説明

帯電防止コーティング組成物及びそれを硬化させた被膜

【課題】 ハードコートベースとの相溶性が高い帯電防止性コーティング組成物、及び、帯電防止性、透明性、耐擦傷性に優れ、硬くて、プラスチック基材との密着性に優れ、更に耐水性に優れた帯電防止被膜を提供する。
【解決手段】 帯電防止コーティング組成物は、エチレン基を複数含有したモノマーとエチレン基を複数含有したプレポリマーとから選ばれる少なくとも一方を含有するハードコートベース100重量部、イオン対の極性構造の繰返し単位を有するマクロモノマーとフルオロカーボン基を含有する単量体の繰り返し単位を含有するマクロモノマーとの共重合化合物からなる極性高分子化合物の0.5〜50重量部、およびフルオロカーボン基を含有する非極性高分子化合物を最大でも10重量部が含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材にコーティングを施して帯電防止性を付与する組成物、及びそれを硬化させた被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック基材は、家電製品の部品、自動車部品、光学部材、有機板ガラス等の原材として汎用されている。プラスチック基材は、傷つき易く、帯電し易い。そのため、特許文献1、2に開示されているように、帯電防止剤や導電性フィラーの金属微粒子が含有されたコーティング層で、被覆される。
【0003】
しかし、コーティング層が、帯電防止剤としてカチオン系、アニオン系、ノニオン系の界面活性剤、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などを多量に含有していると、それのブリードを惹き起こしかえって高湿下での帯電防止性が低下したり、耐擦傷性が低下したり、更には水と接触した場合、帯電防止剤が可溶化され、帯電防止性が失われたりする。また、コーティング層が導電性フィラーを含有していると帯電防止性に優れる反面、透明性が損なわれてしまう。
【0004】
【特許文献1】特開平10−244618号公報
【特許文献2】特開2000−281736号公報
【特許文献3】特開2007−191508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ハードコートベースとの相溶性が高い帯電防止性コーティング組成物、及び、帯電防止性、透明性、低極性基材への濡れ性、耐擦傷性に優れ、硬くて、プラスチック基材との密着性に優れ、更に耐水性に優れた帯電防止被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載された帯電防止コーティング組成物は、エチレン基を複数含有したモノマーとエチレン基を複数含有したプレポリマーとから選ばれる少なくとも一方を含有するハードコートベース100重量部、イオン対の極性構造の繰返し単位を有するマクロモノマーとフルオロカーボン基を含有する単量体の繰り返し単位を含有するマクロモノマーとの共重合化合物からなる極性高分子化合物の0.5〜50重量部、およびフルオロカーボン基を含有する非極性高分子化合物を最大でも10重量部が含まれていることを特徴とする。
【0007】
同じく請求項2に記載の帯電防止コーティング組成物は、請求項1に記載されたもので、前記極性高分子化合物中の極性構造が、ハロゲン化4級アンモニウム基、リン酸エステルアンモニウム基、硫酸エステルアンモニウム基、ハロゲン化4級ホスホニウム基、カルボン酸エステルアンモニウム基から選ばれる少なくとも一種類の前記イオン対であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の帯電防止コーティング組成物は、請求項1に記載されたもので、前記極性高分子化合物が、3級アミン又は3級ホスフィンが含有された繰返し単位を有する不飽和マクロモノマーと、前記フルオロカーボン基を含有する不飽和マクロモノマーとの共重合物に、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、及びハロゲン化アラルキル基のいずれかの基が含有された不飽和モノマーを反応させて前記ハロゲン化4級アンモニウム基又は前記ハロゲン化4級ホスホニウム基の前記イオン対を形成したものであることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の帯電防止コーティング組成物は、請求項1に記載されたもので、前記ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、及びハロゲン化アラルキル基のいずれかの基が含有された不飽和モノマーが、クロロメチルスチレンであることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の帯電防止コーティング組成物は、請求項1に記載されたもので、前記極性高分子化合物が、(メタ)アクリル酸モノエステルモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、スチレンモノマー、ビニルエーテルモノマー、及びビニルエステルモノマーから選ばれる少なくとも1種類の別な不飽和モノマーと共重合していることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の帯電防止コーティング剤組成物は、請求項1に記載されたもので、前記非極性高分子化合物が、フルオロカーボン基を含有する不飽和マクロモノマーの単独重合物、またはフルオロカーボン基を含有する不飽和マクロモノマーと(メタ)アクリル酸モノエステルモノマー、不飽和カルボン酸モノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、スチレンモノマー、ビニルエーテルモノマー、及びビニルエステルモノマーから選ばれる少なくとも1種類の別な不飽和モノマーとの共重合物であることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の帯電防止コーティング組成物は、請求項1に記載されたもので、光重合開始剤、又は熱重合開始剤が含まれていることを特徴とする。
【0013】
また、前記の目的を達成するためになされた、請求項8に記載の帯電防止被膜は、プラスチック基材上に、請求項1〜7のいずれかに記載の帯電防止コーティング剤組成物を硬化させたものであることを特徴とする。
【0014】
同じく請求項9に記載の帯電防止被膜は、請求項8に記載のプラスチック基材が、ポリカーボネートを含む基材であることを特徴とする。
【0015】
前記の目的を達成するためになされた、請求項10に記載の帯電防止被膜の形成方法は、請求項1〜7のいずれかに記載の帯電防止コーティング剤組成物をプラスチック基材に塗工し、そこに活性エネルギー線を照射することにより、前記エチレン基複数含有モノマー及び/又は前記エチレン基複数含有プレポリマーを架橋させて硬化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の帯電防止性コーティング組成物は、帯電防止性を発現する極性高分子化合物からなり、この高分子化合物は表面改質性が高いものであるため、それを少量含ませるだけで優れた帯電防止性を発現させるコーティング組成物を、調製することができる。この組成物は、プラスチック基材に塗工し易い。この組成物を硬化させると、表面抵抗値が低く、帯電防止性、透明性、低極性基材への濡れ性、耐擦傷性、密着性、耐水性に優れ、鉛筆硬度が高い被膜を、簡便に得ることができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0017】
帯電防止コーティング組成物の好ましい形態は以下のようにして調製される。
【0018】
2−メルカプトエタノールを連鎖移動剤として使用し、3級アミン含有(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーの重合体を得た後、その末端の水酸基に2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加させることにより末端に不飽和基を導入した3級アミン含有不飽和マクロモノマーを合成する。次いで、3級アミン含有(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーをフルオロカーボン含有(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーに変えることにより、フルオロカーボン基含有不飽和マクロモノマーを合成する。
【0019】
これらの末端に不飽和基を導入したマクロモノマーは、2−メルカプトエタノールに代えて、例えば2−アミノエタンチオールのような分子内に活性水素を有するアミノ基を持つ連鎖移動剤を使用して、(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーの重合体を得た後、その活性水素を有するアミノ基にグリシジルメタクリレートのような、分子内にグリシジル基を持つビニル化合物を付加することによっても得ることができる。
【0020】
3級アミン含有不飽和マクロモノマーと、フルオロカーボン基含有不飽和マクロモノマーと、(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーとを、5〜90:5〜90:0〜80の重量比で、共重合させる。3級アミンに、ハロゲン化アルキル、又はハロゲン化アリール、又はハロゲン化アラルキル、又は硫酸エステル、又はリン酸エステル、又はカルボン酸エステルを反応させる。この時、ハロゲン化アルキル、又はハロゲン化アリール、又はハロゲン化アラルキル、又は硫酸エステル、又はリン酸エステル、又はカルボン酸エステルの一部、又は全てを不飽和基含有ハロゲン化アルキル、又は不飽和基含有ハロゲン化アリール、又は不飽和基含有ハロゲン化アラルキルに換え、不飽和基と4級アンモニウム基の繰返し単位を形成させた極性高分子化合物を、合成する。
【0021】
一方、前記フルオロカーボン基含有不飽和マクロモノマーと、(メタ)アクリル酸モノエステルとを、5〜100:0〜95の重量比で共重合させて、非極性高分子化合物を得る。
【0022】
この極性高分子化合物と、ハードコートベースとしてエチレン基複数含有モノマー及び/又はエチレン基複数含有プレポリマーと、重合開始剤とを混練すると、帯電防止コーティング組成物が得られる。この場合、さらに非極性高分子化合物を処方すると、低極性樹脂基材への帯電防止コーティング組成物が得られる。
【0023】
帯電防止コーティング組成物中、エチレン基複数含有モノマー及び/又はエチレン基複数含有プレポリマーを含有するハードコートベース100重量部に対して、極性高分子化合物が0.5〜10重量部、非極性高分子化合物が0.25〜1重量部、重合開始剤が1〜10重量部含まれていると、極めて優れた帯電防止性と、低極性樹脂製基材への濡れ接着性とを発現するため、一層好ましい。
【0024】
極性高分子化合物中のフルオロカーボン基は、空気中の酸素と馴染み易い。そのため、この組成物を硬化させた被膜は、その表面にフルオロカーボン基を含有するポリマーが配向し易くなる。その結果、たとえ組成物中の極性高分子化合物が少量であっても、被膜の表面抵抗値を低く維持することができる。また、低極性樹脂製基材に対しては、非極性高分子化合物を含ませている。極性高分子化合物及び非極性高分子化合物の双方は、フルオロカーボン基を有する繰返し単位を含有しており、酸素との馴染み、及び低極性樹脂製基材への濡れ接着性を発現する。しかし、非極性高分子化合物は、極性高分子化合物の様な極性を持つ繰返し単位を有しない為、より低極性樹脂製基材とコーティング剤組成物との界面に局在化し易い。この為、極性高分子化合物の同界面への局在化が妨げられ、表面に配向し易くなる。その結果、低極性樹脂製基材への濡れ接着性と、表面抵抗値の効果的な低下が発現される。また、極性高分子化合物中に不飽和基を導入することにより、ハードコートベースが活性エネルギー線の照射で架橋し硬化すると同時に、極性高分子化合物がハードコートベースに共有結合を持って組み込まれる。そのため、前記極性高分子化合物を用いた帯電防止被膜を水に曝しても、被膜の表面抵抗値を低く維持することができる。
【0025】
帯電防止コーティング組成物の原料物質は、具体的には以下のとおりである。
【0026】
3級アミン含有(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーは、特に限定されないが、中でもメチル基、エチル基を持つ3級アミンを含有する(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーが好ましい。またハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリール、又はハロゲン化アラルキル含有不飽和化合物は、例えばクロロメチルスチレンが挙げられる。
【0027】
フルオロカーボン基含有不飽和モノマーは、フルオロカーボン基含有(メタ)アクリレートでもよく、例えば2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5Hオクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロイソプロピルエチル(メタ)アクリレート、p−パーフルオロオクチルオキシベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、パーフルオロオクチルエチルアクリレートなど、末端にパーフルオロアルキル基を有するものが好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。これらのフルオロカーボン基含有不飽和モノマーは1種を単独で使用でき、又は2種以上を併用できる。
【0028】
極性高分子化合物を構成する別な不飽和モノマーのひとつである(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリレート、単官能ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、単官能ポリエステル(メタ)アクリレート、単官能ポリカプロラクトン(メタ)アクリレートが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、(メタ)アクリル酸モノエステルモノマー以外の共重合可能な不飽和モノマーとしては、t−ブチル−n−ブトキシメチルアクリルアミドのような(メタ)アクリル酸アミドモノマー;スチレン、α−メチルスチレンのようなスチレンモノマー;ラウリルビニルエーテルのようなビニルエーテルモノマー;ビニルブチレートのようなビニルエステルモノマーを挙げることができるが、特にこれに限定されるものではない。これらの不飽和モノマーは1種を単独で使用でき、また2種以上を併用できる。
【0029】
エチレン基複数含有モノマーは、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキシレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリンモノメタクリレートモノアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
エチレン基複数含有プレポリマーは、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物トリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、多価アルコールと多塩基酸を縮合して得られる化合物の(メタ)アクリレート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート及びこれらのビュレット体、ヌレート化物等のポリイソシアネートと、グリセリンモノメタクリレートモノアクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応物等が挙げられる。
【0031】
重合開始剤は、光重合開始剤、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド;熱重合開始剤、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジーメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドリドクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル−2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0032】
帯電防止コーティング組成物には、被膜に求められる性能に応じて、シリコン系樹脂、シリカ粒子、金属粒子、金属酸化物粒子、有機塩、無機塩のような添加剤、希釈剤を含んでいてもよい。
【0033】
希釈剤は、アルキレングリコールのモノアルキルエーテル類例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル;アルキルアルコール類例えばイソプロピルアルコール;アルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキルカルボン酸エステル類例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート;ケトン類例えばメチルエチルケトン;アルキルアルコールのアルキルカルボン酸エステル類例えば酢酸エチル;脂肪族炭化水素類例えばヘキサン;脂環式炭化水素類例えばシクロヘキサン;芳香族炭化水素類例えばトルエン;ハロゲン系溶剤例えば塩化メチルが挙げられる。
【0034】
帯電防止コーティング組成物を、プラスチック基材例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂からなる成形基材に塗工する。それに活性エネルギー線例えば紫外線、放射線、赤外線、X線、電子線、可視光又は熱を照射すると、硬化して帯電防止被膜が形成される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の帯電防止コーティング組成物と、それを硬化させた帯電防止被膜の試作例を示すが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(合成例1)ジメチルアミノエチルメタクリレートのマクロモノマーの合成
4つ口フラスコにジメチルアミノエチルメタクリレートであるライトエステルDM(共栄社化学(株)社製の商品名;DMモノマー)の100重量部、2−メルカプトエタノール5重量部、メチルエチルケトン100重量部、及びジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)5重量部を加え、窒素雰囲気下で、75〜80℃で13時間反応させた。その後、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート9.93重量部、メトキノン0.04重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部を添加して、75〜80℃で3時間反応させた。赤外吸収スペクトルにて2250cm−1のイソシアネート基のピークが消失していることを確認し、ジメチルアミノエチルメタクリレートのマクロモノマー(DMマクロモノマー)を得た。
【0037】
(合成例2)トリフルオロエチルメタクリレートのマクロモノマーの合成
4つ口フラスコに2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートであるライトエステルM−3F(共栄社化学(株)社製の商品名;M−3Fモノマー)100重量部、2−メルカプトエタノール5重量部、メチルエチルケトン100重量部、及びジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)5重量部を加え、窒素雰囲気下で、75〜80℃で7時間反応させた。その後、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート9.93重量部、メトキノン0.04重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部を添加して、75〜80℃で5時間反応させた。赤外吸収スペクトルにて2250cm−1のイソシアネート基のピークが消失していることを確認し、トリフルオロエチルメタクリレートのマクロモノマー(M−3Fマクロモノマー)を得た。
【0038】
(合成例3)クロロメチルスチレンのマクロモノマーの合成
4つ口フラスコにクロロメチルスチレン100重量部、2−メルカプトエタノール5重量部、メチルエチルケトン100重量部、およびジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)5重量部を加え、窒素雰囲気下で、75〜80℃で13時間反応させた。その後、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート9.93重量部、メトキノン0.04重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部を添加して、75〜80℃で6時間反応させた。赤外吸収スペクトルにて2250cm−1のイソシアネート基のピークが消失していることを確認し、クロロメチルスチレンのマクロモノマー(CMSマクロモノマー)を得た。
【0039】
(合成例4)トリフルオロエチル基含有高分子化合物の合成
4つ口フラスコに、メチルメタクリレート20重量部、合成例2で得られたM−3Fマクロモノマーを樹脂分に換算して80重量部とそれを含むメチルエチルケトン67重量部との混合物、メチルエチルケトン83重量部、及びジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)5重量部を加え、窒素雰囲気下、75〜80℃で5時間反応させ、トリフルオロエチル基含有高分子化合物を得た。
【0040】
次に、高分子化合物を合成した。合成のための成分を表1に示す。
【0041】
(合成例5)高分子化合物Aの合成
4つ口フラスコに、合成例1で得られたDMマクロモノマーを樹脂分に換算して100重量部とそれを含むメチルエチルケトン84重量部との混合物、合成例2で得られたM−3Fマクロモノマーの樹脂分に換算して80重量部とそれを含むメチルエチルケトン67重量部の混合物、メチルメタクリレート20重量部、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)10重量部を添加し、窒素雰囲気下、75〜80℃で13時間反応させた。反応混合物に、クロロメチルスチレン81.4重量部、及びエタノール74.7重量部を添加して、60℃で6時間反応させた。滴定法によりアミン価を測定し、3級アミンが全て4級化されているのを確認し、高分子化合物A(DMmacro/MMA/M−3Fmacro;50/10/40)を得た。
【0042】
(合成例6)高分子化合物Bの合成
合成例5で用いたメチルメタクリレート20重量部を80重量部に変えたことと、M−3Fマクロモノマーを樹脂分に換算して80重量部とそれを含むメチルエチルケトン67重量部の混合物を樹脂分に換算して20重量部とそれを含むメチルエチルケトン17重量部の混合物を用いたこと以外は、合成例5と同様にして、高分子化合物B(DMmacro/MMA/M−3Fmacro;50/40/10)を得た。
【0043】
(合成例7)高分子化合物aの合成
4つ口フラスコに、合成例3で得られたCMSマクロモノマーを樹脂分に換算して100重量部とそれを含むメチルエチルケトン84重量部との混合物、メチルメタクリレート20重量部、合成例2で得られたM−3Fマクロモノマーを樹脂分に換算して80重量部とそれを含むメチルエチルケトン67重量部との混合物、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)10重量部を添加し、窒素雰囲気下、75〜80℃で9時間反応させた。反応混合物に、トリエチルアミン55.3重量部、エタノール55.6重量部を添加して、60℃で6時間反応させた。滴定法によりアミン価を測定し、3級アミンが全て4級化されているのを確認し、高分子化合物a(CMSmacro/MMA/M−3Fmacro;50/10/40)を得た。
【0044】
(合成例8)高分子化合物bの合成
合成例7で用いたメチルメタクリレート20重量部を80重量部に変えたことと、M−3Fマクロモノマーを樹脂分に換算して80重量部とそれを含むメチルエチルケトン67重量部の混合物を樹脂分に換算して20重量部とそれを含むメチルエチルケトン17重量部の混合物に変えたこと以外は、合成例7と同様にして、高分子化合物b(CMSmacro/MMA/M−3Fmacro;50/40/10)を得た。
【0045】

【表1】

【0046】
以下に、本発明を適用する帯電防止コーティング組成物及びそれを硬化させた帯電防止被膜の試作例を実施例1〜6に示す。また本発明を適用外のコーティング組成物及びそれを硬化させた被膜の試作例を比較例1〜7に示す。
【0047】
(実施例1〜6、及び比較例1〜7)
合成例3〜5で得た高分子化合物、ハードコートベースとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学(株)社製の商品名ライトアクリレートDPE−6A)とペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー(共栄社化学(株)社製の商品名ウレタンアクリレートUA−306I)、溶媒としてメチルエチルケトンとエタノール、及び光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカル社製の商品名イルガキュア184)を、表2に記載の通りに配合して均一に混練し、組成物を調製した。得られた組成物を、バーコーター(No.14)にて透明なポリメチルメタクリレート基材及びポリプロピレン基材に厚さ約10μmで塗工し塗膜とし、90℃で5分間乾燥した。それを5m/分のスピードのコンベアに載せ、そこから上へ10cm離した80W/cm高圧水銀灯で紫外線を照射して塗膜を硬化させ、膜厚3μmの被膜を有する試験片を得た。
【0048】
得られた試験片の物性について、以下のようにして、外観観察、ヘイズ測定試験、濡れ性評価試験、表面抵抗値測定試験、鉛筆硬度測定試験、耐擦傷性評価試験、密着性評価試験、耐水性評価試験を行ない、評価した。
【0049】
(外観観察)
試験片の被膜を目視で観察した。透明性があるものを○、透明性のないものを×とする2段階で評価した。
【0050】
(ヘイズ測定試験)
試験片の被膜のヘイズについて、ヘイズメーターUltra Scan XE(HUNTER ASSOCIATES LABORATORY社製:商品名)を用い、測定した。ヘイズが0.5未満のものを○、0.5以上のものを×とする2段階で評価した。
【0051】
(濡れ性評価試験)
硬化被膜の塗膜状態を目視にて観察し、ハジキがなく均一な塗膜であるものを○、若干ハジキがあるものを△、ハジキがあり塗膜を形成しないものを×として3段階で評価した。
【0052】
(表面抵抗値測定試験)
20℃で相対湿度60%下での試験片の被膜の表面抵抗値について、抵抗率計DSM−8103及びSME−8311(いずれも東亜ディーケーケー社製:商品名)を用い、測定した。
【0053】
(鉛筆硬度測定試験)
JIS K 5400に従い、鉛筆引っ掻き試験機を用いて、試験片の被膜の鉛筆硬度を測定した。各種硬度の鉛筆を45°の角度に保ちつつ上から1kgの荷重をかけ、試験片の被膜を1cm引っ掻き、傷の有無を目視にて観察した。5回繰返し、5回とも傷が付かなかった鉛筆硬度のうち最も高い硬度を、その被膜の硬度とした。
【0054】
(耐擦傷性評価試験)
200g/cmの荷重をかけた0000番スチールウールで、試験片の被膜を10往復擦り、傷の有無を目視にて観察した。ほとんど傷が無いものを◎、若干傷が付いたものを○、傷が無数に付いたものを△、白化するほど傷がついたものを×とする4段階で評価した。
【0055】
(密着性評価試験)
試験片の被膜表面に、カッターナイフにより1mm間隔の縦横各11本の切り傷をつけ、100個の碁盤目状のマスを形成させた。この上からセロハンテープを貼り付け、一気に剥がしたときに剥離せず残ったマス目の個数を数えた。
【0056】
これらをまとめて、ポリメチルメタクリレート基材での結果を表2に、ポリプロピレン基材での結果を表3に示す。
【0057】
(耐水性評価試験)
試験片を水温60℃の温水中に24時間浸漬させた。取り出し、軽く水分をふき取った後、20℃、相対湿度60%下で24時間静置した。この試験片について上記の表面抵抗値測定試験を行った。
【0058】
これらの結果を、まとめて表2、3に示す。
【0059】

【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
表2、3から明らかな通り、実施例1〜5の被膜は、表面抵抗値が1010〜1011Ω/cm程度と低く、帯電防止性に優れ、更には耐水性試験後の表面抵抗値に変化がないことから、耐水性が付与されていた。また良好な透明性、低極性基材に対する濡れ性、耐擦傷性、密着性を示し、ポリメチルメタクリレート基材に対して高い硬度を有していた。それに対し、比較例1〜6の被膜は、初期の帯電防止性は優れているが、耐水性試験後の表面抵抗値が大幅に上がってしまったことから、耐水性が劣っていた。また、比較例7、8の被膜は、濡れ性が劣り、表面抵抗値も高く、帯電防止性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の帯電防止コーティング組成物は、帯電や埃吸着を忌避すべき液晶画面、家電製品、日用品、食品包装やアルバムなどに使用されるフィルム、バンパーやインストロメントパネルなどの車両内外装、建材、それらの製造ラインに、帯電防止被膜を形成させるのに用いられる。また、これらの液晶画面、家電製品、日用品、フィルム、車両内外装、建材などに使用されるプラスチック基材の傷つき防止コーティング、静電塗装プライマーとしても有用であり、あらゆる分野において幅広く適応することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン基を複数含有したモノマーとエチレン基を複数含有したプレポリマーとから選ばれる少なくとも一方を含有するハードコートベース100重量部、
イオン対の極性構造の繰返し単位を有するマクロモノマーとフルオロカーボン基を含有する単量体の繰り返し単位を含有するマクロモノマーとの共重合化合物からなる極性高分子化合物の0.5〜50重量部、および
フルオロカーボン基を含有する非極性高分子化合物を最大でも10重量部が含まれていることを特徴とする帯電防止コーティング組成物。
【請求項2】
前記極性高分子化合物中の極性構造が、ハロゲン化4級アンモニウム基、リン酸エステルアンモニウム基、硫酸エステルアンモニウム基、ハロゲン化4級ホスホニウム基、カルボン酸エステルアンモニウム基から選ばれる少なくとも一種類の前記イオン対であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止コーティング組成物。
【請求項3】
前記極性高分子化合物が、3級アミン又は3級ホスフィンが含有された繰返し単位を有する不飽和マクロモノマーと、前記フルオロカーボン基を含有する不飽和マクロモノマーとの共重合物に、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、及びハロゲン化アラルキル基のいずれかの基が含有された不飽和モノマーを反応させて前記ハロゲン化4級アンモニウム基又は前記ハロゲン化4級ホスホニウム基の前記イオン対を形成したものであることを特徴とする請求項2に記載の帯電防止コーティング組成物。
【請求項4】
前記ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、及びハロゲン化アラルキル基のいずれかの基が含有された不飽和モノマーが、クロロメチルスチレンであることを特徴とする請求項3に記載の帯電防止コーティング組成物。
【請求項5】
前記極性高分子化合物が、(メタ)アクリル酸モノエステルモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、スチレンモノマー、ビニルエーテルモノマー、及びビニルエステルモノマーから選ばれる少なくとも1種類の別な不飽和モノマーと共重合していることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止コーティング剤組成物。
【請求項6】
前記非極性高分子化合物が、フルオロカーボン基を含有する不飽和マクロモノマーの単独重合物、またはフルオロカーボン基を含有する不飽和マクロモノマーと(メタ)アクリル酸モノエステルモノマー、不飽和カルボン酸モノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、スチレンモノマー、ビニルエーテルモノマー、及びビニルエステルモノマーから選ばれる少なくとも1種類の別な不飽和モノマーとの共重合物であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止コーティング剤組成物。
【請求項7】
光重合開始剤、又は熱重合開始剤が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止コーティング組成物。
【請求項8】
プラスチック基材上に、請求項1〜7のいずれかに記載の帯電防止コーティング剤組成物を硬化させた帯電防止被膜。
【請求項9】
請求項8に記載のプラスチック基材が、ポリカーボネートを含む基材であることを特徴とする帯電防止被膜。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の帯電防止コーティング剤組成物をプラスチック基材に塗工し、そこに活性エネルギー線を照射することにより、前記エチレン基複数含有モノマー及び/又は前記エチレン基複数含有プレポリマーを架橋させて硬化させることを特徴とする帯電防止被膜の形成方法。

【公開番号】特開2010−1399(P2010−1399A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162033(P2008−162033)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000162076)共栄社化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】