説明

建物内無線通信システム

【課題】 建物において天井部に設置された複数アンテナ機器間で無線通信を行なうシステムにおいて、マルチパスフェージングを除去する。
【解決手段】 室内の天井に設置した床反射型アンテナとメッシュネットからなる通信システムにおいて、その指向性を有するアンテナの位置を調整することで、床、什器等から反射するマルチパスの発生を少なくするための調整手段を有するアンテナを用いて、アンテナの位置調整は水平または垂直に移動できる構造を有する。さらに、指向性を有するアンテナはコリニアまたはMSAアンテナで構成する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の同一室内(天井および天井内部空間を含む)に設置された送信器から受信器へ室内環境などの情報を電波にて伝搬する無線通信システムにおいて、受信器が送信器となって順次別の受信器に送信することで大規模な室内の情報を統合することができるメッシュネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフィス、工場などの建物の部屋は、室内内部空間(居室)と天井内部空間とから構成され、それらは天井材により仕切られる。室内温度などの環境情報は室内内部空間でセンサにより測定される一方、空調機、コントローラなどは天井内部空間に設置されるのが通常である。このような温度制御ループを構成するには、温度センサを送信器とし、コントローラを受信器とする1対1の無線通信システムが用いられている。室内の配線工事等のコスト、室内レイアウト変更への対応容易性その他の保守面からの要請、および人の近くで環境計測することでの快適性向上の理由からである。
【0003】
さてこの場合、送信器と受信器が互いに見通せる位置関係、すなわち電波の障害物のない位置に配置する必要がある。しかし、室内には、柱、梁、空調ダクトなど存在し無線通信の障害物も多い。そのため、特許文献1にあるように、建物において送信器及び受信器を天井内部空間へ設置して、電波を床で反射させるところの通信システムが提供されている。
特許文献1から引用した図1に示すように、室内の美観のために、センサを含む送信器を天井内部空間に設置した構成が知られている。そこでは、室内内部空間1−1と天井内部空間1−2が天井材1−3で仕切られており、天井梁内にH鋼10、床11内に鉄筋棒12、上階床内にも同様に鉄筋棒12などの電波の障害物が存在しているため、床反射型の通信アンテナが採用されている。
【特許文献1】特開平10−107711号公報
【0004】
また、建物内で1対1の通信だけでなくさらに大規模な室内通信システムを構築するために、無線メッシュネットワーク(以降「メッシュネット」と呼ぶ)の技術が実用化されている。メッシュネットは一般的にはマルチホップ・ネットワークとも呼ばれ、ノード(受信器および送信器を総称して以降「ノード」と呼ぶ)間でデータを効率よく移動できる柔軟なアーキテクチャである。
従来の典型的な無線LANでは、複数のノードが1つのアクセス先ノード に直接接続してネットワークを構成していた。これを「シングルホップ」ネットワークと呼ぶが、マルチホップ・ネットワークでは、無線通信機能を搭載したノードならどれでも受信器および送信器の両方の役割を果すことができるので、最も近くにあるアクセス先が混雑している場合は、データは次に近くにあるトラフィック量の少ないノードへと回される。データはあるノードからノードへとホップを続け、最終目的地に到達する技術である。最も近いノードでなくとも伝搬経路に混雑や障害のある場合には、迂回中継が行われるのである。
特許文献2などにメッシュネットにおける指向性アンテナの使用方法などの技術が紹介されており、そこでは強い指向性を持ったアンテナにより構成される。しかし、本発明のような床反射型のアンテナを用いた技術とは、課題および構成を異にするものである。
【特許文献2】特開2004―364287号公報
【0005】
さらに、特許文献3では、屋内における壁面、床、天井からの長遅延の干渉波によるマルチパスフェージングを低減させるために、アンテナの垂直面内放射パターンのほぼ水平方向にヌル点を生成する技術が開示されている。またアンテナのビームをチルトすることでアンテナの指向性を調整する技術も示されている。しかし、このようなチルト調整は1対1のノード間通信においては有効であっても、上述したようなメッシュネットにおいては、水平全方位にアンテナ感度を均等にしたまま行なえないのであまり効果がない。
【特許文献3】特開2001−196985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建物の天井部に空調機器、防災機器、照明機器等を一定の間隔で面上に配置する場合、機器間の信号伝送を有線で配線を行なうことが一般的であるが、配線工事の削減、レイアウト変更により機器の移動に対応するには無線による信号伝送が望まれる。しかし無線化にはいくつかの問題がある。それは、天井部の機器は外観上天井裏に設置することが望まれるが、天井裏には建物の梁、柱、空調ダクトなどの各種障害物があり、機器間が見通しできない場合が多い。このため、直進性を持つ電波を用いると直接電波が到達せず、無線による信号伝送を安定して行なうことができないことである。さらに、通信に必要な送信電力は距離の約3乗に比例するものだが、広い建物内においては相当の送信パワーが必要となり省エネルギーの問題、法令基準の許容送信電力の制限などがある、また、相当の送信電力を持ってした場合には、送信範囲が広がることにより他ネットワーク又は他ノードへの干渉のおそれもある。
【0007】
このような問題を克服するために床反射型の通信アンテナとメッシュネットの技術を組み合わせて採用するものだが、この床反射型のアンテナを用いる場合に、床上にある什器等の電波反射物の存在により、電波が複数通信路で送信器から受信器に届く場合があり(これをマルチパスと呼び)、その複数電波による衝突で本来の通信電波品質が妨げられる(マルチパスフェージングと呼ぶ)問題が発生することが見逃せない。
そこで、本発明は床反射型のアンテナを用いたメッシュネットにおけるノード間の無線通信におけるマルチパスフェージングを抑制することを発明の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、床反射型のアンテナを装備した通信のノードとメッシュネット構成の組み合わせにかかり、当該アンテナに指向性を持たせて、そのアンテナの取付け位置を調整することにある。すなわち、
部屋の天井に設置した複数の床反射型アンテナによりメッシュネットとした無線通信システムにおいて、該アンテナは送信用および受信用を兼用する手段と、
該アンテナは全水平指向性であってかつ床方向に斜め下に垂直指向性を有することと、
該アンテナの取付け位置の調整手段とにより構成されるシステムにある。
【0009】
上記発明について、さらに下位概念発明として、該アンテナの取付け位置を床面に対して水平又は垂直に移動できるアンテナである無線通信システムとすること。
さらに、該アンテナがコリニア型またはMSA型のアンテナを選択することがある。
【発明の効果】
【0010】
床に対し斜め方向に所定角度の指向性をもったアンテナとすることで、床反射型のノード間無線通信が可能となり、また水平方向では無指向性(すなわち360°指向性ともいえる)をもたせたアンテナとすることで、隣り合うノード間で無線通信のメッシュネットを形成でき、マルチホップ形式の効率よい通信ネットワークが得られる。
さらに、無線通信距離を短くできるため、ノードの省エネルギー化も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図2に、建物の室内の側断面図を示すが(図中の記号は従来例の図1と整合する)、そこで天井内部空間1−2に通信ノード110、111が配備されている。それらノードは温度センサとコントローラであるかもしれないし、コントローラ同士でも良い(以降はそれらを「ノード」として総称する)。
本例では、ノード111が送信器の役割を果し、ノード110が受信器の役割を果している状況を示している。
【0012】
ノード111のアンテナ指向性が指向方位111Dのように床面に向かって斜め方向にあるとすると、最短で電波の伝搬ルート30(図中矢印)で示されたものがノード110の受信アンテナの指向方位110D内へ到達する。それ以外の伝搬ルートは指向方位111Dの特性により放射状に発生するが、それらは床天井等で反射、拡散などを経て減衰し、ノード110に到達しないで終わるものがほとんどである。しかし、室内に什器20が存在したようなときは、伝搬ルート32のように二度反射してノード110の指向方位110Dの有効領域に到達してしまう。この場合、電波の強さもさほど減衰していないため、本来の電波(ルート30)と重複してマルチパスを発生してしまう。電波が衝突するため、本来電波のノイズとなり、マルチパスフェージングの原因となるものである。
【0013】
図3で、アンテナ3−1に注目して、その水平指向性は360°全方位均質な指向性をもち(無指向性)、一方、その垂直指向性は床面に対し斜めに指向性を持ち、その所定の指向角aは次のように定めるものとする。なお、ノード間平面距離をL、室内天井高さをHとする(H,Lについて図2参照)。
a= ArcTan(2H/L) ・・・・・(1)
式(1)の設定をほぼ保ながら、上記例ではルート32の電波を、受信アンテナの指向方位110Dの領域外にするか、指向方位中央のヌル点にいれるようにすれば、マルチパスの発生を防げる。
そのため、図2にあるように受信アンテナの位置を水平調整方向3−1h、または垂直調整方向3−1vで移動させられる手段を設ければよい。
またこれに際しもう一つの作用として、図2のルート30上に障害物が発生したような場合には、逆に、ルート32の電波を優先的に使用するように調整することも可能である。
【0014】
次に、図4で建物の室内の平面図として、メッシュネットシステムのアンテナの配置を示す。無線通信のノード100から134までが無線通信領域180内にメッシュ構成で配置される。ペリメータなどの周辺部である有線通信領域181内に親ノード190があり、親ノード190は上下階の親ノードに有線通信ライン190Bで接続され、ほかにも有線190Cで他部屋の親ノードに接続される。
【0015】
ここで、無線通信領域に注目すれば、通信ノード110と111が前に示した図2の関係にある場合、ノード111の水平面図上の無線到達領域111Aが、床反射で他ノードに電波が到達する範囲を示すものである。すると、図4から判るように、ノード111からの通信はノード110の他に隣り合うノード101、112、121にも到達する。ノード112と121は自己が下流ノードであることを判断し、送信は行なわず、上位ノード101と110が、親ノード方向(上位方向)に向けて通信メッセージを伝搬させるのが、メッシュネットの基本プロトコルの一例である。その場合には上位ノード101又は110からノード100へ中継の結果として、ノード111で送信した情報が親ノード190へ伝わり更に中央監視システム(図外)などで用いることもできる。
【0016】
したがって、図3で示したように受信アンテナの水平又は垂直方向の調整(3−1h,v)の移動を施すとしても、図4の送信アンテナとしての水平面の無線到達領域(ノード111について領域111A)を概ね変更することなくできるので、メッシュネットの性能を損なうことがないのである。
【実施例】
【0017】
図3の原理図で示したアンテナの取付け手段の実施例を図5に示す。
天井内部空間1−2において、上階の床(本階の天井)11と天井材1−3との間に設けられた天井吊りボルト8を抱え込むように保持器3−8を設け、これにより受信アンテナ本体3を回転上下させる構造をとる。この回転動作(矢印5−1)で水平方向の移動ができる。またさらに回転させれば上下動作(矢印5−2)で垂直方向の移動が、受信アンテナ3−1についてできるわけである。(もちろん見方を変えれば、これは送信アンテナの調整でもある。)
なお、マルチパスフェージングを防止するためには一波長分程度ずらせば十分であることが知られており、電波の一波長Tを次式で求める。電波の伝搬速度を30万Km/Sec、周波数を2.4GHzとすると、
T = 30万Km/2.4GHz ・・・・・(2)
によりもとめられ、約12cmの移動で十分であることがわかる。
【0018】
次に、アンテナ自体について、水平に無指向性、垂直に斜め角度指向性を有するものを例示する。
・コリニア型のアンテナ
ダイポールアンテナを二本直列に配置したもので、上下アンテナに給電する位相を相対的に変えることで、垂直方向の指向性をコントロールすることができるものである。
・MSA型のアンテナ
MSAとはマイクロストリップアンテナの略であり、アンテナ裏面がグラウンドになっているため、アンテナ特性が裏側にある部材の影響を受けないという利点がある。コリニアアンテナと同様の指向性を実現できる。特に、高次モードのMSAでは垂直方向の指向性を制御できるものである。
【0019】
本発明の実施は、上記実施例に限定されるものではない。
また、その他のアンテナの例として、ダイバーシティ型のアンテナを用いることも可能である。これは複数のアンテナから構成されたもので受信時に受信状態の良いものを自動的に選択して用いる。また送信時には受信時に決定した方のアンテナを使用するものである。これは、本発明の該アンテナの取付け位置を機械的に調整する構成とは異なるものであるが、電子的にノードの受信指向性にかかる性能を調整することで、マルチパスフェージングの抑制に同様の作用効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の床反射型アンテナ通信の室内側断面図
【図2】ノード間通信の室内側断面図
【図3】アンテナの垂直指向性を示す。
【図4】メッシュネット平面図
【図5】通信ノードのアンテナ取付け位置調整手段を示す。
【符号の説明】
【0021】
1−1・・室内内部空間
1−2・・天井内部空間
1−3・・天井材
2・・VAVユニット
3・・受信器(ノード)
3−1・・受信器アンテナ
4・・送信器(ノード)
4−1・・送信器アンテナ
4−2・・温度センサ
5・・給気孔
6・・換気孔
8・・天井吊りボルト
9・・梁
10・・H鋼
11・・床
12・・鉄筋棒
13・・デッキプレート
14・・取付金具
18・・空調ダクト
20・・什器(棚)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
部屋の天井に設置した複数の床反射型アンテナによりメッシュネットとした無線通信システムにおいて、該アンテナは送信用および受信用を兼用するものであることと、
該アンテナは水平無指向性であってかつ床方向に斜め下に所定角度の垂直指向性を有することと、
該アンテナの取付け位置を調整できることと、を特徴とするシステム。

【請求項2】
請求項1のシステムにおいて、
該アンテナが取付け位置を床面に対し水平方向又は垂直方向に移動できるアンテナである無線通信システム。

【請求項3】
請求項2のシステムにおいて、
該アンテナがコリニア型またはMSA型のアンテナである無線通信システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−333117(P2006−333117A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154294(P2005−154294)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】