説明

常用兼駐車ブレーキ装置

【課題】 駐車ブレーキ性能が良好でシリンダ軸方向にて小型化が可能な常用兼駐車ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 常用兼駐車ブレーキ装置Aは、シリンダ17a内に液圧室R1を形成するピストン19、ピストン19により押動されてディスクロータ11を制動するブレーキライニング13aを備えるとともに、ピストン19の外周にてシリンダ17aに同軸的に組付けられた楔部材25と第2のピストン29を備えている。楔部材25は、シリンダ軸方向にて移動可能であり、定位置から液圧室R1側の移動位置に移動することにより、シリンダ17aの周壁面S1とピストン19の外周面S2に圧接係合して、ピストン19をシリンダ17aに対して固定する。第2のピストン29は、楔部材25を定位置から移動位置に移動させることが可能であり、その動作を切換弁33によって制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のブレーキ装置として採用可能で、常用ブレーキとして使用されるときは勿論のこと、駐車ブレーキとして使用されるときにおいても、液圧によりブレーキ力を発生させることが可能であり、また、駐車ブレーキとして使用されるときには機械的に固定されてブレーキ力が維持されるように構成した常用兼駐車ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の常用兼駐車ブレーキ装置は、例えば、下記の特許文献1に記載されていて、シリンダにシリンダ軸方向にて移動可能に組付けられて、同シリンダ内に液圧室を形成し液圧室に向けて開口しているカップ状のピストンと、このピストンが前記液圧室に供給されるブレーキ液によって押動されることにより押動されて被制動回転体に係合し、同被制動回転体を制動するブレーキライニングを備えるとともに、前記ピストン内に設けられて前記シリンダの底壁に固定された円錐台ブロックと、この円錐台ブロックと前記ピストンの底部間に設けられてシリンダ軸方向に移動可能な第2のピストンと、この第2のピストンの外周部に径外方には移動可能でシリンダ軸方向には移動不能に取付けられ前記円錐台ブロックの円錐面を囲むように配列された複数の楔部材と、前記第2のピストンからその軸心に沿って延びて前記円錐台ブロックを貫通しさらにその先端が前記シリンダの外部に突出するピストン軸と、このピストン軸の先端に当接して前記第2のピストンのストロークを規制するカム手段を備えている。
【特許文献1】特公昭61−5017号公報
【0003】
上記した特許文献1の常用兼駐車ブレーキ装置においては、駐車ブレーキとして使用されるとき、液圧室に供給されるブレーキ液によってピストンがシリンダ軸方向に押動されることにより、ブレーキライニングが押動されて被制動回転体に係合し、被制動回転体が制動される。また、液圧室に供給されるブレーキ液によって、第2のピストンとピストン軸がピストンとは逆方向に押動されて、楔部材がピストンの内周面に圧接係合するとともにシリンダに固定された円錐台ブロックの円錐面に圧接係合することにより、ピストンがシリンダに対して機械的に固定されて、ブレーキライニングによる被制動回転体のブレーキ力(制動力)が維持される。
【0004】
ところで、上記した特許文献1の常用兼駐車ブレーキ装置においては、楔部材をピストンとは逆方向に押動する第2のピストンとピストン軸の受圧面積(液圧室に供給されるブレーキ液の圧力を受ける面積)がピストンや円錐台ブロックの大きさにより制限されて大きくとれないことがあって、ブレーキ液によるピストンの押動方向とは逆方向に楔部材を押動する押動力を十分に確保することができないことがある。また、当該ブレーキ装置では、シリンダの外部に突出するピストン軸の先端に対応してカム手段を配置する必要があって、シリンダ軸方向の長さが長くなるおそれがあり、搭載性を損ねるおそれがある。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、シリンダにシリンダ軸方向にて移動可能に組付けられて、同シリンダ内に液圧室を形成するピストンと、このピストンが前記液圧室に供給されるブレーキ液によって押動されることにより同ピストンによって押動されて被制動回転体に係合し、同被制動回転体を制動するブレーキライニングを備えるとともに、前記ピストンの外周にて前記シリンダにシリンダ軸方向にて移動可能に組付けられて、定位置から前記液圧室側の移動位置に移動することにより、前記シリンダの周壁面に圧接係合するとともに前記ピストンの外周面に圧接係合して、前記ピストンを前記シリンダに対して固定可能な楔部材と、この楔部材に同軸的に設けられて、前記楔部材を定位置から移動位置に移動させることが可能な駆動部材と、この駆動部材の作動を制御する制御手段を備える常用兼駐車ブレーキ装置に特徴がある。
【0006】
本発明による常用兼駐車ブレーキ装置においては、駆動部材により楔部材が定位置に保持されている状態(楔部材がシリンダの周壁面とピストンの外周面に圧接係合していない状態)にて、液圧室にブレーキ液が加圧供給されると、このブレーキ液によりピストンが被制動回転体に向けて押動される。これにより、ブレーキライニングが被制動回転体に向けて押動されて被制動回転体に係合する。したがって、被制動回転体が制動されて、当該ブレーキ装置を常用ブレーキとして作動させることが可能である。なお、当該ブレーキ装置が常用ブレーキとして作動している状態にて、液圧室へのブレーキ液の加圧供給が除かれて除圧されると、ブレーキ液による押動作用が解除されて、ブレーキライニングによる被制動回転体の制動が解除され、上記した常用ブレーキとしての作動が解除される。
【0007】
また、当該ブレーキ装置が常用ブレーキとして作動している状態(ピストンがブレーキ液により押動されて押動状態に保持されている状態)と同様の状態にて、駆動部材により楔部材が定位置から移動位置に移動されると、楔部材がシリンダの周壁面に圧接係合するとともに押動状態のピストンの外周面に圧接係合して同ピストンをシリンダに対して固定する。このため、その後に液圧室へのブレーキ液の加圧供給が除かれても、ピストンは楔部材により押動状態に保持されて、当該ブレーキ装置を駐車ブレーキとして作動させることが可能である。
【0008】
また、当該ブレーキ装置が駐車ブレーキとして作動している状態(ピストンが楔部材により押動状態に保持されている状態)にて、液圧室にブレーキ液が加圧供給されると、ピストンがブレーキ液により押動されて移動するのに伴って、ピストンの外周面に圧接係合している楔部材がピストン間の摩擦係合力により移動位置から定位置に向けて移動する。このため、ピストンとシリンダの楔部材による固定が解除され、その後に液圧室へのブレーキ液の加圧供給が除かれると、ピストンは押動状態を解除されて、上記した駐車ブレーキとしての作動が解除される。
【0009】
ところで、本発明による常用兼駐車ブレーキ装置においては、楔部材がピストンの外周にてシリンダにシリンダ軸方向にて定位置から移動位置に移動可能であり、楔部材を定位置から移動位置に押動する押動力は、ピストンの大きさにより制限されるものではないため、かかる押動力を十分に確保することが可能であり、当該ブレーキ装置の駐車ブレーキ性能を良好とすることが可能である。
【0010】
また、当該ブレーキ装置では、ピストンの外周に組付けられた楔部材を定位置から移動位置に移動させることが可能な駆動部材が、楔部材に対して同軸的に設けられていて、楔部材と駆動部材をピストンの外周に同軸的に配置することが可能であるため、当該ブレーキ装置のシリンダ軸方向長さを長くすることなく構成することが可能であり、シリンダ軸方向の小型化を図って搭載性を向上させることが可能である。
【0011】
また、本発明の実施に際して、前記駆動部材は、前記楔部材よりブレーキライニング側にて前記ピストンと前記シリンダに対してシリンダ軸方向にて移動可能に組付けられて前記ピストンと前記シリンダ間に環状の制御液圧室を形成する環状ピストンであり、前記制御手段は、前記液圧室にブレーキ液を給排可能な液圧回路から分岐されて前記制御液圧室にブレーキ液を給排可能な分岐液圧回路に介装されて、同分岐液圧回路を連通・遮断可能な切換弁を備えていることも可能である。この場合には、液圧室にブレーキ液を給排可能な液圧回路を有効に活用して、楔部材をシリンダ軸方向に移動させる駆動機構をシンプルかつ安価に構成することが可能である。
【0012】
また、本発明の実施に際して、前記環状ピストンは、弾性変形可能な素材によって形成されて一方側にて前記楔部材に当接するバックアップリングと、弾性変形可能な素材によって形成されて前記バックアップリングの他方側に設けられて前記制御液圧室を液密的にシールする環状のシールカップによって構成されていることも可能である。この場合には、バックアップリングとシールカップが弾性変形可能な素材によって形成されていて、その弾性を利用して撓ませることが可能であり、シリンダの縮径部(バックアップリングとシールカップをシリンダに収容保持するための部分)を分割することなく、バックアップリングとシールカップをシリンダに組付けることが可能である。
【0013】
また、本発明の実施に際して、前記楔部材は、前記液圧室側が前記ブレーキライニング側より薄肉となるように形成されていることも可能である。また、前記楔部材は、前記シリンダの円周方向にて複数に分割されていることも可能である。
【0014】
また、本発明の実施に際して、前記制御手段は、前記楔部材が定位置にある状態で、前記液圧室にブレーキ液が供給されてから第1設定時間経過後に、前記液圧室と前記制御液室とが連通するように前記切換弁を制御して駐車ブレーキを作動させ、前記楔部材が移動位置にある状態で、第2設定時間の間に、前記液圧室にブレーキ液が供給されて前記楔部材が移動位置から定位置に向けて移動すべく、前記液圧室と前記制御液室との連通を遮断するように前記切換弁を制御し、前記第2設定時間の経過後に、前記制御液室からブレーキ液を排出すべく、前記液圧室と前記制御液室とが連通するように前記切換弁を制御して駐車ブレーキを解除するように制御することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図4は本発明の第1実施形態を示していて、この第1実施形態においては、ブレーキペダルBPの操作に応じて負圧式ブースタVBによって助勢されるマスタシリンダMCと、スキッドコントロールやトラクションコントロールが可能なブレーキ液圧制御ユニットCUとを備えたブレーキシステムにおいて、左右後輪RL,RRに本発明による常用兼駐車ブレーキ装置Aが採用され、左右前輪FL,FRに通常のディスクブレーキ装置Bが採用されている。
【0016】
常用兼駐車ブレーキ装置Aは、可動キャリパ型ディスクブレーキに本発明を実施したものであり、図2に示したように、ディスクロータ11(図示省略の車輪と一体的に回転する被制動回転体)をディスクロータ11の内側および外側から挟持して制動するインナパッド13およびアウタパッド14が、支持部材であるマウンティング15にロータ軸方向に沿って摺動可能に組付けられている。なお、マウンティング15は、周知のように、ディスクロータ11を跨ぐ形状に形成されていて、ディスクロータ11の内側に配置される図示した内側部分にてインナパッド13をロータ軸方向に沿って摺動可能に支持するとともに車体に組付けられるようになっており、また、ディスクロータ11の外側に配置される図示省略した外側部分にてアウタパッド14をロータ軸方向に沿って摺動可能に支持している。
【0017】
インナパッド13は、ブレーキライニング13aと裏板13bによって構成されていて、ブレーキライニング13aにてディスクロータ11に対して係合・離脱可能であり、マウンティング15にロータ軸方向に沿って摺動可能に組付けた可動キャリパ17のシリンダ17aに組付けたピストン19によって、ディスクロータ11に向けて押動されるように構成されている。一方、アウタパッド14は、ブレーキライニング14aと裏板14bによって構成されていて、ブレーキライニング14aにてディスクロータ11に対して係合・離脱可能であり、可動キャリパ17のリアクション爪部17bによって、ディスクロータ11に向けて押動されるように構成されている。
【0018】
ピストン19は、可動キャリパ17のシリンダ17aに形成した内孔17a1に環状のピストンシール21を介してシリンダ軸方向(ロータ軸方向に略平行である)にて移動可能に組付けられていて、シリンダ17a内にブレーキ液が満たされた液圧室R1を形成している。この液圧室R1は、図1に示したブレーキ液圧回路23の一部を構成する液圧回路23aに接続されている。なお、ピストンシール21は、ピストン19がディスクロータ11に向けて押動される加圧時にロータ側へ変形するように構成されていて、除圧時にはその変形が戻ることによりピストン19を引き戻す機能(リトラクト機能)を有している。
【0019】
また、この第1実施形態においては、可動キャリパ17のシリンダ17aに収容孔部17a2が形成されている。収容孔部17a2は、内孔17a1の一部分を大きくすることにより形成されていて、その内部には、楔部材25、スプリング27および第2のピストン29が組付けられている。また、この第1実施形態においては、液圧回路23aから分岐した分岐液圧回路23bに切換弁33が介装されるとともに、リザーバ35が接続されている。
【0020】
楔部材25は、ピストン19の外周にてシリンダ17aにシリンダ軸方向にて移動可能に組付けられていて、図3および図4にて示したように、ピストン19の周方向(シリンダ17aの円周方向)にて4分割されており、軸方向の一方(液圧室R1側)が他方(ブレーキライニング13a側)に比して薄肉となるように形成されている。この楔部材25は、定位置(図2に示した位置)にあるとき、シリンダ17aの収容孔部17a2に形成されたテーパー状周壁面S1から離間していて、シリンダ17aのテーパー状周壁面S1とピストン19の円筒状外周面S2に圧接係合しておらず、ピストン19をシリンダ17aに対してシリンダ軸方向に移動可能としている。また、楔部材25は、定位置(図2に示した位置)から液圧室R1側の移動位置(図5に示した位置)に移動することにより、シリンダ17aのテーパー状周壁面S1に圧接係合するとともに、ピストン19の円筒状外周面S2に圧接係合して、ピストン19をシリンダ17aに対して固定可能である。
【0021】
スプリング27は、シリンダ17aの収容孔部17a2の端部と楔部材25の薄肉側端部間に介装されていて、楔部材25を定位置に向けて付勢している。第2のピストン29は、シリンダ17aに弾性変形可能な環状のシールリング28a、28bとともに楔部材25に対して同軸的に設けられていて、楔部材25を定位置に保持することが可能であるとともに定位置から移動位置に移動させることが可能な駆動部材である。この第2のピストン29は、弾性変形可能な樹脂素材によって環状に形成されていて、シールリング28a、28bとともに、その弾性を利用して撓ませることが可能であり、シリンダ17aの縮径部(楔部材25、スプリング27および第2のピストン29等をシリンダ17aに収容保持するための部分であり、ピストンシール31が組付けられている環状部分)を分割することなく、シリンダ17aに組付けることが可能である。
【0022】
また、第2のピストン29は、楔部材25よりブレーキライニング側にて、ピストン19とシリンダ17aに対してシールリング28a、28bを介してシリンダ軸方向にて移動可能に組付けられていて、ピストン19とシリンダ17a間に環状のピストンシール31とによりブレーキ液が満たされた環状の制御液圧室R2を形成している。環状の制御液圧室R2は、分岐液圧回路23bに接続されていて、分岐液圧回路23bを通してブレーキ液を供給・排出可能とされている。
【0023】
切換弁33は、電気制御装置ECUによって通電・非通電を制御される3ポート2位置電磁切換弁であり、液圧室R1にブレーキ液を給排可能な液圧回路23aから分岐されて制御液圧室R2にブレーキ液を給排可能な分岐液圧回路23bに介装されており、液圧室R1と制御液圧室R2とリザーバ35の連通・遮断を切り換えることが可能である。
【0024】
リザーバ35は、切換弁33に接続されていて、切換弁33によって液圧室R1と制御液圧室R2の連通が遮断されているときに、制御液圧室R2から排出されるブレーキ液を収容可能である。なお、リザーバ35に収容されたブレーキ液は、ブレーキ液圧制御ユニットCUから分岐液圧回路23bにブレーキ液が供給されていない状態で切換弁33によって液圧室R1と制御液圧室R2が連通されたときに内蔵したチェック弁33aを通して分岐液圧回路23bに向けて排出されるように構成されている。
【0025】
ブレーキ液圧制御ユニットCUは、車両の走行時に電気制御装置ECUによって作動を周知のように制御されてスキッドコントロールやトラクションコントロールを行うことが可能であるとともに、車両の停止時に駐車ブレーキスイッチSWの操作に基づいて電気制御装置ECUにより切換弁33とともに作動を制御されて、常用兼駐車ブレーキ装置Aの作動を制御可能である。なお、ブレーキ液圧制御ユニットCUの構成は、それ自体周知のものであるため、その説明は省略する。
【0026】
上記のように構成したこの第1実施形態の常用兼駐車ブレーキ装置Aにおいては、駐車ブレーキスイッチSWがOFFとされていて、常用ブレーキとして使用されるときには、図2に示したように、切換弁33が非通電状態とされていて、液圧室R1と制御液圧室R2が連通を遮断されており、スプリング27と第2のピストン29により楔部材25は定位置に保持されていてピストン19をシリンダ17aに対してシリンダ軸方向に移動可能としている。
【0027】
このため、ブレーキ液圧制御ユニットCUから液圧回路23aを通して液圧室R1にブレーキ液が加圧供給されると、液圧室R1に加圧供給されるブレーキ液により、ピストン19がピストンシール21,31をロータ側へ変形させながら、インナパッド13とともにディスクロータ11に向けてシリンダ軸方向に押動される。これにより、インナパッド13のブレーキライニング13aがディスクロータ11に向けて押動されてディスクロータ11に押圧係合するとともに、その反力により、可動キャリパ17がインナ側に押動されて、可動キャリパ17のリアクション爪部17bがアウタパッド14をディスクロータ11に向けてシリンダ軸方向に押動し、アウタパッド14のブレーキライニング14aがディスクロータ11に向けて押動されてディスクロータ11に押圧係合する。
【0028】
したがって、このときには、両パッド13,14のブレーキライニング13a,14aがディスクロータ11に押圧係合することによって発生する力が、両パッド13,14を支持するマウンティング15によって受け止められて、ディスクロータ11の回転を妨げるブレーキ力を発生させ、当該ブレーキ装置を常用ブレーキとして作動させることが可能である。この制動状態では、可動キャリパ17等の構成部材がブレーキ液の加圧供給に応じて撓み変形していて、制動解除時には可動キャリパ17等構成部材の撓み変形が戻ることによってもリトラクト機能が得られる。
【0029】
また、ブレーキ液圧制御ユニットCUから液圧室R1へのブレーキ液の加圧供給が除かれて除圧されると、ピストンシール21,31の上記した変形が戻ることにより得られるリトラクト機能と可動キャリパ17等構成部材の撓み変形が戻ることにより得られるリトラクト機能により、ピストン19がインナ側に移動するとともに、可動キャリパ17がアウタ側に移動して、両パッド13,14のディスクロータ11への押動・押圧が除かれる。これにより、両パッド13,14のブレーキライニング13a,14aによるディスクロータ11の回転制動が解除され、上記した常用ブレーキとしての作動が解除される。
【0030】
また、この第1実施形態の常用兼駐車ブレーキ装置Aにおいては、駐車ブレーキスイッチSWがOFFとされている状態からONとされて、駐車ブレーキとして使用されるときには、駐車ブレーキスイッチSWがONとされた時点から設定時間T1の間に、ブレーキ液圧制御ユニットCUが電気制御装置ECUにより加圧制御状態とされて、ブレーキ液圧制御ユニットCUから両常用兼駐車ブレーキ装置Aに所定量のブレーキ液が加圧供給されるとともに、設定時間T1における前半の設定時間Taでは切換弁33が電気制御装置ECUにより非通電状態とされ、後半の設定時間Tb(T1−Ta)では切換弁33が電気制御装置ECUにより通電状態とされる。また、設定時間T1後には、ブレーキ液圧制御ユニットCUが電気制御装置ECUにより非加圧制御状態とされるとともに、切換弁33が電気制御装置ECUにより非通電状態とされる。
【0031】
このため、駐車ブレーキスイッチSWがONとされた時点から設定時間Taの間では、制御液圧室R2にブレーキ液が加圧供給されない状態で、液圧室R1にブレーキ液が加圧供給される。このため、ピストン19がピストンシール21,31をロータ側へ変形させながら、ディスクロータ11に向けてシリンダ軸方向に押動されて、インナパッド13をディスクロータ11に押動押圧するとともに、その反力により、可動キャリパ17がインナ側に押動されて、可動キャリパ17のリアクション爪部17bがアウタパッド14をディスクロータ11に押動押圧する作動が得られて、当該ブレーキ装置が常用ブレーキとして作動している状態と同様の状態となる。
【0032】
また、設定時間Taが経過した後の設定時間Tbの間では、液圧室R1にブレーキ液が加圧供給されている状態(ピストン19がブレーキ液により押動されて押動状態に保持されている状態)にて、制御液圧室R2にブレーキ液が加圧供給される。このため、第2のピストン29が液圧室R1側に向けて移動し、この第2のピストン29の移動により楔部材25がスプリング27の付勢力に抗して定位置から移動位置に移動される。かかる状態では、図5に示したように、楔部材25がシリンダ17aのテーパー状周壁面S1に圧接係合するとともに、押動状態のピストン19の円筒状外周面S2に圧接係合して、ピストン19をシリンダ17aに対して固定する。
【0033】
また、設定時間T1が経過した後では、液圧室R1と制御液圧室R2に加圧供給されたブレーキ液が除圧排出される。このため、ブレーキ液によるピストン19の押動と第2のピストン29の押動が解除される。また、このときには、液圧室R1からブレーキ液が除圧排出されることに伴って、上記した可動キャリパ17等構成部材の撓み変形の残存量に応じた軸力(シリンダ軸方向の圧縮作用力)がピストン19に作用して、ピストン19と楔部材25間に生じる摩擦係合力によりスプリング27の付勢力に抗して楔部材25が移動位置に保持される。このため、液圧室R1と制御液圧室R2からブレーキ液が除圧排出された状態でも、ピストン19は押動状態に保持されて、当該ブレーキ装置Aを駐車ブレーキとして作動させることが可能である。
【0034】
また、この第1実施形態の常用兼駐車ブレーキ装置Aにおいて、駐車ブレーキスイッチSWがONとされている状態からOFFとされて、駐車ブレーキの作動が解除されるときには、駐車ブレーキスイッチSWがOFFとされた時点から設定時間T2の間に、切換弁33が非通電状態に維持された状態で、電気制御装置ECUによりブレーキ液圧制御ユニットCUが制御されてブレーキ液圧制御ユニットCUから両常用兼駐車ブレーキ装置Aに所定量のブレーキ液が加圧供給される。また、設定時間T2後には、ブレーキ液圧制御ユニットCUが電気制御装置ECUにより非加圧制御状態とされるとともに、切換弁33が電気制御装置ECUにより設定時間T3通電状態とされ、設定時間T3後には、切換弁33が電気制御装置ECUにより非通電状態とされる。
【0035】
このため、駐車ブレーキスイッチSWがOFFとされた時点から設定時間T2の間では、液圧室R1にブレーキ液が加圧供給されることに伴って、上記した可動キャリパ17等構成部材の撓み変形の残存量に応じた軸力(シリンダ軸方向の圧縮作用力)に抗した押動力がピストン19に作用して、ピストン19と楔部材25間に生じる摩擦係合力とスプリング27の付勢力により第2のピストン29と楔部材25が移動位置から定位置に向けてシリンダ軸方向に移動する。なお、このときには、第2のピストン29がシリンダ軸方向に移動することに伴って、制御液圧室R2からリザーバ35に向けてブレーキ液が流動する。
【0036】
また、設定時間T2が経過した後では、設定時間T3の間に、液圧室R1に加圧供給されたブレーキ液が除圧排出されるとともに、制御液圧室R2とリザーバ35に残存しているブレーキ液が除圧排出され、設定時間T3が経過した後では、切換弁33が電気制御装置ECUにより非通電状態とされる。このため、このときには、各構成部材が図2の状態に戻って、上記した駐車ブレーキとしての作動が解除される。
【0037】
ところで、この第1実施形態の常用兼駐車ブレーキ装置Aにおいては、楔部材25がピストン19の外周にてシリンダ17aにシリンダ軸方向にて定位置から移動位置に移動可能であり、楔部材25を定位置から移動位置に押動する押動力は、ピストン19の大きさにより制限されるものではないため、かかる押動力を十分に確保することが可能であり、当該ブレーキ装置Aの駐車ブレーキ性能を良好とすることが可能である。
【0038】
また、この第1実施形態の常用兼駐車ブレーキ装置Aにおいては、ピストン19の外周に組付けられた楔部材25を定位置から移動位置に移動させることが可能な第2のピストン29が楔部材25に同軸的に設けられていて、楔部材25と第2のピストン29をピストン19の外周に同軸的に配置することが可能であるため、当該ブレーキ装置Aのシリンダ軸方向長さを長くすることなく構成することが可能であり、シリンダ軸方向の小型化を図って、搭載性を向上させることが可能である。
【0039】
また、この第1実施形態の常用兼駐車ブレーキ装置Aにおいては、第2のピストン29が、楔部材25よりブレーキライニング側にてピストン19とシリンダ17aに対してシリンダ軸方向にて移動可能に組付けられてピストン19とシリンダ17a間にピストンシール31とにより環状の制御液圧室R2を形成する環状ピストンであり、また、第2のピストン29の動作を制御する制御手段が、液圧室R1にブレーキ液を給排可能な液圧回路23aから分岐されて制御液圧室R2にブレーキ液を給排可能な分岐液圧回路23bに介装されて、同分岐液圧回路23bを連通・遮断可能な切換弁33を備えている。このため、液圧室R1にブレーキ液を給排可能な液圧回路23aを有効に活用して、楔部材25をシリンダ軸方向に移動させる駆動機構をシンプルかつ安価に構成することが可能である。
【0040】
上記した第1実施形態においては、第2のピストン29とシールリング28a、28bを、弾性変形可能な素材によって形成して、その弾性を利用して撓ませることにより、シリンダ17aの縮径部を分割することなく、シリンダ17aに組付けることが可能としたが、図6に示した第2実施形態のように、シリンダ17aの縮径部を分割可能として実施することも可能である。この場合には、分割可能部17a3にシールリング(図示省略)を介在させる必要があるが、第2のピストン29を金属等の硬質素材にて形成することが可能である。また、この場合には、スプリング27、楔部材25およびシールリング28a、28bを組付けた第2のピストン29をシリンダ17aの収容孔部17a2に容易に組付けることが可能である。
【0041】
また、上記した第1実施形態と第2実施形態においては、スプリング27と楔部材25が、ピストンシール21とシールリング28a、28bおよび第2のピストン29によってシールされてブレーキ液が流入しない部位に、組付けられるようにして、液圧室R1にブレーキ液が加圧供給されている状態にて、制御液圧室R2にブレーキ液が加圧供給されたときに楔部材25が定位置から移動位置に移動するように構成して実施したが、図7に示した第3実施形態のように、第2のピストン29を段付筒状に形成して、この第2のピストン29にシールリング28a、28b、28cを組付けるとともに、ピストンシール21を無くして実施することも可能である。この場合には、ピストンシール21のためのシール溝加工が不要となるとともに、第2のピストン29の段部外周にブレーキ液が流入しない部位を形成することができる。このため、液圧室R1にブレーキ液が加圧供給されている状態にて、制御液圧室R2にブレーキ液が加圧供給されたとき、第2のピストン29の受圧面積差により、第2のピストン29を液圧室R1に移動させて、楔部材25を定位置から移動位置に移動させることが可能である。
【0042】
また、上記した第1実施形態においては、ピストン19とシリンダ17a間にピストンシール31とによりブレーキ液が満たされた環状の制御液圧室R2を形成する環状ピストンが、シールリング28a、28bと第2のピストン29によって構成されているが、この環状ピストンを、図8に示した第4実施形態のように、弾性変形可能な素材によって形成されて一方側にて楔部材25に当接するバックアップリング129と、弾性変形可能な素材によって形成されてバックアップリング129の他方側に設けられて制御液圧室R2を液密的にシールする環状のシールカップ128によって構成することも可能である。この場合には、バックアップリング129とシールカップ128が弾性変形可能な素材によって形成されていて、その弾性を利用して撓ませることが可能であり、シリンダ17aの縮径部を分割することなく、バックアップリング129とシールカップ128をシリンダ17aに組付けることが可能である。
【0043】
また、上記した各実施形態においては、図1に示したように、ブレーキペダルBPの操作に応じて負圧式ブースタVBによって助勢されるマスタシリンダMCと、スキッドコントロールやトラクションコントロールが可能なブレーキ液圧制御ユニットCUとを備えたブレーキシステムに本発明を実施したが、ブレーキペダルの操作に応じて油圧式ブースタによって助勢されるマスタシリンダと、スキッドコントロールやトラクションコントロールが可能なブレーキ液圧制御ユニットとを備えたブレーキシステムに本発明を実施することも可能である。
【0044】
また、上記した各実施形態においては、リザーバ35を設けて本発明を実施したが、本発明はリザーバ35を無くして実施することも可能である。なお、リザーバ35を無くした実施形態では、分岐液圧回路23bでの管路膨張等によってリザーバ35と同様の機能を確保し、切換弁33を2ポート2位置電磁開閉弁として実施する。また、上記各実施形態においては、本発明をディスクブレーキ(被制動回転体がディスクロータであるブレーキ)に実施した例について説明したが、本発明はドラムブレーキ(被制動回転体がブレーキドラムであるブレーキ)にも適宜変更して実施し得るものである。
【0045】
また、上記した各実施形態においては、図3にて例示したように、4個の楔部材25をピストン19の外周に周方向にて等間隔に配置して実施したが、この楔部材の個数は適宜増減して実施し得ることは勿論のこと、図9にて示したように、各楔部材25間に周方向の間隔を保持するガイド26を設けて実施することも可能である。この場合には、各楔部材25の動きを安定させることが可能であり、各楔部材25による楔効果を良好に得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による常用兼駐車ブレーキ装置を含むブレーキシステムの第1実施形態を示す全体構成図である。
【図2】図1に示した常用兼駐車ブレーキ装置の要部拡大断面図である。
【図3】図2に示した常用兼駐車ブレーキ装置のシリンダ、ピストン、楔部材の関係を示す図2の3−3線に沿った断面図である。
【図4】図2および図3に示した楔部材の斜視図である。
【図5】図1および図2に示した常用兼駐車ブレーキ装置が駐車ブレーキとして作動するときの作動説明図である。
【図6】本発明による常用兼駐車ブレーキ装置の第2実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図7】本発明による常用兼駐車ブレーキ装置の第3実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図8】本発明による常用兼駐車ブレーキ装置の第4実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図9】図3に示した楔部材間にガイドを設けた実施形態を示す図3相当の断面図である。
【符号の説明】
【0047】
11…ディスクロータ、13,14…パッド、13a,14a…ブレーキライニング、15…マウンティング、17…可動キャリパ、17a…シリンダ、17b…リアクション爪部、19…ピストン、21…ピストンシール、23…ブレーキ液圧回路、23a…液圧回路、23b…分岐液圧回路、25…楔部材、27…スプリング、29…第2のピストン(駆動部材)、33…切換弁、35…リザーバ、R1…液圧室、R2…制御液圧室、S1…シリンダのテーパー状周壁面、S2…ピストンの円筒状外周面、ECU…電気制御装置、CU…ブレーキ液圧制御ユニット、128…シールカップ、129…バックアップリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダにシリンダ軸方向にて移動可能に組付けられて、同シリンダ内に液圧室を形成するピストンと、このピストンが前記液圧室に供給されるブレーキ液によって押動されることにより同ピストンによって押動されて被制動回転体に係合し、同被制動回転体を制動するブレーキライニングを備えるとともに、
前記ピストンの外周にて前記シリンダにシリンダ軸方向にて移動可能に組付けられて、定位置から前記液圧室側の移動位置に移動することにより、前記シリンダの周壁面に圧接係合するとともに前記ピストンの外周面に圧接係合して、前記ピストンを前記シリンダに対して固定可能な楔部材と、この楔部材に対して同軸的に設けられて、前記楔部材を定位置から移動位置に移動させることが可能な駆動部材と、この駆動部材の動作を制御する制御手段を備える常用兼駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の常用兼駐車ブレーキ装置において、前記駆動部材は、前記楔部材よりブレーキライニング側にて前記ピストンと前記シリンダに対してシリンダ軸方向にて移動可能に組付けられて、前記ピストンと前記シリンダ間に環状の制御液圧室を形成する環状ピストンであり、前記制御手段は、前記液圧室にブレーキ液を給排可能な液圧回路から分岐されて前記制御液圧室にブレーキ液を給排可能な分岐液圧回路に介装されて、同分岐液圧回路を連通・遮断可能な切換弁を備えていることを特徴とする常用兼駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の常用兼駐車ブレーキ装置において、前記環状ピストンは、弾性変形可能な素材によって形成されて一方側にて前記楔部材に当接するバックアップリングと、弾性変形可能な素材によって形成されて前記バックアップリングの他方側に設けられて前記制御液圧室を液密的にシールする環状のシールカップによって構成されていることを特徴とする常用兼駐車ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の常用兼駐車ブレーキ装置において、前記楔部材は、前記液圧室側が前記ブレーキライニング側より薄肉となるように形成されていることを特徴とする常用兼駐車ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の常用兼駐車ブレーキ装置において、前記楔部材は、前記シリンダの円周方向にて複数に分割されていることを特徴とする常用兼駐車ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項2乃至5の何れか一項に記載の常用兼駐車ブレーキ装置において、前記制御手段は、前記楔部材が定位置にある状態で、前記液圧室にブレーキ液が供給されてから第1設定時間経過後に、前記液圧室と前記制御液室とが連通するように前記切換弁を制御して駐車ブレーキを作動させ、前記楔部材が移動位置にある状態で、第2設定時間の間に、前記液圧室にブレーキ液が供給されて前記楔部材が移動位置から定位置に向けて移動すべく、前記液圧室と前記制御液室との連通を遮断するように前記切換弁を制御し、前記第2設定時間の経過後に、前記制御液室からブレーキ液を排出すべく、前記液圧室と前記制御液室とが連通するように前記切換弁を制御して駐車ブレーキを解除するように制御することを特徴とする常用兼駐車ブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−183838(P2006−183838A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380814(P2004−380814)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】