説明

廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置及びPCBを含有する廃油の処理システム

【課題】廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置及びポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有する廃油の処理システムを提供する。
【解決手段】芳香族リン酸エステル12を含む廃油13を保管する保管タンク11と、該保管タンク11からラインL1により送給された芳香族リン酸エステル12を含む廃油13を所定量供給する供給タンク14と、前記供給タンク14からラインL2により送給された廃油13を、内部に充填した金属鉄(Fe)又は金属亜鉛(Zn)と接触させて、極圧反応を進行させる反応手段20と、反応手段20を所定温度に加温する加温部21と、反応油19のリン(P)濃度を分析する分析部22と、反応油19を供給タンク14に戻す循環ラインL3と、分析部22の結果に基づき反応油19中の固形分を除去するフィルタ26と、フィルタ26通過後の芳香族リン酸エステル12が除去処理された処理廃油27を貯蔵する貯蔵タンク28とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置及びポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有する廃油の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、潤滑油には、耐摩耗性向上のため、有機金属系添加剤、リン系化合物などを添加することが知られている。有機金属系添加剤として、摩耗防止と酸化防止に有効なZnDTP(亜鉛−ジチオホスフェート)が多用されている。代表的なリン系化合物として、TCP(トリクレジルホスフェート)などが知られている(特許文献1)。このトリクレジルホスフェートは、金属表面に吸着し、分解してリン酸塩の被膜を形成し、摩耗防止を図っている。
ところで、その使用の後は、廃油としてドラム缶などで保管されている。
【0003】
このトリクレジルホスフェートは難燃性であるので、トリクレジルホスフェートが含まれた潤滑油は、燃焼処理することができずに、そのまま長期保管されている場合があるが、芳香族リン酸エステルを効率的に除去することができれば、燃焼処理することができるものの、いまだ効率的な除去法が確立されていない。
【0004】
また、PCB(Polychlorinated biphenyl,ポリ塩化ビフェニル:ビフェニルの塩素化異性体の総称)は、熱媒体に用いて絶縁油として使用されていたものが、厳重に保管されているが、PCB処理設備が各地において稼動されてきており、現在完全無害化への処理が進められている(PCB処理設備として、日本環境安全事業株式会社(JESCO)が設立され、国の監督のもと、全国数ヶ所にPCB廃棄物処理施設を設置し、処理事業が行われている(非特許文献1)。
【0005】
近年では、このような絶縁油などに使用されているPCBを処理する技術が種々提案されている((財)産業廃棄物処理事業振興財団におけるPCB処理技術の評価方法及び評価済み技術について:非特許文献2)。
【0006】
本出願人は、先にPCB処理技術として水熱酸化分解装置を提案し、無害化に向けてPCB処理を行っている(特許文献2又は3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−157681号公報
【特許文献2】特開平9−79531号公報
【特許文献3】特開2003−285041号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】http://www.jesconet.co.jp/business/contents/characteristics/index.html
【非特許文献2】http://www.jesconet.co.jp/business/pcb_technology/pdf/PCB_shori.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前述したような潤滑油と絶縁油とを混合して廃油として保管している場合があると、芳香族リン酸エステルは難燃性や吸湿性を有するので、PCB燃焼処理方法や、金属Naを用いた脱塩素化分解処理方法では、PCB単独では無害化処理することができるものの、水分が含まれる芳香族リン酸エステル処理を含むPCB廃油の処理はできない、という問題がある。
【0010】
また、水熱酸化分解装置においてもPCBの分解処理はできるものの、芳香族リン酸エステルが混入している場合には、水熱処理過程でアパタイト(Ca5(PO43(F,Cl,OH))を生成するので、処理設備の健全性の観点から、前処理として芳香族リン酸エステルの効率的な除去方法の確立が望まれている。
【0011】
本発明は、前記問題に鑑み、水熱酸化分解装置で廃油を分解処理する際に、事前に芳香族リン酸エステルを除去することができる廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置及びポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有する廃油の処理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、芳香族リン酸エステルを含む廃油を所定量供給する供給タンクと、前記供給タンクから送給された廃油を、内部に充填した金属鉄又は金属亜鉛と接触させて、極圧反応を進行させる反応手段と、前記反応手段を所定温度に加温する加温部と、反応油のリン(P)濃度を分析する分析部と、前記反応油を供給タンクに戻す循環ラインと、前記分析部の結果に基づき反応油中の固形分を除去するフィルタとを具備することを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置にある。
【0013】
第2の発明は、芳香族リン酸エステルを含む廃油を所定量供給する供給タンクと、前記供給タンクから供給された廃油に水タンク又はリン酸水溶液タンクからの水又はリン酸水溶液を混合する撹拌手段を備えた混合タンクと、前記水が混合された廃油と金属鉄又は金属亜鉛とを接触させ、極圧反応させて、リン酸を無機化させる反応槽と、前記反応槽を加温する加温部と、乳化液中のリン酸又はリンの割合を分析する分析部と、極圧反応液を混合タンクに戻す循環ラインと、前記分析部の結果に基づき極圧反応液を静置させ、油層と水層とに分離する静置タンクと、前記油層中の固形分を除去するフィルタと、前記フィルタ通過後の芳香族リン酸エステルが除去処理された処理廃油を貯留する貯留タンクと、前記水層のリン酸を除去する廃水処理部とを具備することを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置にある。
【0014】
第3の発明は、第2の発明において、前記水又はリン酸水溶液の添加量が10重量%以下であることを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置にある。
【0015】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、前記加温部の加温温度は80〜100℃であることを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置にある。
【0016】
第5の発明は、第2乃至4のいずれか一つの発明において、前記分析部で分析し、水中のリン酸濃度又は油中の芳香族リン酸エステルの濃度が、所定濃度となった場合に、静置タンクへ切り替える操作を行う判定部を有することを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置にある。
【0017】
第6の発明は、第2乃至5のいずれか一つの発明において、前記廃水処理部が、Ca、Mg、Na、Alのいずれかを少なくとも含む固形吸着剤を充填した無機充填槽を有してなり、リン酸を金属塩で固定化することを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置にある。
【0018】
第7の発明は、第1乃至6のいずれか一つの発明において、前記廃油がポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有することを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置にある。
【0019】
第8の発明は、第7の発明の廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置と、芳香族リン酸エステルが除去された廃油中のポリ塩化ビフェニル(PCB)を分解処理する水熱酸化分解装置とを具備することを特徴とするポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有する廃油の処理システムにある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、廃油中の芳香族リン酸エステルを金属鉄又は金属亜鉛と接触させて、極圧反応を進行させて、リン酸を無機化させることにより効率的に処理することができ、その後の廃油処理が簡易となる。
また、水熱酸化分解装置で廃油中のPCBを分解する際には、予め芳香族リン酸エステルを除去するので、芳香族リン酸エステルのアパタイト化が生じることがないので、絶縁油や潤滑油の水熱分解反応を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施例1に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置の概略図である。
【図2】図2は、実施例2に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置の概略図である。
【図3】図3は、実施例2に係る他の廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置の概略図である。
【図4】図4は、実施例3に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置を備えたポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有する廃油の処理システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0023】
本発明による実施例1に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置について、図面を参照して説明する。図1は、実施例1に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置の概略図である。
図1に示すように、廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置10Aは、芳香族リン酸エステル12を含む廃油13を保管する保管タンク11と、該保管タンク11からラインL1により送給された芳香族リン酸エステル12を含む廃油13を所定量供給する供給タンク14と、前記供給タンク14からラインL2により送給された廃油13を、内部に充填した金属鉄(Fe)と接触させて、極圧反応を進行させる反応手段20と、前記反応手段20を所定温度に加温する加温部21と、反応油19のリン(P)濃度を分析する分析部22と、前記反応油19を供給タンク14に戻す循環ラインL3と、前記分析部22の結果に基づき反応油19中の固形分を除去するフィルタ26と、前記フィルタ26通過後の芳香族リン酸エステル12が除去処理された処理廃油27を貯蔵する貯蔵タンク28とを具備するものである。
なお、図1中、符号V1は切替弁、P1、P3は送給ポンプ、ラインL4は送給ラインを各々図示する。
【0024】
ここで、本実施例では廃油中の芳香族リン酸エステルを極圧反応分解により無機化させる材料として金属鉄(Fe)を例示したが、これ以外には、極圧反応を促進する例えば金属亜鉛(Zn)を用いることもできる。また、これらの金属は好ましくは、例えば直径が1mm以上の金属塊や金属粒や金属片などの接触面積が大きいものとするのが良い。
【0025】
反応手段20には、下記[化1]に示すような極圧反応分解を促進させるために、80〜100℃程度に加温するヒータなどの加温部21が設けられている。
下記[化1]では、芳香族リン酸エステルとして、TCP(トリクレジルホスフェート)を例にし、金属鉄(Fe)を例にしている。
反応式に示すように、極圧反応分解によりTCP(トリクレジルホスフェート)が分解され、PをFePO4・2H2O、Fe2P、FeP2として無機化させている。
【0026】
【化1】

【0027】
下記[化2]では、芳香族リン酸エステルとして、TCP(トリクレジルホスフェート)を例にし、鉄の代わりに亜鉛を例にしている。
反応式に示すように、極圧反応分解によりTCP(トリクレジルホスフェート)が分解され、Pを(Zn3(PO42)、Zn32として無機化させている。
【0028】
【化2】

【0029】
反応手段20により極圧分解処理された廃油13は、油中におけるリン(P)の割合を化学分析する分析部22により、加水分解の状態を監視するようにしている。
加水分解が進行しない間は、循環ラインL3を用いて、供給タンク14へ戻し、再度反応手段20による極圧分解処理を繰り返すようにしている。
【0030】
分析部22における分析結果は、判定部30に送られ、ここでリン(P)の割合が所定の濃度となった場合には、極圧分解が終了したと判断する。そして図示しない制御手段により、切替弁V1を切替え、ラインL4に介装されたフィルタ26へ送給し、ここで油中の固形分(鉄粉など)を除去する。その後、芳香族リン酸エステル12が除去された処理廃油27は貯蔵タンク28で貯蔵される。
ここで、フィルタ26としては、金属フィルタ(例えば鉄系メッシュフィルタなど)を用いることが好適である。これは金属フィルタにて、金属鉄(Fe)にリン(P)を付着除去することにより、油層中に微量に残存する芳香族リン酸エステル12を効率的に除去することができるからである。
【0031】
その後、処理廃油27は、所定の廃油処理装置(燃焼処理、水熱分解処理など)により処理される。
【0032】
反応手段20において極圧反応処理によって無機化された例えばリン酸鉄などは、溶剤を用いて洗浄した後、鉄を有価物として回収処分される。
なお、洗浄用の溶剤としては、例えばイソプロピルアルコール(IPA)、炭化水素系溶剤(例えば「NS100(商品名)」JX日鉱日石エネルギー株式会社)、ヘキサン、1−ブロモプロパンなどを例示することができる。
【0033】
本発明によれば、廃油13中に含有する芳香族リン酸エステル12を極圧反応分解により効率的に処理することができ、その後の廃油(潤滑油)が難燃性でなくなり、燃焼処理が可能となる。
【0034】
また、廃油13を水熱酸化分解装置120で処理する場合においても、予め芳香族リン酸エステル12を除去するので、水熱酸化分解処理の際において、芳香族リン酸エステルに起因するアパタイト化が生じることがないので、絶縁油や潤滑油の水熱分解反応を効率的に行うことができる。
【実施例2】
【0035】
本発明による実施例2に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置について、図面を参照して説明する。図2は、実施例2に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置の概略図である。図3は、実施例2に係る他の廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置の概略図である。
図2に示すように、廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置10Bは、芳香族リン酸エステル12を含む廃油13を保管する保管タンク11と、該保管タンク11からラインL11により送給された芳香族リン酸エステル12を含む廃油13を所定量供給する供給タンク14と、前記供給タンク14からラインL12により送給された廃油13に水供給タンク15Aからの水16Aを混合する撹拌手段17を備えた混合タンク18と、前記水16Aが混合された廃油13をラインL13により送給し、充填された金属鉄と接触させ、極圧反応させて、リン酸を無機化させる反応手段20と、前記反応手段20を加温する加温部21と、極圧反応液31中の油中のリン(P)又は水中のリン酸(H3PO4)の割合を分析する分析部22と、前記極圧反応液31を混合タンク18に戻す循環ラインL14と、前記分析部22の結果に基づき極圧反応液31を静置させ、油層23と水層24とに分離する静置タンク25と、前記油層23中の固形分を除去するフィルタ26と、前記フィルタ26通過後の芳香族リン酸エステル12が除去処理された処理廃油27を貯蔵する貯蔵タンク28と、前記水層24のリン酸を除去する廃水処理部29とを具備するものである。
なお、金属鉄の代わりに、金属亜鉛を用いるようにしてもよい。ここで、図2中、符号V1、V2は切替弁、P1〜P3は送給ポンプ、ラインL15〜L18は送給ラインを各々図示する。
【0036】
水供給タンク15から供給する水16Aは、極圧反応を促進させるために供給するものであり、廃油13に対して、10重量%程度添加するようにしている。
なお、芳香族リン酸エステル12の含有量が少ない場合には、水16Aの添加量を下げるようにしている。
【0037】
ここで、反応を促進させるために、水16Aを供給する代わりに水蒸気を供給するようにしてもよい。
水16Aが添加された廃油13は、反応手段20において、実施例1と同様に極圧反応分解処理がなされ、芳香族リン酸エステルの無機化を行うようにしている。
【0038】
また図3に示すように、廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置10Cでは、水や水蒸気の代わりに、リン酸水溶液供給タンク15Bからリン酸水溶液(H3PO4)16Bを供給するようにしている。
このリン酸水溶液16Bを添加することにより、該リン酸水溶液16Bが可溶化剤として機能すると共に、廃油13中の液性が酸性(pH約5程度)に変化し、芳香族リン酸エステル12のエステル結合が切断され、芳香族リン酸エステル12の無機化が助長されることとなる。なお、リン酸水溶液16Bの濃度は限定されるものではないが、廃水処理部29における水処理の関係からは濃度が高いほうが好ましい。
これは、水16Aの代替としてリン酸水溶液16Bを用いることにより、水16Aの排水処理における減溶化を図ることができるからである。
【0039】
反応手段20による極圧反応により分解処理された極圧反応液31はその水中におけるリン酸(H3PO4)、又は油中におけるリン(P)の割合を化学分析する分析部22により、極圧分解の状態を監視するようにしている。
極圧分解による乳化が進行しない間は、循環ラインL14を用いて、混合タンク18へ戻し、再度反応手段20による乳化を繰り返すようにしている。
【0040】
分析部22における分析結果は、判定部30に送られ、ここでリン酸(H3PO4)、又はリン(P)の割合が所定の濃度となった場合には、極圧分解が終了したと判断して、切替弁V1を切替え、静置タンク25へラインL15を介して送給する。
ここで、所定の濃度としては、例えば油中に10%以下の芳香族リン酸エステル12が含まれている場合、水中におけるリン酸(H3PO4)の割合を判断する場合には、リン酸が20%程度以上となった場合に、極圧分解が進行し、芳香族リン酸エステルの無機化が完了したと判断する。
これに対し、油中におけるリン(P)の割合を判断する場合には、リンが10〜100ppm程度となった場合に、極圧分解が進行し、油層23から水層24へ移行が完了すると判断する。
この判断は、両方行ってもよいし、いずれか一方であってもよい。
この静置タンク25で所定時間静置させて、油層23と水層24とに分離させる。
極圧分解完了の閾値は、処理施設の要求によるが、一般には、反応後の油中に<100ppmが考えられる。水を添加した場合における水層側に存在する形態としては、リン酸(H3PO4)となり、金属(鉄)の表面においては、無機リン(Fe2P、FeP2)となる。
【0041】
その後、油層23をラインL16及びラインL17によりフィルタ26へ送給し、ここで油中の固形分を除去する。その後、芳香族リン酸エステル12が除去された処理廃油27は貯蔵タンク28で貯蔵される。
ここで、フィルタ26としては、油層23中に微量に残存する芳香族リン酸エステルを効率的に除去させるために、金属フィルタ(例えば鉄系メッシュフィルタなど)を用いて、金属鉄(P)にリンを付着除去するようにしている。
【0042】
その後、処理廃油27は、所定の廃油処理装置(燃焼処理、水熱分解処理など)により処理される。
【0043】
本発明によれば、廃油中の芳香族リン酸エステルを加水分解により効率的に処理することができ、その後の廃油(潤滑油)が難燃性でなくなり、燃焼処理が可能となる。
【0044】
また、油層23の処理が終了した後、切替弁V2を切り替えて、水層24をラインL18により廃水処理部29へ送給し、リン酸を固定処理する。
リン酸を固定処理する廃水処理部29には、例えばCa、Mg、Na、Alのいずれかを少なくとも含む固形吸着剤を充填した無機充填槽を有してなり、リン酸を金属塩で固定化(例えばアパタイト(Ca5(PO43(F,Cl,OH))を生成)するようにしている。その後pH調整槽においてpHを調整して後、外部へ排出する。
【0045】
また、廃油を水熱酸化分解装置12−で処理する場合においても、予め芳香族リン酸エステルを除去するので、水熱酸化分解処理の際において、芳香族リン酸エステルに起因するアパタイト化が生じることがないので、絶縁油や潤滑油の水熱分解反応を効率的に行うことができる。
【実施例3】
【0046】
本発明による実施例に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置を備えた廃油の処理システムについて、図面を参照して説明する。図4は、実施例3に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置を備えたポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有する廃油の処理システムの概略図である。
図4に示すように、廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置を備えた廃油処理システム100は、実施例1又は実施例2に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置10A(10B、10C)と、PCBを水熱酸化分解処理する水熱酸化分解装置120とを具備するものである。
ここで、水熱酸化分解装置120の概略構成は、芳香族リン酸エステル12が除去された処理廃油27、油(反応促進用)35、水酸化ナトリウム(NaOH)32、純水33及び酸素(O2 )34を投入する筒形状の一次反応塔101と、分解処理反応を完結させる二次反応塔107と、冷却器108および反応器の減圧弁109を備えている。また、減圧弁109の下流には、排水(H2O,NaCl)114と排気ガス(CO2)112とに分離する気液分離装置110が配置されている。なお、上記二次反応塔107は必要に応じて省略することもできる。
【0047】
上記水熱酸化分解装置120において、加圧ポンプによる加圧により一次反応塔101内は、例えば26MPa程度まで昇圧される。また、熱交換機121は、H2Oを300℃程度に予熱する。また、一次反応塔101内には高圧酸素供給設備117からの酸素34が噴出しており、内部の反応熱により350℃〜400℃まで(好適には370℃まで)昇温する。この段階までに、一次反応塔101の内部では酸化分解反応を起こし、処理廃油27に含まれたPCBはCO2およびH2Oに分解されている。つぎに、冷却器108では、二次反応塔107からの流体を100℃程度までに冷却すると共に後段の減圧弁109にて大気圧まで減圧する。そして、気液分離装置110によりCO2および水蒸気と処理液とが分離され、CO2および水蒸気は、活性炭層111を通過して排気ガス112として煙突113から環境中に排出される。排水114は所定の基準となるように処理され、放出タンク115で一時保管される。なお、120a〜120dは保管タンク、122a〜122dはポンプを、123は混合器を各々図示する。
【0048】
このように、本実施例によれば、廃油13を水熱酸化分解装置120で処理する場合においても、予め芳香族リン酸エステル12を廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置10A(10B、10C)において除去するので、水熱酸化分解装置120における水熱分解処理の際において、芳香族リン酸エステル12に起因するアパタイト化が生じることがなくなり、廃油(絶縁油や潤滑油)13の水熱分解反応を安定して行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明に係る廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置によれば、廃油中の芳香族リン酸エステルを加水分解により効率的に処理することができ、その後の廃油処理が簡易となる。
【符号の説明】
【0050】
10A、10B、10C 廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置
12 芳香族リン酸エステル
13 廃油
16A 水
16B リン酸水溶液
18 混合タンク
19 反応油
20 反応手段
21 加温部
22 分析部
23 油層
24 水層
25 静置タンク
26 フィルタ
27 処理廃油
29 廃水処理部
30 判定部
31 極圧反応液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族リン酸エステルを含む廃油を所定量供給する供給タンクと、
前記供給タンクから送給された廃油を、内部に充填した金属鉄又は金属亜鉛と接触させて、極圧反応を進行させる反応手段と、
前記反応手段を所定温度に加温する加温部と、
反応油のリン(P)濃度を分析する分析部と、
前記反応油を供給タンクに戻す循環ラインと、
前記分析部の結果に基づき反応油中の固形分を除去するフィルタとを具備することを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置。
【請求項2】
芳香族リン酸エステルを含む廃油を所定量供給する供給タンクと、
前記供給タンクから供給された廃油に水タンク又はリン酸水溶液タンクからの水又はリン酸水溶液を混合する撹拌手段を備えた混合タンクと、
前記水が混合された廃油と金属鉄又は金属亜鉛とを接触させ、極圧反応させて、リン酸を無機化させる反応槽と、前記反応槽を加温する加温部と、
極圧反応液中のリン酸又はリンの割合を分析する分析部と、
極圧反応液を混合タンクに戻す循環ラインと、
前記分析部の結果に基づき極圧反応液を静置させ、油層と水層とに分離する静置タンクと、
前記油層中の固形分を除去するフィルタと、
前記フィルタ通過後の芳香族リン酸エステルが除去処理された処理廃油を貯留する貯留タンクと、
前記水層のリン酸を除去する廃水処理部とを具備することを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記水又はリン酸水溶液の添加量が10重量%以下であることを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
前記加温部の加温温度は80〜100℃であることを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか一つにおいて、
前記分析部で分析し、水中のリン酸濃度又は油中の芳香族リン酸エステルの濃度が、所定濃度となった場合に、静置タンクへ切り替える操作を行う判定部を有することを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか一つにおいて、
前記廃水処理部が、Ca、Mg、Na、Alのいずれかを少なくとも含む固形吸着剤を充填した無機充填槽を有してなり、リン酸を金属塩で固定化することを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つにおいて、
前記廃油がポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有することを特徴とする廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置。
【請求項8】
請求項7の廃油中の芳香族リン酸エステル除去装置と、
芳香族リン酸エステルが除去された廃油中のポリ塩化ビフェニル(PCB)を分解処理する水熱酸化分解装置とを具備することを特徴とするポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有する廃油の処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−161214(P2011−161214A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274132(P2010−274132)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】