説明

建物の減震構造及び減震方法

【課題】 大地震によって主に戸建て住宅の破損、倒壊を防止するための減震構造であって既設地盤上に容易に敷設施工することができ、従来の戸建て住宅工法を大きく変えることなく建物に作用する地震力を低減させることのできる減震構造を提供する。
【解決手段】 地震発生時に建物に作用する、地盤からの地震力を減衰させるための減震構造であり、建物に対応する表層地盤を掘削して形成された地盤領域とベタ基礎100との間に免震用マット部材150を配置した。この免震用マット部材は、上面に滑り材152を固着した下側支持体155と、該下側支持体上に配置され該下側支持体と対向する下面に複数の突起または突条156−1を有すると共に該突起または突条の先端に滑り材152を固着した複数の上側支持体156とをそれぞれの滑り部材が当接するように重ねて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物の減震構造に関し、地震発生時に地震力、特に水平力が建物基礎に伝達されることを低減させるために戸建て住宅のような建物に適用される減震構造及び減震方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、戸建て住宅のような建物(以下、建物と略称することがある)が大地震により破損、倒壊することを防止するために免震ゴムを利用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法は設計が複雑であること、地震による振幅変位を大きくとらなければならない等の問題に加え、工事費が高いなどの指摘がある。
【0003】
【特許文献1】特開2002−309799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の実情に鑑み、本発明の課題は大地震によって主に戸建て住宅の破損、倒壊を防止するための減震構造及び減震方法であって既設地盤上に容易に敷設施工することができ、従来の戸建て住宅工法を大きく変えることなく建物に作用する地震力を低減させることのできる減震構造及び減震方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、地震発生時に建物に作用する、地盤からの地震力を減衰させるための減震構造であり、減震手段として、建物に対応する表層地盤を掘削して形成された地盤領域の少なくとも一部に配置した免震用マット部材、前記地盤領域の少なくとも一部に配置した弾性を呈するマット材の少なくとも一方を有し、前記免震用マット部材あるいは前記マット材の上側に前記建物の基礎が構築されるようにしたことを特徴とする。
【0006】
本発明による減震構造においては、前記免震用マット部材は地震発生時に前記建物に伝わる地盤の揺れを減衰させるためのものであって、上面の少なくとも一部に滑り部材を固着した少なくとも1枚の第1の支持板と、下面の少なくとも一部に滑り部材を固着した少なくとも1枚の第2の支持板とをそれぞれの滑り部材が当接するように重ねて構成されることが好ましい。
【0007】
前記減震手段として前記免震用マット部材を設ける場合、該免震用マット部材は地震発生時に前記建物に伝わる地盤の揺れを減衰させるためのものであって、かつ、前記地盤領域の少なくとも一部に施工され上面に滑り材を固着した下側支持ブロックと、該下側支持ブロック上に配置され該下側支持ブロックと対向する下面に滑り材を固着した1つ以上の上側支持ブロックとをそれぞれの滑り部材が当接するように重ねて構成されたもので良い。
【0008】
この免震用マット部材はまた、前記地盤領域の少なくとも一部に施工され上面に滑り材を固着したコンクリート製の下側支持ブロックと、該下側支持ブロック上に配置され該下側支持ブロックと対向する下面に複数の突起または突条を有すると共に該突起または突条の先端に滑り材を固着した1つ以上の上側支持ブロックとをそれぞれの滑り部材が当接するように重ねて構成されたものでも良い。
【0009】
更に、前記減震手段として前記免震用マット部材を設ける場合、該免震用マット部材は、前記地盤領域に敷設されたシート状の下側滑り材と、該下側滑り材に対向する前記建物の基礎の下面側に固着された上側滑り材とからなるものでも良い。
【0010】
本発明による減震構造においてはまた、前記免震用マット部材と前記マット材とを重ねて用いる場合、前記免震用マット部材の下側領域の少なくとも一部に、水平方向の共振周波数が2.5Hz以下の材料から成る、前記弾性を呈するマット材が敷設されることが望ましい。
【0011】
本発明による減震構造においてはまた、前記免震用マット部材に複数個の貫通穴を設けると共にこれらの貫通穴に対応する前記建物の基礎にも貫通穴を設け、これらの穴内には所定のクリアランスをおいて弾性を呈する支柱部材を配置してその下端側を地盤側に固定し、上端側については該上端と前記建物の基礎における前記貫通穴を塞ぐように設けた板部材との間に前記免震用マット部材と同じ免震用マット部材を介在させるようにしても良い。
【0012】
本発明による減震構造においてはまた、前記免震用マット部材を、上面に1本以上の突条を有すると共に該突条の上面に滑り部材を固着した少なくとも一枚の第1の支持板と、下面に1本以上の突条を有すると共に該突条の上面に滑り部材を固着した少なくとも一枚の第2の支持板とをそれぞれの滑り部材が互いに直角に交差しつつ当接するように重ねて構成し、前記免震用マット部材の下側領域に、水平方向の共振周波数が2.5Hz以下の材料から成る、前記弾性を呈するマット材を配置しても良い。
【0013】
本発明による減震構造においてはまた、前記免震用マット部材は、同じ大きさの前記第1の支持板と前記第2の支持板との組合せを互いに隣接させて複数組敷設して成り、前記マット材は、同じ大きさのマットを互いに隣接させて複数枚敷設して成り、しかも各マットは2枚の弾性部材の間に同じ材料による複数の柱状体が互いに間隔をおいて一体成形されたものでも良い。
【0014】
本発明による減震構造においてはまた、前記複数の柱状体の間に更に、前記2枚の弾性部材の間隔と実質上同じ直径を持つ複数の球体、又は前記2枚の弾性部材の間隔と実質上同じ短径の断面略楕円形状を持つ複数の略球状体を自由に転動可能に配置しても良い。
【0015】
本発明による減震構造においてはまた、前記免震用マット部材は、同じ大きさの前記第1の支持板と前記第2の支持板との組合せを互いに隣接させて複数組敷設して成り、前記マット材は、同じ大きさのマットを互いに隣接させて複数枚敷設して成り、しかも各マットは所定厚の弾性部材の内部に座屈を防止するための複数の棒状体あるいは断面略楕円形の略球状体を埋め込んだものでも良い。
【0016】
本発明による減震構造においてはまた、前記地盤領域上に支持基板を設置し、該支持基板上には、水平方向の共振周波数が2.5Hz以下の材料から成る、前記弾性を呈する複数のマットを互いに間隔をおいて固定し、前記複数のマットの各上面と前記建物の基礎の下面との間にそれぞれ前記免震用マット部材を介在させ、該免震用マット部材は、前記マットの上面に固定され上面の少なくとも一部に滑り部材を固着した第1の支持板と、前記建物の基礎の下面に固定され下面の少なくとも一部に滑り部材を固着した第2の支持板とをそれぞれの滑り部材が当接するように組合されて成り、座屈を防止するための複数の棒状体あるいは断面略楕円形の略球状体を埋め込んだものでも良い。
【0017】
本発明による減震構造においてはまた、前記免震用マット部材は、地震発生時に前記建物に伝わる地盤の揺れを減衰させるためのものであって、複数枚のマットと、該マット毎にその地盤側との対向面に形成された複数の凹部のそれぞれに一部が突出するように収容され、かつ、自由に転動可能な複数の球体とを含み、該複数の球体を地盤側に置いた状態にて敷設した複数枚のマット上に前記建物の基礎を構築するようにしたものでも良い。この場合、更に、前記免震用マット材と前記建物の基礎との間の少なくも一部に、水平方向の共振周波数が2.5Hz以下の材料から成る、前記弾性を呈するマット材を介在させても良い。
【0018】
更に、当該減震構造と地盤との間に、前記地盤領域から少なくとも四方に延びる部分を持つセンタリング用の基礎が形成され、風圧あるいは地震に伴う揺れにより前記建物が前記建物の基礎と共に位置がずれた場合に、該センタリング用の基礎を利用して前記建物を前記建物の基礎と共に元の位置に戻すことができるようにされることが望ましい。この場合、前記センタリング用の基礎と前記建物の基礎との間の当該減震構造に所定のスペースを複数個形成して、それぞれのスペースにX−Y移動機構を設置し、該X−Y移動機構は、前記センタリング用の基礎の上面に一軸方向に延びるように固定された下側スライド体と、前記建物の基礎の下面であって前記下側スライド体と近接しつつ前記一軸と直角に交差する方向に延びるように固定された上側スライド体と、下側に前記下側スライド体を受ける溝が、上側には前記上側スライド体を受ける溝がそれぞれ互いに直角に交差するように形成されたスライダーとを含み、前記スライダーの各溝の内壁にそれぞれ滑り部材を固着し、前記スライダーが、前記下側の溝に前記下側スライド体を、前記上側の溝に前記上側スライド体をそれぞれ収容した状態にて、前記下側スライド体及び上側スライド体に対してスライド可能であることにより、地震発生時には複数の当該X−Y移動機構により前記建物全体に同じ方向の揺れが作用するようにすることが望ましい。
【0019】
なお、減震手段として前記マット材のみを使用する場合には、該マット材は、所定厚の弾性部材の内部に座屈を防止するための複数の棒状体あるいは略球状体を埋め込んだものでも良い。あるいはまた、地盤側に設置した支持板と前記建物の基礎の下側に設置した支持板との間に球状体あるいは断面略楕円形の略球状体を複数個配置したものでも良い。
【0020】
本発明によればまた、地震発生時に建物に作用する、地盤からの地震力を減衰させるための減震方法であって、建物の基礎が形成される地盤と該建物の基礎との間の領域の少なくとも一部に、免震用マット部材を設置して地震発生時に地盤から建物に伝達される所定値以上の加速度をカットするようにしたことを特徴とする建物の減震方法が提供される。
【0021】
本減震方法においては更に、前記免震用マット部材と前記地盤との間の領域の少なくとも一部に、水平方向の共振周波数が2.5Hz以下の材料から成る、弾性を呈するマット材を設置して地震発生時に建物に作用する震動を更に減衰させるようにしても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明による減震構造及び減震方法によって大地震発生時に建物へ作用する地震力、特に水平力を低減できるので建物の破壊、倒壊を防ぐことができる。特に、本発明による減震構造及び減震方法は、基礎工法並びに建築構造などの従来工法の変更なく施工でき、且つコストも大幅に高くならないので、利用度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明による減震構造は、平屋、2階建て、3回建て程度までの木造住宅や軽量鉄骨構造による戸建て住宅(以下、建物と呼ぶ)の基礎構造下に使用され、基礎構造はベタ基礎、布基礎等に適用できる。
【0024】
図1は本発明の第1の実施形態を示し、本発明を建物のベタ基礎に適用した場合の減震構造を断面図(図a)及び平面図(図b)で示す。但し、図1(b)はベタ基礎を除いた減震構造の平面図である。
【0025】
大地震発生時に建物が損傷を受けたり、倒壊したりしないようにするためには、地盤表層で地震動を減衰させて建物に大きな地震力が伝わらないようにすれば良い。例えば、2階建ての建物について言えば、地盤上に加速度500ガルや750ガルというような大地震が発生した場合でも建物の1階床面と2階床面の相対変位量が所定値(例えば2cm)を越えないことが建物に損傷を与えない条件となる。このような条件を満たすためには、建物の基礎下の加速度を200ガル程度以下に抑える減震構造を適用することが望ましい。
【0026】
図1、図2は、第1の実施形態による減震構造を示し、滑り部材のみにより実現した例である。
【0027】
滑り始めの加速度α、建物重量(基礎を含む)W、建物動的荷重W、地震動加速度α、地盤上の地震力Q1、建物の受ける地震力Q2、減衰される地震力Q3とすると、地震力Q1、Q2、Q3は以下の式で表される。
【0028】
Q1=W・α
Q2=W・α
Q3=W(α−α
【0029】
例えば、地盤上に500ガルの地震動が発生した場合、建物の重量Wに無関係に滑り始めの加速度αが200ガルとなるような滑り部材を選んで、建物の基礎下と地盤上面との間に敷設することにより建物に伝わる地震力を建物重量×200ガル以下に抑えることができる。
【0030】
実験結果によれば、滑り部材としてポリテトラフルオロエチレンを用いた場合、ほぼ100〜200ガルの間で滑り始めることが確認されている。勿論、滑り部材は、以降で述べられるすべての実施形態を含めて、ポリテトラフルオロエチレン(シート状のものを含む)にかかわらず、0.05〜0.2程度の滑り係数を有して100〜200ガルの間で滑り始める材料であれば、黒鉛ペンキ、樹脂系成分塗料(ウレタン、エポキシ、アクリル等の樹脂材料)、超高分子材、オイルレスメタルのような金属材等、どのようなものでも良く、貼付、塗布等いずれの方法で固着、形成されても良い。そして、滑り部材の敷設は可能な限り基礎下の全面とすることが望ましい。
【0031】
図1を参照して、地盤200の持つ支持力が20kN/m以上である場合、ベタ基礎100を構築する領域の地盤200を所定深さだけ掘削し転圧を施して転圧層110を形成し、地盤改良領域とする。その際、基礎砕石や砂利、目潰し材(砂)等を敷き詰めた上で転圧を施すのが好ましい。このように施工された地盤改良領域の全面上に滑り部材を敷設する。
【0032】
第1の実施形態にかかる減震構造は、地盤改良領域の全面に敷設した免震用マット部材150と、その周囲上に設置したクリアランス材160とを含む。免震用マット部材150は、図2に示すように、支持板151上に滑り部材152を固着したものを2枚用意し、滑り部材152同士を当接するように重ねて敷設する。この免震用マット部材150の上に建物基礎であるベタ基礎100を施工する。その際、下側の支持板151は地盤側に、上側の支持板151はベタ基礎100側に固定されるのが望ましい。ベタ基礎100は、そのベタ部の大部分が地盤200内に埋設されるが、内側上面は地盤面より少なくとも5cm高くなるように構築される。なお、地盤200の支持力が20kN/mを下回る場合は、20kN/m以上となるような周知の地盤改良工事を行ったうえで上記施工を行えば良い。また、免震用マット部材150は、一枚で地盤改良領域全体をカバーする面積を持つものを製造するのは実際上困難であるので、所定大の正方形あるいは長方形に製造したものを複数枚敷き詰めることで地盤改良領域全体をカバーするようにする。また、支持板151の材料は、建物の荷重を支持し得る強度を有するものであれば、金属板、石板、樹脂板、セラミック板、コンクリート板、ベーク板、硬質ゴム板等、何でも良い。なお、本明細書におけるコンクリート板は、必要に応じ鉄筋を組み込んだものも含むものとする。
【0033】
クリアランス材160は、主に地震により建物が揺れる時にベタ基礎100のクリアランスを確保するために設けられるものであり、弾性を呈するゴム材あるいはこれに類似する材料が用いられる。図1(b)ではクリアランス材160は正四角形の枠状に作られているが、ベタ基礎100の平面形状が正方形とは限らず、ベタ基礎100の周縁形状に合わせて作られる。このため、幅10〜20cm、長さ数十cm〜1m程度の所定大のブロック形状に作ったものを複数個組合せて枠状にするのが好ましい。また、ベタ基礎100の周縁全長にわたる必要は無く、ブロック形状に作ったものを、間隔をおいて配置するようにしても良い。
【0034】
クリアランスの設計については、地盤調査を行って地盤特性を計算し、例えば500ガルの地震が発生した時の地盤200の固有周波数fが1Hzであったと仮定すると、クリアランスの幅は以下のようになる。
【0035】
地盤200の揺れ幅d1cmは、d1=500ガル/(2πf)=12.5cmとなるが、建物に作用する加速度は滑り部材の滑りによって最大200ガルに抑えられるので、建物の振動幅d2はd2=200ガル/(2π・1)=5cmとなる。
【0036】
従って、建物の移動距離は5cmとなるので、余裕を持たせて5cm以上のクリアランスをとり、クリアランス材160として5cm以上の幅を持つ柔らかいゴム材等をベタ基礎100と地盤200との間に配置することで最大5cmの建物の移動時にも抵抗が無いようにすることができる。
【0037】
図16、図17は、第1の実施形態の変形例を示す。この変形例では、免震用マット部材150を、転圧層110、つまり地盤改良領域の全面に施工されたコンクリート製の下側支持体(下側支持ブロック)155と、この下側支持体155の上に配置されたコンクリート製の複数の上側支持体(上側支持ブロック)156と、これらの互いに当接する部分に固着された滑り部材152とで構成している。下側支持体155については、均しコンクリートで上面を平坦にした支持体を形成したうえでその上面に滑り部材152を固着する。一方、上側支持体156については、図17(a)を参照して、歩道に設置される誘導ブロックのように、数十cm四方の大きさのコンクリート製ブロックの一方の主面に、間隔をおいて複数の突起156−1を設け、突起156−1先端の平坦面に滑り部材152を固着する。免震用マット部材150の施工は、地盤改良領域の全面に施工された下側支持体155上の滑り部材152に、上側支持体156の滑り部材152が当接するように、複数の上側支持体156を互いに隣接させて碁盤目状に敷設することで行われる。そして、上側支持体156の上にコンクリートを打設してベタ基礎100を構築することで上側支持体156の上面とベタ基礎100の下面が固着される。以上の構成以外の構成は、図1で説明したものと同じで良い。
【0038】
図17(b)は、上側支持体156の他の例を示す。図17(a)では上側支持体156の一面に複数の突起156−1を等間隔で設けたものを用いているが、図17(b)では、円形の突起156−1に代えて、楕円形の突起156−2を設け、その上面の平坦面に滑り部材152を固着している。また、突起156−1、156−2の各列あるいは各行の部分を突条にしてその上面に滑り部材を固着するようにしても良い。要するに突起の形状は、後で図8を参照して説明される突状のほか、円形、楕円形、格子状等、どのような形状でも良い。また、上側支持体156の敷設は、例えば突条を持つものの場合、その並び方向がすべての上側支持体156で同じ方向となるように規則性を持たせる必要は無く、例えば隣り合う上側支持体156の突条が互いに直角になるような配置関係でも良い。
【0039】
図18は、第1の実施形態の更に別の変形例を示す。この例は、上側支持体156の下面を平坦面としてその全面に滑り部材152を固着するようにしたものであり、その他の部分は上記変形例と同じで良い。
【0040】
更に別の変形例を挙げれば、図16や図18における下側支持体155や上側支持体156を設置せずに、転圧層110上にシート状の下側滑り材を敷設し、これに対向するベタ基礎100の下面に上側滑り材を固着して免震用マット部材としても良い。
【0041】
滑り部材152は、前述したポリテトラフルオロエチレン、黒鉛ペンキ、樹脂系成分塗料、超高分子材、オイルレスメタルのいずれを用いても良い。また、下側支持体155、上側支持体156の材料はコンクリート製に限らず、特に上側支持体156は樹脂・高分子系の成型加工品のほか、金属板、石板、セラミック板、硬質ゴム板等を用いても良い。
【0042】
いずれにしても、第1の実施形態によれば、転圧された地盤と基礎との間に免震用マット部材150を敷設するだけで、既設地盤上に容易に敷設施工することができ、従来の戸建て住宅工法を大きく変えることなく安価にて大地震発生時に建物に作用する加速度を200ガル以下に抑えることができ、大きな揺れによる建物の損傷、倒壊を防止することができる。
【0043】
図3は、第2の実施形態による減震構造を示す。第2の実施形態による減震構造は、滑り部材を用いた免震用マット部材150の下側に弾性を呈するゴム等によるマット材170を組合せて成る。図3(b)も図1(b)と同様、ベタ基礎を除いた平面図である。
【0044】
第1の実施形態では、基礎下の加速度を最大200ガルに抑えて建物に損傷を与えないようにしているのに対し、第2の実施形態では更に、建物に与える加速度を最小限に抑えるようにしている。つまり、第2の実施形態の特徴は、滑り部材によって地震力を低減することに加え、ゴム等によるマット材170を付加してこのマット材170の震動減衰効果を利用することにある。マット材170は全面敷きが好ましいが、部分敷きでも良い。部分式の例については後述する。
【0045】
建物の卓越周波数と地盤の震動レベルとの関係によってこれらの周波数が同調した時には、建物の減衰係数にもよるが、建物の震動レベルは2〜10倍に増幅されることがある。そこで、第2の実施形態ではこの周波数帯の建物の震動レベルを最小限に抑えるべく、震動減衰部材としてゴム又はこれに準ずる材料を使用し、建物の共振による地震動を最小限に抑えるようにしている。
【0046】
図3において、地盤200の持つ支持力が20kN/m以上である場合、第1の実施形態と同様、ベタ基礎100を構築する領域の地盤200を所定深さだけ掘削し、砂利、砕石等による転圧層110を形成したうえで、その上にマット材170を敷設する。そして、マット材170の全面上に第1の実施形態と同様の滑り部材を施工する。マット材170上の滑り部材は、前述したように、マット材170の全面に敷設した免震用マット部材150と、その周囲上に設置したクリアランス材160とを含む。免震用マット部材150は、図2で説明したように、支持板151上に滑り部材152を固着したものを2枚用意し、滑り部材152同士を合わせるように重ねて敷設する。この免震用マット部材150の上に建物基礎であるベタ基礎100を施工する。その際、下側の支持板151はマット材170側に、上側の支持板151はベタ基礎100側に固定されるのが望ましい。
【0047】
なお、免震用マット部材150無しでマット材170のみとしても良く、その場合について説明する。
【0048】
図4は、マット材170のみの場合の地盤の加速度レベルと震動周波数とマット材170の増幅倍率との関係を示す特性曲線の一例を示す。マット材170の水平方向の共振周波数fを2.0Hz、減衰係数を0.17とし、等級1の建物の水平方向の共振周波数をマット材170の共振周波数fの2.5倍の5Hzとする。この場合、地盤200が600ガルで震動したとすると、図4の特性によれば、震動周波数5Hzでの震動レベルは100ガル以下となることを意味する。しかしながら、図4の特性はまた、単にマット材170のみを使用しただけでは、その共振周波数2.0Hzの近くでは加速度600ガルに対してその約3倍の1800ガルまで増幅される可能性があることを意味している。これに対し、マット材170として減衰係数0.5程度の材料を有するものを使用した場合には、図4に破線で示すような特性を有することとなり、上記の可能性は無い。
【0049】
いずれにしても、第2の実施形態では、マット材170の上に、建物に作用する加速度を200ガル以下に抑制する第1の実施形態と同様の滑り部材を組合せて施工することにより、図4に破線で示すように、建物の入力加速度を200ガル以下に抑えることができるようにしている。
【0050】
マット材170の水平方向の共振周波数fは2.5Hz以下が望ましく、以下の式で表され、減衰係数は0.1以上あれば良い。
【0051】
=(1/2π)・(K・g/W1/2(但し、Kはバネ定数、gは重力加速度)
【0052】
以上のように、マット材170による震動減衰特性と、滑り部材の摩擦低減作用による免震特性とを組合せることにより、第1の実施形態と同様の効果に加えて以下の2つの効果を得ることができる。
【0053】
1)200ガル以上の大地震の震動はすべてカットできる。
【0054】
2)建物の水平方向の共振周波数を、等級1で約5Hz、等級2で約5.6Hz、等級3で約6.1Hzとすると、これらの共振周波数付近での建物への加速度入力レベルを最大でも150ガル程度に抑えられるので、建物の損傷無しの限界値である相対変位量2cm(2階建ての場合)より更に小さくすることができる。
【0055】
なお、第1の実施形態の場合も含めて滑り部材の敷設は全面敷きが望ましいが、部分敷きでも良く、以下にその実施形態について説明する。
【0056】
図5、図6は第3の実施形態による減震構造を示し、滑り部材を部分敷きとしてその敷設面積を小さくした例である。言い換えれば、第1の実施形態における滑り部材の敷設面積を小さくした例であると言える。本実施形態では、第1の実施形態で説明したものと同様の免震用マット部材150に、その数箇所に穴150aを設ける。一方、穴150aに対応するベタ基礎100にも貫通穴100aを設ける。これらの貫通穴100a、150aの領域には弾性を呈する部材、例えばゴムあるいはこれに類似する材料による支柱180を設ける。支柱180の平面サイズ及び設置個数は建物荷重を考慮して設計され、下端側のみを地盤側に固定するようにしている。
【0057】
図6は、支柱180の固定構造の一例を拡大して示す。支柱180の下端には穴150aより小さな支持板181を固定し、ベタ基礎100の形成前に、転圧層110中に形成したコンクリートブロック183にボルト、ナット等で固定する。支柱180の上端には上面に滑り部材182を貼付あるいは塗布した支持板184を固着してある。一方、下面側に滑り部材182を貼付あるいは塗布した支持板185を、2枚の滑り部材182が当接するようにした状態にて貫通穴100aを塞ぐようにベタ基礎100にボルト、ナット等で固定する。なお、支柱180側の滑り部材182は支持板184を介さずに支柱180に直接固着されても良い。また、滑り部材182は図2で説明した滑り部材152と同じ滑り係数を持つ材料でも良いが、やや滑り係数の大きな材料(例えば、0.15の滑り係数を持つ滑り部材152に対して0.2程度の滑り係数を持つもの)を用いても良い。なお、図5(a)、(b)では上記の滑り部材、固定構造については図示を省略している。
【0058】
貫通穴100aの内壁と支柱180との間には、クリアランス材160によるクリアランス確保のために5cm以上の間隔を設定する。貫通穴100aのサイズは、前述した通り建物荷重に応じて決められ、支柱180の設置個数(図5では便宜上、3個のみを示している)にもよるが、一辺数十cm程度とされる。また、支柱180の形状を四角柱としているが、角柱に限らず円柱でも良い。
【0059】
第3の実施形態による減震構造によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができるほか、滑り部材の敷設面積を減らすことでポリテトラフルオロエチレンを使用した場合には費用節減を図ることができる。これは支柱180及びその固定構造の施工費用に比べてポリテトラフルオロエチレンの費用が高いことによる。
【0060】
次に、図7〜図9を参照して第4の実施形態による減震構造について説明する。本実施形態では、第3の実施形態に比べて滑り部材の面積を更に小さくしている。このために、本実施形態では、滑り部材を用いた免震用マット部材を、一辺数十cmで、厚さ2〜3cm程度のコンクリート板(支持板)を複数枚用いて構成するようにしている。
【0061】
図7において、転圧層110、つまり地盤改良領域全体にコンクリートまたは同等の材料による支持基板190を施工し、この支持基板190上には、弾性を呈する材料による複数のマット材170’を敷設する。そして、これらのマット材170’の上に免震用マット部材150’を敷設し、更にベタ基礎100を構築する。その際、マット材170’は支持基板190上に固定されるのが望ましい。
【0062】
免震用マット部材150’は、図8に示すようなコンクリート板195で構成される。コンクリート板195は、その一面側に互いに平行な突条196を1本以上(ここでは3本)有し、その上面にポリテトラフルオロエチレン等による滑り部材152が接着されている。このようなコンクリート板195を2枚で1単位とし、滑り部材152側を当接させしかもそれらの突条196が直角に交差するようにマット材170’上に重ね、複数単位を互いに隣接させて敷設することで免震用マット部材150’が構成される。なお、上側のコンクリート板195はベタ基礎100側に固定し、下側のコンクリート板195はマット材170’に固定するのが好ましい。勿論、滑り部材は全面に形成されても良いし、コンクリート板に代えて、図2で説明した支持板151と同様、建物の荷重を支持し得る強度を有するものであれば、金属板、石板、樹脂板、セラミック板、ベーク板、硬質ゴム板等、何でも用いることができる。
【0063】
図9に示すように、マット材170’は、厚さ1〜2cm、数十cm四方の2枚の硬質のゴム板171の間に、同じ材料による直径1〜2cm、高さ数cmの柱状体172を複数本一体成形したものを用いると、水平方向の共振周波数2.5Hz以下のマット材を設計するのに都合が良い。なお、支持基板190は省略されても良い。
【0064】
このような構成によれば、複数のマット材170’が第2の実施形態で説明したマット材170の部分敷きの場合と同様に作用すると共に、免震用マット部材150’が第2の実施形態で説明した免震用マット部材150と同様に作用する。このために、複数のマット材170’全体で見た場合に固有周波数f、バネ定数Kがそれぞれ、第2の実施形態におけるマット材170と同じになるようにされる。このことから、免震用マット部材150’の下面全域に、第2の実施形態におけるマット材170と同様の一枚のマット材を敷設しても良いし、マット材を複数のマットに分割したうえでこれらを互いに隣接させて敷設するようにしても良い。また、図6で説明したような支柱180をマット材として用いても良い。更に、必要であれば、マット材170’に他の部材を組合せて免震用マット部材無しで単独で用いられても良く、これについては後述する。
【0065】
第4の実施形態による地盤改良材によれば、第2の実施形態と同様の効果を得ることができるほか、滑り部材の敷設面積を大幅に減らすことでポリテトラフルオロエチレンを使用した場合には費用節減を図ることができる。
【0066】
図10を参照して、本発明の第5の実施形態について説明する。転圧層110、つまり地盤改良領域全体にコンクリートまたは同等の材料による支持基板190を施工し、この支持基板190上には、弾性を呈する材料による複数のマット材170’を互いに間隔をおいて固定設置する。マット材170’は、座屈防止のためにゴム又は同等の材料による柱状のブロック175内に複数の硬質プラスチックあるいは金属製の棒状体176を上下方向にかつ互いに間隔をおいて埋め込んだものを用いる。棒状体176の長さは、ブロック175が弾性を呈するようにするためにその厚さ方向(高さ方向)のサイズより少し短くしてあり、上下両端をそれぞれ球面形状にした、いわゆるロッカーアーム型のものが好ましい。あるいはまた、棒状体176に代えて、これと同じ材質で棒状体の長さと実質上同じ短径の断面略楕円形状を持つ略球状体(碁石状のものあるいはその周縁部を切り落とした形状のもの)を間隔を置いて埋め込んでも良いし、両方を埋め込んでも良い。
【0067】
ブロック175の下側には支持板177が固着され、上側には支持板178が固着されている。特に、支持板178の上面には滑り部材152が固着されている。一方、滑り部材152に対応するベタ基礎100の下面には、下面に滑り部材152を固着した支持板179が固着されており、2枚の滑り部材152が当接するようにされている。このようにして、支持板178と滑り部材152及び支持板179と滑り部材152とにより、免震用マット部材が構成される。言い換えれば、支持板178と滑り部材152及び支持板179と滑り部材152との組合せによる免震用マット部材に代えて、例えば図8で説明したような免震用マット部材150’が用いられても良い。支持板177は支持基板190に固定される。ブロック175は角柱、円柱のいずれでも良く、これに合わせて支持板177、179も角形、円形のいずれでも良い。
【0068】
このようなマット材170’は、棒状体176が建物荷重によるブロック175の座屈を抑制しながら弾性を呈するように作用する。そして、地震に際して受ける加速度が小さい場合にはブロック175は断面平行四辺形になるように水平方向に変形し、これに伴ってベタ基礎100も揺れる。しかし、加速度が所定値を超えると2枚の滑り部材152が相互に滑り合うことで震動が低減される。このようなマット材170’もまた、0.3〜0.6程度の減衰係数、共振周波数2.5Hz以下のマット材を設計するのに都合が良く、安価にて提供できる。
【0069】
なお、このようなマット材170’は、図3の実施形態におけるマット材170や図7の実施形態におけるマット材170’として用いられても良い。特に、図3の実施形態において、免震用マット部材150無しでマット材170のみを使用する場合に好適である。
【0070】
図11はマット材170’の更に他の例を示している。図11(a)は、図9で説明したマット材170’における柱状体172の間に、柱状体172の座屈防止のために硬質プラスチックあるいは金属製のボールB1を介在させたものである。ボールB1は2枚のゴム板171の間隔と実質上同じ直径を有し、転動に際して2枚の硬質のゴム板171の間から出てしまわないようにプラスチック製のケースC1に収容されている。なお、ゴム板171におけるボールB1の転動領域を球面とすることでケースC1無しでボールB1の飛び出しを防止するようにしても良い。また、ボールに代えてあるいはボールと共に、2枚のゴム板171の間隔と実質上同じ短径の断面略楕円形状を持つ略球状体(碁石状のものあるいはその周縁部を切り落とした形状のもの)を介在させても良い。
【0071】
図11(b)は、図11(a)の変形例であり、地盤(転圧層110)上に設置した硬質の弾性体による支持板173−1と、ベタ基礎100の下面側に設置される支持板173−2との間に、上記の略球状体、つまり碁石状の略球状体174を複数個(例えば50cm四方の支持板に4個以上)配置するようにした例を示す。支持板173−1、173−2、略球状体174は、全体で建物の荷重を支持し得る強度を有するものであれば何でも良いが、略球状体174の場合は硬質樹脂材料が好ましい。これは成形の際、隣り合うもの同士を同じ樹脂材料の細い糸状のもので結ぶように複数個一体成形できるからである。なお、支持板173−1に硬質の樹脂材料を使用する場合には、図11(a)と同様、複数の柱状体を一体成形するようにしても良い。また、支持板173−1における略球状体174の転動領域は湾曲面による凹部としても良い。
【0072】
以上のような2種類のマット材170’もまた、0.3〜0.6程度の減衰係数、共振周波数2.5Hz以下のマット材を設計するのに都合が良い。したがって、これらのマット材170’も免震用マット部材との組合せ無しで単独で用いられても良いし、図10の実施形態と同様、転圧層110あるいはその上に形成された支持基板190とベタ基礎100との間に互いに間隔をおいて設置されても良い。この場合、図示していないが、図10の実施形態と同様、上側のゴム板171、支持板173の上面に滑り部材が固着され、これに対応するベタ基礎100の下面側には滑り部材を固着した支持板(つまり、図10の滑り部材152と支持板179と同等のもの)が固定される。
【0073】
図12、図13を参照して、本発明の第6の実施形態について説明する。ここでも、ベタ基礎100を構築する領域の地盤200を数十cm程度の深さだけ掘削し砕石を敷き詰めた上で転圧を施して転圧層110を形成し、地盤改良領域とする。そして、地盤改良領域の全面上に減震構造を施工する。
【0074】
第6の実施形態にかかる減震構造は、ベタ基礎100の周囲部分を除く全部に敷設した免震用マット部材300と、地盤改良領域の周囲部分、つまり免震用マット部材300より外側の周囲であってベタ基礎100と地盤200との間に設置したブロック状のクリアランス材160とを含む。
【0075】
免震用マット部材300は、図13をも参照して、地盤の揺れを建物に伝えないようにする滑り係数0.1程度の免震機能を有するものであって、複数枚のマット310と、マット310の地盤側との対向面に形成された複数の凹部310aのそれぞれに一部が突出するように収容され、かつ、自由に転動可能な複数の球体320とを含む。そして、複数の球体320を地盤側に置いた状態にて地盤改良領域に複数枚のマット310を図12(b)に示すように敷き詰め、敷設した複数枚のマット310上にベタ基礎100が構築される。その際、各マット310はベタ基礎100に固定されるのが望ましい。マット310は、建物荷重に対して十分な支持力を有し、かつ長期にわたる荷重によっても塑性変形しないことが望ましく、例えば硬質ゴムやプラスチック、特にFRBが好ましいが、これに限定されるものではなく、金属板やセラミック板等であっても良い。球体320もプラスチック、特にFRBや鋼製のものが適している。ここでは、正方形のマット310に計9個の球体320を組合せているが、9個以上でも良く、少なくとも5個あれば良い。5個の場合、図13(b)に示す9個の配置のうち、対角線上の5個となる。マット310のサイズは、球体320の直径が6cmの場合、例えば厚さ5〜7cm、一辺50cmとされ、一枚当たり2.5〜3.0kNの荷重を受けることができる。また、凹部310aは箱形とされ、球体320の転動が自由となるように一辺のサイズは6cmよりやや大きくされ、深さは2cm程度、つまり球体320の突出量が1cm程度となるようにされる。マット310も、図12(b)に示されるように地盤改良領域の全域に敷き詰める必要は無く、例えば図12(b)の配置形態から一枚おきにマット310を取り除いた、いわば市松模様状の配置にしても良い。また、免震用マット部材300と転圧層110との間に、図3で説明したようなマット材170が敷設されても良い。なお、球体320の転動を容易にするためには、転圧層110の上に第4の実施形態で用いられた支持基板190と同様な支持基板を施工することが望ましい。この場合、支持基板190における球体320の転動領域を球面とすることが好ましい。
【0076】
以上のようにして、ベタ基礎100の下面と転圧層110との間には、複数枚のマット310と球体320との組合せによる免震用マット部材300が介在し、地盤200内に埋没しているベタ基礎100の外側面と地盤200との間にはクリアランス材160が介在している。このような減震構造の構成により、第1の実施形態と同様の効果が得られる。例えば、震度の大きな地震が発生した場合、地盤200が大きく横揺れしてもその上を免震用マット部材300の球体320が転動することにより建物の横揺れが低減され、免震機能が発揮される。このようにして、地震によって建物(ベタ基礎100)が大きく横揺れしようとしても、横揺れを±10cm程度に制限することができる。
【0077】
勿論、免震用マット部材300の下側に、図3で説明したようなマット材170や図9〜図11で説明したようなマット材170’が敷設されても良く、第3の実施形態、第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0078】
上記の各実施形態のうち、免震用マット部材とマット部材とを組合せた実施ではいずれもマット部材の上側に免震用マット部材を組合せているが、地盤上に免震用マット部材を設置し、この免震用マット部材とベタ基礎との間にマット部材を配置しても良い。
【0079】
図14、図15を参照して、本発明の第7の実施形態について説明する。本実施形態は、図3で説明した第2の実施形態による減震構造に、大地震に伴う揺れや大風による風圧等により建物が変位した場合にこれを元の位置に戻すためのセンタリング機構と、大地震により建物が揺れようとする場合に揺れの方向を一様とするX−Y移動機構とを組合せ可能にしたものである。
【0080】
つまり、第2の実施形態では、200ガル以上の加速度が作用するとベタ基礎100を含む建物全体がマット材170の上で滑るので、元の位置から数cm程度ずれる場合がある。本実施形態によるセンタリング機構は、このようなずれをジャッキ等の治具を用いて修正できるようにしたものである。
【0081】
一方、大地震発生時に建物に作用する揺れの方向は、建物のどこの部分でも同じ方向であるとは限らず、建物の別部位に異なる向きの揺れが作用する場合がある。このような場合、建物に捻り力が作用し、損傷を与える可能性がある。本実施形態によるX−Y移動機構は、大地震発生時にベタ基礎100を一様に同じ方向に変位させることにより建物に捻り力が作用しないようにしたものである。
【0082】
図14において、マット材170の下側、つまり転圧層110中にセンタリング機構400が埋設される。ここでは、センタリング機構400は、コンクリート基礎を十字形状にして作られている。特に、十字形状の4つの端部がそれぞれベタ基礎100よりも数十cm程度外側に突出するようにされている。大地震発生時に建物がずれても、センタリング機構400は地盤中にあるので、位置がずれることは無い。そこ、建物がずれた場合には、センタリング機構400をベースにしてその突出部とベタ基礎100との間にジャッキを介在させることで建物全体を所望の位置に戻すことができる。
【0083】
なお、図14に示した十字形状は、ベタ基礎100の面積がそれほど大きくない場合であり、ベタ基礎の面積が大きい場合には、いわゆる井桁形状に作られても良い。
【0084】
図15において、ベタ基礎100とセンタリング機構400との間に少なくとも2つの所定大のスペースが形成され、それぞれのスペースにX−Y移動機構500がベタ基礎100とセンタリング機構400とを利用して設置される。このために、X−Y移動機構500の設置箇所に対応するベタ基礎100、免震用マット部材150、マット材170には所定大の開口が設けられる。X−Y移動機構500の設置箇所は、建物の重心がベタ基礎100の中心に投影される場合にはベタ基礎100の中心に関して対称な位置が好ましい。
【0085】
X−Y移動機構500は、センタリング機構400の上面に固定された下側スライド体510と、この下側スライド体510に対して直角に交差するようにベタ基礎100の下面側に固定された上側スライド体520と、下側スライド体510に対して上側スライド体520を任意の水平方向にスライド可能にするためのスライダー530とを含む。
【0086】
スライダー530は、下側スライド体510の断面形状よりわずかに大きめの形状の溝531を下側に向けて有すると共に、上側スライド体520の断面形状よりわずかに大きめの形状の溝532を上側に向けて有する。しかも、これらの溝531と溝532とは互いに直角に交差している。更に、図示は省略しているが、溝531の内壁(3つの面)、溝532の内壁(3つの面)にはそれぞれ、図2で説明したものと同様の滑り部材が貼付されている。
【0087】
下側スライド体510の延在方向をX軸、上側スライド体520の延在方向をY軸とした場合、スライダー530が下側スライド体510に対してスライド可能であると共に、上側スライド体520とスライダー530とが相互にスライド可能であることにより、見かけ上、上側スライド体520はX軸、Y軸の合成方向にスライド可能となる。このために、ベタ基礎100、免震用マット部材150、マット材170に設ける開口は、上側スライド体520のスライドを妨げないように十分なクリアランスを確保できる大きさとされる。
【0088】
このようなX−Y移動機構500が同じ配置状態で2組設置されていることにより、2組の上側スライド体520のスライド方向が互いに平行になり、建物にはベタ基礎100を介してどの場所でも同じ向きの揺れが作用することになる。これにより、大地震発生時、建物が揺れた時に建物に捻り力が作用し、損傷を与えることを防止できる。
【0089】
なお、図14ではX−Y移動機構500を2組設置しているが、ベタ基礎の面積が大きい場合には3組以上(4組が好ましい)設置されても良い。また、上記のセンタリング機構400、X−Y移動機構500は、前述したどの実施形態にも適用されても良いことは言うまでも無い。
【0090】
本発明による減震構造はベタ基礎に限らず、例えば布基礎との組合せで建物に適用されても良い。また、上記の各実施形態では、上側支持板、上側支持ブロック、上側支持体のほか、ベタ基礎の下面に接するように配置される部材は、ベタ基礎の下面に固定するようにしているが、例えば図18に一点鎖線で示すように、ベタ基礎等の下側にゴム又は同様の弾性部材によるシート部材SMを配置して上記各部材の上面とベタ基礎等の下面との間に上記シート部材が介在するようにしても良い。ゴム又は同様の弾性部材によるシート部材は、厚さ数mm〜数cm程度が好ましく、摩擦係数が比較的大きいので、上記各部材とベタ基礎等をほぼ一体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、本発明を戸建て住宅のベタ基礎に適用した場合の第1の実施形態にかかる減震構造を示し、図1(a)は断面図、図1(b)はベタ基礎を除いた減震構造の平面図である。
【図2】図2は、図1の実施形態で用いられている免震用マット部材の一部を拡大して示した断面図である。
【図3】図3は、本発明を戸建て住宅のベタ基礎に適用した場合の第2の実施形態にかかる減震構造を説明するための図で、図3(a)は減震構造の断面図、図3(b)はベタ基礎を除いた減震構造の平面図である。
【図4】図4は、図3の実施形態においてマット材のみを使用した場合の地盤の加速度レベルと震動周波数とマット材の増幅倍率との関係を示す特性図である。
【図5】図5は、本発明を戸建て住宅のベタ基礎に適用した場合の第3の実施形態にかかる減震構造を説明するための図で、図5(a)は減震構造の断面図、図5(b)はベタ基礎を除いた減震構造の平面図である。
【図6】図6は、図5に示された支柱の設置構造を説明するために図5(a)の一部を拡大して示した図である。
【図7】図7は、本発明を戸建て住宅のベタ基礎に適用した場合の第4の実施形態にかかる減震構造の一部を示した断面図である。
【図8】図8は、図7の実施形態で用いられている免震用マット部材について説明するための平面図(a)、側面図(b)である。
【図9】図9は、図3に示されたマット材や図7に示されたマット材に適したゴムによる成形部材を示した斜視図である。
【図10】図10は、本発明を戸建て住宅のベタ基礎に適用した場合の第5の実施形態にかかる減震構造の一部を示した断面図である。
【図11】図11(a)、(b)は、図10に示したマット材の他の例を示した断面図である。
【図12】図12は、本発明を戸建て住宅のベタ基礎に適用した場合の第6の実施形態にかかる減震構造を説明するための図で、図12(a)は減震構造の断面図、図12(b)はベタ基礎を除いた減震構造の平面図である。
【図13】図13は、図12に示された免震用マット部材を説明するための図で、図13(a)は断面図、図13(b)は底面側から見た図である。
【図14】図14は、本発明を戸建て住宅のベタ基礎に適用した場合の第7の実施形態にかかる減震構造を説明するための図で、図14(a)は減震構造の断面図、図14(b)はベタ基礎を除いた減震構造の平面図である。
【図15】図15は、図14の実施形態で用いられているX−Y移動機構を説明するための図で、図15(a)はX−Y移動機構の斜視図、図15(b)はX−Y移動機構の構成要素であるスライダーの斜視図である。
【図16】図16は、第1の実施形態の変形例を示す部分断面図である。
【図17】図17(a)、(b)は、図16の変形例に使用される上側支持体の代表的な例を示した平面図である。
【図18】図18は、第1の実施形態の別の変形例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0092】
100 ベタ基礎
110 転圧層
150,150’ 免震用マット部材
151 支持板
152 滑り部材
160 クリアランス材
170、170’ マット材
200 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震発生時に建物に作用する、地盤からの地震力を減衰させるための減震構造において、
減震手段として、建物に対応する表層地盤を掘削して形成された地盤領域の少なくとも一部に配置した免震用マット部材、前記地盤領域の少なくとも一部に配置した弾性を呈するマット材の少なくとも一方を有し、
前記免震用マット部材あるいは前記マット材の上側に前記建物の基礎が構築されるようにしたことを特徴とする減震構造。
【請求項2】
前記免震用マット部材は地震発生時に前記建物に伝わる地盤の揺れを減衰させるためのものであって、上面の少なくとも一部に滑り部材を固着した少なくとも1枚の第1の支持板と、下面の少なくとも一部に滑り部材を固着した少なくとも1枚の第2の支持板とをそれぞれの滑り部材が当接するように重ねて構成されることを特徴とする請求項1に記載の減震構造。
【請求項3】
前記減震手段として前記免震用マット部材を有し、該免震用マット部材は地震発生時に前記建物に伝わる地盤の揺れを減衰させるためのものであって、かつ、前記地盤領域の少なくとも一部に施工され上面に滑り材を固着した下側支持ブロックと、該下側支持ブロック上に配置され該下側支持ブロックと対向する下面に滑り材を固着した1つ以上の上側支持ブロックとをそれぞれの滑り部材が当接するように重ねて構成されることを特徴とする請求項1に記載の減震構造。
【請求項4】
前記減震手段として前記免震用マット部材を有し、該免震用マット部材は地震発生時に前記建物に伝わる地盤の揺れを減衰させるためのものであって、かつ、前記地盤領域の少なくとも一部に施工され上面に滑り材を固着した下側支持ブロックと、該下側支持ブロック上に配置され該下側支持ブロックと対向する下面に複数の突起または突条を有すると共に該突起または突条の先端に滑り材を固着した1つ以上の上側支持ブロックとをそれぞれの滑り部材が当接するように重ねて構成されることを特徴とする請求項1に記載の減震構造。
【請求項5】
前記減震手段として前記免震用マット部材を有し、該免震用マット部材は地震発生時に前記建物に伝わる地盤の揺れを減衰させるためのものであって、かつ、前記地盤領域に敷設されたシート状の下側滑り材と、該下側滑り材に対向する前記建物の基礎の下面側に固着された上側滑り材とからなることを特徴とする請求項1に記載の減震構造。
【請求項6】
前記免震用マット部材の下側領域の少なくとも一部に、水平方向の共振周波数が2.5Hz以下の材料から成る、前記弾性を呈するマット材を敷設したことを特徴とする請求項1又は2に記載の減震構造。
【請求項7】
前記免震用マット部材に複数個の貫通穴を設けると共にこれらの貫通穴に対応する前記建物の基礎にも貫通穴を設け、これらの穴内には所定のクリアランスをおいて弾性を呈する支柱部材を配置してその下端側を地盤側に固定し、上端側については該上端と前記建物の基礎における前記貫通穴を塞ぐように設けた板部材との間に前記免震用マット部材と同じ免震用マット部材を介在させるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の減震構造。
【請求項8】
前記免震用マット部材を、上面に1本以上の突条を有すると共に該突条の上面に滑り部材を固着した少なくとも一枚の第1の支持板と、下面に1本以上の突条を有すると共に該突条の上面に滑り部材を固着した少なくとも一枚の第2の支持板とをそれぞれの滑り部材が互いに直角に交差しつつ当接するように重ねて構成し、
前記免震用マット部材の下側領域に、水平方向の共振周波数が2.5Hz以下の材料から成る、前記弾性を呈するマット材を配置したことを特徴とする請求項1に記載の減震構造。
【請求項9】
前記免震用マット部材は、同じ大きさの前記第1の支持板と前記第2の支持板との組合せを互いに隣接させて複数組敷設して成り、
前記マット材は、同じ大きさのマットを互いに隣接させて複数枚敷設して成り、しかも各マットは2枚の弾性部材の間に同じ材料による複数の柱状体が互いに間隔をおいて一体成形されたものであることを特徴とする請求項8に記載の減震構造。
【請求項10】
前記複数の柱状体の間に更に、前記2枚の弾性部材の間隔と実質上同じ直径を持つ複数の球体、又は前記2枚の弾性部材の間隔と実質上同じ短径の断面略楕円形状を持つ複数の略球状体を自由に転動可能に配置したことを特徴とする請求項9に記載の減震構造。
【請求項11】
前記免震用マット部材は、同じ大きさの前記第1の支持板と前記第2の支持板との組合せを互いに隣接させて複数組敷設して成り、
前記マット材は、同じ大きさのマットを互いに隣接させて複数枚敷設して成り、しかも各マットは所定厚の弾性部材の内部に座屈を防止するための複数の棒状体あるいは断面略楕円形の略球状体を埋め込んだものであることを特徴とする請求項8に記載の減震構造。
【請求項12】
前記地盤領域上に支持基板を設置し、
該支持基板上には、水平方向の共振周波数が2.5Hz以下の材料から成る、前記弾性を呈する複数のマットを互いに間隔をおいて固定し、
前記複数のマットの各上面と前記建物の基礎の下面との間にそれぞれ前記免震用マット部材を介在させ、
該免震用マット部材は、前記マットの上面に固定され上面の少なくとも一部に滑り部材を固着した第1の支持板と、前記建物の基礎の下面に固定され下面の少なくとも一部に滑り部材を固着した第2の支持板とをそれぞれの滑り部材が当接するように組合されて成り、
前記マットは所定厚の弾性部材の内部に座屈を防止するための複数の棒状体あるいは断面略楕円形の略球状体を埋め込んだものであることを特徴とする請求項1に記載の減震構造。
【請求項13】
前記免震用マット部材は、地震発生時に前記建物に伝わる地盤の揺れを減衰させるためのものであって、複数枚のマットと、該マット毎にその地盤側との対向面に形成された複数の凹部のそれぞれに一部が突出するように収容され、かつ、自由に転動可能な複数の球体とを含み、該複数の球体を地盤側に置いた状態にて敷設した複数枚のマット上に前記建物の基礎を構築するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の減震構造。
【請求項14】
更に、前記免震用マット材と前記建物の基礎との間の少なくも一部に、水平方向の共振周波数が2.5Hz以下の材料から成る、前記弾性を呈するマット材を介在させたことを特徴とする請求項13に記載の減震構造。
【請求項15】
更に、当該減震構造と地盤との間に、前記地盤領域から少なくとも四方に延びる部分を持つセンタリング用の基礎が形成され、風圧あるいは地震に伴う揺れにより前記建物が前記建物の基礎と共に位置がずれた場合に、該センタリング用の基礎を利用して前記建物を前記建物の基礎と共に元の位置に戻すことができるようにされていることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の減震構造。
【請求項16】
前記センタリング用の基礎と前記建物の基礎との間の当該減震構造に所定のスペースを複数個形成して、それぞれのスペースにX−Y移動機構を設置し、
該X−Y移動機構は、前記センタリング用の基礎の上面に一軸方向に延びるように固定された下側スライド体と、前記建物の基礎の下面であって前記下側スライド体と近接しつつ前記一軸と直角に交差する方向に延びるように固定された上側スライド体と、下側に前記下側スライド体を受ける溝が、上側には前記上側スライド体を受ける溝がそれぞれ互いに直角に交差するように形成されたスライダーとを含み、
前記スライダーの各溝の内壁にはそれぞれ滑り部材が固着され、
前記スライダーは、前記下側の溝に前記下側スライド体を、前記上側の溝に前記上側スライド体をそれぞれ収容した状態にて、前記下側スライド体及び上側スライド体に対してスライド可能であることにより、地震発生時には複数の当該X−Y移動機構により前記建物全体に同じ方向の揺れが作用するようにしたことを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の減震構造。
【請求項17】
前記減震手段として前記マット材のみを有し、該マット材は、所定厚の弾性部材の内部に座屈を防止するための複数の棒状体あるいは略球状体を埋め込んだものであることを特徴とする請求項1に記載の減震構造。
【請求項18】
前記減震手段として前記マット材のみを有し、該マット材は、地盤側に設置した支持板と前記建物の基礎の下側に設置した支持板との間に球状体あるいは断面略楕円形の略球状体を複数個配置したものであることを特徴とする請求項1に記載の減震構造。
【請求項19】
地震発生時に建物に作用する、地盤からの地震力を減衰させるための減震方法において、
建物の基礎が形成される地盤と該建物の基礎との間の領域の少なくとも一部に、免震用マット部材を設置して地震発生時に地盤から建物に伝達される所定値以上の加速度をカットするようにしたことを特徴とする建物の減震方法。
【請求項20】
更に、前記免震用マット部材と前記地盤との間の領域の少なくとも一部に、水平方向の共振周波数が2.5Hz以下の材料から成る、弾性を呈するマット材を設置して地震発生時に建物に作用する震動を更に減衰させるようにしたことを特徴とする請求項19に記載の建物の減震方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−101451(P2008−101451A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315888(P2006−315888)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(591213519)ビイック株式会社 (11)
【Fターム(参考)】