説明

干渉分光光度計

【課題】 外乱の影響を受けることなく正確に試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出することができる干渉分光光度計を提供する。
【解決手段】 往復移動可能な移動鏡262を有する移動鏡ユニット260と、固定鏡85と、赤外光を出射する赤外光源部10と、ビームスプリッタ70と、試料を透過又は反射した光強度情報を検出する干渉光検出部20と、移動鏡262の移動鏡速度情報を検出する移動鏡速度情報検出部30と、光強度情報及び移動鏡速度情報を取得して、試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出する制御部51とを備える干渉分光光度計1であって、目標移動鏡速度範囲を記憶する記憶部52を備え、制御部51は、移動鏡262の移動速度が目標移動鏡速度範囲から外れたときに得られた光強度情報を、試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出する際に採用しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉分光光度計に関し、特にフーリエ変換赤外分光光度計(以下、「FTIR」と略す)に関する。
【背景技術】
【0002】
FTIRに利用されるマイケルソン二光束干渉計では、赤外光源から発した赤外光をビームスプリッタで固定鏡と移動鏡との二方向に分割し、固定鏡で反射して戻ってきた赤外光と移動鏡で反射して戻ってきた赤外光とをビームスプリッタで合成して一つの光路へと送るという構成を有している。このとき、移動鏡を入射光軸方向で前後に移動させると、分割された二光束の光路長の差が変化するから、合成された光は移動鏡の位置に応じて光強度が変化する干渉光信号(インターフェログラム)となる。
【0003】
図6は、従来のFTIRの要部の構成を示す図である。FTIR201は、主干渉計主要部40と、赤外光を出射する赤外光源部10と、試料Sが配置される赤外光検出部20と、移動鏡速度情報検出部30と、コンピュータ250とを備える(例えば、特許文献1参照)。
赤外光源部10は、赤外光を出射する赤外光源と、集光鏡と、コリメータ鏡とを備える。これにより、赤外光源から出射された赤外光は、集光鏡、コリメータ鏡を介して主干渉計主要部40のビームスプリッタ70に照射されるようになっている。
赤外光検出部20は、放物面鏡と、楕円面鏡と、インターフェログラム(IFG信号)を検出する赤外検出器21と、試料Sが配置される試料配置部とを備える。これにより、放物面鏡にて集光された光は、試料Sに照射され、試料Sを透過(又は反射)した光は、楕円面鏡により赤外検出器21へ集光されるようになっている。
【0004】
主干渉計主要部40は、内部空間を有する筐体42を備え、図6の上部に移動鏡ユニット260が配置され、図6の中部にビームスプリッタ70が配置され、図6の下部に固定鏡85を備えた固定鏡ユニット80が配置されている。
図7は、移動鏡ユニット260の縦断面図である。移動鏡ユニット260は、天板264と、底板265と、2個のプレート266、267とを備える。プレート266の上端部は、天板264の下面の左側部と連結されるとともに、プレート266の下端部は、底板265の上面の左側部と連結されている。また、プレート267の上端部は、天板264の下面の右側部と連結されるとともに、プレート267の下端部は、底板265の上面の右側部と連結されている。
これにより、底板265は、プレート266、267を介して、天板264に対して左右方向に移動可能となるように吊るされている。
【0005】
天板264の下面の中央部には、ヨーク268が固定されており、ヨーク268には、マグネット269aとポールピース269bとがボルト270によって固定されている。
底板265の上面の中央部には、イケール271を介してボイスコイル272が固定されている。ボイスコイル272には、導線273が電気的に接続されており、ボイスコイル272はマグネット269aとヨーク268とポールピース269bとにより形成される磁界中を移動するようになっている。
【0006】
底板265の上面の左側には、ミラーホルダ261が固定され、円板状の移動鏡262の中央部が、ミラーホルダ261の上端部に固定されている。これにより、ボイスコイル272に導線273を介して電流を流すと、ボイスコイル272はヨーク268とポールピース269bとの間に形成される磁界によって電磁力を受け、底板265が左右方向に移動することで、移動鏡262も左右方向Mに移動するようになっている。
そして、移動鏡ユニット260の天板264は、ネジやワッシャ263を用いて筐体42に取り付けられている。
【0007】
このような主干渉計主要部40によれば、赤外光源部10から出射された赤外光は、ビームスプリッタ70に照射され、ビームスプリッタ70で固定鏡85と移動鏡262との二方向に分割される。そして、固定鏡85で反射して戻ってきた赤外光と移動鏡262で反射して戻ってきた赤外光とはビームスプリッタ70へ戻り、ビームスプリッタ70で合成されて赤外光検出部20へ向かう光路に送られる。このとき、移動鏡262は入射光軸方向Mで前後に往復動しているため、分割された二光束の光路長の差は周期的に変化し、ビームスプリッタ70から赤外光検出部20へ向かう光は、時間的に振幅が変動するインターフェログラムとなる。そして、試料Sを透過したインターフェログラムは、赤外検出器21へ集光される。図8は、光強度と移動鏡位置との関係の一例を示すIFG信号を示す図である。
【0008】
また、FTIR201には、移動鏡速度情報を検出する移動鏡速度情報検出部30が設けられている。移動鏡速度情報検出部30は、レーザ光を用いた速度情報検出を行っており、レーザ光を出射するHe−Neレーザ光源部31と、レーザ光を反射するハーフミラー32、33と、レーザ光情報を検出するレーザ光検出部34とを備える(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
このような移動鏡速度情報検出部30によれば、He−Neレーザ光源部31から出射されたレーザ光は、ビームスプリッタ70に照射され、ビームスプリッタ70で固定鏡85と移動鏡262との二方向に分割される。そして、固定鏡85で反射して戻ってきたレーザ光と移動鏡262で反射して戻ってきたレーザ光とはビームスプリッタ70へ戻り、ビームスプリッタ70で合成されてレーザ光検出部34へ向かう光路に送られる。このときにも、同様に移動鏡262は入射光軸方向Mで前後に往復動しているため、分割された二光束の光路長の差は周期的に変化し、ビームスプリッタ70からレーザ光検出部34へ向かう光は、時間的に振幅が変動するレーザ干渉光となる。そして、レーザ干渉光は、レーザ光検出部34へ導入される。このレーザ光検出器による検出信号、つまりレーザ光干渉縞信号により、移動鏡262の位置や移動鏡速度Vc等が算出されるようになっている。
【0010】
コンピュータ250は、CPU(制御部)251とメモリ252とを備え、表示装置53と入力装置54とが連結されている。CPU251が処理する機能をブロック化して説明すると、赤外検出器21から光強度情報を取得する光強度情報取得部251aと、レーザ光検出部34から移動鏡速度情報(移動鏡速度Vc等)を取得する移動鏡速度情報取得部251bと、移動鏡ユニット260における移動鏡速度Vcを制御する移動鏡制御部251cと、試料Sの吸光度スペクトルを算出する試料測定部251dとを有する。
【0011】
ところで、赤外検出器21としてDLATGS検出器を使用する場合、DLATGS検出器21は周波数特性を有する。そのため、移動鏡262の移動鏡速度Vcが一定でないと、インターフェログラムの明滅の周波数が一定でなくなり、試料Sの吸光度スペクトルに測定誤差となって現れる。具体的には、バックグランドの測定時の移動鏡262の移動鏡速度Vcと、試料Sの測定時の移動鏡262の移動鏡速度Vcとが異なると、吸光度スペクトルのベースラインの歪みやS/Nの悪化を伴う。また、バックグランドの測定時や試料Sの測定時に、移動鏡262に往復移動を繰り返させることによりIFG信号の積算を行うが、このIFG信号の積算中に移動鏡262の移動鏡速度Vcが変化しても、S/Nの悪化を伴う。
【0012】
そこで、移動鏡262の移動鏡速度Vcが一定となるように、移動鏡制御部251cが、現在の移動鏡速度Vcと目標移動鏡速度Voとの速度誤差(100×(Vc−Vo)/Vo)を求め、移動鏡ユニット260に与える電圧(移動鏡印加電圧)にフィードバックする制御を行っている。これにより、移動鏡速度Vcが目標移動鏡速度Vo(一定)となるようにしている。なお、メモリ252に「目標移動鏡速度Vo」が測定者によって入力装置54を用いて記憶されることになっている。図9は、速度誤差と移動鏡位置との関係の一例を示す速度誤差信号を示す図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−148116号公報
【特許文献2】特開2009−139352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述したようなFTIR201は、フィードバックする制御を行っているが、外乱(振動、騒音)によって移動鏡速度Vcが変動してしまうことがあった。なお、FTIR201は、耐震構造を取った設計を実施しているが、外乱を完全に防止することは不可能である。よって、上述したようなFTIR201では、外乱が起こったときには、正確に試料Sの吸光度スペクトルを算出することができなかった。
そこで、本発明は、外乱が起こって移動鏡速度Vcが一定とならなくても、正確に試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出することができる干渉分光光度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するためになされた本発明の干渉分光光度計は、往復移動可能な移動鏡を有する移動鏡ユニットと、固定鏡と、赤外光を出射する赤外光源部と、前記赤外光源部からの赤外光を受けて、前記固定鏡と移動鏡とに向けて二分割するとともに、前記固定鏡で反射して戻ってきた赤外光と移動鏡で反射して戻ってきた赤外光とを受けて、干渉光に合成するビームスプリッタと、試料が配置され、当該試料を透過又は反射した干渉光の光強度情報を検出する干渉光検出部と、前記移動鏡の移動鏡速度情報を検出する移動鏡速度情報検出部と、前記光強度情報及び移動鏡速度情報を取得して、前記試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出する制御部とを備える干渉分光光度計であって、目標移動鏡速度範囲を記憶する記憶部を備え、前記制御部は、前記移動鏡の移動鏡速度が目標移動鏡速度範囲から外れたときに得られた光強度情報を、前記試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出する際に採用しないようにしている。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の干渉分光光度計によれば、移動鏡の移動鏡速度が目標移動鏡速度範囲から外れたときに得られた光強度情報を、試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出する際に採用しないので、正確に試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出することができる。
【0017】
(その他の課題を解決するための手段および効果)
また、上記課題を解決するためになされた本発明の干渉分光光度計は、往復移動可能な移動鏡を有する移動鏡ユニットと、固定鏡と、赤外光を出射する赤外光源部と、前記赤外光源部からの赤外光を受けて、前記固定鏡と移動鏡とに向けて二分割するとともに、前記固定鏡で反射して戻ってきた赤外光と移動鏡で反射して戻ってきた赤外光とを受けて、干渉光に合成するビームスプリッタと、試料が配置され、当該試料を透過又は反射した干渉光の光強度情報を検出する干渉光検出部と、前記移動鏡の移動鏡速度情報を検出する移動鏡速度情報検出部と、前記光強度情報及び移動鏡速度情報を取得して、前記試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出する制御部とを備える干渉分光光度計であって、移動鏡速度に対する光強度情報の変化を示す相関関数と、目標移動鏡速度とを記憶する記憶部を備え、前記制御部は、前記干渉光検出部で得られた光強度情報を、前記移動鏡速度情報及び相関関数を用いて前記移動鏡の移動鏡速度が目標移動鏡速度であったときに得られる補正光強度情報に補正するようにしている。
【0018】
以上のように、本発明の干渉分光光度計によれば、干渉光検出部で得られた光強度情報を、移動鏡速度情報と相関関数とを用いて移動鏡の移動鏡速度が目標移動鏡速度であったときに得られる補正光強度情報に補正するので、正確に試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出することができる。また、補正するため破棄するデータもないので、時間が長くなることがない。
【0019】
また、上記発明において、前記移動鏡速度情報検出部は、レーザ光を出射するレーザ光源部と、当該レーザ光がビームスプリッタで前記固定鏡と移動鏡とに向けて二分割され、その後、前記固定鏡で反射して戻ってきたレーザ光と移動鏡で反射して戻ってきたレーザ光とのレーザ干渉光を検出するレーザ光検出部とを備え、前記制御部は、前記レーザ干渉光に基づいて、前記移動鏡の移動方向、前記移動鏡の位置及び移動鏡速度とを算出するようにしてもよい。
【0020】
そして、上記発明において、前記制御部は、前記光強度情報、前記移動鏡の移動方向、前記移動鏡の位置及び移動鏡速度に基づいて、前記光強度情報と移動鏡の位置との関係を示す干渉光信号を作成して、前記移動鏡が往復移動を繰り返すことにより、前記干渉光信号を積算していくようにしてもよい。
さらに、上記発明において、前記制御部は、前記移動鏡速度が目標移動鏡速度になるように、前記移動鏡ユニットに与える電圧をフィードバック制御するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態に係るFTIRの要部の構成を示す図。
【図2】IFG信号データの取得方法を説明するフローチャート。
【図3】第二実施形態に係るFTIRの要部の構成を示す図。
【図4】移動鏡速度に対する光強度情報の変化を示す相関関数の一例を示す図。
【図5】IFG信号データの取得方法を説明するフローチャート。
【図6】従来のFTIRの要部の構成を示す図。
【図7】移動鏡ユニットの縦断面図。
【図8】光強度と移動鏡位置との関係の一例を示すIFG信号を示す図。
【図9】速度誤差と移動鏡位置との関係の一例を示す速度誤差信号を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれる。
【0023】
<第一実施形態>
図1は、本発明の第一実施形態に係るFTIRの要部の構成を示す図である。なお、FTIR201と同様のものについては、同じ符号を付している。
FTIR1は、主干渉計主要部40と、赤外光を出射する赤外光源部10と、試料Sが配置される赤外光検出部20と、移動鏡速度情報検出部30と、コンピュータ50とを備える。
【0024】
コンピュータ50は、CPU(制御部)51とメモリ52とを備え、表示装置53と入力装置54とが連結されている。CPU51が処理する機能をブロック化して説明すると、赤外検出器21から光強度情報を取得する光強度情報取得部51aと、レーザ光検出部34から移動鏡速度情報(移動鏡速度Vc等)を取得する移動鏡速度情報取得部51bと、移動鏡ユニット260における移動鏡速度Vcを制御する移動鏡制御部51cと、試料Sの吸光度スペクトルを算出する試料測定部51dと、移動鏡速度判定部51eとを有する。
【0025】
また、メモリ52には、不適切なIFG信号を採用しないようにするための目標移動鏡速度範囲(Vo±A)が予め記憶されている。Aは、任意の定数である。さらに、メモリ52に「目標移動鏡速度Vo」が測定者によって入力装置54を用いて記憶されるようになっている。
【0026】
移動鏡速度判定部51eは、移動鏡速度Vcの絶対値の最大値が目標移動鏡速度範囲(Vo+A)から外れたときに得られた光強度情報を含むIFG信号を、試料Sの吸光度スペクトルを算出する際に採用しないように制御を行う。
ここで、積算回数NmaxのIFG信号となるIFG信号データを取得する取得方法について説明する。図2は、IFG信号データの取得方法について説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS101の処理において、測定者は入力装置54を用いて測定開始信号を入力する。このとき、測定者は、「積算回数Nmax」と「目標移動鏡速度Vo」とを入力してメモリ52に記憶させる。
【0027】
次に、ステップS102の処理において、積算回数パラメータN=1とする。
次に、ステップS103の処理において、移動鏡制御部51cが移動鏡262を移動させることにより、光強度情報取得部51aは光強度情報を取得していくとともに、移動鏡速度情報取得部51bは移動鏡速度情報(移動鏡速度Vc等)を取得していく。そして、光強度と移動鏡位置との関係を示すN回目のIFG信号を作成する(図8参照)。
【0028】
次に、ステップS104の処理において、N回目のIFG信号における移動鏡速度Vcの絶対値の最大値が目標移動鏡速度範囲(Vo+A)内にあるか否かを判定する。移動鏡速度Vcの絶対値の最大値が目標移動鏡速度範囲(Vo+A)内にあると判定したときには、ステップS105の処理において、試料Sの吸光度スペクトルを算出する際にN回目のIFG信号を採用することにする。そして、N=N+1とする。
一方、ステップS104の処理において、N回目のIFG信号における移動鏡速度Vcの絶対値の最大値が目標移動鏡速度範囲(Vo+A)内にないと判定したときには、ステップS106の処理において、試料Sの吸光度スペクトルを算出する際にN回目のIFG信号を採用しないことにする。このとき、N回目のIFG信号を破棄するためN=Nとする。
【0029】
次に、ステップS107の処理において、N=Nmaxであるか否かを判定する。N=Nmaxでないと判定したときには、ステップS103の処理に戻る。つまり、試料Sの吸光度スペクトルを算出する際に採用するIFG信号がNmax個になるまで、ステップS103の処理〜ステップS107の処理が繰り返されることになる。
一方、N=Nmaxであると判定したときには、ステップS108の処理において、Nmax個の適切なIFG信号を取得したので、測定終了信号を出力する。
【0030】
以上のように、FTIR1によれば、移動鏡262の移動鏡速度Vcの絶対値の最大値が目標移動鏡速度範囲(Vo+A)から外れたときに得られた光強度情報を含むIFG信号を、試料Sの吸光度スペクトルを算出する際に採用しないので、正確に試料Sの吸光度スペクトルを算出することができる。
【0031】
<第二実施形態>
図3は、第二実施形態に係るFTIRの要部の構成を示す図である。なお、FTIR201と同様のものについては、同じ符号を付している。
FTIR101は、主干渉計主要部40と、赤外光を出射する赤外光源部10と、試料Sが配置される赤外光検出部20と、移動鏡速度情報検出部30と、コンピュータ150とを備える。
【0032】
コンピュータ150は、CPU(制御部)151とメモリ152とを備え、表示装置53と入力装置54とが連結されている。CPU151が処理する機能をブロック化して説明すると、赤外検出器21から光強度情報を取得する光強度情報取得部151aと、レーザ光検出部34から移動鏡速度情報(移動鏡速度Vc等)を取得する移動鏡速度情報取得部151bと、移動鏡ユニット260における移動鏡速度Vcを制御する移動鏡制御部151cと、試料Sの吸光度スペクトルを算出する試料測定部151dと、補正IFG信号作成部151eとを有する。
【0033】
また、メモリ152には、IFG信号を補正IFG信号に変換するための移動鏡速度に対する光強度情報の変化を示す相関関数と、不適切な光強度情報を採用しないようにするための目標移動鏡速度範囲(Vo±B)とが予め記憶されている。Bは、任意の定数である。図4は、移動鏡速度に対する光強度情報の変化を示す相関関数の一例を示す図である。ここで、IFG信号を補正IFG信号に変換する変換方法について説明する。例えば、目標移動鏡速度Voが2.0mm/sであり、目標移動鏡速度範囲が(Vo±0.4mm/s)であるときに、IFG信号のある1点における移動鏡速度Vcが外乱等により2.5mm/sになったとする。図4に示すように、2.5mm/sであったときに得られる光強度情報は、2.0mm/sであったときに得られる光強度情報に対して、0.86倍になる。よって、この1点に関して、光強度情報を0.86で除算する。これにより、2.5mm/sであったときに得られた光強度情報が、2.0mm/sであったときに得られる光強度情報(補正光強度情報)になる。なお、IFG信号のある1点において補正したが、目標移動鏡速度範囲(Vo±B)を設けず全点において補正してもよい。
【0034】
補正IFG信号作成部151eは、移動鏡速度Vcの絶対値が目標移動鏡速度範囲(Vo+B)から外れたときに得られた光強度情報を、移動鏡速度Vcと相関関数とを用いて移動鏡262の移動鏡速度Vが目標移動鏡速度Voであったときに得られる補正光強度情報に補正することにより、補正IFG信号を作成する制御を行う。
ここで、積算回数Nmaxの補正IFG信号となるIFG信号データを取得する取得方法について説明する。図5は、IFG信号データの取得方法について説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS201の処理において、測定者は入力装置54を用いて測定開始信号を入力する。このとき、測定者は、「積算回数Nmax」と「目標移動鏡速度Vo」とを入力してメモリ52に記憶させる。
【0035】
次に、ステップS202の処理において、積算回数パラメータN=1とする。
次に、ステップS203の処理において、移動鏡制御部151cが移動鏡262を移動させることにより、光強度情報取得部151aは光強度情報を取得していくとともに、移動鏡速度情報取得部151bは移動鏡速度情報(移動鏡速度Vc等)を取得していく。そして、光強度と移動鏡位置との関係を示すN回目のIFG信号を作成する(図8参照)。
【0036】
次に、ステップS204の処理において、N回目のIFG信号において移動鏡速度Vcの絶対値が目標移動鏡速度範囲(Vo+B)から外れたときに得られた光強度情報を、移動鏡速度Vcと相関関数とを用いて移動鏡262の移動鏡速度Vが目標移動鏡速度Voであったときに得られる補正光強度情報に補正する。つまり、補正IFG信号を作成する。そして、N=N+1とする。
【0037】
次に、ステップS205の処理において、N=Nmaxであるか否かを判定する。N=Nmaxでないと判定したときには、ステップS203の処理に戻る。つまり、試料Sの吸光度スペクトルを算出する際に採用する補正IFG信号がNmax個になるまで、ステップS203の処理〜ステップS205の処理が繰り返されることになる。
一方、N=Nmaxであると判定したときには、ステップS206の処理において、Nmax個の補正IFG信号を取得したので、測定終了信号を出力する。
【0038】
以上のように、FTIR101によれば、移動鏡262の移動鏡速度Vcの絶対値が目標移動鏡速度範囲(Vo+B)から外れたときに得られた光強度情報を、移動鏡速度Vcと相関関数とを用いて移動鏡262の移動鏡速度Vが目標移動鏡速度Voであったときに得られる補正光強度情報に補正するので、正確に試料Sの吸光度スペクトルを算出することができる。また、補正するために破棄するデータもないので、時間が長くなることがない。
【0039】
<他の実施形態>
上述したFTIR101において、移動鏡262の移動鏡速度Vcの絶対値が目標移動鏡速度範囲(Vo+B)から外れたときに得られた光強度情報を補正光強度情報に補正する構成としたが、さらに移動鏡262の移動鏡速度Vcの絶対値の最大値が目標移動鏡速度範囲(Vo+A)から外れたときに得られた光強度情報を含むIFG信号を、試料Sの吸光度スペクトルを算出する際に採用しないような構成としてもよい。つまり、速度誤差があまりにも大きい場合には、IFG信号を破棄するような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、フーリエ変換赤外分光光度計等の干渉分光光度計等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 FTIR(干渉分光光度計)
10 赤外光源部
20 赤外光検出部
30 移動鏡速度情報検出部
51 CPU(制御部)
52 メモリ(記憶部)
70 ビームスプリッタ
85 固定鏡
260 移動鏡ユニット
262 移動鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復移動可能な移動鏡を有する移動鏡ユニットと、
固定鏡と、
赤外光を出射する赤外光源部と、
前記赤外光源部からの赤外光を受けて、前記固定鏡と移動鏡とに向けて二分割するとともに、前記固定鏡で反射して戻ってきた赤外光と移動鏡で反射して戻ってきた赤外光とを受けて、干渉光に合成するビームスプリッタと、
試料が配置され、当該試料を透過又は反射した干渉光の光強度情報を検出する干渉光検出部と、
前記移動鏡の移動鏡速度情報を検出する移動鏡速度情報検出部と、
前記光強度情報及び移動鏡速度情報を取得して、前記試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出する制御部とを備える干渉分光光度計であって、
目標移動鏡速度範囲を記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、前記移動鏡の移動鏡速度が目標移動鏡速度範囲から外れたときに得られた光強度情報を、前記試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出する際に採用しないことを特徴とする干渉分光光度計。
【請求項2】
往復移動可能な移動鏡を有する移動鏡ユニットと、
固定鏡と、
赤外光を出射する赤外光源部と、
前記赤外光源部からの赤外光を受けて、前記固定鏡と移動鏡とに向けて二分割するとともに、前記固定鏡で反射して戻ってきた赤外光と移動鏡で反射して戻ってきた赤外光とを受けて、干渉光に合成するビームスプリッタと、
試料が配置され、当該試料を透過又は反射した干渉光の光強度情報を検出する干渉光検出部と、
前記移動鏡の移動鏡速度情報を検出する移動鏡速度情報検出部と、
前記光強度情報及び移動鏡速度情報を取得して、前記試料の吸光度又は透過率スペクトルを算出する制御部とを備える干渉分光光度計であって、
移動鏡速度に対する光強度情報の変化を示す相関関数と、目標移動鏡速度とを記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、前記干渉光検出部で得られた光強度情報を、前記移動鏡速度情報及び相関関数を用いて前記移動鏡の移動鏡速度が目標移動鏡速度であったときに得られる補正光強度情報に補正することを特徴とする干渉分光光度計。
【請求項3】
前記移動鏡速度情報検出部は、レーザ光を出射するレーザ光源部と、当該レーザ光がビームスプリッタで前記固定鏡と移動鏡とに向けて二分割され、その後、前記固定鏡で反射して戻ってきたレーザ光と移動鏡で反射して戻ってきたレーザ光とのレーザ干渉光を検出するレーザ光検出部とを備え、
前記制御部は、前記レーザ干渉光に基づいて、前記移動鏡の移動方向、前記移動鏡の位置及び移動鏡速度とを算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の干渉分光光度計。
【請求項4】
前記制御部は、前記光強度情報、前記移動鏡の移動方向、前記移動鏡の位置及び移動鏡速度に基づいて、前記光強度情報と移動鏡の位置との関係を示す干渉光信号を作成して、
前記移動鏡が往復移動を繰り返すことにより、前記干渉光信号を積算していくことを特徴とする請求項3に記載の干渉分光光度計。
【請求項5】
前記制御部は、前記移動鏡速度が目標移動鏡速度になるように、前記移動鏡ユニットに与える電圧をフィードバック制御することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の干渉分光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−19833(P2013−19833A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154694(P2011−154694)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】