説明

廃プラスチック処理装置および処理方法

【課題】 簡易な構成でありながらも、回収油中への塩素成分の混入を大幅に削減できる廃プラスチック処理装置および処理方法の提供。
【解決手段】 塩化ビニルその他の含塩素プラスチックが混入する可能性のある廃プラスチック資源を熱分解するための廃プラスチック処理装置であって、処理対象となる廃プラスチック資源が投入され、且つ投入された廃プラスチック資源を加熱分解する加熱分解部と、当該加熱分解部から排出される熱分解ガスを処理する脱塩素処理部および油分凝縮処理部とを備え、前記加熱分解部は、少なくとも第一温度および第一温度よりも高温の第二温度で前記廃プラスチック資源を加熱分解するものとして構成され、前記加熱分解部排出される熱分解ガスの案内経路には、第一の温度で生じた熱分解ガスを脱塩素処理部に案内し、第二の温度で生じた熱分解ガスを油分凝縮処理部に案内する、熱分解ガス切替手段が設けられている廃プラスチック処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ塩化ビニル、その他塩化ビニリデンなど含塩素プラスチックが混在している廃プラスチックを熱分解処理し、炭化水素油を回収することのできる廃プラスチック処理装置および処理方法に関する。特に、加熱分解で発生した熱分解ガス中の塩化水素や塩素化合物の濃度を検知することで、回収した分解生成物である炭化水素油中に塩素化合物が混入しないようにした廃プラスチック処理装置および処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃プラスチックの処分方法として焼却処理や埋立て処理などが行われていた。しかし燃焼処理にあっては、燃焼にともなって有害ガスが発生する他、燃焼時の発熱量が高いために焼却炉の寿命を短くするという問題があった。また埋立て処理にあっては、環境汚染の問題の他、特に都市部では埋立て地の逼迫という問題があった。さらに、資源の有効利用の観点から廃プラスチックのリサイクルの必要性も年々高まってきている。
【0003】
このような背景のもと、近年では廃プラスチックのリサイクル技術が提案されている。これは廃プラスチックを熱分解処理し、この処理で生成する熱分解ガスから、炭化水素油などを回収するものである。
【0004】
しかし、このような熱分解の対象となるプラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィンやポリスチレンなどに限られており、ポリオレフィン以外の熱可塑性樹脂、特に、ポリ塩化ビニルのような加熱時に塩化水素ガスなどの有害ガスを発生するプラスチックに拡大して行なうには種々の問題があった。具体的には、ポリ塩化ビニルの混入量が多くなると発生する塩化水素の濃度も増大するため、処理装置の金属部分が腐食する等の問題や、分解生成物である油に対して塩素成分や塩素化合物が混入するといった問題が生じていた。
【0005】
このような塩化ビニル樹脂等の熱分解処理を可能にする為に、従来では燃焼処理(焼却)装置の耐食性を向上させる方法、熱分解処理に際して予め塩基性化合物などの酸中和剤を混合する方法(特許文献1:特開昭48−23873号公報)、熱分解に伴って発生したHClガスを脱塩剤との反応により固体の塩化物とし、これを分解ガスから除去する方法(特許文献2:特開平07−166171号公報)、および熱分解に先立って処理物を段階的に昇温熱分解して、塩化水素を回収してから昇温熱分解し、塩素を含まない油やガスを回収する方法(特許文献3:特開平5−245463号公報)が提案されていた。
【0006】
さらに、特許文献3に記載された方法で生じる問題、すなわち塩化ビニル樹脂を含む混合プラスチックの熱分解において、塩素化合物は塩化水素ガスが発生する温度領域より高温域でも発生するため、塩素の回収油中への混入を完全に防止できないという問題があり、このような問題を解決するべく、特許文献4(特開平08−239671号公報)も提案されていた。
【0007】
この特許文献4では、熱分解手段と接触触媒反応手段との間にハロゲン固定化手段を設けることにより、触媒のハロゲンによる活性低下を防止し、安定した触媒性能を維持できるものとしていた。
【特許文献1】特開昭48−23873号公報
【特許文献2】特開平07−166171号公報
【特許文献3】特開平5−245463号公報
【特許文献4】特開平08−239671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
廃プラスチックのリサイクルの観点から言えば、分解生成物である炭化水素油は十分に使用に耐え得るものであることが望ましい。そのためには、当該炭化水素油中における塩素化合物の含有量を一定以下にする必要があった。何故ならば、仮に炭化水素油中に大量の塩素化合物が混入してしまった場合には、炭化水素油を燃料として再利用する際に、燃焼機器の腐食や有害ガスの発生という問題が生じるためである。
【0009】
この点、前記特許文献4では、塩素の回収油中への混入をより確実に防止するべく、熱分解手段と接触触媒反応手段との間にハロゲン固定化手段を設けていた。しかしながら、このような構成では、装置が大がかりな上に、処理系統が複雑になり、設備投入費用やランニングコストの増大をもたらすとの課題があった。
【0010】
そこで本発明では、簡易な構成でありながらも、回収油中への塩素化合物の混入量を大幅に抑制することができる廃プラスチック処理装置および処理方法を提案することを課題とした。
【0011】
更に、構成を簡易にしたとしても、廃プラスチックの熱分解ガス中に含まれる塩化水素は、環境保全の観点からも確実に回収しなければならない。
【0012】
そこで本発明は、第2に廃プラスチックの熱分解ガスから生成される塩化水素や塩素化合物を無害化して回収することのできる廃プラスチック処理装置および処理方法を提案することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題の少なくとも何れかを解決するため、本発明は廃プラスチックの加熱分解を2段階で行い、塩化水素が混入し得る低温側の熱分解ガスを焼却し、その後に続く高温側の熱分解ガスから炭化水素油を回収するようにした廃プラスチック処理装置を提供する。
【0014】
すなわち本発明では、前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、処理対象となる廃プラスチック資源が投入され、且つ投入された廃プラスチック資源を加熱分解する加熱分解部と、当該加熱分解部から排出される熱分解ガスを処理する脱塩素処理部および油分凝縮処理部とを備えており、塩化ビニルその他の含塩素プラスチックが混入する可能性のある廃プラスチック資源を熱分解する廃プラスチック処理装置であって、前記加熱分解部から排出される熱分解ガスの案内経路には、当該熱分解ガス中の塩化水素濃度を検知する塩化水素測定装置と、加熱分解部から排出される熱分解ガスの案内方向を脱塩素処理部または油分凝縮処理部に切り替える、熱分解ガス切替手段が設けられている、廃プラスチック処理装置を提供する。
【0015】
かかる本発明の廃プラスチック処理装置では、一度に処理する廃プラスチック資源を加熱分解部(特に、後述の熱分解釜)にまとめて投入し、投入した廃プラスチック資源について脱塩および炭化水素油の回収を行うというバッチ式を採用していることから、塩化水素測定装置における測定結果に応じて熱分解ガスの案内方向を脱塩素処理部または油分凝縮処理部に切り替えることができ、その結果、回収した炭化水素油中への塩素化合物成分の混入を著しく減じる事ができる。ここで、バッチ式とは、連続式に対する語であり、一括処理式、或いは間欠式ともいい、加熱分解部を構成する熱分解釜内に材料をある程度貯めて処理する方式をいう。
【0016】
そして熱分解ガス中の塩化水素濃度を塩化水素測定装置で検知し、その検知結果に基づいて、熱分解ガス切替手段で加熱分解部から排出される熱分解ガスの案内方向を脱塩素処理部と油分凝縮処理部とで切り替えていることから、油分凝縮処理部で回収される炭化水素油中への塩素化合物成分の混入を著しく減じる事ができる。
【0017】
上記本発明にかかる廃プラスチック処理装置で処理対象とする廃プラスチック資源は、塩化ビニルその他の含塩素プラスチックを集めたものや、含塩素プラスチックが混入しているものの他、含塩素プラスチックが混入していないものも含む。
【0018】
また、油分凝縮処理部では、熱分解ガスを凝縮させて回収する炭化水素油を、重質油と軽質油とに分けて回収することが望ましいが、両者を分けることなく油成分として回収することも可能である。
【0019】
加熱分解部は、投入された廃プラスチック資源を加熱分解する為ものであり、廃プラスチック資源を投入する投入口を備える熱分解釜と、当該熱分解釜を加熱するバーナーなどから構成することができる。この熱分解釜には、加熱分解によって発生した熱分解ガスを脱塩素処理部や油分凝縮処理部に導く経路(パイプラインなど)への排出口が設けられる。
【0020】
本発明における廃プラスチック処理装置では、廃プラスチック資源から塩素乃至は塩素化合物成分を除去して、これらの混入量を極力抑えた良質な炭化水素油を回収するため、加熱分解部における廃プラスチック資源の加熱分解の温度を調整することが望ましい。即ち、塩化水素乃至は塩素化合物成分は、約300℃〜350℃未満の加熱分解で発生した熱分解ガス(以下「不適ガス」とする)中に混入することから、この不適ガスについて脱塩処理を行い、そして加熱分解で生じた熱分解ガス中に塩化水素乃至は塩素化合物成分が混入していないか、或いは混入量が規定値以下であるかを塩化水素測定装置で計測し、当該塩素化合物の濃度が基準に合致した段階で、加熱分解部における廃プラスチック資源の加熱分解の温度を上げることができる。即ち、加熱分解部における熱分解の温度を調整し、塩化水素乃至は塩素化合物成分を含む熱分解ガスと、塩化水素乃至は塩素化合物成分の混入量を大幅に減らした熱分解ガスとを分けることができる。
【0021】
よって本発明では、前記課題の少なくとも何れかを解決するために、処理対象となる廃プラスチック資源が投入され、且つ投入された廃プラスチック資源を加熱分解する加熱分解部と、当該加熱分解部から排出される熱分解ガスを処理する脱塩素処理部および油分凝縮処理部とを備え、塩化ビニルその他の含塩素プラスチックが混入する可能性のある廃プラスチック資源を熱分解する廃プラスチック処理装置であって、前記加熱分解部は、前記廃プラスチック資源を加熱分解する温度を、第一温度と、当該第一温度よりも高温の第二温度に調整する温度調整手段を具備しており、前記加熱分解部から排出される熱分解ガスの案内経路には、当該熱分解ガス中の塩化水素濃度を検知する塩化水素測定装置が設けられ、前記温度調整手段は、当該塩化水素測定装置の測定結果に基づいて第一温度と第二温度との切り替えを行い、前記熱分解ガスの案内経路には、第一の温度で生じた熱分解ガスを脱塩素処理部に案内し、第二の温度で生じた熱分解ガスを油分凝縮処理部に案内する、熱分解ガス切替手段が設けられている廃プラスチック処理装置を提供する。
【0022】
かかる廃プラスチック処理装置において、加熱分解部は、少なくとも第一温度および第一温度よりも高温の第二温度で加熱することができるように構成される。具体的には、例えばバーナーなどの加熱手段の出力を自由に調整できるように構成することができる。また加熱時間を調整することも考えられる。炭化水素油中への塩化化合物などの塩素成分の混入を極力減じる為には、第一温度を概ね350℃未満に調整し、第二温度を約350℃以上、望ましくは約400℃〜500℃に調整することが望ましい。これら第一温度および第二温度は、熱分解釜内の温度について定める他、排出口における温度として設定することができる。
【0023】
上記熱分解ガス切替手段は、加熱分解部から脱塩素処理部に至る経路および、加熱分解部から油分凝縮処理部に至る経路の少なくとも何れかに設置したバルブとして構成する他、切替弁として構成することができる。更に前記加熱分解部から排出される熱分解ガスの排出口近傍には、前記熱分解ガス切替手段の開閉を制御するための温度を検出する温度検出手段を設けることができる。
【0024】
また上記脱塩素処理部は、加熱分解部から排出された熱分解ガスを燃焼させる燃焼炉と、燃焼炉から排出された排気ガスを冷却する冷却装置と、冷却装置を通過した排気ガスを中和させる吸収装置とを含んで構成することができる。
【0025】
燃焼炉は、第一温度で発生した熱分解ガスを燃焼させ、有機成分を除去するためのものであり、冷却装置は、ダイオキシン類の発生を抑えると共に、次の吸収装置において塩化水素の吸収処理を行うために、燃焼炉から排出された排気ガスを冷却するための装置である。吸収装置では、排気ガス中に含まれる塩化水素を水に溶解させて、これをアルカリと接触させることにより中和し、排水できるように調整している。特に吸収装置では、アルカリを添加して中和させた水を循環させ、これに塩化水素を接触させるように形成していることから、排水量を大幅に削減することができる。なお、必要に応じて、この排水を前記冷却装置における冷却水として使用することもできる。また脱塩処理においては、燃焼炉において加熱分解部から排出された熱分解ガスを燃焼させる事により、当該熱分解ガス中に含まれ得る炭化水素油を除去することができ、この炭化水素油を除去した後の熱分解ガスを中和することで、中和に際して使用するアルカリを添加した水の汚染を無くす事ができる。
【0026】
また前記油分凝縮処理部は、加熱分解部から排出された熱分解ガスを冷却して重質油を回収する第一油凝縮器と、当該重質油回収装置を通過して排出された熱分解ガスを冷却して軽質油を回収する第二油凝縮器と、当該軽質油回収装置を通過した未凝縮ガスを焼却するフレアースタックを備え、さらに第二油凝縮器で回収した軽質油を前記加熱分解部に導く燃料供給ラインを備えるものとして構成することができる。第一油凝縮器と第二油凝縮器とは、熱分解ガスの冷却温度が相違しており、第一油凝縮器が重質油を回収する場合には、当該第一油凝縮器は、約350℃以上、望ましくは約400℃〜500℃での加熱分解時に発生する熱分解ガスを約150℃程度まで冷却する。これにより当該温度で液状となる重質油を回収することができる。一方、第二油凝縮器が軽質油を回収する場合には、当該第二油凝縮器は、第一油凝縮器で約150℃程度まで冷却された熱分解ガスを約40℃以下まで冷却する。これにより当該温度で液状となる軽質油を回収することができる。当然に塩素以外の成分を回収する場合には、上記第一温度や第二温度を適宜調整することも可能である。
【0027】
上記第一および第二油凝縮器は、内部を冷却水が循環している熱交換チューブ(チューブ式熱交換機)と、それぞれの油凝縮器で生成した炭化水素油を熱分解ガス中に噴霧する噴霧装置(シェル式熱交換機)とを具備するものとして構成することが望ましい。チューブ式熱交換機とシェル式熱交換機とを使用することにより、炭化水素油(重質油および軽質油)の生成効率(すなわち凝縮効率)を大幅に向上することができると共に、装置の小型化を図ることができる。
また、前記塩化水素測定装置は、熱分解ガスを処理する脱塩素処理部に熱分解ガスを案内する案内経路、または脱塩素処理部内における熱分解ガスの案内経路に設けることができる。特に、この塩化水素測定装置の検知部分は、脱塩素処理部内における熱分解ガスの案内経路であって、熱分解ガスを燃焼させた後の案内経路に設置することが望ましく、更に望ましくは、燃焼させた熱分解ガスを冷却した後の案内経路に設置することが望ましい。熱分解ガスには、少なからず炭化水素油成分が含まれていることから、塩化水素測定装置の検知部分に当該炭化水素油成分が凝縮し、当該塩化水素測定装置の検知精度が低下するのを阻止するためである。
【0028】
また本発明における廃プラスチック処理装置において、第一油凝縮器には、当該凝縮器内で回収した油分の温度を一定に保つ調温装置を設けることが望ましい。第一油凝縮器で回収できる油分中への他の低沸点成分の混入を避けて、その品質を一定なものとするためである。
【0029】
また本発明では、上記課題の少なくとも何れかを解決するための廃プラスチック処理方法を提供する。
すなわち、塩化ビニルその他の含塩素プラスチックが混入する可能性のある廃プラスチック資源から再生油を回収する廃プラスチック処理方法であって、廃プラスチック資源を第一の温度で加熱分解し、当該第一の温度における加熱分解で発生した熱分解ガスを焼却し、焼却後に発生した排気ガスを冷却してから、その中に含まれる塩化水素成分を中和乃至は吸着処理する脱塩処理工程と、加熱分解で発生した熱分解ガス中の塩化水素または塩素化合物の濃度を測定し、当該熱分解ガス中の塩化水素または塩素化合物の濃度が基準値以下になった後に、廃プラスチック資源を第一の温度よりも高い第二の温度で加熱分解し、加熱分解によって生じた熱分解ガスを1段階または2段階以上で冷却して再生油を回収し、再生油を回収した後の熱分解ガスを焼却する廃プラスチック処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0030】
上記本発明にかかる廃プラスチック処理装置および処理方法によれば、以下の効果が得られる。
すなわち、塩化水素が混入する可能性のある熱分解ガスを除去するために、最初に300℃近辺で加熱分解を行い、当該温度で発生した熱分解ガスを油分凝縮処理部に送ることなく、脱塩素処理部に送って脱塩処理を行う。そして熱分解ガス中の塩化水素または塩素化合物の濃度を塩化水素測定装置で監視し、塩化水素または塩素化合物濃度が基準値以下になった後に、熱分解ガスを、炭化水素油を回収するための油分凝縮処理部に供給する。これにより、当該油分凝縮処理部には、脱塩処理後の熱分解ガス、すなわち塩化水素の混入量を大幅に低減した熱分解ガスが送られることから、炭化水素油中に混入し得る塩素化合物はごく微量なものとなる。熱分解ガスを油分凝縮処理部に送るか、脱塩素処理部に送るかは、塩化水素測定装置で監視する他、更に加熱分解部(または熱分解ガス)における温度を管理することによっても行う事ができる。そして、脱塩処理か炭化水素油の回収かは、バルブや切替弁などで構成された熱分解ガス切替手段を操作するだけであるから、装置の複雑化をなくして簡易な構成の廃プラスチック処理装置が実現する。
【0031】
そしてこの廃プラスチック処理装置および処理方法で回収された炭化水素油中への塩素化合物の混入量はごく微量であることから、分解生成物である炭化水素油を燃料として使用しても、機器の腐食や、有害ガスの発生を抑える事ができる。
【0032】
よって、本発明によれば、簡易な構成でありながらも、回収油中への塩素化合物の混入を大幅に抑えることができる廃プラスチック処理装置および処理方法が実現する。
【0033】
更に、本発明にかかる廃プラスチック処理装置および処理方法では、塩素を除去する低温での加熱分解によって発生した熱分解ガスを、脱塩素処理部で焼却した上で中和させていることから、廃プラスチックの熱分解ガス中に含まれる塩化水素を迅速且つ的確に回収することができる。これにより、廃プラスチックの熱分解ガスから生成される塩酸を無害化して回収することのできる廃プラスチック処理装置および処理方法が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態にかかる廃プラスチック処理装置の全体構成を示す略図であり、図2は第一および第二油凝縮器の構成を示す略図であり、(A)は全体構成を示す略図、(B)は冷却部分を示す略図である。
【0035】
この実施の形態にかかる廃プラスチック処理装置は、大きく分けて脱塩処理系と、廃プラスチックオイル生成系の2つの系統で構成されている。図1中鎖線で囲んでいる脱塩処理系は、本発明における脱塩素処理部で構成されており、図1中一点鎖線で囲んでいる廃プラスチックオイル生成系は油分凝縮処理部で構成されている。特にこの実施の形態では、廃プラスチックオイル生成系を2つの系統(系統Aおよび系統B)からなる2バッチ方式が採用されている。このような2バッチ方式を採用することにより、処理効率の向上を図ることができる。
【0036】
脱塩処理系(脱塩素処理部)は、加熱分解部としての熱分解釜10A,10Bから排出された熱分解ガス(塩化水素や塩素化合物などを含むことから、以下では「不適ガス」とする)を燃焼させる燃焼炉50と、燃焼炉50から排出された排気ガスを冷却する冷却装置としての冷却塔60と、冷却装置を通過した排気ガスを中和させる吸収装置としての吸収塔70で構成されている。
【0037】
廃プラスチックオイル生成系(油分凝縮処理部)は、加熱分解部としての熱分解釜10A,10Bから排出された熱分解ガスを冷却して重質油を回収する、第一油凝縮器としての重質油凝縮器20A,20Bと、重質油凝縮器20A,20Bを通過した熱分解ガス(軽質油を含むことから、以下では「軽質油ガス」とする)を冷却して軽質油を回収する、第二油凝縮器としての軽質油凝縮器30A,30Bと、当該軽質油回収装置を通過した未凝縮ガス(以下「オフガス」とする)を焼却するフレアースタック40を備えている。熱分解釜10A,10B、重質油凝縮器20A,20B、軽質油凝縮器30A,30Bは、A系統及びB系統の各系統ごとに1基づつ設けられており、フレアースタック40は各系統で生じたオフガスを集めて燃焼させるものとして1基設けられている。また各系統における重質油凝縮器20A,20Bで回収した重質油を重質油タンク21に集めるためのパイプラインや重質油移送ポンプ、および各系統における軽質油凝縮器30A,30Bで回収した軽質油を軽質油タンク90に集めるためのパイプラインや軽質油移送ポンプを備えている。
【0038】
次に、この実施の形態にかかる廃プラスチック処理装置の全体の流れを説明する。まず、それぞれの熱分解釜10A,10Bに投入した廃プラスチック原料を、第一の温度である約300℃(少なくとも350℃未満)で加熱分解する。本実施の形態では、この加熱手段としてバーナーを使用している。約300℃(少なくとも350℃未満)の加熱分解で発生した熱分解ガス(不適ガス)は、各熱分解釜10A,10Bから排出されることになるが、案内経路に設けられた脱塩弁11A,11Bを開放し、且つ油化弁12A,12Bを閉じる事で脱塩処理系(脱塩素処理部)に導く。この脱塩処理系(脱塩素処理部)に案内された不適ガスは、燃焼炉50内において概ね800℃以上で焼却される。燃焼炉50内には、当該不適ガスの燃焼を果たすために送風機によって二次空気が供給される。
【0039】
燃焼炉50から排出される排気ガスは、その後、冷却塔60において冷却される。これは次の吸収塔70において、当該排気ガス中に含まれる塩化水素や塩素化合物が処理されることになるが、その前に高温(約800℃以上)の排気ガスを、処理に適した200℃以下、望ましくは150℃近傍まで冷却する必要がある為である。冷却塔60における冷却は、冷却塔60内に案内される排気ガス中に、水をスプレー状に噴霧する水噴霧などによって行うことができる。不適ガスを800℃以上で焼却し、これを200℃以下に冷却することによりダイオキシン類の発生を抑えることができる。
【0040】
そして燃焼炉50内で燃焼された不適ガスについては、上述の冷却前または後の段階で、塩化水素または塩素化合物の含有量が監視される。この塩化水素または塩素化合物の含有量の監視に際しては、塩化水素測定装置が使用されており、本実施の形態では、塩化水素測定装置として排ガス中塩化水素測定装置(東亜ディーケーケー株式会社社製の型名:GNC−224−1など)を使用することができる。特に本実施の形態では、この排ガス中塩化水素測定装置で検知する不適ガスとして、冷却塔60で冷却した排気ガスを吸収塔70内に導く誘引通風機の前または後のガスを利用している。
【0041】
上記冷却塔60で約200℃以下まで冷却された排気ガスは、誘引通風機によって吸収塔70内に導かれる。吸収塔70内に案内された排気ガス中の塩化水素などは、充填材71を通る間にその上から噴霧された水(アルカリ性に調整された水など)に吸収される。噴霧された水は塩化水素等との接触によりPHは酸性側に移動することから、これにアルカリを添加する。すなわち、排気ガス中の塩素成分はアルカリ性に調整された水との接触により中和される。このようなアルカリの接触に際して、排気ガスは噴霧した水などによりさらに冷却され、最終的に60℃付近まで冷やされる。特にこの実施の形態では、中和させた水(又はアルカリ性を呈する水)を環流して排気ガスに噴霧するための水として使用することにより、最終的な排水量を大幅に削減するか、更には工業排水を放出しない廃プラスチック処理装置となっている。
【0042】
以上が、塩化水素測定装置として使用されている排ガス中塩化水素測定装置で測定した、不適ガス(熱分解ガス)における塩化水素または塩素化合物の濃度が所定の値を上回る場合の熱分解ガスの処理、すなわち脱塩処理である。加熱分解部分または熱分解ガスの温度で言えば、約300℃近辺(少なくとも350℃未満)での加熱分解で発生する熱分解ガスの処理、すなわち脱塩処理である。そして熱分解釜10A,10B内の温度(または発生する熱分解ガスの温度)が約350℃未満で、塩化水素測定装置の測定結果において熱分解ガス中に塩化水素等の混入がなくなるか、任意に設定した所定の基準値以下になったら、今度は脱塩弁11A,11Bを閉じて、油化弁12A,12Bを開放し、当該熱分解ガスを廃プラスチックオイル生成系(油分凝縮処理部)に導く。そして熱分解釜10A,10Bを、第二の温度である350℃以上、望ましくは約400℃〜500℃まで加熱する。
【0043】
約350℃以上の加熱分解で発生した熱分解ガスは、最初に重質油凝縮器20A,20Bに案内される。この重質油凝縮器20A,20Bでは、約350℃以上の加熱分解で発生した熱分解ガスを約150℃まで冷却することにより、熱分解ガス中の重質油分ガスが凝縮されて、回収される。この重質油成分は2つの系統(A系統およびB系統)で生じることになるが、これらは重質油送液ポンプによって重質油タンク21に送られる。重質油タンク21に貯蔵された重質油は、その後製品として出荷することができる。これは、回収した重質油内に、塩素成分の混入量が極めて少ない為に可能となっている。
【0044】
重質油凝縮器20A,20Bから排出された熱分解ガス(軽質油ガス)は、その後、軽質油凝縮器30A,30Bに導かれる。軽質油凝縮器30A,30Bでは、重質油凝縮器20A,20Bから排出された約150℃の軽質油ガスを約40℃以下まで冷却されることにより、軽質油ガス中から軽質油分ガスが凝縮され、回収される。この軽質油成分も2つの系統(A系統およびB系統)で生じることになるが、これらは軽質油送液ポンプによって軽質油タンク90に集められる。この軽質油タンク90内には窒素ガスを充填し、事故の発生を阻止している。また軽質油タンク90内に集められた軽質油は、熱分解釜10A,10Bを加熱するバーナーの燃料として使用している。特に、この軽質油中には、塩素化合物などの塩素成分の混入量が極めて少ないことから、機器の腐食を抑制することができる。この点、約350℃未満での加熱分解で発生した熱分解ガス中には、塩化水素や塩素化合物が混入していることから、これは燃料として使用せず、前記のように焼却処分している。
【0045】
以上の処理により、塩化ビニルその他の含塩素プラスチックが混入する可能性のある廃プラスチック資源から塩素を除去すると共に、塩素成分の混入量を極めて少なくした炭化水素油を回収することができる。
【0046】
次に、図2を参照しながら、本実施の形態において使用している重質油凝縮器20A,20Bおよび軽質油凝縮器30A,30Bについて説明する。
【0047】
本実施の形態で使用している油凝縮器は、内部に冷却水が供給される熱交換チューブ(チューブ式熱交換機1)と、それぞれの油凝縮器で生成した炭化水素油を熱分解ガス中に噴霧する噴霧装置(シェル式熱交換機2)とを具備するものとして構成されている。チューブ式熱交換機1とシェル式熱交換機2とを使用することにより、炭化水素油(重質油および軽質油)の生成効率(すなわち凝縮効率)を大幅に向上することができると共に、装置の小型化を図ることができるものとなっている。
【0048】
例えば、重質油凝縮器20A,20Bでは、約400℃の熱分解ガスが案内されることになるが、この重質油凝縮器20A,20Bで回収される重質油は、約150℃程度である。そこでこの回収した重質油または、これを更に60℃程度に保って貯蔵した重質油を案内し、これを熱分解ガス(約400℃)に噴霧する。これにより、熱分解ガスは大幅に冷却される。更に、内部を冷却水が循環しているチューブ式熱交換器に接触させることにより、当該熱分解ガスを150℃程度まで、効率的に冷却することができる。このように形成することにより、設備自体を小さく形成することも可能になる。
【0049】
この重質油凝縮器内で、凝縮した重質油が存在する領域内には、当該重質油を一定の温度に保持する調温装置3(すなわち、温度調整装置)が設けられている事が望ましい。このような調温装置3を設けることにより、当該重質油凝縮器で回収する油分の品質を保つことができ、低沸点成分の混入を避けることができる。また、第一凝縮器から放出される軽質油ガス中の成分の品質も一定に保つことができる。かかる調温装置3は、本実施の形態ではヒーターと冷却水が循環するチューブ式熱交換器として具体化している。
【0050】
尚、本発明にかかる廃プラスチック処理装置および処理方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】廃プラスチック処理装置の全体構成を示す略図である。
【図2】第一および第二油凝縮器の構成を示す略図であり(A)は全体構成を示す略図、(B)は冷却部分を示す略図である。
【符号の説明】
【0052】
10 熱分解釜
11 脱塩弁
12 油化弁
20 重質油凝縮器
21 重質油タンク
30 軽質油凝縮器
40 フレアースタック
50 燃焼炉
60 冷却塔
70 吸収塔
90 軽質油タンク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象となる廃プラスチック資源が投入され、且つ投入された廃プラスチック資源を加熱分解する加熱分解部と、当該加熱分解部から排出される熱分解ガスを処理する脱塩素処理部および油分凝縮処理部とを備えており、塩化ビニルその他の含塩素プラスチックが混入する可能性のある廃プラスチック資源を熱分解する廃プラスチック処理装置であって、
前記加熱分解部から排出される熱分解ガスの案内経路には、当該熱分解ガス中の塩化水素または塩素化合物の濃度を検知する塩化水素測定装置と、加熱分解部から排出される熱分解ガスの案内方向を脱塩素処理部または油分凝縮処理部に切り替える、熱分解ガス切替手段が設けられていることを特徴とする、廃プラスチック処理装置。

【請求項2】
処理対象となる廃プラスチック資源が投入され、且つ投入された廃プラスチック資源を加熱分解する加熱分解部と、当該加熱分解部から排出される熱分解ガスを処理する脱塩素処理部および油分凝縮処理部とを備え、塩化ビニルその他の含塩素プラスチックが混入する可能性のある廃プラスチック資源を熱分解する廃プラスチック処理装置であって、
前記加熱分解部は、前記廃プラスチック資源を加熱分解する温度を、第一温度と、当該第一温度よりも高温の第二温度に調整する温度調整手段を具備しており、
前記加熱分解部から排出される熱分解ガスの案内経路には、当該熱分解ガス中の塩化水素または塩素化合物の濃度を検知する塩化水素測定装置が設けられ、
前記温度調整手段は、当該塩化水素測定装置の測定結果に基づいて第一温度と第二温度との切り替えを行い、
前記熱分解ガスの案内経路には、第一の温度で生じた熱分解ガスを脱塩素処理部に案内し、第二の温度で生じた熱分解ガスを油分凝縮処理部に案内する、熱分解ガス切替手段が設けられていることを特徴とする、廃プラスチック処理装置。

【請求項3】
前記熱分解ガス切替手段は、加熱分解部から脱塩素処理部に至る経路および、加熱分解部から油分凝縮処理部に至る経路の少なくとも何れかに設置されたバルブであり、
更に前記加熱分解部から排出される熱分解ガスの排出口近傍には、前記熱分解ガス切替手段の開閉を制御するための温度を検出する温度検出手段が設けられている、請求項2に記載の廃プラスチック処理装置。

【請求項4】
前記塩化水素測定装置は、熱分解ガスを処理する脱塩素処理部に熱分解ガスを案内する案内経路、または脱塩素処理部内における熱分解ガスの案内経路に設けられる請求項1〜3の何れか一項に記載の廃プラスチック処理装置。

【請求項5】
前記脱塩素処理部は、加熱分解部から排出された熱分解ガスを燃焼させる燃焼炉と、燃焼炉から排出された排気ガスを冷却する冷却装置と、冷却装置を通過した排気ガスを中和させる吸収装置とを含んで構成される、請求項1〜4の何れか一項に記載の廃プラスチック処理装置。

【請求項6】
前記油分凝縮処理部は、加熱分解部から排出された熱分解ガスを冷却して重質油を回収する第一油凝縮器と、当該重質油回収装置を通過して排出された熱分解ガスを冷却して軽質油を回収する第二油凝縮器と、当該軽質油回収装置を通過した未凝縮ガスを焼却するフレアースタックを備え、
さらに第二油凝縮器で回収した軽質油を前記加熱分解部に導く燃料供給ラインを備える、請求項1〜5の何れか一項に記載の廃プラスチック処理装置。

【請求項7】
前記第一および第二油凝縮器は、内部に冷却水が供給される熱交換チューブと、それぞれの油凝縮器で生成した再生油を熱分解ガス中に噴霧する噴霧装置とを具備する請求項6に記載の廃プラスチック処理装置。

【請求項8】
前記第一油凝縮器は、当該凝縮器内で回収した油分の温度を一定に保つ調温装置を具備する請求項6又は7に記載の廃プラスチック処理装置。

【請求項9】
塩化ビニルその他の含塩素プラスチックが混入する可能性のある廃プラスチック資源から再生油を回収する廃プラスチック処理方法であって、
廃プラスチック資源を第一の温度で加熱分解し、当該第一の温度における加熱分解で発生した熱分解ガスを焼却し、焼却後に発生した排気ガスを冷却してから、その中に含まれる塩化水素を中和乃至は吸着処理する脱塩処理工程と、
加熱分解で発生した熱分解ガス中の塩化水素または塩素化合物の濃度を測定し、当該熱分解ガス中の塩化水素または塩素化合物の濃度が基準値以下になった後に、廃プラスチック資源を第一の温度よりも高い第二の温度で加熱分解し、加熱分解によって生じた熱分解ガスを1段階または2段階以上で冷却して再生油を回収し、再生油を回収した後の熱分解ガスを焼却することを特徴とする、廃プラスチック処理方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−121091(P2010−121091A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298465(P2008−298465)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(507164777)株式会社最上機工 (2)
【Fターム(参考)】