説明

帯電防止性積層体及びその製造方法

【課題】 帯電防止性の湿度依存性が小さく、簡便な工程でコストをかけずに製造でき、透明性、基材との密着性、可撓性に優れた帯電防止性積層体を提供する。
【解決手段】 本発明の帯電防止性積層体1は、基材2と、可溶性導電性高分子成分を含有する帯電防止層3とを有し、可溶性導電性高分子成分には、分子内にアニオン基及び/又は電子吸引性基を有する可溶化高分子成分と、導電性高分子成分とが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子類や生鮮食料品、特に削り節、七味唐辛子、小麦粉、パン粉などの粉体を包装したり、静電気に弱い精密電子部品を包装したりする包装材に適した帯電防止性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
内容物が透けて見える透明な包装材として樹脂フィルムが広く使用されている。その樹脂フィルムは、そのままでは絶縁体であるために帯電しやすく、摩擦等によって静電気を帯びることがある。しかも、その静電気は外部へ逃げにくく、樹脂フィルムに蓄積して、様々な問題を引き起こすことがある。例えば、衛生性を重視する食品用包装材として樹脂フィルムを利用した場合には、静電気により陳列中に塵や埃を吸着して商品の外観を著しく損なうことがあった。また、樹脂フィルムにより粉体を包装した場合には、その梱包時や使用時に、帯電した粉体が樹脂フィルムに対して吸着又は反発するため取り扱いが困難になった。また、精密電子部品を包装した場合には、静電気によって精密電子部品を破壊するおそれがあった。
これらの問題を解決するために、従来では、樹脂フィルム表面に界面活性剤を塗布したり、内部に練り込んだりして帯電防止性を付与していた(例えば非特許文献1参照)。
【非特許文献1】「ファインケミカル、帯電防止剤 最近の市場動向(上)」、シーエムシー発行、第16巻、第15号、1987年、p24−36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、界面活性剤の塗布又は練り込みによる帯電防止は、その導電機構がイオン伝導であるために湿度の影響を非常に受けやすく、具体的には、湿度が高ければ高導電になるが、湿度の低いときには導電性が低下した。したがって、従来の帯電防止性樹脂フィルムは、湿度が低くて静電気の発生しやすい環境下では帯電防止性が低下して、必要なときに帯電防止性を発揮しないものであった。
【0004】
そこで、電子伝導を導電機構とする金属やカーボンを配合して帯電防止性を付与する方法が考えられる。金属やカーボンを配合すれば、帯電防止性の湿度依存性は小さくなるが、金属やカーボンは透明性を有しておらず、包装材を透明にできなかった。
また、ITOのような金属酸化物は透明性があり、電子伝導を導電機構とするため、その点においては適しているものの、その製膜にはスパッタリング装置などを用いた工程を採らざるを得ず、工程が煩雑であるばかりか製造コストが高かった。また、無機質の金属酸化物の塗膜は、可撓性が小さく、薄い基材上に製膜した場合には、塗膜が激しく割れて、導電性を示さなくなる上に、有機質である基材との密着性が低いためにそれらの界面で剥離を生じて、透明性が低下しやすかった。
【0005】
また、電子伝導を導電機構とする有機材料として導電性高分子が知られているが、導電性高分子は一般的に不溶不融の性質を持ち、重合した後に基材上に塗布することは困難であった。基材上で直接重合すれば帯電防止層を形成できるが、その場合には工程が煩雑になるばかりでなく、帯電防止層と基材との密着性が不足した。
本発明は、帯電防止性の湿度依存性が小さく、簡便な工程でコストをかけずに製造でき、透明性、基材との密着性、可撓性に優れた帯電防止性積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の帯電防止性積層体は、基材と、可溶性導電性高分子成分を含有する帯電防止層とを有し、
可溶性導電性高分子成分には、分子内にアニオン基及び/又は電子吸引性基を有する可溶化高分子成分と、導電性高分子成分とが含まれることを特徴とする。
本発明の帯電防止性積層体においては、帯電防止層がさらにバインダ樹脂を含有することが好ましい。
その際、バインダ樹脂が熱接着性樹脂であることが好ましい。
本発明の帯電防止性積層体においては、基材の表面が親水化処理されていると共に、可溶性導電性高分子成分とバインダ樹脂とが水溶性であることが好ましい。
また、本発明の帯電防止性積層体においては、可溶性導電性高分子成分が、さらにドーパントを含むことが好ましい。
本発明の帯電防止性積層体は、可視光透過率が85%以上で表面帯電圧が0.5kV以下であることが好ましい。
本発明の帯電防止性積層体は、基材及び帯電防止層以外の他の層を有し、帯電防止層が表層に配置されていないものであってもよい。
本発明の帯電防止性積層体において、可溶化高分子成分がアニオン基を有する場合、そのアニオン基が塩を形成していることが好ましい。
本発明の帯電防止性積層体の製造方法は、可溶性導電性高分子成分を含有する帯電防止性樹脂塗料を基材に塗布する帯電防止性積層体の製造方法であって、
可溶性導電性高分子成分が、分子内にアニオン基及び/又は電子吸引性基を有する可溶化高分子成分と、導電性高分子成分とを含むことを特徴とする。
本発明の包装材は、上記帯電防止性積層体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の帯電防止性積層体は、帯電防止性の湿度依存性が小さく、簡便な工程でコストをかけずに製造でき、透明性、基材との密着性、可撓性に優れる。このような帯電防止性積層体は食品や精密電子部品の包装材として好適である。
本発明の帯電防止性積層体において、帯電防止層がさらにバインダ樹脂を含有すれば、基材との密着性をより高めることができる。
その際、バインダ樹脂が熱接着性樹脂であれば、熱接着により帯電防止層と他の樹脂層とを一体化できる。
基材の表面が親水化処理されていると共に、可溶性導電性高分子成分とバインダ樹脂とが水溶性であれば、基材と帯電防止層との密着性をより高くできる。
本発明の帯電防止性積層体においては、可溶性導電性高分子成分が、さらにドーパントを含めば、導電性と耐熱性を向上させることができる。
本発明の帯電防止性積層体における可視光透過率が85%以上で表面帯電圧が0.5kV以下であれば、とりわけ積層体としての利用価値が高くなる。
本発明の帯電防止性積層体における帯電防止層が表層以外の層であれば、帯電防止性の低下や帯電防止層の食品への混入を防ぐことができる。
可溶化高分子成分がアニオン基を有する場合、そのアニオン基が塩を形成していれば、帯電防止層と特定の基材との密着性をより高くできる。
本発明の帯電防止性積層体の製造方法によれば、簡便な工程でコストをかけずに製造できる上に、得られる帯電防止層の帯電防止性の湿度依存性を小さくでき、基材との密着性、可撓性を高くできる。
本発明の包装材は、帯電防止性の湿度依存性が小さく、透明性、基材との密着性、可撓性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の帯電防止性積層体及びその製造方法の一実施形態例について説明する。
図1に、本実施形態例の帯電防止性積層体を示す。この帯電防止性積層体1は、基材2と、可溶性導電性高分子成分を含有する帯電防止層3からなる積層体である。
【0009】
(基材)
基材2は樹脂製のフィルムであり、例えば、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合体フィルム、ポリプロピレンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン−メチルメタクリレート共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、6−ナイロンフィルム、6,6−ナイロンフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリスチレンフィルム、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体フィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、トリ酢酸セルロース(TAC)フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、ポリ四フッ化エチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリサルホンフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンオキシドフィルムなどが挙げられる。
【0010】
これら基材の表面は通常、親油性であり、水系溶媒に溶解した可溶性導電性高分子成分との親和性が低いため、帯電防止層の形成が困難である。そのため、基材の表面は親水化処理されていることが好ましい。親水化処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、アンカーコート処理などが挙げられる。
さらに、基材表面が親水化処理されている場合には、後述する可溶性導電性高分子成分とバインダ樹脂とが水溶性であることが好ましい。基材表面が親水化処理され、可溶性導電性高分子成分とバインダ樹脂とが水溶性であれば、水系溶媒に溶解した可溶性導電性高分子成分及びバインダ樹脂と基材表面との親和性が高くなり、帯電防止層をより形成しやすくなる。
【0011】
基材2の厚さは5〜100μmであることが好ましい。基材2の厚さが5μm未満であると帯電防止性積層体の強度が不足することがあり、100μmを超えると可撓性が低下する傾向にある。
【0012】
(帯電防止層)
[可溶性導電性高分子成分]
帯電防止層3を構成する可溶性導電性高分子成分は、分子内にアニオン基及び/又は電子吸引性基を有する可溶化高分子成分と、導電性高分子成分とが含まれるものである。
【0013】
[導電性高分子成分]
導電性高分子成分としては、置換あるいは無置換のポリアニリン、置換あるいは無置換のポリピロール、置換あるいは無置換のポリチオフェン及びこれらから選ばれる1種又は2種以上の単量体単位からなる(共)重合体が挙げられる。単量体単位の具体例としては、アニリン、o−スルホン酸アニリン、m−スルホン酸アニリン、o−メチルアニリン、ピロール、N−メチルピロール、3−メチルピロール、3−メトキシ−4−アセチルピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、エチレンジオキシチオフェン、イソチアナフテン、チアノピラジンなどが挙げられる。
【0014】
上記単量体単位からなる導電性高分子成分の中でも、ピロール、チオフェン、N−メチルピロール、3−メチルチオフェン、3−メトキシチオフェンから選ばれる1種又は2種以上からなる(共)重合体が抵抗値、コスト、反応性の点からより好ましい。さらに、ポリN−メチルピロール、ポリ3−メチルチオフェンのようなアルキル置換化合物は溶媒溶解性を向上する効果が見られることから特に好ましい。アルキル置換化合物のアルキル基の中では、導電性の低下を抑制できることから、メチル基が好ましい。
また、3−メトキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、エチレンジオキシチオフェン、イソチアナフテンの重合体は帯電防止層を形成した際の透明性に優れる点でより好ましい。
【0015】
[可溶化高分子成分]
可溶化高分子成分は、分子内に、スルホン酸基、カルボン酸基などのアニオン基及び/又はシアノ基、ニトロ基などの電子吸引性基を有するものである。可溶化高分子成分の具体例としては、アニオン基を有するものとして、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。
また、電子吸引性基を有するものとして、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂や、水酸基あるいはアミノ基含有樹脂をシアノエチル化した樹脂、例えば、シアノエチルセルロース樹脂、ポリビニルピロリドン、アルキル化ポリビニルピロリドン、ニトロセルロースなどが挙げられる。
【0016】
可溶化高分子成分は共重合体でもよい。共重合体としては、例えば、上記したアニオン基を有する単位と電子吸引性基を有する単位とを各1種又は2種以上含む共重合体、異なるアニオン基を有する単位を含む共重合体、異なる電子吸引性基を有する単位を含む共重合体が挙げられる。
さらに、可溶化高分子成分には、他のビニル化合物が共重合されていてもよい。他のビニル化合物としては、例えば、スチレン、ブタジエン、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアクリル酸、ヒドロキシメタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、p−ビニルトルエンなどが挙げられる。このような重合性ビニル化合物が共重合されていれば、溶媒溶解性や基材との密着性を向上したり、バインダ樹脂との相溶性を制御したりすることができる。
【0017】
可溶化高分子成分のアニオン基や電子吸引性基は極性が高いため、基材との密着性を高くできるが、可溶化高分子成分が、ポリアクリルスルホン酸やポリメタクリルスルホン酸など分子構造内にエステル基を有するものは、エチレン−メチルメタクリレート共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、6−ナイロンフィルム、6,6−ナイロンフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルムなどとの密着性が特に優れている点で好ましい。
また、ブタジエン、アクリル酸エステルなどの他のビニル化合物が共重合された可溶化高分子成分では、塗膜の柔軟性が増し、密着性の向上に寄与する点で好ましい。
【0018】
さらに、可溶化高分子成分のアニオン基が塩を形成していること、あるいは、ヒドロキシアクリル酸、ヒドロキシメタクリル酸などの水酸基を持つ単量体を末端に共重合することも好ましい。アニオン基を塩にしたり、水酸基を持つ単量体を共重合したりした場合には、特にエチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、トリ酢酸セルロース(TAC)フィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム、表面をシリカやアルミナで処理した基材などとの密着性が向上する。
【0019】
また、可溶化高分子成分には耐衝撃性を改良するための合成ゴムや、耐環境特性を向上させるための老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤が含まれていてもよい。ただし、酸化防止剤としてのアミン化合物は上記導電性高分子を重合させる際に用いる酸化剤の働きを阻害することがあるので、フェノール系酸化防止剤を用いたり、重合後に混合したりするなどの対策が必要である。
【0020】
可溶性導電性高分子成分中の可溶化高分子成分と導電性高分子成分との割合は、可溶化高分子成分:導電性高分子成分の質量比が5:95〜99:1の間が好ましい。導電性高分子成分の比率が1未満であると十分な帯電防止性が得られなくなることがあり、95より多いと溶媒溶解性が不足する傾向にある。
【0021】
[ドーパント]
可溶性導電性高分子成分は、その導電性と耐熱性を向上させるためにドーパントを含むことが好ましい。通常、ドーパントとしてはハロゲン化合物、ルイス酸、プロトン酸などが用いられ、例えば、有機カルボン酸、有機スルホン酸等の有機酸、有機シアノ化合物、フラーレン、水素化フラーレン、水酸化フラーレン、カルボン酸化フラーレン、スルホン酸化フラーレンなどが挙げられる。
【0022】
有機酸としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン重縮合物、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、ジナフチルメタンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、アントラセンスルホン酸、ピレンスルホン酸などが挙げられる。また、これらの金属塩も使用できる。
有機シアノ化合物としては、ジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノアザナフタレンなどが挙げられる。
【0023】
[バインダ樹脂]
帯電防止層にはバインダ樹脂が含まれてもよい。帯電防止層にバインダ樹脂が含まれると、可溶化高分子成分に対する相溶性、可撓性、基材との密着性がより高くなる。好ましいバインダ樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアクリル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニルや、分子内にスルホン酸基やカルボン酸基を持たせて水溶性にした水溶性ポリエステル、水溶性ポリウレタン、各種アイオノマーなどが挙げられる。また、基材の表面が親水化処理されている場合には、帯電防止層をより形成しやすくなることから、バインダ樹脂としては水溶性のものが好ましい。
さらに、バインダ樹脂としては、上記固体樹脂のほかに熱エネルギーや光エネルギーによって鎖延長や架橋する液状樹脂も使用できる。
【0024】
また、バインダ樹脂が熱接着性樹脂であってもよい。バインダ樹脂が熱接着性樹脂であれば、帯電防止層の片面あるいは両面に基材以外の他の樹脂層を設ける場合に、別途接着剤層を設けることなく、熱接着できる。また、熱接着層を別途設けた場合には、接着力が強くなる。
なお、熱接着性樹脂とは、ガラス転移点以上に加熱すると表面に接着性を発現し、冷却することでその接着性がより強固になる性質の樹脂をいう。
【0025】
バインダ樹脂の配合量としては、求められる表面抵抗値によって大きく異なるが、(可溶化高分子成分+導電性高分子成分):バインダ樹脂の質量比が0.001:99.999〜95:5が好ましい。バインダ樹脂の質量比が99.99を超えると帯電防止性を充分に発揮できないことがあり、5未満であると基材との密着性が不足することがある。
【0026】
帯電防止層3の厚さはバインダ樹脂配合量や導電性高分子成分の種類にもよるが、0.01〜100μmであることが好ましい。帯電防止層3の厚さが0.01μm未満であると帯電防止性が不足することがあり、100μmを超える場合には厚すぎて不経済である。
【0027】
[製造方法]
帯電防止性積層体を得るには、まず、可溶化高分子成分を溶媒に溶解し、これに、導電性高分子の前躯体モノマーと必要に応じてドーパントを添加して十分攪拌混合した単量体溶液に、酸化剤を滴下して重合を進行させる。これにより得られた可溶化高分子成分と導電性高分子成分の複合体から、酸化剤、残留モノマー、副生成物を除去、精製して可溶性導電性高分子成分を得る。なお、ドーパントは精製後に添加してもよい。
ここで、導電性高分子の前駆体モノマーを重合する酸化剤としては、例えば、塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウムなどの金属ハロゲン化合物、過酸化水素、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、オゾン、酸素などが挙げられる。
【0028】
次いで、上記のようにして得た可溶性導電性高分子成分を溶媒に溶解して帯電防止性樹脂塗料とする。あるいは、さらにバインダ樹脂を添加し、十分に混合、攪拌して帯電防止性樹脂塗料としてもよい。なお、バインダ樹脂が液状の場合はそのまま添加できるが、バインダ樹脂が固体の場合又は液体でも混合が困難な場合には、溶媒にバインダ樹脂を溶解してから混合することが好ましい。また、可溶性導電性高分子成分もあらかじめ溶媒に溶解しておくと容易に混合できることもある。
【0029】
可溶性導電性高分子成分を溶解する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、ベンゾニトリル、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンなどの汎用溶剤が挙げられ、これらを単独もしくは混合して用いることができる。
【0030】
このようにして得た帯電防止性樹脂塗料において、可溶化高分子成分がアニオン基を有する場合、強い酸性を示して取り扱い性が低いことがある。そのような場合には、アニオン基を塩に変換しておくことが好ましい。具体的には、カルボン酸やスルホン酸と塩を形成するナトリウム、カリウム、鉄、銅などを有する金属化合物、アンモニウム化合物、アミン化合物などを添加してアニオン塩に変換することが好ましい。アニオン基が塩を形成することにより、帯電防止性樹脂塗料をpH1程度の酸性からpH13程度のアルカリ性までの範囲でpHを任意に調整できるが、特にpH6〜8(中性)にすることでイオン性が小さく、酸、アルカリによる内包物への悪影響も小さくなり、取り扱い性を高くできる。
【0031】
そして、上記帯電防止性樹脂塗料を、例えば、浸漬、コンマコート、スプレーコートなど公知の手法により基材に塗布し、溶媒を乾燥、又は、塗料を熱や紫外線により固化して、基材上に帯電防止層を形成して図1に示す帯電防止性積層体1を得る。
【0032】
その際、帯電防止層の塗布厚によって光透過率、ヘイズ、表面抵抗値を調節できるが、帯電防止層の厚さが0.1μmの際の基材を除いた可視光透過率(JIS Z 8701)が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。また、帯電防止層の厚さが0.1μmの際のヘイズ(JIS K 6714)は5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
さらに、表面抵抗値(JIS K 6911)が1×10〜1×1011Ωであることが好ましい。
【0033】
特に、帯電防止性積層体は、包装材としての利用価値がより高くなることから、可視光透過率が高い状態で帯電圧が低いものが好ましく、具体的には、可視光透過率が85%以上で表面帯電圧が0.5kV以下であることが好ましく、可視光透過率が95%以上で表面帯電圧が0.2kVであることがより好ましい。
ここで、表面帯電圧とは、JIS L 1094に記載の摩擦帯電圧測定法により測定した値である。
【0034】
以上説明した帯電防止性積層体は、基材と帯電防止層とを有し、帯電防止層が特定の可溶性導電性高分子成分を含有するので、帯電防止性を有している。しかも、帯電防止層中の導電性高分子は電子伝導であるから、帯電防止性の湿度依存性が小さい。また、帯電防止層は、金属やカーボンを含有しないので、透明性、可撓性に優れ、基材との密着性にも優れる。さらに、帯電防止層は、溶媒に可溶化する可溶性導電性高分子成分を基材上に塗布することで形成できるから、簡便な工程でコストをかけずに製造できる。
そして、本発明の包装材は、上記帯電防止性積層体を有し、上記の性質を持っているので、食品や精密電子部品の包装材として好適である。包装材の形状は、包装する物品の形状によって適宜選択され、シート状であってもよいし、袋状であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0035】
なお、本発明は、上述した実施形態例に限定されない。上述した実施形態例の帯電防止性積層体は、基材2と帯電防止層3とからなるものであったが、これら2層の他に、例えば、図2に示すように、接着剤層4を介して帯電防止層3上に表面層5をラミネートしたもの(帯電防止性積層体1a)であってもよい。この場合、表面層5に印刷を施せば、帯電防止性積層体の意匠性を高めることができる。
ここで、接着剤層4をなす接着剤としては、低融点を有する低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂や、ホットメルト接着剤としてのポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレンなど公知のものが使用される。
また、表面層5としては、前述の基材2と同様の各種フィルムを用いることができる。
【0036】
また、図3に示すように、基材2と帯電防止層3との間にガスバリア層6を形成したもの(帯電防止性積層体1b)であってもよい。ガスバリア層6を形成すれば、この帯電防止性積層体で食品等を包装した際に食品等の劣化を防ぐことができる。
ガスバリア層としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、アミド樹脂、ポリエステルなどからなる樹脂層や、シリカ、アルミナなどの無機層といった公知のものが挙げられる。
【0037】
図2及び図3に示す帯電防止性積層体のように、帯電防止層3を表層に配置しない場合には、帯電防止層3が擦れて剥がれることや食品への混入が防止される点で好ましい。これに対し、帯電防止層3が表層である場合には、擦れて剥がれた際に帯電防止性が低下したり、帯電防止層が食品に混入したりすることがある。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
(実施例1)
(1)可溶化高分子成分の合成
アクリロニトリル50g、ブタジエン5g、メチルアクリル酸5gをトルエン500ml中に溶解し、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを1.5g添加し、50℃で5時間重合した。重合により生成した可溶化高分子成分はメタノールで洗浄した。
(2)帯電防止性樹脂塗料の調製
(1)で得た可溶化高分子成分10gをアセトニトリル90gに溶解し、これに、ピロール50gとオクタデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム20gとを添加し、−20℃に冷却しながら、1時間攪拌して単量体溶液を調製した。この単量体溶液に、塩化第二鉄250gをアセトニトリル1250mlに溶解した酸化剤溶液を、−20℃に保ちながら2時間かけて滴下し、さらに12時間攪拌を続けてピロールを重合した。
重合終了後、ピロールの重合体を含む溶液に2000mlのメタノールを加え、沈殿物をろ過し、ろ液が透明になるまでメタノールと純水により洗浄した後、ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解して濃度1質量%の帯電防止性樹脂塗料を得た。
(3)帯電防止性積層体の製造
上記帯電防止性樹脂塗料を基材であるPETフィルム上に塗布厚0.1μmで塗布、乾燥して帯電防止性積層体を得た。
【0039】
この帯電防止性積層体における表面抵抗値(温度;10℃、湿度;15%RH)、可視光透過率、ヘイズ、表面帯電圧を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
(実施例2)
(1)可溶化高分子成分の合成
アクリロニトリル50gとスチレン10gとをトルエン500ml中に溶解し、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを1.5g添加し、50℃で5時間重合した。重合により生成した可溶化高分子成分はメタノールで洗浄した。
(2)帯電防止性樹脂塗料の調製
実施例1と同様にして可溶化高分子成分中で導電性高分子成分を合成して濃度5質量%の可溶性導電性高分子成分の溶液(可溶性導電性高分子溶液)を得た。この可溶性導電性高分子溶液に、該溶液の固形分100質量部に対しバインダ樹脂としてポリエステル(ユニチカ製エリーテルUE3600)1000質量部を混合し、攪拌して帯電防止性樹脂塗料を得た。
(3)帯電防止性積層体の製造
実施例1と同様にして帯電防止性積層体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例3)
(1)可溶化高分子成分の合成
スチレンスルホン酸ナトリウム50gを水500ml中に溶解し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを0.15g添加し、70℃で5時間重合した。重合終了後、30%硫酸水溶液を30g添加し、さらに水15000mlを添加した後、限外ろ過で300mlまで濃縮した。これを乾燥機で水を除去して可溶化高分子成分を得た。
(2)帯電防止性樹脂塗料の調製
(1)で得た可溶化高分子成分10gをアセトニトリル90gに溶解し、これに、ピロール50gとオクタデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム20gとを添加し、−20℃に冷却しながら、1時間攪拌して単量体溶液を調製した。この単量体溶液に、塩化第二鉄250gをアセトニトリル1250mlに溶解した酸化剤溶液を、−5℃に保ちながら2時間かけて滴下し、さらに12時間攪拌を続けてピロールを重合した。
重合終了後、ピロールの重合体を含む溶液を限外ろ過して酸化剤残渣、未反応モノマー、オリゴマー成分を除去して、濃度5質量%の可溶性導電性高分子の溶液(可溶性導電性高分子溶液)を得た。
この可溶性導電性高分子溶液に、該溶液の固形分100質量部に対しバインダ樹脂として水溶性ポリエステル樹脂(互応化学製Z565)1000質量部を混合し、攪拌して帯電防止性樹脂塗料を得た。
(3)帯電防止性積層体の製造
実施例1と同様にして帯電防止性積層体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0043】
(実施例4)
(1)帯電防止性樹脂塗料の調製
実施例3の(1)で得た可溶化高分子成分10gを水90gに溶解し、これに、3,4−エチレンジオキシチオフェン50gを添加し、−5℃に冷却しながら、1時間攪拌して単量体溶液を調製した。この単量体溶液に、p−トルエンスルホン酸鉄250gを水1250mlに溶解した酸化剤溶液を、−5℃に保ちながら2時間かけて滴下し、さらに12時間攪拌を続けて3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合した。
重合終了後、3,4−エチレンジオキシチオフェンの重合体を含む溶液を限外ろ過して酸化剤残渣、未反応モノマー、オリゴマー成分を除去して、濃度1質量%の可溶性導電性高分子成分の溶液(可溶性導電性高分子溶液)を得た。
この可溶性導電性高分子溶液に、該溶液の固形分100質量部に対しバインダ樹脂として水溶性ポリエステル樹脂1000質量部を混合し、攪拌して帯電防止性樹脂塗料を得た。
(2)帯電防止性積層体の製造
実施例1と同様にして帯電防止性積層体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例5)
(1)帯電防止性樹脂塗料の調製
実施例2の(1)で得た可溶化高分子成分10gをアセトニトリル90gに溶解し、3−メトキシチオフェン50gとオクタデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム20gを添加し、−5℃に冷却しながら、1時間攪拌して単量体溶液を調製した。この単量体溶液に、塩化第二鉄250gを水1250mlに溶解した酸化剤溶液を、−5℃に保ちながら2時間かけて滴下し、さらに12時間攪拌を続けて3−メトキシチオフェンを重合した。
重合終了後、3−メトキシチオフェンの重合体を含む溶液を限外ろ過して酸化剤残渣と未反応モノマー、オリゴマー成分を除去して、濃度3質量%の可溶性導電性高分子成分の溶液(可溶性導電性高分子溶液)を得た。
この可溶性導電性高分子溶液に、該溶液の固形分100質量部に対しバインダ樹脂としてポリエステル1000質量部を混合し、攪拌して帯電防止性樹脂塗料を得た。
(2)帯電防止性積層体の製造
実施例1と同様にして帯電防止性積層体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例6)
(1)帯電防止性樹脂塗料の調製
実施例3の(1)で得た可溶化高分子成分10gを水90gに溶解し、これに、3,4−エチレンジオキシチオフェン50gを添加し、−5℃に冷却しながら、1時間攪拌して単量体溶液を調製した。この単量体溶液に、p−トルエンスルホン酸鉄250gを水1250mlに溶解した酸化剤溶液を、−5℃に保ちながら2時間かけて滴下し、さらに12時間攪拌を続けて3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合した。
重合終了後、3,4−エチレンジオキシチオフェンの重合体を含む溶液を限外ろ過して酸化剤残渣、未反応モノマー、オリゴマー成分を除去し、次いで、1質量%の水酸化ナトリウム溶液を滴下し、pH7に調整して可溶性導電性高分子成分の溶液(可溶性導電性高分子溶液)を得た。
この可溶性導電性高分子溶液に、該溶液の固形分100質量部に対しバインダ樹脂として水溶性ポリエステル樹脂1000質量部を混合し、攪拌して帯電防止性樹脂塗料を得た。
(2)帯電防止性積層体の製造
(1)の帯電防止性樹脂塗料を、表面にガスバリア層としてシリカ蒸着したPETフィルム上に塗布厚10μmで塗布、乾燥し、帯電防止層を設けて帯電防止性積層体を得た。そして、表面抵抗値、ヘイズ、表面耐電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例7)
実施例6で製造した帯電防止性積層体と、表面にシリカ蒸着層を設けたポリプロピレンフィルムとを用意し、帯電防止性積層体の帯電防止層とポリプロピレンフィルムのシリカ蒸着層とを向かい合わせにした状態で熱ラミネートして、新たに帯電防止性積層体を得た。この帯電防止性積層体の表面抵抗値、ヘイズ、表面耐電圧を測定したところ、それぞれ85%、2%、0.3kVであった。
【0047】
(実施例8)
実施例6で製造した帯電防止性積層体を40cm角に切り取ったものを2枚用意し、それらの帯電防止層同士を向かい合わせにして重ね合わせ、その状態で三方の端縁を熱シールして包装袋を得た。この袋の内面及び外面の表面耐電圧を測定したところ、それぞれ0.1kV、0.3kVであった。この袋の開口部から、3mm角の紙片100gを開口部上方10cmの距離から落としながら充填したところ、袋内面への付着、反発などが発生せず、良好に充填できた。
【0048】
本願請求項1を満たす実施例1〜5の帯電防止性積層体は、表面抵抗値が低く、充分な帯電防止性を有していたにもかかわらず、透明性にも優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る帯電防止性積層体の一実施形態例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る帯電防止性積層体の他の実施形態例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る帯電防止性積層体の他の実施形態例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1,1a,1b 帯電防止性積層体
2 基材
3 帯電防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、可溶性導電性高分子成分を含有する帯電防止層とを有し、
可溶性導電性高分子成分には、分子内にアニオン基及び/又は電子吸引性基を有する可溶化高分子成分と、導電性高分子成分とが含まれることを特徴とする帯電防止性積層体。
【請求項2】
帯電防止層がさらにバインダ樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の帯電防止性積層体。
【請求項3】
バインダ樹脂が熱接着性樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の帯電防止性積層体。
【請求項4】
基材の表面が親水化処理されていると共に、可溶性導電性高分子成分とバインダ樹脂とが水溶性であることを特徴とする請求項2または3に記載の帯電防止性積層体。
【請求項5】
可溶性導電性高分子成分が、さらにドーパントを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の帯電防止性積層体。
【請求項6】
可視光透過率が85%以上で表面帯電圧が0.5kV以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の帯電防止性積層体。
【請求項7】
基材及び帯電防止層以外の他の層を有し、帯電防止層が表層に配置されていないことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の帯電防止性積層体。
【請求項8】
可溶化高分子成分がアニオン基を有する場合、そのアニオン基が塩を形成していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の帯電防止性積層体。
【請求項9】
可溶性導電性高分子成分を含有する帯電防止性樹脂塗料を基材に塗布する帯電防止性積層体の製造方法であって、
可溶性導電性高分子成分が、分子内にアニオン基及び/又は電子吸引性基を有する可溶化高分子成分と、導電性高分子成分とを含むことを特徴とする帯電防止性積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の帯電防止性積層体を有することを特徴とする包装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−56034(P2006−56034A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237569(P2004−237569)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】