説明

廃液処理方法

【課題】廃液から次亜リン酸、亜リン酸等のリン化合物を有効利用が可能なリン酸に変換し、かつ効率良く除去・回収することができる廃液処理方法を提供すること。
【解決手段】次亜リン酸及び/又は亜リン酸を含む廃液を、陽極用電極と陰極用電極とからなる少なくとも一対の電極21と、振動攪拌手段22とを備える電解処理槽5にて電解処理することにより、次亜リン酸及び亜リン酸を酸化してリン酸に変換し、これを除去、回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液に含まれる次亜リン酸及び/又は亜リン酸を除去・回収することができる廃液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃液には、例えば、無電解めっき廃液のように、次亜リン酸ナトリウムや亜リン酸ナトリウム等のリン化合物を含むものがある。このため、リン化合物を高濃度で含む廃液をそのままの状態で河川や湖沼に投棄すると、藻類その他の水性生物が増殖し、その水質が累積的に悪化する「富栄養化」がみられ、BOD値やCOD値を増大させる。よって、環境衛生上の観点から、このような廃液を投棄する際には、リン化合物を取り除くことが要求される。
【0003】
一方で、リンは植物が生育するためには必要な物質である。しかしながら、リンの総資源は世界的にみても多くはないことから、これを補うべく、廃液から除去されるリンを再利用する道が模索されている。有機リン化合物や正リン酸は、アルカリ凝集沈殿及び生物処理、石灰による凝集沈殿等で容易に除去でき、除去したリン化合物は肥料として再利用することができる。しかし、次亜リン酸イオン、亜リン酸イオンとなって溶解しているリン化合物は、一般的な凝集処理では極めて長時間の電解酸化処理が必要であり、特に次亜リン酸に至っては安定な錯塩を形成しているため、凝集沈殿ではほとんど処理できなかった。
【0004】
このような事情を鑑みて、次亜リン酸、亜リン酸を処理する方法がいくつか提案されている。例えば、亜リン酸塩含有廃液に、亜リン酸量に対して反応量論よりも少量過剰の消石灰及び等モル以上の鉱酸を添加し、加温しながら中性乃至アルカリ域で反応させて亜リン酸カルシウムとして回収する方法(特許文献1参照)がある。
【0005】
しかしながら、この方法は、亜リン酸のみを主たる対象物質としていることから、次亜リン酸も含めて処理するためには次亜リン酸の酸化が必要となるため、次亜リン酸を回収することは困難であった。
【0006】
また、次亜リン酸と亜リン酸の両方を正リン酸に酸化して処理する方法として、例えば、次亜リン酸イオンを含むめっき老化液をpH1〜4に保ち、貴金属を担持した二酸化チタン粉末を光触媒として共存させ、酸素または空気を送り込みながら光を照射し次亜リン酸イオンを酸化してリン酸イオンにし、次いで、pHを1〜3に保って濾過して貴金属を担持した二酸化チタン粉末を回収する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、次亜リン酸イオンや亜リン酸イオンが高濃度で含まれている廃液を処理する場合には50時間以上もの処理時間を要するだけでなく、酸化反応と濾過操作とを強い酸性条件下で行うことから、リン化合物除去後のめっき老化液を投棄する際には別途中和処理が必要である。
【0007】
また、無電解ニッケルめっき廃液のように、次亜リン酸や亜リン酸といったリン化合物と共にアンモニウムイオンを含む廃液もある。このような廃液の場合には、リン化合物を除去した後でも、アンモニウムイオンが溶存したままとなっており、これをそのまま河川等に投棄することは水質の富栄養化にも繋がる。よって、リン化合物とともにアンモニウムイオンも取り除くことが望ましいのであるが、既存の処理方法ではこれを実現することは難しく、現在のところリン化合物とアンモニウムイオンの両方を同時に処理できる方法は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−99288号公報
【特許文献2】特開平6−136549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、廃液に含まれる次亜リン酸、亜リン酸等のリン化合物を短時間でリン酸に酸化させる方法を提供するとともに、廃液中のリンを再利用可能な形で効率良く除去・回収することができる廃液処理方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明が採った手段は、次亜リン酸及び/又は亜リン酸を含む廃液を、陽極用電極と陰極用電極とからなる少なくとも一対の電極と、振動撹拌手段とを備える電解処理槽に供給して電解処理を行うことを特徴とする廃液処理方法、である。
【0011】
電解処理による酸化効率を高めるための手段としては、廃液の撹拌を行うことが考えられる。しかし、プロペラ式撹拌は十分な撹拌効果が得られず、エアレーション撹拌は電解で発生する水素と、供給される空気に含まれる酸素とが混合して爆気を形成する可能性があるため、いずれも適当な撹拌手段とはいえない。そこで、電解処理に悪影響を与えることなく十分な撹拌効果が得られる振動撹拌を採用することにより、次亜リン酸や亜リン酸の酸化を高効率で行える。
【0012】
また、廃液にマグネシウム化合物を添加するとともに、アンモニウムイオンの存在下で電解処理を行ってリン酸マグネシウムアンモニウム結晶を形成させることもできる。
【0013】
これは、電解処理によって次亜リン酸や亜リン酸が酸化されてなるリン酸を、リン酸マグネシウムアンモニウム(MgNHPO・6HO)結晶として不溶化させる方法である。このようにしてリン酸からリン酸マグネシウムアンモニウム結晶を得る方法は「MAP法」と称されている。この反応の進行には、リン酸イオン(PO2−)とともに、マグネシウムイオン(Mg2+)及びアンモニウムイオン(NH4+)の存在が必須である。すなわち、この反応は、電解処理がされた廃液にマグネシウム化合物とアンモニウム塩を添加してマグネシウム及びアンモニウムイオンを溶存させることで進行させることができる。ただし、十分な量のアンモニウムイオンが既に溶存している廃液の場合には、アンモニウム塩等を別途添加する必要はない。例えば、無電解めっき廃液のように、既にアンモニウムイオンが含まれるものであれば、これを利用して当該反応を進行させることが可能である。
【0014】
この場合、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶を分離する工程を含めてもよい。分離方法としては、凝集、沈殿、濾膜分離等の種々の物理的分離方法を使用することができる。
【0015】
このように、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶を析出することで、物理的分離手段で容易に廃液からリン酸を除去し、回収することができる。この場合において、処理する廃液が、例えば無電解めっき廃液のようにアンモニウムイオンを含む廃液であれば、リン酸だけでなく水質汚染の原因となるアンモニウムイオンも同時に除去することが可能となる。
【0016】
また、廃液にカルシウム化合物を添加し、リン酸カルシウム結晶を形成させることもできる。すなわち、廃液にカルシウム化合物を添加することにより、電解処理によって得られたリン酸とカルシウムイオン(Ca2+)とが反応して、リン酸カルシウム結晶を得ることができる。
【0017】
この場合、リン酸カルシウム結晶を分離する工程を含めてもよい。分離方法としては、凝集、沈殿、濾膜分離等の種々の物理的分離方法を使用することができる。
【0018】
リン酸カルシウム結晶を分離することで、廃液からリン酸を容易に除去し、回収することができる。
【0019】
また、廃液中には重金属イオンを含むことがあるので、廃液に含まれる重金属イオンを硫化処理によって不溶化させてもよい。廃液には、例えば無電解めっき廃液のように、ニッケル、コバルト、銅、スズ、銀、白金等の重金属がイオンとして存在している場合がある。この場合、これらの重金属イオンを何ら処理しないまま河川等に投棄することは環境衛生上の観点から好ましくない。そこで、重金属イオンを含む廃液を処理する場合には、重金属イオンを硫化処理して不溶化させておき、電解処理前に除去しておくとよい。
【0020】
また、陽極用電極は、二酸化鉛電極を用いるとよい。電解処理により次亜リン酸や亜リン酸を酸化させてリン酸に変換するには、強い酸化力を有する陽極用電極が必要である。このため、次亜リン酸や亜リン酸の酸化反応が行われる陽極用電極に、酸化力に優れた二酸化鉛を用いるとよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る廃液処理方法によれば、廃液を振動撹拌しながら電解処理することにより、次亜リン酸及び/又は亜リン酸を高効率でリン酸に変換させることができる。これにより、廃液中からリン化合物を再利用可能な形で除去・回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】振動撹拌機を備える電解処理槽の第1の具体例を示す図である。
【図2】振動撹拌機を備える電解処理槽の第2の具体例を示す図である。
【図3】振動撹拌機を備える電解処理槽の第3の具体例を示す図である。
【図4】振動撹拌機における振動吸収(横揺れ防止)機構の一例を示す図である。
【図5】振動撹拌機にゴム質リングを設けた場合の一例を示す図である。
【図6】振動撹拌機における振動羽根板の一例を示す図である。
【図7】振動羽根板の長さとしなりの程度の関係を説明するグラフである。
【図8】各実施例及び各比較例で使用された振動撹拌機を備える電解処理槽の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る廃液処理方法は、亜リン酸及び/又は次亜リン酸を含有する廃液を、振動撹拌を行いながら電解酸化処理することにより、亜リン酸及び/又は次亜リン酸を正リン酸に変換するものである。
【0024】
本発明に係る廃液処理方法は、次亜リン酸や亜リン酸を含む廃液であれば種類を問わずに適用が可能であるが、特には、これらのリン化合物を多く含む無電解めっき廃液の処理に適している。
【0025】
本発明に係る廃液処理方法の実施には、例えば、図1〜図3に示すような、振動撹拌機22を備える電解処理槽5が用いられる。図1〜図3に例示する振動撹拌機22は、振動モーター1と、振動伝達部材2と、それに接続された振動棒6、及び振動棒6に固定された一段又は多段の振動羽根板7とを備える。そして、この振動羽根板7が、振動モーター1の振動によって「しなる」ことにより、廃液が振動と流動を起こして撹拌されることとなる。
【0026】
また、振動撹拌機22と電解処理槽5とは、図4に示すように、振動伝達部材2から下方に伸びた三本以上、好ましくは四本の支持棒41と、それに対応して電解処理槽5側から上方に伸びた支持棒42とが、これらを取り巻くスプリング3により係合されていることが好ましい。特に、上下の支持棒41、42が、スプリング3によって接触しない状態に保たれていることが好ましい。これによって、振動撹拌機22に横揺れが生じても、スプリング3による係合部分で横揺れを吸収することができるので、稼働時における装置全体の安定性が向上するとともに、騒音の発生も防止することができる。
【0027】
振動の程度は、通常10〜60Hz程度で十分であるが、より振動数を高めたい場合には500Hz程度まで上げてもよい。高い振動数で稼働させる場合には、振動伝達部材2
と振動棒6との接触部分の近辺に、振動応力の集中によるひび割れや破断が生じることがあるので、この部分に振動応力を分散する手段を設けることが好ましい。
【0028】
振動応力分散手段の一例としては、振動伝達部材と振動棒との接続部分において、振動伝達部材の下部の振動棒の周りにゴム質リングを設けてもよい、ゴム質リングの長さは、振動棒の直径より長く、通常、振動棒の直径の3〜8倍であり、その太さは振動棒の直径より1.3〜3倍、特に約1.5倍〜2.5倍大きいものが好ましい。具体的には、振動棒が直径10〜16mmの丸棒であるときには、ゴム質リングの肉厚は10〜15mmが好ましく、振動棒が直径20〜25mmの丸棒であるときはゴム質リングの肉厚は20〜30mmが好ましい。
【0029】
振動伝達部材に振動棒を連結するには、例えば、図5に示すように、振動伝達部材2の所定の穴に振動棒6を通し、振動棒6の端部からナット9、10、ワッシャーリング13により固定する。そして、振動伝達部材2の下方側から、振動棒6の下部に前記のゴム質リング15を挿入し、ナット11、12等によって固定することができる。
【0030】
上述のゴム質リングは、硬質天然ゴム、硬質合成ゴム、合成樹脂等のショアーA硬度80〜120、好ましくは90〜100の硬質弾性体によって作製することができる。特に、ショアーA硬度90〜100の硬質ウレタンゴムが耐久性、耐薬品性の点から好ましい。
【0031】
振動の発生は、25〜500Hz、好ましくは25〜400Hz、特に好ましくは25〜300Hzの振動を発生する振動モーターを用いて行う。振動モーターの出力と撹拌容量との関係は、通常の水溶液の場合、およそ下記の通りである。
【0032】
【表1】

【0033】
尚、振動モーターの出力を3KWとすれば、100mの容量のものを十分に撹拌することが可能である。
【0034】
通常、振動モーターは、電解処理槽の上や側壁、或いは固い床上に架台を置き、その上にセットされる。電解処理槽の厚みが薄いために(例えば、ステンレス槽の場合5mm以下)、廃液の振動が側壁や床面に伝わる場合には、電解処理槽の外側に架台を設置することが好ましい。また、電解処理槽の側壁にバンドを締め付けるような要領で補強部材を付設し、そこに振動撹拌機を設置してもよい。
【0035】
振動モーターが発生する振動は、振動伝達部材を介して振動棒に伝えられる。振動モーターは、図2及び図3に示すように振動伝達部材2の上側に設けるよりも、図1に示すように下側に吊り下げるようにして設ける方が、重心が下がって横ぶれを抑制に有効である。
【0036】
例えば、図2及び図3に示すように、電解処理槽5上に架台4を載置した上に、図4の示すようにしてスプリング3付の支持棒41、42を介して振動伝達部材2を設け、これに振動モーター1を取り付ける。振動モーター1の取付けは、図2及び図3に示すように振動伝達部材2の上方であってもよいが、図1に示すように下方に取り付けると振動発生源の重心が下がって不要な横ぶれを抑えることができる。また、振動モーターは必ずしも電解処理槽上に設ける必要はなく、例えば、振動伝達部材を電解処理槽の外側まで延長し、その延長された振動伝達部材の上側又は下側に振動モーターを取り付けて、その振動を振動棒に伝えるようにしてもよい。
【0037】
また、図1及び図2に示すように、振動棒6を振動モーター1の両側に2本取り付けることもできるし、図3に示すように1本だけ取り付けることもできる。2本の取り付ける場合には、図1及び図2に示す要領で振動羽根板7を取り付けることができ、1本だけ取り付ける場合には、図3に示す要領で振動羽根板7を取り付けることができる。
【0038】
振動モーターによる振動羽根板の先端の振動幅は、3.0〜20mm程度が好ましい。振動モーターの振動数はインバーターの設定によって決まるが、振動羽根板の振動数は通常200〜3000vtm(振動数/分)、好ましくは400〜800vtmであり、振動モーターの回転数は通常400〜4000rpmである。
【0039】
振動羽根板は、振動羽根板用固定部材にて固定されてなるもの、振動羽根板を複数枚重ねてなるもの、或いは振動羽根板と振動羽根板用固定部材とが一体成形されてなるものを使用することができる。
【0040】
振動羽根板の材質としては、好ましくは薄い金属、プラスチック、弾力性を有する合成樹脂、ゴム等を使用することができる。金属の振動羽根板の材質としては、例えば、チタン、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、これらの合金を使用することができる。また、合成樹脂の振動羽根板の材質としては、例えば、ポリカーボネート、塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン等を使用することができる。
【0041】
振動羽根板の厚みは、振動モーターの振動によって、少なくとも振動羽根板の先端部分がフラッター現象(波を打つような状態、すなわちしなりを発生する状態)を生じる程度の厚みであれば特に限定されないが、一般に金属から作製する場合には0.2〜2.0mmが好ましく、このうちステンレスから作製する場合には0.2〜1.0mm、特には0.5mmとすることが好ましい。また、プラスチックから作製する場合には0.5〜10mmが好ましい。さらに、合成樹脂やゴムから作製する場合には、一般に1.0〜5.0mmが好ましい。また、振動羽根板の振動幅は、2.0〜30mm、好ましくは5.0〜10mmである。
【0042】
振動羽根板は、振動棒に対して一段又は多段に取り付けることができる。振動羽根板を多段にする場合には、振動モーターの大きさに応じて5〜7枚とすることが好ましい。段数を多くしすぎると、振動モーターの負荷を大きくしたときに振動幅が減少して振動モーターが発熱することがあるからである。また、この場合、図2及び図3に示すように、複数の振動羽根板7の間にスペーサー30を設けてもよい。振動羽根板の取付け角度は、振動棒に対して水平でも良いが、図6のAに示すように、傾斜角度αが5〜30度、特には10〜20度に傾斜させて振動に方向性を持たせるようにするとよい。特に、本発明においては、下向きの傾斜とすることが好ましい。これによって、廃液の流動をより促進することができるからである。
【0043】
振動羽根板は、振動羽根板用固定部材によって上下両側から挟み付けて振動棒に固定することができる。振動羽根板がステンレス等の金属製の場合、振動羽根板と振動羽根板用固定部材との間に、例えば、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素系樹脂に代表される耐薬品性の合成樹脂シートを介在させることが好ましい。これにより、振動羽根板の寿命を著しく延ばすことができるからである。耐薬品性の合成樹脂シートの厚みは特に限定されないが、通常は1.0〜3.0mm程度で十分である。また、図6のAに示すように、振動羽根板用固定部材10と振動羽根板9が振動軸の側面からみて一体的に傾斜及び/又は湾曲面を持つようにすると、振動応力を分散しやすくなり、振動周波数が高くなったときに、振動羽根板の破損を防止することができる。
【0044】
また、図6のCに示すように、振動羽根板7は、プラスチック等の材質を用いて振動羽根板用固定部材と一体に成形してもよい。この場合、両者を別々に作製した場合のように、接合部分への被処理物の浸入や固着が無くなるので、洗浄が容易となる。また、図6のCに示すように、振動羽根板7を振動羽根板用固定部材とを一体化することで、両者の間に厚みの段差が生じず、応力集中を避けることができるので、振動羽根板の破損を防止することができる。
【0045】
振動羽根板に傾斜及び/又は湾曲を与えた場合には、多数の振動羽根板のうち、下位の1〜2枚を下向きの傾斜及び/又は湾曲とし、それ以外のものを上向きの傾斜及び湾曲としてもよい。このように位置に応じて傾斜及び/又は湾曲の向きを変えることで電解処理槽の底部の撹拌が十分に行われることとなり、底部に溜まりが生じることを防止することができる。
【0046】
振動モーターから振動棒を介して伝達される振動に伴って発生する振動羽根板の「しなり現象」の程度は、振動を与える周波数や、振動羽根板の長さや厚み、処理を行う廃液の粘度や比重によって変化する。このため、振動羽根板は、周波数に応じて最も「しなり」が得られる長さと厚みに設定することが好ましい。
【0047】
周波数と振動羽根板の厚みを一定にして振動羽根板の長さを変化させていくと、図7に示すように、振動羽根板固定部材より先の部分の長さが大きくなるにつれて、ある段階までは「しなり」の程度が大きくなるが、それを過ぎると「しなり」は小さくなって、さらにある長さになるとしなりがなくなる。そして、ある長さになると再び「しなり」が大きくなるという関係を繰り返すことが分かった。
【0048】
従って、振動羽根板の長さは(振動羽根板固定部材より先の部分の長さ)は、好ましくは図7に示されている第1回目のピークを示す長さか、第2回目のピークを示す長さとすることが好ましい、第1回目のピークを示す長さを選択するか、第2回目のピークを示す長さを選択するかは、処理する廃液に対して振動を強く与えるか、流動を強く与えるかによって適宜選択することができる。尚、第3回目のピークを示す長さを選択した場合には、振動幅が小さくなる。
【0049】
周波数37〜60Hz、75WでSUS304製の振動羽根板の厚みを変えて、第1回目のピークを示す長さ、第2回目のピークを示す長さを求めた結果を下表に示す。尚、この実験における振動羽根板の長さは、振動羽根板用固定部材の先端から振動羽根板の先端までの長さ(図6のAにおけるmで示す長さ)で示したものであり、振動棒中心から振動羽根板用固定部材の先端までの長さ(図6のAにおけるnで示す長さ)は27mm、振動羽根板の傾斜角αは上向き15度の場合である。
【0050】
【表2】

【0051】
また、本発明では、上述した振動撹拌に加えて、必要に応じてエアレーション撹拌を併用してもよい。この場合、電解処理槽の底部に散気管を設置することが考えられるが、この場合には爆気を形成しないように注意する必要がある。また、この場合には、振動モーターも防爆型とすることが好ましい。さらに、電解処理により有毒ガスを発生する廃液を処理する場合には、電解処理槽の上部に排気用のフードを設けることが好ましい。
【0052】
廃液の電解処理に用いられる陽極用電極は、次亜リン酸及び亜リン酸を酸化させる上で、その選択は極めて重要である。陽極用電極としては、導電性と耐食性とを備え、かつ次亜リン酸及び亜リン酸をリン酸に変換するのに十分な酸化力を有するものであれば限定されないが、二酸化鉛電極を用いることが好ましい。二酸化鉛電極は、他の電極に比べて酸化力に優れるからである。二酸化鉛電極の電極基体及び二酸化鉛層の原料は特に限定されず、例えば、チタン、ニオブ、ジルコニウム、鉄又はこれらの合金等に直接、若しくはチタン、ニオブ、ジルコニウム等の酸化物や、白金、パラジウム等の貴金属を含む中間層を形成した後で、硝酸鉛や塩基性炭酸鉛、酸化鉛等を用いて二酸化鉛層を形成してもよい。このうち、チタン上にα型過酸化鉛とβ型二酸化鉛を層状に被覆したものが特に好ましい。
【0053】
陰極用電極は、その材料は特に限定されるものではなく、導電性と耐食性とを備える材料、例えば、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タングステン、銅、ニッケル、鉄又はこれらの合金等を用いることができるが、特にはSUS304ステンレス電極を用いることが好ましい。
【0054】
尚、陽極用電極及び陰極用電極共に、その形状は特に限定されるものではなく、例えば、平板状に形成してもよいし、処理水との接触面積を稼ぐためにメッシュや多孔板状に形成してもよい。
【0055】
また、廃液にマグネシウム化合物を添加するとともに、アンモニウムイオン存在下で電解処理を行ってもよい。これによれば、電解処理にて得られたリン酸をリン酸マグネシウムアンモニウムとして不溶化させて除去・回収することができる。これは、特にリン酸濃度が高い廃液に対して有効である。廃液に添加されるマグネシウム化合物は、廃液中でカルシウムイオンを放出するものであれば特に限定されず、例えば、塩化マグネシウム(MgCl)や硫化マグネシウム(MgSO)等の無機酸のマグネシウム塩を用いることが考えられる。マグネシウム化合物は、粉末として添加してもよいし、溶液として添加してもよい。マグネシウム化合物の廃液への添加は、電解処理にて得られるリン酸と反応可能なタイミングで行えばよく、電解処理を行う前後、若しくは電解処理の途中のいずれで行ってもよい。マグネシウム化合物の添加量は、廃液に含まれるリンの濃度と等モル量のマグネシウムイオンを放出する量であればよいが、効率的にリン酸の除去・回収を行うためには少量過剰に添加することが好ましい。
【0056】
ここで、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶を生成させるためには、アンモニウムイオンの存在が必須である。アンモニウムイオンは、マグネシウム化合物とともに塩化アンモニウム(NHCl)等のアンモニウム塩として添加することができるが、例えば、無電解めっき廃液のように、アンモニウムイオンが含まれている廃液を処理する場合には、このアンモニウムイオンを利用して反応を行うこともできる。アンモニウムイオンは水質汚染の原因にもなる物質であるため、リン酸とともにこれを無電解めっき廃液から除去することは環境衛生上極めて有効である。尚、無電解めっき廃液のようなアンモニウムイオンを含む廃液を処理する場合であっても、反応に十分な量のアンモニウムイオンが含まれていないときには、アンモニウム塩を添加してこれを補うことも可能である。アンモニウム塩の廃液への添加は、電解処理にて得られるリン酸と反応可能なタイミングで行えばよく、電解処理を行う前後、若しくは電解処理の途中のいずれで行ってもよい。
【0057】
また、廃液にカルシウム化合物を添加して、リン酸をリン酸カルシウムとして不溶化させて除去・回収してもよい。廃液に添加されるカルシウム化合物は、廃液中でカルシウムイオンを放出するものであれば特に限定されず、例えば水酸化カルシウム等を用いることができ、粉末として添加してもよいし、溶液として添加してもよい。また、カルシウム化合物の廃液への添加は、電解処理にて得られるリン酸と反応可能なタイミングで行えばよく、電解処理を行う前後、若しくは電解処理の途中のいずれで行ってもよい。カルシウム化合物の添加量は、廃液に含まれるリン酸の濃度と等モル量のカルシウムイオンを放出する量であればよいが、効率的にリン酸の除去・回収を行うためには少量過剰に添加することが好ましい。
【0058】
また、処理する廃液がニッケルやコバルト、銅、スズ、銀、白金やこれらの合金等の重金属イオンを含む場合には、これらを硫化処理して不溶化させるとよい。これにより、重金属硫化物として凝集沈殿させることができるので、重金属イオンの除去が容易となる。硫化処理は、電解処理の前に行ってもよいし、電解処理の後で行ってもよい。硫化処理には、水流化ソーダ(NaSH)や硫化ソーダ(NaS)等の既知の硫化処理剤を用いることができる。凝集沈殿した重金属硫化物は単独で除去してもよいが、特には、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶と共沈させてから除去することが好ましい。リン酸マグネシウムアンモニウム結晶は数μmの極めて微細な粒子として存在するため単独での除去・回収操作が難しいが、重金属硫化物と共沈させることで凝集を大きくして除去・回収が容易に行えるようになるからである。
【0059】
上記の手段によって生成したリン酸マグネシウムアンモニウム結晶やリン酸カルシウム結晶、及び重金属硫化物を廃液から除去・回収するための分離手段は、特に限定されるものではなく、濾過や遠心分離等の既知の手段を用いて行うことができる。しかし、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶に関しては、上述のように極めて微細な粒子で存在するので、例えば膜分離等の精密な分離手段によって行うか、重金属硫化物と共沈させてから分離するとよい。
【0060】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0061】
(1)処理液
ニッケルめっき廃液13リットルに、32%水酸化ナトリウム水溶液を1100ml添加してpH9.0に調製したものを処理液とした。尚、電解処理前の処理液中のリン濃度は12000mg/lであった。
【0062】
(2)電解処理槽及び電極
電解処理槽には、図3及び図8に示す形態のものを用いた。この電解処理槽5は、W200mm×L300mm×H290mm、容量14リットルのFRP製のものである。そして、この電解処理槽5には、電極21が図8に示すようにして配置された。陽極用電極には、チタン板上にα型過酸化鉛層を被覆し、ついでβ型二酸化鉛層を被覆して、全酸化鉛層を0.5〜1mmとした穴あき板(W100mm×H285mm×3mm)2枚を使用した。また、陰極用電極には、SUS304にハンチング加工を施したもの(W100mm×H285mm×3mm)3枚を使用した。
【0063】
(3)振動撹拌機
振動撹拌機には、図3に示す形態のものを用いた。図3に示すように、振動撹拌機22は、1本の振動棒6に、6枚のSUS304製、厚さ0.5mmの振動羽根板7が振動棒6の直角方向から下方に15度傾斜させて取り付けられている。この振動撹拌機22は、電解処理槽5に図8に示すようにして配置された。そして、振動棒6を、インバーター付き振動モーター1(75W×200V、3相)により駆動させた。
【0064】
(4)操作
電極間距離を50mmに保って、上記の処理液14リットルを電解処理槽に投入し、電極に4.5〜5.5V、96Aの電流を流して電解処理を行った。一方、振動撹拌機には43Hzの振動を発生させて、電解処理槽内の処理液を振動撹拌した。尚、処理液は、操作開始当初は20〜40℃に加温しておき、電解酸化の進行に伴って70℃前後となるようにした。電解酸化処理開始から1時間後、2時間後、4時間後、6時間後及び8時間後に処理液をサンプリングした。このサンプリング液を中和処理した後、水酸化カルシウム溶液を添加して濾過し、得られた濾液中に含まれるリン濃度を測定した。
【比較例1】
【0065】
実施例1における振動撹拌機の代わりにプロペラ撹拌機を使用して、実施例1と同様にして電解処理を行った。
【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
表3には、実施例1における処理液の電解処理の結果が示されており、表4には、比較例1における電解処理の結果が示されている。まず、表3に示されているように、振動撹拌機を使用した実施例1では、電解処理開始から2時間で処理液中のおよそ97%のリンが除去されている。一方、表4に示されているように、プロペラ撹拌機を使用した比較例1では、電解処理開始から2時間後ではおよそ65%のリンが除去されているにすぎず、また、8時間経過後においても90%と、実施例1におけるリン除去率には及ばない結果となった。このことから、廃液中の次亜リン酸及び/又は亜リン酸の電解酸化処理に際して、振動撹拌を行うことが極めて有効であることが明らかとなった。
【実施例2】
【0069】
実施例1と同様に、ニッケルめっき廃液13リットルに、32%水酸化ナトリウム溶液を1100ml添加してpH9.0に調製したものを処理液とした。尚、電解酸化処理前の処理液中のリン濃度は15000mg/lであった。この処理液を用いて、実施例1と同様にして電解処理を行った。
【比較例2】
【0070】
実施例1における陽極用電極を二酸化鉛電極からIr−Sn電極に代えて、実施例1と同様にして電解酸化処理を行った。
【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
表5には、実施例2における処理液の電解処理の結果が示されており、表6には、比較例2における電解処理の結果が示されている。まず、表5に示されているように、陽極に二酸化鉛電極を使用した実施例2では、電解酸化処理開始から2時間で処理液中のおよそ96%のリンが除去されている。一方、表6に示されているように、陽極にIr−Sn電極を使用した比較例2では、電解処理開始から2時間後ではおよそ86%のリンが除去されているにすぎず、また、8時間経過後においてようやく97%のリンを除去することができた。このことから、処理液中の次亜リン酸及び/又は亜リン酸の電解処理に際して、陽極に二酸化鉛電極を使用することが次亜リン酸及び/又は亜リン酸の酸化速度の向上に極めて有効であることが明らかとなった。
【実施例3】
【0074】
処理液を電解処理した後、当該処理液にマグネシウム化合物を添加し、次亜リン酸及び/又は亜リン酸が酸化されて生成されたリンをリン酸マグネシウムアンモニウム結晶として除去する方法についての最適pH条件の検討を行った。
【0075】
処理液にはニッケルめっき廃液を用い、実施例1と同様の電解処理槽、振動撹拌機、陽極用電極及び陰極用電極を使用して、実施例1と同様の操作によって電解処理を行った。廃液電解処理を行った。尚、電解処理後の処理液はpH8.4、リン濃度8000mg/lであった。また、マグネシウム化合物には、硫酸マグネシウム(MgSO)粉末を用い、pH調整には10%希硫酸及び10%水酸化ナトリウム溶液を用いた。
【0076】
電解処理後の処理液を適量サンプリングしたものに10%希硫酸及び/又は10%水酸化ナトリウム溶液を添加して、pHを5.0〜12.0の範囲で調整したものをそれぞれ用意した。このpH調整がなされた各サンプリング液に、硫酸マグネシウム粉末をリンと等モル分となる量添加して撹拌し、硫酸マグネシウムアンモニウム結晶を生成させた。そして、濾過有効径0.45μmのメンブランフィルターにて濾過を行って硫酸マグネシウムアンモニウム結晶を分離し、濾液としての各サンプリング液を得た。この各サンプリング液の残存リン濃度を測定し、この値からリン除去率を求めた。
【0077】
【表7】

【0078】
表7には、各サンプリング液の残存リン濃度及びリン除去率をまとめたものが示されている。表6に示されているように、pH5.0に調整したものでは、リン除去率はわずか2.5%であったが、pH6.0に調整したものでは52.5%となって、除去率が急激に上昇している。そして、pH9.0〜12.0では、除去率は98.5〜99.0%となり、ほぼ完全にリンが除去されるに至った。このことから、マグネシウム化合物の添加によって処理液中のリンを除去する場合には、処理液をpH9.0〜12.0に調整して行うことが適していることが明らかとなった。
【0079】
上記のとおり、各実施例において、廃液中に含まれる次亜リン酸及び/又は亜リン酸を短時間かつ高効率でリン酸へと酸化させることができ、生成されたリン酸をリン酸カルシウム結晶又は硫酸マグネシウムアンモニウム結晶の形で廃液からほぼ完全に除去することができた。また、回収されたリン酸カルシウム結晶及び硫酸マグネシウムアンモニウム結晶は、肥料等の有用物質として有効利用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
従来の廃液処理方法においては、廃液に含まれる次亜リン酸及び亜リン酸を効率良く除去・回収することは困難であったが、本発明に係る廃液処理方法を用いることにより、次亜リン酸及び亜リン酸を、利用価値の高いリン酸とした上で効率良く除去・回収することができる。このため、廃液の投棄がもたらす河川の富栄養化等の防止が図れるとともに、回収されたリン酸を肥料等として有効利用することもできる。
【符号の説明】
【0081】
1 振動モーター
2 振動伝達部材
3 スプリング
4 架台
5 電解処理槽
6 振動棒
7 振動羽根板
8 振動羽根板固定部材
9 ナット
10 ナット
11 ナット
12 ナット
13 ワッシャーリング
14 振動棒のネジ溝
15 ゴム質リング
21 電極
22 振動撹拌機
30 スペーサー
41 振動伝達部材側から下方に伸びた支持棒
42 電解処理槽側から上方に伸びた支持棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜リン酸及び/又は亜リン酸を含む廃液を、陽極用電極と陰極用電極とからなる少なくとも一対の電極と、振動撹拌手段とを備える電解処理槽に供給し、
振動撹拌中に電解処理を行うことにより、次亜リン酸及び/又は亜リン酸を正リン酸に酸化させることを特徴とする廃液処理方法。
【請求項2】
廃液にマグネシウム化合物を添加し、アンモニウムイオンの存在下にて電解処理を行うことにより、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶を形成させることを特徴とする請求項1記載の廃液処理方法。
【請求項3】
さらに、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶を分離する工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
廃液にカルシウム化合物を添加し、リン酸カルシウム結晶を形成させることを特徴とする請求項1記載の廃液処理方法。
【請求項5】
さらに、リン酸カルシウム結晶を分離する工程を含むことを特徴とする請求項4記載の廃液処理方法。
【請求項6】
廃液中に含まれる重金属イオンを硫化処理によって不溶化させる工程を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の廃液処理方法。
【請求項7】
陽極用電極は、二酸化鉛電極であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の廃液処理方法。
【請求項8】
電解処理に供される廃液が、無電解めっき廃液であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の廃液処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−179214(P2010−179214A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23247(P2009−23247)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(509035705)エコ・アース・エンジニアリング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】