説明

希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法

【課題】粒子サイズのばらつきが小さい希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体を安定にかつ短時間で製造する方法、並びに該蛍光体前駆体、該蛍光体および放射線像変換パネルを提供する。
【解決手段】水系媒体にバリウム化合物、弗化物以外のハロゲン化物、希土類化合物および必要によりアルカリ土類金属化合物を溶解して、反応母液を調製する工程、反応母液に弗化ハロゲン化バリウムの種晶粒子を添加して分散させる工程、反応母液に弗化物の水溶液を添加して、この反応溶液中に希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体を沈殿生成させる工程、および反応溶液から該蛍光体前駆体を分離する工程、からなる希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法。この前駆体を焼成し希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体が得られ、放射線像変換パネルは該蛍光体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成前の蛍光体前駆体の製造方法、更に詳しくは希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法に関する。また、その製造方法により得られた蛍光体前駆体、その蛍光体前駆体を用いて得られた蛍光体、およびその蛍光体を含有する放射線像変換パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体は、X線や電子線等の放射線の照射によって紫外乃至可視領域に瞬時発光を示すことが知られていて、例えば、放射線写真フィルムと放射線増感スクリーン(増感紙ともいう)の組合せを用いる放射線写真法において、増感スクリーン用の蛍光体として利用されている。また、この蛍光体は、X線等の放射線が照射されると放射線エネルギーの一部を吸収蓄積し、そののち可視光線や赤外線などの電磁波(励起光)の照射を受けると蓄積した放射線エネルギーを輝尽発光として放出する輝尽性蛍光体としても知られ、蓄積性蛍光体を用いる放射線画像記録再生方法において放射線像変換パネル(イメージングプレートともいう)用の蛍光体として利用されている。
【0003】
放射線画像記録再生方法は、輝尽性蛍光体等の蓄積性蛍光体を含有するシート状の放射線像変換パネルに、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、そしてこの発光光を光電的に読み取って画像信号を得ることからなる方法であり、広く実用に供されている。読み取りを終えたパネルは、残存する放射線エネルギーの消去が行われた後、次の撮影のために備えられて繰り返し使用される。
【0004】
希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体は一般に、弗化バリウム、ハロゲン化バリウム、希土類ハロゲン化物、弗化アンモニウムなどからなる原料化合物を一緒に乾式または湿式(液相法)で混合したのち焼成することにより製造される。液相法で原料化合物を混合して反応させた場合には、まず蛍光体前駆体が得られ、これを焼成することにより目的の蛍光体が得られる。ここで、蛍光体前駆体とは、焼成工程に掛けられていない化合物であって、焼成後に得られる蛍光体とほぼ同一の化学組成式を有するものの、発光特性が殆どもしくは充分には付与されていない化合物を意味する。
【0005】
特許文献1には、ユーロピウム付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系蛍光体前駆体の結晶系を変化させる一方法として、BaF2等の種結晶を高濃度のBaI2溶液下で置換(コンバージョン)により形成する方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、反応容器外に設けられた混合器で連続的に蛍光体前駆体粒子を形成し、その後これを反応容器内に供給することにより、蛍光体前駆体粒子核あるいは蛍光体前駆体粒子成長の供給源として使用することからなる蛍光体前駆体粒子の製造方法が開示されている。特許文献2において種粒子は、蛍光体前駆体と同一組成を有し、完成粒子として製品に使用することができるものである。蛍光体としては、(y,Gd)BO3:Eu等のフラットパネルディスプレイ用無機蛍光体が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平2001−166096号公報
【特許文献2】特開2004−67965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
希土類付活弗化ハロゲン化バリウム(BaFX:Ln、ただし、Xはハロゲンであり、Lnは希土類元素である)系蛍光体前駆体の液相法による製造において、所望のサイズおよび形状の粒子群のみを安定に製造することには困難を要する。すなわち、蛍光体前駆体の核形成が沈殿剤となる弗化物溶液の添加のばらつきに非常に敏感であるために、最終的に得られる蛍光体前駆体粒子のサイズ、形状、単分散性などの諸特性が往々にして大きく変化する。その結果、製造時のロット差が大きく、粒子特性の安定した蛍光体前駆体が連続して得られないことが多々ある。
【0009】
従って、本発明は、粒子サイズのばらつきが小さい希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体を安定に、かつより短時間で製造する方法を提供することにある。
また、本発明は、蛍光体の製造に有利に用いることができる希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体を提供することにもある。
また、本発明は、希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体を提供することにもある。
さらに、本発明は、希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体を含有する放射線像変換パネルを提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法について検討した結果、核形成過程と成長過程とからなる粒子形成過程のうち、核形成過程を種晶粒子の使用によって置き換え、成長過程では種晶粒子を成長させることにより、粒子サイズのばらつきが小さい蛍光体前駆体を安定に製造できること、更には従来よりも短時間で製造できることを見い出し、本発明に到達したものである。
【0011】
従って、本発明は、基本組成式(I):

Ba1-aIIaFX:zLn …(I)

[MIIはCa及びSrからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し;XはCl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;LnはCe、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し;そしてa及びzはそれぞれ、0≦a≦0.5、0<z≦0.2の範囲にある数値を表す]
を有する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体を製造するための下記工程からなる製造方法にある:
(1)水系媒体に、バリウム化合物、弗化物以外のハロゲン化物、希土類化合物、および必要によりアルカリ土類金属化合物を溶解して、反応母液を調製する工程、
(2)反応母液に弗化ハロゲン化バリウムの種晶粒子を添加して分散させる工程、
(3)反応母液に弗化物の溶液を添加して、この反応溶液中の希土類付活弗化ハロゲン化バリウムの種晶粒子を成長させる工程、および
(4)反応溶液から該蛍光体前駆体を分離する工程。
【0012】
また、本発明は、上記の方法により製造された上記基本組成式(I)を有する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体にもある。
【0013】
また、本発明は、上記の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体を用いて、焼成することにより得られた上記基本組成式(I)を有する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体にもある。
【0014】
さらに、本発明は、上記の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体を含有する放射線像変換パネルにもある。
【0015】
なお、蛍光体製造時の焼成工程の前後で、化学組成の変化が生じうるため、蛍光体前駆体の各成分の比と出来上がった蛍光体の各成分の比は若干異なる場合がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、蛍光体前駆体の核形成の代わりに一定のサイズと形状を有する種晶粒子を使用することにより、粒子サイズのばらつきの小さい蛍光体前駆体を製造することができる。また、蛍光体前駆体粒子のサイズや形状の調節が容易であり、所望の粒子特性を有する蛍光体前駆体を得ることができる。蛍光体前駆体製造のロット差を低減して、製造ばらつきを抑えることができる。さらには、粒子形成の工程時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の蛍光体前駆体粒子の製造方法において、好ましい態様は以下の通りである。
1)(1)工程において、ハロゲン化物が主として塩化物及び/又は臭化物であるとき、反応母液中の全バリウム濃度は0.6乃至2.5モル/Lの範囲にある。また、ハロゲン化物が主としてヨウ化物であるとき、反応母液中の全バリウム濃度は2.5乃至5.0モル/Lの範囲にある。
2)(2)工程において、弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子の添加の間及び/又は添加後に反応母液に分散処理を施すことにより、種晶粒子の分散した反応母液を得る。分散処理は、超音波分散処理であることが好ましい。
3)(2)工程において弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子の粒子サイズは、0.5μm以上、8.0μm以下である。
4)(2)工程において弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子は、ハロゲンXを70モル%以上、100モル%以下で含有している。
5)(2)工程において弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子は、水系媒体にハロゲン化バリウムとフルオロ錯体を溶解し、必要によりフルオロ錯体の分解を促進するトリガー又はトリガーとなりうる物質を添加して、弗化ハロゲン化バリウム粒子を沈殿生成させることにより調製されたものである。
6)(3)工程において弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子に対する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の粒子の成長量比は、1.5倍以上、10倍以下である。
【0018】
以下に、本発明の下記基本組成式(I)を有する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法について、詳細に説明する。
【0019】

Ba1-aIIaFX:zLn …(I)

[MIIはCa及びSrからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し;XはCl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;LnはCe、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し;そしてa及びzはそれぞれ、0≦a≦0.5、0<z≦0.2の範囲にある数値を表す]
【0020】
[粒子形成工程]
(1)反応母液の調製
まず、水系媒体にバリウム化合物、弗化物以外のハロゲン化物、および希土類化合物を溶解して、反応母液を調製する。
【0021】
バリウム化合物の例としては、酢酸バリウム、硝酸バリウム、水酸化バリウム、安息香酸バリウム、塩化バリウム、臭化バリウム、および沃化バリウムなど水に溶解し易いものが挙げられるが、特に臭化バリウムおよび沃化バリウムが好ましい。
【0022】
ハロゲン化物の例としては、塩化アンモニウム、塩化水素、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化アンモニウム、臭化水素、臭化リチウム、臭化カリウム、沃化アンモニウム、沃化水素、沃化リチウム、沃化ナトリウム、および沃化カリウムを挙げることができる。目的とする蛍光体前駆体の組成に応じて、これらハロゲン化物の中から適宜選択してあるいは組み合わせて使用する。本発明の蛍光体前駆体を用いて蛍光体を得た場合の発光特性(瞬時発光特性、輝尽発光特性等)などの点から、ハロゲン化物は少なくとも臭化物もしくは沃化物を含むことが好ましく、特に好ましくは臭化物と沃化物の組合せである。具体的には、臭化アンモニウムおよび沃化アンモニウムであることが好ましい。
【0023】
水溶性の希土類化合物の例としては、希土類元素のハロゲン化物(塩化物、臭化物またはヨウ化物)、硝酸塩、および酢酸塩を挙げることができる。特に好ましい希土類化合物は、希土類ハロゲン化物である。本発明の蛍光体前駆体を用いて蛍光体を得た場合の発光特性などの点から、希土類元素はセリウムまたはユーロピウムであることが好ましい。
【0024】
反応母液には必要に応じて、アルカリ土類金属(Ca及び/又はSr)化合物が含まれていてもよい。アルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属のハロゲン化物、硝酸塩、亜硝酸塩、酢酸塩、水酸化物、および安息香酸塩を挙げることができる。さらに、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb及び/又はCs)化合物が少量含まれていてもよい。アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属のハロゲン化物、硝酸塩、亜硝酸塩、および酢酸塩を挙げることができる。
【0025】
反応母液の調製は、撹拌機を備えた反応容器を用いて、適当な撹拌回転数にて撹拌しながら行う。このとき、所望により、反応母液に少量の酸、アルカリ、アルコール類、水不溶性金属酸化物微粒子粉体、ゼラチン等の水溶性高分子物質、凝集防止剤、および焼結防止剤などを添加してもよい。
【0026】
本発明においては、このようにして調製した反応母液中の全バリウム濃度は、ハロゲン化物が主として塩化物及び/又は臭化物である場合には、一般には0.6乃至2.5モル/Lの範囲にあり、好ましくは0.7乃至1.5モル/Lの範囲にあり、そして最も好ましくは0.8乃至1.2モル/Lの範囲にある。また、ハロゲン化物が主としてヨウ化物である場合には、反応母液中の全バリウム濃度は、一般には2.5乃至5.0モル/Lの範囲にあり、好ましくは2.7乃至4.8モル/Lの範囲にあり、そして最も好ましくは2.8乃至4.5モル/Lの範囲にある。Ba濃度が低過ぎると蛍光体前駆体にBaF2が混入する可能性があり、逆に高過ぎると粒子が平板状で多分散になり易く、また再核発生が起こる可能性がある。
【0027】
反応母液の温度は、一般には20℃乃至95℃の範囲にあり、好ましくは40℃乃至90℃の範囲にあり、そして最も好ましくは60℃乃至82℃の範囲にある。温度が低過ぎると再核発生が起こる可能性があり、逆に高過ぎると粒子が多分散化する。この温度は、反応の間中維持されることが望ましい。
【0028】
(2)種晶粒子の分散
本発明に用いられる弗化ハロゲン化バリウム(BaFX’、ただし、X’はCl、Br及び/又はIである)種晶粒子は、平板状でなく、略立方体、14面体、より等方的な多面体または球体の形状を有することが好ましい。最も好ましくは球体である。
【0029】
弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子の粒子サイズ(メジアン径、Dm)は、一般には0.5μm以上、8.0μm以下である。好ましくは1.0μm以上、6.0μm以下であり、最も好ましくは2.0μm以上、4.0μm以下である。ここで、メジアン径Dmは、粒子について粒子径と頻度とからなる分布曲線を得たときに累積分布が全体粒子数の50%を示す粒子径(分布の中心値)を意味する。種晶粒子の粒子サイズが小さ過ぎても逆に大き過ぎても、蛍光体前駆体の生産性が低下することになる。よって、後述するように、所望とする蛍光体前駆体の粒子サイズとの成長量比を考慮する必要がある。
【0030】
弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子は、単分散の粒子であることが好ましい。種晶粒子の単分散性を示す変動係数は、一般には40%以下であり、好ましくは30%以下であり、そして最も好ましくは20%以下である。変動係数は、平均粒子径に対する偏差を百分率で表した値であり、平均粒子径は構成一次粒子の平均の大きさである。
【0031】
弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子は、所望とする蛍光体前駆体の主組成に応じて、その主組成に含まれるハロゲンXを一般には70モル%以上、100モル%以下で含有する。好ましくはハロゲンXを90モル%以上、100モル%以下で含有し、最も好ましくはハロゲンXを99モル%以上、100モル%以下で含有する。
【0032】
本発明において弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子は、例えば特開2004−124026号公報に記載されているような弗素源としてフルオロ錯体を用いる方法により、好適に調製することができる。具体的には、水系媒体にハロゲン化バリウムとフルオロ錯体を溶解して溶液を得た後、この溶液に必要によりフルオロ錯体の分解を促進するトリガー又はトリガーとなりうる物質を添加して、溶液中に弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子を沈殿生成させ、次いで溶液から種晶粒子を分離する。この方法によれば、溶液中でフルオロ錯体が均一に分解して弗素イオンが発生し、それにより反応が緩やかにかつ均一に進行するので、単分散の種晶粒子を得ることができる。
【0033】
フルオロ錯体は、フルオロホウ素錯体であることが好ましく、その例としてはM[BF2(OH)2](Mは、Na、K等のアルカリ金属又はNH4)等のジフルオロホウ酸塩、H[BF3(OH)]のトリフルオロホウ酸、M[BF3(OH)]、M[BF3(OCH3)]等のトリフルオロホウ酸塩、H[BF4]のテトラフルオロホウ酸、およびM[BF4]等のテトラフルオロホウ酸塩を挙げることができる。これらのうちでは、H[BF4]、Na[BF4]、K[BF4]およびNH4[BF4]が好ましい。
【0034】
フルオロ錯体の分解を促進するトリガー物質は、溶液中でフルオロ錯体を分解させてフリーの弗素イオンを放出させる物質であり、一般には硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、弗化水素酸、塩酸、臭化水素酸および沃化水素酸酸などの酸;もしくはアンモニア水、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、および水酸化カリウム水溶液などのアルカリ溶液が用いられる。また、トリガーとなりうる物質の代表的な例としては尿素が挙げられる。尿素は、溶液中で加水分解してアンモニア(トリガー)を生成する。尿素の加水分解は、溶液の温度やpHを調節することによって生じる。
【0035】
あるいは、トリガー又はトリガーとなりうる物質を全く添加しないで、単に溶液の温度を変えて一定時間維持する(熟成する)ことによっても、フルオロ錯体からフリーの弗素イオンを放出させることが可能である。溶液の温度は、反応中40℃以上に保持されることが好ましく、より好ましくは60℃以上であり、そして更に好ましくは80℃以上である。
【0036】
ただし、本発明においては弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子が上述したような粒子特性を満足する限り、公知の任意の方法で調製された種晶粒子を使用することができる。
【0037】
上述したような粒子特性を有する種晶粒子を、予め同一ロットで大量に調製して用意しておくことによって、蛍光体前駆体の製造ばらつきを安定化することができ、また粒子形成の工程時間を短縮することができる。
【0038】
上記の弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子を、前記の反応母液に添加して分散させる。種晶粒子は、粉体のままで、あるいは水系媒体に分散させたスラリーとして反応母液に供給することができる。供給前に、種晶粒子の凝集を解すために種晶粒子の粉体またはスラリーを分散処理してもよい。分散処理としては、ミル分散、撹拌混合など公知の各種の技術を使用することができる。
【0039】
弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子自体の凝集を防止し、反応母液に良好に分散させるために、種晶粒子の添加の間および/または添加後に反応母液に分散処理を施すことが望ましい。本発明において分散処理には、反応容器に備えられた撹拌器による撹拌は含まれず、例えば完全シール加圧法、ベンチュリー法、エジェクター(オリフィス)法、間隙せん断型、摩砕せん断型、衝撃せん断型等の分散方式、ナノマイザ等の各種微粒化装置を用いる方法、および超音波分散法を挙げることができる。これらのうちでは、ナノマイザ等の各種微粒化装置を用いる方法および超音波分散法が好ましい。
【0040】
(3)種晶粒子成長
上記の反応母液にその温度を維持しながら弗化物の溶液を添加することにより、反応溶液中の希土類付活弗化ハロゲン化バリウムの種晶粒子を成長させる。
【0041】
弗化物溶液としては、例えば、弗化アンモニウム、弗化水素、弗化リチウム、弗化ナトリウム、弗化カリウムなどの水溶液または非水溶液を用いることができる。弗化物溶液の種類および濃度は目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
上記溶液の添加は、添加速度を制御しながら行うことが好ましい。ダブルジェット方式またはトリプルジェット方式で添加する場合に、そのタイミングは任意に選択することができるが、同時添加であることが好ましい。これにより、反応が生じて、反応溶液中で弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子を核として希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の粒子が成長する。
【0043】
弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子に対する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の粒子の成長量比は、一般には1.5倍以上、10倍以下である。好ましくは1.8倍以上、5.0倍以下であり、最も好ましくは2.0倍以上、3.5倍以下である。成長量比が低過ぎると蛍光体前駆体の生産性が低くなり、逆に高過ぎると製造安定性に懸念が生じる。
【0044】
本発明においては種晶粒子を使用することにより、粒子形成の工程時間を短縮することができる。ここで、粒子形成の工程時間とは、反応母液に対して種晶粒子の添加を開始した時点から蛍光体前駆体の成長が完了する(すなわち、固液分離に移る)時点までの期間を意味し、実質的に目的の粒子形成が行われる期間をいう。
【0045】
[固液分離]
反応溶液から沈殿した蛍光体前駆体粒子を、吸引濾過、加圧濾過、あるいは遠心分離などの手段により分離する。次いで、分離した蛍光体前駆体粒子を、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールで充分に洗浄して、塩などの不要な残留物を除去する。洗浄後、50℃乃至180℃の温度で、大気中または減圧下で所定時間乾燥して、水分および洗浄液成分を蒸発させる。
【0046】
このようにして、前記基本組成式(I)を有する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体が得られる。この蛍光体前駆体を用いて蛍光体を得た場合の発光特性(瞬時発光特性、輝尽発光特性等)などの点から、前記基本組成式(I)において、LnはCeまたはEuであることが好ましい。
【0047】
本発明の蛍光体前駆体は、平板化が抑えられて略立方体、14面体、より等方的な多面体または球体の形状を有することができる。球体であることが最も好ましい。
【0048】
本発明の蛍光体前駆体の粒子サイズ(メジアン径、Dm)は、一般には1.0μm以上、20μm以下である。好ましくは4.0μm以上、15μm以下であり、最も好ましくは6.0μm以上、12μm以下である。粒子サイズが1.0μmより小さいと粒子サイズのばらつきが小さいなど本発明の効果が充分に得られず、一方20μmより大きいと蛍光体粒子にして放射線像変換パネルに用いたときに画質特性の悪化が問題となる。ここで、メジアン径Dmは、粒子について粒子径と頻度とからなる分布曲線を得たときに累積分布が全体粒子数の50%を示す粒子径(分布の中心値)を意味し、コールターカウンター法等の電気的検知法やレーザ回折散乱法など公知の粒子径計測技術を用いて好ましく測定することができる。
【0049】
本発明の蛍光体前駆体は、一般に変動係数が30%以下であり、単分散性が高い。好ましくは変動係数は20%以下であり、最も好ましくは15%以下である。変動係数は、平均粒子径に対する偏差を百分率で表した値であり、単分散性の尺度である。平均粒子径は、構成一次粒子の平均の大きさであり、リーナース法、サブシーズサイザー、ブレーン法等の透過法、電子顕微鏡写真から球換算して得られる球相当径(体積粒子径)などによって好ましく測定することができる。変動係数が大きく単分散性が低いと、蛍光体粒子にして放射線像変換パネルに用いたときに画質特性の悪化が問題となる。
【0050】
次に、この蛍光体前駆体を用いて、本発明の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体を製造する方法について説明する。
【0051】
[原料混合]
上記の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体は、それだけで焼成工程に掛けてもよいが、所望によりその他の蛍光体原料を秤量、混合してもよい。
【0052】
その他の蛍光体原料としては、ハロゲン化バリウム(BaF2、BaCl2、BaBr2、BaI2、BaFCl、BaFBr、BaFI、BaF(Br,I)等)、アルカリ土類金属ハロゲン化物(MgF2、MgCl2、MgBr2、MgI2、CaF2、CaCl2、CaBr2、CaI2、SrF2、SrCl2、SrBr2、SrI2等)、アルカリ金属ハロゲン化物(LiF、LiCl、LiBr、LiI、NaF、NaCl、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、RbF、RbCl、RbBr、RbI、CsF、CsCl、CsBr、CsI等)、金属酸化物(Al23、SiO2、ZrO2等)、希土類元素(Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb)の化合物、例えばハロゲン化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩等、およびハロゲン化アンモニウム(NH4X’;ただし、X’はF、Cl、BrまたはIを表す)を挙げることができる。
【0053】
さらに、発光特性(輝尽発光強度、蓄積されたエネルギーの消去性能等)を改良する目的で、以下のような種々の成分を添加することもできる。前記蛍光体前駆体粒子に含まれる元素以外の元素であって、例えばB、O、S、Asに代表される非金属元素、Al、Ge、Snに代表される両性元素、V、Be、Mn、Fe、Ni、Co 、Cu、Agに代表される金属元素、更にはテトラフルオロホウ酸化合物、ヘキサフルオロ化合物等を挙げることができる。
【0054】
蛍光体前駆体粒子への上記蛍光体原料の混合調製方法としては、公知の混合方法の中から適宜選択して行うことができる。
【0055】
[焼成]
本発明において焼成とは、蛍光体前駆体粒子、または蛍光体前駆体粒子と蛍光体原料との混合物に所望の発光特性を付与して蛍光体とするための熱処理をいう。焼成工程に先立って、以下のような仮焼成工程を実施してもよい。
【0056】
(仮焼成)
仮焼成工程は、焼成工程(本焼成)における焼成温度よりも低い温度で、予め蛍光体前駆体粒子またはその混合物粒子を熱処理する工程である。本焼成が、高温により蛍光体結晶の生成(結晶化)、および付活剤の結晶中への拡散など蛍光体に発光特性(瞬時発光特性、輝尽発光特性、残光特性等)を付与する作用、これら全てを担っているのに対して、仮焼成は、焼成時の温度よりも低い温度によって粒子を結晶化させることが大きな目的である。仮焼成を行うことにより、後の本焼成との役割分担が明確になり、蛍光体の発光特性をより自由に制御することができる。
【0057】
仮焼成は、200℃乃至900℃の温度範囲であって本焼成の温度よりも低い温度で行う。仮焼成温度と本焼成温度との差は、蛍光体前駆体粒子またはその混合物の組成・仮焼成の時間等によっても異なるが、一般には20℃以上であり、好ましくは50℃以上である。仮焼成の時間は、一般には0.1乃至10時間であり、好ましくは0.5乃至5時間である。仮焼成時の雰囲気は厳密に制御する必要はなく、焼成炉としてはマッフル炉、ロータリーキルン、雰囲気炉等を用いることができる。蛍光体の生産性の観点から、連続的に焼成可能な連続炉(トンネル炉)が特に好ましい。
【0058】
仮焼成後、得られた仮焼成物に必ずしも粉砕等を施す必要はないが、得られる蛍光体の粒子径や仮焼成物の均一性の点から、乳鉢等で簡単にほぐしておいてもよい。
【0059】
(本焼成)
まず、仮焼成物、あるいは仮焼成を行わない場合には前記蛍光体前駆体粒子またはその混合物を、石英ボート、石英るつぼ等の耐熱容器に充填する。耐熱容器に充填した仮焼成物を、加熱した電気炉に投入する。焼成に用いる炉としてはチューブ炉が好ましいが、焼成時の雰囲気を任意に制御できるものである限り他の各種の炉に使用することができる。
【0060】
焼成温度は、一般には500℃乃至1000℃の範囲にあり、好ましくは700℃乃至900℃の範囲にある。焼成の間中温度を一定にしてもよいし、あるいは焼成の後半に温度を一定の勾配で下げる(徐冷する)ようにしてもよい。焼成時間は、一般には0.5乃至24時間であり、好ましくは1乃至10時間である。焼成雰囲気としては、中性または弱酸化性の雰囲気を用いる。中性雰囲気としては、He、Ne、Ar、N2等の不活性ガスが挙げられる。また、弱酸化性雰囲気とは少量の酸素を含有する不活性ガス雰囲気を指す。あるいは場合によっては、少量の水素を含有する不活性ガス雰囲気、一酸化炭素を含有する二酸化炭素雰囲気などの弱還元雰囲気を用いることもできる。
【0061】
[冷却]
冷却工程は、焼成により得られた焼成物を、外気から遮断した状態で焼成時の中性または弱酸化性雰囲気を除去しながら、もしくは所定の雰囲気に置換しながら、冷却する工程である。冷却工程は通常は、焼成工程、または徐冷を含む焼成工程を終了した後に直ちに行うが、冷却速度と冷却雰囲気を変化させながら段階的に行ってもよい。
【0062】
冷却終了時の耐熱容器の温度は500℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましい。冷却終了後に、焼成物を有する耐熱容器を炉外に取り出す。必要に応じて、焼成物を更に冷却してもよい。
【0063】
[ほぐし・篩分]
冷却された焼成物は、粒子同士が軽い焼結を生じていたり、凝集していることがあるので、ほぐし・篩分などの後処理を施すことが好ましい。また、篩分・分級工程に掛けることにより、焼結した粒子や大きく成長し過ぎた粗大サイズの粒子を除去することができる。
【0064】
ほぐし工程は、焼成物を、アルカリ金属イオンやBaイオンを含む水溶液、または低級アルコール、ケトン等の有機溶媒中で撹拌することにより行う。ほぐし処理された焼成物の懸濁液、または懸濁液から分離された焼成物粒子を、次いで篩い分けする。篩分方法としては、湿式または乾式による篩い法、湿式サイクロンを用いた水流分級法、乾式サイクロンを用いた気流分級法、沈降法などが挙げられる。特に、ほぐし処理終了直後の懸濁液を連続的に処理できる湿式の篩い法が好ましい。最後に、篩い分けされた粒子に一般的な固液分離および乾燥処理を施す。
【0065】
このようにして、前記基本組成式(I)を有する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体結晶粒子が得られる。蛍光体粒子は、繰り返し再現性が高い(ロットばらつきが低い)ことが望ましい。ロットばらつきは、ロットの平均粒子径に対する偏差を百分率で表した値、すなわち変動係数で示され、本発明の蛍光体粒子の変動係数は、一般に50%以下であり、好ましくは30%以下であり、そして最も好ましくは20%以下である。得られた本発明の蛍光体は、蛍光体材料を必要とする様々な用途に使用することができる。特に、放射線変換パネルの輝尽性蛍光体として好ましく使用することができる。
【0066】
次に、本発明の放射線像変換パネルについて説明する。
本発明の放射線像変換パネルは、その蓄積性蛍光体層に、上記基本組成式(I)を有する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体を含むものである。蓄積性蛍光体層は通常、蓄積性蛍光体粒子とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなるが、蛍光体層中にはさらに他の蓄積性蛍光体粒子や着色剤などの添加剤が含まれていてもよい。以下に、蓄積性蛍光体層が上記の蛍光体粒子とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなる場合を例にとり、本発明の放射線像変換パネルを製造する方法を説明する。
【0067】
支持体は通常、柔軟な樹脂材料からなる厚みが50μm乃至1mmのシートあるいはフィルムである。支持体に使用できる樹脂材料の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂など各種の樹脂材料を挙げることができる。支持体は透明であってもよいし、または支持体に、励起光もしくは発光光を反射させるための光反射性材料(例、アルミナ粒子、二酸化チタン粒子、硫酸バリウム粒子)を充填してもよいし、または空隙を設けてもよい。あるいは、支持体に励起光もしくは発光光を吸収させるため光吸収性材料(例、カーボンブラック)を充填してもよい。必要に応じて、支持体は金属シート、セラミックシート、ガラスシートなどであってもよい。
【0068】
支持体の蓄積性蛍光体層が設けられる側の表面には、感度もしくは画質(鮮鋭度、粒状性)を向上させる目的で、二酸化チタン等の光反射性物質からなる光反射層、もしくはカーボンブラック等の光吸収性物質からなる光吸収層などを設けてもよい。また、その反対側の支持体表面には、感度を向上させる目的で、カーボンブラック等からなる遮光層が設けられていてもよい。さらに、画質を高める目的で、支持体の蛍光体層が設けられる側の表面(支持体表面に下塗層(接着性付与層)、光反射層あるいは光吸収層等の補助層が設けられている場合には、それらの補助層の表面であってもよい)には微小な凹凸が形成されていてもよい。
【0069】
支持体(または補助層)上には、蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層が設けられる。蓄積性蛍光体層の形成は、まず上記の輝尽性蛍光体粒子を結合剤と共に適当な有機溶剤に分散溶解して、塗布液を調製する。塗布液中での結合剤と蛍光体との混合比は、目的とする放射線像変換パネルの特性などによっても異なるが、一般には1:1乃至1:100(重量比)の範囲から選ばれ、そして特に1:8乃至1:40(重量比)の範囲から選ぶのが好ましい。
【0070】
結合剤の例としては、ゼラチン等の蛋白質、デキストラン等のポリサッカライド、またはアラビアゴムのような天然高分子物質;および、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース、エチルセルロース、塩化ビニリデン・塩化ビニルコポリマー、ポリアルキル(メタ)アクリレート、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー、ポリウレタン、セルロースアセテートブチレート、ポリビニルアルコール、線状ポリエステル、熱可塑性エラストマーなどのような合成高分子物質を挙げることができる。なお、これらの結合剤は架橋剤によって架橋されたものであってもよい。
【0071】
塗布液調製用の有機溶剤の例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール等の低級アルコール;メチレンクロライド、エチレンクロライドなどの塩素原子含有炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル;ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル;そして、それらの混合物を挙げることができる。
【0072】
塗布液にはさらに、塗布液中における蛍光体の分散性を向上させるための分散剤、形成後の蛍光体層中における結合剤と蛍光体との間の結合力を向上させるための可塑剤、蛍光体層の変色を防止するための黄変防止剤、硬化剤、架橋剤など各種の添加剤が混合されていてもよい。
【0073】
この塗布液を次に、支持体の表面に均一に塗布することにより塗膜を形成する。塗布操作は、通常の塗布手段、例えばドクターブレード、ロールコータ、ナイフコータ等を用いることにより行うことができる。この塗膜を乾燥して、支持体上への蓄積性蛍光体層の形成を完了する。蛍光体層の層厚は、目的とする放射線像変換パネルの特性、結合剤と蛍光体との混合比などによっても異なるが、通常は20μm乃至1mmの範囲にあり、好ましくは50乃至500μmの範囲にある。
【0074】
あるいは、必ずしも蓄積性蛍光体層を支持体上に直接形成する必要はなく、別に用意した基板(仮支持体)上に蛍光体層を形成した後、蛍光体層を基板から引き剥がし、支持体上に接着剤等を用いることにより、または加熱圧着することにより接着してもよい。また、蓄積性蛍光体層は、必ずしも一層である必要はなく、二層以上で構成されていてもよく、その場合に各層で蛍光体の種類や粒子径、結合剤と蛍光体との混合比を任意に変えることができる。すなわち、用途に応じて蛍光体層の発光特性などを変化させることが可能である。
【0075】
蓄積性蛍光体層の表面には、放射線像変換パネルの搬送および取扱い上の便宜や特性変化の回避のために、保護層を設けることが望ましい。保護層は、励起光の入射や発光光の出射に殆ど影響を与えないように、透明であることが望ましく、また外部から与えられる物理的衝撃や化学的影響からパネルを充分に保護することができるように、化学的に安定で防湿性が高く、かつ高い物理的強度を持つことが望ましい。
【0076】
保護層としては、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、有機溶媒可溶性フッ素系樹脂などのような透明な有機高分子物質を適当な溶媒に溶解して調製した溶液を蛍光体層の上に塗布することで形成されたもの、あるいはポリエチレンテレフタレートなどの有機高分子フィルムや透明なガラス板などの保護層形成用シートを別に形成して蛍光体層の表面に適当な接着剤を用いて設けたもの、あるいは無機化合物を蒸着などによって蛍光体層上に成膜したものなどが用いられる。
【0077】
保護層の表面にはさらに、保護層の耐汚染性を高めるためにフッ素樹脂塗布層を設けてもよい。
【0078】
上述のようにして本発明の放射線像変換パネルが得られるが、本発明のパネルの構成は、公知の各種のバリエーションを含むものであってもよい。例えば、画質の向上を目的として、上記の少なくともいずれかの層を、励起光を吸収し発光光は吸収しないような着色剤によって着色してもよい。あるいは、X線などの放射線を吸収して紫外乃至可視領域に瞬時発光を示す蛍光体(放射線吸収用蛍光体)を含有する層を更に設けてもよい。そのような蛍光体の例としては、LnTaO4:(Nb,Gd)系、Ln2SiO5:Ce系、LnOX:Tm系(Lnは希土類元素である)、CsX系(Xはハロゲンである)、Gd22S:Tb、Gd22S:Pr,Ce、ZnWO4、LuAlO3:Ce、Gd3Ga512:Cr,Ce、HfO2等を挙げることができる。
【実施例】
【0079】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明の実施態様はこれに限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]蛍光体前駆体粒子
(1)種晶粒子の調製
攪拌機を備えた反応容器に、水溶液(BaI20.667モル、EuI0.0005モル、Ca(CHCOO)20.001モル、KI0.010モル及び尿素1.2モルを含む)218.5mLを用意し、30℃で撹拌保持した。この溶液にNH4BF42.621gを添加した後、80℃に昇温した。引き続き80℃で120分間保持して、種晶粒子を生成させた。溶液から種晶粒子を濾別した後、イソプロピルアルコール500mLで洗浄し、次いで120℃で4時間の減圧乾燥を行い、弗化ヨウ化バリウム(BaFI)種晶粒子を得た。得られた種晶粒子は、粒子サイズ(Dm)2.7μm、変動係数14%の単分散微粒子であった。
【0081】
(2)粒子形成
攪拌機を備えた反応容器に、反応母液(BaI21.254モル、EuI30.00206モル、CaI2・2H2O0.0041モル、及びKI0.0070モルを含む水溶液)282.3mLを用意し、80℃で撹拌保持した。この反応母液に超音波を照射しながら、上記のBaFI種晶粒子18.3gを粉体のままで添加した。添加後も引き続き5分間、反応母液に超音波分散処理を施した。次に、種晶粒子の分散した反応母液に10.0モル/LのNH4F水溶液34.65mLを一定流量で添加し、そして30分間熟成を行って蛍光体前駆体粒子を生成させた。この間、反応溶液の温度は80℃に維持した。
【0082】
(3)固液分離
反応溶液から蛍光体前駆体粒子を濾別した後、イソプロピルアルコール500mLで洗浄を行った。次いで、蛍光体前駆体粒子に120℃で4時間の減圧乾燥を行い、本発明のユーロピウム付活弗化ヨウ化バリウム系蛍光体前駆体粒子(Ba0.99Ca0.01FI:0.0002K,0.005Eu)を得た。
【0083】
得られた蛍光体前駆体粒子について、下記条件にて粉末X線回折法により測定したところ、上記組成からなる単一相を構成していた。
管球:Cu、 管電圧:40kV、管電流:30mA、
サンプリング幅:0.002゜、走査速度:0.25゜/分、
発散スリット:1゜、散乱スリット:1゜、受光スリット:0.15mm
【0084】
[実施例2]蛍光体前駆体粒子
(1)種晶粒子の調製
攪拌機を備えた反応容器に、水溶液(BaBr20.222モル、EuBr0.0005モル、Ca(CHCOO)20.001モル、KI0.010モル及び尿素1.0モルを含む)218.5mLを用意し、30℃で撹拌保持した。この溶液にNH4BF42.621gを添加した後、80℃に昇温した。引き続き80℃で120分間保持して、種晶粒子を生成させた。溶液から種晶粒子を濾別した後、イソプロピルアルコール500mLで洗浄し、次いで120℃で4時間の減圧乾燥を行い、弗化臭化バリウム(BaFBr)種晶粒子を得た。得られた種晶粒子は、粒子サイズ(Dm)2.7μm、変動係数12%の単分散微粒子であった。
【0085】
(2)粒子形成
攪拌機を備えた反応容器に、反応母液(BaBr20.260モル、EuBr30.00065モル、CaBr2・2H2O0.0013モル、及びKBr0.0022モルを含む水溶液)282.3mLを用意し、60℃で撹拌保持した。この反応母液に超音波を照射しながら、上記のBaFBr種晶粒子2.28gを粉体のままで添加した。添加後も引き続き5分間、反応母液に超音波分散処理を施した。次に、種晶粒子の分散した反応母液に5.0モル/LのNH4F水溶液25.04mLを一定流量で添加し、そして30分間熟成を行って蛍光体前駆体粒子を生成させた。この間、反応溶液の温度は60℃に維持した。
【0086】
(3)固液分離
反応溶液から蛍光体前駆体粒子を濾別した後、エチルアルコール500mLで洗浄を行った。次いで、蛍光体前駆体粒子に120℃で4時間の減圧乾燥を行い、本発明のユーロピウム付活弗化臭化バリウム系蛍光体前駆体粒子(Ba0.99Ca0.01FBr:0.0002K,0.005Eu)を得た。
【0087】
得られた蛍光体前駆体粒子について粉末X線回折法により測定したところ、上記組成からなる単一相を構成していた。
【0088】
[比較例1]蛍光体前駆体粒子
実施例1において、種晶粒子を使用しなかったこと、そして反応母液を80℃で撹拌保持しながら12.0モル/LのNH4F水溶液29.21mLを一定流量で添加した後、480分間熟成を行ったこと以外は実施例1と同様にして、比較のためのユーロピウム付活弗化ヨウ化バリウム系蛍光体前駆体粒子を得た。
【0089】
[比較例2]蛍光体前駆体粒子
実施例2において、種晶粒子を使用しなかったこと、そして反応母液を60℃で撹拌保持しながら5.0モル/LのNH4F水溶液25.97mLを一定流量で添加した後、120分間熟成を行ったこと以外は実施例2と同様にして、比較のためのユーロピウム付活弗化臭化バリウム系蛍光体前駆体粒子を得た。
【0090】
得られた各蛍光体前駆体粒子について、コールターカウンター法により粒子サイズ(Dm、μm)を求めた。また、走査型電子顕微鏡写真により平均粒子径を求め、変動係数(平均粒子径に対する偏差の値、%)を求めた。これらの結果をまとめて表1に示す。表1には、粒子形成の工程時間(反応母液に種晶粒子またはNH4F水溶液を添加した時点から固液分離に移る時点までの期間)も記載した。
【0091】
【表1】

【0092】
[実施例3]蛍光体
実施例1、2で得られた各蛍光体前駆体粒子に、アルミナの超微粒子粉末0.5重量%を添加した後、ミキサーで充分に混合した。これを石英ボートに充填し、チューブ炉を用いて窒素ガス雰囲気中830℃で2時間の焼成を行い、本発明のユーロピウム付活弗化ヨウ化バリウム系蛍光体粒子およびユーロピウム付活弗化臭化バリウム系蛍光体粒子を得た。
【0093】
得られた各蛍光体粒子について粉末X線回折法により測定したところ、いずれもその組成は各々の前駆体粒子とほぼ同一であった。また、各蛍光体粒子にX線を照射したのち波長660nmの半導体レーザ光を照射したところ、輝尽発光光を示した。
【0094】
[実施例4]放射線像変換パネル
(1)蛍光体シートの作製
輝尽性蛍光体:Ba0.99Ca0.01FBr:0.0002K,0.005Eu
(実施例3) 100g
結合剤:ポリウレタンエラストマー(パンデックスT-5265H[固形]、
大日本インキ化学工業(株)製)のMEK溶液
[固形分15重量%] 23.7g
黄変防止剤:エポキシ樹脂(エピコート#1004[固形]、
油化シェルエポキシ(株)製) 1.0g
架橋剤:ポリイソシアネート(コロネートHX[固形分100%]、
日本ポリウレタン工業(株)製)のMEK溶液
[固形分71重量%] 0.7g
【0095】
上記組成の材料をメチルエチルケトン(MEK)13gに加え、プロペラミキサを用いて混合分散して塗布液を調製した。この塗布液をポンプで一定流量(210ml/分)ギーサーに送液しながら、ギーサーを用いてシリコーン系離型剤で処理されたポリエチレンテレフタレートシート(仮支持体、厚み:188μm)の表面に塗布した。仮支持体をそのままオーブンに搬送して80℃で8分間乾燥し、冷却して、仮支持体上に蛍光体層(層厚:430μm)が形成された蛍光体シートを得た。
【0096】
(2)支持体の調製
硫酸バリウム(10重量%)練り込みポリエチレンテレフタレート(PET)シート(支持体、厚み:350μm、メリネックス#992、デュポン(株)製)の片面に、遮光層(組成:カーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカおよび結合剤(ニトロセルロースとポリエステル樹脂)、重量混合比:10/21/16/53、層厚:約20μm)を塗布形成し、そのもう片面に、軟質アクリル樹脂(クリスコートP-1018GS[20%トルエン溶液]、大日本インキ化学工業(株)製)からなる下塗層(層厚:20μm)を塗布形成した。
【0097】
(3)蛍光体層の付設
蛍光体シートの仮支持体から蛍光体層を引き剥がした後、上記支持体の下塗層表面に重ね合わせ、これをカレンダーロールを用いて圧力500kgW/cm2、上側ロール温度75℃、下側ロール温度75℃、送り速度1.0m/分にて連続的にカレンダー処理(加熱圧縮処理)した。カレンダー処理により、蛍光体シートは下塗層を介して支持体に完全に融着して、蛍光体層(層厚:330μm)が設けられた。
【0098】
(4)保護層の形成
PETフィルム(保護層、厚み:9μm、ルミラー9-F53、東レ(株)製)の表面に、不飽和ポリエステル樹脂溶液(バイロン30SS、東洋紡績(株)製)を塗布し乾燥して、接着層(塗布重量:2.0g/m2)を形成した。上記蛍光体層の表面にこのPETフィルムを接着層を介して重ね合わせ、これをラミネートロールを用いて接着して、保護層を形成した。
このようにして、本発明の放射線像変換パネルを製造した。
【0099】
得られた放射線像変換パネルについても、X線を照射したのち波長660nmの半導体レーザ光を照射したときに輝尽発光光が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本組成式(I):

Ba1-aIIaFX:zLn …(I)

[MIIはCa及びSrからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し;XはCl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;LnはCe、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し;そしてa及びzはそれぞれ、0≦a≦0.5、0<z≦0.2の範囲にある数値を表す]
を有する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体を製造するための下記工程からなる製造方法:
(1)水系媒体に、バリウム化合物、弗化物以外のハロゲン化物、および希土類化合物を溶解して、反応母液を調製する工程、
(2)反応母液に弗化ハロゲン化バリウムの種晶粒子を添加して分散させる工程、
(3)反応母液に弗化物の溶液を添加して、この反応溶液中の希土類付活弗化ハロゲン化バリウムの種晶粒子を成長させる工程、および
(4)反応溶液から該蛍光体前駆体を分離する工程。
【請求項2】
(1)工程において、ハロゲン化物が主として塩化物及び/又は臭化物であるとき、反応母液中の全バリウム濃度が0.6乃至2.5モル/Lの範囲にある請求項1に記載の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法。
【請求項3】
(1)工程において、ハロゲン化物が主としてヨウ化物であるとき、反応母液中の全バリウム濃度が2.5乃至5.0モル/Lの範囲にある請求項1に記載の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法。
【請求項4】
(2)工程において、弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子の添加の間及び/又は添加後に反応母液に分散処理を施すことにより、種晶粒子の分散した反応母液を得る請求項1乃至3のいずれかの項に記載の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法。
【請求項5】
分散処理が超音波分散処理である請求項4に記載の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法。
【請求項6】
(2)工程において弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子の粒子サイズが、0.5μm以上、8.0μm以下である請求項1乃至5のいずれかの項に記載の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法。
【請求項7】
(2)工程において弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子が、ハロゲンXを70モル%以上、100モル%以下で含有している請求項1乃至6のいずれかの項に記載の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法。
【請求項8】
(2)工程において弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子が、水系媒体にハロゲン化バリウムとフルオロ錯体を溶解し、必要によりフルオロ錯体の分解を促進するトリガー又はトリガーとなりうる物質を添加して、弗化ハロゲン化バリウム粒子を沈殿生成させることにより調製されたものである請求項1乃至7のいずれかの項に記載の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法。
【請求項9】
(3)工程において弗化ハロゲン化バリウム種晶粒子に対する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の粒子の成長量比が、1.5倍以上、10倍以下である請求項1乃至8のいずれかの項に記載の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかの項に記載の方法によって製造された希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体。
【請求項11】
請求項10に記載の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体前駆体を用いて、焼成することにより得られた基本組成式(I)を有する希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体。

Ba1-aIIaFX:zLn …(I)

[MIIはCa及びSrからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し;XはCl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;LnはCe、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し;そしてa及びzはそれぞれ、0≦a≦0.5、0<z≦0.2の範囲にある数値を表す]
【請求項12】
請求項11に記載の希土類付活弗化ハロゲン化バリウム系蛍光体を含有する放射線像変換パネル。

【公開番号】特開2006−282862(P2006−282862A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104871(P2005−104871)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】