説明

希土類磁石の製造方法

【課題】冷間成形から熱間コイニングまでを連続的におこない、希土類磁石前駆体が大気暴露されるのを抑制することができる希土類磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】ダイ4と、第1、第2のパンチ2,3と、からなる成形機と、成形機を収容してその内部が不活性ガス雰囲気に制御されるチャンバー1とから構成される製造装置10を使用して希土類磁石を製造する方法であり、チャンバー1内を不活性ガス雰囲気等とした状態で、キャビティC内に希土類磁石材料となる粉末pを充填し、パンチ2,3にて充填粉末pを加圧し、冷間成形にて成形体S1を製造するステップ、ダイ4に対してパンチ2,3を相対的に移動させて成形体S1をダイ4の外部に移動させて成形体S1を加熱し、パンチ2,3で保持された成形体S1をダイ4の中空内に戻し、パンチ2,3で成形体S1に熱間コイニングをおこなって希土類磁石前駆体S2を製造するステップからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ランタノイド等の希土類元素を用いた希土類磁石は永久磁石とも称され、その用途は、ハードディスクやMRIを構成するモータのほか、ハイブリッド車や電気自動車等の駆動用モータなどに用いられている。
【0003】
この希土類磁石の磁石性能の指標として残留磁化(残留磁束密度)と保磁力を挙げることができるが、モータの小型化や高電流密度化による発熱量の増大に対し、使用される希土類磁石にも耐熱性に対する要求は一層高まっており、高温使用下で磁石の保磁力を如何に保持できるかが当該技術分野での重要な研究課題の一つとなっている。
【0004】
車両駆動用モータに多用される希土類磁石の一つであるNd-Fe-B系磁石を取り挙げると、結晶粒の微細化を図ることやNd量の多い組成合金を用いること、保磁力性能の高いDy、Tbといった重希土類元素を添加することなどによってその保磁力を増大させる試みがおこなわれている。
【0005】
希土類結晶磁石の製造方法を特許文献1に開示の製造方法を参照して概説すると、たとえばNd-Fe-B系の金属溶湯を急冷凝固して得られた微粉末をダイと上下2つのパンチとからなる成形機内に充填し、冷間プレス加工によって所定形状および寸法の成形体を製造する。次いで、成形機から成形体を取り出し、この成形体にグラファイト等の潤滑剤を塗布した後に別の成形機に収容し、ホットプレスと押出し加工を連続的におこなうことによって希土類磁石を製造するものである。
【0006】
特許文献1に開示の製造方法に対し、成形機から取り出された成形体を加熱後、コイニング(熱間コイニング)して成形体の緻密化を図ることも一般におこなわれている。
【0007】
なお、実際には、ホットプレスと押出し加工を連続的におこなってできた加工品、あるいは熱間コイニングをおこなってできた加工品はいずれも希土類磁石前駆体であり、この前駆体に対し、保磁力性能の高い重希土類元素を種々の方法で付与することで希土類磁石が製造される。
【0008】
特許文献1で開示の製造方法、もしくは成形体に対して熱間コイニングする製造方法のいずれの方法であっても、これまでの製造方法は、成形機内で冷間プレス加工(冷間プレス成形、冷間成形)によって成形体を製造後、成形体を成形機から一旦取り出し、取り出された成形体を別途の成形機等に収容し、ここでホットプレスや熱間コイニングをおこなうことから、製造過程で成形体が大気中に暴露されることを回避できず、したがって、成形体が酸化され、磁気性能低下の原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3818397号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、希土類磁石の製造に当たり、冷間成形から熱間コイニングまでを連続的におこない、希土類磁石の製造過程でその前駆体が大気暴露されるのを解消することができ、もって該前駆体が大気暴露によって酸化され、磁気性能が低下するのを抑止することのできる希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による希土類磁石の製造方法は、ダイと、ダイの中空内で移動自在な第1、第2のパンチと、からなる成形機と、該成形機を収容してその内部が真空雰囲気もしくは不活性ガス雰囲気に制御されるチャンバーと、から構成される製造装置を使用して希土類磁石を製造する製造方法であって、チャンバー内を真空雰囲気もしくは不活性ガス雰囲気とした状態で、キャビティ内に希土類磁石材料となる粉末を充填し、第1、第2のパンチを相互に近接させて充填された粉末を加圧し、冷間成形にて成形体を製造する第1のステップ、第1、第2のパンチで成形体を保持したまま、ダイに対して第1、第2のパンチを相対的に移動させて成形体をダイの外部に移動させて成形体を加熱し、第1、第2のパンチで保持された成形体をダイの中空内に戻し、第1、第2のパンチを相互に近接させて成形体に熱間コイニングをおこなって希土類磁石前駆体を製造する第2のステップからなるものである。
【0012】
本発明の希土類磁石の製造方法は、より具体的には希土類磁石前駆体の製造方法であるが、これを本明細書では希土類磁石の製造方法と規定している。このままでも希土類磁石としての特性はあるが、実際には、この製造方法で得られた希土類磁石前駆体に対して保磁力性能の高い重希土類元素等が拡散浸透されると、最終的に高性能の希土類磁石が製造されることになる。
【0013】
本発明の製造方法は、チャンバー内に成形機が収容されてなる製造装置を使用し、不活性ガス雰囲気下等にあるチャンバー内から希土類磁石前駆体やさらにその前駆体である成形体を取り出すことなく、連続的に成形体の製造とさらに希土類磁石前駆体の製造をおこなうことにより、成形体等が大気暴露されるのを完全に解消することのできる製造方法である。
【0014】
このように一つの製造装置のみで、冷間成形による成形体の製造から熱間コイニングによる希土類磁石前駆体の製造までを連続的におこなうことから、成形体等の酸化抑止に加えて、冷間成形と熱間コイニングをそれぞれ別途の成形機(装置)で製造する際のハンドリング手間やこれに起因する製造効率低下の問題を効果的に解消でき、製造効率を格段に向上させることができる。さらに、希土類磁石の製造装置を一つの装置に集約できることから、製造装置のコンパクト化と装置スペースの狭小化にも繋がる。
【0015】
第1のステップでは、たとえば液体急冷にて製作された微細な結晶粒である急冷薄帯(急冷リボン)からなる粉末をダイとパンチで形成された成形機のキャビティ内に充填し、第1、第2のパンチで充填粉末を加圧して冷間成形をおこない、成形体を製造する。
【0016】
次に、第2のステップでは、第1、第2のパンチで製造された成形体を保持したまま、ダイを第1、第2のパンチに対して相対的に移動させ(ダイを移動させる形態、パンチを移動させる形態、双方を移動させる形態がある)、成形体をダイの外部に移動させる。
【0017】
ダイの外部には加熱用ヒータや誘導加熱コイルなどの加熱手段が設けてあり、これらの加熱手段で成形体を所望に加熱した後に、成形体をダイの外部に移動させたのと逆の手順で第1、第2のパンチで保持された加熱後の成形体をダイの内部に戻す。
【0018】
ダイの内部において、第1、第2のパンチにて加熱後の成形体をプレスし、コイニングをおこなって希土類磁石前駆体が製造される。このように、成形体の加熱とコイニングを総じて熱間コイニングと規定している。
【0019】
第1のステップから第2のステップに亘り、チャンバー内は真空雰囲気もしくは不活性ガス雰囲気とされる。このチャンバーはグローブボックス付きのチャンバーであってもよいし、ロボットハンド付きのチャンバーであってもよい。
【0020】
ここで、本発明の製造方法に適用される製造装置の実施の形態として、その成形機を構成する前記ダイは、断面積が相対的に大きな第1の中空と相対的に小さな第2の中空が連通する中空を有し、第1の中空内でダイと摺動して第1のパンチが移動自在となり、第2の中空内でダイと摺動して第2のパンチが移動自在となっている製造装置を適用することができる。
【0021】
このような形態の製造装置を使用し、前記第1のステップでは、第2の中空内で冷間成形がおこなわれて成形体が製造され、前記第2のステップでは、第1の中空を介して成形体が成形機の外部に移動された後、加熱され、第1の中空内で熱間コイニングがおこなわれて希土類磁石前駆体を製造することができる。
【0022】
ダイが変断面の中空を有することで、第2のステップにおける熱間コイニングにおいて加熱後の成形体を効果的にプレス加工することができ、その緻密化を図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から理解できるように、本発明の希土類磁石の製造方法によれば、一つの製造装置にて冷間成形による成形体の製造から熱間コイニングによる希土類磁石前駆体の製造までを連続的におこなうことができるため、成形体や希土類磁石前駆体の大気暴露を完全に解消することができ、希土類磁石の製造効率を格段に向上させることができ、製造装置のコンパクト化と装置スペースの狭小化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の希土類磁石の製造方法で適用される製造装置の実施の形態1の模式図である。
【図2】(a)、(b)の順に、製造装置の実施の形態1を使用した場合の本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態1の第1のステップを説明した模式図である。
【図3】図2に続いて、(a)、(b)の順に製造方法の第2のステップを説明した模式図である。
【図4】図3に続いて、(a)、(b)の順に製造方法の第2のステップを説明した模式図である。
【図5】製造装置の実施の形態2の模式図である。
【図6】(a)、(b)の順に、製造装置の実施の形態2を使用した場合の本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態2の第1のステップを説明した模式図である。
【図7】図6に続いて、(a)、(b)の順に製造方法の第2のステップを説明した模式図である。
【図8】図7に続いて、(a)、(b)の順に製造方法の第2のステップを説明した模式図である。
【図9】製造装置の実施の形態3の模式図である。
【図10】(a)、(b)の順に、製造装置の実施の形態3を使用した場合の本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態3の第1のステップを説明した模式図である。
【図11】図10に続いて、(a)、(b)の順に製造方法の第2のステップを説明した模式図である。
【図12】図11に続いて、(a)、(b)の順に製造方法の第2のステップを説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態と、この製造方法で適用する製造装置の実施の形態を説明する。
【0026】
(希土類磁石の製造装置の実施の形態1)
図1は本発明の希土類磁石の製造方法で適用される製造装置の実施の形態1の模式図である。同図で示す製造装置10は、チャンバー1と、このチャンバー1内に収容されるダイ4と第1、第2のパンチ2,3と、第1、第2のパンチ2,3およびダイ4をそれぞれ移動させる第1の主駆動部5、第2の主駆動部6、副駆動部7と、から大略構成されている。なお、ダイ4と第1、第2のパンチ2,3とから成形機が構成される。
【0027】
チャンバー1内には、アルゴンガス等の不活性ガスを提供する不図示の不活性ガス提供部とチャンバー内を真空引きする不図示の吸引部が設けてあり、成形体の製造から希土類磁石前駆体の製造に際し、吸引部と不活性ガス提供部をともに作動させてチャンバー1内を所望の不活性ガス雰囲気に形成できるようになっている。
【0028】
ダイ4は変断面の中空を有し、断面積が相対的に大きな第1の中空4aと、相対的に小さな第2の中空4bが連通して中空の全体(キャビティC)が構成される。そして、第1の中空4a内において該中空4aと同断面の第1のパンチ2が配され、第1の主駆動部5が作動することで第1のパンチ2が第1の中空4a内を摺動するようになっており(X1方向)、第2の中空4b内において該中空4bと同断面の第2のパンチ3が配され、第2の主駆動部6が作動することで第2のパンチ3が第2の中空4b内を摺動する(X2方向)ようになっている。
【0029】
さらに、ダイ4には副駆動部7が取り付けられており、副駆動部7が作動することによって第1、第2のパンチ2,3に対してダイ4が相対的に移動できる(X3方向)ようになっている。
【0030】
第1、第2の主駆動部5,6および副駆動部7はともに油圧シリンダ、もしくはエアシリンダから構成されており、副駆動部7はリング状の立体形状を成し、その内側に第1の主駆動部5が配設されている。また、第1、第2の主駆動部5,6および副駆動部7の駆動方向は、相互に平行となるように各シリンダの駆動軸が規定されている。
【0031】
なお、図示するチャンバー1はグローブボックス付きのチャンバーであるのが好ましく、冷間成形による成形体の製造から熱間コイニングによる希土類磁石前駆体の製造、さらに希土類磁石前駆体の取り出しまでの全ての工程の全自動化を図る場合には、チャンバー1の内外にロボットハンドが取り付けられた形態を適用することができる。
【0032】
また、第1、第2の主駆動部5,6および副駆動部7の駆動制御(いずれか一方もしくは2つ以上の駆動部の駆動のタイミング、駆動速度など)は、不図示の制御部、中央演算処理装置(CPU)、ROM,RAMやこれらを繋ぐバスなどが内蔵されたコンピュータで実行されるようになっている。
【0033】
図示する製造装置10は、ダイ4と第1、第2のパンチ2,3で形成されたキャビティC内で希土類磁石用の成形体、次いで希土類磁石前駆体を製造する際に主として用いられるものであるが、それ以外の製品製造に供されることを何等排除するものではない。
【0034】
次に、図示する製造装置10を使用して希土類磁石を製造する方法、より具体的には、希土類磁石となる成形体、ついで希土類磁石前駆体を製造する方法を以下で説明する。
【0035】
(希土類磁石の製造方法の実施の形態1)
図2a、bはその順に、本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態1の第1のステップを説明した模式図であり、図3a,b、図4a,bはその順に、製造方法の第2のステップを説明した模式図である。
【0036】
チャンバー1内を不活性ガス雰囲気とした状態で、図2aで示すように、まず、キャビティC内に希土類磁石用の粉末pを充填する。
【0037】
ここで、この粉末pは、たとえば50kPa以下に減圧したArガス雰囲気の不図示の炉中で、単ロールによるメルトスピニング法により、合金インゴットを高周波溶解し、希土類磁石を与える組成の溶湯を銅ロールに噴射して急冷薄帯(急冷リボン)を製作し、これを粗粉砕して製造されたものである。
【0038】
キャビティC内に粉末pが充填されたら、第2の主駆動部6を作動させて第2のパンチ3が第1のパンチ2に近接するように摺動させ(X2方向)、充填粉末pを成形して、図2bで示すように第2の中空4b内に成形体S1を形成する(製造方法の第1のステップ)。
【0039】
この成形体S1は、Nd-Fe-B系の主相(50nm〜200nm程度の結晶粒径)と、主相の周りにあるNd-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる成形体である。ここで、粒界相を構成するNd-X合金は、Ndと、Co、Fe、Ga等のうちの少なくとも1種以上の合金からなり、たとえば、Nd-Co、Nd-Fe、Nd-Ga、Nd-Co-Fe、Nd-Co-Fe-Gaのうちのいずれか一種、もしくはこれらの二種以上が混在したものであって、Ndリッチな状態となっている。
【0040】
また、成形体S1は、結晶粒(主相)間を粒界相が充満する等方性の結晶組織を呈している。
【0041】
次に、この成形体S1の組織の緻密化を図るべく、これに熱間コイニングを施して希土類磁石前駆体を製造する。
【0042】
この希土類磁石前駆体の製造に際し、キャビティC内における成形体S1の移動をおこなう。
【0043】
図3a,bはその順に、成形体S1の移動態様を模擬したものである。この成形体S1のキャビティCからキャビティ外への移動は、第1、第2のパンチ2,3による成形体S1の把持姿勢を維持しながら、これらに対してダイ4を相対的に移動させることによってキャビティCからキャビティ外への成形体S1の移動をおこなう。
【0044】
すなわち、図3aで示すように、副駆動部7を作動させてダイ4を第2のパンチ3側に移動させる(X3方向)。
【0045】
そして、図3bで示すようにさらにダイ4を移動させることにより、第2の中空4b内で製造された成形体S1を第1の中空4aの外部に移動させ、ここで位置決めする。
【0046】
同図で示すように、第1の中空4aの外部における成形体S1の周囲には誘導加熱コイル8が予め、もしくは成形体S1の移動後に配設され、第1、第2のパンチ2,3によって把持された姿勢で成形体S1の加熱がおこなわれる。
【0047】
成形体S1が所望温度でかつ所望時間加熱されたら、図4aで示すように、副駆動部7を作動させてダイ4を第1のパンチ2側に移動させ(X4方向)、最終的には第2のパンチ3の端面3aが第1の中空4aの端面4a1(断面変化位置)と面一となる位置までダイ4を移動させることにより、第1、第2のパンチ2,3によって把持された姿勢の加熱後の成形体S1を第1の中空4aの内部に収容する。
【0048】
次に、図4bで示すように、第1の中空4a内で第1のパンチ2を摺動させて(X1方向)加熱後の成形体S1を押し込み、熱間コイニングをおこなうことにより、組織の緻密化の図られた希土類磁石前駆体S2が製造される(製造方法の第2のステップ)。
【0049】
製造された希土類磁石前駆体S2に対し、保磁力性能の高い重希土類元素であるDy、Tb等やこれらと遷移金属の合金等を拡散浸透することにより、希土類磁石が製造される。
【0050】
図示する希土類磁石の製造方法によれば、冷間成形による成形体S1の製造から熱間コイニングによる希土類磁石前駆体S2の製造までを一つの製造装置10にて連続的に製造することができ、このことによって、成形体や希土類磁石前駆体の大気暴露を解消でき、大気暴露された際の酸化による磁気性能低下を解消することができる。さらに、一つの製造装置で希土類磁石を製造できることから、装置のコンパクト化と装置スペースの狭小化を図ることができ、製造効率を格段に向上させることもできる。
【0051】
(希土類磁石の製造装置2および希土類磁石の製造方法の実施の形態2)
図5は本発明の希土類磁石の製造方法で適用される製造装置の実施の形態2の模式図であり、図6a、bはその順に、本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態2の第1のステップを説明した模式図であり、図7a,b、図8a,bはその順に、製造方法の第2のステップを説明した模式図である。図示する製造装置10Aと製造装置10との構成上の相違点は、第1のパンチが、外側の筒状のパンチ2Bとその内側にあるパンチ2Aからなる2重構造となっており、それぞれのパンチ2A,2Bに固有の第1の主駆動部5A,5Bを有していること、筒状のパンチ2Bがダイ4の第1の中空4aに嵌まり込んだ際に、ダイ4の第2の中空4bとパンチ2Bの内面が面一となるように構成されていること、である。
【0052】
図6aで示すように、筒状の第1のパンチ2Bをダイ4の第1の中空4aに嵌め込んだ姿勢でキャビティC内に希土類磁石用の粉末pを充填し、第1の主駆動部5Aを作動させて第1のパンチ2Aを摺動させ(X1方向)、充填粉末pを加圧する。図6bで示すように内側の第1のパンチ2Aの端面を筒状の第1のパンチ2Bの端面に面一となるまで押し込み、冷間成形にて第2の中空4b内に成形体S1を形成する(製造方法の第1のステップ)。
【0053】
次いで、図7aで示すように、第2の主駆動部6、第1の主駆動部5A,5Bを同期して作動させ、第2のパンチ3と第1のパンチ2A,2Bを同期して摺動させ(X2方向、X1方向、X1’方向)、図7bで示すようにさらに第2のパンチ3と第1のパンチ2A,2Bを同期移動させることにより、第2の中空4b内で製造された成形体S1を第1の中空4aの外部に移動させ、ここで位置決めする。
【0054】
同図で示すように、第1の中空4aの外部における成形体S1の周囲に誘導加熱コイル8を配設し、第1、第2のパンチ2A,3によって把持された姿勢で成形体S1の加熱をおこなう。
【0055】
成形体S1が所望温度でかつ所望時間加熱されたら、図8aで示すように、第2の主駆動部6、第1の主駆動部5A,5Bを同期して作動させ、第2のパンチ3と第1のパンチ2A,2Bを同期して図7aとは逆方向に摺動させ(X2方向、X1方向、X1’方向)、最終的には第2のパンチ3の端面3aが第1の中空4aの端面4a1(断面変化位置)と面一となる位置まで移動させることにより、第1、第2のパンチ2A,3によって把持された姿勢の加熱後の成形体S1を第1の中空4aの内部に収容する。
【0056】
次に、図8bで示すように、第1の中空4a内で第1のパンチ2A,2Bを同期して摺動させて(X1方向、X1’方向)加熱後の成形体S1を押し込み、熱間コイニングをおこなうことにより、組織の緻密化の図られた希土類磁石前駆体S2が製造される(製造方法の第2のステップ)。
【0057】
なお、図示例では、ダイ4を不動とし、第1、第2のパンチ2A,2B,3を摺動させる制御形態を示しているが、たとえば図7a、図7bおよび図8aの際に、ダイ4のみを摺動させる制御形態であってもよい。
【0058】
(希土類磁石の製造装置3および希土類磁石の製造方法の実施の形態3)
図9は本発明の希土類磁石の製造方法で適用される製造装置の実施の形態3の模式図であり、図10a、bはその順に、本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態3の第1のステップを説明した模式図であり、図11a,b、図12a,bはその順に、製造方法の第2のステップを説明した模式図である。図示する製造装置10Bと製造装置10との構成上の相違点は、ダイ4Aが変断面でない中空4cを有し、かつ、ダイ4Aの上方開口のエッジ端がテーパー状に切り欠かれたテーパー面4Aaを有している点である。
【0059】
図10aで示すように、キャビティC内に希土類磁石用の粉末pを充填し、第1の主駆動部5を作動させて第1のパンチ2を第2のパンチ3側へ摺動させ(X1方向)、充填粉末pを加圧し、図10bで示すように、冷間成形にてキャビティC内で成形体S1を形成する(製造方法の第1のステップ)。
【0060】
次いで、図11aで示すように、副駆動部7を作動させてダイ4Aを第2のパンチ3から遠ざかる方向へ移動させ(X3方向)、図11bで示すように、成形体S1をキャビティCの外部に移動させ、ここで位置決めする。
【0061】
同図で示すように、キャビティCの外部における成形体S1の周囲に誘導加熱コイル8を配設し、第1、第2のパンチ2,3によって把持された姿勢で成形体S1の加熱をおこなう。
【0062】
成形体S1が所望温度でかつ所望時間加熱されたら、図12aで示すように、副駆動部7を作動させてダイ4Aを第2のパンチ3側に移動させ(X3方向)、成形体S1を押し込んで熱間コイニングをおこなうことにより、図12bで示すように組織の緻密化の図られた希土類磁石前駆体S2が製造される。
【0063】
ここで、成形体S1は加熱によって熱膨張するが、図11bから図12aに移行する過程、すなわち、キャビティC外部にある熱膨張した成形体S1がキャビティC内に戻される際に、ダイ4Aの上方開口のエッジ端がテーパー面4Aaを有していることにより、熱膨張した成形体S1のキャビティC内へのスムーズな挿入が案内され、この開口エッジで熱膨張した成形体S1が破損するのが効果的に解消される。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0065】
1…チャンバー、2,2A,2B…第1のパンチ、3…第2のパンチ、4,4A…ダイ、4a…第1の中空、4b…第2の中空、4c…中空、5,5A,5B…第1の主駆動部、6…第2の主駆動部、7…副駆動部、8…加熱手段(誘導加熱コイル)、10,10A,10B…製造装置、p…粉末、S1…成形体、S2…希土類磁石前駆体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイと、ダイの中空内で移動自在な第1、第2のパンチと、からなる成形機と、該成形機を収容してその内部が真空雰囲気もしくは不活性ガス雰囲気に制御されるチャンバーと、から構成される製造装置を使用して希土類磁石を製造する製造方法であって、
チャンバー内を真空雰囲気もしくは不活性ガス雰囲気とした状態で、キャビティ内に希土類磁石材料となる粉末を充填し、第1、第2のパンチを相互に近接させて充填された粉末を加圧し、冷間成形にて成形体を製造する第1のステップ、
第1、第2のパンチで成形体を保持したまま、ダイに対して第1、第2のパンチを相対的に移動させて成形体をダイの外部に移動させて成形体を加熱し、第1、第2のパンチで保持された成形体をダイの中空内に戻し、第1、第2のパンチを相互に近接させて成形体に熱間コイニングをおこなって希土類磁石前駆体を製造する第2のステップからなる希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
前記ダイは、断面積が相対的に大きな第1の中空と相対的に小さな第2の中空が連通する中空を有し、第1の中空内でダイと摺動して第1のパンチが移動自在となり、第2の中空内でダイと摺動して第2のパンチが移動自在となっており、
前記第1のステップでは、第2の中空内で冷間成形がおこなわれて成形体が製造され、
前記第2のステップでは、第1の中空を介して成形体が成形機の外部に移動された後、加熱され、第1の中空内で熱間コイニングがおこなわれて希土類磁石前駆体を製造する請求項1に記載の希土類磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−98486(P2013−98486A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242459(P2011−242459)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】