延長された重合時間を有するよう改変した生分解性高分子によって保護された、非細胞軟骨又は骨軟骨病変部位内に埋め込まれる非細胞基質、その調製方法及び使用方法
関節軟骨又は骨軟骨病変部位内へ埋め込むための非細胞基質インプラント及びその製造方法。延長した重合時間を有する保護生分解性高分子バリア及びその調製方法。
骨誘導性組成物。関節軟骨又は骨軟骨傷害の治療方法。
骨誘導性組成物。関節軟骨又は骨軟骨傷害の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本出願は、2003年8月20日に出願された米国仮特許出願第60/496,971号に基づく優先権を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、延長された重合時間を有するように改変した生分解性高分子バリアによって保護された関節軟骨又は骨軟骨病変部位に埋め込む非細胞基質インプラントに関する。本発明は更に、関節軟骨又は骨軟骨欠損及び傷害の治療のための組成物と、関節軟骨病変及び骨軟骨欠損部位の双方又はいずれか一方内に非細胞基質インプラントを埋め込み、骨軟骨欠損の場合には更に骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを埋め込む、関節軟骨及び骨軟骨欠損の治療方法に関するものである。特に、本発明は、2〜10分、好ましくは3〜5分の延長された重合時間を有するように改変された保護生分解性高分子バリアによって保護された関節軟骨又は骨軟骨病変部位に埋め込む非細胞基質インプラントに関するものである。
【0003】
本発明の非細胞基質インプラントは、2次元又は3次元の生分解性スキャフォルド構造を有し、延長された重合時間を有するように改変した生物学的に許容されうる生分解性高分子層の上、又は高分子層の下、又は高分子層の間にある関節軟骨部位に埋め込まれるものである。
【0004】
関節軟骨の治療方法は、非細胞インプラントを隔離するバリアとして改変保護生分解性高分子バリアを調製するステップと、非細胞インプラントを調製するステップと、このインプラントを埋め込む病変部位を準備する準備ステップであって関節軟骨病変を封止しインプラントを血液由来の物質の影響から保護するために第1の保護生分解性高分子バリアを軟骨病変部位の底部に沈着するステップを有する当該準備ステップと、本発明のインプラントをこの病変部位内に埋め込むステップと、このインプラント上に第2の保護生分解性高分子バリアを沈着するステップとを含む。
【0005】
骨軟骨欠損の治療方法は更に、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に沈着し、この骨病変部位を保護生分解性高分子バリアによって覆い、これによりこの骨病変部位と軟骨病変部位とを互いに分離させるステップを有する。
【0006】
加えて、本発明は、本発明の非細胞インプラント、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアの製作方法、並びに2〜10分の延長された重合時間を有する保護生分解性高分子の調製方法に関する。
【0007】
背景技術及び関連出願
活発な人及び老人に起こる関節軟骨への損害は、急性又は反復性の外傷や老化により、極めて頻繁に起こる。このような損傷した軟骨は疼痛を伴い、移動するのに影響を与え、衰弱性の障害を引き起こす。
【0008】
代表的な治療選択肢には、病変や症状の重傷度にもよるが、安静及び他の対症療法や、損傷した軟骨領域の表面を清掃して平滑にする関節鏡的小手術や、微小破壊、穿孔及び剥離のような他の外科手術がある。これらの治療法は全て症状を軽減しうるが、特にその人の傷害前の活動レベルが維持されるとすれば、その効果は通常、一時的なものでしかない。例えば、重傷で慢性的な膝関節軟骨の損傷では、関節軟骨の破壊が進み、最終的には膝関節全体を置換をすることになるおそれがある。現在、年間約200,000件の膝関節全体の置換手術が行われている。人工関節は一般に、10〜15年しかもたないため、一般的に50歳以下の人には推奨されない。
【0009】
骨軟骨疾患又は傷害は、骨及び軟骨の複合病変であり、治療にはまだ課題が残っており、現在利用可能な手順及び方法ではこのような治療における要求は満たされていない。例えば、文献J. Bone and Joint Surgery(2003);85Aの補遺第17〜24頁に記載されている、自己軟骨細胞移植による離断性骨軟骨炎の治療では、複数の手術が必要であり、細胞の培養及び成長に少なくとも3週間が必要となる。
【0010】
従って、1回の手術で軟骨又は骨を傷害前の状態に効果的に治療し、回復までにかかる時間も最小限ですむような、このような病変の生位置治療法が利用可能となることは極めて有利であり、このような治療法は特に、より活動的でより回復能力の高い若年者に好適である。
【0011】
関節軟骨の修復手段及び方法を提供する試みは、例えば、米国特許第5,723,331号、第5,786,217号、第6,150,163号、第6,294,202号、及び第6,322,563号明細書、並びに米国特許出願第09/896912号(2001年6月29日出願)明細書に開示されている。
【0012】
米国特許第5,723,331号には、接着性表面を有する生体外のウェルに接種して生体外で増殖させた軟骨由来の細胞を用いた、関節軟骨を修復するための合成軟骨を調製する方法及びその組成物が記載されている。これらの細胞は、再分化して軟骨特異的な細胞外基質を分泌し始め、これにより、無限の合成軟骨を関節欠損部位に手術的に付与する。
【0013】
米国特許第5,786,217号では、多細胞層の合成軟骨パッチを調整する方法が記載されている。この調製方法は、上述した米国特許第5,723,331号のものとほぼ同じであるが、剥離した細胞が分化しない点と、細胞の培養を、細胞が分化して多細胞層の合成軟骨を形成するのに必要な時間だけ行うという点において異なっている。
【0014】
米国特許出願第09/896,912号(2001年6月29日出願)は、軟骨、半月板、靭帯、腱、骨、皮膚、角膜、歯周組織、膿瘍、切除腫瘍及び潰瘍を、組織に接着して組織修復のための細胞増殖を支持するような少なくとも1種類の血液成分と組み合わせて、組織内に温度依存性高分子ゲルを導入することによって修復する方法に関する。
【0015】
本明細書に参考として組み込んだ、本発明者による米国特許出願第10/104,677号、第10/625,822号、第10/625,245号及び、第10/626,459号(2003年7月22日出願)明細書では、傷害を受けた又は損傷した関節軟骨の修復に好適なある特定の条件のアルゴリズムで処理された、軟骨構造体が開示されている。
【0016】
しかし、上述した引用文献はいずれも、複数回の手術の必要とせずに骨又は軟骨を生体位で修復及び再生することはできない。
【0017】
組織シーラントとして組織に接着するのに有用な、1分未満の重合時間を有し、生体位でゲルを急速に形成する急速ゲル化高分子組成物が、米国特許第6,312,725号及び第6,624,245号明細書並びに文献J. Biomed. Mater. Res.(2001年)58:第545〜555頁及びthe American Surgeon(2002年)68:第553〜562頁に開示されている。これらのシーラントは、数秒〜1分という非常に急速な重合時間を有しており、これは本発明の目的で隔離バリアをして用いるには実際的ではない。その理由は、外科医が隔離バリアを軟骨又は骨軟骨病変部位の底部に沈着し、高分子を病変部位の底部及びインプラント上に均一に被着するには、少なくとも2分、好ましくは少なくとも3〜5分必要だからである。
【0018】
従って、本発明の主目的は、傷害又は外傷を受けた軟骨又は軟骨骨病変の治療方法又は手段であって、非細胞基質インプラントと、骨誘導性組成物又はこの骨誘導性組成物を有するキャリアと、延長された重合時間を有する保護生分解性高分子を準備し、これら2層の保護生分解性高分子間の空所内にこの非細胞インプラントを埋め込むことによる当該軟骨又は軟骨骨の治療の方法及び手段を提供することである。本発明に従って実行される方法により、健常な硝子関節軟骨が形成され回復される。
【0019】
本願明細書において引用する全ての特許、特許出願及び刊行物は、参考として組み込まれたものである。
【0020】
発明の概要
本発明の態様の一つは、関節軟骨の欠損及び傷害の治療のための非細胞基質インプラントである。
【0021】
本発明の他の態様は、骨軟骨欠損及び傷害の治療のための、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアと組み合わせて用いる非細胞基質インプラントである。
【0022】
本発明のさらにもう一つの態様は、本発明の非細胞基質インプラントの製造方法である。
【0023】
本発明のさらに別の態様は、スポンジ、ハニカム、スキャフォルド、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)、芳香族性有機酸からなる高分子又は吸収性カプロラクトン高分子である非細胞基質インプラントの調製方法である。
【0024】
本発明の更に別の態様は、非細胞インプラントを埋め込むとともに、骨誘導性組成物若しくはこの組成物を有するキャリアを、生体位で骨軟骨病変部位内へ沈着させることにより、骨軟骨欠損を治療する方法である。
【0025】
更にまた本発明の他の態様は、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨軟骨病変部位に沈着するのと組み合わせて、非細胞基質インプラントを軟骨病変部位内に埋め込むことにより、骨軟骨病変を治療する方法である。
【0026】
本発明のさらに別の態様は、骨軟骨欠損の骨病変部位内に沈着する骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアであって、脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、若しくはこれらの共重合体、又は骨形態形成タンパクといった骨誘導性薬剤を含む当該骨誘導性組成物及びこの組成物を有するキャリアである。
【0027】
更にまた、本発明の他の態様は、軟骨病変部位内に非細胞基質インプラントを埋め込むのと組み合わせて、骨軟骨欠損の骨病変部位内に沈着させる骨軟骨欠損の治療に有用な骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアである。
【0028】
更にまた、本発明の他の態様は、非細胞基質インプラントを軟骨病変部位内に埋め込むのと組み合わせて、又は骨軟骨欠損の治療に有用な骨軟骨インプラントを埋め込むのと組み合わせて、骨欠損部位の治療のために、骨病変部位内に沈着させる、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアである。
【0029】
本発明のさらにもう一つの態様は、関節軟骨病変部位内に埋め込んだ非細胞基質インプラントを用いて、傷害若しくは損傷を受け、又は病変若しくは老化した関節軟骨を治療する方法であって、第1の保護生分解性高分子バリアを病変部位の底部に被着させて、この底部に被着した第1の保護生分解性高分子バリアが、細胞及び血液中の破片が軟骨下領域から病変部位内に移動するのを防ぐことで病変部位を保護し、更に第2の保護生分解性高分子バリアをこの病変部位の上に設置することによって、関節軟骨の病変部位を被覆してこれを保護する新たな表層性軟骨層を形成する処理を有する。
【0030】
本発明の他の態様は、骨誘導性薬剤を有する骨誘導性組成物、又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に沈着し、この骨誘導性組成物の上に第1の保護生分解性高分子バリアを沈着し、非細胞基質インプラントを関節病変部位内に埋め込み、非細胞基質インプラントの上に第2の保護生分解性高分子バリアを沈着することによって、骨軟骨欠損を治療する方法である。
【0031】
本発明の別の態様は、細胞毒性が無く、延長された重合時間を有するように改変された保護生分解性高分子バリアであって、当該高分子が、直鎖又は枝分れ鎖のテトラ−スクシンイミジル誘導ポリエチレングリコール、及び直鎖又は枝分れ鎖のテトラ−チオール誘導ポリエチレングリコールを組み合わせて、更にアルキル化コラーゲンで架橋されたものを有し、且つ細胞及び組織に対して実質的に非毒性で、2分以上の重合時間を有し、pHが7.5以下になるように改変された当該保護生分解性高分子バリアの調製方法である。
【0032】
本発明のさらに別の態様は、軟骨又は骨病変部位の治療に用いる非細胞基質インプラントであって、生物学的に許容されうる2層の保護生分解性高分子間にある関節軟骨病変部位内に埋め込まれる、2次元又は3次元の生分解性スポンジ、ハニカム、ヒドロゲル、スキャフォルド又は芳香族性有機酸基質を有する当該非細胞インプラントである。
【0033】
更にまた、本発明の他の態様は、関節軟骨損傷の治療方法であって、
a) 非細胞基質インプラントを調製するステップと、
b)前記インプラントを埋め込むために軟骨病変部位を準備するステップであって、この病変部位を封止してインプラントを血液由来の物質から保護するために、前記軟骨病変部位の底部に第1の保護生分解性高分子バリア層を沈着するステップを有する当該準備ステップと、
c)この病変部位内に前記インプラントを埋め込むステップと、
d)この非細胞基質インプラント上に第2の保護生分解性高分子バリアを沈着するステップと
を有する治療方法であって、前記第1及び第2の保護生分解性高分子は共に、少なくとも2分以上の延長された重合時間を有する治療方法である。
【0034】
更にまた、本発明の他の態様は、損傷若しくは障害を受け、又は病変若しくは老化した軟骨を機能的な軟骨に修復及び回復する方法であって、
a)コラーゲンスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、ハニカム、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)、芳香族性有機酸基質の高分子又は吸収性カプロラクトン高分子として非細胞基質インプラントを調製するステップであって、前記スポンジ、前記スキャフォルド、前記芳香族性有機酸の高分子又はTRGHは生分解性であり、時間が経つと分解されて、治癒した病変部位から代謝的に取り除かれ、硝子軟骨に置き換わるようになっており、前記非細胞基質インプラントが、随意的にではあるが、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ、カテプシン及びその他生物学的に活性のある物質のいずれか又はこれらの任意の組み合わせのような基質再構築酵素を含むようにする当該ステップと、
b)前記軟骨病変部位の底部に、2〜10分の延長された重合時間を有するように改変された第1の保護生分解性高分子バリア層を導入するステップと、
c)前記インプラントを、前記保護生分解性高分子バリアの底部層によって保護された前記病変部位内に埋め込むステップと、
d)前記インプラントの上に第2の保護生分解性高分子バリアを導入するステップであって、この保護生分解性高分子バリアは、底部の前記第1の保護生分解性高分子バリアと同じものであっても異なるものであってもよく、このインプラントとこの第2の保護生分解性高分子バリアを組み合わせることにより、前記軟骨病変部位上に表層性軟骨層が形成され成長されるようにする当該ステップと
を有する。
【0035】
本発明のさらに別の態様は、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)を有する非細胞基質インプラントであって、これは底部保護生分解性高分子バリア層の上にある、第2の保護生分解性高分子バリア層に被覆される病変腔内に埋め込まれるものであり、前記TRGHは、コラーゲンスポンジ又はスキャフォルドに組み込まれて、又はゾルとして、前記病変部位内に約3〜30℃の温度で埋め込まれるものであり、このTRGHは前記病変部位内において、体温で流体のゾルから固体のゲルに変化し、この状態でこのTRGHが存在することにより、細胞外基質の形成及び硝子軟骨の生成が構造的に支持されるようになっており、このTRGHは、生分解性であり、経時的に分解し前記病変部位から代謝的に取り除かれ、硝子軟骨により置き換えられるようになっているものである。
【0036】
更にまた、本発明の他の態様は骨軟骨欠損の治療方法であって、
a)骨病変部位内に埋め込むための、1種類又は数種類の骨誘導性薬剤を含む骨誘導生組成物又はこの組成物を含んだキャリアを調製するステップと、
b)コラーゲンスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、ハニカム又は温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)基質支持体として、軟骨病変部位内に埋め込む非細胞基質インプラントを調製するステップであって、前記スポンジ、前記スキャフォルド又は前記TRGHは生分解性であり、時間が経過すると分解して、病変部位から代謝的に取り除かれ、硝子軟骨に弛緩されるようになっており、前記非細胞基質は、随意的であるが、基質改変酵素、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンを含むようにする当該ステップ
c)前記骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に導入するステップと、
d)前記骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアをだ第1の改変保護生分解性高分子バリアにより被覆するステップと、
e)この第1の保護生分解性高分子バリアの上の前記軟骨病変部位内に前記非細胞基質インプラントを埋め込むステップと、
f)このインプラント上に、第2の改変保護生分解性高分子バリアを導入するステップであって、これら第1及び第2の保護生分解性高分子は同じものであっても異なるものであってもよく、この非細胞基質インプラントとこの第2の保護生分解性高分子バリアを組み合わせることにより、生体位において軟骨病変部位を覆う表層性軟骨層が形成され成長されるようにする当該ステップと
を有する。
【0037】
図1Aは、傷害を受けていない骨を下方に有するホスト軟骨内の軟骨病変部位の線図的拡大図であり、この病変部位の底部に沈着した第1の保護生分解性高分子バリアと、この第1の保護生分解性高分子バリア層上に埋め込まれ、第2の保護生分解性高分子バリアで被覆された非細胞基質インプラントが示されている。
図1Bは、骨軟骨欠損の線図的拡大図であり、関節病変部位、及び骨病変部位と、この骨病変部位での骨誘導性組成物(骨材料)又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、第1及び第2の保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
図1Cは、骨欠損部位の線図的拡大図であり、関節病変部位と、骨軟骨及び骨格骨の複合病変部位と、この骨病変部位又は骨軟骨病変部位内における骨誘導性組成物又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、第1及び第2の保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
図1Dは、非細胞基質インプラントの埋め込み部位又は空の対照欠損部位として用いるための、体重支持領域に形成された欠損部位A及びBを示す。
図2Aは、鉗子で把持した非細胞基質インプラントの画像である。スポンジの実寸法は、直径5mm、厚さ1.5mmである。
図2Bは、非細胞基質スポンジのハニカム構造の長手方向線図であり、コラーゲンスポンジと、多孔質コラーゲンゲルとの相対的位置を示しており、細孔の寸法は200〜400μmである。
図3は、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの空の対照欠損部位A及びB(直径4mm、深さ1〜1.5mm)の顕微鏡画像を示している。
図4は、非細胞インプラントを埋め込だ、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの欠損部位A及びBの顕微鏡画像を示している。欠損は、直径4mm、深さ1〜1.5mmである。インプラントは、直径5mm、厚さ1.5mmである。各インプラントは、吸収性縫合糸を4針、非吸収性縫合を2針使用して縫合されている。欠損部位の底部は、第1の保護生分解性高分子バリアで裏打ちされており、インプラントは第2の保護生分解性高分子バリアで被覆されている。
図5は、欠損作成後2週間の時点における、空の欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示しており、欠損部位は完全にむき出しで空になっている。
図6は、欠損作成後2週間の時点における、非細胞基質インプラントで治療した欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示している。
埋め込み部位を覆っている表層性軟骨層が、欠損部位上に平滑な表面を形成している。
図7は、修復組織の組織学的等級付けを示すグラフである。
図8Aは、対照部位(A)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図8Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。欠損部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。線維組織(F)が空の欠損部位に形成されているのが図8A及び図8Bの両方の図において見られる。空の欠損部位には線維血管パンヌス(F)が形成されており、このことはS−GAGの蓄積がないことにより示される。
図9Aは、対照部位(B)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図9Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。欠損部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。線維組織(F)が空の欠損部位に形成されている様子が、図9A及び図9Bの両方で見られ、S−GAGは僅かしか蓄積していない。
図10Aは、埋め込み部位(A)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図10Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。埋め込み部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。表層性軟骨層が埋め込み部位を覆っているのが示されている。
図10A及び10Bの両方で埋め込み部位における、通常のS−GAGの蓄積及び硝子状軟骨の形成が観察された。
図11Aは、埋め込み部位(B)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図11Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。埋め込み部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれる。表層性軟骨層が埋め込み部位を覆っているのが示されている。
図11A及び11Bの両方で、埋め込み部位における通常のS−GAG(*)の蓄積及び硝子状軟骨の形成が観察された。
図12A〜F、非細胞基質埋め込み後3ヶ月の時点での、インプラント上に設置された第2の保護生分解性高分子バリアの生体内での分解パターンを示している。新たに形成された表層性軟骨層がインプラントを覆っている。
図12は明らかに、埋め込み後3ヶ月の時点で、第2の保護生分解性高分子バリアが部分的に分解していることを示している。
図12Aは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の表面図を示す。
図12Bは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の側面図を示す。
図12Cは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の底面図を示す。
図12Dは、免疫染色を施した保護生分解性高分子バリアの表面図を示す。
図12Eは、免疫染色を施した保護生分解性高分子バリアの側面図を示す。
図12Fは、免疫染色を施した保護生分解性高分子バリアの底面図を示す。サフラニン−O染色は、赤色調に見え、S−GAGの蓄積を示す。茶色は、免疫組織化学的に処理したサンプルにおける、残留している高分子を示す。
図13は、ミニブタの大腿顆に作成した、採取後の全層欠損(D)の画像の例を倍率72倍で示す。周囲のホスト軟骨(H)、軟骨下骨領域(SB)及び残留している石灰化軟骨領域も示されている。
図14は、ブタの大腿顆に埋め込んだ、重合時間を延長しほぼ非毒性な生分解性高分子に改変したCT3シーラントの毒性と、改変していないCT3シーラントの毒性とを、無治療の何もしていない対照群と比較して示す。
図14A(側面図)及び図14B(底面図)はともに、緑色に染色された生細胞、及び赤色に染色された死細胞の分布を示している。
図14C(側面図)及び図14D(底面図)は、底部高分子バリアとしてpH3.4の改変していないCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
図14E(側面図)及び図14F(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH6.5に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
図14G(側面図)及び図14H(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH7.0に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
図14I(側面図)及び図14J(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH7.5に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
図15は、図14A〜14Jに示すように改変した生分解性高分子の引張剪断試験の結果を示す。
【0038】
定義
本願明細書において用いられる用語は以下のように定義されるものである。
【0039】
「非細胞」とは、インプラントが生物学的活性を有するいかなる細胞も含まないことを意味する。
【0040】
「非細胞基質インプラント」又は「非細胞インプラント」とは、生物学的に許容されうるインプラントであって、コラーゲンスポンジ、コラーゲンハニカム、コラーゲンスキャフォルド、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル、芳香族性有機酸の高分子又は吸収性カプロラクトンの形態をとり、生高分子が物学的活性を有するいかなる細胞も含まず、軟骨細胞が内部に移動しうる基質(マトリクス)を形成するものを意味する。
【0041】
「関節軟骨」とは、例えば膝関節のような、関節の硝子軟骨を意味する。
【0042】
「軟骨下の」とは、関節軟骨の下にある骨を意味する。
【0043】
「軟骨下骨」とは、石灰化軟骨領域の直下にあり、且つ手肢の骨構造の大部分を形成する海綿骨又は骨梁の上にある、非常に高密度であるが薄い骨層を意味する。
【0044】
「骨軟骨の」とは、病変の生じる軟骨及び骨の複合領域を意味する。
【0045】
「骨軟骨欠損」とは、軟骨及びその下の骨からなる複合病変部位を意味する。
【0046】
「骨欠損」又は「骨病変」とは、軟骨下骨領域の下にある欠損、すなわち骨格骨の欠損又は病変となるような欠損を意味する。
【0047】
「骨芽細胞」とは、骨を形成する細胞を意味する。
【0048】
「軟骨細胞」とは、軟骨基質の小腔に入っている非分裂性の軟骨の細胞を意味する。
【0049】
「支持基質」とは、活性化した移動軟骨細胞又は骨細胞を受容するのに適した、生物学的に許容されうるゾル・ゲル又は、コラーゲンスポンジ、スキャフォルド、ハニカム、ヒドロゲル、芳香族性有機酸又はカプロラクトンからなる高分子であって、軟骨細胞の成長及び3次元的増殖や、新たな硝子軟骨の形成又は骨軟骨細胞の骨病変部位への移動のための構造的に支持するものである。支持基質は、例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、アガロース、(プロテオグリカン、グリコサミノグリカン又は糖蛋白質を含む)細胞収縮性コラーゲン、芳香族性有機酸高分子、フィブロネクチン、ラミニン、生理活性ペプチド成長因子、サイトカイン、エラスチン、フィブリン、(ポリ乳酸、ポリグリコール、ポリアミノ酸から形成された)合成高分子線維、ポリカプロラクトン、吸収性イプシロン・カプロラクトン高分子、ポリペプチド・ゲル、これらの共重合体及びこれらの組み合わせ、のような材料から調製する。ゲル溶液基質は高分子温度可逆ゲル化ヒドロゲルであってもよい。支持基質は、好ましくは、生体適合性、生分解性、親水性、非反応性であり、電気的に中性で、所定の構造をとることができるものである。
【0050】
「成熟硝子軟骨」とは、細胞外コラーゲン基質内に散らばった、小腔内に位置する同原軟骨細胞の群からなる軟骨を意味する。
【0051】
「保護生分解性高分子バリア」、「生分解性高分子バリア」、「生分解性高分子」又は、「保護高分子」とは、生物学的に許容されうる生体適合性の、ほぼ非毒性の重合製剤であって、少なくとも2分〜10分、好ましくは3分〜5分の延長した重合時間を有するものである。つまり、保護生分解性高分子バリアは、生物学的に許容されうる合成又は天然の高分子組成物であり、時間内に生分解され、接着性及び凝集性を有するものであり、典型的には、、代表的にはアルキル化コラーゲンとするコラーゲン化合物で架橋したものであるのが好ましい誘導ポリエチレングリコール(PEG)である。好適な誘導ポリエチレングリコールの例は、本明細書に参考として組み込んだ文献J. Biomed. Mater. Res. (Appl. Biomater. )(2001年) 58: 第545〜555頁に記載されている、カルフォルニア州パロアルトにあるCohesion Technologies社からCoSealの商標名で市販されている、テトラヒドルスクシニミジル若しくはテトラチオール誘導PEG又はこれらの組み合わせか、或いは本明細書に参考として組み込んだ米国特許第6,312,725号、及び第6,624,245号明細書の記載されているように、ポリアルキレン酸化物及びポリエチレングリコールの双方又はいずれか一方を有する2部分の高分子で、これらの2部分が共有結合によって架橋されたものであって、更にメチル化コラーゲンによって架橋した、例えばメチル化コラーゲンにより架橋したスクシニミジル及びチオール誘導ポリエチレングリコールであり、得られる組成物が本発明の方法で必要な少なくとも2〜10分という延長された重合時間を有するように改変されているものである。引用文献に記載されている改変してない組成物は、一般に、組織、特にコラーゲン含有組織と接触すると急速にゲル化する。このようなゲル化は、5〜60秒以内に起こる。
【0052】
「実質的に」とは、改変生分解性高分子を使用した後に表れる死細胞が存在したとしてもごく僅かしかないことを意味する。
【0053】
「コラーゲン」とは、化学的若しくは生物学的に処理及び精製した、又は改変したものや変性した又はそのままのものも含め、いかなる形態のコラーゲンも含むことを意味するものである。本発明の用途に最も好ましいコラーゲンは、実質的に全ての不純物及び免疫原性物質を除去した実質的に純粋なコラーゲンである。組換えにて作成したコラーゲンが特に好ましい。
【0054】
「組換えコラーゲン」とは、例えば、本明細書に参考として組み込んだ米国特許第5,667,839号明細書に記載された方法で組換えにより作成したコラーゲンを意味する。
【0055】
「底部保護生分解性高分子バリア」又は「第1の保護生分解性高分子バリア」とは、生物学的に許容されうる組織保護生分解性高分子バリアであって、前述のように改変された、細胞に対して非毒性であり、病変部位の底部に沈着されるものを意味する。骨軟骨欠損の場合には、この第1の保護生分解性高分子バリアは、病変部位内に沈着された骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアの上に沈着され、、軟骨病変部位を骨細胞の移動から保護するだけでなく、骨病変部位を効果的に封止して、軟骨細胞の移動から隔離し保護する。
【0056】
「頂部保護生分解性高分子バリア」又は「第2の保護生分解性高分子バリア」とは、生物学的に許容されうる保護生分解性高分子バリアであって、前述したように改変され実質的に細胞又は組織に対して非毒性にしたもので、病変部位に埋め込まれた非細胞基質インプラント上に沈着され、表層性軟骨層の形成を促進しうるものを意味する。第2の(頂部)保護生分解性高分子バリアは、第1の(底部)保護生分解性高分子バリアと同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0057】
「改変保護生分解性高分子バリア」、「改変生分解性高分子バリア」、「改変生分解性高分子」又は「改変保護高分子」とは、本発明の使用に際して細胞又は組織毒性を示さず、少なくとも2分〜10分の重合時間を有するように改変され、一般的にはバッファ混合比の変更及び酸での調製の双方又はいずれか一方により組成物のpHを約pH7.5以下に変化させることで得られる全ての好適な保護生分解性高分子バリアを意味する。
【0058】
「骨誘導性組成物」又は「この組成物を有するキャリア」とは、少なくとも1種類の骨誘導性薬剤、好ましくは数種類の薬剤の組み合わせを含む組成物であり、代表的にはキャリアに溶解させるか、又は非細胞基質インプラントと同様の基質に組み込んだもの意味する。
【0059】
「骨誘導性キャリア」、「骨誘導性組成物を含むキャリア」又は「骨非細胞インプラント」とは、骨誘導製薬剤を含みそれ自体で骨形成を促進するか、又は少なくとも1種類の骨誘導性薬剤、好ましくは数種類の薬剤の組み合わせを含んだ前記骨誘導性組成物を沈着するのに好適な全てのキャリアを意味する。一般的に、キャリアは、非細胞生分解性多孔性基質、ヒドロゲル、スポンジ、ハニカム、スキャフォルド又は芳香族性有機酸からなる高分子構造体であり、約50〜約150μmの大きな細孔を有する。このような細孔は、骨芽細胞の移動を促進するとともに、骨形成を支持し促進する約0.1〜約10μmの小さな細孔を相互に接続する。このようなキャリアの表面は、負に荷電させて、骨芽細胞の偽足の付着及びこれに従って起こる骨生成を促進することができる。骨形成を促進する好適なキャリアの1つの例は、制御可能な程度に分解しうる芳香族性有機酸高分子であり、十分な固さを有するがスポンジ状の構造を有するものである。
【0060】
「骨誘導性薬剤」とは、骨の成長及び骨欠損の修復を促し、支持し、又は促進する薬剤を意味する。典型的な骨誘導性薬剤は、特に、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、脱灰した骨粉、ポリL乳酸及びポリグリコール酸、若しくはこれらの共重合体骨形態形成タンパク質である。
【0061】
「新規の」又は「新規形成」とは、例えば分化しうる軟骨細胞、線維芽細胞、線維軟骨細胞、腱細胞、骨細胞及び幹細胞といった細胞が新たに産生されること、或いは、多層システム、スキャフォルド又はコラーゲン基質といった支持構造体内に軟骨結合組織、硝子軟骨、線維軟骨、腱及び骨といった組織が新たに形成されること、或いは表層性軟骨層が形成されることを意味する。
【0062】
「表層性軟骨層」とは、軟骨の最外層であって、第2の保護生分解性高分子バリア層を被覆して病変部位を被覆する扁平上皮様の平らな表層性領域の軟骨細胞の層を形成刷るものを意味する。
【0063】
「温度可逆性」とは、温度によって、粘性及び稠性といった物理学的特性が変化し、ゾルからゲルになる化合物又は組成物の性質を意味する。温度可逆性の組成物は一般に、約5〜15℃ではゾル(液体)状態であり、25〜30℃及びそれより高い温度ではゲル(固体)状態となる。中間の温度でのゲル/ゾル状態は、温度に応じてより低い又はより高い粘性を示す。温度が15℃より高いと、ゾルはゲルに変化し始め、30〜37℃付近でゾルは更に硬化てゲルになる。より低い温度、典型的には15℃より低い温度では、ゾルはより液状の稠性を有する。
【0064】
「TRGH」とは、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル材料であって、寒天及びゼラチンとは逆の温度サイクルでゾル・ゲル転移が起きるものを意味する。従って、ゾル段階では粘着性液体相となり、ゲル段階では固体相となる。TRGHは、非常に短時間でゾル・ゲル転換するもので、この転移は、硬化時間を必要とせず、ヒステリシスなく単なる温度の関数として起こる。ゾル・ゲル転移温度は、温度可逆性ゲル化高分子(TGP)の分子設計に応じて5℃〜70℃の範囲の任意の温度に設定することができ、ヒドロゲル形成にはこのうちの高分子量の高分子を5重量%未満とすれば十分である。
【0065】
「ゾル・ゲル溶液」とは、コロイド懸濁液であって、ある条件下で液体(ゾル)から固体材料(ゲル)に転移するものを意味する。この「ゾル」とは、熱変性によりゲルに転移する水性コラーゲンの懸濁液である。
【0066】
「GAG」とは、グリコサミノグリカンを意味する。
【0067】
「S−GAG」とは、硫酸グリコサミノグリカンを意味する。
【0068】
「アグリカナーゼ」とは、アグリカナーゼ酵素を意味する。
【0069】
「カテプシン」とは、タンパク分解酵素又はペプチド分解酵素を意味する。
【0070】
「MMP」とは、基質メタロプロテイナーゼ、すなわち傷害を受けた又は病変した関節における軟骨の分解に関連した酵素を意味する。
【0071】
「DMB」とは、軟骨細胞の染色に用いるジメチレンブルーを意味する。
【0072】
「表層領域軟骨」とは、軟骨細胞の扁平化した最外層であって、細胞外基質中間領域及び非分裂性細胞が散らばった成熟関節軟骨のより深部の領域を覆うものを意味する。
【0073】
「結合組織」とは、体内器官を保護及び支持する組織を意味し、また体内器官を一緒に保持する組織も意味する。このような組織の例には、間葉性、粘液性、結合性、網状、弾性、膠原性、骨、血液又は軟骨の組織、例えば硝子軟骨、線維軟骨及び弾性軟骨がある。
【0074】
「接着強度」とは、接着剥離強度の測定結果を意味し、これは、2つのプラスチックタブを接着剤で接着することにより得ることができる。これらのタブは、ポリスチレン秤量ボートから1×5cmの細片を切り出すことにより作ることができる。この秤量ボートの表面に、(市販のシアノアクリル酸Superglueを使用して)ソーセージケーシングのシート(コラーゲンシートで肉屋生産財卸売商から入手できる)を結合する。ソーセージケーシングを水又は生理食塩水で20分〜1時間水和し、接着剤をタブの一端の1×1cmの領域に塗布して、この接着剤を硬化させる。次に、タブの自由端を各々湾曲して引張試験装置の上下のグリップにそれぞれ取り付け、10mm/分の歪速度で引っ張り、剥離強度をニュートン単位で記録した。一定の力のトレースを調べることにより、N/m、すなわち細片の巾当たりの力を測定することができる。細片の巾当たりの力は、最小でも10N/mあるのが望ましい。100N/m以上あるのがより望ましい。或いは又、同じタブを、手術中に生きた動物から切り出した又は露出させた組織の1×1cmの領域に接着することができる。タブの自由端を、携帯引張試験装置(オメガDFG51−2デジタルフォースゲージ:コネチカット州スタンフォードにあるオメガエンジニアリング社製)のフックに縫合することにより把持させるか又は取り付け、そして約1cm/秒で上方へ引っ張る。組織からタブを引きはがすのに必要な最大力が記録される。このような測定値において所望の、タブを引きはがすのに最小の力は0.1Nである。0.2〜1Nの力がより望ましい。
【0075】
「凝集力」とは、引張破損に達するのに必要な力を意味し、引張試験装置を用いて測定する。にかわ剤又は接着剤は、「犬用の骨」の形状をした型で硬化することができる。形成された固体接着剤の広い巾の端部は、シアノアクリル酸(Superglue)を用いてプラスチックタブに固定し、試験装置に握持させることができる。延伸方向において破損する力は、少なくとも0.2MPa(2N/cm2 )であり、好ましくは0.8〜1MPa又はそれ以上である。
【0076】
「引張剪断測定」とは、結合強度の試験であって、保護生分解性高分子バリア製剤を、組織の重なったタブに被着させて硬化させ、次に、これらのタブを引っ張っ分離させる力を測定する。この試験には接着結合性及び凝集結合性が反映される。強い接着剤では、重なり領域について0.5から4〜6N/cm2 の値を示す。
【0077】
発明の詳細な説明
本発明は、生分解性非細胞基質インプラントを、2層の生分解性高分子バリアの間に入れて、損傷し、外傷を受け、老化し又は病変した軟骨の病変部位に埋め込めば、この非細胞基質インプラントが、新たな細胞外基質の生成を促し、最終的に線維軟骨ではなく健康な硝子軟骨が形成されるという知見に基づくものである。さらに、本発明は、骨軟骨欠損の場合には、骨の欠損部位に骨誘導性組成物と共に沈着させる軟骨病変部位に非細胞インプラントを埋め込むことにより、骨及び軟骨の双方を別々に修復することができるという知見に基づくものである。
【0078】
したがって、本発明は、最も広い範囲では、関節鏡視下手術中に、軟骨の病変部位に非細胞基質インプラントを埋め込むか、又はこの非細胞基質インプラントを埋め込む前に骨の病変部位に骨誘導性組成物若しくはこの組成物を含むキャリアを沈着させるか、或いはこれらの双方を行うことにより、損傷し、外傷を受け、老化し又は病変化した軟骨を修復し回復させる方法、又は骨軟骨欠損を修復し軟骨及び骨の双方に完全な機能を回復させる方法に関するものである。さらに、本発明は、非細胞基質インプラントの製造方法と、骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアの調製方法と、重合時間が約2分〜10分である保護生分解性高分子の調製方法とを含むものである。
【0079】
簡単には、本発明は、関節病変部位の治療のために、関節軟骨の病変部位に埋め込む非細胞基質インプラントであって、膠原性温度可逆性ゲル、芳香族性有機酸又は吸収性イプシロンカプロラクトン高分子の2次元又は3次元の支持基質を有する当該非細胞基質インプラントを調整する処理を有する。この非細胞基質インプラントには、基質リモデリング酵素や、メタロプロテイナーゼ(MMP−9、MMP−2、MMP−3)や、アグリカナーゼや、カテプシンや、成長因子や、ドナーの血清や、アスコルビン酸や、インシュリントランスフェリンセレン(ITS)などの種々のサプリメントを含ませることができる。
【0080】
本発明は、骨軟骨欠損の治療のためには、骨誘導性組成物又は組成物を有するキャリアであってこの組成物が、例えば、脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、poly−L−乳酸、ポリグリコール酸及びこれらの共重合体をの単独で又は組み合わせて有する骨誘導性薬剤又は、若しくは、骨形態形成タンパク質を有した組成物又はキャリアを調製する処理と、骨病変部位に前記組成物を沈着させる処理と、この骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアを保護生分解性高分子バリアで覆い、軟骨病変部位に前記非細胞基質インプラントを埋め込む処理、そしてこのインプラントを第2の保護生分解性高分子バリアで覆う処理とを有する。
【0081】
非細胞基質インプラントは、2層の、すなわち第1及び第2の粘着性保護生分解性高分子層によって形成した軟骨病変部位の空所に埋め込む。しかし、特定の状況ではまた、非細胞基質インプラントは、底部若しくは頂部の保護生分解性高分子バリアなしで、又は、双方の保護生分解性高分子バリアがなしで、軟骨病変部位に埋め込むこともできる。
【0082】
軟骨修復の方法において、保護生分解性高分子バリアを使用する場合には、保護生分解性高分子の第1の(底部)層を軟骨病変の底部に沈着させそこを被覆するのが好ましい。この層の機能は、細胞遊走や、さまざまな血液及び組織の破片並びに代謝産物の影響から前記病変部位の統合性を保護、非細胞基質インプラントを埋め込むための空所の底部を形成することである。保護生分解性高分子の第1層は、骨誘導性組成物上に沈着する被覆層、又は軟骨下骨領域内の骨病変部位に配置される前記組成物からなるキャリアにもなりうる。
【0083】
ブタの大腿顆の生じさせた欠損の研究により、長い重合時間を有する細胞に対して非毒性の保護生分解性高分子層で底部が被覆した軟骨病変部位に、本願明細書に開示する埋め込み手順を用いて所定の条件で、生分解性非細胞基質インプラントを埋め込めば、傷害のある病変部に新たな細胞外基質(ECM)が形成され、それにより硝子軟骨の形成される、ことを確認した。同様に、骨誘導性薬剤を含んだ骨誘導性組成物、又はこの組成物を含むキャリアを骨欠損部に埋め込むことにより、前記骨病変部位内への骨芽細胞の移動行が誘発され骨の自然治癒が促進され、上述の非細胞基質インプラントとあわせることにより、骨及び軟骨の治癒及び再構成がなされる。
【0084】
硝子軟骨の生成のために非細胞基質インプラントを使用する方法は、軟骨が初期の骨関節炎の状態を生じていない目的の病変部位を有する早期患者、すなわち、代表的には例えばスポーツ損傷後の関節鏡視下手術等における、関節の関節軟骨の掃除又は微小骨折の治療が行われるであろう、患者の局所性病変部位の治療に特に適している。このような患者は、完全に機能する硝子軟骨、骨軟骨欠損の場合は、完全に機能する軟骨及び骨が、復元される可能性が高く、1回又は複数回にわたる再手術の必要がないし、そのような手術による症状悪化もなくなる。
【0085】
上記の方法を使用する利点は、非細胞基インプラントと、骨誘導性組成物若しくはそのような組成物を含有するキャリアとの双方又はいずれか一方が、いかなる生体物質も必要としないので、非免疫原性であること、手術の十分前に予め加工できること、最初に関節鏡検査中に導入しうるものであり、病変部位の診断、清掃及び清拭時の、更なる生検、細胞培養、追加手術又は免疫反応を抑制するための治療を必要としないことである。この方法において、軟骨又は骨軟骨病変部位の底部及び頂部に置かれた2層の保護バリアを配置する処理は分けることができない。外科的制約から、これらの2つのバリアは、生物学的適合性があること、細胞又は組織に対して実質的に非毒性であること、完全に生分解性であること、術後約2−3ヵ月以内に病変部位から自然に除かれることが必要となる。また、これらバリアは、生理的に許容されうるpHで、2分以上で遅くとも10分までの所定時間内に、好ましくは3〜5分の重合時間で重合可能であることが必要となる。
【0086】
I. 軟骨、骨及びその特性
軟骨及び骨は、ともに、体内で他の軟部組織の支持となる結合組織である。
【0087】
骨は、骨格を形成している硬い結合組織であり、石灰化した基質及び膠原線維に封埋された骨芽細胞から成る。膠原線維は、ヒドロキシアパタイトに類似したリン酸カルシウムの形態で、相当量の炭酸塩、クエン酸塩、ナトリウム及びマグネシウムとともに、によって含浸されている。骨は、約75%の無機材及び25%の有機材から成る。骨は、骨膜によって覆われた緻密骨質の密度の高い外側の層と、内側の、ゆるい海綿骨質すなわち骨髄から成る。軟骨のすぐ下に位置する骨は、軟骨下骨と称される。
【0088】
軟骨は、関節及び骨を覆う成熟した結合組織であり、代謝は活発に行っているが非分裂性の軟骨細胞からなる。このため、傷害若しくは加齢又は疾患よる損傷後に、軟骨が自ら自然に治癒する能力はほとんど存在しない。
【0089】
軟骨は、血管分布が少なく及び堅固な整合性を有することを特徴としており、成熟した非分裂性の軟骨細胞(細胞)、コラーゲン(線維の間質性基質)及びプロテオグリカン基質(グリコアミノグリカン又はムコ多糖)から成る。このうち、後の2つはあわせて、細胞外基質として知られる。
【0090】
軟骨には、3種類の軟骨、すなわち、硝子軟骨、弾性軟骨及び線維軟骨、がある。硝子軟骨は、主に関節で見られるもので、プロテオグリカンに覆われた微細なII型膠原線維を含む間質性の物質を有し、すりガラス状の外観を呈する。弾性軟骨は、細胞が、膠原線維及びプロテオグリカンに加えて、嚢状の基質によって囲まれており、この基質が更に弾性線維ネットワークを含む間質性の基質に囲まれている軟骨である。弾性軟骨は、例えば、喉頭蓋の中心部で見られる。線維軟骨は、I型膠原線維を含み、典型的には、腱、靭帯又は骨の間にある移行組織において見られ、また、傷害を受けた硝子軟骨の低質な置換でも見られる。本発明は、非細胞基質インプラントを、周囲の病変していない軟骨中に本来存在している所定の状況と組み合わせ、さらに本発明の方法による特定のステップと組み合わせて利用し、傷害を受けた軟骨を完全に治癒し、傷害した軟骨を健全で機能的な硝子軟骨に置換するものである。
【0091】
A.関節軟骨及び関節軟骨欠損
関節(例えば膝軟骨)の関節軟骨は、約95%(総容積)の細胞外基質に分散させた約5%(総容積)の軟骨細胞がから成る硝子軟骨である。細胞外基質は、コラーゲン及びグリコサミノグリカン(GAG)を含む、様々な高分子を有する。硝子軟骨基質の構造によって、かなりのショックを吸収し、剪断力及び圧迫力に耐えることができる。正常な硝子軟骨は、また、関節の表面の摩擦係数が極めて低い。
【0092】
健常な硝子軟骨は、隣接整合性があり、いかなる病変、裂症、亀裂、破断、穴傷又は寸断された表面もない。しかし、外傷、損傷、疾患(例えば変形性関節症)、老化によって、軟骨の隣接表面は傷つき、軟骨表面は亀裂、裂症、破断、穴傷、寸断された表面を呈し、結果、軟骨病変部位となる。
【0093】
関節軟骨は、血管、神経、リンパの供給がない唯一の組織である。血管及びリンパの循環の欠如は、関節軟骨の回復する能力が乏しい若しくはほぼ存在しない理由のひとつである。細胞外基質によって囲まれた小孔にある、代謝は活発であるが非分裂性の軟骨細胞は、高質の硝子軟骨を生成することによって発せられる損傷信号に反応しない。重度の傷害後は、II型コラーゲン/プロテオグリカン・ネットワークの吸水能力が傷害されるので、関節軟骨の固有の機械的機能は、自然に復元することはなく、また完全に復元されることもない。硝子軟骨に対して通常置換される物質は、硝子軟骨の損傷に応答して自然に生じ、傷害された軟骨を置換するが、硝子軟骨に比べはるかに弱く機能的に劣る線維軟骨である。
【0094】
軟骨外傷、傷害、疾患又は老化のために起きる欠損は、裂症、亀裂、破断又は穴傷であり、これらは関節軟骨だけにある。本発明の方法に従って、このような欠損を治療する場合、図1Aにて図示するように、インプラントを病変部位内に埋め込む。
【0095】
図1Aは、軟骨欠損部位に埋め込まれた非細胞基質インプラントの概略図である。図1Aは、その下に傷害されていない軟骨下骨を有するホスト軟骨に囲まれた、非細胞基質の埋め込まれた病変埋め込み部位を示す。頂部及び底部生分解性高分子保護バリアもまた示されている。
【0096】
B. 軟骨を修復するための現在利用可能な手法
種々の外科的手法が開発され、損傷された軟骨を修復する試みで用いられてきた。これらの手法は、骨髄細胞が欠損部に浸透し、その治癒を促進することができるようにすることを意図して行われる。通常、これらの手法は、よくても、部分的にうまくいくに過ぎない。たいていの場合、これらの手順によって線維軟骨組織(線維軟骨)が形成される。線維軟骨は、確かに軟骨病変部位を満たし修復するが、I型コラーゲンからなっており質的に異なるため、正常な関節硝子軟骨よりも耐久性が劣り、弾性が少なく、全体的に劣るもので、健常な硝子軟骨よりもショック及び剪断力に対する耐久力が限定されている。全ての可動性関節(特に膝関節)は、常に比較的大きな負荷及び剪断力を受けるので、健常な硝子軟骨を線維軟骨で置換しても完全な組織修復や機能回復には至らない。
【0097】
関節軟骨傷害に対する修復の現在利用可能な方法には、微小骨折法、モザイクプラスティ法及び自己軟骨細胞移植(ACI)法がある。しかし、何らかの点で、全てのこれらの技術は問題がある。例えば、モザイクプラスティ法及びACI法では、非傷害性関節軟骨領域から生検をして、細胞数を増やすために細胞培養を行う必要がある。その結果、これらの技術は少なくとも2回の別々の手術を必要とし、さらに、生体物質の存在により、これらの技術は、免疫反応が生じる潜在的な危険をともなうことになる。あるシステム、Carticel(登録商標)のシステムでは、加えて、脛骨骨膜の一部を培養するために骨膜の一部を分離するために第2の手術部位が必要となる。微小骨折法は関節軟骨の生検を必要としないが、得られる組織は常に線維軟骨である。
【0098】
本発明による、傷害され、外傷を受け、病変した、老化した軟骨の治療方法は、傷害、外傷、病変した、老化した軟骨を非細胞基質インプラントで治療し、組織の切除、培養のための細胞を必要とせず、従って、いかなる生体物質も必要としないので、上記の問題は解決される。(このインプラントは、下記の方法で調製され下記のように清拭手術中に軟骨病変に埋め込まれる。)
【0099】
C.骨軟骨領域及び骨軟骨欠損
本明細書において、骨軟骨領域とは、骨及び軟骨が互いに接続する領域であって、両組織にわたった病変部位である骨軟骨欠損が傷害時にしばしば起こる領域を意味する。
【0100】
図1Bは、骨軟骨欠損の非細胞基質インプラントの埋め込みの概略図である。図1Bは、、ホスト軟骨に囲まれが非細胞基質が埋め込まれた軟骨病変への埋め込み部位を示し、その下には軟骨下骨内の骨病変部位がある。骨誘導性組成物又は前記組成物を有する非細胞インプラントキャリアは、底部の保護生分解性高分子バリアによって軟骨病部位から隔てられが骨病変部位に沈着される。頂部及び底部の生分解性高分子保護バリアを配置することで、底部の保護生分解性高分子バリアにより、軟骨病変からの骨病変部位を分離する。各々軟骨病変及び骨病変が異なる手段、すなわち軟骨病変の治療のための非細胞基質インプラント並びに骨誘導性組成物又は骨欠損の治療のための前記組成物を有する非細胞キャリアを使用して別々に治療されるにする。
【0101】
従って、骨軟骨欠損は、軟骨及びその下にある骨との複合欠損である。今まで、骨軟骨欠損をするのに一般に用いられているのは、外科的切除、モザイクプラスティ法、骨軟骨自家移植、同種移植、骨セメンティング及び金属若しくはセラミック固体複合材料、若しくは多孔性生体材料の埋め込みであり、及び、最近では自己由来の軟骨細胞の移植である。しかし残念ながら、全てのこれらの治療の主目標は骨の支持機能及び機械的機能の回復及び維持であるため、これらの手法のいずれも、これら欠損をうまく治療することができるものでなく、また、患者にとって安全で満足のいくものではなかった。代表的には、これらの手法は、二回以上の外科的処置を伴い、移植可能な細胞を培養するのに、少なくとも約2〜3週の長い期間を要するものである。例えば、モザイクプラスティ法はで、欠損部位に移植可能な栓子として用いる健常な軟骨下骨及び軟骨の円形小片を摘出することが必要となる。モザイクプラスティ法に関する明らかな問題点のひとつは、外科医が、開放性手術において軟骨下の欠損を修復するために健常な組織を傷つけてしまうことである。複数回の手術を行い、その間にかかる長い期間を空けるため、完全な機能の回復されるまでにかかる時間が必然的に長くなり、また、骨及び軟骨双方の欠損が骨及び硝子軟骨ではなく線維軟骨によって埋められるので、しばしば部分的な機能回復にしか得られないことがある。
【0102】
一般的だが治療が非常に困難な骨軟骨性欠損の例のひとつに、離断性骨軟骨症がある。離断性骨軟骨症は、関節表面からの骨軟骨性断片の分離によって特徴づけられる限局性の骨及び軟骨性病変である。この傷害を同種移植によって治療する試みも、上述したように、二回目の手術及び健常組織への侵襲という同じ問題に直面している。従って、二回目の手術の必要をなくし、しかも、軟骨及び骨の修復のための手段を提供できるような方法を利用できるようにすることは、有利である。
【0103】
本発明による方法は、一回目の関節鏡手術中に骨誘導性組成物又は骨誘導性薬剤を含む組成物を、生分解性高分子バリア層で軟骨病変部位から隔てられた骨病変部位に埋め込み、次に、軟骨病変部位に非細胞基質インプラントを埋め込み、このインプラントを外部環境から効果的に隔てる生分解性高分子バリアの第2層によって覆うことにより、一回の手術で骨と軟骨欠損の両方の治療し上述した問題を解決する。
【0104】
B.軟骨病変部位の治療のための非細胞基質インプラント
本発明は、傷害され、損傷し、病変し又は老化した軟骨の治療のための方法を提供する。
この目的で、この方法は、傷害を受けた部位又は疾患、若しくは老化によって生じた欠損部位における傷害を受け、損傷し、病変し又は老化した軟骨病変部位に、非細胞基質インプラントをただ一回の手術で体内への埋め込む処理を含む。非細胞基質インプラントは、膠原性又は非膠原性構造物、例えば芳香族性有機酸高分子又は吸収性カプロラクトン高分子から調製される構造物であり、後述するようなさまざまな成分を有する。
【0105】
A. 非細胞基質インプラントの調製
軟骨病変に埋め込む非細胞基質インプラントの調製には、非細胞基質、通常は、コラーゲンのスキャフォルド若しくはスポンジ、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル、芳香族性有機酸高分子若しくは吸収性カプロラクトン高分子からなる構造物の調製と、この基質の軟骨欠損への埋め込みを伴う。
【0106】
例えば図2Aに示すような非細胞基質インプラントは、本発明の方法に従って調製されており、ブタの膝重量軸受領域の人工的に作られた病変部位に埋め込まれる。図2Aは、埋め込みに用いられる実際の非細胞基質スポンジ・インプラントの写真で、ここでは鉗子で把持されている。スポンジは、直径5mm及び厚さ1.5mmであり、約200〜400μmの細孔を有するコラーゲンスポンジ及びコラーゲンゲルからなるの組成の混合物を有する(図2B)。このスポンジが病変部位に埋め込まれると、軟骨細胞は活性化されて、スポンジの細孔構造部に移動し、そこで新しく細胞外基質を分泌し始め、最終的には新たな硝子軟骨でコラーゲンスポンジ及びコラーゲンゲルを置換する。このスポンジ及びゲルは、自然に生分解し代謝されて病変部位から除去される。
【0107】
図2Bは、図2Aに示した非細胞基質スポンジのハニカム構造の側方断面図であり、非細胞基質スポンジ内のコラーゲンスポンジ、コラーゲンゲル及び細孔の相対的位置を示している。
【0108】
病変部位に埋め込まれる非細胞基質インプラントの基質は、硝子軟骨の形成に必要な一定期間、このインプラントが機能するのを可能にする生分解性材料を含む。このような生分解性材料は、その後、生分解し代謝されて埋め込み部位から除去され、残るとしても非毒性の残留物しか残らない。表面の軟骨層が形成されるまで、これらの基質は生分解性高分子バリアの第2層で覆われており、この層は基質を覆い、これを外部環境から隔離する。表面の軟骨層は、インプラントが埋め込まれた病変部位を覆い、これにより新しく形成された硝子軟骨を保護し、生分解性高分子が完全に若しくは部分的に分解された時点でその保護機能及び隔離機能をほぼ引継ぐ。
【0109】
上記の基質は、加えて、酵素、例えば、メタロプロテイナーゼ、傍分泌性若しくは自己分泌性成長ホルモン、GAG−リアーゼ、その他の酵素、可溶タンパク質メディエーター並びにその他の修飾因子及び補助因子、を組み込むこともできる。これらの材料を含有するすなわち追加することで、周囲のホスト軟骨に存在する成熟した活発に代謝するが非分裂性である軟骨細胞の活性を高め、さらに、これらの軟骨細胞が、病変腔を囲んでいる病変していないホスト軟骨から病変部位に置かれた非細胞基質インプラントによりいっそう移動するようにしうる。
【0110】
本発明は、このように、本発明による非細胞基質インプラントを、病変部位底部に沈着した非毒性生分解性高分子バリアの上であり、かつ、インプラント上部に沈着する非毒性生分解性高分子バリアの下になる軟骨欠損部に下記の条件のもとで埋め込めば、周囲の病変していない軟骨中に存在する古い不活発な軟骨細胞が欠損部へ移動するようになり、そこでこれら軟骨細胞は、停止した非分裂性段階から活動段階に活性化され、この段階で、軟骨細胞が分裂し、増殖し、細胞外基質の成長を促進して、この病変部に新たな硝子軟骨を生成するという知見に関するものである。非細胞基質インプラントの埋め込み後、特に若年者では軟骨細胞の移動と、並びに若年者の組織にもともと多く存在するメタロプロテイナーゼにり支持される細胞外基質の形成とによって、軟骨欠損が急速に修復される。より高齢な患者での病変修復には、この基質の埋め込み前に、GAG−リアーゼ、メタロプロテイナーゼ、成長因子及びその他成分を基質に、加えるか又は組み込むか、あるいは、この基質の表面を簡便に被覆して、傷害を受けた細胞の分解を促進してもよい。
【0111】
軟骨細胞を活性化させるための処理には、一定の期間を必要とし、その期間は一般的には約1時間から約3週間であり、好ましくは約6時間〜3日しかかからないことを確かめた。治療を受けた人が、例えば、歩行、ランニング若しくは自転車に乗ることによって前記の新しくできた軟骨に間欠的な静水圧が加え、通常通り身体的に活発になる場合には、通常は1週間〜数ヶ月で、インプラント基質が硝子軟骨に完全に置換される。
【0112】
非細胞インプラントは、底部及び上部の高分子バリアを含め、完全に生分解可能であり、埋め込み後、約2〜4ヵ月以内でいかなる有害物も残すことなく、自然な代謝プロセスによって、病変部位から取り除かれる。
【0113】
B. 軟骨細胞移動の誘導
周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動の誘導は、もともと軟骨、軟骨周囲組織、血液若しくは血漿の中にある、又は手術前、手術中若しくは手術後に加えられた、さまざまな薬剤の生物学的作用を伴い、周囲の病変していないホスト軟骨からの軟骨細胞の放出、解放、活性化、そして、インプラントへの移動が促進される。
【0114】
軟骨細胞を活性化するステップの1つは、関節軟骨病変部位の頂部及び底部に1つずつある、2つの実質的に非毒性な保護生分解性高分子バリアを使用することである。このステップによって、非細胞性関節基質インプラントが埋め込まれる腔ができるととともに、細インプラントが隔離され、このインプラントの統合性が、細胞断片、血球、代謝産物及びその他の望ましくない異物から保護される。しかし、保護バリアはインプラントの底部と頂部に取り付けられているので、病変部位の両側はホストの周囲の健常な軟骨へ解放されたままであり、非細胞基質インプラントへの軟骨細胞の移動、もともとホストの周囲の健常な軟骨に存在した可溶性タンパクメディエーター、修飾因子、酵素、成長因子又はその他の因子の浸透及び濃縮、が可能である。
【0115】
非細胞基質インプラントを挿入する前及び後で、2つの非毒性生分解性高分子バリアにより欠損部位の頂部及び底部を隔離することにより、隣接した細胞外基質内の軟骨細胞により放出される自己分泌性及び傍分泌性の成長因子が蓄積し、これらの因子がインプラント内への細胞移動を誘導されるようになる。適切な成長因子には、特に、特定の形質転換成長因子、血小板由来成長因子、線維芽細胞成長因子及びインスリン様成長因子Iがある。加えて、これら及び他のサプリメント、例えばGAG−リアーゼ(基質再構築する酵素)を、インプラントを病変部位へ挿入する前に、このインプラントの表面を覆うために使用することができる。
【0116】
上述したように、頂部及び底部の保護生分解性高分子バリアによって病変腔内に隔離された非細胞基質インプラントは、隣接した軟骨と流動性に連絡するように維持される。この構成により、基質を再構築する酵素の阻害物質、例えばメタロプロテイナーゼ−1(TIMP−1)、メタロプロテイナーゼ−2(TIMP−2)及びメタロプロテイナーゼ−3(TIMP−3)の細胞阻害物質のレベルが欠損部で減少するような条件が得られる。結果として、基質メタロプロテイナーゼ(MMP−1、MMP−2、MMP−3)は、酵素活性を受けうるようになり、隣接する細胞外基質を分解し、それによって、そこに存在する軟骨細胞が解放され、周囲のホスト軟骨から非細胞基質インプラントに軟骨細胞が移動するようになる。
【0117】
病変部位に封入された非細胞基質インプラントは、通常の身体活動(例えば歩行、ランニング又は自転車に乗る)を行う場合の関節への負荷及び間接が受ける静水圧に応じて、底部の保護生分解性高分子バリアの層を通過する外因性成長因子の貯留部ともなる。従って、静水圧負荷に応答してこれらの因子は欠損部位内でより濃縮されるようになり、周囲の細胞外基質である隣接した領域から解放された軟骨細胞が病変部位へと移動し、病変部位内で増殖し新たな細胞外基質合成が開始される。
【0118】
さらに、インプラントの非細胞基質は、通常の関節軟骨と比較して剛性が低く、且つ隣接した病変していない軟骨基質端の変形を許容する材料で欠損を充填するため、剪断力のレベルが増加し、さらに、基質の再構築及び非細胞基質インプラント内への軟骨細胞の移動を表す可溶性メディエータの放出が増大する。
【0119】
すなわち、隣接した軟骨の境界に封入される非細胞基質インプラントが存在することにより、基質を再構築する酵素、つまり基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンが欠損部で濃縮し、隣接する細胞外基質の酵素的開放を起こし、それにより軟骨細胞が、非細胞基質インプラント内に移動し、その基質内に埋め込まれ、分裂及び増殖を開始し、新たな細胞外基質を分泌し、最終的に正常で健常な硝子軟骨を形成するような条件が生じる。
【0120】
C. 非細胞基質インプラントの種類
非細胞基質インプラントは、軟骨細胞が移動し、成長し、その場で2次元又は3次元の増殖を行うための、構造支持体を提供する。通常、非細胞基質は、生物学的に生体適合性であり、生分解性で、親水性であり、好ましくは電気的中性である。
【0121】
一般的に、インプラントは2次元又は3次元の構造組成物又はこのような構造物に変換しうる組成物であり、空間を流体的に接続された格子状ネットワークに分離する多数の細孔を含んでいる。ある実施例において、インプラントは、スポンジ状の構造体、ハニカム状格子体、ゾル・ゲル又は温度可逆性ゲル化ヒドロゲルである。
【0122】
一般的に、インプラントは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、アガロース、ヒアルロニン、プロテオグリカン、血管収縮コラーゲン含有プロテオグリカン、グリコサミノグリカン若しくは糖蛋白質、フィブロネクチン、ラミニン、生理活性ペプチド成長因子、サイトカイン、エラスチン、フィブリン、ポリ乳酸などの重合酸からなる合成高分子線維、多糖酸若しくはポリアミノ酸、カプロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリアミノ酸、ポリペプチドゲル類又はこれらの共重合体あるいはこれら物質の任意の組合せを含むコラーゲンゲル又はゲル溶液から調製される。インプラント基質はゲル、ゾル・ゲル、芳香族性有機酸のポリマー、カプロラクトン高分子又は高分子温度可逆性ゲルとすることが好ましい。インプラント基質は、水性のI型コラーゲンを含むのが、もっとも好ましい。
【0123】
非細胞基質インプラントは、スポンジ状、スキャフォルド又はハニカムスポンジになることもできるし、或いは、スキャフォルド又はハニカム状格子にすることもできるし、或いは、ゲル、ゾル・ゲル又は温度可逆性ゲル組成物にすることもできるし、或いは、芳香族性有機酸高分子又は吸収性カプロラクトン高分子にすることもできる。
【0124】
非細胞基質インプラントは、インプラントを埋め込む病変部位のおおよその大きさを有する2次元又は3次元体として形成することができる。インプラントの大きさ及び形状は、欠損の大きさ及び形状により決定される。
【0125】
a. 非細胞スポンジ又はスポンジ状インプラント
一般に、いかなる高分子材料も、組織に生体適合性で、必要な形状を備えていれば、支持基質として作用しうる。高分子は、天然のものであれ合成されたものであれ、線維又はコアセルベートが形成されるように誘導でき、水性分散体として冷凍乾燥させてスポンジを形成することができる。
【0126】
コラーゲンに加えて、多様な高分子がスポンジの製造に適する可能性があり、アガロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、デキストラン、ポリヘマ及びポリビニルアルコールを、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0127】
一般的に、このようなスポンジは、架橋結合、例えば電離放射によって安定化される必要がある。実際の例には、ポリヒドロキシエチルメタクリラート(pHEMA)の凍結乾燥スポンジであって、随意的にゼラチンのような好ましくは内部に取り込んだ追加分子を含むスポンジを調製するものがある。アガロース、ヒアルロン酸又はその他生物活性を持った高分子を利用して、細胞反応を調整することができる。全てのこの種のスポンジは、本発明のためのインプラント基質として有利に機能する。
【0128】
スポンジ又はスポンジ状のインプラントの調製のために使用するゲル又はゲル溶液は、通常は水によって洗浄し、その後凍結乾燥して、基質内で移動する軟骨細胞を組み込みうるスポンジ状基質が得られる。本発明の非細胞基質インプラントは、移動する軟骨細胞が浸透する際に、多孔性のスポンジのような作用をし、これら細胞がスポンジの細孔内でに広がり、軟骨細胞がそこに移動定着するためのメッシュ状支持体を提供し、軟骨細胞は分裂及び増殖を開始し、新たな細胞外基質を作り、最終的には既存の健常な周囲の軟骨に連続する硝子軟骨を形成するための材料を分泌するようになる。
【0129】
スポンジインプラントの重要な性状のひとつは、スポンジ基質の細孔径である。スポンジの細孔径を異ならせることにより、スポンジ内への軟骨細胞浸透をより速く又はより遅くし、細胞の成長及び増殖をより速く又はより遅くし、究極的には、インプラント内の細胞密度をより高く又はより低くすることができる。このような細孔径は、インプラントの製作中に、ゲル溶液のpH、コラーゲン濃度、凍結乾燥法の条件等を変化させることによって調整することができる。一般的に、スポンジの細孔径は、約50〜約500μmであるが、細孔経が100〜300μmの間が好ましく、約200μmが最も望ましい。
【0130】
非細胞基質インプラントの細孔径は、レシピエントに応じて選択する。メタロプロテイナーゼもともとあってしかも活発な若年のレシピエントでは、活性化した軟骨細胞が細孔を通じて急速に増殖して、細胞外基質を分泌するので、細孔径はより小さなものにする。より高齢のレシピエントでは、軟骨細胞の移動が緩慢で、細孔に定着して増殖するのにより多くの時間を必要とするため、細孔はより大きなものにする。
【0131】
コラーゲンから形成した典型的な非細胞基質インプラントを図2に示す。図2Aは、直径4mmで厚さ1.5mmの非細胞コラーゲン基質インプラントの実施例の写真である。このインプラントの播種密度は体積25μlあたり300,000〜375,000の軟骨細胞であり、これは約1200万〜1500万細胞/mlに相当する。非細胞基質インプラントの埋め込み後の細胞密度は、周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動速度と、これらの分裂能力及び分裂の速度に依存することはもちろんであるが、インプラントのコラーゲン基質は移動細胞のこのようなばらつきに対応しうるものである。
【0132】
本非細胞スポンジは、実施例1に記載されている手順に従って、又は他の任意の手順、例えば米国特許第6,022,744号、同第5,206,028号、同第5,656,492号、同第4,522,753号、同第6,080,94号明細書又は本願明細書に参照として組み込んだ同時係属出願である米国特許出願第10/625,822号、同第10/625,245号及び同第10/626,459号明細書に記載の方法に従って調製することができる。
【0133】
b. 非細胞スキャフォルド又はハニカムインプラント
本発明のインプラントの一種類に、非細胞のスキャフォルド、ハニカム状スキャフォルド、ハニカム状スポンジ又はハニカム状格子がある。これらのインプラントは、すべてハニカム状格子の基質を有し、、この気質が移動及び分裂する軟骨細胞の支持構造体になる。ハニカム状基質は、上記のスポンジ基質と類似しているが、典型的なハニカムのパターンを有する。そのようなハニカム基質は、移動軟骨細胞の成長基盤となり、移動して分裂した軟骨細胞の3次元的増殖を可能とし、それによって、新たな硝子軟骨を形成するための支持構造体を提供する。
【0134】
図2Bは、非細胞基質のハニカム構造の側面図であり、コラーゲンスポンジと各列の細孔(*)径が約200〜400μmであるコラーゲンゲルを示している。
【0135】
このハニカム状基質は、スポンジについて上述したように、望ましい性質を有するコラーゲン、ゼラチン、I型コラーゲン、II型コラーゲン又はその他高分子といった高分子から製造される。望ましい具体例では、ハニカム状非細胞基質インプラントは、I型コラーゲンを有する溶液から調製する。
【0136】
ハニカム状インプラントの細孔は、ハニカム基質内に均一に分布しており、移動した軟骨細胞を取り込み均一に分布させうる構造を形成する。望ましい種類の非細胞基質インプラントのひとつに、ハニカム格子に形成したI型コラーゲン支持基質があり、これは、日本国東京都に所在する有限会社Koken社から、「Honeycomb Sponge」という商品名で、市販されている。
【0137】
すなわち、本発明の非細胞基質インプラントは、好ましくはコラーゲンを含む任意の好適な生分解性構造体、ゲル又は溶液にすることができる。このようなインプラントは、埋め込みを簡便に行うため、一般にゲル、望ましくはゾル・ゲル転移溶液であり、より高い温度で、溶液の状態が液体ゾルから固体ゲルに変化するものとする。このような溶液は、下記のように、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル又は温度可逆性高分子ゲル、がもっとも望ましい。
【0138】
c. ゾル・ゲル非細胞基質インプラント
他の種類の非細胞基質インプラントは、ゾル・ゲル材料から製造されるインプラント基質であり、このゾル・ゲル材料は、温度変化によりゾルからゲルへ及びその逆に変わりうるものである。これらの材料における、ゾル・ゲルの移行は、寒天及びゼラチンゲルの逆の温度サイクルでおきる。したがって、これらの材料では、ゾルは高温で固形ゲルに移行する。
【0139】
ゾル・ゲル材料とは、15℃未満では粘稠なゾルであり、37℃周辺又はそれ以上では固体のゲルとなる材料である。一般に、これらの材料は、約15℃〜37℃の温度において転移によってゾルからゲルへ形態を変化するもので、15℃〜37℃の温度では転移状態にある。しかし、ヒドロゲル組成物を変えることによって、ゾル・ゲルの転移温度を予め上記の温度より高く又は低く設定できる。最も好ましい材料は、ゲルを含有するI型コラーゲン、並びに急速なゲル化点を有する温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)である。
【0140】
ある実施例において、ゾル・ゲル材料は、実質的に I型コラーゲンから成るもので、0.012規定の塩酸溶液中に溶解した純度99.9%のペプシン可溶化ウシ皮膚コラーゲンの形態でカルフォルニア州パロアルトにあるCohesion社からヴィロジェンVITROGEN(登録商標)の商標名で市販されている。このゾル・ゲルの1つの重要な特徴は、転移により固体ゲル形態に硬化うることで、固体ゲル形態では、混合したり注入したりその他阻害をされえなくなり、これによりて、随意的に軟骨細胞の活性化及び移動を支持する他の組成物を含む固体構造が形成される。更に、組織培養用の無菌コラーゲンは、たとえば、マサチューセッツ州ベッドフォードのCollaborative Biomedical社、サウスオーストラリア州のGattefosse社、及びフランス国のSt. Priest社などから入手可能である。
【0141】
I型コラーゲンのゾル・ゲルが、通常、非細胞ゾル・ゲル・インプラントの製造に適切で望ましい材料である。
【0142】
d.温度可逆性ゲル化ヒドロゲル・インプラント
更に、非細胞基質インプラントは、ゾル・ゲルに類似の温度可逆性材料であって、ヒステリシスなしにゾルからゲルへ又はその逆へ転移するのがより速い材料から調製しうる。
【0143】
非細胞基質インプラントを病変腔に埋め込むのに熱可逆的特性が重要になる。その理由は、非細胞基質インプラントは、ゾル状態で病変腔に埋め込み、この腔をゾルで満たし、そこにおいてゾルは、それ自体で腔の正確な形状に追随し、空隙を残さない、すなわち、大き過ぎたり小さ過ぎたりしないようにするためであり、このことは、予め製造したスポンジ又はハニカム格子の場合にも同様である。関節病変腔に設置されたゾルは、自然な体温まで暖められた後、すぐに転移して固体ゲルとなり、周囲の病変していない軟骨からの移動軟骨細胞に対する支持構造体となる。
【0144】
ゾル・ゲルの1つの特徴は、液体から固体の状態へ硬化又は転移しうること、及びその逆が可能であることである。この特性は、非細胞基質インプラントの輸送、貯蔵、保存のためだけでなく、軟骨病変部位において液体ゲルの非細胞基質インプラントを硬化させることや、固体ゲルの非細胞基質インプラントを液化させるのに有利に使用しうる。加えて、これらのゾル・ゲルの特性により、病変部位の温度を増減をし或いはゾル・ゲルを、さまざまな化学物質若しくは物理的条件の下に又は紫外線照射にさらすことでゾル・ゲル転移を変化させて、ゾル・ゲルを支持基質として使用することもできる。
【0145】
ある実施例においては、非細胞基質インプラントを、5℃から15℃の間の温度で貯蔵され埋め込まれてた温度可逆性ゲル化ヒドロゲル又はゲル高分子とする。その温度では、ヒドロゲルは液体ゾルの状態であり、ゾルの状態で容易に病変部位に設置することができる。このゾルが病変部位内に設置されると、ゾルは自然に又は人工的に約30℃から37℃のより高い温度にさらされ、この温度で液体ゾルが固体ゲルに固化する。ゲル化時間は、約数分から数時間であり、一般的には約1時間である。このような例では、固化したゲルをそれ自体でインプラントとなるようにして利用することもできる、又はこのゾルを、例えばスポンジ又はスキャフォルドハニカムインプラントのような、他の支持基質に装填することもできる。
【0146】
温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)の主要な特徴は、体内で分解されるときに生物学的に有害な物質を残さず、また、ゲル化温度では水を吸収しない、ということである。TRGHは、非常に短時間でゾル・ゲル転換するもので、この転移は、硬化時間を必要とせず、ヒステリシスなく単なる温度の関数として起こる。ゾル・ゲル転移温度は、温度可逆性ゲル化高分子(TGP)の分子設計に応じて5℃〜70℃の範囲の任意の温度に設定することができ、このうち高分子重合体は5重量%未満であればヒドロゲル形成には十分である。
【0147】
温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)は、一般に37℃未満の関節の滑膜包の温度である37℃〜32℃まででは安定で圧縮に強くなければならないが、、30〜31℃未満では容易に可溶化して病変腔内で容易にゾルへ変化しうるものでなければならない。TRGHの圧縮への強さは、関節の通常の活動における圧迫に耐えうるものでとする必要がある。
【0148】
典型的なTRGHは、通常、親水性ポリマー・ブロックによって架橋された多数の疎水性ドメインを含む高分子量ポリマーのブロックから形成される。TRGHは、低い浸透圧を有し、温度をゾル・ゲル転移温度より高く維持すれば水に溶解しないため非常に安定している。ヒドロゲル内の親水性ポリマー・ブロックは、ゲル化の間におけるヒドロゲルからの水の分離及び巨視的相分離を防止する。これらの特性は、安全に貯蔵し、品質保持期限を長くするのに特に適している。
【0149】
この点に関して、温度可逆性ヒドロゲルは、温度可逆性ゲル化高分子(TGP)の水溶液であり、加熱するとヒドロゲルに変わり、冷却すると液化する。TGPは、たとえばポリ−N−イソプロピル・アクリルアミド又はポリプロピレンオキシドのような温度反応性ポリマー(TRP)やポリエチレンオキシドのような親水性ポリマーブロックから構成されるブロック共重合体である。
【0150】
ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドの共重合体からなる温度可逆性ヒドロゲルは、例えば、Pluronicsの商標名で、BASF Wyandotte Chemical社から入手可能である。
【0151】
一般に、温度可逆性は、たとえば、コラーゲンやポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドの共重合体のように、同じポリマー鎖上に疎水及び親水基が存在することにより得られる。ポリマー溶液を加熱すると、疎水的相互作用によって鎖会合及びゲル化が生じる。ポリマー溶液を冷却すると、疎水的相互作用が失われ、ポリマー鎖は解離してゲルが溶解する。このような特性を有する好適な生体適合性ポリマーであればいかなるものでも、天然であろうと合成であろうと、同様の可逆性ゲル化挙動を呈する。
【0152】
e) 非細胞ゲルインプラント
或いは又、本発明の非細胞基質インプラントは、市販されているさまざまなゲル材料、例えば懸濁ゲルから調製でき、必ずしも温度可逆性である必要はない。これらのゲルは生分解性でありさえすれば非細胞基質インプラントとして好適に使用することができる。
【0153】
このようなゲルの実例のひとつに、ポリエチレングリコール(PEG)及びその誘導体であって、一方のPEG鎖がビニルスルホン又はアクリレート末端基を有し、他方のPEG鎖が、共有結合によりチオエーテルに結合した自由チオール基を有するものがある。一方又は両方のPEG分子が、分枝の(3つ又は4つの腕を有する)場合、結合によりてゲルネットワークが得られる。インプラント調製に使用されるPEG鎖の分子量が、任意の線形鎖セグメントに沿って500〜10,000ダルトンである場合、ネットワークは開放されており、移動する軟骨細胞を受容するのに適しており、間隙水によって膨張可能であり、また生きた軟骨細胞に適合性がある。
【0154】
PEGの共役反応は、例えば、水性バッファ溶液又は細胞培養液溶液中に各PEGの5〜20%(w/v)溶液を別個に調製することによって起こすことができる。埋め込みの直前に、チオールと、PEGと、アクリレート若しくはビニルスルホンPEGとを混合して、病変部位に注入する。ゲル化は、1〜5分以内に自然に開始される。ゲル化率は、PEG試薬の濃度及びpHによりいくらか調整できる。共役する速度は、pH6.9よりもpH7.8の方が速い。したがって、PEG含有混合物のpHを調節することによって、外科医が望むとおりにゲル化処理をより速く又はより遅く制御することができる。しかし、このようなゲルは、付加的なエステル結合や不安定な結合が鎖に組み込まれていないと、一般的に体内で分解可能ではない。PEG試薬は、米国アラバマ州ハンツヒルにあるShearwater Polymers社又は韓国にあるSunBio社から購入できる。
【0155】
第2の選択肢として、ゲル化材料はアルギン酸塩であってもよい。アルギン酸塩溶液は、カルシウムイオン存在下でゲル化可能である。この反応は、細胞をゲル又はマイクロカプセルに懸濁するのに、長年使用されてきた。カルシウム又は他の二価のイオンを含まない培養液に溶解したアルギン酸塩溶液(1〜2%; w/v)を、アルギン酸塩をゲル化させる塩化カルシウムを含んだ溶液中で混合させる。類似した反応は、例えばヒアルロン酸のような、負に荷電したカルボキシル基を持つ他の高分子によっても起こりうる。ヒアルロン酸の粘稠溶液は、第2鉄イオンの拡散によってゲル化することができる。
【0156】
f. 芳香族性有機酸基質の高分子
非細胞インプラントは、また、芳香族性有機酸の高分子から簡便に製造することもできる。この種類の高分子は、一般的に負の電荷を有しているため、骨誘導組成物キャリアとしての使用するのに好適である。しかしながら、こういった種類の化合物も、軟骨非細胞インプラントとして使うことができ、また軟骨非細胞インプランの用途に適したものである。
【0157】
g. 吸収性カプロラクトン高分子
非細胞インプラントは、また、吸収性カプロラクトン高分子から簡便に形成することもできる。これらの高分子は、例えば、本願明細書に参考として米国特許第6,197,320号、同第5,529,736号、同第6,485,749号、同第6,703,035号及び同第6,413,539号明細書に記載されるように、一般には、結晶性で低融点のイプシロンカプロラクトン高分子である。
【0158】
カプロラクトン高分子は、加えて、アミノ鎖又はエステル鎖にイオン結合又は共有結合によって結合した、例えばグリコリド、グリコール酸又はラクトンといった共単量体と組み合わせてもよい。
【0159】
D.生分解性インプラント
本発明の非細胞基質インプラントは、周囲の軟骨から解放され、た軟骨細胞を移動させ、分裂させ、増殖させ、細胞外基質がされるようにするための支持体を提供する一時的な構造物である。
【0160】
従って、本発明のインプラントは、完全に生分解性でなければならない。スポンジ、ハニカム格子、ゾル・ゲル、ゲル、TRGH、芳香族性有機酸高分子又はカプロラクトン高分子のいずれであるかにかかわらず、やがて、埋め込まれたインプラントは、分解されるか、又は既存の軟骨に組み込まれ、その後、望ましくない残骸を残さずに分解される。
【0161】
全体として、上で記載されている軟骨欠損のための非細胞基質インプラントはいずれも、任意の寸法及び形状の軟骨病変部位への埋め込みに適しており、周囲の健康なホスト軟骨から軟骨細胞が移動してくることによるの構造再構築のための支持体となる。本発明のインプラントの埋め込みによって、正常で健常な硝子軟骨が生成し、軟骨欠損が完全に治癒する。
【0162】
III. 骨軟骨欠損及びその治療
関節軟骨の病変はしばしば、その下にある骨の病変部位を伴う。従って、このような欠損は軟骨とその下にある骨とが組み合わさったものである。これらの欠損は、本願明細書において、骨軟骨欠損と称す。
【0163】
A. 骨軟骨欠損の治療方法
骨軟骨欠損は、軟骨及び骨の損傷によって生じる。上記の通り、軟骨及び骨は、組織学的に2つの異なる結合組織である。そのため、同じ方法及び手段によって両者を効果的に治療することは不可能である。また、このために、このような治療は、軟骨病変単独又は骨欠損のみの治療より複雑であり、難しい。
【0164】
このような複合した損傷を治療しようとする試みからモザイクプラスティ法が開発された。前述のように、モザイクプラスティ法は、健常な組織から移植片を切除し、このような移植片を骨及び軟骨病変部位の双方に移植する処理を有する。この技術の明らかな欠点は、傷害部位の治療のために、開放性手術中に、外科医が他の部位から健常な組織を切除しなければならず、これによりこの過程で健常な組織を傷つけてしまうことである。
【0165】
しかし、本発明の方法をこれらの複合した骨軟骨性傷害の治療に用いれば、健常な組織を切除して傷つけてしまうことや、例えば、同種移植及びその他の手術のために必要な複数の手術を行うことや、又はこれらの双方を必要とせずに、骨及び軟骨病変部位を同じ手術中に治療することができる。
【0166】
本発明によれば、非細胞基質インプラント、と骨誘導性組成物又は骨誘導性薬剤を含有する組成物を有するキャリアとを、望ましくは1又は2種の生分解性高分子保護と組み合わせて埋め込むことにより、このような2つの治療を同時に行うことができる。
【0167】
実際には、同じ手術の間に、外科医は、最初に両方の病変部位を創傷清拭し、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位に沈着させ、この骨病変部位を、1又は数層の非毒性生分解性高分子、好ましくは、下記のVIに記すように2〜10分の長い重合時間を有する修飾された高度に重合可能な生分解性保護高分子により被覆する。生分解性高分子保護バリアを重合させたあと、一般的には数分以内、好ましくは3〜5分の間に非細胞基質インプラントを軟骨病変部位に埋め込み、このインプラントを本願明細書において頂部生分解性高分子上部保護バリアと称するさらに他の一層の生分解性高分子保護バリアにより被覆する。
【0168】
このようにすると、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアは、骨病変部位内に隔離され、骨形成性薬剤(例えば、脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン若しくはポリアクリレート又はこれら任意の組み合わせ)、骨形態形成タンパク質と、他の既知の骨誘導性薬剤(例えば成長因子又はTGF)とのいずれか或いは任意の組み合わせが、非細胞基質インプラントからの干渉なしに周囲の骨からの骨芽細胞の移動を引き起こすように作用する。骨及び軟骨病変部位がこのように分離されるため、硝子軟骨が骨病変部位内へ浸潤することもないし、骨病変部位に線維軟骨が形成されることもない。
【0169】
逆に、非細胞インプラントが、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアから隔てられていれば、骨誘導性薬剤は、軟骨細胞の移動、細胞外基質の形成や、硝子軟骨の生成に何ら寄与しない。骨及び軟骨は各々、別々に治療されるのであるが、一回の関節鏡視下手術の間に同時に処置される。
【0170】
保護生分解性高分子は、骨誘導性組成物上に沈着させることができるし、又は所望の場合には、骨誘導性組成物の下にも、好ましくはそのまま、すなわち追加の薬剤を加えずに、保護生分解性高分子を骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアに加えることができる。
【0171】
骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアは、骨欠損内に沈着され生分解性保護高分子の第1の層で覆われて、骨の再構成及び成長のために病変部位に残される。この組成物及び生分解性保護高分子の双方が、骨の自然治癒を補助する。
【0172】
保護生分解性高分子の第1層によって骨病変部位から隔てられており、且つ頂部生分解性保護高分子バリアで覆わた、軟骨欠損内に埋め込まれた非細胞基質インプラントは、インプラントが硝子軟骨に置換されて生分解されるまで軟骨病変部位に残される。
【0173】
骨軟骨性欠損修復の一般的な処理は、骨軟骨性欠損の清掃及び清拭し、骨誘導製薬剤を含んでいる骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを、軟骨下骨における病変部位の上限まで埋め込み、この組成物の上に非毒性生分解性保護高分子の層を被着させ、この生分解性高分子保護バリアを重合させる。重合は、一般的に3〜5分以内で起こるが、高分子の修飾に従って、必要に応じて早くすることも遅くすることも可能で、代表的には約2分〜約10分にすることができる。生分解性高分子保護バリアが重合した後、上記のように手術を続け、非細胞基質インプラントを軟骨病変部位に埋め込む。その後インプラントの埋め込まれた軟骨病変部位を、非毒性生分解性保護高分子の第2層で被覆して病変部位を密閉し外部から保護する。
【0174】
上記の手順は、異なった条件下の二つの治療を同じ手術中に行うことができるので、特に骨軟骨性傷害の治療に適している。
【0175】
骨軟骨性欠損における具体的な症例は、離断性骨軟骨症であり、この症例では、骨及び軟骨の問題となる病変部位は、不安定な又は完全に転位した骨軟骨性断片になる。現在可能な唯一の治療は、骨膜をとる生検(第1の手術)と、細胞の培養と、、不安定な断片の切除(第2の手術)と、の培養細胞の病変への導入と骨移植(3回目の手術)とを含む3つの独立の手術を必要とする。
【0176】
上述した本発明による方法は又断片を除去するステップを含むように変形した方法によれば、離断性骨軟骨炎の修復のために必要な全てのステップが単一の手術中に同時に行われるので、2回又は3回目の手術が不必要になる。
【0177】
B.骨誘導性薬剤
骨誘導性薬剤は、骨の形成を促進する確かな能力を有する化合物又は蛋白質である。
【0178】
骨形成薬剤で最も適切なものは、脱灰した骨粉(DMP)、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン及び成長因子(すなわち、骨形態形成蛋白質(BMP)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDFG)、上皮成長因子(EGF)、神経膠腫由来因子(GDF)及び、形態転換成長因子(TGFβ―1)、として知られる一群の組換え又は非組換え成長因子)である。これらの成長因子は、個別に用いてもよいし、互いに又は他の骨誘導性因子と組み合わせて用いてもよい。
【0179】
骨形態形成タンパク質は、一般的にBMPの略語によって認識されており、さらに、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−8及びBMP−14のような番号により区別されている。それらの中には、さらに、一般名で認識されるものがあり、たとえば、BMP−3はオステオゲニンと呼ばれ、BMP−3BはGDF−10、と呼ばれるなどする。骨形態形成蛋白質は一般に、約0.01〜約5mg/cm3 の(キャリアの体積又は重量あたりの)濃度に調整するが、この濃度は、好ましくは約0.1〜約1.5mg/cm3 、又は約0.01mg/g〜約5mg/gであり、より好ましくは約0.1mg〜約2mg/gとする。
【0180】
脱灰した骨粉は、骨誘導性組成物として又は骨誘導性キャリアとして用するのに特に適しており、脱灰した骨粉が骨の微孔性構造を模するので、骨誘導性薬剤又は支持構造体として作用させるための他のいかなる化合物も必要としない。簡便には骨又は軟骨下骨病変部位にDBPを沈着させる前に、病変部位にDBPを沈着しうるがそれ自身は骨誘導機能を有さないコラーゲン又はその他の粘着性の流体若しくはヒドロゲルにDBPを溶解させることもできる。
【0181】
C.骨誘導性組成物
本発明の骨誘導性組成物又はこの組成有したキャリアは、1又はいくつかの上述した骨誘導性薬剤を開示された濃度で含む。骨誘導性組成物は、所定の濃度で混合した粉末、溶液、ゲル、ゾル・ゲル又はヒドロゲルとして用いてもよいし、或いは非細胞インプラントに類似した構造体に組み込んで予調整して、骨病変部位又は骨折部位に埋め込んでもよい。例えば、TRGHとして調製される組成物は、ゾル溶液の形態で調製して、そのままで用いる。このゾルはその後、ゲルへと状態を変え、骨病変部位全体を満たす。骨誘導性薬剤はまた、PEG、コラーゲン、アルギン酸塩等に溶解して、その状態で沈着することもできる。骨誘導性薬剤はまた、上述した非細胞基質スポンジのような、第2のスポンジシステムにで吸収させることもできる。
【0182】
骨軟骨又は骨病変部位への骨誘導性薬剤の沈着する好適な態様は、粘着性の溶質、たとえば希釈コラーゲン、アルギン酸塩及びこのような接着剤に薬剤を溶解することである。
【0183】
D.骨誘導性キャリア
骨誘導性キャリア又は骨誘導性組成物を含有するキャリアは、少なくとも1つの骨誘導性薬剤、若しくは、好ましくは複数の薬剤の組み合わせを含んでいる骨誘導性組成物の埋め込みに適したキャリア化合物である。一般的に、キャリアは、骨芽細胞の移動を促進する約50〜約150μmの大きな孔を有する生分解性多孔性基質、ヒドロゲル、スポンジ、ハニカム、芳香族性有機酸の高分子、ポリカプロラクトン又はスキャフォルドである。キャリアは、大きな孔をつなぐ約0.1〜約10μmの相互に連続する小さい孔を有しており、この小さな孔により、骨芽細胞がキャリアの中に定着すること可能となり、栄養及びその他の因子を供給することにより骨形成を可能にするための接続微小構造体及び支持基質が提供される。このようなキャリアの表面は負に荷電させて、骨芽細胞の偽足接着及び骨芽細胞のキャリアへの移動を促進しそれにより骨が形成されるようにすることもできる。
【0184】
IV. 生分解性保護高分子
本発明の保護生分解性高分子は、下にある骨若しくは組織から又は外部環境からの細胞、細胞若しくは組織の破片又はその他の望ましくない異物の移動からインプラントを保護し分離するバリアを形成するのに適した非毒性高分子組成物である。本願明細書において、これらの高分子組成物は、第1、第2、頂部又は底部の生分解性高分子と称す。底部又は頂部の保護バリアとして使用するこれらの高分子は、、同じものでも、異なるものでもよい。
【0185】
通常、インプラントは、生物的に許容されうる粘着性の保護生分解性高分子バリアの頂部及び底部の少なくとも2層の層の間にして軟骨又は骨病変部位に埋め込む。
【0186】
実際には、保護生分解性高分子バリアの第1(底部)の層は、病変部位内に導入してその病変底部に埋め込むまれる。第1の保護生分解性高分子バリアの機能は、例えば血液由来物質、細胞及び細胞片などの外来要素の軟骨下細胞及び滑膜細胞の移動を阻止し、これらが侵入するのを防止する。インプラントが埋め込まれる前には、このような破片が非細胞基質インプラントの組込みに干渉するおそれがある。第1の保護生分解性高分子バリアの第2の機能は、酵素、ホルモン及びその他の成分であって、病変部位にもともと存在しており軟骨細胞の活性化、移動、その他の物質の分泌及び新しく形成された細胞外基質及び硝子軟骨の増殖に必要な成分を含有することである。
【0187】
底部の高分子バリアを沈着させ重合させた後、この第1の保護生分解性高分子バリアの上に非細胞基質インプラントを埋め込み、非細胞基質インプラントの上に第2(頂部)の保護生分解性高分子バリアを配置して重合される。非細胞基質インプラントと組み合わせた双方の高分子バリアがあることにより、軟骨細胞が良好に活性化され、軟骨細胞が移動して、インプラント基質と一体化し、最終的に新たな関節硝子軟骨が形成される。
【0188】
A.第1の底部保護生分解性高分子バリア
軟骨病変の治療方法において、第1の(底部)保護生分解性高分子バリアは、導入されたインプラントと、病変化していない組織(例えば軟骨下骨又は軟骨)との間の界面を形成する。病変部位の底部に沈着された第1の保護生分解性高分子バリアは、病変部位内に移動してきた軟骨細胞を有することができ、望ましくない物質がインプラントへ流入するのを防止することができ、軟骨下腔に軟骨細胞が移動するのを防ぐことができるものでなければならない。加えて、第1の生分解性高分子バリアは、血管並びに望ましくない細胞及び細胞の断片がインプラント内に浸潤するのを防ぐとともに、線維軟骨の形成も防ぐ。但し、まず第1にこの保護生分解性高分子は、埋め込まれた部位で細胞又は組織に対して非毒性でなければならない。
【0189】
骨軟骨欠損の治療方法において、この第1(底部)の生分解性高分子保護バリアは、軟骨病変部位及び骨病変部位の間にバリアを形成する。軟骨及び骨軟骨欠損は2つの質的に異なる組織に生じた欠損であるため、異った治療が必要となる。上述の通り、骨病変は、骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアによって治療し、軟骨病変は非細胞基質インプラントによって治療する。軟骨病変部位に存在して軟骨細胞の移動を活性化させる酵素が、骨病変部位の再生に必要な骨誘導性薬剤及び成長因子を混合するのは望ましくない。組織が互いに分離していない場合には、例えば線維軟骨が容易に骨領域に入り込み易く、このような場合、骨は骨によって置換されずより劣った線維軟骨によって置換されてしまう。従って、骨軟骨欠損の治療のためには、底部保護生分解性高分子バリアを、骨誘導性組成物又はこの組成物を含有するキャリアで充填した骨病変部位の上に沈着し、非細胞インプラントが埋め込まれた軟骨病変部位から骨病変部位を分離する。これによって非細胞インプラント及び骨誘導性組成物は互いに独立に機能しうるようになり、互いに干渉しないようになる。
【0190】
B.第2の頂部保護生分解性高分子バリア
第2(頂部)の保護生分解性高分子バリアは、表面における非細胞基質インプラント又は病変腔の保護部部として作用するもので、典型的には、インプラントの埋め込みの後に病変部位の上に沈着され、これにより細胞浸潤又は分解性薬剤などの外部環境のいかなる望ましくない影響からも病変腔の統合性を保護し、沈着された後の非細胞基質インプラントを所定位置に隔離する。
【0191】
この第2の保護生分解性高分子バリアもまた、2つの保護生分解性高分子バリアの間に形成された空所に埋め込まれた非細胞インプラントの保護部として作用する。このように、第2の保護生分解性高分子バリアは、インプラントが第1の保護生分解性高分子バリアの上の埋め込まれた後に沈着され、インプラントを空所内に隔離する。
【0192】
この第2の保護生分解性高分子バリアの第3の機能は、表層性軟骨層を形成するための基礎としての機能である。
【0193】
後述する従来の研究により、第2の保護生分解性高分子バリアを軟骨病変の上に沈着させれば、病変していない表層性軟骨層の延長部分として表層性軟骨層が成長することが確認されている。このような表層性軟骨層が特によく発達するのは、病変腔を温度可逆性ゲル又はゾル・ゲルで満たされた場合である。従って、このようなゲルがこのような表層性軟骨層の形成のための基質を提供する、という仮説が導かれる。
【0194】
この第2の保護生分解性高分子バリア、又は、骨病変部位と軟骨病変部位とを分離するに使用する保護生分解性高分子バリアは、第1の保護生分解性高分子バリアと同じものでも異なったものでもよく、第1及び第2の保護生分解性高分子を、骨病変部位と軟骨病変部位との間のバリアとして利用してもよいが、異なる保護生分解性高分子バリアをこのために使うこともできる。
【0195】
第1及び第2の保護生分解性高分子バリアは、後述するように、好ましくはメチル化されたコラーゲン(別名CT3)を有する架橋ポリエチレングリコールであって、本発明により、細胞に対して非毒性で且つ延長された重合時間を有するように改変されたものである。
【0196】
C.生分解性保護高分子の特性
本発明の実施に好適な生分解性高分子は、一定の特性を有していなければならない。
本発明の第1の底部の又は第2の頂部の保護生分解性高分子バリアは共に、細胞及び組織に非毒性でなければならず、ある特定の時間内での制御可能な重合時間を有していなければならず、許容されるいかなる代謝経路によっても生物学的に許容され生体再吸収性で且つ生分解性でなければならず、新しく形成された硝子軟骨組織に組み込まれるものでなければならず、取り扱いが容易で接着性及び凝集性を有しなければならない。後者2つの特性は特に、高いずれ応力のかかる大きい病変部位、滑車溝、膝蓋骨の病変部位に関して重要である。保護生分解性高分子はさらに、非毒性で、生物学的に許容されるもので且つ組織に対する適合性がなければならない。この高分子はまた、可撓性で柔軟で且つ非剛性でなければならないが、その理由は硬い高分子では、保護生分解性高分子バリアが磨耗したり、組織部位から突出するおそれがあるためである。この高分子は、新たな軟骨の形成に干渉したり、他の干渉性の又は不所望な組織、例えば骨又は血管又は線維軟骨の形成を促進するものであってはならない。
【0197】
この保護生分解性高分子バリアは、2〜10分以内、好ましくは3〜5分以内に、流動性の液体又はペーストから耐荷重性高分子に制御可能に重合するものでなければならない。保護生分解性高分子の重合が速すぎないようにすることは重要である。その理由は、手術中の埋め込み処置及び病変部位への均一な分散に関して問題を生じるおそれがあるためである。このことは特に、関節鏡検査法の場合に当てはまる。2分未満の重合時間は、許容されるものでなく、非実用的で、望ましくない。他方で、10分を超える重合時間は、外科手術の時間的制約に適応性がない。加えて、全体的な使用方法は比較的単純なものでなければならない。その理由は、複雑及び長い手術では外科医に受け入れられないためである。
【0198】
この保護生分解性高分子を、このような組織に取り付けて、このような組織を隔離するのに、所定の強度の接着結合が必要となる。本発明の保護生分解性高分子の最小剥離強度は、少なくとも3N/m、好ましくは10〜30N/mにする必要がある。加えて、保護生分解性高分子自体も、内部で破損又は断裂することがないような十分な強度がなければならない、すなわち十分な凝集強度を有する必要がある。凝集強度は0.2MPa、好ましくは0.8〜1.0MPa範囲の抗張力であるのが好ましい。或いは又、高分子結合力の高分子の引張剪断力は、少なくとも0.5N/cm2 、好ましくは1〜6N/cm2 でなければならない。
【0199】
本発明よって改変された保護生分解性高分子は、必要な特性を有している。このような生分解性高分子は、未硬化又は液体の状態では、一般に互いに架橋してはいない2つの自由に流動可能な高分子鎖から成るが、水、生理的に適合性のある水性溶媒又はバッファに溶解した原液である。
【0200】
本発明の具体的な生分解性高分子は、3つの異なる化合物(すなわち、メルカプト基含有化合物、スルフヒドリル反応基含有化合物及びアルキル化コラーゲン)を含有した3部の組成物である。一般的に、コラーゲンは、アルキル化、好ましくはメチル化又はエチル化を受けた、野生型又は組換え型の、非変性又は変性のものとし、スルフヒドリル基含有化合物は、酸化ポリアルキレンとし、スルフヒドリル反応基含有化合物は、酸化ポリアルキレンとする。好ましくは、スルフヒドリル基含有化合物は誘導体化ポリエチレングリコールであり、最も好ましくはテトラチオール誘導ポリエチレングリコールである。また、好ましくは、スルフヒドリル反応基含有化合物は誘導ポリエチレングリコールであり、最も好ましくはテトラスクシンイミジル誘導ポリエチレングリコール又はテトラマレイミジル誘導ポリエチレングリコール、又はポリエチレングリコールより誘導したこれらの混合物である。
【0201】
本発明の目的を達成するために、重合時間が延長されており、各化合物は病変部位内又はその上に沈着される前に粉末、ペースト又は液体のいずれかの形態で用意される高分子組成物を生分解性高分子バリアとして使用する。これら3つの成分は、使用する前に、全て混合して水又はpH 3〜4のバッファに溶解するか、代案として、各々を別々に溶解してもよいし、又は2種のポリエチレングリコールを混合してメチル化コラーゲンと別に溶解してもよい。
【0202】
一般的に、組成物は、メチル化コラーゲン約10mgと、分子量約10,000のテトラチオール・ポリエチレングリコール100mgと、分子量約10,000のテトラスクシンイミジル・ポリエチレングリコール100mgとを含む。実施例において、分子量約10,000のテトラスクシンイミジル・ポリエチレングリコールは、スクシンイミジルポリエチレングリコール及びマレイミジルポリエチレングリコールの約1:1混合物によって置き換えることもできる。水又はその他水性溶媒又はバッファに溶解した組成物は、リン酸/炭酸バッファ−で容積1mlにより調整し、その後pHを適切な量の酸で調製して制御可能な所定の重合時間が得られるようにするが、一般にpHは、pH8未満、好ましくはpH7.5未満になるように適切な量の塩化水素又はその他の酸で調整する。
【0203】
これらの3種の成分を混合するとすぐに架橋反応及び重合反応が開始される。重合時間は重合が行われるpHに強く依存する。ポリマー鎖が少なくとも1つの構成要素上に4つの腕を有するのであれば、共役反応によって分子量が無限大の高分子ネットワークが形成される。メチル化コラーゲンは、4つの腕を有するPEGから形成される10,000ダルトン(1つの鎖セグメントあたり2500ダルトン)の高分子を強化する。
【0204】
高分子バリアとして用いる際にはある種の重合開始の引き金となる作用が必要となる。このような引き金となる作用は、2種の反応性パートナーの混合や、好適な改変された保護生分解性高分子の場合のようにpHを上げる試薬の追加や、又は熱若しくは光エネルギーの利用とすることができる。
【0205】
一般に本出願のために有用な保護生分解性高分子バリアは、接着性である、すなわち少なくとも10N/m、好ましくは100N/cmの剥離強度を有する。このような保護生分解性高分子バリア、0.2MPa〜3MPa、好ましくは、0.8〜1.0MPaの抗張力を有する必要がある。強い生物学的接着剤は、いわゆる「引張剪断」結合試験において0.5から4〜6/cm2 の値を有することを特徴とする。このような硬化したゲルの抗張力は約0.3MPaである。
【0206】
本発明に用いられる好ましい保護生分解性高分子バリアのひとつは、4つの腕を有するテトラスクシンイミジルエステルPEG及びテトラチオール誘導PEGと、CT3と称される、カルフォルニア州パロアルトにあるCohesion社から市販されているメチル化コラーゲンとを含み、急速なゲル化時間を本発明の方法に必要な重合時間に改変したものである。実施例4に従って改変されれば、本発明の実施に有利に用いることができる他の高分子は、参考のために本願明細書に組み入れた米国特許第6,312,725号及び同第6,624,245号明細書、並びに文献J. Biomed. Mater. Res.(2001年)(58)第545〜555頁、同文献(2001年)(58)第308〜312頁及び文献The American Surgeon(2002年)(68)第553〜562頁に記載されている。
【0207】
本発明に用いられる他の好ましい保護生分解性高分子バリアは、4つの腕を有するテトラスクシンイミジルエステルPEG及びテトラチオール誘導PEGと、組換えアルキル化コラーゲン例えば、カルフォルニア州パロアルトにあるCohesion社から市販されているCT3として知られる、高分子接着剤と類似したメチル化コラーゲン又は混合エチル化コラーゲンとを含むものである。
【0208】
従って、本発明の生分解性高分子は、5〜60秒という急速なゲル化時間を本発明の方法に必要な2〜10分の重合時間に延長した改変CT3接着剤である。野生型ウシコラーゲンではなく組換え型ウシコラーゲンを用いて、実施例4に従い改変すれば、本発明の実施に有利に用いることができる他の高分子は本願明細書に参考として組み入れた米国特許第6,312,725号及び第6,624,245号明細書、並びに文献J. Biomed. Mater. Res.(2001年)(58)第545〜555頁、文献 J. Biomed. Mater. Res.(2001年)(58)第308〜312頁、及び文献The American Surgeon(2002年)(68)第553〜562頁に記載されている。
【0209】
本発明に用いられる他の好ましい保護生分解性高分子バリアは、組換え調製され架橋PEGと混合したアルキル化、好ましくはメチル化コラーゲンである。
【0210】
本発明のこの組成物は完全に生分解性である。スクシンイミジルエステルPEGに存在するエステル結合の加水分解により分解が起き、可溶性PEG鎖が放出される。
【0211】
D.重合時間の修正
保護生分解性高分子化合物の重合時間は、本発明の実施にあたって非常に重要な基準である。これまで、全ての既知の接着剤、にかわ剤、フィブリンにかわ剤及びシーラントは、組織のシーラント及び接着に対する要求を満たすように一般に5〜30秒、最長でも60秒という非常に速い重合時間又はゲル化時間を有するように設計されてきた。その理由は、これらのシーラント又はにかわ剤が、重合又はゲル化に時間が重要であり非常に迅速に実行する必要がある傷の封止、止血、組織癒着の防止などの措置に用いられているためである。
【0212】
これに対し、本発明は、関節鏡視下手術中に、清拭した軟骨病変部位又は骨病変部位へ高分子バリアを沈着させる処理を有する。手術室の条件下において、外科医が、5〜30秒又はせいぜい60秒という既知のシーラント及びにかわ剤のゲル化又は重合時間内に、高分子化合物を調製し病変部位に沈着するのは不可能である。例えば膝関節関節鏡検査法のような手術では、非常に制限された条件下で関節鏡検査機器及び器具を操作することが必要となる。このような条件下での高分子バリアの埋め込みは、手術時間の制約に対応するものでなければならない。従って、60秒よりはるかに長い時間にわたり、高分子バリアが非重合状態のまま維持されるようにしなければならない。外科医が、液状高分子を病変部位に沈着させ、確実に病変部位の底部又は表面全体にわたって均等に行き渡らせ、底部の高分子についてはインプラントを病変部位に導入する前に又は頂部の高分子については手術を終える前に完全に重合させるのに、最短の可能な重合時間は、好ましいものではないが、最低2分であり、最も好ましくは3〜5分である。病変部位の底部又は病変部位上で高分子バリアが部分的に重合したり又は偏在したりすると、不所望な血液成分、代謝物又は細胞片が滲出するおそれがあり、バリアの目的が達成されなくなるおそれがある。
【0213】
加えて、既知のシーラント、特にCT3シーラントは、バッファされていない場合には、pH約3.4の酸性pHを有し、非生理的で細胞及び組織に有害である。このような酸性pHは軟骨病変部位内の細胞及び組織に有毒であることがわかっている。
【0214】
従って、既知の入手可能なシーラント及びにかわ剤はいずれも、改変なしには本発明の実施に適するものとならない。第1に、これらのシーラントは非常に短い重合時間を有し、本発明の目的に適合しない。第2に、これらは、生分解性高分子バリアを沈着する部位においてかなりの細胞毒性を呈し、本発明の目的、すなわち新たな軟骨の成長を達成することができない。したがって、本発明の目的を達成するために、これらのシーラントを底部又は頂部のバリアとして使用する場合、シーラントは、延長された重合時間を有し、生理的に許容されうるpHを有し、細胞及び組織毒性をほぼ有しない生分解性高分子に改変することが必要になる。
【0215】
E.重合時間の改変方法
既存のシーラント及び高分子の重合時間を改変し細胞毒性を取り除くことは、バッファに溶解したCT3として知られるメチル化コラーゲン及び誘導化ポリエチレングリコールを含む高分子混合物のpH、バッファ混合比及びイオン強度を微調整することにより行うことができる。従って、pH、イオン強度及びバッファ組成は、重合時間の厳密な制御及び細胞毒性の制御において非常に重要な条件となる。
【0216】
すでに上述したように、そのままの改変していないシーラント及びにかわ剤、特に市販されているCT3シーラントペーストの代表的なpHはpH約3.4である。図14C及び図14Dに示すように、CT3、このようなpHでは、バッファなしに使用すると細胞及び組織に有毒である。発明による本改変を加えずにCT3を組織シーラントとして使用する場合、2シリンジエアスプレーシステムにより、CT3をpH9.6のリン酸/炭酸塩バッファと混合する。このようなシステムでは、CT3とpH9.6のバッファとの混合物のpHは7.7〜8.4であり、5〜10分で非常に急速に重合するシーラントになる。このような重合時間は速すぎるため本発明の目的上有益でない。さらに、このpHでは細胞毒性が高くなる。このような細胞及び組織毒性は、にかわ剤及びシーラントを組織接着剤として一般的に使用する場合に、重要な要素とはならないが、本発明においては主要な課題であり、重要な問題となる。
【0217】
本発明において、埋め込まれた非細胞インプラントによって新たな硝子軟骨の形成がどれだけ促進されるかは、周囲の健常な軟骨から健常な細胞の移動に依存する。細胞が非細胞基質に移動した場所において高分子バリアがこれら細胞に対して毒性を有する場合、細胞は死滅するおそれがある。病変部位に移動した軟骨細胞が死滅すると、本発明の目的が達成されなくなる。非細胞インプラントは、支持基質として病変部位に導入されるもので、その中に、活性化生軟骨細胞が移動して当該インプラント内に定着し、硝子軟骨の細胞外基質を産生し始めるようになる。これらの細胞が死んでしまうとインプラントに定着して新たな細胞外基質を分泌し始めることができない。さらに、これらの細胞が死滅すると、細胞は破壊されて、本発明が防止しようとしている細胞の断片及び代謝産物が発生するおそれがある。細胞の断片及び代謝産物は硝子軟骨の形成を妨げ、線維軟骨の形成につながる。このように、組織毒性は本使用において重要となる。というのは、本発明において非細胞基質インプラントの埋め込みがうまくいくかどうかは、健康な細胞の移動に応じたものであり、細胞の断片が生じると硝子軟骨の形成が阻害され線維軟骨が形成されてしまうため、細胞毒性は不所望で許容し得ないものだからである。
【0218】
そこで、一般的な生分解性高分子及び特にCT3の重合時間を、細胞毒性をなくして、2〜10分間という制御可能な時間まで延ばせるかどうかを調べる研究を行った。
【0219】
a.CT3の重合時間
研究は、CT3シーラントを用いるときに通常使用されるCT3バッファの効果の調査に関するものであった。第1の研究は、異なるpHを有する同一のCT3バッファがCT3の重合時間を延長するか否かを調べるものであった。
【0220】
ここでの処理は、CT3バッファを改変してpHを最適化してCT3の重合時間を延長し、CT3が3〜5分以内の重合時間で本発明の保護生分解性高分子に必要な接着性をうるのに十分な強度を有するようにすることを意図している。
【0221】
CT3シーラントに添加することが推奨されるCT3バッファは、表1に示される組成物を有する。
【0222】
【表1】
【0223】
CT3がペースト又は粉末として提供されるときはpH3.4である。CT3をpH9.6のCT3バッファに溶解すると、その結果できる組成物のpHは7.7〜8.4であり、5〜10秒の重合時間を有する。
【0224】
この研究では、pH9.6のCT3バッファを塩酸によってpH8.5、pH8及びpH7.5まで調整し、低いpH(7.7〜8.4)下においてCT3が速く重合することによる組織障害を避け、外科的手順に必要となる高分子の埋め込み条件をに関して満足なあ時間が許容されるようにしている。各々のバッファは、市販のCT3と1:1(CT3:CT3バッファ)の割合で混合してから、塩酸でより酸性のpHに調整した。酸の中和能、重合CT3の強度、CT3が完全に重合するまでにかかる時間を決定した。これらの結果を下記の表2にまとめる。
【0225】
【表2】
【0226】
表2の結果に見られるように、pH7.5という低いpHの改変していないCT3バッファでは、確かに重合プロセスをがやや遅くなったが、このような遅延では重合時間を2〜10分間に延長するには十分ではなかった。この研究の条件下において、pH7.5での重合時間は依然として30秒であり、本発明には速すぎるものであった。
【0227】
保護生分解性高分子バリアにCT3高分子混合物を使用するならば、このCT3高分子化合物は、異なるイオン強度を有するバッファにより、pHが約6.5〜約7.5、好ましくは約6.5〜約7.0のpHまで更に改変しなければならないことが明らかとなった。このようなpHでは、改変バッファを使用して、本発明の生分解性高分子を含有するCT3は、2分より長い、好ましくは3〜5分のゆっくりとした重合時間を達成するのに必要な時間内に重合する。これによって、外科医が高分子を病変部位の底部に埋め込むのに十分な時間ができ、また、手術中に重合が起こる前に病変底部に高分子を均一に行き渡らせることが可能になる。
【0228】
加えて、改変バッファのpH下においては、改変していないCT3バッファ/CT3組成物において観察された細胞毒性は、図14E〜14Hにみられるとおり、無くなるかかなり減少している。
【0229】
b.バッファ系の重合時間に与える影響
本発明で行われる重合時間の改変は、生理的に制御可能な組織バッファ系の特性を用いて達成された。
【0230】
人体の血漿中では、水素イオン濃度は、重炭酸塩、リン酸塩及びタンパク質の3つのバッファ系を使って制御されている。
【0231】
バッファは可逆反応に関係する1組の物質を介して機能しており、この可逆反応により、第1の物質が水素イオンを生じ、第2の物質が周囲に存在する水素イオンの濃度に従って水素イオンを結合することができる。これらの組は、弱酸及び共役塩基によって作られる。各成分のイオン化状態間の関係は、水素イオン濃度に依存しており、ヘンダーソン−ハッセルバルヒの式によって表される。この関係は以下の通りである。
【0232】
pH=pK+log[共役塩基]/[弱酸]
(この式において[共役塩基]は塩基性成分の濃度であり、[弱酸]は弱酸の濃度を示す。)
バッファ系が有効性は、弱酸の解離定数Kに部分的に依存するため、[H+][弱塩基]/[弱酸]=Kが成立する。
【0233】
血漿中では、炭酸及び重炭酸塩の組、並びにリン酸水素塩及びリン酸二水素塩の組が主要な無機バッファである。水素イオンを生じる又は結合することができる大量のペプチドアミノ酸によって作られるタンパク質バッファ系が、血漿中でpHを制御する第3の主要なバッファ系である。タンパク質バッファ系の効果は、この特定例ではその位置のために非常小さくなる場合がある。
【0234】
本願明細書に記載の遅らせた重合処理では、重合系の最初のpHをpH6まで下げることで重合を防止している。間質液の成分が組織コンパートメントに入る際の、反応混合物の生理的バッファリング過程に続いて、この重合反応の遅れが生じる。これは、重合が開始しうるpH7.4の生理学的に制御されたレベルにまで系のpHを最終的に調製する拡散過程に続いて起こるよりゆっくりした過程である。
【0235】
例えばCT3のような、重合薬剤の混合物に用いられる複合緩衝系は、2相バッファ移行を生ずる炭酸塩及びリン酸塩バッファ系の双方を含む。まず、リン酸バッファが、リン酸塩の3つのpKのうちの1つに従って混合物をpH6.0付近に保持し、次に、pH6.1の炭酸バッファ系に移行し、全体のバッファ系はpH7.4で平衡に達する。
【0236】
c. CT3バッファの改変
CT3バッファの改変処理は、異なったイオン条件を作りだし、且つ生分解性高分子を異なる及び生理的により許容されるpHにするバッファによって、CT3のpHを調整する処理を含む。この処理によって、重合時間は120秒以上に延長されて異なる重合時間が限定され、保護生分解性高分子バリアの非毒性、強度、接着性及び重合時間について本発明の必要条件を満足するようになる。
【0237】
手術の実施に必要となる延長された重合時間を有する保護生分解性高分子として用いるCT3シーラントを好適なものとするのに、CT3バッファに行う必要のある改変を複数のバッファ溶液がを試験することにより決定した。そこで、異なった強さのバッファを、表3に示すように準備した。
【0238】
【表3】
【0239】
表3からわかるように、各バッファは、リン酸塩成分及び炭酸塩成分の比並びにpHにおいて互いに相異している。その後、これらのバッファを、等量のpH3.4の改変CT3シーラントと混合して改変CT3生分解性高分子バリアとし、これらのpH及び重合時間を測定した。
【0240】
様々なpHにおける、本発明の生分解性高分子に改変されたCT3の重合時間を表4に示す。
【0241】
【表4】
【0242】
表4に示すように、バッファしていないCT3ペーストは約5分で重合することができるが、pH3.4〜4という低いpHではかなりの細胞毒性が生じるため、改変されていないCT3シーラントは生分解性高分子バリアとしての使用には適さない。上述のバッファを使用することで、本発明に従う外科的手法に有用な時間まで重合時間を延長することができる。例えば、pH7.0のバッファを調べると、pH7.0まで下げることにより重合時間をpH7.5でみられた60秒から90〜120秒まで延長することができ、さらにpH6.5まで下げることにより、重合時間を180〜210秒まで延長することができた。pH6.5における改変CT3シーラントの実際のpHは7.0〜7.4の間にあり、これは生理的に許容されうるpHである。
【0243】
上述の研究結果から、改変CTバッファは、軟骨内に埋め込む生分解性高分子バリアの調製のためにCT3高分子と組み合わせて用いれば、ゆっくりした重合を起こし、毒性もなく、元々のCT3バッファ(pH9.6)を用いたときと同様の接着性を有することが明らかになっている。
【0244】
このようにして得られたられた改変CT3高分子バリアの接着力を、引張剪断試験により測定した。この測定結果を図15に示す。図15に示すように、pH改変CT3の接着強度に大きなはなかった。
【0245】
V.非細胞基質インプラント上に表層性軟骨層を形成するための方法
本発明の付随的な態様は、上述した手順に従って製造された非細胞基質インプラントを軟骨病変腔内に埋め込み頂部保護生分解性高分子バリアによって被覆するとき、これらの組み合わせにより、前記軟骨病変部位を完全に覆う表層性軟骨層が形成されることである。
【0246】
実際には、表層軟骨層の形成のための方法は複数のステップを有する。まず、ゆっくり重合する溶液の形態で沈着された第1の底部保護生分解性高分子バリアで病変底部を被覆する。保護生分解性高分子バリアが重合した後、非細胞基質インプラントをこの病変部位に埋め込み、このインプラント上に第2の頂部保護生分解性高分子バリアを沈着させて重合させる。実施例において、インプラントは体温で容易にゾルからゲルに変化する温度可逆性ゲルとすることができ、それによりインプラントを体外で調製し病変部位内へ埋め込み得るようにする。その後は、このゲルを、軟骨病変部位上での表層性軟骨層の形成を促進する頂部保護生分解性高分子バリアにより被覆して、これにより病変部位内にインプラントを隔離してこれを外部環境から保護する。
【0247】
この表層性軟骨層は、インプラントを軟骨病変部位内に埋め込んで頂部保護生分解性高分子バリア層で被覆した直後から形成され始める。図6に示すように、非細胞基質を埋め込んでから2週後には、表層性軟骨層が非細胞基質の埋め込み部位上に観察された。図6が示しているのは、大腿顆に欠損を生じてから2週間後の関節鏡検査による評価の様子であり、図5に示す同時期に生じた治療を行っておらず何も埋め込んでいない欠損部位と比べると図6においては、、表層性軟骨層が存在していることが明らかにわかる。
【0248】
頂部保護生分解性高分子バリアは、表層性軟骨層を支持するととものにその形勢を促進し、ある場合には、基質のゲル成分によって支援される。インプラント基質が完全に分解されて並びに新たな硝子軟骨が欠損部位に形成された時点で、元々存在する表層性軟骨層は、滑膜が関節を覆うのと同様に、新たに形成された軟骨を完全に被覆して隔離する。第2の頂部生分解性高分子バリアも、最終的には生分解されて病変部位から除去されるが、表層性軟骨層が形成されるまでは生分解されない。
【0249】
VI.非細胞基質インプラントの使用方法
傷害を受け、損傷し、病変し又は老化した軟骨を修復及び回復して機能的な軟骨にする方法は、非細胞基質インプラントを軟骨病変部位内へ埋め込むことに基づく。これらの治療における非細胞基質インプラントの使用方法は以下のステップを有する。
【0250】
a)非細胞基質インプラントの調製
第1のステップは、軟骨病変部位内に埋め込む非細胞基質インプラントの調製を伴う。非細胞基質インプラントの調製は、II.A節に詳述してある。
【0251】
b)第1及び第2の保護生分解性高分子バリアの選択及び軟骨病変部位内への埋め込み
第2のステップは、任意であるが行うのが好ましいもので、底部及び頂部の双方又はいずれか一方の保護生分解性高分子バリア層の選択及び軟骨病変部位内への埋め込みを伴う。
【0252】
具体的には、このステップは、2〜10分、好ましくは3〜5分の重合時間を有する生分解性高分子の調製と、第1の保護生分解性高分子バリアの軟骨病変底部への沈着と、第2の保護生分解性高分子バリアの非細胞基質インプラント上への沈着とを伴う。第1及び第2の保護生分解性高分子バリアは同じものでも異なるものでもよいが、両者ともその機能を発揮するためにある一定の特性を有しなければならない。
【0253】
底部保護生分解性高分子バリアは、非細胞基質インプラントを導入する前に病変部位に沈着させるもので、病変腔の統合性を保護するよう作用する。この底部保護生分解性高分子バリアは、例えば血液や組織の破片といった外来の物質によって病変腔が汚染されるのを防ぐ。この高分子バリアは、細胞外基質を形成したり、軟骨細胞を活性化したり、周囲のホスト軟骨から病変部位内に埋め込まれた非細胞基質インプラント内に軟骨細胞が移動するようにするのに必要であり且つ関係する元々存在する酵素及びその他メディエイタの完全性を保護する。また、この高分子バリアは、病変腔に線維軟骨が形成されるのも防ぐ。
【0254】
頂部保護生分解性高分子は、インプラント上に沈着され、病変部位を外部環境から効果的に封止するもので、病変腔を保護し、2層の保護生分解性高分子バリア間に形成された病変腔内に埋め込まれたインプラントを保護する役割を果たし、表層性軟骨層の形成を可能にするのに十分な生物学的透過性を有する。
【0255】
c)非細胞基質インプラントの埋め込み
本発明の方法における次のステップは、2層の保護生分解性高分子バリア間に形成される病変腔内に非細胞基質インプラントを埋め込む処理を有する。
【0256】
このインプラントは、底部保護生分解性高分子バリアを沈着した後に病変空に埋め込み、その後このインプラント上に頂部保護生分解性高分子バリアを沈着するのが好ましいが、インプラントは底部保護生分解性高分子バリアを沈着させずに病変腔内に埋め込んでその後、頂部保護生分解性高分子バリアで被覆してもよい。
【0257】
d)表層性軟骨の形成
移動した軟骨細胞が埋め込まれた基質を有する非細胞基質インプラントが、頂部保護生分解性高分子バリアと組み合わさることにより、表層性軟骨層が病変腔上に成長しこれを封止するようになる。
【0258】
代表的には、生物学的に許容されうる頂部保護生分解性高分子バリア、好ましくはメチル化コラーゲンを有する改変架橋PEGヒドロゲルの保護生分解性高分子バリア(CT3)を病変腔内に埋め込まれた非細胞基質インプラント上に沈着する。第2の保護生分解性高分子バリアは、表層性軟骨層を形成するための基礎として作用し、表層性軟骨性はやがて病変部位を完全に覆うように成長し、健常な滑膜に極めてよく類似したものになる。表層性軟骨層は、数週間又は数ヶ月、通常は約2週間で完全に病変部位を被覆し、インプラントと、移動及び分裂及び増殖した軟骨細胞と、新たに分泌された細胞外基質とを保護する。外部環境からインプラントを保護することで、線維軟骨がほとんど形成されずに、新たに形成された軟骨組織を病変していない周囲の軟骨に統合しうるようになる。
【0259】
従って、表層性軟骨層の形成は、軟骨の治癒並びにその修復及び回復に非常に重要な観点となる。
【0260】
VII.軟骨病変の治療方法
本発明による、損傷を受け、傷害を受け、病変し又は老化した軟骨の治療方法は、健常な硝子軟骨が再生されこの硝子軟骨が周囲の病変化していない軟骨へ統合されるような条件を発生させることにより、急性損傷による軟骨病変を治癒するのに好適である。
【0261】
この方法は一般にいくつかの新しい特徴、すなわち生物学的に許容される生分解性非細胞基質インプラントの製造特徴と、頂部及び底部の接着性保護生分解性高分子バリアを選択し病変部位へ沈着させる特徴と、これら2層の保護生分解性高分子バリアによって形成された病変空内への非細胞基質インプラントを埋め込む特徴と、病変部位を被覆しその中に埋め込まれた非細胞基質インプラントの統合性を保護する表層性軟骨層を形成する特徴と、軟骨細胞を活性化させ、これらを移動及び分裂及び増殖させ細胞外基質を分泌させ、最終的に新たな硝子軟骨を形成させこれを病変していない軟骨に統合させるための条件を発生させる特徴とを含む。
【0262】
この方法は一般に、
a)上述の手順に従って非細胞基質インプラントを製造するステップと、
b)手術中に関節軟骨病変部位を清拭するステップと、
c)この清拭ステップ中に、この病変腔を周囲の組織から隔離するための底部保護生分解性高分子バリアを病変底部に沈着させることにより、非細胞基質インプラントを埋め込むために病変部位を下処理するステップと、
d)非細胞基質インプラントを、重合したこの底部保護生分解性高分子バリアによりで形成される病変腔内に埋め込み、活性化して移動してきた軟骨細胞がインプラント内で増殖しうるようにするステップと、
e)頂部保護生分解性高分子バリアを病変部位上に沈着し、これによって2層の保護生分解性高分子バリア層間に形成された病変腔内にインプラントを封止するステップと、
f)任意であるが、酵素、ホルモン、成長因子、タンパク質、ペプチド及びその他メディエイタを非細胞基質内に組み込むか又はこの基質に被着させることにより、これら物質を封止された病変腔内に導入するか、これら物質を別々に導入するか、又はこれら物質が底部保護生分解性高分子バリアを通じて移動又は輸送される条件を発生させるステップと、
g)手術後、病変修復のための手術を受けた患者に通常の身体活動を行わせ、健常な硝子軟骨の形成及び周囲の病変していない軟骨へのこの硝子軟骨の統合を促進するものであることが示されている間欠的静水圧を自然に発生させるようにするステップと
を有する。
【0263】
本法にはいくつかの利点がある。
【0264】
この方法の主な利点は、非細胞基質インプラントが予め調製されており、ただ1回の最初の手術中に洗浄及び清拭措置の直後にこの非細胞基質インプラントが埋め込まれることである。
【0265】
第2に、非細胞インプラントは、完全に合成物で非細胞で外来組織又は細胞を含まないため免疫反応が避けられることである。このことは特に、生分解性高分子中のコラーゲンが組換えにて調製された場合にあてはまることである。
【0266】
非細胞基質インプラントを用いるこの方法によって、軟骨細胞及び細胞外基質が3次元的に発達することが可能となる。
【0267】
頂部保護生分解性高分子バリア層を沈着することにより、表層性軟骨層が形成され、それにより健常な関節軟骨の外表面が成長し、インプラント及び活性化して病変部位内に移動してきた軟骨細胞を保護するのに役立つ重要な代謝因子を、発生し収容し保護する。この表層性軟骨層はまた、図10A、図10B、図11A及び図11Bに示されるように、パンヌス(滑膜)が本発明のインプラントにより治療された病変部位を侵食するのをを防ぐものでもあり、図8A、図8B、図9A及び図9Bに示す治療を行っていない病変部位と比べると、これらの場合には病変部位を侵食しているパンヌス(滑膜)が存在することが明らかにわかる。ある例では、温度可逆性ゲルの選択が重要となる場合がある。その理由は、特定のTRGHは頂部保護生分解性高分子バリアを被着させる必要なく、表層性軟骨層の成長を促進するよう作用しうるためである。
【0268】
底部保護生分解性高分子バリア層を沈着することによって、手術における洗浄後の病変部位の統合性を保護し、軟骨下の滑膜細胞及び細胞産物の移動を防ぎ、これによって、活性化して非細胞基質インプラント内に移動してきた軟骨細胞から健常な硝子軟骨が形成され、線維軟骨の形成が防止される環境を作り出す。
【0269】
この方法では更に、非細胞基質インプラントを、ヒアルロン酸又は上述した他の成分若しくはメディエイタを一般には約5〜50%、好ましくは20%(v/v)で加えることにより、強化することができる。この場合において、このようなヒアルロン酸又は他の成分は、ゲルの基質形成特性の増強因子として作用するとともに、一般には滑膜腔内、特には病変腔内での水分補給因子としても作用する。
【0270】
更に、この方法は非常に用途が広く、いかなる種類のインプラントの変型物も所定の軟骨、骨軟骨又は骨の傷害、損害、老化又は病変の治療に有利に用いることができる。
【0271】
軟骨の治療では、この発明に従って、調製した非細胞基質インプラントを病変部位内に埋め込むことによって患者を治療し、インプラントは、底部保護生分解性高分子バリアが被着され頂部保護生分解性高分子バリアで被覆された病変部位に必要な期間だけ残留する。通常、手術及びインプラント埋め込み後の2〜3ヵ月の間に、新たな硝子軟骨が形成され、病変していない周囲のホスト軟骨に統合される。一般にはさらなる手術や介入は全く必要ない。というのは、この2〜3ヶ月の間に、歩いたり、走ったり、自転車に乗ったりといった通常の身体活動によって、十分な静水圧が病変部位に加わり、病変していない軟骨に完全に統合された硝子軟骨の形成が開始され促進されるからである。その後、このような軟骨は、表層性軟骨層で被覆された完全に機能する軟骨となり、この表層性軟骨層は、最終的に、病変していない関節の滑膜と同じ種類の表面に成長するか、又はこのような表面を生じさせる。
【0272】
最後に、この方法によって、老化により摩耗した又は病変した変形性関節症の軟骨を本発明に従って治療されたときに再生する硝子軟骨状の軟骨により置換することもできる。
【0273】
埋め込みの手順では、本発明の範囲で上述した又は可能ないかなる変形例もとりうるものである。従って、治療手順、インプラントの種類、1層又は2層の保護生分解性高分子バリアの使用、高分子バリアの埋め込み処理、添加するメディエイタの選択、さらには患者の通常の身体活動に至るまでいかなる変更も本発明の範囲内のものとして意図されたものである。
【0274】
VIII.骨又は骨軟骨欠損の治療方法
骨軟骨欠損の治療方法は、一般に軟骨の治療と併せて行われる。骨欠損及び骨病変の治療方法は、骨軟骨欠損と併せて実施することもできるし、又は非細胞インプラントの軟骨への埋め込みに関するステップを行うことなく別々に実施することもできる。
【0275】
A.骨軟骨欠損
軟骨下骨が傷害を受けた軟骨の直下にあり、且つ傷害が軟骨及び軟骨下骨若しくは軟骨下骨格骨双方に対する傷害となる解剖学的構成のために、この骨軟骨欠損の治療方法は、VII節に説明した軟骨病変の治療方法を拡張であるもののり、この方法のステップc)において、外科医は、清拭措置を行った後に、軟骨下病変部位に、一般に上述した1種以上の骨誘導性薬剤を含む骨誘導性組成物又はこの組成物を含有するキャリアを沈着させ、次にこの組成物を底部保護生分解性高分子バリア層で被覆し、保護生分解性高分子バリア若しくはこの組成物又はこれら両方を重合させた後に前述したステップa〜gを行う点において相違している。この種の骨軟骨欠損は更に、傷害が骨格骨にまで及ぶおそれがある。このような例では、骨誘導性組成物又は骨非細胞インプラントを骨格骨内に、軟骨下骨と流動可能に連続するように埋め込み、その後これを底部保護生分解性高分子バリア層により被覆し、前述したようにして非細胞インプラントを埋め込む。
【0276】
IX. 人間の変形性関節症軟骨の治療
関節軟骨は、血管、神経又はリンパの供給がない、ただ1つの組織である。血管及びリンパの循環がないことは、線維性組織又は線維軟骨性組織の形成以外の方法で、関節軟骨が治癒する内在的能力に乏しい理由の1つである。関節軟骨が持つ固有の機械的機能は、大きな傷害、老化による摩耗若しくは変形性関節症(OA)といった病変後、自然に再構築されることはない。
【0277】
現在、高齢患者における、高度の変形性膝関節症に対する唯一利用可能な治療は、膝関節を完全に置き換えることである。
【0278】
しかし、若年及び中年の患者ではこの治療法は最適の方法ではない。本発明は、元々十分なレベルの細胞外基質構築酵素、成長因子及びその他のメディエイタを有する若年者の傷害に対する治療により実際的なものであるが、この方法は、高齢者に対する治療法ともなるような改変することができ有利である。
【0279】
高齢患者の治療又は大きな病変の治療では、埋め込み前に非細胞基質インプラントに、1種以上のメタロプロテイナーゼ、メディエイタ、酵素及び、タンパク質を組み入れるか、又はこれらの因子及びメディエイタの内因的な生成を刺激するような薬剤を組み入れるか、或いはこれらの双方を行う。これらの因子は、上述の通り、軟骨細胞の活性化、移動及び細胞外基質の分泌を刺激し促進する。従って、本発明の方法は高齢者における軟骨欠損の治療にも好適である。但し、このような治療では、より長い治療期間が必要になることが予想される。
【0280】
変形性関節症において、又は老化して摩耗した軟骨においては、各基質タンパク質の分解によって基質の構造的統合性が乱されることにより、機械的特性が減少し機能が損なわれることになる。従って、本発明は、病変した変形性関節症軟骨又は摩耗した軟骨を新たな健常な硝子軟骨で再生する手段を提供することによって、この過程を逆転させるものである。
【0281】
X.ブタの生体での膝体重支持領域の研究
本発明による方法を、ブタの生体内での研究により試験し確認した。
【0282】
本研究は、後述するように、軟骨細胞の活性化及び周囲軟骨への移動、病変部位内に新たに合成される硝子軟骨の生成、並びに表層性軟骨層の形成を検出することによって、ブタにおける非細胞基質インプラントの実現可能性を評価するものとした。
【0283】
本研究は、膝関節の大腿内側顆における体重支持領域での欠損作成、この欠損部位内への非細胞基質スポンジの埋め込み、底部及び頂部保護生分解性高分子バリアの沈着、欠損作成後2週間後における表層性軟骨層の成長の検出、軟骨細胞の形態の検出、パンヌス侵食及び線維軟骨の存在の検出、S−GAG分泌の有無の検出、CT3保護生分解性高分子バリアの有無の組織化学的評価、を含む。
【0284】
0日目に空の欠損を作成し非細胞基質を埋め込んだ部位の肉眼での解剖学的構造を図3及び図4に示す。欠損作成後7ヶ月の時点における、非細胞基質インプラントにより治療した欠損部位における健常な硝子軟骨の形成状態及び表層性軟骨層の形成状態、並びに対照群の欠損部位における線維軟骨パンヌスの侵食状態を図5〜12に示す。
【0285】
図3は欠損形成時(時間0)における2つ空の欠損部位A及びBを示す。図4は時間0で作成した2つの欠損部位A及びBに非細胞基質インプラントを埋め込んだ状態を示している。
【0286】
図5及び6は、対照動物(図5)及び実験動物(図6)における欠損作成後2週間における関節鏡検査による評価を示している。組織学的等級付けを図7に示す。対照動物についての組織学的評価を図8及び図9に、非細胞インプラントで治療した実験群についの組織学的評価を図10及び図11に、それぞれ2つの倍率で示す。底部及び頂部保護生分解性高分子バリアが病変部位から分解していく様子を図12に示す。ミニブタの大腿顆における全層欠損の1例を図13に示す。改変していない及び改変CT3シーラントの細胞毒性は図14A〜図14Hに示される。図15に示したグラフは引張剪断試験の結果を示しており、ここでは図14A〜14Hに示される様々な強さのバッファでそれぞれ異なったpHレベルに改変したCT3を比較している。
【0287】
大腿骨関節面、欠損作成、及びこの欠損部位内のインプラント埋め込み部位の概略図を図1Dに示す。図1Dは大腿骨関節面の内側にある大腿骨内側顆に作成した2つの欠損部位A及びBを示す。これら欠損部位の大きさは直径4mm、深さ1.5mmである。これら欠損部位は体重支持領域に作成された。
【0288】
表5は図1Dに概略を図示した研究デザインの条件を表にしたものである。
【0289】
【表5】
【0290】
表5は軟骨病変の治療のための非細胞インプラントの実現可能性を調べるための7ヵ月間の研究に関する研究デザインを示している。本研究は、2つの群それぞれにおいて、生後9〜12ヶ月の去勢された雄のユカタン・マイクロ・ブタを8匹ずつ対象としている。2つの欠損(A及びB)を時間0において各動物の膝に作成し、合計で16箇所の欠損部位を作成した。実験群には、欠損作成時に非細胞基質インプラントを埋め込んだ。対照群においては、欠損は、いかなる治療もせずに空のままにしておき、視覚的、顕微鏡的、組織学的、及び組織化学的な比較のために使用した。関節鏡検査は、埋め込み及び欠損作成から2週間後に施行した。剖検は、埋め込み及び欠損作成から7ヶ月後に行った。
【0291】
非細胞基質インプラントは、カルフォルニア州にあるCohesion社から入手したコラーゲン溶液VITROGEN(登録商標)(35uL)から調製した。コラーゲンゲル溶液は、日本国にあるKohken社から入手したコラーゲンハニカムスポンジ(直径5mm、厚さ1.5mm)内に吸収させた。複合コラーゲンゲル/スポンジ構造物(図2A及び2B)は、37℃で1時間予め暖めてコラーゲンをゲル化した後、1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有する培地において5%二酸化炭素中で37℃の温度で培養した。重合から約24時間後、埋め込み処理のために、予め暖めた培地(37℃)をいれた組織培養容器に生分解性スキャフォルドを移した。
【0292】
吸入麻酔下で関節を切開した。膝関節包を開いた後、各動物の遠位大腿顆の体重支持部位の内側関節軟骨に2つの空の全層欠損(直径4mm、深さ約1.5mm)を作成した。欠損を作成した後、この欠損部位の底部に、典型的にはメチル化コラーゲンを含有する改変架橋ポリエチレングリコールヒドロゲル(CT3)保護生分解性高分子バリアを設置した。この後、軟骨病変内に設置したこの底部保護生分解性高分子バリア上に、予め調製した非細胞生分解性スポンジを配置した。この非細胞スポンジを、通常4〜6針の吸収性縫合、及び2針の非吸収性縫合で固定した。非吸収性縫合は、肉眼観察の際のマーカーとして使用したもので、図6に見られるものである。その後、埋め込み処理を行った欠損部位を、頂部保護生分解性高分子バリアにて封止した。
【0293】
対照群では、2つの空の全層欠損を作成して何もしないままにしておいた。すなわち、これらの欠損部位の中には何も入れておらず、インプラントも埋め込んでないし、底部又は頂部保護生分解性高分子バリアも沈着していない。
【0294】
図3は、遠位大腿顆の体重支持部位にある内側関節軟骨に作成した2つの空の全層欠損部位A及びB(直径4mm、深さ1〜1.5mm)の写真を示している。空の欠損部位は、全研究期間にわたって何もしないままとし、実験群に対する対照群として用いた。
【0295】
図4は、図3に示す空の欠損部位と同様に作成した2つの全層欠損部位の写真である。これら2つの欠損を本発明の方法に従って治療し、病変底部上に底部保護生分解性高分子バリアを沈着させた。この底部保護生分解性高分子バリア上の病変腔内に非細胞インプラントを埋め込み、埋め込まれた非細胞基質インプラント上に頂部保護生分解性高分子バリアを沈着させた。インプラントは、直径5mm、厚さ1.5mmのコラーゲンスポンジ(図2A)とした。インプラントは欠損部位A及びBの双方に埋め込んだ。各インプラントは、吸収性縫合と、以降の関節鏡検査評価時にマーカーとして使用する2針の非吸収性縫合とにより固定した。
【0296】
欠損を作成し非細胞基質を埋め込んで2週間後に、空の欠損部位及び埋め込み部位を関節鏡検査にて評価した。2週間後の関節鏡検査の評価を図5及び6に示す。
【0297】
図5は、欠損形成の2週間後におけるた空の欠損部位の関節鏡顕微鏡写真である。関節鏡検査による評価によって、対照群では、無処置のままにした場合、病変部位に滑膜パンヌスが侵食し、線維軟骨で満たされてしまうことが示された。この関節鏡検査による評価は、欠損部位が陥凹していることを明示しており、このことは、欠損部位が完全にむき出しで、空になっているが、滑膜の侵食がすでに起きていることを示している。このような滑膜の侵食は、線維軟骨が形成される最初の段階となる。線維軟骨は質的にも機能的にも硝子軟骨に劣るため、硝子軟骨に変わり線維軟骨が形成されて硝子軟骨を置換するのは望ましくない。
【0298】
埋め込み部位の関節鏡検査による評価によって、2週時間の時点ですでに、欠損部位が人工的な軟骨層で被覆されていることが示された。図6は、欠損作成から2週間の時点での、非細胞基質インプラントで治療した欠損部位の関節鏡顕微鏡写真である。図6は、表層性軟骨層が埋め込み部位を被覆し、平滑な表面を形成していることを示している。この埋め込み部位の境界は、空の欠損部位の境界が明確で目に見えるものであるのに比べ、もはやはっきりわからないものとなっている。このような埋め込み部位は、軟骨細胞がインプラント内へ移動し、細胞外基質が分泌されホスト軟骨と合流し始めており、この埋め込み部位全体が表層性軟骨層により被覆されていることを示している。図6に示す関節鏡検査による評価は、非細胞基質を埋め込んだ病変部位がむき出しなっておらず、この埋め込み部位を覆う表層性軟骨層により完全に被覆されていることを明らかにしており、この埋め込み部位は、図5に示す対照群における完全にむき出しで空の欠損部位と比べると平滑な表面に見えている。
【0299】
欠損を作成し非細胞インプラントを埋め込んでから7ヶ月の時点で、動物を安楽死させた。大腿関節顆の埋め込み部位及び欠損部位を組織学的評価のために採取した。採取した組織は、4%ホルムアルデヒド/PBSにより4℃で固定した。これら組織を10%のギ酸により脱灰し、処理して、パラフィンに封埋した。薄切片(5μm)をサフラニン−O(Saf−O)及びヘマトキシリンエオジン(H−E)にて染色し、組織学的評価を行った。
【0300】
染色した薄切片は、文献J. Bone Joint Surq. Am.(1997年)1452〜62頁により改変した図7に示す組織学的等級付けスケールにより盲検法にて評価した。欠損部位中央から採取した薄切片のみについて等級付けを行った。その理由は、確実に偏りのない解析を行い、異なった時点において調べた標本間での比較が可能となるようにするためである。欠損部位中央の領域のみを選択したのは、治癒能力を最も厳密に試験するためでもあり、また、欠損部位中央から採取した標本には確実に最小量の軟骨の治癒が確認されるためでもある。
【0301】
軟骨修復を評価するために使用した組織学的等級付けシステムを表6に示す。
【0302】
【表6−1】
【0303】
【表6−2】
【0304】
修復した軟骨の組織学的等級付けを行った累積結果を表7に示す。
【0305】
【表7】
【0306】
表7に示すように、欠損作成及び非細胞基質インプラントによる治療の7ヶ月後の時点での組織学的等級付けの平均合計得点は、非細胞インプラントの埋め込みを行った群において欠損部位を空にした群よりはるかに高く、埋め込みを行った群の得点は全項目によい手欠損部位を空にした群より高かった。
【0307】
修復組織の組織学的等級付けを図7に示しており、これは表5に示した結果を図示したものである。組織学的等級付けスケールに基づく平均合計得点は、治療を行って異な欠損に比べ、非細胞基質インプラントで治療した欠損において有意に良好であった(p≦0.001)。
【0308】
欠損作成後7ヵ月の時点で、動物を殺して関節を採取し、サフラニン−O染色にて評価した。これらの結果を図8〜11に示す。
【0309】
欠損作成後7ヵ月の時点での、インプラントを埋め込まなかった空の欠損部位A及びBを図8A、8B、9A及び9Bに示す。
【0310】
図8Aは、欠損作成後7ヵ月の時点における、対照群の欠損部位Aにおけるインプラントを埋め込んでいない空の欠損部位(D)をサフラニンO染色した顕微鏡写真(倍率29倍)である。強拡大図(図8B)には、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)に囲まれた欠損部位(図8A)が線維軟骨(F)により満たされている様子が明らかに示されている。この欠損部位は、赤色によって示されるS―GAGの蓄積が極めて少量であるか全く存在しないことが観察された。S−GAGの蓄積が極めて少量であるか全く存在しないことがは細胞外基質が形成していることを証拠づけるものである。S−GAGが少量しか存在しないか、又は全く存在しないならば、細胞外基質は形成されておらず、このことは軟骨細胞の移動がないこと、及び硝子軟骨の形成がないことを示している。このことは、病変部位内に線維軟骨が存在し形成されていることも示している。
【0311】
図8Bは、欠損部位を倍率72倍で示したもので、線維性細胞である線維芽細胞が存在していることを確実にするもので、滑膜から血管結合組織パンヌス(F)が侵食していることを示している。軟骨細胞の形態は、ほぼ紡錘形(線維性)の細胞が存在することを示している。
【0312】
図9Aは、欠損作成後7ヶ月の時点での対照群の欠損部位Bにおけるインプラントを埋め込んでいない空の欠損部位(D)をサフラニンO染色した顕微鏡写真(倍率29倍)であり、軟骨下骨(SB)を下方に有するホスト軟骨(H)に囲まれた、欠損部位を満たす線維組織(F)が形成されていることがわかる。病変部位の表面が極めて不揃いであることが観察された。この欠損部位においては、赤色によって示されるS−GAGの集積が極めて少量しかないことが観察された。S−GAGの蓄積は細胞外基質の形成を証拠づける。
【0313】
図9Bは欠損部位の倍率72倍の顕微鏡写真であり、線維芽細胞が存在することが示されており、このことは、滑膜からの血管結合組織パンヌスFの浸潤を表している。この部位で観察された細胞の形態により、大部分が紡錘形の線維細胞であることが示されている。
【0314】
図8A、8B、9A及び9Bは、本発明の非細胞インプラントにより治療しなかったインプラントを埋め込んでいない対照群の欠損部位が、S−GAGの蓄積として表れる健常な硝子軟骨の形成を表示しないことを明示している。このS−GAGの蓄積はこれはサフラニンO染色を施した顕微鏡写真では赤色として認められる。これらの顕微鏡写真では、むしろ、空の欠損部位に蓄積された紡錘形の線維細胞を有する欠損部位へ、血管結合組織パンヌス滑膜が侵食していることが示されている。
【0315】
病変部位を治療しない場合には、欠損部位は線維軟骨によってみたされてしまったが、非細胞基質インプラントを欠損部位に埋め込んだ場合、軟骨細胞の活性化及び周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動が引き起こされ、埋め込み部位内に軟骨細胞外基質が大量に形成され(細胞外基質の蓄積)、血管結合組織パンヌスの侵食が最小限になる。細胞外基質の蓄積は、実験動物の埋め込み部位において強赤色として検出された。これらの結果を図10A、10B、11A及び11Bに示す。
【0316】
図10Aは、欠損作成及び非細胞基質インプラントの埋め込み後7ヶ月の時点での、欠損部位A内に埋め込まれた非細胞基質インプラント(I)のサフラニン−O染色による組織学的評価を示す顕微鏡写真である。図10Aは、周囲の病変していないホスト軟骨(H)から、病変部位内に埋め込まれたインプラント(I)内へ細胞の移動が誘引き起こされている様子をはっきりと示している。埋め込みから7ヶ月後、硝子軟骨状の軟骨が非細胞基質インプラントの埋め込み部位で観察された。硝子軟骨の存在は、正常なS−GAGの蓄積によって示され、このことは欠損部位Aに存在する顕著な赤色として表される。表層性軟骨層が病変部位上に形成されているのがわかる。埋め込み部位における血管結合組織パンヌスは極めて小さいものであった。インプラントは、軟骨下骨領域(SB)を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。
【0317】
図10Bは、埋め込み領域の強拡大(72×)図であり、S−GAGの集積を示す赤色の部分が存在しており、軟骨細胞の形態により、治療を行っていない対象群の欠損部位に観察された紡錘形の線維細胞と比べ、正常でほぼ円形の細胞が主として存在していることが示されている。
【0318】
図11Aは、埋め込み後7ヵ月の時点での、欠損部位B内に埋め込まれた非細胞基質インプラント(I)のサフラニン−O染色による組織学的評価を示す顕微鏡写真(倍率29倍)である。図11Aにより図10Aに示した結果が確認される。図11Aは、周囲の病変していないホスト軟骨(H)から病変部位内に埋め込まれたインプラント(I)内への細胞の移動が引き起こされている様子をはっきりと示している。埋め込み後の7ヵ月の時点において、硝子軟骨状の軟骨が非細胞インプラント部位において観察された。硝子軟骨の存在は、正常なS−GAGの蓄積によって示され、このことは欠損部位Bに存在する顕著な赤色により表される。病変部位上に形成された表層性軟骨層及び非吸収性縫合の跡も見られる。埋め込み部位において、血管結合組織パンヌスによる滑膜の侵食は全く観察されなかった。インプラントは、軟骨下骨層領域(SB)を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。非吸収性縫合糸はホスト軟骨とインプラントとの間の元々の境界を示しているが、この時点ではほぼ完全にわからなくなっている。
【0319】
図11Bは、多量に蓄積されたS−GAGの存在を表す赤色の部分を有する埋め込み領域の強拡大(72×)図を示す。この場合も軟骨細胞の形態により、正常でほぼ円形の細胞が存在していることが示されており、このことは前述した病変部位Aにおいて観察された結果を確実なものとしている。
【0320】
図10A及び図10B、図11A及び図11Bに示すように、生分解性非細胞基質とホスト軟骨とが統合している様子がはっきりと見える。このような統合は、欠損部位が健常な硝子軟骨により囲まれている図8A及び図9Aでは観察されていない。これらの図は、欠損部位での細胞の形態が、図10A及び図10Bに示す埋め込み部位の細胞ののものと異なっていることを示している。空の欠損部位での細胞の形態は、周囲の硝子軟骨の細胞と異なる紡錘形の線維細胞が存在することを示している。これに対し、埋め込み部位での細胞の形態は、周囲の健常な硝子軟骨でも観察されるような正常な(円形の)細胞が存在することを示している。このように7ヶ月後の埋め込み部位は、過去に傷害を受けていない軟骨と、インプラントの埋め込み後に病変部位内に形成された軟骨との間に違いがないことを示している。
【0321】
加えて、病変部位に埋め込まれたインプラント上に沈着した頂部生分解性高分子バリアを使用することにより、表層性軟骨層が形成され、埋め込み部位における滑膜組織の侵食が最小限になる。
【0322】
非細胞インプラントを埋め込んだ軟骨病変部位上に頂部保護生分解性高分子バリアを沈着すると、この軟骨病変部位上に表層性軟骨層が形成される。図6に示すように、埋め込み後2週間で表層性軟骨層がすでに存在することが観察された。この表層性軟骨層を形成せしめる頂部保護生分解性高分子バリアは、生分解性であり所定の時間内に生分解される。保護生分解性高分子バリアを沈着してから3ヵ月の時点では、表面領域に、表層性軟骨層と共に、残留している保護生分解性高分子バリアが依然として観察された。埋め込み後7ヶ月の時点で、この頂部保護生分解性高分子バリアは完全に生分解され、図10A及び11Aに示されるようにその場所に表層性軟骨層が形成された。
【0323】
生体内における頂部及び底部保護生分解性高分子バリアの分解を測定するために、スキャフォルド基質を用いて自己由来の軟骨細胞構造物を埋め込んだ関節軟骨の標本を、サフラニン−O(図12A〜図12C)で染色するか、又は保護生分解性高分子バリア(改変CT3)に対するモノクローナル抗体及びジアミノベンジン(DAB)で免疫組織化学的に処理した(図12D〜12F)。図面におけるサフラニン−O染色で赤色調の部分は、S−GAGの蓄積を示している。茶色の部分は、保護生分解性高分子バリアが残留していることを示しており、これはジアミノベンジジン(DAB)によって検出されたものである。
【0324】
ここで、図12は、非細胞基質の埋め込み後3ヶ月の時点での頂部及び底部保護生分解性高分子バリアの分解パターンを示している。この時点で、表層性軟骨層がインプラント上に形成され、頂部保護生分解性高分子バリアが一部分解されていた。底部保護生分解性高分子バリアは、病変部位底部に沈着後3ヶ月の時点において、完全に分解され病変部位から取り除かれていた。
【0325】
図12Aは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の表面図を示しており、表層性軟骨層がはっきりと見え、少量の頂部保護生分解性高分子バリア(改変CT3)がこの表層性軟骨層の下に残留している。図12Bは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の側面図を示している。図12Cは、時間0において底部保護生分解性高分子バリアを沈着した埋め込み部位にサフラニン−O染色を施した状態を示す下面図である。図12Dは、免疫染色を施した頂部保護生分解性高分子バリア(改質CT3)の表面図を示しており、この頂部保護バリアは茶色で示されている。図12Eは、免疫染色を施した頂部又は底部保護生分解性高分子バリアの側面図を示している。図12Fは、免疫染色を施した底部保護生分解性高分子バリア(改変CT3)の下面図を示している。
【0326】
両試験において、残留している頂部保護生分解性高分子バリアは、再生した硝子軟骨状軟骨領域の頂部と表層性軟骨層との間の表面にしか観察されなかった。(図12A及び12D)側面図では、埋め込み部位と周囲のホスト軟骨との界面にいかなる頂部又は底部保護生分解性高分子バリアも残留していないことが示された。(図12B及び12E)底部保護生分解性高分子バリアは、これを時間0において沈着した、軟骨下骨領域と界面を成している病変部位底部に残留していなかった。(図12C及び12F)
【0327】
これらの結果は、底部保護生分解性高分子バリアは、埋め込みから約3ヵ月後に完全に生分解され、病変部位から取り除かれることを示している。この時点では、頂部保護生分解性高分子バリアがまだ病変部位表面に残留しているのが見えるが、この保護生分解性高分子バリアは、この場所で滑膜のいかなる移動又は侵食からも非細胞インプラントを保護するとともに、表層性軟骨層の形成を支持している。時間が経過すれば、頂部保護生分解性高分子バリアのこのような残留物であっても、生分解され治癒部位から取り除かれる。このことは、いかなる頂部又は底部保護生分解性高分子バリアも欠損部位に残っていないことによって裏付けられている。
【0328】
本例において頂部保護生分解性高分子バリアが3ヵ月の時点でまだ残留している理由は、細胞の統合及び硝子軟骨の形成に重要な細胞の移動が、非細胞インプラントの埋め込み部よりも、側面及び底面の領域において細胞の移動がより活発だからである。これらの側面及び底面の領域では、保護生分解性高分子バリアは3ヵ月以内に完全に分解される。このような現象は、生体内への細胞及び非細胞基質インプラントの埋め込みでの両方で起こることが観察された。細胞インプラントは、本願明細書において参考として組み込まれている同時係属の米国特許出願第10/625,245号(2003年7月22日出願)明細書に記載されている。
【0329】
対照群及び実験動物群において軟骨欠損の作成に用いた外科手術が、軟骨下骨領域を貫通する微小骨折法とは異なっていることを確認するために、ミニブタの大腿顆に全層欠損を作成し、この画像を図13に倍率72倍で示した。図13は、作成したこの全層欠損をパラフィンに包埋し、サフラニン−O染色を施した参考組織である。ホスト軟骨に囲まれ、下方に軟骨下骨領域を有する大腿顆から未治療の関節軟骨及び骨の欠損部位を作成した。軟骨下骨の上方の領域に、石灰化した残留軟骨領域が見られる。この組織は、組織学的評価のための参照組織として全ての研究において利用した。
【0330】
改変生分解性高分子バリアの組織に対する安全性を、pHを改変したCT3シーラント/バッファ混合物の全ての組み合わせてついて測定した。上述したように、希釈していないpH3.4のCT3シーラントは細胞に対して有毒である。従って、改変した組成物もまた有毒であるのか、それともこれらの改変した組成物はCT3シーラントについて観察された細胞に対する毒性を回避したものであるのかを決定することが重要であった。安全性試験のための研究デザインは、ブタの大腿顆へ非細胞基質を埋め込み、この際、病変部位底部に沈着させる高分子バリアを、改変していないCT3シーラントとしたものと、種々のpHのバッファで改変したCT3としたものとがある。インプラントを埋め込んだ大腿顆を24時間培養した。培養した組織を、アメリカ合衆国オレゴン州にあるMolecular Probes社から市販されている商品名Live&Dead Staining Kitを使用して研究した。埋め込み部位は、共焦点顕微鏡により観察した。
【0331】
Live&Dead Cell Staining Kitは2色の蛍光染色法で、2種類のプローブを用いて、生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)を染色する。カルセインAMは生細胞を緑色に染色し、エチジウムIII(エチヂアンのホモダイマ−1)は死細胞を赤色に染色する。これらのプローブは、細胞活性度の2つの認識されているパラメータを測定するできるように構成されている。
【0332】
高いpHのCT3バッファ(pH8.0、pH8.5、pH9.0及びpH9.6)は、本研究において測定することができなかった。その理由は、これらは5〜10秒で急速に重合し、このため本発明に好適ではなかったからである。
【0333】
この結果を図14に示す。図14は、ブタの大腿顆に埋め込んだ重合時間を延長しほぼ非毒性な生分解性高分子に改変したCT3シーラント及び、改変していないCT3シーラントの毒性を、無治療の何もしていない対照群と比較して示す。
【0334】
図14A(側面図)及び図14B(下面図)はともに、緑色に染色された生細胞、及び赤色に染色された死細胞の分布を示している。無治療群では死細胞は極めて僅かしか観察されなかった。細胞のほとんどは緑色に染色されており、生細胞であることが確認される。
【0335】
図14C(側面図)及び図14D(下面図)は、pH3.4の改変していないCT3を用いて、底部高分子バリアとして沈着させた後に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面から見た分布を示している。pH3.4の改変していないCT3を用いて、底部高分子バリアとして沈着させた後に観察された側面図及び下面図の双方においては、多くの死細胞が明らかに観察される。側面図では、極めて少ない生細胞が観察されるが、これらの生細胞は、周囲組織の生細胞に起因するものと考えられる。この図は、改変していないCT3が大腿顆の病変部位において細胞に対して非常に有毒であることを明らかに示している。
【0336】
図14E(側面図)及び図14F(下面図)は、バッファによりpH6.5に改変したCT3を底部高分子バリアとして用いた後に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面から見た分布を示している。pH6.5の改変CT3を大腿顆の病変部位内に沈着させた場合、観察される細胞に死細胞はほとんど無かった。このことは、改変CT3生分解性高分子バリアは細胞に対して有毒ではなく、本発明に使用するのに極めて好適であることを明らかに示している。
【0337】
図14G(側面図)及び図14H(下面図)は、バッファによりpH7.0に改変したCT3を底部高分子バリアとして用いた後に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面から見た分布を示している。pH7.0の改変CT3を大腿顆の病変部位内に沈着させた場合、観察される細胞のほとんどは生細胞であり死細胞は少数しか見られなかった。このことは、pH7.0の改変CT3生分解性高分子バリアは細胞に対して有毒ではないことを明らかに示している。
【0338】
図14I(側面図)及び図14J(下面図)は、バッファによりpH7.5に改変したCT3を底部高分子バリアとして用いた後に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面から見た分布を示している。pH7.5の改変CT3を大腿顆の病変部位内に沈着させた場合、観察される死細胞はより多くなったが、ほとんどの細胞は生存していた。このことは、CT3をpH7.5まで改変した場合においても、CT3生分解性高分子バリアは、細胞に対して過度に有毒にはならないことを明らかに示している。
【0339】
図15は、図14A〜図14Jに示した改変生分解性高分子の引張剪断試験の結果を示している。これら全ての群で剪断強度に顕著な差はなかった。従って、CT3シーラントを改変することにより、保護バリアとして使用したときの生分解性高分子の接着強度に何らかの影響を受けることはない。
【0340】
上述の結果は、本発明による軟骨病変部位内への生分解性非細胞基質インプラントの埋め込み措置により、周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動及び細胞外基質の形成が引き起こされ、これにより新たな硝子軟骨が合成されるが、インプラントの埋め込み部位における血管結合組織パンヌスの骨膜侵食は最小限になる、ということを示している。
【0341】
新たな硝子軟骨の合成は、S−GAGの蓄積として表される細胞外基質の蓄積により測定した。また、生分解性非細胞インプラントとホスト軟骨との間の細胞統合も観察した。
底部及び頂部保護生分解性高分子、並びに縫合糸は、主に病変部位内にインプラントを固定するために使用するものであるが、これらは埋め込み部位における滑膜組織の侵食を最小にするという副次的な効果も持ちうることが示唆されている。その一方で、上述の及び図によって示される結果は明らかに、無治療で処置をしていない対照群の欠損部位では血管結合組織パンヌスを伴って滑膜が侵食する、ということを示している。
【0342】
本発明を実施するのに最も好適な非細胞基質インプラントは、改変したポリエチレングリコール及びメチル化コラーゲン(CT3)の保護生分解性高分子からなる底部及び頂部層間にはさまれた、II型コラーゲンの温度可逆性ヒドロゲルを充填したII型アテロコラーゲンからなる多孔性ハニカムスポンジを有するものである。多孔質ハニカムのI型コラーゲンからなる隔壁は、コラーゲン−PEGの化学的相互作用に加わることにより、コンクリートに対する金属補強筋の作用と同じようにして、保護生分解性高分子バリアの封止能力を更に強くする。
【0343】
非細胞インプラント自体は、約4ヵ月で完全に生分解することができる。その間に、性的に成熟しているが完全には骨端線が癒合していないミニブタにおいて、以下のような状況が観察された。頂部保護生分解性高分子バリアにより被覆した2mmの大腿顆病変部位において、表層性軟骨層が、非細胞インプラントの周囲にある健常な軟骨領域の端部から広がり、病変部位及び保護生分解性高分子バリア層を覆うようになるのが観察される。加えて、非細胞インプラント内へ軟骨細胞の移動や、最終的にインプラントを満たしこれを置換することになる新たな硝子軟骨基質の生成も観察される。このような新たな軟骨基質は、硫化グリコアミノグリカン含有量及び組織学的所見による評価から分かるように、硝子軟骨であるか又はこれに極めて類似したものである。これらの移動性の軟骨細胞の生成源は、非細胞インプラントの周囲にある健常な軟骨の周辺深部層と、インプラントを覆う表層性軟骨層との双方であると考えられる。その理由は、これらの層が、硝子軟骨を産生しうる分化した軟骨細胞の生成源であることが示されているからである。最終的に、硝子状軟骨がインプラントを充填し、これと同時に埋め込まれた非細胞基質が徐々に生分解されるのが確かめられている。
【0344】
本発明の方法では、軟骨下骨起源の細胞は、インプラント内に入ることができない。これらの細胞は、軟骨下骨に面した底部保護生分解性高分子バリアによって阻止される。同様に、頂部保護生分解性高分子バリアが沈着してあるため、滑膜パンヌスは病変部位内に入ることができない。健常なホスト軟骨からの軟骨細胞だけがインプラント内に入ることができる。このように、I型コラーゲンが単独で細胞の移動を促進させることができるのに対し、保護生分解性高分子バリアは、周囲の健常な軟骨からの健常な軟骨細胞及び場合によっては軟骨前駆細胞を除いた細胞の移動を排除する。
【0345】
更に、関節の通常の身体活動の間に加わる静水圧は、真の硝子軟骨の形成を補助し、病変部位の治癒に役立つ。
【0346】
上記の研究結果から、傷害を受け、損傷を受け、病変した又は老化した軟骨を、本発明に従って調製された非細胞インプラントを用いることにより治療することができること、及び本発明の非細胞基質インプラントは、周囲の健常なホスト軟骨からの細胞の移動を引き起こすもので、このインプラントの埋め込みにより周囲の健常組織から表層性軟骨膜をない方に成長させるということが確認された。この膜、すなわち表層性軟骨層は、いかなる滑膜の侵食からも病変部位内のインプラントを保護する。一度インプラントを病変部位内に適切に埋め込んでおけば、間欠的な静水圧、低い酸素張力及び成長因子といった自然な物理化学的因子により軟骨の回復がもたらされる。
【0347】
本発明の非細胞基質インプラントシステムには多くの利点がある。生検及び細胞採取の必要がなくなり、病変部位上の骨膜を被覆する必要がなくなり、健常組織に傷害を与えることもなく、2回目及び3回目の手術も必要なくなくなるため、回復が速くなり、次の手術までの待機期間もなくなる。
【0348】
上述の利点は、軟骨下及び骨病変の治療にも同様に付随するものである。
【0349】
実施例1 非細胞コラーゲンインプラントの調製
この実施例は非細胞基質インプラントの調製法を説明している。
【0350】
pH3.0に保持した1%水性アテロコラーゲン溶液(VITROGEN(登録商標))300グラムを10×20cmのトレイに注ぐ。次に、このトレイを5リットルの容器内に設置する。次に、3%アンモニア水溶液30mlをいれた50mlのふたの開いた容器を、上述した1%水性アテロコラーゲン溶液300グラムが入った5リットル容器内に設置する。そして、アンモニア及びアテロコラーゲンの入ったふたの開いたトレイをいれたこの5リットルの容器を密封して、室温に12時間そのままにしておく。この間に、アンモニア水をいれたふたの開いた容器からアンモニアガスが放出され、このガスは密封した5リットルの容器に閉じこめられた水性アテロコラーゲンと反応して水性アテロコラーゲン溶液をゲル化する。
【0351】
コラーゲンゲルを水で一晩洗浄し、次に凍結乾燥してスポンジ状基質を作る。この凍結乾燥した基質はその後、正方形に裁断して、殺菌して、無菌ラップ下に保存する。
【0352】
或いは又、支持基質を以下のように調製することもできる。
【0353】
約4mm〜10 mmの厚みを有する多孔性コラーゲン基質を、湿度を調整したチャンバを用いて、相対湿度80%、温度25℃で60分間水和する。コラーゲン材料を、2枚のテフロン(登録商標)シート間で0.2mm未満の厚さに圧縮する。この圧縮したコラーゲン材料を次に、0.5%ホルムアルデヒド、1%炭酸水素ナトリウム溶液中で、pH8で60分間架橋させる。この架橋させた膜を完全に水ですすぎ、約48時間凍結乾燥する。高密度のコラーゲンバリアは、絡み合って多層構造体となっている高密度充填線維の内側埋め込体を有する。
【0354】
他の例では、統合化層を、乾燥するとシート状になるコラーゲンを主成分とする分散体又は溶液から調製する。乾燥を約4〜40℃の温度で、約7〜48時間行う。
【0355】
コラーゲンインプラントの組織学的評価のために、4%パラホルムアルデヒドで固定したパラフィン切片をサフラニン−O(Saf−O)及びII型コラーゲン抗体にて染色した。
【0356】
インプラントの生化学的な分析のために、接種したスポンジをパパインで60℃で18時間消化させ、DNA含有量をヘキスト(Hoechst)33258色素法を用いて測定した。硫酸グリコサミノグリカン(S−GAG)の蓄積を改変ジメチルメチレンブルー(DMB)マイクロアッセイを用いて測定した。
【0357】
実施例2 生化学及び組織学的分析
この実施例は生化学的及び組織学的研究に用いた分析法について記載する。
【0358】
生化学的(DMB)分析のために、埋め込みから一定期間後に動物から採取したインプラントを、マイクロ遠心管へ移し、300μlのパパイン(0.1Mリン酸ナトリウム、5mMの二ナトリウムEDTA及び5mMのL−システイン−HCl中に125ug/ml)中で18時間60℃にて消化した。インプラントにおけるS−GAGの産生は、文献Connective Tissue Research(1982年)9:第247〜248頁の記載に従い、サメのコンドロイチン硫酸を対照として、改変ジメチルメチレンブルー(DMB)マイクロアッセイを用いて測定した。
【0359】
DNA含有量を、文献Anal. Biochem.(1998年)174:第168〜176頁の記載に従って、ヘキスト3325染色法にて測定した。
【0360】
組織学的な分析のために、各群における残留インプラントを4%パラホルムアルデヒドにて固定した。インプラントを、処理してパラフィンに包埋した。厚さ10μm薄切片をミクロトーム上に切り出し、サフラニン−O(Saf−O)にて染色した。
【0361】
免疫組織化学のために、サンプルをジアミノベンジジン(DAB)に接触させた。DABは、反応が陽性であれば茶色を呈する色素である。
【0362】
実施例3 ブタモデルでの非細胞基質インプラントの統合性の評価
この実施例は、ブタモデルにおけるブタでのインプラントの統合性を評価するために行った研究の手順及び結果を記載する。
【0363】
全ての動物について右膝の関節を切開し、軟骨の生検を行った。
【0364】
ブタの右膝の大腿骨内側顆に欠損を作成した。対照群におけるこの欠損部位は、非細胞基質を埋め込まず、何もしないままにした。手術後、関節を外固定インプラントにて2週間固定した。右膝の関節を切開してから2週間後に、左膝の関節を切開し、左膝の大腿骨内側顆に欠損を作成した。左膝の欠損部位には非細胞基質インプラントを埋め込み、右膝のときと同様に固定した。手術部位は、埋め込み措置又は欠損作成後2週間の時点で関節鏡検査にて観察し、その後は1月ごとに観察した。
【0365】
非細胞インプラントの埋め込み措置から約7ヶ月の時点で、動物を安楽死させ関節を採取し、組織学的検査のために調製した。埋め込み部位を調製して、組織学的検査を行った。
【0366】
実施例4 CT3重合時間の測定
この実施例は、CT3シーラントを保護生分解性高分子バリアとして用いる試みにおける、CT3シーラントの細胞毒性及び重合時間を測定するのに用いた研究を記載する。
【0367】
CT3シーラントは、接着剤として使用するために、pH3.4のペースト又は乾燥粉末として提供される。実際に使用するにあたっては、CT3シーラントを2シリンジエアスプレーシステム内でpH9.6のCT3バッファと混合する。このバッファの組成は、前述の表1に示す。このCT3バッファは、リン酸成分(NaH2 PO4 17.25g/L;125mM)及び炭酸成分(Na2 CO3 21.1g/L;199mM)を含む。
【0368】
pH調整用に、pH7.5、pH8.0及びpH8.5の3つの異なったCT3バッファを1規定の塩酸溶液を用いて調製した。これらバッファのpHは、前述した表2のように調製した。
【0369】
pH8.5、pH8.0、pH7.5の目的の高分子バリアを、混合比1:1(CT3:CT3バッファ)でCT3と混合し、酸中和容量、重合したCT3の強度、及び重合時間を各pHについて測定した。
【0370】
これらのパラメータを、pH9.6のバッファを用いた改変していない約5秒の重合時間のCT3のものと比較した。
【0371】
上記CT3バッファを使用したCT3シーラントでは、バッファのpHを9.6以下に調整した場合であっても、重合時間は5〜30秒であった。
【0372】
実施例5 改変CT3の重合時間の決定
この実施例は、CT3シーラントを、手術を行うのに必要な延長した重合時間を有する保護生分解性高分子バリアとして用いるのに適したものとするのに必要な処理を決定するのに用いた方法について記載する。
【0373】
この処理は、バッファのpH、イオン強度及び混合比がCT3の重合時間に非常に重要になるという知見に基づくものである。
【0374】
種々の強度のバッファを前述の表3に示すように調製した。
【0375】
生分解性高分子バリアとして使う改変CT3の重合時間と、得られた改変CT3のpHを測定し、これを前述の表4に示した。
【図面の簡単な説明】
【0376】
【図1A】図1Aは、傷害を受けていない骨を下方に有するホスト軟骨内の軟骨病変部位の線図的拡大図であり、この病変部位の底部に沈着した第1の保護生分解性高分子バリアと、この第1の保護生分解性高分子バリア層上に埋め込まれ、第2の保護生分解性高分子バリアで被覆された非細胞基質インプラントが示されている。
【図1B】図1Bは、骨軟骨欠損の線図的拡大図であり、関節病変部位、及び骨病変部位と、この骨病変部位での骨誘導性組成物(骨材料)又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、第1及び第2の保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
【図1C】図1Cは、骨欠損部位の線図的拡大図であり、関節病変部位と、骨軟骨及び骨格骨の複合病変部位と、この骨病変部位又は骨軟骨病変部位内における骨誘導性組成物又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、第1及び第2の保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
【図1D】図1Dは、非細胞基質インプラントの埋め込み部位又は空の対照欠損部位として用いるための、体重支持領域に形成された欠損部位A及びBを示す。
【図2A】図2Aは、鉗子で把持した非細胞基質インプラントの画像である。
【図2B】図2Bは、非細胞基質スポンジのハニカム構造の長手方向線図であり、コラーゲンスポンジと、多孔質コラーゲンゲルとの相対的位置を示しており、細孔の寸法は200〜400μmである。
【図3】図3は、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの空の対照欠損部位A及びB(直径4mm、深さ1〜1.5mm)の顕微鏡画像を示している。
【図4】図4は、非細胞インプラントを埋め込だ、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの欠損部位A及びBの顕微鏡画像を示している。
【図5】図5は、欠損作成後2週間の時点における、空の欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示しており、欠損部位は完全にむき出しで空になっている。
【図6】図6は、欠損作成後2週間の時点における、非細胞基質インプラントで治療した欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示している。
【図7】図7は、修復組織の組織学的等級付けを示すグラフである。
【図8A】図8Aは、対照部位(A)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図8B】図8Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図9A】図9Aは、対照部位(B)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図9B】図9Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図10A】図10Aは、埋め込み部位(A)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図10B】図10Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図11A】図11Aは、埋め込み部位(B)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図11B】図11Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図12】図12A〜12Fは、非細胞基質埋め込み後3ヶ月の時点での、インプラント上に設置された第2の保護生分解性高分子バリアの生体内での分解パターンを示している。
【図13】図13は、ミニブタの大腿顆に作成した、採取後の全層欠損(D)の画像の例を倍率72倍で示す。
【図14A−14B】図14A(側面図)及び図14B(底面図)はともに、緑色に染色された生細胞、及び赤色に染色された死細胞の分布を示している。
【図14C−14D】図14C(側面図)及び図14D(底面図)は、底部高分子バリアとしてpH3.4の改変していないCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
【図14E−14F】図14E(側面図)及び図14F(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH6.5に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
【図14G−14H】図14G(側面図)及び図14H(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH7.0に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
【図14I−14J】図14I(側面図)及び図14J(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH7.5に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
【図15】図15は、図14A〜14Jに示すように改変した生分解性高分子の引張剪断試験の結果を示す。
【発明の背景】
【0001】
本出願は、2003年8月20日に出願された米国仮特許出願第60/496,971号に基づく優先権を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、延長された重合時間を有するように改変した生分解性高分子バリアによって保護された関節軟骨又は骨軟骨病変部位に埋め込む非細胞基質インプラントに関する。本発明は更に、関節軟骨又は骨軟骨欠損及び傷害の治療のための組成物と、関節軟骨病変及び骨軟骨欠損部位の双方又はいずれか一方内に非細胞基質インプラントを埋め込み、骨軟骨欠損の場合には更に骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを埋め込む、関節軟骨及び骨軟骨欠損の治療方法に関するものである。特に、本発明は、2〜10分、好ましくは3〜5分の延長された重合時間を有するように改変された保護生分解性高分子バリアによって保護された関節軟骨又は骨軟骨病変部位に埋め込む非細胞基質インプラントに関するものである。
【0003】
本発明の非細胞基質インプラントは、2次元又は3次元の生分解性スキャフォルド構造を有し、延長された重合時間を有するように改変した生物学的に許容されうる生分解性高分子層の上、又は高分子層の下、又は高分子層の間にある関節軟骨部位に埋め込まれるものである。
【0004】
関節軟骨の治療方法は、非細胞インプラントを隔離するバリアとして改変保護生分解性高分子バリアを調製するステップと、非細胞インプラントを調製するステップと、このインプラントを埋め込む病変部位を準備する準備ステップであって関節軟骨病変を封止しインプラントを血液由来の物質の影響から保護するために第1の保護生分解性高分子バリアを軟骨病変部位の底部に沈着するステップを有する当該準備ステップと、本発明のインプラントをこの病変部位内に埋め込むステップと、このインプラント上に第2の保護生分解性高分子バリアを沈着するステップとを含む。
【0005】
骨軟骨欠損の治療方法は更に、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に沈着し、この骨病変部位を保護生分解性高分子バリアによって覆い、これによりこの骨病変部位と軟骨病変部位とを互いに分離させるステップを有する。
【0006】
加えて、本発明は、本発明の非細胞インプラント、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアの製作方法、並びに2〜10分の延長された重合時間を有する保護生分解性高分子の調製方法に関する。
【0007】
背景技術及び関連出願
活発な人及び老人に起こる関節軟骨への損害は、急性又は反復性の外傷や老化により、極めて頻繁に起こる。このような損傷した軟骨は疼痛を伴い、移動するのに影響を与え、衰弱性の障害を引き起こす。
【0008】
代表的な治療選択肢には、病変や症状の重傷度にもよるが、安静及び他の対症療法や、損傷した軟骨領域の表面を清掃して平滑にする関節鏡的小手術や、微小破壊、穿孔及び剥離のような他の外科手術がある。これらの治療法は全て症状を軽減しうるが、特にその人の傷害前の活動レベルが維持されるとすれば、その効果は通常、一時的なものでしかない。例えば、重傷で慢性的な膝関節軟骨の損傷では、関節軟骨の破壊が進み、最終的には膝関節全体を置換をすることになるおそれがある。現在、年間約200,000件の膝関節全体の置換手術が行われている。人工関節は一般に、10〜15年しかもたないため、一般的に50歳以下の人には推奨されない。
【0009】
骨軟骨疾患又は傷害は、骨及び軟骨の複合病変であり、治療にはまだ課題が残っており、現在利用可能な手順及び方法ではこのような治療における要求は満たされていない。例えば、文献J. Bone and Joint Surgery(2003);85Aの補遺第17〜24頁に記載されている、自己軟骨細胞移植による離断性骨軟骨炎の治療では、複数の手術が必要であり、細胞の培養及び成長に少なくとも3週間が必要となる。
【0010】
従って、1回の手術で軟骨又は骨を傷害前の状態に効果的に治療し、回復までにかかる時間も最小限ですむような、このような病変の生位置治療法が利用可能となることは極めて有利であり、このような治療法は特に、より活動的でより回復能力の高い若年者に好適である。
【0011】
関節軟骨の修復手段及び方法を提供する試みは、例えば、米国特許第5,723,331号、第5,786,217号、第6,150,163号、第6,294,202号、及び第6,322,563号明細書、並びに米国特許出願第09/896912号(2001年6月29日出願)明細書に開示されている。
【0012】
米国特許第5,723,331号には、接着性表面を有する生体外のウェルに接種して生体外で増殖させた軟骨由来の細胞を用いた、関節軟骨を修復するための合成軟骨を調製する方法及びその組成物が記載されている。これらの細胞は、再分化して軟骨特異的な細胞外基質を分泌し始め、これにより、無限の合成軟骨を関節欠損部位に手術的に付与する。
【0013】
米国特許第5,786,217号では、多細胞層の合成軟骨パッチを調整する方法が記載されている。この調製方法は、上述した米国特許第5,723,331号のものとほぼ同じであるが、剥離した細胞が分化しない点と、細胞の培養を、細胞が分化して多細胞層の合成軟骨を形成するのに必要な時間だけ行うという点において異なっている。
【0014】
米国特許出願第09/896,912号(2001年6月29日出願)は、軟骨、半月板、靭帯、腱、骨、皮膚、角膜、歯周組織、膿瘍、切除腫瘍及び潰瘍を、組織に接着して組織修復のための細胞増殖を支持するような少なくとも1種類の血液成分と組み合わせて、組織内に温度依存性高分子ゲルを導入することによって修復する方法に関する。
【0015】
本明細書に参考として組み込んだ、本発明者による米国特許出願第10/104,677号、第10/625,822号、第10/625,245号及び、第10/626,459号(2003年7月22日出願)明細書では、傷害を受けた又は損傷した関節軟骨の修復に好適なある特定の条件のアルゴリズムで処理された、軟骨構造体が開示されている。
【0016】
しかし、上述した引用文献はいずれも、複数回の手術の必要とせずに骨又は軟骨を生体位で修復及び再生することはできない。
【0017】
組織シーラントとして組織に接着するのに有用な、1分未満の重合時間を有し、生体位でゲルを急速に形成する急速ゲル化高分子組成物が、米国特許第6,312,725号及び第6,624,245号明細書並びに文献J. Biomed. Mater. Res.(2001年)58:第545〜555頁及びthe American Surgeon(2002年)68:第553〜562頁に開示されている。これらのシーラントは、数秒〜1分という非常に急速な重合時間を有しており、これは本発明の目的で隔離バリアをして用いるには実際的ではない。その理由は、外科医が隔離バリアを軟骨又は骨軟骨病変部位の底部に沈着し、高分子を病変部位の底部及びインプラント上に均一に被着するには、少なくとも2分、好ましくは少なくとも3〜5分必要だからである。
【0018】
従って、本発明の主目的は、傷害又は外傷を受けた軟骨又は軟骨骨病変の治療方法又は手段であって、非細胞基質インプラントと、骨誘導性組成物又はこの骨誘導性組成物を有するキャリアと、延長された重合時間を有する保護生分解性高分子を準備し、これら2層の保護生分解性高分子間の空所内にこの非細胞インプラントを埋め込むことによる当該軟骨又は軟骨骨の治療の方法及び手段を提供することである。本発明に従って実行される方法により、健常な硝子関節軟骨が形成され回復される。
【0019】
本願明細書において引用する全ての特許、特許出願及び刊行物は、参考として組み込まれたものである。
【0020】
発明の概要
本発明の態様の一つは、関節軟骨の欠損及び傷害の治療のための非細胞基質インプラントである。
【0021】
本発明の他の態様は、骨軟骨欠損及び傷害の治療のための、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアと組み合わせて用いる非細胞基質インプラントである。
【0022】
本発明のさらにもう一つの態様は、本発明の非細胞基質インプラントの製造方法である。
【0023】
本発明のさらに別の態様は、スポンジ、ハニカム、スキャフォルド、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)、芳香族性有機酸からなる高分子又は吸収性カプロラクトン高分子である非細胞基質インプラントの調製方法である。
【0024】
本発明の更に別の態様は、非細胞インプラントを埋め込むとともに、骨誘導性組成物若しくはこの組成物を有するキャリアを、生体位で骨軟骨病変部位内へ沈着させることにより、骨軟骨欠損を治療する方法である。
【0025】
更にまた本発明の他の態様は、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨軟骨病変部位に沈着するのと組み合わせて、非細胞基質インプラントを軟骨病変部位内に埋め込むことにより、骨軟骨病変を治療する方法である。
【0026】
本発明のさらに別の態様は、骨軟骨欠損の骨病変部位内に沈着する骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアであって、脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、若しくはこれらの共重合体、又は骨形態形成タンパクといった骨誘導性薬剤を含む当該骨誘導性組成物及びこの組成物を有するキャリアである。
【0027】
更にまた、本発明の他の態様は、軟骨病変部位内に非細胞基質インプラントを埋め込むのと組み合わせて、骨軟骨欠損の骨病変部位内に沈着させる骨軟骨欠損の治療に有用な骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアである。
【0028】
更にまた、本発明の他の態様は、非細胞基質インプラントを軟骨病変部位内に埋め込むのと組み合わせて、又は骨軟骨欠損の治療に有用な骨軟骨インプラントを埋め込むのと組み合わせて、骨欠損部位の治療のために、骨病変部位内に沈着させる、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアである。
【0029】
本発明のさらにもう一つの態様は、関節軟骨病変部位内に埋め込んだ非細胞基質インプラントを用いて、傷害若しくは損傷を受け、又は病変若しくは老化した関節軟骨を治療する方法であって、第1の保護生分解性高分子バリアを病変部位の底部に被着させて、この底部に被着した第1の保護生分解性高分子バリアが、細胞及び血液中の破片が軟骨下領域から病変部位内に移動するのを防ぐことで病変部位を保護し、更に第2の保護生分解性高分子バリアをこの病変部位の上に設置することによって、関節軟骨の病変部位を被覆してこれを保護する新たな表層性軟骨層を形成する処理を有する。
【0030】
本発明の他の態様は、骨誘導性薬剤を有する骨誘導性組成物、又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に沈着し、この骨誘導性組成物の上に第1の保護生分解性高分子バリアを沈着し、非細胞基質インプラントを関節病変部位内に埋め込み、非細胞基質インプラントの上に第2の保護生分解性高分子バリアを沈着することによって、骨軟骨欠損を治療する方法である。
【0031】
本発明の別の態様は、細胞毒性が無く、延長された重合時間を有するように改変された保護生分解性高分子バリアであって、当該高分子が、直鎖又は枝分れ鎖のテトラ−スクシンイミジル誘導ポリエチレングリコール、及び直鎖又は枝分れ鎖のテトラ−チオール誘導ポリエチレングリコールを組み合わせて、更にアルキル化コラーゲンで架橋されたものを有し、且つ細胞及び組織に対して実質的に非毒性で、2分以上の重合時間を有し、pHが7.5以下になるように改変された当該保護生分解性高分子バリアの調製方法である。
【0032】
本発明のさらに別の態様は、軟骨又は骨病変部位の治療に用いる非細胞基質インプラントであって、生物学的に許容されうる2層の保護生分解性高分子間にある関節軟骨病変部位内に埋め込まれる、2次元又は3次元の生分解性スポンジ、ハニカム、ヒドロゲル、スキャフォルド又は芳香族性有機酸基質を有する当該非細胞インプラントである。
【0033】
更にまた、本発明の他の態様は、関節軟骨損傷の治療方法であって、
a) 非細胞基質インプラントを調製するステップと、
b)前記インプラントを埋め込むために軟骨病変部位を準備するステップであって、この病変部位を封止してインプラントを血液由来の物質から保護するために、前記軟骨病変部位の底部に第1の保護生分解性高分子バリア層を沈着するステップを有する当該準備ステップと、
c)この病変部位内に前記インプラントを埋め込むステップと、
d)この非細胞基質インプラント上に第2の保護生分解性高分子バリアを沈着するステップと
を有する治療方法であって、前記第1及び第2の保護生分解性高分子は共に、少なくとも2分以上の延長された重合時間を有する治療方法である。
【0034】
更にまた、本発明の他の態様は、損傷若しくは障害を受け、又は病変若しくは老化した軟骨を機能的な軟骨に修復及び回復する方法であって、
a)コラーゲンスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、ハニカム、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)、芳香族性有機酸基質の高分子又は吸収性カプロラクトン高分子として非細胞基質インプラントを調製するステップであって、前記スポンジ、前記スキャフォルド、前記芳香族性有機酸の高分子又はTRGHは生分解性であり、時間が経つと分解されて、治癒した病変部位から代謝的に取り除かれ、硝子軟骨に置き換わるようになっており、前記非細胞基質インプラントが、随意的にではあるが、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ、カテプシン及びその他生物学的に活性のある物質のいずれか又はこれらの任意の組み合わせのような基質再構築酵素を含むようにする当該ステップと、
b)前記軟骨病変部位の底部に、2〜10分の延長された重合時間を有するように改変された第1の保護生分解性高分子バリア層を導入するステップと、
c)前記インプラントを、前記保護生分解性高分子バリアの底部層によって保護された前記病変部位内に埋め込むステップと、
d)前記インプラントの上に第2の保護生分解性高分子バリアを導入するステップであって、この保護生分解性高分子バリアは、底部の前記第1の保護生分解性高分子バリアと同じものであっても異なるものであってもよく、このインプラントとこの第2の保護生分解性高分子バリアを組み合わせることにより、前記軟骨病変部位上に表層性軟骨層が形成され成長されるようにする当該ステップと
を有する。
【0035】
本発明のさらに別の態様は、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)を有する非細胞基質インプラントであって、これは底部保護生分解性高分子バリア層の上にある、第2の保護生分解性高分子バリア層に被覆される病変腔内に埋め込まれるものであり、前記TRGHは、コラーゲンスポンジ又はスキャフォルドに組み込まれて、又はゾルとして、前記病変部位内に約3〜30℃の温度で埋め込まれるものであり、このTRGHは前記病変部位内において、体温で流体のゾルから固体のゲルに変化し、この状態でこのTRGHが存在することにより、細胞外基質の形成及び硝子軟骨の生成が構造的に支持されるようになっており、このTRGHは、生分解性であり、経時的に分解し前記病変部位から代謝的に取り除かれ、硝子軟骨により置き換えられるようになっているものである。
【0036】
更にまた、本発明の他の態様は骨軟骨欠損の治療方法であって、
a)骨病変部位内に埋め込むための、1種類又は数種類の骨誘導性薬剤を含む骨誘導生組成物又はこの組成物を含んだキャリアを調製するステップと、
b)コラーゲンスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、ハニカム又は温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)基質支持体として、軟骨病変部位内に埋め込む非細胞基質インプラントを調製するステップであって、前記スポンジ、前記スキャフォルド又は前記TRGHは生分解性であり、時間が経過すると分解して、病変部位から代謝的に取り除かれ、硝子軟骨に弛緩されるようになっており、前記非細胞基質は、随意的であるが、基質改変酵素、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンを含むようにする当該ステップ
c)前記骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に導入するステップと、
d)前記骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアをだ第1の改変保護生分解性高分子バリアにより被覆するステップと、
e)この第1の保護生分解性高分子バリアの上の前記軟骨病変部位内に前記非細胞基質インプラントを埋め込むステップと、
f)このインプラント上に、第2の改変保護生分解性高分子バリアを導入するステップであって、これら第1及び第2の保護生分解性高分子は同じものであっても異なるものであってもよく、この非細胞基質インプラントとこの第2の保護生分解性高分子バリアを組み合わせることにより、生体位において軟骨病変部位を覆う表層性軟骨層が形成され成長されるようにする当該ステップと
を有する。
【0037】
図1Aは、傷害を受けていない骨を下方に有するホスト軟骨内の軟骨病変部位の線図的拡大図であり、この病変部位の底部に沈着した第1の保護生分解性高分子バリアと、この第1の保護生分解性高分子バリア層上に埋め込まれ、第2の保護生分解性高分子バリアで被覆された非細胞基質インプラントが示されている。
図1Bは、骨軟骨欠損の線図的拡大図であり、関節病変部位、及び骨病変部位と、この骨病変部位での骨誘導性組成物(骨材料)又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、第1及び第2の保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
図1Cは、骨欠損部位の線図的拡大図であり、関節病変部位と、骨軟骨及び骨格骨の複合病変部位と、この骨病変部位又は骨軟骨病変部位内における骨誘導性組成物又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、第1及び第2の保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
図1Dは、非細胞基質インプラントの埋め込み部位又は空の対照欠損部位として用いるための、体重支持領域に形成された欠損部位A及びBを示す。
図2Aは、鉗子で把持した非細胞基質インプラントの画像である。スポンジの実寸法は、直径5mm、厚さ1.5mmである。
図2Bは、非細胞基質スポンジのハニカム構造の長手方向線図であり、コラーゲンスポンジと、多孔質コラーゲンゲルとの相対的位置を示しており、細孔の寸法は200〜400μmである。
図3は、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの空の対照欠損部位A及びB(直径4mm、深さ1〜1.5mm)の顕微鏡画像を示している。
図4は、非細胞インプラントを埋め込だ、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの欠損部位A及びBの顕微鏡画像を示している。欠損は、直径4mm、深さ1〜1.5mmである。インプラントは、直径5mm、厚さ1.5mmである。各インプラントは、吸収性縫合糸を4針、非吸収性縫合を2針使用して縫合されている。欠損部位の底部は、第1の保護生分解性高分子バリアで裏打ちされており、インプラントは第2の保護生分解性高分子バリアで被覆されている。
図5は、欠損作成後2週間の時点における、空の欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示しており、欠損部位は完全にむき出しで空になっている。
図6は、欠損作成後2週間の時点における、非細胞基質インプラントで治療した欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示している。
埋め込み部位を覆っている表層性軟骨層が、欠損部位上に平滑な表面を形成している。
図7は、修復組織の組織学的等級付けを示すグラフである。
図8Aは、対照部位(A)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図8Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。欠損部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。線維組織(F)が空の欠損部位に形成されているのが図8A及び図8Bの両方の図において見られる。空の欠損部位には線維血管パンヌス(F)が形成されており、このことはS−GAGの蓄積がないことにより示される。
図9Aは、対照部位(B)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図9Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。欠損部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。線維組織(F)が空の欠損部位に形成されている様子が、図9A及び図9Bの両方で見られ、S−GAGは僅かしか蓄積していない。
図10Aは、埋め込み部位(A)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図10Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。埋め込み部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。表層性軟骨層が埋め込み部位を覆っているのが示されている。
図10A及び10Bの両方で埋め込み部位における、通常のS−GAGの蓄積及び硝子状軟骨の形成が観察された。
図11Aは、埋め込み部位(B)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図11Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。埋め込み部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれる。表層性軟骨層が埋め込み部位を覆っているのが示されている。
図11A及び11Bの両方で、埋め込み部位における通常のS−GAG(*)の蓄積及び硝子状軟骨の形成が観察された。
図12A〜F、非細胞基質埋め込み後3ヶ月の時点での、インプラント上に設置された第2の保護生分解性高分子バリアの生体内での分解パターンを示している。新たに形成された表層性軟骨層がインプラントを覆っている。
図12は明らかに、埋め込み後3ヶ月の時点で、第2の保護生分解性高分子バリアが部分的に分解していることを示している。
図12Aは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の表面図を示す。
図12Bは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の側面図を示す。
図12Cは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の底面図を示す。
図12Dは、免疫染色を施した保護生分解性高分子バリアの表面図を示す。
図12Eは、免疫染色を施した保護生分解性高分子バリアの側面図を示す。
図12Fは、免疫染色を施した保護生分解性高分子バリアの底面図を示す。サフラニン−O染色は、赤色調に見え、S−GAGの蓄積を示す。茶色は、免疫組織化学的に処理したサンプルにおける、残留している高分子を示す。
図13は、ミニブタの大腿顆に作成した、採取後の全層欠損(D)の画像の例を倍率72倍で示す。周囲のホスト軟骨(H)、軟骨下骨領域(SB)及び残留している石灰化軟骨領域も示されている。
図14は、ブタの大腿顆に埋め込んだ、重合時間を延長しほぼ非毒性な生分解性高分子に改変したCT3シーラントの毒性と、改変していないCT3シーラントの毒性とを、無治療の何もしていない対照群と比較して示す。
図14A(側面図)及び図14B(底面図)はともに、緑色に染色された生細胞、及び赤色に染色された死細胞の分布を示している。
図14C(側面図)及び図14D(底面図)は、底部高分子バリアとしてpH3.4の改変していないCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
図14E(側面図)及び図14F(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH6.5に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
図14G(側面図)及び図14H(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH7.0に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
図14I(側面図)及び図14J(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH7.5に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
図15は、図14A〜14Jに示すように改変した生分解性高分子の引張剪断試験の結果を示す。
【0038】
定義
本願明細書において用いられる用語は以下のように定義されるものである。
【0039】
「非細胞」とは、インプラントが生物学的活性を有するいかなる細胞も含まないことを意味する。
【0040】
「非細胞基質インプラント」又は「非細胞インプラント」とは、生物学的に許容されうるインプラントであって、コラーゲンスポンジ、コラーゲンハニカム、コラーゲンスキャフォルド、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル、芳香族性有機酸の高分子又は吸収性カプロラクトンの形態をとり、生高分子が物学的活性を有するいかなる細胞も含まず、軟骨細胞が内部に移動しうる基質(マトリクス)を形成するものを意味する。
【0041】
「関節軟骨」とは、例えば膝関節のような、関節の硝子軟骨を意味する。
【0042】
「軟骨下の」とは、関節軟骨の下にある骨を意味する。
【0043】
「軟骨下骨」とは、石灰化軟骨領域の直下にあり、且つ手肢の骨構造の大部分を形成する海綿骨又は骨梁の上にある、非常に高密度であるが薄い骨層を意味する。
【0044】
「骨軟骨の」とは、病変の生じる軟骨及び骨の複合領域を意味する。
【0045】
「骨軟骨欠損」とは、軟骨及びその下の骨からなる複合病変部位を意味する。
【0046】
「骨欠損」又は「骨病変」とは、軟骨下骨領域の下にある欠損、すなわち骨格骨の欠損又は病変となるような欠損を意味する。
【0047】
「骨芽細胞」とは、骨を形成する細胞を意味する。
【0048】
「軟骨細胞」とは、軟骨基質の小腔に入っている非分裂性の軟骨の細胞を意味する。
【0049】
「支持基質」とは、活性化した移動軟骨細胞又は骨細胞を受容するのに適した、生物学的に許容されうるゾル・ゲル又は、コラーゲンスポンジ、スキャフォルド、ハニカム、ヒドロゲル、芳香族性有機酸又はカプロラクトンからなる高分子であって、軟骨細胞の成長及び3次元的増殖や、新たな硝子軟骨の形成又は骨軟骨細胞の骨病変部位への移動のための構造的に支持するものである。支持基質は、例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、アガロース、(プロテオグリカン、グリコサミノグリカン又は糖蛋白質を含む)細胞収縮性コラーゲン、芳香族性有機酸高分子、フィブロネクチン、ラミニン、生理活性ペプチド成長因子、サイトカイン、エラスチン、フィブリン、(ポリ乳酸、ポリグリコール、ポリアミノ酸から形成された)合成高分子線維、ポリカプロラクトン、吸収性イプシロン・カプロラクトン高分子、ポリペプチド・ゲル、これらの共重合体及びこれらの組み合わせ、のような材料から調製する。ゲル溶液基質は高分子温度可逆ゲル化ヒドロゲルであってもよい。支持基質は、好ましくは、生体適合性、生分解性、親水性、非反応性であり、電気的に中性で、所定の構造をとることができるものである。
【0050】
「成熟硝子軟骨」とは、細胞外コラーゲン基質内に散らばった、小腔内に位置する同原軟骨細胞の群からなる軟骨を意味する。
【0051】
「保護生分解性高分子バリア」、「生分解性高分子バリア」、「生分解性高分子」又は、「保護高分子」とは、生物学的に許容されうる生体適合性の、ほぼ非毒性の重合製剤であって、少なくとも2分〜10分、好ましくは3分〜5分の延長した重合時間を有するものである。つまり、保護生分解性高分子バリアは、生物学的に許容されうる合成又は天然の高分子組成物であり、時間内に生分解され、接着性及び凝集性を有するものであり、典型的には、、代表的にはアルキル化コラーゲンとするコラーゲン化合物で架橋したものであるのが好ましい誘導ポリエチレングリコール(PEG)である。好適な誘導ポリエチレングリコールの例は、本明細書に参考として組み込んだ文献J. Biomed. Mater. Res. (Appl. Biomater. )(2001年) 58: 第545〜555頁に記載されている、カルフォルニア州パロアルトにあるCohesion Technologies社からCoSealの商標名で市販されている、テトラヒドルスクシニミジル若しくはテトラチオール誘導PEG又はこれらの組み合わせか、或いは本明細書に参考として組み込んだ米国特許第6,312,725号、及び第6,624,245号明細書の記載されているように、ポリアルキレン酸化物及びポリエチレングリコールの双方又はいずれか一方を有する2部分の高分子で、これらの2部分が共有結合によって架橋されたものであって、更にメチル化コラーゲンによって架橋した、例えばメチル化コラーゲンにより架橋したスクシニミジル及びチオール誘導ポリエチレングリコールであり、得られる組成物が本発明の方法で必要な少なくとも2〜10分という延長された重合時間を有するように改変されているものである。引用文献に記載されている改変してない組成物は、一般に、組織、特にコラーゲン含有組織と接触すると急速にゲル化する。このようなゲル化は、5〜60秒以内に起こる。
【0052】
「実質的に」とは、改変生分解性高分子を使用した後に表れる死細胞が存在したとしてもごく僅かしかないことを意味する。
【0053】
「コラーゲン」とは、化学的若しくは生物学的に処理及び精製した、又は改変したものや変性した又はそのままのものも含め、いかなる形態のコラーゲンも含むことを意味するものである。本発明の用途に最も好ましいコラーゲンは、実質的に全ての不純物及び免疫原性物質を除去した実質的に純粋なコラーゲンである。組換えにて作成したコラーゲンが特に好ましい。
【0054】
「組換えコラーゲン」とは、例えば、本明細書に参考として組み込んだ米国特許第5,667,839号明細書に記載された方法で組換えにより作成したコラーゲンを意味する。
【0055】
「底部保護生分解性高分子バリア」又は「第1の保護生分解性高分子バリア」とは、生物学的に許容されうる組織保護生分解性高分子バリアであって、前述のように改変された、細胞に対して非毒性であり、病変部位の底部に沈着されるものを意味する。骨軟骨欠損の場合には、この第1の保護生分解性高分子バリアは、病変部位内に沈着された骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアの上に沈着され、、軟骨病変部位を骨細胞の移動から保護するだけでなく、骨病変部位を効果的に封止して、軟骨細胞の移動から隔離し保護する。
【0056】
「頂部保護生分解性高分子バリア」又は「第2の保護生分解性高分子バリア」とは、生物学的に許容されうる保護生分解性高分子バリアであって、前述したように改変され実質的に細胞又は組織に対して非毒性にしたもので、病変部位に埋め込まれた非細胞基質インプラント上に沈着され、表層性軟骨層の形成を促進しうるものを意味する。第2の(頂部)保護生分解性高分子バリアは、第1の(底部)保護生分解性高分子バリアと同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0057】
「改変保護生分解性高分子バリア」、「改変生分解性高分子バリア」、「改変生分解性高分子」又は「改変保護高分子」とは、本発明の使用に際して細胞又は組織毒性を示さず、少なくとも2分〜10分の重合時間を有するように改変され、一般的にはバッファ混合比の変更及び酸での調製の双方又はいずれか一方により組成物のpHを約pH7.5以下に変化させることで得られる全ての好適な保護生分解性高分子バリアを意味する。
【0058】
「骨誘導性組成物」又は「この組成物を有するキャリア」とは、少なくとも1種類の骨誘導性薬剤、好ましくは数種類の薬剤の組み合わせを含む組成物であり、代表的にはキャリアに溶解させるか、又は非細胞基質インプラントと同様の基質に組み込んだもの意味する。
【0059】
「骨誘導性キャリア」、「骨誘導性組成物を含むキャリア」又は「骨非細胞インプラント」とは、骨誘導製薬剤を含みそれ自体で骨形成を促進するか、又は少なくとも1種類の骨誘導性薬剤、好ましくは数種類の薬剤の組み合わせを含んだ前記骨誘導性組成物を沈着するのに好適な全てのキャリアを意味する。一般的に、キャリアは、非細胞生分解性多孔性基質、ヒドロゲル、スポンジ、ハニカム、スキャフォルド又は芳香族性有機酸からなる高分子構造体であり、約50〜約150μmの大きな細孔を有する。このような細孔は、骨芽細胞の移動を促進するとともに、骨形成を支持し促進する約0.1〜約10μmの小さな細孔を相互に接続する。このようなキャリアの表面は、負に荷電させて、骨芽細胞の偽足の付着及びこれに従って起こる骨生成を促進することができる。骨形成を促進する好適なキャリアの1つの例は、制御可能な程度に分解しうる芳香族性有機酸高分子であり、十分な固さを有するがスポンジ状の構造を有するものである。
【0060】
「骨誘導性薬剤」とは、骨の成長及び骨欠損の修復を促し、支持し、又は促進する薬剤を意味する。典型的な骨誘導性薬剤は、特に、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、脱灰した骨粉、ポリL乳酸及びポリグリコール酸、若しくはこれらの共重合体骨形態形成タンパク質である。
【0061】
「新規の」又は「新規形成」とは、例えば分化しうる軟骨細胞、線維芽細胞、線維軟骨細胞、腱細胞、骨細胞及び幹細胞といった細胞が新たに産生されること、或いは、多層システム、スキャフォルド又はコラーゲン基質といった支持構造体内に軟骨結合組織、硝子軟骨、線維軟骨、腱及び骨といった組織が新たに形成されること、或いは表層性軟骨層が形成されることを意味する。
【0062】
「表層性軟骨層」とは、軟骨の最外層であって、第2の保護生分解性高分子バリア層を被覆して病変部位を被覆する扁平上皮様の平らな表層性領域の軟骨細胞の層を形成刷るものを意味する。
【0063】
「温度可逆性」とは、温度によって、粘性及び稠性といった物理学的特性が変化し、ゾルからゲルになる化合物又は組成物の性質を意味する。温度可逆性の組成物は一般に、約5〜15℃ではゾル(液体)状態であり、25〜30℃及びそれより高い温度ではゲル(固体)状態となる。中間の温度でのゲル/ゾル状態は、温度に応じてより低い又はより高い粘性を示す。温度が15℃より高いと、ゾルはゲルに変化し始め、30〜37℃付近でゾルは更に硬化てゲルになる。より低い温度、典型的には15℃より低い温度では、ゾルはより液状の稠性を有する。
【0064】
「TRGH」とは、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル材料であって、寒天及びゼラチンとは逆の温度サイクルでゾル・ゲル転移が起きるものを意味する。従って、ゾル段階では粘着性液体相となり、ゲル段階では固体相となる。TRGHは、非常に短時間でゾル・ゲル転換するもので、この転移は、硬化時間を必要とせず、ヒステリシスなく単なる温度の関数として起こる。ゾル・ゲル転移温度は、温度可逆性ゲル化高分子(TGP)の分子設計に応じて5℃〜70℃の範囲の任意の温度に設定することができ、ヒドロゲル形成にはこのうちの高分子量の高分子を5重量%未満とすれば十分である。
【0065】
「ゾル・ゲル溶液」とは、コロイド懸濁液であって、ある条件下で液体(ゾル)から固体材料(ゲル)に転移するものを意味する。この「ゾル」とは、熱変性によりゲルに転移する水性コラーゲンの懸濁液である。
【0066】
「GAG」とは、グリコサミノグリカンを意味する。
【0067】
「S−GAG」とは、硫酸グリコサミノグリカンを意味する。
【0068】
「アグリカナーゼ」とは、アグリカナーゼ酵素を意味する。
【0069】
「カテプシン」とは、タンパク分解酵素又はペプチド分解酵素を意味する。
【0070】
「MMP」とは、基質メタロプロテイナーゼ、すなわち傷害を受けた又は病変した関節における軟骨の分解に関連した酵素を意味する。
【0071】
「DMB」とは、軟骨細胞の染色に用いるジメチレンブルーを意味する。
【0072】
「表層領域軟骨」とは、軟骨細胞の扁平化した最外層であって、細胞外基質中間領域及び非分裂性細胞が散らばった成熟関節軟骨のより深部の領域を覆うものを意味する。
【0073】
「結合組織」とは、体内器官を保護及び支持する組織を意味し、また体内器官を一緒に保持する組織も意味する。このような組織の例には、間葉性、粘液性、結合性、網状、弾性、膠原性、骨、血液又は軟骨の組織、例えば硝子軟骨、線維軟骨及び弾性軟骨がある。
【0074】
「接着強度」とは、接着剥離強度の測定結果を意味し、これは、2つのプラスチックタブを接着剤で接着することにより得ることができる。これらのタブは、ポリスチレン秤量ボートから1×5cmの細片を切り出すことにより作ることができる。この秤量ボートの表面に、(市販のシアノアクリル酸Superglueを使用して)ソーセージケーシングのシート(コラーゲンシートで肉屋生産財卸売商から入手できる)を結合する。ソーセージケーシングを水又は生理食塩水で20分〜1時間水和し、接着剤をタブの一端の1×1cmの領域に塗布して、この接着剤を硬化させる。次に、タブの自由端を各々湾曲して引張試験装置の上下のグリップにそれぞれ取り付け、10mm/分の歪速度で引っ張り、剥離強度をニュートン単位で記録した。一定の力のトレースを調べることにより、N/m、すなわち細片の巾当たりの力を測定することができる。細片の巾当たりの力は、最小でも10N/mあるのが望ましい。100N/m以上あるのがより望ましい。或いは又、同じタブを、手術中に生きた動物から切り出した又は露出させた組織の1×1cmの領域に接着することができる。タブの自由端を、携帯引張試験装置(オメガDFG51−2デジタルフォースゲージ:コネチカット州スタンフォードにあるオメガエンジニアリング社製)のフックに縫合することにより把持させるか又は取り付け、そして約1cm/秒で上方へ引っ張る。組織からタブを引きはがすのに必要な最大力が記録される。このような測定値において所望の、タブを引きはがすのに最小の力は0.1Nである。0.2〜1Nの力がより望ましい。
【0075】
「凝集力」とは、引張破損に達するのに必要な力を意味し、引張試験装置を用いて測定する。にかわ剤又は接着剤は、「犬用の骨」の形状をした型で硬化することができる。形成された固体接着剤の広い巾の端部は、シアノアクリル酸(Superglue)を用いてプラスチックタブに固定し、試験装置に握持させることができる。延伸方向において破損する力は、少なくとも0.2MPa(2N/cm2 )であり、好ましくは0.8〜1MPa又はそれ以上である。
【0076】
「引張剪断測定」とは、結合強度の試験であって、保護生分解性高分子バリア製剤を、組織の重なったタブに被着させて硬化させ、次に、これらのタブを引っ張っ分離させる力を測定する。この試験には接着結合性及び凝集結合性が反映される。強い接着剤では、重なり領域について0.5から4〜6N/cm2 の値を示す。
【0077】
発明の詳細な説明
本発明は、生分解性非細胞基質インプラントを、2層の生分解性高分子バリアの間に入れて、損傷し、外傷を受け、老化し又は病変した軟骨の病変部位に埋め込めば、この非細胞基質インプラントが、新たな細胞外基質の生成を促し、最終的に線維軟骨ではなく健康な硝子軟骨が形成されるという知見に基づくものである。さらに、本発明は、骨軟骨欠損の場合には、骨の欠損部位に骨誘導性組成物と共に沈着させる軟骨病変部位に非細胞インプラントを埋め込むことにより、骨及び軟骨の双方を別々に修復することができるという知見に基づくものである。
【0078】
したがって、本発明は、最も広い範囲では、関節鏡視下手術中に、軟骨の病変部位に非細胞基質インプラントを埋め込むか、又はこの非細胞基質インプラントを埋め込む前に骨の病変部位に骨誘導性組成物若しくはこの組成物を含むキャリアを沈着させるか、或いはこれらの双方を行うことにより、損傷し、外傷を受け、老化し又は病変化した軟骨を修復し回復させる方法、又は骨軟骨欠損を修復し軟骨及び骨の双方に完全な機能を回復させる方法に関するものである。さらに、本発明は、非細胞基質インプラントの製造方法と、骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアの調製方法と、重合時間が約2分〜10分である保護生分解性高分子の調製方法とを含むものである。
【0079】
簡単には、本発明は、関節病変部位の治療のために、関節軟骨の病変部位に埋め込む非細胞基質インプラントであって、膠原性温度可逆性ゲル、芳香族性有機酸又は吸収性イプシロンカプロラクトン高分子の2次元又は3次元の支持基質を有する当該非細胞基質インプラントを調整する処理を有する。この非細胞基質インプラントには、基質リモデリング酵素や、メタロプロテイナーゼ(MMP−9、MMP−2、MMP−3)や、アグリカナーゼや、カテプシンや、成長因子や、ドナーの血清や、アスコルビン酸や、インシュリントランスフェリンセレン(ITS)などの種々のサプリメントを含ませることができる。
【0080】
本発明は、骨軟骨欠損の治療のためには、骨誘導性組成物又は組成物を有するキャリアであってこの組成物が、例えば、脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、poly−L−乳酸、ポリグリコール酸及びこれらの共重合体をの単独で又は組み合わせて有する骨誘導性薬剤又は、若しくは、骨形態形成タンパク質を有した組成物又はキャリアを調製する処理と、骨病変部位に前記組成物を沈着させる処理と、この骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアを保護生分解性高分子バリアで覆い、軟骨病変部位に前記非細胞基質インプラントを埋め込む処理、そしてこのインプラントを第2の保護生分解性高分子バリアで覆う処理とを有する。
【0081】
非細胞基質インプラントは、2層の、すなわち第1及び第2の粘着性保護生分解性高分子層によって形成した軟骨病変部位の空所に埋め込む。しかし、特定の状況ではまた、非細胞基質インプラントは、底部若しくは頂部の保護生分解性高分子バリアなしで、又は、双方の保護生分解性高分子バリアがなしで、軟骨病変部位に埋め込むこともできる。
【0082】
軟骨修復の方法において、保護生分解性高分子バリアを使用する場合には、保護生分解性高分子の第1の(底部)層を軟骨病変の底部に沈着させそこを被覆するのが好ましい。この層の機能は、細胞遊走や、さまざまな血液及び組織の破片並びに代謝産物の影響から前記病変部位の統合性を保護、非細胞基質インプラントを埋め込むための空所の底部を形成することである。保護生分解性高分子の第1層は、骨誘導性組成物上に沈着する被覆層、又は軟骨下骨領域内の骨病変部位に配置される前記組成物からなるキャリアにもなりうる。
【0083】
ブタの大腿顆の生じさせた欠損の研究により、長い重合時間を有する細胞に対して非毒性の保護生分解性高分子層で底部が被覆した軟骨病変部位に、本願明細書に開示する埋め込み手順を用いて所定の条件で、生分解性非細胞基質インプラントを埋め込めば、傷害のある病変部に新たな細胞外基質(ECM)が形成され、それにより硝子軟骨の形成される、ことを確認した。同様に、骨誘導性薬剤を含んだ骨誘導性組成物、又はこの組成物を含むキャリアを骨欠損部に埋め込むことにより、前記骨病変部位内への骨芽細胞の移動行が誘発され骨の自然治癒が促進され、上述の非細胞基質インプラントとあわせることにより、骨及び軟骨の治癒及び再構成がなされる。
【0084】
硝子軟骨の生成のために非細胞基質インプラントを使用する方法は、軟骨が初期の骨関節炎の状態を生じていない目的の病変部位を有する早期患者、すなわち、代表的には例えばスポーツ損傷後の関節鏡視下手術等における、関節の関節軟骨の掃除又は微小骨折の治療が行われるであろう、患者の局所性病変部位の治療に特に適している。このような患者は、完全に機能する硝子軟骨、骨軟骨欠損の場合は、完全に機能する軟骨及び骨が、復元される可能性が高く、1回又は複数回にわたる再手術の必要がないし、そのような手術による症状悪化もなくなる。
【0085】
上記の方法を使用する利点は、非細胞基インプラントと、骨誘導性組成物若しくはそのような組成物を含有するキャリアとの双方又はいずれか一方が、いかなる生体物質も必要としないので、非免疫原性であること、手術の十分前に予め加工できること、最初に関節鏡検査中に導入しうるものであり、病変部位の診断、清掃及び清拭時の、更なる生検、細胞培養、追加手術又は免疫反応を抑制するための治療を必要としないことである。この方法において、軟骨又は骨軟骨病変部位の底部及び頂部に置かれた2層の保護バリアを配置する処理は分けることができない。外科的制約から、これらの2つのバリアは、生物学的適合性があること、細胞又は組織に対して実質的に非毒性であること、完全に生分解性であること、術後約2−3ヵ月以内に病変部位から自然に除かれることが必要となる。また、これらバリアは、生理的に許容されうるpHで、2分以上で遅くとも10分までの所定時間内に、好ましくは3〜5分の重合時間で重合可能であることが必要となる。
【0086】
I. 軟骨、骨及びその特性
軟骨及び骨は、ともに、体内で他の軟部組織の支持となる結合組織である。
【0087】
骨は、骨格を形成している硬い結合組織であり、石灰化した基質及び膠原線維に封埋された骨芽細胞から成る。膠原線維は、ヒドロキシアパタイトに類似したリン酸カルシウムの形態で、相当量の炭酸塩、クエン酸塩、ナトリウム及びマグネシウムとともに、によって含浸されている。骨は、約75%の無機材及び25%の有機材から成る。骨は、骨膜によって覆われた緻密骨質の密度の高い外側の層と、内側の、ゆるい海綿骨質すなわち骨髄から成る。軟骨のすぐ下に位置する骨は、軟骨下骨と称される。
【0088】
軟骨は、関節及び骨を覆う成熟した結合組織であり、代謝は活発に行っているが非分裂性の軟骨細胞からなる。このため、傷害若しくは加齢又は疾患よる損傷後に、軟骨が自ら自然に治癒する能力はほとんど存在しない。
【0089】
軟骨は、血管分布が少なく及び堅固な整合性を有することを特徴としており、成熟した非分裂性の軟骨細胞(細胞)、コラーゲン(線維の間質性基質)及びプロテオグリカン基質(グリコアミノグリカン又はムコ多糖)から成る。このうち、後の2つはあわせて、細胞外基質として知られる。
【0090】
軟骨には、3種類の軟骨、すなわち、硝子軟骨、弾性軟骨及び線維軟骨、がある。硝子軟骨は、主に関節で見られるもので、プロテオグリカンに覆われた微細なII型膠原線維を含む間質性の物質を有し、すりガラス状の外観を呈する。弾性軟骨は、細胞が、膠原線維及びプロテオグリカンに加えて、嚢状の基質によって囲まれており、この基質が更に弾性線維ネットワークを含む間質性の基質に囲まれている軟骨である。弾性軟骨は、例えば、喉頭蓋の中心部で見られる。線維軟骨は、I型膠原線維を含み、典型的には、腱、靭帯又は骨の間にある移行組織において見られ、また、傷害を受けた硝子軟骨の低質な置換でも見られる。本発明は、非細胞基質インプラントを、周囲の病変していない軟骨中に本来存在している所定の状況と組み合わせ、さらに本発明の方法による特定のステップと組み合わせて利用し、傷害を受けた軟骨を完全に治癒し、傷害した軟骨を健全で機能的な硝子軟骨に置換するものである。
【0091】
A.関節軟骨及び関節軟骨欠損
関節(例えば膝軟骨)の関節軟骨は、約95%(総容積)の細胞外基質に分散させた約5%(総容積)の軟骨細胞がから成る硝子軟骨である。細胞外基質は、コラーゲン及びグリコサミノグリカン(GAG)を含む、様々な高分子を有する。硝子軟骨基質の構造によって、かなりのショックを吸収し、剪断力及び圧迫力に耐えることができる。正常な硝子軟骨は、また、関節の表面の摩擦係数が極めて低い。
【0092】
健常な硝子軟骨は、隣接整合性があり、いかなる病変、裂症、亀裂、破断、穴傷又は寸断された表面もない。しかし、外傷、損傷、疾患(例えば変形性関節症)、老化によって、軟骨の隣接表面は傷つき、軟骨表面は亀裂、裂症、破断、穴傷、寸断された表面を呈し、結果、軟骨病変部位となる。
【0093】
関節軟骨は、血管、神経、リンパの供給がない唯一の組織である。血管及びリンパの循環の欠如は、関節軟骨の回復する能力が乏しい若しくはほぼ存在しない理由のひとつである。細胞外基質によって囲まれた小孔にある、代謝は活発であるが非分裂性の軟骨細胞は、高質の硝子軟骨を生成することによって発せられる損傷信号に反応しない。重度の傷害後は、II型コラーゲン/プロテオグリカン・ネットワークの吸水能力が傷害されるので、関節軟骨の固有の機械的機能は、自然に復元することはなく、また完全に復元されることもない。硝子軟骨に対して通常置換される物質は、硝子軟骨の損傷に応答して自然に生じ、傷害された軟骨を置換するが、硝子軟骨に比べはるかに弱く機能的に劣る線維軟骨である。
【0094】
軟骨外傷、傷害、疾患又は老化のために起きる欠損は、裂症、亀裂、破断又は穴傷であり、これらは関節軟骨だけにある。本発明の方法に従って、このような欠損を治療する場合、図1Aにて図示するように、インプラントを病変部位内に埋め込む。
【0095】
図1Aは、軟骨欠損部位に埋め込まれた非細胞基質インプラントの概略図である。図1Aは、その下に傷害されていない軟骨下骨を有するホスト軟骨に囲まれた、非細胞基質の埋め込まれた病変埋め込み部位を示す。頂部及び底部生分解性高分子保護バリアもまた示されている。
【0096】
B. 軟骨を修復するための現在利用可能な手法
種々の外科的手法が開発され、損傷された軟骨を修復する試みで用いられてきた。これらの手法は、骨髄細胞が欠損部に浸透し、その治癒を促進することができるようにすることを意図して行われる。通常、これらの手法は、よくても、部分的にうまくいくに過ぎない。たいていの場合、これらの手順によって線維軟骨組織(線維軟骨)が形成される。線維軟骨は、確かに軟骨病変部位を満たし修復するが、I型コラーゲンからなっており質的に異なるため、正常な関節硝子軟骨よりも耐久性が劣り、弾性が少なく、全体的に劣るもので、健常な硝子軟骨よりもショック及び剪断力に対する耐久力が限定されている。全ての可動性関節(特に膝関節)は、常に比較的大きな負荷及び剪断力を受けるので、健常な硝子軟骨を線維軟骨で置換しても完全な組織修復や機能回復には至らない。
【0097】
関節軟骨傷害に対する修復の現在利用可能な方法には、微小骨折法、モザイクプラスティ法及び自己軟骨細胞移植(ACI)法がある。しかし、何らかの点で、全てのこれらの技術は問題がある。例えば、モザイクプラスティ法及びACI法では、非傷害性関節軟骨領域から生検をして、細胞数を増やすために細胞培養を行う必要がある。その結果、これらの技術は少なくとも2回の別々の手術を必要とし、さらに、生体物質の存在により、これらの技術は、免疫反応が生じる潜在的な危険をともなうことになる。あるシステム、Carticel(登録商標)のシステムでは、加えて、脛骨骨膜の一部を培養するために骨膜の一部を分離するために第2の手術部位が必要となる。微小骨折法は関節軟骨の生検を必要としないが、得られる組織は常に線維軟骨である。
【0098】
本発明による、傷害され、外傷を受け、病変した、老化した軟骨の治療方法は、傷害、外傷、病変した、老化した軟骨を非細胞基質インプラントで治療し、組織の切除、培養のための細胞を必要とせず、従って、いかなる生体物質も必要としないので、上記の問題は解決される。(このインプラントは、下記の方法で調製され下記のように清拭手術中に軟骨病変に埋め込まれる。)
【0099】
C.骨軟骨領域及び骨軟骨欠損
本明細書において、骨軟骨領域とは、骨及び軟骨が互いに接続する領域であって、両組織にわたった病変部位である骨軟骨欠損が傷害時にしばしば起こる領域を意味する。
【0100】
図1Bは、骨軟骨欠損の非細胞基質インプラントの埋め込みの概略図である。図1Bは、、ホスト軟骨に囲まれが非細胞基質が埋め込まれた軟骨病変への埋め込み部位を示し、その下には軟骨下骨内の骨病変部位がある。骨誘導性組成物又は前記組成物を有する非細胞インプラントキャリアは、底部の保護生分解性高分子バリアによって軟骨病部位から隔てられが骨病変部位に沈着される。頂部及び底部の生分解性高分子保護バリアを配置することで、底部の保護生分解性高分子バリアにより、軟骨病変からの骨病変部位を分離する。各々軟骨病変及び骨病変が異なる手段、すなわち軟骨病変の治療のための非細胞基質インプラント並びに骨誘導性組成物又は骨欠損の治療のための前記組成物を有する非細胞キャリアを使用して別々に治療されるにする。
【0101】
従って、骨軟骨欠損は、軟骨及びその下にある骨との複合欠損である。今まで、骨軟骨欠損をするのに一般に用いられているのは、外科的切除、モザイクプラスティ法、骨軟骨自家移植、同種移植、骨セメンティング及び金属若しくはセラミック固体複合材料、若しくは多孔性生体材料の埋め込みであり、及び、最近では自己由来の軟骨細胞の移植である。しかし残念ながら、全てのこれらの治療の主目標は骨の支持機能及び機械的機能の回復及び維持であるため、これらの手法のいずれも、これら欠損をうまく治療することができるものでなく、また、患者にとって安全で満足のいくものではなかった。代表的には、これらの手法は、二回以上の外科的処置を伴い、移植可能な細胞を培養するのに、少なくとも約2〜3週の長い期間を要するものである。例えば、モザイクプラスティ法はで、欠損部位に移植可能な栓子として用いる健常な軟骨下骨及び軟骨の円形小片を摘出することが必要となる。モザイクプラスティ法に関する明らかな問題点のひとつは、外科医が、開放性手術において軟骨下の欠損を修復するために健常な組織を傷つけてしまうことである。複数回の手術を行い、その間にかかる長い期間を空けるため、完全な機能の回復されるまでにかかる時間が必然的に長くなり、また、骨及び軟骨双方の欠損が骨及び硝子軟骨ではなく線維軟骨によって埋められるので、しばしば部分的な機能回復にしか得られないことがある。
【0102】
一般的だが治療が非常に困難な骨軟骨性欠損の例のひとつに、離断性骨軟骨症がある。離断性骨軟骨症は、関節表面からの骨軟骨性断片の分離によって特徴づけられる限局性の骨及び軟骨性病変である。この傷害を同種移植によって治療する試みも、上述したように、二回目の手術及び健常組織への侵襲という同じ問題に直面している。従って、二回目の手術の必要をなくし、しかも、軟骨及び骨の修復のための手段を提供できるような方法を利用できるようにすることは、有利である。
【0103】
本発明による方法は、一回目の関節鏡手術中に骨誘導性組成物又は骨誘導性薬剤を含む組成物を、生分解性高分子バリア層で軟骨病変部位から隔てられた骨病変部位に埋め込み、次に、軟骨病変部位に非細胞基質インプラントを埋め込み、このインプラントを外部環境から効果的に隔てる生分解性高分子バリアの第2層によって覆うことにより、一回の手術で骨と軟骨欠損の両方の治療し上述した問題を解決する。
【0104】
B.軟骨病変部位の治療のための非細胞基質インプラント
本発明は、傷害され、損傷し、病変し又は老化した軟骨の治療のための方法を提供する。
この目的で、この方法は、傷害を受けた部位又は疾患、若しくは老化によって生じた欠損部位における傷害を受け、損傷し、病変し又は老化した軟骨病変部位に、非細胞基質インプラントをただ一回の手術で体内への埋め込む処理を含む。非細胞基質インプラントは、膠原性又は非膠原性構造物、例えば芳香族性有機酸高分子又は吸収性カプロラクトン高分子から調製される構造物であり、後述するようなさまざまな成分を有する。
【0105】
A. 非細胞基質インプラントの調製
軟骨病変に埋め込む非細胞基質インプラントの調製には、非細胞基質、通常は、コラーゲンのスキャフォルド若しくはスポンジ、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル、芳香族性有機酸高分子若しくは吸収性カプロラクトン高分子からなる構造物の調製と、この基質の軟骨欠損への埋め込みを伴う。
【0106】
例えば図2Aに示すような非細胞基質インプラントは、本発明の方法に従って調製されており、ブタの膝重量軸受領域の人工的に作られた病変部位に埋め込まれる。図2Aは、埋め込みに用いられる実際の非細胞基質スポンジ・インプラントの写真で、ここでは鉗子で把持されている。スポンジは、直径5mm及び厚さ1.5mmであり、約200〜400μmの細孔を有するコラーゲンスポンジ及びコラーゲンゲルからなるの組成の混合物を有する(図2B)。このスポンジが病変部位に埋め込まれると、軟骨細胞は活性化されて、スポンジの細孔構造部に移動し、そこで新しく細胞外基質を分泌し始め、最終的には新たな硝子軟骨でコラーゲンスポンジ及びコラーゲンゲルを置換する。このスポンジ及びゲルは、自然に生分解し代謝されて病変部位から除去される。
【0107】
図2Bは、図2Aに示した非細胞基質スポンジのハニカム構造の側方断面図であり、非細胞基質スポンジ内のコラーゲンスポンジ、コラーゲンゲル及び細孔の相対的位置を示している。
【0108】
病変部位に埋め込まれる非細胞基質インプラントの基質は、硝子軟骨の形成に必要な一定期間、このインプラントが機能するのを可能にする生分解性材料を含む。このような生分解性材料は、その後、生分解し代謝されて埋め込み部位から除去され、残るとしても非毒性の残留物しか残らない。表面の軟骨層が形成されるまで、これらの基質は生分解性高分子バリアの第2層で覆われており、この層は基質を覆い、これを外部環境から隔離する。表面の軟骨層は、インプラントが埋め込まれた病変部位を覆い、これにより新しく形成された硝子軟骨を保護し、生分解性高分子が完全に若しくは部分的に分解された時点でその保護機能及び隔離機能をほぼ引継ぐ。
【0109】
上記の基質は、加えて、酵素、例えば、メタロプロテイナーゼ、傍分泌性若しくは自己分泌性成長ホルモン、GAG−リアーゼ、その他の酵素、可溶タンパク質メディエーター並びにその他の修飾因子及び補助因子、を組み込むこともできる。これらの材料を含有するすなわち追加することで、周囲のホスト軟骨に存在する成熟した活発に代謝するが非分裂性である軟骨細胞の活性を高め、さらに、これらの軟骨細胞が、病変腔を囲んでいる病変していないホスト軟骨から病変部位に置かれた非細胞基質インプラントによりいっそう移動するようにしうる。
【0110】
本発明は、このように、本発明による非細胞基質インプラントを、病変部位底部に沈着した非毒性生分解性高分子バリアの上であり、かつ、インプラント上部に沈着する非毒性生分解性高分子バリアの下になる軟骨欠損部に下記の条件のもとで埋め込めば、周囲の病変していない軟骨中に存在する古い不活発な軟骨細胞が欠損部へ移動するようになり、そこでこれら軟骨細胞は、停止した非分裂性段階から活動段階に活性化され、この段階で、軟骨細胞が分裂し、増殖し、細胞外基質の成長を促進して、この病変部に新たな硝子軟骨を生成するという知見に関するものである。非細胞基質インプラントの埋め込み後、特に若年者では軟骨細胞の移動と、並びに若年者の組織にもともと多く存在するメタロプロテイナーゼにり支持される細胞外基質の形成とによって、軟骨欠損が急速に修復される。より高齢な患者での病変修復には、この基質の埋め込み前に、GAG−リアーゼ、メタロプロテイナーゼ、成長因子及びその他成分を基質に、加えるか又は組み込むか、あるいは、この基質の表面を簡便に被覆して、傷害を受けた細胞の分解を促進してもよい。
【0111】
軟骨細胞を活性化させるための処理には、一定の期間を必要とし、その期間は一般的には約1時間から約3週間であり、好ましくは約6時間〜3日しかかからないことを確かめた。治療を受けた人が、例えば、歩行、ランニング若しくは自転車に乗ることによって前記の新しくできた軟骨に間欠的な静水圧が加え、通常通り身体的に活発になる場合には、通常は1週間〜数ヶ月で、インプラント基質が硝子軟骨に完全に置換される。
【0112】
非細胞インプラントは、底部及び上部の高分子バリアを含め、完全に生分解可能であり、埋め込み後、約2〜4ヵ月以内でいかなる有害物も残すことなく、自然な代謝プロセスによって、病変部位から取り除かれる。
【0113】
B. 軟骨細胞移動の誘導
周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動の誘導は、もともと軟骨、軟骨周囲組織、血液若しくは血漿の中にある、又は手術前、手術中若しくは手術後に加えられた、さまざまな薬剤の生物学的作用を伴い、周囲の病変していないホスト軟骨からの軟骨細胞の放出、解放、活性化、そして、インプラントへの移動が促進される。
【0114】
軟骨細胞を活性化するステップの1つは、関節軟骨病変部位の頂部及び底部に1つずつある、2つの実質的に非毒性な保護生分解性高分子バリアを使用することである。このステップによって、非細胞性関節基質インプラントが埋め込まれる腔ができるととともに、細インプラントが隔離され、このインプラントの統合性が、細胞断片、血球、代謝産物及びその他の望ましくない異物から保護される。しかし、保護バリアはインプラントの底部と頂部に取り付けられているので、病変部位の両側はホストの周囲の健常な軟骨へ解放されたままであり、非細胞基質インプラントへの軟骨細胞の移動、もともとホストの周囲の健常な軟骨に存在した可溶性タンパクメディエーター、修飾因子、酵素、成長因子又はその他の因子の浸透及び濃縮、が可能である。
【0115】
非細胞基質インプラントを挿入する前及び後で、2つの非毒性生分解性高分子バリアにより欠損部位の頂部及び底部を隔離することにより、隣接した細胞外基質内の軟骨細胞により放出される自己分泌性及び傍分泌性の成長因子が蓄積し、これらの因子がインプラント内への細胞移動を誘導されるようになる。適切な成長因子には、特に、特定の形質転換成長因子、血小板由来成長因子、線維芽細胞成長因子及びインスリン様成長因子Iがある。加えて、これら及び他のサプリメント、例えばGAG−リアーゼ(基質再構築する酵素)を、インプラントを病変部位へ挿入する前に、このインプラントの表面を覆うために使用することができる。
【0116】
上述したように、頂部及び底部の保護生分解性高分子バリアによって病変腔内に隔離された非細胞基質インプラントは、隣接した軟骨と流動性に連絡するように維持される。この構成により、基質を再構築する酵素の阻害物質、例えばメタロプロテイナーゼ−1(TIMP−1)、メタロプロテイナーゼ−2(TIMP−2)及びメタロプロテイナーゼ−3(TIMP−3)の細胞阻害物質のレベルが欠損部で減少するような条件が得られる。結果として、基質メタロプロテイナーゼ(MMP−1、MMP−2、MMP−3)は、酵素活性を受けうるようになり、隣接する細胞外基質を分解し、それによって、そこに存在する軟骨細胞が解放され、周囲のホスト軟骨から非細胞基質インプラントに軟骨細胞が移動するようになる。
【0117】
病変部位に封入された非細胞基質インプラントは、通常の身体活動(例えば歩行、ランニング又は自転車に乗る)を行う場合の関節への負荷及び間接が受ける静水圧に応じて、底部の保護生分解性高分子バリアの層を通過する外因性成長因子の貯留部ともなる。従って、静水圧負荷に応答してこれらの因子は欠損部位内でより濃縮されるようになり、周囲の細胞外基質である隣接した領域から解放された軟骨細胞が病変部位へと移動し、病変部位内で増殖し新たな細胞外基質合成が開始される。
【0118】
さらに、インプラントの非細胞基質は、通常の関節軟骨と比較して剛性が低く、且つ隣接した病変していない軟骨基質端の変形を許容する材料で欠損を充填するため、剪断力のレベルが増加し、さらに、基質の再構築及び非細胞基質インプラント内への軟骨細胞の移動を表す可溶性メディエータの放出が増大する。
【0119】
すなわち、隣接した軟骨の境界に封入される非細胞基質インプラントが存在することにより、基質を再構築する酵素、つまり基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンが欠損部で濃縮し、隣接する細胞外基質の酵素的開放を起こし、それにより軟骨細胞が、非細胞基質インプラント内に移動し、その基質内に埋め込まれ、分裂及び増殖を開始し、新たな細胞外基質を分泌し、最終的に正常で健常な硝子軟骨を形成するような条件が生じる。
【0120】
C. 非細胞基質インプラントの種類
非細胞基質インプラントは、軟骨細胞が移動し、成長し、その場で2次元又は3次元の増殖を行うための、構造支持体を提供する。通常、非細胞基質は、生物学的に生体適合性であり、生分解性で、親水性であり、好ましくは電気的中性である。
【0121】
一般的に、インプラントは2次元又は3次元の構造組成物又はこのような構造物に変換しうる組成物であり、空間を流体的に接続された格子状ネットワークに分離する多数の細孔を含んでいる。ある実施例において、インプラントは、スポンジ状の構造体、ハニカム状格子体、ゾル・ゲル又は温度可逆性ゲル化ヒドロゲルである。
【0122】
一般的に、インプラントは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、アガロース、ヒアルロニン、プロテオグリカン、血管収縮コラーゲン含有プロテオグリカン、グリコサミノグリカン若しくは糖蛋白質、フィブロネクチン、ラミニン、生理活性ペプチド成長因子、サイトカイン、エラスチン、フィブリン、ポリ乳酸などの重合酸からなる合成高分子線維、多糖酸若しくはポリアミノ酸、カプロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリアミノ酸、ポリペプチドゲル類又はこれらの共重合体あるいはこれら物質の任意の組合せを含むコラーゲンゲル又はゲル溶液から調製される。インプラント基質はゲル、ゾル・ゲル、芳香族性有機酸のポリマー、カプロラクトン高分子又は高分子温度可逆性ゲルとすることが好ましい。インプラント基質は、水性のI型コラーゲンを含むのが、もっとも好ましい。
【0123】
非細胞基質インプラントは、スポンジ状、スキャフォルド又はハニカムスポンジになることもできるし、或いは、スキャフォルド又はハニカム状格子にすることもできるし、或いは、ゲル、ゾル・ゲル又は温度可逆性ゲル組成物にすることもできるし、或いは、芳香族性有機酸高分子又は吸収性カプロラクトン高分子にすることもできる。
【0124】
非細胞基質インプラントは、インプラントを埋め込む病変部位のおおよその大きさを有する2次元又は3次元体として形成することができる。インプラントの大きさ及び形状は、欠損の大きさ及び形状により決定される。
【0125】
a. 非細胞スポンジ又はスポンジ状インプラント
一般に、いかなる高分子材料も、組織に生体適合性で、必要な形状を備えていれば、支持基質として作用しうる。高分子は、天然のものであれ合成されたものであれ、線維又はコアセルベートが形成されるように誘導でき、水性分散体として冷凍乾燥させてスポンジを形成することができる。
【0126】
コラーゲンに加えて、多様な高分子がスポンジの製造に適する可能性があり、アガロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、デキストラン、ポリヘマ及びポリビニルアルコールを、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0127】
一般的に、このようなスポンジは、架橋結合、例えば電離放射によって安定化される必要がある。実際の例には、ポリヒドロキシエチルメタクリラート(pHEMA)の凍結乾燥スポンジであって、随意的にゼラチンのような好ましくは内部に取り込んだ追加分子を含むスポンジを調製するものがある。アガロース、ヒアルロン酸又はその他生物活性を持った高分子を利用して、細胞反応を調整することができる。全てのこの種のスポンジは、本発明のためのインプラント基質として有利に機能する。
【0128】
スポンジ又はスポンジ状のインプラントの調製のために使用するゲル又はゲル溶液は、通常は水によって洗浄し、その後凍結乾燥して、基質内で移動する軟骨細胞を組み込みうるスポンジ状基質が得られる。本発明の非細胞基質インプラントは、移動する軟骨細胞が浸透する際に、多孔性のスポンジのような作用をし、これら細胞がスポンジの細孔内でに広がり、軟骨細胞がそこに移動定着するためのメッシュ状支持体を提供し、軟骨細胞は分裂及び増殖を開始し、新たな細胞外基質を作り、最終的には既存の健常な周囲の軟骨に連続する硝子軟骨を形成するための材料を分泌するようになる。
【0129】
スポンジインプラントの重要な性状のひとつは、スポンジ基質の細孔径である。スポンジの細孔径を異ならせることにより、スポンジ内への軟骨細胞浸透をより速く又はより遅くし、細胞の成長及び増殖をより速く又はより遅くし、究極的には、インプラント内の細胞密度をより高く又はより低くすることができる。このような細孔径は、インプラントの製作中に、ゲル溶液のpH、コラーゲン濃度、凍結乾燥法の条件等を変化させることによって調整することができる。一般的に、スポンジの細孔径は、約50〜約500μmであるが、細孔経が100〜300μmの間が好ましく、約200μmが最も望ましい。
【0130】
非細胞基質インプラントの細孔径は、レシピエントに応じて選択する。メタロプロテイナーゼもともとあってしかも活発な若年のレシピエントでは、活性化した軟骨細胞が細孔を通じて急速に増殖して、細胞外基質を分泌するので、細孔径はより小さなものにする。より高齢のレシピエントでは、軟骨細胞の移動が緩慢で、細孔に定着して増殖するのにより多くの時間を必要とするため、細孔はより大きなものにする。
【0131】
コラーゲンから形成した典型的な非細胞基質インプラントを図2に示す。図2Aは、直径4mmで厚さ1.5mmの非細胞コラーゲン基質インプラントの実施例の写真である。このインプラントの播種密度は体積25μlあたり300,000〜375,000の軟骨細胞であり、これは約1200万〜1500万細胞/mlに相当する。非細胞基質インプラントの埋め込み後の細胞密度は、周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動速度と、これらの分裂能力及び分裂の速度に依存することはもちろんであるが、インプラントのコラーゲン基質は移動細胞のこのようなばらつきに対応しうるものである。
【0132】
本非細胞スポンジは、実施例1に記載されている手順に従って、又は他の任意の手順、例えば米国特許第6,022,744号、同第5,206,028号、同第5,656,492号、同第4,522,753号、同第6,080,94号明細書又は本願明細書に参照として組み込んだ同時係属出願である米国特許出願第10/625,822号、同第10/625,245号及び同第10/626,459号明細書に記載の方法に従って調製することができる。
【0133】
b. 非細胞スキャフォルド又はハニカムインプラント
本発明のインプラントの一種類に、非細胞のスキャフォルド、ハニカム状スキャフォルド、ハニカム状スポンジ又はハニカム状格子がある。これらのインプラントは、すべてハニカム状格子の基質を有し、、この気質が移動及び分裂する軟骨細胞の支持構造体になる。ハニカム状基質は、上記のスポンジ基質と類似しているが、典型的なハニカムのパターンを有する。そのようなハニカム基質は、移動軟骨細胞の成長基盤となり、移動して分裂した軟骨細胞の3次元的増殖を可能とし、それによって、新たな硝子軟骨を形成するための支持構造体を提供する。
【0134】
図2Bは、非細胞基質のハニカム構造の側面図であり、コラーゲンスポンジと各列の細孔(*)径が約200〜400μmであるコラーゲンゲルを示している。
【0135】
このハニカム状基質は、スポンジについて上述したように、望ましい性質を有するコラーゲン、ゼラチン、I型コラーゲン、II型コラーゲン又はその他高分子といった高分子から製造される。望ましい具体例では、ハニカム状非細胞基質インプラントは、I型コラーゲンを有する溶液から調製する。
【0136】
ハニカム状インプラントの細孔は、ハニカム基質内に均一に分布しており、移動した軟骨細胞を取り込み均一に分布させうる構造を形成する。望ましい種類の非細胞基質インプラントのひとつに、ハニカム格子に形成したI型コラーゲン支持基質があり、これは、日本国東京都に所在する有限会社Koken社から、「Honeycomb Sponge」という商品名で、市販されている。
【0137】
すなわち、本発明の非細胞基質インプラントは、好ましくはコラーゲンを含む任意の好適な生分解性構造体、ゲル又は溶液にすることができる。このようなインプラントは、埋め込みを簡便に行うため、一般にゲル、望ましくはゾル・ゲル転移溶液であり、より高い温度で、溶液の状態が液体ゾルから固体ゲルに変化するものとする。このような溶液は、下記のように、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル又は温度可逆性高分子ゲル、がもっとも望ましい。
【0138】
c. ゾル・ゲル非細胞基質インプラント
他の種類の非細胞基質インプラントは、ゾル・ゲル材料から製造されるインプラント基質であり、このゾル・ゲル材料は、温度変化によりゾルからゲルへ及びその逆に変わりうるものである。これらの材料における、ゾル・ゲルの移行は、寒天及びゼラチンゲルの逆の温度サイクルでおきる。したがって、これらの材料では、ゾルは高温で固形ゲルに移行する。
【0139】
ゾル・ゲル材料とは、15℃未満では粘稠なゾルであり、37℃周辺又はそれ以上では固体のゲルとなる材料である。一般に、これらの材料は、約15℃〜37℃の温度において転移によってゾルからゲルへ形態を変化するもので、15℃〜37℃の温度では転移状態にある。しかし、ヒドロゲル組成物を変えることによって、ゾル・ゲルの転移温度を予め上記の温度より高く又は低く設定できる。最も好ましい材料は、ゲルを含有するI型コラーゲン、並びに急速なゲル化点を有する温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)である。
【0140】
ある実施例において、ゾル・ゲル材料は、実質的に I型コラーゲンから成るもので、0.012規定の塩酸溶液中に溶解した純度99.9%のペプシン可溶化ウシ皮膚コラーゲンの形態でカルフォルニア州パロアルトにあるCohesion社からヴィロジェンVITROGEN(登録商標)の商標名で市販されている。このゾル・ゲルの1つの重要な特徴は、転移により固体ゲル形態に硬化うることで、固体ゲル形態では、混合したり注入したりその他阻害をされえなくなり、これによりて、随意的に軟骨細胞の活性化及び移動を支持する他の組成物を含む固体構造が形成される。更に、組織培養用の無菌コラーゲンは、たとえば、マサチューセッツ州ベッドフォードのCollaborative Biomedical社、サウスオーストラリア州のGattefosse社、及びフランス国のSt. Priest社などから入手可能である。
【0141】
I型コラーゲンのゾル・ゲルが、通常、非細胞ゾル・ゲル・インプラントの製造に適切で望ましい材料である。
【0142】
d.温度可逆性ゲル化ヒドロゲル・インプラント
更に、非細胞基質インプラントは、ゾル・ゲルに類似の温度可逆性材料であって、ヒステリシスなしにゾルからゲルへ又はその逆へ転移するのがより速い材料から調製しうる。
【0143】
非細胞基質インプラントを病変腔に埋め込むのに熱可逆的特性が重要になる。その理由は、非細胞基質インプラントは、ゾル状態で病変腔に埋め込み、この腔をゾルで満たし、そこにおいてゾルは、それ自体で腔の正確な形状に追随し、空隙を残さない、すなわち、大き過ぎたり小さ過ぎたりしないようにするためであり、このことは、予め製造したスポンジ又はハニカム格子の場合にも同様である。関節病変腔に設置されたゾルは、自然な体温まで暖められた後、すぐに転移して固体ゲルとなり、周囲の病変していない軟骨からの移動軟骨細胞に対する支持構造体となる。
【0144】
ゾル・ゲルの1つの特徴は、液体から固体の状態へ硬化又は転移しうること、及びその逆が可能であることである。この特性は、非細胞基質インプラントの輸送、貯蔵、保存のためだけでなく、軟骨病変部位において液体ゲルの非細胞基質インプラントを硬化させることや、固体ゲルの非細胞基質インプラントを液化させるのに有利に使用しうる。加えて、これらのゾル・ゲルの特性により、病変部位の温度を増減をし或いはゾル・ゲルを、さまざまな化学物質若しくは物理的条件の下に又は紫外線照射にさらすことでゾル・ゲル転移を変化させて、ゾル・ゲルを支持基質として使用することもできる。
【0145】
ある実施例においては、非細胞基質インプラントを、5℃から15℃の間の温度で貯蔵され埋め込まれてた温度可逆性ゲル化ヒドロゲル又はゲル高分子とする。その温度では、ヒドロゲルは液体ゾルの状態であり、ゾルの状態で容易に病変部位に設置することができる。このゾルが病変部位内に設置されると、ゾルは自然に又は人工的に約30℃から37℃のより高い温度にさらされ、この温度で液体ゾルが固体ゲルに固化する。ゲル化時間は、約数分から数時間であり、一般的には約1時間である。このような例では、固化したゲルをそれ自体でインプラントとなるようにして利用することもできる、又はこのゾルを、例えばスポンジ又はスキャフォルドハニカムインプラントのような、他の支持基質に装填することもできる。
【0146】
温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)の主要な特徴は、体内で分解されるときに生物学的に有害な物質を残さず、また、ゲル化温度では水を吸収しない、ということである。TRGHは、非常に短時間でゾル・ゲル転換するもので、この転移は、硬化時間を必要とせず、ヒステリシスなく単なる温度の関数として起こる。ゾル・ゲル転移温度は、温度可逆性ゲル化高分子(TGP)の分子設計に応じて5℃〜70℃の範囲の任意の温度に設定することができ、このうち高分子重合体は5重量%未満であればヒドロゲル形成には十分である。
【0147】
温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)は、一般に37℃未満の関節の滑膜包の温度である37℃〜32℃まででは安定で圧縮に強くなければならないが、、30〜31℃未満では容易に可溶化して病変腔内で容易にゾルへ変化しうるものでなければならない。TRGHの圧縮への強さは、関節の通常の活動における圧迫に耐えうるものでとする必要がある。
【0148】
典型的なTRGHは、通常、親水性ポリマー・ブロックによって架橋された多数の疎水性ドメインを含む高分子量ポリマーのブロックから形成される。TRGHは、低い浸透圧を有し、温度をゾル・ゲル転移温度より高く維持すれば水に溶解しないため非常に安定している。ヒドロゲル内の親水性ポリマー・ブロックは、ゲル化の間におけるヒドロゲルからの水の分離及び巨視的相分離を防止する。これらの特性は、安全に貯蔵し、品質保持期限を長くするのに特に適している。
【0149】
この点に関して、温度可逆性ヒドロゲルは、温度可逆性ゲル化高分子(TGP)の水溶液であり、加熱するとヒドロゲルに変わり、冷却すると液化する。TGPは、たとえばポリ−N−イソプロピル・アクリルアミド又はポリプロピレンオキシドのような温度反応性ポリマー(TRP)やポリエチレンオキシドのような親水性ポリマーブロックから構成されるブロック共重合体である。
【0150】
ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドの共重合体からなる温度可逆性ヒドロゲルは、例えば、Pluronicsの商標名で、BASF Wyandotte Chemical社から入手可能である。
【0151】
一般に、温度可逆性は、たとえば、コラーゲンやポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドの共重合体のように、同じポリマー鎖上に疎水及び親水基が存在することにより得られる。ポリマー溶液を加熱すると、疎水的相互作用によって鎖会合及びゲル化が生じる。ポリマー溶液を冷却すると、疎水的相互作用が失われ、ポリマー鎖は解離してゲルが溶解する。このような特性を有する好適な生体適合性ポリマーであればいかなるものでも、天然であろうと合成であろうと、同様の可逆性ゲル化挙動を呈する。
【0152】
e) 非細胞ゲルインプラント
或いは又、本発明の非細胞基質インプラントは、市販されているさまざまなゲル材料、例えば懸濁ゲルから調製でき、必ずしも温度可逆性である必要はない。これらのゲルは生分解性でありさえすれば非細胞基質インプラントとして好適に使用することができる。
【0153】
このようなゲルの実例のひとつに、ポリエチレングリコール(PEG)及びその誘導体であって、一方のPEG鎖がビニルスルホン又はアクリレート末端基を有し、他方のPEG鎖が、共有結合によりチオエーテルに結合した自由チオール基を有するものがある。一方又は両方のPEG分子が、分枝の(3つ又は4つの腕を有する)場合、結合によりてゲルネットワークが得られる。インプラント調製に使用されるPEG鎖の分子量が、任意の線形鎖セグメントに沿って500〜10,000ダルトンである場合、ネットワークは開放されており、移動する軟骨細胞を受容するのに適しており、間隙水によって膨張可能であり、また生きた軟骨細胞に適合性がある。
【0154】
PEGの共役反応は、例えば、水性バッファ溶液又は細胞培養液溶液中に各PEGの5〜20%(w/v)溶液を別個に調製することによって起こすことができる。埋め込みの直前に、チオールと、PEGと、アクリレート若しくはビニルスルホンPEGとを混合して、病変部位に注入する。ゲル化は、1〜5分以内に自然に開始される。ゲル化率は、PEG試薬の濃度及びpHによりいくらか調整できる。共役する速度は、pH6.9よりもpH7.8の方が速い。したがって、PEG含有混合物のpHを調節することによって、外科医が望むとおりにゲル化処理をより速く又はより遅く制御することができる。しかし、このようなゲルは、付加的なエステル結合や不安定な結合が鎖に組み込まれていないと、一般的に体内で分解可能ではない。PEG試薬は、米国アラバマ州ハンツヒルにあるShearwater Polymers社又は韓国にあるSunBio社から購入できる。
【0155】
第2の選択肢として、ゲル化材料はアルギン酸塩であってもよい。アルギン酸塩溶液は、カルシウムイオン存在下でゲル化可能である。この反応は、細胞をゲル又はマイクロカプセルに懸濁するのに、長年使用されてきた。カルシウム又は他の二価のイオンを含まない培養液に溶解したアルギン酸塩溶液(1〜2%; w/v)を、アルギン酸塩をゲル化させる塩化カルシウムを含んだ溶液中で混合させる。類似した反応は、例えばヒアルロン酸のような、負に荷電したカルボキシル基を持つ他の高分子によっても起こりうる。ヒアルロン酸の粘稠溶液は、第2鉄イオンの拡散によってゲル化することができる。
【0156】
f. 芳香族性有機酸基質の高分子
非細胞インプラントは、また、芳香族性有機酸の高分子から簡便に製造することもできる。この種類の高分子は、一般的に負の電荷を有しているため、骨誘導組成物キャリアとしての使用するのに好適である。しかしながら、こういった種類の化合物も、軟骨非細胞インプラントとして使うことができ、また軟骨非細胞インプランの用途に適したものである。
【0157】
g. 吸収性カプロラクトン高分子
非細胞インプラントは、また、吸収性カプロラクトン高分子から簡便に形成することもできる。これらの高分子は、例えば、本願明細書に参考として米国特許第6,197,320号、同第5,529,736号、同第6,485,749号、同第6,703,035号及び同第6,413,539号明細書に記載されるように、一般には、結晶性で低融点のイプシロンカプロラクトン高分子である。
【0158】
カプロラクトン高分子は、加えて、アミノ鎖又はエステル鎖にイオン結合又は共有結合によって結合した、例えばグリコリド、グリコール酸又はラクトンといった共単量体と組み合わせてもよい。
【0159】
D.生分解性インプラント
本発明の非細胞基質インプラントは、周囲の軟骨から解放され、た軟骨細胞を移動させ、分裂させ、増殖させ、細胞外基質がされるようにするための支持体を提供する一時的な構造物である。
【0160】
従って、本発明のインプラントは、完全に生分解性でなければならない。スポンジ、ハニカム格子、ゾル・ゲル、ゲル、TRGH、芳香族性有機酸高分子又はカプロラクトン高分子のいずれであるかにかかわらず、やがて、埋め込まれたインプラントは、分解されるか、又は既存の軟骨に組み込まれ、その後、望ましくない残骸を残さずに分解される。
【0161】
全体として、上で記載されている軟骨欠損のための非細胞基質インプラントはいずれも、任意の寸法及び形状の軟骨病変部位への埋め込みに適しており、周囲の健康なホスト軟骨から軟骨細胞が移動してくることによるの構造再構築のための支持体となる。本発明のインプラントの埋め込みによって、正常で健常な硝子軟骨が生成し、軟骨欠損が完全に治癒する。
【0162】
III. 骨軟骨欠損及びその治療
関節軟骨の病変はしばしば、その下にある骨の病変部位を伴う。従って、このような欠損は軟骨とその下にある骨とが組み合わさったものである。これらの欠損は、本願明細書において、骨軟骨欠損と称す。
【0163】
A. 骨軟骨欠損の治療方法
骨軟骨欠損は、軟骨及び骨の損傷によって生じる。上記の通り、軟骨及び骨は、組織学的に2つの異なる結合組織である。そのため、同じ方法及び手段によって両者を効果的に治療することは不可能である。また、このために、このような治療は、軟骨病変単独又は骨欠損のみの治療より複雑であり、難しい。
【0164】
このような複合した損傷を治療しようとする試みからモザイクプラスティ法が開発された。前述のように、モザイクプラスティ法は、健常な組織から移植片を切除し、このような移植片を骨及び軟骨病変部位の双方に移植する処理を有する。この技術の明らかな欠点は、傷害部位の治療のために、開放性手術中に、外科医が他の部位から健常な組織を切除しなければならず、これによりこの過程で健常な組織を傷つけてしまうことである。
【0165】
しかし、本発明の方法をこれらの複合した骨軟骨性傷害の治療に用いれば、健常な組織を切除して傷つけてしまうことや、例えば、同種移植及びその他の手術のために必要な複数の手術を行うことや、又はこれらの双方を必要とせずに、骨及び軟骨病変部位を同じ手術中に治療することができる。
【0166】
本発明によれば、非細胞基質インプラント、と骨誘導性組成物又は骨誘導性薬剤を含有する組成物を有するキャリアとを、望ましくは1又は2種の生分解性高分子保護と組み合わせて埋め込むことにより、このような2つの治療を同時に行うことができる。
【0167】
実際には、同じ手術の間に、外科医は、最初に両方の病変部位を創傷清拭し、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位に沈着させ、この骨病変部位を、1又は数層の非毒性生分解性高分子、好ましくは、下記のVIに記すように2〜10分の長い重合時間を有する修飾された高度に重合可能な生分解性保護高分子により被覆する。生分解性高分子保護バリアを重合させたあと、一般的には数分以内、好ましくは3〜5分の間に非細胞基質インプラントを軟骨病変部位に埋め込み、このインプラントを本願明細書において頂部生分解性高分子上部保護バリアと称するさらに他の一層の生分解性高分子保護バリアにより被覆する。
【0168】
このようにすると、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアは、骨病変部位内に隔離され、骨形成性薬剤(例えば、脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン若しくはポリアクリレート又はこれら任意の組み合わせ)、骨形態形成タンパク質と、他の既知の骨誘導性薬剤(例えば成長因子又はTGF)とのいずれか或いは任意の組み合わせが、非細胞基質インプラントからの干渉なしに周囲の骨からの骨芽細胞の移動を引き起こすように作用する。骨及び軟骨病変部位がこのように分離されるため、硝子軟骨が骨病変部位内へ浸潤することもないし、骨病変部位に線維軟骨が形成されることもない。
【0169】
逆に、非細胞インプラントが、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアから隔てられていれば、骨誘導性薬剤は、軟骨細胞の移動、細胞外基質の形成や、硝子軟骨の生成に何ら寄与しない。骨及び軟骨は各々、別々に治療されるのであるが、一回の関節鏡視下手術の間に同時に処置される。
【0170】
保護生分解性高分子は、骨誘導性組成物上に沈着させることができるし、又は所望の場合には、骨誘導性組成物の下にも、好ましくはそのまま、すなわち追加の薬剤を加えずに、保護生分解性高分子を骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアに加えることができる。
【0171】
骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアは、骨欠損内に沈着され生分解性保護高分子の第1の層で覆われて、骨の再構成及び成長のために病変部位に残される。この組成物及び生分解性保護高分子の双方が、骨の自然治癒を補助する。
【0172】
保護生分解性高分子の第1層によって骨病変部位から隔てられており、且つ頂部生分解性保護高分子バリアで覆わた、軟骨欠損内に埋め込まれた非細胞基質インプラントは、インプラントが硝子軟骨に置換されて生分解されるまで軟骨病変部位に残される。
【0173】
骨軟骨性欠損修復の一般的な処理は、骨軟骨性欠損の清掃及び清拭し、骨誘導製薬剤を含んでいる骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを、軟骨下骨における病変部位の上限まで埋め込み、この組成物の上に非毒性生分解性保護高分子の層を被着させ、この生分解性高分子保護バリアを重合させる。重合は、一般的に3〜5分以内で起こるが、高分子の修飾に従って、必要に応じて早くすることも遅くすることも可能で、代表的には約2分〜約10分にすることができる。生分解性高分子保護バリアが重合した後、上記のように手術を続け、非細胞基質インプラントを軟骨病変部位に埋め込む。その後インプラントの埋め込まれた軟骨病変部位を、非毒性生分解性保護高分子の第2層で被覆して病変部位を密閉し外部から保護する。
【0174】
上記の手順は、異なった条件下の二つの治療を同じ手術中に行うことができるので、特に骨軟骨性傷害の治療に適している。
【0175】
骨軟骨性欠損における具体的な症例は、離断性骨軟骨症であり、この症例では、骨及び軟骨の問題となる病変部位は、不安定な又は完全に転位した骨軟骨性断片になる。現在可能な唯一の治療は、骨膜をとる生検(第1の手術)と、細胞の培養と、、不安定な断片の切除(第2の手術)と、の培養細胞の病変への導入と骨移植(3回目の手術)とを含む3つの独立の手術を必要とする。
【0176】
上述した本発明による方法は又断片を除去するステップを含むように変形した方法によれば、離断性骨軟骨炎の修復のために必要な全てのステップが単一の手術中に同時に行われるので、2回又は3回目の手術が不必要になる。
【0177】
B.骨誘導性薬剤
骨誘導性薬剤は、骨の形成を促進する確かな能力を有する化合物又は蛋白質である。
【0178】
骨形成薬剤で最も適切なものは、脱灰した骨粉(DMP)、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン及び成長因子(すなわち、骨形態形成蛋白質(BMP)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDFG)、上皮成長因子(EGF)、神経膠腫由来因子(GDF)及び、形態転換成長因子(TGFβ―1)、として知られる一群の組換え又は非組換え成長因子)である。これらの成長因子は、個別に用いてもよいし、互いに又は他の骨誘導性因子と組み合わせて用いてもよい。
【0179】
骨形態形成タンパク質は、一般的にBMPの略語によって認識されており、さらに、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−8及びBMP−14のような番号により区別されている。それらの中には、さらに、一般名で認識されるものがあり、たとえば、BMP−3はオステオゲニンと呼ばれ、BMP−3BはGDF−10、と呼ばれるなどする。骨形態形成蛋白質は一般に、約0.01〜約5mg/cm3 の(キャリアの体積又は重量あたりの)濃度に調整するが、この濃度は、好ましくは約0.1〜約1.5mg/cm3 、又は約0.01mg/g〜約5mg/gであり、より好ましくは約0.1mg〜約2mg/gとする。
【0180】
脱灰した骨粉は、骨誘導性組成物として又は骨誘導性キャリアとして用するのに特に適しており、脱灰した骨粉が骨の微孔性構造を模するので、骨誘導性薬剤又は支持構造体として作用させるための他のいかなる化合物も必要としない。簡便には骨又は軟骨下骨病変部位にDBPを沈着させる前に、病変部位にDBPを沈着しうるがそれ自身は骨誘導機能を有さないコラーゲン又はその他の粘着性の流体若しくはヒドロゲルにDBPを溶解させることもできる。
【0181】
C.骨誘導性組成物
本発明の骨誘導性組成物又はこの組成有したキャリアは、1又はいくつかの上述した骨誘導性薬剤を開示された濃度で含む。骨誘導性組成物は、所定の濃度で混合した粉末、溶液、ゲル、ゾル・ゲル又はヒドロゲルとして用いてもよいし、或いは非細胞インプラントに類似した構造体に組み込んで予調整して、骨病変部位又は骨折部位に埋め込んでもよい。例えば、TRGHとして調製される組成物は、ゾル溶液の形態で調製して、そのままで用いる。このゾルはその後、ゲルへと状態を変え、骨病変部位全体を満たす。骨誘導性薬剤はまた、PEG、コラーゲン、アルギン酸塩等に溶解して、その状態で沈着することもできる。骨誘導性薬剤はまた、上述した非細胞基質スポンジのような、第2のスポンジシステムにで吸収させることもできる。
【0182】
骨軟骨又は骨病変部位への骨誘導性薬剤の沈着する好適な態様は、粘着性の溶質、たとえば希釈コラーゲン、アルギン酸塩及びこのような接着剤に薬剤を溶解することである。
【0183】
D.骨誘導性キャリア
骨誘導性キャリア又は骨誘導性組成物を含有するキャリアは、少なくとも1つの骨誘導性薬剤、若しくは、好ましくは複数の薬剤の組み合わせを含んでいる骨誘導性組成物の埋め込みに適したキャリア化合物である。一般的に、キャリアは、骨芽細胞の移動を促進する約50〜約150μmの大きな孔を有する生分解性多孔性基質、ヒドロゲル、スポンジ、ハニカム、芳香族性有機酸の高分子、ポリカプロラクトン又はスキャフォルドである。キャリアは、大きな孔をつなぐ約0.1〜約10μmの相互に連続する小さい孔を有しており、この小さな孔により、骨芽細胞がキャリアの中に定着すること可能となり、栄養及びその他の因子を供給することにより骨形成を可能にするための接続微小構造体及び支持基質が提供される。このようなキャリアの表面は負に荷電させて、骨芽細胞の偽足接着及び骨芽細胞のキャリアへの移動を促進しそれにより骨が形成されるようにすることもできる。
【0184】
IV. 生分解性保護高分子
本発明の保護生分解性高分子は、下にある骨若しくは組織から又は外部環境からの細胞、細胞若しくは組織の破片又はその他の望ましくない異物の移動からインプラントを保護し分離するバリアを形成するのに適した非毒性高分子組成物である。本願明細書において、これらの高分子組成物は、第1、第2、頂部又は底部の生分解性高分子と称す。底部又は頂部の保護バリアとして使用するこれらの高分子は、、同じものでも、異なるものでもよい。
【0185】
通常、インプラントは、生物的に許容されうる粘着性の保護生分解性高分子バリアの頂部及び底部の少なくとも2層の層の間にして軟骨又は骨病変部位に埋め込む。
【0186】
実際には、保護生分解性高分子バリアの第1(底部)の層は、病変部位内に導入してその病変底部に埋め込むまれる。第1の保護生分解性高分子バリアの機能は、例えば血液由来物質、細胞及び細胞片などの外来要素の軟骨下細胞及び滑膜細胞の移動を阻止し、これらが侵入するのを防止する。インプラントが埋め込まれる前には、このような破片が非細胞基質インプラントの組込みに干渉するおそれがある。第1の保護生分解性高分子バリアの第2の機能は、酵素、ホルモン及びその他の成分であって、病変部位にもともと存在しており軟骨細胞の活性化、移動、その他の物質の分泌及び新しく形成された細胞外基質及び硝子軟骨の増殖に必要な成分を含有することである。
【0187】
底部の高分子バリアを沈着させ重合させた後、この第1の保護生分解性高分子バリアの上に非細胞基質インプラントを埋め込み、非細胞基質インプラントの上に第2(頂部)の保護生分解性高分子バリアを配置して重合される。非細胞基質インプラントと組み合わせた双方の高分子バリアがあることにより、軟骨細胞が良好に活性化され、軟骨細胞が移動して、インプラント基質と一体化し、最終的に新たな関節硝子軟骨が形成される。
【0188】
A.第1の底部保護生分解性高分子バリア
軟骨病変の治療方法において、第1の(底部)保護生分解性高分子バリアは、導入されたインプラントと、病変化していない組織(例えば軟骨下骨又は軟骨)との間の界面を形成する。病変部位の底部に沈着された第1の保護生分解性高分子バリアは、病変部位内に移動してきた軟骨細胞を有することができ、望ましくない物質がインプラントへ流入するのを防止することができ、軟骨下腔に軟骨細胞が移動するのを防ぐことができるものでなければならない。加えて、第1の生分解性高分子バリアは、血管並びに望ましくない細胞及び細胞の断片がインプラント内に浸潤するのを防ぐとともに、線維軟骨の形成も防ぐ。但し、まず第1にこの保護生分解性高分子は、埋め込まれた部位で細胞又は組織に対して非毒性でなければならない。
【0189】
骨軟骨欠損の治療方法において、この第1(底部)の生分解性高分子保護バリアは、軟骨病変部位及び骨病変部位の間にバリアを形成する。軟骨及び骨軟骨欠損は2つの質的に異なる組織に生じた欠損であるため、異った治療が必要となる。上述の通り、骨病変は、骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアによって治療し、軟骨病変は非細胞基質インプラントによって治療する。軟骨病変部位に存在して軟骨細胞の移動を活性化させる酵素が、骨病変部位の再生に必要な骨誘導性薬剤及び成長因子を混合するのは望ましくない。組織が互いに分離していない場合には、例えば線維軟骨が容易に骨領域に入り込み易く、このような場合、骨は骨によって置換されずより劣った線維軟骨によって置換されてしまう。従って、骨軟骨欠損の治療のためには、底部保護生分解性高分子バリアを、骨誘導性組成物又はこの組成物を含有するキャリアで充填した骨病変部位の上に沈着し、非細胞インプラントが埋め込まれた軟骨病変部位から骨病変部位を分離する。これによって非細胞インプラント及び骨誘導性組成物は互いに独立に機能しうるようになり、互いに干渉しないようになる。
【0190】
B.第2の頂部保護生分解性高分子バリア
第2(頂部)の保護生分解性高分子バリアは、表面における非細胞基質インプラント又は病変腔の保護部部として作用するもので、典型的には、インプラントの埋め込みの後に病変部位の上に沈着され、これにより細胞浸潤又は分解性薬剤などの外部環境のいかなる望ましくない影響からも病変腔の統合性を保護し、沈着された後の非細胞基質インプラントを所定位置に隔離する。
【0191】
この第2の保護生分解性高分子バリアもまた、2つの保護生分解性高分子バリアの間に形成された空所に埋め込まれた非細胞インプラントの保護部として作用する。このように、第2の保護生分解性高分子バリアは、インプラントが第1の保護生分解性高分子バリアの上の埋め込まれた後に沈着され、インプラントを空所内に隔離する。
【0192】
この第2の保護生分解性高分子バリアの第3の機能は、表層性軟骨層を形成するための基礎としての機能である。
【0193】
後述する従来の研究により、第2の保護生分解性高分子バリアを軟骨病変の上に沈着させれば、病変していない表層性軟骨層の延長部分として表層性軟骨層が成長することが確認されている。このような表層性軟骨層が特によく発達するのは、病変腔を温度可逆性ゲル又はゾル・ゲルで満たされた場合である。従って、このようなゲルがこのような表層性軟骨層の形成のための基質を提供する、という仮説が導かれる。
【0194】
この第2の保護生分解性高分子バリア、又は、骨病変部位と軟骨病変部位とを分離するに使用する保護生分解性高分子バリアは、第1の保護生分解性高分子バリアと同じものでも異なったものでもよく、第1及び第2の保護生分解性高分子を、骨病変部位と軟骨病変部位との間のバリアとして利用してもよいが、異なる保護生分解性高分子バリアをこのために使うこともできる。
【0195】
第1及び第2の保護生分解性高分子バリアは、後述するように、好ましくはメチル化されたコラーゲン(別名CT3)を有する架橋ポリエチレングリコールであって、本発明により、細胞に対して非毒性で且つ延長された重合時間を有するように改変されたものである。
【0196】
C.生分解性保護高分子の特性
本発明の実施に好適な生分解性高分子は、一定の特性を有していなければならない。
本発明の第1の底部の又は第2の頂部の保護生分解性高分子バリアは共に、細胞及び組織に非毒性でなければならず、ある特定の時間内での制御可能な重合時間を有していなければならず、許容されるいかなる代謝経路によっても生物学的に許容され生体再吸収性で且つ生分解性でなければならず、新しく形成された硝子軟骨組織に組み込まれるものでなければならず、取り扱いが容易で接着性及び凝集性を有しなければならない。後者2つの特性は特に、高いずれ応力のかかる大きい病変部位、滑車溝、膝蓋骨の病変部位に関して重要である。保護生分解性高分子はさらに、非毒性で、生物学的に許容されるもので且つ組織に対する適合性がなければならない。この高分子はまた、可撓性で柔軟で且つ非剛性でなければならないが、その理由は硬い高分子では、保護生分解性高分子バリアが磨耗したり、組織部位から突出するおそれがあるためである。この高分子は、新たな軟骨の形成に干渉したり、他の干渉性の又は不所望な組織、例えば骨又は血管又は線維軟骨の形成を促進するものであってはならない。
【0197】
この保護生分解性高分子バリアは、2〜10分以内、好ましくは3〜5分以内に、流動性の液体又はペーストから耐荷重性高分子に制御可能に重合するものでなければならない。保護生分解性高分子の重合が速すぎないようにすることは重要である。その理由は、手術中の埋め込み処置及び病変部位への均一な分散に関して問題を生じるおそれがあるためである。このことは特に、関節鏡検査法の場合に当てはまる。2分未満の重合時間は、許容されるものでなく、非実用的で、望ましくない。他方で、10分を超える重合時間は、外科手術の時間的制約に適応性がない。加えて、全体的な使用方法は比較的単純なものでなければならない。その理由は、複雑及び長い手術では外科医に受け入れられないためである。
【0198】
この保護生分解性高分子を、このような組織に取り付けて、このような組織を隔離するのに、所定の強度の接着結合が必要となる。本発明の保護生分解性高分子の最小剥離強度は、少なくとも3N/m、好ましくは10〜30N/mにする必要がある。加えて、保護生分解性高分子自体も、内部で破損又は断裂することがないような十分な強度がなければならない、すなわち十分な凝集強度を有する必要がある。凝集強度は0.2MPa、好ましくは0.8〜1.0MPa範囲の抗張力であるのが好ましい。或いは又、高分子結合力の高分子の引張剪断力は、少なくとも0.5N/cm2 、好ましくは1〜6N/cm2 でなければならない。
【0199】
本発明よって改変された保護生分解性高分子は、必要な特性を有している。このような生分解性高分子は、未硬化又は液体の状態では、一般に互いに架橋してはいない2つの自由に流動可能な高分子鎖から成るが、水、生理的に適合性のある水性溶媒又はバッファに溶解した原液である。
【0200】
本発明の具体的な生分解性高分子は、3つの異なる化合物(すなわち、メルカプト基含有化合物、スルフヒドリル反応基含有化合物及びアルキル化コラーゲン)を含有した3部の組成物である。一般的に、コラーゲンは、アルキル化、好ましくはメチル化又はエチル化を受けた、野生型又は組換え型の、非変性又は変性のものとし、スルフヒドリル基含有化合物は、酸化ポリアルキレンとし、スルフヒドリル反応基含有化合物は、酸化ポリアルキレンとする。好ましくは、スルフヒドリル基含有化合物は誘導体化ポリエチレングリコールであり、最も好ましくはテトラチオール誘導ポリエチレングリコールである。また、好ましくは、スルフヒドリル反応基含有化合物は誘導ポリエチレングリコールであり、最も好ましくはテトラスクシンイミジル誘導ポリエチレングリコール又はテトラマレイミジル誘導ポリエチレングリコール、又はポリエチレングリコールより誘導したこれらの混合物である。
【0201】
本発明の目的を達成するために、重合時間が延長されており、各化合物は病変部位内又はその上に沈着される前に粉末、ペースト又は液体のいずれかの形態で用意される高分子組成物を生分解性高分子バリアとして使用する。これら3つの成分は、使用する前に、全て混合して水又はpH 3〜4のバッファに溶解するか、代案として、各々を別々に溶解してもよいし、又は2種のポリエチレングリコールを混合してメチル化コラーゲンと別に溶解してもよい。
【0202】
一般的に、組成物は、メチル化コラーゲン約10mgと、分子量約10,000のテトラチオール・ポリエチレングリコール100mgと、分子量約10,000のテトラスクシンイミジル・ポリエチレングリコール100mgとを含む。実施例において、分子量約10,000のテトラスクシンイミジル・ポリエチレングリコールは、スクシンイミジルポリエチレングリコール及びマレイミジルポリエチレングリコールの約1:1混合物によって置き換えることもできる。水又はその他水性溶媒又はバッファに溶解した組成物は、リン酸/炭酸バッファ−で容積1mlにより調整し、その後pHを適切な量の酸で調製して制御可能な所定の重合時間が得られるようにするが、一般にpHは、pH8未満、好ましくはpH7.5未満になるように適切な量の塩化水素又はその他の酸で調整する。
【0203】
これらの3種の成分を混合するとすぐに架橋反応及び重合反応が開始される。重合時間は重合が行われるpHに強く依存する。ポリマー鎖が少なくとも1つの構成要素上に4つの腕を有するのであれば、共役反応によって分子量が無限大の高分子ネットワークが形成される。メチル化コラーゲンは、4つの腕を有するPEGから形成される10,000ダルトン(1つの鎖セグメントあたり2500ダルトン)の高分子を強化する。
【0204】
高分子バリアとして用いる際にはある種の重合開始の引き金となる作用が必要となる。このような引き金となる作用は、2種の反応性パートナーの混合や、好適な改変された保護生分解性高分子の場合のようにpHを上げる試薬の追加や、又は熱若しくは光エネルギーの利用とすることができる。
【0205】
一般に本出願のために有用な保護生分解性高分子バリアは、接着性である、すなわち少なくとも10N/m、好ましくは100N/cmの剥離強度を有する。このような保護生分解性高分子バリア、0.2MPa〜3MPa、好ましくは、0.8〜1.0MPaの抗張力を有する必要がある。強い生物学的接着剤は、いわゆる「引張剪断」結合試験において0.5から4〜6/cm2 の値を有することを特徴とする。このような硬化したゲルの抗張力は約0.3MPaである。
【0206】
本発明に用いられる好ましい保護生分解性高分子バリアのひとつは、4つの腕を有するテトラスクシンイミジルエステルPEG及びテトラチオール誘導PEGと、CT3と称される、カルフォルニア州パロアルトにあるCohesion社から市販されているメチル化コラーゲンとを含み、急速なゲル化時間を本発明の方法に必要な重合時間に改変したものである。実施例4に従って改変されれば、本発明の実施に有利に用いることができる他の高分子は、参考のために本願明細書に組み入れた米国特許第6,312,725号及び同第6,624,245号明細書、並びに文献J. Biomed. Mater. Res.(2001年)(58)第545〜555頁、同文献(2001年)(58)第308〜312頁及び文献The American Surgeon(2002年)(68)第553〜562頁に記載されている。
【0207】
本発明に用いられる他の好ましい保護生分解性高分子バリアは、4つの腕を有するテトラスクシンイミジルエステルPEG及びテトラチオール誘導PEGと、組換えアルキル化コラーゲン例えば、カルフォルニア州パロアルトにあるCohesion社から市販されているCT3として知られる、高分子接着剤と類似したメチル化コラーゲン又は混合エチル化コラーゲンとを含むものである。
【0208】
従って、本発明の生分解性高分子は、5〜60秒という急速なゲル化時間を本発明の方法に必要な2〜10分の重合時間に延長した改変CT3接着剤である。野生型ウシコラーゲンではなく組換え型ウシコラーゲンを用いて、実施例4に従い改変すれば、本発明の実施に有利に用いることができる他の高分子は本願明細書に参考として組み入れた米国特許第6,312,725号及び第6,624,245号明細書、並びに文献J. Biomed. Mater. Res.(2001年)(58)第545〜555頁、文献 J. Biomed. Mater. Res.(2001年)(58)第308〜312頁、及び文献The American Surgeon(2002年)(68)第553〜562頁に記載されている。
【0209】
本発明に用いられる他の好ましい保護生分解性高分子バリアは、組換え調製され架橋PEGと混合したアルキル化、好ましくはメチル化コラーゲンである。
【0210】
本発明のこの組成物は完全に生分解性である。スクシンイミジルエステルPEGに存在するエステル結合の加水分解により分解が起き、可溶性PEG鎖が放出される。
【0211】
D.重合時間の修正
保護生分解性高分子化合物の重合時間は、本発明の実施にあたって非常に重要な基準である。これまで、全ての既知の接着剤、にかわ剤、フィブリンにかわ剤及びシーラントは、組織のシーラント及び接着に対する要求を満たすように一般に5〜30秒、最長でも60秒という非常に速い重合時間又はゲル化時間を有するように設計されてきた。その理由は、これらのシーラント又はにかわ剤が、重合又はゲル化に時間が重要であり非常に迅速に実行する必要がある傷の封止、止血、組織癒着の防止などの措置に用いられているためである。
【0212】
これに対し、本発明は、関節鏡視下手術中に、清拭した軟骨病変部位又は骨病変部位へ高分子バリアを沈着させる処理を有する。手術室の条件下において、外科医が、5〜30秒又はせいぜい60秒という既知のシーラント及びにかわ剤のゲル化又は重合時間内に、高分子化合物を調製し病変部位に沈着するのは不可能である。例えば膝関節関節鏡検査法のような手術では、非常に制限された条件下で関節鏡検査機器及び器具を操作することが必要となる。このような条件下での高分子バリアの埋め込みは、手術時間の制約に対応するものでなければならない。従って、60秒よりはるかに長い時間にわたり、高分子バリアが非重合状態のまま維持されるようにしなければならない。外科医が、液状高分子を病変部位に沈着させ、確実に病変部位の底部又は表面全体にわたって均等に行き渡らせ、底部の高分子についてはインプラントを病変部位に導入する前に又は頂部の高分子については手術を終える前に完全に重合させるのに、最短の可能な重合時間は、好ましいものではないが、最低2分であり、最も好ましくは3〜5分である。病変部位の底部又は病変部位上で高分子バリアが部分的に重合したり又は偏在したりすると、不所望な血液成分、代謝物又は細胞片が滲出するおそれがあり、バリアの目的が達成されなくなるおそれがある。
【0213】
加えて、既知のシーラント、特にCT3シーラントは、バッファされていない場合には、pH約3.4の酸性pHを有し、非生理的で細胞及び組織に有害である。このような酸性pHは軟骨病変部位内の細胞及び組織に有毒であることがわかっている。
【0214】
従って、既知の入手可能なシーラント及びにかわ剤はいずれも、改変なしには本発明の実施に適するものとならない。第1に、これらのシーラントは非常に短い重合時間を有し、本発明の目的に適合しない。第2に、これらは、生分解性高分子バリアを沈着する部位においてかなりの細胞毒性を呈し、本発明の目的、すなわち新たな軟骨の成長を達成することができない。したがって、本発明の目的を達成するために、これらのシーラントを底部又は頂部のバリアとして使用する場合、シーラントは、延長された重合時間を有し、生理的に許容されうるpHを有し、細胞及び組織毒性をほぼ有しない生分解性高分子に改変することが必要になる。
【0215】
E.重合時間の改変方法
既存のシーラント及び高分子の重合時間を改変し細胞毒性を取り除くことは、バッファに溶解したCT3として知られるメチル化コラーゲン及び誘導化ポリエチレングリコールを含む高分子混合物のpH、バッファ混合比及びイオン強度を微調整することにより行うことができる。従って、pH、イオン強度及びバッファ組成は、重合時間の厳密な制御及び細胞毒性の制御において非常に重要な条件となる。
【0216】
すでに上述したように、そのままの改変していないシーラント及びにかわ剤、特に市販されているCT3シーラントペーストの代表的なpHはpH約3.4である。図14C及び図14Dに示すように、CT3、このようなpHでは、バッファなしに使用すると細胞及び組織に有毒である。発明による本改変を加えずにCT3を組織シーラントとして使用する場合、2シリンジエアスプレーシステムにより、CT3をpH9.6のリン酸/炭酸塩バッファと混合する。このようなシステムでは、CT3とpH9.6のバッファとの混合物のpHは7.7〜8.4であり、5〜10分で非常に急速に重合するシーラントになる。このような重合時間は速すぎるため本発明の目的上有益でない。さらに、このpHでは細胞毒性が高くなる。このような細胞及び組織毒性は、にかわ剤及びシーラントを組織接着剤として一般的に使用する場合に、重要な要素とはならないが、本発明においては主要な課題であり、重要な問題となる。
【0217】
本発明において、埋め込まれた非細胞インプラントによって新たな硝子軟骨の形成がどれだけ促進されるかは、周囲の健常な軟骨から健常な細胞の移動に依存する。細胞が非細胞基質に移動した場所において高分子バリアがこれら細胞に対して毒性を有する場合、細胞は死滅するおそれがある。病変部位に移動した軟骨細胞が死滅すると、本発明の目的が達成されなくなる。非細胞インプラントは、支持基質として病変部位に導入されるもので、その中に、活性化生軟骨細胞が移動して当該インプラント内に定着し、硝子軟骨の細胞外基質を産生し始めるようになる。これらの細胞が死んでしまうとインプラントに定着して新たな細胞外基質を分泌し始めることができない。さらに、これらの細胞が死滅すると、細胞は破壊されて、本発明が防止しようとしている細胞の断片及び代謝産物が発生するおそれがある。細胞の断片及び代謝産物は硝子軟骨の形成を妨げ、線維軟骨の形成につながる。このように、組織毒性は本使用において重要となる。というのは、本発明において非細胞基質インプラントの埋め込みがうまくいくかどうかは、健康な細胞の移動に応じたものであり、細胞の断片が生じると硝子軟骨の形成が阻害され線維軟骨が形成されてしまうため、細胞毒性は不所望で許容し得ないものだからである。
【0218】
そこで、一般的な生分解性高分子及び特にCT3の重合時間を、細胞毒性をなくして、2〜10分間という制御可能な時間まで延ばせるかどうかを調べる研究を行った。
【0219】
a.CT3の重合時間
研究は、CT3シーラントを用いるときに通常使用されるCT3バッファの効果の調査に関するものであった。第1の研究は、異なるpHを有する同一のCT3バッファがCT3の重合時間を延長するか否かを調べるものであった。
【0220】
ここでの処理は、CT3バッファを改変してpHを最適化してCT3の重合時間を延長し、CT3が3〜5分以内の重合時間で本発明の保護生分解性高分子に必要な接着性をうるのに十分な強度を有するようにすることを意図している。
【0221】
CT3シーラントに添加することが推奨されるCT3バッファは、表1に示される組成物を有する。
【0222】
【表1】
【0223】
CT3がペースト又は粉末として提供されるときはpH3.4である。CT3をpH9.6のCT3バッファに溶解すると、その結果できる組成物のpHは7.7〜8.4であり、5〜10秒の重合時間を有する。
【0224】
この研究では、pH9.6のCT3バッファを塩酸によってpH8.5、pH8及びpH7.5まで調整し、低いpH(7.7〜8.4)下においてCT3が速く重合することによる組織障害を避け、外科的手順に必要となる高分子の埋め込み条件をに関して満足なあ時間が許容されるようにしている。各々のバッファは、市販のCT3と1:1(CT3:CT3バッファ)の割合で混合してから、塩酸でより酸性のpHに調整した。酸の中和能、重合CT3の強度、CT3が完全に重合するまでにかかる時間を決定した。これらの結果を下記の表2にまとめる。
【0225】
【表2】
【0226】
表2の結果に見られるように、pH7.5という低いpHの改変していないCT3バッファでは、確かに重合プロセスをがやや遅くなったが、このような遅延では重合時間を2〜10分間に延長するには十分ではなかった。この研究の条件下において、pH7.5での重合時間は依然として30秒であり、本発明には速すぎるものであった。
【0227】
保護生分解性高分子バリアにCT3高分子混合物を使用するならば、このCT3高分子化合物は、異なるイオン強度を有するバッファにより、pHが約6.5〜約7.5、好ましくは約6.5〜約7.0のpHまで更に改変しなければならないことが明らかとなった。このようなpHでは、改変バッファを使用して、本発明の生分解性高分子を含有するCT3は、2分より長い、好ましくは3〜5分のゆっくりとした重合時間を達成するのに必要な時間内に重合する。これによって、外科医が高分子を病変部位の底部に埋め込むのに十分な時間ができ、また、手術中に重合が起こる前に病変底部に高分子を均一に行き渡らせることが可能になる。
【0228】
加えて、改変バッファのpH下においては、改変していないCT3バッファ/CT3組成物において観察された細胞毒性は、図14E〜14Hにみられるとおり、無くなるかかなり減少している。
【0229】
b.バッファ系の重合時間に与える影響
本発明で行われる重合時間の改変は、生理的に制御可能な組織バッファ系の特性を用いて達成された。
【0230】
人体の血漿中では、水素イオン濃度は、重炭酸塩、リン酸塩及びタンパク質の3つのバッファ系を使って制御されている。
【0231】
バッファは可逆反応に関係する1組の物質を介して機能しており、この可逆反応により、第1の物質が水素イオンを生じ、第2の物質が周囲に存在する水素イオンの濃度に従って水素イオンを結合することができる。これらの組は、弱酸及び共役塩基によって作られる。各成分のイオン化状態間の関係は、水素イオン濃度に依存しており、ヘンダーソン−ハッセルバルヒの式によって表される。この関係は以下の通りである。
【0232】
pH=pK+log[共役塩基]/[弱酸]
(この式において[共役塩基]は塩基性成分の濃度であり、[弱酸]は弱酸の濃度を示す。)
バッファ系が有効性は、弱酸の解離定数Kに部分的に依存するため、[H+][弱塩基]/[弱酸]=Kが成立する。
【0233】
血漿中では、炭酸及び重炭酸塩の組、並びにリン酸水素塩及びリン酸二水素塩の組が主要な無機バッファである。水素イオンを生じる又は結合することができる大量のペプチドアミノ酸によって作られるタンパク質バッファ系が、血漿中でpHを制御する第3の主要なバッファ系である。タンパク質バッファ系の効果は、この特定例ではその位置のために非常小さくなる場合がある。
【0234】
本願明細書に記載の遅らせた重合処理では、重合系の最初のpHをpH6まで下げることで重合を防止している。間質液の成分が組織コンパートメントに入る際の、反応混合物の生理的バッファリング過程に続いて、この重合反応の遅れが生じる。これは、重合が開始しうるpH7.4の生理学的に制御されたレベルにまで系のpHを最終的に調製する拡散過程に続いて起こるよりゆっくりした過程である。
【0235】
例えばCT3のような、重合薬剤の混合物に用いられる複合緩衝系は、2相バッファ移行を生ずる炭酸塩及びリン酸塩バッファ系の双方を含む。まず、リン酸バッファが、リン酸塩の3つのpKのうちの1つに従って混合物をpH6.0付近に保持し、次に、pH6.1の炭酸バッファ系に移行し、全体のバッファ系はpH7.4で平衡に達する。
【0236】
c. CT3バッファの改変
CT3バッファの改変処理は、異なったイオン条件を作りだし、且つ生分解性高分子を異なる及び生理的により許容されるpHにするバッファによって、CT3のpHを調整する処理を含む。この処理によって、重合時間は120秒以上に延長されて異なる重合時間が限定され、保護生分解性高分子バリアの非毒性、強度、接着性及び重合時間について本発明の必要条件を満足するようになる。
【0237】
手術の実施に必要となる延長された重合時間を有する保護生分解性高分子として用いるCT3シーラントを好適なものとするのに、CT3バッファに行う必要のある改変を複数のバッファ溶液がを試験することにより決定した。そこで、異なった強さのバッファを、表3に示すように準備した。
【0238】
【表3】
【0239】
表3からわかるように、各バッファは、リン酸塩成分及び炭酸塩成分の比並びにpHにおいて互いに相異している。その後、これらのバッファを、等量のpH3.4の改変CT3シーラントと混合して改変CT3生分解性高分子バリアとし、これらのpH及び重合時間を測定した。
【0240】
様々なpHにおける、本発明の生分解性高分子に改変されたCT3の重合時間を表4に示す。
【0241】
【表4】
【0242】
表4に示すように、バッファしていないCT3ペーストは約5分で重合することができるが、pH3.4〜4という低いpHではかなりの細胞毒性が生じるため、改変されていないCT3シーラントは生分解性高分子バリアとしての使用には適さない。上述のバッファを使用することで、本発明に従う外科的手法に有用な時間まで重合時間を延長することができる。例えば、pH7.0のバッファを調べると、pH7.0まで下げることにより重合時間をpH7.5でみられた60秒から90〜120秒まで延長することができ、さらにpH6.5まで下げることにより、重合時間を180〜210秒まで延長することができた。pH6.5における改変CT3シーラントの実際のpHは7.0〜7.4の間にあり、これは生理的に許容されうるpHである。
【0243】
上述の研究結果から、改変CTバッファは、軟骨内に埋め込む生分解性高分子バリアの調製のためにCT3高分子と組み合わせて用いれば、ゆっくりした重合を起こし、毒性もなく、元々のCT3バッファ(pH9.6)を用いたときと同様の接着性を有することが明らかになっている。
【0244】
このようにして得られたられた改変CT3高分子バリアの接着力を、引張剪断試験により測定した。この測定結果を図15に示す。図15に示すように、pH改変CT3の接着強度に大きなはなかった。
【0245】
V.非細胞基質インプラント上に表層性軟骨層を形成するための方法
本発明の付随的な態様は、上述した手順に従って製造された非細胞基質インプラントを軟骨病変腔内に埋め込み頂部保護生分解性高分子バリアによって被覆するとき、これらの組み合わせにより、前記軟骨病変部位を完全に覆う表層性軟骨層が形成されることである。
【0246】
実際には、表層軟骨層の形成のための方法は複数のステップを有する。まず、ゆっくり重合する溶液の形態で沈着された第1の底部保護生分解性高分子バリアで病変底部を被覆する。保護生分解性高分子バリアが重合した後、非細胞基質インプラントをこの病変部位に埋め込み、このインプラント上に第2の頂部保護生分解性高分子バリアを沈着させて重合させる。実施例において、インプラントは体温で容易にゾルからゲルに変化する温度可逆性ゲルとすることができ、それによりインプラントを体外で調製し病変部位内へ埋め込み得るようにする。その後は、このゲルを、軟骨病変部位上での表層性軟骨層の形成を促進する頂部保護生分解性高分子バリアにより被覆して、これにより病変部位内にインプラントを隔離してこれを外部環境から保護する。
【0247】
この表層性軟骨層は、インプラントを軟骨病変部位内に埋め込んで頂部保護生分解性高分子バリア層で被覆した直後から形成され始める。図6に示すように、非細胞基質を埋め込んでから2週後には、表層性軟骨層が非細胞基質の埋め込み部位上に観察された。図6が示しているのは、大腿顆に欠損を生じてから2週間後の関節鏡検査による評価の様子であり、図5に示す同時期に生じた治療を行っておらず何も埋め込んでいない欠損部位と比べると図6においては、、表層性軟骨層が存在していることが明らかにわかる。
【0248】
頂部保護生分解性高分子バリアは、表層性軟骨層を支持するととものにその形勢を促進し、ある場合には、基質のゲル成分によって支援される。インプラント基質が完全に分解されて並びに新たな硝子軟骨が欠損部位に形成された時点で、元々存在する表層性軟骨層は、滑膜が関節を覆うのと同様に、新たに形成された軟骨を完全に被覆して隔離する。第2の頂部生分解性高分子バリアも、最終的には生分解されて病変部位から除去されるが、表層性軟骨層が形成されるまでは生分解されない。
【0249】
VI.非細胞基質インプラントの使用方法
傷害を受け、損傷し、病変し又は老化した軟骨を修復及び回復して機能的な軟骨にする方法は、非細胞基質インプラントを軟骨病変部位内へ埋め込むことに基づく。これらの治療における非細胞基質インプラントの使用方法は以下のステップを有する。
【0250】
a)非細胞基質インプラントの調製
第1のステップは、軟骨病変部位内に埋め込む非細胞基質インプラントの調製を伴う。非細胞基質インプラントの調製は、II.A節に詳述してある。
【0251】
b)第1及び第2の保護生分解性高分子バリアの選択及び軟骨病変部位内への埋め込み
第2のステップは、任意であるが行うのが好ましいもので、底部及び頂部の双方又はいずれか一方の保護生分解性高分子バリア層の選択及び軟骨病変部位内への埋め込みを伴う。
【0252】
具体的には、このステップは、2〜10分、好ましくは3〜5分の重合時間を有する生分解性高分子の調製と、第1の保護生分解性高分子バリアの軟骨病変底部への沈着と、第2の保護生分解性高分子バリアの非細胞基質インプラント上への沈着とを伴う。第1及び第2の保護生分解性高分子バリアは同じものでも異なるものでもよいが、両者ともその機能を発揮するためにある一定の特性を有しなければならない。
【0253】
底部保護生分解性高分子バリアは、非細胞基質インプラントを導入する前に病変部位に沈着させるもので、病変腔の統合性を保護するよう作用する。この底部保護生分解性高分子バリアは、例えば血液や組織の破片といった外来の物質によって病変腔が汚染されるのを防ぐ。この高分子バリアは、細胞外基質を形成したり、軟骨細胞を活性化したり、周囲のホスト軟骨から病変部位内に埋め込まれた非細胞基質インプラント内に軟骨細胞が移動するようにするのに必要であり且つ関係する元々存在する酵素及びその他メディエイタの完全性を保護する。また、この高分子バリアは、病変腔に線維軟骨が形成されるのも防ぐ。
【0254】
頂部保護生分解性高分子は、インプラント上に沈着され、病変部位を外部環境から効果的に封止するもので、病変腔を保護し、2層の保護生分解性高分子バリア間に形成された病変腔内に埋め込まれたインプラントを保護する役割を果たし、表層性軟骨層の形成を可能にするのに十分な生物学的透過性を有する。
【0255】
c)非細胞基質インプラントの埋め込み
本発明の方法における次のステップは、2層の保護生分解性高分子バリア間に形成される病変腔内に非細胞基質インプラントを埋め込む処理を有する。
【0256】
このインプラントは、底部保護生分解性高分子バリアを沈着した後に病変空に埋め込み、その後このインプラント上に頂部保護生分解性高分子バリアを沈着するのが好ましいが、インプラントは底部保護生分解性高分子バリアを沈着させずに病変腔内に埋め込んでその後、頂部保護生分解性高分子バリアで被覆してもよい。
【0257】
d)表層性軟骨の形成
移動した軟骨細胞が埋め込まれた基質を有する非細胞基質インプラントが、頂部保護生分解性高分子バリアと組み合わさることにより、表層性軟骨層が病変腔上に成長しこれを封止するようになる。
【0258】
代表的には、生物学的に許容されうる頂部保護生分解性高分子バリア、好ましくはメチル化コラーゲンを有する改変架橋PEGヒドロゲルの保護生分解性高分子バリア(CT3)を病変腔内に埋め込まれた非細胞基質インプラント上に沈着する。第2の保護生分解性高分子バリアは、表層性軟骨層を形成するための基礎として作用し、表層性軟骨性はやがて病変部位を完全に覆うように成長し、健常な滑膜に極めてよく類似したものになる。表層性軟骨層は、数週間又は数ヶ月、通常は約2週間で完全に病変部位を被覆し、インプラントと、移動及び分裂及び増殖した軟骨細胞と、新たに分泌された細胞外基質とを保護する。外部環境からインプラントを保護することで、線維軟骨がほとんど形成されずに、新たに形成された軟骨組織を病変していない周囲の軟骨に統合しうるようになる。
【0259】
従って、表層性軟骨層の形成は、軟骨の治癒並びにその修復及び回復に非常に重要な観点となる。
【0260】
VII.軟骨病変の治療方法
本発明による、損傷を受け、傷害を受け、病変し又は老化した軟骨の治療方法は、健常な硝子軟骨が再生されこの硝子軟骨が周囲の病変化していない軟骨へ統合されるような条件を発生させることにより、急性損傷による軟骨病変を治癒するのに好適である。
【0261】
この方法は一般にいくつかの新しい特徴、すなわち生物学的に許容される生分解性非細胞基質インプラントの製造特徴と、頂部及び底部の接着性保護生分解性高分子バリアを選択し病変部位へ沈着させる特徴と、これら2層の保護生分解性高分子バリアによって形成された病変空内への非細胞基質インプラントを埋め込む特徴と、病変部位を被覆しその中に埋め込まれた非細胞基質インプラントの統合性を保護する表層性軟骨層を形成する特徴と、軟骨細胞を活性化させ、これらを移動及び分裂及び増殖させ細胞外基質を分泌させ、最終的に新たな硝子軟骨を形成させこれを病変していない軟骨に統合させるための条件を発生させる特徴とを含む。
【0262】
この方法は一般に、
a)上述の手順に従って非細胞基質インプラントを製造するステップと、
b)手術中に関節軟骨病変部位を清拭するステップと、
c)この清拭ステップ中に、この病変腔を周囲の組織から隔離するための底部保護生分解性高分子バリアを病変底部に沈着させることにより、非細胞基質インプラントを埋め込むために病変部位を下処理するステップと、
d)非細胞基質インプラントを、重合したこの底部保護生分解性高分子バリアによりで形成される病変腔内に埋め込み、活性化して移動してきた軟骨細胞がインプラント内で増殖しうるようにするステップと、
e)頂部保護生分解性高分子バリアを病変部位上に沈着し、これによって2層の保護生分解性高分子バリア層間に形成された病変腔内にインプラントを封止するステップと、
f)任意であるが、酵素、ホルモン、成長因子、タンパク質、ペプチド及びその他メディエイタを非細胞基質内に組み込むか又はこの基質に被着させることにより、これら物質を封止された病変腔内に導入するか、これら物質を別々に導入するか、又はこれら物質が底部保護生分解性高分子バリアを通じて移動又は輸送される条件を発生させるステップと、
g)手術後、病変修復のための手術を受けた患者に通常の身体活動を行わせ、健常な硝子軟骨の形成及び周囲の病変していない軟骨へのこの硝子軟骨の統合を促進するものであることが示されている間欠的静水圧を自然に発生させるようにするステップと
を有する。
【0263】
本法にはいくつかの利点がある。
【0264】
この方法の主な利点は、非細胞基質インプラントが予め調製されており、ただ1回の最初の手術中に洗浄及び清拭措置の直後にこの非細胞基質インプラントが埋め込まれることである。
【0265】
第2に、非細胞インプラントは、完全に合成物で非細胞で外来組織又は細胞を含まないため免疫反応が避けられることである。このことは特に、生分解性高分子中のコラーゲンが組換えにて調製された場合にあてはまることである。
【0266】
非細胞基質インプラントを用いるこの方法によって、軟骨細胞及び細胞外基質が3次元的に発達することが可能となる。
【0267】
頂部保護生分解性高分子バリア層を沈着することにより、表層性軟骨層が形成され、それにより健常な関節軟骨の外表面が成長し、インプラント及び活性化して病変部位内に移動してきた軟骨細胞を保護するのに役立つ重要な代謝因子を、発生し収容し保護する。この表層性軟骨層はまた、図10A、図10B、図11A及び図11Bに示されるように、パンヌス(滑膜)が本発明のインプラントにより治療された病変部位を侵食するのをを防ぐものでもあり、図8A、図8B、図9A及び図9Bに示す治療を行っていない病変部位と比べると、これらの場合には病変部位を侵食しているパンヌス(滑膜)が存在することが明らかにわかる。ある例では、温度可逆性ゲルの選択が重要となる場合がある。その理由は、特定のTRGHは頂部保護生分解性高分子バリアを被着させる必要なく、表層性軟骨層の成長を促進するよう作用しうるためである。
【0268】
底部保護生分解性高分子バリア層を沈着することによって、手術における洗浄後の病変部位の統合性を保護し、軟骨下の滑膜細胞及び細胞産物の移動を防ぎ、これによって、活性化して非細胞基質インプラント内に移動してきた軟骨細胞から健常な硝子軟骨が形成され、線維軟骨の形成が防止される環境を作り出す。
【0269】
この方法では更に、非細胞基質インプラントを、ヒアルロン酸又は上述した他の成分若しくはメディエイタを一般には約5〜50%、好ましくは20%(v/v)で加えることにより、強化することができる。この場合において、このようなヒアルロン酸又は他の成分は、ゲルの基質形成特性の増強因子として作用するとともに、一般には滑膜腔内、特には病変腔内での水分補給因子としても作用する。
【0270】
更に、この方法は非常に用途が広く、いかなる種類のインプラントの変型物も所定の軟骨、骨軟骨又は骨の傷害、損害、老化又は病変の治療に有利に用いることができる。
【0271】
軟骨の治療では、この発明に従って、調製した非細胞基質インプラントを病変部位内に埋め込むことによって患者を治療し、インプラントは、底部保護生分解性高分子バリアが被着され頂部保護生分解性高分子バリアで被覆された病変部位に必要な期間だけ残留する。通常、手術及びインプラント埋め込み後の2〜3ヵ月の間に、新たな硝子軟骨が形成され、病変していない周囲のホスト軟骨に統合される。一般にはさらなる手術や介入は全く必要ない。というのは、この2〜3ヶ月の間に、歩いたり、走ったり、自転車に乗ったりといった通常の身体活動によって、十分な静水圧が病変部位に加わり、病変していない軟骨に完全に統合された硝子軟骨の形成が開始され促進されるからである。その後、このような軟骨は、表層性軟骨層で被覆された完全に機能する軟骨となり、この表層性軟骨層は、最終的に、病変していない関節の滑膜と同じ種類の表面に成長するか、又はこのような表面を生じさせる。
【0272】
最後に、この方法によって、老化により摩耗した又は病変した変形性関節症の軟骨を本発明に従って治療されたときに再生する硝子軟骨状の軟骨により置換することもできる。
【0273】
埋め込みの手順では、本発明の範囲で上述した又は可能ないかなる変形例もとりうるものである。従って、治療手順、インプラントの種類、1層又は2層の保護生分解性高分子バリアの使用、高分子バリアの埋め込み処理、添加するメディエイタの選択、さらには患者の通常の身体活動に至るまでいかなる変更も本発明の範囲内のものとして意図されたものである。
【0274】
VIII.骨又は骨軟骨欠損の治療方法
骨軟骨欠損の治療方法は、一般に軟骨の治療と併せて行われる。骨欠損及び骨病変の治療方法は、骨軟骨欠損と併せて実施することもできるし、又は非細胞インプラントの軟骨への埋め込みに関するステップを行うことなく別々に実施することもできる。
【0275】
A.骨軟骨欠損
軟骨下骨が傷害を受けた軟骨の直下にあり、且つ傷害が軟骨及び軟骨下骨若しくは軟骨下骨格骨双方に対する傷害となる解剖学的構成のために、この骨軟骨欠損の治療方法は、VII節に説明した軟骨病変の治療方法を拡張であるもののり、この方法のステップc)において、外科医は、清拭措置を行った後に、軟骨下病変部位に、一般に上述した1種以上の骨誘導性薬剤を含む骨誘導性組成物又はこの組成物を含有するキャリアを沈着させ、次にこの組成物を底部保護生分解性高分子バリア層で被覆し、保護生分解性高分子バリア若しくはこの組成物又はこれら両方を重合させた後に前述したステップa〜gを行う点において相違している。この種の骨軟骨欠損は更に、傷害が骨格骨にまで及ぶおそれがある。このような例では、骨誘導性組成物又は骨非細胞インプラントを骨格骨内に、軟骨下骨と流動可能に連続するように埋め込み、その後これを底部保護生分解性高分子バリア層により被覆し、前述したようにして非細胞インプラントを埋め込む。
【0276】
IX. 人間の変形性関節症軟骨の治療
関節軟骨は、血管、神経又はリンパの供給がない、ただ1つの組織である。血管及びリンパの循環がないことは、線維性組織又は線維軟骨性組織の形成以外の方法で、関節軟骨が治癒する内在的能力に乏しい理由の1つである。関節軟骨が持つ固有の機械的機能は、大きな傷害、老化による摩耗若しくは変形性関節症(OA)といった病変後、自然に再構築されることはない。
【0277】
現在、高齢患者における、高度の変形性膝関節症に対する唯一利用可能な治療は、膝関節を完全に置き換えることである。
【0278】
しかし、若年及び中年の患者ではこの治療法は最適の方法ではない。本発明は、元々十分なレベルの細胞外基質構築酵素、成長因子及びその他のメディエイタを有する若年者の傷害に対する治療により実際的なものであるが、この方法は、高齢者に対する治療法ともなるような改変することができ有利である。
【0279】
高齢患者の治療又は大きな病変の治療では、埋め込み前に非細胞基質インプラントに、1種以上のメタロプロテイナーゼ、メディエイタ、酵素及び、タンパク質を組み入れるか、又はこれらの因子及びメディエイタの内因的な生成を刺激するような薬剤を組み入れるか、或いはこれらの双方を行う。これらの因子は、上述の通り、軟骨細胞の活性化、移動及び細胞外基質の分泌を刺激し促進する。従って、本発明の方法は高齢者における軟骨欠損の治療にも好適である。但し、このような治療では、より長い治療期間が必要になることが予想される。
【0280】
変形性関節症において、又は老化して摩耗した軟骨においては、各基質タンパク質の分解によって基質の構造的統合性が乱されることにより、機械的特性が減少し機能が損なわれることになる。従って、本発明は、病変した変形性関節症軟骨又は摩耗した軟骨を新たな健常な硝子軟骨で再生する手段を提供することによって、この過程を逆転させるものである。
【0281】
X.ブタの生体での膝体重支持領域の研究
本発明による方法を、ブタの生体内での研究により試験し確認した。
【0282】
本研究は、後述するように、軟骨細胞の活性化及び周囲軟骨への移動、病変部位内に新たに合成される硝子軟骨の生成、並びに表層性軟骨層の形成を検出することによって、ブタにおける非細胞基質インプラントの実現可能性を評価するものとした。
【0283】
本研究は、膝関節の大腿内側顆における体重支持領域での欠損作成、この欠損部位内への非細胞基質スポンジの埋め込み、底部及び頂部保護生分解性高分子バリアの沈着、欠損作成後2週間後における表層性軟骨層の成長の検出、軟骨細胞の形態の検出、パンヌス侵食及び線維軟骨の存在の検出、S−GAG分泌の有無の検出、CT3保護生分解性高分子バリアの有無の組織化学的評価、を含む。
【0284】
0日目に空の欠損を作成し非細胞基質を埋め込んだ部位の肉眼での解剖学的構造を図3及び図4に示す。欠損作成後7ヶ月の時点における、非細胞基質インプラントにより治療した欠損部位における健常な硝子軟骨の形成状態及び表層性軟骨層の形成状態、並びに対照群の欠損部位における線維軟骨パンヌスの侵食状態を図5〜12に示す。
【0285】
図3は欠損形成時(時間0)における2つ空の欠損部位A及びBを示す。図4は時間0で作成した2つの欠損部位A及びBに非細胞基質インプラントを埋め込んだ状態を示している。
【0286】
図5及び6は、対照動物(図5)及び実験動物(図6)における欠損作成後2週間における関節鏡検査による評価を示している。組織学的等級付けを図7に示す。対照動物についての組織学的評価を図8及び図9に、非細胞インプラントで治療した実験群についの組織学的評価を図10及び図11に、それぞれ2つの倍率で示す。底部及び頂部保護生分解性高分子バリアが病変部位から分解していく様子を図12に示す。ミニブタの大腿顆における全層欠損の1例を図13に示す。改変していない及び改変CT3シーラントの細胞毒性は図14A〜図14Hに示される。図15に示したグラフは引張剪断試験の結果を示しており、ここでは図14A〜14Hに示される様々な強さのバッファでそれぞれ異なったpHレベルに改変したCT3を比較している。
【0287】
大腿骨関節面、欠損作成、及びこの欠損部位内のインプラント埋め込み部位の概略図を図1Dに示す。図1Dは大腿骨関節面の内側にある大腿骨内側顆に作成した2つの欠損部位A及びBを示す。これら欠損部位の大きさは直径4mm、深さ1.5mmである。これら欠損部位は体重支持領域に作成された。
【0288】
表5は図1Dに概略を図示した研究デザインの条件を表にしたものである。
【0289】
【表5】
【0290】
表5は軟骨病変の治療のための非細胞インプラントの実現可能性を調べるための7ヵ月間の研究に関する研究デザインを示している。本研究は、2つの群それぞれにおいて、生後9〜12ヶ月の去勢された雄のユカタン・マイクロ・ブタを8匹ずつ対象としている。2つの欠損(A及びB)を時間0において各動物の膝に作成し、合計で16箇所の欠損部位を作成した。実験群には、欠損作成時に非細胞基質インプラントを埋め込んだ。対照群においては、欠損は、いかなる治療もせずに空のままにしておき、視覚的、顕微鏡的、組織学的、及び組織化学的な比較のために使用した。関節鏡検査は、埋め込み及び欠損作成から2週間後に施行した。剖検は、埋め込み及び欠損作成から7ヶ月後に行った。
【0291】
非細胞基質インプラントは、カルフォルニア州にあるCohesion社から入手したコラーゲン溶液VITROGEN(登録商標)(35uL)から調製した。コラーゲンゲル溶液は、日本国にあるKohken社から入手したコラーゲンハニカムスポンジ(直径5mm、厚さ1.5mm)内に吸収させた。複合コラーゲンゲル/スポンジ構造物(図2A及び2B)は、37℃で1時間予め暖めてコラーゲンをゲル化した後、1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有する培地において5%二酸化炭素中で37℃の温度で培養した。重合から約24時間後、埋め込み処理のために、予め暖めた培地(37℃)をいれた組織培養容器に生分解性スキャフォルドを移した。
【0292】
吸入麻酔下で関節を切開した。膝関節包を開いた後、各動物の遠位大腿顆の体重支持部位の内側関節軟骨に2つの空の全層欠損(直径4mm、深さ約1.5mm)を作成した。欠損を作成した後、この欠損部位の底部に、典型的にはメチル化コラーゲンを含有する改変架橋ポリエチレングリコールヒドロゲル(CT3)保護生分解性高分子バリアを設置した。この後、軟骨病変内に設置したこの底部保護生分解性高分子バリア上に、予め調製した非細胞生分解性スポンジを配置した。この非細胞スポンジを、通常4〜6針の吸収性縫合、及び2針の非吸収性縫合で固定した。非吸収性縫合は、肉眼観察の際のマーカーとして使用したもので、図6に見られるものである。その後、埋め込み処理を行った欠損部位を、頂部保護生分解性高分子バリアにて封止した。
【0293】
対照群では、2つの空の全層欠損を作成して何もしないままにしておいた。すなわち、これらの欠損部位の中には何も入れておらず、インプラントも埋め込んでないし、底部又は頂部保護生分解性高分子バリアも沈着していない。
【0294】
図3は、遠位大腿顆の体重支持部位にある内側関節軟骨に作成した2つの空の全層欠損部位A及びB(直径4mm、深さ1〜1.5mm)の写真を示している。空の欠損部位は、全研究期間にわたって何もしないままとし、実験群に対する対照群として用いた。
【0295】
図4は、図3に示す空の欠損部位と同様に作成した2つの全層欠損部位の写真である。これら2つの欠損を本発明の方法に従って治療し、病変底部上に底部保護生分解性高分子バリアを沈着させた。この底部保護生分解性高分子バリア上の病変腔内に非細胞インプラントを埋め込み、埋め込まれた非細胞基質インプラント上に頂部保護生分解性高分子バリアを沈着させた。インプラントは、直径5mm、厚さ1.5mmのコラーゲンスポンジ(図2A)とした。インプラントは欠損部位A及びBの双方に埋め込んだ。各インプラントは、吸収性縫合と、以降の関節鏡検査評価時にマーカーとして使用する2針の非吸収性縫合とにより固定した。
【0296】
欠損を作成し非細胞基質を埋め込んで2週間後に、空の欠損部位及び埋め込み部位を関節鏡検査にて評価した。2週間後の関節鏡検査の評価を図5及び6に示す。
【0297】
図5は、欠損形成の2週間後におけるた空の欠損部位の関節鏡顕微鏡写真である。関節鏡検査による評価によって、対照群では、無処置のままにした場合、病変部位に滑膜パンヌスが侵食し、線維軟骨で満たされてしまうことが示された。この関節鏡検査による評価は、欠損部位が陥凹していることを明示しており、このことは、欠損部位が完全にむき出しで、空になっているが、滑膜の侵食がすでに起きていることを示している。このような滑膜の侵食は、線維軟骨が形成される最初の段階となる。線維軟骨は質的にも機能的にも硝子軟骨に劣るため、硝子軟骨に変わり線維軟骨が形成されて硝子軟骨を置換するのは望ましくない。
【0298】
埋め込み部位の関節鏡検査による評価によって、2週時間の時点ですでに、欠損部位が人工的な軟骨層で被覆されていることが示された。図6は、欠損作成から2週間の時点での、非細胞基質インプラントで治療した欠損部位の関節鏡顕微鏡写真である。図6は、表層性軟骨層が埋め込み部位を被覆し、平滑な表面を形成していることを示している。この埋め込み部位の境界は、空の欠損部位の境界が明確で目に見えるものであるのに比べ、もはやはっきりわからないものとなっている。このような埋め込み部位は、軟骨細胞がインプラント内へ移動し、細胞外基質が分泌されホスト軟骨と合流し始めており、この埋め込み部位全体が表層性軟骨層により被覆されていることを示している。図6に示す関節鏡検査による評価は、非細胞基質を埋め込んだ病変部位がむき出しなっておらず、この埋め込み部位を覆う表層性軟骨層により完全に被覆されていることを明らかにしており、この埋め込み部位は、図5に示す対照群における完全にむき出しで空の欠損部位と比べると平滑な表面に見えている。
【0299】
欠損を作成し非細胞インプラントを埋め込んでから7ヶ月の時点で、動物を安楽死させた。大腿関節顆の埋め込み部位及び欠損部位を組織学的評価のために採取した。採取した組織は、4%ホルムアルデヒド/PBSにより4℃で固定した。これら組織を10%のギ酸により脱灰し、処理して、パラフィンに封埋した。薄切片(5μm)をサフラニン−O(Saf−O)及びヘマトキシリンエオジン(H−E)にて染色し、組織学的評価を行った。
【0300】
染色した薄切片は、文献J. Bone Joint Surq. Am.(1997年)1452〜62頁により改変した図7に示す組織学的等級付けスケールにより盲検法にて評価した。欠損部位中央から採取した薄切片のみについて等級付けを行った。その理由は、確実に偏りのない解析を行い、異なった時点において調べた標本間での比較が可能となるようにするためである。欠損部位中央の領域のみを選択したのは、治癒能力を最も厳密に試験するためでもあり、また、欠損部位中央から採取した標本には確実に最小量の軟骨の治癒が確認されるためでもある。
【0301】
軟骨修復を評価するために使用した組織学的等級付けシステムを表6に示す。
【0302】
【表6−1】
【0303】
【表6−2】
【0304】
修復した軟骨の組織学的等級付けを行った累積結果を表7に示す。
【0305】
【表7】
【0306】
表7に示すように、欠損作成及び非細胞基質インプラントによる治療の7ヶ月後の時点での組織学的等級付けの平均合計得点は、非細胞インプラントの埋め込みを行った群において欠損部位を空にした群よりはるかに高く、埋め込みを行った群の得点は全項目によい手欠損部位を空にした群より高かった。
【0307】
修復組織の組織学的等級付けを図7に示しており、これは表5に示した結果を図示したものである。組織学的等級付けスケールに基づく平均合計得点は、治療を行って異な欠損に比べ、非細胞基質インプラントで治療した欠損において有意に良好であった(p≦0.001)。
【0308】
欠損作成後7ヵ月の時点で、動物を殺して関節を採取し、サフラニン−O染色にて評価した。これらの結果を図8〜11に示す。
【0309】
欠損作成後7ヵ月の時点での、インプラントを埋め込まなかった空の欠損部位A及びBを図8A、8B、9A及び9Bに示す。
【0310】
図8Aは、欠損作成後7ヵ月の時点における、対照群の欠損部位Aにおけるインプラントを埋め込んでいない空の欠損部位(D)をサフラニンO染色した顕微鏡写真(倍率29倍)である。強拡大図(図8B)には、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)に囲まれた欠損部位(図8A)が線維軟骨(F)により満たされている様子が明らかに示されている。この欠損部位は、赤色によって示されるS―GAGの蓄積が極めて少量であるか全く存在しないことが観察された。S−GAGの蓄積が極めて少量であるか全く存在しないことがは細胞外基質が形成していることを証拠づけるものである。S−GAGが少量しか存在しないか、又は全く存在しないならば、細胞外基質は形成されておらず、このことは軟骨細胞の移動がないこと、及び硝子軟骨の形成がないことを示している。このことは、病変部位内に線維軟骨が存在し形成されていることも示している。
【0311】
図8Bは、欠損部位を倍率72倍で示したもので、線維性細胞である線維芽細胞が存在していることを確実にするもので、滑膜から血管結合組織パンヌス(F)が侵食していることを示している。軟骨細胞の形態は、ほぼ紡錘形(線維性)の細胞が存在することを示している。
【0312】
図9Aは、欠損作成後7ヶ月の時点での対照群の欠損部位Bにおけるインプラントを埋め込んでいない空の欠損部位(D)をサフラニンO染色した顕微鏡写真(倍率29倍)であり、軟骨下骨(SB)を下方に有するホスト軟骨(H)に囲まれた、欠損部位を満たす線維組織(F)が形成されていることがわかる。病変部位の表面が極めて不揃いであることが観察された。この欠損部位においては、赤色によって示されるS−GAGの集積が極めて少量しかないことが観察された。S−GAGの蓄積は細胞外基質の形成を証拠づける。
【0313】
図9Bは欠損部位の倍率72倍の顕微鏡写真であり、線維芽細胞が存在することが示されており、このことは、滑膜からの血管結合組織パンヌスFの浸潤を表している。この部位で観察された細胞の形態により、大部分が紡錘形の線維細胞であることが示されている。
【0314】
図8A、8B、9A及び9Bは、本発明の非細胞インプラントにより治療しなかったインプラントを埋め込んでいない対照群の欠損部位が、S−GAGの蓄積として表れる健常な硝子軟骨の形成を表示しないことを明示している。このS−GAGの蓄積はこれはサフラニンO染色を施した顕微鏡写真では赤色として認められる。これらの顕微鏡写真では、むしろ、空の欠損部位に蓄積された紡錘形の線維細胞を有する欠損部位へ、血管結合組織パンヌス滑膜が侵食していることが示されている。
【0315】
病変部位を治療しない場合には、欠損部位は線維軟骨によってみたされてしまったが、非細胞基質インプラントを欠損部位に埋め込んだ場合、軟骨細胞の活性化及び周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動が引き起こされ、埋め込み部位内に軟骨細胞外基質が大量に形成され(細胞外基質の蓄積)、血管結合組織パンヌスの侵食が最小限になる。細胞外基質の蓄積は、実験動物の埋め込み部位において強赤色として検出された。これらの結果を図10A、10B、11A及び11Bに示す。
【0316】
図10Aは、欠損作成及び非細胞基質インプラントの埋め込み後7ヶ月の時点での、欠損部位A内に埋め込まれた非細胞基質インプラント(I)のサフラニン−O染色による組織学的評価を示す顕微鏡写真である。図10Aは、周囲の病変していないホスト軟骨(H)から、病変部位内に埋め込まれたインプラント(I)内へ細胞の移動が誘引き起こされている様子をはっきりと示している。埋め込みから7ヶ月後、硝子軟骨状の軟骨が非細胞基質インプラントの埋め込み部位で観察された。硝子軟骨の存在は、正常なS−GAGの蓄積によって示され、このことは欠損部位Aに存在する顕著な赤色として表される。表層性軟骨層が病変部位上に形成されているのがわかる。埋め込み部位における血管結合組織パンヌスは極めて小さいものであった。インプラントは、軟骨下骨領域(SB)を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。
【0317】
図10Bは、埋め込み領域の強拡大(72×)図であり、S−GAGの集積を示す赤色の部分が存在しており、軟骨細胞の形態により、治療を行っていない対象群の欠損部位に観察された紡錘形の線維細胞と比べ、正常でほぼ円形の細胞が主として存在していることが示されている。
【0318】
図11Aは、埋め込み後7ヵ月の時点での、欠損部位B内に埋め込まれた非細胞基質インプラント(I)のサフラニン−O染色による組織学的評価を示す顕微鏡写真(倍率29倍)である。図11Aにより図10Aに示した結果が確認される。図11Aは、周囲の病変していないホスト軟骨(H)から病変部位内に埋め込まれたインプラント(I)内への細胞の移動が引き起こされている様子をはっきりと示している。埋め込み後の7ヵ月の時点において、硝子軟骨状の軟骨が非細胞インプラント部位において観察された。硝子軟骨の存在は、正常なS−GAGの蓄積によって示され、このことは欠損部位Bに存在する顕著な赤色により表される。病変部位上に形成された表層性軟骨層及び非吸収性縫合の跡も見られる。埋め込み部位において、血管結合組織パンヌスによる滑膜の侵食は全く観察されなかった。インプラントは、軟骨下骨層領域(SB)を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。非吸収性縫合糸はホスト軟骨とインプラントとの間の元々の境界を示しているが、この時点ではほぼ完全にわからなくなっている。
【0319】
図11Bは、多量に蓄積されたS−GAGの存在を表す赤色の部分を有する埋め込み領域の強拡大(72×)図を示す。この場合も軟骨細胞の形態により、正常でほぼ円形の細胞が存在していることが示されており、このことは前述した病変部位Aにおいて観察された結果を確実なものとしている。
【0320】
図10A及び図10B、図11A及び図11Bに示すように、生分解性非細胞基質とホスト軟骨とが統合している様子がはっきりと見える。このような統合は、欠損部位が健常な硝子軟骨により囲まれている図8A及び図9Aでは観察されていない。これらの図は、欠損部位での細胞の形態が、図10A及び図10Bに示す埋め込み部位の細胞ののものと異なっていることを示している。空の欠損部位での細胞の形態は、周囲の硝子軟骨の細胞と異なる紡錘形の線維細胞が存在することを示している。これに対し、埋め込み部位での細胞の形態は、周囲の健常な硝子軟骨でも観察されるような正常な(円形の)細胞が存在することを示している。このように7ヶ月後の埋め込み部位は、過去に傷害を受けていない軟骨と、インプラントの埋め込み後に病変部位内に形成された軟骨との間に違いがないことを示している。
【0321】
加えて、病変部位に埋め込まれたインプラント上に沈着した頂部生分解性高分子バリアを使用することにより、表層性軟骨層が形成され、埋め込み部位における滑膜組織の侵食が最小限になる。
【0322】
非細胞インプラントを埋め込んだ軟骨病変部位上に頂部保護生分解性高分子バリアを沈着すると、この軟骨病変部位上に表層性軟骨層が形成される。図6に示すように、埋め込み後2週間で表層性軟骨層がすでに存在することが観察された。この表層性軟骨層を形成せしめる頂部保護生分解性高分子バリアは、生分解性であり所定の時間内に生分解される。保護生分解性高分子バリアを沈着してから3ヵ月の時点では、表面領域に、表層性軟骨層と共に、残留している保護生分解性高分子バリアが依然として観察された。埋め込み後7ヶ月の時点で、この頂部保護生分解性高分子バリアは完全に生分解され、図10A及び11Aに示されるようにその場所に表層性軟骨層が形成された。
【0323】
生体内における頂部及び底部保護生分解性高分子バリアの分解を測定するために、スキャフォルド基質を用いて自己由来の軟骨細胞構造物を埋め込んだ関節軟骨の標本を、サフラニン−O(図12A〜図12C)で染色するか、又は保護生分解性高分子バリア(改変CT3)に対するモノクローナル抗体及びジアミノベンジン(DAB)で免疫組織化学的に処理した(図12D〜12F)。図面におけるサフラニン−O染色で赤色調の部分は、S−GAGの蓄積を示している。茶色の部分は、保護生分解性高分子バリアが残留していることを示しており、これはジアミノベンジジン(DAB)によって検出されたものである。
【0324】
ここで、図12は、非細胞基質の埋め込み後3ヶ月の時点での頂部及び底部保護生分解性高分子バリアの分解パターンを示している。この時点で、表層性軟骨層がインプラント上に形成され、頂部保護生分解性高分子バリアが一部分解されていた。底部保護生分解性高分子バリアは、病変部位底部に沈着後3ヶ月の時点において、完全に分解され病変部位から取り除かれていた。
【0325】
図12Aは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の表面図を示しており、表層性軟骨層がはっきりと見え、少量の頂部保護生分解性高分子バリア(改変CT3)がこの表層性軟骨層の下に残留している。図12Bは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の側面図を示している。図12Cは、時間0において底部保護生分解性高分子バリアを沈着した埋め込み部位にサフラニン−O染色を施した状態を示す下面図である。図12Dは、免疫染色を施した頂部保護生分解性高分子バリア(改質CT3)の表面図を示しており、この頂部保護バリアは茶色で示されている。図12Eは、免疫染色を施した頂部又は底部保護生分解性高分子バリアの側面図を示している。図12Fは、免疫染色を施した底部保護生分解性高分子バリア(改変CT3)の下面図を示している。
【0326】
両試験において、残留している頂部保護生分解性高分子バリアは、再生した硝子軟骨状軟骨領域の頂部と表層性軟骨層との間の表面にしか観察されなかった。(図12A及び12D)側面図では、埋め込み部位と周囲のホスト軟骨との界面にいかなる頂部又は底部保護生分解性高分子バリアも残留していないことが示された。(図12B及び12E)底部保護生分解性高分子バリアは、これを時間0において沈着した、軟骨下骨領域と界面を成している病変部位底部に残留していなかった。(図12C及び12F)
【0327】
これらの結果は、底部保護生分解性高分子バリアは、埋め込みから約3ヵ月後に完全に生分解され、病変部位から取り除かれることを示している。この時点では、頂部保護生分解性高分子バリアがまだ病変部位表面に残留しているのが見えるが、この保護生分解性高分子バリアは、この場所で滑膜のいかなる移動又は侵食からも非細胞インプラントを保護するとともに、表層性軟骨層の形成を支持している。時間が経過すれば、頂部保護生分解性高分子バリアのこのような残留物であっても、生分解され治癒部位から取り除かれる。このことは、いかなる頂部又は底部保護生分解性高分子バリアも欠損部位に残っていないことによって裏付けられている。
【0328】
本例において頂部保護生分解性高分子バリアが3ヵ月の時点でまだ残留している理由は、細胞の統合及び硝子軟骨の形成に重要な細胞の移動が、非細胞インプラントの埋め込み部よりも、側面及び底面の領域において細胞の移動がより活発だからである。これらの側面及び底面の領域では、保護生分解性高分子バリアは3ヵ月以内に完全に分解される。このような現象は、生体内への細胞及び非細胞基質インプラントの埋め込みでの両方で起こることが観察された。細胞インプラントは、本願明細書において参考として組み込まれている同時係属の米国特許出願第10/625,245号(2003年7月22日出願)明細書に記載されている。
【0329】
対照群及び実験動物群において軟骨欠損の作成に用いた外科手術が、軟骨下骨領域を貫通する微小骨折法とは異なっていることを確認するために、ミニブタの大腿顆に全層欠損を作成し、この画像を図13に倍率72倍で示した。図13は、作成したこの全層欠損をパラフィンに包埋し、サフラニン−O染色を施した参考組織である。ホスト軟骨に囲まれ、下方に軟骨下骨領域を有する大腿顆から未治療の関節軟骨及び骨の欠損部位を作成した。軟骨下骨の上方の領域に、石灰化した残留軟骨領域が見られる。この組織は、組織学的評価のための参照組織として全ての研究において利用した。
【0330】
改変生分解性高分子バリアの組織に対する安全性を、pHを改変したCT3シーラント/バッファ混合物の全ての組み合わせてついて測定した。上述したように、希釈していないpH3.4のCT3シーラントは細胞に対して有毒である。従って、改変した組成物もまた有毒であるのか、それともこれらの改変した組成物はCT3シーラントについて観察された細胞に対する毒性を回避したものであるのかを決定することが重要であった。安全性試験のための研究デザインは、ブタの大腿顆へ非細胞基質を埋め込み、この際、病変部位底部に沈着させる高分子バリアを、改変していないCT3シーラントとしたものと、種々のpHのバッファで改変したCT3としたものとがある。インプラントを埋め込んだ大腿顆を24時間培養した。培養した組織を、アメリカ合衆国オレゴン州にあるMolecular Probes社から市販されている商品名Live&Dead Staining Kitを使用して研究した。埋め込み部位は、共焦点顕微鏡により観察した。
【0331】
Live&Dead Cell Staining Kitは2色の蛍光染色法で、2種類のプローブを用いて、生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)を染色する。カルセインAMは生細胞を緑色に染色し、エチジウムIII(エチヂアンのホモダイマ−1)は死細胞を赤色に染色する。これらのプローブは、細胞活性度の2つの認識されているパラメータを測定するできるように構成されている。
【0332】
高いpHのCT3バッファ(pH8.0、pH8.5、pH9.0及びpH9.6)は、本研究において測定することができなかった。その理由は、これらは5〜10秒で急速に重合し、このため本発明に好適ではなかったからである。
【0333】
この結果を図14に示す。図14は、ブタの大腿顆に埋め込んだ重合時間を延長しほぼ非毒性な生分解性高分子に改変したCT3シーラント及び、改変していないCT3シーラントの毒性を、無治療の何もしていない対照群と比較して示す。
【0334】
図14A(側面図)及び図14B(下面図)はともに、緑色に染色された生細胞、及び赤色に染色された死細胞の分布を示している。無治療群では死細胞は極めて僅かしか観察されなかった。細胞のほとんどは緑色に染色されており、生細胞であることが確認される。
【0335】
図14C(側面図)及び図14D(下面図)は、pH3.4の改変していないCT3を用いて、底部高分子バリアとして沈着させた後に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面から見た分布を示している。pH3.4の改変していないCT3を用いて、底部高分子バリアとして沈着させた後に観察された側面図及び下面図の双方においては、多くの死細胞が明らかに観察される。側面図では、極めて少ない生細胞が観察されるが、これらの生細胞は、周囲組織の生細胞に起因するものと考えられる。この図は、改変していないCT3が大腿顆の病変部位において細胞に対して非常に有毒であることを明らかに示している。
【0336】
図14E(側面図)及び図14F(下面図)は、バッファによりpH6.5に改変したCT3を底部高分子バリアとして用いた後に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面から見た分布を示している。pH6.5の改変CT3を大腿顆の病変部位内に沈着させた場合、観察される細胞に死細胞はほとんど無かった。このことは、改変CT3生分解性高分子バリアは細胞に対して有毒ではなく、本発明に使用するのに極めて好適であることを明らかに示している。
【0337】
図14G(側面図)及び図14H(下面図)は、バッファによりpH7.0に改変したCT3を底部高分子バリアとして用いた後に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面から見た分布を示している。pH7.0の改変CT3を大腿顆の病変部位内に沈着させた場合、観察される細胞のほとんどは生細胞であり死細胞は少数しか見られなかった。このことは、pH7.0の改変CT3生分解性高分子バリアは細胞に対して有毒ではないことを明らかに示している。
【0338】
図14I(側面図)及び図14J(下面図)は、バッファによりpH7.5に改変したCT3を底部高分子バリアとして用いた後に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面から見た分布を示している。pH7.5の改変CT3を大腿顆の病変部位内に沈着させた場合、観察される死細胞はより多くなったが、ほとんどの細胞は生存していた。このことは、CT3をpH7.5まで改変した場合においても、CT3生分解性高分子バリアは、細胞に対して過度に有毒にはならないことを明らかに示している。
【0339】
図15は、図14A〜図14Jに示した改変生分解性高分子の引張剪断試験の結果を示している。これら全ての群で剪断強度に顕著な差はなかった。従って、CT3シーラントを改変することにより、保護バリアとして使用したときの生分解性高分子の接着強度に何らかの影響を受けることはない。
【0340】
上述の結果は、本発明による軟骨病変部位内への生分解性非細胞基質インプラントの埋め込み措置により、周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動及び細胞外基質の形成が引き起こされ、これにより新たな硝子軟骨が合成されるが、インプラントの埋め込み部位における血管結合組織パンヌスの骨膜侵食は最小限になる、ということを示している。
【0341】
新たな硝子軟骨の合成は、S−GAGの蓄積として表される細胞外基質の蓄積により測定した。また、生分解性非細胞インプラントとホスト軟骨との間の細胞統合も観察した。
底部及び頂部保護生分解性高分子、並びに縫合糸は、主に病変部位内にインプラントを固定するために使用するものであるが、これらは埋め込み部位における滑膜組織の侵食を最小にするという副次的な効果も持ちうることが示唆されている。その一方で、上述の及び図によって示される結果は明らかに、無治療で処置をしていない対照群の欠損部位では血管結合組織パンヌスを伴って滑膜が侵食する、ということを示している。
【0342】
本発明を実施するのに最も好適な非細胞基質インプラントは、改変したポリエチレングリコール及びメチル化コラーゲン(CT3)の保護生分解性高分子からなる底部及び頂部層間にはさまれた、II型コラーゲンの温度可逆性ヒドロゲルを充填したII型アテロコラーゲンからなる多孔性ハニカムスポンジを有するものである。多孔質ハニカムのI型コラーゲンからなる隔壁は、コラーゲン−PEGの化学的相互作用に加わることにより、コンクリートに対する金属補強筋の作用と同じようにして、保護生分解性高分子バリアの封止能力を更に強くする。
【0343】
非細胞インプラント自体は、約4ヵ月で完全に生分解することができる。その間に、性的に成熟しているが完全には骨端線が癒合していないミニブタにおいて、以下のような状況が観察された。頂部保護生分解性高分子バリアにより被覆した2mmの大腿顆病変部位において、表層性軟骨層が、非細胞インプラントの周囲にある健常な軟骨領域の端部から広がり、病変部位及び保護生分解性高分子バリア層を覆うようになるのが観察される。加えて、非細胞インプラント内へ軟骨細胞の移動や、最終的にインプラントを満たしこれを置換することになる新たな硝子軟骨基質の生成も観察される。このような新たな軟骨基質は、硫化グリコアミノグリカン含有量及び組織学的所見による評価から分かるように、硝子軟骨であるか又はこれに極めて類似したものである。これらの移動性の軟骨細胞の生成源は、非細胞インプラントの周囲にある健常な軟骨の周辺深部層と、インプラントを覆う表層性軟骨層との双方であると考えられる。その理由は、これらの層が、硝子軟骨を産生しうる分化した軟骨細胞の生成源であることが示されているからである。最終的に、硝子状軟骨がインプラントを充填し、これと同時に埋め込まれた非細胞基質が徐々に生分解されるのが確かめられている。
【0344】
本発明の方法では、軟骨下骨起源の細胞は、インプラント内に入ることができない。これらの細胞は、軟骨下骨に面した底部保護生分解性高分子バリアによって阻止される。同様に、頂部保護生分解性高分子バリアが沈着してあるため、滑膜パンヌスは病変部位内に入ることができない。健常なホスト軟骨からの軟骨細胞だけがインプラント内に入ることができる。このように、I型コラーゲンが単独で細胞の移動を促進させることができるのに対し、保護生分解性高分子バリアは、周囲の健常な軟骨からの健常な軟骨細胞及び場合によっては軟骨前駆細胞を除いた細胞の移動を排除する。
【0345】
更に、関節の通常の身体活動の間に加わる静水圧は、真の硝子軟骨の形成を補助し、病変部位の治癒に役立つ。
【0346】
上記の研究結果から、傷害を受け、損傷を受け、病変した又は老化した軟骨を、本発明に従って調製された非細胞インプラントを用いることにより治療することができること、及び本発明の非細胞基質インプラントは、周囲の健常なホスト軟骨からの細胞の移動を引き起こすもので、このインプラントの埋め込みにより周囲の健常組織から表層性軟骨膜をない方に成長させるということが確認された。この膜、すなわち表層性軟骨層は、いかなる滑膜の侵食からも病変部位内のインプラントを保護する。一度インプラントを病変部位内に適切に埋め込んでおけば、間欠的な静水圧、低い酸素張力及び成長因子といった自然な物理化学的因子により軟骨の回復がもたらされる。
【0347】
本発明の非細胞基質インプラントシステムには多くの利点がある。生検及び細胞採取の必要がなくなり、病変部位上の骨膜を被覆する必要がなくなり、健常組織に傷害を与えることもなく、2回目及び3回目の手術も必要なくなくなるため、回復が速くなり、次の手術までの待機期間もなくなる。
【0348】
上述の利点は、軟骨下及び骨病変の治療にも同様に付随するものである。
【0349】
実施例1 非細胞コラーゲンインプラントの調製
この実施例は非細胞基質インプラントの調製法を説明している。
【0350】
pH3.0に保持した1%水性アテロコラーゲン溶液(VITROGEN(登録商標))300グラムを10×20cmのトレイに注ぐ。次に、このトレイを5リットルの容器内に設置する。次に、3%アンモニア水溶液30mlをいれた50mlのふたの開いた容器を、上述した1%水性アテロコラーゲン溶液300グラムが入った5リットル容器内に設置する。そして、アンモニア及びアテロコラーゲンの入ったふたの開いたトレイをいれたこの5リットルの容器を密封して、室温に12時間そのままにしておく。この間に、アンモニア水をいれたふたの開いた容器からアンモニアガスが放出され、このガスは密封した5リットルの容器に閉じこめられた水性アテロコラーゲンと反応して水性アテロコラーゲン溶液をゲル化する。
【0351】
コラーゲンゲルを水で一晩洗浄し、次に凍結乾燥してスポンジ状基質を作る。この凍結乾燥した基質はその後、正方形に裁断して、殺菌して、無菌ラップ下に保存する。
【0352】
或いは又、支持基質を以下のように調製することもできる。
【0353】
約4mm〜10 mmの厚みを有する多孔性コラーゲン基質を、湿度を調整したチャンバを用いて、相対湿度80%、温度25℃で60分間水和する。コラーゲン材料を、2枚のテフロン(登録商標)シート間で0.2mm未満の厚さに圧縮する。この圧縮したコラーゲン材料を次に、0.5%ホルムアルデヒド、1%炭酸水素ナトリウム溶液中で、pH8で60分間架橋させる。この架橋させた膜を完全に水ですすぎ、約48時間凍結乾燥する。高密度のコラーゲンバリアは、絡み合って多層構造体となっている高密度充填線維の内側埋め込体を有する。
【0354】
他の例では、統合化層を、乾燥するとシート状になるコラーゲンを主成分とする分散体又は溶液から調製する。乾燥を約4〜40℃の温度で、約7〜48時間行う。
【0355】
コラーゲンインプラントの組織学的評価のために、4%パラホルムアルデヒドで固定したパラフィン切片をサフラニン−O(Saf−O)及びII型コラーゲン抗体にて染色した。
【0356】
インプラントの生化学的な分析のために、接種したスポンジをパパインで60℃で18時間消化させ、DNA含有量をヘキスト(Hoechst)33258色素法を用いて測定した。硫酸グリコサミノグリカン(S−GAG)の蓄積を改変ジメチルメチレンブルー(DMB)マイクロアッセイを用いて測定した。
【0357】
実施例2 生化学及び組織学的分析
この実施例は生化学的及び組織学的研究に用いた分析法について記載する。
【0358】
生化学的(DMB)分析のために、埋め込みから一定期間後に動物から採取したインプラントを、マイクロ遠心管へ移し、300μlのパパイン(0.1Mリン酸ナトリウム、5mMの二ナトリウムEDTA及び5mMのL−システイン−HCl中に125ug/ml)中で18時間60℃にて消化した。インプラントにおけるS−GAGの産生は、文献Connective Tissue Research(1982年)9:第247〜248頁の記載に従い、サメのコンドロイチン硫酸を対照として、改変ジメチルメチレンブルー(DMB)マイクロアッセイを用いて測定した。
【0359】
DNA含有量を、文献Anal. Biochem.(1998年)174:第168〜176頁の記載に従って、ヘキスト3325染色法にて測定した。
【0360】
組織学的な分析のために、各群における残留インプラントを4%パラホルムアルデヒドにて固定した。インプラントを、処理してパラフィンに包埋した。厚さ10μm薄切片をミクロトーム上に切り出し、サフラニン−O(Saf−O)にて染色した。
【0361】
免疫組織化学のために、サンプルをジアミノベンジジン(DAB)に接触させた。DABは、反応が陽性であれば茶色を呈する色素である。
【0362】
実施例3 ブタモデルでの非細胞基質インプラントの統合性の評価
この実施例は、ブタモデルにおけるブタでのインプラントの統合性を評価するために行った研究の手順及び結果を記載する。
【0363】
全ての動物について右膝の関節を切開し、軟骨の生検を行った。
【0364】
ブタの右膝の大腿骨内側顆に欠損を作成した。対照群におけるこの欠損部位は、非細胞基質を埋め込まず、何もしないままにした。手術後、関節を外固定インプラントにて2週間固定した。右膝の関節を切開してから2週間後に、左膝の関節を切開し、左膝の大腿骨内側顆に欠損を作成した。左膝の欠損部位には非細胞基質インプラントを埋め込み、右膝のときと同様に固定した。手術部位は、埋め込み措置又は欠損作成後2週間の時点で関節鏡検査にて観察し、その後は1月ごとに観察した。
【0365】
非細胞インプラントの埋め込み措置から約7ヶ月の時点で、動物を安楽死させ関節を採取し、組織学的検査のために調製した。埋め込み部位を調製して、組織学的検査を行った。
【0366】
実施例4 CT3重合時間の測定
この実施例は、CT3シーラントを保護生分解性高分子バリアとして用いる試みにおける、CT3シーラントの細胞毒性及び重合時間を測定するのに用いた研究を記載する。
【0367】
CT3シーラントは、接着剤として使用するために、pH3.4のペースト又は乾燥粉末として提供される。実際に使用するにあたっては、CT3シーラントを2シリンジエアスプレーシステム内でpH9.6のCT3バッファと混合する。このバッファの組成は、前述の表1に示す。このCT3バッファは、リン酸成分(NaH2 PO4 17.25g/L;125mM)及び炭酸成分(Na2 CO3 21.1g/L;199mM)を含む。
【0368】
pH調整用に、pH7.5、pH8.0及びpH8.5の3つの異なったCT3バッファを1規定の塩酸溶液を用いて調製した。これらバッファのpHは、前述した表2のように調製した。
【0369】
pH8.5、pH8.0、pH7.5の目的の高分子バリアを、混合比1:1(CT3:CT3バッファ)でCT3と混合し、酸中和容量、重合したCT3の強度、及び重合時間を各pHについて測定した。
【0370】
これらのパラメータを、pH9.6のバッファを用いた改変していない約5秒の重合時間のCT3のものと比較した。
【0371】
上記CT3バッファを使用したCT3シーラントでは、バッファのpHを9.6以下に調整した場合であっても、重合時間は5〜30秒であった。
【0372】
実施例5 改変CT3の重合時間の決定
この実施例は、CT3シーラントを、手術を行うのに必要な延長した重合時間を有する保護生分解性高分子バリアとして用いるのに適したものとするのに必要な処理を決定するのに用いた方法について記載する。
【0373】
この処理は、バッファのpH、イオン強度及び混合比がCT3の重合時間に非常に重要になるという知見に基づくものである。
【0374】
種々の強度のバッファを前述の表3に示すように調製した。
【0375】
生分解性高分子バリアとして使う改変CT3の重合時間と、得られた改変CT3のpHを測定し、これを前述の表4に示した。
【図面の簡単な説明】
【0376】
【図1A】図1Aは、傷害を受けていない骨を下方に有するホスト軟骨内の軟骨病変部位の線図的拡大図であり、この病変部位の底部に沈着した第1の保護生分解性高分子バリアと、この第1の保護生分解性高分子バリア層上に埋め込まれ、第2の保護生分解性高分子バリアで被覆された非細胞基質インプラントが示されている。
【図1B】図1Bは、骨軟骨欠損の線図的拡大図であり、関節病変部位、及び骨病変部位と、この骨病変部位での骨誘導性組成物(骨材料)又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、第1及び第2の保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
【図1C】図1Cは、骨欠損部位の線図的拡大図であり、関節病変部位と、骨軟骨及び骨格骨の複合病変部位と、この骨病変部位又は骨軟骨病変部位内における骨誘導性組成物又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、第1及び第2の保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
【図1D】図1Dは、非細胞基質インプラントの埋め込み部位又は空の対照欠損部位として用いるための、体重支持領域に形成された欠損部位A及びBを示す。
【図2A】図2Aは、鉗子で把持した非細胞基質インプラントの画像である。
【図2B】図2Bは、非細胞基質スポンジのハニカム構造の長手方向線図であり、コラーゲンスポンジと、多孔質コラーゲンゲルとの相対的位置を示しており、細孔の寸法は200〜400μmである。
【図3】図3は、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの空の対照欠損部位A及びB(直径4mm、深さ1〜1.5mm)の顕微鏡画像を示している。
【図4】図4は、非細胞インプラントを埋め込だ、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの欠損部位A及びBの顕微鏡画像を示している。
【図5】図5は、欠損作成後2週間の時点における、空の欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示しており、欠損部位は完全にむき出しで空になっている。
【図6】図6は、欠損作成後2週間の時点における、非細胞基質インプラントで治療した欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示している。
【図7】図7は、修復組織の組織学的等級付けを示すグラフである。
【図8A】図8Aは、対照部位(A)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図8B】図8Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図9A】図9Aは、対照部位(B)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図9B】図9Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図10A】図10Aは、埋め込み部位(A)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図10B】図10Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図11A】図11Aは、埋め込み部位(B)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図11B】図11Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図12】図12A〜12Fは、非細胞基質埋め込み後3ヶ月の時点での、インプラント上に設置された第2の保護生分解性高分子バリアの生体内での分解パターンを示している。
【図13】図13は、ミニブタの大腿顆に作成した、採取後の全層欠損(D)の画像の例を倍率72倍で示す。
【図14A−14B】図14A(側面図)及び図14B(底面図)はともに、緑色に染色された生細胞、及び赤色に染色された死細胞の分布を示している。
【図14C−14D】図14C(側面図)及び図14D(底面図)は、底部高分子バリアとしてpH3.4の改変していないCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
【図14E−14F】図14E(側面図)及び図14F(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH6.5に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
【図14G−14H】図14G(側面図)及び図14H(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH7.0に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
【図14I−14J】図14I(側面図)及び図14J(底面図)は、底部高分子バリアとしてバッファによりpH7.5に改変したCT3を用いた場合に観察された生細胞(緑色)及び死細胞(赤色)の側面及び底面方向から見た分布を示している。
【図15】図15は、図14A〜14Jに示すように改変した生分解性高分子の引張剪断試験の結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節軟骨の傷害を治療する方法、損傷若しくは傷害した、又は病変若しくは老化した軟骨を機能的な軟骨に修復及び回復させる方法であって、
a)非細胞基質インプラントを調製するステップと、
b)少なくとも2分以上の重合時間を有する底部保護生分解性高分子バリアにより軟骨病変部位の底部を被覆するステップと、
c)前記インプラントを前記軟骨病変部位内に埋め込むステップと
有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記病変部位の底部に沈着された前記底部保護生分解性高分子バリアは約3〜10分の重合時間を有する方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記病変部位の底部に沈着された前記底部保護生分解性高分子バリアは約3〜5分の重合時間を有する方法。
【請求項4】
請求項1の方法において、更に、前記病変部位内に埋め込まれた前記インプラントの上に頂部保護生分解性高分子バリア層を沈着させるステップを有する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記インプラントの上に沈着された前記頂部保護生分解性高分子バリアは少なくとも2分以上の重合時間を有する方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記インプラントの上に沈着された前記頂部保護生分解性高分子バリアは約3〜10分の重合時間を有する方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記インプラントの上に沈着された前記頂部保護生分解性高分子バリアは約3〜5分の重合時間を有する方法。
【請求項8】
請求項4に記載の方法において、前記頂部保護生分解性高分子バリア及び前記底部保護高分子バリアは同じものでるか、又は、異なるものである方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記頂部及び前記底部保護生分解性高分子バリアは、約162〜223mMのNaH2 PO4 、約77〜約138mMNa2 CO3 を有するリン酸炭酸バッファに溶解されており、pH7.5以下のpHを有し、3〜5分の重合時間を有する方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法において、前記頂部及び前記底部保護生分解性高分バリアはバッファに溶解されており、pH6.5〜pH7.0のpHを有し、3〜5分の重合時間を有する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記保護生分解性高分子バリアは改変ポリエチレングリコール及びアルキル化コラーゲンの組合せを有する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記ポリエチレングリコールが、テトラスクシンイミジルポリエチレングリコール及びテトラチオールポリエチレングリコールであり、前記アルキル化コラーゲンはメチル化されている方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記保護生分解性高分子バリアは、テトラスクシンイミジルポリエチレングリコール及びテトラチオールポリエチレングリコールと組み合わせたメチル化コラーゲンであり、pH7.0未満のpHに調製され少なくとも3分の重合時間を有する方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法において、前記組織保護生分解性高分子バリアは、リン酸炭酸バッファ1mlあたり、約10mgのメチル化コラーゲン、約100mgのテトラスクシンイミジルポリエチレングリコール、約100mgのテトラチオールポリエチレングリコールを有し、pHが約pH6.5〜約pH7.5に調整されている方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法において、前記リン酸炭酸バッファは約195mM〜223mMのNaH2 PO4 、約77mMから約105mMのNa2 CO3 を有し、pHが約6.5〜約7.0に調製されている方法。
【請求項16】
請求項11に記載の方法において、前記保護生分解性高分子バリアは、4官能基性スルフヒドリルポリエチレングリコール及び四官能基性スクシンイミジルグルタル酸エステルと組み合わせたメチル化コラーゲンである方法。
【請求項17】
請求項8に記載の方法において、前記非細胞基質インプラントは、生分解し得コラーゲンスポンジ、ハニカムスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、ゲル、ゾル・ゲル、芳香族性有機酸の高分子、カプロラクトン高分子、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)基質である方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記非細胞基質インプラントは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、プロテオグリカンを有する細胞収縮性コラーゲン、グリコサミノグリカンを有する細胞収縮性コラーゲン、糖タンパク質を有する細胞収縮性コラーゲン、芳香族有機酸の高分子、ゼラチン、アガロース、ヒアルロニン、フィブロネクチン、ラミニン、生理活性ペプチド成長因子、サイトカイン、エラスチン、フィブリン、ポリ乳酸から合成される合成高分子線維、ポリグリコール酸から合成される合成高分子線維、イプシロンカプロラクトン、ポリアミノ酸、ポリペプチドゲル、高分子温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)、これらの共重合体及びこれらの組み合わせからなるグループから選択された材料より調製される方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、任意であるが、酵素、ホルモン、成長因子、タンパク質、ペプチド及びその他メディエイタ、又はこれらの因子若しくはメディエイタの内因的な産生を誘導する薬剤を、封止された前記病変腔内に導入するステップか、或いはこれらの物質が底部保護生分解性高分子バリアを通じて移動又は輸送される条件を発生させるステップを有する方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法において、前記基質が更に、基質を再構築する酵素、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンを含む方法。
【請求項21】
請求項5に記載の方法において、前記病変部位の修復のための手術を受けた患者に通常の身体活動を行わせ、これにより間欠的な静水圧を生じさせるステップを有する方法。
【請求項22】
関節軟骨の傷害を治療するのに好適な、請求項21に記載の方法において、
a)非細胞基質インプラントを調製するステップと、
b)手術中に関節病変部位を清拭するステップと、
c)前記インプラントを埋め込むために軟骨病変部位を下処理するステップであって、前記インプラントを隔離し保護するために、底部保護生分解性高分子バリアを軟骨病変部位の底部に沈着するステップを有する当該ステップと、
d)前記インプラントを前記病変部位内に埋め込むステップと、
e)前記非細胞基質インプラントの上に頂部保護生分解性高分子バリアを沈着するステップと、
f)手術後に、前記病変部位の修復のための手術を受けた患者に通常の身体活動を行わせ、これにより間欠的な静水圧を自然に生じさせるステップと
を有する方法。
【請求項23】
骨軟骨欠損部位を治療する方法で、
a)骨病変部位内に埋め込むために、1種類若しくは数種類の骨誘導性薬剤を有する骨誘導性組成物又は前記組成物を有するインプラントキャリアを調製するステップと、
b)軟骨病変部位内に埋め込む非細胞基質インプラントを、コラーゲンスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、芳香族性有機酸の高分子、カプロラクトン高分子、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)基質支持体として調製するステップであって、前記スポンジ、スキャフォルド、高分子又はTRGHは生分解性で、経時間的に分解され、治癒した病変部位から代謝的に取り除かれて、硝子軟骨に置換されるようになっており、前記基質は任意であるが基質を再構築する酵素、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンを有する当該ステップと、
c)前記骨誘導性組成物又は前記組成物を有するキャリアを骨病変部位内に導入するステップと、
d)前記骨誘導性組成物又は前記組成物を有するキャリアを底部保護生分解性高分子バリアにより被覆するステップと、
e)前記非細胞基質インプラントを底部保護生分解性高分子バリアの上の前記軟骨部位内に埋め込むステップと、
f)前記インプラント上に頂部保護生分解性高分子バリア層を導入するステップであって、前記頂部及び底部保護生分解性高分子バリアは同じものであっても、異なるものであってもよく、前記非細胞基質インプラント及び前記頂部保護生分解性高分子を組み合わせることにより、軟骨病変部位内に埋め込まれたインプラントが保護されるようにする当該ステップと
を有する。
【請求項24】
請求項16に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤は、脱灰した骨粉、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、リン酸カルシウム、酸化チタン、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、これらの共重合体及び骨形態形成タンパク質からなるグループから選択される方法。
【請求項25】
請求項17に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤はヒドロキシアパタイトである方法。
【請求項26】
請求項17に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤は脱灰した骨粉である方法。
【請求項27】
請求項19に記載の方法において、前記脱灰した骨粉はコラーゲン中に溶解されている方法。
【請求項28】
請求項16に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤を有する前記キャリアは芳香族性有機酸の高分子である方法。
【請求項29】
軟骨病変部位又は骨病変部位の頂部又は底部を隔離するための保護生分解性高分子であって、前記保護生分解性高分子は病変部位内において細胞又は組織に非毒性であり、生再吸収性、生分解性であり、軟骨組織又は骨組織に対して生物学的に適合性である保護生分解性高分子。
【請求項30】
請求項29に記載の保護生分解性高分子において、この保護生分解性高分子バリアは2〜5分以内に流動可能な液体又はペーストから耐荷重性ゲルへ急速にゲル化する高分子である保護生分解性高分子。
【請求項31】
請求項30に記載の保護生分解性高分子において、少なくとも約3N/m〜約30N/mの最小剥離強度、抗張力として測定した場合に約0.2MPa〜約1.0MPaの凝集強度、又は少なくとも0.5N/cm2 〜6N/cm2 の結合強度を有する保護生分解性高分子。
【請求項32】
請求項31に記載の保護生分解性高分子において、前記保護生分解性高分子は鎖間結合の数に従った凝集力を有するゲルである保護生分解性高分子。
【請求項33】
請求項32に記載の保護生分解性高分子において、前記保護生分解性高分子のpHがpH7.5以下に調整されている保護生分解性高分子。
【請求項34】
請求項33に記載の保護生分解性高分子において、少なくとも10N/m以上の結合強度又は剥離強度を有し、少なくとも0.3MPaの抗張力を有する保護生分解性高分子。
【請求項35】
請求項33に記載の保護生分解性高分子において、100N/mの結合強度又は剥離強度を有し、0.8〜1.0MPaの抗張力を有する保護生分解性高分子。
【請求項36】
請求項35に記載の保護生分解性高分子において、6.5〜7.5のpHを有するバッファと組み合わせて、メチル化コラーゲン(CT3)を加えたスクシンイミジルエステル及びチオールにより誘導体化した4腕を有するポリエチレングリコールである保護生分解性高分子。
【請求項37】
請求項36に記載の保護生分解性高分子において、メチル化コラーゲンに加えて、4腕を有するテトラスクシンイミジルエステル又はテトラチオールで誘導したPEGである保護生分解性高分子。
【請求項38】
請求項37に記載の保護生分解性高分子において、約3〜約5分の重合時間を有するように改変した、ポリエチレングリコール及びメチル化コラーゲンである保護生分解性高分子。
【請求項1】
関節軟骨の傷害を治療する方法、損傷若しくは傷害した、又は病変若しくは老化した軟骨を機能的な軟骨に修復及び回復させる方法であって、
a)非細胞基質インプラントを調製するステップと、
b)少なくとも2分以上の重合時間を有する底部保護生分解性高分子バリアにより軟骨病変部位の底部を被覆するステップと、
c)前記インプラントを前記軟骨病変部位内に埋め込むステップと
有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記病変部位の底部に沈着された前記底部保護生分解性高分子バリアは約3〜10分の重合時間を有する方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記病変部位の底部に沈着された前記底部保護生分解性高分子バリアは約3〜5分の重合時間を有する方法。
【請求項4】
請求項1の方法において、更に、前記病変部位内に埋め込まれた前記インプラントの上に頂部保護生分解性高分子バリア層を沈着させるステップを有する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記インプラントの上に沈着された前記頂部保護生分解性高分子バリアは少なくとも2分以上の重合時間を有する方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記インプラントの上に沈着された前記頂部保護生分解性高分子バリアは約3〜10分の重合時間を有する方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記インプラントの上に沈着された前記頂部保護生分解性高分子バリアは約3〜5分の重合時間を有する方法。
【請求項8】
請求項4に記載の方法において、前記頂部保護生分解性高分子バリア及び前記底部保護高分子バリアは同じものでるか、又は、異なるものである方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記頂部及び前記底部保護生分解性高分子バリアは、約162〜223mMのNaH2 PO4 、約77〜約138mMNa2 CO3 を有するリン酸炭酸バッファに溶解されており、pH7.5以下のpHを有し、3〜5分の重合時間を有する方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法において、前記頂部及び前記底部保護生分解性高分バリアはバッファに溶解されており、pH6.5〜pH7.0のpHを有し、3〜5分の重合時間を有する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記保護生分解性高分子バリアは改変ポリエチレングリコール及びアルキル化コラーゲンの組合せを有する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記ポリエチレングリコールが、テトラスクシンイミジルポリエチレングリコール及びテトラチオールポリエチレングリコールであり、前記アルキル化コラーゲンはメチル化されている方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記保護生分解性高分子バリアは、テトラスクシンイミジルポリエチレングリコール及びテトラチオールポリエチレングリコールと組み合わせたメチル化コラーゲンであり、pH7.0未満のpHに調製され少なくとも3分の重合時間を有する方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法において、前記組織保護生分解性高分子バリアは、リン酸炭酸バッファ1mlあたり、約10mgのメチル化コラーゲン、約100mgのテトラスクシンイミジルポリエチレングリコール、約100mgのテトラチオールポリエチレングリコールを有し、pHが約pH6.5〜約pH7.5に調整されている方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法において、前記リン酸炭酸バッファは約195mM〜223mMのNaH2 PO4 、約77mMから約105mMのNa2 CO3 を有し、pHが約6.5〜約7.0に調製されている方法。
【請求項16】
請求項11に記載の方法において、前記保護生分解性高分子バリアは、4官能基性スルフヒドリルポリエチレングリコール及び四官能基性スクシンイミジルグルタル酸エステルと組み合わせたメチル化コラーゲンである方法。
【請求項17】
請求項8に記載の方法において、前記非細胞基質インプラントは、生分解し得コラーゲンスポンジ、ハニカムスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、ゲル、ゾル・ゲル、芳香族性有機酸の高分子、カプロラクトン高分子、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)基質である方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記非細胞基質インプラントは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、プロテオグリカンを有する細胞収縮性コラーゲン、グリコサミノグリカンを有する細胞収縮性コラーゲン、糖タンパク質を有する細胞収縮性コラーゲン、芳香族有機酸の高分子、ゼラチン、アガロース、ヒアルロニン、フィブロネクチン、ラミニン、生理活性ペプチド成長因子、サイトカイン、エラスチン、フィブリン、ポリ乳酸から合成される合成高分子線維、ポリグリコール酸から合成される合成高分子線維、イプシロンカプロラクトン、ポリアミノ酸、ポリペプチドゲル、高分子温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)、これらの共重合体及びこれらの組み合わせからなるグループから選択された材料より調製される方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、任意であるが、酵素、ホルモン、成長因子、タンパク質、ペプチド及びその他メディエイタ、又はこれらの因子若しくはメディエイタの内因的な産生を誘導する薬剤を、封止された前記病変腔内に導入するステップか、或いはこれらの物質が底部保護生分解性高分子バリアを通じて移動又は輸送される条件を発生させるステップを有する方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法において、前記基質が更に、基質を再構築する酵素、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンを含む方法。
【請求項21】
請求項5に記載の方法において、前記病変部位の修復のための手術を受けた患者に通常の身体活動を行わせ、これにより間欠的な静水圧を生じさせるステップを有する方法。
【請求項22】
関節軟骨の傷害を治療するのに好適な、請求項21に記載の方法において、
a)非細胞基質インプラントを調製するステップと、
b)手術中に関節病変部位を清拭するステップと、
c)前記インプラントを埋め込むために軟骨病変部位を下処理するステップであって、前記インプラントを隔離し保護するために、底部保護生分解性高分子バリアを軟骨病変部位の底部に沈着するステップを有する当該ステップと、
d)前記インプラントを前記病変部位内に埋め込むステップと、
e)前記非細胞基質インプラントの上に頂部保護生分解性高分子バリアを沈着するステップと、
f)手術後に、前記病変部位の修復のための手術を受けた患者に通常の身体活動を行わせ、これにより間欠的な静水圧を自然に生じさせるステップと
を有する方法。
【請求項23】
骨軟骨欠損部位を治療する方法で、
a)骨病変部位内に埋め込むために、1種類若しくは数種類の骨誘導性薬剤を有する骨誘導性組成物又は前記組成物を有するインプラントキャリアを調製するステップと、
b)軟骨病変部位内に埋め込む非細胞基質インプラントを、コラーゲンスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、芳香族性有機酸の高分子、カプロラクトン高分子、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)基質支持体として調製するステップであって、前記スポンジ、スキャフォルド、高分子又はTRGHは生分解性で、経時間的に分解され、治癒した病変部位から代謝的に取り除かれて、硝子軟骨に置換されるようになっており、前記基質は任意であるが基質を再構築する酵素、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンを有する当該ステップと、
c)前記骨誘導性組成物又は前記組成物を有するキャリアを骨病変部位内に導入するステップと、
d)前記骨誘導性組成物又は前記組成物を有するキャリアを底部保護生分解性高分子バリアにより被覆するステップと、
e)前記非細胞基質インプラントを底部保護生分解性高分子バリアの上の前記軟骨部位内に埋め込むステップと、
f)前記インプラント上に頂部保護生分解性高分子バリア層を導入するステップであって、前記頂部及び底部保護生分解性高分子バリアは同じものであっても、異なるものであってもよく、前記非細胞基質インプラント及び前記頂部保護生分解性高分子を組み合わせることにより、軟骨病変部位内に埋め込まれたインプラントが保護されるようにする当該ステップと
を有する。
【請求項24】
請求項16に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤は、脱灰した骨粉、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、リン酸カルシウム、酸化チタン、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、これらの共重合体及び骨形態形成タンパク質からなるグループから選択される方法。
【請求項25】
請求項17に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤はヒドロキシアパタイトである方法。
【請求項26】
請求項17に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤は脱灰した骨粉である方法。
【請求項27】
請求項19に記載の方法において、前記脱灰した骨粉はコラーゲン中に溶解されている方法。
【請求項28】
請求項16に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤を有する前記キャリアは芳香族性有機酸の高分子である方法。
【請求項29】
軟骨病変部位又は骨病変部位の頂部又は底部を隔離するための保護生分解性高分子であって、前記保護生分解性高分子は病変部位内において細胞又は組織に非毒性であり、生再吸収性、生分解性であり、軟骨組織又は骨組織に対して生物学的に適合性である保護生分解性高分子。
【請求項30】
請求項29に記載の保護生分解性高分子において、この保護生分解性高分子バリアは2〜5分以内に流動可能な液体又はペーストから耐荷重性ゲルへ急速にゲル化する高分子である保護生分解性高分子。
【請求項31】
請求項30に記載の保護生分解性高分子において、少なくとも約3N/m〜約30N/mの最小剥離強度、抗張力として測定した場合に約0.2MPa〜約1.0MPaの凝集強度、又は少なくとも0.5N/cm2 〜6N/cm2 の結合強度を有する保護生分解性高分子。
【請求項32】
請求項31に記載の保護生分解性高分子において、前記保護生分解性高分子は鎖間結合の数に従った凝集力を有するゲルである保護生分解性高分子。
【請求項33】
請求項32に記載の保護生分解性高分子において、前記保護生分解性高分子のpHがpH7.5以下に調整されている保護生分解性高分子。
【請求項34】
請求項33に記載の保護生分解性高分子において、少なくとも10N/m以上の結合強度又は剥離強度を有し、少なくとも0.3MPaの抗張力を有する保護生分解性高分子。
【請求項35】
請求項33に記載の保護生分解性高分子において、100N/mの結合強度又は剥離強度を有し、0.8〜1.0MPaの抗張力を有する保護生分解性高分子。
【請求項36】
請求項35に記載の保護生分解性高分子において、6.5〜7.5のpHを有するバッファと組み合わせて、メチル化コラーゲン(CT3)を加えたスクシンイミジルエステル及びチオールにより誘導体化した4腕を有するポリエチレングリコールである保護生分解性高分子。
【請求項37】
請求項36に記載の保護生分解性高分子において、メチル化コラーゲンに加えて、4腕を有するテトラスクシンイミジルエステル又はテトラチオールで誘導したPEGである保護生分解性高分子。
【請求項38】
請求項37に記載の保護生分解性高分子において、約3〜約5分の重合時間を有するように改変した、ポリエチレングリコール及びメチル化コラーゲンである保護生分解性高分子。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14A−B】
【図14C−D】
【図14E−F】
【図14G−H】
【図14I−J】
【図15】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14A−B】
【図14C−D】
【図14E−F】
【図14G−H】
【図14I−J】
【図15】
【公表番号】特表2007−503222(P2007−503222A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524048(P2006−524048)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/026958
【国際公開番号】WO2005/018429
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(506058875)ヒストジェニックス コーポレイション (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/026958
【国際公開番号】WO2005/018429
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(506058875)ヒストジェニックス コーポレイション (7)
【Fターム(参考)】
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