説明

平滑筋前駆細胞

平滑筋前駆細胞の精製された集団、ならびにこれらの細胞の作製法および使用法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、平滑筋前駆細胞、ならびに血管増殖性疾患(vasoproliferative disease)の診断、モニタリング、および治療のために前記細胞を用いる方法に関する。
【0002】
連邦政府の助成による研究に関する記述
本明細書に記述された本研究のための資金援助は、部分的には連邦政府による:国立衛生研究所助成金番号HL-66958 P01-NMC。連邦政府は本発明において一定の権利を持つ。
【0003】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に含まれる2003年6月3日出願の米国特許出願第10/454,004号に対して優先権を主張する。
【背景技術】
【0004】
背景
中程度のサイズの脈管内膜および大きな血管における、血管平滑細胞の遊走、増殖、および基質合成は、成人のヒト患者におけるアテローム性動脈硬化症の発生において主要な役割を果たしていると考えられている。胚において、これらの血管細胞は、初期の血管と心臓弁の発生の間に分化転換した(trans-differentiated)内皮に由来する、内皮の管を取り囲んでいる初期の平滑筋細胞と共に、複雑な起源を持つ。幾つかの成長因子は胚性平滑筋細胞の分化に関係しており、成長因子β1、β3、および血小板由来成長因子BB(PDGF-BB)を含む。
【0005】
任意の循環している平滑筋前駆細胞の表現型を理解することは、血管壁へのこれらの細胞のホーミング(homing)を調節するような治療法の発達に密接に関係する可能性がある。例えばインビボの特定部位へ血液由来前駆細胞をホーミングする際に重要であることが知られているインテグリンのような、特定の表面接着分子の同定は、後者を理解するのに本質的である。
【発明の開示】
【0006】
概要
平滑筋増殖細胞(smooth muscle outgrowth cell)(SOC)と称され、平滑筋様の細胞に分化できる、ヒト末梢血中の平滑筋前駆細胞(SPC)の同定に本発明は基づいている。特に、SPCは血小板由来成長因子(PDGF)強化培地中の存在下でSOCへ分化する。PDGF-BB強化培地での選択は、4ヶ月間で40回を上回る集団倍加という急速な増殖および増大の原因となる。これらのSOCは、免疫蛍光法とウェスタンブロット法による分析で、平滑筋細胞特異的α-アクチン(αSMA)、ミオシン重鎖、およびカルポニンに陽性であり、CD34、Flt1、およびFlk1受容体に対して陽性であった。SOCはTie-2受容体の発現に対して陰性であり、これは潜在的に骨髄血管芽細胞の起源であることを示唆している。培地中で単独に成長させた細胞および初期の単核細胞集団はこれらの平滑筋特異的マーカーに対して陰性であった。
【0007】
一つの局面において、本発明は成体平滑筋前駆細胞(例えばヒト細胞)の濃縮された集団を特徴とする。前記細胞はVEGF受容体もしくはCD34に陽性であるか、またはCD34、Flt1、およびFlk受容体に対して陽性であり、Tie-2受容体、CD31、vWF、およびVE-カドヘリンに対して陰性である。幾つかの態様においては、前記細胞はα-アクチン、ミオシン重鎖、およびカルポニンに対して陽性である。前記細胞は血管新生成長因子(angiogenic growth factor)をコードしている外来性核酸を含むことができる。前記細胞は、VEGF、線維芽細胞成長因子-4(FGF-4)、ナトリウム利尿ペプチド、プロスタサイクリン合成酵素、一酸化窒素合成酵素、アンジオスタチン、エンドスタチン、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インテグリン、もしくはインターロイキンをコードする外来性核酸を含むことができる。
【0008】
本発明はまた、成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団を単離する方法も特徴とする。前記方法は単核細胞の混合物を血小板由来成長因子と接触させる段階、ならびに細胞がCD34、Flt1およびFlk受容体に対して陽性であり、Tie-2受容体、CD31、vWF、およびVE-カドヘリンに対して陰性である、平滑筋前駆細胞の集団を単離する段階を含む。接触させる段階はコラーゲンでコートされた基体の上で行われる。幾つかの態様においては、前記細胞は血小板由来成長因子の非存在下で培養される。
【0009】
別の局面において、本発明は成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団を得るための方法を特徴とする。前記方法は以下を含む:対象の末梢血に多能性細胞を補充するために、対象に対してサイトカイン(例えばVEGF、FGF、IGF-I、もしくはSDF)を投与する段階;対象から単核細胞を得る段階;、ならびに細胞がCD34、Flt1、およびFlk受容体に対して陽性であり、Tie-2受容体、CD31、vWF、およびVE-カドヘリンに対して陰性である、成体平滑筋前駆細胞の集団を濃縮するために、単核細胞を血小板由来成長因子と接触させる段階。接触させる段階はコラーゲンでコートされた基体の上で行うことができる。
【0010】
本発明は患者における脆弱なプラークを安定化させるための方法もまた、特徴とする。前記方法は、脆弱なプラークを安定化させるために効果的な量の成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団を患者に投与する、を含む。成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団は患者にとって自己由来である。細胞は、細胞表面で発現している接着分子である、接着分子をコードしている外来性核酸を含むことができる。接着分子は、セレクチン、細胞内接着分子(例えばICAMもしくはVCAM)、および細胞外基質(例えばコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、もしくはヴィトロネクチン)からなる群から選択することができる。成体平滑筋前駆細胞の集団は患者に投与する前に、細胞外基質タンパク質によって前処理することができる。
【0011】
別の局面では、本発明は、成体平滑筋前駆細胞(例えばヒト細胞)の濃縮された集団を含む移植可能な医療装置を特徴とする。前記細胞はCD34、Flt1、およびFlk受容体に対して陽性であり、Tie-2受容体、CD31、vWF、およびVE-カドヘリンに対して陰性である。前記装置はステント(例えばコートされたステント)、血管移植片、もしくは中空管でありうる。前記細胞は、血管新生成長因子をコードしている外来性核酸、もしくはVEGF、線維芽細胞成長因子-4(FGF-4)、ナトリウム利尿ペプチド、プロスタサイクリン合成酵素、一酸化窒素合成酵素、アンジオスタチン、エンドスタチン、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インテグリン、もしくはインターロイキンをコードする外来性核酸を含むことができる。
【0012】
さらに別の局面では、本発明は成体哺乳類において血管疾患をモニターするための方法を特徴とする。前記方法は成体哺乳類の末梢血における平滑筋前駆細胞の数を決定する段階、および対応する対照集団における平滑筋前駆細胞の基準数と平滑筋前駆細胞数を比較する段階を含み、ここで基準となる数に対する平滑筋前駆細胞数の変化は血管疾患における変化の指標である。血管疾患はアテローム性動脈硬化症でありうるか、または脆弱なプラークもしくは不安定なプラークを含むことができる。
【0013】
特に定義されている場合を除き、本明細書で用いられている全ての技術的および科学的な用語は、本発明に関連する当業者によって慣用的に理解されているのと同じ意味を持つ。本明細書に記載されたものに類似もしくは同等な方法および材料は本発明の実施に使用できるが、適した方法と材料は以下に記載される。本明細書において言及された全ての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、その全てが参照により本明細書に含まれる。抵触の場合においては、定義を含め、本明細書が対照となる。加えて、材料、方法、および例は例示に過ぎず、限定する事を意図したものではない。
【0014】
本発明のその他の特徴と利点は以下の詳細な説明および上記特許請求の範囲から明らかになる。
【0015】
詳細な説明
概して、本発明は、成体SPCの精製された集団、ならびに成体血管平滑筋前駆細胞の分化、増殖、およびホーミングの更なる理解を得るために細胞を用いる方法を提供し、同様に血管増殖性疾患の診断および治療のための方法も提供する。例えば、これらのSPC、もしくはSPCに由来する多能性細胞を、アテローム性動脈硬化症の進行に対するマーカーとして血液中でモニターすることができる。これらの細胞のエクスビボにおける増大は、血管疾患への細胞、遺伝子、および組織工学的なアプローチのために意味がある。例えば、前記細胞は、接着分子が細胞表面で発現され、脆弱なプラークを安定化するために用いるように、操作することができる。
【0016】
平滑筋前駆細胞
上記のように、本発明は成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団を提供する。本明細書で用いられているように、「濃縮された」というのは、SPCが単離される細胞の粗集団由来のSPCにおいて、前記集団が少なくとも5倍増加(例えば少なくとも10倍、15倍、20倍、25倍、50倍、もしくは75倍の増加)をすることを意味する。本明細書で用いられているように、「平滑筋前駆細胞」とは、直接的または間接的に一つまたは複数の中間体細胞を経由して、平滑筋細胞へと発生できるような細胞に言及している。SPCは、一つまたは複数の血管内皮成長因子(VEGF)受容体に対して陽性である。VEGF受容体の例はFLK-1とFLT-1を含む。FLK-1受容体はVEGF受容体-2としても知られている。ヒトFLK-1受容体はKDRとして知られている。SPCは血管芽細胞および造血幹細胞の特徴であるCD34に対しても陽性である。SPCは、平滑筋細胞特異的α-アクチン(αSMA)、ミオシン重鎖、およびカルポニンを含む平滑筋細胞マーカーの一つもしくはそれ以上に対してもまた陽性である。SPCはさらに、Tie-2受容体、CD31、vWF、およびVE-カドヘリンを含むような特定のマーカーの欠如、もしくは著しく低い発現レベルによって特徴づけられる。SPCは内皮前駆細胞と比較して、増加したα5β1発現レベルも示す。
【0017】
SPCは、例えばマウスおよびラットのような齧歯類、ブタ、ウシ、ヒツジ、およびヤギなどの家畜、ならびにヒトもしくは他の霊長類を含むような、成体哺乳類から単離することができる。通常は、単核細胞の混合物は成体哺乳類から得られる(例えば循環している末梢血から)。幾つかの態様において、血液はドナーの末梢血から回収でき、単核細胞は単離でき、単核細胞を枯渇させた血液は当技術分野において公知の方法(例えばアフェレーシス療法(hemapheresis))によってドナーの循環系へと戻すことができる。または、骨髄は、例えば自家移植を受けているヒト患者のような哺乳類から得ることができる。
【0018】
対象から単核細胞を得る前に、対象にサイトカインを投与することにより、多能性細胞は循環している末梢血中へ移動する(即ち、補充される)ことができる。サイトカインの限定されない例としては、線維芽細胞成長因子(FGF)、インシュリン様成長因子I(IGF-I)、ストロマ細胞由来因子(SDF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、VEGF、幹細胞因子(SCF)、もしくはインターロイキン(例えばIL-1もしくは8)を含む。
【0019】
単核細胞を内皮成長培地(EGM-2)の中で再懸濁して、I型コラーゲンでコートされたプレート中に置き、細胞コロニーが形成されるまで成長させることができる。前記細胞コロニーは、平滑筋細胞分化を誘導するためにI型コラーゲンでコートされたプレート上で継代および培養することができる。いくつかの態様において、前記細胞はPDGF、特にPDGF-BBの存在下で培養される。通常、平滑筋細胞の分化は二週間の培養後に明らかとなる。本明細書に記載されているように、SPCはVEGF存在下のEGM-2から成長する細胞よりも著しく大きい、インビトロにおける増殖能を持つ。
【0020】
幾つかの態様において、単核細胞の混合物は、SPCもしくはSPCを生じる多能性細胞の表面上の抗原(例えばFLK-1のようなVEGF受容体)に対して結合できる薬剤と接触させることができる。抗原を発現していない混入細胞からSPCを区別することによって、薬剤に対するSPCの結合はSPCに関してさらなる濃縮を可能にする。薬剤は、SPCの表面上の抗原に対して特異的な結合親和力を持つ任意の分子でありうる。例えば、前記薬剤はモノクローナル抗体もしくはその断片、または抗原が受容体である場合、その受容体のリガンドでありうる。例えば、前記抗原は、例えば米国特許第5,130,144号に記載の抗My-10モノクローナル抗体のような、抗VEGF受容体抗体もしくは抗CD34抗体でありうる。Myモノクローナル抗体を発現するハイブリドーマ細胞株はヴァージニア州マナッサス(Mnassas)にあるAmerican Type Culture Collectionから入手できる。前記薬剤は検出可能な標識、例えば蛍光標示式細胞分取器などと共に用いてもよい、フルオロフォアと結合することができる。
【0021】
SPCは、細胞が一つもしくは複数のポリペプチドまたはその他の関心対象の治療用化合物を産するために、改変することができる。本明細書で用いられているように、「ポリペプチド」という用語は、その長さもしくは翻訳後修飾に関わらず、アミノ酸の任意の鎖を指す。通常、改変された細胞は、所望のポリペプチド(例えば血管新生成長因子)をコードしている外来性核酸を含む。例えば、外来性核酸は、例えばVEGFのような血管新生成長因子、例えば基本的なFGFもしくはFGF-4のような線維芽細胞成長因子、胎盤成長因子、肝細胞増殖因子、アンジオゲニン、アンジオポエチン-1、プレイオトロフィン、形質転換増殖因子(αもしくはβ)、または腫瘍壊死因子αをコードすることができる。前記外来性核酸は、例えば心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)または脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)のようなナトリウム利尿ペプチド、プロスタサイクリン合成酵素、一酸化窒素合成酵素、アンジオスタチン、エンドスタチン、エリスロポエチン(EPO)、GM-CSF、またはIL-1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、もしくは18のようなインターロイキンをコードすることができる。外来性核酸は、例えばセレクチン(例 E、L、もしくはPセレクチン)、細胞外基質タンパク質(例えばI型、III型、もしくはIV型コラーゲン;フィブロネクチン;ラミニン;もしくはヴィトロネクチン)、インテグリン(例えばα5β1)などのような接着分子、またはICAMもしくは血管細胞接着分子(VCAM)のような細胞内接着分子なども、コードすることができる。
【0022】
治療用化合物はポリペプチドによって産生される小分子(例えばプロスタグランジン、一酸化窒素(NO))を含み、同様にリボザイムおよびアンチセンス核酸も含む。結果として、改変された細胞は哺乳類に対して、血管および腎疾患、肝疾患、関節炎のような炎症性疾患、ならびに様々な癌を含む、任意の病気の治療のために、任意のポリペプチドもしくは任意の治療用化合物を送達することができる。加えて、マーカーポリペプチドは、診断的な検査を補助するために患者へ送達されうる。
【0023】
ポリペプチドもしくは他の関心対象の治療用化合物を産するように、単離された細胞を改変するため、適切な外来性核酸が細胞へ送達されなければならない。幾つかの態様において、前記細胞は一過的に形質移入され、それは外来性核酸がエピソーム(即ち、染色体DNAに組み込まれていない)であることを示す。他の態様において、細胞は安定に形質移入され、即ち、外来性核酸は宿主細胞の染色体DNAに組み込まれる。核酸および特定の細胞に関して本明細書において用いられる「外来性」という用語は、天然にみられる特定の細胞に由来しない、任意の核酸を指す。加えて、「外来性」という用語は天然に存在する核酸を含む。例えば、ヒト細胞から単離される、ポリペプチドをコードしている核酸は、一旦それら核酸が第二のヒト細胞に導入されると、第二の細胞に関して外来性核酸となる。
【0024】
細胞に感染できる組換えウイルス、もしくはリポソームもしくは他の非ウイルス性の方法、例えば細胞へ核酸を送達することのできるエレクトロポレーション、マイクロインジェクション、もしくはリン酸カルシウム沈殿法を用いることによって、外来性核酸は細胞へ転移できる。どちらの場合も、送達された前記外来性核酸は、概してプロモーターのような調節要素が関心対象の核酸と関連して機能するようなベクターの一部分である。プロモーターは構成的もしくは誘導的でありうる。構成的プロモーターの限定されない例はサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターおよびラウス肉腫ウイルスプロモーターを含む。本明細書で用いられているように、「誘導的」は上方制御と下方制御の両方に言及している。誘導的プロモーターは、誘導物質に対する反応において、直接的もしくは間接的に一つまたは複数のDNA配列または遺伝子の転写を活性化することができる。誘導物質が存在しない場合は、DNA配列もしくは遺伝子は転写されない。誘導物質は、例えばタンパク質、代謝産物、成長調節物質、フェノール化合物のような化学的作用物質、または例えば熱のように直接的に課されるか、または例えばウイルスのような病原体もしくは病因物質の作用を通じて間接的に課される、生理的ストレスでありうる。前記誘導物質は、光、ならびに波長、強度、蛍光、方向、および持続時間を含む光の様々な特徴などの、照明的な因子でありうる。
【0025】
誘導的プロモーターの例はテトラサイクリン(tet)-onプロモーター系であり、これは核酸の転写を制御するために用いることができる。この系において、tetもしくはドキシサイクリン(dox)によって制御されているテトラサイクリン制御性転写活性化因子(tTA)を作るために、変異したTetリプレッサー(TetR)が単純ヘルペス VP 16(トランス活性化因子タンパク質)の活性化領域に融合されている。抗生物質の非存在下では、転写は最小限であるが、tetもしくはdoxの存在下では転写が誘導される。代わりの誘導的な系にはエクジソンもしくはラパマイシン系がある。エクジソンは昆虫の脱皮ホルモンで、その産生はエクジソン受容体のヘテロ二量体およびultraspiracle遺伝子(USP)の産物によって調節されている。エクジソンもしくはムリステロンAなどのエクジソン類似体と共に処理することによって、発現が誘導される。
【0026】
ベクターにおいて有益かもしれない追加的な調節要素は、ポリアデニル化配列、翻訳調節配列(例えば配列内リボソーム進入部位、IRES)、エンハンサー、もしくはイントロンを含むが、これらに限定されない。こうした要素は必須でないかもしれないが、これらは転写、mRNAの安定性、もしくは翻訳効率などに影響を及ぼすことによって発現を増加させうる。こうした要素は、細胞内で核酸の最適な発現を得るために所望されるような、核酸のコンストラクトの中に含まれうる。しかしながら、ときにはこうした追加的な要素が無くても効率的な発現は得られる。
【0027】
ベクターはその他の要素も含む。例えば、ベクターは、コードされたポリペプチドが特定の細胞部位(例えば細胞表面)へ向かうような、シグナルポリペプチドをコードしている核酸、または選択的なマーカーをコードしている核酸を含むことができる。選択的マーカーの非限定的な例は、ピューロマイシン、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アミノグリコシドリン酸転位酵素、(neo、G418、APH)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、ハイグロマイシン-B-リン酸転位酵素、チミジンキナーゼ(TK)、およびキサンチン-グアニンホスホリボシル基転位酵素(XGPRT)を含む。こうしたマーカーは培地中で安定な形質転換体を選択するのに有益である。
【0028】
利用できるウイルス性ベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、はしかウイルス、ヘルペスウイルス、およびウシパピローマウイルスベクターがあげられる。ウイルス性および非ウイルス性ベクターの総説として、Kay et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:12744-12746を参照のこと。ウイルス性ベクターは、ウイルスの天然の親和性と病原性は変更もしくは除去されるように改変される。ウイルスのゲノムもまた、それ自身の感染力を増加するため、および関心対象のポリペプチドをコードしている核酸のパッケージを収容するために改変する事ができる。
【0029】
アデノウイルスベクターは実験室で簡便に操作することができ、効率的に分裂および非分裂細胞を形質導入することができ、めったに宿主ゲノムに組み込まれない。Smith et al. (1993) Nat. Genet. 5:397-402;およびSpector and Samaniego (1995) Meth. Mol. Genet., 7:31-44。ポリペプチドをコードしている核酸のための場所を提供するため、およびウイルスが複製できないようにトランス活性化E1aタンパク質を除去するために、E1領域が二本鎖DNAゲノムから除去されるように、アデノウイルスを改変する事ができる。アデノウイルスは、特に、ケラチン生成細胞、肝細胞、および上皮細胞を含む多様な細胞型を形質導入するために用いることができる。
【0030】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは広範囲の親和性および感染力を示すが、ヒトへの病原性を呈さず、炎症反応を誘発しない。AAVベクターは部位特異的な組み込みを呈し、非分裂細胞に感染できる。AAVベクターは動物において核酸を長期に渡って(例えばマウスにおいて9ヶ月より長く)脳、骨格筋、および肝臓に送達するために用いられる。例えば、AAVベクターの記載として米国特許第5,139,941を参照のこと。
【0031】
レトロウイルスは最も特徴的なウイルス性送達系であり、臨床試験で用いられてきている。レトロウイルスベクターは核酸の高い送達効率と発現を媒介する。レトロウイルスは形質膜への直接的な融合によって細胞へ入り、細胞分裂中に宿主染色体へと組み込まれる。
【0032】
レンチウイルスもまた核酸を細胞、特に非分裂細胞に送達するために用いられる。複製が欠損したI型HIVに基づくベクターは多様な細胞型を形質導入するために用いられ、幹細胞を含む。Uchidda et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:11939-11944を参照のこと。
【0033】
非ウイルス性ベクターは、人工的な膜小胞であるリポソームを介して細胞へ送達することができる。リポソームの組成は、通常はステロイド、特にコレステロールとの組み合わせ、通常、リン脂質、特に相転移温度が高いリン脂質との組み合わせである。その他のリン脂質もしくは他の脂質もまた利用することができる。リポソームの物理的な性質はpH、イオン強度、および二価陽イオンの存在に依存している。リポソームの形質導入効率は、形質導入中にジオレオイルフォスファチジルエタノールアミンを用いることによって増大させることができる。Felgner et al. (1994) J. Biol. Chem. 269:2550-2561を参照のこと。高効率なリポソームは市販されている。例えば、Qiagen(Valencia、CA)のSuperFect(登録商標)を参照のこと。
【0034】
SPCを用いる方法
SPCは成体血管平滑筋前駆細胞の分化、増殖、およびホーミングを調べるために用いることができ、同様に血管増殖性疾患の診断および治療に用いることができる。例えば、SPC、もしくはSPC由来の多能性細胞は成体哺乳類(例えばヒト患者)の血管疾患のためのマーカーとして、血液中でモニターされうる。例えば、前記方法は成体哺乳類において、脆弱なプラーク、不安定なプラーク、もしくはアテローム性動脈硬化症の進行をモニターするために用いることができる。成体哺乳類におけるSPCの数は、既知の細胞学的な方法を用いて決定することができ、対応する対照集団におけるSPCの基準数と比較することができる。患者におけるSPCの数の基準からの変化は疾患における変化(例えばアテローム性動脈硬化症の進行)の指標である。対照集団は、疾患が無いかもしくは最小限の状態の患者がありうる。または、治療が始められる前に、SPCの数が既知である患者でありうる。前記患者が治療を受けるとき、SPCの数は前記患者においてモニターされ、前記治療が前記患者にとって臨床的に有益かどうかを決定するために基準と比較することができる。SPCは、褥瘡のある患者に創傷治癒もしくは瘢痕の形成を促進するために用いることができる。
【0035】
これらの細胞のエクスビボにおける増大は、血管疾患への細胞、遺伝子、および組織工学的なアプローチのために意味があるかもしれない。例えば、前記細胞は、脆弱なプラークを安定化するのに効果的な量の精製されたSPCの集団を患者に投与することによって、患者における脆弱なプラークを安定化するのに用いることができる。幾つかの態様において、細胞表面に接着分子が発現されるように、SPCは操作されうる。上記のように、SPCは接着分子(例えばインテグリン)をコードしている外来性核酸を含むように、SPCを改変することができる。または、SPCが特定の細胞外基質へ付着するために準備することにより、SPCをインビトロで処理することができる。例えば、患者の細胞外基質(例えば粥種切除によって得られるような、動脈硬化性プラーク由来の材料)が、組織培養プレートおよび特定の基質に付着するよう準備されたSPC上にコートされる。付着するSPCは広がり、その後患者の中へ注入され、その中で前記細胞は類似の細胞外基質を持つプラークを標的とする。
【0036】
その他の態様において、移植可能な医療装置(例えばコートされたステントを含むステント、例えば血管移植片のような移植片、シート、中空管、もしくは弁)はSPCを含むことができる。例えば、SPCは装置の上に蒔かれる。例えば、米国特許公報第US-2002-0160033-A1を参照のこと。例えば、SPCは、動脈、静脈を含むような生体の血管移植片、または移植腎、もしくは静脈および心臓へ適用するための生体の人工弁を形成するために用いることができる。同様に、移植可能な括約筋を作るため、脊髄の再生に役立てるため、けばだったような大動脈(shaggy aorta)を持つ患者において大動脈を新しく引くため、もしくは不可逆に傷ついた心筋を修復するためにもまた、SPCを用いることができる。こうした修復をさらに拡張するため、SPCは上皮前駆細胞と併用することができる。
【0037】
循環器系疾患を治療するために、細胞は、VEGFもしくはFGF-4、ANPのような細胞分裂促進因子、およびそれらポリペプチドの組み合わせを産するように操作され、その後患者の中に移植される医療装置の上に蒔かれる。特に、VEGFを分泌するな細胞を包含するステントは、従来の血管再生の方法には不適当な末梢血管疾患、末梢冠状動脈疾患、もしくは慢性的な完全閉塞の患者を治療するのに用いることができる。プロスタグランジンH2(PGH2)からプロスタサイクリン(PGI2)を産するようなプロスタサイクリン合成酵素の細胞内での発現は、組織へのPGI2の送達という結果を生じる可能性があり、血管平滑筋を弛緩させるために用いることができる。一酸化窒素の産生を触媒する一酸化窒素合成酵素の細胞内での発現は、組織への一酸化窒素の送達という結果を生じる可能性があり、例えば再狭窄を阻止するために用いることができる。例えばアンジオスタチンおよびエンドスタチンのような抗血管新生ポリペプチドは、患者における血管新生依存性の癌および微小転移の治療に役立てるために用いることができる。類似の戦略は胆管癌の治療の助けとするために用いることができる。例えばEPO、GM-CSF、およびインターロイキンのような造血成長因子は血液細胞の産生を増加させるために用いることができる。例えば、EPOは赤血球細胞産生を刺激するため、および貧血症を治療するために用いることができる。
【0038】
その他の態様において、抗再狭窄のための薬剤として有用でありうる化合物を同定するために、SPCを用いることができる。SPCは、細胞が得られる薬剤スクリーニングにおいて簡便であるため、特に有用である。被験化合物とSPCを接触させる段階、およびSPCの増殖が阻止されるかどうかを決定する段階によって、薬剤スクリーニング分析を実施することができる。「被験化合物」は、オリゴヌクレオチドもしくはペプチドのような生物的な高分子、化学的化合物、化学的化合物の混合物(例えばコンビナトリアルライブラリー由来のもの)、または細菌性、植物性、真菌性、もしくは動物性物質から単離された抽出物でありうる。
【0039】
本発明は以下の実施例においてさらに記載され、それらは添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
実施例
方法および材料
研究対象
施設内倫理委員会(the institutional review board)によって以前に認められた手順に従い、5人の健康なヒトの自発的な提供者(3人の男性と2人の女性、26歳から38歳)から6つの血液試料が提供された。新鮮血は静脈穿刺によって集められ、リン酸クエン酸ブドウ糖溶液(Baxter)の中で抗凝固処理された。
【0041】
バフィーコート(Buffy Coat)の準備および血管前駆細胞培養
ヒト単核細胞(MNC)がまず始めにHistopaque-1077の中で末梢バフィーコート血液から単離され、次に、ヒドロコルチゾン、抗生物質、および10 ng/mL VEGFが追加されたMCDB 131の中で洗浄した。その後、単核細胞はEGM-2培地中で再懸濁され、I型コラーゲンでコートされた6穴プレート(Beckton Dickinson)の3穴に置かれた。4週目に、半集密(subconfluent)細胞コロニーを継代し、続いて平滑筋細胞分化を促進するために、内皮細胞表現型を維持するEGM-2もしくはPDGF BB(50 ng/mL、R&D Systems)を追加したEGM-2のいずれか一方において、細胞を培養した。ヒト血管平滑筋細胞(hVSMC)は、Cloneticsから入手し、ヒト線維芽細胞(hFB)はATCCから入手した。別個の実験において、CD34+ve単核細胞(純度90%)は免疫磁気ビーズおよびMACS技術(Miltenyi Biotech)を用いることにより選択され、これらの細胞を上記のようにI型コラーゲン基質の上で同様に分化させた。
【0042】
平滑筋増殖細胞表現型の評価
平滑筋細胞表現型を規定するために、形態学的な外見および間接免疫蛍光法が用いられた。CD34(Immunotech IM 1869)、α平滑筋アクチン(αSMA)、平滑筋ミオシン重鎖(MHC)、およびカルポニン(全てDako Corpより)に対して一次抗体が用いられた。それぞれの免疫蛍光法による実験において、アイソタイプが一致する(isotype-matched)IgG対照も用いられた。前駆細胞に対する一次抗体の結合はAlexa-Fluor 488結合抗マウスIgG(Eugene、Oreg)によって検出された。ヒトvWF(Dako Corp., Carpenteria, Calif)、VE-カドヘリン(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, Calif)、およびCD31(Sigma Co, St Louis, Mo)に対する抗体は、ように、EOCを標識するために用いられた。これらのマーカーは、平滑筋もしくは内皮系列としての細胞の規定を可能にした。
【0043】
ウェスタンブロット分析
ウェスタンブロット法は、SOCにおける血管平滑筋細胞特異的細胞骨格タンパク質、VEGF受容体、およびTie-2受容体の発現を同定するために行われた。50 mmol/L トリスHCl(pH 8.0)、150 mmol/L NaCl、0.02%アジ化ナトリウム、0.1%SDS、100μg/mL PMSF、および1μg/mL アプロチニンを含む溶解バッファーの中において、細胞は手短に均質化された。前記溶解物はブラッドフォード分析によって決定されるタンパク質量を有し、同量のタンパク質を煮沸によって変性させ、1 mmol/mL DTT中で還元し、続いて12%SDSポリアクリルアミドゲルで電気泳動した。前記タンパク質をニトロセルロースに移し、1:500に希釈した、αSMA、ヒト平滑筋MHC、ヒトカルポニン、およびFlk1に対するモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology)ならびに、Flt1に対するポリクローナル抗体(R&D Systems, Minneapolis, MN)およびTie-2受容体に対するポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, Calif)を用いて免疫ブロットした。化学蛍光(Supersignal, Pierce)およびX線フィルム露光(Kodak)を用いる検出のために、西洋ワサビペルオキシダーゼ(Calbiochem, San Diego, CA)に結合させた抗マウス、抗ウサギ、および抗ヤギの二次抗体を、1:1000に希釈して用いた。平滑筋特異的なマーカーのための陽性および陰性の対照細胞として、hVSMCおよびhFBが用いられた。
【0044】
FACS分析
FACSは、MNC、SOC、およびEOCの細胞表面および細胞内抗原の両方を同定するために行われた。αSMA、CD31、およびインテグリンα5β1に対する一次抗体は、それぞれの場合において、FITC結合抗体を用いる二次検出と共に用いられた。アイソタイプが一致する対照IgG抗体は対照として用いられ、染色された細胞の蛍光強度は、従来の方法に従ってゲートされた。
【0045】
増殖細胞インテグリンα5β1発現および接着分析
MNC、EOC、およびSOC上でのインテグリンα5β1の発現はFACS分析を用いることで定量された。EOCおよびSOCにおけるインテグリンα5β1は、4%から20%勾配のSDS-PAGEで電気泳動された細胞溶解物を用いたウェスタンブロッティング法によっても分析された。同量のタンパク質をニトロセルロースへ移し、αおよびβサブユニットを、上記のようにヒトインテグリンα5β1に対する一次抗体(10 μg/mL, Chemicon, Temecula, Calif)および二次の抗マウスHRP複合体(1:500)を用いて免疫検出された。α-チューブリン抗体を用いて同量のタンパク質が確認された。
【0046】
それぞれの増殖細胞型において表面α5β1インテグリン発現の接着機能を確認するため、ヒトフィブロネクチン上の接着分析(10μg/mL, Sigma)が行われた。ヒトインテグリンα5β1に対する一次抗体(10 μg/mL)もしくは同濃度におけるマウスIgG対照抗体の存在下もしくは非存在下で、 0.1% BSAを含む基礎培地(EBM-2)において、6穴培養プレート上の密度1.5×10細胞/穴のEOCとSOCの両方が接着可能であった。その後、非接着細胞は洗い流され、接着細胞はトリプシンによって浮き上がらされ、続いて血球計算板によって計数された。接着細胞の数を各穴に蒔かれた全細胞数で割ることにより、接着の割合が計算された。
【0047】
増殖細胞の増殖分析
同様の継代におけるSOCおよびEOCの両方は、1穴当たり5×10の密度で、I型コラーゲンでコートされた24穴プレート上に蒔かれ、EGM-2および5%FCSと共に一夜インキュベートされた。細胞力価MTS分析(Cell-Titer AQ, No. G5421, Promega)を用いることにより、プレーティングから12時間後において同様の初期播種密度であることが確認された。これにより、両方の細胞型に対して基準播種吸光度が作成された。その後で、全ての細胞は無血清EBM-2中で24時間の間、増殖停止された。EGM-2および5%FCSの添加によって細胞は増殖停止から解放され、それぞれの穴の細胞の数は、血清刺激から2、4、6、8日後における細胞の力価分析によって決定された。各時点で生成された吸光度は、それぞれの前駆細胞型に対して得られた初期播種吸光度の割合として示された。
【0048】
統計
全てのデータは平均値±SEMとして表されている。群間の比較は一元配置ANOVAを用いて行われた。P<0.05が統計的に有意であると考えられた。
【0049】
実施例1
成長因子選択に対する血管前駆体の応答
EGM-2培地と共にI型コラーゲン上に蒔かれた初期の患者のMNC1試料当たりおおよそ6から8コロニー(図1A)が3週間に渡って生じ、その時に、多角形および星状形細胞の混合集団が存在した。これらの混合培養物は継代され、2枚のプレートに分割され、続いてそれらは平滑筋細胞および内皮細胞の成長を促進するために、高濃度のPDGF BBを含むEGM-2もしくはEGM-2単独において成長させた。さらなる2週間以内に、PDGF BB強化培地において維持された前記細胞は、主として「山と谷の形態」を持った平滑筋様細胞になった(図1C)。これらのSOCは速い速度で成長し、初期コロニー形成時から4ヶ月間で40回を上回る集団倍加を達成した。内皮増殖細胞(EOC)は典型的な敷石状所見を示し(図1D)、遅い速度で成長し、初期コロニー形成から4ヶ月で約20回の集団倍加を達成した。同様の分化が、増殖細胞をもたらす初期CD34+ve単核細胞集団を用いたときに見られた。
【0050】
実施例2
平滑筋増殖細胞の免疫表現型分析
さらに表現型を評価するため、細胞は平滑筋細胞特異的抗体を用いて染色された。半集密のSOCは間接免疫蛍光法によりαSMA、平滑筋MHC、およびカルポニンに対して陽性に染色されたが(図2)、始まりのMNC集団およびEOCは全ての平滑筋細胞マーカーに対して陰性に染色された(図2)。同様に、培地中のhVSMCは陽性に染色されたが、hFBは全ての平滑筋特異的マーカーに対して陰性に染色された(図2)。EOCは内皮のマーカー(例えばCD31、vWF、およびVEカドヘリン)に対して陽性であることが確認されたが、SOCは一般に内皮マーカーの全てに対して陰性に染色された(図3)。それぞれの場合において、アイソタイプが一致するIgG対照抗体は陰性に染色された。平滑筋特異的タンパク質がSOCにあり、MNCもしくはEOCには無いことを確認するため、それぞれの細胞型からの細胞溶解物がSDS-PAGE上で泳動され、免疫ブロットされ、適切な分子量でαSMA、平滑筋MHC、およびカルポニンタンパク質を持つことが確認された(図4)。陽性のhVSMCおよび陰性のhFBの対照は、平滑筋特異的マーカーに対する免疫反応性の適切な存在および非存在も示した(図4)。
【0051】
染色強度、ならびにそれぞれの集団(MNC、SOC、およびEOC)においてαSMAおよびCD31を発現している陽性の細胞の割合を定量するため、細胞内(αSMA)および細胞表面(CD31)抗原がFACSによって決定された。平滑筋特異的マーカー(αSMA)は、MNCおよびEOC集団の両方において0%と検出されたが、SOCの93%がこのマーカーに対して高強度で陽性であった(図5)。同様に、CD31はSOCにおいて0%と検出されたが、MNCおよびEOCにおいて96%および99%であり、MNC集団と比較してEOCにおけるCD31染色はさらにいっそう高い強度であった(図5)。
【0052】
SOCが造血性起源であることは、CD34に対する陽性の免疫蛍光染色法によって確かめられた(図6Aおよび6B)。さらに、SOC溶解物はウェスタンブロット法においてVEGF受容体(Flt1およびFlk1)の両方について有意なレベルを示し、これは以前に内皮増殖細胞について記載された事と一致するが、SOC溶解物はEOCと比較してTie-2受容体に対して陰性の免疫反応があった(図6C)。
【0053】
実施例3
インテグリンα5β1発現、基質接着、および細胞増殖
MNC、EOC、およびSOCの細胞表面のインテグリンα5β1発現はFACSによって定量された。SOCはα5β1強度の増加を示し、EOCおよびMNCと比較して、このインテグリンに対する陽性の細胞染色の数の増加を示した。(図7)。EOCと比較してα5およびβ1インテグリンサブユニットタンパク質のさらに高い濃度を示すSOCと共に、これらのデータは細胞溶解物のウェスタンブロット法により確認された。EOCと比較したSOCにおける増加したインテグリンα5β1発現の機能的な意義を検証するため、フィブロネクチン接着分析を行った。SOCはEOCと比較してフィブロネクチンに対して8倍の接着性を示し(P<0.001)、この効果はα5β1抗体を用いて有意に阻害されるが(P<0.01)、同様の濃度のアイソタイプが一致するマウスIgGにはこのような効果は無かった(図7)。さらに、SOCが血清存在下の増殖停止から解放された時、SOCは同様の継代と播種密度のEOCと比較して、有意な増殖速度の増加(4倍から5倍、P<0.001)を有した(図8)。
【0054】
要約すると、造血単核細胞が実際に培養液において平滑筋細胞へ分化したことを実証するために、幾つかの一連の証拠を提示する。第一に、単核細胞から生じた平滑筋増殖細胞(SOC)は古典的な平滑筋の形態および免疫表現型を示すが、CD34陽性であり、これは成体ヒト平滑筋細胞では存在しないことが知られている表面マーカーである。第二に、新しく単離された単核細胞において、FACS、ウェスタンブロット法、もしくは免疫蛍光染色法のいずれによっても平滑筋細胞特異的マーカーは検出されなかった。第三に、PDGFよりはむしろVEGFの存在下で培養された単核細胞は、FACS、ウェスタンブロット法、および免疫蛍光法で平滑筋細胞特異的マーカーに対して陰性である内皮単層内へ広がった。第四に、10回ほどの集団倍加後に老化した成体ヒト平滑筋細胞に比べて、広がったSOCは培養液中で延長された増殖能を示した(40回を上回る集団倍加)。総合すると、これらのデータから、この研究で観察されたSOCが成体平滑筋細胞の混入の結果である可能性は極めて低い。
【0055】
PDGF BBは、成体平滑筋細胞分化、およびこの研究における混合した形態学的外見の前駆体コロニーからの拡大を促進するが、VEGFはしない。PDGF BBが胚性平滑筋細胞分化に関係していることは以前に示されており、現在の研究は、循環血液中の推定上の前駆体からの平滑筋細胞の分化における、PDGF BBの潜在的な役割を支持する。実際、PDGF BBの発現はインビボでしっかりと調節されている一方で、血小板から放出されることが知られており、内皮の撹乱および血管傷害の部位で上方制御される。PDGF BB発現のこれらの部位はまさに平滑筋細胞増殖が起こる所であるため、血管壁の界面でPDGF BBおよび循環するSPCの間の相互作用が起こりうると推測することができる。
【0056】
この研究におけるSOCはVEGF1および2受容体を発現するが、Tie-2受容体は発現せず、以前にTie-2受容体陽性と記述されたEOCとは区別される血管芽細胞の系列と一致する。SOCのこの非内皮表現型は、同じMNCプールから成長したEOCとは異なるこれらの細胞の形態学的およびタンパク質発現表現型、ならびにこれらの細胞におけるCD31、VEカドヘリン、vWF、およびTie-2受容体標識の欠如によって、裏付けられる。
【0057】
この研究において、インテグリンα5β1の発現およびフィブロネクチンへの接着は、EOCと比較してSOCで顕著に増加し、後者の機能的効果はα5β1インテグリン抗体によって有意に阻害された。最後に、同様の継代のEOCと比較して、SOCはインビトロでの増殖能が有意に大きいことを示した(P<0.001)。
【0058】
結論
これらのデータは、EOCよりむしろSOCが選択的にフィブロネクチン細胞外基質に付着する可能性を示唆する。このインテグリンのプロフィールは、分化した循環しているSPCが、フィブロネクチン、もしくは他のα5β1接着性基質(例えばフィブリン)が血流に曝される、インビボの部位に付着することを可能にしているかもしれない。これらの状態は内皮性の撹乱もしくはプラークの破裂後に存在することが多いため、フィブリンの塊もしくは血管壁中の曝露された内皮下フィブロネクチンが、循環しているSPCが付着および増殖をするような土壌として役立つ可能性がある。この研究において、SOCの増殖能は、EOCと比較してSOCにおいて見られるインビトロにおけるより高い細胞増殖速度により、裏付けられる。総合すると、これらのデータは、細胞外基質(例えばフィブロネクチン)に富む部位における分化、ホーミング、および増殖の可能性を有する、循環しているSPCの範例を裏付ける。
【0059】
他の態様
本発明はその詳細な記載と共に記載されているが、前述の記載は本発明の範囲を例示し、その範囲は限定しないよう意図されたものであり、発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。他の局面、利点、および改変は上記の特許請求の範囲の中にある。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】A〜Dは、コラーゲンでコートされたプレート上への単核細胞(MNC)の播種およびコロニー形成の後に得られた顕微鏡写真である。A〜Bにおいて、第1週における単一の成長コロニーが示され(A)、続いて第3週における、多角形の細胞(開いた矢じり)と紡錘型(矢印)の細胞が混合した細胞表現型のコロニーが示されている(B)。Cは、「山と谷」形態で集密するSOCを示す。Dは、敷石状所見の内皮様増殖細胞(EOC)の集密した単層を示す。
【図2】αSMA、平滑筋MHC、およびカルポニンに対する抗体によって標識された、MNC、SOC、およびEOCの免疫蛍光の写真を含む。それぞれの場合の二次抗体はAlexa-fluorに結合した。細胞核はヘキスト染色(青)によって対比染色した。SMC特異的マーカーに対して、hVSMCが陽性対照として用いられ、hFbが陰性対照として用いられた。
【図3】CD31、vWF、およびVEカドヘリンに対する抗体によって標識されたEOCとSOCの免疫蛍光の写真を含む。それぞれの場合の二次抗体はAlexa-fluorに結合した。細胞核はヘキスト染色により対比染色した。
【図4】SDS-PAGE上で泳動されたMNC、EOC、SOCの溶解物に由来する平滑筋細胞特異的タンパク質のウェスタンブロットである。SOC溶解物は、適切な分子量でαSMA、平滑筋MHC、およびカルポニンに対して免疫反応があるが、EOCと初期のMNC集団は平滑筋特異的な抗体の全てに対して免疫反応が無い。陽性の対照溶解物(hVSMC)と陰性の対照溶解物(hFb)が前記抗体に対する特異性を判定するために用いられた。添加対照としてα-チューブリンが用いられた。
【図5】MNC、EOC、およびSOCにおける細胞内αSMCおよびCD31のFACS分析である。白抜きの太線のヒストグラムは被験抗体(抗αSMAおよび抗CD31)を表し、黒線のヒストグラムはアイソタイプが一致する対照IgG抗体を表す。
【図6】AとBは、一次のCD34抗体と二次のCy3結合抗体によって標識されたSOCの免疫蛍光の写真であり、点状の表面のCD34標識(A)と、ネガティブに染色されたアイソタイプが一致する対照IgG抗体染色(B)を示している。Cは、SOCとEOC溶解物の3つの免疫ブロットを含み、それぞれの増殖細胞においてFlt-1とFlk-1 VEGF受容体の存在を示している。Tie-2受容体の場合においては、EOC溶解物は免疫反応が陽性であるが、SOCはそうではない。それぞれの場合においてα-チューブリンが添加対照として用いられた。
【図7】A〜CはMNC(A)、EOC(B)、およびSOC(C)におけるインテグリンα5β1表面における発現のFACS分析である。DはSOCとECOの膜の溶解物のウェスタンブロット分析であり、EOCにおける場合と比較するとSOCにおいてインテグリンα5β1サブユニットの免疫反応が著しく陽性であることを示している。Eは、α5β1インテグリンとマウスのIgG対照(mIgG)の存在下および非存在下における、培養されたヒトSOCとEOCのヒトフィブロネクチンに対する接着のグラフである。*SOC単独(全ての実験でn=4)と比較して、P<0.001。
【図8】5%FCSによって成長停止を解除した後に、同様の継代をしたSOCとEOCの細胞増殖を示している。成長停止後に同じ期間EOCと比較(全ての実験でn=3)して、*P<0.001。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団。
【請求項2】
細胞がVEGF受容体に対して陽性である、請求項1記載の成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団。
【請求項3】
細胞がCD34に対して陽性である、請求項1記載の成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団。
【請求項4】
細胞がCD34、Flt1、およびFlk受容体に対して陽性であり、かつTie-2受容体、CD31、vWF、およびVE-カドヘリンに対して陰性である、請求項2記載の成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団。
【請求項5】
細胞がα-アクチン、ミオシン重鎖、およびカルポニンに対して陽性である、請求項1記載の成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団。
【請求項6】
細胞が血管新生成長因子(angiogenic growth factor)をコードする外来性核酸を含む、請求項1記載の成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団。
【請求項7】
細胞がVEGF、線維芽細胞成長因子-4(FGF-4)、ナトリウム利尿ペプチド、プロスタサイクリン合成酵素、一酸化窒素合成酵素、アンジオスタチン、エンドスタチン、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インテグリン、またはインターロイキンをコードする外来性核酸を含む、請求項1記載の成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団。
【請求項8】
細胞がヒト細胞である、請求項1記載の成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団。
【請求項9】
細胞がCD34、Flt1、およびFlk受容体に対して陽性であり、かつTie-2受容体、CD31、vWF、およびVE-カドヘリンに対して陰性である、成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団を単離するための方法であって、単核細胞の混合物を血小板由来成長因子と接触させる段階、および該平滑筋前駆細胞の集団を単離する段階を含む方法。
【請求項10】
接触させる段階がコラーゲンでコートされた基体の上で行われる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団を得るための方法であって、以下の段階を含む方法:
a)対象の末梢血に多能性細胞を補充するためにサイトカインを該対象に投与する段階;
b)該対象から単核細胞を得る段階;ならびに
c)細胞がCD34、Flt1、およびFlk受容体に対して陽性であり、かつTie-2受容体、CD31、vWF、およびVE-カドヘリンに対して陰性である、成体平滑筋前駆細胞の集団を濃縮するために、該単核細胞を血小板由来成長因子と接触させる段階。
【請求項12】
サイトカインがVEGF、FGF、IGF-I、またはSDFである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
接触させる段階がコラーゲンでコートされた基体の上で行われる、請求項11記載の方法。
【請求項14】
患者における脆弱なプラークを安定化させるための方法であって、該脆弱なプラークを安定化するのに効果的な量の成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団を該患者に投与する段階を含む方法。
【請求項15】
成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団は患者にとって自己由来である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団が、細胞表面で発現される接着分子をコードする外来性核酸を含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
接着分子がセレクチン、細胞内接着分子、および細胞外基質タンパク質からなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
細胞外基質タンパク質がコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、またはヴィトロネクチンである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
細胞内接着分子がICAMもしくはVCAMである、請求項17記載の方法。
【請求項20】
患者に対して投与する前に、細胞外基質タンパク質によって成体平滑筋前駆細胞の集団が前処理される、請求項14記載の方法。
【請求項21】
成体平滑筋前駆細胞の濃縮された集団を含む、移植可能な医療装置。
【請求項22】
細胞がCD34、Flt1、およびFlk受容体に対して陽性であり、かつTie-2受容体、CD31、vWF、およびVE-カドヘリンに対して陰性である、請求項21記載の装置。
【請求項23】
ステントである、請求項21記載の装置。
【請求項24】
ステントがコートされている、請求項23記載の装置。
【請求項25】
血管移植片である、請求項21記載の装置。
【請求項26】
中空管である、請求項21記載の装置。
【請求項27】
細胞がヒト細胞である、請求項21記載の装置。
【請求項28】
細胞が血管新生成長因子をコードする外来性核酸を含む、請求項21記載の装置。
【請求項29】
細胞がVEGF、線維芽細胞成長因子-4(FGF-4)、ナトリウム利尿ペプチド、プロスタサイクリン合成酵素、一酸化窒素合成酵素、アンジオスタチン、エンドスタチン、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インテグリン、またはインターロイキンをコードする外来性核酸を含む、請求項21記載の装置。
【請求項30】
成体哺乳類において血管疾患をモニターする方法であって、該成体哺乳類の末梢血における平滑筋前駆細胞の数を決定する段階、および平滑筋前駆細胞の数を対応する対照集団における平滑筋前駆細胞の基準数と比較する段階を含む方法であって、該基準数に対する該平滑筋前駆細胞の数の変化が、該血管疾患における変化の指標である方法。
【請求項31】
血管疾患がアテローム性動脈硬化症を含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
血管疾患が脆弱なプラークを含む、請求項30記載の方法。
【請求項33】
血管疾患が不安定なプラークを含む、請求項30記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−526742(P2007−526742A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515032(P2006−515032)
【出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/017086
【国際公開番号】WO2005/001042
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(501083115)メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ (27)
【Fターム(参考)】