説明

希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法、及び得られる希土類−鉄−窒素系磁石粉末

【課題】還元拡散法を利用し希土類−鉄合金粉末を均一に窒化することで、磁気特性を向上させる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法、及び得られる希土類−鉄−窒素系磁石粉末を提供。
【解決手段】希土類酸化物粉末、鉄粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合し、この混合物を還元拡散法により非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−鉄母合金を含む還元拡散反応生成物を得て、次に、該還元拡散反応生成物を湿式処理装置に装入し、水洗、デカンテーション、酸洗して崩壊させるとともに還元拡散反応生成物から還元剤を除去し、引き続き乾燥した後、得られた希土類−鉄母合金粉末を窒化処理して下記の一般式(1)で表される希土類−鉄−窒素系磁石粉末を得る製造方法において、前記還元拡散反応生成物の湿式処理から乾燥工程までを一貫して非酸化性雰囲気中で行うことを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末を得る製造方法などにより提供。
Fe(100−a−b) ・・・(1)
(式(1)中、Rは1種類または2種以上の希土類元素であり、またa、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法、及び得られる希土類−鉄−窒素系磁石粉末に関し、さらに詳しくは、還元拡散法を利用し希土類−鉄合金粉末を均一に窒化することで、磁気特性を向上させる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法、及び得られる希土類−鉄−窒素系磁石粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のさまざまな電気機器類、例えば携帯電話やデジタルカメラ、デジタルビデオなどほとんどの家電製品などにおいて、小型化、軽量化、高性能化が要求されており、その要求は高まるばかりである。このような小型化、軽量化を実現するためには、上記家電製品に用いられている永久磁石の小型化、高特性化が重要な課題の一つとなっている。さらに、上記家電製品では、コスト競争も激しさを増しており、用いられる永久磁石に要求される事項として、軽量化、高特性化に、さらに価格(安価)が加えられるようになってきている。
永久磁石材料として、価格面では従来から使われているフェライト磁石が最も有利であるが、最大エネルギー積(BH)maxが15〜20kJ・m−3(数MGOe)と非常に低く、軽量化、高特性化の要求には到底応えきれていない。特性面では、フェライト磁石などの低特性磁石に比較し数10倍の磁気特性を有する希土類磁石が知られている。該希土類磁石も上記背景のもと重要が伸びており、1993年にはフェライト磁石を抜いて使用量が最も多い磁石となっている。このうちNd−Fe−B系焼結磁石は、440kJ・m−3(55MGOe)を超える最大エネルギー積(BH)maxを有し、希土類磁石の中でも最も需要が高い。さらに、磁石粉末の磁気特性では、理論上、Nd−Fe−B系磁石に並ぶ磁石として、菱面体晶系、六方晶系、正方晶系、又は単斜晶系の結晶構造を有する希土類−鉄金属間化合物に窒素を導入した希土類−鉄−窒素磁石粉末が、永久磁石材料として優れた磁気特性を有することから注目されており、需要を伸ばしている。
【0003】
例えば、R−Fe−N(R:Y、Th、及び全てのランタノイド元素からなる群の中から選ばれた1種または2種以上)で表される永久磁石(特許文献1参照)、また、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H(R:イットリウムを含む希土類元素のうちの少なくとも1種)で表される高い磁気異方性を有する材料が知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、菱面体晶系、六方晶系、又は正方晶系の結晶構造を有するThZn17型、TbCu型、又はThMn12型金属間化合物に窒素等を含有させた希土類磁石材料が知られ、これらの磁石材料の磁気特性等を改善するために、種々の添加物を用いることも検討されている。
【0004】
例えば、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H−M(R:Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種、M:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Pd、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Pb、Biの元素、及びこれらの元素並びにRの酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硝酸塩のうち少なくとも1種)で表される磁石粉末が知られている(特許文献3参照)。
また、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H−O−M(R:Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種、M:Mg、Ti、Zr、Cu、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Biの元素、及びこれらの元素並びにRの酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物のうち少なくとも1種)で表される磁性材料が知られている(特許文献4参照)。
【0005】
これらの希土類−鉄−窒素磁性材料の多くは、保磁力発生機構がニュークリエーションタイプであるため、平均粒径1〜10μmの微細な粉末として使用される。この理由は、平均粒径が10μmを超えると、必要な保磁力が得られなかったり、ボンド磁石にしたとき該ボンド磁石の表面が粗くなって表面にある磁石粉末の脱落が起こりやすくなってしまうためである。ただし、平均粒径が1μm未満では、磁石粉末の酸化による発熱やそれに伴う発火のおそれがあり、さらにはThZn17型結晶構造を有する主相の分解による磁気特性の低下が起こるため好ましくないとされている。
上記のニュークリエーションタイプの希土類−鉄−窒素磁性材料は、数μmあるいは数10μmを超える平均粒径を有する希土類−鉄母合金粉末を製造した後、窒素原子を導入するため、窒素やアンモニア、又はこれらと水素との混合ガス雰囲気中で200〜700℃に加熱する窒化処理を行い、次いで、上記所定の粒度に微粉化して製造されている。
【0006】
上記希土類−鉄−窒素磁性材料の原料として用いられる希土類−鉄母合金粉末は、溶解鋳造法、液体急冷法、還元拡散法等により製造される。このうち溶解鋳造法では、希土類金属、鉄、必要に応じてその他の金属を所定の比率で調合して不活性ガス雰囲気中で高周波溶解し、得られた合金インゴットを均一化熱処理した後、ジョークラッシャー等の粉砕装置で所定の粒度に粉砕して製造されている(例えば、特許文献5参照)。また、液体急冷法では、上記合金インゴットを用い液体急冷法で合金薄帯を作製し、得られた合金薄帯を粉砕して製造されている(例えば、特許文献6参照)。
また、還元拡散法では、希土類酸化物粉末、鉄粉末、及び還元剤からなる混合物を非酸化性雰囲気下で加熱焼成することにより、希土類−鉄系母合金を含む反応生成物を得て、この反応生成物を水素処理である程度崩壊させ、湿式処理の後に、乾燥することで希土類−鉄系母合金粉末を得る。そして、この希土類−鉄系母合金粉末を窒化処理し、微粉砕することで、希土類−鉄−窒素系磁石粉末が製造される(特許文献7参照)。
【0007】
上記の溶解鋳造法、液体急冷法などでは、原料に高価な希土類金属を用いるため磁石価格を低く抑えることは難しく、それに比較して、還元拡散法では、原料に安価な希土類酸化物を使うため価格面では有利とされている。
しかし、安価な製造方法である還元拡散法においても課題が存在する。その一つが希土類−鉄母合金粉末の表面酸化の問題である。希土類−鉄系母合金を含んだ反応生成物は湿式処理の後、乾燥することで希土類−鉄母合金粉末となるが、湿式処理や乾燥時での粉末表面の酸化が避けられず、しかも酸化膜の厚さが不均一であるため、窒化の際に過窒化と未窒化の部分ができてしまい特性低下を招いてしまう。
【0008】
そこで、この問題の解決策として希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の一つである希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法について、還元拡散により得られた希土類−鉄母合金を含む反応生成物を大気に暴露することなく水素処理した後に窒化処理を行い、その後湿式処理する方法(特許文献8参照)がある。これにより、希土類−鉄母合金粉末の表面酸化を抑制し、均一な窒化が実現でき、特性の良好な希土類−鉄−窒素系磁石粉末を得ている。
しかし、この方法では良好な特性が得られるものの水素処理後に窒化処理するため、反応生成物が粉末や小さな塊状と異なった状態で存在している点や還元拡散に使用した還元剤が反応生成物に含まれている点から窒化条件の設定が非常に困難である。このように窒化を均一に行い特性を向上させることは還元拡散法において大きな課題と言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−131949号公報
【特許文献2】特開平2−57663号公報
【特許文献3】特開平6−279915号公報
【特許文献4】特開平3−153852号公報
【特許文献5】特開平5−258928号公報
【特許文献6】特開平5−13207号公報
【特許文献7】特開2004−204285号公報
【特許文献8】特開2007−119909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況に鑑み、上記希土類−鉄−窒素磁性材料の原料として用いられる希土類−鉄母合金粉末を湿式処理して乾燥する製造時の上記問題点を解消して、窒化処理後の希土類−鉄−窒素系磁石粉末の磁気特性が向上する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、かかる従来の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、希土類−鉄母合金粉末を窒化して製造する希土類−鉄−窒素磁石粉末の製造方法において、希土類−鉄母合金粉末を湿式処理して乾燥する際、処理装置内を一貫して非酸化性雰囲気中で行うことで粉末表面の酸化を抑制することができ、得られる希土類‐鉄母合金粉末の酸素量を大幅に低減できることで、均一な窒化が実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、希土類酸化物粉末、鉄粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合し、この混合物を還元拡散法により非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−鉄母合金を含む還元拡散反応生成物を得て、次に、該還元拡散反応生成物を湿式処理装置に装入し、水洗、デカンテーション、酸洗して崩壊させるとともに還元拡散反応生成物から還元剤を除去し、引き続き乾燥した後、得られた希土類−鉄母合金粉末を窒化処理して下記の一般式(1)で表される希土類−鉄−窒素系磁石粉末を得る製造方法において、前記還元拡散反応生成物の湿式処理から乾燥工程までを一貫して非酸化性雰囲気中で行うことを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末を得る製造方法が提供される。
Fe(100−a−b) ・・・(1)
(式(1)中、Rは1種類または2種以上の希土類元素であり、またa、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記還元拡散反応生成物を湿式処理装置で酸洗処理した後、外部に取り出さずに乾燥することを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記湿式処理装置が濾過乾燥機であることを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、希土類−鉄母合金粉末の酸素量が0.10質量%以下であることを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、希土類−鉄母合金粉末の平均粒径が5〜100μmであることを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、窒化処理後、さらに微粉砕または解砕することを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0014】
一方、本発明の第7の発明によれば、第1〜6の発明の製造方法によって得られた希土類−鉄−窒素系磁石粉末が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、希土類−鉄−窒素合金粉末の平均粒径が1〜10μmであることを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、希土類−鉄合金の原料混合物に対して還元拡散処理を行い、これにより得られた希土類−鉄合金粉末に湿式処理を行ってから窒化処理を行う希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法において、希土類−鉄母合金粉末を湿式処理して乾燥する際、処理装置内を一貫して非酸化性雰囲気中で行うことで粉末表面の酸化を抑制することができ、得られる希土類‐鉄母合金粉末の酸素量を大幅に低減できるため、窒素が入りやすくなり、均一な窒化が実現できる。
その結果、希土類−鉄−窒素磁石粉末が高磁石特性を有するようになり、小型化、高特性化を実現した永久磁石が得られる。この希土類−鉄−窒素磁石粉末を用いれば、高磁石特性を有するボンド磁石用組成物、並びに磁気特性に優れたボンド磁石を得ることができ、携帯電話やデジタルカメラ、デジタルビデオなどを始めとする家電製品の小型化、軽量化、高性能化に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の希土類−鉄−窒素磁石粉末とその製造方法について、詳しく説明する。
【0017】
1.希土類−鉄−窒素磁石粉末
本発明の希土類−鉄−窒素磁石粉末は、後で詳述する製造方法によって得られ、希土類元素、鉄元素、及び窒素から構成されている。
【0018】
すなわち、本発明の希土類−鉄−窒素磁石粉末は、次の一般式(1)で表される希土類−鉄−窒素合金からなる、保磁力発生機構がニュークリエーションタイプの磁石粉末である。
Fe(100−a−b) …(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素であり、また、a、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)
【0019】
(希土類元素)
希土類−鉄−窒素磁石粉末を構成する、主要成分の希土類元素(R)は、磁気異方性を発現させ、保磁力を発生させる上で本質的な役割を果たす元素である。
希土類元素としては、Yを含むランタノイド元素のいずれか1種または2種以上であり、例えば、Y、La、Ce、Pr、Nd、およびSmの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素が挙げられる。これらの中でも、Sm及び/又はNdが好ましい。また、これらとEu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbの群から選ばれる少なくとも1種の元素とを組み合わせれば、磁気特性を高めることができる。
希土類−鉄−窒素磁石粉末の希土類元素は、4原子%以上18原子%以下であることが必要である。4原子%よりも少なければ、合金中に軟磁性相であるα−Feが多く存在するようになり高い保磁力が得にくくなり、18原子%を超えると主相となる合金相の体積が減少してしまい飽和磁化が低下するため好ましくない。
希土類元素の中では、特に、Smが好ましく、Smが希土類元素の50原子%以上含むと高い保磁力を持つ材料が得られる。ここで用いる希土類元素は、工業的生産により入手可能な純度でよく、製造上、混入が避けられない元素、例えば、O、H、C、Al、Si、F、Na、Mg、Ca、Liなどが含まれていても差し支えない。
【0020】
(鉄元素)
本発明の希土類−鉄−窒素磁石粉末を構成する主要な鉄元素としては、具体的には、鉄(Fe)が必須成分として挙げられ、希土類−鉄−窒素磁石粉末の磁気特性を損なうことなく温度特性や耐食性を改善する目的で、その一部をCoまたはNiの1種以上で置換してもよい。Fe単独、またはFeの一部をCoまたはNiの1種以上で置換した合金をまとめて以下、Fe成分と称する。
Fe成分は、強磁性を担う基本元素であり、希土類−鉄−窒素磁石粉末としたとき、65原子%以上、約86原子%以下含有する必要がある。Fe成分が、65原子%より少ないと磁化が低くなり好ましくない。また、Fe成分が86原子%を超えると希土類元素の割合が少なくなり過ぎ、高い保磁力が得られず好ましくない。Fe成分の組成範囲が70〜80原子%であれば、保磁力と磁化のバランスのとれた材料となり、特に好ましい。
【0021】
(窒素)
窒素は、本発明で得られた希土類−鉄母合金を窒化して、磁石化するために必要な元素であり、10〜17原子%含有する必要がある。窒素が10原子%未満では9eサイトに窒素が埋まりきらず高い磁気特性が得られず、窒素が17原子%より多く入ってしまうと結晶構造が壊れ磁気特性が下がってしまう。本発明では、窒素が希土類−鉄母合金に対して均一に含有されているので、磁気特性が高い希土類−鉄−窒素磁石粉末である。
【0022】
2.希土類−鉄−窒素磁石粉末の製造方法
本発明の希土類−鉄−窒素磁石粉末の製造方法は、(1)希土類酸化物粉末、鉄粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合し、混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−鉄母合金を含む還元拡散反応生成物とし、(2)該還元拡散反応生成物を非酸化雰囲気中で湿式処理、乾燥させ希土類−鉄母合金粉末とし、(3)該希土類−鉄母合金粉末を窒素含有雰囲気中で加熱処理して、希土類−鉄母合金の窒化物とする工程を含んでいる。
本発明では、(4)得られた窒化物を必要により微粉砕又は解砕して所定の粒径を有する希土類−鉄−窒素系磁石粉末を製造する工程を含むことができる。
【0023】
(1)還元拡散反応生成物の製造
本発明では、鉄合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合した後、該混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成して、希土類−鉄母合金を含む還元物を得る還元拡散法を採用する。
【0024】
(希土類酸化物)
希土類酸化物は、前記希土類元素、すなわち、例えば、Y、La、Ce、Pr、Nd、およびSmの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素の酸化物である。
希土類−鉄−窒素磁石粉末の希土類元素は、4原子%以上18原子%以下であることが必要である。4原子%よりも少なければ、合金中に軟磁性相であるα−Feが多く存在するようになり高い保磁力が得にくくなり、18原子%を超えると主相となる希土類−鉄−窒素合金相の体積が減少してしまい飽和磁化が低下するため好ましくない。
希土類元素の中では、特に、Smが好ましく、Smが希土類元素の50原子%以上含むと高い保磁力を持つ材料が得られる。
希土類酸化物粉末は、目標組成より2〜20質量%程度多く入れることが好ましい。これは希土類元素の投入量が少ないと還元剤を除去する湿式処理時に希土類元素成分がより多く溶け出てしまうため、希土類元素量が目標組成以下となって希土類が不足し軟磁性相が出現してしまい保磁力を下げてしまうからである。一方、希土類成分が上記範囲より多すぎると非磁性相が多くなり磁化が下がってしまうため好ましくない。
ここで、希土類酸化物粉末の粒径は、特に制限されないが、反応性、作業性等の面から10μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、希土類酸化物粉末は、粒径0.1〜10μmの粉末が希土類酸化物粉末全体の80質量%以上を占める粉末を用いるようにする。
【0025】
(鉄粉末)
鉄粉末は、鉄の金属粉末を必須として、鉄酸化物粉末、コバルト粉末、ニッケル粉末などの鉄含有粉末を混合することができる。鉄粉末としては、例えば還元鉄粉、ガスアトマイズ粉、水アトマイズ粉、電解鉄粉などが使用でき、必要に応じて最適な粒度になるように分級する。
ここで鉄粉末の30質量%までを鉄酸化物粉末として投入し、還元拡散反応の発熱量を調整することもできる。また、Feの20質量%以下をCoで置換した組成の希土類−鉄−コバルト−窒素系磁石粉末を製造する場合には、Co源としてコバルト粉末および/またはコバルト酸化物粉末および/または鉄−コバルト合金粉末を用いる。コバルト酸化物としては、たとえば酸化第一コバルトや四三酸化コバルト、これらの混合物で、上記粒度を持つものが使用できる。鉄粉末には製造上、混入が避けられない元素、例えば、O、H、C、Al、Si、F、Na、Mg、Ca、Liなどが0.05質量%程度まで含まれていても差し支えない。
【0026】
原料として用いる鉄粉末の粒度分布は、特に制限されるわけではないが、希土類−鉄−窒素磁石粉末の目標の粒度分布に近いものを用いることが好ましい。特に、鉄粉末は、粒径が10〜70μmの粉末が全体の80質量%以上を占めるようにすることが好ましい。鉄粉末は、粒径70μmを超えるものが多くなると、希土類−鉄母合金粉末中に希土類元素が拡散していない鉄部が多くなるとともに母合金粉末の粒径も大きくなり、窒素分布が不均一になって、得られた希土類−鉄−窒素系磁石粉末の角形性が低下しやすい。
これに対し、希土類酸化物粉末、コバルト酸化物粉末は、これらの中でもっとも多い希土類酸化物粉末でも組成が30質量%未満であることから、還元拡散反応時に、反応容器内部で上記鉄粉末の周りに均一に分布存在していることが望ましい。したがって、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の80質量%以上を占めるものであることが好ましい。
粒径が0.1μm未満の粉末が多くなると、製造中に粉末が舞い上がり取り扱いにくくなる。また、10μmを超えるものが多くなると、還元拡散法で得られた希土類−鉄−母合金粉末中の希土類元素が拡散していない鉄部が多くなる。
【0027】
(還元剤)
還元剤には、希土類酸化物を還元する機能を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属が用いられる。例えば、Li及び/又はCa、あるいはこれらの元素とNa、K、Mg、Sr又はBaから選ばれる少なくとも1種が使用できる。
これら還元剤は、その投入量と粉体性状、希土類酸化物の粉体性状、各種原料粉末の混合状態、還元拡散反応の温度と時間を注意深く制御して使用することが望ましい。なお、上記還元剤の中では、取り扱いの安全性とコストの点から、金属Li又はCaが好ましく、特にCaが好ましい。
還元剤の投入量は、該希土類酸化物を還元するに足るように、反応当量よりも若干過剰とすることが好ましい。還元剤を当量より過剰にしないと容器内の残存酸素や水分により還元剤が酸化し、希土類酸化物を十分還元できなくなり磁石粉末特性を低下させてしまう。
上記各原料の混合方法は、特に限定されないが、Sブレンダー、Vブレンダー、各種ミキサー等を用いて行うことができる。例えば、各原料を所定の量、秤量し、Vブレンダーで1時間程度混合すれば良い。
上記混合物を、還元拡散を行うための反応容器に移す際には、希土類酸化物などは平均粒径が数μmと細かく粉が飛散しやすく、飛散を防止するためにカバー等を取り付けることが好ましい。この操作により合金粉に組成ずれを起こすことが抑制できる。その後、上記混合物を投入した反応容器を還元拡散炉に入れ、酸素が実質的に存在しない非酸化性雰囲気とすることが好ましい。
【0028】
(還元拡散法)
まず、上記の原料である希土類酸化物粉末、鉄粉末、希土類酸化物を還元するために足る還元剤を配合し、該原料混合物を反応容器に入れる。この際、原料を圧縮すると還元時間を短縮できる。圧縮するために使用する装置に特に限定はないが、例えば、ノッカー、バイブレーター、プレス機などが挙げられる。バイブレーターを使用する際は棒タイプのものを反応容器に入れた該原料混合物に突き刺すなどすると効率的に圧縮できる。
上記原料混合物の入った反応容器を還元拡散炉に入れ、非酸化性雰囲気中、例えば、アルゴンを流しながら還元拡散炉で上記還元剤が溶融状態になる温度まで昇温し加熱焼成する。
加熱温度は1000〜1250℃程度として処理することが好ましい。還元剤として上記したようにCaを選定した場合、Caの融点が838℃、沸点が1480℃であるため、1000〜1250℃の温度範囲内であれば還元剤は溶解するが、蒸気にはならずに処理することができる。この加熱焼成により、上記混合物中の希土類酸化物が希土類元素に還元されるとともに、該希土類元素が鉄粉中に拡散され、希土類−鉄母合金が合成される。この還元拡散反応が起きる際、原料混合物が圧縮されていると圧縮されていない場合に比較して、原料混合物が炉内の底部、つまり高温部で、温度分布の小さい範囲に配置され、均一に熱がかかることにより場所による反応のばらつきが小さくなり、よって組成ばらつきが小さい還元物が得られ、ひいては磁気特性の優れた合金粉末が得られることになる。さらに原料混合物が圧縮されていることにより各原料粒子間の距離が短いため熱伝導がよく、短時間で還元拡散反応が起こり昇温時間も短くなる。還元拡散時間が長い場合、蒸気圧の高い希土類元素は高温部で揮発し、低温部に濃縮し組成のばらつき原因になる。したがって、このように短時間で還元拡散反応できることは特性を向上させる大きな要因となる。希土類−鉄母合金を生成後は、速やかに反応容器内を室温まで冷却し、希土類−鉄母合金を含む還元拡散反応生成物(還元物とも記す)を取り出す。
【0029】
(水素処理)
上記還元物は非常に硬いうえ、反応容器に溶着しており取り扱いづらい。このため、還元物を水砕する際、水中での崩壊性を改善するために、水中投入前に水素処理等を行うことが好ましい。水素処理を行わずに水砕を行うと、還元物の塊が残り、還元剤などが微量に残留した状態で希土類−鉄母合金が得られることにもなり磁気特性の低下にも繋がってしまう。
還元物の水素処理は、上記希土類−鉄母合金を含む還元物を真空引きできる密閉式のステンレス製容器に入れて行う。例えば、該容器を0.001MPa以下まで真空引きし、リークチェックを行い、その後、アルゴンガスを0.14MPaまで封入し、加圧状態でリークチェックを行う。その後、0.001MPa以下まで真空引きし容器内に水素を導入する。水素は、水素吸蔵性を有する希土類−鉄母合金に吸収され、希土類リッチ相と主相の膨張率の違いにより、還元物は崩壊する。容器内温度が40℃以下になったらこの還元物を取り出す。
【0030】
(2)希土類−鉄母合金粉末の湿式処理
次いで、上記還元物を水中に投入(水砕)し、デカンテーションにより洗浄して還元剤を除去し、次いで酸洗、固液分離、乾燥を行い、希土類−鉄母合金粉末を得る。
【0031】
湿式処理では、水洗から乾燥までの工程で希土類−鉄母合金粉末を外部に取り出すことなく処理できる処理装置を用いることが望ましい。このような装置として、窒素などの非酸化性雰囲気ガスに置換しうる濾過乾燥機を挙げることができる。濾過乾燥機とは、密閉容器内で水や酸を噴射して洗浄する機能、デカンテーションする機能、洗浄液を濾過する機能、真空乾燥又は加熱乾燥する機能を有しているものであれば限定されず、密閉容器内に攪拌翼を持つものでも持たないものでもよい。中でも1台でデカンテーション、ケーキ洗浄、ろ過、乾燥、排出の全工程を自動化可能な装置であることが望ましい。市販品として、(株)神鋼環境ソリューションの回転型ろ過乾燥機「フィルタードライヤ」、回転型濾過乾燥機「RFD」や、月島機械株式会社の反転型濾過乾燥機、攪拌型濾過乾燥機などがある。
【0032】
(水洗、デカンテーション、酸洗)
水洗では、例えば、得られた粉状還元物を、窒素置換した濾過乾燥機に装入し、還元物1kgあたり約1リットルの水の割合で水中に投入し、1〜3時間攪拌し還元物を崩壊させ、スラリー化させる。窒素流量2.0〜4.0L/分とすることが好ましい。このときスラリー溶液のpHは11〜12程度であり、還元物はほとんど崩壊しており、還元物を水で処理し過剰還元剤を酸化させていると、水と反応し水素がでることなく安全に作業できる。
この後、デカンテーションを5〜10回程度繰り返す。デカンテーション条件は、例えば、該スラリー溶液に注水し、攪拌1分、静置分離2分、排水することを1回とする。デカンテーション条件は、この方法に限定されるわけでなく、スラリー溶液の状態に合わせて適宜選定すればよい。
その後、スラリーのpHが5〜6になるように酢酸を添加し、酸洗を行うことで固液分離し、固相分を乾燥して希土類−鉄母合金粉末を得る。還元剤として用いたCaは非磁性であり、希土類−鉄母合金粉末の粒界や粒子表面に存在するCaは磁気特性を下げるので、できるだけ除去することが好ましい。
これらの工程は、全て非酸化性雰囲気である窒素雰囲気中で実施する。その後、窒素ガスで加圧濾過を行い、残った固相部分を装置内で真空乾燥して希土類−鉄母合金粉末を得る。
上記非酸化性雰囲気を得るには窒素ガスを用いるのが最も安価で好ましいが、アルゴンガスのような不活性ガスを用いても良い。
表面酸化のバラつきにより、窒化の際に過窒化と未窒化の部分ができてしまい特性低下を招いてしまうため、希土類−鉄母合金粉末中の酸素含有量は、少ないほど好ましく、例えば0.1質量%以下であることが好ましい。
【0033】
(3)希土類−鉄母合金の窒化物の製造
(窒化処理)
希土類−鉄母合金粉末は、予め窒素ガス又はアンモニア、あるいはアンモニア−水素混合ガスのいずれかを含む含窒素雰囲気とした後、特定の温度で特定時間加熱して窒化処理を行う。
【0034】
窒化ガスには、窒素、またはアンモニアを用いることが好ましい。特に、アンモニアは希土類−鉄合金粉末を窒化しやすく、短時間で窒化できるため好ましい。この際、水素との混合ガスとして窒化するとさらに好ましい。
本発明では、窒化ガスとして、少なくともアンモニアと水素とを含有していることが好ましく、反応をコントロールするためにアルゴン、窒素、ヘリウムなどを混合することができる。アンモニア−水素混合ガスを用いるとアンモニアだけ窒化した場合と比較し、アンモニア分圧が下がり、表面付近が過窒化になりづらく粉末内部まで均一に窒化できる。窒化ガスの量は、磁石粉末中の窒素量が3.3〜3.7質量%となるに十分な量であることが好ましい。
全気流圧力に対するアンモニアの比(アンモニア分圧)は、0.3〜0.7、好ましくは0.4〜0.6となるようにする。アンモニア分圧がこの範囲であると、母合金の窒化が進み、窒素量を3.3〜3.7質量%とすることができ、十分に磁石粉末の飽和磁化と保磁力を向上できる。
【0035】
窒化反応を行う反応装置は、特に限定されず、横型、縦型の管状炉、回転式反応炉、密閉式反応炉などが挙げられる。何れの装置においても、本発明の希土類−鉄−窒素磁石粉末を調製することが可能であるが、特に窒素組成分布の揃った粉体を得るためにはキルンのような回転式反応炉を用いるのが好ましい。
窒化処理は、該希土類−鉄母合金粉末を含窒素雰囲気中で、例えば、200〜700℃に加熱する。加熱温度は、300〜600℃が好ましく、さらに好ましくは350〜550℃とする。200℃未満では十分に母合金の窒化速度が遅く、700℃を超える温度では希土類の窒化物と鉄とに分解してしまうので好ましくない。加熱時間は、例えば2〜10時間とし、5〜10時間するのが好ましく、より好ましくは7〜10時間とする。
窒化を効率よく行うためには、通常100μm程度以下の希土類−鉄母合金粉末粒子を用いることが好ましい。粒子の大きさは特に制限されないが、凝集・融着部を実質的に含まない平均粒径5〜100μmの粉末であればなお好ましい。このため、希土類−鉄母合金粉末の凝集・融着部をなくすために、必要により解砕しておくことが好ましく、粒径の大きな希土類−鉄系合金粉末をさらに微粉化(解砕を含む)して製造してもよい。粒径が5μmよりも細かいと発火し易く取り扱いが難しくなる。また、粒径が100μmよりも粗いと粒子内を均一に窒化することが行いずらくなり、磁気特性が低くなってしまう。
【0036】
希土類−鉄母合金粉末を粉砕、解砕する方法は、特に制限されず、例えば、湿式粉砕法ではボールミル粉砕や媒体攪拌型ミル粉砕等を、乾式粉砕法では不活性ガスによるジェットミル粉砕等を用いることができる。これらの中でも、粉末の凝集を少なくできるジェットミル粉砕が特に好ましい。
また、希土類−鉄母合金粉末の凝集をさらに少なくするため、例えば、ジェットミル粉砕では、不活性ガス中に5体積%以下の酸素を導入することで微粉化することができる。また、ボールミル粉砕や媒体攪拌ミル粉砕等では、小径の粉砕ボール、あるいはステンレス鋼等ではなくジルコニア等の低比重のセラミックス粉砕ボールを用いることによって微粉化することができる。
【0037】
(窒化処理前の熱処理)
なお、上記希土類−鉄母合金粉末の粒径が粗大であるため粉砕処理を行った場合は、得られた希土類−鉄母合金粉末には、粉砕により生じた結晶の歪みが残留し、次の窒化工程においてα−Fe等の軟磁性相が発生する原因となる場合がある。α−Fe等の軟磁性相が発生すると保磁力や角型性が低下するため、磁気特性を向上させるためには、粉砕により得られた母合金微粉末を、窒化処理に先立って、アルゴン、ヘリウム、真空等の非酸化性かつ非窒化性雰囲気中、600℃以下で熱処理し、結晶の歪みを除去しておくことが好ましい。
特に、窒化処理と同時に400〜600℃で熱処理を行うと処理コストを下げられるためメリットが大きい。窒化処理と同時の場合は、熱処理温度が400℃未満であると、残留する結晶の歪みを除去する効果が十分でなく、一方、600℃を超えると、合金が希土類元素の窒化物と鉄に分解するので好ましくない。
【0038】
(水素アニール、アルゴンアニール)
上記窒化処理の終了後、水素アニール、アルゴンアニールをすることが好ましい。例えば、水素アニールを0.5〜2時間、アルゴンアニールを0.3〜1時間行い、アルゴンを流した状態で室温まで自然または強制冷却をすればよい。
水素アニールは、希土類−鉄−窒素合金主相に過剰に入った窒素を抜きだす効果があり、また、アルゴンアニールは希土類−鉄−窒素合金主相に過剰に入った水素を抜く効果がある。これにより該合金粉末の過剰な窒素、水素が抜け、理論上最も磁気特性の高い組成に近づかせることができる。
なお、上記のように、アンモニア−水素混合ガス中で窒化した後の合金粉中には水素が高含有量で残留している場合があり、水素残留量が多いままでは磁気特性が低下するため、必要によって真空加熱を行うなどの方法で十分に水素除去しておく必要がある。
【0039】
(4)希土類−鉄−窒素系磁石粉末の粉砕
(解砕又は微粉砕)
ニュークリエーションタイプの磁石粉末は、上記の方法で得られた粗粉末では高い保磁力を得ることができないため、平均粒径が1〜10μmになるように微粉砕を行うことが必要になる。より好ましい平均粒径は、1〜8μmであり、さらに好ましい平均粒径は、1〜5μmである。微粉砕を行う方法は特に限定されないが、例えば湿式粉砕機、乾式粉砕機、ジェットミル、アトライターなどが挙げられる。アトライターは適当な粉砕溶媒を選択することにより合金粉末を安価に微粉砕できるので好ましい装置といえる。この際、微粉末を乾燥する必要があるが、真空中で乾燥すれば短時間で効率的に乾燥できるので好ましい。
粉砕溶媒としては、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等が使用できるが、特にイソプロピルアルコールが好ましい。粉砕後に所定の目開きのフィルターを用いて、ろ過、乾燥して希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を得る。
【0040】
(磁石粉末の表面処理)
得られた希土類−鉄−窒素磁石粉末は、空気中、温度や湿度の高い雰囲気中に置かれると錆びたり劣化したりして磁気特性が低下する場合があるため、燐酸や有機燐酸エステル系化合物、亜鉛などの金属粉末、シリルイソシアネート系化合物、あるいはチタネート系、アルミニウム系、シラン系など各種カップリング剤によって表面処理することが望ましい。
例えば、希土類−鉄−窒素磁石粉末に亜鉛粉末とカップリング剤を加えたものを、有機溶媒を媒液として湿式粉砕することができる。希土類−鉄−窒素磁石粉末の粉砕時に亜鉛粉末及びカップリング剤が存在すると、粉砕された磁石粉末表面にカップリング剤及び亜鉛粉末がコ−ティングされ、粒子同士の付着が防止されて粉砕速度が早くなる。また、亜鉛粉末がコ−ティングされることにより、磁石粉末表面近傍の変質層が磁気的に無害なものになるため、高い磁気特性が得られる。
また、表面処理剤として有機燐酸エステル系化合物あるいはシリルイソシアネート系化合物を用いる場合、被覆または塗布手段は特に限定されないが、例えば、まず処理剤を磁性粉100重量部に対して約5〜10重量部の溶媒に溶解した後、磁性粉と充分に混合撹拌し、24時間以上真空または減圧乾燥することにより行うことができる。この時、溶媒としては、アルコール類、ケトン類、低級炭化水素類、芳香族類、またはこれらの混合系有機溶媒等が用いられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。得られた窒化粉末は次の方法で測定した。
【0042】
<平均粒径の測定>
磁石粉末の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計(Sympatec社製)を用いて測定を行った。
<磁気特性評価>
希土類−鉄−窒素磁石粉末試料の磁気特性は、次のように測定した。まず、パラフィンを詰めたサンプルケースを準備し、それにSm−Fe−N合金粉末を詰め、その後、加熱配向、冷却固化を行い、サンプルを作製した。次に振動試料型磁力計(VSM)(東英工業(株)製)を用い、ヒステリシスループを描かせた(最大印加磁場:1670kA/m(21kOe))。
【0043】
(実施例1〜3)
次に示す製造方法でSm−Fe−N合金粉末を作製した。
まず、出発原料として、Fe粉(平均粒径:38.3μm、純度:99.0%以上、酸素<0.1%)、Sm粉(平均粒径:3.1μm、純度:99.0%以上、炭素<0.05%、SiO<0.01%)を準備した。上記原料に還元剤として、このSmを還元するに足るCa(粒度:5mm以下、純度:99.1%以上)を加えて混合機で1時間混合した。
その後、得られた混合物を反応容器に入れ、さらに還元拡散容器に入れた後、電気炉(還元拡散炉)に装入し、アルゴン置換した後、アルゴン流量0.5〜1.0L/分として、1200℃で8時間保持し、その後室温まで冷却してSm−Fe還元物を含む反応生成物を得た。
次に、上記反応生成物1kgを真空引きできるステンレス製容器に入れ、0.001MPaまで真空引きした後、水素を入れ反応させ、崩壊させた。
次に、上記崩壊物を崩壊物1kgに対し1Lの水と共に濾過乾燥機(タナベウィルテック(株)製)に装入する。その際、装置内は予め窒素置換しておき、その後、窒素流量を2.0〜4.0L/分として流しながら、1時間攪拌しスラリー化させる。その後、該スラリー溶液に注水し、攪拌1分、静置分離2分、排水することを1回とし、このデカンテーション作業を5回繰り返してCaを除去し、そして酢酸を用いて酸洗処理を行った後、窒素ガスで加圧濾過する。その後、窒素置換しアルコールでデカンテーションを行い、再度窒素ガスで加圧濾過し、そのまま装置内で真空中100℃、3時間乾燥することでSm−Fe母合金粉末を得た。
次に回転するレトルトに片側からガス供給を行い反対側からガスを排気する装置(ロータリー式窒化炉)を用い、Sm−Fe母合金粉末に対して、Sm−Fe母合金1kgあたり水素ガス流量を0.1L/min、アンモニア流量を0.2L/minとしたアンモニア−水素混合ガスを流しながら460℃で10時間、窒化を行った。窒化後は、温度を460℃に維持したまま、Sm−Fe母合金1kgあたり水素ガスを1L/min流しながら1時間保持し、次いでSm−Fe母合金1kgあたり窒素ガスを1L/min流しながら1時間保持するアニールを行い、その後、窒素を流したまま室温まで冷却した。冷却後は得られたSm−Fe−N合金粉末を全量回収し、そこからサンプリングして実施例1〜3とした。実施例1〜3のSm−Fe合金粉末の酸素含有量および平均粒径とSm−Fe−N合金粉末の組成分析結果および平均粒径を表1に示す。
さらに、実施例1〜3のSm−Fe−N合金粉末をアトライター(三井鉱山(株)(現:日本コークス(株))製)でアルコールを溶媒として用い、200rpm、2時間粉砕を行った。その後濾過し、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)(現:日本コークス(株))製)で攪拌しながら真空熱乾燥を行い、実施例1〜3のSm−Fe−N合金微粉末を製造した。得られたSm−Fe−N合金微粉末の平均粒径と磁気特性測定を行った結果を表2に示す。
【0044】
(比較例1〜3)
まず、実施例と同様にして、Sm−Fe還元物を含む反応生成物を水素処理で崩壊させ、実施例と同様の崩壊物を得た。
次に、上記崩壊物を崩壊物1kgに対し1Lの水と共に水槽に入れ、窒素置換せずに、1時間攪拌しスラリー化させる。その後、該スラリー溶液に注水し、攪拌1分、静置分離2分、排水することを1回とし、この作業を5回繰り返してCaを除去し、酢酸を用いて酸洗処理を行った。その後、アルコールでデカンテーションし、固相部分を乾燥機に移し、真空中100℃、3時間乾燥し、Sm−Fe母合金粉末を得た。
そして、実施例と同様にして、窒化、粉砕を行い比較例1〜3のSm−Fe−N合金粉末、Sm−Fe−N合金微粉末を得た。比較例1〜3のSm−Fe合金粉末、Sm−Fe−N合金粉末の組成分析結果および平均粒径を表1に示す。また、比較例1〜3のSm−Fe−N合金微粉末の平均粒径および磁気特性測定を行った結果を表2に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
「評価」
表1、2の結果から明らかなように、比較例1〜3のSm−Fe合金粉末の組成をみると、実施例のSm−Fe合金粉末1〜3と比較して酸素含有量が多い。これは湿式処理時、また乾燥工程へ移す際に大気と接触し、表面が酸化したためと考えられる。そのため、下工程の窒化が均一に進まずSm−Fe−N合金粉の窒素量についても比較例1〜3は、実施例1〜3と比較して窒化量にばらつきがあることが分かる。Sm−Fe合金粉末には酸素含有量の違いによる平均粒径の変化はそれほど見られないが、Sm−Fe−N合金粉末については窒素原子(%)が少ないと平均粒径が大きくなる。これは未窒化による崩壊不足が考えられる。
実施例1〜3のSm−Fe−N合金微粉末の磁気特性は、比較例1〜3と比較して全特性とも高く、ばらつきも小さいことがわかる。これは湿式処理から乾燥工程に入るまでを非酸化性雰囲気中で行うことでSm−Fe合金粉末表面の酸化が抑制され、均一な窒化を実現することができたと考えられる。
以上より、本発明の実施例で製造されたSm−Fe−N合金微粉末は、比較例に比べ高い磁気特性を示し、ばらつきも小さいことから湿式処理、乾燥処理を非酸化性雰囲気中で行うことの効果が十分認められると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類酸化物粉末、鉄粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合し、この混合物を還元拡散法により非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−鉄母合金を含む還元拡散反応生成物を得て、次に、該還元拡散反応生成物を湿式処理装置に装入し、水洗、デカンテーション、酸洗して崩壊させるとともに還元拡散反応生成物から還元剤を除去し、引き続き乾燥した後、得られた希土類−鉄母合金粉末を窒化処理して下記の一般式(1)で表される希土類−鉄−窒素系磁石粉末を得る製造方法において、前記還元拡散反応生成物の湿式処理から乾燥工程までを一貫して非酸化性雰囲気中で行うことを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末を得る製造方法。
Fe(100−a−b) ・・・(1)
(式(1)中、Rは1種類または2種以上の希土類元素であり、またa、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)
【請求項2】
前記還元拡散反応生成物を酸洗処理した後、湿式処理装置から外部に取り出さずに乾燥することを特徴とする請求項1に記載の希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
前記湿式処理装置が濾過乾燥機であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
希土類−鉄母合金粉末の酸素量が0.10質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項5】
希土類−鉄母合金粉末の平均粒径が5〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項6】
窒化処理後、さらに微粉砕または解砕することを特徴とする請求項1に記載の希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって得られた希土類−鉄−窒素系磁石粉末。
【請求項8】
希土類−鉄−窒素合金粉末の平均粒径が1〜10μmであることを特徴とする請求項7に記載の希土類−鉄−窒素系磁石粉末。

【公開番号】特開2011−214113(P2011−214113A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84993(P2010−84993)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】