説明

床下機器箱配線構造

【課題】床下機器箱を通した電線の配線処理を簡単にした床下機器箱配線構造を提供すること。
【解決手段】車体の床下に設置された床下機器箱1を貫通して配線される電線8の当該貫通部をシールするものであって、床下機器箱1には複数の挿入孔2が形成されており、挿入孔2の各々に着脱可能な弾性材からなるシール部材10を装着し、そのシール部材10を通した電線8を当該シール部材10によって保持した状態で挿入孔2を貫通して配線するようにした床下機器箱配線構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の床下に設置された床下機器箱を貫通して電線を通し、その貫通部をシールするための床下機器箱配線構造に関し、特に床下機器箱を通した電線の配線処理を簡単にした床下機器箱配線構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には、車体台枠の下に床下機器箱が設置され、その中には車両を制御するインバータ、コンバータ、制御基板、継電器、検出器、コンデンサ等が床下機器として設けられている。床下機器箱の内部には端子台が設けられ、外からの電線と床下機器とが電気的に接続されている。その電線が床下機器箱を貫通して中の床下機器に接続される場合、その貫通部分には絶縁物で電線を挟み込み、周辺には例えば図7に示すような防水・防塵のためのシール処理を施した配線が行われている。図7は、下記特許文献2に記載された床下機器箱配線構造について示した図である。
【0003】
床下機器箱101は、複数の電線102を通す大きく開いた開口部111が形成され、その開口部111は電線102を保持したクリート103によって塞がれている。クリート103は、上下に分割された一対のブロック体によって構成され、その合わせ面には電線102を挟み込むための半円形状の溝が形成されている。そうしたクリート103は、電線102を保持した状態で上下方向に貫通するボルト106によって一体に固定され、更に複数本のボルト105によって床下機器箱101に取り付けられている。そして、電線102を挟む上下の合わせ面や床下機器箱101との間にはパテ埋めによるシール処理を施したシール部104が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−168534号公報
【特許文献2】特開2005−142472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クリート103を使用した従来の床下機器箱配線構造では、シール処理を伴う配線作業に関して工数が多いという問題の他、シール部104が剥がれてしまう問題もあった。つまり、床下機器箱101の開口部111を形成し、そこをクリート103で塞ぐ構造では、クリート103自体が分割された部材であることも含め、パテ埋めする箇所が多くなってしまっていた。そのため、隙間を生じさせないように行っていたパテ埋めは、作業に時間を要し手間のかかるものであった。また、気密にパテ埋めした場合であっても、電線102が何かに引っ張られたり、鉄道車両走行時の振動によって撓んだ電線102が揺れて動くと、それによってパテ埋めした部分に負荷がかかってシール部104が剥がれてしまい、気密性が損なわれることになる。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、床下機器箱を通した電線の配線処理を簡単にした床下機器箱配線構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る床下機器箱配線構造は、車体の床下に設置された床下機器箱を貫通して配線される電線の当該貫通部をシールするものであって、前記床下機器箱には複数の挿入孔が形成されており、挿入孔の各々に着脱可能な弾性材からなるシール部材を装着し、そのシール部材を通した前記電線を当該シール部材によって保持した状態で前記挿入孔を貫通して配線するものであることを特徴とする。
また、本発明に係る床下機器箱配線構造は、前記シール部材が、前記電線を通す通し孔と、電線を保持するように前記通し孔を小径にした係止部と、前記床下機器箱の前記挿入孔の周りの壁面に吸着するように張り出したフランジ部と、前記挿入孔に嵌り合う嵌合部と、前記フランジ部の反対側で前記床下機器箱の壁面に当てられる受け部とが形成されたものであることが好ましい。
【0008】
また、本発明に係る床下機器箱配線構造は、前記電線を貫通させる前記シール部材の通し孔が、前記係止部に対応する位置では前記電線を保持する孔径であり、前記フランジ部、嵌合部及び受け部に対応する位置では前記電線よりも大きい孔径であることが好ましい。
また、本発明に係る床下機器箱配線構造は、前記係止部が、前記シール部材を前記床下機器箱の挿入孔に装着した場合に、前記挿入孔の周りの壁面から突き出すような山形に形成されたものであることが好ましい。
また、本発明に係る床下機器箱配線構造は、前記受け部が、前記挿入孔に対する挿入方向に傾斜し、径方向に複数の突き出し部分が形成された形状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
よって、本発明によれば、床下機器箱に対して複数の電線を配線する場合でも、それぞれ挿入孔に対してシール部材を備えた電線を通し、箱内でその電線を接続した後、挿入孔にシール部材を装着させるだけで、ネジ止めやパテ埋めなどの煩わしい作業が必要とせずにシールした簡単な配線が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態の床下機器箱を示した図である。
【図2】床下機器箱に配線を行った実施形態の床下機器箱配線構造を示した図である。
【図3】グロメットを示した断面図である。
【図4】グロメットを受け部側から示した図である。
【図5】床下機器箱への配線時の電線とグロメットとを示した図である。
【図6】グロメットを床下機器箱へ装着した状態を示した断面図である。
【図7】従来の床下機器箱配線構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る床下機器箱配線構造について一実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。本実施形態の床下機器は、前記従来例と同様に鉄道車両の車体床下に設けられたものであって、床下機器箱の中にはインバータや制御基板等の機器が設置され、外からの電線と接続されている。鉄道車両は、走行中に水の跳ね返りを受けるなどして床下機器箱が水を被ってしまうため、床下機器箱配線構造では、電線を伝うなどして水が浸入しないように電線挿入部にシール構造が施されている。
【0012】
本実施形態の床下機器箱1には、図1に示すように、複数の電線を通す面に電線1本毎に挿入孔2があけられている。各々の挿入孔2には図2に示すように電線8が通り、床下機器箱1内の機器に接続されている。挿入孔2には、その隙間を気密に塞ぐためのシール部材となるグロメット10が取り付けられ、電線8は、このグロメット10を通して挿入孔2を貫通している。
【0013】
図3は、グロメットを示した断面図である。グロメット10は、ゴムや軟質樹脂(熱可塑性エストラマ)などによって形成された弾性を有するものである。その形状は、電線8が貫通するようにした筒形状であって、電線8と密着するように孔径を小さくした係止部11、床下機器箱1の壁面に吸着する傘形状のフランジ部12、床下機器箱1の挿入孔2に嵌り合う嵌合部13、そしてフランジ部12の反対側で床下機器箱1の壁面に押し付けられる受け部14を備えている。
【0014】
グロメット10は、嵌合部13の位置が床下機器箱1の挿入孔2に嵌り合って、図2に示すように取り付けられる。係止部11は、そうした場合に床下機器箱1から突き出すような山形で形成され、電線8の撓みなどに倣って変形可能な形状になっている。また、グロメット10の通し孔15は、係止部11における孔径が小さく形成されているが、その他のフランジ部12から受け部14にかけて大きく形成され、貫通した電線8との隙間をつくり、床下機器箱1の挿入孔2に嵌め込むに当たって変形し易いようになっている。
【0015】
フランジ部12は、図3に示すように、付け根部分よりも外周先端側が下に位置する嵌合部13に被さるように形成されたものであり、床下機器箱1の表面に吸着する吸着パッドとしての機能をもったものである。嵌合部13は、円形の溝形状部分であり、底部円形の直径を床下機器箱1の挿入孔2の直径に合わせ、気密に嵌り込むように形成されている。受け部14は、挿入方向である図3の下方に向けて大きく傾斜し、逆の嵌合部13側にも小さく傾斜し、挿入と取り出しができるようになっている。更に受け部14は、図4に示すように、円形ではなく4方向に突き出し部分が形成され、挿入孔2への出し入れに際して変形し易いように形状になっている。
【0016】
そこで、こうしたグロメット10を使用した床下機器箱配線構造による配線処理では、先ず図5に示すように、予め電線8にグロメット10を通しておく。そして、電線8の先端を、床下機器箱1の挿入孔2に通して内部で端子に接続し、その後、電線8を滑らせたグロメット10を挿入孔2へと取り付ける。接続した電線8のグロメット10は床下機器箱1の外側にあり、挿入孔2側に受け部14が向いている。そこで、受け部14は挿入孔2へ押し込まれ、変形して箱の内側へと入り込む。そして、受け部14が箱内側で広がって引っ掛かり、グロメット10が図6に示す状態で床下機器箱1に取り付けられる。
【0017】
その際、嵌合部13は挿入孔2内に気密に嵌り合い、フランジ部12はその内側面12aが箱表面に押し付けられるようにして接する。そのため、フランジ部12は、内側面12a側の空気が抜けて真空状態になり、吸着パッドのように箱表面に吸着することとなる。また、嵌合部13は、弾性によって挿入孔2の側面に押し付けられるように密着した状態になっている。従って、床下機器箱1に装着されたグロメット10は、フランジ部12と嵌合部13の気密な接触によって挿入孔2のシールを行う。
【0018】
その後、図2に示すように係止部11の先端部にテープ20を巻き、グロメット10と電線8との隙間を無くすとともに、ずれないように一体にして配線を完了する。なお、係止部11は、孔径の大きさを調整することにより、その弾性力によって電線8を強固に保持するものとすることができる。従って、元もと気密性は保たれているため、必ずしもテープ20を巻く必要はない。また、電線8は、仮に引っ張られた場合のため床下機器箱1内で固定されているが、係止部11の孔径を小さくして保持力を高めたものであれば、床下機器箱1内での固定は必要なくなる。
【0019】
このように、本実施形態の床下機器配線構造では、床下機器箱1に対して図2に示すように複数の電線8を配線する場合でも、それぞれ挿入孔2に対してグロメット10を備えた電線8を通し、箱内でその電線8を接続した後、挿入孔2に対するグロメット10を装着させるだけである。従って、図7に示すクリート103を使用した構造では、ネジ止めやパテ埋めなどの煩わしい作業が必要であったが、本実施形態によれば、配線作業を極めて単純な作業で済ませられる。また、シール処理も単にグロメット10を挿入孔2へ装着するだけの作業であるため、組み付け品質が平準化でき、安定した防水性能を得ることができる。
【0020】
また、グロメット10は、それ自体が弾性材で形成され、床下機器箱1から係止部11が突き出るようにして電線8を支持しているため、電線8が床下機器箱1の外側で振れるなどした場合でも、気密性を保ったまま変形する。従って、シール部分に隙間が生じて水の浸入などを許してしまうようなことはなく、シールの性能が損なわれるようなこともない。
更に、本実施形態の床下機器配線構造では、電線8の交換を個別に行うことが可能であり、しかもグロメット10は簡単に着脱することができるため、その点でも取り扱いが簡単で便利である。
【0021】
以上、本発明に係る床下機器配線構造の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
前記実施形態では、図2に示すように係止部11の先端部にテープ20を巻いているが、その他に締め付けバンドなどを使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 床下機器箱
2 挿入孔
8 電線
10 グロメット
11 係止部
12 フランジ部
13 嵌合部
14 受け部
15 通し孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の床下に設置された床下機器箱を貫通して配線される電線の当該貫通部をシールする床下機器箱配線構造において、
前記床下機器箱には複数の挿入孔が形成されており、挿入孔の各々に着脱可能な弾性材からなるシール部材を装着し、そのシール部材を通した前記電線を当該シール部材によって保持した状態で前記挿入孔を貫通して配線するものであることを特徴とする床下機器箱配線構造。
【請求項2】
請求項1に記載する床下機器箱配線構造において、
前記シール部材は、前記電線を通す通し孔と、電線を保持するように前記通し孔を小径にした係止部と、前記床下機器箱の前記挿入孔の周りの壁面に吸着するように張り出したフランジ部と、前記挿入孔に嵌り合う嵌合部と、前記フランジ部の反対側で前記床下機器箱の壁面に当てられる受け部とが形成されたものであることを特徴とする床下機器箱配線構造。
【請求項3】
請求項2に記載する床下機器箱配線構造において、
前記電線を貫通させる前記シール部材の通し孔は、前記係止部に対応する位置では前記電線を保持する孔径であり、前記フランジ部、嵌合部及び受け部に対応する位置では前記電線よりも大きい孔径であることを特徴とする床下機器箱配線構造。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載する床下機器箱配線構造において、
前記係止部は、前記シール部材を前記床下機器箱の挿入孔に装着した場合に、前記挿入孔の周りの壁面から突き出すような山形に形成されたものであることを特徴とする床下機器箱配線構造。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれかに記載する床下機器箱配線構造において、
前記受け部は、前記挿入孔に対する挿入方向に傾斜し、径方向に複数の突き出し部分が形成された形状であることを特徴とする床下機器箱配線構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−3671(P2011−3671A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144579(P2009−144579)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】