説明

帯電防止コーティング用組成物、これを塗布してなる帯電防止フィルムおよびその製造方法

【課題】 乾燥して塗膜を形成する工程では有機物起因の気化ガス発生をほとんど伴うことがなく、透明性、導電性および耐溶剤性に優れた塗膜を形成できる水系の帯電防止コーティング用組成物、および、これを塗布してなる帯電防止ポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】 (a)下記一般式で表される繰り返し単位からなるポリカチオン状のポリチオフェンと、ポリアニオンとからなる導電性高分子100重量部に対し、
【化1】


(式中、RおよびRは相互に独立して水素または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよい炭素数1〜12のアルキレン基を表す)
(b)平均分子量が600以上のポリエチレングリコールを10〜1000重量部を含有する水系の帯電防止コーティング用組成物からなる塗膜を、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に形成して、表面抵抗率が10〜1×1012Ω/□の特性を有する帯電防止フィルムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材への密着性、透明性、導電性、耐溶剤性に優れた塗膜を形成する、水系で一液の帯電防止コーティング用組成物、並びに、それを塗布してなる帯電防止フィルムおよびその製造方法に関するものである。特に、基材フィルムに塗布することにより、電子材料包装用のキャリアテープ、カバーテープ、およびトレイ、ならびにワープロ、コンピュータ、テレビなどの各種ディスプレイ、または偏光板などの光学部品の表面保護フィルムなどとして有用な帯電防止フィルムが得られる帯電防止コーティング用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは軽くて成型しやすく、しかも腐蝕し難いなどの利点があるために各種産業分野において数多く使用されている。しかしながら、プラスチックは帯電しやすいために用途が制限されているのも事実である。そこで、帯電防止のために、界面活性剤、カーボンブラック、無機酸化物フィラー、金属粉、あるいはπ共役系の導電性ポリマーなどをプラスチックに練り込むか、これらの物質を用いてプラスチックの表面を加工するなどの方法が試みられている。
【0003】
例えば帯電防止のために用いられるπ共役系の導電性ポリマーとしては、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどが提案されている。しかし、これらのほとんどが塗膜形成に使用する溶媒に溶解しにくいため、容易には均一な塗膜を形成できないのが実情である。そこで、これらのポリマーを化学修飾して溶解度を向上させる方法(特許文献1)、微粒子の分散液とする方法(特許文献2)など、均一な塗膜を形成する工夫が種々なされている。なかでも、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとからなる導電性ポリマーは、3,4−ジアルコキシチオフェンをポリ陰イオン存在下で、酸化重合することによって得られるものである(特許文献2)が、高い導電性、高い化学的安定性および成膜した際の塗膜が高い透明性を有していることから注目されている。
【0004】
かかる3,4−ジアルコキシチオフェンをポリ陰イオン存在下で、酸化重合することによって得られる導電性ポリマーを含むコーティング液を、ポリエステルフィルム基材に塗布する方法が種々提案されている(特許文献3〜11)。しかしながら、これらの方法では、高いレベルの帯電防止性を発現するためには、ポリチオフェン系導電剤を多量に添加する必要があり、塗膜の透明性が著しく劣り、また該高分子導電体が青色を呈するので、製品外観上好ましくなく、用途が限定されるといった問題がある。
【0005】
一方導電性を向上させる手法として、ジエチレングリコールを上記導電性ポリマーを含むコーティング液に添加して導電性能を飛躍的に向上させる方法(非特許文献1)や、分子内にアミド結合または水酸基を有する室温では液体の水溶性化合物を添加することにより導電性能を向上させる方法(特許文献12)が提案されている。しかしながら、ジエチレングリコールは、コーティング液を乾燥して帯電防止膜を形成させる工程で蒸発するため、気化したジエチレングリコールを廃棄処理するためには大掛かりな設備が必要となり、経済性の点で問題がある。また、分子内にアミド結合または水酸基を有する室温では液体の水溶性化合物として具体的にあげられているものは、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、グリセロール、1,3−ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどであり、これらはジエチレングリコール同様に乾燥工程にて蒸発するため、気化したこれらの化合物の処理設備が必要となる。なお、一般に室温で液体の水溶性化合物は気化しやすいため同様の問題がある。
【0006】
このように、コーティング液が一液であり、乾燥するだけで成膜でき、生じる塗膜は基材、特にプラスチック基材に対して密着性に優れ、透明性、導電性、耐溶剤性にも優れ、さらにはコーティング液を乾燥し帯電防止膜を形成させる工程で蒸発、気化したガスに有機溶媒成分がほとんど含まれない帯電防止コーティング用組成物が望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−292081号公報
【特許文献2】特開平1−313521号公報
【特許文献3】特開平6−295016号公報
【特許文献4】特開平9−31222号公報
【特許文献5】特開平9−131843号公報
【特許文献6】特開平10−88030号公報
【特許文献7】特開2000−52495号公報
【特許文献8】特開2003−154594号公報
【特許文献9】特開2003−154616号公報
【特許文献10】特開2004−58648号公報
【特許文献11】特開2003−286336号公報
【特許文献12】特開2002−60736号公報
【非特許文献1】Journal of Polymer Sceience Part B:Polymer Physics,Vol.41,2561-2583(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記背景技術を鑑みなされたもので、その目的とするところは、乾燥して塗膜を形成する工程では有機物起因の気化ガス発生をほとんど伴うことがなく、透明性、導電性、耐溶剤性に優れた塗膜を得ることができる、一液で水系の帯電防止コーティング用組成物、ならびに、これを塗布してなる帯電防止ポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成するために種々鋭意検討した結果、ポリカチオン状のポリチオフェンとポリアニオンとからなる導電性高分子とポリエチレングリコールとを組合わせれば、基材、特にプラスチック基材に対する密着性に優れ、透明性、導電性および耐溶剤性にも優れた塗膜を形成することができ、しかも乾燥工程で有機物起因の気化ガスがほとんど発生しない、水系で一液の帯電防止コーティング用組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
かくして本発明によれば、「(a)下記一般式
【化1】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよい炭素数1〜12のアルキレン基を表す)
で表される繰り返し単位からなるポリカチオン状のポリチオフェンとポリアニオンとからなる導電性高分子100重量部に対し、(b)平均分子量が600以上のポリエチレングリコールを10〜1000重量部含有することを特徴とする水系の帯電防止コーティング用組成物。」、
「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、上記の帯電防止コーティング用組成物からなる塗膜を形成してなる帯電防止フィルムであって、その表面抵抗率が10〜1012Ω/□であることを特徴とする帯電防止フィルム。」、および、
「ポリエステルフィルムの製膜中に、その少なくとも片面に上記の帯電防止コーティング用組成物を塗布し、乾燥熱処理することを特徴とする、表面固有抵抗率が10〜1012Ω/□である帯電防止フィルムの製造方法。」が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の帯電防止コーティング用組成物からなる塗膜は、帯電防止性、透明性に優れ、塗膜と基材との密着性も良好である。しかも、該コーティング液を塗布して帯電防止膜を形成させる工程では、有機物起因の気化ガスがほとんど発生しないので、気化した有機物成分を処理する設備が不要である。
【0012】
また、本発明の帯電防止フィルムは、電子材料包装用のキャリアテープ、カバーテープ、およびトレイ、ならびにワープロ、コンピュータ、テレビなどの各種ディスプレイ、または偏光板などの光学部品の表面保護フィルムなどとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の帯電防止コーティング用組成物に含有される導電性高分子は、下記一般式
【化2】

で表される繰返し単位からなるからなるポリカチオン状のポリチオフェン(以下、“ポリ(3,4−ジ置換チオフェン)”と称することがある)と、ポリアニオンとから構成される複合化合物である。上記式中、RおよびRは相互に独立して水素または炭素数が1〜4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよい炭素数が1〜12のアルキレン基を表す。RおよびRが一緒になって形成される、置換基を有してもよい炭素数が1〜12のアルキレン基の代表例としては、1,2−アルキレン基(例えば、1,2−シクロヘキシレン、2,3−ブチレンなど)があげられる。この1,2−アルキレン基は、α−オレフィン類(例えば、エテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセンおよびスチレン)を臭素化して得られる1,2−ジブロモアルカン類から誘導される。RおよびRが一緒になって形成される炭素数が1〜12のアルキレン基の好適な置換基は、メチレン、1,2−エチレンおよび1,3−プロピレン基であり、1,2−エチレン基が特に好適である。
【0014】
一方導電性高分子を構成するポリアニオンとしては、高分子状カルボン酸類(例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸など)、高分子状スルホン酸(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸など)などがあげられる。これらの高分子状カルボン酸およびスルホン酸類はまた、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えばアクリレート類およびスチレンなどとの共重合体であってもよい。これらのポリアニオンのなかで、ポリスチレンスルホン酸およびその全べてもしくは一部が金属塩であるものが特に好適である。なお、かかるポリアニオンの数平均分子量は、1,000〜2,000,000の範囲が適当であり、特に2,000〜500,000の範囲が好ましい。
【0015】
次に本発明の帯電防止コーティング用組成物には、導電性能を向上させるという観点から重量平均分子量が600以上、好ましくは600〜6000のポリエチレングリコールを含有させる必要がある。ここでポリエチレングリコールの重量平均分子量が600未満の場合には、塗布後の乾燥工程等で該低分子量ポリエチレングリコールの一部が水と共に蒸発、気化し有機成分ガスを発生するので好ましくない。なお、該分子量が6000を超えると、乾燥時の有機成分ガスの発生はないものの、導電性能を向上させる効果が減少して塗布量を多くしなければならないため、透明性が低下しやすい。
【0016】
このポリエチレングリコールは、前記導電性高分子100重量部に対して、10〜1000重量部の範囲、好ましくは30〜500重量部の範囲、さらに好ましくは50〜300重量部の範囲含有されている必要がある。この含有量が10重量部未満の場合には、導電性能の向上効果が不十分となるので好ましくない。一方、1000重量部を超える場合には、塗膜のヘイズ値が増大して透明性が低下する、塗膜自体の強度が低下して簡単に剥離が生じ、フィルムをロール状に巻き取る際に塗膜が接触した裏面に簡単に転写してしまうなどの不具合が生じるので好ましくない。なお、ここでいう「導電性高分子100重量部に対して」とは、「導電性高分子の固形分100重量部に対して」という意味である。
【0017】
本発明においては、塗布後における乾燥設備の許す範囲内であれば、分子内にアミド結合あるいは水酸基を有する室温では液体の水溶性化合物を添加してもよく、これらの水溶性化合物と本発明にかかるポリエチレングリコールとは、得られる塗膜の導電性能を向上(表面抵抗値の低下)させる効果を互いに妨げることはない。
【0018】
また、本発明の帯電防止コーティング組成物には、得られる塗膜の強度を向上させる目的で、さらにアルコキシシランまたはアシロキシシランを添加してもよい。これらのシラン化合物は、加水分解され、その後の縮合反応された反応生成物の形態で塗膜中に存在する。これらのシラン化合物としては、例えばメチルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、トリメチルアセトキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトライソブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのアルコキシ基以外の反応性官能基を有するトリアルコキシシランがあげられ、特にエポキシ基を有する3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが好ましい。
【0019】
このようなエポキシ基を有するアルコキシシラン化合物の添加量は、導電性高分子100重量部に対して、20〜500重量部の範囲が好ましい。該添加量が20重量部より少ない場合には塗膜強度の改善効果が小さくなり、一方500重量部を超える場合には表面抵抗率が増大する傾向にある。
【0020】
さらに、本発明の帯電防止コーティング用組成物には、基材フィルムに対する濡れ性を向上させる目的で、少量の界面活性剤を加えてもよい。好ましい界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルなど)、およびフッ素系界面活性剤(例えばフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、パーフルオロアルキル4級アンモニウム塩、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなど)があげられる。
【0021】
また、塗布後における乾燥設備の許す範囲内であれば、界面活性剤と同様に基材フィルムへの濡れ性を改善する目的で、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、n−プロピルアルコール、イソブタノール、エチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ならびにこれらの混合溶媒など、水と相溶性のある適当な溶媒を添加することができる。
【0022】
また、本発明の効果が損なわれない範囲内で、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等のバインダー成分、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などを配合してもよい。
【0023】
本発明の上記帯電防止コーティング用組成物は、水に溶解または分散させて水性塗液として用いられるが、その固形分濃度は、通常0.1〜15重量%の範囲とするのが好ましく、特に0.3〜10重量%の範囲が好ましい。この割合が0.1重量%未満であると、基材フィルムへの帯電防止コーティング用組成物塗布量が著しく多くなり、乾燥工程に設備への負担が大きく経済的でない、あるいは乾燥不十分となり膜の強度が不足することがある。一方15重量%を超えると塗液の塗布設備にて乾燥固化しスケールが発生しやすく、塗布膜の欠点が生じやすいという問題が発生することがある。
【0024】
次に、上記の帯電防止コーティング用組成物をコーティングする基材としては、プラスチックのシート、フィルム、不織布等、用途に応じて任意のものを用いることができる。ここでプラスチックとしては、例えばポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、並びにこれらの混合物および共重合体、さらにはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂などをあげることができる。これらの中でも、二軸配向したポリエステルフィルムが、寸法安定性、機械的性質、耐熱性、電気的性質などに優れた性質を有することより好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムが、高ヤング率である等の機械的特性に優れ、耐熱寸法安定性がよい等の熱的特性にも優れているため好ましい。なおポリエステルフィルムの厚みは500μm以下が好ましく、これを超える場合には剛性が強くなりすぎ、得られた帯電防止フィルムをディスプレイなどに貼付ける際に取扱い性が低下しやすい。
【0025】
塗液の塗布方法としては、例えばリップダイレクト法、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、バーコーター法など、従来公知の方法を採用することができるが、基材フィルムがポリエステルフィルムの場合には、製膜工程中、特に未延伸フィルムをタテ延伸した後に塗液を塗布し、次いで乾燥・ヨコ延伸した後に熱処理する、インラインコーティング法を採用するのが好ましい。
【0026】
かかるインラインコーティング法によれば、オフライン加工に比べ、例えば、基材フィルムとの接着性が向上する、熱処理時にクリップでフィルムの両端を把持しているために得られるフィルムにシワが入らず平面性が保持できるといった効果が発揮される。なお、インラインコーティング法での熱処理は、200℃以上で行うことが好ましい。また、塗液を塗布する際には、必要に応じて、さらに密着性・塗工性を向上させるための予備処理として、フィルム表面にコロナ放電処理、プラズマ放電処理などの物理的表面処理を施しても構わない。
【0027】
なお、塗膜の厚みは5〜300nmの範囲、特に10〜200nmの範囲であることが好ましい。該塗膜の厚さが薄すぎると十分な帯電防止機能が得られないことがあり、逆に厚すぎると、光の透過率が不足したりブロッキングを起こしたりすることがある。
【0028】
また、上述の方法により製造される本発明の帯電防止性フイルムは、その表面抵抗率が10〜1×1012Ω/□の範囲、特に10〜1×10Ω/□の範囲であることが必要である。該表面低効率が10Ω/□未満の場合には、帯電防止コーティング組成物の塗布量を多くする必要があり透明性が低下するので好ましくない。逆に1012Ω/□を超える場合には、帯電防止機能が不十分となる。なお、より安定した帯電防止機能が必要な分野への展開を考慮すると1×10Ω/□以下とするのが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における各評価は下記の方法にしたがった。
【0030】
(1)表面抵抗率
JIS K6911にしたがい、三菱化学(株)製ハイレスターUP(MCP−HT450)を用いて測定した。測定は任意の箇所を5回測定し、それらの平均値とした。
【0031】
(2)ヘイズ
JIS K7150にしたがい、スガ試験機(株)製のヘイズメーターHCM−2Bにて測定した。
【0032】
(3)塗膜強度
塗膜を親指にて同一場所を3回こすり、塗膜の状態を目視で以下のとおり判定した。なお、(◎)および(○)を耐削れ性良好とした。
(◎): 塗膜上にこすりはがれかけた跡が全く観察されない。
(○): 塗膜上にこすりはがれかけた白い跡がわずかに観察される。
(△): 塗膜上にこすりはがれかけた白い跡が若干観察される。
(×): 塗膜上にこすりはがれた跡がはっきり観察される。
【0033】
(4)耐溶剤性
エタノール、酢酸エチル、メチルエチルケトンとをそれぞれしみ込ませたガーゼを、手拭にて5回拭いた後、塗膜の状態を目視にて評価した。判定は以下の規準で行った。
なお、(◎)、(○)を耐溶剤性良好とした。
(◎): 塗膜が全く取られていない。
(○): 塗膜がわずかに取られている。
(△): 塗膜が半分程度取られている。
(×): 塗膜がほとんど取れている。
【0034】
(5)帯電防止塗膜の厚み
帯電防止フィルムをミクロトームULTRACUT−Sでフィルム表面に対し垂直に超薄膜切片を切り出し、この超薄膜切片を透過型電子顕微鏡LEM−2000で加速電圧100kVで観察・撮影し層厚を測定した。
【0035】
(6)乾燥工程にて発生する気化ガス中の有機成分
熱固定工程でのフイルム雰囲気下のガスを1リットル採取し、室温下にてガスクロマトグラフィーにてジエチレングリコールが、また、ゲルパーミェイションクロマトグラフィーにてポリエチレングリコールが、含有していないか確認した。判定は以下の基準にて行った。
(○): ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール共に検知されない。
(×): ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール共に検知される。
【0036】
本実施例においては、以下の材料を使用した。
導電性高分子:
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)0.5重量%とポリスチレンスルホン酸(分子量Mn=150,000)0.8重量%を含んでなるポリマーの水分散体(BaytronP:バイエルAG製)を使用した。
ポリエチレングリコール:
分子量1000のポリエチレングリコールは、三洋化成工業製 PEG−1000を、分子量600のポリエチレングリコールは、 三洋化成工業製 PEG−600を、分子量400のポリエチレングリコールは、三洋化成工業製 PEG−400を、分子量8300のポリエチレングリコールは、三洋化成工業製 PEG−6000Pを使用した。
エポキシ基を有するアルコキシシラン化合物:
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いた。
界面活性剤:
プラスコートRY−2(互応化学工業製)または、ライオノール L−950(ライオン製)を用いた。
その他の添加剤:
ジエチレングリコールは、和光純薬製の特級試薬を、ポリエステル系バインダー樹脂としてプラスコート Z−465(互応化学工業製)使用した。
【0037】
[実施例1〜5および比較例1〜7]
平均粒径2.5μmの多孔質シリカを0.04重量%含有する固有粘度0.63のポリエチレンテレフタレートを溶融して冷却ドラム上にキャストして未延伸フイルムとし、この未延伸フイルムを92℃に加熱し縦方向に3.5倍延伸して一軸延伸フイルムとした。次いでこの一軸延伸フイルムの片面に、表1に記載の組成の帯電防止コーティング組成物をグラビアコーターで塗布した。次いで、104℃で乾燥後、108℃で横方向に4.0倍延伸し、さらに220℃で熱固定処理して総厚さ38μmの帯電防止フィルムを得た。得られたフイルムの特性を表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表2から明らかなように、本発明のコーティング用組成物を用いた場合には、生成される帯電防止塗膜の透明性、導電性および耐溶剤性が良好であり、また、乾燥し帯電防止膜を形成する工程にて有機物起因の気化ガスをほとんど発生しない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上に説明した本発明の帯電防止コーティング用組成物によれば、透明性、導電性および耐溶剤性に優れた帯電防止塗膜を形成することができ、該塗膜を形成した帯電防止フィルムは、電子材料包装用のキャリアテープ、カバーテープ、およびトレイ、ならびにワープロ、コンピュータ、テレビなどの各種ディスプレイ、または偏光板などの光学部品の表面保護フィルムなどとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式
【化1】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよい炭素数1〜12のアルキレン基を表す)
で表される繰り返し単位からなるポリカチオン状のポリチオフェンとポリアニオンとからなる導電性高分子100重量部に対し、(b)平均分子量が600以上のポリエチレングリコールを10〜1000重量部含有することを特徴とする水系の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項2】
ポリエチレングリコールの平均分子量が600〜6000である請求項1記載の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項3】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、請求項1または2に記載の帯電防止コーティング用組成物からなる塗膜を形成してなる帯電防止フィルムであって、その表面抵抗率が10〜1012Ω/□であることを特徴とする帯電防止フィルム。
【請求項4】
表面抵抗率が10〜10Ω/□である請求項3記載の帯電防止フィルム。
【請求項5】
ポリエステルフィルムの製膜中に、その少なくとも片面に、請求項1または2に記載の帯電防止コーティング用組成物を塗布し、乾燥熱処理することを特徴とする請求項3記載の帯電防止フィルムの製造方法。
【請求項6】
ポリエステルの未延伸フィルムをタテ延伸し、次いで帯電防止コーティング組成物を塗布し、乾燥・ヨコ延伸する請求項5に記載の帯電防止フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2006−282941(P2006−282941A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107692(P2005−107692)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】