説明

常時噛合式の内燃機関の始動装置

【課題】常時噛合式の始動装置において、シリンダブロック2のオイルシールハウジング16が厚みが均一でない円筒形状であっても、常時噛合式機構を有さない内燃機関とシリンダブロックを共有でき、軸受のフリクションロスを防止することのできる常時噛合式の内燃機関の始動装置を提供する。
【解決手段】アウターレース部材40、リングギア31、一方向クラッチ21を有する常時噛合式の始動装置において、シリンダブロック2のオイルシールハウジング16に軸受支持部材41が圧入されており、リングギア31は軸受支持部材41上の軸受に回転可能に支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動装置に関する。特に常時噛合式機構を有する内燃機関の始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料消費量の低減や排気エミッションの低減のため、車両停止などの所定の条件を満たすと内燃機関を停止する、いわゆるアイドリングストップ制御を行う内燃機関が増えてきている。またこのようなアイドリングストップ制御を行う内燃機関の始動装置として、始動時にスタータのピニオンギアがリングギアに飛び込む、飛び込み式の始動装置に代えて、ピニオンギアがリングギアと常時噛合う、常時噛合式の始動装置が知られている。
【0003】
常時噛合式の始動装置においては、内燃機関のクランク軸からの回転がリングギアを通じてスタータのピニオンギアに伝達されないようにしなければならないため、シリンダヘッドとクランクシャフトの間に常時噛合式機構を備えている。すなわち、リングギアは軸受を介してクランク軸に接続され、さらに、クランク軸と連動して回転するクランク軸側部材とリングギアとの間に一方向クラッチが設けられている。この軸受と一方向クラッチによって、始動時には一方向クラッチが噛合ってリングギアの回転トルクがクランク軸に伝達されるが、内燃機関の完爆後には一方向クラッチの噛合いが外れて、クランク軸のみが回転するようになっている。
【0004】
上記のような常時噛合式機構を有する内燃機関は、常時噛合式機構を有さない内燃機関に比べて、部品点数が多くなるため、製造コストが増大する。そのため、シリンダブロックやクランク軸などについては、常時噛合式機構を内燃機関と共有し、コストの増大を抑制することが望ましい。
【0005】
また、上記のような常時噛合式の始動装置は、リングギアとクランク軸の間に軸受が設けられているため、クランク軸の回転によって軸受が回転し、フリクションロスを発生させていた。
【0006】
これらの問題を解決する機構として、オイルシールハウジングの外周部を厚みが均一な円筒形状にし、軸受を支持する軸受支持部を形成する機構が知られている(例えば、特許文献1)。この始動装置では、一方向クラッチ及び軸受にグリース封入型のものを用いることで、エンジンオイルによる潤滑を不要とし、シリンダブロックとクランク軸の間に、オイルシールが設けられている。そのため、常時噛合式機構を有しない内燃機関とシリンダブロック、クランク軸の共有が可能である。また、シリンダヘッドのオイルシールハウジング上の軸受はクランク軸の回転によって回転しないため、フリクションロスの発生も抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
特許文献1:特開2007−32498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記構成のようにシリンダブロックのオイルシールハウジングを厚みが均一な円筒形状にし、軸受を支持することは、かえってコストの増大を招く可能性がある。通常、シリンダヘッドは鋳造によって形成されるが、厚みが均一な円筒形状のオイルシールハウジングを鋳造によって形成すると、型から抜けづらくなる。また、鋳造の型から抜けやすいように、テーパや段差等を設けた厚みが非均一な円筒形状のオイルシールハウジングを形成し、その後、切削等の加工により、厚みが均一な円筒形状を作る場合にも、加工のコストが必要となる。
【0009】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、常時噛合式機構の有無によらずシリンダブロックの共有が可能であって、かつ、クランク軸の回転による軸受のフリクションロスの発生を低減することのできる常時噛合式の内燃機関の始動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、始動用スタータのピニオンギアと常時噛合うリングギアと、クランク軸に連動して回転するクランク軸側部材と、前記リングギアと前記クランク軸側部材との間に設けられ、前記リングギアが前記スタータに駆動されて回転する時に、前記クランク軸側部材へトルクを伝達する一方向クラッチと、リングギアを回転可能に支持する軸受と、を有する常時噛合式の内燃機関の始動装置であって、金属環を有するオイルシールが、内燃機関のシリンダブロックと前記クランク軸の間に設けられ、かつ該金属環が前記軸受を支持する軸受支持部を有することを特徴とする常時噛合式の内燃機関の始動装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリンダブロックのオイルシールハウジングの厚みが均一でない場合であっても、常時噛合式機構の有無によらずシリンダブロックの共有が可能であって、かつ、クランク軸の回転による軸受のフリクションロスの発生を低減することのできる常時噛合式の内燃機関の始動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態における内燃機関の始動装置の断面図である。
【図2】本発明の実施形態におけるオイルシールの拡大図である。
【図3】常時噛合式機構を有しない内燃機関の機構を示す参考図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態における常時噛合式の内燃機関の始動装置の断面図であり、内燃機関の後端部周辺の縦断面を模式的に示したものである。
内燃機関のシリンダブロック2の下方にはラダービームによって、回転可能に支持されたクランク軸11が配置されている。クランク軸11の後端には、フライホイール13及びクランク軸側部材たるアウターレース部材40が固定されている。また、アウターレース部材40は一方向クラッチ21を介してリングギア31に接続されており、リングギア31の回転がクランク軸11に伝達可能になっている。
【0014】
シリンダブロック2には、シリンダブロック2とクランク軸11との間から、エンジンオイルが流出することを防止するオイルシール17を保持するための、オイルシールハウジング16が形成されている。オイルシールハウジング16の外周部は、シリンダブロック2を鋳造によって形成する場合に型から抜けやすいようにテーパ形状となっている。また、オイルシールハウジング16の内周面はクランク軸11と同軸の円形状になっている。
【0015】
フライホイール13は略円板形状であって、中心部が円形に開口している。アウターレース部材40に接触している面の反対側には、変速機に回転力を伝達するためのクラッチ機構として、リング状のクラッチディスク14が設けられている。
【0016】
アウターレース部材40は略円板形状であって、中心部が円形に開口している。フライホイール13と共に、開口部周辺において、クランク軸11にボルト8にて締結されている。そのため、クランク軸11、フライホイール13、アウターレース部材40は連動して回転する。また、アウターレース部材40の外周部周辺には一方向クラッチ21のアウターレース40aが形成されている。
リングギア31は中心部が大きく開口し、開口部周辺に屈曲部を有する略円板形状である。リングギア31の外周部周辺には、ギア部31aが形成されており、スタータのピニオンギア30と常時噛合っている。また、リングギア31の屈曲部には、一方向クラッチ21のインナーレース31bが形成されている。
【0017】
一方向クラッチ21は、上記のアウターレース40aと、インナーレース31b及び、これらの間に設けられたスプラグによって構成されている。このスプラグはスタータによって、リングギア31が駆動されるとき噛み合って、リングギア31の回転トルクをインナーレース31bからアウターレース40aへ伝達する。一方、アウターレース40aの回転速度がインナーレース31bよりも速くなると噛合いが開放され、回転トルクを伝達しないようになっている。
オイルシール17はゴム部17b及び、金属環17aよりなり、シリンダブロック2とクランク軸11の間に圧入されている。オイルシール17の金属環17aはオイルシールハウジング16とクランク軸11の間にオイルシールを保持するための保持部17cと、オイルシールハウジング16の径方向の外側に軸受を支持する軸受支持部17dとを有している。
【0018】
すなわち、金属環17aはオイルシールハウジング16の末端よりも突出し、オイルシールハウジング16よりも径方向の外側に延びたところで、前方に屈曲している。この屈曲部が軸受支持部17dとして、玉軸受15を支持している。玉軸受15は、軸受支持部材41とは相対回転可能に、リングギア31を支持している。
次に、内燃機関の始動時におけるこれら始動装置の挙動について説明する。内燃機関に始動要求があると、まず図示しないスタータモータによって、スタータのピニオンギア30が回転される。この回転はピニオンギア30と噛合うリングギア31に伝達される。リングギア31が正方向に回転するとインナーレース31bとアウターレース40aの間で、一方向クラッチ21のスプラグが噛合い、アウターレース部材40を回転させる。
上記のようにアウターレース部材40とクランク軸11とは連動して回転するように締結されているため、クランク軸11はアウターレース部材40と共に回転させられる。
一方、内燃機関の完爆によって、クランク軸11の回転速度がリングギア31よりも速くなった場合には、一方向クラッチ21のスプラグの噛合いが開放される。そのため、アウターレース40aからインナーレース31bへは回転が伝達されないようになっている。
次に、常時噛合式機構を有しない内燃機関の機構について、内燃機関の後端部の縦断面の模式図である図3を用いて説明する。
内燃機関のシリンダブロック200の下方にはラダービームによって、回転可能に支持されたクランク軸1100が配置されている。またクランク軸1100の後端には、フライホイール1300及が固定されている。
【0019】
シリンダブロック200には、シリンダブロック200とクランク軸1100との間から、エンジンオイルが流出することを防止するオイルシール1700を保持するための、オイルシールハウジング1600が形成されている。オイルシールハウジング1600の外周部は、シリンダブロック200を鋳造によって形成する場合に型から抜けやすいようにテーパ形状となっている。
【0020】
フライホイール1300は略円板形状であって、中心部が円形に開口している。フライホイールの後端面には変速機に回転力を伝達するためのクラッチ機構として、リング状のクラッチディスク1400が設けられている。フライホイール1300にはリングギア3100のギア部3100aが形成されており、内燃機関に始動要求があると、図示しないスタータモータによって、ピニオンギア3000が回転するとともに、ギア部3100aと噛合う位置まで押し出される。これによってフライホイール1300、クランク軸1100が回転させられ始動する。始動後には、ピニオンギア3000はギア部3100と噛合わない位置に戻るようになっている。
【0021】
以上説明するように、常時噛合式機構を有する内燃機関のシリンダヘッド2と、常時噛合式機構を有さない内燃機関のシリンダヘッド200は同一の形状となっている。
本実施の形態にかかる常時噛合式の内燃機関の始動装置によれば以下の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、玉軸受15はオイルシール17の金属環17aの軸受支持部材41によって支持されている。そのため、始動完了後にリングギア31が停止し、クランク軸11が回転しているときには、玉軸受15が停止している。そのためフリクションロスの発生を低減することができる。また、オイルシールハウジング16の外周部がテーパ状であっても、玉軸受15を支持可能であり、常時噛合式機構を有さない内燃機関とシリンダヘッド2を共有することができ、コストの増大を抑制することができる。
【0022】
(2)本実施形態以外にも、上記課題を解決するものとして、オイルシールハウジングとオイルシールの間に、軸受支持部を有する軸受支持部材を圧入することで、リングギアの軸受支持部を形成することが考えられる。
【0023】
しかしながら、このような場合には、クランク軸とシリンダブロックの間からエンジンオイルが漏れる可能性が高くなる場合がある。すなわち、従来、シール面がオイルシールハウジングとクランク軸間の一面であったのに対し、上記構成では、シール面が、オイルシールハウジングと軸受支持部材間、軸受支持部材とクランク軸間の二面になったために、オイル漏れの可能性が高くなる。
【0024】
この点、本実施形態では、オイルシール面は、クランク軸11とオイルシールハウジング16の間のみであり、オイルシール面を増加させない。
【0025】
(3)本実施形態では、軸受支持部17dは、オイルシールハウジング16の末端より突出し、オイルシールハウジング16よりも径方向の外側においてシリンダブロック2側へ屈曲して形成されている。これにより、シリンダヘッド2とフライホイール13の距離を大きくすることなく、常時噛合式機構を搭載することができる。
(4)本実施形態では、オイルシールハウジング16はクランク軸11と同軸になるように形成されているため、オイルシール17を利用して軸受支持部17dを形成することにより、リングギア31とクランク軸11とを同軸にすることができる。
【0026】
なお、本実施の形態にかかる常時噛合式の内燃機関の始動装置は以下のような態様で実施することもできる。
【0027】
・本実施形態では、一方向クラッチ21としてスプラグを用いたものを示したが、一方向クラッチ21の態様はこれに限られるものではない。例えばラチェット機構などを有したものでもよく、一方向の回転のみを伝達できるものであれば良い。
・本実施形態では、オイルシールハウジング16の形状として、テーパ形状を外周部に有するものを示したが、オイルシールハウジング16の形状はこの限りでない。例えば段差形状を有するものなど、軸受を支持するために加工が必要な形状であれば、本発明の効果を得ることができる。
・本実施形態では、オイルシール17の金属環17aはオイルシールハウジング16の末端より突出し、かつオイルシールハウジング16よりも径方向の外側において、シリンダブロック2側へ屈曲した例を示したが、請求項1に言う軸受支持部はこの形態に限らない。例えば、単に金属環17aがオイルシールハウジング16より突出しており、突出部に軸受15が支持されていてもよい。
・本実施形態では、フライホイール13を有するものを用いたが、クランク軸11の回転を変速機に伝える機構については他の機構を用いてもよい。例えば、トルクコンバータと連動するドライブプレートなどを用いても良い。
【0028】

・本実施形態では、シリンダブロック2とクランク軸11の間にラダービームを有する例を示したが、クランクキャップのみによってクランク軸11が支持されているものに本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0029】
2・・・シリンダブロック、8・・・ボルト、11・・・クランク軸、13・・・フライホイール、14・・・クラッチディスク、15・・・玉軸受、16・・・オイルシールハウジング、17・・・オイルシール、17a・・・金属環、17b・・・ゴム部、17c・・・保持部、17d・・・軸受支持部、21・・・一方向クラッチ、30・・・ピニオンギア、31・・・リングギア、31a・・・ギア部、31b・・・インナーレース、40・・・アウターレース部材、40a・・・アウターレース、200・・・シリンダブロック、800・・・ボルト、1100・・・クランク軸、1300・・・フライホイール、1400・・・クラッチディスク、1600・・・オイルシールハウジング、1700・・・オイルシール、3000・・・ピニオンギア、3100・・・リングギア、3100a・・・ギア部























【特許請求の範囲】
【請求項1】
始動用スタータのピニオンギアと常時噛合うリングギアと、
クランク軸に連動して回転するクランク軸側部材と、
前記リングギアと前記クランク軸側部材との間に設けられ、前記リングギアが前記スタータに駆動されて回転する時に前記クランク軸側部材へトルクを伝達する一方向クラッチと、
リングギアを回転可能に支持する軸受と、
内燃機関のシリンダブロックと前記クランク軸との間に設けられ、金属環を有するオイルシールと、
前記金属環が前記軸受を支持する軸受支持部と
を有することを特徴とする常時噛合式の内燃機関の始動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の常時噛合式の内燃機関の始動装置であって、
前記金属環の前記軸受支持部は、前記オイルシールを保持するオイルシールハウジングの径方向外側に設けられていること
を特徴とする常時噛合式の内燃機関の始動装置。




















【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−82717(P2012−82717A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227626(P2010−227626)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】