説明

希土類永久磁石

【課題】最大エネルギー積の高いRFe14B系焼結磁石を提供する。
【解決手段】粉砕されたR−Fe−B系磁石の微粉末に対して、M−(OR)(式中、MはCu、Coの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で示される有機金属化合物が添加された有機金属化合物溶液を加え、磁石粒子表面に対して均一に有機金属化合物を付着させる。その後、圧粉成形した成形体を水素雰囲気において200℃〜900℃で数時間保持することにより水素中仮焼処理を行う。その後、800℃〜1180℃で焼成を行うことによって永久磁石1を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFe14B系組成をもつ希土類永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能を有する希土類磁石としては、例えば特許第1431617号公報に記載されているNdFe14B系磁石が知られている。
【0003】
また、特許第2720040号公報では、NdFe14B系磁石の最大エネルギー積を向上させ、高保磁力と優れた角形性を得るために、NdとPrとを合計で12〜17原子%(ただしNd、Prの一部をDy、Tbなどの重希土類元素で0.2〜3.0原子%置換できる)、Bを5〜14原子%、Coを20原子%以下、Cuを0.02〜0.5原子%それぞれ含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる焼結永久磁石材料を提案している。同公報の実施例1では、原子比でFe−4Co−14.5Nd−7B−xCu(x=0.01〜0.4原子%)で表される組成の焼結磁石を、また、実施例3では、原子比でFe−2Co−13.5Nd−1.5Dy−7Bに0.1原子%Cuを含む組成の焼結磁石を、それぞれ作製している。実施例1で作製した焼結磁石の最大エネルギー積は、同公報の図1に記載されているように約40MGOe(約318kJ/m)である。この値はCu含有量が約0.15原子%のときに得られており、また、この含有量において保磁力も最大値を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第1431617号公報
【特許文献2】特許第2720040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来に比べて最大エネルギー積の高いRFe14B系焼結磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る希土類永久磁石は、R(Rは、希土類元素の少なくとも1種であり、Ndおよび/またはPrが必須元素として含まれる)、Cu、Fe、B、Feの一部を置換するCoおよび酸素を含有し、R含有量が11.7〜13.5モル%、Cu含有量が0.01〜0.1モル%、B含有量が5〜7モル%、Co含有量が0.8モル%以下、酸素含有量が3000ppm以下、残部が実質的にFeであり、最大エネルギー積が400kJ/m以上であって、磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程と、前記粉砕された磁石粉末に以下の構造式M−(OR)(式中、MはCu、Coの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされる有機金属化合物を添加することにより、前記磁石粉末の粒子表面に前記有機金属化合物を付着させる工程と、前記有機金属化合物が粒子表面に付着された前記磁石粉末を成形することにより成形体を形成する工程と、前記成形体を焼結する工程と、により製造されることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る希土類永久磁石は、請求項1に記載の希土類永久磁石において、R含有量が12.2〜13.5モル%であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る希土類永久磁石は、請求項1又は請求項2に記載の希土類永久磁石において、相対密度が99.0%以上であることを特徴とする。
【0009】
更に、請求項4に係る希土類永久磁石は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の希土類永久磁石において、隣り合う2つの結晶粒の境界に存在する2結晶粒界と、隣り合う3以上の結晶粒の境界に存在する多結晶粒界とについて組成分析を行い、前記各結晶粒界において、元素R量に対するCu量の比Cu/Rを求め、2結晶粒界におけるCu/RをCで表し、多結晶粒界におけるCu/RをCで表したとき、C/C≦0.7を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
Fe14B系焼結磁石にCuを添加した場合、上記特許第2720040号公報に記載されているように、最大エネルギー積および保磁力が向上した。しかし、同公報の実施例よりもR含有量を少なくしたときに、残留磁束密度が著しく向上すると共に、Cu添加による保磁力の向上率が顕著に高くなり、その結果、同公報の実施例に比べて著しく高い400kJ/m以上の最大エネルギー積が得られ、さらには410kJ/m以上、最大で480kJ/mにも達する最大エネルギー積を得ることもできることを見いだした。
【0011】
また、上記特許第2720040号公報の実施例よりもR含有量を少なくした場合において、Cuを添加して磁石の密度を上記した所定値以上とすれば、R含有量を少なくしたことによる保磁力の急激な低下を著しく抑制でき、その結果、最大エネルギー積を著しく高くできることを見いだした。磁石密度が高くなると、通常、残留磁束密度は向上するが保磁力は低下する。例えば、本発明者らの実験によれば、Rを14.54モル%(Nd:Dy=78:22)含有するRFe14B系磁石における時効処理後の保磁力は、磁石の相対密度が99.3%のとき2170kA/m であり、磁石の相対密度が99.6%のとき2110kA/mであった。すなわち、相対密度が高くなると、保磁力が低くなってしまう。しかし、残留磁束密度の向上を最大エネルギー積に反映させるためには、一定の保磁力が必要とされる。そのため、R含有量を少なくし、かつ磁石密度を向上させることによって残留磁束密度を向上させても、保磁力が低下してしまっては最大エネルギー積は高くならない。しかし、R含有量の比較的少ないRFe14B系焼結磁石にCuを添加した場合、磁石密度の向上に伴って保磁力も向上し、結果として最大エネルギー積が顕著に向上することがわかった。
【0012】
また、R含有量が12.79モル%、Cu含有量が0.01モル%である磁石のM−Hループと、R含有量が同じでCu含有量が0.04モル%である磁石のM−Hループとを比較すると、R含有量が少ない磁石においてCu含有量を増大させることにより、M−Hループにおける角形性が著しく向上することがわかる。即ち、R含有量を少なくしたことによって向上した残留磁束密度を、最大エネルギー積の向上に反映させることが可能となる。
【0013】
また、上記特許第2720040号公報の実施例よりもR含有量を少なくした場合、保磁力のばらつきが臨界的に大きくなることを見いだした。そして、この保磁力のばらつきが、Cuの添加により顕著に減少し、その結果、保磁力の揃った焼結磁石の量産が可能になることを見いだした。R14B系焼結磁石では、主相であるR14B結晶粒をRリッチ相が被覆することによって高保磁力が得られると考えられている。したがって、R含有量が少ない場合に保磁力がばらつきやすいのは、焼結磁石内においてRリッチ相が均一に分布しにくくなる結果、R14B結晶粒の被覆が不均一になるためと考えられる。
【0014】
また、元素Rは酸化されやすく、元素Rが酸化されると磁石特性が大きく低下する。本発明の焼結磁石はR含有量が比較的少ないので、元素Rの酸化に対するマージンが小さい。すなわち、R含有量が比較的多い場合と同等の酸素含有量であっても、元素Rの酸化率は高くなり、その結果、磁石密度が低下して、磁石特性が著しく低くなる。そのため本発明では、焼結磁石中の酸素含有量を上記所定値以下に抑える。これにより、R含有量を少なくし、かつ、Cuを添加したことによって得られる最大エネルギー積向上効果が、損なわれることがなくなる。
【0015】
また、本発明の磁石において、2結晶粒界におけるCu/R(C)と、多結晶粒界におけるCu/R(C)とがC/C≦0.7で表される関係をもつ場合、保磁力はより高くなり、保磁力のばらつきはより小さくなる。すなわち、Cuが2結晶粒界に多く存在し、多結晶粒界にはほとんど存在しない場合、本発明の磁石はより優れた特性が得られる。一方、R含有量が多い従来の磁石では、添加したCuが2結晶粒界と多結晶粒界とにほぼ均一に存在する。
【0016】
この理由としては以下のことが考えられる。R含有量の少ない焼結磁石を製造する場合、三重点等の多結晶粒界には、R含有量の多い磁石と同様にRリッチ相が十分に形成されるが、薄い2結晶粒界にRリッチ相を均一に形成することは困難である。そのため、高い保磁力を得ることが難しい。しかし、Cuを添加した場合には、Cuに富む(R−Cu)リッチ相が形成され、この(R−Cu)リッチ相は、RFe14B結晶粒を濡らしやすいため、2結晶粒界に優先的に析出し、多結晶粒界には析出しにくいと考えられる。その結果、本発明の磁石では、2結晶粒界に均一に(R−Cu)リッチ相が形成され、これによってRFe14B結晶粒が被覆されるため、保磁力が顕著に向上し、かつ、保磁力のばらつきが減少すると考えられる。
【0017】
また、本願発明では、CuやCoを含む有機金属化合物を磁石粉末に添加することにより、有機金属化合物に含まれるCuやCoを焼結前に予め磁石の粒界に対して偏在配置することが可能となる。また、使用量を減少させるとともに、添加されたCoやCuを磁石の粒界に効率よく偏在させることができる。そして、Cuについては、予め磁石原料に含有した状態で粉砕、焼結を行う場合と比較して、永久磁石の製造工程で焼結温度の高温化や焼結時間の長時間化等を行う必要がない。その結果、主相の粒成長を防止するとともにリッチ相を均一に分散することが可能となる。また、Coについてはキュリー温度の向上及び粒界相の耐食性向上を十分に図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る永久磁石を示した全体図である。
【図2】本発明に係る永久磁石の粒界付近を拡大して示した模式図である。
【図3】本発明に係る永久磁石の第1の製造方法における製造工程を示した説明図である。
【図4】本発明に係る永久磁石の第2の製造方法における製造工程を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る永久磁石及び永久磁石の製造方法について具体化した実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
[永久磁石の構成]
先ず、本発明に係る永久磁石1の構成について説明する。図1は本発明に係る永久磁石1を示した全体図である。尚、図1に示す永久磁石1は円柱形状を備えるが、永久磁石1の形状は成形に用いるキャビティの形状によって変化する。
本発明に係る永久磁石1としてはR−Fe−B系磁石を用いる。また、本発明の永久磁石1は、R(Rは、希土類元素の少なくとも1種であり、Ndおよび/またはPrが必須元素として含まれる)、Cu、FeおよびBを含有する。R含有量は、11.7〜13.5モル%である。
【0021】
R含有量が少なすぎると、高保磁力が得られなくなる結果、最大エネルギー積を高くできなくなる。一方、R含有量が多すぎると、本発明の作用効果が実現しなくなり、最大エネルギー積が小さくなる。本発明の作用効果を十分に実現するためには、R含有量を12.2〜13.5モル%とすることが好ましい。元素Rには、Ndおよび/またはPrが必ず含まれる。NdとPrとの比率は特に限定されない。元素RとしてNdおよびPrだけを用いてもよいが、これら以外の希土類元素、すなわちY、Sc、La、Ce、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの少なくとも1種を用いてもよい。これらのうちでは、Dyおよび/またはTbが好ましい。磁石特性を低下させないためには、NdおよびPrの両者以外の元素の合計量は、元素R全体の10モル%以下とすることが好ましい。なお、元素Rとして2種以上の元素を用いる場合、原料としてミッシュメタル等の混合物を用いることもできる。
【0022】
また、Cu含有量は、0.01〜0.1モル%、好ましくは0.01モル%以上0.1モル%未満、より好ましくは0.01〜0.08モル%、さらに好ましくは0.02〜0.06モル%である。Cu含有量が少なすぎると、前述した本発明の作用効果が実現しなくなる。一方、Cu含有量が多すぎると、保磁力がかえって減少し、残留磁束密度も減少するため、最大エネルギー積が減少してしまう。
【0023】
また、B含有量は、5〜7モル%、好ましくは5.5〜6.5モル%である。B含有量が少なすぎると、菱面体組繊となるため保磁力が低くなる。一方、B含有量が多すぎると、Bリッチな非磁性相が多くなるため残留磁束密度が低くなる。
【0024】
また、残部は実質的にFeであるが、Feの一部をCoで置換する。Coを添加することにより、保磁力の温度依存性および耐食性を改善することができ、残留磁束密度も向上できる。ただし、Coの添加により保磁力が低下してしまい、元素R含有量が少ない本発明の磁石では保磁力の低下率が大きくなるため、Coの含有量は0.8モル%以下とする。
【0025】
本発明の焼結磁石中には、上記各元素のほか、微量添加物ないし不可避的不純物として例えばC、P、S、Al、Ti、V、Cr、Mn、Bi、Nb、Ta、Mo、W、Sb、Ge、Sn、Zr、Ni、Si、Hf、Ga、Znなどの少なくとも1種が含有されていてもよい。ただし、磁石特性低下を抑えるためには、これらの合計含有量を3モル%以下とすることが好ましい。
【0026】
更に、本発明では、後述のように上記Cu、Coの内、少なくとも一種については、粉砕対象とする磁石原料に予め含めるのではなく、M−(OR)(式中、MはCu、Coの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされるCu、Coの内、少なくとも一種を含む有機金属化合物(例えば、銅エトキシド、銅イソポロポキシド、コバルトイソプロポキシド等)を有機溶媒に添加し、湿式状態で磁石粉末に混合することにより、磁石粉末に対して添加する。
【0027】
また、本発明では、R含有量の比較的多い従来の磁石と異なり、磁石密度の向上に伴って保磁力が向上する。本発明において、焼結磁石の相対密度を好ましくは99.0%以上、より好ましくは99.2%以上、さらに好ましくは99.4%以上とすれば、高保磁力が得られ、最大エネルギー積が十分に高くなる。
【0028】
尚、磁石の相対密度は、磁石の実測密度をその理論密度で除した値である。本明細書における磁石の理論密度は、「固体物理 Vol.21,No.1,37-45(1986)」(アグネ技術センター発行)のTable1に記載されたRFe14Bの密度であり、例えば、NdFe14Bは7.58Mg/m、DyFe14Bは8.07Mg/mである。また、元素Rを2種以上用いる場合には、各元素の比率に応じ直線近似する。具体的には、元素RとしてNdおよびDyを用い、これらのモル比がNd:Dy=x:yである場合、理論密度は(7.58x+8.07y)/(x+y)とする。
【0029】
また、本発明に係る永久磁石1は、図2に示すように、永久磁石1は磁化作用に寄与する磁性相である主相11と、非磁性で希土類元素の濃縮した低融点のRリッチ相12とが共存する合金である。図2は永久磁石1を構成する主相11及びRリッチ相12を拡大して示した図である。
【0030】
ここで、主相11は化学量論組成であるRFe14B金属間化合物相(Feは部分的にCoで置換しても良い)が高い体積割合を占めた状態となる。一方、Rリッチ相12は同じく化学量論組成であるRFe14B(Feは部分的にCoで置換しても良い)よりRの組成比率が多い金属間化合物相(例えば、R2.0〜3.0Fe14B金属間化合物相)からなる。また、Rリッチ相12には磁気特性向上の為、Cuを含む。
【0031】
本発明では、Rリッチ相12に対してCuが含まれているので、焼結後の永久磁石1中にRリッチ相12を均一に分散することが可能となる。
【0032】
ここで、本発明では上記Rリッチ相12へのCuの添加は、前記したように粉砕された磁石粉末を成形する前にCuを含む有機金属化合物が添加されることにより行うことができる。具体的には、Cuを含む有機金属化合物が添加されることによって、湿式分散により磁石粒子の粒子表面に該有機金属化合物中のCuが均一付着される。その状態で磁石粉末を焼結することによって、磁石粒子の粒子表面に均一付着された該有機金属化合物中のCuが、主相11の粒界、即ちRリッチ相12に偏在化される。また、本発明では同様に永久磁石1に対するCoの添加についても、磁石粉末を成形する前にCoを含む有機金属化合物が添加されることにより行うことができる。具体的には、Coを含む有機金属化合物が添加されることによって、湿式分散により磁石粒子の粒子表面に該有機金属化合物中のCoが均一付着される。その状態で磁石粉末を焼結することによって、Coを粒界に偏在させる。尚、CuとCoのどちらも有機金属化合物により添加する構成としても良いし、何れか一方のみを有機金属化合物により添加する構成としても良い。また、有機金属化合物により添加しない元素については、予め粉砕対象とする磁石原料に含めることとしても良い。
【0033】
また、本発明では、特に後述のようにM−(OR)(式中、MはCu、Coの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされるCu、Coの内、少なくとも一種を含む有機金属化合物(例えば、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、コバルトイソプロポキシド)を有機溶媒に添加し、湿式状態で磁石粉末に混合する。それにより、Cu、Coの内、少なくとも一種を含む有機金属化合物を有機溶媒中で分散させ、磁石粒子の粒子表面にCu、Coの内、少なくとも一種を含む有機金属化合物を効率よく付着することが可能となる。
【0034】
ここで、上記M−(OR)(式中、MはCu、Coの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)の構造式を満たす有機金属化合物として金属アルコキシドがある。金属アルコキシドは、一般式M−(OR)(M:金属元素、R:有機基、n:金属又は半金属の価数)で表される。また、金属アルコキシドを形成する金属又は半金属としては、W、Mo、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Ir、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Al、Ga、In、Ge、Sb、Y、lanthanideなどが挙げられる。但し、本発明では特に、Cu、Coを用いる。
【0035】
また、アルコキシドの種類は特に限定されることなく、例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド、炭素数4以上のアルコキシド等が挙げられる。但し、本発明では後述のように低温分解で残炭を抑制する目的から、低分子量のものを用いる。また、炭素数1のメトキシドについては分解し易く、取扱いが困難であるので、特に炭素数が2〜6のアルコキシドであるエトキシド、メトキシド、イソプロポキシド、プロポキシド、ブトキシドなどを用いることが好ましい。
【0036】
また、主相11の結晶粒径Dは0.1μm〜5.0μmとすることが望ましい。また、Rリッチ相12の厚さdは1nm〜500nm、好ましくは2nm〜200nmとする。その結果、結晶粒全体としては(すなわち、焼結磁石全体としては)、コアのRFe14B金属間化合物相が高い体積割合を占めた状態となる。それにより、その磁石の残留磁束密度(外部磁場の強さを0にしたときの磁束密度)の低下を抑制することができる。尚、主相11とRリッチ相12の構成は、例えばSEMやTEMや3次元アトムプローブ法により確認することができる。
【0037】
また、本発明では、酸化による磁石特性への影響が大きくなるため、磁石中の酸素含有量を好ましくは3000ppm以下、より好ましくは2500ppm以下とする。なお、酸素含有量は少ないほど好ましいが、製造工程における酸化は不可避であるため、酸素含有量をゼロにすることはできず、通常、500ppm以上は含有される。酸素含有量を抑えるためには、製造の際に粉砕、混合、成形などの各工程を、Ar、N等の非酸化性雰囲気中で行い、かつ、雰囲気中の酸素分圧を厳密に管理することが好ましい。
【0038】
また、永久磁石1は、実質的に正方晶系の結晶構造の主相を有する。
【0039】
また、本発明の永久磁石1は、結晶粒界における元素分布に特徴をもつ。本発明の磁石に対し、2結晶粒界と多結晶粒界とについて組成分析を行い、それぞれの結晶粒界において、元素R量に対するCu量の比Cu/Rを求め、2結晶粒界におけるCu/RをCで表し、多結晶粒界におけるCu/RをCで表したとき、好ましくは
/C≦0.7、より好ましくは
/C≦0.5、さらに好ましくは
/C≦0.35
である。本発明の磁石は、Cの値が大きく、かつCの値が小さい場合に保磁力が高くなり、C/Cが上記限定範囲内であるとき、より高い保磁力が得られ、かつ、保磁力のばらつきがより小さくなる。なお、C/Cはゼロであってもよい。多結晶粒界に存在するCuが極微量である場合、後述するTEM−EDSによる測定の際に、Cu量がバックグラウンドノイズ以下となって、Cu量がゼロと算出されることがあるからである。すなわち、C/Cがゼロであっても、多結晶粒界にCuが1原子も存在しないわけではない。ただし、C/C=0、すなわちC=0となるのは、通常、Cu添加量がかなり少ない場合であり、保磁力が顕著に向上する程度までCuを添加した場合には、通常、0<C/C、特に0.01≦C/Cとなる。
【0040】
[永久磁石の製造方法1]
次に、本発明に係る永久磁石1の第1の製造方法について図3を用いて説明する。図3は本発明に係る永久磁石1の第1の製造方法における製造工程を示した説明図である。
【0041】
先ず、上述した組成割合を満たす分率のR−Fe−B(例えばNd:12.79モル%、B:5.95モル%、Fe:であり、Fe:81.26モル%)からなる、インゴットを製造する。また、保磁力向上のためにDyやTbを少量含めても良い。その後、インゴットをスタンプミルやクラッシャー等によって200μm程度の大きさに粗粉砕する。若しくは、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製し、水素解砕法で粗粉化する。
【0042】
次いで、粗粉砕した磁石粉末を、(a)酸素含有量が実質的に0%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中、又は(b)酸素含有量が0.0001〜0.5%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中で、ジェットミル41により微粉砕し、所定サイズ以下(例えば0.1μm〜5.0μm)の平均粒径を有する微粉末とする。尚、酸素濃度が実質的に0%とは、酸素濃度が完全に0%である場合に限定されず、微粉の表面にごく僅かに酸化被膜を形成する程度の量の酸素を含有しても良いことを意味する。
【0043】
一方で、ジェットミル41で微粉砕された微粉末に添加する有機金属化合物溶液を作製する。ここで、有機金属化合物溶液には予めCu、Coの内、少なくとも一種を含む有機金属化合物を添加し、溶解させる。尚、溶解させる有機金属化合物としては、M−(OR)(式中、MはCu、Coの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)に該当する有機金属化合物(例えば、銅エトキシド、銅イソポロポキシド、コバルトイソプロポキシド等)を用いる。また、溶解させる有機金属化合物の量は特に制限されないが、焼結後の磁石に対するCu、Coの含有量が上述した範囲内(Cuは0.01〜0.1モル%、好ましくは0.01モル%以上0.1モル%未満、より好ましくは0.01〜0.08モル%、さらに好ましくは0.02〜0.06モル%、Coの含有量は0.8モル%以下)となる量とする。
【0044】
続いて、ジェットミル41にて分級された微粉末に対して上記有機金属化合物溶液を添加する。それによって、磁石原料の微粉末と有機金属化合物溶液とが混合されたスラリー42を生成する。尚、有機金属化合物溶液の添加は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行う。
【0045】
その後、生成したスラリー42を成形前に真空乾燥などで事前に乾燥させ、乾燥した磁石粉末43を取り出す。その後、乾燥した磁石粉末を成形装置50により所定形状に圧粉成形する。尚、圧粉成形には、上記の乾燥した微粉末をキャビティに充填する乾式法と、溶媒などでスラリー状にしてからキャビティに充填する湿式法があるが、本発明では乾式法を用いる場合を例示する。また、有機金属化合物溶液は成形後の焼成段階で揮発させることも可能である。
【0046】
図3に示すように、成形装置50は、円筒状のモールド51と、モールド51に対して上下方向に摺動する下パンチ52と、同じくモールド51に対して上下方向に摺動する上パンチ53とを有し、これらに囲まれた空間がキャビティ54を構成する。
また、成形装置50には一対の磁界発生コイル55、56がキャビティ54の上下位置に配置されており、磁力線をキャビティ54に充填された磁石粉末43に印加する。印加させる磁場は例えば1MA/mとする。
【0047】
そして、圧粉成形を行う際には、先ず乾燥した磁石粉末43をキャビティ54に充填する。その後、下パンチ52及び上パンチ53を駆動し、キャビティ54に充填された磁石粉末43に対して矢印61方向に圧力を加え、成形する。また、加圧と同時にキャビティ54に充填された磁石粉末43に対して、加圧方向と平行な矢印62方向に磁界発生コイル55、56によってパルス磁場を印加する。それによって、所望の方向に磁場を配向させる。尚、磁場を配向させる方向は、磁石粉末43から成形される永久磁石1に求められる磁場方向を考慮して決定する必要がある。
また、湿式法を用いる場合には、キャビティ54に磁場を印加しながらスラリーを注入し、注入途中又は注入終了後に、当初の磁場より強い磁場を印加して湿式成形しても良い。また、加圧方向に対して印加方向が垂直となるように磁界発生コイル55、56を配置しても良い。
【0048】
次に、圧粉成形により成形された成形体71を水素雰囲気において200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜900℃(例えば600℃)で数時間(例えば5時間)保持することにより水素中仮焼処理を行う。仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。この水素中仮焼処理では、有機金属化合物を熱分解させて、仮焼体中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われる。また、水素中仮焼処理は、仮焼体中の炭素量が1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理で永久磁石1全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。
【0049】
ここで、上述した水素中仮焼処理によって仮焼された成形体71には、NdHが存在し、酸素と結び付きやすくなる問題があるが、第1の製造方法では、成形体71は水素仮焼後に外気と触れさせることなく、後述の真空焼成に移るため脱水素工程は不要となる。焼成中に成形体中の水素は抜けることとなる。
【0050】
続いて、水素中仮焼処理によって仮焼された成形体71を焼結する焼結処理を行う。焼結処理では、所定の昇温速度で800℃〜1180℃程度まで昇温し、2時間程度保持する。この間は真空焼成となるが真空度としては10−4Torr以下とすることが好ましい。その後冷却し、再び600℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
【0051】
[永久磁石の製造方法2]
次に、本発明に係る永久磁石1の他の製造方法である第2の製造方法について図4を用いて説明する。図4は本発明に係る永久磁石1の第2の製造方法における製造工程を示した説明図である。
【0052】
尚、スラリー42を生成するまでの工程は、図3を用いて既に説明した第1の製造方法における製造工程と同様であるので説明は省略する。
【0053】
先ず、生成したスラリー42を成形前に真空乾燥などで事前に乾燥させ、乾燥した磁石粉末43を取り出す。その後、乾燥した磁石粉末43を水素雰囲気において200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜900℃(例えば600℃)で数時間(例えば5時間)保持することにより水素中仮焼処理を行う。仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。この水素中仮焼処理では、有機金属化合物を熱分解させて、仮焼体中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われる。また、水素中仮焼処理は、仮焼体中の炭素量が1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理で永久磁石1全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。
【0054】
次に、水素中仮焼処理によって仮焼された粉末状の仮焼体82を真空雰囲気で200℃〜600℃、より好ましくは400℃〜600℃で1〜3時間保持することにより脱水素処理を行う。尚、真空度としては0.1Torr以下とすることが好ましい。
【0055】
ここで、上述した水素中仮焼処理によって仮焼された仮焼体82には、NdHが存在し、酸素と結び付きやすくなる問題がある。
そこで、上記脱水素処理では、水素中仮焼処理によって生成された仮焼体82中のNdH(活性度大)を、NdH(活性度大)→NdH(活性度小)へと段階的に変化させることによって、水素仮焼中処理により活性化された仮焼体82の活性度を低下させる。それによって、水素中仮焼処理によって仮焼された仮焼体82をその後に大気中へと移動させた場合であっても、Ndが酸素と結び付くことを防止し、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。
【0056】
その後、脱水素処理が行われた粉末状の仮焼体82を成形装置50により所定形状に圧粉成形する。成形装置50の詳細については図3を用いて既に説明した第1の製造方法における製造工程と同様であるので説明は省略する。
【0057】
その後、成形された仮焼体82を焼結する焼結処理を行う。焼結処理では、所定の昇温速度で800℃〜1180℃程度まで昇温し、2時間程度保持する。この間は真空焼成となるが真空度としては10−4Torr以下とすることが好ましい。その後冷却し、再び600℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
【0058】
尚、上述した第2の製造方法では、粉末状の磁石粒子に対して水素中仮焼処理を行うので、成形後の磁石粒子に対して水素中仮焼処理を行う前記第1の製造方法と比較して、有機金属化合物の熱分解を磁石粒子全体に対してより容易に行うことができる利点がある。即ち、前記第1の製造方法と比較して仮焼体中の炭素量をより確実に低減させることが可能となる。
一方、第1の製造方法では、成形体71は水素仮焼後に外気と触れさせることなく、後述の真空焼成に移るため脱水素工程は不要となる。従って、前記第2の製造方法と比較して製造工程を簡略化することが可能となる。但し、前記第2の製造方法においても、水素仮焼後に外気と触れさせることがなく焼成を行う場合には、脱水素工程は不要となる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1の製造方法では、粉砕されたR−Fe−B系磁石の微粉末に対して、M−(OR)(式中、MはCu、Coの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で示される有機金属化合物が添加された有機金属化合物溶液を加え、磁石粒子表面に対して均一に有機金属化合物を付着させる。その後、圧粉成形した成形体を水素雰囲気において200℃〜900℃で数時間保持することにより水素中仮焼処理を行う。その後、800℃〜1180℃で焼成を行うことによって永久磁石1を製造する。ここで、CuやCoを含む有機金属化合物を磁石粉末に添加することにより、有機金属化合物に含まれるCuやCoを焼結前に予め磁石の粒界に対して偏在配置することが可能となる。また、使用量を減少させるとともに、添加されたCoやCuを磁石の粒界に効率よく偏在させることができる。そして、Cuについては、予め磁石原料に含有した状態で粉砕、焼結を行う場合と比較して、永久磁石の製造工程で焼結温度の高温化や焼結時間の長時間化等を行う必要がない。その結果、主相の粒成長を防止するとともにリッチ相を均一に分散することが可能となる。また、Coについてはキュリー温度の向上及び粒界相の耐食性向上を十分に図ることが可能となる。
また、本発明のR−Fe−B系希土類の永久磁石1によれば、従来よりR含有量を少なくし、かつ、Cuを添加したことによって、得られる最大エネルギー積が向上する。
また、2結晶粒界におけるCu/R(C)と、多結晶粒界におけるCu/R(C)とがC/C≦0.7で表される関係をもつ場合、保磁力はより高くなり、保磁力のばらつきをより小さくすることができる。すなわち、Cuが2結晶粒界に多く存在し、多結晶粒界にはほとんど存在しない場合、本発明の磁石はより優れた特性が得られる。
また、有機金属化合物が添加された磁石を、焼結前に水素雰囲気で仮焼することにより、有機金属化合物を熱分解させて磁石粒子中に含有する炭素を予め焼失(炭素量を低減)させることができ、焼結工程でカーバイドがほとんど形成されることがない。その結果、焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙を生じさせることなく、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となり、保磁力が低下することを防止できる。また、焼結後の磁石の主相内にαFeが析出することなく、磁石特性を大きく低下させることがない。
【0060】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
また、磁石粉末の粉砕条件、混練条件、仮焼条件、焼結条件などは上記実施例に記載した条件に限られるものではない。
また、水素中仮焼処理や脱水素工程については省略しても良い。
【符号の説明】
【0061】
1 永久磁石
11 主相
12 Rリッチ相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R(Rは、希土類元素の少なくとも1種であり、Ndおよび/またはPrが必須元素として含まれる)、Cu、Fe、B、Feの一部を置換するCoおよび酸素を含有し、R含有量が11.7〜13.5モル%、Cu含有量が0.01〜0.1モル%、B含有量が5〜7モル%、Co含有量が0.8モル%以下、酸素含有量が3000ppm以下、残部が実質的にFeであり、最大エネルギー積が400kJ/m以上であって、
磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程と、
前記粉砕された磁石粉末に以下の構造式
M−(OR)
(式中、MはCu、Coの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)
で表わされる有機金属化合物を添加することにより、前記磁石粉末の粒子表面に前記有機金属化合物を付着させる工程と、
前記有機金属化合物が粒子表面に付着された前記磁石粉末を成形することにより成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼結する工程と、により製造されることを特徴とする希土類永久磁石。
【請求項2】
R含有量が12.2〜13.5モル%であることを特徴とする請求項1の希土類永久磁石。
【請求項3】
相対密度が99.0%以上であることを特徴とする請求項1又請求項2に記載の希土類永久磁石。
【請求項4】
隣り合う2つの結晶粒の境界に存在する2結晶粒界と、隣り合う3以上の結晶粒の境界に存在する多結晶粒界とについて組成分析を行い、前記各結晶粒界において、元素R量に対するCu量の比Cu/Rを求め、2結晶粒界におけるCu/RをCで表し、多結晶粒界におけるCu/RをCで表したとき、
/C≦0.7
を満たすことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の希土類永久磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216731(P2011−216731A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84428(P2010−84428)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】