説明

廃棄物熱分解処理システムおよび方法

【課題】PET廃棄物を熱分解・油化することによって得られるベンゼンを利用して、効率良くナノカーボンを生成できる廃棄物熱分解処理システムを提供する。
【解決手段】PET廃棄物を熱分解するキルン11と、キルン11で発生した熱分解ガス及び他の液化ガスを導入する触媒を備えた油化装置12と、油化装置12によって回収された油を貯留する油回収タンク13と、油回収タンク13に貯留された油を精製する蒸留装置14から構成された油化システムと、ナノカーボン生成装置2とを有し、油化システム1により得られたベンゼンをナノカーボン生成装置2に導入して、ナノカーボンを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチック、なかでもポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)の廃棄物処理に適した廃棄物熱分解処理技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題、物質資源問題等が重要視されるに伴い、産業排気物等の各種の廃棄物を適切に処理して、環境汚染物質を排出せずにエネルギーや物質を取り出して有効利用するための各種の技術が開発されるようになっている。
【0003】
そのような廃棄物処理技術の一つとして、特許文献1には、熱分解槽の内部でプラスチックを溶解し、溶融状態のプラスチックを活性炭からなる一次触媒層に液相接触させて熱分解ガスを発生させ、熱分解ガスを熱分解槽の内部上方に連通状態に配した二次触媒塔の二次触媒層に気相接触させて、軽質化した状態の分子量の小さな炭化水素ガスを生成する技術が示されている。
【0004】
また、特許文献2には、廃棄プラスチックを加熱分解し脱塩素化する熱分解炉と、この熱分解炉内に設置され、投入された廃棄プラスチックをモーターの駆動力を得て切り刻む回転カッターと、熱分解炉の炉内圧力を最大0.2気圧以下にする真空ポンプとを備えた廃棄プラスチックの処理装置が示されている。そして、この廃棄プラスチックの処理装置は、熱分解炉の炉壁温度を、塩化ビニルを含む廃棄プラスチックの場合には290〜350℃に設定し、塩化ビニルとポリエチレンテレフタレート(PET)を含む廃棄プラスチックの場合には290〜320℃に設定するように構成されている。
【特許文献1】特開平11−61158号公報
【特許文献2】特開平11−114531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来のプラスチック廃棄物の処理方法は、PET廃棄物を含む廃プラスチックに関するものが多く、PET廃棄物を分別した後、このPET廃棄物を処理して、効率良く物質資源や材料資源として利用する技術は開発されていなかった。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、PET廃棄物を熱分解し、さらに油化することによって得られるベンゼンを利用して、効率良くナノカーボンを生成することができる廃棄物熱分解処理システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような目的を達成するために、PET廃棄物を熱分解装置及び油化装置により処理して、効率良くナノカーボンを生成することができるようにしたものであり、PET(ポリエチレンテレフタレート)廃棄物を熱分解する熱分解装置と、この熱分解装置で生成されたガスを油化する油化装置とを備えた油化システムと、ナノカーボン生成装置又は/及びカーボンブラック生成装置を備え、前記油化システムにより得られるベンゼンを主体とする生成油を、前記ナノカーボン生成装置又は/及びカーボンブラック生成装置に導入して、ナノカーボン又は/及びカーボンブラックを生成することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の廃棄物熱分解処理方法は、上記システムの特徴を、方法の観点から把握したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、PET廃棄物を熱分解し、さらに油化することによって得られるベンゼンを利用して、効率良くナノカーボンを生成することができる廃棄物熱分解処理システムおよび方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を適用した実施の形態(以下、実施形態という)について、図面を参照して具体的に説明する。
【0011】
(1)第1実施形態
(1−1)構成
(1−1−1)システムの全体構成
図1は、本発明を適用した廃棄物熱分解処理システムの一つの実施形態の構成を示すブロック図である。この廃棄物熱分解処理システムは、大別して、PET廃棄物を熱分解して得られる熱分解ガス及び他の液化ガスを触媒に通すことにより、ベンゼンを主体とする油を取り出し、その油を精製する油化システム1と、この油化システム1により得られたベンゼンを用いてナノカーボンを生成するナノカーボン生成装置2から構成されている。
【0012】
また、前記油化システム1は、PET廃棄物を熱分解するキルン(熱分解装置)11と、キルン11で発生した熱分解ガス及び他の液化ガスを導入する触媒を備えた油化装置12と、前記油化装置12によって回収された油を貯留する油回収タンク13と、油回収タンク13に貯留された油を精製する蒸留装置14から構成されている。なお、この蒸留装置14において、分留温度を変えることにより、ベンゼンを他の油分と分離精製することができる。
【0013】
また、前記ナノカーボン生成装置2としては、公知の触媒気相成長法を用いたものが用いられる。そして、このナノカーボン生成装置2に、前記油化システム1により得られたベンゼンが導入されるように構成されている。
【0014】
(1−1−2)ナノカーボン生成装置
ここで、ナノカーボン生成装置2について説明する。なお、本実施形態で用いられるナノカーボン生成装置2は、触媒気相成長法を用いたものであり、例えば、図2に示すように構成されている。
【0015】
すなわち、ナノカーボン生成装置2は、大別して、電気炉20と、キャリアガス供給部30と、ベンゼン容器40とから構成されている。前記電気炉20は、内部に基板21を備えた炉心管22と、炉心管22の周囲に配設された加熱装置23とから構成されている。また、前記キャリアガス供給部30には、アルゴンガスボンベ31と、水素ガスボンベ32が設けられ、ベンゼン蒸気を電気炉20内に導入するためのキャリアガスとして用いられる。そして、これらのキャリアガスにより、ベンゼン蒸気を電気炉20内に導入することにより、基板21上にカーボンナノチューブが得られるように構成されている。
【0016】
(1−2)廃棄物熱分解処理方法
次に、以上のような構成を有する廃棄物熱分解処理システムによる廃棄物熱分解処理方法について説明する。
【0017】
(1−2−1)熱分解処理
まず、キルン11にPET廃棄物が消石灰又は生石灰と共に投入されると、キルン11において、それらの廃棄物は400〜500℃で熱分解される。この結果、キルン11からは、炭化物やその他の金属が残渣として取り出されると共に、熱分解ガス及びその他の液化ガスが生成され、この熱分解ガス及びその他の液化ガスは油化システム1の油化装置12に送られる。また、炭化物以外の残渣、例えば、カルシウムやシリカ、鉄、非鉄金属等は、物質資源や材料資源として回収される。また、熱分解により発生する熱は、熱エネルギーとしてシステム内あるいはシステム外に供給される。
【0018】
(1−2−2)油化処理
油化システム1の油化装置12にキルン11からの熱分解ガス及びその他の液化ガスが導入されると、油化装置12において、熱分解ガス及びその他の液化ガスが触媒と反応し、ベンゼンを主体とする油分が凝縮されて油回収タンク13に回収される。そして、この油回収タンク13に回収された各種油分が、蒸留装置14に送られ、そこでベンゼンとそれ以外の各種油分に分離精製される。
【0019】
(1−2−3)ナノカーボン生成処理
上述したように、蒸留装置14によって分離されたベンゼンは、ナノカーボン生成装置2のベンゼン容器40に貯留される。そして、キャリアガスによって、気化したベンゼン蒸気が電気炉20内に導入されると、炉内に設置された基板21上にカーボンナノチューブが形成される。
【0020】
(1−3)効果
以上のように本実施形態によれば、PET廃棄物を熱分解装置で熱分解することにより生成された熱分解ガス及びその他の液化ガスを油化装置により油化して、ベンゼンを回収することにより、このベンゼンを効率良くナノカーボン生成装置の原料として用いることができる。
【0021】
(2)第2実施形態
本実施形態は、上記第1実施形態の変形例であって、油化システム1の構成を図3に示すような構成としたものである。
【0022】
すなわち、熱分解装置51には、所定の大きさに破砕されたPET廃棄物を投入する破砕物ホッパー52が接続され、破砕されたPET廃棄物が消石灰又は生石灰と共に熱分解装置51に導入されるように構成されている。また、熱分解装置51で熱分解された熱分解ガス及び液化ガスは、後述するジェットスクラバ56に送られ、また、炭化物以外の残渣、例えば、カルシウムやシリカ、鉄、非鉄金属等は、残渣冷却コンベア53、残渣貯留ホッパー54及び残渣コンテナ55を介して、物質資源や材料資源として回収される。また、熱分解により発生する熱は、熱エネルギーとしてシステム内あるいはシステム外に供給される。
【0023】
また、熱分解装置51で発生した熱分解ガス及び液化ガスは、これらのガスを高速で冷却凝縮させる機能を備えたジェットスクラバ56に送られ、さらにジェットスクラバ56において凝縮した油凝縮成分をバッファタンク57に一時的に貯留することにより、不純物を堆積させて除去するように構成されている。
【0024】
また、本実施形態においては、バッファタンク57の下流側に設けられた分解油冷却器58から、分解油の一部を前記ジェットスクラバ56に戻して、ノズル(図示せず)から吹きかけるように構成されている。このように構成することにより、分解油の一部をジェットスクラバ56の駆動源として利用することができるので、PET廃棄物をより有効に利用することができる。
【0025】
(3)第3実施形態
本実施形態は、熱分解装置の熱分解炉を2段構成とし、第2段反応炉からベンゼンが主体のガスを取り出すように構成したものである。
【0026】
すなわち、本実施形態においては、図4に示すように、熱分解装置として、触媒成分を含む成型ボール(ミルボール)を炉の内部に保持した第1段反応炉(請求項の1段目熱分解装置に相当)61と、この第1段反応炉61の後段に、これと同様の構成を有する第2段反応炉(請求項の2段目熱分解装置に相当)62が配設されている。
【0027】
また、PET廃棄物が導入される第1段反応炉61は400〜500℃に加熱され、この第1段反応炉61により得られた熱分解残渣を、500〜700℃に加熱された第2段反応炉62に導入し、ここでさらに熱分解するように構成されている。そして、第2段反応炉62によって回収されたベンゼンを主体とするガスを冷却することにより、ベンゼンを主体とする油を回収し、このベンゼンを主体とする油をナノカーボン生成装置又はカーボンブラック生成装置などのカーボン生成装置63に導入するように構成されている。
【0028】
また、第2段反応炉62より排出された固定炭素及び灰を燃焼炉64で燃焼することにより、生石灰を主とする灰が得られ、この生石灰から消石灰を再生するように構成されている。また、燃焼炉64で得られる熱は、熱源として利用することができる。
【0029】
なお、第1段反応炉61内の触媒を兼ねたミルボール65は、内部に導入されたPET廃棄物を細かく砕くのに有効であり、第2段反応炉62内の触媒を兼ねたミルボール66は、炉内に粘度の大きな液化ガスが導入された場合であっても、撹拌を容易にするのに有効である。
【0030】
このように構成された本実施形態においては、第1段反応炉61で得られた熱分解残渣を第2段反応炉62に導入し、ここでさらに熱分解して得られるベンゼンを主体とするガスを冷却することにより、容易にベンゼンを主体とする生成油を回収することが可能となる。
【0031】
(4)第4実施形態
本実施形態においては、図5に示すように、熱分解装置として、触媒成分を含む成型ボール(ミルボール)を炉の内部に保持して、この炉全体を回転させる方式のキルン71が用いられ、このキルン71より得られた熱分解ガスあるいは液化ガスを、直接、カーボン生成装置72に導入するように構成されている。
【0032】
なお、PET廃棄物が導入されるキルン71は400〜500℃に加熱され、キルン71により得られる熱分解ガスあるいは液化ガスは、ベンゼンを主体とするガスあるいは液体となっている。また、キルン71内の触媒を兼ねたミルボール73は、内部に導入されたPET廃棄物を細かく砕くのに有効である。
【0033】
このように構成された本実施形態においては、回転式のキルン71で得られたベンゼンを主体とする熱分解ガスあるいは液化ガスを、直接、カーボン生成装置72に導入することにより、容易に高付加価値カーボンを回収することが可能となる。
【0034】
(5)第5実施形態
本実施形態においては、図6に示すように、熱分解装置として、触媒成分を含む成型ボール(ミルボール)を炉の内部に保持して、この炉全体を回転させる方式のキルン81が用いられ、このキルン81より得られた熱分解残渣を、ベンゼン分解装置83に導入するように構成されている。そして、ベンゼン分解装置83において得られたベンゼンが主体のガスをカーボン生成装置82に導入するように構成されている。
【0035】
このように構成された本実施形態においては、回転式のキルン81で得られた熱分解残渣をベンゼン分解装置83に導入して加熱することにより、容易にベンゼンを主体とするガスを得ることができるので、このベンゼンを主体とするガスをカーボン生成装置82に導入することにより、容易に高付加価値カーボンを回収することが可能となる。
【0036】
(6)他の実施形態
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で他にも多種多様な変形例が実施可能である。例えば、図1に示した第1実施形態では、蒸留装置によって得られたベンゼンのみをナノカーボン生成装置に導入したが、ベンゼンをはじめとする各種油分をカーボンブラック生成装置に導入するように構成しても良い。
【0037】
また、本発明は、PET廃棄物に限らず、バイオマス、廃プラスチック等にも適用することができる。また、熱分解装置としては、触媒成分を含む成型ボールを内部に保持して、炉全体を回転させるような方式の熱分解装置を用いることもできる。また、熱分解装置、油化装置、ナノカーボン生成装置、カーボンブラック生成装置等の具体的な構成は自由に選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る廃棄物熱分解処理システムの第1実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】ナノカーボン生成装置の概略構成を示す図。
【図3】本発明に係る廃棄物熱分解処理システムの第2実施形態の構成を示すブロック図。
【図4】本発明に係る廃棄物熱分解処理システムの第3実施形態の構成を示すブロック図。
【図5】本発明に係る廃棄物熱分解処理システムの第4実施形態の構成を示すブロック図。
【図6】本発明に係る廃棄物熱分解処理システムの第4実施形態の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0039】
1…油化システム
11…キルン(熱分解装置)
12…油化装置
13…油回収タンク
14…蒸留装置
2…ナノカーボン生成装置
20…電気炉
21…基板
22…炉心管
23…加熱装置
30…キャリアガス供給部
31…アルゴンガスボンベ
32…水素ガスボンベ
40…ベンゼン容器
51…熱分解装置
56…ジェットスクラバ
57…バッファタンク
58…分解油冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PET(ポリエチレンテレフタレート)廃棄物を熱分解する熱分解装置と、この熱分解装置で生成されたガスを油化する油化装置とを備えた油化システムと、
ナノカーボン生成装置又は/及びカーボンブラック生成装置を備え、
前記油化システムにより得られるベンゼンを主体とする生成油を、前記ナノカーボン生成装置又は/及びカーボンブラック生成装置に導入して、ナノカーボン又は/及びカーボンブラックを生成することを特徴とする廃棄物熱分解処理システム。
【請求項2】
前記熱分解装置に、消石灰又は生石灰を添加することを特徴とする請求項1に記載の廃棄物熱分解処理システム。
【請求項3】
前記熱分解装置によって得られた熱分解残渣をさらに熱分解することにより、ベンゼンを主体とする生成油を回収することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の廃棄物熱分解処理システム。
【請求項4】
前記熱分解装置が、その熱分解炉内に触媒成分を含む成型ボールを保持し、該炉が回転するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の廃棄物熱分解処理システム。
【請求項5】
前記油化システムが、
前記熱分解装置と、この熱分解装置に接続され、該熱分解装置で発生した熱分解ガスを高速で冷却凝縮させる機能を備えたジェットスクラバと、このジェットスクラバに接続され、該ジェットスクラバにおいて凝縮した油凝縮成分を一時的に貯留し、不純物を堆積させて除去するバッファタンクにより構成され、
前記バッファタンクを経た分解油の一部を、前記ジェットスクラバに循環させるように構成したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の廃棄物熱分解処理システム。
【請求項6】
前記ナノカーボン生成装置、あるいはカーボンブラック生成装置として、触媒気相成長法を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の廃棄物熱分解処理システム。
【請求項7】
前記熱分解装置を2段構成とし、
1段目熱分解装置で得られた熱分解残渣を、2段目熱分解装置に導入してさらに熱分解することにより、ベンゼンを主体とする生成油として回収することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一に記載の廃棄物熱分解処理システム。
【請求項8】
前記1段目熱分解装置と2段目熱分解装置の片方あるいは両方から、高付加価値カーボンを回収することを特徴とする請求項7に記載の廃棄物熱分解処理システム。
【請求項9】
PET(ポリエチレンテレフタレート)廃棄物を熱分解する熱分解装置と、この熱分解装置で生成されたガスを油化する油化装置とを備えた油化システムにより得られるベンゼンを主体とする生成油を、ナノカーボン生成装置又は/及びカーボンブラック生成装置に導入して、ナノカーボン又は/及びカーボンブラックを生成することを特徴とする廃棄物熱分解処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−161528(P2007−161528A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360140(P2005−360140)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】