床版解体方法及び床版解体装置
【課題】床版の解体に要する車輌交通規制時間を最小限にし、作業手順が簡明で作業効率が高く大きな騒音を伴うことなく設備費用も低廉で設置自由度も高い床版の解体方法を提供する。
【解決手段】床版解体装置6は既設主桁2の下フランジ2aから立設する支持材8とウエブ2b側面から跳ね出す梁状の受台9と、この受台9の上面に角度調整機構10を介在して載置するジャッキ11からなる。床版解体装置6はウェブ2bの両側に2基を1組として設置し、左右対称の上揚力を作用させる。床版解体装置6は交通規制前に既設床版1の下側に必要台数分設置しておく。床版解体装置6は既設床版1の下側からジャッキ11による突き上げで分割床版4を押し剥がす。
【解決手段】床版解体装置6は既設主桁2の下フランジ2aから立設する支持材8とウエブ2b側面から跳ね出す梁状の受台9と、この受台9の上面に角度調整機構10を介在して載置するジャッキ11からなる。床版解体装置6はウェブ2bの両側に2基を1組として設置し、左右対称の上揚力を作用させる。床版解体装置6は交通規制前に既設床版1の下側に必要台数分設置しておく。床版解体装置6は既設床版1の下側からジャッキ11による突き上げで分割床版4を押し剥がす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、橋梁などの既設主桁上に架設されたコンクリート製の既設床版を撤去して新床版を据え付ける際、既設床版に切り目を入れて分割された床版を既設主桁との定着を解放して分離するための床版解体方法及び床版解体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構築後多年経過した鋼橋のコンクリート製床版は、その老朽化に伴って既設床版の撤去及び新床版の据付工事を行なう必要がある。既設床版としては既設主桁に支持される鉄筋コンクリート製の床版が多いため、撤去に際してはこれを所定の大きさに切断して搬出しなければならない。
【0003】
供用中の既設床版を取り替える際には、床版の解体に要する車輌交通規制時間を最小限にすること、かつ大きな騒音を伴うことなく、設置自由度も高い床版の解体装置及び解体方法が望まれている。又床版の取替工事では、一夜間で既設床版の撤去と新床版の設置を行うため、限られた時間を有効に使う技術が望まれている。
【0004】
このような技術的な要請のもと、従来の床版解体方法及び床版解体装置としては、例えば下記に示すような技術が提案されていた。
【特許文献1】特開平6−136722号公報
【特許文献2】特開平5−33314号公報
【特許文献3】特開平9−158124号公報
【特許文献4】特開2003−247212号公報
【0005】
特許文献1には、床版上側に設置したジャッキとビームで既設床版を既設主桁から引き剥がす床版解体装置が開示されていた。この従来の床版解体装置及び解体方法を図13乃至図14に示す。従来の床版解体の手順は、例えば図13に示すように、解体を必要とする既設床版101にコンクリートカッター等を用いて切断線103a,103bを入れて複数の分割床版104とし、各分割床版104には吊上げ用の孔部105を穿設していた。
【0006】
既設主桁102から引き剥がす分割床版104を挟んで、隣接するブロックの分割床版104,104に一対のジャッキ110,110を据え付け、これにH型鋼等からなる梁材111を架け渡し、この梁材111からPC鋼棒112を垂下していた。PC鋼棒112はジャッキ110の作用により梁材111と共に上下動し得る構成で、分割床版104に穿設した孔部105と梁材111の間隙を貫通しており、分割床版104の下面より突出する先端には座金及びナット112aが取り付けられていた。
【0007】
このような床版解体装置106でジャッキ110を作動させると、分割床版104が引張られ、この時例えば図15の断面図に示すように、既設主桁102との定着部におけるスラブ止め107の周辺において、引張及びせん断が促進されて終には一点鎖線に示すような状態で分離したり、あるいはスラブ止め107が分割床版104から抜け出て分離したり、又場合によってはスラブ止め107が切断することで分離することもあった。
【0008】
分割床版104を既設主桁102から分離した後は、PC鋼棒112を下降させて既設主桁102上に一旦降ろし、床版解体装置106を移動させた後、分割床版104に穿設した孔部105に図示しない吊具を取り付けてクレーン等により吊り上げて撤去していた。
【0009】
特許文献2には、床版下側にて既設主桁と連結するハンチ部分に研磨材を噴射してジベルを露出させた後、ジベルを切断して切り離す床版解体方法が開示されていた。この解体方法は図16に示すように、先ず既設主桁202近傍の既設床版204のハンチ205側面を、研磨材噴射装置206を用いて長手方向に研削して溝205aを形成し、既設主桁202の上フランジ202cに立設するジベル207の基部を露出させていた。
【0010】
これによりジベル207の立設位置を確認し、その後当該ジベル207の基部のみを列毎に切断していた。研磨材噴射装置206は、ハンチ205を挟んで片側に配設する研磨材噴射ノズル206aと、その反対側に配設するキャッチャ206bとこれに接続する排水管206cを有し、研磨材噴射ノズル206aは、研磨材を高圧水に随伴させて噴射させており、ハンチ205を貫通して吐出される研削屑205b及び水をキャッチャ206bで受け止めていた。
【0011】
又特許文献3には、床版側面にて横方向のコア抜きでジベルを切断して床版を切り離す床版解体方法が開示されていた。この床版解体方法は、図17及び図18に示すように、先ず既設主桁302に支持された既設床版301を、既設主桁302の側部に沿って長手方向に切断線303bを入れ、さらに、この床版301に対し幅方向に適宜間隔で切断線303aを入れることで、複数の矩形状の分割床版304としていた。
【0012】
次に既設主桁302から分離された両端及び中央の分割床版304をクレーン等により吊り上げて搬出し、既設主桁302上にジベル307によって結合されている分割床版304の両側部の切断面305からジベル307の配設位置に向かって、コンクリートコア抜き機等を用いて穴305aを形成し、ジベル307をコンクリートごと削り取って除去し、これにより分割床版304と既設主桁302との結合状態を解除していた。
【0013】
更に特許文献4には、床版上側にて既設主桁上で縦方向にコア抜きした後、静的破砕剤にて床版を切り離す床版解体方法が開示されていた。この床版解体方法は図19に示すように、鉄筋コンクリート床版401の、既設主桁402のフランジ402c直上部分に多数の孔405を形成し、これに静的破砕剤405aを注入することで床版401と既設主桁402との分離を促していた。静的破砕剤を水と混合して孔に注入すると、膨張圧によりコンクリートの破砕が生ずるものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1に記載されるような、床版上側に設置したジャッキとビームで既設床版を既設主桁から引き剥がす床版解体方法では、引き剥がし作業前に床版解体装置106の設置を行ったり、又分割床版104に孔部105を穿設する等の準備工の開始と同時に車両を通行止めしなければならず、床板の再構築が完了するまで長時間通行止めとなる長い交通規制時間が不可欠で、交通規制時間が限られる場合は、準備工後の残り作業時間が短くなる問題点があった。又、既設床版を吊上げ移動する前にジャッキとビームからなる床版解体装置を移動しなければならず、作業手順が煩雑となり、移動するための時間も必要で作業効率が悪かった。
【0015】
又従来の床版上側から引き剥がす床版解体方法では、PC鋼棒を挿通する孔を既設床版にコア抜きしなければならず、又引き剥がしの反力支点を隣接床版でとるため新床版を設置した後でなければ次の既設床版の引き剥がしにかかれない欠点があった。即ち、床版解体装置を隣接する床板に載せかける従来の解体方法では、床版1パネル毎に既設床版の撤去と新床版の設置とを順次行わなければならず効率が非常に悪かった。
【0016】
又従来の床版解体方法においては、揚力に伴う水平分力が発生するハンチ等の傾斜部にはアンカーをとれなかったため、図20(a)に示すようにPC鋼棒512をハンチ505を避けて設置していた。従って既設主桁502と上揚力作用点との距離lが大きくなり、既設床版504を剥がす上揚力Pが大きい場合には、既設主桁502上にあるCL部での曲げモーメントMCLにより既設床版504が曲げ破壊し、図20(b)に示すように既設床版504がバラバラになる恐れがあった。
【0017】
又特許文献2に記載される研磨剤によるコンクリートのはつり作業を要する従来技術では、飛散防止のために、研磨剤の集積設備や、コンクリート粉の集塵設備、更には散水や集水用の諸設備が必要であり、その設備費用が過大となる欠点があると共に、はつり作業に伴い騒音が発生する問題点があった。
【0018】
又、特許文献3に記載される横方向のコア抜きでジベルを切断して床版を切り離す従来の床版解体方法では、既設主桁上の床版分離作業に先立ち、支間部の床版を撤去しなければならず、結局床版解体に要する車輌交通規制時間が長くなる欠点があった。
【0019】
又、特許文献4に記載される静的破砕剤にて床版を切り離す従来の床版解体方法においても、既設床版を既設主桁から引き剥がすためには、既設床版にコア抜きを行い吊上げ治具をセットしないと既設主桁からの分離は行えず、作業時間は長くなりがちであった。
【0020】
この発明は、従来の床版解体方法及び床版解体装置が有する問題点を解消すべくなされたものであり、供用中の床版を取り替える際の既設床版の解体において、床版の解体に要する車輌交通規制時間を最小限にして限られた時間をできるだけ有効に使い、作業手順が簡明で、しかも作業効率が高く、かつ大きな騒音を伴うことなく、設備費用も低廉で、設置自由度も高い床版の解体装置及び解体方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するため、この発明の床版解体方法は、既設主桁上に架設されたコンクリート製の既設床版を複数のブロックに切断して撤去する際、既設床版下面にあって既設主桁との定着を解放しようとする箇所の近傍に支持部材及びジャッキからなる上揚機構を配設し、反力を桁材で支持しながら上揚力を既設床版下面に作用させ、既設主桁上フランジと既設床版との定着を解放して両者を分離した後、既設床版を撤去することを特徴とするものである。
【0022】
床版を支持する既設主桁は、ウエブと上下のフランジから構成され、複数が並列に配置される。上フランジには床版と連結するためジベルが横列に複数本、既設主桁の長手方向に適宜間隔で植立されており、上フランジ上にはジベルを埋め込んだ状態でコンクリートが打設され、既設床版が形成されている。既設床版の押し剥がし作業前には、輸送可能な寸法で切断線を適宜入れておく。
【0023】
上揚機構は、交通規制前に既設床版の下側に設置しておく手順とし、下側からの突き上げで床版を剥がすものであり、押し剥がしの反力は剥がす床版下の桁材でとる。桁材としては既設主桁の他、受け梁を介しての横桁や対傾構でも支持可能である。上揚機構は撤去しようとする複数の床版パネル分に設置しておくことが可能である。上揚力の調整作業は床版下側で行うことが望ましい。
【0024】
請求項2記載の床版解体方法の上揚機構は、定着を解放しようとする既設主桁の両側に配設し、左右対称の上揚力を作用させることを特徴とするものである。上揚機構は既設主桁ウェブの両側に2基を1組として設置し、既設主桁両側の上揚力が均等に作用する機構とする。既設主桁と連結する床版に、例えばハンチ等の傾斜部が有り、この面に垂直に押し剥がし力をかける場合には既設主桁に横方向の曲げが作用するが、1つの突き上げ位置に1組の上揚機構を設置することで、既設主桁両側の上揚力を均等にし、上揚力に伴う水平分力を既設主桁ウェブの両側で互いに打ち消し合う。
【0025】
請求項3記載の床版解体方法における既設床版は、既設主桁と連結する部分にハンチを有し、前記上揚機構は、このハンチ面に上揚力を作用させることを特徴とするものである。既設床版のコア抜き孔に挿通した鋼棒のアンカーを床版下面でとる従来技術では、揚力に伴う水平分力が発生するハンチ等の傾斜部にはアンカーをとれなかったが、下側からの突き上げで床版を剥がす解体方法ではハンチ面に対しても上揚力を作用させることができる。
【0026】
ハンチ面に上揚力を作用させる場合には、ハンチ部を避けてPC鋼棒を設置する従来の床版解体方法に比べ、既設主桁と上揚力作用点との距離が小さくなり、既設床版を剥がす上揚力が大きい場合でも、既設主桁上での曲げモーメントが、従来の床版解体方法に比べて小さくなる。
【0027】
請求項4記載の床版解体装置は、複数のブロックに切断されたコンクリート製の既設床版を既設主桁から分離するため、桁材に固定する反力台と、この反力台に載置し上面を既設床版下面に当接するジャッキを備えることを特徴とするものである。
【0028】
反力台は、例えば、既設主桁の下フランジから立設する支持材と、ウエブ側面から跳ね出す受台からなり、この上面に床版下面の傾斜に合わせるため角度調整機構を介在してジャッキを載置する。角度調整機構の代わりにジャッキの上にキャンバーを介在させる構成でもよい。
【0029】
ジャッキは複数の受台に受け梁を流し、これに載せる構成でもよい。又反力台として既設主桁ウエブより跳ね出すブラケットを用いる構成でもよいし、既設主桁に設ける吊金具を利用し、これから受台を吊上げる構成でもよい。又横桁や対傾構で受け梁を支持し、これにジャッキを載置する構成でもよい。
【発明の効果】
【0030】
この発明の床版解体方法は、既設床版下面に上揚機構を配設し上揚力を既設床版下面に作用させて既設主桁と既設床版との定着を解放して両者を分離するので、装置の設置等の準備工を交通規制前に行えるため、交通規制時間を短くできる。又交通規制時間が限られる場合には、剥がし作業や新床版設置作業に時間を有効利用できる。
【0031】
既設床版の剥がし作業が完了したら、上揚機構を撤去する前に剥がした既設床版の吊上げ移動作業を行ってもよく、又既設床版の吊上げには床版のコア抜き作業を行わない方法も可能である。
【0032】
隣接床版の有無に関わらず、下側からの突き上げで剥がし作業が実施できるため、新床版の設置とは無関係に次の既設床版の剥がし作業にかかれる。又引き剥がす床版の順序が限られず一段階で任意寸法の床版を引き剥がすことが可能であり、部分的な撤去にも容易に対応できる。
【0033】
又はつり作業が不要なので研磨剤や水、コンクリート粉の飛散防止設備が不要でコストの低廉化が望める。又研磨剤によるコンクリートのはつり作業を伴う従来の解体方法に比べ引き剥がし作業時に大きな騒音を生じないメリットもある。
【0034】
請求項2記載の床版解体方法の上揚機構は、既設主桁の両側から左右対称の上揚力を作用させるので、上揚力に伴う水平分力は既設主桁ウェブの両側で互いに打ち消し合うことができ、床版の引き剥がし時に既設主桁には横方向の曲げが生じない。
【0035】
請求項3記載の床版解体方法は、ハンチ面に上揚力を作用させるので、既設主桁と上揚力作用点との距離が小さくなり、既設床版を剥がす上揚力が大きい場合でも、既設主桁上での曲げモーメントが、ハンチ部分を避けてPC鋼棒を設置する従来の床版解体方法に比べて小さくなり、既設床版の曲げ破壊が生ずる可能性が少なくなる。
【0036】
請求項4記載の床版解体装置は、桁材に固定する反力台と、この反力台に載置し上面を既設床版下面に当接するジャッキを備えるので、床版上側で引き剥がし作業を行う技術では床版と既設主桁との剥がれ状況が目視できないので上揚力のかけ具合を直感的に判断しづらいが、この床版解体装置は床版下側で床版と既設主桁との剥がれ状況を目視しながら上揚力を調整することが可能である。又一本の反力ビームの反力支点を引き剥がす既設床版の両側に隣接設置する技術では、反力支点間の調整幅が少なく、大幅に調整する場合は装置の大幅な改良を要するが、この床版解体装置は突き上げ位置を任意に選ぶことが可能で、突き上げ位置の距離が徐々に変わる場合にも任意に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次にこの発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明する。図1は既設橋梁において損傷した床版を新しい床版に取り替える手順の説明図である。撤去対象となる損傷した既設床版1は、並列して配置された既設主桁2に支持されており(図1(a))、既設主桁2と既設床版1は、既設主桁2上に立設された多数の結合材によって強固に結合されている。
【0038】
この既設床版1を撤去して新たな床板に置き換える際には、コンクリートカッタ等を用いて橋軸直角方向に切断線3aを、又必要に応じて橋軸方向に切断線3bを入れ、輸送可能な寸法で切断された分割床版4を形成する(図1(b))。
【0039】
分割床版4は図示しない床版解体装置を用いて既設主桁2から剥がした後、図示しない搬出手段を用いて順次撤去し(図1(c))、その後図示しない搬入手段を用いて新しい床版5を搬入し、既設主桁2上に設置する(図1(d))。同様な手順により損傷した既設床版1を順番に新しい床版5に取り替えていく(図1(e))。
【0040】
ここで床版解体装置の構成を図2に基づき説明する。床版解体装置6は、既設主桁2に固定する反力台Aと、この反力台Aに載置し上面を既設床版1下面に当接するジャッキBを備える。反力台Aとしては、例えば、既設主桁2同士を連結する横桁を用い、この上面にジャッキBを載置し、キャンバーCを介在させて既設床版1のハンチ1a下面に上揚力を作用させる。
【0041】
次に分割床版を既設主桁から剥がすための床版解体装置の設置状況を図3及び図4に基づき説明する。図3は、床版解体装置を取り付けた既設橋梁下面の斜視図、図4は道路線形が曲線状の既設床版を取り替える際の分割床版を示す平面図である。
【0042】
既設主桁2から分離する分割床版4の下面には、図3に示すように床版解体装置6を既設主桁2に沿って適宜間隔を開けて設置する。床版解体装置6は分割床版4の橋軸直角方向の切断線3aを挟んで設置する。橋梁の平面形状が曲線の場合、床版解体装置6の間隔は曲線の内外では大きく異なる。例えば図4に示す内側の分割床版4INにおける間隔LINに対し、外側の分割床版4OUTでは間隔LOUTとなり、この間に設置する床版解体装置6の間隔LはLIN〜LOUTに漸次変化していくことになる。
【0043】
このような分割床版を、例えば図13及び図14に示すような従来の床版解体装置101を用いて引き剥がす場合には、一対のジャッキ110,110で支持される梁材111のスパンが夫々異なることになり、長さや断面性能の異なる梁材を用意しなければならない。これに対し、分割床版4の下面に設置する床版解体装置6では、全く同じ装置を転用することができる。
【0044】
次に床版解体装置の詳細を図5に基づき説明する。図5は床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。撤去対象となる分割床版4は既設主桁2上に立設された結合材7によって強固に結合されている。床版解体装置6は、既設主桁2の下フランジ2aから立設する支持材8と、ウエブ2b側面から跳ね出す梁状の受台9と、この受台9の上面に角度調整機構10を介在して載置するジャッキ11からなる。
【0045】
角度調整機構10は、分割床版4下面の既設主桁2取付部近傍におけるハンチ4a等の傾斜に合わせ、これと直交するようにジャッキ11を傾斜させるものである。受台9は一端をウエブ2bの側面にボルトナット9a等を用いて固定し、他端を支持材8にて支持する。支持材8は両端をピン結合し、反力を下フランジ2aに伝達する。
【0046】
この床版解体装置6は、既設主桁2のウェブ2bの両側に2基を1組として設置する。左右対称の上揚力を作用させることで、上揚力に伴う水平分力は既設主桁2のウェブ2bの両側で互いに打ち消し合うことができ、既設主桁2に横方向の曲げ力が作用しなくなる。
【0047】
又ハンチ面に上揚力を作用させる場合には、図6に示すように、既設主桁2と上揚力作用点との距離l’が小さくなり、既設床版1を剥がす上揚力Pが大きい場合でも、既設主桁2上のCL部での曲げモーメントM’CLが、図20に示す従来の床版解体方法におけるモーメントMCL比べて小さくなり、既設床版1の曲げ破壊が生ずる可能性が少なくなる。
【0048】
上揚力の調整作業は分割床版4の下側で、床版4と既設主桁2との剥がれ状況を目視しながら行うことが望ましい。押し剥がす分割床版4の順序は特に限定されず一段階で任意寸法の分割床版4を押し剥がすことが可能である一方、部分的な撤去に対しても容易に対応可能である。
【0049】
この床版解体装置6は交通規制前に既設床版1の下側に必要台数分設置しておく。従って床版解体装置6は複数の分割床版4の下面に予め設置しておくことが可能であり、装置設置等の準備工を交通規制前に行えるため、交通規制時間を短くできる。又、ジャッキ11を支持する支持材8及び受台9は新既設床版移動用の図示しない軌道を支持する機構としても転用可能である。
【0050】
この床版解体装置6を用いる解体方法は、既設床版1の下側からジャッキ11による突き上げで分割床版4を押し剥がすものであり、その反力は図5に示すように、既設主桁2の下フランジ2aとウエブ2bでとっている。既設主桁2の作用中立軸付近に連結ボルト孔を設け、ボルトナット9aにて表裏の受台9,9を接続すると、後の既設主桁作用には影響がなくなる。
【0051】
ジャッキ11の押し上げにより、既設主桁2の上フランジ2cと分割床版4との定着を解放して両者を分離した後、分割床版4を撤去する。分割床版4の押し剥がし作業が完了したら、すぐに分割床版4の吊り上げ移動作業を開始する手順が望ましい。即ち押し剥がし作業後に分割床版4を撤去し、続いて新床版5の設置を並行作業で行い、これらが完了した後、次の分割床版4の押し剥がし作業を行う手順とする。分割床版4の吊上げ移動にはコア抜き作業を行わない方法も可能であるが、必要な場合にはコア抜きを行って吊り具を取り付けてもよい。
【0052】
角度調整機構10は既設床版1の下面の傾斜に合わせて、これと直交するようにジャッキ11を傾斜させるものであるが、図7に示すように角度調整機構の代わりにジャッキ11の上に傾斜調整材であるキャンバー12を介在させる床版解体装置16としてもよい。キャンバー12を介在させる場合には分割床版4に作用する押し剥がし力は鉛直上方向となる。なお、図7以降の図において図5と同様な構成・作用を呈する部材は図5と同一の符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0053】
このような床版解体装置6,16は、ジャッキ11を配置する全ての箇所に受台9及び支持材8を設ける構成でもよいが、最小限の受台を設置してこれに受梁を渡す構造としてもよい。この実施形態を図8に示す。図8の床版解体装置26はウエブ2bの側面から跳ね出す複数の受台9に受梁13を流し、この上面にジャッキ11を載置する構成である。既設主桁2と並行して受梁13を設けることで、受台9及び支持材8の設置箇所が減少できると共に、ジャッキ11の設置位置が自由に選択できるようになる。突き上げ位置を任意に選ぶことが可能となると、突き上げ位置の距離が徐々に変わる場合にも適宜対応可能となる。
【0054】
既設主桁2に固定する反力台としては、図9に示すような既設主桁2のウエブ2bより跳ね出すブラケット14を用いる構成としてもよい。この場合にはブラケット14にて全ての反力を受けることになる。又上揚力に十分耐え得る足場吊金具等が既設主桁に設けられている場合は、図10に示すように、この吊金具15を利用し、吊具16を用いて受台9を支持する構成としてもよい。又反力は既設主桁のみならず、横桁や対傾構で支持する構成としてもよい。この実施形態を図11に示す。横桁22や対傾構で受梁13を支持し、これにジャッキ11を載置する構成である。
【0055】
以上説明した床版解体装置は、主に既設主桁の両側に2基を1組として設置するものであるが、既設主桁左右の荷重を非対称とするケースも考えられる。この実施形態を図12に示す。既設主桁2と連結する既設床版1に、ハンチ1a等の傾斜部が有り、この面に垂直に押し剥がし力をかける場合には既設主桁2方向に水平分力Hが作用する。この時片側からの上揚力の場合には、既設主桁2上に立設された結合材7を拘束する力が減少若しくは無くなるため、結合材7と既設床版1との分離が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明の床版解体方法及び床版解体装置は、橋梁の既設主桁上にある既設床版の解体撤去のみならず、広く鋼桁上に載置される既設床版の解体撤去作業に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】損傷した床版を新しい床版に取り替える手順の説明図である。
【図2】床版解体装置を取り付けた既設橋梁の断面図である。
【図3】床版解体装置を取り付けた既設橋梁下面の斜視図である。
【図4】曲線状の既設床版を取り替える際の分割床版を示す平面図である。
【図5】床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図6】ハンチ面に対称に上揚力を作用させる場合の説明図である。
【図7】別の実施形態の床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図8】別の実施形態の床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図9】別の実施形態の床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図10】別の実施形態の床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図11】別の実施形態の床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図12】片側のハンチ面に上揚力を作用させる場合の説明図である。
【図13】従来の床版解体方法を説明する床版の平面図である。
【図14】従来の床版解体装置の正面図である。
【図15】既設床版と既設主桁の分離状況を説明する断面図である。
【図16】研磨材の噴射による床版解体方法を説明する断面図である。
【図17】コア抜きでジベルを切断する床版の斜視図である。
【図18】コア抜きでジベルを切断する床版の側面図である。
【図19】静的破砕剤にて床版を切り離す床版の斜視図である。
【図20】従来の解体方法で上揚力を作用させる場合の説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1 既設床版
2 既設主桁
3a 切断線
3b 切断線
4 分割床版
6 床版解体装置
7 結合材
8 支持材
9 受台
10 角度調整機構
11 ジャッキ
【技術分野】
【0001】
この発明は、橋梁などの既設主桁上に架設されたコンクリート製の既設床版を撤去して新床版を据え付ける際、既設床版に切り目を入れて分割された床版を既設主桁との定着を解放して分離するための床版解体方法及び床版解体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構築後多年経過した鋼橋のコンクリート製床版は、その老朽化に伴って既設床版の撤去及び新床版の据付工事を行なう必要がある。既設床版としては既設主桁に支持される鉄筋コンクリート製の床版が多いため、撤去に際してはこれを所定の大きさに切断して搬出しなければならない。
【0003】
供用中の既設床版を取り替える際には、床版の解体に要する車輌交通規制時間を最小限にすること、かつ大きな騒音を伴うことなく、設置自由度も高い床版の解体装置及び解体方法が望まれている。又床版の取替工事では、一夜間で既設床版の撤去と新床版の設置を行うため、限られた時間を有効に使う技術が望まれている。
【0004】
このような技術的な要請のもと、従来の床版解体方法及び床版解体装置としては、例えば下記に示すような技術が提案されていた。
【特許文献1】特開平6−136722号公報
【特許文献2】特開平5−33314号公報
【特許文献3】特開平9−158124号公報
【特許文献4】特開2003−247212号公報
【0005】
特許文献1には、床版上側に設置したジャッキとビームで既設床版を既設主桁から引き剥がす床版解体装置が開示されていた。この従来の床版解体装置及び解体方法を図13乃至図14に示す。従来の床版解体の手順は、例えば図13に示すように、解体を必要とする既設床版101にコンクリートカッター等を用いて切断線103a,103bを入れて複数の分割床版104とし、各分割床版104には吊上げ用の孔部105を穿設していた。
【0006】
既設主桁102から引き剥がす分割床版104を挟んで、隣接するブロックの分割床版104,104に一対のジャッキ110,110を据え付け、これにH型鋼等からなる梁材111を架け渡し、この梁材111からPC鋼棒112を垂下していた。PC鋼棒112はジャッキ110の作用により梁材111と共に上下動し得る構成で、分割床版104に穿設した孔部105と梁材111の間隙を貫通しており、分割床版104の下面より突出する先端には座金及びナット112aが取り付けられていた。
【0007】
このような床版解体装置106でジャッキ110を作動させると、分割床版104が引張られ、この時例えば図15の断面図に示すように、既設主桁102との定着部におけるスラブ止め107の周辺において、引張及びせん断が促進されて終には一点鎖線に示すような状態で分離したり、あるいはスラブ止め107が分割床版104から抜け出て分離したり、又場合によってはスラブ止め107が切断することで分離することもあった。
【0008】
分割床版104を既設主桁102から分離した後は、PC鋼棒112を下降させて既設主桁102上に一旦降ろし、床版解体装置106を移動させた後、分割床版104に穿設した孔部105に図示しない吊具を取り付けてクレーン等により吊り上げて撤去していた。
【0009】
特許文献2には、床版下側にて既設主桁と連結するハンチ部分に研磨材を噴射してジベルを露出させた後、ジベルを切断して切り離す床版解体方法が開示されていた。この解体方法は図16に示すように、先ず既設主桁202近傍の既設床版204のハンチ205側面を、研磨材噴射装置206を用いて長手方向に研削して溝205aを形成し、既設主桁202の上フランジ202cに立設するジベル207の基部を露出させていた。
【0010】
これによりジベル207の立設位置を確認し、その後当該ジベル207の基部のみを列毎に切断していた。研磨材噴射装置206は、ハンチ205を挟んで片側に配設する研磨材噴射ノズル206aと、その反対側に配設するキャッチャ206bとこれに接続する排水管206cを有し、研磨材噴射ノズル206aは、研磨材を高圧水に随伴させて噴射させており、ハンチ205を貫通して吐出される研削屑205b及び水をキャッチャ206bで受け止めていた。
【0011】
又特許文献3には、床版側面にて横方向のコア抜きでジベルを切断して床版を切り離す床版解体方法が開示されていた。この床版解体方法は、図17及び図18に示すように、先ず既設主桁302に支持された既設床版301を、既設主桁302の側部に沿って長手方向に切断線303bを入れ、さらに、この床版301に対し幅方向に適宜間隔で切断線303aを入れることで、複数の矩形状の分割床版304としていた。
【0012】
次に既設主桁302から分離された両端及び中央の分割床版304をクレーン等により吊り上げて搬出し、既設主桁302上にジベル307によって結合されている分割床版304の両側部の切断面305からジベル307の配設位置に向かって、コンクリートコア抜き機等を用いて穴305aを形成し、ジベル307をコンクリートごと削り取って除去し、これにより分割床版304と既設主桁302との結合状態を解除していた。
【0013】
更に特許文献4には、床版上側にて既設主桁上で縦方向にコア抜きした後、静的破砕剤にて床版を切り離す床版解体方法が開示されていた。この床版解体方法は図19に示すように、鉄筋コンクリート床版401の、既設主桁402のフランジ402c直上部分に多数の孔405を形成し、これに静的破砕剤405aを注入することで床版401と既設主桁402との分離を促していた。静的破砕剤を水と混合して孔に注入すると、膨張圧によりコンクリートの破砕が生ずるものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1に記載されるような、床版上側に設置したジャッキとビームで既設床版を既設主桁から引き剥がす床版解体方法では、引き剥がし作業前に床版解体装置106の設置を行ったり、又分割床版104に孔部105を穿設する等の準備工の開始と同時に車両を通行止めしなければならず、床板の再構築が完了するまで長時間通行止めとなる長い交通規制時間が不可欠で、交通規制時間が限られる場合は、準備工後の残り作業時間が短くなる問題点があった。又、既設床版を吊上げ移動する前にジャッキとビームからなる床版解体装置を移動しなければならず、作業手順が煩雑となり、移動するための時間も必要で作業効率が悪かった。
【0015】
又従来の床版上側から引き剥がす床版解体方法では、PC鋼棒を挿通する孔を既設床版にコア抜きしなければならず、又引き剥がしの反力支点を隣接床版でとるため新床版を設置した後でなければ次の既設床版の引き剥がしにかかれない欠点があった。即ち、床版解体装置を隣接する床板に載せかける従来の解体方法では、床版1パネル毎に既設床版の撤去と新床版の設置とを順次行わなければならず効率が非常に悪かった。
【0016】
又従来の床版解体方法においては、揚力に伴う水平分力が発生するハンチ等の傾斜部にはアンカーをとれなかったため、図20(a)に示すようにPC鋼棒512をハンチ505を避けて設置していた。従って既設主桁502と上揚力作用点との距離lが大きくなり、既設床版504を剥がす上揚力Pが大きい場合には、既設主桁502上にあるCL部での曲げモーメントMCLにより既設床版504が曲げ破壊し、図20(b)に示すように既設床版504がバラバラになる恐れがあった。
【0017】
又特許文献2に記載される研磨剤によるコンクリートのはつり作業を要する従来技術では、飛散防止のために、研磨剤の集積設備や、コンクリート粉の集塵設備、更には散水や集水用の諸設備が必要であり、その設備費用が過大となる欠点があると共に、はつり作業に伴い騒音が発生する問題点があった。
【0018】
又、特許文献3に記載される横方向のコア抜きでジベルを切断して床版を切り離す従来の床版解体方法では、既設主桁上の床版分離作業に先立ち、支間部の床版を撤去しなければならず、結局床版解体に要する車輌交通規制時間が長くなる欠点があった。
【0019】
又、特許文献4に記載される静的破砕剤にて床版を切り離す従来の床版解体方法においても、既設床版を既設主桁から引き剥がすためには、既設床版にコア抜きを行い吊上げ治具をセットしないと既設主桁からの分離は行えず、作業時間は長くなりがちであった。
【0020】
この発明は、従来の床版解体方法及び床版解体装置が有する問題点を解消すべくなされたものであり、供用中の床版を取り替える際の既設床版の解体において、床版の解体に要する車輌交通規制時間を最小限にして限られた時間をできるだけ有効に使い、作業手順が簡明で、しかも作業効率が高く、かつ大きな騒音を伴うことなく、設備費用も低廉で、設置自由度も高い床版の解体装置及び解体方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するため、この発明の床版解体方法は、既設主桁上に架設されたコンクリート製の既設床版を複数のブロックに切断して撤去する際、既設床版下面にあって既設主桁との定着を解放しようとする箇所の近傍に支持部材及びジャッキからなる上揚機構を配設し、反力を桁材で支持しながら上揚力を既設床版下面に作用させ、既設主桁上フランジと既設床版との定着を解放して両者を分離した後、既設床版を撤去することを特徴とするものである。
【0022】
床版を支持する既設主桁は、ウエブと上下のフランジから構成され、複数が並列に配置される。上フランジには床版と連結するためジベルが横列に複数本、既設主桁の長手方向に適宜間隔で植立されており、上フランジ上にはジベルを埋め込んだ状態でコンクリートが打設され、既設床版が形成されている。既設床版の押し剥がし作業前には、輸送可能な寸法で切断線を適宜入れておく。
【0023】
上揚機構は、交通規制前に既設床版の下側に設置しておく手順とし、下側からの突き上げで床版を剥がすものであり、押し剥がしの反力は剥がす床版下の桁材でとる。桁材としては既設主桁の他、受け梁を介しての横桁や対傾構でも支持可能である。上揚機構は撤去しようとする複数の床版パネル分に設置しておくことが可能である。上揚力の調整作業は床版下側で行うことが望ましい。
【0024】
請求項2記載の床版解体方法の上揚機構は、定着を解放しようとする既設主桁の両側に配設し、左右対称の上揚力を作用させることを特徴とするものである。上揚機構は既設主桁ウェブの両側に2基を1組として設置し、既設主桁両側の上揚力が均等に作用する機構とする。既設主桁と連結する床版に、例えばハンチ等の傾斜部が有り、この面に垂直に押し剥がし力をかける場合には既設主桁に横方向の曲げが作用するが、1つの突き上げ位置に1組の上揚機構を設置することで、既設主桁両側の上揚力を均等にし、上揚力に伴う水平分力を既設主桁ウェブの両側で互いに打ち消し合う。
【0025】
請求項3記載の床版解体方法における既設床版は、既設主桁と連結する部分にハンチを有し、前記上揚機構は、このハンチ面に上揚力を作用させることを特徴とするものである。既設床版のコア抜き孔に挿通した鋼棒のアンカーを床版下面でとる従来技術では、揚力に伴う水平分力が発生するハンチ等の傾斜部にはアンカーをとれなかったが、下側からの突き上げで床版を剥がす解体方法ではハンチ面に対しても上揚力を作用させることができる。
【0026】
ハンチ面に上揚力を作用させる場合には、ハンチ部を避けてPC鋼棒を設置する従来の床版解体方法に比べ、既設主桁と上揚力作用点との距離が小さくなり、既設床版を剥がす上揚力が大きい場合でも、既設主桁上での曲げモーメントが、従来の床版解体方法に比べて小さくなる。
【0027】
請求項4記載の床版解体装置は、複数のブロックに切断されたコンクリート製の既設床版を既設主桁から分離するため、桁材に固定する反力台と、この反力台に載置し上面を既設床版下面に当接するジャッキを備えることを特徴とするものである。
【0028】
反力台は、例えば、既設主桁の下フランジから立設する支持材と、ウエブ側面から跳ね出す受台からなり、この上面に床版下面の傾斜に合わせるため角度調整機構を介在してジャッキを載置する。角度調整機構の代わりにジャッキの上にキャンバーを介在させる構成でもよい。
【0029】
ジャッキは複数の受台に受け梁を流し、これに載せる構成でもよい。又反力台として既設主桁ウエブより跳ね出すブラケットを用いる構成でもよいし、既設主桁に設ける吊金具を利用し、これから受台を吊上げる構成でもよい。又横桁や対傾構で受け梁を支持し、これにジャッキを載置する構成でもよい。
【発明の効果】
【0030】
この発明の床版解体方法は、既設床版下面に上揚機構を配設し上揚力を既設床版下面に作用させて既設主桁と既設床版との定着を解放して両者を分離するので、装置の設置等の準備工を交通規制前に行えるため、交通規制時間を短くできる。又交通規制時間が限られる場合には、剥がし作業や新床版設置作業に時間を有効利用できる。
【0031】
既設床版の剥がし作業が完了したら、上揚機構を撤去する前に剥がした既設床版の吊上げ移動作業を行ってもよく、又既設床版の吊上げには床版のコア抜き作業を行わない方法も可能である。
【0032】
隣接床版の有無に関わらず、下側からの突き上げで剥がし作業が実施できるため、新床版の設置とは無関係に次の既設床版の剥がし作業にかかれる。又引き剥がす床版の順序が限られず一段階で任意寸法の床版を引き剥がすことが可能であり、部分的な撤去にも容易に対応できる。
【0033】
又はつり作業が不要なので研磨剤や水、コンクリート粉の飛散防止設備が不要でコストの低廉化が望める。又研磨剤によるコンクリートのはつり作業を伴う従来の解体方法に比べ引き剥がし作業時に大きな騒音を生じないメリットもある。
【0034】
請求項2記載の床版解体方法の上揚機構は、既設主桁の両側から左右対称の上揚力を作用させるので、上揚力に伴う水平分力は既設主桁ウェブの両側で互いに打ち消し合うことができ、床版の引き剥がし時に既設主桁には横方向の曲げが生じない。
【0035】
請求項3記載の床版解体方法は、ハンチ面に上揚力を作用させるので、既設主桁と上揚力作用点との距離が小さくなり、既設床版を剥がす上揚力が大きい場合でも、既設主桁上での曲げモーメントが、ハンチ部分を避けてPC鋼棒を設置する従来の床版解体方法に比べて小さくなり、既設床版の曲げ破壊が生ずる可能性が少なくなる。
【0036】
請求項4記載の床版解体装置は、桁材に固定する反力台と、この反力台に載置し上面を既設床版下面に当接するジャッキを備えるので、床版上側で引き剥がし作業を行う技術では床版と既設主桁との剥がれ状況が目視できないので上揚力のかけ具合を直感的に判断しづらいが、この床版解体装置は床版下側で床版と既設主桁との剥がれ状況を目視しながら上揚力を調整することが可能である。又一本の反力ビームの反力支点を引き剥がす既設床版の両側に隣接設置する技術では、反力支点間の調整幅が少なく、大幅に調整する場合は装置の大幅な改良を要するが、この床版解体装置は突き上げ位置を任意に選ぶことが可能で、突き上げ位置の距離が徐々に変わる場合にも任意に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次にこの発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明する。図1は既設橋梁において損傷した床版を新しい床版に取り替える手順の説明図である。撤去対象となる損傷した既設床版1は、並列して配置された既設主桁2に支持されており(図1(a))、既設主桁2と既設床版1は、既設主桁2上に立設された多数の結合材によって強固に結合されている。
【0038】
この既設床版1を撤去して新たな床板に置き換える際には、コンクリートカッタ等を用いて橋軸直角方向に切断線3aを、又必要に応じて橋軸方向に切断線3bを入れ、輸送可能な寸法で切断された分割床版4を形成する(図1(b))。
【0039】
分割床版4は図示しない床版解体装置を用いて既設主桁2から剥がした後、図示しない搬出手段を用いて順次撤去し(図1(c))、その後図示しない搬入手段を用いて新しい床版5を搬入し、既設主桁2上に設置する(図1(d))。同様な手順により損傷した既設床版1を順番に新しい床版5に取り替えていく(図1(e))。
【0040】
ここで床版解体装置の構成を図2に基づき説明する。床版解体装置6は、既設主桁2に固定する反力台Aと、この反力台Aに載置し上面を既設床版1下面に当接するジャッキBを備える。反力台Aとしては、例えば、既設主桁2同士を連結する横桁を用い、この上面にジャッキBを載置し、キャンバーCを介在させて既設床版1のハンチ1a下面に上揚力を作用させる。
【0041】
次に分割床版を既設主桁から剥がすための床版解体装置の設置状況を図3及び図4に基づき説明する。図3は、床版解体装置を取り付けた既設橋梁下面の斜視図、図4は道路線形が曲線状の既設床版を取り替える際の分割床版を示す平面図である。
【0042】
既設主桁2から分離する分割床版4の下面には、図3に示すように床版解体装置6を既設主桁2に沿って適宜間隔を開けて設置する。床版解体装置6は分割床版4の橋軸直角方向の切断線3aを挟んで設置する。橋梁の平面形状が曲線の場合、床版解体装置6の間隔は曲線の内外では大きく異なる。例えば図4に示す内側の分割床版4INにおける間隔LINに対し、外側の分割床版4OUTでは間隔LOUTとなり、この間に設置する床版解体装置6の間隔LはLIN〜LOUTに漸次変化していくことになる。
【0043】
このような分割床版を、例えば図13及び図14に示すような従来の床版解体装置101を用いて引き剥がす場合には、一対のジャッキ110,110で支持される梁材111のスパンが夫々異なることになり、長さや断面性能の異なる梁材を用意しなければならない。これに対し、分割床版4の下面に設置する床版解体装置6では、全く同じ装置を転用することができる。
【0044】
次に床版解体装置の詳細を図5に基づき説明する。図5は床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。撤去対象となる分割床版4は既設主桁2上に立設された結合材7によって強固に結合されている。床版解体装置6は、既設主桁2の下フランジ2aから立設する支持材8と、ウエブ2b側面から跳ね出す梁状の受台9と、この受台9の上面に角度調整機構10を介在して載置するジャッキ11からなる。
【0045】
角度調整機構10は、分割床版4下面の既設主桁2取付部近傍におけるハンチ4a等の傾斜に合わせ、これと直交するようにジャッキ11を傾斜させるものである。受台9は一端をウエブ2bの側面にボルトナット9a等を用いて固定し、他端を支持材8にて支持する。支持材8は両端をピン結合し、反力を下フランジ2aに伝達する。
【0046】
この床版解体装置6は、既設主桁2のウェブ2bの両側に2基を1組として設置する。左右対称の上揚力を作用させることで、上揚力に伴う水平分力は既設主桁2のウェブ2bの両側で互いに打ち消し合うことができ、既設主桁2に横方向の曲げ力が作用しなくなる。
【0047】
又ハンチ面に上揚力を作用させる場合には、図6に示すように、既設主桁2と上揚力作用点との距離l’が小さくなり、既設床版1を剥がす上揚力Pが大きい場合でも、既設主桁2上のCL部での曲げモーメントM’CLが、図20に示す従来の床版解体方法におけるモーメントMCL比べて小さくなり、既設床版1の曲げ破壊が生ずる可能性が少なくなる。
【0048】
上揚力の調整作業は分割床版4の下側で、床版4と既設主桁2との剥がれ状況を目視しながら行うことが望ましい。押し剥がす分割床版4の順序は特に限定されず一段階で任意寸法の分割床版4を押し剥がすことが可能である一方、部分的な撤去に対しても容易に対応可能である。
【0049】
この床版解体装置6は交通規制前に既設床版1の下側に必要台数分設置しておく。従って床版解体装置6は複数の分割床版4の下面に予め設置しておくことが可能であり、装置設置等の準備工を交通規制前に行えるため、交通規制時間を短くできる。又、ジャッキ11を支持する支持材8及び受台9は新既設床版移動用の図示しない軌道を支持する機構としても転用可能である。
【0050】
この床版解体装置6を用いる解体方法は、既設床版1の下側からジャッキ11による突き上げで分割床版4を押し剥がすものであり、その反力は図5に示すように、既設主桁2の下フランジ2aとウエブ2bでとっている。既設主桁2の作用中立軸付近に連結ボルト孔を設け、ボルトナット9aにて表裏の受台9,9を接続すると、後の既設主桁作用には影響がなくなる。
【0051】
ジャッキ11の押し上げにより、既設主桁2の上フランジ2cと分割床版4との定着を解放して両者を分離した後、分割床版4を撤去する。分割床版4の押し剥がし作業が完了したら、すぐに分割床版4の吊り上げ移動作業を開始する手順が望ましい。即ち押し剥がし作業後に分割床版4を撤去し、続いて新床版5の設置を並行作業で行い、これらが完了した後、次の分割床版4の押し剥がし作業を行う手順とする。分割床版4の吊上げ移動にはコア抜き作業を行わない方法も可能であるが、必要な場合にはコア抜きを行って吊り具を取り付けてもよい。
【0052】
角度調整機構10は既設床版1の下面の傾斜に合わせて、これと直交するようにジャッキ11を傾斜させるものであるが、図7に示すように角度調整機構の代わりにジャッキ11の上に傾斜調整材であるキャンバー12を介在させる床版解体装置16としてもよい。キャンバー12を介在させる場合には分割床版4に作用する押し剥がし力は鉛直上方向となる。なお、図7以降の図において図5と同様な構成・作用を呈する部材は図5と同一の符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0053】
このような床版解体装置6,16は、ジャッキ11を配置する全ての箇所に受台9及び支持材8を設ける構成でもよいが、最小限の受台を設置してこれに受梁を渡す構造としてもよい。この実施形態を図8に示す。図8の床版解体装置26はウエブ2bの側面から跳ね出す複数の受台9に受梁13を流し、この上面にジャッキ11を載置する構成である。既設主桁2と並行して受梁13を設けることで、受台9及び支持材8の設置箇所が減少できると共に、ジャッキ11の設置位置が自由に選択できるようになる。突き上げ位置を任意に選ぶことが可能となると、突き上げ位置の距離が徐々に変わる場合にも適宜対応可能となる。
【0054】
既設主桁2に固定する反力台としては、図9に示すような既設主桁2のウエブ2bより跳ね出すブラケット14を用いる構成としてもよい。この場合にはブラケット14にて全ての反力を受けることになる。又上揚力に十分耐え得る足場吊金具等が既設主桁に設けられている場合は、図10に示すように、この吊金具15を利用し、吊具16を用いて受台9を支持する構成としてもよい。又反力は既設主桁のみならず、横桁や対傾構で支持する構成としてもよい。この実施形態を図11に示す。横桁22や対傾構で受梁13を支持し、これにジャッキ11を載置する構成である。
【0055】
以上説明した床版解体装置は、主に既設主桁の両側に2基を1組として設置するものであるが、既設主桁左右の荷重を非対称とするケースも考えられる。この実施形態を図12に示す。既設主桁2と連結する既設床版1に、ハンチ1a等の傾斜部が有り、この面に垂直に押し剥がし力をかける場合には既設主桁2方向に水平分力Hが作用する。この時片側からの上揚力の場合には、既設主桁2上に立設された結合材7を拘束する力が減少若しくは無くなるため、結合材7と既設床版1との分離が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明の床版解体方法及び床版解体装置は、橋梁の既設主桁上にある既設床版の解体撤去のみならず、広く鋼桁上に載置される既設床版の解体撤去作業に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】損傷した床版を新しい床版に取り替える手順の説明図である。
【図2】床版解体装置を取り付けた既設橋梁の断面図である。
【図3】床版解体装置を取り付けた既設橋梁下面の斜視図である。
【図4】曲線状の既設床版を取り替える際の分割床版を示す平面図である。
【図5】床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図6】ハンチ面に対称に上揚力を作用させる場合の説明図である。
【図7】別の実施形態の床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図8】別の実施形態の床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図9】別の実施形態の床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図10】別の実施形態の床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図11】別の実施形態の床版解体装置を取り付けた既設主桁の断面図である。
【図12】片側のハンチ面に上揚力を作用させる場合の説明図である。
【図13】従来の床版解体方法を説明する床版の平面図である。
【図14】従来の床版解体装置の正面図である。
【図15】既設床版と既設主桁の分離状況を説明する断面図である。
【図16】研磨材の噴射による床版解体方法を説明する断面図である。
【図17】コア抜きでジベルを切断する床版の斜視図である。
【図18】コア抜きでジベルを切断する床版の側面図である。
【図19】静的破砕剤にて床版を切り離す床版の斜視図である。
【図20】従来の解体方法で上揚力を作用させる場合の説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1 既設床版
2 既設主桁
3a 切断線
3b 切断線
4 分割床版
6 床版解体装置
7 結合材
8 支持材
9 受台
10 角度調整機構
11 ジャッキ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設主桁上に架設されたコンクリート製の既設床版を複数のブロックに切断して撤去する際、既設床版下面にあって既設主桁との定着を解放しようとする箇所の近傍に支持部材及びジャッキからなる上揚機構を配設し、反力を桁材で支持しながら上揚力を既設床版下面に作用させ、既設主桁上フランジと既設床版との定着を解放して両者を分離した後、既設床版を撤去することを特徴とする床版解体方法。
【請求項2】
前記上揚機構は、定着を解放しようとする既設主桁の両側に配設し、左右対称の上揚力を作用させることを特徴とする請求項1記載の床版解体方法。
【請求項3】
前記既設床版は、既設主桁と連結する部分にハンチを有し、前記上揚機構は、このハンチ面に上揚力を作用させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の床版解体方法。
【請求項4】
複数のブロックに切断されたコンクリート製の既設床版を既設主桁から分離するため、桁材に固定する反力台と、この反力台に載置し上面を既設床版下面に当接するジャッキを備えることを特徴とする床版解体装置。
【請求項1】
既設主桁上に架設されたコンクリート製の既設床版を複数のブロックに切断して撤去する際、既設床版下面にあって既設主桁との定着を解放しようとする箇所の近傍に支持部材及びジャッキからなる上揚機構を配設し、反力を桁材で支持しながら上揚力を既設床版下面に作用させ、既設主桁上フランジと既設床版との定着を解放して両者を分離した後、既設床版を撤去することを特徴とする床版解体方法。
【請求項2】
前記上揚機構は、定着を解放しようとする既設主桁の両側に配設し、左右対称の上揚力を作用させることを特徴とする請求項1記載の床版解体方法。
【請求項3】
前記既設床版は、既設主桁と連結する部分にハンチを有し、前記上揚機構は、このハンチ面に上揚力を作用させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の床版解体方法。
【請求項4】
複数のブロックに切断されたコンクリート製の既設床版を既設主桁から分離するため、桁材に固定する反力台と、この反力台に載置し上面を既設床版下面に当接するジャッキを備えることを特徴とする床版解体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2007−100415(P2007−100415A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292629(P2005−292629)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000200367)川田工業株式会社 (41)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000200367)川田工業株式会社 (41)
【Fターム(参考)】
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