説明

建築材料、その製造方法および土構造物

【課題】強度や耐久性に優れた土構造物を提供する。
【解決手段】塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土と、セメントまたはセメント系固化材を土1mに対して80〜100kgと、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメントを土に対する容積比で0.5〜1.0%と、増粘材を土に対する容積比で0.5〜1.0%と、を含み、さらに水を土の含水比が10〜30質量%となるような量を含む建築材料を、型枠に投入し、上部から突き棒を使用して突いて締め固めた土構造物であって、材令28日における湿潤密度が1.6〜2.5g/cm、一軸圧縮強さが2〜10N/mmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締め固め技術を利用した土構造物の施工に適した建築材料およびその製造方法と、締め固め技術を利用して施工した土構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築副産物である現場発生土を有効に活用する方法について、様々な研究がなされ、そのなかの一つとして土を利用した構造物(以下、土構造物という)の施工が提案されている。このような土構造物の施工例としては、版築と呼ばれる施工方法を用いた居室(例えば、非特許文献1参照)や土塀(例えば、非特許文献2参照)等を挙げることができる。
【0003】
版築は、古来から伝わる土の締め固め技術であり、我が国では土壁・土塀等の施工や地盤の締め固め(地盤改良)等に用いられてきた。その施工方法は、一般に、土に、湿る程度の水と、石灰、にがり、藁等を添加して撹拌した材料を型枠に投入し、蛸胴突や杵等の突き棒で、半分程度の体積になるまで突き固め、所定の高さになるまで材料の投入と突き固めを繰り返すというものである。
【0004】
土壁・土塀等の土構造物には、断熱、防音、耐火、吸湿調整等の作用の他に、土という自然の材料であることによる色あいや感触等の心理的癒しの作用や、街並みの景観の改善という作用もある。そのため、近年では、住宅の一部に土壁を設ける等、土の利用に関する期待は多く、土の建築材料としての利用価値は非常に高いといえる。
【非特許文献1】畑中久美子、笹木篤、米原久介、「現代における土造り住宅の室内環境に関する研究−土の実験住宅ワークショップをとおして−」、住宅総合研究財団研究年報、財団法人住宅総合研究財団、2003年3月、第29号、p.335−346
【非特許文献2】坂口よしのり、「金沢・武家屋敷で版築の土塀 イスルギ(株)が施工担当」、左官教室、株式会社黒潮社、2003年10月、第568号、p.39−41
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、締め固めに適した土の物性やその判別、土にどのような材料をどの程度、どのような手順で添加すれば土構造物の性能を向上させることができるか等は、ほとんど経験的なものであり、未知の部分が多い。したがって、例えば、品質が一定でない現場発生土を利用した版築によって、現代で要求される一定の品質、具体的には強度や耐久性に優れた土構造物を施工することは容易なことではない。
【0006】
そこで、本発明は、強度や耐久性に優れた土構造物を施工することが可能な建築材料およびその製造方法を提供すると共に、このような建築材料を使用した強度や耐久性に優れた土構造物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る建築材料は、塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土と、セメントまたはセメント系固化材を土1mに対して80〜100kgと、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメントを土に対する容積比で0.5〜1.0%と、増粘材を土に対する容積比で0.5〜1.0%と、を含み、さらに水を土の含水比が10〜30質量%となるような量を含むことを特徴とする。
【0008】
このような建築材料によれば、塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土と、含水比が10〜30質量%となるような量の水とを含むので、水が土粒子にほどよく付着し、水と土粒子の間にメニスカスができ、その表面張力によって土粒子間に強いつながりができるので、突くことで強固に締め固めることができる。また、セメント(またはセメント系固化材)を土1mに対して80〜100kgと、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメントを土に対する容積比で0.5〜1.0%とを含むので、土粒子間のつながりを補強することができる。さらに、増粘材を土に対する容積比で0.5〜1.0%含むので、収縮量の減少と水密性の向上を図ることができる。
【0009】
また、本発明に係る建築材料の製造方法は、塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土に、セメントまたはセメント系固化材を土1mに対して80〜100kgと、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメントを土に対する容積比で0.5〜1.0%とを添加して撹拌する第1混合工程と、前記第1混合工程で得られた混合物に、増粘材を土に対する容積比で0.5〜1.0%添加して撹拌する第2混合工程と、前記第2混合工程で得られた混合物に、水を土の含水比が10〜30質量%となるような量を加えて撹拌する加水工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
このような建築材料の製造方法によれば、第1混合工程において塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土に、セメント(またはセメント系固化材)を土1mに対して80〜100kgと、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメントを土に対する容積比で0.5〜1.0%とを添加して撹拌した後、第2混合工程において増粘材を土に対する容積比で0.5〜1.0%添加して撹拌し、加水工程において水を土の含水比が10〜30質量%となるような量を加えて撹拌するので、材料を均一に撹拌・混合することができる。
【0011】
また、本発明に係る土構造物は、塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土と、セメントまたはセメント系固化材を土1mに対して80〜100kgと、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメントを土に対する容積比で0.5〜1.0%と、増粘材を土に対する容積比で0.5〜1.0%と、を含み、さらに水を土の含水比が10〜30質量%となるような量を含む建築材料を、型枠に投入し、上部から突き棒を使用して突いて締め固めた土構造物であって、材令28日における湿潤密度が1.6〜2.5g/cm、一軸圧縮強さが2〜10N/mmであることを特徴とする。
【0012】
このような土構造物は、塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土と、セメント(またはセメント系固化材)を土1mに対して80〜100kgと、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメントを土に対する容積比で0.5〜1.0%と、増粘材を土に対する容積比で0.5〜1.0%と、を含み、さらに水を土の含水比が10〜30質量%となるような量を含む建築材料を、型枠に投入し、上部から突き棒を使用して突いて締め固めているので、強度(材令28日における一軸圧縮強さ:2〜10N/mm)や耐久性、止水性に優れている。
なお、本発明において「材令」とは、土構造物が打設されてからの期間を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る建築材料、その製造方法および土構造物によれば、以下に示すような優れた効果を奏する。
建築材料は、突くことで強固に締め固めることができる含水比の土に、セメントまたはセメント系固化材と、繊維フィラメントとを含むので、施工した土構造物の強度や耐久性を向上させることができる。さらに、増粘材を含むので、施工した土構造物の体積収縮率を減少させることができると共に、止水性を向上させることができる。
【0014】
建築材料の製造方法は、土に、セメントまたはセメント系固化材と、繊維フィラメントとを添加して撹拌した後、増粘材を添加して撹拌し、最後に水を加えて撹拌することで、材料を均一に撹拌・混合することができるので、製造された建築材料から施工される土構造物の品質(強度・耐久性)を向上させることができる。
【0015】
土構造物は、突くことで強固に締め固めることができる含水比の土に、セメントまたはセメント系固化材と、繊維フィラメントと、増粘材とを含む建築材料を、型枠に投入し、突き棒を使用して突いて締め固めて形成されているので、強度や耐久性、止水性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本実施形態における土の物性試験方法は、日本工業規格JIS A1202(土粒子の密度試験方法)、JIS A1225(土の湿潤密度試験方法)、JIS A1204(土の粒度試験方法)、JIS A1205(土の液性限界・塑性限界試験方法)、JIS A1209(土の収縮定数試験方法)およびJIS A1216(土の一軸圧縮試験方法)に準拠して行った。
【0017】
[建築材料]
本実施形態に係る建築材料は、塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土と、固化材(セメントまたはセメント系固化材)80〜100kg/m(土1mに対して80〜100kg)と、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメント0.5〜1.0容積%(土に対する容積比)と、増粘材0.5〜1.0容積%(土に対する容積比)と、を含み、さらに水を土の含水比が10〜30質量%となるような量を含んで構成される。
以下、土の種類やその物性を規制した理由、および、材料(固化材、繊維フィラメントおよび増粘材)の種類や添加量を規制した理由について説明する。
【0018】
<土>
本発明で使用される土は、塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%であり、さらに望ましくは最適含水比10〜30質量%であれば、特に限定されるものではない。このような土として、例えば、品質が一定に保たれた市販の土を利用すれば当然に良質な建築材料ができるが、構造物を施工するための量となるとコスト(材料費)が高すぎるという問題がある。そこで、建築現場で排出された現場発生土や、根切り等で排出された産業廃棄物となる粘性土等を利用することが、コスト面(材料費が安価であると共に、土の処分費を削減できる)においても、土の有効活用という面においても望ましい。
【0019】
最適含水比とは、土の湿潤密度が最大値となる含水比である。本発明における土の最適含水比は10〜30質量%とする。最適含水比が10〜30質量%の範囲にあると、水が土粒子にほどよく付着し、水と土粒子の間にメニスカスができ、その表面張力によって土粒子間に強いつながりができるので、突くことで強固に締め固めることが可能となる。
【0020】
塑性限界とは、土が塑性状態から半固体状に移るときの境界の含水比である。本発明における土の塑性限界は19%以下とする。塑性限界が19%以下であると、最適含水比は10〜30質量%の範囲となるので、前記したように、突くことで強固に締め固めることが可能となる。
【0021】
粘土含有量とは、土に含まれる粒径5μm以下の粘土の質量百分率である。本発明における土の粘土含有量は25〜35質量%とする。粘土含有量が25〜35質量%の範囲にあると、土粒子間の粘着力が強いので、強固に締め固めることができると共に、施工した土構造物は風雨による侵食(風化)に耐えることができるので、耐久性が優れたものとなる。
【0022】
<固化材>
本発明で使用される固化材は、セメントやセメント系固化材が望ましい。セメントとしては、例えば、ポルトランドセメントや高炉セメント等が挙げられる。また、セメント系固化材は、セメントを母材として各種の有効成分を添加したもので、例えば、地盤改良材
等が挙げられる。このような固化材を適量添加することで、施工した土構造物の強度や耐久性を向上させることができる。
【0023】
本発明において固化材は、高炉セメントB種を使用することが最も望ましい。高炉セメントB種は、普通ポルトランドセメントと比較して、長期強度が大きい、化学抵抗性や水密性が高い、アルカリシリカ反応抑制効果がある、六価クロム溶出量が少ない等の優れた特徴を有している。
【0024】
本発明において固化材の添加量は、土1mに対する質量(kg/m)で記載される。本発明における固化材の添加量は80〜100kg/mとする。固化材の添加量が80〜100kg/mの範囲にあると、建築材料の施工性が良好であり、施工した土構造物の耐久性は優れたものとなる。
【0025】
<繊維フィラメント>
本発明で使用される繊維フィラメントは、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmであれば、特に限定されるものではない。繊維フィラメントとしては、例えば、合成繊維(ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維等)、天然繊維(麻、綿、藁等)、これらを2種以上含む混合繊維等を挙げることができる。中でも、合成繊維を使用することが望ましく、特にポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)が好ましい。このような繊維フィラメントを適量添加することで、施工した土構造物の強度や耐久性を向上させることができる。
【0026】
繊維フィラメントの繊維長が6〜20mm、繊維径が0.01〜0.1mmの範囲にあると、材料を均等に撹拌することができるので、施工した土構造物の品質を一定に保つことができる。また、材料撹拌後に繊維フィラメント同士が適度に絡まり、固化材と付着するので、施工した土構造物の強度や耐久性を向上させることができる。
【0027】
本発明において繊維フィラメントの添加量は、土に対する容積比(容積%)で記載される。本発明における繊維フィラメントの添加量は0.5〜1.0容積%とする。繊維フィラメントの添加量が0.5〜1.0容積%の範囲にあると、建築材料の施工性が良好であり、施工した土構造物の強度や耐久性は優れたものとなる。
【0028】
<増粘材>
本発明で使用される増粘材(以下、固化補助材ということがある)は、粉末状であって、具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体(特に非イオン性の水溶性セルロース誘導体)、ポリアクリル酸またはその塩等の水溶性の合成高分子物質、ゼラチン等の天然高分子物質等を挙げることができる。中でも、粘度40〜50cp(20℃)、pHが中性のメチルセルロースを使用することが望ましい。このような増粘材を適量添加することで、施工した土構造物の体積収縮率を減少させることができると共に、止水性を向上させることができる。
【0029】
本発明において増粘材の添加量は、土に対する容積比(容積%)で記載される。本発明における増粘材の添加量は0.5〜1.0容積%とする。増粘材の添加量が0.5〜1.0容積%の範囲にあると、十分な収縮抑制効果や止水効果が得られると共に、施工した土構造物の強度の低下を抑制することができる。
【0030】
[建築材料の製造方法]
本実施形態に係る建築材料の製造方法について、図1を参照して説明する。なお、土の種類やその物性、固化材等の種類や添加量については前記したので説明を省略する。図1は建築材料の製造方法を示す工程図である。
建築材料の製造方法は、図1に示すように、土の判別工程S10と、第1混合工程S20と、第2混合工程S30と、加水工程S40とからなる。以下、各工程について説明する。
【0031】
<土の判別工程>
土の判別工程S10は、採取した土が建築材料に使用することができるか否かを判定する工程である。
まず、土を採取する(土の採取工程。S11)。採取した土の中に有機物(木の枝や根等)やゴミ等の不純物があると、突き固めにくいと共に固化しにくいので、適当な目開きのふるいにかけてこれらを十分に除去する(S12)。
【0032】
次に、土の塑性限界試験を行い(S13)、塑性限界が19%以下であれば(S13・Yes)、土の粒度試験を行う(S14)。塑性限界が19%を超える場合は(S13・No)、土の採取工程(S11)へと戻る。
土の粒度試験(S14)の結果、粘土含有量が25〜35質量%であれば(S14・Yes)、採取した土は建築材料に使用することができる土であるといえる。粘土含有量が25質量%未満または35質量%を超える場合は(S14・No)、土の採取工程(S11)へと戻る。
【0033】
なお、例えば、建築現場等において、土の詳細な物性試験(塑性限界試験・土の粒度試験)を行うことは容易なことではない場合がある。そこで、不純物を除去(S12)した後、塑性限界試験(S13)と土の粒度試験(S14)の代わりに、土の簡易判別方法によって土の判別を行ってもよい。
【0034】
土の簡易判別方法は、乾燥状態の土に、含水比が20質量%程度(例えば、質量比で土:水=5:1)となるような量の水を加えて、手で掌サイズの団子状に丸め、地面等の水平面に置いてその様子を観察するというものである。この時、本実施形態に使用することができる土は、団子状態で自立するか、多少泥状に解泥するのに対して、本実施形態に使用することができない土は、割れたり、小さな塊状や砂状に砕ける。
【0035】
土の粒度試験(S14)または土の簡易判別方法を行った後、採取した土の最適含水比と最適含水比時の湿潤密度を測定し、最適含水比が10〜30質量%であり、かつ、最適含水比時の湿潤密度が1.8g/cm以上であれば、より建築材料に望ましい土であるといえる。最適含水比の測定は、例えば、以下のようにして行う。
【0036】
土と水とを、含水比が、例えば、0%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%および100%となるようにそれぞれ混合し、それぞれ型枠(例えばφ5cm×10cm)に投入して、突き棒(例えば木製の角棒:3cm角、530g)で締め固めて試験体(この例では11個)を作製する。そして、各試験体の湿潤密度を測定して、湿潤密度と含水比との関係を示すグラフ(例えば、後記図5に示すようなグラフ)を作成し、湿潤密度が最大値となる含水比を最適含水比とする(後記試験1も参照)。
【0037】
前記工程により、建築材料に使用することができる土であると判定された場合には、その土を十分に乾燥し(S15)、ふるい(目開き3mm)にかけて比較的大きな砂利を除去する(S16)。望ましくは、ふるいわけ(S16)を行う前に、再度不純物(有機物、ゴミ等)の除去(S12参照)を行う。
土は一度乾燥させることで強度の高いものとなる傾向がある。また、土をふるいにかけることで撹拌しやすくする。土と固化材等との撹拌が不十分だと、建築材料から施工される土構造物の品質(強度や耐久性)が低下するためである。
【0038】
<第1混合工程>
第1混合工程S20は、土に、固化材80〜100kg/m(土1mに対して80〜100kg)と繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメント0.5〜1.0容積%(土に対する容積比)とを添加して撹拌する工程である。
【0039】
まず、土を適当な容器やミキサー等の中に投入し、そこに固化材(セメントまたはセメント系固化材)80〜100kg/m(土1mに対して80〜100kg)と、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメント0.5〜1.0容積%(土に対する容積比)とを添加する。
【0040】
そして、土、固化材、繊維フィラメントを十分撹拌する。撹拌は、例えば、スコップ等を使用して人力で行ってもよいし、ミキサー等の機械を使用して行ってもよい。スコップを使用して人力で行う場合、0.1m程度の混合物(土・固化材・繊維フィラメント)を5分間程度撹拌することが望ましい。また、コンクリートミキサーを使用して行う場合、0.1m程度の混合物(土・固化材・繊維フィラメント)を2分間程度(コンクリートミキサーの性能による)撹拌することが望ましい。
【0041】
<第2混合工程>
第2混合工程S30は、第1混合工程S20で得られた混合物に、増粘材を0.5〜1.0容積%(土に対する容積比)添加して撹拌する工程である。
前記した容器やミキサー等の中の混合物(土・固化材・繊維フィラメント)に、増粘材0.5〜1.0容積%(土に対する容積比)を添加した後、十分撹拌する。撹拌は、第1混合工程と同様に、例えば、スコップ等を使用して人力で行ってもよいし、ミキサー等の機械を使用して行ってもよい。
【0042】
<加水工程>
加水工程S40は、第2混合工程S30で得られた混合物に、水を土の含水比が10〜30質量%となるような量を加えて撹拌する工程である。
前記した容器やミキサー等の中の混合物(土・固化材・繊維フィラメント・増粘材)に、水を土の含水比が10〜30質量%となるような量を満遍なく加えて十分撹拌する。この時、目安として、撹拌しただけでは塊にならない程度の加水が望ましい。撹拌後、混合物(土・固化材・繊維フィラメント・増粘材・水)を突き棒等で突いても水が出てこないことを確認して建築材料が完成する。
【0043】
[土構造物]
本実施形態に係る土構造物について適宜図面を参照して説明する。なお、建築材料については前記したので説明を省略する。図2(a)は型枠の縦断面図、(b)は型枠の側面図、(c)は板状部材を2段とした型枠の縦断面図である。
【0044】
本実施形態に係る土構造物は、塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土と、固化材(セメントまたはセメント系固化材)80〜100kg/m(土1mに対して80〜100kg)と、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメント0.5〜1.0容積%(土に対する容積比)と、増粘材0.5〜1.0容積%(土に対する容積比)と、を含み、さらに水を土の含水比が10〜30質量%となるような量を含む建築材料を、型枠に投入し、上部から突き棒を使用して突いて締め固めたものであり、材令28日における湿潤密度が1.6〜2.5g/cm、一軸圧縮強さが2〜10N/mmである。
なお、土構造物は、高さ1.5m以下の住宅規模の構造物とすることが望ましい。また、地震や暴風等による倒壊を防止するため、一般的なコンクリート構造物と同様に、鉄筋等の補強材を備えることが望ましい。
【0045】
型枠F1は、例えば、図2(a)および(b)に示すように、複数の板状部材Wを施工する土構造物の形状に組み、その周囲を複数の鉄パイプ等の鋼管P1,P2で固定(拘束)して構成されている。
板状部材Wは、高さHが500mm程度であることが望ましい。500mm以上の土構造物を施工する場合は、図2(c)に示すように、1段目に使用した板状部材Wと同様の板状部材Wを1段目の上に設置し、その周囲を鋼管P1,P2で固定(拘束)した2段の型枠F2を構築する。3段とする場合も同様である。
【0046】
板状部材Wとしては、例えば、合板や鋼板等を使用することができるが、鋼板は脱型時の質量負担が大きいので合板を使用することが望ましい。ただし、締め固めによる側圧は非常に大きいので合板の変形(膨らみ)を防止するため、合板の板厚を20mm以上とするか、合板(板厚15mm以上)に複数の角材を縦方向に一定の間隔ごとに取り付けることが望ましい。
【0047】
突き棒は、特に限定されるものではなく、例えば、伝統的な版築で使用される蛸胴突や杵等であってもよい。本実施形態では、突き固め面が正方形の角棒を使用した。角棒の寸法は、土構造物の幅(型枠幅)に応じて適宜設定され、例えば、土構造物の幅(型枠幅)が10cmであれば、8〜9cm角の角棒を使用することが望ましい。
本実施形態では、通常の締め固めには10cm角の角棒を、土構造物の角部分の締め固めには3cm角の角棒を使用した。また、締め固め範囲が50cm以上の場合には、締め固め範囲を覆う板を敷き、板の上部を10cm角の角棒で締め固めた。
【0048】
締め固めは、打設時における湿潤密度が1.8g/cm以上となるように、以下の条件で行った。
(1)締め固める力:1kgの物体(突き棒)を10cmの高さから自由落下させる程度の力(約0.7N/cm)。
(2)締め固め回数:10cmあたり20回程度。
【0049】
次に、本実施形態に係る土構造物(土塀)の施工方法を、適宜図面を参照して説明する。図3は土構造物の施工方法を示す工程図であり、図4(a)〜(f)は土構造物の施工方法を説明するための模式図である。
土構造物の施工方法は、図3に示すように、土の判別工程S10と、第1混合工程S20と、第2混合工程S30と、加水工程S40と、型枠設置工程S50と、締め固め工程S60と、脱型工程S70とからなる。以下、各工程について説明する。
【0050】
なお、土の判別工程S10、第1混合工程S20、第2混合工程S30および加水工程S40工程については前記したので説明を省略する。
また、図3においては、建築材料の製造工程(土の判別工程S10、第1混合工程S20、第2混合工程S30および加水工程S40工程)と、型枠設置工程S50とを並行して行う例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、建築材料の製造工程を行った後、型枠設置工程S50を行ってもよいし、その逆の順番で行ってもよい。また、例えば、土の乾燥(S15。図1参照)をしている間に型枠設置工程S50を行うというように、建築材料の製造工程の途中で型枠設置工程S50を行ってもよい。
【0051】
<型枠設置工程>
型枠設置工程S50は、型枠を設置する工程である。
型枠の設置は、図2に示したように、施工面Gに複数の板状部材Wを施工する土塀の形状に組み、その周囲を複数の鉄パイプ等の鋼管P1,P2で固定することで行われる。なお、型枠を設置する前または設置した後、地震や暴風等による倒壊を防止するため、一般的なコンクリートブロック塀を施工する際と同様に、鉄筋等の補強材を施工することが望ましい。また、型枠を設置する前に、施工面Gに、例えば、コンクリート等で基礎を施工してもよい。
【0052】
<締め固め工程>
締め固め工程S60は、建築材料を型枠に投入し、上部から突き棒を使用して突いて締め固める工程である。
まず、図4(a)に示すように、型枠F1(図2に示した鋼管P2は図示を省略する)に建築材料1を投入する(S61)。なお、建築材料1の型枠F1への投入量Iは、垂直高さで10〜20cm程度が望ましい。
【0053】
次に、図4(b)に示すように、建築材料1を突き棒K(10cm角の角棒)で突いて建築材料1を締め固める(S62)。始めは建築材料1の表面を均すように小さな力で細かく突いた後、1kgの物体を10cmの高さから自由落下させる程度の力(約0.7N/cm)で突いて締め固める。なお、突き棒Kの可動範囲Mは、一定範囲に固定し、最大でも30cm程度が望ましい(突く力ではなく、突く回数を増やす)。突く回数は、10cmあたり20回程度でよいが、多いほど望ましい(ただし施工時間が増す)。
【0054】
型枠F1(土塀)の角部分は、3cm角の角棒(図示せず)を使用して、上記と同様の方法で締め固めを行った。なお、締め固め範囲が50cm以上の場合には、締め固め範囲を覆う板(図示せず)を敷き、板の上部を突き棒Kを使用して、上記と同様の方法で締め固めを行うことが望ましい。
【0055】
上記作業を型枠F1の上部となるまで、建築材料1の投入(図4(c))と、突き棒Kによる締め固め(図4(d))を繰り返す。
型枠F1を構成する板状部材Wの高さH(図2参照)を500mmとした場合で、500mm以上の土塀を施工する場合は、型枠F1の上部まで土塀が形成された段階(図4(e)参照)で、図2(c)に示すような型枠F2を構築し、前記した方法と同様の方法でさらに建築材料の投入と突き棒による締め固めを行う。なお、2段以上の型枠の構築は、その下段の型枠の高さまで土構造物が形成された段階で行ってもよいし、型枠設置工程S50であらかじめ行ってもよい。
【0056】
<脱型工程>
脱型工程S70は、型枠を取り外す工程である。
図4(e)に示すように、型枠F1の上部まで締め固めが終了(S63・Yes)したら、打設から1〜2日程度経過した後(望ましくは1日後)、型枠F1(鋼管P1等と板状部材W)を取り外す(図4(f))。なお、土塀2の高さが1.5m以下であれば、打設直後に型枠を取り外してもよい。
【0057】
以上が、本実施形態に係る土構造物(土塀)の施工方法である。なお、脱型工程S70の後、土塀2に漆喰等を塗って仕上げを行ってもよいし、土塀2の上面に屋根等を設けてもよい。
【0058】
以上のようにして施工された土構造物は、打設後の含水比が安定する材令28日における湿潤密度が1.6〜2.5g/cm(打設時における湿潤密度は1.8〜2.5g/cm)、一軸圧縮強さが2〜10N/mmであることが望ましい。材令28日における湿潤密度が1.6〜2.5g/cm(打設時における湿潤密度が1.8〜2.5g/cm)の範囲にあると、土粒子同士のつながりが強く、締め固めが十分であるといえる。また、材令28日における一軸圧縮強さが2〜10N/mmの範囲にあると、土構造物として十分な強度を備えているといえると共に、風雨による侵食(風化)に長期間耐えることができる。したがって、湿潤密度および一軸圧縮強さが前記した範囲にあると、土構造物の強度や耐久性は優れたものであるといえる。
【0059】
なお、本発明の実施形態は以上に限定されるものではない。具体的な構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。例えば、前記した実施形態では、土構造物として土塀を示したが、これに限定されず、例えば、土壁、擁壁、土倉、居室等であってもよい。
【実施例】
【0060】
本実施例では、まず、本発明に使用することができる土の物性、土の簡易判別方法、材料(固化材、増粘材、繊維フィラメント)の種類、添加量、配合手順、締め固める力等を決定するため、以下に記載する試験1〜13を行った。
そして、試験1〜13で得られた知見に基づいて、実施例となる試験体を作製し、比較例となる伝統的な版築によって作製した試験体と、その強度および耐久性を比較した。
【0061】
本実施例で使用した土(試料土1〜10)は、以下の通りである。
試料土1〜4は、笠岡粘土(粘土)と珪砂7号(砂)をそれぞれ3:7(試料土1、配合土3:7)、5:5(試料土2、配合土5:5)、7:3(試料土3、配合土7:3)および10:0(試料土4、配合土10:0)の比率で混合した人工配合土である。
試料土5および6は、京都の土壁に使用されている浅黄土(試料土5)および中塗土(試料土6)である。
試料土7〜9は、園芸用の土である黒土、鹿沼土、赤玉土をそれぞれ乳鉢に入れて破砕し、ふるい(目開き3mm)にかけた土であり、順に試料土7(黒土)、試料土8(鹿沼土)および試料土9(赤玉土)とした。
試料土10は、神奈川県で採取した関東ロームである。
【0062】
本実施例における土の物性試験方法は、日本工業規格JIS A1202(土粒子の密度試験方法)、JIS A1225(土の湿潤密度試験方法)、JIS A1204(土の粒度試験方法)、JIS A1205(土の液性限界・塑性限界試験方法)、JIS A1209(土の収縮定数試験方法)およびJIS A1216(土の一軸圧縮試験方法)に準拠して行った。
表1に、試料土1〜10の塑性限界、液性限界および粒度分布を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
<土の最適含水比、塑性限界および粘土含有量の決定>
まず、本発明における土の最適含水比、塑性限界および粘土含有量を決定した方法について説明する。
(試験1)
試料土1と水とを、含水比が0%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%および100%となるようにそれぞれ混合し、それぞれφ5cm×10cmの型枠に高さ5cm程度投入し、木製の角棒(3cm角、530g)を使用して1kgの物体を10cmの高さから自由落下させる程度の力(0.7N/cm)で、表面が均一になるように突き、締め固まらせた。この作業を型枠の上部(高さ10cm)に達するまで3〜4回繰り返して行い、土の層が高さ10cmの中に3〜4層となった円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体を全部で11個作製した。そして、これら試験体の含水比(0%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%および100%)ごとの湿潤密度を測定して、湿潤密度と含水比との関係を示す試験体1のグラフ(後記図5・試験体1)を作成し、湿潤密度が最大値となる含水比を最適含水比とした。以上の試験を、試料土2〜10についても同様に行い、試験体2〜10のグラフ(後記図5・試験体2〜10)を作成し、湿潤密度が最大値となる含水比を最適含水比とした。
表2に、試験体1〜10の湿潤密度の最大値(最大湿潤密度)とその時の含水比(最適含水比)を示す。
【0065】
【表2】

【0066】
(試験2・強度試験)
試料土1〜10のそれぞれに、固化材(高炉セメントB種)を試料土1mに対して80kgの割合(以下、80kg/mという)で添加して混合し、表2に示す最適含水比になる水を加えて混合した後、試験1と同様の方法で締め固めて円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体11〜20を作製した。そして、これら試験体11〜20の材令28日における湿潤密度と一軸圧縮強さを測定した。なお、本実施例において「材令」とは、試験体が作製されてからの期間を意味する。
表3に、試験体11〜20の一軸圧縮試験時の湿潤密度と一軸圧縮強さを示す。
【0067】
【表3】

【0068】
(試験3・耐久性試験)
試料土1,2,4,5,8および10のそれぞれに、80kg/mの固化材(高炉セメントB種)を添加して混合し、表2に示す最適含水比になる水を加えて混合した後、10cm×10cm×10cmの型枠を使用して試験1と同様の方法で締め固めて立方体形状(10cm×10cm×10cm)の試験体21〜26を作製した。そして、これら試験体21〜26を、周囲20mに遮蔽するもののない屋外に放置して、12ヶ月後の試験体表面の風化の程度を目視により評価した。
【0069】
目視による風化評価は、以下の3段階とした(括弧内は土塀としての適用性)。なお、以下に記載する耐久性試験においても同様の基準で風化評価を行った。
A:表面の風化がほとんど見られない(土塀への使用は十分可能)。
B:表面に風化が観察される(土塀の上面に屋根を設け、仕上げを施すことで使用可能)。
C:完全に風化している(土塀としての役割を果たせない)。
表4に、試験体21〜26の風化評価と試験体21〜26の作製に使用した試料土の粘土含有量を示す。
【0070】
【表4】

【0071】
(試験結果および検討)
図5(a)は試験体1〜6の湿潤密度と含水比の関係を示すグラフ図であり、(b)は試験体7〜10の湿潤密度と含水比の関係を示すグラフ図である。
塑性限界(表1参照)が19.0%以下となる試料土1〜6を使用して作製した試験体1〜6では、図5(a)に示すように、含水比が10〜30%の範囲で湿潤密度が最大となり、含水比が30%を超えると湿潤密度が徐々に低下していく傾向を示したのに対して、塑性限界が24.5%以上となる試料土7〜10を使用して作製した試験体7〜10では、図5(b)に示すように、含水比が30%を超える範囲(試料土7は30%)で湿潤密度が最大となり、30%を超える範囲の湿潤密度の変動が小さいという傾向を示した。
【0072】
また、表3より、試験体11〜16は、いずれも湿潤密度が1.8g/cm以上で、5.0N/mm以上の強度(一軸圧縮強さ)が得られたのに対して、試験体17〜20は、いずれも湿潤密度が1.7g/cm以下で、強度(一軸圧縮強さ)が1.2N/mm以下と低い値であった。
【0073】
これらの結果から、試験体11〜16では、最適含水比時に水が各土粒子に付着し、水と土粒子の間にメニスカスができ、その表面張力によって土粒子間に強いつながりができていると考えられる。また、試験体17〜20では、最適含水比時であっても、土粒子間の水が豊富であるため、土粒子の移動が比較的容易となり、土粒子間の強いつながりができにくくなっていると考えられる。したがって、土構造物の強度を増す土は、含水比10〜30%で湿潤密度が最大となる傾向を示す塑性限界19.0%以下の土が最適であるといえる。
【0074】
また、表4より、塑性限界19.0%以下となる土(試料土1,2,4および5)では、粘土含有量が増加するにしたがって、風化が激しくなることが確認された。例えば、試験体23(試料土4)は、粘土含有量が47%と半分程度が粘土成分であることから、表面から粘土粒子が削り取られていることが確認できた。また、塑性限界が24.5%以上となる試料土8および10を使用して作製した試験体25および26は、耐久性も低いことが確認された。したがって、土構造物の耐久性を長期間維持するためには、粘土含有量25〜35%の土が最適であるといえる。
【0075】
以上より、強度および耐久性に優れる土構造物を施工するためには、最適含水比10〜30%、塑性限界19.0%以下、粘土含有量25〜35%の土が最適であるといえる。
【0076】
<土の簡易判別方法>
上記試験1〜3の結果を踏まえて、建築現場でも容易に行うことができる土の簡易判別方法について検討した。なお、試料土はいずれも乾燥状態で使用した。
(1)試料土1(最適含水比:20%)に、含水比がそれぞれ5%、10%および20%となるように水を加えて、手で掌サイズの団子状に丸め、水平面に置いてその様子を観察した。その結果、含水比20%のものは団子状態で自立したのに対し、含水比5%のものは小さな塊状に砕け、含水比10%のものは割れてしまった。
【0077】
(2)試料土1(最適含水比:20%)、試料土6(最適含水比:10%)、試料土8(最適含水比:60%)および試料土10(最適含水比:60%)のそれぞれに、最適含水比となるように水を加えて、手で掌サイズの団子状に丸め、水平面に置いてその様子を観察した。その結果、いずれも団子状態で自立した。
【0078】
(3)試料土1(最適含水比:20%)、試料土6(最適含水比:10%)、試料土8(最適含水比:60%)および試料土10(最適含水比:60%)のそれぞれに、含水比20%となるように水を加えて、手で掌サイズの団子状に丸め、水平面に置いてその様子を観察した。その結果、試料土1は団子状態で自立し、試料土6は多少泥状に解泥した。これに対して試料土8は小さな塊状に砕け、試料土10は砂状に砕けた。
表5に以上の結果をまとめたものを示す。なお、「◎」は団子状態で自立したことを、「○」は多少泥状に解泥したことを、「×」は団子が割れたり、小さな塊状や砂状に砕けたことをそれぞれ意味する。
【0079】
【表5】

【0080】
表5と、前記した土の物性試験(試験1〜3)の結果から、乾燥状態の土に、含水比20%となるような量の水を加えて、手で掌サイズの団子状に丸め、水平面に置いてその様子を観察することで、本発明に使用可能な土の簡易判別を行うことができるという知見を得た。
【0081】
<固化材の種類および添加量の決定>
まず、本発明で使用する固化材の種類について検証した。
(試験4・強度試験)
試料土1に、表6に示す種類および添加量の固化材を添加して混合し、含水比20%になる水を加えて混合した後、試験1と同様の方法で締め固めて円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体を作製した。そして、これら試験体31〜45の材令7日、14日、21日および28日の一軸圧縮強さを測定した。
【0082】
(試験5・耐久性試験)
試験体32(高炉セメントB種・80kg/m。表6参照)および38(生石灰・80kg/m。表6参照)を、周囲20mに遮蔽するもののない屋外に放置して、12ヶ月後の試験体表面の風化の程度を目視により評価した。
表6に、試験体31〜45に添加した固化材の種類とその添加量、試験体31〜45の材令7日、14日、21日および28日の一軸圧縮強さ、並びに、試験体32および38の風化評価を示す。
【0083】
【表6】

【0084】
(試験結果および検討)
図6(a)は固化材添加量80kg/mの試験体(32,35,38,41および44)の一軸圧縮強さと材令の関係を示すグラフ図であり、(b)は材令28日の試験体(31〜45)の一軸圧縮強さと固化材添加量の関係を示すグラフ図である。
図6(a)より、材令28日の一軸圧縮強さは、固化材として生石灰や消石灰を添加した試験体38(◇)および41(■)は約1.0N/mmであったのに対し、高炉セメントB種や地盤改良材を添加した試験体32(◆)および35(□)は約3.0N/mmとなり、生石灰や消石灰の添加に比べて約3倍の強度が確認できた。これより、高炉セメントB種や地盤改良材を添加すると、生石灰や消石灰を添加した場合と比較して、約3倍の強度が早期に実現でき、高炉セメントB種や地盤改良材を添加した方が強度の面で優れているといえる。
【0085】
また、図6(b)より、高炉セメントB種(◆)は、添加量が60kg/mから100kg/mになると強度が約2.8N/mm増加するのに対し、生石灰(◇)は、約0.7N/mmと高炉セメントB種と比較して小さい結果となった。
さらに、表6(風化評価)より、試験体32(高炉セメントB種・80kg/m)は、角部分が削り取られていたが表面の風化はほとんど見られず耐久性が良好(A評価)であったのに対して、試験体38(生石灰・80kg/m)は、風雨の影響を直接受け、表面だけでなく形状そのものも変化していた(C評価)。これより、高炉セメントB種を添加した方が耐久性の面でも優れているといえる。
【0086】
以上より、強度および耐久性に優れる土構造物を施工するためには、固化材は生石灰や消石灰よりも、高炉セメントB種や地盤改良材の方が優れているといえる。
なお、以下の試験では、地盤改良材に比較して、安価で六価クロム溶出量が少ない高炉セメントB種を固化材として使用した。
【0087】
次に、固化材(高炉セメントB種)の適切な添加量について検証した。
(試験6・耐久性試験)
試料土1に、表7に示す添加量の高炉セメントB種を添加して混合し、含水比20%になる水を加えて混合した後、試験1と同様の方法で締め固めて円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体46〜48を作製した。そして、これら試験体46〜48を、周囲20mに遮蔽するもののない屋外に放置して、12ヶ月後の試験体表面の風化の程度を目視により評価した。
表7に、試験体46〜48の風化評価を示す。
【0088】
【表7】

【0089】
(試験結果および検討)
表7より、試験体46では、その表面に明らかな風化が確認できた(B評価)のに対して、試験体47および48では、角部分が削り取られていたが表面の風化はほとんど見られず耐久性が良好(A評価)であった。また、表7には示していないが、高炉セメントB種の添加量を120kg/m、150kg/mおよび200kg/mとして試験6の実施を試みたところ、試料土と高炉セメントB種との混合物の粘度が増して施工性が悪化した。
【0090】
以上より、固化材(高炉セメントB種)の添加量は、80〜100kg/mの範囲とすることで、耐久性を十分維持することができるといえる。
【0091】
<増粘材(固化補助材)の種類および添加量の決定>
伝統的な版築では、固化補助材として、一般に、にがりや原塩等が添加されている。これにより、止水効果や耐久性の向上が期待できる。ここでは、まず、本発明で使用する固化補助材の種類について検証した。以下の試験では、固化補助材として、メチルセルロースとにがりを使用した。
【0092】
(試験7・強度試験)
試料土1に、80kg/mの高炉セメントB種を添加・混合後、表8に示す固化補助材を土に対する容積比で1%(以下、1容積%という)添加して混合し(無添加の場合は固化補助材添加の工程を省略)、含水比20%になる水を加えて混合した後、試験1と同様の方法で締め固めて円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体50〜52を作製した。そして、これら試験体50〜52の材令28日における体積収縮率、湿潤密度および一軸圧縮強さを測定した。
表8に、試験体50〜52の材令28日における体積収縮率、湿潤密度および一軸圧縮強さを示す
【0093】
【表8】

【0094】
(試験8・止水性試験)
試料土1に、80kg/mの高炉セメントB種を添加・混合後、1容積%の表9に示す種類の固化補助材を添加して混合し(無添加の場合は固化補助材添加の工程を省略)、含水比20%になる水を加えて混合した後、10cm×10cm×20cmの型枠を使用して試験1と同様の方法で締め固めて直方体形状(10cm×10cm×20cm)の試験体53〜55を作製した。
【0095】
図7は試験体の止水性試験の様子を示す模式図である。
試験体53〜55の止水性試験は、図7に示すように、容器Uの内部に設置された基台Tの上に、試験体X(試験体53〜55。材令28日)を20cmの辺hが高さ方向となるように設置し、試験体Xの底面から5mmの深さdまで水Wを注水した。そして、6時間後の吸水状況(吸水深度D)を測定した。なお、図7に例示したように、吸水線Lは試験体53〜55のいずれにおいても、試験体底面に対して水平とはならなかったので、その平均位置と試験体底面との距離を吸水深度Dとした。
表9に、試験体53〜55の湿潤密度(吸水試験開始時)と吸水深度を示す。
【0096】
【表9】

【0097】
(試験結果および検討)
表8より、固化補助材としてにがりを添加した試験体50は、強度が固化補助材無添加の試験体52の約50%であった。しかし、試験体50の湿潤密度は、試験体52よりも向上していた。これより、固化補助材を添加すると強度を低下させる代わりに、湿潤密度を高める効果があるといえる。この傾向は、メチルセルロースを添加した試験体51にもいえることであるが、試験体51の強度は、試験体52の約75%であり、試験体50と比較して強度の低下は少なかった。
なお、固化補助材(メチルセルロースまたはにがり)を添加することで、湿潤密度が高まるのは、水を含むことで固化補助材が粘性の高い糊状となり、試験体の作製(締め固め・乾燥)の際に形成される空隙に入り込んで、その空隙を満たすためであると考えられる。
【0098】
また、試験体50および52の体積収縮率は8.4%であったのに対して、試験体51は、1.7%であった。これより、固化補助材としてメチルセルロースを添加することは、にがりを添加した場合と比較して、体積収縮率を大幅に抑える効果(収縮抑制効果)があるといえる。
【0099】
表9より、固化補助材としてメチルセルロースを添加した試験体54は、固化補助材無添加の試験体55と比較して吸水深度が半分以下となり、固化補助材としてにがりを添加した試験体53に対しても55%程度と止水性に大きな効果が期待できる結果となった。メチルセルロースは吸水性が非常に高く、土粒子にメチルセルロースが吸着していることで水を強力に吸水し、純粋な粘土と同様に水の浸透を抑える効果(止水効果)があると考えられる。
【0100】
ここで、表8に示すように、固化補助材を添加することで、施工した土構造物の強度の低下が懸念されることが示唆された。そこで、以下の追加試験1を行った。
(追加試験1・強度試験)
試料土1に、100kg/mの高炉セメントB種を添加・混合後、1容積%の固化補助材(にがり、塩化カリウム、塩化カルシウムおよびメチルセルロースのいずれか1種)を添加して混合し(無添加の場合は固化補助材添加の工程を省略)、含水比20%になる水を加えて混合した後、試験1と同様の方法で締め固めて円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体56(固化補助材:にがり),57(固化補助材:塩化カリウム),58(固化補助材:塩化カルシウム),59(固化補助材:メチルセルロース)および60(固化補助材無添加)を作製した。そして、これら試験体56〜60の材令28日における一軸圧縮強さを測定した。
【0101】
(試験結果および検討)
図8は試験体56〜60の一軸圧縮強さを示すグラフ図である。
図8より、固化補助材を添加することで、施工した土構造物の強度が低下する傾向が現れた。試験体59(メチルセルロース)も例外ではないが、試験体60(無添加)と比較して約20%の減少で収まった。これに対して、その他の固化補助材を添加した試験体56〜58は強度が約半分に低下していた。これより、メチルセルロースの添加は、他の固化補助材の添加と比較して強度の低下は少ないといえる。
【0102】
以上より、固化補助材(増粘材)はメチルセルロースが優れているといえる。また、メチルセルロースを添加することで、収縮抑制効果および止水効果に優れる土構造物を施工することができる。
【0103】
次に、増粘材(メチルセルロース)の適切な添加量について検証した。
(試験9・強度試験)
試料土1に、80kg/mの高炉セメントB種を添加・混合後、表10に示す添加量のメチルセルロースを添加して混合し(無添加の場合はメチルセルロース添加の工程を省略)、含水比20%になる水を加えて混合した後、試験1と同様の方法で締め固めて円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体61〜69を作製した。そして、これら試験体61〜69の材令7日における湿潤密度と一軸圧縮強さを測定した。
表10に、試験体61〜69の材令7日における湿潤密度と一軸圧縮強さを示す。
【0104】
【表10】

【0105】
(試験結果および検討)
図9はメチルセルロース添加量と一軸圧縮強さおよび湿潤密度との関係を示すグラフ図である。
図9より、メチルセルロースを1.5%以上添加すると強度は、0%(無添加)と比較して、約半分以下にまで低下した。これは、水に溶けたメチルセルロースが、土粒子同士のセメントによる固化を妨げていることや、土、高炉セメントB種およびメチルセルロースの混合物の粘度が増して施工性が悪化した(混合物が餅のようになり、木製の角棒に吸着して型枠への充填、締め固めがうまくいかなかった)ためと考えられる。
【0106】
また、湿潤密度は、1%の固化補助材を添加すると高まる傾向を示した(表8参照)が、図9より、メチルセルロースを3%以上添加すると徐々に低下していく傾向を示した。これは、メチルセルロースを3%以上添加すると、メチルセルロースの粘性体が試験体の表面に浮き出てくるため、すなわち、メチルセルロースの粘性体が土粒子の空隙以上に含まれ、容積あたりの土の量が減少したためと考えられる。
【0107】
以上より、増粘材(メチルセルロース)の添加量は、0.5〜1.0容積%の範囲とすることが妥当であるといえる。
【0108】
<繊維フィラメントの種類および添加量の決定>
締め固めによって施工した構造物は、降雨による浸食や、乾燥によるひび割れの発生が大きな問題となる。そのため、伝統的な版築では、靭性を高め、耐久性の向上を目的に藁を添加していた。ここでは、まず、本発明で使用する繊維フィラメントの種類について検証した。以下の試験では、繊維フィラメントとして、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維。繊維長:12mm、繊維径:0.04mm)と切り藁(繊維長:10〜15mm、繊維径:0.1〜0.5mm)を使用した。
【0109】
(試験10・耐久性試験)
試料土1に、80kg/mの高炉セメントB種と、表11に示す種類の繊維フィラメントとを土に対する容積比で1%(以下、1容積%という)添加して混合し(無添加の場合は繊維フィラメント添加の工程を省略)、含水比20%になる水を加えて混合した後、試験1と同様の方法で締め固めて円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体70〜72を作製した。そして、これら試験体70〜72を、周囲20mに遮蔽するもののない屋外に放置して、12ヶ月後の試験体表面の風化の程度を目視により評価した。
表11に、試験体70〜72の風化評価を示す。
【0110】
【表11】

【0111】
(試験結果および検討)
表11より、全体的な風化の程度は、試験体70(切り藁)と試験体71(ポリビニルアルコール繊維)のどちらにも大きな差異は観察されなかった。しかし、表面において、試験体70に添加された切り藁は、繊維径がポリビニルアルコール繊維と比較して大きいことから繊維のない部分に風化が観察された(B評価)のに対して、試験体71に添加されたポリビニルアルコール繊維は、風化がほとんど観察されなかった(A評価)。これは、ポリビニルアルコール繊維の繊維径が0.04mmと適度に細く、試験体全体に均一に分布し、表面の繊維のない部分が微小であるためと考えられる。
【0112】
以上より、仕上げをしないで土構造物の耐久性を維持するためには、ポリビニルアルコール繊維を使用することが効果的であるといえる。
【0113】
次に、繊維フィラメント(ポリビニルアルコール繊維)の適切な添加量について検証した。
(試験11・強度試験)
試料土1に、80kg/mの高炉セメントB種と、表12に示す添加量のポリビニルアルコール繊維とを添加して混合し(無添加の場合はポリビニルアルコール繊維添加の工程を省略)、含水比20%になる水を加えて混合した後、試験1と同様の方法で締め固めて円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体73〜76を作製した。そして、これら試験体73〜76の材令28日における湿潤密度と一軸圧縮強さを測定した。
表12に、試験体73〜76の材令28日における湿潤密度と一軸圧縮強さを示す。
【0114】
【表12】

【0115】
(試験結果および検討)
表12より、ポリビニルアルコール繊維を1.5%以上添加すると強度が低下し始めた。これは、ポリビニルアルコール繊維の添加量が増加したことで施工性が悪化し、土粒子の締め固まりを妨げているためと考えられる。
以上より、繊維フィラメント(ポリビニルアルコール繊維)の添加量は、0.5〜1.0容積%の範囲とすることが妥当であるといえる。
【0116】
<配合手順の決定>
締め固めによる土構造物の施工においては、材料配合の際の順序を変えることで異なる結果が生じる場合がある。そこで、以下の試験12では、特に増粘材であるメチルセルロース(添加することで建築材料の粘度が増し、材料の撹拌性能や施工性に与える影響が大きいと考えられるため)を、建築材料の製造工程のどのタイミングで投入することが最も望ましいかを検討した。
【0117】
(試験12・強度試験)
土(試料土1)と、固化材(高炉セメントB種:80kg/m)と、メチルセルロース(1容積%)と、水(含水比20%)とを、以下に示す(1)〜(3)のパターンで混合し、試験1と同様の方法で締め固めて円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体81〜83を作製した。
(1)試験体81:土と固化材とを混合した後、メチルセルロースを添加して混合し、最後に水を加えて混合する。
(2)試験体82:固化材とメチルセルロースと水とを混合した後、土を添加して混合する。
(3)試験体83:土と水とを混合した後、固化材を添加して混合し、最後にメチルセルロースを添加して混合する。
そして、これら試験体81〜83の材令28日における一軸圧縮強さを測定した。
【0118】
(試験結果および検討)
図10は試験体81〜83の一軸圧縮強さを示すグラフ図である。
図10より、試験体81、すなわち、土と固化材とを混合した後、メチルセルロースを添加して混合し、最後に水を加えて混合するという配合手順で作製したものの強度が最も高かった。なお、図10には示していないが、湿潤密度はどの配合手順を用いても差はなく、すべて1.9g/cm程度であった。
以上より、土と固化材とを混合した後、メチルセルロースを添加して混合し、最後に水を加えて混合するという配合手順(1)が最も望ましいといえる。
【0119】
<施工方法(締め固める力)の検討>
締め固めによる土構造物の施工においては、前記した配合手順の他に、建築材料を締め固める力によっても異なる結果が生じる場合がある。そこで、以下の試験13では、建築材料を締め固める力(以下、突き力という)について検討した。
【0120】
(試験13)
まず、試料土1に、80kg/mの高炉セメントB種を添加・混合後、1容積%のメチルセルロースを添加して混合し、含水比20%になる水を加えて混合した後、3個のφ5cm×10cmの型枠それぞれに高さ5cm程度投入した。次に、木製の角棒(すべて3cm角で、質量は3kg、1kgおよび530gの3種類)を使用して、それぞれ10cmの高さから自由落下させて、表面が均一になるように突き、締め固まらせた。この作業をそれぞれ型枠の上部(高さ10cm)に達するまで3〜4回繰り返して行い、土の層が高さ10cmの中に3〜4層となった円柱形状(φ5cm×10cm)の試験体84〜86を作製した。そして試験体84〜86の材令7日における湿潤密度と一軸圧縮強さを測定した。また、試験体84〜86の表面を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、倍率35倍で観察した。
表13に、試験体84〜86の作製に使用された角棒の質量と突き力、および、試験体84〜86の材令7日における湿潤密度と一軸圧縮強さを示す。
【0121】
【表13】

【0122】
(試験結果および検討)
表13より、強度(一軸圧縮強さ)については試験体84〜86の間に大きな差異は確認されなかったが、0.35N/cmの突き力で締め固めた試験体86の湿潤密度は1.8g/cm未満であった。これより、湿潤密度の点からは0.7N/cm以上の力で建築材料を締め固めることが望ましいといえる。
【0123】
図11(a)は試験体84の表面SEM写真、(b)は試験体85の表面SEM写真、(c)は試験体86の表面SEM写真である。
図11より、試験体84および85は突いた影響を受けて表面が比較的平らになっているのに対して、試験体86は表面がまだ粗く、突き力0.35N/cmでは締め固めが十分ではないといえる。
【0124】
また、図11(a)と(b)とを比較すると、図11(a)の中心付近に裂けたような空間が観察された。この空間は、試験体84の表面の他の位置でも観察された。これは、締め固めによって土粒子が密になりすぎ、その限度を超えた部分から亀裂が走り、微細なひび割れが発生しているためと考えられる。
【0125】
以上より、強く突くことで湿潤密度は高まるが、単純に突き力を強くしても土粒子の破壊と微細なひび割れが発生するので、強度の高い土構造物は施工できないといえる。したがって、施工する土構造物の規模にもよるが、突き力は、0.7N/cm程度とすることが望ましく、0.7N/cm程度の力で締め固めることで強度を十分に高めることが可能であるといえる。
【0126】
<実施例>
以上の知見を踏まえて、以下に本発明に係る土構造物について、本発明で規定した材料(固化材、増粘材、繊維フィラメント)を使用して作製した実施例と、本発明で規定した材料を使用しない比較例とを対比して説明する。
【0127】
(実施例1の作製)
試料土1に、80kg/mの高炉セメントB種と、1容積%のポリビニルアルコール繊維(繊維長:12mm、繊維径:0.04mm)とを添加・混合後、1容積%のメチルセルロースを添加して混合し、含水比20%になる水を加えて混合した後、φ5cm×10cmの型枠に高さ5cm程度投入し、木製の角棒(3cm角、530g)を使用して1kgの物体を10cmの高さから自由落下させる程度の力(0.7N/cm)で、表面が均一になるように突き、締め固まらせた。この作業を型枠の上部(高さ10cm)に達するまで3〜4回繰り返して行い、土の層が高さ10cmの中に3〜4層となった円柱形状(φ5cm×10cm)の実施例1を作製した。
【0128】
(比較例1の作製)
試料土1に、80kg/mの生石灰と、1容積%の切り藁(繊維長:10〜15mm、繊維径:0.1〜0.5mm)とを添加・混合後、1容積%のにがりを添加して混合し、含水比20%になる水を加えて混合した後、実施例1の作製と同様の方法で締め固めて円柱形状(φ5cm×10cm)の比較例1を作製した。
比較例1の作製で使用した生石灰、藁およびにがりは、伝統的な版築で使用される材料である。
【0129】
(強度試験・耐久性試験および試験結果)
実施例1および比較例1で得た土構造物について、材令7日、14日、21日および28日の一軸圧縮強さを測定した。図12は実施例1および比較例1で得た土構造物の一軸圧縮強さと材令の関係を示すグラフ図である。
図12より、比較例1は、材令28日でも1.0N/mm程度の強度しか得ることができなかったのに対して、実施例1は、材令7日から1.0N/mmを超える強度が得られ、材令28日では3.0N/mm程度の強度となり、土構造物として十分な強度を備えているといえる。
【0130】
実施例1および比較例1で得た土構造物を、打設時から周囲20mに遮蔽するもののない屋外に放置して、12ヶ月後の試験体表面の風化の程度を目視により評価した。
比較例1は、その表面に風化が観察された(B評価)のに対して、実施例1は、12ヶ月を経過しても表面の風化はほとんど観察されなかった(A評価)。
【0131】
以上の結果より、本発明で規定した材料を用いて作製した実施例は、伝統的な版築で使用される材料を用いて作製した比較例と比較して、強度や耐久性が優れているといえる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本実施形態に係る建築材料の製造方法を示す工程図である。
【図2】(a)は本実施形態に係る土構造物の施工に使用する型枠の縦断面図、(b)は型枠の側面図、(c)は板状部材を2段とした型枠の縦断面図である。
【図3】本実施形態に係る土構造物の施工方法を示す工程図である。
【図4】(a)〜(f)は本実施形態に係る土構造物の施工方法を説明するための模式図である。
【図5】(a)は試験体1〜6の湿潤密度と含水比の関係を示すグラフ図であり、(b)は試験体7〜10の湿潤密度と含水比の関係を示すグラフ図である。
【図6】(a)は固化材添加量80kg/mの試験体の一軸圧縮強さと材令の関係を示すグラフ図であり、(b)は材令28日の試験体の一軸圧縮強さと固化材添加量の関係を示すグラフ図である。
【図7】試験体の止水性試験の様子を示す模式図である。
【図8】試験体56〜60の一軸圧縮強さを示すグラフ図である。
【図9】メチルセルロース添加量と一軸圧縮強さおよび湿潤密度との関係を示すグラフ図である。
【図10】試験体81〜83の一軸圧縮強さを示すグラフ図である。
【図11】(a)は試験体84の表面SEM写真、(b)は試験体85の表面SEM写真、(c)は試験体86の表面SEM写真である。
【図12】実施例1および比較例1で得た土構造物の一軸圧縮強さと材令の関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0133】
1 建築材料
2 土塀
F1 型枠
K 突き棒
S20 第1混合工程
S30 第2混合工程
S40 加水工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土と、
セメントまたはセメント系固化材を前記土1mに対して80〜100kgと、
繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメントを前記土に対する容積比で0.5〜1.0%と、
増粘材を前記土に対する容積比で0.5〜1.0%と、を含み、
さらに水を前記土の含水比が10〜30質量%となるような量を含むことを特徴とする建築材料。
【請求項2】
塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土に、セメントまたはセメント系固化材を前記土1mに対して80〜100kgと、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメントを前記土に対する容積比で0.5〜1.0%とを添加して撹拌する第1混合工程と、
前記第1混合工程で得られた混合物に、増粘材を前記土に対する容積比で0.5〜1.0%添加して撹拌する第2混合工程と、
前記第2混合工程で得られた混合物に、水を前記土の含水比が10〜30質量%となるような量を加えて撹拌する加水工程と、を含むことを特徴とする建築材料の製造方法。
【請求項3】
塑性限界19%以下、粘土含有量25〜35質量%の土と、セメントまたはセメント系固化材を前記土1mに対して80〜100kgと、繊維長6〜20mmかつ繊維径0.01〜0.1mmの繊維フィラメントを前記土に対する容積比で0.5〜1.0%と、増粘材を前記土に対する容積比で0.5〜1.0%と、を含み、さらに水を前記土の含水比が10〜30質量%となるような量を含む建築材料を、型枠に投入し、上部から突き棒を使用して突いて締め固めた土構造物であって、
材令28日における湿潤密度が1.6〜2.5g/cm、一軸圧縮強さが2〜10N/mmであることを特徴とする土構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−143764(P2008−143764A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335875(P2006−335875)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)2006年7月31日に社団法人日本建築学会が発行した「日本建築学会2006年度大会(関東)の学術講演梗概集B−1構造I(CD−ROM)」において刊行物をもって発表 (2)2006年9月8日に社団法人日本建築学会が主催した「日本建築学会2006年度大会(関東)」において(学術講演梗概集B−1構造I)文書をもって発表
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】