説明

建て起こし兼用吊り治具

【課題】プレキャストコンクリート柱の建て起こし作業と吊り上げ作業を安全性を確保して同時に且つ容易に行える治具を提供する。
【解決手段】吊り上げ部材固定用孔3及び片面に固定用ネジ孔4を設けた円形板状のベース材5と、ベース材の片面にあるネジ孔にボルトで固定するためのボルト孔を設けると共にベース材の外径よりも大きな外径の円形板状に形成されたベースカバーと、ベース材の円形外周部に回転自在に嵌装される貫通孔を有しベース材の厚さと同じかそれより狭い厚さに形成されたリング状部と該リング状部の外周の一部からそのリング状部の表裏面と平行に延設された棒状若しくは板状の吊り上げ用バーとでなるアイバーとで構成され、PC柱に固定されたベース材5にアイバーが回転自在に嵌装され、ベース材5に固定されるベースカバーの外周部によってアイバーのリング状部が脱落防止されている建て起こし兼用吊り治具とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺のPC(プレキャストコンクリート)柱を建築現場にて、クレーン等の揚重装置で水平に搬入された状態から建て起こし、このPC柱を所定の場所に建て入れするための建て起こし兼用吊り治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の構築において、長尺PC柱(例えば、長さ約10m、重さ約17t程度)を吊り上げるには、図8に示すように、PC柱2の端部側において型枠内にシース管15を埋設して貫通孔を穿設せしめ、その貫通孔に鋼棒16を通し、その鋼棒16の両端にフック17等を掛けてクレーン等で吊り上げることが多い。
また、特許文献1に記載のように、鉄骨柱の両端に固定したチェーンを吊り治具の滑車に懸架し、柱材の一端と柱材以外の固定点間を拘束ワイヤによって連結し、前記吊り治具を吊り上げて前記柱材を傾斜または垂直状態にする建て起こし方法が知られている。
【特許文献1】特開平9−184294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のPC柱2の建て起こし及び吊り方法においては、当該PC柱2が長尺で重いために、建て起こし・吊り作業に安全性を要するとともに、PC柱2を現場の柱に建て込んだ後に、貫通孔の鋼棒16を抜くのに、この鋼棒16の長さ分の作業スペースが必要であり、吊り治具から鋼棒16を一旦完全に切り離し、その後、再度、吊り治具に前記鋼棒16を取り付ける必要があり、手間がかかるものである。また、前記特許文献1に記載の方法では、重量の重いPC柱には適用するのが困難である。本発明に係る建て起こし兼用吊り治具は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る建て起こし兼用吊り治具の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、プレキャストコンクリート柱に設けられる吊り上げ部材固定用手段の位置に対応した位置に吊り上げ部材固定用孔を設けるとともに片面に固定用ネジ孔を設けて成る円形板状のベース材と、前記ベース材の片面にあるネジ孔にボルトで固定するためのボルト孔を設けると共に前記ベース材の外径よりも大きな外径の円形板状に形成されてなるベースカバーと、前記ベース材の円形外周部に回転自在に嵌装される貫通孔を有し当該ベース材の厚さと同じかそれより狭い厚さに形成されたリング状部と該リング状部の外周の一部からそのリング状部の表裏面と平行に延設された棒状若しくは板状の吊り上げ用バーとでなるアイバーとで構成され、前記プレキャストコンクリート柱に固定されたベース材に前記アイバーが回転自在に嵌装され、前記ベース材に固定されるベースカバーの外周部によって前記アイバーのリング状部が脱落防止されていることである。
【0005】
また、前記ベース材には、プレキャストコンクリート柱に設けられる吊り上げ部材固定用手段の位置の複数種類のピッチに対応するように、各ピッチ毎に設定した一対のボルト孔が複数個設けられていること、;
前記ベース材のボルト孔は、ベース材の中心点を通る長孔であること、若しくは、平面上で、その端の点Oのまわりに半直線lが定速で回転するとき、l上を点Oから等速で遠ざかっていく点Pの動いた跡であるアルキメデスの螺旋に沿った連続孔の一部であること、;
前記ベースカバーの使用状態における外側片面には、取っ手が設けられていること、;
前記ベース材におけるプレキャストコンクリート柱に固定した際に当該柱側になる片面の外周部に、アイバーのリング状部の表裏面のうちの片面が前記プレキャストコンクリート柱の面に接触しないようにする、フランジ部が設けられていること、;
を含むものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の建て起こし兼用吊り治具によれば、ベース材に対してアイバーが回転自在に嵌装されているので、重量の重いプレキャストコンクリート柱を水平状態から建て起こすと共に、そのまま、滑らかに吊り上げることができる。ベースカバーが前記アイバーの脱落を防止するように、前記ベース材に固定されているので、安全性が確保されている。
【0007】
また、ベース材には、複数種類のピッチにしたボルト孔が設けられているので、プレキャストコンクリート柱に設けられた吊り上げ部材固定用手段の位置が、各プレキャストコンクリート柱毎に異なっていても、一つの建て起こし兼用吊り治具で対応させることができて、治具費用のコスト低減となり、建て入れ作業能率も向上する。
【0008】
更に、前記ベース材のボルト孔が、長孔であったり、アルキメデスの螺旋であったりすることで、ピッチの相違が僅差で連続的であっても容易に対応させることができる。
前記ベースカバーの使用状態における外側片面には、取っ手が設けられているので、持ち運びに便宜で、更に、PC柱の用中の際にボルト回収袋を繋着させておくこともできて便宜である。
【0009】
また、ベース材におけるプレキャストコンクリート柱に固定した際に当該柱側になる片面の外周部に、アイバーのリング状部の表裏面のうちの片面が前記プレキャストコンクリート柱の面に接触しないようにする、フランジ部が設けられているので、建て起こしの際の摺接による傷つき等を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る建て起こし兼用吊り治具1は、図1(A),(B)に示すように、プレキャストコンクリート(PC、以下同じ)柱2に設けられる吊り上げ部材固定用手段、この実施例ではネジ孔の位置に対応した位置に吊り上げ部材固定用孔3を設けるとともに片面に固定用ネジ孔4を設けて成る円形板状のベース材5がある。
【0011】
前記ベース材5の片面にあるネジ孔4にボルトを螺着して固定するためのボルト孔6を設けると共に前記ベース材5の外径よりも大きな外径の円形板状に形成されてなるベースカバー7がある。
【0012】
前記ベース材5の円形外周部に回転自在に嵌装される貫通孔8を有し当該ベース材5の厚さaと同じかそれより狭い厚さbに形成されたリング状部9と該リング状部9の外周の一部からそのリング状部9の表裏面と平行に延設された棒状若しくは板状の吊り上げ用バー10とでなるアイバー11があり、これらから建て起こし兼用吊り治具1が構成されている。
【0013】
前記ベース材5は、図2(A),(B)に示すように、所望の厚さ(例えば、50mm)で、中心点5aを中心にして直径φ260mm程度の鋼製円形板状体である。その表裏面に貫通した固定用ネジ孔4が同心円上に4箇所設けられ、ボルト用座繰り孔を有する吊り上げ部材固定用孔3a,3a、同孔3b,3b、同孔3c,3c、同孔3d,3dと、中心点5aを通って対称位置に一対ずつ4種類のピッチにして表面から裏面に貫通されて設けられている。
【0014】
前記吊り上げ部材固定用孔3が、異なるピッチで複数種類にして用意されているのは、PC柱2に取り付けられる吊り上げ部材固定用手段であるボルト用ネジ孔2a(図1(A)参照)のピッチpが、PC柱2の長さや重量により異なっているからである。
【0015】
前記ベースカバー7は、図3(A),(B)に示すように、所望の厚さ(例えば、16mm)で、中心点7aを中心にして直径約300mm程度の鋼製円形板状体である。前記ベース材5の外形寸法よりも大きいのは、このベース材5に嵌装させた前記アイバー11が外に抜出ないように、当該ベースカバー7の外周部でフランジとして防止作用させるためである。
【0016】
また、ボルト孔6は、前記ベース材5のネジ孔4にボルトを螺着して、このベースカバー7をベース材5に固定するためである。よって、ボルト孔6は、4箇所に、前記ネジ孔4の位置に対応させて設けられている。
【0017】
更に、貫通孔7bが、前記ベース材5の吊り上げ部材固定用孔3に対応させて合計8箇所に設けられている。この貫通孔7bは、組み立て作業上において、先に前記ベース材5とベースカバー7とをボルトで固定し、その固定して纏めた状態で、PC柱2の端部にボルトで固定できるようにするものである。
【0018】
よって、前記ベース材5を先にPC柱2にボルトで固定してから、前記ベースカバー7をボルトでネジ孔4に螺着して固定する場合には、前記吊り上げ部材固定用孔3にボルト頭部の座繰りがあるので孔の外に突出することが無く、前記貫通孔7bは設けなくても良い場合がある。
【0019】
前記ベースカバー7には、運搬用に取っ手7cが、設けられ、例えば、溶接手段によりベースカバー7の表側(使用状態の外側)の任意の位置に固着されている。
【0020】
前記アイバー11は、図4(A),(B)に示すように、前記ベース材5に嵌装される、吊り上げ用の鋼製バーである。リング状部9における貫通孔8は、前記ベース材5の外径寸法φ200mmより若干大きい径(例えば、φ263mm)である。このリング状部9の厚さbは、例えば43mmである。
【0021】
前記アイバー11の吊り上げ用バー10の端部には、吊り上げ時に使用されるシャックル12(図1参照)のボルトを通す貫通孔10aが設けられている。この吊り上げ用バー10と前記リング状部9とは溶接手段にて一体に固着されている。
【0022】
このようにして構成される本発明の建て起こし兼用吊り治具1は、図5(A),(B)に示すように、PC柱2の端部に取り付けて使用される。即ち、図5(C)に示すように、ベース材5にベースカバー7をボルトで固定する。それをアイバー11の貫通孔8にバーズ材5を嵌装させつつ、PC柱2のネジ孔2aに位置合わせして当該ベース材5及びベースカバー7を回転させる。なお、先にアイバー11をPC柱2の取付位置に位置合わせしても良い。
【0023】
前記ベース材5の吊り上げ部材固定用孔3のいずれか一対の孔(3a,3a 〜3d,3d)が、前記ネジ孔2aとピッチが合えば、ボルトによりベースカバー7の貫通孔7b及び吊り上げ部材固定用孔3にボルトを挿通させて前記ネジ孔2aに螺着させて、PC柱2にベース材5を固定する。こうして、前記PC柱2に固定されたベース材5に前記アイバー11が回転自在に嵌装され、前記ベース材5に固定されるベースカバー7の外周部によって前記アイバー11のリング状部9が脱落防止されているのである。
【0024】
このようにして、PC柱2に建て起こし兼用吊り治具1が取り付けられ、図1に示すように、PC柱2の両側に対称形にして取り付ける。その後、アイバー11の貫通孔10aにボルト13を挿通させてシャックル12を取付け、前記ボルト13にナット14を締結して、外れないように固定する。
【0025】
その後、前記シャックル12をクレーンの吊り治具(図示せず)で水平状態から垂直に持ち上げ、そのままPC柱2を上に吊り上げるものである。このPC柱2は、現場において、水平状態(図1に示す状態)から次第に斜めに起きあがり、その間、アイバー11がベース材5に対して相対的に回転し、PC柱2が垂直に立ち上がった後に、地面等から垂直に引き上げられるものである。
【0026】
その後、所定の位置に吊り上げられ搬入されて建て入れされる。そして、この建て起こし兼用吊り治具1は、ボルトがネジ孔2aから外されてPC柱2から撤去され、アイバー11は吊り治具と共に元の作業現場にクレーンで戻され、ベース材5とベースカバー7は、ボルトで一体的にされたまま、人手により元の作業現場に戻される。
【0027】
本発明の建て起こし兼用吊り治具1の他の実施例は、図6(A),(B)に示すように、ベース材5の吊り上げ部材固定用孔3の変形例であり、例えば、ベース材5の中心点5aを通る長孔3eとするものである。又は、平面上で、その端の点O(原点:オー)のまわりに半直線lが定速で回転するとき、l上を点Oから等速で遠ざかっていく点Pの動いた跡であるアルキメデスの螺旋(r=a×θ、a>0、θ≧0)に沿った連続孔の一部とするものである。それにより、図示のように、適宜の位置で、一対の孔3f,3f〜孔3h,3hが決まり、ある範囲においては、ピッチが比較的差が小さくて連続的に変化しても、対応させることができるものである。
【0028】
このほか、図7(A)に示す上記実施例に対して、同図7(B)に示すように、ベース材5bにおけるPC柱2に固定した際に当該PC柱2側になる片面の外周部に、アイバー11のリング状部9aの表裏面のうちの、内側の片面が前記PC柱2の面に接触しないようにする、フランジ部5cが設けられているようにすることである。之により、アイバー11とPC柱2との間に確実に間隙が確保される。よって、PC柱2の表面に摺接による傷が付くこともない。
【0029】
更に、ベース材5bとベースカバー7との両フランジでアイバー11のリング状部9aを挟装しているので、PC柱2から建て起こし兼用吊り治具1を外した際にも、アイバー11から前記ベース材5及びベースカバー7が落下することが無く、この建て起こし兼用吊り治具1をそのまま、クレーンの吊り治具で元の作業位置に戻すことができる。よって、作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る建て起こし兼用吊り治具1の使用状態の正面図(A)と側面図(B)とである。
【図2】同本発明の建て起こし兼用吊り治具1におけるベース材5の平面図(A)と、縦断面図(B)とである。
【図3】同本発明の建て起こし兼用吊り治具1におけるベースカバー7の平面図(A)と、側面図(B)とである。
【図4】同本発明の建て起こし兼用吊り治具1におけるアイバー11の平面図(A)と、側面図(B)とである。
【図5】本発明の建て起こし兼用吊り治具1を吊り治具のシャックル12に取り付けた状態の平面図(A)と、使用状態の一部側面図(B)とである。
【図6】建て起こし兼用吊り治具1のベース材5における吊り上げ部材固定用孔3の他の実施例を示す概念図(A),(B)である。
【図7】建て起こし兼用吊り治具1の使用状態の断面図(A)と、他の実施例に係る建て起こし兼用吊り治具1aの断面図(B)とである。
【図8】従来例に係る建て起こしの方法を示す説明図(A)とその一部断面図(B)とである。
【符号の説明】
【0031】
1 建て起こし兼用吊り治具、
1a 他の実施例の建て起こし兼用吊り治具、
2 PC柱、 2a ボルト用ネジ孔、
3,3a〜 3d 吊り上げ部材固定用孔、
3e〜3h 他の実施例に係る吊り上げ部材固定用孔、
4 ネジ孔、
5 ベース材、 5a 中心点、
6 ボルト孔、
7 ベースカバー、 7a 中心点、
7b 貫通孔、 7c 取っ手、
8 貫通孔、
9,9a リング状部、
10 吊り上げ用バー、 10a 貫通孔、
11,11a アイバー、
12 シャックル、
13 ボルト、
14 ナット、
15 シース管、
16 鋼棒、
17 フック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート柱に設けられる吊り上げ部材固定用手段の位置に対応した位置に吊り上げ部材固定用孔を設けるとともに片面に固定用ネジ孔を設けて成る円形板状のベース材と、
前記ベース材の片面にあるネジ孔にボルトで固定するためのボルト孔を設けると共に前記ベース材の外径よりも大きな外径の円形板状に形成されてなるベースカバーと、
前記ベース材の円形外周部に回転自在に嵌装される貫通孔を有し当該ベース材の厚さと同じかそれより狭い厚さに形成されたリング状部と該リング状部の外周の一部からそのリング状部の表裏面と平行に延設された棒状若しくは板状の吊り上げ用バーとでなるアイバーとで構成され、
前記プレキャストコンクリート柱に固定されたベース材に前記アイバーが回転自在に嵌装され、前記ベース材に固定されるベースカバーの外周部によって前記アイバーのリング状部が脱落防止されていること、
を特徴とする建て起こし兼用吊り治具。
【請求項2】
ベース材には、プレキャストコンクリート柱に設けられる吊り上げ部材固定用手段の位置の複数種類のピッチに対応するように、各ピッチ毎に設定した一対のボルト孔が複数個設けられていること、
を特徴とする請求項1に記載の建て起こし兼用吊り治具。
【請求項3】
ベース材のボルト孔は、ベース材の中心点を通る長孔であること、若しくは、平面上で、その端の点Oのまわりに半直線lが定速で回転するとき、l上を点Oから等速で遠ざかっていく点Pの動いた跡であるアルキメデスの螺旋に沿った連続孔の一部であること、
をとする請求項1に記載の建て起こし兼用吊り治具。
【請求項4】
ベースカバーの使用状態における外側片面には、取っ手が設けられていること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の建て起こし兼用吊り治具。
【請求項5】
ベース材におけるプレキャストコンクリート柱に固定した際に当該柱側になる片面の外周部に、アイバーのリング状部の表裏面のうちの片面が前記プレキャストコンクリート柱の面に接触しないようにする、フランジ部が設けられていること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の建て起こし兼用吊り治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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