両側にできる凹部7の深さは、0.21mmあり、十分にドレイン線4を固定することができる。
【0048】
また上記と同じ絶縁電線3とドレイン線4を用い、融着面の幅aを1.0mmとした場合、導線−ドレイン線間の厚み方向距離rは約0.30mmとなる。
【0049】
次に、本実施の形態に係る差動信号用ケーブル100の端部にコネクタを接続したケーブルアセンブリについて、その接続方法と共に図3を用いて説明する。
【0050】
図3に示すように、ケーブル端において、シールドテープ5を専用刃物、あるいはレーザ照射によって除去し、さらに、絶縁体2を同様に段剥きし、信号用の導線1とドレイン線4が剥き出しになる状態とし、そして、コネクタ(図示せず)に内蔵されたプリント基板10上の信号端子用パッド11、グランド端子用パッド12に合わせて固定し、ハンダ付けで接続する。このとき、信号用の導線1に24AWGを用いた差動信号用ケーブル100を厚さが0.5mm程度のプリント基板10に接続する場合、ドレイン線4を基板厚み方向に広げる必要があるが、例えば上述したように融着面の幅aを1.0mmとすれば、導線−ドレイン線間の厚み方向距離rを約0.30mmとすることができる。そのため、ドレイン線4を基板厚み方向に広げる距離は0.20mm程度でよいので、シールドテープ5の剥き長も短く、伝送特性の劣化が小さい。
【0051】
本実施の形態に係る差動信号用ケーブル100では、各線とも剥いた形状で、屈曲させることなく、そのままハンダ付けすることが可能であり、シールドテープ5の剥き長も小さいので、ケーブル接続部における伝送特性の劣化が小さい。また、それぞれの絶縁電線3は融着によって固定されており、ケーブルが屈曲されても、形状が安定しており、ドレイン線4の位置もズレにくい。よって、ケーブル全体においてもスキューが小さく、非常に安定した、伝送特性の劣化が少ないケーブルを実現することが可能となる。また、絶縁電線3は、加熱による融着層6の溶融によって接合されているため、絶縁体2は、融着によって表面が接合した状態で変形される。このため、絶縁体2として発泡材料を用いた場合であっても、絶縁体2同士が押し付けられた状態で変形するわけではないので、気泡が潰れることがない。したがって、加熱の解除後は、絶縁体2の気泡の大きさは、どの部分でもほぼ均一の状態となる。すなわち、絶縁体2の変形した部分とそれ以外の部分において、気泡の大きさがほぼ同じとなる。その結果、伝送路の誘電率はほぼ一定なので、伝搬時に発生する分散も小さく、スキューが小さい。
【0052】
以上要するに、本実施の形態に係る差動信号用ケーブル100では、従来と同等の外径の絶縁電線3を用いた場合であっても、導線−ドレイン線間の厚み方向距離rを長くすることができる。そのため、この差動信号用ケーブル100をコネクタに接続してケーブルアセンブリとしたときに、差動信号用ケーブル100とコネクタとのケーブル接続部において、信号用の導線1とドレイン線4の距離をできる限り一定に保つことができるため、特性インピーダンスが変化しにくく、伝送特性の劣化を低減できる。
【0053】
なお、本実施の形態においては、ドレイン線4を、2本の絶縁電線3の間に形成された2つの凹部7のうちの1つに設けたが、2つの凹部7にそれぞれ設けるようにしてもよい。
【0054】
図4は、本実施の形態に係る多対差動信号用ケーブルを示す断面図である。
【0055】
本実施の形態に係る多対差動信号用ケーブル200は、図4に示すように、図1で示した、信号用となる導線1と、発泡材料の絶縁体2からなる絶縁電線3と、ドレイン線4と、その外側を被覆するシールドテープ5と、からなる差動信号用ケーブル100が、2本添えられており、さらに離れないよう撚り合わせ、その外周を、外来ノイズを遮断するための編組導体からなるシールド層13で被覆し、さらに、ケーブル保護用としてのジャケット14で被覆してある。
【0056】
本実施の形態に係る多対差動信号用ケーブル200によると、差動信号用ケーブル100が送信用と受信用の2本与えられ、図1の差動信号用ケーブル100と比較して、シールド層13による、外来ノイズの対策が施されているので、より高速な伝送速度を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 導線
2 絶縁体
2a 平坦面
3 絶縁電線
4 ドレイン線
5 シールドテープ
6 融着層
7 凹部
13 シールド層
14 ジャケット
100 差動信号用ケーブル
200 多対差動信号用ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線と前記導線を被覆する絶縁体とからなり、並行に接触して設けられた2本の絶縁電線と、
前記2本の絶縁電線の表面にそれぞれ設けられた融着層と、
前記2本の絶縁電線の間に形成された凹部に縦添えされて設けられたドレイン線と、
前記2本の絶縁電線と前記ドレイン線とを一括して巻き付けるシールドテープと、
を備えた差動信号用ケーブルであって、
前記2本の絶縁電線のそれぞれは、前記絶縁体の表面の一部が平坦面に変形されて、互いに前記平坦面で接するように融着されていることを特徴とする差動信号用ケーブル。
【請求項2】
前記平坦面は、前記絶縁電線の半径以上の幅を有する請求項1に記載の差動信号用ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁体は、発泡材料から形成されており、
前記2本の絶縁電線のそれぞれは、加熱による前記融着層の溶融によって融着されている請求項1又は2に記載の差動信号用ケーブル。
【請求項4】
前記融着層は、前記絶縁体と同じ材料であって、発泡度が前記絶縁体よりも低い材料で形成されている請求項3に記載の差動信号用ケーブル。
【請求項5】
前記ドレイン線は、前記2本の絶縁電線の間に形成された2つの凹部にそれぞれ設けられている請求項1〜4のいずれかに記載の差動信号用ケーブル。
【請求項6】
導線と前記導線を被覆する絶縁体とからなり、並行に接触して設けられた2本の絶縁電線と、
前記2本の絶縁電線の表面にそれぞれ設けられた融着層と、
前記2本の絶縁電線の間に形成された凹部に縦添えされて設けられたドレイン線と、
前記2本の絶縁電線と前記ドレイン線とを一括して巻き付けるシールドテープと、
を備えた差動信号用ケーブルの端部を、プリント基板が内蔵されたコネクタに接続するに際して、前記導線を前記プリント基板の一方の面に接続すると共に、前記ドレイン線を前記プリント基板の他方の面に接続したケーブルアセンブリであって、
前記2本の絶縁電線のそれぞれは、前記絶縁体の表面の一部が平坦面に変形されて、互いに前記平坦面で接するように融着され、
前記導線と前記ドレイン線との間の厚み方向距離と前記プリント基板の厚さとの差が短縮されていることを特徴とするケーブルアセンブリ。
【請求項7】
前記導線と前記ドレイン線との間の厚み方向距離が前記プリント基板の厚さと略等しくなるようにされた請求項6に記載のケーブルアセンブリ。
【請求項8】
前記平坦面は、前記絶縁電線の半径以上の幅を有する請求項6又は7に記載のケーブルアセンブリ。
【請求項9】
前記絶縁体は、発泡材料から形成されており、
前記2本の絶縁電線のそれぞれは、加熱による前記融着層の溶融によって融着されている請求項6〜8のいずれかに記載のケーブルアセンブリ。
【請求項10】
前記融着層は、前記絶縁体と同じ材料であって、発泡度が前記絶縁体よりも低い材料で形成されている請求項9に記載のケーブルアセンブリ。
【請求項11】
前記ドレイン線は、前記2本の絶縁電線の間に形成された2つの凹部にそれぞれ設けられている請求項6〜10のいずれかに記載のケーブルアセンブリ。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の差動信号用ケーブルを2本以上撚り合わせ、その外周に編組導体からなるシールド層を形成し、前記シールド層の外周にジャケットを被覆したことを特徴とする多対差動信号用ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−198677(P2011−198677A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65981(P2010−65981)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】