説明

延伸フィルムおよび延伸フィルムの製造方法

【課題】液晶表示装置の光学補償に効果的に有効で且つ利用効率が高い、広幅な長尺の延伸フィルム、幅方向の厚みが均一で且つ幅方向から大きく傾斜した方向に面内遅相軸を有する、広幅な長尺の延伸フィルムの製造方法、及び、その延伸フィルムを備えてなる、視認性に優れる液晶表示装置を提供すること
【解決手段】フィルムの幅が1300mm以上で、フィルムの幅方向から、51〜85°傾いた方向に面内の遅相軸を有し、該遅相軸のばらつきが、該フィルムの全幅に渡って1°以内であり、且つ、波長550nmの光に対する、面内の遅相軸方向の屈折率をn、面内の遅相軸と面内で直交する方向の屈折率をn、厚さ方向の屈折率をnとしたとき、(n−n)/(n−n)で表される係数Nz値が1.3以下であることを特徴とする透明樹脂からなる長尺の延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺の延伸フィルムおよび長尺の延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板を有する液晶表示装置において、着色防止、視野角拡大などの光学補償などのために、種々の位相差フィルムが用いられている。一般に、液晶表示装置に用いられる位相差フィルムは、方形状であり、その辺に対して傾斜した方向に面内の遅相軸を有している。液晶表示装置では、このような位相差フィルムを偏光板と積層することにより、位相差フィルムの面内遅相軸と偏光板の透過軸とが所望の角度となるように配置させている。
ところで、上記のような、辺に対して傾斜した方向に面内の遅相軸を有する位相差フィルムを製造する方法としては、透明な樹脂フィルムを、縦延伸または横延伸により配向させて長尺状の延伸フィルムを得た後、その延伸フィルムの辺に対して所定の角度で、方形状に裁断する方法が広く知られている。しかしながら、この方法では、最大面積が得られるように裁断しても、裁断ロスが必ず生じ、製品歩留まりに乏しいという問題があった。
【0003】
そのため、これまでに、上記の裁断ロスを低減させる技術が種々開示されてきた。例えば、特許文献1では、フィルムの両端部を、所定走行区間内におけるチャックの走行距離が異なるように配置されたテンターレール上を走行する2列のチャック間に把持して走行させることによって、フィルムを斜めに延伸する方法が記載されている。また、特許文献
2では、プラスチックのフィルムを横または縦方向に一軸延伸しつつ、その延伸方向の左右を異なる速度で前記延伸方向とは相違する縦または横方向に引張延伸して、面内の遅相軸を前記一軸延伸方向に対して傾斜させることが記載されている。これらの方法で得られる長尺状の延伸フィルムを用いれば、その辺に対して平行に切り取ることにより、辺に対して傾斜した方向に面内遅相軸を有する、方形状の位相差フィルムを得ることができ、長尺の延伸フィルムの利用効率が高くなる。
しかしながら、これらの方法では、長尺の延伸フィルムの有効な幅方向の厚み制御手段が見出されておらず、結果としてフィルムの大部分をトリミングしなければならず延伸フィルムの利用効率は低かった。幅方向の厚みが均一で、且つ、広幅な長尺の延伸フィルムを工業的に大量生産することができなかった。特に、幅方向に対して、50°を超える方向に面内の遅相軸を有するような、広幅な長尺状の延伸フィルムを得ることは実質的に不可能であった。
さらに、特許文献3では、長尺の偏光膜の吸収軸、長尺の二分の一波長板の面内の遅相軸、および、長尺の四分の一波長板の面内の遅相軸のうち、少なくとも2つが長手方向に平行でも垂直でもなく、貼り合わせてなる長尺の円偏光板を、斜め延伸をすることにより得る方法が、記載されている。しかしながら、ここでも、液晶表示装置の光学補償に有用な、幅方向に対して50°を超える方向に面内の遅相軸を有する、広幅な長尺の延伸フィルムは得られていないのが現状であった。なお、幅方向に対して50°を超える方向に面内の遅相軸を有する長尺の延伸フィルムとしては、例えば、フィルムの幅方向から75°傾いた方向に面内の遅相軸を有するような長尺の延伸フィルムが求められている。このことは、特許文献3の段落0004等でも示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−113920号公報
【特許文献2】特開2000−9912号公報
【特許文献3】特開2004−20827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、液晶表示装置の光学補償に効果的に有効で且つ利用効率が高い、広幅な長尺の延伸フィルム、幅方向の厚みが均一で且つ幅方向から大きく傾斜した方向に面内の遅相軸を有する、広幅な長尺の延伸フィルムの製造方法、及び、その延伸フィルムから切り出した位相差フィルムを備えてなる、視認性に優れる液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を解決すべく鋭意検討した結果、特定の延伸条件を採用することによって始めて、特定の光学性能を有する、広幅で長尺の厚みが均一な延伸フィルムを得ることができることを見出し、さらに、この位相差フィルムが液晶表示装置の光学補償に効果的に有効であることを突き止め、本発明に到達した。
【0007】
かくして、本発明によれば、
(1)熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルムであり、
該フィルムの幅が1300mm以上で、
該フィルムの幅方向から、51〜85°傾いた方向に面内の遅相軸を有し、
該遅相軸のばらつきが、該フィルムの全幅に渡って1°以内であり、且つ、
波長550nmの光に対する、面内の遅相軸方向の屈折率をn、面内の遅相軸と面内で直交する方向の屈折率をn、厚さ方向の屈折率をnとしたとき、(n−n)/(n−n)で表される係数Nz値が1.3以下であることを特徴とする位相差フィルム、
(2)前記熱可塑性樹脂が、固有複屈折値が正である樹脂からなることを特徴とする(1)記載の位相差フィルム
(3)(1)または(2)に記載の延伸フィルムを、その長手方向に対して垂直又は平行な方向に沿って、所定の大きさに切り取ってなる位相差フィルム、
(4)(1)または(2)に記載の延伸フィルムと長尺の偏光子とを、それらの長手方向を揃えて積層させてなる長尺の積層フィルム、
(5)(4)に記載の長尺の積層フィルムを所定の大きさに切り取ってなる偏光板、
(6)(3)に記載の位相差フィルムを備えることを特徴とする液晶表示装置、
(7)(5)に記載の偏光板を備えることを特徴とする液晶表示装置、
(8)反射型液晶表示装置であることを特徴とする(6)または(7)記載の液晶表示装置、
(9)(a)長尺の熱可塑性樹脂フィルムを第一のロールから引き出し、
該フィルムの両端を把持手段により把持し、第一の予熱ゾーン、第一の延伸ゾーン、および、第一の固定ゾーンを通過させて、該フィルムをR(倍)の延伸倍率で延伸し、
該フィルムの両端を把持手段から解放し、延伸されたフィルムを第二のロールに巻き取って、
フィルムの幅方向から、5〜50°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、長尺のフィルム中間体を得る工程、次いで、
(b)該長尺のフィルム中間体を第二のロールから引き出し、
該フィルムの両端を把持手段により把持し、第二の予熱ゾーン、第二の延伸ゾーン、および、第二の固定ゾーンを通過させて該フィルムをR(倍)の延伸倍率で延伸し、
該フィルムの両端を把持手段から解放し、延伸されたフィルムを第三のロールに巻き取って、
フィルムの幅方向から、51〜85°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、長尺のフィルム位相差フィルムを得る工程、を有し、
(c)前記第一の延伸ゾーンの平均温度をT(℃)、前記第二の延伸ゾーンの平均温度T(℃)をとしたときに、
<T、及び、R<Rを満たし、
(d)前記第一の固定ゾーンのフィルムの走行方向は、前記第一の予熱ゾーンのフィルムの走行方向とは異なり、且つ、前記第二の固定ゾーンのフィルムの走行方向は、前記第二の予熱ゾーンのフィルムの走行方向とは異なる、
ことを特徴とする長尺の位相差フィルムの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の延伸フィルムは、液晶表示装置、特に反射型の液晶表示装置に用いた場合に、その表示画面の視野角が広くなり、コントラストの低下や着色を防止することができる。また、幅方向の厚みが均一なため、長尺で得ることができるので、偏光板などの液晶表示装置に用いられる他の長尺の光学素子と、ロール・トウ・ロールによる重ね合わせができる。長尺のフィルムの幅方向又は長手方向に平行に面内遅相軸を有するフィルムでは、斜めに裁断する必要があったために廃棄部分が多かった。本発明の製法によって得られる、幅方向に対して斜めに面内の遅相軸を有する延伸フィルムでは、幅方向又は長手方向に平行に裁断できるので、フィルムの廃棄部分が少なく、生産性に優れている。
さらに、本発明の延伸フィルムの製造方法によれば、液晶表示装置の光学補償に有用で、且つ、幅方向の厚みが均一で、高速で巻き取りが可能で、幅方向に対して大きく傾斜した方向に面内遅相軸を有する、広幅な長尺の延伸フィルムを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の延伸フィルムの製造に好適に用いることができるテンター延伸機の一例を示す概念図。
【図2】図1の延伸機におけるレール部分の把持手段を示した図。
【図3】図1の延伸機におけるレール配置を説明するための図。
【図4】延伸機のレール配置の別の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の延伸フィルムは透明樹脂からなる。透明樹脂とは、所望の波長に対して透明な樹脂である。特に、熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、本発明に用いる透明樹脂は、固有複屈折値が正である樹脂からなることが好ましい。透明樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、脂環式オレフィンポリマーなどが挙げられる。これらのうち脂環式オレフィンポリマーが好適である。
【0011】
脂環式オレフィンポリマーは、特開平05−310845号公報に記載されている環状オレフィンランダム多元共重合体、特開平05−97978号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体及びその水素添加物等である。
【0012】
脂環式オレフィンポリマーをより具体的に説明する。脂環式オレフィンポリマーは、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造や不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造のごとき脂環式構造を有するポリマーである。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
脂環式オレフィンポリマー中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、本発明方法により得られる位相差フィルムの透明性および耐熱性が向上するので好ましい。
【0013】
脂環式オレフィンポリマーとしては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0014】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0015】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0016】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0017】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0018】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0019】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、本発明の位相差フィルムを、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れるものにすることができる。
【0020】
本発明に用いる透明樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、本発明の位相差フィルムの機械的強度および成型加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0021】
透明樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。ガラス転移温度がこのような範囲にあると、本発明の位相差フィルムを、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れるものにすることができる。
【0022】
透明樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.1〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0023】
透明樹脂の光弾性係数の絶対値は、10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、
C=Δn/σ
で表される値である。透明樹脂の光弾性係数がこのような範囲にあると、後述する、面内方向のレターデーション(Re)のばらつきを小さくすることができる。
【0024】
本発明に用いる透明樹脂は、顔料や染料のごとき着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤などの配合剤が適宜配合されたものであってもよい。
【0025】
本発明の延伸フィルムは、長尺のフィルムである。長尺とは、フィルムの幅方向に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものを言い、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。本発明の延伸フィルムは、その幅が1300mm以上、好ましくは1450mm以上である。本発明に適用できるフィルムは、単層フィルムであっても、多層フィルムであってもよい。
【0026】
本発明の延伸フィルムは、その幅方向から51〜85°傾いた方向に面内の遅相軸を有する。さらに、その遅相軸のばらつきが、フィルムの全幅に渡って1°以内、好ましくは0.7°以内である。遅相軸のばらつきがこのような範囲にあると、延伸フィルムから得られる位相差フィルムを液晶表示装置に用いた場合に、液晶表示装置の輝度及び正面コントラストを向上させることができる。
【0027】
本発明の延伸フィルムは、波長550nmの光に対する、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をn、面内の遅相軸と面内で直交する方向の屈折率をn、フィルムの厚さ方向の屈折率をn、としたとき、(n−n)/(n−n)で表される係数Nz値が、1.3以下、好ましくは1以上1.3以下、好ましくは1以上1.2以下である。Nz値がこのような範囲にあると、延伸フィルムから得られる位相差フィルムを液晶表示装置に用いた場合に、液晶表示装置の視野角のばらつきを小さくさせることができる。
【0028】
本発明の延伸フィルムの面内方向のレターデーション(Re)および厚み方向レターデーション(Rth)は、液晶表示装置の設計によって異なるが、通常、Reは100〜300nm、Rthは100〜300nm程度の範囲から適宜選択される。なお、本発明におけるReは、フィルムの平均厚みTとしたときに、(n−n)×Tで定義される値であり、本発明におけるRthは、(((n+n)/2)−n)×Tで定義される値である。
【0029】
本発明の延伸フィルムは、Reのばらつきが通常10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内である。Reのばらつきを、上記範囲にすることにより、延伸フィルムから得られる位相差フィルムを液晶表示装置に用いた場合に、液晶表示装置の表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、Reのばらつきは、光入射角0°(入射光線と本発明の位相差フィルム表面が直交する状態)の時のReを位相差フィルムの幅方向に測定したときの、そのReの最大値と最小値との差である。
【0030】
本発明の延伸フィルムの平均厚みは、機械的強度などの観点から、好ましくは30〜80μm、さらに好ましくは30〜60μm、特に好ましくは30〜50μmである。
また、本発明の延伸フィルムの幅方向の厚みむらは最大値と最小値の差で、通常3μm以下、好ましくは2μm以下である。厚みむらがこのような範囲にあると、本発明の延伸フィルムを、高速で、長尺で巻き取ることができ、且つ、延伸フィルムから得られる位相差フィルムを液晶表示装置に用いた場合に、表示品質を良好なものにすることが可能になる。
【0031】
本発明の延伸フィルム中の残留揮発性成分の含有量は特に制約されないが、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。揮発性成分の含有量をこのような範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、Reや厚み方向のRthの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の延伸フィルムから得られる位相差フィルムを有する偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的に液晶表示装置のディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。残留揮発性成分の含有量が0.1重量%を超えると、延伸フィルムから得られる位相差フィルムの光学特性が経時的に変化するおそれがある。残留揮発性成分は、フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。残留揮発性成分の含有量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0032】
本発明の延伸フィルムの飽和吸水率は好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、ReやRthの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の延伸フィルムから得られる位相差フィルムを有する偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的に液晶表示装置のディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
飽和吸水率は、フィルムの試験片を一定温度の水中に一定時間、浸漬し、増加した質量の浸漬前の試験片質量に対する百分率で表される値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。本発明の延伸フィルムにおける飽和吸水率は、例えば透明樹脂中の極性基の量を減少させることにより、前記値に調節することができるが、好ましくは、極性基を持たない樹脂であることが望まれる。
【0033】
本発明の長尺の延伸フィルムの製造方法は、
長尺の熱可塑性樹脂フィルムを引き出しロールから引き出し、
該フィルムの両端を把持手段により把持し、予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンを通過させて該フィルムを延伸して、フィルムの幅方向から傾いた方向に面内の遅相軸を有する延伸フィルムとし、
該延伸フィルムの両端を把持手段から解放し、次いで、
該延伸フィルムを巻き取りロールに巻き取ることを含む。
以下、本発明の延伸フィルムの製造方法を、図面を参酌しながら説明する。図1は、本発明に用いる長尺のフィルム中間体の製造、及び、本発明の長尺の延伸フィルムの製造に、好適に用いることができるテンター延伸機の一例を示す概念図である。図2は、図1の延伸機におけるレール部分の把持手段を示した図である。図3は、図1の延伸機におけるレール配置を説明するための図である。
【0034】
図1に示すテンター延伸機は、引き出しロール<21>と、巻き取りロール<22>と、予熱ゾーン<A>、延伸ゾーン<B>及び固定ゾーン<C>からなる恒温室<10>と、フィルムを搬送するための把持手段が走行するレール<11>と把持手段<12>(図1及び図3では把持手段の図示を省略している。)とを少なくとも備えている。
把持手段<12>は、引き出しロール<21>から繰り出されたフィルムの両端を把持し、予熱ゾーン<A>、延伸ゾーン<B>及び固定ゾーン<C>からなる恒温室内にフィルムを導き、巻き取りロール<22>の手前でフィルムを開放する。把持手段から開放されたフィルムは巻き取りロール<22>によって巻き取られる。レール<11>は、末端のない連続した軌道を有し、上記のように走行した把持手段を、恒温室の出口側から入口側に戻すようになっている。
【0035】
フィルム<1>は、予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンからなる恒温室内を通過している間に、把持手段からの張力によってR倍に延伸される。なお、フィルムの延伸倍率は、フィルムの面内の遅相軸の方向に直交する面のフィルム断面積と、延伸前のフィルム断面積から求めた値である。
予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンは、それぞれ独立に温度を設定でき、それぞれのゾーンでは温度が、通常、一定に保たれている。
本発明方法においては、幅方向の厚みむらの制御のために、延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差を付けてもよい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。
予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンの長さは適宜選択でき、通常、延伸ゾーンの長さに対して、予熱ゾーンの長さが通常100〜150%、固定ゾーンの長さが通常50〜100%である。
【0036】
把持手段<12>は、例えば、配置の変形が可能なレール<11>上を走行する。レール<11>は、フィルムに所望の延伸倍率で延伸されるように、配置される。本発明においては、このレールの配置を、フィルム走行方向が下記に述べる方向になるように、設定する。なお、本発明においてフィルム走行方向は、フィルム引き出しロールからフィルム巻き取りロールまでのフィルム幅方向の中点を結んだ線の方向である。
予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境目<13>及び延伸ゾーンと固定ゾーンとの境目<14>には、フィルムが通過できるスリットを有する仕切板が設置されている。予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境目及び延伸ゾーンと固定ゾーンとの境目、すなわち、仕切板は、固定ゾーンのフィルム走行方向<49>に対して直角になっていることが好ましい。
【0037】
予熱ゾーンAは、フィルム走行方向<47>に直角な方向のフィルム長さを実質的に変えずにフィルムを温めながらフィルムを搬送するゾーンである。予熱ゾーンのフィルム走行方向<47>は、ロールからフィルムが引き出される方向に平行な方向であり、通常、引き出しロールの回転軸と直交している。
【0038】
延伸ゾーンBは、フィルム走行方向<48>に直角な方向のフィルム長さを大きくしながらフィルムを搬送するゾーンである。延伸ゾーンにおけるフィルム走行方向<48>は、延伸ゾーンが図1のように傾きを変えずに一定の角度で広がったレール配置においては、予熱ゾーンと延伸ゾーンの境目におけるフィルムの中点から延伸ゾーンと固定ゾーンの境目におけるフィルムの中点に結んだ直線の方向である。
【0039】
固定ゾーン<C>は、フィルム走行方向<49>に直角な方向のフィルム長さを実質的に変えずにフィルムを冷ましながらフィルムを搬送するゾーンである。固定ゾーンのフィルム走行方向<49>は、ロールにフィルムが巻き取られる方向に平行な方向であり、通常、巻き取りロールの回転軸と直交している。
【0040】
本発明の延伸フィルムの製造方法では、2回に分けて延伸を行う。まず、長尺の透明樹脂フィルムを、前記予熱ゾーン、前記延伸ゾーン及び前記固定ゾーンからなる恒温室内を有するテンター延伸機を用いて延伸して、フィルムの幅方向から、5〜50°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、長尺のフィルム中間体を得る。次いで、その長尺のフィルム中間体を、前記予熱ゾーン、前記延伸ゾーン及び前記固定ゾーンからなる恒温室内を有するテンター延伸機を再び用いて更に延伸し、フィルムの幅方向から、51〜85°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、長尺の延伸フィルムを得る。
すなわち、本発明の延伸フィルムの製造方法では、
(a)長尺の透明樹脂フィルムを第一のロール(ここでは、引き出しロールの機能を持つ)から引き出し、
該フィルムの両端を把持手段により把持し、第一の予熱ゾーン、第一の延伸ゾーン、および、第一の固定ゾーンを通過させて、該フィルムをR(倍)の延伸倍率で延伸し、
該フィルムの両端を把持手段から解放し、延伸されたフィルムを第二のロール(ここでは、巻き取りロールの機能を持つ)に巻き取って、
フィルムの幅方向から、5〜50°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、長尺のフィルム中間体を得る工程、次いで、
(b)該長尺のフィルム中間体を前記第二のロール(ここでは、引き出しロールの機能を持つ)から引き出し、
該フィルムの両端を把持手段により把持し、第二の予熱ゾーン、第二の延伸ゾーン、および、第二の固定ゾーンを通過させて該フィルムをR(倍)の延伸倍率で延伸し、
該フィルムの両端を把持手段から解放し、延伸されたフィルムを第三のロール(ここでは、巻き取りロールの機能を持つ)に巻き取って、
フィルムの幅方向から、51〜85°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、長尺の延伸フィルムを得る工程、を有する。
ここで、フィルムの幅方向と、フィルムの面内の遅相軸の方向とがなす角度は、小さい方の角度を指す。
なお、フィルム中間体の製造に用いるテンター延伸機と、延伸フィルムの製造に用いるテンター延伸機は、同一の延伸機であっても、異なる延伸機であってもよい。
【0041】
本発明の延伸フィルムの製造方法では、前記第一の延伸ゾーンの平均温度T(℃)、前記第二の延伸ゾーンの平均温度T(℃)、前記延伸倍率R及び前記延伸倍率Rが、
(c)T<T、及び、R<Rの関係を同時に満たす。
好ましくは、T+2℃<T、及び、R+0.8倍<Rの関係を同時に満たす。
このような関係を満足することにより、得られる延伸フィルムの幅方向の厚みむらが小さくなる。
【0042】
また、透明樹脂のガラス転移温度をTgとすると、Tg+5(℃)<Tを満たすことが好ましい。Tg+5(℃)<Tを満たすと、本発明の延伸フィルムの成形性が向上し、厚みむらがより小さくなる。
さらに、前記延伸倍率の総和、すなわち、R+Rは、好ましくは3.5〜5.0、より好ましくは3.7〜4.7となるように設定する。延伸倍率の総和がこのような範囲にあると、延伸フィルムの厚みむらがより小さくなる。延伸倍率の総和が3.5を下回ると、前記係数Nz値が1.3より大きくなるおそれがある。延伸倍率の総和が5.0を上回ると、延伸設備に過大な負荷がかかって把持手段等の破損を引き起こしたり、フィルムが破断したりするおそれがある。
【0043】
本発明方法では、予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンにおけるフィルム面が互いに略平行であることが好ましい。すなわち、引き出しロールから引き出されたフィルムは、捩れずに、平らなままで、予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンを通過し、巻き取りロールに巻き取られるのが好ましい。
【0044】
本発明方法では、前記把持手段の走行速度がフィルム両端で略等しく、且つ延伸開始点から延伸終了点までの前記把持手段の走行距離がフィルム両端で異なることが好ましい。延伸開始点とは、把持手段への荷重が大きくなる点を指し、延伸終了点とは、把持手段への荷重が大きくなった後に、その荷重が小さくなって再び一定になる点を指す。把持手段の走行速度は適宜選択できるが、通常、10〜100m/分である。
把持手段への荷重が大きくなる点は予熱ゾーンと延伸ゾーンの境目<13)付近にあり、把持手段への荷重が小さくなって再び一定になる点は延伸ゾーンと固定ゾーンとの境目<14>付近にある。従って、図2では、上側の把持手段の走行距離が下側の把持手段の走行距離よりも長くなっている。
【0045】
本発明方法は、図3に示すように、固定ゾーンのフィルム走行方向が、予熱ゾーンのフィルム走行方向から角度θ1傾いている。さらに、予熱ゾーンと延伸ゾーンの境目におけるフィルムの中点から延伸ゾーンと固定ゾーンの境目におけるフィルムの中点に結んだ直線の方向から角度θ2傾いていることが好ましい。θ1及びθ2はともに劣角であり、且つθ1とθ2は相互に同位角である。図3では下側にレールが屈曲しているが、図3の予熱ゾーンのフィルム走行方向の線を軸に線対称にした、上側に屈曲しているものであってもよい。θ1及びθ2はともに劣角であり、且つθ1とθ2は相互に同位角である。
前記角度θ1は(θs−5°)以上θs以下であることが好ましく、(θs−4°)以上θs以下であることがより好ましい。また、前記角度θ2が(θs+5°)よりも大きく(θs+10°)より小さいことが好ましく、(θs+6°)よりも大きく(θs+10°)より小さいことがより好ましい。θsは図3に示すように、本発明に用いるフィルム中間体又は本発明の延伸フィルムの面内の遅相軸50の、幅方向からの傾き角度(以下、配向角ということがある。)である。これら角度θ1及びθ2が上記範囲を満たすことによって、幅方向の厚みがより均一な延伸フィルムを得ることができる。なお、該フィルム中間体の製造においては、θs1が5〜50(°)の範囲になるように調整する。また、そのフィルム中間体を用いての、本発明の延伸フィルムにおいては、θs2が51〜85(°)の範囲になるように調整する。
【0046】
延伸ゾーンは、フィルム走行方向が変化せずに直線状になっていてもよいし、段階的又は連続的にフィルム走行方向が変化していてもよい。
延伸ゾーンのフィルム走行方向が段階的又は連続的に変化している場合には、延伸ゾーンにおけるフィルム走行方向と固定ゾーンのフィルム走行方向とが成す角度が(θs+5°)よりも大きくなっている走行範囲が、延伸ゾーンの全走行範囲の50%以上であることが好ましく、特に60%以上であることが好ましい。図4は延伸ゾーンのフィルム走行方向が段階的に変化するレール配置の一例を示す図である。図4では、延伸ゾーンの前半<52>においてフィルムは角度θ2−1を成す方向<48−1>に走行し、後半<51>においてフィルムは角度θ2−2を成す方向<48−2>に走行している。
【0047】
延伸ゾーンのフィルム走行方向は、予熱ゾーンのフィルム走行方向とは異なる方向に向かっていることが好ましい。すなわちθ1がθ2より小さくなっているので、レールの開き角度が左右で異なる(図2では上側のレールの開き角度が、下側のレールの開き角度より大きくなっている)。予熱ゾーンにおけるレールは平行に配置されているので、両端の把持手段<12>は、その一対を破線<20>で結ぶと、フィルム<1>の幅方向に略平行になっている。ところが、把持手段が延伸ゾーンに入ると、把持手段間を結ぶ破線<20>は、図2中、右方向に徐々に傾いてきて、下側把持手段が上側把持手段より先に進んだ位置になる。レールの開き角度は延伸倍率に応じて適宜選択できる。
【0048】
ここで、θ1とθ2とが同一になると、レールの開き角度が左右で同一になり、予熱ゾーンから延伸ゾーンまでの走行方向は一直線になり、延伸ゾーンに把持手段が入っても、延伸ゾーンにおける把持手段間を結ぶ線は予熱ゾーンにおける把持手段間を結ぶ線と平行のままである。
θ1がθ2よりも大きくなると、下側のレールの開き角度が、上側のレールの開き角度より大きくなり、把持手段間を結ぶ線は左側に傾くようになり、上側把持手段が下側把持手段より先に進んだ位置になる。これらのようになると、フィルムにたるみ等が生じて、幅方向の厚みが不均一になるおそれがある。
【0049】
固定ゾーンの走行方向は、図3に示すようにθ1の角度で予熱ゾーンの走行方向から傾いている。
すなわち、本発明方法では、
(d)前記第一の固定ゾーンのフィルムの走行方向は、前記第一の予熱ゾーンのフィルムの走行方向とは異なり、且つ、前記第二の固定ゾーンのフィルムの走行方向は、前記第二の予熱ゾーンのフィルムの走行方向とは異なっている。このような構成にすることにより、フィルムの幅方向から傾斜した方向に面内の遅相軸を有する延伸フィルムを効率的に得ることができる。
より具体的には、固定ゾーンのフィルム走行方向は、予熱ゾーンのフィルム走行方向から、把持手段の走行距離が短い側に傾いている。加えて、好ましい構成は、固定ゾーンのフィルム走行方向は、予熱ゾーンと延伸ゾーンの境目におけるフィルムの中点から延伸ゾーンと固定ゾーンの境目におけるフィルムの中点に結んだ直線の方向から、把持手段の走行距離が短い側に傾いている。このために、図中の上側把持手段は下側把持手段よりも遠回りすることになる。把持手段が固定ゾーンに達するときには、フィルム両端の把持手段は、図2中、下側把持手段は上側把持手段よりも先の位置に進んでいることになる。
前記フィルム中間体の製造においては、第一の固定ゾーンのフィルムの走行方向は、第一の予熱ゾーンのフィルムの走行方向から、5〜50°の範囲内で傾いていることが好ましい。
本発明の延伸フィルムの製造においては、第二の固定ゾーンのフィルムの走行方向は、第二の予熱ゾーンのフィルムの走行方向から、5〜50°の範囲内で傾いていることが好ましい。
【0050】
以上のようにして恒温室内を通過したフィルムは、巻き取りロールの手前で把持手段から開放され、巻き取りロールに巻き取られる。このようにして得られたフィルムは、幅方向に対して傾いた方向に面内の遅相軸を有する。しかも、厚さが幅方向で均一である。
【0051】
本発明の延伸フィルムを形成する透明樹脂を、フィルム状に成形する方法としては、公知の成形方法を採用することができる。例えば、加熱溶融成形法、溶液流延法のいずれも採用することができるが、シート中の揮発性成分を低減させる観点から、加熱溶融成形法を用いることが好ましい。
【0052】
加熱溶融成形法は、さらに詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度および表面精度などに優れる延伸フィルムが得られる観点から、溶融押出し成形法を用いることが好ましい。
【0053】
本発明の長尺の延伸フィルムと、長尺の偏光子とを、それらの長手方向を揃えて積層することによって、長尺の積層フィルムを得ることができる。
本発明に用いる偏光子は、直角に交わる二つの直線偏光の一方を透過し、他方を吸収するものであり、例えば、ポリビニルアルコールフィルムやエチレン酢酸ビニル部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸させたもの、前記親水性高分子フィルムを一軸延伸して二色性物質を吸着させたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルムなどが挙げられる。偏光子の厚さは、通常5〜80μmである。
【0054】
本発明の延伸フィルムを偏光子の両面に積層させても片面に積層させてもよく、また積層する数にも特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。
偏光子の片面のみに、延伸フィルムを積層した場合は、残りの片面に偏光子の保護を目的として、適宜の接着層を介して保護フィルムを積層してもよい。
【0055】
保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れる樹脂を有するフィルム等が好ましく用いられる。その樹脂の例としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート重合体、脂環式オレフィンポリマー、ポリオレフィン重合体、ポリカーボネート重合体、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル重合体、ポリ塩化ビニル重合体、ポリスチレン重合体、ポリアクリロニトリル重合体、ポリスルフォン重合体、ポリエーテルスルフォン重合体、ポリアミド重合体、ポリイミド重合体、アクリル重合体等が挙げられる。
【0056】
本発明の長尺の積層フィルムを得るための好適な製造方法は、ロール状に巻かれた前記の長尺の延伸フィルム及びロール状に巻かれた長尺の偏光子を同時にロールから引き出しながら、該延伸フィルムと該偏光子とを密着させることを含む方法である。延伸フィルムと偏光子との密着面には接着剤を介在させることができる。延伸フィルムと偏光子とを密着させる方法としては、二本の平行に並べられたロールのニップに延伸フィルムと偏光子を一緒に通し圧し挟む方法が挙げられる。
【0057】
本発明の長尺の延伸フィルム又は長尺の積層フィルムは、その使用形態に応じて所望の大きさに切り出して、位相差フィルム又は偏光板として用いられる。この場合、長尺のフィルムの長手方向に対して、垂直又は平行な方向に沿って切り出すことが好ましい。
【0058】
本発明の液晶表示装置は、前記の長尺の延伸フィルム又は長尺の積層フィルムから切り出された位相差フィルム又は偏光板を備えるものである。本発明の液晶表示装置の一例としては、液晶の配向を電圧の調整で変化させることができる液晶パネルと、それを挟むように配置される本発明の偏光板とで構成されるものが挙げられる。また、位相差フィルムは、光学補償、偏光変換などのために液晶表示装置に用いられる。なお、液晶表示装置には、液晶パネルに光を送りこむために、表示面の裏側に、透過型液晶表示装置ではバックライト装置が、反射型液晶表示装置では反射板が、通常備えられている。なお、バックライト装置としては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。本発明の液晶表示装置としては、反射型表示方式の液晶パネルを備える反射型液晶表示装置が好ましい。液晶パネルはその表示モードによって特に制限されない。例えば、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モードなどを挙げることができる。本発明の液晶表示装置には、その他に、プリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【0059】
本発明の延伸フィルムは、液晶表示装置以外に、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置に適用することができる。
【実施例】
【0060】
本発明を、実施例及び比較例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
(1)厚み
スナップゲージ(ミツトヨ社製、ID−C112BS)を用いてフィルムの幅方向に5cm間隔で厚みを測定し平均値を求める。次に最大値−最小値の値を厚みむらとした
(2)配向角
偏光顕微鏡(NICON社製、BX51)を用いてフィルムの幅方向に5cm間隔で面内方向の遅相軸を測定し、その平均値を算出して配向角を求めた。また、遅相軸から求めた配向角の最大値と最小値の差を配向角のばらつきとした
(3)Nz値
位相差計(王子計測社製、KOBRA21−ADH)を用いてフィルムの幅方向に5cm間隔で測定して平均値を算出し係数Nz値を求めた。
【0061】
実施例1
ノルボルネン系樹脂のペレット(日本ゼオン社製、ZEONOR1420)を100℃で5時間乾燥し、押出し機に供給し、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経てTダイからキャスティングドラム上にシート状に押出し、冷却し、厚み160μmの長尺の未延伸フィルム(0)を得た。未延伸フィルム(0)はロールに巻き取った。
次いで、未延伸フィルム(0)をロールから引き出して、図3に示すようなレールパターンに設定したテンター延伸機(1)に連続的に供給して、配向角が45(°)である長尺のフィルム中間体(2)を得た。テンター延伸機(1)は、表1に示す角度、温度、延伸倍率に設定した。なお、フィルム中間体(1)の、テンター延伸機内において上方を向いていた面を(i)面とする。フィルム中間体(1)はロールに巻き取った。
さらに、フィルム中間体(1)をロールから引き出して、(i)面を上に向けて、図3に示すようなレールパターンに設定したテンター延伸機(2)に連続的に供給して、1300mm幅の長尺の延伸フィルム(A)を得た。テンター延伸機(2)は、表1に示す角度、温度、延伸倍率に設定した。延伸フィルム(A)はロールに巻き取った。
【0062】
透過軸が幅方向に平行な、長尺の偏光板(サンリッツ社製、HLC2-5618S、厚さ180μm)と、フィルムの幅方向から15°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、Reが270nmである長尺の延伸フィルム(R)と、前記長尺の延伸フィルム(A)とを、この順にロール・トウ・ロールで貼り合わせることにより、長尺の光学素子を得た。この際、延伸フィルム(R)の面内の遅相軸と、延伸フィルム(A)の面内の遅相軸とがなす角度が60°となるように貼り合わせた。さらに、この光学素子を所定の大きさに切り取って偏光板(P1)を得た。
次いで、市販の反射型液晶装置に備える偏光板を、前記偏光板(P1)に置き換えた。この際、前記延伸フィルム(A)を貼り合わせた側が液晶セル側に配置されるように組み込んだ。得られた液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、表示は良好かつ均一であった。
【0063】
実施例2
表1示す条件に変えた他は実施例1と同様にして、1300mm幅の長尺の延伸フィルム(B)、及び、偏光板(P2)を得た。得られた延伸フィルム(B)の特性値の測定結果を表1に示す。偏光板(P2)を、市販の反射型液晶装置の液晶表示装置の偏光板と置き換え、前記延伸フィルム(B)を貼り合わせた側が液晶セル側に配置するように組み込んだ。得られた液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、表示は良好かつ均一であった。
【0064】
比較例1
特開平2−113920に記載の手法に準じて、実施例1で得られた未延伸フィルム(0)を、表1に示す角度、温度、延伸倍率に設定したテンター延伸機に連続的に供給して、配向角が75°である延伸フィルム(C)を得たが、フィルムの幅方向の厚みむらが大きく、ロールに巻き取ることができなかった。延伸フィルム(C)の特性値の測定結果を表1に示す。
【0065】
比較例2
表1示す条件に変えた他は実施例1と同様にして1300mm幅の延伸フィルム(D)を得た。得られた延伸フィルム(D)の特性値の測定結果を表1に示す。
【0066】
比較例3
表1示す条件に変えた他は実施例1と同様にして1300mm幅の延伸フィルム(E)を得た。得られた延伸フィルム(E)の特性値の測定結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示した結果から以下のことがわかる。
本発明方法により製造された実施例1や実施例2の長尺の延伸フィルムは、1300mm幅に渡って、厚みむらが小さく、面内の遅相軸のばらつきが小さく、且つ、係数Nz値が小さい。
これに対して、比較例1で示されるように、フィルムの幅方向から50°を超える方向に面内の遅相軸を有するフィルムを、1回の延伸で得ようとすると、そこで得られる延伸フィルムは、係数Nz値は小さくなるものの、ロールに巻き取れないほど厚みむらが極端に大きくなり、面内の遅相軸のばらつきが大きくなる。
また、比較例2の長尺の延伸フィルムの製造では、1回目の延伸(延伸フィルム中間体を製造する段階)の延伸ゾーンの平均温度Tより、2回目の延伸(延伸フィルム中間体を、さらに延伸する段階)の延伸ゾーンの平均温度Tの方が小さくなっているので、その延伸フィルムは、係数Nz値は小さくなるものの、厚みむらが大きく、面内の遅相軸のばらつきが大きくなる。また、得られる延伸フィルムは、液晶表示装置の光学補償効果が不十分である。
さらに、比較例3の長尺の延伸フィルムの製造では、1回目の延伸の延伸倍率Rより、2回目の延伸の延伸倍率Rの方が小さくなっているので、そこで得られる延伸フィルムは、係数Nz値は小さくなるものの、厚みむらが大きく、面内の遅相軸のばらつきが大きくなる。また、その延伸フィルムは、液晶表示装置の光学補償効果が不十分である。
【符号の説明】
【0069】
1:フィルム
10:恒温室
11:レール
12:把持手段
13:予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境目
14:延伸ゾーンと固定ゾーンとの境目
21:引き出しロール
22:巻き取りロール
47:予熱ゾーンのフィルム走行方向
48:延伸ゾーンのフィルム走行方向
48−1:延伸ゾーン前半のフィルム走行方向
48−2:延伸ゾーン後半のフィルム走行方向
49:固定ゾーンのフィルム走行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)長尺の透明樹脂フィルムを第一のロールから引き出し、
該フィルムをR(倍)の延伸倍率で延伸し、
延伸されたフィルムを第二のロールに巻き取って、
フィルムの幅方向から、5〜50°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、長尺のフィルム中間体を得る工程、次いで、
(b)該長尺のフィルム中間体を第二のロールから引き出し、
該フィルムをR(倍)の延伸倍率で延伸し、
延伸されたフィルムを第三のロールに巻き取って、
フィルムの幅方向から、51〜85°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、長尺の延伸フィルムを得る工程、を有し、
該延伸フィルムの面内の遅相軸のばらつきが、該フィルムの全幅に渡って1°以内であり、且つ、
該延伸フィルムは、波長550nmの光に対する、面内の遅相軸方向の屈折率をn、面内の遅相軸と面内で直交する方向の屈折率をn、厚さ方向の屈折率をnとしたとき、(n−n)/(n−n)で表される係数Nz値が1.3以下であることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
(a)前記長尺のフィルム中間体を得る工程が、
長尺の透明樹脂フィルムを第一のロールから引き出し、
該フィルムの両端を把持手段により把持し、第一の予熱ゾーン、第一の延伸ゾーン、および、第一の固定ゾーンを通過させて、該フィルムをR(倍)の延伸倍率で延伸し、
該フィルムの両端を把持手段から解放し、延伸されたフィルムを第二のロールに巻き取って、
フィルムの幅方向から、5〜50°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、長尺のフィルム中間体を得る工程であり、
(b)前記長尺の延伸フィルムを得る工程が、
該長尺のフィルム中間体を第二のロールから引き出し、
該フィルムの両端を把持手段により把持し、第二の予熱ゾーン、第二の延伸ゾーン、および、第二の固定ゾーンを通過させて該フィルムをR(倍)の延伸倍率で延伸し、
該フィルムの両端を把持手段から解放し、延伸されたフィルムを第三のロールに巻き取って、
フィルムの幅方向から、51〜85°傾いた方向に面内の遅相軸を有する、長尺の延伸フィルムを得る工程である、
請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
(c)前記第一の延伸ゾーンの平均温度をT(℃)、前記第二の延伸ゾーンの平均温度をT(℃)をとしたときに、
<T、及び、R<Rを満たす、
請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
(d)前記第一の固定ゾーンのフィルムの走行方向が、前記第一の予熱ゾーンのフィルムの走行方向とは異なり、且つ、
前記第二の固定ゾーンのフィルムの走行方向が、前記第二の予熱ゾーンのフィルムの走行方向とは異なる、
請求項2又は3記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−150513(P2012−150513A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−92301(P2012−92301)
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【分割の表示】特願2005−283267(P2005−283267)の分割
【原出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】