説明

建物躯体の補強構造

【課題】従来に比して、より効果的に建物躯体の補強を行うことが可能な建物躯体の補強構造を提供することを目的とする。
【解決手段】上下の構造材1aと左右の構造材1bとで形成されたフレーム1内に制振補強体2が組み込まれ、この制振補強体2は、上部補強部2aと下部補強部2b、これら上部補強部2aおよび下部補強部2bの互いに対向する上下端面間に設けられる制振部材2cとを備えており、上部補強部2aおよび下部補強部2bは、フレーム1内に、このフレーム1と平行に設けられ、多角形状に形成された板材3と、この板材3の両面の少なくとも周縁部に取り付けられ、複数の枠材4a,4b,4c,4dを多角形状に枠組みしてなる枠体4とをそれぞれ有することを特徴とする建物躯体の補強構造。これにより、制振機能を十分かつ確実に発揮できるとともに、上部補強部および下部補強部自体の強度を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下に離間配置された上下の構造材と、左右に離間配置された左右の構造材とで形成されたフレーム内に制振補強体を組み込む建物躯体の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土台と柱と横架材等により軸組を構成して建物を構築する技術が広く知られており、この軸組に対して筋交いを設けたり、火打ちを設けたりして、木造軸組の強度を向上させて建物躯体の補強を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−209581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、地震等に強い住宅に対する関心が高まっている。しかしながら、特許文献1に記載のような筋交いや火打ちは、その耐力によって建物躯体の変形を抑える構造であり、地震力等の振動に抵抗する粘りが少なく、繰り返し荷重に弱い場合があるため、例えば地震等によって建物に生じる振動を抑制するなどして、より効果的に建物躯体の補強を行うことが望まれていた。
【0004】
本発明の課題は、従来に比して、より効果的に建物躯体の補強を行うことが可能な建物躯体の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、建物躯体の補強構造であり、例えば図1に示すように、上下に離間して配置された上下の構造材1aと、左右に離間して配置された左右の構造材1bとで形成されたフレーム1内に、このフレーム1の内周面に固定される制振補強体2が組み込まれてなり、
この制振補強体2は、前記フレーム1内の上部に設けられる上部補強部2aと、この上部補強部2aに対向して前記フレーム1内の下部に設けられる下部補強部2bと、これら上部補強部2aおよび下部補強部2bの互いに対向する上下端面間に設けられる制振部材2cとを備えており、
前記上部補強部2aおよび下部補強部2bは、前記フレーム1内に、このフレーム1と平行に設けられ、多角形状に形成された板材3と、この板材3の両面の少なくとも周縁部に取り付けられ、複数の枠材4a,4b,4c,4dを多角形状に枠組みしてなる枠体4とをそれぞれ有していることを特徴とする。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、例えば地震等によって建物に振動が生じると、建物の上部ほど大きく振動するため、前記フレーム1の下部に対してフレーム1の上部が振動に合わせて大きく変位することとなる。この時、前記フレーム1の上部に設けられた上部補強部2aと、前記フレーム1の下部に設けられた下部補強部2bとの間に制振部材2cが設けられているので、この制振部材2cによって、前記フレーム1の下部に対してフレーム1の上部が振動に合わせて大きく変位することを確実に抑えることができる。しかも、前記制振部材2cは、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bの互いに対向する上下端面間に設けられているので、前記上部補強部2aは、この上部補強部2aの下端面が、前記下部補強部2bの上端面の面方向に沿って様々な方向に変位できることとなる。したがって、地震等によって建物に振動が生じ、前記フレーム1の下部に対してフレーム1の上部が様々な方向に大きく変位したとしても、制振機能を十分かつ確実に発揮することができる。
しかも、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bは、前記フレーム1内に、このフレーム1と平行に設けられ、多角形状に形成された板材3と、この板材3の両面の少なくとも周縁部に取り付けられ、複数の枠材4a,4b,4c,4dを多角形状に枠組みしてなる枠体4とをそれぞれ有しているので、前記板材3が、前記枠体4によって両面側から挟み込まれるため、地震等による変形を抑制されることとなる。すなわち、前記板材3に対して、剪断方向や捻れ方向などに大きな変形力が加わった場合、この板材3は様々な方向に向かって変形しようとする。例えば板材3が、側面視くの字に変形しようとすれば、板材3両面に取り付けられた枠体4を構成する縦方向の枠材4c,4dによって変形を抑制し、板材3が、平面視くの字に変形しようとすれば、板材3両面に取り付けられた枠体4を構成する横方向の枠材4a,4bによって変形を抑制することができる。また、例えば板材3が、捻れるように変形しようとすれば、板材3両面に取り付けられた枠体4全体で変形を抑制することができる。これにより、前記板材3が、いずれの方向に変形しても前記枠体4によって変形を抑制することができるので、前記板材3や、この板材3と両枠体4との取付部分に影響が出にくく、前記上部補強部2aおよび下部補強部2b自体の強度を向上させることが可能となる。
そして、このように前記上部補強部2aおよび下部補強部2bの変形を抑制し、これら上部補強部2aおよび下部補強部2b自体の強度を向上できるとともに、前記制振部材2cによって制振機能を十分かつ確実に発揮することができるので、従来に比して、より効果的に建物躯体の補強を行うことが可能となる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、例えば図1に示すように、請求項1に記載の建物躯体の補強構造において、
前記上部補強部2aは、前記上側の構造材1aと、前記左右の構造材1bのうち、少なくとも一方に固定されており、前記下部補強部2bは、前記下側の構造材1aと、前記左右の構造材1bのうち、少なくとも前記上部補強部2aが固定された側とは逆側の構造材1bに固定されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、前記上部補強部2aは、前記上側の構造材1aと、前記左右の構造材1bのうち、少なくとも一方に固定されており、前記下部補強部2bは、前記下側の構造材1aと、前記左右の構造材1bのうち、少なくとも前記上部補強部2aが固定された側とは逆側の構造材1bに固定されているので、前記制振補強体2を前記フレーム1に対して強固に固定することができる。
しかも、前記上部補強部2aと下部補強部2bとは、少なくとも対角線方向に前記フレーム1に固定されていることとなるので、例えば前記フレーム1の下部に対してフレーム1の上部が剪断方向や捻れ方向などに変位したとしても、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bは、前記フレーム1から外れたりすることなくフレーム1の変位に確実に対応することができ、制振機能をより十分かつ確実に発揮することができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、例えば図1に示すように、請求項1または2に記載の建物躯体の補強構造において、
前記制振補強体2が組み込まれたフレーム1に隣り合って形成されたフレーム1内に、このフレーム1の内周面に固定される補強体20が組み込まれており、
この補強体20は、前記フレーム1内に、このフレーム1と平行に設けられ、四角形状に形成された板材21と、この板材21の両面の少なくとも周縁部に取り付けられ、縦横の框材22a,22bを四角枠状に組み立てた枠体22とを有していることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、前記制振補強体2が組み込まれたフレーム1に隣り合って形成されたフレーム1内に、このフレーム1の内周面に固定される補強体20が組み込まれているので、前記制振補強体2および補強体20によって前記フレーム1,1を相乗的に補強することができる。
すなわち、前記補強体20を構成する板材21は、前記枠体22によって両面側から挟み込まれるため、地震等による変形を抑制されることとなる。つまり、前記板材21に対して、剪断方向や捻れ方向などに大きな変形力が加わった場合、この板材21は様々な方向に向かって変形しようとする。例えば板材21が、側面視くの字に変形しようとすれば、板材21両面に取り付けられた枠体22の双方の縦框材22aによって変形を抑制し、板材21が、平面視くの字に変形しようとすれば、板材21両面に取り付けられた枠体22の双方の横框材22bによって変形を抑制することができる。また、例えば板材21が、捻れるように変形しようとすれば、板材21両面に取り付けられた枠体22全体で変形を抑制することができる。これにより、前記板材21が、いずれの方向に変形しても前記枠体22によって変形を抑制することができるので、前記板材21や、この板材21と両枠体22との取付部分に影響が出にくく、前記補強体20自体の強度を向上させることが可能となる。そして、このような補強体20が組み込まれるフレーム1と、前記制振補強体2が組み込まれたフレーム1とが隣り合っているので、これら制振補強体2および補強体20によって前記フレーム1,1を相乗的に補強することができ、従来に比して、より効果的に建物躯体の補強を行うことが可能となる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、例えば図1および図2に示すように、請求項3に記載の建物躯体の補強構造において、
前記板材21の両面側21a,21bに取り付けられた枠体22のうち、少なくとも一方の枠体22内に斜材23が架設されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、前記板材21の両面側21a,21bに取り付けられた枠体22のうち、少なくとも一方の枠体22内に斜材23が架設されていることから、この斜材23によって、地震や台風等の水平方向の力による枠体22の変形を効果的に抑制することができるので、この枠体22を含む補強体20、延いては前記フレーム1の変形をより確実に抑制することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、例えば図1および図2に示すように、請求項4に記載の建物躯体の補強構造において、
前記斜材23は、前記枠体22内に複数架設されており、これら複数の斜材23は、前記枠体22の対角線に沿って、かつ中央で交差していることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、前記斜材23は、前記枠体22内に複数架設されており、これら複数の斜材23は、前記枠体22の対角線に沿って、かつ中央で交差していることから、これら交差した複数の斜材23によって、地震や台風等の水平方向の力による枠体22の変形をより効果的に抑制することができるので、この枠体22を含む補強体20、延いては前記フレーム1の変形をさらに確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フレームの上部に設けられた上部補強部と、フレームの下部に設けられた下部補強部との間に設けられた制振部材によって、フレームの下部に対してフレームの上部が振動に合わせて大きく変位することを確実に抑えることができる。しかも、制振部材は、上部補強部および下部補強部の互いに対向する上下端面間に設けられているので、前記上部補強部は、この上部補強部の下端面が、下部補強部の上端面の面方向に沿って様々な方向に変位できることとなる。したがって、地震等によって建物に振動が生じ、フレームの下部に対してフレームの上部が様々な方向に大きく変位したとしても、制振機能を十分かつ確実に発揮することができる。しかも、上下の構造材と左右の構造材とからなるフレーム内に組み込まれた制振補強体上部補強部および下部補強部の板材を枠体によって両面側から挟み込むことができ、板材が、いずれの方向に変形しても枠体によって変形を抑制することができるので、上部補強部および下部補強部自体の強度を向上させることが可能となる。これによって、従来に比して、より効果的に建物躯体の補強を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
本実施の形態の建物躯体の補強構造は、図1に示すように、上下に離間して配置された上下の構造材1aと、左右に離間して配置された左右の構造材1bとで形成されたフレーム1内に、このフレーム1の内周面に固定される制振補強体2が組み込まれてなる。
そして、この制振補強体2は、前記フレーム1内の上部に設けられる上部補強部2aと、この上部補強部2aに対向して前記フレーム1内の下部に設けられる下部補強部2bと、これら上部補強部2aおよび下部補強部2bの互いに対向する上下端面間に設けられる制振部材2cとを備えており、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bは、前記フレーム1内に、このフレーム1と平行に設けられ、多角形状に形成された板材3と、この板材3の両面の少なくとも周縁部に取り付けられ、複数の枠材4a,4b,4c,4dを多角形状に枠組みしてなる枠体4とをそれぞれ有している。
【0018】
本実施の形態の上下の構造材1aは、例えば上方が梁や胴差等の横架材であり、下方が建物の基礎上に設置される土台であるが、これに限られるものではなく、上下ともに横架材であってもよい。つまり、本実施の形態の建物躯体の補強構造を適用するにあたっては、建物の上階でも下階でも良い。
また、本実施の形態の左右の構造材1bは、前記上下の構造材1a間に架け渡されて立設される柱1bであり、これら上下の構造材1aと左右の構造材1bとを矩形枠状に組み立てることによって、前記フレーム1を形成することができる。
【0019】
一方、前記制振補強体2は、上述のように前記上部補強部2a、下部補強部2bおよび制振部材2cを備えており、本実施の形態の上部補強部2aと下部補強部2bとは、図1(b)に示すように、前記制振部材2cを中心にして点対称となるように、同形の構造体として形成されている。
【0020】
なお、このように前記上部補強部2aおよび下部補強部2bを略台形に形成するには、前記板材3を略台形に形成するとともに、これに合わせて前記複数の枠材4a,4b,4c,4dを、板材3の両面側3a,3bの周縁部に取り付けるようにする。
また、本実施の形態の上部補強部2aおよび下部補強部2bは、前記上下の構造材1aに接する第1枠材4aと、この第1枠材4aに平行し、前記上部補強部2aの下端および下部補強部2bの上端に位置する第2枠材4bと、これら第1および第2枠材4a,4bと直角に交わって架設され、前記左右の構造材1bに接する第3枠材4cと、第1および第2枠材4a,4bと斜めに交わって架設される第4枠材4dとを有してそれぞれ形成され、略台形状となっている。
【0021】
なお、本実施の形態において、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bは略台形となっているが、これに限られるものではなく、例えば四角形状や六角形状等でもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0022】
そして、前記上部補強部2aは、前記上側の構造材1aと、前記左右の構造材1bのうち、少なくとも一方に固定されており、前記下部補強部2bは、前記下側の構造材1aと、前記左右の構造材1bのうち、少なくとも前記上部補強部2aが固定された側とは逆側の構造材1bに固定されている。つまり、本実施の形態において、前記上部補強部2aは、図1(b)中、前記上側の構造材1aと、左側の構造材1bとに固定され、前記下部補強部2bは、図1(b)中、前記下側の構造材1aと、右側の構造材1bとに固定されている。
【0023】
これによって、前記制振補強体2を前記フレーム1に対して強固に固定することができ、しかも、前記上部補強部2aと下部補強部2bとは、少なくとも対角線方向に前記フレーム1に固定されていることとなるので、例えば前記フレーム1の下部に対してフレーム1の上部が剪断方向や捻れ方向などに変位したとしても、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bは、前記フレーム1から外れたりすることなくフレーム1の変位に確実に対応することができるようになっている。
【0024】
なお、本実施の形態の板材3として、材料に合板が用いられているが、これに限るものではない。すなわち、例えば樹種を変更したり、木片等を合成樹脂で固めたパーティクルボードを使用してもよく、地震等に対する強度を向上させることが可能であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0025】
また、前記枠体4は、図1(a),(b)に示すように、また上述のように、前記板材3の両面3a,3bの少なくとも周縁部に取り付けられ、複数の枠材4a,4b,4c,4dを多角形状に枠組みしてなるものである。
【0026】
そして、前記板材3の両面側3a,3bに取り付けられた枠体4は、双方とも、その表面が前記フレーム1の表面と面一になっている。つまり、これら枠体4はある程度の厚みを有しているので、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bをフレーム1の内周面に固定する際に使用するボルト6を挿通しやすい。
そして、前記板材3の両面側3a,3bに取り付けられた枠体3のうち、少なくとも一方の枠体4の内部に断熱材(図示せず)を設けるようにしてもよい。
【0027】
一方、本実施の形態の制振部材2cは、例えば制振用ゴムが用いられるが、これに限られるものではなく、バネとダンパからなるものや、オイルダンパー、粘弾性材料などが好適に使用され、さらには摩擦で振動を減衰させるものでもよい。
また、この制振部材2cは、前記上部補強部2aの下端面に固定される固定板部5と、前記下部補強部2bの上端面に固定される固定板部5との間に設けられている。より詳細には、これら固定板部5は、図1(b)に示すように、前記上部補強部2aの下端面よりもフレーム1の中心側に延出するとともに、前記下部補強部2bの下端面よりもフレーム1の中心側に延出して形成され、これら固定板部5の延出部分の間に前記制振部材2cが設けられている。
【0028】
次に、前記制振補強体2による地震等の変形力に対する動作について詳細に説明する。
【0029】
ここで、前記フレーム1に対して剪断方向や捻れ方向などに大きな変形力が加わった場合、このフレーム1は様々な方向に向かって変形しようとする。
例えば地震等によって建物に振動が生じると、建物の上部ほど大きく振動するため、前記フレーム1が剪断方向に変形し、このフレーム1の下部に対してフレーム1の上部が振動に合わせて大きく変位しようとする。
【0030】
このようにフレーム1の下部に対してフレーム1の上部が振動に合わせて大きく変位すると、同じく前記上部補強部2aも、前記下部補強部2bに対して大きく変位しようとする。
この時、これら上部補強部2aの下端面と下部補強部2bの上端面との間に設けられた前記制振部材2cには、前記上部補強部2aの変位とは逆方向の復帰力が作用するので、前記上部補強部2aの変位力が抑制されることとなる。
これによって、この上部補強部2aが固定された前記フレーム1の上部の変位も同時に抑制することができるので、前記フレーム1の剪断方向への変位を確実に抑えることができるようになっている。
【0031】
また、前記制振部材2cは、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bの互いに対向する上下端面間に設けられているので、前記上部補強部2aは、この上部補強部2aの下端面が、前記下部補強部2bの上端面の面方向に沿って様々な方向に変位できることとなる。したがって、前記フレーム1の剪断方向への変位だけに限られず、前記フレーム1が捻れ方向に変位したとしても同様に、前記制振部材2cに復帰力が作用するので、前記フレーム1の捻れ方向への変位を確実に抑制することができる。
【0032】
さらに同じく、前記フレーム1に対して、このフレーム1の厚み方向に沿って剪断する方向に変位力が生じた場合であっても、また、フレーム1の厚み方向と交差する斜め方向に水平な変位力が生じた場合であっても、その変位を確実に抑制することができる。すなわち、地震等によって建物に振動が生じ、前記フレーム1の下部に対してフレーム1の上部が様々な方向に大きく変位したとしても、制振機能を十分かつ確実に発揮することが可能となっている。
【0033】
また、前記フレーム1に対して剪断方向や捻れ方向などに大きな変形力が加わった時には、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bの板材3に対しても、剪断方向や捻れ方向などに大きな変形力が加わることとなる。
【0034】
この場合、前記板材3は様々な方向に向かって変形しようとする。例えば板材3が、側面視くの字に変形しようとすれば、板材3両面に取り付けられた枠体4を構成する縦方向の枠材4c,4dによって変形を抑制できるようになっている。
また、前記板材3が、平面視くの字に変形しようとすれば、板材3両面に取り付けられた枠体4を構成する横方向の枠材4a,4bによって変形を抑制することができる。
さらに、例えば板材3が、捻れるように変形しようとすれば、板材3両面に取り付けられた枠体4全体で変形を抑制することができる。
【0035】
これによって、前記板材3が、いずれの方向に変形しても前記枠体4によって変形を抑制することができるので、前記板材3や、この板材3と両枠体4との取付部分に影響が出にくく、前記上部補強部2aおよび下部補強部2b自体の強度を向上させることが可能となっている。したがって、前記フレーム1に対して大きな変位力がかかったとしても、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bの強度が高く、しかも、前記制振部材2cによる制振機能も十分かつ確実に発揮できるので、前記制振補強体2によって、前記フレーム1の変形を効果的に抑制することが可能となっている。
【0036】
なお、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bの枠体4の内部には、前記左右の構造材1bと平行するようにして架設される補助棧材7を配置して、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bをさらに補強するようにしても良い。
【0037】
次に、前記制振補強体2が組み込まれたフレーム1に隣り合って形成されたフレーム1内に、このフレーム1の内周面に固定される補強体20が組み込まれる場合について説明する。
【0038】
すなわち、この補強体20は、図1(a),(b)に示すように、前記制振補強体2が組み込まれたフレーム1に隣り合って形成されたフレーム1内に、このフレーム1と平行に設けられ、四角形状に形成された板材21と、この板材21の両面の少なくとも周縁部に取り付けられ、縦横の框材22a,22bを四角枠状に組み立てた枠体22とを有している。
【0039】
ここで、前記板材21は、前記板材3と同様に材料に合板が用いられているが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
また、前記枠体22は、図1(b)に示すように、離間して対向配置された縦框材22aの上下端部間に、それぞれ横框材22bが架設されることで、四角枠状に形成されている。また、図1(a),(b)に示すように、前記板材21の両面側21a,21bに取り付けられた枠体22は、略同様の構成となっている。
【0040】
なお、前記板材21の両面側21a,21bに取り付けられた枠体22は、双方とも、その表面が前記フレーム1の表面と面一になっている。つまり、図1(a)に示すように、前記補強体20の厚さ寸法と、前記フレーム1の厚さ寸法とが略同一に設定されているので、前記補強体20およびフレーム1の表面に、これら補強体20およびフレーム1を覆う外装材や石膏ボード(図示せず)等を取り付ける際において取り付けやすい。
また、前記補強体20およびフレーム1の表面に外装材や石膏ボードを取り付ける際は、前記枠体22内に、前記上下の構造材1a,1b間に架設される補助棧材24を配置して、この補助棧材24を、外装材や石膏ボードを止め着けるための下地材とする。
【0041】
そして、前記板材21の両面側21a,21bに取り付けられた枠体22のうち、少なくとも一方の枠体22の内部に断熱材(図示せず)を設けるようにしてもよい。また、断熱材の設置スペースだけでなく、パイプスペースとして使用したり、枠体22内に棚を取り付けて収納スペースとして使用することもでき、多目的に利用することができるので利便性が高い。
【0042】
次に、前記補強体20による地震等の変形力に対する動作について詳細に説明する。
【0043】
ここで、本実施の形態の補強体20は、図1(a),(b)に示すように、四角形状に形成された板材21と、この板材21の両面の少なくとも周縁部に取り付けられ、縦横の框材22a,22bを四角枠状に組み立てた枠体22とを有している。
そして、前記板材21に対して、剪断方向や捻れ方向などに大きな変形力が加わった場合、この板材21は様々な方向に向かって変形しようとする。
【0044】
例えば板材21が、側面視くの字に変形しようとすれば、板材21の両面に取り付けられた枠体22の双方の縦框材22aによって変形を抑制する。
すなわち、例えば前記板材21の一面側21aが外側に向くように位置し、他面側21bが内側に向くように位置するようにして、前記板材21が側面視くの字に変形する場合、前記板材21の一面側21aに取り付けられた双方の縦框材22aも、前記板材21の一面側21aと同様の方向に変形しようとし、前記板材21の他面側21bに取り付けられた双方の縦框材22aも、前記板材21の他面側21bと同様の方向に変形しようとする力が働く。
【0045】
これに対して、前記板材21の一面側21aに取り付けられた双方の縦框材22aには、変形に対する復帰力が生じて元の状態に戻ろうとし、前記板材21の他面側21bに取り付けられた双方の縦框材22aにも、変形に対する復帰力が生じて元の状態に戻ろうとする。
【0046】
このため、前記板材21は、この板材21両面に取り付けられた枠体22の双方の縦框材22aの、変形しようとする力と、変形に対する復帰力とによって挟み込まれることとなる。
【0047】
つまり、前記板材21が、側面視くの字に変形しようとしても、前記板材21の両面に取り付けられた枠体22の双方の縦框材22aによって変形を抑制され、また前記板材21が、側面視逆くの字に変形しようとしても、前記板材21の両面に取り付けられた枠体22の双方の縦框材22aによって変形を抑制されることとなる。
【0048】
一方、例えば、前記板材21が、平面視くの字に変形しようとしても、上述のごとく、前記板材21両面に取り付けられた枠体22の双方の横框材22bによって、その変形が抑制されることとなる。
また、例えば板材21が、捻れるように変形しようとしても、前記板材21の両面に取り付けられた枠体22全体で変形を抑制することができるようになっている。
【0049】
したがって、前記板材21が何れの方向に変形しても、その変形を抑制することができるようになるので、前記板材21や、この板材21と両枠体22との取付部分に影響が出にくく、前記補強体20自体の強度を向上させることが可能となる。
【0050】
次に、図面を参照して、前記補強体20の枠体22に対して斜材23を架設する形態について詳細に説明する。
【0051】
まず、図2(a),(b)に示すように、前記板材21の両面側21a,21bに取り付けられた枠体22のうち、少なくとも一方の枠体22内に斜材23が架設されている。
ここで、本実施の形態の斜材23として、図2(a)に示すように、前記枠体22を構成する縦框材22aと横框材22bとの接合部間に、枠体22の対角線に沿って斜めに架け渡される筋交い状のものが挙げられる。その他にも、図示はしないが、縦框材22aと横框材22bとで形成される枠体22の内角部近傍に斜めに架け渡される方杖状のものを用いるようにしても良い。
【0052】
また、本実施の形態の斜材23は、この斜材23の上下端部が直角に形成されるとともに、前記枠体22の内角部に当接固定されることによって枠体22内に架設されている。さらに、この斜材23の裏面は、前記板材21の表面に貼付固定されている。
【0053】
そして、このように斜材23の裏面が前記板材21の表面に貼付固定されているので、前記板材21と、この板材21に取り付けられた枠体22と、この枠体22内に架設されるとともに、前記板材21の表面に貼付固定された斜材23とを互いに強固に結合することが可能となり、前記補強体20自体の強度をより向上させることができる。
なお、方杖状に形成された斜材の場合でも、この斜材の裏面を前記板材21の表面に貼付固定するようにして、補強体20自体の強度をより向上させるようにする。
【0054】
また、本実施の形態においては、前記斜材23は、図2(a)に示すように、前記板材21の両面側21a,21bに取り付けられた双方の枠体22内に架設されているものとする。
【0055】
そして、このように前記板材21の両面側21a,21bに取り付けられた枠体22のうち、少なくとも一方の枠体22内に斜材23が架設されることで、この斜材23によって、地震や台風等の水平方向の力による枠体22の変形を効果的に抑制することができるので、この枠体22を含む補強体20、延いては前記フレーム1の変形をより確実に抑制することができる。
【0056】
また、前記斜材23は、図2(b)に示すように、前記枠体22内に複数架設されており、これら複数の斜材23は、前記枠体22の対角線に沿って、かつ中央で交差している。つまり、所謂たすき掛けの状態になっており、前記枠体22の変形をより効果的に抑制することができるようになっている。
なお、これら複数の斜材23をたすき掛けの状態にする際は、これら複数の斜材23どうしの交点を係合可能に切り欠いておくようにする。
【0057】
また、このように斜材23をたすき掛けして枠体22内に架設する場合は、複数の補強体20が隣り合うようにし、さらに、これら複数の補強体20においては斜材23どうしの交差する向きが互い違いになるような形態とすることが望ましい。すなわち、3本の柱1bを所定間隔離間して配置するとともに、これら3本の柱1bの上下端部間に、上下の構造材1aを横架させて配置することによって、2つのフレーム1を形成できるようになっていおり、これら2つのフレーム1内に、2つの補強体20を組み込んでいる。そして、一方の補強体20の交差する斜材23どうしと、他方の補強体20の交差する斜材23どうしとを、互いに対称関係となるように交差させて枠体22内に架設している。
これによって、地震等によって建物躯体に対して左右交互に水平力がかかった場合であっても、前記複数の補強体20の枠体22内に架設された複数の斜材23の架設状態のバランスが良く、建物躯体の左右の揺れに効果的に対応することができるので、これら複数の補強体20によって、前記フレーム1の変形を効果的に抑制することができる。
【0058】
なお、前記枠体22内には、図2(b)に示すように、前記縦框材22aと平行する2本の補助棧材25が、前記横框材22bと複数の斜材23の交差部分との間にそれぞれ架設されて固定されている。これら補助棧材25は、上述のように外装材や石膏ボードを止め着けるためのものであり、前記板材21の表面にも貼付固定されている。
【0059】
そして、図示はしないが、このように前記枠体22に対して斜材23が架設された補強体20が組み込まれたフレーム1と、前記制振補強体20が組み込まれたフレーム1とを隣り合うようにして形成しても良いことは言うまでもない。
【0060】
なお、以上のような種々の形態の補強体20は、新築の住宅のフレーム1内に組み込むようにしてもよいし、例えばリフォームの際などに、既存のフレーム1内に組み込むようにしてもよいものとする。
【0061】
本実施の形態によれば、例えば地震等によって建物に振動が生じると、建物の上部ほど大きく振動するため、前記フレーム1の下部に対してフレーム1の上部が振動に合わせて大きく変位することとなる。この時、前記フレーム1の上部に設けられた上部補強部2aと、前記フレーム1の下部に設けられた下部補強部2bとの間に制振部材2cが設けられているので、この制振部材2cによって、前記フレーム1の下部に対してフレーム1の上部が振動に合わせて大きく変位することを確実に抑えることができる。しかも、前記制振部材2cは、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bの互いに対向する上下端面間に設けられているので、前記上部補強部2aは、この上部補強部2aの下端面が、前記下部補強部2bの上端面の面方向に沿って様々な方向に変位できることとなる。したがって、地震等によって建物に振動が生じ、前記フレーム1の下部に対してフレーム1の上部が様々な方向に大きく変位したとしても、制振機能を十分かつ確実に発揮することができる。
【0062】
しかも、前記上部補強部2aおよび下部補強部2bは、多角形状に形成された板材3と、この板材3の両面の少なくとも周縁部に取り付けられ、複数の枠材4a,4b,4c,4dを多角形状に枠組みしてなる枠体4とをそれぞれ有しているので、前記板材3が、前記枠体4によって両面側から挟み込まれるため、地震等による変形を抑制されることとなる。すなわち、前記板材3に対して、剪断方向や捻れ方向などに大きな変形力が加わった場合、この板材3は様々な方向に向かって変形しようとする。例えば板材3が、側面視くの字に変形しようとすれば、板材3両面に取り付けられた枠体4を構成する縦方向の枠材4c,4dによって変形を抑制し、板材3が、平面視くの字に変形しようとすれば、板材3両面に取り付けられた枠体4を構成する横方向の枠材4a,4bによって変形を抑制することができる。また、例えば板材3が、捻れるように変形しようとすれば、板材3両面に取り付けられた枠体4全体で変形を抑制することができる。これにより、前記板材3が、いずれの方向に変形しても前記枠体4によって変形を抑制することができるので、前記板材3や、この板材3と両枠体4との取付部分に影響が出にくく、前記上部補強部2aおよび下部補強部2b自体の強度を向上させることが可能となる。
【0063】
そして、このように前記上部補強部2aおよび下部補強部2bの変形を抑制し、これら上部補強部2aおよび下部補強部2b自体の強度を向上できるとともに、前記制振部材2cによって制振機能を十分かつ確実に発揮することができるので、従来に比して、より効果的に建物躯体の補強を行うことが可能となる。
【0064】
また、前記制振補強体2が組み込まれたフレーム1に隣り合って形成されたフレーム1内に、このフレーム1の内周面に固定される補強体20が組み込まれているので、これら制振補強体2および補強体20によって前記フレーム1,1を相乗的に補強することができ、従来に比して、より効果的に建物躯体の補強を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態に係る建物躯体の補強構造を示し、(a)は平断面図であり、(b)は正面図である。
【図2】補強体に対して斜材を設けた状態の一例を示し、(a)は平断面図であり、(b)は正面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 フレーム
2 制振補強体
2a 上部補強部
2b 下部補強部
2c 制振部材
3 板材
4 枠体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に離間して配置された上下の構造材と、左右に離間して配置された左右の構造材とで形成されたフレーム内に、このフレームの内周面に固定される制振補強体が組み込まれてなり、
この制振補強体は、前記フレーム内の上部に設けられる上部補強部と、この上部補強部に対向して前記フレーム内の下部に設けられる下部補強部と、これら上部補強部および下部補強部の互いに対向する上下端面間に設けられる制振部材とを備えており、
前記上部補強部および下部補強部は、前記フレーム内に、このフレームと平行に設けられ、多角形状に形成された板材と、この板材の両面の少なくとも周縁部に取り付けられ、複数の枠材を多角形状に枠組みしてなる枠体とをそれぞれ有していることを特徴とする建物躯体の補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の制振構造において、
前記上部補強部は、前記上側の構造材と、前記左右の構造材のうち、少なくとも一方に固定されており、前記下部補強部は、前記下側の構造材と、前記左右の構造材のうち、少なくとも前記上部補強部が固定された側とは逆側の構造材に固定されていることを特徴とする建物躯体の補強構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建物躯体の補強構造において、
前記制振補強体が組み込まれたフレームに隣り合って形成されたフレーム内に、このフレームの内周面に固定される補強体が組み込まれており、
この補強体は、前記フレーム内に、このフレームと平行に設けられ、四角形状に形成された板材と、この板材の両面の少なくとも周縁部に取り付けられ、縦横の框材を四角枠状に組み立てた枠体とを有していることを特徴とする建物躯体の補強構造。
【請求項4】
請求項3に記載の建物躯体の補強構造において、
前記板材の両面側に取り付けられた枠体のうち、少なくとも一方の枠体内に斜材が架設されていることを特徴とする建物躯体の補強構造。
【請求項5】
請求項4に記載の建物躯体の補強構造において、
前記斜材は、前記枠体内に複数架設されており、これら複数の斜材は、前記枠体の対角線に沿って、かつ中央で交差していることを特徴とする建物躯体の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−2009(P2009−2009A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162566(P2007−162566)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(307042385)ミサワホーム株式会社 (569)
【Fターム(参考)】