説明

平面型光干渉回路

【課題】本発明の目的は、偏波依存性の少ない平面型光干渉回路を提供することである。
【解決手段】本発明の平面型光干渉回路では、偏波結合光を発生させる偏波結合誘起部分を、N個のそれぞれの干渉計を構成する長尺アーム導波路と短尺アーム導波路の少なくとも一方に配置することにより、長尺アーム導波路を伝搬し干渉計から出力される光の偏波状態と、短尺アームを伝搬し干渉計から出力される光の偏波状態が同一になるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏波依存性の小さい平面型光干渉回路に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信技術の進展に伴い、光信号を直接処理する光部品の開発が益々重要となっている。中でも、平面基板上に集積された光導波路構造を使用し、光の干渉を利用した導波路型光干渉回路は、量産性、低コスト性、高信頼性の面から優れており、多く研究開発がなされている。例えば、アレイ導波路回折格子、マッハツェンダ干渉計、ラティス回路等が代表的なものとして挙げられる。
【0003】
このような、導波路型光干渉回路の基本的な作製方法は、標準的なフォトグラフィー法およびエッチングと、FHD(Flame Hydrolysis Deposition)等のガラス堆積技術が使用される。アンダークラッド層および周辺部より屈折率の高いコア層を基板上に堆積し、コア層に導波路パターンを形成し、オーバークラッド層で埋め込むことにより作製される。これにより信号光は、導波路内に閉じ込められ、導波路内を伝搬する。
【0004】
代表的な光干渉回路である非対称マッハツェンダ干渉計を例にとって説明する。図1に示すように、非対称マッハツェンダ干渉計は、第1入力導波路101および第2入力導波路102と、これら入力導波路に接続された光分岐部分103と、第1出力導波路104および第2出力導波路105と、それらに接続された光合波部分106と、光分岐部分103と光合波部分106を接続する長さの異なる2本の長尺アーム導波路107および短尺アーム導波路108により構成される。このような非対称マッハツェンダ干渉計の損失スペクトル(例えば、第1入力導波路101および第2出力導波路105間の損失スペクトル)は、図2に示すように、周期的なものになる(但し、図2の縦軸は対数表示)。この周期は、各アーム導波路を伝搬する光の光路長差(光路長:伝搬光の光路に沿った屈折率の積分値)に反比例する。
【0005】
ところが、導波路型光回路は一般的に複屈折を有し、入力偏波により回路の特性が変化する。この原因としては、導波路型光回路が、基板やコア層など異なる材料により形成され、それぞれの材料が異なる熱膨張係数を有することがあげられる。光回路の作製過程において、1000度以上の高温の熱処理過程を経ると、常温では非常に大きな熱応力が発生するため、光弾性効果により導波路に複屈折が発生する。非対称マッハツェンダ干渉計の場合、この複屈折が図2に示すような、入射光の偏波による偏波依存性を損失スペクトルに発生させる。これは、入力偏波により、光伝搬光が感じる屈折率に差分が生じ、損失スペクトルの周期がわずかに異なってくるからである。このわずかな周期変化は、ある波長帯域で損失スペクトルを観察すると、損失スペクトルの周波数軸方向シフトとなる。この損失スペクトルのシフトは、入力偏波状態によりシフト量が変化するため、回路特性に偏波依存性が生じ、問題となっている。図2に示すように、あらゆる偏波状態の光を入射した場合に、高周波数側への最大シフトと低周波数側への最大シフトの差分をPDf(Polarization dependence frequency)と呼ぶ。このPDfは、干渉計の性能を示す指標となっており、干渉回路のPDfの低減が求められている。
【0006】
(従来技術1)
上記の問題を解決するため、いくつかの方法が提案されている。例えば、基板表面にアモルファスシリコン層や溝形成により応力付与層を形成し、導波路の一部、もしくは、全体の複屈折を制御することにより、光干渉回路全体としての偏波依存性を減少することができる(特許文献1参照。)。しかしながら、このような方法では、製造バラツキ等により、作製するごとに複屈折量が変動し、偏波依存性を確実に抑制することは困難であった。
【0007】
(従来技術2)
一方、偏波回転器、特に半波長板を干渉計内に設置することにより、回路の偏波依存性を消去する方法も提案されている(特許文献2参照。)。ここでは、干渉計の中央に、主軸を45度傾けた状態で、半波長板を設置する。半波長板において、水平偏波が垂直偏波に、また、垂直偏波が水平偏波に変換されるため、水平もしくは垂直偏光の入射光に対し回路の偏波依存性が解消できる。(本明細書内で使用している、水平偏光もしくは垂直偏光とは、矩形もしくはそれに近い導波路を有する光回路の基板に対し、電界が水平な光、もしくは垂直な光という意である。)製造時、導波路の複屈折が回路により変動した場合でも、半波長板により干渉回路の偏波依存性が解消できるため有効な手段であった。
【0008】
ここで、解析的な表現で半波長板の挿入効果を説明する。図3は、単純な非対称マッハツェンダ干渉計の模式図である。図3における、3Aおよび3C地点に光分岐部分および光合波部分がそれぞれ配置され、それらが長さの異なるアーム導波路で接続されている。このような非対称マッハツェンダ干渉計において、導波路が複屈折量Bを有し、水平偏波に対する屈折率をnTE、垂直偏波に対する屈折率をnTM、非対称マッハツェンダ干渉計の長尺および短尺アーム間の導波路長の差を、δL、短尺アームの長さを2Lとする。半波長板のない非対称マッハツェンダ干渉計の場合、水平偏波が入射された場合のアーム間の光路長差δLTEは、
【0009】
【数1】

【0010】
また、垂直偏光が入射された場合のアーム間光路長差は、
【0011】
【数2】

【0012】
となり、水平偏光と垂直偏光の光路長差が異なるため、入力偏波により干渉条件が異なる。
【0013】
一方、図4に示すように半波長板を回路の中央に挿入した場合、半波長板前後で、水平偏光と垂直偏光が入れ替わるため、水平偏波が入射された場合のアーム間の光路長差δLTEは、
【0014】
【数3】

【0015】
また、垂直偏光が入射された場合のアーム間光路長差は、
【0016】
【数4】

【0017】
となり、水平偏光と垂直偏光の光路長差が等しくなる。光路長差により回路の損失スペクトルが決定されるため、水平偏光および垂直偏光に対する光路長差が等しくなり、光回路の損失スペクトルが偏波無依存になる。このような効果により、半波長板を干渉回路に挿入することにより、水平偏光もしくは垂直偏光のみが入射した場合、偏波依存性が発生しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特公平07−018964号公報
【特許文献2】特許第2614365号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、このような半波長板を使用する方法では、実際には偏波依存性を完全に解消できなかった。入力偏波が水平偏光と垂直偏光のみの場合に限り、偏波依存性を解消することができるものであって、全ての偏波状態の入力光に対し干渉回路を偏波無依存化できるとは限らなかった。これは、干渉計を構成する光分岐部分および光合波部分において偏波結合が起こり、偏波結合により発生した光が干渉計の干渉状態を変化させることが原因であった。
【0020】
偏波結合とは、導波路内を伝搬できる固有偏波モード間でのエネルギーのやり取りのことである。例えば、通常の矩形導波路において偏波結合が生じると、垂直偏光の伝搬光の一部が水平偏光に変換される。同様に、水平偏光も垂直偏光に一部変換される。このような偏波結合が光分岐部分や光合波部分等で生じた場合、偏波結合せず伝播する通常の光に加え、偏波結合により発生した光が新たに加わるため、偏波結合の発生場所において伝搬光の偏波状態が変化する。しかしながら、光干渉回路の透過特性が偏波依存性を持たないためには、干渉計を構成する長尺アーム導波路と短尺アーム導波路をそれぞれ伝搬して出力される光が、入射光の偏波状態によらず、常にお互いに同一の偏波状態を持つ必要がある。偏波結合は、伝搬光の偏波状態を変化させるため、このような光干渉回路の理想的な状態を崩す。長尺アーム導波路と短尺アーム導波路をそれぞれ伝搬して出力される光は、偏波結合により偏波状態が変化し、お互いに異なる偏波を持つ。結果、干渉状態が変化し光干渉回路に偏波依存性が発生する。
【0021】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、偏波依存性の少ない平面型光干渉回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために本発明の平面型光干渉回路は、入力光が入力され、2N個(N:自然数)の分岐出力光を出力する光分岐部分と、前記光分岐部分に接続され、N個の第1の分岐出力光がそれぞれ伝播するN本の長尺アーム導波路と、前記光分岐部分に接続され、N個の第2の分岐出力光がそれぞれ伝播するN本の短尺アーム導波路と、前記N本の長尺アーム導波路を伝播する前記N個の第1の分岐出力光の1つと、前記N本の短尺アーム導波路を伝播し前記N個の第1の分岐出力光の前記1つに対応する前記N個の第2の分岐出力光の1つとをそれぞれ合成し干渉させるN個の光合波部分とを備え、前記N個の光合波部分のそれぞれは、前記光分岐部分と、前記N本の長尺アーム導波路の1本と、前記長尺アーム導波路の1本に対応する前記短尺アーム導波路の1本と共にそれぞれN個の干渉計を構成し、偏波結合光を発生させる偏波結合誘起部分が、前記N個のそれぞれの干渉計を構成する前記長尺アーム導波路と前記短尺アーム導波路の少なくとも一方に配置され、前記長尺アーム導波路を伝搬し干渉計から出力される光の偏波状態と、前記短尺アームを伝搬し干渉計から出力される光の偏波状態が同一になるように調整されているものとしてもよい。
【0023】
また、本発明の平面型光干渉回路は、前記偏波結合光を発生させる偏波結合誘起部分が、前記N本の長尺アーム導波路と前記N本の短尺アーム導波路にそれぞれ配置され、前記偏波結合誘起部分により発生する偏波結合光が、前記偏波結合誘起部分を除いた干渉計で発生する偏波結合光を打ち消すものとしてもよい。
【0024】
また、本発明の平面型光干渉回路は、前記偏波結合誘起部分により、前記長尺アーム導波路を伝播する偏波結合光の強度と位相と、前記長尺アーム導波路に対応する前記短尺アーム導波路を伝播する偏波結合光の強度と位相とが等しくなるように調整されているものとしてもよい。
【0025】
また、本発明の平面型光干渉回路は、さらに、偏波結合光位相調整部分が設けられるものとしてもよい。
【0026】
また、本発明の平面型光干渉回路は、前記偏波結合光位相調整部分が複屈折を有する導波路で構成されるものとしてもよい。
【0027】
また、本発明の平面型光干渉回路は、偏波結合誘起部分が曲線導波路で構成されるものとしてもよい。
【0028】
また、本発明の平面型光干渉回路は、前記偏波結合誘起部分の曲線導波路が偏波結合誘起部分以外の曲線導波路より小さな局率半径を採用しているものとしてもよい。
【0029】
また、本発明の平面型光干渉回路は、前記偏波結合誘起部分が、半波長板であって、前記半波長板の光学的主軸と、平面型光干渉回路の基盤面とのなす角が0度より大きく90度より小さいものとしてもよい。
【0030】
また、本発明の平面型光干渉回路は、前記N本の長尺アーム導波路およびN本の短尺アーム導波路に半波長板が配置され、前記N本の長尺アーム導波路およびN本の短尺アーム導波路のうち、前記偏波結合誘起部分が配置されている前記長尺アーム導波路および短尺アーム導波路に、前記半波長板の両側に前記偏波結合誘起部分が配置されるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、N本の長尺アーム導波路とN本の短尺アーム導波路との少なくとも一方に配置される偏波結合誘起部分により発生する偏波結合光により、長尺アーム導波路を伝搬し干渉計から出力される光の偏波状態と、短尺アームを伝搬し干渉計から出力される光の偏波状態を同一にすることができるため、偏波依存性の少ない平面型光干渉回路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来技術による非対称マッハツェンダ干渉計の構成を示す図である。
【図2】従来技術による非対称マッハツェンダ干渉計の損失スペクトルを示す図である。
【図3】単純な非対称マッハツェンダ干渉計の模式図である。
【図4】図3に示す非対称マッハツェンダ干渉計に半波長板を挿入した場合の模式図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による平面型光干渉回路の一例として、両アームに偏波結合誘起部分を有する非対称マッハツェンダ干渉計の構成を示す図である。
【図6】光合波部分および偏波結合誘起部分において発生した偏波結合光の伝播の様子を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態による平面型光干渉回路の一例として、長尺アームに偏波結合誘起部分を有する非対称マッハツェンダ干渉計の構成を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態による平面型光干渉回路の一例として、半波長板を有する非対称マッハツェンダ干渉計の構成を示す図であり、図8(a)は、半波長板を配置し、両アームに偏波結合誘起部分を配置した構成を示す図であり、図8(b)は、半波長板を配置し、長尺アームに偏波結合誘起部分を配置した構成を示す図である。
【図9】本発明の第3の実施形態による平面型光干渉回路において、半波長板の配置位置によるPDfの変化を示す図であり、図9(a)は、干渉計の中央からの半波長板をずらした構成を示す図であり、図9(b)は、干渉計の中央からの半波長板のずらし量に対するPDf変化を示すグラフである。
【図10】本発明の偏波結合誘起部分の特性を示す図であり、図10(a)は、偏波結合光の強度の曲げ半径依存性を示す図であり、図10(b)は、偏波結合光の位相の、長さLに対する依存性を示す図である。
【図11】本発明の第4の実施形態による平面型光干渉回路の一例として、2つの干渉計が含まれる構成を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施例である平面型光干渉回路の構成を示す図であり、図12(a)は、本発明の第1の実施例である平面型光干渉回路の具体的な構成方法を示す図であり、図12(b)は、偏波結合光位相調整部分の長さLを0μm、1000μm、2000μm、3000μm、4500μmと変化させた回路における、PDfの45度波長板ずらし量をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
PDfの発生原因は、光干渉回路の光分岐部分や光合波部分で発生した偏波結合光が、本来の特性とは異なる干渉条件で干渉するためである。そこで本発明は、光干渉回路の偏波依存性の原因となる光分岐部分および光合波部分において発生する偏波結合光と、新たに別の場所で発生させた強度と位相が制御された偏波結合光とを干渉させることにより全体の偏波結合光を抑制もしくは制御することによりPDfを低減する。
【0034】
光分岐部分や光合波部分で発生する偏波結合光自体を完全に解消することや、制御することは困難である。従って、光分岐部分や光合波部分以外の部分において偏波結合光を故意に発生させ、光分岐部分や光合波部分で発生した偏波結合光と干渉させることにより、全体として偏波結合光の抑制や制御が可能となる。以後、所望の偏波結合を発生させる部分を偏波結合誘起部分と呼ぶ。ここで発生させる偏波結合光の強度と位相を調整することにより、回路中を伝搬する偏波結合光の位相や強度を制御できる。
【0035】
この様な方法でPDfを解消する具体的な方針は、光干渉回路から出力される光のうち、長尺アーム導波路を伝播して出力された成分と、短尺アーム導波路を伝播して出力された成分が、入射光の偏波状態によらず同じ偏波状態を持つように、偏波結合誘起部分を配置する方法である。光の偏波状態は、異なる偏波成分の強度比と位相差で決定される。偏波結合誘起部分で発生させる偏波結合光の強度と位相を調整することにより、伝搬光の偏波状態を調整できる。これにより、理想的な偏波依存性のない光干渉回路と同様、各アーム導波路を伝搬して出力される光を同一偏波で出力させることができる。偏波結合により夫々異なる状態に変化した偏波状態を互いに同一にする方法として、互いの偏波状態を夫々元の偏波状態に戻すことで一致させる方針と、片方の偏波状態をもう一方に合わせる方針の2種類がある。それぞれ以下に説明する。
【0036】
PDf解消第1の方針は、光分岐部分および光合波部分で偏波結合により変化した偏波状態を、偏波結合誘起部分において元に戻す。偏波状態の変化分を、アーム導波路毎に偏波結合誘起部分で補償することで、各アームを伝搬して出力する光の偏波状態を常に同一にする方法である。より具体的には、光分岐部分および光合波部分で発生する偏波結合光を、各アームに配置した偏波結合誘起部分において発生させる偏波結合光を用いて干渉させ打ち消し、回路中を伝搬する偏波結合光の強度を零にする方法である。偏波結合光を無くすことでPDfが解消できる。
【0037】
偏波結合誘起部分501,502を非対称マッハツェンダ干渉計に設けた構成500を図5に示す。長尺アーム導波路と短尺アーム導波路それぞれに偏波結合誘起部分501,502を設け、光分岐部分や光合波部分において発生する偏波結合光と干渉させる。光分岐部分および光合波部分で発生する偏波結合光の合成光と同じ強度の偏波結合光を偏波結合誘起部分で発生させ、全体の合成偏波結合光が0となるように位相差を180度与える。これにより、偏波結合光を完全に打ち消すことができる。
【0038】
この方法を図示的に図6に示す。図6は光分岐部分、光合波部分、および偏波結合誘起部分において発生した偏波結合光の伝播の様子を示す。x軸は、アーム導波路に沿った座標を、非対称マッハツェンダ干渉計の入力側から出力側に向けて設定している。図6(a−1)および図6(b−1)は、光分岐部分、図6(a−2)および図6(b−2)は、光合波部分、図6(b−3)は、偏波結合誘起部分のそれぞれにおける偏波結合光が伝播する様子を示している。図6(a−3)および図6(b−4)は、伝搬中の偏波結合光の合成波を示す。偏波結合誘起部分がない従来技術の場合、光分岐部分および光合波部分で発生した偏波結合光は光合波部分で干渉する。結果、限定的な場合を除いて、偏波結合光は常に残留する。一方、本発明による偏波結合誘起部分を設けた場合、発生させる偏波結合光の位相と強度を調整することにより、3つの偏波結合光が干渉し、完全に強度を0にすることができる(図6(b−4))。それぞれの場所で発生した偏波結合光(図6(b−1)、(b−2)、(b−3))は、各アームについて光合波部分において干渉し、存在しなくなる。このようにして、偏波結合光自体を除去することにより、PDfを解消できる。
【0039】
PDf解消第2の方針は、片方のアーム導波路を伝搬し干渉回路から出力される光の偏波状態を、もう一方のアーム導波路を伝搬し干渉回路から出力される光の偏波状態に合わせる方法である。これにより、各アーム導波路を伝搬した光は、同一の偏波状態を持つことなり、偏波依存性が解消される。より具体的には、長尺アーム導波路で発生した全体の偏波結合光の強度と位相と、短尺アーム導波路で発生した全体の偏波結合光の強度と位相が同じとなるように、長尺アーム導波路もしくは短尺アーム導波路の少なくとも一方に偏波結合光誘起部分を設ける。偏波結合光誘起部分で発生させた偏波結合光と、光分岐部分や光合波部分で発生した偏波結合光を干渉させ、合成された全体の偏波結合光の強度と位相を調整する。少なくとも一方のアーム導波路でこのような調整を行い、両方のアーム導波路で発生した偏波結合光の強度と位相を互いに一致させることができる。これにより、各アーム導波路を伝搬した光は、同一の偏波状態を持つ。
【0040】
図7は、長尺アーム導波路に偏波結合誘起部分701を設け、長尺アーム導波路を伝搬する全体の偏波結合光の強度と位相を調整する構成700である。この様にして、長尺アーム導波路と短尺アーム導波路を伝搬する偏波結合光の強度と位相を一定にすることにより、PDfを発生させないことができる。
【0041】
このように、PDf解消第1の方針およびPDf解消第2の方針は共に、故意に偏波結合光を発生させ、非対称マッハツェンダ干渉計内を伝搬する偏波結合光を制御することにより、PDfを解消する。
【0042】
非対称マッハツェンダ干渉計を構成する導波路に複屈折がある場合、半波長板を使用して複屈折により発生するPDf成分を解消する必要がある。この場合も、偏波結合光により発生するPDf成分は、偏波結合誘起部分を設けることにより解消できる。図8に構成図を示す。偏波結合誘起部分に複屈折が存在する場合、それを解消するために半波長板の前後に配置して複屈折によるPDf成分は解消できる。一方、偏波結合光により発生するPDf成分を零にするために、光分岐部分の後段および光合波部分の前段に偏波結合誘起部分を配置する。アーム導波路で発生する4つの偏波結合光(光分岐部分、光合波部分,偏波結合誘起部分2箇所)を干渉させて、全体の偏波結合光の強度と位相を制御する。図8(a)は、前述のPDf解消第1の方針を元に半波長板805を配置し、偏波結合誘起部分801乃至804を配置した回路構成800を示し、図8(b)は、前述のPDf解消第2の方針を元に半波長板813を配置し、偏波結合誘起部分811,812を配置した回路構成810を示す。
【0043】
このように、非対称マッハツェンダ干渉計内を伝搬する偏波結合光を無害化した場合、半波長板の配置位置によるPDf変動がなくなる。図9は、半波長板の配置位置によるPDfの変化を示す図であり、図9(a)は、干渉計の中央から半波長板903をずらした構成900を示す図である。図9(b)は、図9(a)に示す構成において、ずらし量に対するPDf変化を示す図である。従来技術2の構成では、半波長板の配置位置によりPDfが変動する。本発明による偏波結合誘起部分901,902を設けることにより、45度半波長板903の位置に対するPDf変動が減少する。完全に偏波結合光が解消された場合は、半波長板の位置に依存せず常にPDfは零となる。多少、製造誤差等が発生し、偏波結合光の影響が残留したとしても、半波長板の配置位置によるPDfの変動は少なくなる。以上のように、製造誤差によるPDf変動も解消可能となる。
【0044】
偏波結合誘起部分の具体的な構成方法は、いくつかある。例えば、曲げ導波路を使用し、曲げ半径と導波路長を制御することにより偏波結合光の強度を調整できる。図10(a)に、偏波結合光の強度の曲げ半径依存性を示す。また、屈折率主軸が傾いた導波路を配置してもよい。更には、主軸の傾きが0度より大きく90度より小さな半波長板を配置することにより、偏波結合光を発生させることができる。角度としては0度に非常に近い角度もしくは90度に非常に近い角度の場合、小さな偏波結合光を発生させることができる。0度もしくは90度に一致させると、偏波結合光は発生しなくなる。一方、発生させる偏波結合光の位相は、偏波結合誘起部分の配置場所で制御することが最も簡単である。但し、回路の制約上、偏波結合誘起部分において発生する偏波結合光の強度と位相の両方を所望の値にできない場合がある。この場合、偏波結合光の位相を、別途、偏波結合光位相調整部分で調整する。導波路の複屈折をB、偏波結合光位相調整部分の長さをLとすると、偏波結合により発生した偏波結合光と偏波結合せずにそのまま伝搬する通常光の間に2×π×B×L/λの位相差を与える偏波結合光位相調整部分が実現できる。但し、λは波長である。図10(b)に、偏波結合光の位相の、長さLに対する依存性を示す。以上述べたように、偏波結合誘起部分により、所望の強度、位相の偏波結合光を生成できる。
【0045】
以上は、単純な非対称マッハツェンダ干渉計を使用してPDfの低減方法を説明したが、図11に示すように、より複雑な干渉回路においても本発明は有効である。図11において、回路構成1100は、偏波結合誘起部分1101,1102,1103,1104と、偏波結合光位相調整部分1105,1106,1107,1108と、光分岐部分1109,1110,1111と、光合波部分1112,1113とを備える。光分岐部分PDfの低減方法は同様である。この構成は2つの干渉計が1つの回路内に含まれるため、個々の干渉計に偏波結合誘起部分を配置することによりPDfを解消する。偏波結合光位相調整部分も同様に配置することにより、偏波結合の位相も調整できる。
【0046】
以上に示すように、本発明では偏波結合誘起部分を干渉回路内に設置することにより、偏波結合により発生した光の強度と位相を制御し、透過スペクトルの入力偏波依存性つまりPDfを解消することが可能となる。
【実施例1】
【0047】
図12(a)は、本発明の第1の実施例を示す図である。複屈折率を有し長さが異なる2つのアーム導波路が、MMIにより構成され、分岐比が50%の光分岐部分と光合波部分により接続された非対称マッハツェンダ干渉計を構成している。シリコン基板上に火炎堆積法と反応性イオンエッチングにより石英系ガラス導波路を作製した。コアの断面形状は、4.5μm四方角であり、比屈折率差1.5%である。これを30μmのオーバークラッドガラスにより埋め込んだ。複屈折はおよそ3.5×10-4に設定している。
【0048】
偏波結合誘起部分1201,1202は、長い曲げ導波路を連続して長尺アームの45度半波長板1203前後に配置した。干渉計の全般の曲げ導波路は、曲げ半径3mmを使用し、余計な偏波結合光が発生しないようにした。一方、偏波結合誘起部分1201,1202は、半径2mmを採用することにより曲げ半径を小さくすることにより、偏波結合を誘起した。偏波結合光の誘起量は偏波結合光誘起部分の導波路長で調整している。構成的には図8(b)の構成を使用し、前述のPDf解消第2の方針に従ってPDfを低減する。回路は、FSR(Free spectrum range)が21GHzとなるように、アーム導波路間の長さを調整している。また、アーム導波路には導波路の屈折率主軸に対し主軸が45度傾いた半波長板1203を配置している。
【0049】
実際に回路を作製し、PDfの評価を行った。偏波結合光の位相調整のため、長さLの偏波結合光位相調整部分を設けている。Lを変化させた回路を用意し、それぞれの回路において、45度半波長板のずらし量に対しPDfの変化を測定した。図12(b)には、偏波結合光位相調整部分の長さLを0μm、1000μm、2000μm、3000μm、4500μmと変化させた回路における、PDfの45度波長板ずらし量をプロットしている。ここでのPDfは通信波長帯のCband(1528−1570nm)における最悪PDfをプロットしている。Lを変化させ、偏波結合光の位相を制御することにより、PDfの傾向が変化していることがわかる。干渉回路内に偏波依存性を発生させる偏波結合光が存在する場合、PDfは45度半波長板のずらし量により振動する。45度半波長板の位置により偏波結合光の位相が変化するためである。一方、偏波結合光位相調整部分の長さを調整すると、長尺アームと短尺アームの偏波結合光の位相差が変化し、位相差が丁度等しくなった場合、つまり、偏波結合光位相調整部分の長さを1000μmにした場合、半波長板の挿入位置によらず常に低いPDfが実現できている。光干渉回路内に偏波結合光は存在するが、長尺アーム導波路と短尺アーム導波路を伝搬する偏波結合光の位相差が等しくなり、干渉回路に偏波依存性を発生させない状態にできたことを示す。このようにして、干渉回路内を伝搬する偏波結合光を無害化することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の平面型光干渉回路は、光通信ネットワークなどに使用される光通信装置に使用することができる。
【符号の説明】
【0051】
500,700,800,810,900,1100,1200 平面型光干渉回路
501,502,701,801,802,803,804,805,811,812,901,902,1101,1102,1103,1104,1201,1202 偏波結合誘起部分
805,813,903,1114,1203 45度半波長板
1105,1106,1107,1108 偏波結合光位相調整部分
1109,1110,1111 光分岐部分
1112,1113 光合波部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力光が入力され、2N個(N:自然数)の分岐出力光を出力する光分岐部分と、
前記光分岐部分に接続され、N個の第1の分岐出力光がそれぞれ伝播するN本の長尺アーム導波路と、
前記光分岐部分に接続され、N個の第2の分岐出力光がそれぞれ伝播するN本の短尺アーム導波路と、
前記N本の長尺アーム導波路を伝播する前記N個の第1の分岐出力光の1つと、前記N本の短尺アーム導波路を伝播し前記N個の第1の分岐出力光の前記1つに対応する前記N個の第2の分岐出力光の1つとをそれぞれ合成し干渉させるN個の光合波部分とを備え、
前記N個の光合波部分のそれぞれは、前記光分岐部分と、前記N本の長尺アーム導波路の1本と、前記長尺アーム導波路の1本に対応する前記短尺アーム導波路の1本と共にそれぞれN個の干渉計を構成し、
偏波結合光を発生させる偏波結合誘起部分が、前記N個のそれぞれの干渉計を構成する前記長尺アーム導波路と前記短尺アーム導波路の少なくとも一方に配置され、前記長尺アーム導波路を伝搬し干渉計から出力される光の偏波状態と、前記短尺アームを伝搬し干渉計から出力される光の偏波状態が同一になるように調整されていることを特徴とする平面型光干渉回路。
【請求項2】
前記偏波結合光を発生させる偏波結合誘起部分が、前記N本の長尺アーム導波路と前記N本の短尺アーム導波路にそれぞれ配置され、前記偏波結合誘起部分により発生する偏波結合光が、前記偏波結合誘起部分を除いた干渉計で発生する偏波結合光を打ち消すことを特徴とする請求項1に記載の平面型光干渉回路。
【請求項3】
前記偏波結合誘起部分により、前記長尺アーム導波路を伝播する偏波結合光の強度と位相と、前記長尺アーム導波路に対応する前記短尺アーム導波路を伝播する偏波結合光の強度と位相とが等しくなるように調整されていることを特徴とする請求項1に記載の平面型光干渉回路。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の平面型光干渉回路において、
さらに、偏波結合光位相調整部分が設けられることを特徴とする平面型光干渉回路。
【請求項5】
請求項4に記載の平面型光干渉回路において、
前記偏波結合光位相調整部分が複屈折を有する導波路で構成されることを特徴とする平面型光干渉回路。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の平面型光干渉回路において、
偏波結合誘起部分が曲線導波路で構成されることを特徴とする平面型光干渉回路。
【請求項7】
請求項6に記載の平面型光干渉回路において、
前記偏波結合誘起部分の曲線導波路が偏波結合誘起部分以外の曲線導波路より小さな局率半径を採用していることを特徴とする平面型光干渉回路。
【請求項8】
請求項1乃至3に記載の平面型光干渉回路において、
前記偏波結合誘起部分が、半波長板であって、前記半波長板の光学的主軸と、平面型光干渉回路の基盤面とのなす角が0度より大きく90度より小さいことを特徴とする平面型光干渉回路。
【請求項9】
請求項1乃至4に記載の平面型光干渉回路において、
前記N本の長尺アーム導波路およびN本の短尺アーム導波路に半波長板が配置され、
前記N本の長尺アーム導波路およびN本の短尺アーム導波路のうち、前記偏波結合誘起部分が配置されている前記長尺アーム導波路および短尺アーム導波路に、
前記半波長板の両側に前記偏波結合誘起部分が配置されることを特徴とする平面型光干渉回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−48019(P2011−48019A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194515(P2009−194515)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】