説明

希土類元素の回収方法及び回収システム

【課題】安全性に優れるとともに簡易なプロセスで希土類元素を高純度で回収可能な方法を提供する。
【解決手段】希土類元素の酸化物を含む原料を溶融硫酸塩中に添加する、添加工程と、原料が添加された溶融硫酸塩を電気分解し、原料に含まれる希土類元素を溶融硫酸塩中に溶解させる、溶解工程と、溶解工程の後、希土類元素が溶解した溶融硫酸塩に対して電気化学的に還元処理を行う、還元工程とを有する、希土類元素の回収方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融硫酸塩中における電気分解を用いた希土類元素の回収方法及び回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年需要が増加しているハイブリッド自動車や電気自動車には高出力モータが搭載されており、当該高出力モータに備えられる磁石には、優れた磁気特性や高強度を有することからネオジムやジスプロシウム等の希土類元素が含まれた磁石が用いられている。また、希土類磁石を用いたモータは、小型でありながら高出力が得られるため、軽量化が要求される家電製品等にも広く用いられている。さらに、希土類元素は、その特性から、磁石以外の種々の製品においても使用されており、今後、ますますの需要の増加が見込まれる。一方、希土類元素はその産出量が少なく、今後の需要の増加に伴う供給不足が懸念される。そのため、製品のリサイクル時に希土類元素を効率的に回収し再利用することが重要となる。
【0003】
複数の金属元素を含む原料から所定元素を分離回収する方法としては、様々なものが研究されている。例えば、電気分解によって溶融塩中に金属イオンを溶解させ、電析によって所定金属を析出させる方法(例えば、特許文献1、非特許文献1)、原料を酸溶液等に溶解させ、沈殿剤を加えて所定の金属塩を沈殿させ、濾過、乾燥することにより所定金属を回収する方法(例えば、特許文献2)、原料粉末に反応性物質を添加し加熱することで、原料の一部を選択的に反応性物質と反応或いは溶解させる方法(例えば、特許文献3、4)、吸着剤を用いて所定元素を吸着・分離する方法(例えば、特許文献5)、篩分け等の機械的分離処理を経て所定元素を分離する方法(例えば、特許文献6)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−198104号公報
【特許文献2】特公平5−14777号公報
【特許文献3】特開2001−335815号公報
【特許文献4】特開2005−57191号公報
【特許文献5】国際公開第2008/132830号パンフレット
【特許文献6】特開2010−192575号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】福本倫久、原基、佐野雅則、平出正幸「溶融Na2SO4中における塩基度の電気化学的制御とAl2O3、Cr2O3およびSiO2の溶解挙動」、素材物性学雑誌、Vol.15、No.1(2002)p.16−20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に特許文献1に開示されたような方法によれば、電解・電析操作によって単一容器内で金属の分離・回収を実施できるため、簡易なプロセスで希土類元素を回収できると考えられる。しかしながら、特許文献1においては、電析による回収の前に不純物イオンの分離除去が必要とされており、これを行わないと回収した希土類元素の純度が低くなる虞があった。また、特許文献2に開示された技術にあっては、酸溶解のために強酸溶液を用いることが前提となるため、より安全性に優れたプロセスが求められていた。
【0007】
本発明は、安全性に優れるとともに簡易なプロセスで希土類元素を高純度で回収可能な方法及びシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、まず、溶融塩として溶融硫酸塩を用い、当該溶融硫酸塩における電解挙動を調べたところ、以下の知見を得た。
【0009】
溶融硫酸塩を電気分解に供した場合、アノード反応として下記の反応が生じる。
【0010】
【化1】

【0011】
すなわち、溶融硫酸塩において、SO及びO分圧が上昇するとともに、酸・塩基平衡によってO2−活量が減少し、塩基度が増加する。そしてO2−を補うため、例えば下記のような反応を生じさせることができる。
【0012】
【化2】

【0013】
すなわち、外部から希土類元素の酸化物を添加した場合、希土類元素を陽イオンとして溶融硫酸塩中に溶解させることができる。
【0014】
溶融硫酸塩を電気分解に供した場合、カソード反応として下記の反応が生じる。
【0015】
【化3】

【0016】
すなわち、溶融硫酸塩において、O2−活量が増加し、塩基度が減少する。そしてO2−を消費するため、例えば下記のような反応を生じさせることができる。
【0017】
【化4】

【0018】
すなわち、外部から希土類元素の酸化物を添加すると、当該酸化物を酸化物イオンとして溶融硫酸塩中に溶解させることができるものの、金属陽イオンとして溶解させることは困難である。
【0019】
(1)以上より、溶融塩として溶融硫酸塩を用いた系においては、希土類元素の酸化物を含む原料を添加し電気分解することで、特にアノード反応によって希土類元素を陽イオンとして溶融硫酸塩中に容易に溶解させることができる。
【0020】
(2)溶融硫酸塩中に溶解した陽イオンは、元素種によって還元析出電位が異なる。すなわち、電気化学的還元処理の電位を調整することによって、陽イオンを選択的に電析させることができる。
【0021】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
本発明の第1の態様は、希土類元素の酸化物を含む原料を溶融硫酸塩中に添加する、添加工程と、原料が添加された溶融硫酸塩を電気分解し、原料に含まれる希土類元素を溶融硫酸塩中に溶解させる、溶解工程と、溶解工程の後、希土類元素が溶解した溶融硫酸塩に対して電気化学的に還元処理を行う、還元工程とを有する、希土類元素の回収方法である。
【0022】
尚、本発明において、「希土類元素の酸化物を含む原料を溶融硫酸塩中に添加する」とは、硫酸塩を加熱して溶融状態とした後に原料を添加する形態の他、固体状の硫酸塩と原料とを混合した後、加熱することで硫酸塩を溶融させる形態をも含む概念である。「原料に含まれる希土類元素を溶融硫酸塩中に溶解させる」形態としては、溶融硫酸塩における分極を利用して、原料に含まれる希土類元素の酸化物を希土類元素の金属陽イオンと酸素イオンとに電解させつつ、金属陽イオンを溶融硫酸塩中に溶解させる形態を例示できる。「希土類元素が溶解した溶融硫酸塩に対して電気化学的に還元処理を行う」形態としては、溶融硫酸塩中に溶解した希土類元素の金属陽イオンを、溶融硫酸塩中の分極を利用して、電気化学的に還元し、金属として電析させる形態を例示できる。
【0023】
本発明の第1の態様において、還元処理が、還元電位の絶対値が相対的に小さな第1の電気化学的還元処理の後、還元電位の絶対値が相対的に大きな第2の電気化学的還元処理を行うものであることが好ましい。このようにすることで、溶解した陽イオン種のうち還元電位の絶対値が小さなものから順に析出させることが可能であり、より高純度で希土類元素を回収することが可能である。尚、本発明において「還元電位」とは、陽イオンが還元される電位をいい、所定のマイナスの電位を意味する。
【0024】
本発明の第1の態様において、還元工程において用いられる電極が炭素電極であることが好ましい。電気化学的還元処理によって析出した希土類元素と電極との反応を抑制できるためである。金属電極を用いた場合、析出した希土類元素と金属電極とが合金化してしまう虞がある。
【0025】
本発明の第1の態様に係る溶解工程において、カソード反応を生じさせる電極を原料とは隔離することが好ましい。上述したようにカソード反応では、希土類元素の酸化物を金属陽イオンとして溶解させることは困難である。したがって、当該カソード反応に寄与させないように原料を隔離しておくことで、原料をアノード反応のみに寄与させることができ、希土類元素を金属陽イオンとして効率的に溶解させることができる。
【0026】
本発明の第1の態様において、希土類元素としては、ネオジム及び/又はジスプロシウムが好適である。
【0027】
本発明の第2の態様は、少なくとも、希土類元素の酸化物を含む原料、硫酸塩、容器、加熱手段、電気分解用電極、電気化学的還元用電極、及び電源が用いられ、容器が、原料と硫酸塩とを収容するものであり、加熱手段が、硫酸塩を溶融する温度に加熱するものであり、電源及び電気分解用電極によって、溶融硫酸塩を電気分解するとともに原料の少なくとも一部を溶融硫酸塩中に溶解させ、電源及び電気化学的還元用電極によって、溶融硫酸塩中に溶解された原料の少なくとも一部を電気化学的還元処理する、希土類元素の回収システムである。
【0028】
本発明の第2の態様において、電源及び電気化学的還元用電極が、還元電位の絶対値が相対的に小さな第1の電気化学的還元処理の後、還元電位の絶対値が相対的に大きな第2の電気化学的還元処理を行うものであることが好ましい。還元電位の絶対値の小さなものから順に析出させることが可能であり、より高純度で希土類元素を回収することが可能だからである。
【0029】
本発明の第2の態様において、電気化学的還元用電極が炭素電極であることが好ましい。電気化学的還元処理によって析出した希土類元素と電極との反応を抑制できるためである。金属電極を用いた場合、希土類元素と金属電極とが合金化してしまう虞がある。
【0030】
本発明の第2の態様において、電気分解用電極のうち、カソード反応を生じさせる電極が原料とは隔離されて設けられることが好ましい。上述したようにカソード反応では、希土類元素の酸化物を金属陽イオンとして溶解させることは困難である。したがって、当該カソード反応に寄与させないように原料を隔離しておくことで、原料をアノード反応のみに寄与させることができ、希土類元素を金属陽イオンとして効率的に溶解させることができる。
【0031】
本発明の第2の態様において、希土類元素としては、ネオジム及び/又はジスプロシウムが好適である。
【発明の効果】
【0032】
本発明においては、安全性に優れる溶融硫酸塩を用い、ここに希土類元素の酸化物を含む原料を添加し電気分解することで、溶融硫酸塩のアノード反応によって希土類元素を陽イオンとして容易に溶解させることができる。そして、溶融硫酸塩において溶解した陽イオンは、元素種によって還元析出電位が異なるため、電気化学的還元処理の電位を調整することによって、陽イオンを選択的に電析させることができる。すなわち、本発明によれば、安全性に優れるとともに簡易なプロセスで希土類元素を高純度で回収可能な方法及びシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る希土類元素の回収方法の流れを説明するための図である。
【図2】本発明に係る希土類元素の回収システムに用いられる装置100を説明するための図である。
【図3】本発明に係る希土類元素の回収システムに用いられる装置200を説明するための図である。
【図4】電解実験時の溶融硫酸塩におけるネオジム及びジスプロシウムの溶解挙動を示す図である。
【図5】電解実験時の溶融硫酸塩におけるネオジム及びジスプロシウムの溶解挙動を示す図である。
【図6】電析実験時の溶融硫酸塩におけるネオジムの析出挙動を説明するための分極曲線である。
【図7】電析実験時の溶融硫酸塩におけるジスプロシウムの析出挙動を説明するための分極曲線である。
【図8】電析実験後の電極表面の状態を示すSEM画像図である。
【図9】電析実験後の電極表面の状態を示すSEM画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.希土類元素の回収方法
まず、本発明に係る希土類元素の回収方法について説明する。図1に示すように、本発明に係る希土類元素の回収方法S10は、希土類元素の酸化物を含む原料を溶融硫酸塩中に添加する、添加工程(工程S1)と、原料が添加された溶融硫酸塩を電気分解し、原料の少なくとも一部を溶融硫酸塩中に溶解させる、溶解工程(工程S2)と、溶解工程の後、原料の少なくとも一部が溶解した溶融硫酸塩に対して電気化学的に還元処理を行う、還元工程(工程S3)とを有している。
【0035】
1.1.添加工程(工程S1)
工程S1は、希土類元素の酸化物を含む原料を溶融硫酸塩中に添加する工程である。「希土類元素の酸化物を含む原料」としては、特に限定されるものではない。好ましくは、希土類元素を含む磁石を酸化処理したもの、より好ましくは、ネオジム及びジスプロシウムを含むネオジム磁石を酸化処理したものを原料として用いることができる。「溶融硫酸塩」とは硫酸塩を加熱することにより溶融させたものであればよい。硫酸塩としては例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。溶融硫酸塩に対する原料の添加量は特に限定されるものではないが、溶融硫酸塩(1mol)に対して、希土類元素が好ましくは0.005mol以上0.5mol以下、より好ましくは0.01mol以上0.1mol以下となるように、原料を溶融硫酸塩中に添加することが好ましい。尚、工程S1は、加熱により溶融させた硫酸塩中に原料を添加する形態の他、固体状の硫酸塩と原料とを混合した後、加熱することによって硫酸塩を溶融させる形態であってもよい。工程S1における温度は、硫酸塩が溶融状態を維持できる程度の温度であればよく、用いる硫酸塩によって適宜調整すればよい。例えば、硫酸ナトリウムを用いる場合は、920℃程度に保持しておくことで、硫酸ナトリウムを溶融状態に保つことができる。
【0036】
1.2.溶解工程(工程S2)
工程S2は、工程S1を経て原料が添加された溶融硫酸塩を電気分解し、原料の少なくとも一部を溶融硫酸塩中に溶解させる工程である。溶融硫酸塩を電気分解した場合、下記の反応が生じる。
【0037】
【化5】

【0038】
本発明においては、このうち特にアノード反応を利用して原料の一部を溶融硫酸塩中に溶解させる。アノード反応においては、溶融硫酸塩中のSO及びO分圧が上昇するとともに、酸・塩基平衡によってO2−活量が減少し、塩基度が増加する。そしてO2−を補うため、例えば下記のような反応を生じさせることができる。
【0039】
【化6】

【0040】
すなわち、原料中の希土類元素の酸化物からO2−が供給されるとともに、希土類元素イオンが溶融硫酸塩中に溶解する。例えば、ネオジム、ジスプロシウムを含むネオジム磁石を酸化し、これを原料として用いた場合、原料中の酸化ネオジム及び酸化ジスプロシウムは、ネオジムイオン及びジスプロシウムイオンとして溶融硫酸塩中に溶解する。
【0041】
尚、ネオジム磁石には、上記希土類元素の他、鉄が多く含まれている。本発明者らが鋭意研究したところ、酸化鉄は、酸化ネオジムや酸化ジスプロシウム等の希土類酸化物とは異なり、電気分解に供された溶融硫酸塩中にほとんど溶解しないことを知見した。すなわち、原料としてネオジム磁石の酸化物を用いた場合、工程S2では、溶融硫酸塩中に酸化鉄が溶解しないまま固形状にて存在する一方、溶融硫酸塩中にネオジム及びジスプロシウムを選択的に溶解させることが可能である。すなわち、この段階で、希土類元素と鉄とを分離することが可能である。ただし、仮に希土類元素以外の元素が溶融硫酸塩中に溶解したとしても、後述する工程S3における電気化学的還元処理によって、希土類元素のみを選択的に析出させることができる。
【0042】
このように、本発明では、特に溶融硫酸塩のアノード反応のみを利用して希土類元素を陽イオンとして溶融硫酸塩中に溶解させるとよい。したがって、工程S2では、カソード反応を生じさせる電極を原料とは隔離しておくとよい。隔離の方法としては、原料と電極との間に公知の隔膜を設ける等を例示できる。
【0043】
工程S2における分極電位としては、溶融硫酸塩中に希土類元素を適切に溶解させることが可能な電位であれば特に限定されるものではない。特に、+0.5V以上の電位とすることが好ましく、+1.0V以上の電位とすることがより好ましい。工程S2における分極時間としては、溶融硫酸塩中に希土類元素を適切に溶解させることが可能な時間であれば特に限定されるものではない。例えば、30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上とすることができる。このような分極電位及び分極時間であれば、特にネオジム及びジスプロシウムを溶融硫酸塩中により適切に溶解させることができる。
【0044】
1.3.還元工程(工程S3)
工程S3は、工程S2の後、希土類元素が溶解した溶融硫酸塩に対して電気化学的に還元処理を行う工程である。すなわち、溶融硫酸塩中に溶解している陽イオンを電気化学的に還元することにより電極表面に析出させる。工程S3では、工程S2に引き続いて硫酸塩を溶融状態に保持する必要がある。そのため、系内を工程S2と同様の温度に保持しておくとよい。
【0045】
ここで、溶融硫酸塩中に溶解した陽イオンの還元電位は元素種によって異なる。本願において「還元電位」とは、陽イオンが還元される電位をいい、例えば、参照電極をAg/AgSOとした場合におけるマイナスの電位を意味する。したがって、工程S3においては、還元電位の絶対値が相対的に小さな第1の電気化学的還元処理の後、還元電位の絶対値が相対的に大きな第2の電気化学的還元処理を行うことで、還元電位の低いものから順に電析させることが好ましい。本発明者らが鋭意研究したところ、工程S3において、溶融硫酸塩中に溶解したネオジムイオン及びジスプロシウムイオンの還元電位は、それぞれ−1.2V付近及び−1.6V付近であった。すなわち、ネオジム、ジスプロシウムを含むネオジム磁石を酸化し、これを原料として用いた場合は、工程S3では、電気化学的還元処理をまず−1.2V付近で行うことによりネオジムを選択的に電析させ、その後、任意に電極を取り換える等したうえで、電気化学的還元処理を−1.6V付近で行うことによりジスプロシウムを選択的に電析させることができる。
【0046】
尚、工程S3では、電極として炭素電極を用いることが好ましい。これにより、電気化学的還元処理によって析出した希土類元素と電極との反応を抑制できる。金属電極を用いた場合、希土類元素と金属電極とが合金化してしまう虞がある。
【0047】
このように、本発明に係る希土類元素の回収方法S10おいては、安全性に優れる溶融硫酸塩を用い、ここに希土類元素の酸化物を含む原料を添加し電気分解することで、溶融硫酸塩のアノード反応によって希土類元素を陽イオンとして容易に溶解させることができる。そして、溶融硫酸塩において溶解した陽イオンは、元素種によって還元析出電位が異なるため、電気化学的還元処理の電位を調整することによって、陽イオンを選択的に電析させることができる。すなわち、本発明によれば、安全性に優れるとともに簡易なプロセスで希土類元素を高純度で回収可能な方法を提供することができる。
【0048】
2.希土類元素の回収システム
本発明に係る希土類元素の回収方法S10を実施可能な回収システムについて説明する。まず、回収方法S10における工程S1及びS2を行うための装置について説明する。図2に示すように、工程S1及びS2を行うための装置100には、少なくとも、希土類元素の酸化物を含む原料1、硫酸塩2、容器3、加熱手段4、電気分解用電極5(作用極5a、対極5b)、及び電源としての定電位電解装置6が用いられ、容器3が、原料1と硫酸塩2とを収容するものであり、加熱手段4が、硫酸塩2を溶融する温度に加熱するものであり、電源6及び電気分解用電極5によって、溶融硫酸塩を電気分解するとともに原料1に含まれる希土類元素を溶融硫酸塩中に溶解させるものである。また、装置100には、上記の他、任意に、参照電極7、不活性ガス供給流路8、冷却水供給流路9、熱電対10、隔膜11、レコーダ12が用いられる。
【0049】
原料1としては、希土類元素の酸化物を含むものであれば特に限定されるものではなく、上述した通りである。硫酸塩2も特に限定されるものではなく、上述した通りである。容器3としては、原料及び溶融硫酸塩と反応しない材料からなるものであればよい。例えば、アルミナからなる容器(特に、アルミナ坩堝)が好ましい。容器3の形状、大きさについては、装置100の規模に応じて適宜選択すればよい。加熱手段4としては、硫酸塩2を溶融させることができるものであればよく、例えば、上記容器3を収容可能な公知の加熱炉を用いればよい。電気分解用電極5は、溶融硫酸塩を電気分解可能なものであれば、その材質、形状は特に限定されず、例えば、作用極5a及び対極5bともに、炭素或いは白金等を用いることができる。電源としての定電位電解装置6は、装置100の規模に応じて公知のものを適宜選択して用いればよい。参照電極7についても公知のものを用いることができ、例えば、Ag/AgSO系の参照電極を用いることができる。装置100では、定電位電解装置6はレコーダ11と接続され、系内の電気化学的変化を記録可能とされている。
【0050】
装置100においては、不活性ガス供給流路8を介して、溶融硫酸塩の内部に不活性ガスを吹き込み、系内雰囲気を不活性雰囲気として電気分解を行うことが好ましい。これにより、水や空気(特に酸素)の存在によって電気分解反応が阻害される等といったことが防止される。また、原料の溶解を促進する観点から、不活性ガスを、溶融硫酸塩の内部に吹き込むことで、溶融硫酸塩内部を攪拌するようにしてもよい。
【0051】
装置100においては、冷却水供給流路9を介して、装置上部において冷却水を流通させることが好ましい。装置上部に冷却水を流通させておくと、装置に設けた蓋の開閉(特に開操作)が容易となる。
【0052】
装置100においては、熱電対10により、溶融硫酸塩の温度を逐一計測し、加熱手段4にフィードバックすることで、溶融硫酸塩の温度が常に一定となるように制御されることが好ましい。
【0053】
装置100においては、隔膜11を用いることによって、溶融硫酸塩に係るカソード反応を生じさせる対極5bを原料1から隔離することが好ましい。隔膜11としては、溶融硫酸塩中において安定に存在できるものであれば特に限定されない。例えば、ムライト等の鉱物系物質からなる隔膜を用いるとよい。隔膜11を用いることで、原料1をアノード反応にのみ寄与させることができ、原料1に含まれる希土類元素を効率的に溶解させることができる。
【0054】
このような装置100により、本発明に係る希土類元素の回収方法の工程S1及びS2を適切に行うことができる。
【0055】
次に、回収方法S10における工程S3を行うための装置について説明する。図3に示すように、工程S3を行うための装置200には、少なくとも、希土類元素が陽イオンとして溶解した溶融硫酸塩2’、容器3、加熱手段4、電気化学的還元用電極15(作用極15a、対極15b)、及び電源としての定電位電解装置6が用いられ、容器3が、溶融硫酸塩2’を収容するものであり、加熱手段4が、溶融硫酸塩2’が溶融状態を保持可能な温度に加熱するものであり、定電位電解装置6及び電気化学的還元用電極15によって、溶融硫酸塩2’中に溶解された希土類元素の陽イオンを電気化学的還元処理するものである。また、装置200には、装置100と同様に、任意に、参照電極7、不活性ガス供給流路8、冷却水供給流路9、熱電対10、レコーダ12が用いられる。尚、装置200においては、装置100とは異なり隔膜11を設ける必要はない。また、装置200においては、溶融硫酸塩2’に溶解せずに残存した残渣物1’が存在していてもよい。残渣物1’としては、上記したような酸化鉄等が挙げられる。
【0056】
装置200は、希土類元素が陽イオンとして溶解した溶融硫酸塩2’を用いる点、隔膜11を用いない点、及び、電極を電気化学的還元用電極15とする点で装置100とは異なり、その他の構成については装置100と同様とすることができる。すなわち、装置100による処理の後、隔膜11を引き上げ、電極を入れ替えることで装置200とすればよい。
【0057】
電気化学的還元用電極15は、溶融硫酸塩12を電気化学的に還元処理可能なものであれば、その材質、形状は特に限定されるものではない。ただし、電析させた希土類元素と電極15との合金化反応を防止する観点から、作用極5a及び対極5bともに、炭素電極を用いることが好ましい。
【0058】
装置200においては、定電位電解装置6及び電気化学的還元用電極15によって、還元電位の絶対値が相対的に小さな第1処理の後、還元電位の絶対値が相対的に大きな第2処理を行うことが好ましい。こうすることで、上述したように、溶融硫酸塩12に溶解した陽イオンのうち、還元電位の絶対値の小さなものから順に電析させることができる。
【0059】
このような装置200により、本発明に係る希土類元素の回収方法S10の工程S3を適切に行うことができる。
【0060】
以上のように、本発明に係る希土類元素の回収方法S10は、装置100及び装置200を用いることで適切に行うことができる。すなわち、本発明に係る希土類元素の回収システムは、少なくとも、希土類元素の酸化物を含む原料、硫酸塩、容器、加熱手段、電気分解用電極、電気化学的還元用電極、及び電源が用いられ、容器が、原料と硫酸塩とを収容するものであり、加熱手段が、硫酸塩を溶融する温度に加熱するものであり、電源及び電気分解用電極によって、溶融硫酸塩を電気分解するとともに原料に含まれる希土類元素を溶融硫酸塩中に溶解させ、電源及び電気化学的還元用電極によって、溶融硫酸塩中に溶解された希土類元素を電気化学的に還元処理するものといえる。
【0061】
このように、本発明に係る希土類元素の回収システムにおいては、安全性に優れる溶融硫酸塩を用い、ここに希土類元素の酸化物を含む原料を添加し電気分解することで、アノード反応によって希土類元素を陽イオンとして容易に溶解させることができる。そして、溶融硫酸塩において溶解した陽イオンは、元素種によって還元析出電位が異なるため、電気化学的還元処理の電位を調整することによって、陽イオンを選択的に電析させることができる。すなわち、本発明によれば、安全性に優れるとともに簡易なプロセスで希土類元素を高純度で回収可能なシステムを提供することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて、本発明に係る希土類元素の回収方法及びシステムについてさらに詳述する。
【0063】
<溶融硫酸塩を用いた希土類元素の溶解実験>
硫酸塩として硫酸ナトリウム、希土類酸化物として、酸化ネオジム又は酸化ジスプロシウムを用い、工程S1及び工程S2を行った。工程S1及び工程S2の実施には図2に示したような装置100を用いた。ここで、作用極5a及び対極5bとしては白金を用い、参照電極7としてはAg/AgSOを用い、温度は1193K(920℃)に設定した。工程S2における分極時間は1時間とし、分極電位を−2.5V〜1.1Vの範囲内のいずれかの電位として、ネオジム及びジスプロシウムを溶融硫酸ナトリウム中に溶解させることを試みた。その後、温度を下げ、固体状となった硫酸ナトリウムを取り出して水に溶かし、ICP発光分析装置を用いて、硫酸ナトリウム中に溶解したネオジム及びジスプロシウム量を測定した。結果を図4に示す。
【0064】
図4に示すように、マイナスの分極電位においては、ネオジム及びジスプロシウムともに溶融塩中にはほとんど溶解しないことが分かる。一方、プラスの分極電位を付与して溶融硫酸ナトリウムにおいて上記したようなアノード反応を生じさせると、溶融硫酸ナトリウム中の酸化ネオジム及び酸化ジスプロシウムがネオジムイオン及びジスプロシウムイオン並びに酸素イオンとなって、ネオジム及びジスプロシウムが溶融硫酸ナトリウム中に溶解することが分かる。それぞれの溶解量は、分極電位+0.5V付近で上昇し、+1.0V付近で急激に上昇することが分かる。
【0065】
図4に係るグラフの横軸を塩基度にした場合、グラフは図5のように変換できる。図5に示すように、ネオジム及びジスプロシウムともに、塩基度が12を超えると、溶融硫酸ナトリウムへの溶解量が増加することが分かる。
【0066】
<溶融硫酸塩を用いた希土類元素の電析回収実験>
分極電位を+1.1Vとした以外は上記の溶解実験と同様にして硫酸ナトリウム中にネオジム又はジスプロシウムを溶解させ、その後、上記工程S3を行った。工程S3の実施には図3に示したような装置200を用いた。ここで、作用極15a及び対極15bとしては炭素棒を用い、参照用電極7としてはAg/AgSOを用い、温度は1193K(920℃)に設定した。工程S3において分極電位を100mV/分でプラス側からマイナス側へと変化させ、サンプリング間隔を1秒として、各電位における電流量の変化を測定し、分極曲線としてまとめた。ネオジムについての結果を図6に、ジスプロシウムについての結果を図7に示す。
【0067】
図6に示すように、+1.1Vで処理することによりネオジムイオンが溶解した溶融硫酸ナトリウムについては、分極電位−1.2V付近で急激な電流量の上昇が確認された。これは、分極電位−1.2V付近で、ネオジムイオンの電気化学的な還元反応が生じることで、電流量が増大したためと考えられる。一方、図7に示すように、+1.1Vで処理することによりジスプロシウムイオンが溶解している溶融硫酸ナトリウムにおいては、分極電位−1.6V付近で急激な電流量の上昇が確認された。これは、分極電位−1.6V付近で、ネオジムイオンの還元反応が生じることで、電流量が増大したためと考えられる。
【0068】
このように、溶融硫酸ナトリウムにおける陽イオンの還元電位は、元素種によって異なることが分かる。すなわち、還元電位の絶対値が小さな(例えば、−1.2V)第1の電気化学的還元処理の後、還元電位の絶対値が大きな(例えば、−1.6V)第2の電気化学的還元処理を行うことで、溶解している陽イオン(例えば、ネオジムイオン及びジスプロシウムイオン)を個別選択的に電析させ得ることが分かる。
【0069】
上記溶解実験において、ネオジムを分極電位+1.1V、分極時間1時間又は2時間で溶融硫酸ナトリウム中に溶解させ、上記電析回収実験において分極電位−1.2V、分極時間3時間で、電極表面に電析回収した後、電極を引き上げて表面を樹脂でコーティングし、一部を切断して切断面をSEM観察した。結果を図8(A)、(B)に示す。図8(A)が、溶解実験における分極時間を1時間とした場合であり、図8(B)が、溶解実験における分極時間を2時間とした場合である。
【0070】
図8に示すように、炭素電極表面にネオジム金属が析出していることが分かる。また、電析回収実験における分極時間を同一とした場合において、溶解実験における分極時間が長いほうが、ネオジム析出量が多いことが分かる。このように、溶融硫酸ナトリウム中に溶解したネオジムイオンは、電気化学的還元処理によって適切に電析回収できることが分かる。
【0071】
また、上記溶解実験において、ジスプロシウムを分極電位+1.1V、分極時間1時間で溶融硫酸ナトリウム中に溶解させ、上記電析回収実験において分極電位−1.6V、分極時間3時間で、電極表面に電析回収した後、電極を引き上げて表面を樹脂でコーティングし、一部を切断して切断面をSEM観察した。結果を図9に示す。
【0072】
図9に示すように、炭素電極表面にジスプロシウム金属が析出していることが分かる。このように、溶融硫酸ナトリウム中に溶解したジスプロシウムイオンは、電気化学的還元処理によって適切に電析回収できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る希土類元素の回収方法及び回収システムは、ネオジム磁石等の希土類元素を含む原料のリサイクルプロセスにおいて好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 原料
1’ 残渣物
2 硫酸塩
2’ 原料の一部が溶解した溶融硫酸塩
3 容器
4 加熱手段
5 電気分解用電極
5a 作用極
5b 対極
6 定電位電解装置(電源)
7 参照電極
8 不活性ガス供給流路
9 冷却水供給流路
10 熱電対
11 隔膜
12 レコーダ
15 電気化学的還元用電極
15a 作用極
15b 対極
100 装置
200 装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素の酸化物を含む原料を溶融硫酸塩中に添加する、添加工程と、
前記原料が添加された前記溶融硫酸塩を電気分解し、前記原料に含まれる希土類元素を前記溶融硫酸塩中に溶解させる、溶解工程と、
前記溶解工程の後、前記希土類元素が溶解した前記溶融硫酸塩に対して電気化学的に還元処理を行う、還元工程と、
を有する、希土類元素の回収方法。
【請求項2】
前記還元処理が、還元電位の絶対値が相対的に小さな第1の電気化学的還元処理の後、還元電位の絶対値が相対的に大きな第2の電気化学的還元処理を行うものである、請求項1に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項3】
前記還元工程において用いられる電極が炭素電極である、請求項1又は2に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項4】
前記溶解工程において、カソード反応を生じさせる電極を前記原料とは隔離する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項5】
前記希土類元素が、ネオジム及び/又はジスプロシウムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項6】
少なくとも、希土類元素の酸化物を含む原料、硫酸塩、容器、加熱手段、電気分解用電極、電気化学的還元用電極、及び電源が用いられ、
前記容器が、前記原料と前記硫酸塩とを収容するものであり、
前記加熱手段が、前記硫酸塩を溶融する温度に加熱するものであり、
前記電源及び前記電気分解用電極によって、前記溶融硫酸塩を電気分解するとともに前記原料に含まれる希土類元素を前記溶融硫酸塩中に溶解させ、
前記電源及び前記電気化学的還元用電極によって、前記溶融硫酸塩中に溶解された前記希土類元素を電気化学的還元処理する、
希土類元素の回収システム。
【請求項7】
前記電源及び前記電気化学的還元用電極が、還元電位の絶対値が相対的に小さな第1の電気化学的還元処理の後、還元電位の絶対値が相対的に大きな第2の電気化学的還元処理を行うものである、請求項6に記載の希土類元素の回収システム。
【請求項8】
前記電気化学的還元用電極が炭素電極である、請求項6又は7に記載の希土類元素の回収システム。
【請求項9】
前記電気分解用電極のうち、カソード反応を生じさせる電極が前記原料とは隔離されて設けられる、請求項6〜8のいずれか1項に記載の希土類元素の回収システム。
【請求項10】
前記希土類元素が、ネオジム及び/又はジスプロシウムである、請求項6〜9のいずれか1項に記載の希土類元素の回収システム。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−162764(P2012−162764A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22932(P2011−22932)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】