説明

平版印刷版

【課題】デジタル情報からダイレクト製版が可能であり、良好な耐刷性と耐汚れ性を両立させることが可能な平版印刷版を提供する。
【解決手段】親水性層にノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドと、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、ニッケル化合物、およびチタン化合物の中から選ばれる少なくとも1種の水溶性金属塩を含有する平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル情報からダイレクトに製版するための平版印刷版に関する。詳しくはダイレクト製版が可能であり、耐刷性および耐汚れ性に優れた平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューター情報からのデジタル信号に基づき製版するCTP(コンピューター・ツゥ・プレート)印刷版は、レーザーを用いて直接感光材料を露光し、アルカリ性の現像液を用いて現像処理を行うことが一般的に行われている。しかし、アルカリ性の現像液は人体に有害であり、更に近年、地球環境への配慮から現像処理に伴って排出される廃液の処分が産業界全体の大きな関心事となっている。
【0003】
これに対応するCTP平版印刷版として、特別な薬剤(アルカリ、酸、溶媒など)を含む処理液による現像処理を必要とせず、従来の印刷機に適用可能である平版印刷版が求められており、例えば、印刷機上で印刷の初期段階で現像処理を行う、いわゆる機上現像タイプ平版印刷版、水もしくは水を主体とした実質的に中性の処理液で処理をする平版印刷版、全く現像処理を必要としない相変化タイプの平版印刷版、インクジェット方式による平版印刷版などの、ケミカルフリータイプ平版印刷版やプロセスレスタイプ平版印刷版と呼ばれる平版印刷版が知られている。
【0004】
これらの印刷版材料としては、例えば、湿し水および印刷インキにより未露光部が除去可能な画像記録層を有する感光性平版印刷版材料(例えば、特許文献1)、プラスチックフィルム支持体上に親水性層を設け、その上に、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体、または側鎖にビニル基が置換したフェニル基およびスルホン酸塩基を有する水溶性重合体、および光重合開始剤または酸発生剤を含有する感光層を設け、水で現像可能な平版印刷版(特許文献2)、熱可塑性樹脂あるいは熱溶融性物質を含有する画像形成層を設けサーマルヘッドや赤外線レーザー等で加熱印字することで疎水性の画像部が得られる感熱型平版印刷版(特許文献3)、ホットメルト型インクを基材上に供給し画像を形成して印刷版を作製する方法(特許文献4)が提案されている。
【0005】
これらのタイプの平版印刷版では印刷汚れを防止するために親水性層を有しているが、これらの親水性層では耐汚れ性を向上させようとすると耐刷性が低下しやすい傾向にあった。この問題を解決するためにいくつかの手法が提案されているが、いずれの手法においても、十分な耐刷性および耐汚れ性を有する平版印刷版が得られないのが現状である。
【0006】
一方、特開2008−114527号公報(特許文献5)には、耐汚れ性、耐刷性に優れた平版印刷版の親水性層に特定の溶解度を有する水溶性化合物を利用することが開示されている。また特開2000−122269号公報(特許文献6)、特開2002−19315号公報(特許文献7)、特開2003−25751号公報(特許文献8)、特開2004−42531号公報(特許文献9)等には、親水性層が含有する親水性樹脂成分の一例としてポリアクリルアミドが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-161872号公報
【特許文献2】特開2003−215801号公報
【特許文献3】特開昭58−199153号公報
【特許文献4】特開平9−58144号公報
【特許文献5】特開2008−114527号公報
【特許文献6】特開2000−122269号公報
【特許文献7】特開2002−19315号公報
【特許文献8】特開2003−25751号公報
【特許文献9】特開2004−42531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、デジタル情報からダイレクト製版が可能であり、良好な耐刷性と耐汚れ性を両立させることが可能な平版印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、耐水性支持体上に親水性層を有する平版印刷版において、該親水性層にノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドと、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、ニッケル化合物、およびチタン化合物の中から選ばれる水溶性金属塩の少なくとも1種を含有する平版印刷版により達成された。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、デジタル情報からダイレクト製版が可能であり、良好な耐刷性と耐汚れ性を両立させることが可能な平版印刷版を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の親水性層は、ノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有することにより良好な耐汚れ性を有する平版印刷版が得られる。ここでノニオン性とは実質的にアニオン性およびカチオン性の基を含まないもののことを指す。また本発明のノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドとは、ノニオン性ポリアクリルアミドまたはノニオン性ポリメタアクリルアミドのいずれかを意味し、後述する説明においても(メタ)と記載されていれば同様のことを示す。
【0013】
ノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドは、(メタ)アクリルアミド類を重合することにより得られるが、他のモノマーとの共重合体であってもよい。中でも水酸基を有するモノマーとの共重合により得られる、水酸基を有するものであることが好ましい。ノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドに占める水酸基の割合は任意に選ぶことができる。水酸基を有するノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドの具体例としてはハリコート1059(ハリマ化成(株))が挙げられる。
【0014】
水酸基を有するモノマーとしては、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエーテル、または(メタ)アクリル酸エステルのグリコール系付加物などが挙げられる。具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル;ヒドロキシエチルアリルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール等のポリアルキレンンポリオールと(メタ)アクリル酸とのエステルであるポリオールモノ(メタ)アクリレート;ポリアルキレンポリオールとε−カプロラクトンとの付加物などが挙げられる。
【0015】
(メタ)アクリルアミド類の具体例としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−トリルアクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)アクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)アクリルアミド、N−(トリルスルホニル)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアクリルアミド類、およびメタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−ベンジルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−トリルメタクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)メタクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)メタクリルアミド、N−(トリルスルホニル)メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチル−N−フェニルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド類が挙げられる。特に好ましい(メタ)アクリルアミド類としてはアクリルアミドとメタクリルアミドが挙げられる。
【0016】
本発明のノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドは、他のモノマーとの共重合体であってもよい。用いられる他のモノマーとしては、例えば、水酸基もしくはアミド基を有さないアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイミド等の公知のモノマーも挙げられる。このようなモノマー類を共重合させることで、成膜性、膜強度、親水性、疎水性、溶解性、反応性、安定性等の諸物性を改善することができる。
【0017】
共重合体の合成に使用される(メタ)アクリルアミド類および水酸基を有するモノマーが全モノマー中に占める総割合は、任意の割合で可能であるが50質量%以上であることが好ましい。
【0018】
親水性層におけるノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドの含有量は、任意の量で可能であるが1質量%以上であることが好ましい。上限は40質量%以下であることが好ましい。また4〜30質量%であることがより好ましい。
【0019】
本発明の親水性層はジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、ニッケル化合物、およびチタン化合物の中から選ばれる少なくとも1種の水溶性金属塩を含有する。ノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドとこれらの化合物とを併用することにより、良好な耐刷性と耐汚れ性を両立させることができる。特にジルコニウム化合物とチタン化合物が好ましい。
【0020】
ジルコニウム化合物としては、例えば、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、蓚酸ジルコニウムアンモニウム、蓚酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、硝酸ジルコニウム、燐酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロオキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、ギ酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムテトラアルコキシド(アルコキシル基の炭素数は、好ましくは1〜4)、水酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。また市販品としてはZA−30、ZC−2、AC−7、ZN、ZA(第一稀元素化学工業(株))等が挙げられる。
【0021】
アルミニウム化合物としては、硫酸アルミニウム、亜硫酸アルミニウム、チオ硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム九水和物、塩化アルミニウム六水和物等が挙げられる。これらの中にはpHが不適当に低いものもあり、その場合は適宜pHを調節して用いることも可能である。また市販品としてはポリ塩化アルミニウム(PAC)(多木化学(株))、ポリ水酸化アルミニウム(Paho)(浅田化学工業(株))、ピュラケムWT((株)理研グリーン)等が挙げられる。
【0022】
ニッケル化合物としては、硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル六水和物、酢酸ニッケル四水和物、硫酸ニッケルアンモニウム六水和物、アミド硫酸ニッケル四水和物、フェノールスルフォン酸ニッケル等が挙げられ、住友金属工業(株)などから入手可能である。
【0023】
チタン化合物としては、乳酸チタニウム、無水マレイン酸チタニウム、シュウ酸チタニウム、ラク酸チタニウム、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)などのチタニウム化合物が挙げられる。また市販品としては、TC−300、TC−310、TC−315、TC−400(マツモトファインケミカル(株))等が挙げられる。
【0024】
これらのジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、ニッケル化合物、およびチタン化合物から選ばれる水溶性金属塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。親水性層に占める割合は、任意の割合で可能であるが1質量%以上であることが好ましい。上限は40質量%以下であることが好ましい。また3〜30質量%であることがより好ましい。なお本発明の水溶性金属塩の水溶性とは、常温常圧下で水に1質量%以上溶解することを意味する。
【0025】
本発明で使用される耐水性支持体は、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド樹脂、セロハン、セルロイド等のプラスチック樹脂フィルム、および紙と樹脂フィルムを貼り合わせたもの、基紙の両面にポリオレフィン樹脂層を被覆したポリオレフィン樹脂被覆紙等である。これらの耐水性支持体の厚みは50〜350μm、好ましくは80〜300μmのものが用いられる。
【0026】
以下にポリオレフィン樹脂被覆紙支持体(以降、ポリオレフィン樹脂被覆紙と称す)について詳細に説明する。本発明に用いられるポリオレフィン樹脂被覆紙は、その含水率は特に限定しないが、カール性より好ましくは5〜9質量%の範囲であり、より好ましくは6〜9質量%の範囲である。ポリオレフィン樹脂被覆紙の含水率は、任意の水分測定法を用いて測定することができる。例えば、赤外線水分計、絶乾重量法、誘電率法、カールフィッシャー法等を用いることができる。
【0027】
ポリオレフィン樹脂被覆紙を構成する基紙は特に制限はなく、一般に用いられている紙が使用できるが、より好ましくは、例えば、写真用支持体に用いられているような平滑な原紙が好ましい。基紙を構成するパルプとしては天然パルプ、再生パルプ、合成パルプ等を1種もしくは2種以上混合して用いられる。この基紙には一般に製紙で用いられているサイズ剤、紙力増強剤、填料、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料等の添加剤が配合される。更に、表面サイズ剤、表面紙力剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、染料、アンカー剤等が表面塗布されていてもよい。
【0028】
基紙の厚みに関しては特に制限はないが、紙を抄造中または抄造後カレンダー等にて圧力を印加して圧縮するなどした表面平滑性のよいものが好ましく、その坪量は30〜250g/mが好ましい。
【0029】
基紙を被覆するポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンのホモポリマーまたはエチレン−プロピレン共重合体等のオレフィンの2つ以上からなる共重合体およびこれらの混合物であり、各種の密度、溶融粘度指数(メルトインデックス)のものを単独にあるいはそれらを混合して使用できる。
【0030】
ポリオレフィン樹脂被覆紙の樹脂中には、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、炭酸カルシウム等の白色顔料、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド等の脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、コバルトブルー、群青、セシリアンブルー、フタロシアニンブルー等のブルーの顔料や染料、コバルトバイオレット、ファストバイオレット、マンガン紫等のマゼンタの顔料や染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等の各種の添加剤を適宜組み合わせて加えるのが好ましい。
【0031】
ポリオレフィン樹脂被覆紙の主な製造方法としては、走行する基紙上にポリオレフィン樹脂を加熱溶融した状態で流延する、いわゆる押出コーティング法により製造され、基紙の両面が樹脂により被覆される。また、樹脂を基紙に被覆する前に、基紙にコロナ放電処理、火炎処理等の活性化処理を施すことが好ましい。樹脂被覆層の厚みとしては、5〜50μmが適当である。
【0032】
耐水性支持体の親水性層が塗設される側には、下塗り層を設けるのが好ましい。この下塗り層は、親水性層が塗設される前に、予め耐水性支持体の表面に塗布乾燥されたものである。この下塗り層は、皮膜形成可能な水溶性ポリマーやポリマーラテックス等を主体に含有する。好ましくは、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース等の水溶性ポリマーであり、特に好ましくはゼラチンである。これらの水溶性ポリマーの付着量は、10〜500mg/mが好ましく、20〜300mg/mがより好ましい。更に、下塗り層には、他に界面活性剤や硬膜剤を含有するのが好ましい。支持体に下塗り層を設けることによって、親水性層塗布時のひび割れ防止に有効に働き、均一な塗布面が得られる。
【0033】
本発明の平版印刷版がインクジェット方式によりダイレクト製版する印刷版である場合について詳細に説明する。
【0034】
インクジェット方式によりダイレクト製版する場合、耐水性支持体上の親水性層は前述したノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドと、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、ニッケル化合物、およびチタン化合物の中から選ばれる少なくとも1種の水溶性金属塩以外に、カチオン性コロイダルシリカを含有する、あるいはコロイダルシリカを含有しカチオン性化合物を含有することが好ましい。該親水性層の全固形分質量に対するカチオン性のコロイダルシリカ、あるいはコロイダルシリカの質量比が50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは85質量%以上である。また本発明の親水性層は平均一次粒子径が30nm以上のカチオン性コロイダルシリカを含有する、あるいは非球状のカチオン性コロイダルシリカを含有する層であることが耐刷性の観点から好ましい。
【0035】
親水性層が非球状のカチオン性コロイダルシリカを含有する層である場合、該非球状のカチオン性コロイダルシリカは、平均一次粒子径が25〜60nmであり、かつ平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比が1.4〜3.1であることが好ましい。これにより、より優れた耐刷性を有する平版印刷版が得られる。
【0036】
平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比が1.4〜3.1であるとは、コロイダルシリカの一次粒子が2〜3個連なった状態のものであり、5個以上連なったものは含まない状態を意味する。なおコロイダルシリカの平均一次粒子径が25〜60nmであり、かつ平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比が1.4〜3.1であれば、異なる2種以上のコロイダルシリカを用いることもできる。コロイダルシリカの平均一次粒子径は一次粒子径が判別できるまで分散された粒子の電子顕微鏡写真より一定面積内に存在する100個の粒子の平均粒子径のことであり、コロイダルシリカの平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比は、連なったコロイダルシリカの直径をレーザー散乱式の粒度分布計(例えば、堀場製作所製、LA910)を用いて個数メジアン径として求め、上記で求めた平均一次粒子径に対する比を算出した値である。
【0037】
このようなコロイダルシリカを得る方法としては、後述するカチオン性ポリマーや、下記カチオン性シランカップリング剤等により、コロイダルシリカの表面を修飾する方法、あるいはコロイダルシリカの製造過程で粒子表面にカチオン性基を導入する方法等を挙げることができる。コロイダルシリカの表面を修飾する場合に用いるコロイダルシリカとしては、例えば扶桑化学工業株式会社製の商品名クォートロンPLシリーズ、日揮触媒化成株式会社製のカタロイドSI−50等を挙げることができる。
【0038】
上記カチオン性シランカップリング剤としては、アミノ基含有シランカップリング剤を利用することが好ましい。このシランカップリング剤としては、例えばN−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0039】
カチオン性コロイダルシリカを修飾するカチオン性ポリマーの固形分混合比(コロイダルシリカ質量部/カチオン性ポリマー質量部)は、100/2〜100/20が好ましく、100/5〜100/15がより好ましい。またコロイダルシリカをカップリング剤で処理する場合のカップリング剤の固形分混合比(コロイダルシリカ質量部/カップリング剤質量部)は、100/0.01〜100/20が好ましく、100/0.05〜100/10がより好ましい。
【0040】
親水性層は平均一次粒子径が30nm以上のカチオン性コロイダルシリカ(平均一次粒子径が30nm以上の、球状の一次粒子をコロイド粒子とするカチオン性コロイダルシリカ)を含有することが耐刷性の観点から最も好ましい。
【0041】
カチオン性コロイダルシリカとしては、例えば、ライオン株式会社からはシリカLGTとして、あるいは日揮触媒化成株式会社からはファインカタロイドとして、また日産化学工業株式会社のST−AK−L、ST−UP−AK、ST−PS−M−AK、ST−AK−YL等として市販されており、これらを入手し利用することができる。なお、該カチオン性コロイダルシリカの平均一次粒子径は耐刷性の観点から、300nm以下であることが望ましい。
【0042】
親水性層が含有する、カチオン性化合物と共に用いるコロイダルシリカとは、詳細にはアニオン性のコロイダルシリカであり、好ましい平均一次粒子径は上述したカチオン性のコロイダルシリカと同様である。かかるアニオン性のコロイダルシリカとしては、例えば日産化学工業株式会社から市販されているスノーテックスST−20、ST−30、ST−C、ST−OL40、ST−OZL、扶桑化学工業株式会社から市販されているPL−3L、PL−5、PL−7等を入手し利用することができる。
【0043】
親水性層が含有するコロイダルシリカと共に用いられるカチオン性化合物としては、カチオン性ポリマーが挙げられる。なおこれらカチオン性ポリマーは、非球状のカチオン性コロイダルシリカを作製する際の、シリカ表面の修飾にも用いることができる。
【0044】
上記カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン、ポリアリルアミン、アルキルアミン重合物、特開昭59−20696号公報、特開昭59−33176号公報、特開昭59−33177号公報、特開昭59−155088号公報、特開昭60−11389号公報、特開昭60−49990号公報、特開昭60−83882号公報、特開昭60−109894号公報、特開昭62−198493号公報、特開昭63−49478号公報、特開昭63−115780号公報、特開昭63−280681号公報、特開平1−40371号公報、特開平6−234268号公報、特開平7−125411号公報、特開平10−193776号公報等に記載された1〜3級アミノ基、4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好ましく用いられる。これらのカチオンポリマーの分子量は、1000〜10万程度が好ましい。
【0045】
親水性層は本発明のノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミド以外に、バインダーを含有することができる。親水性層におけるバインダー含有量は、該親水性層の固形分塗布量の10質量%以下であることが好ましく、更に6質量%以下であることが好ましい。バインダーとしては後述する、親水性層と支持体の間に設けるインク吸収層が含有する親水性バインダーを例示することができる。親水性層の固形分塗布量は、0.01〜8.0g/mであることが好ましく、より好ましくは0.05〜2.0g/mであり、更に0.05〜1.5g/mであることが好ましい。
【0046】
インクジェット方式に用いる平版印刷版は、上記した親水性層と支持体の間にインク吸収層を設けることが好ましい。インク吸収層としてはポリマータイプのインク吸収層を用いてもよいが、好ましくは無機微粒子を含有するインク吸収層を用いることが好ましい。これにより画像品質、耐刷性および耐汚れ性に優れた平版印刷版を得ることができる。
【0047】
次にインク吸収層について説明する。インク吸収層は無機微粒子を主体に含有することが好ましい。ここで主体に含有するとは、インク吸収層の固形分塗布量に対して、無機微粒子を50質量%以上含有することであり、より好ましくは60質量%以上含有することである。
【0048】
インク吸収層が含有する無機微粒子としては、非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタン等公知の各種微粒子が挙げられるが、生産性の点で非晶質合成シリカ、アルミナまたはアルミナ水和物が好ましい。更に、インク吸収性の観点から、非晶質合成シリカ、気相法シリカが特に好ましく用いられる。またインク吸収層が含有する無機微粒子の平均二次粒子径は1.0μm未満であることが好ましい。
【0049】
非晶質合成シリカは、製造法によって湿式法シリカ、気相法シリカ、およびその他に大別することができる。湿式法シリカは、更に製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。沈降法シリカは珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の行程を経て製品化される。沈降法シリカとしては、例えば東ソー・シリカ株式会社からニップシールとして、株式会社トクヤマからトクシールとして市販されている。ゲル法シリカは珪酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子どうしを結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。例えば、東ソー・シリカ株式会社からニップゲルとして、グレースジャパン株式会社からサイロイド、サイロジェットとして市販されている。ゾル法シリカは、コロイダルシリカとも呼ばれ、珪酸ソーダの酸等による複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られ、例えば日産化学工業株式会社からスノーテックスとして市販されている。
【0050】
気相法シリカは湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素および酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは日本アエロジル株式会社からアエロジル、株式会社トクヤマからQSタイプとして市販されている。
【0051】
上記無機微粒子は、BET法による比表面積が150m/gを超える無機微粒子を使用することが、耐汚れ性が良化するため好ましい。
【0052】
更に、無機微粒子の中でも、BET法による比表面積が250m/gを超える気相法シリカが好ましく使用できる。なお、本発明で言うBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて表面積が得られる。
【0053】
気相法シリカは、カチオン性化合物の存在下で分散するのが好ましい。分散された気相法シリカの平均二次粒子径は1.0μm未満であることが好ましい。分散方法としては、通常のプロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌等で気相法シリカと分散媒を予備混合し、次にボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、および薄膜旋回型分散機等を使用して分散を行うことが好ましい。なお、本発明で言う無機微粒子の平均二次粒子径は、レーザー散乱式の粒度分布計(例えば、堀場製作所製、LA910)を用いて、個数メジアン径として測定することができる。
【0054】
インク吸収層には平均二次粒子径を1.0μm未満に粉砕した湿式法シリカも好ましく使用できる。ここで用いられる湿式法シリカとしては沈降法シリカあるいはゲル法シリカが好ましく、特に沈降法シリカが好ましい。湿式法シリカとしては平均凝集粒子径が5〜50μmである湿式法シリカ粒子が好ましく、これをカチオン性化合物の存在下微粉砕した湿式法シリカ微粒子を使用することができる。
【0055】
通常の方法で製造された湿式法シリカは、1.0μm以上の平均凝集粒子径を有するため、これを微粉砕して使用する。粉砕方法としては、水性媒体中に分散したシリカを機械的に粉砕する湿式分散法が好ましく使用できる。この際、分散液の初期粘度上昇が抑制され、高濃度分散が可能となり、粉砕・分散効率が上昇してより微粒子に粉砕することができることから、平均凝集粒子径5μm以上の沈降法シリカを使用することが好ましい。高濃度分散液を使用することによって、平版印刷版の生産性も向上する。
【0056】
平均二次粒子径が1.0μm未満の湿式法シリカ微粒子を得る具体的な方法について説明する。まず、水を主体とする分散媒中にシリカ粒子とカチオン性化合物を混合し、のこぎり歯状ブレード型分散機、プロペラ羽根型分散機、またはローターステーター型分散機等の分散装置の少なくとも1つを用いて予備分散液を得る。必要であれば水分散媒中に適度の低沸点溶剤等を添加してもよい。シリカ予備分散液の固形分濃度は高い方が好ましいが、あまり高濃度になると分散不可能となるため、好ましい範囲としては15〜40質量%、より好ましくは20〜35質量%である。次に、シリカ予備分散液をより強い剪断力を持つ機械的手段にかけてシリカ粒子を粉砕し、平均二次粒子径が1.0μm未満の湿式法シリカ微粒子分散液が得られる。機械的手段としては公知の方法が採用でき、例えば、ボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機および薄膜旋回型分散機等を使用することができる。
【0057】
上記気相法シリカおよび湿式法シリカの分散あるいは粉砕に使用するカチオン性化合物としては、カチオン性ポリマーを好ましく使用できる。かかるカチオン性化合物およびカチオン性ポリマーとしては、親水性層にコロイダルシリカと共に用いるカチオン性化合物と同義であるが、特に、カチオン性ポリマーとしてジアリルアミン誘導体が好ましく用いられる。分散性および分散液粘度の面で、これらのカチオンポリマーの分子量は、2000〜10万程度が好ましく、特に2000〜3万程度が好ましい。
【0058】
またインク吸収層に使用する無機微粒子としてアルミナまたはアルミナ水和物も好適に用いられる。アルミナまたはアルミナ水和物は、酸化アルミニウムやその含水物であり、結晶質でも非晶質でもよく、不定形や、球状、板状等の形態を有しているものが使用される。これらのいずれかを使用してもよいし、併用してもよい。
【0059】
酸化アルミニウムとしては酸化アルミニウムのγ型結晶であるγ−アルミナが好ましく、中でもδグループ結晶が好ましい。γ−アルミナは一次粒子を10nm程度まで小さくすることが可能であるが、通常は、数千から数万nmの二次粒子結晶を超音波や高圧ホモジナイザー、対向衝突型ジェット粉砕機等で平均二次粒子径が1.0μm未満まで分散したものが使用できる。
【0060】
アルミナ水和物はAl・nHO(n=1〜3)の構成式で表される。酸化アルミニウム含水物は、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和、アルミン酸塩の加水分解等の公知の製造方法により得られる。本発明に使用されるアルミナ水和物の平均二次粒子径は1.0μm未満であることが好ましい。
【0061】
アルミナおよびアルミナ水和物は、酢酸、乳酸、蟻酸、メタンスルホン酸、塩酸、硝酸等の公知の分散剤によって平均二次粒子径が1.0μm未満まで分散されたものが好ましく用いられる。
【0062】
上記した無機微粒子の中から2種以上の無機微粒子を併用することもできる。例えば、微粉砕した湿式法シリカと気相法シリカとの併用、微粉砕した湿式法シリカとアルミナあるいはアルミナ水和物との併用、気相法シリカとアルミナあるいはアルミナ水和物との併用が挙げられる。この併用の場合の比率は、いずれの様態も7:3〜3:7の範囲が好ましい。
【0063】
インク吸収層を構成する無機微粒子と共にバインダーを用いることが好ましい。かかるバインダーとしては、透明性が高くインクのより高い浸透性が得られる親水性バインダーが好ましく用いられる。例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、デキストラン、デキストリン、カラギーナン、寒天、プルラン、水溶性ポリビニルブチラール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等が挙げられる。これら親水性バインダーは2種類以上併用することも可能である。親水性バインダーの使用に当たっては、親水性バインダーがインクの初期の浸透時に膨潤して空隙を塞いでしまわないことが重要であり、この観点から比較的室温付近で膨潤性の低い親水性バインダーが好ましく用いられる。好ましい親水性バインダーは完全または部分ケン化のポリビニルアルコールや、カチオン変成ポリビニルアルコールである。
【0064】
ポリビニルアルコールの中でも特に好ましいのは、ケン化度が80%以上の部分または完全ケン化したものである。平均重合度200〜5000のものが好ましい。
【0065】
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば特開昭61−10483号公報に記載されているような、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基をポリビニルアルコールの主鎖あるいは側鎖中に有するポリビニルアルコールである。
【0066】
インク吸収層は、インク吸収層を構成する上記親水性バインダーと共に必要に応じ硬膜剤を用いることもできる。硬膜剤の具体的な例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドの如きアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンの如きケトン化合物、ビス(2−クロロエチル)尿素、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、米国特許第3,288,775号記載の如き反応性のハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、米国特許第3,635,718号記載の如き反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号記載の如きN−メチロール化合物、米国特許第3,103,437号記載の如きイソシアナート類、米国特許第3,017,280号、米国特許第2,983,611号記載の如きアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号記載の如きカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号記載の如きエポキシ化合物、ムコクロル酸の如きハロゲンカルボキシアルデヒド類、ジヒドロキシジオキサンの如きジオキサン誘導体、クロム明ばん、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類の如き無機架橋剤等があり、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0067】
親水性バインダーとしてケン化度が80%以上の部分または完全ケン化したポリビニルアルコールを用いる場合には、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類が好ましく、ホウ酸が特に好ましい。
【0068】
また、インク吸収層を構成する親水性のバインダーとしてケト基を有する親水性バインダーを用いることもできる。ケト基を有する親水性バインダーは、ケト基を有するモノマーと他のモノマーを共重合する方法等によって合成することができる。ケト基を有するモノマーの具体例としては、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクレート、4−ビニルアセトアセトアニリド、アセトアセチルアリルアミド等が挙げられる。また、ポリマー反応でケト基を導入してもよく、例えばヒドロキシ基やアミノ基とジケテンとの反応等によってアセトアセチル基を導入することができる。ケト基を有する親水性バインダーの具体例としては、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性セルロース誘導体、アセトアセチル変性澱粉、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール、特開平10−157283号公報に記載の親水性バインダー等が挙げられる。本発明では、特にケト基を有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。ケト基を有する変性ポリビニルアルコールとしては、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0069】
アセトアセチル変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールとジケテンの反応等の公知の方法によって製造することができる。アセトアセチル化度は0.1〜20モル%が好ましく、更に1〜15モル%が好ましい。ケン化度は80モル%以上が好ましく、更に85モル%以上が好ましい。重合度としては500〜5000のものが好ましく、特に2000〜4500のものが更に好ましい。
【0070】
ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールは、ジアセトンアクリルアミド−酢酸ビニル共重合体をケン化する等公知の方法によって製造することができる。ジアセトンアクリルアミド単位の含有量としては、0.1〜15モル%の範囲が好ましく、更に0.5〜10モル%の範囲が好ましい。ケン化度としては85モル%以上、重合度としては500〜5000のものが好ましい。
【0071】
インク吸収層に含有するケト基を有する親水性バインダーは、その架橋剤で架橋されることが好ましい。かかる架橋剤としては以下の化合物が挙げられる。
【0072】
(1)ポリアミン類
脂肪族ポリアミン類;
・アルキレンジアミン(例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等)
・ポリアルキレンポリアミン(例えば、ジエチレントリアミン、イミノビス(プロピルアミン)、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等)
・これらのアルキルまたはヒドロキシアルキル置換体(例えば、アミノエチルエタノールアミン、メチルイミノビス(プロピルアミン)等)
・脂環または複素環含有脂肪族ポリアミン(例えば、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等)
・芳香環含有脂肪族アミン類(例えば、キシリレンジアミン、テトラクロル−p−キシリレンジアミン等)
【0073】
C4〜C15の脂環式ポリアミン;
例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、4,4′−メチレンジシクロヘキサンジアミン(水添メチレンジアニリン)等。
【0074】
C4〜C15の複素環式ポリアミン;
例えば、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、1,4−ジアミノピペラジン等。
【0075】
C6〜C20の芳香族ポリアミン類;
・非置換芳香族ポリアミン(例えば1,2−、1,3−および1,4−フェニレンジアミン、2,4′−および4,4′−ジフェニルメタンジアミン、ポリフェニルポリメチレンポリアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、チオジアニリン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)スルホン、2,6−ジアミノピリジン、m−アミノベンジルアミン、トリフェニルメタン−4,4′,4″−トリアミン、ナフチレンジアミン等)
・核置換アルキル基(例えばC1〜C4のアルキル基)を有する芳香族ポリアミン(例えば、2,4−および2,6−トリレンジアミン、クルードトリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルジフェニルメタン、4,4′−ビス(o−トルイジン)、ジアニシジン、ジアミノジトリルスルホン、1,3−ジメチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジメチル−2,6−ジアミノベンゼン、1,4−ジエチル−2,5−ジアミノベンゼン、1,4−ジイソプロピル−2,5−ジアミノベンゼン、1,4−ジブチル−2,5−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノメシチレン、1,3,5−トリエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3,5−トリイソプロピル−2,4−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジエチル−2,6−ジアミノベンゼン、2,3−ジメチル−1,4−ジアミノナフタレン、2,6−ジメチル−1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジイソプロピル−1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジブチル−1,5−ジアミノナフタレン、3,3′,5,5′−テトラメチルベンジジン、3,3′,5,5′−テトライソプロピルベンジジン、3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′,5,5′−テトラエチル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′,5,5′−テトライソプロピル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′,5,5′−テトラブチル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,5−ジエチル−3′−メチル−2′,4−ジアミノジフェニルメタン、3,5−ジイソプロピル−3′−メチル−2′,4−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジエチル−2,2′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′,5,5′−テトラエチル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン、3,3′,5,5′−テトライソプロピル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン、3,3′,5,5′−テトラエチル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′,5,5′−テトライソプロピル−4,4′−ジアミノジフェニルスルホン等)
【0076】
ポリアミドポリアミン;
例えば、ジカルボン酸(ダイマー酸等)と過剰の(酸1モル当たり2モル以上の)ポリアミン類(上記アルキレンジアミン、ポリアルキレンポリアミン等)との縮合により得られる低分子量(例えば分子量200〜5000)ポリアミドポリアミン等。
【0077】
ポリエーテルポリアミン;
例えば、分子量100〜5000のポリエーテルポリオール(ポリアルキレングリコール等)のシアノエチル化物の水素化物等。
【0078】
(2)ジシアンジアミド誘導体;
ジシアンジアミド、ジシアンジアミド・ホルマリン重縮合物、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物等。
【0079】
(3)ヒドラジン化合物;
ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ヒドラジンの無機塩類(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、チオシアン酸、炭酸等の無機塩類)、ヒドラジンの有機塩類(例えば、蟻酸、シュウ酸等の有機塩類)。
【0080】
(4)ポリヒドラジド化合物(ジヒドラジド、トリヒドラジド);
カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等。
【0081】
(5)アルデヒド類;
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、ベンズアルデヒド等のモノアルデヒド、グリオキザール、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、マレインジアルデヒド、1,8−オクタンジアール、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、両末端アルデヒド化PVA等のジアルデヒド類、アリリデン酢酸ビニルジアセテート共重合体をケン化して得られる側鎖アルデヒド含有共重合体、ジアルデヒド澱粉、ポリアクロレイン等。
【0082】
(6)メチロール化合物;
メチロールホスフィン、ジメチロール尿素、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、尿素樹脂初期重合物、メラミン樹脂初期重合物等。
【0083】
(7)活性化ビニル化合物;
ジビニルスルホン系化合物、β−ヒドロキシエチルスルホン系化合物等。
【0084】
(8)エポキシ化合物;
エピクロルヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジまたはトリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン、ポリエポキシ化合物等。
【0085】
(9)イソシアネート系化合物;
トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン−トリレンジイソシアネートアダクト、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス−4−フェニルメタントリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびこれらのケトオキシムブロック物またはフェノールブロック物、ポリイソシアネート等。
【0086】
(10)フェノール系化合物;
フェノール系樹脂初期縮合物、レゾルシノール系樹脂等。
【0087】
(11)多価金属塩;
・ジルコニウム塩(硝酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、フッ化ジルコニウム化合物等)
・チタン塩(4塩化チタン、乳酸チタン、テトライソプロピルチタネート等)
・アルミニウム塩(塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、乳酸アルミニウム等)
・カルシウム塩(塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等)
・マグネシウム塩(塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等)
・亜鉛塩(塩化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛等)
【0088】
上記した架橋剤の中でも、ポリヒドラジド化合物、および多価金属塩が好ましい。ポリヒドラジド化合物の中でも特にジヒドラジド化合物が好ましく、更にアジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジドが好ましい。多価金属塩としては、特にジルコニウム塩が好ましく、更に、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウムが好ましい。架橋剤の添加量は、ケト基を有する親水性バインダーに対して1〜40質量%の範囲が適当であり、2〜30質量%の範囲が好ましく、特に3〜20質量%の範囲が好ましい。また、アセトアセチル変性、ジアセトンアクリルアミド変性された部位以外は、通常のポリビニルアルコールと同様の構造を持つため、硬膜剤を併用することができる。特にホウ砂あるいはホウ酸、ホウ酸塩を併用することが好ましい。
【0089】
インク吸収層には完全または部分ケン化のポリビニルアルコールや、カチオン変成ポリビニルアルコールと、ケト基を有する親水性バインダーを併用することも可能であり、その場合には、硬膜剤あるいは架橋剤を併用することもできる。
【0090】
インク吸収層には更に他の公知の親水性バインダーを併用してもよい。例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、澱粉や各種変性澱粉、ゼラチンや各種変性ゼラチン、キトサン誘導体、カラギーナン、カゼイン、大豆蛋白、ポリビニルアルコールや各種変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等を必要に応じて併用することができる。更に、バインダーとして各種ラテックスを併用してもよい。
【0091】
インク吸収層におけるバインダーの含有量は、インク吸収層が主体に含有する無機微粒子に対して5〜40質量%の範囲が好ましく、特に10〜30質量%がインク吸収層内に微細な空隙を形成し、多孔質な層を形成するために好ましい。
【0092】
インク吸収層の乾燥塗布量は、無機微粒子に換算して10〜50g/mの範囲が好ましく、12〜40g/mの範囲がより好ましく、特に15〜35g/mの範囲が好ましい。該インク吸収層には更に、カチオン性ポリマー、防腐剤、界面活性剤、着色染料、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散剤、消泡剤、レベリング剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、pH調節剤等を添加することもできる。
【0093】
親水性層とインク吸収層の間には中間層を設けてもよい。
【0094】
平版印刷版はインクジェット方式により画像情報を印字した後、印刷開始前に、非画像部の不感脂化処理を行うことが好ましい。このような不感脂化処理に用いる処理液としては、例えば特開平5−289341号公報、特開平7−56349号公報、特公昭45−29001号公報、特公昭61−28987号公報等に記載される無機微粒子を含有する処理液や、特公昭56−41992号公報に記載されるコロイド状微粒子と吸湿性ポリオールを含有する処理液等が挙げられる。これら処理液の版面への付与は、脱脂綿等に該処理液を含浸させて版面にくまなく与えるハンドエッチングを行う方法、一定量の該処理液をバーコーターにて塗布する方法、該処理液を貯留させた液浴に浸漬させてロール対により余剰の処理液を絞液するようなエッチングコンバーターを用いる方法等が適用できる。
【0095】
本発明の平版印刷版は、インクジェット方式によりダイレクト製版する場合に好ましく用いられるが、全く現像処理を必要としない相変化タイプの印刷版材料、水もしくは水を主体とした実質的に中性の処理液で処理をする印刷版材料、印刷機上で印刷の初期段階で現像処理を行い特に現像工程を必要としない印刷版材料についても利用可能である。例えば特開2008−265297号公報、特開2003−215801号公報に記載されている、水もしくは水を主体とした実質的に中性の処理液で処理をする印刷版材料の親水性層に本発明の親水性層を用いることで良好な耐刷性と耐汚れ性を両立させることが可能となる。また、特開2010−120387号公報に記載されている、加熱印字することで疎水性の画像部が得られる感熱型平版印刷版材料の画像受理層に本発明の親水性層を用いることで良好な耐刷性と耐汚れ性を両立させることが可能となる。
【0096】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。なお、部とは固形分あるいは実質成分の質量部を表す。
【実施例】
【0097】
(実施例1)
<耐水性支持体の作製>
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)の1:1混合物をカナディアンスタンダードフリーネスで300mlになるまで叩解し、パルプスラリーを調製した。これにサイズ剤とアルキルケテンダイマーを対パルプ0.5質量%、強度剤としてポリアクリルアミドを対パルプ1質量%、カチオン化澱粉を対パルプ2質量%、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂を対パルプ0.5質量%添加し、水で希釈して0.2質量%スラリーとした。このスラリーを長網抄紙機で坪量170g/mになるように抄造し、乾燥調湿して支持体の基紙とした。抄造した基紙の印字面側に密度0.918g/cmの低密度ポリエチレン樹脂に対して、10質量%のアナターゼ型二酸化チタンを均一に分散したポリエチレン樹脂組成物を320℃で溶融し、200m/分で厚さ30μmになるように押出し、微粗面加工されたクーリングロールで冷却しながら、親水性層塗布面側の樹脂被覆層を設けた。反対面側には密度0.962g/cmの高密度ポリエチレン樹脂70部と密度0.918g/cmの低密度ポリエチレン樹脂30部のブレンド樹脂組成物を同様に320℃で溶融し、厚さ25μmになるようにクーリングロールで冷却しながら樹脂被覆層を設けた。
【0098】
上記耐水性支持体の親水性層塗布面側に高周波コロナ放電処理を施した後、下記組成の下引き層をゼラチンが50mg/mとなるように塗布乾燥した。
【0099】
<下引き層>
石灰処理ゼラチン 100部
スルフォコハク酸2−エチルヘキシルエステル塩 2部
クロム明ばん 10部
【0100】
上記耐水性支持体の下引き層上に下記組成のインク吸収層の塗布液1を固形分量が25g/mになるようにスライドビード塗布装置で塗布し、5℃30秒間冷却後、40℃10%RHで乾燥終了点まで乾燥し、下記組成の親水性層の塗布液2をコロイダルシリカ固形分量が1g/mになるようにグラビア塗布装置で逐次塗布し、50℃で乾燥した。
【0101】
<気相法シリカ分散液1>
水にジメチルジアリルアルミニウムクロライドホモポリマー(分子量:9000)3部と気相法シリカ(平均一次粒子径7nm、比表面積300m/g)100部を添加し予備分散液を作製した後、高圧ホモジナイザーで処理して、固形分濃度20質量%の気相法シリカ分散液を作製した。なお、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置での測定による気相法シリカの平均二次粒子径は80nmであった。
【0102】
<塗布液1>
気相法シリカ分散液1 103部
ホウ酸 5部
ポリビニルアルコール 23部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分濃度が12質量%になるように水で調整した。
【0103】
<塗布液2>
カチオン性コロイダルシリカ (ST−AK−YL、日産化学工業(株)製)
(平均一次粒子径60nm)100部
ノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミド (ポリアクリルアミドホモポリマー) 10部
酢酸ジルコニウム (ZA−30、第一稀元素化学工業(株)製) 7部
界面活性剤 (スワノールAM、日本サーファクタント社製)0.3部
固形分濃度が8質量%になるように水で調整した。
【0104】
作製した平版印刷版に、水性顔料インクを用いたインクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製PX−1001)を用いて、画像を記録し(シアンインク)、平版印刷版を作製した。
【0105】
<耐刷性評価1>
耐刷性については、印刷機はHAMADAH234C(ハマダ印刷機(株)製オフセット印刷機)を使用し、インキはニューチャンピオンFG墨H(DIC(株)製)、給湿液は、SLM−OD(三菱製紙(株)製)の3質量%水溶液を使用した。印刷開始前にSLM−OD30(三菱製紙(株)製)の25質量%水溶液を、脱脂綿を使用して版面にくまなく拭き与えた後、強制条件で評価をするために、版胴と版の間に0.1mmのゲージフィルムを挟み、印圧を上げた状態で8000枚/hrの速度で印刷を開始し、印刷物の画像に欠落を生じ印刷できなくなった枚数を下記評価基準で評価した。結果を表1に示す。
<耐刷性>
◎:5,000枚以上
○:4,000〜5,000枚未満
△:2,000〜4,000枚未満
×:2,000枚未満
【0106】
<耐汚れ性>
耐汚れ性については、印刷機はRyobi3200CD(リョービイマジクス(株)製)を使用し、インキはニューチャンピオンFG紫68S(DIC(株)製)、給湿液は、トーホーH(東邦精機(株)製)の0.5質量%水溶液を使用した。印刷開始前にSLM−OD30(三菱製紙(株)製給湿液)の20質量%水溶液を、脱脂綿を使用して版面にくまなく拭き与えた後、強制条件で評価をするために、版胴と版の間に0.1mmのゲージフィルムを挟み、印圧を上げた状態で、7000枚/hrの印刷速度で印刷を行い、印刷物の非画像部に汚れ(地汚れ)が発生した枚数を下記評価基準で評価した。この結果を表1に示す。
◎◎:3,000枚以上
◎:2,000以上3,000枚未満
○:1,500以上2,000枚未満
△:1,000以上1,500枚未満
×:1,000枚未満
【0107】
(実施例2〜5、比較例1〜4)
実施例1の塗布液2が含有するノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミド、および酢酸ジルコニウムを表1中の化合物に変更する以外は、実施例1と同様にして平版印刷版を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
(実施例6)
下記組成の分散液Aを調製し、更にこの分散液Aを用いて塗布液3を作製し、実施例1で用いた耐水性支持体の下引き層上に厚さ7μmとなるように親水性層を塗布、乾燥した。
【0110】
<分散液A>
酸化チタン微粒子 (FA55W、古河機械金属(株)製) 30部
コロイダルシリカ (アエロジル200、日本アエロジル(株)製) 3部
ポリビニルアルコール (ゴーセノールNL05、日本合成化学工業(株)製) 10部
イソプロピルアルコール 40部
蒸留水 100部
【0111】
<塗布液3>
分散液A 100部
無定形シリカ (サイリシア530、富士シリシア化学(株)製) 1部
ノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミド
(ハリコート1059、ハリマ化成(株)製) 10部
酢酸ジルコニウム (ZA−30、第一稀元素化学工業(株)製) 7部
界面活性剤 (スワノールAM、日本サーファクタント社製)0.3部
固形分濃度が8質量%になるように水で調整した。
【0112】
(比較例5)
下記組成の塗布液4を作製し、実施例1で用いた耐水性支持体上の下引き層上に厚さ2μmとなるように親水性層を塗布、乾燥した。
<塗布液4>
ゼラチンバインダー 60部
シリカ粒子 (サイリシア435、富士シリシア化学(株)製) 30部
メラミン架橋剤 (スミレーズレジン613、住友化学(株)製) 10部
固形分濃度が8質量%になるように水で調整した。
【0113】
(比較例6)
下記組成の下記組成の塗布液5を作製し、実施例1で用いた耐水性支持体の下引き層上に厚さ7μmとなるように親水性層を塗布、乾燥した。
<塗布液5>
分散液A 100部
無定形シリカ (サイリシア530、富士シリシア化学(株)製) 1部
テトラアルコキシシラン加水分解反応生成物 15部
固形分濃度が20質量%になるように水で調整した。
なお、テトラアルコキシシラン加水分解反応生成物は、
テトラエトキシシラン (試薬、和光純薬(株)製)100部
エタノール 100部
0.1規定塩酸水溶液 200部
を混合して室温で24時間加水分解反応させたものである。
【0114】
実施例6、比較例5および比較例6の平版印刷版を、インク層の厚さ1μmの熱溶融転写インクリボンを使用する、600DPIのシリアルヘッドを有するインクリボン熱溶融転写プリンターを用いてデジタルデータにより3ポイントから18ポイントの明朝文字、85線10%、30%、50%、70%の平網画像および、黒ベタ画像を出力して平版印刷用刷版を得た。この平版印刷版を実施例1と同じ耐刷性、耐汚れ性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0115】
(実施例7)
下記組成の塗布液6を作製し、実施例1で用いた耐水性支持体の下引き層上に乾燥固形分量が3g/mになるように中間層を塗布、乾燥した。
【0116】
<塗布液6>
ゼラチン (HK28、(株)ニッピ製) 3部
酸化チタン微粒子 (FA55W、古河機械金属(株)製) 3部
カーボンブラック分散液(固形分32質量%) 0.5部
エポキシ化合物 (EX851、ナガセケムテックス(株)製) 0.3部
界面活性剤 0.5部
固形分濃度が18質量%になるように水で調整した。
【0117】
次に下記組成の塗布液7を作製し、上記中間層上に乾燥固形分量が1.0g/mになるよう親水性層を塗布、乾燥した。
【0118】
<塗布液7>
ノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミド
(ハリコート1059、ハリマ化成(株)製) 3部
酢酸ジルコニウム (ZA−30、第一稀元素化学工業(株)製) 2部
コロイダルシリカ (PS−M、日産化学工業(株)製)6.2部
固形分濃度が15質量%になるように水で調整した。
【0119】
下記組成の塗布液8を作製し、上記親水性層上に乾燥固形分量が3.0g/mになるように感光層を塗布し、70℃で2分間乾燥した。
<塗布液8>
重合体A (化1) 3.0部
光重合開始剤 (化2) 0.5部
光重合開始剤 (化3) 0.25部
増感色素 (化4) 0.1部
青色顔料 0.1部
1,3−ジオキソラン 25.0部
固形分濃度が10質量%になるように水で調整した。
【0120】
【化1】

【0121】
【化2】

【0122】
【化3】

【0123】
【化4】

【0124】
更に下記組成の塗布液9を作製し、上記感光層上に乾燥固形分量が1.6g/mになるよう塗布し、50℃で2分間乾燥して平版印刷版を得た。
【0125】
<塗布液9>
ポリビニルアルコール (PVA105、クラレ(株)製) 10部
界面活性剤 0.5部
固形分濃度が10質量%になるように水で調整した。
【0126】
(比較例7)
実施例7の塗布液6を下記組成の塗布液10に変えた以外は同様にして平版印刷版を得た。
<塗布液10>
水溶性ポリマー (化5) 2.9部
架橋剤 (化6) 0.47部
コロイダルシリカ(PS−M、日産化学工業(株)製) 6.2部
エタノール 10.0部
固形分濃度が15質量%になるように水で調整し、1Nの硫酸を用いてpH5.0に合わせた。
【0127】
【化5】

【0128】
【化6】

【0129】
実施例7および比較例7の平版印刷版を以下のようにして露光、現像を行った。露光は光波長が830nmのレーザーを搭載したPT−R4000(大日本スクリーン製造(株)製)を使用し、この装置を用いて露光エネルギーが100mJ/cmになるように設定し、ドラム回転数1000rpmで描画を行った。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の1%から97%までの網点面積率を示す網点階調パターンと10〜100μmの細線およびベタ画像を出力した。現像は描画を行った平版印刷版を30℃に調節した水中に10秒間浸け、スポンジで軽く表面を擦ることで未露光部を除去した。この平版印刷版を以下に示す方法で耐刷性の評価を行った。耐汚れ性の評価は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0130】
<耐刷性評価2>
印刷機はHAMADAH234C(ハマダ印刷機(株)製オフセット印刷機)を使用し、インキはニューチャンピオンFG墨H(DIC(株)製)、給湿液はアストロマークIII((株)日研化学研究所製)の3質量%水溶液を使用した。強制条件で評価をするために、版胴と版の間に0.1mmのゲージフィルムを挟み、印圧を上げた状態で8000枚/hrの速度で印刷を開始し、印刷物の画像に欠落を生じ印刷できなくなった枚数を下記評価基準で評価した。結果を表2に示す。
<耐刷性>
◎:20,000枚以上
○:16,000〜20,000枚未満
△:12,000〜16,000枚未満
×:12,000枚未満
【0131】
【表2】

【0132】
以上の結果より、本発明によりデジタル情報からダイレクト製版が可能であり、良好な耐刷性と耐汚れ性を両立させることが可能な平版印刷版を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐水性支持体上に親水性層を有する平版印刷版において、該親水性層がノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドと、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、ニッケル化合物、およびチタン化合物の中から選ばれる水溶性金属塩を少なくとも1種を含有する平版印刷版。
【請求項2】
ノニオン性ポリ(メタ)アクリルアミドが水酸基を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版。

【公開番号】特開2013−86449(P2013−86449A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231483(P2011−231483)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】