説明

希土類磁石の製造方法

【課題】熱間塑性加工により高い磁化を達成すると同時に、高い保磁力をも確保した希土類磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】R−T−B系希土類合金(R:希土類元素、T:FeまたはFeの一部をCoで置換)の粉末を成形した後に、熱間塑性加工を行なってR−T−B系希土類磁石を製造する方法において、上記成形とは異なる加工方向で上記熱間塑性加工を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間塑性加工を用いて希土類磁石を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム磁石(NdFe14B)で代表される希土類磁石は、磁束密度が高く極めて強力な永久磁石として種々の用途に用いられている。
【0003】
ネオジム磁石は結晶粒サイズが小さい方が保磁力は高くなることが知られている。そこで、結晶粒サイズが50〜100nm程度のナノ多結晶体である磁粉(粉末粒径100μm程度)を型に装入し、熱間プレス加工することで、ナノ多結晶体を維持しながらバルク体を形成する。ただし、このままでは個々のナノ結晶粒の方位はバラバラで大きな磁化は得られない。そこで、結晶配向させるために、熱間塑性加工を行なって結晶すべりにより各結晶粒の方位を揃える必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、溶湯急冷により作成したR−Fe−B系合金(RはYを含む1種類以上の希土類元素)粉末を冷間成形、ホットプレス圧密化、熱間塑性加工により希土類磁石を製造する方法が提示されている。しかし、得られる結晶配向度に限界があるため、磁化の向上に限界があった。
【0005】
そこで本発明者は、下記のように詳細な検討を行った。
【0006】
すなわち、典型例として、希土類磁石原料を、合金組成(質量%):31Nd−3Co−1B−0.4Ga−残部Feに対応して所定量配合し、Ar雰囲気中で溶解し、溶湯をオリフィスから回転ロール(クロムめっき銅製ロール)に射出して急冷し、合金薄片を製造した。この合金薄片をAr雰囲気中でカッターミルにて粉砕および篩分けし、粒径2mm以下の希土類合金粉末を得た(平均粒径100μm)。この粉末粒子の結晶粒径は100nm程度で、酸素量は800ppmであった。
【0007】
合金粉末を、φ10mm、高さ17mmの容積を持つ超硬合金製ダイに充填し、上下を超硬合金ポンチで封止した。
【0008】
このダイ/ポンチ・アセンブリを真空チャンバ内にセットし、10−2Paに減圧し、高周波コイルで加熱し、600℃に達したらすぐに100MPaでプレス加工した。プレス加工後30秒保持した後、ダイ/ポンチ・アセンブリからバルク体を取り出した。このバルク体の高さは10mm(径はφ10mm)であった。
【0009】
次に、上記のバルク体を別のφ20mmの超硬合金ダイに装入し、ダイ/ポンチ・アセンブリをチャンバ内にセットし、10−2Paに減圧し、高周波コイルで加熱し、720℃に達したらすぐに加工率20、40、60、80%で熱間据え込み加工を行なった。
【0010】
得られたサンプルの中心部から2mm□の試験片を採取して磁気特性をVSM測定した結果を図1に示す。
【0011】
まず、図1(1)に示すように、熱間塑性加工時の加工率が60%以上になると、配向現象が飽和し、それに伴って磁化の向上も飽和してしまう。更に、図1(2)に示すように、熱間塑性加工することによって、配向度が上昇して磁化が大きくなるが、一方で、保磁力が著しく低下してしまう。図1に関する検討結果は、後に詳述する。
【0012】
このように、配向度を更に向上させてより高い磁化を達成し、同時に、高い保磁力を確保した希土類磁石の製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2693601号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、熱間塑性加工により高い磁化を達成すると同時に、高い保磁力をも確保した希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、R−T−B系希土類合金(R:希土類元素、T:FeまたはFeの一部をCoで置換)の粉末を成形した後に、熱間塑性加工を行なってR−T−B系希土類磁石を製造する方法において、
上記成形とは異なる加工方向で上記熱間塑性加工を行なうことを特徴とするR−T−B系希土類磁石の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、成形とは異なる加工方向で熱間塑性加工を行なうことにより、後に詳述するメカニズムにより、(1)急冷薄帯の表面での滑りを抑制し、熱間塑性加工で付与されるエネルギーを有効に結晶粒の歪変形に寄与させることができるので、熱間塑性加工の加工率60%以上の増加に対応して磁化を向上させることができるし、同時に、(2)結晶粒の扁平化を抑制すると共に結晶粒同士の擬似接合も低減するので、高い保磁力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の方法により製造した31Nd−3Co−1B−0.4Ga−Fe希土類磁石の(1)加工率に対する磁化(残留磁化)の変化および(2)2種類の加工率に対応する磁化曲線を示す。
【図2】図1の希土類磁石の原料である粉砕後の急冷薄片の扁平な粉末粒子としての外観形状を示すSEM写真である。
【図3】図1の希土類磁石の製造過程において、(1)扁平な粉末粒子である粉砕後の急冷薄片を成形した状態の(A)結晶粒組織(2次結晶粒組織)および(B)1次結晶粒組織および(2)熱間塑性加工後の結晶粒組織(2次結晶粒組織)を示す模式図である。
【図4】図3(1)に示した、扁平な粉末粒子が積層固定された成形体の断面の(a)SEM像とその(b)拡大像、およびEPMA像の(c)Ndマップと(d)Oマップを示す。
【図5】図3(2)に示した、加工率60%で熱間塑性加工されたミクロ組織のTEM像である。
【図6】本発明の熱間塑性加工方法による結晶粒組織を従来の方法と対比して示す模式図である。
【図7】本発明の望ましい2形態の熱間塑性加工による結晶粒組織を示す模式図である。
【図8】本発明の望ましい形態において2回の熱間塑性加工に伴う結晶粒組織および磁化容易軸Cの変化を模式的に示す。
【図9】本発明を適用する典型例としてNdFe14B希土類合金中のNd量に対する保磁力と磁化(残留磁化)の変化を示す。
【図10】本発明の実施例1における成形→加工方向変化→熱間塑性加工の過程を模式的に示す。
【図11】本発明の実施例1において材料傾斜角を変化させた場合の配向度(Mr/Ms)および磁化の変化を示す。
【図12】本発明の実施例2における成形→予備熱間塑性加工→加工方向変化→熱間塑性加工の過程を模式的に示す。
【図13】本発明の実施例3における成形→予備熱間塑性加工→加工方向変化→熱間塑性加工の過程を模式的に示す。
【図14】本発明の実施例4における成形→加工方向変化→予備熱間塑性加工→加工方向変化→熱間塑性加工の過程を模式的に示す。
【図15】本発明の実施例5における予備熱間塑性加工→加工方向変化→熱間塑性加工の過程を模式的に示す。
【図16】本発明の実施例6における予備熱間塑性加工→加工方向変化→熱間塑性加工の過程を模式的に示す。
【図17】本発明の実施例と従来の比較例とを(1)保磁力および(2)磁化について比較して示す。
【図18】実施例2について、(1)予備熱間塑性加工(1回目の加工)の加工率に対する保磁力および磁化の変化および(2)熱間塑性加工(2回目の加工)の加工率に対する磁化の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<従来技術の問題点の解析>
本発明者は、前記従来の問題点(1)(2):
(1)熱間塑性加工の加工率60%以上の増加に対して磁化の向上が飽和する。
【0019】
(2)熱間塑性加工によって磁化が向上しても保磁力が大きく低下する。
の発生する理由を詳細に検討した。
【0020】
〔問題点(1)の理由〕
磁石に適した急冷薄片は一般に厚さ20μm程度であり、粉砕後は図2に写真を示すように径が100〜200μm程度の扁平な粒子になる。これをプレス成形兼焼結のために型に入れて加熱圧縮すると、図3(1)に模式的に示したように、粒子の扁平形状に従って厚さ方向に積み重なった状態で固定される。そして、図3(2)に模式的に示したように、この扁平粒子の厚さ方向積層状態を維持したまま熱間塑性加工される。なお、図3(1)(A)(B)に示したように、(A)に長方形で示した結晶粒は(B)に細かい長方形で示した実際の結晶粒(1次結晶粒)の集合した2次結晶粒である。図3(2)は2次結晶粒のみを示した。
【0021】
更に、本発明者による詳細な観察の結果、下記のメカニズムが判明した。
【0022】
すなわち、図3に示した扁平な粉末粒子の表面は、図4の断面の(a)SEM像とその(b)拡大像、およびEPMA像の(c)Ndマップと(d)Oマップが示すように、Ndリッチ相やその酸化物の薄い層で覆われている。熱間塑性加工して結晶に歪を与えた場合、加工率が高くなるとこの薄い層で滑りが生じてしまい、熱間塑性加工により負荷したエネルギーが吸収され、結晶の歪変形に有効に寄与していないことが判明した。
【0023】
〔問題点(2)の理由〕
HVモーター用磁石は、磁化(残留磁化)の値として1.2T以上、望ましくは1.35T以上が必要である。この磁化を達成するには、熱間塑性加工における加工率として60%以上が必要である。加工率60%で熱間塑性加工されたミクロ組織は、図5にTEM写真を示すように、結晶粒の扁平度が非常に大きくなっている。そのため、結晶自体による反磁界が大きくなり、等方性(アスペクト比が1)の結晶粒に比べると磁化反転が起き易いため、保磁力が小さくなる。
【0024】
更に、熱間塑性加工の際に、隣接した結晶粒同士が擬似的に接合され、接合面は磁壁としての作用が弱まり、結晶粒界による磁気的分断効果が小さくなることも、保磁力を低下させる一つの要因となる。
【0025】
<本発明の方法の詳細な説明>
本発明は、上述の2つの理由に基づいて、(1)熱間塑性加工で高い加工率に見合った高い磁化向上を達成し、(2)熱間塑性加工により磁化向上と同時に高い保磁力を確保する、という2つの課題を達成する。
【0026】
すなわち、本発明は、R−T−B系希土類合金(R:希土類元素、T:FeまたはFeの一部をCoで置換)の粉末を成形した後に、熱間塑性加工を行なってR−T−B系希土類磁石を製造する方法において、
上記成形とは異なる加工方向で上記熱間塑性加工を行なうことを特徴とする。
【0027】
本発明の方法においては、成形とは異なる加工方向で熱間塑性加工を行なうことにより、(1)急冷薄帯の表面での滑りを抑制し、熱間塑性加工で付与されるエネルギーを有効に結晶粒の歪変形に寄与させることができるので、熱間塑性加工の加工率に対応して配向度が高まり、得に加工率60%以上でも更に磁化を向上させることができるし、同時に、(2)結晶粒の扁平化を抑制すると共に結晶粒同士の擬似接合も低減するので、高い保磁力を確保することができる。
【0028】
図6に、本発明の熱間塑性加工方法を模式的に示す。図6(1)に示すように、成形時の加工方向Sに対して、これと異なる方向Fから熱間塑性加工を行なう。図示の例では、熱間塑性加工方向Fは成形方向Sに対して90°異なる。
【0029】
図6(2)は比較のために従来の熱間塑性加工方法を示しており、熱間塑性加工方向Fは(1)の成形方向Sと同じであった。この場合、扁平粒子p同士が接触表面で滑りGを起こしてしまい、熱間塑性加工Fのエネルギーが結晶の塑性変形fに有効に寄与することができず、特に加工率60%以上で結晶の配向を高めることができなかった。
【0030】
これに対して本発明により、成形方向Sと異なる方向Fで熱間塑性加工を行なうことにより、図6(3)に示すように、扁平粒子表面で滑りGを起こさず、熱間塑性加工Fのエネルギーが有効に結晶の塑性変形fに寄与し、特に加工率60%以上でも結晶の配向を更に高めることができると同時に、ナノレベルの微細な結晶粒径を確保できる。これにより、磁化および保磁力を同時に高めることができる。
【0031】
本発明において、成形は、特に方法を限定する必要はなく、粉末冶金における圧粉体の成形方法を用いることができ、熱間プレス成形により焼結を兼ねて行うか、またはSPS焼結により行い、焼結体としてバルク体を得る。
【0032】
本発明において、熱間塑性加工は、特に方法を限定する必要はなく、熱間鍛造、熱間圧延など一般的な金属の熱間加工法を用いることができる。
【0033】
望ましい形態においては、成形とは60°以上異なる加工方向で熱間塑性加工を行なう。成形方向に対して60°以上異なる方向で熱間塑性加工することにより、磁化(残留磁化)の値が急激に大きくなる。最も望ましくは、成形方向に対して90°異なる方向で熱間塑性加工することにより、最大の磁化が得られる。
【0034】
望ましい形態においては、上記熱間塑性加工を加工率60%以上で行なう。加工率60%以上で、従来は飽和していた磁化が大幅に向上する。
【0035】
望ましい形態においては、上記熱間塑性加工の前に、該熱間塑性加工とは異なる加工方向で予備熱間塑性加工を行なう。一般に、予備熱間塑性加工は熱間塑性加工より低い加工率で行なう。特に限定する必要はないが、典型的には予備熱間塑性加工は加工率60%未満、熱間塑性加工は加工率60%以上である。種々の態様が可能であるが、典型的な2つの態様を図7に模式的に示す。
【0036】
図7(1)の態様では、(A)成形方向Sと同方向に予備熱間塑性加工F0を行った後、(B)これと異なる方向(図示の例ではSに対して90°方向)に熱間塑性加工Fを行なう。
【0037】
図7(2)の態様では、(A)成形方向Sと異なる方向(図示の例ではSに対して90°方向)に予備熱間塑性加工F0を行なった後、(B)成形方向Sおよび予備熱間塑性加工F0に対して異なる方向(図示の例ではSおよびF0に対して90°方向)に熱間塑性加工Fを行なう。このように2回の熱間塑性加工F0、Fを行うことにより、保磁力および磁化が更に向上する。
【0038】
図8に、2回の熱間塑性加工に伴う結晶粒組織および磁化容易軸Cの変化を模式的に示す。
【0039】
まず、図8(1)に示すように、成形したままの状態では結晶の配向は実質的に起きておらず磁化容易軸Cはランダムであり、結晶粒の形状はほぼ等方的(アスペクト比≒1)である。この状態で、予備熱間塑性加工F1(成形方向Sと同方向または異方向)を行なうと、図8(2)に示すように結晶粒は扁平化すると同時に、一部の隣接結晶粒同士が擬似的に接合Jする。擬似的な接合Dが起きるとこの部分Jでは結晶粒界による磁気的分断効果が低下するか失われ、磁石全体として保磁力の低下に結びつく。
【0040】
次いで、図8(3)に示すように材料を成形方向Sに対して典型的には90°回転させて、図8(4)に示すように熱間塑性加工F2を行なう。これにより、図8(5)に示すように、予備熱間塑性加工F1により扁平化した結晶粒が等方性(アスペクト比≒1)になると共に、磁化容易軸Cが熱間塑性加工F2の方向に強く配向し、かつ、擬似接合Jが解除されて結晶粒界が蘇る。これにより、特に熱間塑性加工F2を60%以上の高い加工率で行なうと、従来得られなかった高い磁化と高い保磁力が同時に達成される。
【0041】
<希土類合金の組成>
本発明の対象とする組成は、R−T−B系希土類磁石である。
【0042】
Rは、希土類元素であり、典型的にはNd、Pr、Dy、Tb、Hoの一種以上であり、特にNdまたはNdの一部をPr、Dy、Tb、Hoの少なくとも一種で置換したものである。希土類元素としては、NdとPrの中間性生物であるDiも含まれるし、Dy等の重希土類金属も含まれる。
【0043】
本発明においては、保磁力と磁化(残留磁化)の両立と観点から、希土類合金中の希土類元素Rの含有量は27〜33wt%であることが望ましい。
【0044】
図9に、典型例としてNdFe14B希土類合金中のNd量に対する保磁力と磁化(残留磁化)の変化を示す。
【0045】
Nd量が27wt%未満であると、磁気的分断効果が不十分になり、ベースとなる保磁力が低下する。また、熱間塑性加工において割れが発生し易くなる。
【0046】
一方、Nd量が33wt%を越えると、主相率が低下し、磁化が不十分になる。
【0047】
本発明において用いる希土類合金粉末の粒度は2mm以下程度でよく、通常は50〜500μm程度である。粉砕は、酸化を防止するために、Ar、Nのような不活性ガス雰囲気中で行なう。
【実施例】
【0048】
〔実施例1〕
本発明の製造方法により、下記の手順および条件で希土類磁石を製造し、磁気特性を評価した。
【0049】
<原料粉末の準備>
希土類磁石原料を、合金組成(質量%):31Nd−3Co−1B−0.4Ga−残部Feに対応して所定量配合し、Ar雰囲気中で溶解し、溶湯をオリフィスから回転ロール(クロムめっき銅製ロール)に射出して急冷し、合金薄片を製造した。この合金薄片をAr雰囲気中でカッターミルにて粉砕および篩分けし、粒径2mm以下の希土類合金粉末Wを得た(平均粒径100μm)。この粉末粒子の結晶粒径は平均100〜200nm程度で、酸素量は800ppmであった。
【0050】
以下、図10を参照して説明する。
【0051】
<成形(バルク体形成)>
図10(1)に示すように、上記の粉末Wを、10×10×30(H)mmの容積を持つ超硬合金製ダイD1に充填し、上下を超硬合金ポンチP1で封止した。
【0052】
このダイ/ポンチ・アセンブリを真空チャンバ内にセットし、10−2Paに減圧し、高周波コイルKで加熱し、600℃に達したらすぐに100MPaでプレス加工Sを施した(歪速度:1/s)。プレス加工後30秒保持した後、図10(2)に示すようにダイ/ポンチ・アセンブリからバルク体M0(10×10×15(H)mm)を取り出した。
【0053】
<熱間塑性加工>
取り出したバルク体M0を図10(3)に示すようにプレス加工Sの方向に対して90°倒して、図10(4)に示すように別のφ30mmの超硬合金ポンチP2にセットし、チャンバ内に装入して、10−2Paに減圧し、高周波コイルで加熱し、750℃に達したらすぐに加工率80%で熱間据え込み加工Fを行ない、最終形状体M1とした(図10(4)→(5))。
【0054】
<歪解放熱処理>
熱間塑性加工後に、真空(10−4Pa)中で600℃にて60分間の歪解放熱処理を行なった。
【0055】
<磁気測定>
得られたサンプルの中心部から2mm□の試験片を採取し磁気特性をVSM測定した。
【0056】
《最適な熱間塑性加工方向の検討》
プレス加工Sに対する角度を0、45°、60°、90°に変えた場合の磁化を測定した結果を図11に示す。
【0057】
磁化の強さは、角度0°から45°まではほぼ変化がなく、45°を超えると急激に増加し、60°以上では1.4Tを超える大きな値が得られ、90°で最大となることが分かる。したがって、成形方向Sに対して60°以上異なる加工方向で熱間塑性加工することが特に望ましい。最も望ましくは、成形方向Sに対して90°異なる加工方向で熱間塑性加工することにより、最大の磁化が達成される。以下の実施例においては、加工方向の変化は全て90°で行なった。
【0058】
〔比較例1〕
従来の製造方法により下記の手順および条件で希土類磁石を製造し、磁気特性を評価した。
【0059】
実施例1と同様に準備した<原料粉末の準備>から<成形(バルク体形成)>までを行なってバルク体を得た。
【0060】
従来の方法に従いバルク体Mの向きはそのままにして、それ以外は実施例1と同様に<熱間塑性加工>、<歪解放熱処理>、<磁気測定>を行なった。
【0061】
〔実施例2〕
本発明の望ましい形態の製造方法により、下記の手順および条件で希土類磁石を製造し、磁気特性を評価した。
【0062】
実施例1と同様に<原料粉末の準備>から<成形(バルク体形成)>までを行なってバルク体を得た。
【0063】
以下、図12を参照して説明する。
【0064】
<予備熱間塑性加工>
図12(1)に示した上記成形されたバルク体M0の向きはそのままにして、図12(2)に示すようにφ30mmの超硬合金ポンチP2にセットし、チャンバ内に装入して、10−2Paに減圧し、高周波コイルで加熱し、700℃に達したらすぐに加工率10、30、45、60、80%で熱間据え込み加工Fを行ない、予備形状体M1とした(図12(3))。
【0065】
図12(4)→(5)に示すように、次の熱間塑性加工のために、予備形状体M1を機械加工により9×9×9mmの形状に整えた。
【0066】
<熱間塑性加工>
機械加工後の予備形状体M1を図12(6)に示すようにプレス加工Sの方向に対して90°倒して、図12(7)に示すようにφ30mmの超硬合金ポンチP2にセットし、チャンバ内に装入して、10−2Paに減圧し、高周波コイルで加熱し、750℃に達したらすぐに加工率30、45、60、80%で熱間据え込み加工F2を行ない、最終形状体M2とした(図12(8))。
【0067】
実施例1と同様に<歪解放熱処理>および<磁気測定>を行なった。
【0068】
〔比較例2〕
比較例1と同様に希土類磁石を製造し、磁気測定を行なった。ただし、下記の点が異なる。すなわち、実施例2と平等に比較するため、磁石のサイズを9×9×9mmにしている。予備熱間塑性加工は行なっていない。
【0069】
〔実施例3〕
本発明の望ましい形態の製造方法により、実施例2と同様に希土類磁石を製造し、磁気特性を評価した。
【0070】
ただし、予備熱間塑性加工および熱間塑性加工は下記のように行なった。図13を参照した説明する。
【0071】
<予備熱間塑性加工>
すなわち、実施例2と同様に図13(1)で成形したバルク体M0の向きはそのままにして、図13(2)に示すように13×13×20mmの容積を持つ超硬合金製ダイD2の中央部に超硬合金製ポンチP2でセットし、チャンバ内に装入して、10−2Paに減圧し、高周波コイルで加熱し、750℃に達したらすぐに、ダイD2内が充填されるまで熱間据え込み加工F1を行ない、予備形状体M1(13×13×8.8(H)mm)とした(図13(3))。このとき加工率に換算すると約40%であった。
【0072】
<熱間塑性加工>
次に、図13(4)→(5)に示すように、予備形状体M1をプレス加工Sの方向に対して90°倒して、図13(6)に示すようにφ30mmの超硬合金ポンチP3にセットし、チャンバ内に装入して、10−2Paに減圧し、高周波コイルで加熱し、750℃に達したらすぐに加工率80%で熱間据え込み加工F2を行ない、最終形状体M2とした(図13(7))。
【0073】
実施例1と同様に<歪解放熱処理>および<磁気測定>を行なった。
【0074】
〔比較例3〕
実施例3と同様の手順および条件で希土類磁石を製造し、磁気特性を評価した。
【0075】
ただし、予備熱間塑性加工は行なわず、熱間塑性加工を下記のように行なった。
【0076】
<熱間塑性加工>
実施例3と同様にφ30mmの超硬合金ポンチP3にセットして、チャンバー中で10−2Paに減圧し、750℃で加工率80%にて熱間据え込み加工を行なった。
【0077】
実施例1と同様に<歪解放熱処理>および<磁気測定>を行なった。
【0078】
〔実施例4〕
本発明の望ましい形態の製造方法により、下記の手順および条件で希土類磁石を製造し、磁気特性を評価した。
【0079】
実施例1と同様に<原料粉末の準備>から<成形(バルク体形成)>までを行なってバルク体を得た。
【0080】
以下、図14を参照して説明する。
【0081】
<予備熱間塑性加工>
図14(1)に示した上記成形されたバルク体M0を、図14(2)→(3)に示すように、プレス加工Sの方向に対して90°傾け、図14(4)に示すように13×13×20mmの容積を持つ超硬合金製ダイD2の中央部に超硬合金製ポンチP2でセットし、チャンバ内に装入して、10−2Paに減圧し、高周波コイルで加熱し、750℃に達したらすぐに、ダイD2内が充填されるまで熱間据え込み加工F1を行ない、予備形状体M1とした(図14(5))。このとき加工率に換算すると約40%であった。
【0082】
<熱間塑性加工>
次に、図14(6)→(7)に示すように、予備形状体M1をプレス加工Sおよび予備熱間塑性加工F1の方向に対して90°傾け、図14(8)に示すようにφ30mmの超硬合金ポンチP3にセットし、チャンバ内に装入して、10−2Paに減圧し、高周波コイルで加熱し、750℃に達したらすぐに加工率80%で熱間据え込み加工F2を行ない、図14(9)に示すように最終形状体M2とした。
【0083】
実施例1と同様に<歪解放熱処理>および<磁気測定>を行なった。
【0084】
〔実施例5〕
本発明の望ましい形態の製造方法により、下記の手順および条件で希土類磁石を製造し、磁気特性を評価した。
【0085】
実施例1と同様に<原料粉末の準備>を行なって原料粉末を得た。
【0086】
原料粉末を15×15×70(H)mmの容積を持つ超硬合金型に入れ、SPS焼結をいって15×15×50mmのバルク体を得た。
【0087】
以下、図15を参照して説明する。
【0088】
<予備熱間塑性加工>
図15(1)に示すように、バルク体M0を横断面が23(W)×23(H)mmの型V1の中で誘導加熱により型V1と共に700℃まで加熱し、ロールU1をT方向に移動させながら、図15(2)に示すように力F1を負荷して圧延して、図15(3)に示すように厚さ10(H)mm×幅23(W)mm×長さ49(L)mmの予備形状体M1とした。この予備熱間塑性加工における加工率は33%であった。
【0089】
<熱間塑性加工>
図15(4)→(5)に示すように、予備形状体M1を上記圧延力F1の方向に対して90°傾けて幅23mm方向を新たに厚さとし、横断面が50(W)×30(H)mmの型V2の中で誘導加熱により750℃まで加熱し、図15(6)に示すようにロールU2で力F2を負荷して圧延し、図15(7)に示すように厚さ3(H)mm×幅50(W)mm×長さ77(L)mmの幅最終形状体M2とした。この熱間塑性加工における加工率は70%であった。
【0090】
実施例1と同様に<歪解放熱処理>および<磁気測定>を行なった。
【0091】
〔比較例4〕
実施例5と同様の手順および条件で希土類磁石を製造し、磁気特性を評価した。
【0092】
ただし、予備熱間塑性加工は行なわず、熱間塑性加工を下記のように行なった。
【0093】
<熱間塑性加工>
バルク体M0の向きは図15(1)の状態のまま変えずに、図15(6)に示すように横断面が50(W)×30(H)mmの型V2の中で誘導加熱により750℃まで加熱し、ロールU2で力F2を負荷して圧延し、図15(7)に示すように最終形状体M2とした。加工率は70%であった。
【0094】
実施例1と同様に<歪解放熱処理>および<磁気測定>を行なった。
【0095】
〔実施例6〕
本発明の望ましい形態の製造方法により、下記の手順および条件で希土類磁石を製造し、磁気特性を評価した。
【0096】
実施例5と同様に<原料粉末の準備>および<成形(バルク体形成)>を行なってバルク体を得た。
【0097】
以下、図16を参照して説明する。
【0098】
<予備熱間塑性加工>
図16(1)に示すように、バルク体M0を間隔d1が23mmの型VAの中で誘導加熱により型VAと共に700℃まで加熱し、上下一対のロールUAをT方向に移動させながら、図16(2)に示すように力F1を負荷して圧延して、図16(3)に示すように厚さ10(H)mm×幅23(W)mm×長さ50(L)mmの予備形状体M1とした。この予備熱間塑性加工における加工率は33%であった。
【0099】
<熱間塑性加工>
図16(4)→(5)に示すように、予備形状体M1を上記圧延力F1の方向に対して90°傾けて幅23mm方向を新たに厚さとし、間隔d2が50mmの型V2の中で誘導加熱により750℃まで加熱し、図16(6)に示すように上下一対のロールU2で力F2を負荷して圧延し、図16(7)に示すように厚さ3(H)mm×幅50(W)mm×長さ77(L)mmの幅最終形状体M2とした。
【0100】
この熱間塑性加工における加工率は70%であった。
【0101】
実施例1と同様に<歪解放熱処理>および<磁気測定>を行なった。
【0102】
〔比較例5〕
実施例6と同様の手順および条件で希土類磁石を製造し、磁気特性を評価した。
【0103】
ただし、予備熱間塑性加工は行なわず、熱間塑性加工を下記のように行なった。
【0104】
<熱間塑性加工>
バルク体M0の向きは図16(1)の状態のまま変えずに、図16(6)に示すように間隔d2が50mmの型V2の中で誘導加熱により750℃まで加熱し、図16(6)に示すように上下一対のロールU2で力F2を負荷して圧延し、図16(7)に示すように厚さ4.6(H)mm×幅50(W)mm×長さ50(L)mmの幅最終形状体M2とした。この熱間塑性加工における加工率は70%であった。
【0105】
実施例1と同様に<歪解放熱処理>および<磁気測定>を行なった。
【0106】
≪磁気特性の評価≫
図17に、実施例1〜6および比較例1〜5について、保磁力と磁化(残留磁化)を比較して示す。実施例2〜6については、図17(1)保磁力の棒グラフ上に予備熱間塑性加工の加工率(%)を示した。全てについて熱間塑性加工の加工率は80%である。
【0107】
比較例に比べて本発明の方法による実施例はいずれも磁化および保磁力が向上している。ここで、予備熱間塑性加工を行っていない実施例1は予備熱間塑性加工を行った実施例2〜6に比べて、比較例に対する保磁力向上代が小さい。これは結晶粒の扁平度が実施例1で大きいためである。実施例4の保磁力は最も高い。予備熱間塑性加工および熱間塑性加工のいずれにおいても加工方向を90°変えたことにより、扁平な結晶粒組織が等方的な結晶粒組織に変わったためである。
【0108】
≪予備熱間塑性加工と熱間塑性加工の加工率の効果≫
図18に、実施例2について、(1)予備熱間塑性加工の加工率(1回目加工率)による保磁力および磁化の変化、(2)熱間塑性加工の加工率(2回目加工率)による磁化の変化をそれぞれ示す。
【0109】
図18(1)の結果から、磁化は予備熱間塑性加工の加工率(1回目加工率)に関わらずほぼ一定であったが、保磁力は1回目加工率が45%を超えると低下し始め、60%を超えると大きく低下する。これは、歪が増えすぎるためと考えられる。
【0110】
図18(2)の結果から、熱間塑性加工の加工率(2回目加工率)の増加に伴い磁化はほぼ直線的に増加する。図中、従来の曲線は1回のみの熱間塑性加工であり、加工率60%を超えると磁化の向上が飽和している。本発明によれば、60%を超えた高い加工率を採用することにより、従来では得られない高い磁化を達成することができ、かつ、その際に保磁力も高く確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明によれば、熱間塑性加工により高い磁化を達成すると同時に、高い保磁力をも確保した希土類磁石の製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−T−B系希土類合金(R:希土類元素、T:FeまたはFeの一部をCoで置換)の粉末を成形した後に、熱間塑性加工を行なってR−T−B系希土類磁石を製造する方法において、
上記成形とは異なる加工方向で上記熱間塑性加工を行なうことを特徴とするR−T−B系希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記成形とは60°以上異なる加工方向で上記熱間塑性加工を行なうことを特徴とするR−T−B系希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、上記熱間塑性加工を加工率60%以上で行なうことを特徴とするR−T−B系希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項において、上記熱間塑性加工の前に、該熱間塑性加工とは異なる加工方向で予備熱間塑性加工を行なうことを特徴とするR−T−B系希土類磁石の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−174986(P2012−174986A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37320(P2011−37320)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】