説明

廃棄物溶融スラグの水砕装置及び水砕方法

【課題】水砕槽の水砕水を清浄に維持し、水砕スラグへの鉛含有粒子や遊離CaO粒子の付着を防止する水砕装置及び方法を提供する。
【解決手段】溶融スラグと溶融メタルを水砕水で水砕スラグと水砕メタルとする水砕槽3と、水砕スラグと水砕メタルの搬出手段3Bと、水砕槽3からオーバーフローした水砕水を受け、水砕水中の浮遊水砕スラグ粒子を沈降させ分離する水砕水スラッジ分離槽8と、水砕水スラッジ分離槽8から水砕スラグ粒子を分離した水砕水を水砕槽に戻す返流経路と、水砕槽3から水砕水を受け、粗粒子を含む水砕水と粗粒子を含まない水砕水とに分離する湿式サイクロン11と、湿式サイクロン11から粗粒子を含む水砕水を受け、粗粒子を分離する粗粒子沈降槽12とを備え、水砕水スラッジ分離槽12は湿式サイクロン11から粗粒子を含まない水砕水を受け、粗粒子沈降槽12からは粗粒子が分離されて粗粒子を含まない水砕水を受ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物の溶融炉等から排出される廃棄物溶融スラグを水砕処理する水砕装置及び水砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ごみ処理施設などにおいては、熱分解ガス化溶融炉設備や、ごみ焼却炉と灰溶融炉との組合せた設備などが用いられ、これらの設備で、廃棄物を熱分解した後の残渣や焼却灰は溶融され、排出された溶融スラグを、これらの設備に接続されている水砕装置で、冷却水と接触させスラグを冷却固化し粒状のスラグを形成している(以下「水砕」という。)。水砕処理後のスラグ(以下「水砕スラグ」という。)は、例えば道路舗装材等の土木資材、コンクリート二次製品などの骨材として利用されている。
【0003】
溶融スラグの水砕装置として例えば、特許文献1に記載の装置があり、溶融スラグを水砕水槽の水砕水中へ自重落下させ、水面位置近傍に設けたノズルから水砕水を噴射して水砕水槽の水面下に形成された水流により高温の上記溶融スラグを急速に冷却し、急速な水分蒸散に伴う水蒸気爆発の危険性を回避しつつ粒状のスラグを形成している。
【0004】
このような水砕水槽で水砕水の処理を行う特許文献1の装置等には、通常、水砕水の循環再利用のための装置が接続されており、これらを含めた図3のような構成の溶融スラグ水砕装置が用いられていることが多い。
【0005】
かかる水砕水の循環再利用を図る従来装置を示す図3において、廃棄物が廃棄物ピット1から溶融炉2へ供給され熱分解され、該溶融炉炉2内で熱分解残渣や不燃物、灰分が溶融され、溶融スラグ、溶融メタルとなる。溶融炉2内から排出される溶融スラグ、溶融メタルは水砕槽3に落下して水砕処理される。水砕槽3に滴下される溶融スラグ、溶融メタルを冷却し水砕処理するために、水砕槽3水面近傍に設けられた水砕水ノズル4より高圧で水砕水を噴出させ、水砕槽3の水面近傍に水面に沿った水流を形成し、高温の溶融スラグ、溶融メタルをこの水流で急速に冷却し、平均粒径数mmの粒状に冷却固化して、水砕スラグ、水砕メタルを形成する。水砕スラグ、水砕メタルPは水砕槽内の水砕水中を沈降し、水砕槽底部に堆積し、搬出手段としての掻き出しコンベア3Bにより水砕槽底部3Aから水砕槽3の外部へ搬送排出される。排出後の水砕スラグと水砕メタルの混合物のうち、水砕メタルは鉄分を主に含んでおり、水砕槽外への排出後に磁力選別機等により選別分離される。また、選別分離後の水砕スラグは所定の粒径範囲を満足するように磨砕機等により磨砕される。選別分離・磨砕後の水砕スラグは土木資材等に利用される。
【0006】
水砕槽3には水砕水オーバーフロー槽5が接続されており、水砕槽3における水砕水の水位を所定水位に保持するようにして、上記水砕槽からオーバーフローして流下する水砕水を該水砕水オーバーフロー槽5で受け入れるようになっている。オーバーフローされたオーバーフロー水砕水には、水砕槽3中で浮遊する小粒の水砕スラグ粒子や軽量の綿状の水砕スラグが含まれている。水砕水オーバーフロー槽5では上記水砕スラグ粒子の一部が沈降し分離され排出される。さらに、この水砕水オーバーフロー槽5からオーバーフローした水砕水は水砕水スクリーン6にて綿状の水砕スラグが除去された後、水砕水スラッジ分離槽8へ送られる。
【0007】
水砕水スラッジ分離槽8は、水砕水が水砕水スラッジ分離槽8を通過して流れる間に、粒径の下限が数μm程度までの水砕スラグ粒子が沈降する水砕水の線速度となるように、該水砕水スラッジ分離槽8の容量、流入口、流出口が設計されている。このように水砕水の線速度を設定することにより、水砕水が水砕水スラッジ分離槽8を流れる間に、粒径が数μm程度の微粒子も含めて水砕スラグ粒子を沈降させ分離した後、清浄な水砕水が水砕水槽9へ送水され、該水砕水槽9を経て水砕槽3の水砕水ノズル4から噴出され、溶融スラグ、溶融メタルを水砕する。このようにして、水砕槽3の水砕水の水質が清浄に維持され循環再利用される。
【0008】
水砕水スラッジ分離槽8で沈降し底部に堆積した水砕スラグ粒子は、スラッジとして水中ポンプなどにより水砕水スラッジ分離槽8から排出され、廃棄物ピット1へ送られ廃棄物とともに溶融炉2に装入され溶融された後に、再び水砕・選別分離・磨砕されて土木資材等として利用されるのに適した平均粒径数mm程度の粒状の水砕スラグとされる。水砕水オーバーフロー槽5で沈降し排出された水砕スラグ粒子や、水砕水スクリーン6で除去された綿状の水砕スラグも、同様に廃棄物ピット1へ送られ、平均粒径数mm程度の粒状の水砕スラグとされる処理が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−226939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
<水砕槽中の水砕水の水質維持の問題>
しかしながら、図3に示す従来の溶融スラグ水砕装置の水砕水スラッジ分離槽8では、その底部に堆積した水砕スラグ粒子の全てを排出することは難しく、一部が残留して底部に堆積する量が次第に増大する。すると、水砕水スラッジ分離槽8の有効な深さ、すなわち容量が少なくなるので、水砕水の線速度が増大し、水砕スラグ粒子を十分に沈降させ分離することが次第に困難になる。その結果、水砕水スラッジ分離槽8から水砕水ノズル4に送入される水砕水に水砕スラグ粒子が残留含有されることになり、水砕槽3の水砕水中の浮遊している水砕スラグ粒子がさらに増加する。そのため、水砕槽の水砕水の水質を清浄に維持することができず、溶融スラグを安定して水砕することができなくなり、水砕スラグの品質が低下するという問題が生じる。
【0011】
また、従来技術として図3に示される溶融スラグ水砕装置では、コンベアで水砕槽から排出される水砕スラグに鉛含有粒子や遊離CaO粒子が付着してしまうという問題が生じる。以下、これらの問題について、それぞれ説明する。
【0012】
<鉛の問題>
廃棄物およびその焼却灰や飛灰には、有害物質、特に重金属類が含まれており、廃棄物や灰を溶融して得られる水砕スラグを土木資材等として利用する際には、水砕スラグから溶出される重金属類の量が基準値以下としなくてはならない旨、規定されている。なお、廃棄物や灰に含まれている重金属類のうち、特に鉛の含有量が多いため、処理の対象になっている重金属類は主として鉛である。
【0013】
溶融炉内での1400℃以上の還元雰囲気下で廃棄物や灰の溶融処理を行うことにより、廃棄物や灰に含まれる鉛のほとんどは炉内で揮発する。よって、溶融炉底から排出される溶融スラグにはほとんど鉛が含まれない。ところが、廃棄物や灰に含まれる鉛のうち、ごくわずかの鉛は揮発せず、また、溶融スラグ内にも含まれず、炉底から排出されるものがある。還元雰囲気下の溶融炉内で金属酸化物から金属に還元した鉛、あるいは鉛と鉄との反応物が、炉底から水砕槽に滴下供給されると、水砕水中で金属鉛、あるいは鉛と鉄の合金が10μm〜600μm程度の粒子(鉛含有粒子という)となり、水砕槽の水砕水中に浮遊することとなる。
【0014】
図3に示す溶融スラグ水砕装置における水砕槽からのオーバーフロー水砕水を水砕水スラッジ分離槽で水砕スラグ粒子を分離する水砕水の処理では、当初水砕槽の水砕水中に浮遊していた鉛含有粒子は、その比重が大きいことからオーバーフロー水砕水に含まれることがないため、水砕槽内に留まり、その結果、水砕槽の水砕水中の鉛含有粒子は次第に増加する。そのため、鉛含有粒子が水砕槽3からコンベアにより排出される水砕スラグに付着してしまい、水砕スラグに鉛含有粒子が混入することとなる。金属鉛は水への溶出性が高いため、これが水砕スラグに付着していると、水砕スラグを土木資材等として利用する際に、満足させなければならない重金属類の溶出基準値を超過して、利用できなくなるという問題が生じる。
【0015】
<遊離CaOの問題>
家庭ごみや海産物工場から排出される廃棄物のなかに廃貝殻が多量に含まれることがある。貝殻の主成分は炭酸カルシウム(CaCO)であり、高温の溶融炉内でCaCOは脱炭酸されて酸化カルシウムCaOが生成する。溶融スラグとCaOとの反応速度は高くなく、未反応のCaO粒子が溶融炉から水砕槽へ滴下供給されると、当初遊離CaO粒子として水砕水中に浮遊することとなる。
【0016】
図3に示す溶融スラグ水砕装置における水砕槽からのオーバーフロー水砕水を水砕水スラッジ分離槽で水砕スラグ粒子を分離する水砕水の処理では、当初水砕槽の水砕水中に浮遊していた遊離CaO粒子は、オーバーフロー水砕水に含まれることがないため、その結果、水砕槽内に留まり、水砕槽の水砕水中の遊離CaO粒子は次第に増加する。そのため、遊離CaO粒子が水砕槽3から排出される水砕スラグに付着してしまい、水砕スラグに遊離CaO粒子が混入することとなる。水砕スラグをコンクリート二次製品の骨材として利用する際に、混入している遊離CaO粒子がセメント中の水と反応してCa(OH)となる際に膨張し、ポップアウトと呼ばれるコンクリート二次製品の表面が一部脱落する欠陥が生じてしまい、コンクリート二次製品が規格を満たさなくなるという問題が生じる。
【0017】
本発明は、このような事情に鑑みて、廃棄物溶融スラグを水砕して水砕スラグを生成する際に、水砕槽の水砕水の水質を清浄に維持することができ、水砕槽から排出される水砕スラグへの鉛含有粒子や遊離CaO粒子の付着を防止することができる廃棄物溶融スラグの水砕装置及び水砕方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明では、上述の課題は、廃棄物溶融スラグの水砕装置及び水砕方法に関し、次のように構成される手段により解決される。
【0019】
<廃棄物の溶融スラグの水砕装置>
溶融炉から排出される溶融スラグと溶融メタルを水砕水により冷却固化して水砕スラグと水砕メタルを生成する水砕槽と、生成後、水砕槽の水砕水中を降下する水砕スラグと水砕メタルを水砕槽外へ搬出する搬出手段と、水砕槽からオーバーフローさせた水砕水を受け入れ、該水砕水中に浮遊する水砕スラグ粒子を沈降させスラッジとして水砕水から分離する水砕水スラッジ分離槽と、水砕水スラッジ分離槽から水砕スラグ粒子を分離した水砕水を水砕槽に戻す返流経路とを備える水砕装置において、
水砕槽から抽出された水砕水を受け入れ、粗粒子を含む水砕水と粗粒子を含まない水砕水とに分離する湿式サイクロンと、湿式サイクロンから粗粒子を含む水砕水を受け入れ、該粗粒子を沈降させ水砕水から分離する粗粒子沈降槽とを備えていて、
水砕水スラッジ分離槽は湿式サイクロンから粗粒子を含まない水砕水を受け入れ、粗粒子沈降槽からは粗粒子が分離されて該粗粒子を含まなくなった水砕水を受け入れることとすることを特徴とする廃棄物溶融スラグの水砕装置。
【0020】
本発明において、湿式サイクロンは、粒径範囲が10〜600μmの粗粒子を含む水砕水と該粗粒子を含まない水砕水とに分離可能であることが好ましい。
【0021】
<廃棄物の溶融スラグの水砕方法>
溶融炉から排出される溶融スラグと溶融メタルを水砕槽にて水砕水により冷却固化して水砕スラグと水砕メタルを生成し、生成後、水砕槽の水砕水中を降下する水砕スラグと水砕メタルを搬出手段で水砕槽外へ搬出し、水砕水スラッジ分離槽にて水砕槽からオーバーフローさせた水砕水を受け入れ、該水砕水中に浮遊する水砕スラグ粒子を沈降させスラッジとして水砕水から分離し、水砕水スラッジ分離槽から水砕スラグ粒子を分離した水砕水を水砕槽に戻す水砕方法において、
湿式サイクロンにて、水砕槽から抽出され受け入れた水砕水を、粗粒子を含む水砕水と粗粒子を含まない水砕水とに分離し、粗粒子沈降槽にて湿式サイクロンから受け入れた粗粒子を含む水砕水中の粗粒子を沈降させ該水砕水から分離し、水砕水スラッジ分離槽に湿式サイクロンから粗粒子を含まない水砕水を送水し、粗粒子沈降槽からは粗粒子が沈降分離されて該粗粒子を含まなくなった水砕水を送水することを特徴とする廃棄物溶融スラグの水砕方法。
【0022】
本発明において、湿式サイクロンにて粒径範囲が10〜600μmの粗粒子を含む水砕水と該粗粒子を含まない水砕水とに分離することが好ましい。
【0023】
このように本発明では、湿式サイクロンを備えており、水砕槽で浮遊している水砕スラグ粒子、鉛含有粒子、遊離CaO粒子等の粗粒子を含む水砕水が水砕槽から湿式サイクロンに送られ、粗粒子を含む水砕水と粗粒子を含まない水砕水とに分離される。湿式サイクロンにより分離される粗粒子には、水砕スラグ粒子、鉛含有粒子、遊離CaO粒子が含まれており、これらを効率よく分離して、粗粒子を含まない水砕水が水砕水スラッジ分離槽に送られ、残存する水砕スラグ粒子が沈降分離して清浄化した水砕水が水砕槽へ返送されることにより、水砕槽の水砕水の水質を清浄に維持することができる。さらに、水砕槽の水砕水中から鉛含有粒子、遊離CaO粒子が除去される結果、鉛含有粒子や遊離CaO粒子の水砕スラグへの付着を防止することができるので、水砕スラグを土木資材やコンクリート二次製品等に問題なく利用可能となる。
【0024】
湿式サイクロンにより、粗粒子を含む水砕水から粗粒子が分離されて、粗粒子を含まなくなった水砕水を水砕水スラッジ分離槽に送ることにより、水砕水スラッジ分離槽に流入される水砕水は、粗粒子が除去されている。そのため、水砕水スラッジ分離槽に流入される水砕水に含まれる水砕スラグ粒子の量を、従来装置に比べて格段に少なくできる。その結果、水砕水スラッジ分離槽の底部に排出されずに残存し堆積する水砕スラグ粒子がなくなり、あるいは極めて少なくなり、水砕水スラッジ分離槽での水砕スラグ粒子を沈降させ分離する機能を長期間維持することができ、水砕槽の水砕水の水質を清浄に維持可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、湿式サイクロンを備え水砕槽から抜き出した水砕水から水砕スラグ粒子、鉛含有粒子、遊離CaO粒子を含む粗粒子を除去し、これらの粒子が含まれないか、極めて少ない清浄な水砕水を水砕槽へ返送することにより、水砕槽の水砕水の水質を清浄に維持することができ、さらに、水砕槽の水砕水中から鉛含有粒子、遊離CaO粒子を除去することができ、鉛含有粒子や遊離CaO粒子の水砕スラグへの付着を防止するので、水砕スラグを土木資材やコンクリート二次製品等に問題なく利用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を示す溶融スラグの水砕装置の概要構成図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る溶融スラグの水砕装置の概要構成図である。
【図3】従来技術に係る溶融スラグの水砕装置の概要構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面の図1及び図2にもとづき、本発明の実施形態を説明する。
【0028】
図1に示される本発明の一実施形態装置は、従来装置として図3に示される装置に湿式サイクロン、ポンプ、粗粒子沈降槽を加えた装置構成となっている。そこで、この図1の実施形態装置については、図3の従来装置と共通部分に同一符号を付してその説明を省略し、付加された湿式サイクロン、ポンプ、粗粒子沈降槽、さらにはこれらとの関係での上記共通部分について、説明する。
【0029】
図1の実施形態装置は、水砕槽3内で、コンベア3Bから離れた位置に、ポンプ10が配設されている。該ポンプ10は、水砕槽3外に配されている湿式サイクロン11の流入口11Aに接続されている。該湿式サイクロン11は、遠心力により半径外方に移動しながら降下する比重の大きい水砕水を集めて排出する下部排出口11Bが、下述の粗粒子沈降槽12に接続され、一方、半径中央部で水砕水を排出する上部排出口11Cが、水砕スクリーン6から水砕水スラッジ分離槽8へ向う管路6Aに接続されている。上記粗粒子沈降槽12は、上部に流出口12Aが設けられ上記管路6Aに接続されており、下部には沈降粗粒子の排出口12Bが設けられている。以下、ポンプ10、湿式サイクロン11、粗粒子沈降槽12の機能について、順に説明する。
【0030】
(1)ポンプ10
ポンプ10は、水砕槽3内に設置され、水砕槽3内で浮遊している水砕スラグ粒子、鉛含有粒子、遊離CaO粒子等の粗粒子を含む水砕水を水砕槽3から抜き出し湿式サイクロン11へ送る。なお、このポンプ10は、水砕槽3外に設置することも可能である。
【0031】
(2)湿式サイクロン11
湿式サイクロン11は、水砕槽3から送られてくる、浮遊している水砕スラグ粒子、鉛含有粒子、遊離CaO粒子等の粗粒子を含む水砕水を受け入れ、該湿式サイクロン11の遠心力作用により、粗粒子を含む水砕水と粗粒子を含まない水砕水とに分離する。粗粒子を含む水砕水は、粗粒子を含まない水砕水よりも比重が大きいために遠心力を受けて半径外方に移動しながら降下して、下部排出口11Bから粗粒子沈降槽12へ送られ、粗粒子を含まない水砕水が上部排出口11Cから上記管路6Aに送られる。
【0032】
湿式サイクロン11にて、粗粒子として分離する粒子は、粒径範囲が10〜600μmの粗粒子を対象とすることが好ましい。その理由は、鉛含有粒子はその粒径が10〜600μmの範囲に多く含まれること、遊離CaO粒子はその粒径が100〜600μmの範囲に多く含まれることである。
【0033】
したがって、粒径範囲が10〜600μmの粗粒子を含む水砕水とこの粗粒子を含まない水砕水とに分離する湿式サイクロン11を用いることにより、水砕スラグ粒子、鉛含有粒子、遊離CaO粒子を分離することができる。かくして、上述のように、粗粒子を含む水砕水が粗粒子沈降槽12へ送られ、粗粒子を含まない水砕水が管路6Aに送られて水砕水スラッジ分離槽8へ送られる。
【0034】
(3)粗粒子沈降槽12
粗粒子沈降槽12は、湿式サイクロン11の下部排出口11Bから、粗粒子を含む水砕水を受け入れ、粗粒子を沈降させ水砕水から分離するようになっている。
【0035】
この粗粒子沈降槽12は、粗粒子を含む水砕水が粗粒子沈降槽12を流れる間に、粒径の下限が10μm程度までの粗粒子を沈降させることができる水砕水の線速度とするように、容量、流入口、流出口が設計されている。このように水砕水の線速度を設定することにより、粗粒子を含む水砕水が粗粒子沈降槽12を流れる間に、粒径が10μm程度より大きい粗粒子を沈降させ分離する。
【0036】
粗粒子沈降槽12での水砕水の線速度を10μm程度までの粗粒子を沈降させることができる水砕水の線速度とした理由は、鉛含有粒子の粒径の下限が10μmであるため、鉛含有粒子を確実に沈降させることができるからである。その際、遊離CaO粒子の粒径の下限が100μmであるので、これも確実に沈降させることができる。
【0037】
粗粒子沈降槽12で沈降し底部に堆積した沈降粗粒子は、図示せぬ掻き出しコンベア等により該粗粒子沈降槽12の下部排出口12Bから排出され、廃棄物ピット1へ送られ、廃棄物とともに溶融炉2に装入され溶融され、さらに水砕され土木資材等として利用されるのに適した平均粒径数mm程度の粒状の水砕スラグや水砕メタルとされる。
【0038】
粗粒子沈降槽12で粗粒子が沈降分離されオーバーフローした、粗粒子が分離された水砕水は、上部流出口12Aで該粗粒子沈降槽12から取り出されて、管路6Aに送られて水砕水スラッジ分離槽8へ送られる。粗粒子沈降槽12で分離された沈降粗粒子は水砕スラグ粒子、鉛含有粒子、遊離CaO粒子であり、水砕水スラッジ分離槽8には、これらの粗粒子が分離された水砕水が送られる。この粗粒子が分離された水砕水は、水砕水スラッジ分離槽8で、後述するように残存するスラグ粒子が分離された後、水砕水槽9に送水される。そのため、水砕槽3に戻される水砕水は水砕スラグ粒子、鉛含有粒子、遊離CaO粒子を含まない清浄な水砕水となっている。
【0039】
(4)水砕水スラッジ分離槽8
この水砕水スラッジ分離槽8については、図3に示される従来装置にてすでに説明済みであるが、ここで、本実施形態で設けられた湿式サイクロン11との関係での説明を加えておく。
【0040】
水砕水スラッジ分離槽8には、水砕槽3からのオーバーフロー水砕水、湿式サイクロン11からの粗粒子を含まない水砕水、粗粒子沈降槽12からの粗粒子を分離した水砕水が送入される。これらの水砕水を合わせて「混合水砕水」という。
【0041】
湿式サイクロン11から送入される、粗粒子を含まない水砕水には、粗粒子の除去後でも、微量の微粒子が残存し、粗粒子沈降槽12から送入される粗粒子を分離した水砕水には、10μm未満の微粒子が残存している。これらの微粒子は主に水砕スラグの微粒子である。
【0042】
水砕水スラッジ分離槽8は、混合水砕水が該水砕水スラッジ分離槽8を流れる間に、水砕スラグの微粒子を沈降させることができる混合水砕水の線速度とするように、容量、流入口、流出口が設計されている。このように混合水砕水の線速度を設定することにより、混合水砕水が水砕水スラッジ分離槽8を流れる間に、湿式サイクロンからの水砕水に含まれる微粒子と粗粒子沈降槽からの水砕水に含まれる微粒子も含めて、水砕スラグ粒子を沈降させ分離した後、清浄な水砕水を水砕水槽9に送水する。水砕水槽9から、水砕水を水砕槽3の水砕水ノズル4に送水し、溶融スラグ、溶融メタルの水砕に用いる。このようにして、水砕槽3の水砕水の水質が清浄に維持される。
【0043】
水砕水スラッジ分離槽8で沈降し底部に堆積した水砕スラグ粒子は、図示せぬ水中ポンプなどによりスラッジとして水砕水スラッジ分離槽8から排出され、廃棄物ピット1へ送られ廃棄物とともに溶融炉2に装入され溶融され、さらに水砕され土木資材等として利用されるのに適した平均粒径数mm程度の粒状の水砕スラグとされる。水砕水オーバーフロー槽5で沈降し排出された水砕スラグ粒子や、水砕水スクリーン6で除去された綿状の水砕スラグも、同様に廃棄物ピット1へ送られ、平均粒径数mm程度の粒状の水砕スラグとされる処理が行われる。この水砕水スラッジ分離槽8、そして上記水砕水オーバーフロー槽5、水砕スクリーン6、粗粒子沈降槽12から廃棄物ピット1へ戻される水砕スラグ粒子等は、図1にて※印で示されている。
【0044】
水砕槽3から湿式サイクロン11へ、浮遊している水砕スラグ粒子、鉛含有粒子、遊離CaO粒子を含む水砕水が送られるため、水砕槽3からのオーバーフロー水砕水に含まれる水砕スラグ粒子は、従来装置に比べて極めて少ない量となっている。そのため、水砕水スラッジ分離槽8の底部に排出されずに残存し堆積する水砕スラグ粒子をなくすか、極めて少なくする結果、水砕水スラッジ分離槽での水砕スラグ粒子を沈降させ分離する機能を長期間維持することができ、水砕槽の水砕水の水質を清浄に維持可能となる。
【0045】
次に、図2にもとづき、本発明の他の実施形態について説明する。
【0046】
図1の実施形態では、水砕水スラッジ分離槽8の底部に沈降した水砕スラグ粒子をスラッジとして排出して、これを廃棄物ピットに送ったが、図2の本実施形態は、この水砕水スラッジ分離槽8からの水砕スラグ粒子を水砕槽3に送ることとした点で、図1の実施形態と相違する。図2にてこのスラッジとして水砕水スラッジ分離槽8から水砕槽3へ送られる水砕スラグ粒子には*印を付して示している。
【0047】
本実施形態にて、このように、水砕スラグ粒子を水砕槽3に戻すこととした理由は、混合水砕水に含まれる水砕スラグ微粒子が沈降分離され、水砕水スラッジ分離槽8の底部に堆積する際に、水砕水スラッジ分離槽8内のスラグ堆積層中の水砕水が高いアルカリ性であるため、水砕スラグ微粒子が固化し粗粒子化することを利用するものである。粗粒子化した水砕スラグ粒子を水砕槽3に送り、湿式サイクロン11と粗粒子沈降槽12により水砕水から分離することにより、図1の構成におけるポンプ、湿式サイクロンそして粗粒子沈降槽による効果を確保しつつ、水砕水スラッジ分離槽8からスラッジを廃棄物ピット1へ送る搬送手段を省略することができるという効果がある。
【実施例】
【0048】
実施例として図1に示す本実施形態の水砕装置にて、廃棄物溶融炉から排出される溶融スラグの水砕処理を半年間行った。このとき、廃棄物中には廃貝殻が投入廃棄物量の1〜5%含まれていた。比較例として実施例の操業終了後、図3に示す従来の水砕装置にて、溶融スラグの水砕処理を半年間実施した。
【0049】
操業開始してから1,2,3,6ヵ月後に、水砕スラグの鉛の溶出試験を環境省告示46号に準拠して行い、結果を表1に示す。また、水砕スラグをコンクリート二次製品の骨材として利用した時のポップアウト発生の有無を観察した。
【0050】
【表1】

【0051】
鉛の溶出については水砕スラグを土木資材として利用する際に規制値となる鉛の土壌環境基準値である鉛溶出濃度0.01mg/L未満となるか判定した。実施例では鉛の溶出は全ての期間で検出限界値の0.005mg/l未満であった。また、コンクリート二次製品のポップアウトは全ての期間で発生しなかった。実施例では鉛溶出濃度を土壌環境基準値以下に維持し、ポップアウトを発生させない水砕スラグを得ることができる。
【0052】
比較例では、3ヶ月後に鉛の溶出が検出され、6ヵ月後には土壌環境基準値を超過した。また、コンクリート二次製品のポップアウトは1ヵ月後に発生し、2,3,6ヵ月経過後も同様に発生した。
【0053】
また、実施例において、湿式サイクロンによって分離され、粗粒子沈降槽底部に沈降した粗粒子に含まれる鉛の含有量を分析したところ、200mg/kgの鉛含有量であった。水砕スラグの鉛含有量は30〜50mg/kgであったことを鑑みると、鉛含有粒子を湿式サイクロンと粗粒子沈降槽により効果的に分離除去できることが明らかになった。
【0054】
また、湿式サイクロンによって分離され、粗粒子沈降槽底部に沈降した粗粒子を用いてコンクリート二次製品への骨材利用時のポップアウトを観察する試験を行ったところ、ポップアウトの発生が認められた。このことにより、遊離CaO粒子を湿式サイクロンと粗粒子沈降槽により効果的に分離除去できることが明らかになった。
【0055】
水砕水中の浮遊粒子を湿式サイクロンによって分離し、水砕槽に清浄な水砕水を戻すことにより、鉛溶出濃度を土壌環境基準値以下に維持し、ポップアウトを発生させない水砕スラグが得られることができることを確認した。
【符号の説明】
【0056】
2 廃棄物溶融炉
3 水砕槽
3B 搬出手段(コンベア)
8 水砕水スラッジ分離槽
10 水中ポンプ
11 湿式サイクロン
12 粗粒子沈降槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉から排出される溶融スラグと溶融メタルを水砕水により冷却固化して水砕スラグと水砕メタルを生成する水砕槽と、生成後、水砕槽の水砕水中を降下する水砕スラグと水砕メタルを水砕槽外へ搬出する搬出手段と、水砕槽からオーバーフローさせた水砕水を受け入れ、該水砕水中に浮遊する水砕スラグ粒子を沈降させスラッジとして水砕水から分離する水砕水スラッジ分離槽と、水砕水スラッジ分離槽から水砕スラグ粒子を分離した水砕水を水砕槽に戻す返流経路とを備える水砕装置において、
水砕槽から抽出された水砕水を受け入れ、粗粒子を含む水砕水と粗粒子を含まない水砕水とに分離する湿式サイクロンと、湿式サイクロンから粗粒子を含む水砕水を受け入れ、該粗粒子を沈降させ水砕水から分離する粗粒子沈降槽とを備えていて、
水砕水スラッジ分離槽は湿式サイクロンから粗粒子を含まない水砕水を受け入れ、粗粒子沈降槽からは粗粒子が分離されて該粗粒子を含まなくなった水砕水を受け入れることとすることを特徴とする廃棄物溶融スラグの水砕装置。
【請求項2】
湿式サイクロンは、粒径範囲が10〜600μmの粗粒子を含む水砕水と該粗粒子を含まない水砕水とに分離可能であることとする請求項1に記載の廃棄物溶融スラグの水砕装置。
【請求項3】
溶融炉から排出される溶融スラグと溶融メタルを水砕槽にて水砕水により冷却固化して水砕スラグと水砕メタルを生成し、生成後、水砕槽の水砕水中を降下する水砕スラグと水砕メタルを搬出手段で水砕槽外へ搬出し、水砕水スラッジ分離槽にて水砕槽からオーバーフローさせた水砕水を受け入れ、該水砕水中に浮遊する水砕スラグ粒子を沈降させスラッジとして水砕水から分離し、水砕水スラッジ分離槽から水砕スラグ粒子を分離した水砕水を水砕槽に戻す水砕方法において、
湿式サイクロンにて、水砕槽から抽出され受け入れた水砕水を、粗粒子を含む水砕水と粗粒子を含まない水砕水とに分離し、粗粒子沈降槽にて湿式サイクロンから受け入れた粗粒子を含む水砕水中の粗粒子を沈降させ該水砕水から分離し、水砕水スラッジ分離槽に湿式サイクロンから粗粒子を含まない水砕水を送水し、粗粒子沈降槽からは粗粒子が沈降分離されて該粗粒子を含まなくなった水砕水を送水することを特徴とする廃棄物溶融スラグの水砕方法。
【請求項4】
湿式サイクロンにて粒径範囲が10〜600μmの粗粒子を含む水砕水と該粗粒子を含まない水砕水とに分離することとする請求項3に記載の廃棄物溶融スラグの水砕方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82119(P2012−82119A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231616(P2010−231616)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】