説明

平版印刷版の製版方法

【課題】製版用フィルムを用いることなく、耐刷力および解像力に優れた平版印刷版のダイレクト製版方法を提供する。
【解決手段】支持体上に少なくとも1層の1級アミンポリマーを含有する層を有する平版印刷原版上にインクジェット方式を用いて1級アミンポリマーに対する架橋剤を含む組成物を印字して像を形成させることを特徴とする平版印刷版の製版方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版の製造方法に関し、特に、コンピュータやファクシミリなどから出力されるデジタル情報から、ネガまたはポジ画像を有するフィルムを用いることなく直接平版印刷版を製造することが可能な、インクジェット方式を用いるダイレクト製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、コンピュータ技術の進歩によって、印刷工程の上流工程である版下作製から印刷版作製に至る工程において、情報のデジタル化が急速に進み、例えば、版下原稿が容易に作製できる文字写植組版システムや、画像を直接読み取るスキャナなどが実用化された。そのことにより、コンピュータやファクシミリなどから出力されるデジタル情報から、製版用フィルムを用いることなく平版印刷版を製造し得るダイレクト製版方法が要望されている。
【0003】
このようなダイレクト製版方法としては、インクジェット方式により支持体上に直接画線部または非画線部を形成することにより印刷版を作製する方法が知られている。インクジェット方式は、画像出力方式としては比較的高速であり、また複雑な光学系を必要としないので構造が簡単である。したがって、この製版システムでは、装置を単純化することが可能であり、保守の手間も大幅に削減できるので、製版コストを下げることができる。
【0004】
インクジェット方式により支持体上に直接画線部または非画線部を形成することにより印刷版を作製する方法の例として、特開昭51−84303号公報および特開昭56−113456号公報には、印刷版の支持体の表面に、硬化性シリコーンのようなインク反発性材料をインクジェット方式を用いて付着させることにより、印刷版を作製する製版方法が開示されている。この方法により得られる印刷版は、支持体表面上に形成されたインク反発性材料が非画線部となる凹版印刷版である。したがって、印刷される画像はシャドウ部の解像力に劣る。さらに、この方法では印刷版表面の大部分を占める非画線部全体にインク反発性材料を付着させる必要があるので大量のインクが必要であり、製版工程が遅延する。
【0005】
特開昭61−27953号公報には、室温付近では固体である疎水性材料を、加熱ヘッドで溶融することによりインク組成物として用いて、インクジェット方式により支持体上に画線部を形成し、その後、上記疎水性材料からなる画線部を再び室温に冷却することにより固形化する製版方法が開示されている。一般に、このような加熱溶解性疎水性材料は蝋状であり室温で凝固後も硬度が十分でないので、得られる印刷版は耐刷力に劣る。特開平4−69244号公報には、光硬化成分を有する親油性インクを用い、親水化処理が施された記録材料にインクジェット方式で画像を形成し、活性光線による全面露光を行う印刷版の形成方法が開示されている。一般に平版印刷版に使用される支持体表面は、親水性・保水性を良好にするべく砂目立て、陽極酸化、親水化などの種々の処理が行われる。それゆえ、該支持体表面に直接インクジェット方式によりにじみのない良好な画像を形成するには、表面張力の非常に高いインク組成物を用いる必要があるが、そういったインク組成物で形成された画線上には、逆に印刷時インクが十分転写されず、結果として良好な印刷物が得られないという問題がある。
【0006】
このインクジェット方式によるにじみの問題に対し特開平5−204138号公報(特許文献1)では親水性ポリマーをインク吸収層とし、親水性基板上に塗布した平版印刷版に光重合性インク組成物をインクジェット方式で印字し製版することが提案されている。しかしながら油性のインクを親水性ポリマーに打ち込む場合、インクがはじいたり、あるいは完全に層に混ざらない為、十分な強度が得られない。また、特開平10−119230号公報(特許文献2)では同じようにインクジェット方式での印字により画像部を非溶解性とし、水溶性の非画像部を溶解させるのに、インク受理層として塩基により中和された酸性ポリマーを親水性ポリマーとして用い、酸もしくは多価金属を印字する事で不溶性とする方式を提案している。この場合は親水性ポリマーに水溶液を打ち込むためにインクがはじくようなことは無いが、ポリマーの親水基はそのまま残存しているために印刷時の十分なインキ受理性がなく、安定した印刷版とはならない。また、特開2004−66816号公報(特許文献3)ではアニオン性親油化剤をカチオン性ポリマー層に印字し、親油化剤の親油性を利用してインキ受理性を確保しているが、アニオンとカチオンの結合では十分な結合強度が得られ難く、十分な耐刷力が得られないという問題が発生している。
【特許文献1】特開平5−204138号公報(第5頁)
【特許文献2】特開平10−119230号公報(第3頁)
【特許文献3】特開2004−66816号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、コンピュータやファクシミリなどから出力されるデジタル情報から、製版用フィルムを用いることなく、解像力および耐刷力が良好な平版印刷版を簡便に製造し得るダイレクト製版方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は支持体上に少なくとも1層の1級アミンポリマーを含有する層を有する平版印刷原版上にインクジェット方式を用いて1級アミンポリマーに対する架橋剤を含む組成物を印字して像を形成させることを特徴とする平版印刷版の製版方法を用いる事で解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により解像力および耐刷力が良好な平版印刷版の製版方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては支持体上に画像形成層が設けられる。画像形成層は架橋剤を含む組成物を吸収し、解像力及び耐刷力に優れた平版印刷版を得るために、迅速に架橋剤を含む組成物を吸収し、迅速に反応する必要があり、そうでなければ実用的に使用する事ができない。この為、画像形成層は少なくとも1種の1級アミンポリマーを含有する。1級アミンポリマーとしてはポリアリルアミン、あるいはアリルアミンを含むポリマー、例えばアリルアミンとジアリルアミンとの共重合体、アリルアミンとアクリルアミドの共重合体など、あるいはキトサンなどを用いる事ができるが、モノマー単位のうち30%以上が1級アミンを有する。この1級アミンポリマーの中でもポリアリルアミンを用いる事が特に好ましい。また、これらの1級アミンポリマーを複数混ぜて使用する事も可能である。1級アミンポリマーの分子量は好ましくは5000以上、更に好ましくは10000〜100000である。
【0011】
本発明における画像形成層は1級アミンポリマーの他に公知の水溶性ポリマーを用いる事ができる。最も好ましい1級アミンポリマーであるポリアリルアミンは単独では乾燥皮膜を作れ無いので、この場合他の水溶性ポリマーも用いる必要がある。水溶性ポリマーとしてはカチオン性、若しくはノニオン性のものを用いる事が好ましい。これら水溶性ポリマーの例としてはポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース、カゼイン、ゼラチン、寒天、デキストリン、スターチ、水溶性ポリウレタン、水溶性ナイロン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾール、ポリジアリルアミン、ポリメチルジアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミド共重合物、ジジアンジアミドとジエチレントリアミン共重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドと二酸化硫黄共重合物、ジアリルアミンと二酸化硫黄共重合物等が挙げられる。この中でも1級アミンポリマーに対する架橋剤と反応しうる基、たとえば水酸基、2級アミンなど、を有するポリマーなどそれら単独では十分な架橋をしない為本発明の目的を達しなものの、補助的な作用をし得るポリマーを用いる事が好ましい。またこれら水溶性ポリマーをクラフト重合し疎水性の増したポリマーを用いる事も平版印刷を行う際のインキ受理性の観点から好ましい。
【0012】
本発明において画像形成層は水溶性ポリマー総計として0.1〜5g/m2、好ましくは0.5〜3g/m2が塗布される事が好ましい。この中で1級アミンポリマーは1〜100質量%、好ましくは5〜60質量%含有される。塗布層の1級アミンポリマーを凝集させないため、その膜面pHは9以上、好ましくは10以上、若しくは3.5以下、好ましくは2以下のいずれかであることが好ましい。
【0013】
本発明において画像形成層には平版印刷を行う際のインキ受理性を高めるためラテックスを含有させる事が好ましい。ラテックスとしてはSBR系、NBR系、MBR系、ポリエーテル系ウレタン、ポリエステル系ウレタン、ポリエステル系、アクリル系など各種公知のラテックスを用いる事ができるが、非自己架橋形のラテックスを用いる事が好ましい。含有量としては固形分として0.1〜3g/m2が好ましく、画像形成層中の水溶性ポリマーに対してその固形分の比率が10〜300質量%、好ましくは20〜200質量%含有させる。。
【0014】
本発明において画像形成層には、その他に画像形成のためインクジェット方式で印字する際の架橋剤を含む組成物の吸収性を高めるためシリカなどの顔料、画像形成層の表面粗さ調整用のマット材、界面活性剤、帯電防止剤、染料や顔料などの色材、消泡剤を含有させることができる。
【0015】
本発明の平版印刷版の支持体としては、紙、又は合成もしくは半合成高分子フィルム、アルミニウム、鉄等の金属板等で平版印刷に耐えるものであれば使用することが出来るが、アルミニウム支持体を用いる事が好ましい。また支持体の表面を一層又はそれ以上の高分子フィルム、又は金属薄膜で、片面もしくは両面を被覆することも出来る。これらの支持体の表面を塗布層との接着を良くする為に表面処理することも可能である。また支持体と画像形成層の間に例えば特開平5−100430号公報記載の下引き層などを設け、その上に画像形成層を設ける事も可能である。
【0016】
本発明の平版印刷版の支持体としてアルミニウムを用いる場合、特にこの技術分野において通常使用されている脱脂処理、粗面化処理及び陽極酸化処理等が施されるが、少なくとも粗面化処理及び陽極酸化処理がこの順で行なわれた支持体が好ましい。
【0017】
本発明で用いるアルミニウム板は表面から脂肪性物質を除去するために脱脂処理を行う。脱脂処理としてはトリクレン、シンナー等の溶剤脱脂、界面活性剤、ケロシン、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウムを混ぜたエマルジョン脱脂、酸脱脂、アルカリ脱脂などがある。
【0018】
本発明で用いるアルミニウム板は画像形成層との密着性を良好にし、かつ保水性を改善するために粗面化処理をされる。粗面化処理の方法としては機械的処理、化学的処理、電気化学的処理があり、これらを単独もしくは組み合わせて処理を行うが、特にコスト的に機械研磨を組み合わせることが好ましい。表面の形状は一般に粗さ計により表されるが、その大きさは中心線平均粗さ;Raの値で0.3〜1.0μmが適当である。
【0019】
機械的粗面化処理としてボールグレイン法、ナイロンブラシ法、バフ研磨法、ブラスト研磨法等を用いることができる。また化学的粗面化には塩化物、フッ化物等で化学的にアルミニウムを溶解する方法がある。
【0020】
電気化学的粗面化処理方法は他の方法に比較して電解液組成及び電解条件によって、砂目の形状及び表面粗さを微妙にコントロールすることが可能なのでこの方法を用いることが好ましい。電気化学的粗面化処理は直流、交流または両者の組み合わせで行うことができる。交流波としては単相又は3相の商業用交流あるいはこれらを含めた10〜300Hzの範囲の正弦波、矩形波、台形波等がある。
【0021】
アルミニウム板に供給される電力は電解液の組成、温度、電極間距離等により変わるが、印刷版として適切な砂目を得るためには、一般に電流では1〜60A/dm2、電気量では50〜4000Cの範囲で使われる。また電極とアルミニウム板との距離は1〜10cmの範囲が好ましい。
【0022】
電解液としては硝酸あるいはその塩、塩酸あるいはその塩、あるいはそれらの1種または2種以上の混合物の水溶液が使用できる。更に必要に応じて硫酸、リン酸、クロム酸、硼酸、有機酸、あるいはそれらの塩、アンモニウム塩、アミン類、界面活性剤、その他の腐食防止剤、腐食促進剤、安定化剤を加えて使用することもできる。
【0023】
電解液の濃度としては上記の酸類の濃度が0.1〜10質量%であり、電解液中のアルミニウムイオンの濃度を0〜10g/Lの範囲に維持したものが好ましい。電解液の温度は0〜60℃が好ましい。
【0024】
本発明において粗面化処理と陽極酸化処理の間にデスマット処理を行うことが好ましい。デスマットとは粗面化と陽極酸化の間に行う化学エッチング工程のことを指す。デスマットには酸あるいはアルカリを用いて行うことができるが酸処理が好ましい。酸には、硝酸、リン酸、クロム酸、硫酸、塩酸、フッ酸などを単独、あるいは数種混合して用いることができる。アルカリデスマットには水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、第三リン酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、珪酸ナトリウムなどを単独、もしくは数種混合して用いることができる。またそのデスマット液の濃度、処理時間はスマットを完全に除去できるだけの濃度が必要である。スマットの発生量はその前段階の粗面化の処理方法に依存しているので、必要なデスマットの程度は粗面化の方法に依存する。しかしスマットの除去の程度は走査型顕微鏡で容易に観察できるので、これで処理したアルミの表面を観測することでスマットが完全に除去されるデスマットの程度を容易に決定することができる。実際には廃液の処理の関係もあり、酸あるいはアルカリの合計で5〜40%程度で、その処理時間は30秒〜2分が好ましい。処理温度は40〜60℃が好ましい。
【0025】
本発明においてデスマット工程は2回以上に分けることも可能である。この場合酸デスマットとアルカリデスマットとを組み合わせることも可能であるが、アルカリデスマットを先にするほうが好ましい。
【0026】
このような粗面化処理、デスマット処理を行った後、陽極酸化処理が施される。陽極酸化の電解液には硫酸、リン酸、シュウ酸、クロム酸または有機酸(例えばスルファミン酸、ベンゼンスルホン酸など)またはそれらの混合物が好ましく、また特に生成酸化膜の溶解性の低い酸が好ましい。
【0027】
陽極酸化膜は陽極にのみ生成するので電流は通常直流電流が使用される。陽極酸化の条件としては液濃度1〜40%、電流密度0.1〜10A/dm2、電圧10〜100Vの範囲で使用される。陽極酸化膜の厚みは電流密度と時間により変えられ、印刷版の耐刷グレードによって適宜調整されるが、3g/m2以下、好ましくは2.8g/m2〜1g/m2、更に好ましくは好ましくは2.3g/m2〜1g/m2必要となる。温度は陽極酸化膜の硬度に影響を与え、低温では硬度は高くなるが、可撓性に劣るため通常は常温付近の温度で処理される。これら作成した陽極酸化膜の量はJIS H86807「皮膜質量法」に基づいて測定できる。
【0028】
また、陽極酸化処理を行なった後、必要に応じて後処理を行うことも出来る。後処理としては当該業者に知られた方法、例えば珪酸塩処理、弗化ジルコン酸処理などの無機塩類での後処理、アラビアガム、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルスルホン酸等の有機高分子処理、水和封孔処理などがある。
【0029】
本発明の平版印刷用刷版材料は画像形成層の他に必要に応じ導電層、帯電防止層、支持体のカールを防止するカール防止層、所望のカールを付与するカール促進層等を設けることができる。
【0030】
本発明に用いられる架橋剤を含む組成物は1級アミンポリマーに対する架橋剤を含有する。架橋反応自体は機構的には1級アミンであるリジンに対する架橋反応と同じである。従ってポリマー中のモノマー単位の量的割合が少なく本発明には含まれないがリジンを含みこのリジンを使って反応するゼラチンに対する架橋剤、例えば「The theory of Photographic Process」第4版(Eastman Kodak Company 1977 T.H.James編)第2章記載のアミンに対する架橋剤を用いる事ができる。架橋剤の具体例としては、例えばホルムアルデヒド、N−メチロール化合物(例えばN−メチロール尿素、N−メチロールメラミン、N−メチロールエチレン尿素やこれらの初期縮号物など)、ジアルデヒド(例えばグリオキサール、グルタルアルデヒド、スクシンアルデヒドなど)、各種エポキシ化合物(例えばグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル)、活性化ビニル化合物(例えばビス(ビニルスルホニル)メタン、ビス(ビニルスルホニルメチル)エーテルなど)、キノン類(例えばp−キノンなど)、s−トリアジン(例えば2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−sトリアジンなど)などが挙げられる。この中でもホルムアルデヒド、ジアルデヒド類、エポキシ化合物を使用する事が好ましい。
【0031】
本発明における架橋剤を含む組成物中の架橋剤は単独若しくは水溶液、アルコール溶液など溶解して用いることもできるし、またポリオキシエチレンノニルフェノールエーテルなど界面活性剤で可溶化させて用いる事もできるが、その粘度を20mPa・s以下、好ましくは5mPa・s以下、更に好ましくは2mPa・s以下にしておかないとインクジェットノズルで詰まってしまう。好ましい架橋剤濃度は架橋剤の種類によって保存安定性、粘度の観点から様々になるが一般的に0.1〜40質量%であり、更に好ましくは1〜15%である。
【0032】
本発明に用いる架橋剤を含む組成物には、インクジェットノズル内でのインクの溶媒の蒸発を抑制し、溶解成分の析出によるノズルの目詰まりを防止するために、必要に応じて、揮発防止剤が添加される。具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコールのような2価アルコール、グリセリンのような3価アルコールおよび多価アルコールが挙げられる。グリセリンが特に好ましい。これらの多価アルコールを2種類以上組み合わせて用いてもよい。揮発防止剤は本発明の光重合性架橋剤を含む組成物中に、0.5〜40質量%、好ましくは1〜20質量%の範囲の量で用いられる。揮発防止剤の含有量が0.5質量%を下回ると充分な揮発防止効果が得られない場合が生じる。40質量%を上回ると硬化後の光重合性架橋剤を含む組成物の物理特性が低下するので、得られる印刷版は耐刷力に劣る。
【0033】
インクジェットノズルより噴出された架橋剤を含む組成物の液滴の大きさを調節し高解像度の画線部が形成されるように架橋剤を含む組成物の表面張力を調整するため、または支持体表面上に画線部を形成する際に生じ得るにじみやはじきを防止するために、本発明の架橋剤を含む組成物には、さらに界面活性剤が添加され得る。この界面活性剤は、架橋剤を含む組成物の表面張力を任意に調節できるものであればよく、非イオン系、カチオン系、またはアニオン系のいずれかに限定されない。しかしながら、インクジェット方式の画像形成装置として連続噴射型を用いる場合は、架橋剤を含む組成物をインクジェットノズルの先端で帯電させ、帯電したインク滴を、強制的に形成された電界内を通過する間に偏向させる必要があるので、非イオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0034】
このような界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールラウリルエーテル、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテルのようなポリエチレングリコールアルキルエーテルまたはアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ジエタノールアマイド、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテルサルフェート、ポリエチレングリコールラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリエチレングリコールアルキルエーテルまたはアルキルフェニルエーテルのリン酸エステル、またはこれらの組み合せが用いられる。これらの界面活性剤が架橋剤を含む組成物に含有される量は0.1質量%以上であれば充分に効果的であり、含有量を増大させても表面張力は一定値以下にはならないので、5質量%程度が好適である。
【0035】
本発明における架橋剤を含む組成物にはインクジェットでの画像形成後、検版を容易にするために、顔料、染料を含有させることが好ましい。本発明に用いられる染料としては、カラーインデックス(ColorIndex)に記載されている酸性染料、直接染料、塩基性染料、反応性染料など公知のものが使用出来る。また、顔料としては特開平6−16983号公報に記載されている顔料など公知の顔料を使用できる。これらの染料、顔料の使用量については特に制限されるものではないが、一般的にはインク全重量に対して0.1〜15質量%の範囲が好適で、より好適には0.1〜10質量%である。
【0036】
本発明においてインクジェット方式での画像印字を行った後に版を加熱処理することが好ましい。加熱温度は50〜120℃、好ましくは80〜120℃でその時間は数秒〜数分加熱、好ましくは5〜30秒加熱する。加熱に伴い、ガス等発生する場合があり、加熱部は排気し光触媒などで有害排出ガスを破壊するなど必要な処置を取る事が好ましい。
【0037】
本発明においてインクジェット方式での画像印字の後、印刷するまでに平版印刷版を水洗処理することで非画像部の水溶性ポリマーを除去することができる。水洗処理は25〜35℃の水洗液をジェット方式で吹き付ける方法、または水洗液を吹き付けながらスクラブローラで乳剤層を剥離する方法を用いることで達成される。水洗液は常に新しい水をかける形でも良いし、汲置きの水を用い、循環して用いても良い。後者の場合、消泡剤、沈澱剤などを水洗液に含有させ、洗浄水をフィルターなどで濾過しながら循環再利用する事が好ましい。
【0038】
水洗処理によって露出した非画像部は、各々の親水性を高めるため、及び版面の保護のために、仕上げ液による処理が施されることが好ましい。本発明において、仕上げ液には、非画像部の陽極酸化層の保護及び親水性向上のために、アラビヤガム、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸のプロピレングリコールエステル、ヒドロキシエチル澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルアルコール等の保護コロイドを含有することが好ましい。
【0039】
本発明において印刷前に非画像部を溶出させなくとも、特開2004−322511号公報、特開2004−223833号公報、特開2004−284223号公報に記載の方法などを用いて機上製版することもできる。
【0040】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。尚、%は断りのないかぎり質量%を示す。
【実施例1】
【0041】
材質1050のアルミニウム板を4%水酸化ナトリウム水溶液で50℃1分脱脂処理を行い、水洗した後、400メッシュのパミストン懸濁液を用い、回転ナイロンブラシで研磨し、2.5%の塩酸水溶液中20℃で交流密度50A/dm2で60秒電解粗面化処理を行い、20%リン酸で50℃1分間デスマット処理した。その後25%硫酸溶液中で温度20℃電流密度3A/dm2、処理時間45秒で陽極酸化処理し、アルミニウム支持体を作製した。この陽極酸化された面に表1の如く、下記画像形成層を塗布、乾燥し平版印刷版を作製した。なお、ポリアリルアミンPAA10C単独のサンプルも作製しようとしたが、成膜できなかった。
【0042】
<画像形成層A>
PVA235(ポリビニルアルコール:クラレ(株)製:固形分) 1.2g/m2
PAA10C(ポリアリルアミン:日東紡績(株)製:固形分) 0.3g/m2
スマーテックスPA9281(SBRラテックス:日本A&L(株)製:水分散物)
1.0g/m2
【0043】
<画像形成層B>
アルカリ処理ゼラチン(ニッピゼラチン(株)製:固形分) 1.2g/m2
PAA10C 0.3g/m2
スマーテックスPA9281 1.0g/m2
【0044】
<画像形成層C>
PVPK90(ポリビニルピロリドン:ISP(株)製:固形分) 1.2g/m2
PAA10C 0.3g/m2
スマーテックスPA9281 1.0g/m2
【0045】
<画像形成層D>
キトサン(君津化学工業(株)製:固形分) 1.5g/m2
スマーテックスPA9281 1.0g/m2
【0046】
<画像形成層E>
PAA−D11(ポリアリルアミン/ポリジアリルアミン共重合物:日東紡績(株)製:固形分) 0.3g/m2
PVA235 1.2g/m2
スマーテックスPA9281 1.0g/m2
【0047】
<画像形成層F>
PAS−92(ポリジアリルアミン/2酸化硫黄重縮号物:日東紡績(株)製:固形分)
1.5g/m2
スマーテックスPA9281 1.0g/m2
【0048】
<画像形成層G>
PVA235 1.5g/m2
スマーテックスPA9281 1.0g/m2
【0049】
<画像形成層H>
ゼラチン 1.5g/m2
スマーテックスPA9281 1.0g/m2
【0050】
【表1】

【0051】
インクジェットプリンターとしてセイコーエプソン(株)製PM−700Cを用い、そのインクを下記架橋物を含む組成物に詰め替え、得られた平版印刷版に像印字した。印字後120℃に加熱した乾燥機に10秒間入れ加熱処理した後、HAMADAH234c印刷機で印刷試験を行った。湿し水はアストロマークIII(日研化学(株)製)2%水溶液、インキはValues GシアンHタイプ(大日本インキ化学工業(株)製)を用いた。
【0052】
<架橋剤を含む組成物イ>
グリオキサール(40%水溶液) 25g
グリセリン 2g
ニッサンノニオンK−230(界面活性剤:日本油脂(株)製) 5g
食用色素青1号 0.1g
水で溶解し、100gとした。
【0053】
<架橋剤を含む組成物ロ>
グルタルアルデヒド (25%水溶液) 40g
グリセリン 2g
ニッサンノニオンK−230 5g
食用色素青1号 0.1g
水で溶解し、100gとした。
【0054】
<架橋剤を含む組成物ハ>
デナコールEX313(エポキシ化合物:ナガセケムテックス(株)製) 10g
グリセリン 2g
ニッサンノニオンK−230 5g
食用色素青1号 0.1g
水で溶解し、100gとした。
【0055】
<架橋剤を含む組成物ニ>
デナコールEX614(エポキシ化合物:ナガセケムテックス(株)製) 10g
グリセリン 2g
ニッサンノニオンK−230 5g
エタノールで溶解し、100gとした。
【0056】
<架橋剤を含む組成物ホ>
ビス(ビニルスルホニル)プロパノール 10g
グリセリン 2g
ニッサンノニオンK−230 5g
食用色素青1号 0.1g
水で溶解し、100gとした。
【0057】
<架橋剤を含む組成物ヘ>
2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−sトリアジン 10g
グリセリン 2g
ニッサンノニオンK−230 5g
食用色素青1号 0.1g
水で溶解し、100gとした。
【0058】
<架橋剤を含む組成物ト>
硫酸アルミニウム14〜18水和物) 10g
グリセリン 2g
ニッサンノニオンK−230 5g
食用色素青1号 0.1g
水で溶解し、100gとした。
【0059】
結果を表2に示す。にじみについてはIJでの印字後、画像部が激しくにじんだものを×、若干にじんだものを△、全くにじまないものを○とした。画質は印刷100枚目で再現できている最も細いネガポジ細線の幅で評価した。耐刷力は画像部にかすれなど起きた枚数で評価した。
【0060】
【表2】

【0061】
表2より1級アミンポリマーを画像形成層に用いたものは良好な耐刷力、画質が得られ、更にポリアリルアミンを用いるとより良い事がわかる。架橋剤としてはジアルデヒド類、エポキシ類を用いると特に好ましい画質が得られた。
【実施例2】
【0062】
実施例1のプレート1〜5を用い、架橋剤を含む組成物として実施例1の架橋剤を含む組成物イを使い、インクジェット方式による印字後加熱処理を行わない以外は実施例1と同様に実施した結果、下記表3のような結果を得た。表3の結果を実施例1と比べると、加熱処理がある方がより好ましい耐刷力、画質が得られることが判る。
【0063】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に少なくとも1層の1級アミンポリマーを含有する層を有する平版印刷原版上にインクジェット方式を用いて1級アミンポリマーに対する架橋剤を含む組成物を印字して像を形成させることを特徴とする平版印刷版の製版方法。
【請求項2】
インクジェット方式による印字後、版を加熱処理することを特徴とする請求項1記載の平版印刷版の製版方法。
【請求項3】
1級アミンポリマーがポリアリルアミンである事を特徴とする請求項1、若しくは2記載の平版印刷版の製版方法。

【公開番号】特開2006−248019(P2006−248019A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67116(P2005−67116)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】