説明

床構造

【課題】 集合住宅などの建物における二重床の床構造に関し、遮音性及び耐火性に優れるとともに荷重に対しても十分な剛性が確保できる床構造を提供することを課題とする。
【解決手段】 床スラブ2上に高さ調整可能な複数の床支持脚4を立設し、これら床支持脚4の上部に複数の床材を重ねて敷設する床構造において、上記床材は、床下地ボード14の上部に、吸水率3%以下、又は吸水による長さ変化率0.15%以下の無機質系ボード16を配置し、この無機質系ボード16の上部に床仕上げ材18を敷設した構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅などの建物における二重床の床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集合住宅などでは、コンクリート等の躯体に各階の床スラブが形成されており、この床スラブ上にクッションゴムなどの台座を介して支持脚を立設し、この上に床下地用のパーティクルボード及び合板などを配置し、さらに仕上げ材としてフローリングを敷設した床構造が採用されている。
【0003】
この床構造によれば、クッションゴムの弾性作用により、床に加わる衝撃を緩和し、遮音性の改善などが図られる。また、床下地ボードと仕上げ材との間に、遮音材としてゴムアスファルトシート材、アスファルトシート材を用いた床構造も知られている。
【0004】
また、耐火性に優れた石膏ボードを用いた二重床構造が開示されている。これは特許文献1に示されるように、基礎床に立設された支持台により、複数のフロアーパネルを所定の高さレベルに支持して二重床を形成し、このフロアーパネルの上に石膏ボードを介して床仕上げ材を敷設する構造である。
【0005】
また、特許文献2にはパネル状床材が記載されており、これは平面が略矩形の石膏ボードを有するパネル状部を複数の支持部によって床面に支持し、各支持部の先端部に形成した雄ねじ部を石膏ボードの下面に設けた取付具の雌ねじ部に螺合し、石膏ボードの上面に化粧部を配置した形態である。
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3061404号公報
【特許文献2】特開平7−4007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記パーティクルボード及び合板は、含水率が13%〜15%程度あり、このため乾燥する季節には収縮が発生して床が暴れたり、壁際に隙間が生じることがあり問題となっている。また、上記アスファルトシート材などの遮音材を用いたものは、火災時に延焼して有害なガスを発生するなどの問題がある。
【0008】
上記石膏ボードを用いたものは、通常、衝撃力に弱い傾向があり、このため亀裂が入ったり割れたりする懸念がある。また、床材に所定の剛性がないと荷重に対して沈み込み量が大きくなり、室内の歩行感、家具の設置安定性が悪いという問題がある。
【0009】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、遮音性及び耐火性に優れるとともに荷重に対しても十分な剛性が確保できる床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の技術的課題を解決するため、本発明は図1に示すように、床スラブ2上に高さ調整可能な複数の床支持脚4を立設し、これら床支持脚4の上部に複数の床材を重ねて敷設する床構造において、上記床材は、床下地ボード14の上部に、吸水率3%以下、又は吸水による長さ変化率0.15%以下の無機質系ボード16を配置し、この無機質系ボード16の上部に床仕上げ材18を敷設した構成である。
【0011】
本発明に係る床構造において、上記無機質系ボード16は、面密度10kg.f/mから20kg.f/mの範囲内のものを用いた構成である。ここで、上記無機質系ボードとは、硬質石膏ボード或いはケイ酸カルシウムなどの無機材系(窯業系)材料からなるボードである。
【0012】
本発明に係る床構造は、上記床下地ボード14と上記無機質系ボード16との間に接着剤17を介在させて両者を固着した構成である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る床構造によれば、床支持脚の上部に複数の床材を重ねて敷設する床構造において、床下地ボードの上部に、吸水率3%以下、又は吸水による長さ変化率0.15%以下の無機質系ボードを配置し、この無機質系ボードの上部に床仕上げ材を敷設した構成としたから、耐火性及び遮音性に優れるとともに、乾燥する季節においての材料収縮によって床が波をうったり、壁際に隙間が開いたりする現象が軽減できるという効果を奏する。
【0014】
本発明に係る床構造によれば、無機質系ボードは、面密度10kg.f/mから20kg.f/mの範囲内のものを用いた構成としたから、このような面密度の高い無機質系ボードを積層することにより、床の剛性が増し乾式二重床の特徴である床の撓みや振動伝播が軽減され、不快な振動を感じたり家具揺れや倒れ込み現象が少なくなり、快適な遮音二重床が得られるという効果がある。
【0015】
本発明に係る床構造によれば、床下地ボードと無機質系ボードとの間に接着剤を介して固着した構成としたから、無機質系ボードに亀裂が入ったり、割れたりする不具合が解消でき、また弾性接着剤を用いることで衝撃力の緩和が図れるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る床構造の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、コンクリート構造の集合住宅などの建物における二重床の床構造を示したものである。この床構造は、基礎面として床スラブ2から床支持脚4により所定高さに床材が支持された構成である。
【0017】
上記床支持脚4は、台座8、この台座8に立設される支持ボルト10、及びこの支持ボルト10の上部に高さ調節可能に取り付けられるボード受け具12を有する。上記台座8は、緩衝材としてクッションゴム等の弾性材からなる。上記支持ボルト10は、ナイロン製であり、螺子が刻設されたボルト軸の下端には円形の頭部が形成され、またボルト軸の上端部には回転工具の差込穴が形成されている。
【0018】
上記ボード受け具12はナイロン製で、正方形状の平坦な受け部の中央部には支持ボルト10が螺入される孔部11が形成され、また受け部の中央部の両側にはこの孔部11の直径よりわずかに大きい幅の位置決め用の凸部13が設けられている。上記台座8は、支持ボルト10の頭部をこの台座8の上部に設けられた凹部9にねじ込んで取り付ける。また受け具12は、上記孔部11に支持ボルト10の上部を螺入し、高さ調整可能に取り付ける。
【0019】
上記床材は、床下地ボード14に、面材としての無機質系ボード16を積層し、これに床の仕上げ用のフローリング18を敷設した形態からなる。上記床下地ボード14としては、パーティクルボード(或いは合板)を用いる。ここで用いたパーティクルボードは、サイズが600mm×1820mmで板厚が20mmの板材である。また、上記フローリング18は、板厚12mmの突板張り合板である。
【0020】
上記無機質系ボード16は、無機質系(窯業系)材料を用いた面材である。ここでは、無機質系ボード16として、焼石膏にガラス繊維とパルプ繊維からなる繊維混合物を含有させた硬質の石膏ボードを用いた。他に、無機質系材料としてケイ酸カルシウム板を用いることができる。上記硬質石膏ボードは、例えば比重1.2の材料では、板厚が9.5mmのものでは面密度は11.4kg.f/mであり、板厚が12.5mmのものでは面密度は15.0kg.f/mであり、また板厚が15.0mmのものでは面密度は18.0kg.f/mである。またこの硬質石膏ボードは、吸水率3%以下の板材である。なお、この吸水率は、水中に2時間浸漬したときの吸水率(重量増加率)である。
【0021】
上記ケイ酸カルシウム板は、例えば比重0.8の材料では、板厚が12.5mmのものでは面密度は約10kg.f/mであり、板厚が25mmのものでは面密度は約20kg.f/mである。また、このケイ酸カルシウム板は、吸水による長さ変化率が0.15%以下の板材である。このケイ酸カルシウム板は、板厚12.5mm〜25mmの範囲、及び面密度10kg.f/m〜約20kg.f/mの範囲は、施工性及び運搬性からして好適な範囲と考えられる。
【0022】
上記床構造の施工に際しては、一定間隔に配置された床支持脚4上に床下地ボード14を載置する。この床下地ボード14は、各長辺部に沿う状態で上記床支持脚4により支持され、ここでは各長辺部の両端部を含めてそれぞれ5箇所を床支持脚4で支持する(場合により端部の一方を際根太で支持)。この際、床支持脚4のボード受け具12の表面には、上記凸部13の両側部に粘着接着剤19が塗布(或いは両面粘着テープが接着)されており、この上に載置される床下地ボード14とはこの粘着接着剤19にて仮固定される。そして、床下地ボード14を設置した後、上記凸部13によって形成された隙間からレンチを用いて支持ボルト10を回転させることにより高さ調整する。高さ調整を終了した後、床下地ボード14の上から、床支持脚4のボード受け具12をタッピングネジ(スクリューネイル)22を用いて床下地ボード14に止着する。
【0023】
さらに、上記無機質系ボード16として板厚が12.5mmの上記硬質の石膏ボードを用い、上記床下地ボード14の上部に弾性接着剤17を塗布し、接着により無機質系ボード16を床下地ボード14に固着し積層する。無機質系ボードは、衝撃力に弱い傾向があり亀裂が入ったり割れが生じる場合があり、このような不具合を解消するために硬化後弾性特性を有する弾性接着剤17を床下地ボードと無機質系ボードとの間に塗布する。また、上記弾性接着剤17を床下地ボード14と無機質系ボード16との間に介在させることで床に対する衝撃力の緩和が図れる。
【0024】
そして上記無機質系ボード16の上に、上記フローリング18を接着により敷設する。この際、フィニッシュネイル24を用いて各床材間を止着する。上記無機質系ボード16及び上記フローリング18は必要なサイズ及び形状にカットして用いる。このようにして、上記床下地ボード14とフローリング18との間に、無機質系ボード16を介在させた床材からなる二重床の床構造が構築成できる。この床構造において、床スラブ2と床下地ボード14との間に形成される空間部の間隔は110mm程度である。
【0025】
次に、上記床構造に関する社内試験及びその結果について説明する。
この社内試験では、床構造における床衝撃音低減量試験及び強度試験について行った。
上記床衝撃音低減量試験では、上記床構造(床下地ボード14とフローリング18との間に、無機質系ボード16と関連する遮音用の面材を介在させた二重床の床構造)について、各種の遮音用の面材を用いて床衝撃音遮断性能を測定した。この床構造は上記実施の形態と同様に、床下地ボード14として、サイズが600mm×1820mmで板厚が20mmのパーティクルボードを用いて床支持脚4で支持し、またフローリング18としては、板厚12mmの突板張り合板を用いた。遮音用の面材については表1に示す面材(1)〜(6)の材料を用いた。
【0026】
【表1】

【0027】
ここで、面材(1)はインシュレーションボード(軟質繊維材)、(2)は針葉樹合板、(3)は高密度パーティクルボード、(4)は高密度繊維板、(5)は制振材(アスファルトに鉄粉を加えた板材)、(6)は焼石膏にガラス繊維とパルプ繊維からなる繊維混合物を含有させた硬質石膏ボードである。
【0028】
試験環境としては、鉄筋コンクリート構造の建物の2階の部屋を音源としその階下の部屋で音を測定した。床衝撃音低減量試験は、軽量衝撃音及び重量衝撃音についてそれぞれ低減量試験を行った。軽量衝撃音はタッピングマシンにより、また重量衝撃音はバングマシンにより発生させた。
【0029】
この試験では、床衝撃音遮断性能を測定し、上記床構造を施工しない床スラブのままの状態での測定結果と、上記床構造を敷設した状態での測定結果とを比較し床構造による改善量(dB)を求めた。試験は、上記面材(1)〜(6)について行った。また、衝撃源の中心周波数としては、63Hz(重量衝撃のみ)、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz及び2kHz(軽量衝撃のみ)について測定した。
【0030】
表2は軽量衝撃音低減量試験の結果を示したものである。この試験結果から、軽量衝撃音低減量については、特に衝撃源の中心周波数が1kHzについて、面材(5)(6)の低減量が大きく良好な改善が図られている。他の周波数については、どの面材についても特に目立った差異は見られない。重量衝撃については、衝撃源の中心周波数が63Hzについて、面材(5)(6)の低減量が大きく良好な改善が図られている。
【0031】
【表2】

【0032】
表3は重量衝撃音低減量試験の結果を示したものである。この試験結果から、重量衝撃音低減量については、特に衝撃源の中心周波数が63Hzにおける面材(5)(6)の低減量が大きく良好な改善が図られている。また、中心周波数が500Hzにおける面材(5)(6)についても低減量が大きく良好な改善が図られている。他の周波数については、どの面材についても特に目立った差異は見られない。
【0033】
【表3】

【0034】
上記試験結果から、上記面材(5)(6)のように面密度が高い面材のほうが衝撃音の低減量が大きく、特に重量衝撃音についての良好な改善が図られている。これら面材(5)(6)の材料の面密度はそれぞれ12.0kg.f/m、15.0kg.f/mであることから、概ね面密度は10.0kg.f/m以上が好ましいと推測され、また施工性などを考慮すれば20.0kg.f/m以下が好ましいと考えられる。このように、面密度の高い無機質系ボードを積層することにより、構造材の曲げ振動を抑制し、空気伝播音の発生を抑えることから、軽量衝撃音や重量衝撃音の遮音性能が向上する。
【0035】
表4は強度試験につき、載荷荷重試験及び局部曲げ(集中荷重)試験の結果を示したものである。これら試験は、都市整備公団の品質判定基準に基づいて行った。この強度試験では、上記床構造(床下地ボード14とフローリング18との間に、面材を介在させた二重床の床構造)について、上記面材として面材(6)の硬質石膏ボードを用いた場合と、この面材を敷設しない場合とについて各測定点における変位を測定した。
【0036】
【表4】

【0037】
この強度試験の結果からすれば、硬質石膏ボードを介在させた場合においては、何れの測定点においても撓み量(変位)は少なく、また品質判定基準にも適合しており良好である。
【0038】
上記社内試験からすれば、上記面材(6)の硬質石膏ボードのような面密度の高い無機質系ボードを採用することで、衝撃音遮断性能、床強度及び耐火性に優れた床構造が得られることが確認できた。
【0039】
従って、上記実施の形態によれば、面密度の高い無機質系ボードを床下地パネルに積層することにより、床の剛性が増し乾式二重床の特徴である床の撓みや振動伝播が軽減され、快適な遮音二重床が得られ、その結果不快な振動を感じたり、家具揺れや倒れ込み現象が少なくなる。また、含水率及び吸水率の低い無機質系ボードを床下地ボードの上に強固に積層することにより、乾燥する季節においての材料収縮による床が波をうったり、壁際に隙間が開いたりする現象を少なくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る床構造を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
2 床スラブ
4 床支持脚
14 床下地ボード
16 無機質系ボード
17 接着剤(弾性接着剤)
18 仕上げ材(フローリング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床スラブ上に高さ調整可能な複数の床支持脚を立設し、これら床支持脚の上部に複数の床材を重ねて敷設する床構造において、
上記床材は、床下地ボードの上部に、吸水率3%以下、又は吸水による長さ変化率0.15%以下の無機質系ボードを配置し、この無機質系ボードの上部に床仕上げ材を敷設したものであることを特徴とする床構造。
【請求項2】
上記無機質系ボードは、面密度10kg.f/mから20kg.f/mの範囲内のものを用いたことを特徴とする請求項1記載の床構造。
【請求項3】
上記床下地ボードと上記無機質系ボードとの間に接着剤を介在させて両者を固着したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の床構造。

【図1】
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【公開番号】特開2008−274680(P2008−274680A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121203(P2007−121203)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(000177139)三洋工業株式会社 (46)
【Fターム(参考)】